(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147985
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】大梁と小梁の接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/24 20060101AFI20241009BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
E04B1/24 Q
E04B1/58 506F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060800
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
(72)【発明者】
【氏名】永峰 頌子
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA14
2E125AA17
2E125AB01
2E125AC15
2E125AG03
2E125AG04
2E125AG12
2E125BB02
2E125BB05
2E125BB12
2E125BB22
2E125BD01
2E125BF06
2E125BF08
2E125CA05
2E125CA13
2E125CA14
(57)【要約】
【課題】大梁と小梁の標準的な継手を構成するブラケットを備えた接合構造の内包する課題を解消できる、大梁と小梁の接合構造を提供すること。
【解決手段】大梁10の長手方向の対応位置の左右に大梁10に直交して大梁10よりも梁せいの小さな2つの小梁20が接合されている、大梁と小梁の接合構造100であり、第1上フランジ12と2つの第2上フランジ22の双方の上面が面一であり、2つの第2上フランジ22の上面に跨がる第1スプライスプレート30に対して2つの第2上フランジ22がボルト接合され、第1上フランジ12と第1ウェブ11と第1下フランジ13に対してガセットプレート50が溶接接合され、第1下フランジ13に対して第2スプライスプレート40が溶接接合もしくはボルト接合され、第2下フランジ23に対してドロップハンチ25が溶接接合され、2つのドロップハンチ25と第2スプライスプレート40がボルト接合されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ウェブと、第1上フランジと、第1下フランジとを備える大梁と、第2ウェブと、第2上フランジと、第2下フランジとを備える小梁とを備え、該大梁の長手方向の対応位置の左右に、該大梁に直交して該大梁よりも梁せいの小さな2つの前記小梁が接合されている、大梁と小梁の接合構造であって、
前記第1上フランジと2つの前記第2上フランジの双方の上面が面一であり、2つの該第2上フランジの上面に跨がる第1スプライスプレートに対して、2つの該第2上フランジがボルト接合されており、
前記第1上フランジと前記第1ウェブと前記第1下フランジに対して、ガセットプレートが溶接接合され、
前記第1下フランジに対して第2スプライスプレートが溶接接合もしくはボルト接合され、
2つの前記第2下フランジにはそれぞれ、ドロップハンチが溶接接合されており、
2つの前記ドロップハンチと前記第2スプライスプレートがボルト接合されていることを特徴とする、大梁と小梁の接合構造。
【請求項2】
前記第1下フランジに対して第2スプライスプレートが溶接接合される場合において、
前記第1下フランジと前記第2スプライスプレートの両端が、前記小梁の長手方向に沿って溶接接合されていることを特徴とする、請求項1に記載の大梁と小梁の接合構造。
【請求項3】
前記第1下フランジに対して第2スプライスプレートが溶接接合される場合において、
前記第2スプライスプレートと前記第1下フランジの両端が、前記大梁の長手方向に沿って溶接接合されていることを特徴とする、請求項1に記載の大梁と小梁の接合構造。
【請求項4】
前記第1下フランジと前記第2スプライスプレートの溶接部における溶接長が、前記小梁の幅以上もしくは40mm以上で、前記大梁の幅以下の範囲に設定されていることを特徴とする、請求項2又は3に記載の大梁と小梁の接合構造。
【請求項5】
前記ドロップハンチが、CT形鋼、もしくはプレートの組立てユニットのいずれか一種であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の大梁と小梁の接合構造。
【請求項6】
前記第2ウェブと前記ガセットプレートが相互にラップしてボルト接合されている、1面せん断接合部を有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の大梁と小梁の接合構造。
【請求項7】
前記第2ウェブと前記ガセットプレートが、一対の第3スプライスプレートを介してボルト接合されている、2面せん断接合部を有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の大梁と小梁の接合構造。
【請求項8】
前記第1上フランジと前記第1スプライスプレートがボルト接合されていないことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の大梁と小梁の接合構造。
【請求項9】
前記第2スプライスプレートの幅と前記ドロップハンチの幅が、前記第2下フランジの幅よりも大きく設定されており、
前記第2スプライスプレートの幅方向に間隔を置いて配設される複数のボルトにより、2つの前記ドロップハンチと前記第2スプライスプレートがボルト接合されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の大梁と小梁の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大梁と小梁の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造の建物では、大梁に対して小梁が接合されることにより、各階の床架構が形成される。大梁は、鉄骨柱に接合されて地震や風、床荷重等を負担する梁であり、小梁は、柱に対して直接接合されずに大梁に接合され、主に床荷重を支持して大梁に荷重を伝達する梁である。鉄骨柱に対して大梁は例えば剛接合され、大梁に対してその一方側もしくは両側から直交する小梁がピン接合されることにより、柱と大梁、小梁のそれぞれの部材が相互に接合される。
【0003】
大梁に対する小梁の接合は一般に、大梁のフランジとウェブに対してブラケットやガセットプレートを溶接接合しておき、ブラケット等と小梁をスプライスプレートを介して高力ボルトにてボルト接合することにより行われる。ここで、ブラケットは、小梁と同寸法の形鋼材(H形鋼等)により形成され、大梁の例えば上フランジやウェブに対して溶接接合される。このように大梁に対してブラケットを接合するに際して、ブラケットの端部を大梁のフランジやウェブに当接するように加工する必要があり、この複雑な端部加工には手間と時間を要するといった課題がある。さらに、大梁と小梁の標準的な継手(標準継手)では、ブラケットの長さが長くなる傾向にあり(例えば大梁芯から1m以上)、大梁の長手方向の対応位置の左右にブラケットが接合される場合も往々にしてあり、通常は工場にて大梁とブラケットを溶接接合した上でこのユニットを現場搬送することから、運搬効率が極めて悪いといった課題もある。
【0004】
ここで、特許文献1には、上記するブラケットを不要とした大梁と小梁の接合構造が提案されている。具体的には、小梁の上フランジは、大梁の上フランジの上面に重ねてボルト接合された上側接合プレートにおいて、大梁の上フランジから側方に突出する部分の下面にボルト接合され、小梁の下フランジは、大梁のウェブに溶接されてウェブから側方に突出する下側接合プレートの上面に重ねてボルト接合され、下側接合プレートは、大梁に接合されたリブ部材に下面が接合して補強され、リブ部材は平板状のプレートであり、大梁のウェブおよび下フランジに溶接により接合されて下側接合プレートの幅方向の中間に位置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の大梁と小梁の接合構造によれば、小梁と同寸法の形鋼材により形成され、大梁に溶接接合されて大梁と小梁の標準的な継手を構成するブラケットを不要にできることから、上記するように、大梁と小梁の標準的な継手を構成するブラケットを備える接合構造の内包する様々な課題を解消することができる。
【0007】
その一方で、小梁と下側接合プレートから作用するせん断力をリブ部材のせん断抵抗力のみで処理することになるため、例えば大梁と小梁の段差が小さくなってリブ部材の高さが低くなるに従い、リブ部材の厚みを厚くする必要があり、従って大梁と小梁の段差が小さい場合は現実的な接合構造となり難い。また、ブラケットが存在しないことから小梁による一面せん断となるため、ブラケットと小梁を接合する標準継手と比較した際に、小梁の上フランジとスプライスプレートを繋ぐボルトや、小梁の下フランジと下側接合プレートを繋ぐボルトの本数の総計が増加する傾向にあり、所定のボルトピッチで各ボルトを配置することからリブ部材の長さも自ずと長くなるため、リブ部材に座屈が生じ易くなる恐れもある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、大梁と小梁の接合に際して、大梁と小梁の標準的な継手を構成するブラケットを備えた接合構造の内包する課題を解消でき、かつ、小梁の下フランジと接合される大梁から側方に突出する下側接合プレートを、リブ部材にて支持する構造の内包する課題が生じることのない、大梁と小梁の接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による大梁と小梁の接合構造の一態様は、
第1ウェブと、第1上フランジと、第1下フランジとを備える大梁と、第2ウェブと、第2上フランジと、第2下フランジとを備える小梁とを備え、該大梁の長手方向の対応位置の左右に、該大梁に直交して該大梁よりも梁せいの小さな2つの前記小梁が接合されている、大梁と小梁の接合構造であって、
前記第1上フランジと2つの前記第2上フランジの双方の上面が面一であり、2つの該第2上フランジの上面に跨がる第1スプライスプレートに対して、2つの該第2上フランジがボルト接合されており、
前記第1上フランジと前記第1ウェブと前記第1下フランジに対して、ガセットプレートが溶接接合され、
前記第1下フランジに対して第2スプライスプレートが溶接接合もしくはボルト接合され、
2つの前記第2下フランジにはそれぞれ、ドロップハンチが溶接接合されており、
2つの前記ドロップハンチと前記第2スプライスプレートがボルト接合されていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、標準継手を形成するブラケットを適用せず、大梁の第1ウェブと第1上フランジと第1下フランジに溶接接合されるガセットプレートにボルト接合される小梁の第2下フランジに溶接接合されるドロップハンチが、第1下フランジに溶接接合される第2スプライスプレートに溶接接合もしくはボルト接合される、新規の接合構造を有することにより、標準継手を形成するブラケットを備えた接合構造の内包する課題を解消でき、ガセットプレートが存在しない大梁と小梁の接合構造において下フランジをリブ部材にて支持する構造の内包する課題の生じない、大梁と小梁の接合構造を形成することができる。
【0011】
また、小梁が支持する床荷重により、接合構造における第2上フランジと第1スプライスプレートに対して一般に作用する曲げモーメントには、第2上フランジと第1スプライスプレートをボルト接合するボルトによる曲げ抵抗機構により対抗し、接合構造におけるドロップハンチと第2スプライスプレートに対して一般に作用する曲げモーメントには、ドロップハンチと第2スプライスプレートをボルト接合するボルトによる曲げ抵抗機構により対抗し、接合構造に一般に作用するせん断力には、ガセットプレートと第2ウェブをボルト接合するボルトのせん断抵抗機構やガセットプレートのせん断抵抗機構により対抗することで、曲げ抵抗機構とせん断抵抗機構を分離した明快な設計式の下での設計を実現でき、従来の指針(例えば、鋼構造接合部設計指針、日本建築学会)による設計法に準拠した設計を可能として、新たな設計理論の構築を不要にできる。
【0012】
また、本発明による大梁と小梁の接合構造の他の態様は、
前記第1下フランジに対して第2スプライスプレートが溶接接合される場合において、
前記第1下フランジと前記第2スプライスプレートの両端が、前記小梁の長手方向に沿って溶接接合されていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、第1下フランジと第2スプライスプレートの両端が小梁の長手方向に沿って溶接接合されていることにより、大梁と第2スプライスプレートがボルト接合されないことから大梁の断面欠損に対する検討を不要にしながら、大梁と第2スプライスプレートを強固に接合することができる。ここで、溶接接合には、例えば隅肉溶接が適用できる。
【0014】
また、工場にて予め第1下フランジに対して第2スプライスプレートが溶接接合されたものが現場搬送される場合は、現場にて第2上フランジに対して第1スプライスプレートをボルト接合する際に第2スプライスプレートをガイドとして機能させることができ、現場における接合構造の効率的な形成作業を実現できて好ましい。
【0015】
また、本発明による大梁と小梁の接合構造の他の態様は、
前記第1下フランジに対して第2スプライスプレートが溶接接合される場合において、
前記第2スプライスプレートと前記第1下フランジの両端が、前記大梁の長手方向に沿って溶接接合されていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、第2スプライスプレートと第1下フランジの両端が大梁の長手方向に沿って溶接接合されていることにより、大梁と第2スプライスプレートがボルト接合されないことから大梁の断面欠損に対する検討を不要にしながら、大梁と第2スプライスプレートを強固に接合することができる。
【0017】
また、本発明による大梁と小梁の接合構造の他の態様は、
前記第1下フランジと前記第2スプライスプレートの溶接部における溶接長が、前記小梁の幅以上もしくは40mm以上で、前記大梁の幅以下の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、第1下フランジと第2スプライスプレートの溶接部における溶接長が、小梁の幅以上もしくは40mm以上で大梁の幅以下の範囲に設定されていることにより、ショートビードを防止しながら、十分な接合強度を得ることができる。すなわち、長期荷重による大梁の第1下フランジの左右側の曲げモーメントによる支圧力が釣り合うことを勘案すると、この設定範囲の溶接長で必要十分と言え、溶接部の耐力の詳細な検討は不要となる。ここで、「溶接部における溶接長」とは、第1下フランジと第2スプライスプレートの溶接部が例えば2箇所ある場合に、それぞれの溶接部の溶接長のことを意味している。
【0019】
また、本発明による大梁と小梁の接合構造の他の態様は、
前記ドロップハンチが、CT形鋼、もしくはプレートの組立てユニットのいずれか一種であることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、ドロップハンチが、CT形鋼、もしくはプレートの組立てユニットのいずれか一種であることにより、比較的シンプルな構成のドロップハンチにて小梁と第2スプライスプレートを強固に接合することができる。
【0021】
また、本発明による大梁と小梁の接合構造の他の態様は、
前記第2ウェブと前記ガセットプレートが相互にラップしてボルト接合されている、1面せん断接合部を有することを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、小梁の第2ウェブとガセットプレートが相互にラップしてボルト接合されている、1面せん断接合部を有することにより、ガセットプレートと小梁の間の接合が可及的にシンプルな接合構造を形成することができる。
【0023】
また、本発明による大梁と小梁の接合構造の他の態様は、
前記第2ウェブと前記ガセットプレートが、一対の第3スプライスプレートを介してボルト接合されている、2面せん断接合部を有することを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、小梁の第2ウェブとガセットプレートが一対の第3スプライスプレートを介してボルト接合されている、2面せん断接合部を有することにより、ガセットプレートと小梁の間の接合強度がより一層高い接合構造を形成することができる。
【0025】
また、本発明による大梁と小梁の接合構造の他の態様は、
前記第1上フランジと前記第1スプライスプレートがボルト接合されていないことを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、第1上フランジと第1スプライスプレートがボルト接合されていないことにより、大梁の第1上フランジと第1スプライスプレートのボルト接合を省略することで、ボルトの本数を可及的に低減することができる。大梁の左右の小梁の第2上フランジに対して共通の第1スプライスプレートがボルト接合されている本態様においては、左右の第2上フランジから第1スプライスプレートの左右領域に作用する曲げモーメントが相殺もしくはほぼ相殺されることから、第2上フランジには片側に偏った曲げモーメントが生じ難いことを勘案し、第1上フランジと第1スプライスプレートのボルト接合を省略することが可能になる。
【0027】
また、本発明による大梁と小梁の接合構造の他の態様は、
前記第2スプライスプレートの幅と前記ドロップハンチの幅が、前記第2下フランジの幅よりも大きく設定されており、
前記第2スプライスプレートの幅方向に間隔を置いて配設される複数のボルトにより、2つの前記ドロップハンチと前記第2スプライスプレートがボルト接合されていることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、第2スプライスプレートとドロップハンチの双方の幅が第2下フランジの幅よりも大きく設定されていて、第2スプライスプレートの幅方向に間隔を置いて配設される複数のボルトによってドロップハンチと第2スプライスプレートがボルト接合されていることにより、第1下フランジから左右の側方へ張り出す第2スプライスプレートの長さを可及的に短くしながら、所定本数のボルトにてボルト接合することができる。このことにより、大梁の第1下フランジに対して第2スプライスプレートを工場にて溶接接合したものを現場搬送する場合は、搬送性や現場におけるハンドリング性が良好になる。
【発明の効果】
【0029】
以上の説明から理解できるように、本発明の大梁と小梁の接合構造によれば、大梁と小梁の標準的な継手を構成するブラケットを備えた接合構造の内包する課題を解消でき、かつ、小梁の下フランジと接合される大梁から側方に突出する下側接合プレートを、リブ部材にて支持する構造の内包する課題が生じることのない、大梁と小梁の接合構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施形態に係る大梁と小梁の接合構造の一例を大梁の途中位置から見た側面図である。
【
図2】実施形態に係る大梁と小梁の接合構造の一例の斜視図である。
【
図5】実施形態に係る大梁と小梁の接合構造に作用する、曲げモーメントとせん断力に対する抵抗機構を説明する図である。
【
図6】
図3に対応する図であって、実施形態に係る大梁と小梁の接合構造の変形例を下方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施形態に係る大梁と小梁の接合構造について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0032】
[実施形態に係る大梁と小梁の接合構造]
図1乃至
図6を参照して、実施形態に係る大梁と小梁の接合構造の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る大梁と小梁の接合構造の一例を大梁の途中位置から見た側面図であり、
図2は、実施形態に係る大梁と小梁の接合構造の一例の斜視図である。また、
図3と
図4はそれぞれ、
図1のIII方向矢視図とIV方向矢視図である。さらに、
図5は、実施形態に係る大梁と小梁の接合構造に作用する、曲げモーメントとせん断力に対する抵抗機構を説明する図であり、
図6は、
図3に対応する図であって、実施形態に係る大梁と小梁の接合構造の変形例を下方から見た図である。
【0033】
大梁と小梁の接合構造100は、相対的にサイズの大きなH形鋼により形成される大梁10の長手方向の対応位置における左右に、大梁10に対して直交する方向に延設するH形鋼により形成される小梁20が配設され、大梁10と左右の小梁20が相互に接合されることにより形成される。
【0034】
大梁10は、第1ウェブ11と、第1上フランジ12と、第1下フランジ13を備え、小梁20は、第2ウェブ21と、第2上フランジ22と、第2下フランジ23を備える。
【0035】
第1上フランジ12と第2上フランジ22の双方の上面12a,22aは面一であり、双方の上面12a,22aに第1スプライスプレート30が跨がり、第1スプライスプレート30と第1上フランジ12及び第2上フランジ22が複数(図示例は6つ)の高力ボルト35によりボルト接合されている。
【0036】
大梁10の第1上フランジ12から第1ウェブ11、さらに第1下フランジ13に亘り、鋼板により形成されるガセットプレート50が溶接部Y1を介して溶接接合されている。また、第1下フランジ13の下面13aには、左右の小梁側へ延びる第2スプライスプレート40が溶接部Y3を介して溶接接合されている。より具体的には、
図3に明りょうに示すように、第1下フランジ13と第2スプライスプレート40の両端がそれぞれ、小梁の長手方向に沿って溶接長t1の溶接部Y3を介して溶接接合されている。
【0037】
ここで、各溶接部Y3の溶接長t1は、小梁20の幅(第2下フランジ23の幅)以上もしくは40mm以上で、かつ、大梁10の幅(第1下フランジ13の幅)以下の範囲に設定されている。
【0038】
溶接長Y3が上記範囲に設定されていることにより、ショートビードを防止しながら、十分な接合強度を得ることができる。長期荷重による大梁10の第1下フランジ13の左右側の曲げモーメントによる支圧力が釣り合うことを勘案すると、この設定範囲の溶接長t1で必要十分であり、溶接部Y3の耐力の詳細な検討を不要とした上で、十分な接合強度が得られる。
【0039】
第1下フランジ13と第2スプライスプレート40が、工場にて溶接接合され、現場搬送される場合は、現場にて第2上フランジ22に対して第1スプライスプレート30をボルト接合する際に第2スプライスプレート40をガイドとして機能させることができ、現場における接合構造100の効率的な形成作業を実現できる。
【0040】
また、大梁10がガセットプレート50や第1スプライスプレート30、第2スプライスプレート40とボルト接合されないことから、大梁10にはボルト孔が開設されておらず、従って大梁10の断面欠損に対する検討は不要となる。
【0041】
ここで、図示を省略するが、第1下フランジ13と第2スプライスプレート40がボルト接合される形態であってもよい。この場合は、例えばガセットプレート50が予め溶接接合されている大梁10と第2スプライスプレート40が別体で現場搬送され、現場にて双方がボルト接合されることから、大梁10から第2スプライスプレート40が左右に張り出した状態で運搬することが解消されるため、部材の運搬性は良好になる。
【0042】
図1と
図2に示すように、小梁20の第2ウェブ21とガセットプレート50は、複数(図示例は4つ)の高力ボルト35によりボルト接合されて、1面せん断接合部51を有している。
【0043】
また、2つの小梁20の第2下フランジ23の下面23aにはそれぞれ、ドロップハンチ25が溶接部Y2を介して溶接接合されている。ここで、ドロップハンチ25は、第3ウェブ26と第3フランジ27を有して断面形状がTの字状を呈しており、CT形鋼や、複数のプレート(鋼板)の組立てユニットにより形成される。
【0044】
第1下フランジ13とドロップハンチ25の双方の下面13a,27aは面一であり、双方の下面13a,27aに第2スプライスプレート40が跨がり、第2スプライスプレート40と第1下フランジ13は上記するように溶接部Y3を介して溶接接合され、第2スプライスプレート40と第3フランジ27は、
図3と
図4に示すように複数(図示例は6つ)の高力ボルト35によりボルト接合されている。
【0045】
図示例の左右の小梁20の梁せいは同じであり、従って左右のドロップハンチ25の高さも同じであるが、左右の小梁の梁せいが異なっていてもよく、この場合は、双方の第3フランジの下面が第1下フランジ13の下面13aと面一となるように左右のドロップハンチの高さが調整される。
【0046】
ここで、溶接部Y1,Y2,Y3はいずれも隅肉溶接による溶接部であるが、例えば溶接部Y1は、必要とされる溶接強度に応じて開先溶接(完全溶け込み溶接、部分溶け込み溶接)が適用されてもよい。
【0047】
また、図示例は、ガセットプレート50と第2ウェブ21が1面せん断接合部51にて接合される形態であるが、例えば、ガセットプレートが第2ウェブ側へ張り出さず、ガセットプレートと第2ウェブが2枚の第3スプライスプレート(鋼板)に挟持されてボルト接合されている、2面せん断接合部にて接合される形態であってもよい(図示せず)。
【0048】
図1と
図2から明らかなように、図示例のガセットプレート50は、標準継手を形成するブラケットとは異なる形態であり、鋼板により形成されるガセットプレート50が、大梁10の第1上フランジ12から第1ウェブ11、さらに第1下フランジ13に亘って溶接接合されているシンプルな構成であることから、標準継手を形成するブラケットを備えた接合構造の内包する課題を解消できる。
【0049】
次に、
図5を参照して、接合構造100に作用する曲げモーメントとせん断力に対する抵抗機構について説明する。
【0050】
小梁20が支持する床荷重により、接合構造100における第2上フランジ22と第1スプライスプレート30に対して一般に作用する曲げモーメントMには、第2上フランジ22と第1スプライスプレート30をボルト接合するボルト35による曲げ抵抗機構により対抗する。また、図示例と逆方向の曲げモーメントに対しては、第3フランジ27と第2スプライスプレート40をボルト接合するボルト36による曲げ抵抗機構により対抗する。一方、接合構造100に一般に作用するせん断力Qには、ガセットプレート50と第2ウェブ21をボルト接合するボルト55のせん断抵抗機構やガセットプレート50のせん断抵抗機構により対抗する。
【0051】
このように、曲げ抵抗機構とせん断抵抗機構を分離した明快な設計式の下での設計を実現でき、構造設計に際して新たな設計理論の構築を何ら要するものではない。
【0052】
また、接合構造100では、第1上フランジ12と第1スプライスプレート30がボルト接合されていない。大梁10の左右の小梁20の第2上フランジ22に対して共通の第1スプライスプレート30がボルト接合されている接合構造100においては、左右の第2上フランジ22から第1スプライスプレート30の左右領域に作用する曲げモーメントが相殺もしくはほぼ相殺されることから、第2上フランジ22には片側に偏った曲げモーメントが生じ難い。この知見に基づき、第1上フランジ12と第1スプライスプレート30のボルト接合を省略する。このようにボルト接合を省略することで、ボルトの本数を可及的に低減することが可能になる。
【0053】
次に、
図6を参照して、実施形態に係る大梁と小梁の接合構造の変形例について説明する。この変形例では、第2スプライスプレート40Aの幅とドロップハンチの第3フランジの幅が、小梁20の幅(第2下フランジ23の幅)よりも大きく設定されており、第2スプライスプレート40Aの幅方向に間隔を置いて配設される複数のボルト36により、2つのドロップハンチ25と第2スプライスプレート40Aがボルト接合されている。
【0054】
例えば
図3と比較すると明らかであるが、図示する変形例によれば、第1下フランジ13から左右の側方へ張り出す第2スプライスプレート40Aの長さを、可及的に短くしながら、所定本数のボルト36にてドロップハンチ25と第2スプライスプレート40Aをボルト接合することができる。このことにより、大梁10の第1下フランジ13に対して第2スプライスプレート40Aを工場にて溶接接合したものを現場搬送する際の、搬送性や現場におけるハンドリング性が良好になる。
【0055】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0056】
10:大梁
11:第1ウェブ
12:第1上フランジ
12a:上面
13:第1下フランジ
13a:下面
20:小梁
21:第2ウェブ
22:第2上フランジ
22a:上面
23:第2下フランジ
23a:下面
25:CT形鋼
26:第3ウェブ
27:第3フランジ
30:第1スプライスプレート
35、36:ボルト(高力ボルト)
40:第2スプライスプレート
50:ガセットプレート
51:1面せん断接合部
55:ボルト(高力ボルト)
100:大梁と小梁の接合構造(接合構造)
Y1、Y2,Y3:溶接部
S:せん断力
M:曲げモーメント