IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ミライズテクノロジーズの特許一覧

<>
  • 特開-電力変換器 図1
  • 特開-電力変換器 図2
  • 特開-電力変換器 図3
  • 特開-電力変換器 図4
  • 特開-電力変換器 図5
  • 特開-電力変換器 図6
  • 特開-電力変換器 図7
  • 特開-電力変換器 図8
  • 特開-電力変換器 図9
  • 特開-電力変換器 図10
  • 特開-電力変換器 図11
  • 特開-電力変換器 図12
  • 特開-電力変換器 図13
  • 特開-電力変換器 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147976
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】電力変換器
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241009BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M3/155 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060784
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】松永 英也
【テーマコード(参考)】
5H730
5H770
【Fターム(参考)】
5H730AS05
5H730AS13
5H730BB13
5H730BB57
5H730BB82
5H730BB88
5H730BB89
5H730DD04
5H730EE13
5H730FD11
5H730FD31
5H730FF09
5H730FG02
5H730FG16
5H770BA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA03Z
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】回路を改善することで微小電流に対する性能を向上させ、リップルも抑制できる電力変換回路を提供する。
【解決手段】並列接続されたn個のコンバータ5、入力される指令値に応じた制御情報を出力するモータ制御部11、及びその制御情報に基づいてn個のコンバータを駆動する多重パルス信号を生成するパルス生成部12を備える。共振調整用容量素子Ca1,Ca2は、パルス生成部12がn個のコンバータ5を電流境界モードで動作させる際に、それらのコンバータ5におけるLC共振時間を調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列接続された2以上のn個のコンバータ(5)と、
入力される指令値に応じた制御情報を出力する制御部(11)と、
前記制御情報に基づいて、前記n個のコンバータを駆動する多重パルス信号を生成するパルス生成部(12,12A)と、
このパルス生成部が前記n個のコンバータを電流境界モードで動作させる際に、前記n個のコンバータにおけるLC共振時間を調整する共振調整用容量素子(Ca1,Ca2,Cav1,Cav2)と、を備える電力変換器。
【請求項2】
前記パルス生成部は、前記コンバータを構成する各スイッチを駆動するスイッチ駆動部(21)と、
前記コンバータが出力する電流の値がゼロになったことを検出するゼロ電流検出部(22)と、
前記コンバータを電流境界モードで動作させるための前記各スイッチのオン時間と、オンオフの周期と、各オンタイミング間の位相差と、共振時間補正値とを算出することで、前記スイッチ駆動部に出力する多重パルス信号を生成するパルス演算部(23,23A)と、を備える請求項1記載の電力変換器。
【請求項3】
前記コンバータに入力される電圧をVin、前記コンバータが出力する電圧をVoutとし、
前記コンバータを構成する上アームスイッチ(SW1)についてのオン時間をTon1、オフ時間をToff1、オンオフの周期をT1、前記各オンタイミング間の位相差をTd1とし、
前記コンバータを構成する下アームスイッチ(SW2)についてのオン時間をTon2、オフ時間をToff2、オンオフの周期をT2、前記各オンタイミング間の位相差をTd2とし、
前記コンバータが備えるインダクタのインダクタンスをL、前記インダクタに流れるピーク電流をILp、共振時間補正値をTcnとすると、
前記パルス生成部は、前記指令値が正の値であれば、前記コンバータを構成する上アームスイッチを
Ton1=ILp×L/(Vin-Vout)
Toff1=ILp×L/Vout
T1=Ton1+Toff1+Tcn
Td1=T1/n …(1)
で駆動するように多重パルス信号を生成し、
前記指令値が負の値であれば、前記コンバータを構成する下アームスイッチを
Ton2=ILp×L/Vout
Toff2=ILp×L/(Vin-Vout)
T2=Ton2+Toff2+Tcn
Td2=T2/n …(2)
で駆動するように多重パルス信号を生成する請求項2記載の電力変換器。
【請求項4】
前記共振調整用容量素子(Cav1,Cav2)は、容量が変更可能な素子であり、
前記指令値に応じて、前記共振調整用容量素子の容量を変更する調整用容量変更部(42)を備える請求項1記載の電力変換器。
【請求項5】
前記共振調整用容量素子は、容量変化に温度特性を有している素子である請求項1から4の何れか一項に記載の電力変換器。
【請求項6】
前記共振調整用容量素子は、容量変化に当該素子の両端に印加される電圧への依存性を有している素子である請求項1から4の何れか一項に記載の電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並列接続された複数個のコンバータを有してなる電力変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、ハイブリッド車の動力発生装置が提案されている。この動力発生装置は、永久磁石同期モータの各相にマルチフェーズコンバータを並列に接続している。各マルチフェーズコンバータが、それぞれ位相を変化させながら駆動することで正弦波状の電圧を出力しており、これにより出力電流リップルを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-219299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構成では、コンバータを並列に接続する数が多いほど出力電流リップルを低減できるが、電流指令値が小さい場合には周期が短くなることでコンバータを駆動するパルス幅が短くなり、マイコンにおける処理の制御分解能が不足してパルスを正常に出力できなくなるおそれがある。より詳細に言えば、周期が短くなると、パルス制御におけるキャリア信号の三角波が高周波化する。
【0005】
マイコンにより制御する場合、出力可能な最小パルス幅は割込み等の制御分解能で決定される。微小電流によって例えば正弦波等の直流以外の波形を生成しようとすると、分解能の限界で近似されるため、目標とは異なる電流波形になったり波形にリップルが生じる。このようにパルスを正常に出力できなくなると、電流の波形に歪みが発生してノイズや騒音が増加してしまう。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、回路を改善することで微小電流に対する性能を向上させ、リップルも抑制できる電力変換回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の電力変換回路によれば、並列接続された2以上のn個のコンバータ(5)、入力される指令値に応じた制御情報を出力する制御部(11)、及びその制御情報に基づいてn個のコンバータを駆動する多重パルス信号を生成するパルス生成部(12,12A)を備える。共振調整用容量素子(Ca1,Ca2,Cav1,Cav2)は、パルス生成部がn個のコンバータを電流境界モードで動作させる際に、それらのコンバータにおけるLC共振時間を調整する。
【0008】
このように構成すれば、電流の指令値がある程度小さくなった際には、共振電流の極性を、共振調整用容量素子の容量分だけ共振電流とは逆極性に引き込むことが可能になる。そして、共振電流の極性を共振電流とは逆極性に引き込んだ分だけ、n個のコンバータが出力する電流を合成した波形の振幅を低下させることができる。したがって、多重パルス信号の周期を一定の下限より短くせずとも、微小な電流を出力することが可能になる。
【0009】
請求項2記載の電力変換回路によれば、パルス生成部のスイッチ駆動部(21)は、コンバータを構成する各スイッチを駆動し、ゼロ電流検出部(22)は、コンバータが出力する電流の値がゼロになったことを検出する。パルス演算部(23,23A)は、コンバータを電流境界モードで動作させるための各スイッチのオン時間と、オンオフの周期と、各オンタイミング間の位相差と、共振時間補正値とを算出することで、スイッチ駆動部に出力する多重パルス信号を生成する。これにより、共振調整用容量素子の容量を考慮して、コンバータを電流境界モードで動作させることができる。
【0010】
請求項3記載の電力変換回路によれば、パルス生成部は、指令値が正の値であれば、コンバータを構成する上アームスイッチ(SW1)を(1)式により駆動するように多重パルス信号を生成し、指令値が負の値であれば、コンバータを構成する下アームスイッチ(SW2)を(2)式により駆動するように多重パルス信号を生成する。このように、共振調整用容量素子の容量を考慮した多重パルス信号を、具体的に(1)式及び(2)式に従って生成できる。
【0011】
請求項4記載の電力変換回路によれば、指令値に応じて、共振調整用容量素子(Cav1,Cav2)の容量を変更する調整用容量変更部(42)を備える。これにより、指令値がある程度大きく、パルス生成部が多重パルス信号を生成する際の周期に余裕がある際には、共振調整用容量素子を共振動作に関与させないように制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態における一相分の電気的構成図
図2】全体的な電気的構成図
図3】1つのコンバータにおけるインダクタ電流ILの波形を示す図
図4】4つのコンバータのインダクタ電流IL1~IL4の波形を合成した一相の出力電流Ioutの波形を示す図
図5】コンバータの制御構成図
図6】Iu_cmd>0の場合の上アームSW1のオン・オフ制御を示すタイミングチャート
図7】4多重コンバータがそれぞれ出力する電流の波形と、それらを合成した電流の波形を示す図
図8】従来技術の課題を説明する図(その1)
図9】従来技術の課題を説明する図(その2)
図10】従来技術の課題を説明する図(その3)
図11】本実施形態の効果を説明する図(その1)
図12】本実施形態の効果を説明する図(その2)
図13】本実施形態の効果を説明する図(その3)
図14】第2実施形態における一相分の電気的構成図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について説明する。尚、本実施形態における電流境界モードに関する制御については、特開2022-132052号公報(以下、先願公報と称す)に開示されている構成をベースにしている。図2に示すように、バッテリ2には電力変換器としての三相インバータ3が接続されている。バッテリ2は、ニッケル水素蓄電池やリチウム蓄電池などの蓄電池である。三相インバータ3にはモータ4が接続されている。モータ4は、例えばハイブリッド車の車輪を駆動する動力発生装置であり、例えば永久磁石同期モータ(PMSM)である。
【0014】
三相インバータ3は、それぞれU相、V相、W相に対応する基本単位となるコンバータ5u、5v、5wを、2以上であるn個多重並列接続したマルチフェーズコンバータ6u、6v、6wにより構成されている。図1では、基本単位となるコンバータ5u、5v、5wの符号にそれぞれ添え字「1~n」を付している。以下の説明では、コンバータ5u1、5u2、5u3…5un、5v1、5v2、5v3…5vn、5w1、5w2、5w3…5wn、のうち個々又はその一つを単にコンバータ5と略することもある。また、インダクタに流れる電流;インダクタ電流ILの検出対象となるコンバータ5u1、5v1、5w1を、「マスタ相のコンバータ5」と称することもある。コンバータ5の構成例は図5に示している。
【0015】
例えば、U相のマルチフェーズコンバータ6uは、n個のコンバータ5に流す全電流を1/nでそれぞれ分担すると共に、互いに位相差T/nを存して駆動することで各コンバータ5u1…5unの駆動電流を平準化する。各コンバータ5u1…5unの出力電流が合成されるため電流リップルを相殺でき、これにより、所望の電流波形、ここでは正弦波電流を出力するように構成されている。V相、W相のマルチフェーズコンバータ6v、6wも同様である。図3は、1つのコンバータ5におけるインダクタ電流ILの波形を示し、図4は、4つのコンバータのインダクタ電流IL1~IL4の波形を合成した、一相の出力電流Ioutの波形を示している。
【0016】
上記の個々のコンバータ5は、図5に示すように、上アームスイッチSW1、下アームスイッチSW2、インダクタL、及びコンデンサCを備え、バッテリ2の電圧を所望に変換する降圧型の非反転形バックコンバータにより構成される。上アームスイッチSW1、下アームスイッチSW2は、Nチャネル型のパワーMOSFETなどのパワースイッチとして構成され、ドレインソース間には、負荷電流を転流するためそれぞれ還流ダイオードD1、D2が接続されている。また、還流ダイオードD1、D2に対して、共振調整用のコンデンサCa1,Ca2がそれぞれ並列に接続されている。コンデンサCa1,Ca2は、容量変化に温度特性を有する素子である。以下の説明では、上アームスイッチSW1及び下アームスイッチSW2の双方、又はその一方を「パワースイッチ」と称することもある。
【0017】
本実施形態に係る制御システム1は、三相インバータ3に制御装置10を接続しており、制御装置10を主体として制御を実行する。制御装置10は、複数のCPUコアやメモリ37などを備えたコンピュータにより構成されるもので、機能的にはモータ制御部11及びパルス生成部12としての構成を備える。
【0018】
また、UVW各相のマスタ相となるコンバータ5u1、5v1、5w1を構成するインダクタLの通電経路には、電流センサ14が設けられている。モータ制御部11には、電流センサ14により検出されたインダクタ電流ILが入力されている。モータ制御部11には、要求トルクに応じて算出されたd軸電流、q軸電流の指令値Id,Iqが入力され、当該電流指令値Id,Iqに応じた制御情報Iu_cmd,Iv_cmd,Iw_cmdをパルス生成部12に出力する。なお、電流指令値Id,Iqの更新周期は、交流周波数の周期に比較して十分短い時間に設定されており、交流周波数にて変化する電流指令値Id,Iqを細かく設定できる。
【0019】
また電流センサ14は、モータ4に入力させる相電流Iu、Iv、Iwを検出するために設けられており、電流センサ14による検出電流はモータ制御部11に入力されている。またモータ制御部11には、モータ4に設置されるレゾルバなどの回転位置センサ4aによりロータの角度θが入力される。モータ制御部11は、これらの入力に基いて三相二相変換器34にてベクトル制御演算を行い、d軸電流Id、q軸電流Iqを生成する。
【0020】
減算器30は、d軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqからd軸電流Id、q軸電流Iqをそれぞれ減算し、電流制御器31に出力する。電流制御器31は、例えば、比例積分制御によりdq軸の電流指令値Id_cmd、Iq_cmdを二相三相変換器32に出力する。二相三相変換器32は、電流制御器31から入力されるdq軸の電流指令値をモータ4の三相毎の電流指令値Iu_cmd、Iv_cmd、Iw_cmd、に変換し、パルス生成部12に出力する。
【0021】
パルス生成部12は、モータ制御部11から入力される制御情報に基づいて、三相インバータ3の3×n個のコンバータ5を多重動作させるように多重パルス、すなわちマルチフェーズパルスを生成する。図1図5に示すように、パルス生成部12は、ゲート駆動部21、ゼロ電流検出部22、及びパルス演算部23としての機能的構成を備える。パルス演算部23の内部構成については、先願公報の図3に示されている。
【0022】
パルス演算部23は、各相のマルチフェーズコンバータ6u、6v、6wの各コンバータ5が電流境界モードにて動作する際の、上アームスイッチSW1及び下アームスイッチSW2のオン時間Ton及びオフ時間Toff、周期T、及び、同相の複数のコンバータ5に入力させる多重パルス間の位相差Tdの各パラメータを算出する。
【0023】
電流境界モードとは、インダクタ電流ILがゼロとなることを検出したことを条件として、上アームスイッチSW1及び下アームスイッチSW2のオン・オフを切り替えるモードを示す。オン時間Ton、オフ時間Toff、周期T、位相差Tdの各パラメータは、同相のマルチフェーズコンバータ6の各コンバータ5に入力させる多重パルスの間で同一に設定される。
【0024】
ゲート駆動部21は、パルス演算部23の演算結果に基づいて三相インバータ3を駆動する。ゲート駆動部21は、パルス演算部23により算出されたオン時間Ton、オフ時間Toff、周期T、位相差Tdに基づいて上アームスイッチSW1又は下アームスイッチSW2をオン・オフ駆動する。電流境界モードの詳細については、先願公報の段落[0024]~[0035]や図4に示されているので説明を省略する。また、各相のマルチフェーズコンバータ6u、6v、6wに係る処理動作についても、同段落[0036]~[0053]や図6及び図7に示されているので説明を省略する。
【0025】
以下では、本実施形態において、先願公報と相違している部分を中心に説明する。電流境界モードについては、以下のような問題がある。微小電流を制御する場合には、パルス制御の周期が短くなる。制御装置10を構成するマイクロコンピュータによる制御分解能の限界である周期T1を下回ると、図8に示すようにパルス信号を正常に出力できなくなり、図10に示すように合成電流波形にリップルを生じてしまう。
【0026】
そこで、本実施形態では、各コンバータ5に共振調整用のコンデンサCa1,Ca2を付加している。すると、図6及び図7に示すように、LC共振動作においてコンデンサCa1,Ca2の容量に溜まった電荷が抜ける間だけ、電流波形が負側に引き込まれる。すなわち、電流の極性が正の場合に、ゼロクロス点を超えて逆極性の負に至る。これにより、図11及び図12に示すように、合成電流の振幅値が低下して共振周期Tが等価的に遅くなるので、微小電流を出力することが可能になり、図13に示すように、電流波形のリップルを低減できる。
【0027】
ゲート駆動部21は、ゼロ電流検出部22が、インダクタ電流ILの極性が負から正に遷移する際にゼロとなるタイミングを検出したことを条件として、上アームスイッチSW1又は下アームスイッチSW2をターンオンさせる。図中では、上記のタイミングをZCS(Zero Current Switching)として示している。このとき、パルス演算部23は、例えばU相であれば、電流指令値Iu_cmdがゼロを超えていれば、ゲート駆動部21に上アームスイッチSW1をターンオンさせる。電流指令値Iu_cmdがゼロ未満であれば、下アームスイッチSW2をターンオンさせる。図6は、電流指令値がゼロを超えている場合の、上アームスイッチSW1のターンオンタイミングを示している。
【0028】
コンバータ5u1を駆動する際、パルス演算部23は、各コンバータ5のパワースイッチSW1又はSW2をオン継続させるオン時間Ton、及び、各コンバータ5に印加する多重パルスの間の位相差Tdを算出する。
以下も、U相について説明する。電流指令値Iu_cmdに応じたコンバータ5の出力電流をIout、コンバータ5の多重数をnとすると、コンバータ5の平均電流I=Iout/nとなり、インダクタ電流ILのピーク電流ILpは、平均電流Iの2倍=2Iとなる。
【0029】
パルス演算部23は、電流指令値Iu_cmd>0のときには、上アームスイッチSW1のオン時間Ton及びオフ時間Toff、並びに、周期T及び位相差Tdを、それぞれ下記の(1)式、(2)式に基づいて算出する。尚、本実施形態では、コンデンサCa1,Ca2を付加したことにより、先願公報の(1-1)式~(1-4)式、(2-1)式~(2-4)式とは相違している点がある。ここで、
【0030】
Vin :コンバータ5の入力電圧
Vout :コンバータ5の出力電圧
Ton1 :上アームスイッチSW1のオン時間
Toff1:上アームスイッチSW1のオフ時間
T1 :オン・オフ周期
Td1 :各オンタイミング間の位相差
L :インダクタのインダクタンス
ILp :インダクタに流れるピーク電流
Tcn :共振時間補正値
とする。
【0031】
パルス生成部12は、指令値Iu_cmdが正の値であれば、上アームスイッチSW1を
Ton1=ILp×L/(Vin-Vout)
Toff1=ILp×L/Vout
T1=Ton1+Toff1+Tcn
Td1=T1/n …(1)
で駆動するように多重パルス信号を生成する。
【0032】
尚、図6に示すタイミングチャートでは、下アーム側のスイッチSW2の制御は明示していないが、オフ状態を維持すれば還流ダイオードD2を介して還流電流が流れる。同期整流を行うのであれば、還流電流が流れるタイミングでスイッチSW2をオンさせれば良い。また、
【0033】
Ton2 :下アームスイッチSW2のオン時間
Toff2:下アームスイッチSW2のオフ時間
T2 :オン・オフ周期
Td2 :各オンタイミング間の位相差
とする。
【0034】
パルス生成部12は、電流指令値Iu_cmdが負の値であれば、下アームスイッチSW2を
Ton2=ILp×L/Vout
Toff2=ILp×L/(Vin-Vout)
T2=Ton2+Toff2+Tcn
Td2=T2/n …(2)
で駆動するように多重パルス信号を生成する。
【0035】
尚、図7に示す共振時間補正値Tcnについては、基本的にコンバータ5のインダクタンスL及びキャパシタンスCや、容量素子Ca1及びCa2のキャパシタンスに基づいて決定するが、例えば定数としたり、電圧、電流の値に応じたマップを作成して決定しても良い。また、1番目のコンバータ5を基準とするm番目のコンバータ5の位相差Tdmは、
Tdm=Td×(m-1)=T/n×(m-1)
となる。
【0036】
以上のように本実施形態によれば、並列接続されたn個のコンバータ5、入力される指令値に応じた制御情報を出力するモータ制御部11、及びその制御情報に基づいてn個のコンバータを駆動する多重パルス信号を生成するパルス生成部12を備える。共振調整用容量素子Ca1,Ca2は、パルス生成部12がn個のコンバータ5を電流境界モードで動作させる際に、それらのコンバータ5におけるLC共振時間を調整する。
【0037】
このように構成すれば、電流の指令値がある程度小さくなった際には、共振電流の極性を、容量素子Ca1,Ca2の容量分だけ負側に引き込むことが可能になる。そして、共振電流の極性を負側に引き込んだ分だけ、n個のコンバータ5が出力する電流を合成した波形の振幅を低下させることができる。したがって、多重パルス信号の周期を一定の下限より短くせずとも微小な電流を出力することが可能になる。
【0038】
より具体的には、パルス生成部12のゲート駆動部21は、コンバータ5を構成する各スイッチSW1、SW2を駆動し、ゼロ電流検出部22は、コンバータ5が出力する電流の値がゼロになったことを検出する。パルス演算部23は、コンバータ5を電流境界モードで動作させるための各スイッチSW1、SW2のオン時間Tonと、オン・オフの周期Tと、各オンタイミング間の位相差Tdと、共振時間補正値Tcnとを算出することで、ゲート駆動部21に出力する多重パルス信号を生成する。これにより、共振調整用容量素子Ca1,Ca2の容量を考慮して、コンバータ5を電流境界モードで動作させることができる。
【0039】
更に、パルス生成部12は、指令値が正の値であれば、コンバータ5を構成する上アームスイッチSW1を(1)式により駆動するように多重パルス信号を生成し、指令値が負の値であれば、コンバータ5を構成する下アームスイッチSW2を(2)式により駆動するように多重パルス信号を生成する。このように、共振調整用容量素子Ca1,Ca2の容量を考慮した多重パルス信号を、具体的に(1)式及び(2)式に従って生成できる。
【0040】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。図14に示すように、第2実施形態のコンバータ5では、共振調整用容量素子Ca1,Ca2に替えて、容量を変更可能な素子Cav1,Cav2が接続されている。制御装置41は、調整用容量変更部に相当する出力容量調整部42を備えている。出力容量調整部42は、U相であれば電流指令値Iu_cmdの大きさに応じて共振調整用容量素子Cav1,Cav2の容量を変更する。
【0041】
すなわち、電流指令値Iu_cmdがある程度の大きさであれば、共振調整用容量素子Cav1,Cav2の容量値によってLC共振状態を調整する必要はないので、容量値をゼロに設定する。電流指令値Iu_cmdが小さくなり、出力電流Ioutの値が小さくなると、共振調整用容量素子Cav1,Cav2の容量値を大きくして、共振電流を負側に引き込むように調整する。パルス演算部23Aは、出力容量調整部42より入力される容量設定値に応じて共振時間補正値Tcnを設定する。
【0042】
以上のように第2実施形態によれば、出力容量調整部42は、二里木さ電流指令値に応じて共振調整用容量素子Cav1,Cav2の容量を変更する。これにより、電流指令値がある程度大きく、パルス生成部23Aが多重パルス信号を生成する際の周期に余裕がある際には、共振調整用容量素子Cav1,Cav2を共振動作に関与させないように制御できる。
【0043】
(その他の実施形態)
共振調整用容量素子は、外的に付加したコンデンサCa1,Ca2に限らず、例えばスイッチSW1、SW2の寄生容量Cpを調整することで、寄生容量Cpを共振調整用容量素子としても良い。
【0044】
また、容量が変更可能な素子として、容量変化に電圧依存性を有する可変容量ダイオードを用いても良い。
電力変換器として降圧型のコンバータ5を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば、昇圧型、昇降圧型のコンバータ5を用いることができる。またコンバータ5は、非絶縁型であっても絶縁型であっても良い。
【0045】
多重動作個数nを4に設定した形態を示しているが、多重動作個数nは3でも4以上でも良い。
パワースイッチSW1及びSW2は、Nチャネル型のパワーMOSFETを例示しているが、他種類のパワースイッチング素子により構成しても良い。
【0046】
パワースイッチSW1、SW2を構成するパワーMOSFETに負荷電流を転流するため、並列に還流ダイオードD1、D2をそれぞれ設けているが、これに限定されるものではない。還流ダイオードD1、D2に代えてパワーMOSFETに付加されるボディダイオードを用いても良い。また逆導通性を備えたパワースイッチ、例えばRC-IGBTを用いても良い。
【0047】
また、1多重目のコンバータ5u1、5v1、5w1と同様に、2以上のm多重目のコンバータ5u2…5un、5v2…5vn、5w2…5wnにゼロ電流検出部22を設け、インダクタ電流ILをゼロ検出した後に、対応するパワースイッチSW1又はSW2をオンするようにしても良い。パワースイッチSW1、SW2のオン時間Tonは、前述(1)式、(2)式のように算出したオン時間Tonを用いることが望ましい。
【0048】
制御装置10の中の構成である「モータ制御部11」、「パルス生成部12」は、ロジック回路を組み合わせたハードウェアを用いて実現してもよいし、マイコンなどのハードウェアがプログラムを実行することで実現しても良い。
本開示に記載の制御装置10による手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。或いは、本開示に記載の制御装置10及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によりプロセッサを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。若しくは、本開示に記載の制御装置10及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路により構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより実現されても良い。又、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていても良い。
【0049】
本発明は、前述した実施形態に準拠して記述したが、本発明は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範畴や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0050】
図面中、3は三相インバータ、5、5u1、5v1、5w1、5u2、5v2、5w2、5u3、5v3、5w3、5un、5vn、5wnはコンバータ、6u、6v、6wはマルチフェーズコンバータ、10は制御装置、11はモータ制御部、12はパルス生成部、22はゼロ電流検出部、SW1は上アームスイッチ、SW2は下アームスイッチを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14