(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147984
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】自動追尾測量システム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
G01C15/00 104C
G01C15/00 103E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060799
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】503295448
【氏名又は名称】計測ネットサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(74)【代理人】
【識別番号】110001759
【氏名又は名称】弁理士法人よつ葉国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 卓
(57)【要約】 (修正有)
【課題】自動追尾機能によって計測された座標点群について測量器の座標体系の傾きに起因する計測誤差を補正することが可能な自動追尾測量システムを提供する。
【解決手段】区間長Dに渡るプリズム2を計測した後に、測量器1をプリズム2の間近に近付け、目標座標PG(Xg)を取得する。次に、座標点群{P0,P1,・・・,Pn}を、縦軸をプリズムX座標値と、横軸をプリズム積算距離とする二次元座標系上に配置する。次に、座標点群{P0,P1,・・・,Pn}を初期座標点P0の回りに回転角θで回転させた回転座標点群{P0,P1’,・・・,Pn’}について、最遠方座標点Pn’を含む部分回転座標点群{Pk’,・・・、Pn’}についての最小二乗直線Lを求め、最小二乗直線Lと目標座標PGとの距離Vを求める。距離Vが最小となるときの回転角θminと回転X座標群{X0min,・・・,Xnmin}を求める。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測量器(1)とターゲット(2)を別個の移動体(10、20)に搭載し、被測定対象物(50)に対し前記測量器(1)を静止させ且つ前記ターゲット(2)を所定の区間長(D)ずつ移動させながら測量器(1)の自動追尾機能によって前記ターゲット(2)の座標値を計測する自動追尾測量システムであって、
前記自動追尾測量システムは前記測量器(1)を制御する制御装置(3)を備え、
前記制御装置(3)は、前記測量器(1)と前記ターゲット(2)との間の相対距離が前記区間長(D)に等しくなったときに、前記ターゲット(2)を停止し前記測量器(1)を前記ターゲット(2)の方向に移動させ、前記測量器(1)を前記ターゲット(2)に最大限近接させた時の前記ターゲット(2)の計測座標値を目標座標(PG)とする目標座標設定プロセス(S1)と、
前記ターゲット(2)の前記区間長(D)毎の座標点群({P0,P1,・・・,Pn})を、前記ターゲット(2)の初期位置に係る初期座標点(P0)を中心に所定の回転角(θ)で回転させた、回転座標点群({P0,P1’,・・・,Pn’})を求める座標点群回転プロセス(S4)と、
前記回転座標点群({P0,P1’,・・・,Pn’})について最遠方座標点(Pn’)を含む部分回転座標点群({Pk’,・・・,Pn’})を対象にして最小二乗直線(L)を引き、該最小二乗直線(L)と前記目標座標(PG)との距離(V)を求める距離算出プロセス(S5、S6)と、
前記距離(V)を最小にするときの最小回転角(θmin)と、その時の回転座標点群({P0min,P1min,・・・,Pnmin})を求める最小回転角算出プロセス(S9)と、を備える
ことを特徴とする自動追尾測量システム。
【請求項2】
請求項1に記載の自動追尾測量システムにおいて、
前記制御装置(3)は、前記座標点群({P0,P1,・・・,Pn})をX座標、Y座標およびZ座標の3つの基底座標の点群({X0,X1,・・・,Xn},{Y0,Y1,・・・,Yn},{Z0,Z1,・・・,Zn})に分解し、各基底座標の点群毎に前記座標点群回転プロセス(S4)、前記距離算出プロセス(S5、S6)および前記最小角算出プロセス(S9)を実行する
ことを特徴とする自動追尾測量システム。
【請求項3】
請求項2に記載の自動追尾測量システムにおいて、
前記制御装置(3)は、前記各基底座標の点群について縦軸を前記ターゲット(2)の座標値と、横軸を前記ターゲット(2)の積算距離とする二次元座標系に配置し、前記座標点群回転プロセス(S4)、前記距離算出プロセス(S5、S6)および前記最小角算出プロセス(S9)を実行する
ことを特徴とする自動追尾測量システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動追尾測量システムに関し、より詳細には測量器の自動追尾機能によって計測された座標点群について測量器の座標体系の傾きに起因する計測誤差を補正することが可能な自動追尾測量システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トータルステーションは、光波による測距機能とエンコーダによる測角機能を有する測量器である。また、トータルステーションは、座標の分かっている既知点(基準点)を2つ視準することにより、前回と同じ座標体系を構築することができる。トータルステーションの中には、自動的にターゲットを探索・視準してターゲットの座標値を計測する自動視準機能、ならびにターゲットが移動する場合に自動的にターゲットを追尾しながらターゲットの座標値を計測する自動追尾機能を有する機種も存在する。
【0003】
このトータルステーションの自動追尾機能を利用してボーリングマシーンの位置、姿勢を正確に測定することができるとする自動追尾式測量装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。この自動追尾式測量装置では、ボーリング施工後に順次継ぎ足される環状のセグメントに対し、セグメントの内部を自由に移動可能な台車を設定し、その台車にトータルステーションを固定することとしている。そして各セグメントの内周面にはトータルステーションが視準するターゲット(反射シート)がボーリング施工後に順次貼着されることになっている。
【0004】
その結果、牽引移動される台車にトータルステーションを搭載する場合であっても、トータルステーションが視準可能な座標値が既知のターゲット(反射シート)を3以上確保することが可能となり、座標値が既知のターゲットに基づいて移動後のトータルステーションの座標値を高精度に求めることができることとしている。従って、台車が移動する場合であっても、トータルステーションがセグメントの内周面に貼着されたそのターゲット(反射シート)、並びにボーリングマシーンに取り付けられたターゲットをそれぞれ自動視準することにより、ボーリングマシーンの位置、方向を正確に測定することができることとしている。
【0005】
ところで、測量器を搭載した台車とターゲット(プリズム)を搭載した台車をレールに別々に設置し、測量器の台車を静止させ且つターゲットの台車を移動させながら測量器の自動追尾機能によってターゲットの座標値を所定の区間長毎に計測する自動追尾測量システムが知られている(例えば、特許文献2を参照。)。この自動追尾測量システムでは、測量器がレール上を移動するターゲットを自動追尾しながらターゲットの座標値を所定の区間長だけ計測する。区間長の計測が終了した後に、ターゲットの台車を静止させ且つ測量器の台車をターゲットの台車の間近まで移動させた後に、再び測量器の台車を静止させ且つターゲットの台車を移動させながら測量器の自動追尾機能によってターゲットの座標値を所定の区間長だけ計測する。以後、測量器の自動追尾機能による所定の区間長毎のターゲットの座標値計測を繰り返すことになる。これにより、レールについての長距離に渡る連続した三次元座標を取得することができることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-94549号公報
【特許文献2】特開2016-205058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図8は、測量器の座標体系の傾きが計測値に与える影響を示す説明図である。
図8(a)は測量器が水平に対し傾いていない状態を表し、
図8(b)は測量器が水平に対し僅かに傾いている状態を表している。
図8(a)に示されるように、トータルステーション等の測量器の器械点(座標体系の原点)を設定する場合、測量器は底面が実際の水平方向Haに対し平行になるように水平気泡管等によって設定される。この場合、プリズムの計測座標Pmとプリズムの実座標Paは等しくなる。
【0008】
しかし、測量器を厳密に水平に設定することは、殆ど不可能である。実際は、
図8(b)に示されるように、測量器は水平に対し僅かに傾いた状態(傾斜角θ)で設定されている。この傾斜角θは、0.01度レベルの極微小な量であるが、測量器とプリズム(ターゲット)との距離が数十メートル或いは数百メートルになると、数センチメートルの計測誤差Δを生じる原因となる。傾斜角θは無視できなくなる。
【0009】
図9は、測量器を静止させ且つターゲットを移動させながら測量器の自動追尾機能によってプリズムを長距離にわたり自動追尾した際のプリズムのX座標値についての計測結果を示す説明図である。
図9(a)は横軸がプリズムの積算移動距離を示し、縦軸がプリズムのX座標値を示すグラフである。
図9(b)は測量器とプリズムの計測形態を示す説明図である。
【0010】
図9(b)に示されるように、測量器とプリズムの計測形態については、プリズム(ターゲット)が載ったプリズム台車と測量器が載った測量台車を、被測定対象物である同一レール上に設定し、プリズム台車を所定の区間長(通信可能距離)だけ移動させながら測量器の自動追尾機能によってプリズムの座標値を計測する。プリズム台車が所定の区間長だけ移動した後は、プリズム台車の走行を1度止め、測量台車をプリズム台車の間近まで移動させ、その後再びプリズム台車を所定の区間長(通信可能距離)だけ移動させながら測量器の自動追尾機能によってプリズムの座標値を計測している。
【0011】
図9(a)に示されるように、プリズム台車を停止させた状態で測量台車をプリズム台車の間近まで移動させる場合、プリズムは静止しているため、測量器がプリズムから所定の区間長離れた位置から計測した際のプリズムのX座標値と、プリズムの間近から計測した際のプリズムのX座標値は、等しくなるはずである。しかしながら、実際は、測量器は水平から僅かに傾いた状態で設定されているため、プリズムから所定の区間長離れた位置から計測した際のプリズムのX座標値と、測量器がプリズムの間近から計測した際のプリズムのX座標値は等しくはならず、段差が生じていることが分かる。
【0012】
上記のことは、プリズムのX座標値だけでなく、プリズムのY座標値及びZ座標値についても同様に言えることである。つまり、測量器が水平に対し僅かに傾いた状態で設定されている場合、測量器の自動追尾機能によって計測されたプリズムの座標値(座標点群)については、測量器の水平に対する傾きに起因した誤差が含まれることを意味している。座標値に含まれる誤差は、区間長が長くなるほど大きくなる。特に、測量器の自動追跡機能によってプリズム(ターゲット)を長距離にわたり計測する場合、座標値に含まれる誤差は無視できなくなる。
【0013】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであり、その目的は、測量器の自動追尾機能によってターゲットについての所定の区間長当たりの座標点群を自動計測する自動追尾測量システムにおいて、計測された座標点群について測量器の座標体系の傾きに起因する計測誤差を補正することが可能な自動追尾測量システム自動追尾測量システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係る自動追尾測量システムは、測量器(1)とターゲット(2)を別個の移動体(10、20)に搭載し、被測定対象物(50)に対し前記測量器(1)を静止させ且つ前記ターゲット(2)を所定の区間長(D)ずつ移動させながら測量器(1)の自動追尾機能によって前記ターゲット(2)の座標値を計測する自動追尾測量システムであって、前記自動追尾測量システムは前記測量器(1)を制御する制御装置(3)を備え、前記制御装置(3)は、前記測量器(1)と前記ターゲット(2)との間の相対距離が前記区間長(D)に等しくなったときに、前記ターゲット(2)を停止し前記測量器(1)を前記ターゲット(2)の方向に移動させ、前記測量器(1)を前記ターゲット(2)に最大限近接させた時の前記ターゲット(2)の計測座標値を目標座標(PG)とする目標座標設定プロセス(S1)と、前記ターゲット(2)の前記区間長(D)毎の座標点群({P0,P1,・・・,Pn})を、前記ターゲット(2)の初期位置に係る初期座標点(P0)を中心に所定の回転角(θ)で回転させた、回転座標点群({P0,P1’,・・・,Pn’})を求める座標点群回転プロセス(S4)と、前記回転座標点群({P0,P1’,・・・,Pn’})について最遠方座標点(Pn’)を含む部分回転座標点群({Pk’,・・・,Pn’})を対象にして最小二乗直線(L)を引き、該最小二乗直線(L)と前記目標座標(PG)との距離(V)を求める距離算出プロセス(S5、S6)と、前記距離(V)を最小にするときの最小回転角(θmin)と、その時の回転座標点群({P0min,P1min,・・・,Pnmin})を求める最小回転角算出プロセス(S9)とを備えることを特徴とする。
【0015】
上記構成では、先ず初期座標点(P0)と目標座標(PG)は、測量器(1)をターゲット(2)に最大限近接させたときの座標点であるから、この2点については測量器の座標体系の傾きに起因した計測誤差を含んでいないと見なすことができる。従って、初期座標点(P0)と目標座標(PG)を座標値補正の基準点に設定することができる。
【0016】
また、座標点群({P0,P1,・・・,Pn})は、実際の水平方向Ha(
図8)に対し一律に傾いた測量器の水平方向Hm(
図8)を基準にして計測されている。従って、座標点群({P0,P1,・・・,Pn})については、初期座標点(P0)を中心として実際の水平方向Haと測量器の水平方向Hmとの成す角度(θ)だけ回転させれば良いことになる。なお、この成す角度(θ)については、回転座標点群({P0,P1’,・・・,Pn’})について最遠方座標点(Pn’)を含む部分回転座標点群({Pk’,・・・,Pn’})を対象にして最小二乗直線(L)を引き、その最小二乗直線(L)と上記目標座標(PG)との距離(V)を求め、その距離(V)を最小にする最小回転角(θmin)とすることができる。
【0017】
本発明に係る自動追尾測量システムの第2の特徴は、前記制御装置(3)は、前記座標点群({P0,P1,・・・,Pn})をX座標、Y座標およびZ座標の3つの基底座標の点群({X0,X1,・・・,Xn},{Y0,Y1,・・・,Yn},{Z0,Z1,・・・,Zn})に分解し、各基底座標の点群毎に前記座標点群回転プロセス(S4)、前記距離算出プロセス(S5、S6)および前記最小角算出プロセス(S9)を実行することである。
【0018】
上記構成では、測量器の水平方向Hm(
図8)が、鉛直軸(Z軸)および水平面(X軸、Y軸)のそれぞれについて傾斜していることに考慮して、座標点群回転プロセス(S4)、距離算出プロセス(S5、S6)および最小角算出プロセス(S9)は3つの基底座標の点群({X0,X1,・・・,Xn},{Y0,Y1,・・・,Yn},{Z0,Z1,・・・,Zn})毎に行われる。
【0019】
本発明に係る自動追尾測量システムの第3の特徴は、前記制御装置(3)は、前記各基底座標の点群について縦軸を前記ターゲット(2)の座標値と、横軸を前記ターゲット(2)の積算距離とする二次元座標系に配置し、前記座標点群回転プロセス(S4)、前記距離算出プロセス(S5、S6)および前記最小角算出プロセス(S9)を実行することである。
【0020】
上記構成では、測量器の座標体系の傾きに起因する計測誤差を精度良く補正することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る自動追尾測量システムによれば、測量器を静止させ且つターゲットを移動させながら測量器の自動追尾機能によってターゲットについての所定の区間長当たりの座標点群を自動計測する自動追尾測量システムにおいて、計測された座標点群について測量器の座標体系の傾きに起因する計測誤差を補正することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自動追尾測量システムを示す説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る自動追尾測量システムを使用した被測定対象物に対する計測方法において、所定区間長の計測を示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る自動追尾測量システムを使用した被測定対象物に対する計測方法において、所定区間長の計測終了後の目標座標の取得を示す説明図である。
【
図4】測量器の自動追尾機能によって所定の区間長にわたり計測されたプリズムの座標点群に対する計測誤差補正方法を示す説明図である。
【
図5】縦軸をプリズムX座標値と、横軸をプリズム積算距離とする二次元座標体系上にプリズムの座標点群を配置したときの説明図である。
【
図6】二次元座標体系上に配置したプリズムの座標点群を初期座標点を中心として所定の回転角で回転させた場合の回転座標点群を示す説明図である。
【
図7】最遠方座標点を含む部分回転座標点群を対象にして最小二乗直線を引き、該最小二乗直線と目標座標との距離を示す説明図である。
【
図8】測量器の座標体系の傾きが計測値に与える影響を示す説明図である。
【
図9】測量器を静止させ且つターゲットを移動させながら測量器の自動追尾機能によってプリズムを長距離にわたり自動追尾した際のプリズムのX座標値についての計測結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動追尾測量システム100を示す説明図である。
図2及び
図3は自動追尾測量システム100を使用した被測定対象物50に対する計測方法を示す説明図である。
【0025】
図1に示されるように、この自動追尾測量システム100は、測量器1を搭載した第1台車10と、プリズム2を搭載した第2台車20を被測定対象物50上にスライド移動自在にそれぞれ設置し、第1台車10を静止させ且つ第2台車20をスライド移動させながら、測量器1の自動追尾機能によってプリズム2についての所定の区間長D当たりの座標点群を逐次自動計測し、これにより被測定対象物50の全長にわたる座標点群の取得を可能とする自動追尾測量システムである。特に、測量器1の自動追尾機能によって計測されたプリズム2の座標点群については、座標体系設定時における測量器1の僅かな傾きに起因する計測誤差が補正されているため、所定の区間長D当たりの座標点群が滑らかに連続した被測定対象物50の全長にわたる座標点群を取得することが可能となる。
【0026】
なお、プリズム2の座標と被測定対象物50の座標はプリズム高さH(=一定値)のみ異なっている。従って、プリズム2の座標と被測定対象物50の座標は互いに等価である。プリズム2の座標から被測定対象物50の座標は一意的に定まり、逆に被測定対象物50からプリズム2の座標は一意的に定まることになる。従って、本明細書においてはプリズム2の座標は被測定対象物50の座標も意味しており、その逆に被測定対象物50の座標はプリズム2の座標も意味している。
【0027】
図1に示されるように、この自動追尾測量システム100は、計測光(例えばレーザ光)をプリズム2に照射してプリズム2からの反射光を受光することによりプリズム2までの直線距離Sと鉛直角度Vと水平角度Hを計測する測量器1と、測量器1から出射された計測光を測量器1へ反射させるプリズム2と、測量器1を搭載する第1台車10と、プリズム2を搭載する第2台車20と、測量器1の自動追尾機能によって計測されたプリズム2の座標点群について座標体系設定時における測量器1の僅かな傾きに起因する計測誤差を補正するコンピュータ30とを具備して構成されている。以下、各構成について更に説明する。
【0028】
測量器1は、エンコーダによる測角機能と、プリズム2と計測光による測距機能を有している。これらの機能に加えて、プリズム2を自動的に探索して視準する自動視準機能と、プリズム2が移動する場合に、プリズム2を自動的に追尾しながら視準する自動追尾機能を有している。また、測量器1はWi-Fi(登録商標)又はBluetooth(登録商標)等の近距離無線通信機能を有し、測定した座標点群についてはコンピュータ30に無線を介して送信することができるように構成されている。
【0029】
プリズム2は、360°プリズム又は1素子プリズムを使用することが可能である。
【0030】
第1台車10及び第2台車20は、上部には測量器1又はプリズム2を安定に搭載する平坦部を備え、下部には被測定対象物50との間の機械的ガタを無くした状態でスライド移動可能な公知の走行手段(例えば、特開2016-205058号公報に記載のスライド部)を備えている。
【0031】
コンピュータ30は、パーソナルコンピュータ、タブレット又はスマートフォン等の携帯端末機器、あるいはPLC(Programable Logic Controller)等の制御装置によって構成されている。また、コンピュータ30は、Wi-Fi(登録商標)又はBluetooth(登録商標)等の近距離無線通信、あるいは携帯電話会社が提供するSIMカードを介した無線通信回線(いわゆる4G又は5G)によってインターネット回線に接続し、インターネット上に構築された自社サーバー又はクラウドサーバーにアクセスしてプログラム又はデータを送受信することができるように構成されている。また、計測された被測定対象物50についての座標点群は、例えばコンピュータ30の内部記憶領域、インターネット上の自社サーバー又はクラウドサーバー、或いはUSBメモリ等の可搬型記憶媒体に保存されるようになっている。
【0032】
図2及び
図3は、自動追尾測量システム100を使用した被測定対象物50に対する計測方法を示す説明図である。なお、被測定対象物50は2本の線路(レール)とし、
図2は2本のレールの内の1本のレールに対する計測方法を示している。
【0033】
図2(a)に示されるように、測量器1とプリズム2を被測定対象物50のほぼ鉛直真上に設置する。この場合、プリズム2が計測区間の開始位置に来るように第1台車10と第2台車20を接合させる。
【0034】
図2(b)に示されるように、第1台車10を静止させ且つ第2台車20をスライド移動させながら、プリズム積算距離が所定の区間長Dに達するまで測量器1の自動追尾機能によってプリズム2の座標値を自動計測する。なお、ここで言う「プリズム積算距離」とは、隣り合う座標点間距離d(P
k,P
k+1)の総和Σd(P
k,P
k+1)を意味している。第2台車20のプリズム積算距離が所定の区間長Dに達したときに第2台車20を一旦静止させる。
【0035】
図3(a)に示されるように、区間長Dの計測終了後に第2台車20が静止した状態で第1台車10をスライド移動させながら第2台車20の間近に接近させる。第1台車10が第2台車20に接合するとき、即ち測量器1がプリズム2の間近に位置するときに、測量器1はプリズム2の座標を計測する。測量器1がプリズム2の間近に位置する場合、座標体系設定時における測量器1の僅かな傾きに起因する計測誤差は無視可能なレベルとなる。すなわち、測量器1がプリズム2の間近に位置するときに測量器1が計測したプリズム2の座標(PG)は、座標体系設定時における測量器1の僅かな傾きに起因する計測誤差を含んでいないものと見なすことができる。従って、測量器1がプリズム2の間近に位置するときに測量器1が計測したプリズム2の座標(PG)は、上記プリズム2の座標点群(後述の{P1,P2,・・・,Pn})に含まれる計測誤差を補正する際の目標座標(基準座標)となる。なお、自動追尾機能によって計測されたプリズム2の座標点群{P1,P2,・・・,Pn}に対する誤差補正については
図4を参照しながら後述する。
【0036】
図3(b)に示されるように、プリズム2が新たな計測区間の開始位置となる。
図2(b)と同様に、プリズム積算距離が所定の区間長Dに達するまで測量器1の自動追尾機能によってプリズム2の座標値を自動計測する。
【0037】
図3(c)に示されるように、第2台車20が静止した状態で第1台車10をスライド移動させながら第2台車20に接近させ、プリズム2の座標点群を補正する際の目標座標(基準座標)PGを取得する。以後、所定の区間長Dにわたる測量器1の自動追尾機能によるプリズム2の座標値の自動計測と、測量器1をプリズム2に最接近させた位置での目標座標PGの計測を、プリズム積算距離の総和が被測定対象物50の全長に達するまで繰り返す。
【0038】
なお、被測定対象物50は線路(レール)だけに限定されることはない。第1台車10及び第2台車20が移動可能なトンネル、又は下水道管に対してもこの自動追尾測量システム100を適用することは可能である。
【0039】
図4は、測量器1の自動追尾機能によって所定の区間長Dにわたり計測されたプリズム2の座標点群に対する計測誤差補正方法を示す説明図である。計測誤差補正方法は、各基底座標の点群(X座標点群、Y座標点群、Z座標点群)毎に行われる。各基底座標の点群についての計測誤差補正方法は同じであるため、ここではX座標点群についての計測誤差補正方法についてのみ説明することにする。
【0040】
先ず、ステップS1として、所定の区間長Dに渡るプリズム2を計測した後に、測量器1をプリズム2の間近に近付け、目標座標PG(Xg)を取得する。
図3(a)に示されるように、プリズム2の「目標座標PG」とは、計測区間終了位置である座標点Pnにおいて測量器1をプリズム2の間近に移動させたときに測量器1によって計測されたプリズム2の座標である。もし、測量器1が傾いていない状態の場合、「最遠方座標点PnのX座標Xn」と「目標座標PGのX座標Xg」は等しくなる。しかし、実際は測量器1が僅かに傾いているため、「最遠方座標点PnのX座標Xn」と「目標座標PGのX座標Xg」は等しくならず、測量誤差ΔXが生じる。本計測誤差補正方法は、この測量誤差ΔXがゼロ又は最小となるように行われる。
【0041】
次に、ステップS2として、所定の区間長Dにわたり測量器1の自動追尾機能により計測されたプリズム2の座標点群{P0,P1,・・・,Pn}からX座標点群{X0,X1,・・・,Xn}を抽出する。
【0042】
図5に示されるように、ステップS3として、上記プリズム2の座標点群{P0,P1,・・・,Pn}について、縦軸をプリズムX座標値と、横軸をプリズム積算距離とする二次元座標体系上に配置する。
【0043】
なお、横軸の「プリズム積算距離」とは、所定の区間長Dにおいて計測区間開始位置の初期座標点P0から計測区間終了位置の座標点Pnについて、隣り合うプリズム2の座標点間の距離を順次積算した値である。例えば、座標点P4におけるプリズム積算距離D4とは、「初期座標点P0と座標点P1を直線で結んだ距離」と、「座標点P1と座標点P2を直線で結んだ距離」と、「座標点P2と座標点P3を直線で結んだ距離」と、「座標点P3と座標点P4を直線で結んだ距離」とを全て積算した値である。従って、最遠方座標点Pnにおけるプリズム積算距離Dnは所定の区間長Dに等しくなる。一般に、プリズム2の座標点Pkにおけるプリズム積算距離Dkは、座標点Pk-1におけるプリズム積算距離Dk-1に、座標点Pk-1と座標点Pkを直線で結んだ距離を加えた値に等しくなる。なお、初期座標点P0は計測区間開始位置でのプリズム2の座標であり、測量器1の僅かな傾きに起因する計測誤差を含んでいない。従って、初期座標点P0は目標座標PGと同様に、本計測誤差補正方法に係る基準座標となる。
【0044】
また、縦軸の「プリズムX座標値」とは、プリズム2の座標点(X、Y、Z)からX座標値のみを抽出した値である。ここでは説明が省略されている「プリズムY座標値」及び「プリズムZ座標値」についても同様に、プリズム2の座標点(X、Y、Z)からY座標値のみ、Z座標値のみをそれぞれ抽出した値である。なお、
図2(a)に示されるように、初期座標点P0は、所定の区間長Dにおける計測区間開始位置でのプリズム2の座標点である。従って、初期座標点P0におけるプリズム積算距離D0はゼロに等しくなる。
【0045】
図6に示されるように、ステップS4として、上記二次元座標体系上においてプリズム2の座標点群{P0,P1,・・・,Pn}を初期座標点P0の回りに回転角θで回転させる。回転角θについては取り得る範囲が予め設定されている。例えば、-10°≦θ≦10°である。
【0046】
図7に示されるように、ステップS5として、回転角θで回転させたプリズム2の回転座標点群{P0,P1’,・・・,Pn’}について最小二乗直線Lを求める。なお、最小二乗直線Lは、(初期座標点P0から)最遠方に位置する最遠方座標点Pn’を中心とする所定の円に含まれる複数のX座標に係る部分回転座標点群{Pk’,・・・,Pn’}についての最小二乗直線である。部分回転座標点群に含まれる座標点の数については、測量器1のトラッキング精度に依存するが、基本的には点数を増やすことで、最小二乗直線Lを中心とする幅1ミリメートル範囲内をプリズムが実際に通る確率を95%程度まで上げることができることになる。つまり、最小二乗直線Lとプリズム2が移動した軌跡をほぼ一致させることが出来ることになる。従って、この最小二乗直線Lと目標座標PGとの距離Vを最も小さくするような回転角θが、プリズム2の座標点群{P0,P1,・・・,Pn}を回転させるべき量であると決めることができる。
【0047】
ステップS6として、最小二乗直線Lと目標座標PGとの距離Vを求める。
【0048】
ステップS7として、試行回数nは設定回数Nに達したか否かを判定する。なお、試行回数nとは、目標座標PGと最小二乗直線Lとの距離Vを求めることを実施した回数である。例えば、100回である。試行回数nが設定回数Nに達した場合(YES)、ステップS9を実行する。一方、試行回数nが設定回数Nに達していない場合(NO)、ステップS8を実行する。
【0049】
ステップS8として、回転角θを更新する。更新の方法としては、公知の二分探索法により求めることができる。
【0050】
ステップS9として、「目標座標PG」と「X座標点群についての最小二乗直線L」との距離Vが最小となるときの最小回転角θminと回転X座標点群{X0min,・・・,Xnmin}を求める。
【0051】
上記ステップS1~S9を、プリズムY座標に対しても同様に適用することによって、「目標座標PG(Yg)」と「Y座標に係る部分回転座標点群についての最小二乗直線L」との距離Vが最小となるときの回転Y座標点群{Y0min,・・・,Ynmin}を求めることができる。さらにプリズムZ座標に対しても同様に適用することによって、「目標座標PG(Zg)」と「Z座標に係る部分回転座標点群についての最小二乗直線L」との距離Vが最小となるときの回転Z座標点群{Z0min,・・・,Znmin}を求めることができる。
【0052】
従って、測量器1の傾きに起因する計測誤差が補正された座標点群{P0min,P1min,・・・,Pnmin}を得ることになる。すなわち、P0min=(X0min,Y0min,Z0min)、P1min=(X1min,Y1min,Z1min)、・・・、Pnmin=(Xnmin,Ynmin,Znmin)を得ることになる。
【0053】
なお、上記を式として一般化すると、下記の式1になる。
【0054】
(式1): min{V|V=f(r(P,θ),g)}<C、但し
P:測量器1の自動追尾機能で得られた全座標点の群(座標点群{P0,P1,・・・,Pn})、
θ:測量器の座標体系の傾き(座標点群{P0,P1,・・・,Pn}を初期座標点P0の回りに回転させるべき量)、
r(P,θ):座標点群{P0,P1,・・・,Pn}を初期座標点P0の回りに回転角θだけ回転させた回転座標点群{P0,P1’,・・・,Pn’}を返す関数、
g:目標座標PG、
f(x,g):回転座標点群{P0,P1’,・・・,Pn’}のうち最遠方座標点Pn’から幾つかの点を対象にした最小二乗直線Lを引き、その最小二乗直線Lと目標座標PGとの距離を返す関数、
C:要求精度によって変わる閾値であり、基本的にはゼロ又はゼロに近い正の値。
【0055】
以上の通り、図面を参照しながら本発明の自動追尾測量システム100について説明してきたが、本発明は上記だけに限定されることはない。すなわち、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において種々の修正・変更・追加等を行うことが可能である。例えば、第1台車10、第2台車20に測量器1を2台、プリズム2を2台それぞれ搭載し、2つの被測定対象物50を同時に計測するようにしても良い。また、第1台車10及び第2台車20は遠隔操作可能であっても良い。
【符号の説明】
【0056】
1 測量器
2 反射プリズム(ターゲット)
10 第1台車
20 第2台車
30 コンピュータ(制御装置)
50 被測定対象物
100 自動追尾測量システム