(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147986
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】溶接波形制御装置及び溶接波形制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20241009BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20241009BHJP
【FI】
B23K9/095 501A
G06N20/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060803
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】古川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】門田 圭二
(57)【要約】
【課題】ユーザの様々な要望に対応する適切な機械学習モデルを用いて、作業者のスキルへの依存を軽減しつつ、短時間で容易に、所望の溶接結果を得るための溶接波形を生成することができる溶接波形制御装置を提供する。
【解決手段】溶接波形制御装置100は、溶接波形に基づく特徴量及び溶接の調整情報を入力データとして、波形制御パラメータを出力データとする機械学習モデルを、溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は波形制御パラメータの調整項目に対応して記憶する記憶部160と、ユーザによって指示された溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は波形制御パラメータの調整項目に対応する機械学習モデルを設定する機械学習モデル設定部140と、溶接時の溶接波形に基づく特徴量及びユーザによって指示された溶接の調整情報に基づいて、設定された機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力するパラメータ出力部150と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接波形に基づく特徴量及び溶接の調整情報を入力データとして、溶接波形を生成するための波形制御パラメータを出力データとする機械学習モデルを、前記溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は前記波形制御パラメータの調整項目に対応して記憶する記憶部と、
ユーザによって指示された前記溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は前記波形制御パラメータの調整項目に対応する前記機械学習モデルを設定する機械学習モデル設定部と、
溶接時の溶接波形に基づく特徴量及び前記ユーザによって指示された前記溶接の調整情報に基づいて、前記設定された機械学習モデルを用いて前記波形制御パラメータを出力するパラメータ出力部と、を備える、
溶接波形制御装置。
【請求項2】
前記記憶部に記憶される前記機械学習モデルは、前記溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は前記波形制御パラメータの調整項目毎に複数記憶されており、
前記機械学習モデル設定部は、前記複数の機械学習モデルのうち、少なくとも1つの機械学習モデルを選択する、
請求項1に記載の溶接波形制御装置。
【請求項3】
溶接時の溶接波形を取得する溶接波形取得部と、
前記取得した溶接波形に基づく特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
所望の溶接の調整情報を取得する調整情報取得部と、をさらに備え、
前記機械学習モデル設定部は、前記調整情報取得部によって取得された所望の溶接の調整情報に基づいて前記機械学習モデルを設定し、
前記パラメータ出力部は、前記特徴量抽出部によって抽出された特徴量及び前記調整情報取得部によって取得された所望の溶接の調整情報に基づいて、前記設定された機械学習モデルを用いて前記波形制御パラメータを出力する、
請求項1に記載の溶接波形制御装置。
【請求項4】
溶接波形及び溶接の調整情報を入力データとして、溶接波形を生成するための波形制御パラメータを出力データとする機械学習モデルを、前記溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は前記波形制御パラメータの調整項目に対応して記憶する記憶部と、
ユーザによって指示された前記溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は前記波形制御パラメータの調整項目に対応する前記機械学習モデルを設定する機械学習モデル設定部と、
溶接時の溶接波形及び前記ユーザによって指示された前記溶接の調整情報に基づいて、前記設定された機械学習モデルを用いて前記波形制御パラメータを出力するパラメータ出力部と、を備える、
溶接波形制御装置。
【請求項5】
溶接時の溶接波形を制御する溶接波形制御装置によって実行される溶接波形制御方法であって、
溶接時の溶接波形を取得する溶接波形取得ステップと、
前記取得した溶接波形に基づく特徴量を抽出する特徴量抽出ステップと、
所望の溶接の調整情報を取得する調整情報取得ステップと、
前記取得した所望の溶接の調整情報に基づいて、溶接波形に基づく特徴量及び溶接の調整情報を入力データとして、溶接波形を生成するための波形制御パラメータを出力データとする機械学習モデルを設定する機械学習モデル設定ステップと、
前記抽出した特徴量及び前記取得した所望の溶接の調整情報に基づいて、前記設定した機械学習モデルを用いて前記波形制御パラメータを出力するパラメータ出力ステップと、を含む、
溶接波形制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接波形制御装置及び溶接波形制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業界において、多くのロボットが普及している。当該ロボットは、例えば、電子部品及び機械部品の組み立て、溶接及び搬送等に用いられ、工場の生産ラインの効率化及び自動化が図られている。
【0003】
溶接ロボットでは、生産ラインの効率化のために溶接時間やタクトタイムの短縮化が求められる一方で、アーク溶接におけるビードの仕上がりを考慮した溶接品質を確保しなければならない。
【0004】
一般的には、溶接速度、溶接時間、溶接電流及び溶接電圧などの溶接条件を調整することによって、所望の溶接結果(ビードの仕上がり等)を得られるようにする。
【0005】
さらに、所望の溶接結果について、ユーザの詳細な要望を叶えるために、溶接時の溶接電流波形及び/又は溶接電圧波形などの溶接波形を調整する手法も知られている。このような溶接波形の調整は、作業者のスキルへの依存が大きく、たとえ、熟練者であったとしても所望の溶接結果を得るには膨大な時間を費やしてしまう場合があり、容易ではない。
【0006】
例えば、特許文献1では、パルスアーク溶接とパルス波形の調整を繰り返しながら、スパッタ量が低減されるようなパルス波形の波形情報を表す設計変数を、機械学習による予測モデルを用いて探索している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術では、機械学習による予測モデルを用いて、スパッタ量が低減されるようなパルス波形の波形情報を表す設計変数を探索しているものの、スパッタ量の低減に特化したものとなっている。溶接品質は、スパッタ量以外の項目においても考慮され、ユーザによっては、溶接結果を確認した後、例えば、ビード幅を調整したい等、様々な要望があることも考えられる。
【0009】
そこで、本発明は、ユーザの様々な要望に対応する適切な機械学習モデルを用いて、作業者のスキルへの依存を軽減しつつ、短時間で容易に、所望の溶接結果を得るための溶接波形を生成することができる溶接波形制御装置及び溶接波形制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る溶接波形制御装置は、溶接波形に基づく特徴量及び溶接の調整情報を入力データとして、溶接波形を生成するための波形制御パラメータを出力データとする機械学習モデルを、溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は波形制御パラメータの調整項目に対応して記憶する記憶部と、ユーザによって指示された溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は波形制御パラメータの調整項目に対応する機械学習モデルを設定する機械学習モデル設定部と、溶接時の溶接波形に基づく特徴量及びユーザによって指示された溶接の調整情報に基づいて、設定された機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力するパラメータ出力部と、を備える。
【0011】
この態様によれば、記憶部には、機械学習モデルが溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は波形制御パラメータの調整項目に対応して記憶されており、機械学習モデル設定部は、ユーザによって指示された溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は波形制御パラメータの調整項目に対応する機械学習モデルを設定し、パラメータ出力部は、溶接時の溶接波形に基づく特徴量及びユーザによって指示された溶接の調整情報に基づいて、設定された機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力する。その結果、ユーザの様々な要望に対応する適切な機械学習モデルを用いることができ、作業者のスキルへの依存を軽減しつつ、短時間で容易に、所望の溶接結果を得るための溶接波形を生成することができる。
【0012】
上記態様において、記憶部に記憶される機械学習モデルは、溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は波形制御パラメータの調整項目毎に複数記憶されており、機械学習モデル設定部は、複数の機械学習モデルのうち、少なくとも1つの機械学習モデルを選択してもよい。
【0013】
この態様によれば、記憶部には、複数の機械学習モデルが記憶されており、機械学習モデル設定部は、複数の機械学習モデルのうち、少なくとも1つの機械学習モデルを選択するため、予め記憶されている適切な機械学習モデルを用いて、所望の溶接結果を得るための溶接波形を生成することができる。
【0014】
上記態様において、溶接時の溶接波形を取得する溶接波形取得部と、取得した溶接波形に基づく特徴量を抽出する特徴量抽出部と、所望の溶接の調整情報を取得する調整情報取得部と、をさらに備え、機械学習モデル設定部は、調整情報取得部によって取得された所望の溶接の調整情報に基づいて機械学習モデルを設定し、パラメータ出力部は、特徴量抽出部によって抽出された特徴量及び調整情報取得部によって取得された所望の溶接の調整情報に基づいて、設定された機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力してもよい。
【0015】
この態様によれば、特徴量抽出部は、溶接波形取得部によって取得された溶接時の溶接波形に基づく特徴量を抽出し、調整情報取得部は、所望の溶接の調整情報を取得する。そして、機械学習モデル設定部は、調整情報取得部によって取得された所望の溶接の調整情報に基づいて機械学習モデルを設定し、パラメータ出力部は、特徴量抽出部によって抽出された特徴量及び調整情報取得部によって取得された所望の溶接の調整情報に基づいて、設定された機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力する。その結果、ユーザの様々な要望に対応する適切な機械学習モデルを用いて、作業者のスキルへの依存を軽減しつつ、短時間で容易に、所望の溶接結果を得るための溶接波形を生成することができる。
【0016】
本発明の一態様に係る溶接波形制御装置は、溶接波形及び溶接の調整情報を入力データとして、溶接波形を生成するための波形制御パラメータを出力データとする機械学習モデルを、溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は波形制御パラメータの調整項目に対応して記憶する記憶部と、ユーザによって指示された溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は波形制御パラメータの調整項目に対応する機械学習モデルを設定する機械学習モデル設定部と、溶接時の溶接波形及びユーザによって指示された溶接の調整情報に基づいて、設定された機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力するパラメータ出力部と、を備える。
【0017】
この態様によれば、記憶部には、機械学習モデルが溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は波形制御パラメータの調整項目に対応して記憶されており、機械学習モデル設定部は、ユーザによって指示された溶接の調整情報に含まれる調整項目及び/又は波形制御パラメータの調整項目に対応する機械学習モデルを設定し、パラメータ出力部は、溶接時の溶接波形及びユーザによって指示された溶接の調整情報に基づいて、設定された機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力する。その結果、ユーザの様々な要望に対応する適切な機械学習モデルを用いることができ、作業者のスキルへの依存を軽減しつつ、短時間で容易に、所望の溶接結果を得るための溶接波形を生成することができる。さらに、機械学習モデルは、取得した溶接波形に基づく特徴量を抽出可能である特徴量抽出層を有するため、溶接波形に基づく特徴量を確認することもできる。
【0018】
本発明の一態様に係る溶接波形制御方法は、溶接時の溶接波形を制御する溶接波形制御装置によって実行される溶接波形制御方法であって、溶接時の溶接波形を取得する溶接波形取得ステップと、取得した溶接波形に基づく特徴量を抽出する特徴量抽出ステップと、所望の溶接の調整情報を取得する調整情報取得ステップと、取得した所望の溶接の調整情報に基づいて、溶接波形に基づく特徴量及び溶接の調整情報を入力データとして、溶接波形を生成するための波形制御パラメータを出力データとする機械学習モデルを設定する機械学習モデル設定ステップと、抽出した特徴量及び取得した所望の溶接の調整情報に基づいて、設定された機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力するパラメータ出力ステップと、を含む。
【0019】
この態様によれば、特徴量抽出ステップでは、溶接波形取得ステップで取得された溶接時の溶接波形に基づく特徴量を抽出し、調整情報取得ステップでは、所望の溶接の調整情報を取得する。そして、機械学習モデル設定ステップでは、調整情報取得ステップで取得した所望の溶接の調整情報に基づいて機械学習モデルを設定し、パラメータ出力ステップでは、特徴量抽出ステップで抽出した特徴量及び調整情報取得ステップで取得した所望の溶接の調整情報に基づいて、機械学習モデル設定ステップで設定した機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力する。その結果、ユーザの様々な要望に対応する適切な機械学習モデルを用いて、作業者のスキルへの依存を軽減しつつ、短時間で容易に、所望の溶接結果を得るための溶接波形を生成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ユーザの様々な要望に対応する適切な機械学習モデルを用いて、作業者のスキルへの依存を軽減しつつ、短時間で容易に、所望の溶接結果を得るための溶接波形を生成することができる溶接波形制御装置及び溶接波形制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶接ロボットシステム10を示すシステム概要図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る溶接波形制御装置100の各機能を示す機能ブロック図である。
【
図3】溶接波形取得部110によって取得された溶接電流波形から抽出される特徴量を示す図である。
【
図4】溶接の調整情報に含まれる調整項目及び波形制御パラメータの調整項目毎に対応する機械学習モデルの一覧を例示する図である。
【
図5】溶接電流波形から抽出された特徴量及び所望の溶接の調整情報を入力データとして、
図4に示された複数の機械学習モデルのうち選択された少なくとも1つの機械学習モデルを用いて、波形制御パラメータを出力する様子を示す図である。
【
図6】パラメータ出力部150によって出力された波形制御パラメータに基づいて生成された調整後の溶接電流波形を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る溶接波形制御装置100が実行する溶接波形制御方法M100を示すフローチャートである。
【
図8】波形制御パラメータの調整項目毎に対応する機械学習モデルの一覧を例示する図である。
【
図9】溶接電流波形及び溶接の調整情報を入力データとする機械学習モデルを用いて、波形制御パラメータを出力する様子を示す図である。
【
図10】溶接波形取得部110によって取得された溶接電圧波形から抽出される特徴量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施形態は、あくまで、本発明を実施するための具体的な一例を挙げるものであって、本発明を限定的に解釈させるものではない。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する場合がある。
【0023】
<一実施形態>
[溶接ロボットシステムの概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る溶接ロボットシステム10を示すシステム概要図である。
図1において、溶接ロボットシステム10は、溶接ロボット20と、ティーチペンダント30と、ロボット制御装置40と、電源50とを備える。
【0024】
溶接ロボット20は、ケーブルを介してロボット制御装置40と接続されており、ロボット制御装置40からの動作指令に基づいてアーク溶接を行う。溶接ロボット20は、アーム先端部に溶接トーチ21を備えており、当該溶接トーチ21の先端から溶接ワイヤを送給し、溶接対象である溶接母材(金属材料のワーク)との間にアークを発生させることによりアーク溶接を行う。
【0025】
溶接トーチ21は、ケーブルを介して電源50と接続されており、溶接ワイヤへの溶接電圧や溶接電流の供給を受ける。アーク溶接では、溶接ワイヤを金属材料に瞬間的に接触させて通電させると、溶接ワイヤと金属材料との間にアーク放電が発生し、発生したアークの熱により溶接ワイヤと金属材料とを溶解させることで、溶接が行われる。
【0026】
ティーチペンダント30は、溶接ロボット20の溶接関連教示情報について、溶接作業を実施する作業者からの入力を受け付ける。作業者は、アークの状態を確認しつつ、ティーチペンダント30を用いて最適な溶接関連教示情報を入力する。
【0027】
ここで、溶接関連教示情報とは、溶接ロボット20により行われる溶接に関する情報であり、溶接ロボット20の動作を教示する教示情報及び溶接の施工条件が含まれる。
【0028】
溶接ロボット20の教示情報には、溶接ロボット20のアームの動作に関する情報、溶接ロボット20の位置及び姿勢に関する情報、溶接トーチ21の先端から送給される溶接ワイヤの突出長さに関する情報等が含まれる。
【0029】
また、溶接の施工条件には、溶接ワイヤに印加される溶接電圧、溶接ワイヤを流れる溶接電流の値、溶接中における溶接線方向への溶接トーチ21の移動速度を表す溶接速度及び停止時間等が含まれ、さらにはワイヤ送給装置によって制御されるワイヤ送給速度が含まれてもよい。
【0030】
ロボット制御装置40は、溶接ロボット20の制御を行う機器である。ロボット制御装置40は、ティーチペンダント30に接続されており、当該ティーチペンダント30に入力された溶接関連教示情報を取得することができる。ロボット制御装置40は、当該溶接関連教示情報に基づいて溶接ロボット20及び電源50を制御する。
【0031】
電源50は、ケーブルを介して溶接ロボット20に接続されており、ロボット制御装置40からの指令に基づいて溶接ロボット20における溶接トーチ21へ溶接電圧や溶接電流を供給する。
【0032】
なお、
図1では、ティーチペンダント30は、ケーブルを介してロボット制御装置40に接続されているが、ワイヤレスで接続されていてもよい。すなわち、ティーチペンダント30とロボット制御装置40とは、無線通信を行う通信部を備えていてもよい。ロボット制御装置40とティーチペンダント30とがワイヤレスに接続されることで、作業者はケーブルの存在に煩わされたり、ケーブルの長さによる移動範囲の制限を受けたりすることなく、自由に移動をしながら溶接関連教示情報の入力を行うことができる。
【0033】
このように、溶接ロボットシステム10では、ロボット制御装置40によって溶接ロボット20を動作させることによりアーク溶接を実施している。
【0034】
[溶接波形制御装置の構成]
以下、上述のように実施される溶接時の溶接波形を制御する溶接波形制御装置について、説明する。
【0035】
図2は、本発明の一実施形態に係る溶接波形制御装置100の各機能を示す機能ブロック図である。
図2に示されるように、溶接波形制御装置100は、溶接波形取得部110と、特徴量抽出部120と、調整情報取得部130と、機械学習モデル設定部140と、パラメータ出力部150と、記憶部160とを備える。溶接波形制御装置100におけるこれらの機能を有する各部の全部又は一部を、上述した溶接ロボット20、ティーチペンダント30、ロボット制御装置40、その他周辺機器、及びパソコンなどのコンピュータやモニタなどの表示機器などに備えてもよく、これらの機能を有する各部によって溶接波形制御装置100とする構成であってもよい。
【0036】
溶接波形取得部110は、溶接時の溶接波形を取得する。例えば、溶接波形取得部110は、溶接ロボット20によって溶接が実施される期間の溶接電流波形及び/又は溶接電圧波形を取得する。溶接が実施される期間について、所定時間毎でもよいし、所定区間の溶接作業毎でもよい。
【0037】
特徴量抽出部120は、溶接波形取得部110によって取得された溶接波形に基づいて特徴量を抽出する。例えば、特徴量抽出部120は、溶接電流波形及び/又は溶接電圧波形から、予め設定された要素を特徴量として抽出するとよい。
【0038】
図3は、溶接波形取得部110によって取得された溶接電流波形から抽出される特徴量を示す図である。
図3に示されるように、溶接電流波形から、(a)パルス電流、(b)ベース電流、(c)パルス間隔、(d)パルス時間、(e)立上り時間、及び(f)立下り時間の各要素が特徴量として抽出される。
【0039】
なお、溶接電流波形からこれらの各要素を特徴量として抽出する際には、溶接の開始時・終了時を除く安定期間のうち、例えば、所定時間における溶接電流波形から特徴量を抽出するようにしてもよい。溶接の開始時・終了時は、安定期間とは異なる制御をしているため、溶接電流波形も異なり、適切な特徴量を抽出できない可能性がある。
【0040】
さらに、特徴量として抽出される各要素は、それぞれ平均値、及び標準偏差や分散を用いて算出するようにしてもよい。例えば、
図3に示される(c)パルス間隔を1周期として、複数周期分の溶接電流波形から、それぞれ(a)パルス電流、(b)ベース電流、(c)パルス間隔、(d)パルス時間、(e)立上り時間、及び(f)立下り時間の各要素を抽出し、それぞれ平均値を算出することにより、各要素の特徴量としてもよい。これにより、各要素についてバラツキを軽減して、より適切に、各要素を特徴量として抽出することができる。
【0041】
また、ここでは、各要素を(a)パルス電流、(b)ベース電流、(c)パルス間隔、(d)パルス時間、(e)立上り時間、及び(f)立下り時間としているが、これらに限定されるものではない。例えば、これらのうち1つ又は2つ以上のいずれかの要素のみを特徴量として抽出してもよいし、溶接電流波形から抽出可能であって、溶接結果に影響を与え得る要素であれば、これら以外の要素(例えば、立上り傾き、立下り傾き、短絡電流、短絡復帰電流、短絡時間、短絡回数など)を特徴量として抽出してもよい。いずれの要素を抽出するかについては、予めユーザによって選択・設定可能なようにしていてもよい。
【0042】
また、特徴量抽出部120は、機械学習モデルを用いて特徴量を抽出してもよい。例えば、溶接電流波形を入力データとして、機械学習モデルを用いて、上述したような(a)パルス電流、(b)ベース電流、(c)パルス間隔、(d)パルス時間、(e)立上り時間、及び(f)立下り時間などの各要素を特徴量として出力してもよい。ここで、いずれの要素を出力するかについても、当該機械学習モデルを用いてもよい。フィードバックされた学習済みモデルを用いることにより、各要素を、より適切な特徴量として抽出することができる。
【0043】
調整情報取得部130は、所望の溶接の調整情報を取得する。例えば、調整情報取得部130は、溶接ロボット20によって行われた溶接結果を確認したユーザが所望する溶接の調整情報を受け付けて、当該溶接の調整情報を取得する。
【0044】
具体的には、ユーザが溶接ロボット20によって行われた溶接結果を確認した際に、ビード幅をもう少し太くしたい場合には、所望の溶接の調整情報として、調整項目「ビード幅」、調整量「+1」を入力し、調整情報取得部130は、当該溶接の調整情報を取得する。なお、調整量の入力態様としては、ビード幅を少し太くしたい場合には、調整量「+1」として例を挙げたが、より太くしたい場合には、「+2」「+3」としてもよいし、細くしたい場合には、その程度に応じて「-1」「-2」「-3」等としてもよく、1段階当たりの調整量については、溶接対象に応じて予め設定してもよい。また、ユーザが「+10%」「-10%」や「+1cm」「-1cm」等を入力して、調整情報取得部130は、より具体的な調整量を取得するようにしてもよい。
【0045】
なお、調整項目としては、ビード幅に限定されるものではなく、例えば、ビード高さ、スパッタ量、アンダーカット、溶け込み及びブローホール等であってもよい。ユーザは、例えば、スパッタ量を少なくしたい場合には、調整項目を「スパッタ量」として、その程度に応じて調整量を「-1」「-2」「-3」や「-10%」「-20%」「-30%」等と入力し、調整情報取得部130は、当該溶接の調整情報(調整項目「スパッタ量」、調整量「-1」等)を取得する。
【0046】
さらに、ユーザは、複数の調整項目を選択することも可能であり、例えば、ビード幅を少し太くし、且つスパッタ量を少なくしたい場合には、調整項目「ビード幅」、調整量「+1」を入力し、さらに、調整項目を「スパッタ量」、調整量を「-1」を入力してもよい。そして、調整情報取得部130は、複数の調整項目とそれらに対応する調整量を溶接の調整情報として取得する。
【0047】
機械学習モデル設定部140は、調整情報取得部130によって取得された所望の溶接の調整情報に基づいて機械学習モデルを設定する。ここで、機械学習モデルは、溶接波形に基づく特徴量及び溶接の調整情報を入力データとして、溶接波形を生成するための波形制御パラメータを出力データとするものであって、予め記憶部160に記憶されている。
【0048】
図4は、溶接の調整情報に含まれる調整項目及び波形制御パラメータの調整項目毎に対応する機械学習モデルの一覧を例示する図である。
図4に示されるように、記憶部160では、溶接波形に基づく特徴量及び溶接の調整情報に含まれる調整項目の調整量を入力データとして、溶接波形を生成するための波形制御パラメータを出力データとする機械学習モデルを、溶接の調整情報に含まれる調整項目及び波形制御パラメータの調整項目毎に対応して記憶されている。
【0049】
ここで、調整項目は、例えば、ビード幅、スパッタ量、ビード高さ、アンダーカット、溶け込み、ブローホール等であり、調整量は、上述したように各調整項目に対応する「-3」~「+3」等で示されるとよい。出力データとしての波形制御パラメータは、溶接波形を生成するためのパラメータであって、入力データとしての
図3に示された溶接電流波形から調整された「調整パルス電流」、「調整ベース電流」、「調整パルス間隔」、「調整パルス時間」、「調整立上り時間」、及び「調整立下り時間」の各要素である。より詳細には、波形制御パラメータは、溶接波形の形状を構成するためのパラメータである。
【0050】
記憶部160には、例えば、調整項目「ビード幅」に対して、波形制御パラメータの調整項目「パルス電流」「ベース電流」「パルス間隔」「パルス時間」「立上り時間」「立下り時間」毎に対応して、それぞれ機械学習モデル(1-a)~(1-f)が記憶されている。
【0051】
具体的には、ユーザがビード幅をもう少し太くしたい場合、溶接の調整情報(調整項目「ビード幅」及び調整量を「+1」)を入力し、調整情報取得部130は、当該溶接の調整情報を取得する。この場合、機械学習モデル設定部140は、特徴量抽出部120によって抽出された溶接電流波形に基づく特徴量((a)パルス電流、(b)ベース電流、(c)パルス間隔、(d)パルス時間、(e)立上り時間、及び(f)立下り時間の各要素)、及び「ビード幅」の調整量「+1」を入力データとして、「調整パルス電流」が出力データとして出力される機械学習モデル(1-a)を設定する。同様に、機械学習モデル設定部140は、「調整ベース電流」「調整パルス間隔」「調整パルス時間」「調整立上り時間」及び「調整立下り時間」が出力データとして出力される機械学習モデル(1-b)~(1-f)を設定する。
【0052】
なお、ここでは、機械学習モデル(1-a)~(1-f)が設定される例を挙げたが、これに限定されるものではなく、例えば、ユーザが調整項目として「スパッタ量」を入力すれば、機械学習モデル設定部140は、機械学習モデル(2-a)~(2-f)を設定する。
【0053】
このように、記憶部160には、溶接の調整情報に含まれる調整項目及び波形制御パラメータの調整項目毎に対応する機械学習モデルが記憶されているため、溶接の調整情報に含まれる調整項目及び波形制御パラメータの調整項目に応じて適切な機械学習モデルを設定することができる。その結果、後述するパラメータ出力部150によって、高精度な波形制御パラメータが出力される。
【0054】
パラメータ出力部150は、溶接時の溶接波形に基づく特徴量及びユーザによって指示された溶接の調整情報に基づいて、機械学習モデル設定部140によって設定された機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力する。例えば、パラメータ出力部150は、特徴量抽出部120によって抽出された溶接電流波形に基づく特徴量((a)パルス電流、(b)ベース電流、(c)パルス間隔、(d)パルス時間、(e)立上り時間、及び(f)立下り時間の各要素)、及び「ビード幅」の調整量「+1」を入力データとして、機械学習モデル設定部140によって設定された機械学習モデル(1-a)~(1-f)を用いることにより、「調整パルス電流」「調整ベース電流」「調整パルス間隔」「調整パルス時間」「調整立上り時間」「調整立下り時間」を出力データとして出力する。これにより、溶接の調整情報(調整項目「ビード幅」及び調整量を「+1」)に対して、適切に調整された波形制御パラメータに基づいて溶接電流波形を生成することができる。
【0055】
図5は、溶接電流波形から抽出された特徴量及び所望の溶接の調整情報を入力データとして、
図4に示された複数の機械学習モデルのうち選択された少なくとも1つの機械学習モデルを用いて、波形制御パラメータを出力する様子を示す図である。
図5に示されるように、(a)パルス電流、(b)ベース電流、(c)パルス間隔、(d)パルス時間、(e)立上り時間、及び(f)立下り時間の各要素、及びユーザが所望する溶接の調整情報(調整項目「ビード幅」に対する調整量「+1」)を入力データとして、機械学習モデル(1-a)~(1-f)を用いて、調整された(A)調整パルス電流、(B)調整ベース電流、(C)調整パルス間隔、(D)調整パルス時間、(E)調整立上り時間、及び(F)調整立下り時間の各要素を波形制御パラメータとして出力している。
【0056】
すなわち、パラメータ出力部150によって出力される波形制御パラメータは、溶接波形取得部110によって取得された溶接電流波形からビード幅が少し太くなるように調整された溶接電流波形を生成するための波形制御パラメータであると言える。
【0057】
ここで用いられる機械学習モデルとしては、特に限定はしないが、例えば、LightGBM、ランダムフォレスト及びサポートベクターマシンであれば、ニューラルネットワークを用いたアルゴリズムより処理負荷が軽減される。
【0058】
また、
図5に示されるように複数の要素を波形制御パラメータとして出力する場合には、それぞれ1つの要素を出力する機械学習モデルを複数用いてもよいし、複数の要素を出力可能な1つの機械学習モデルを用いてもよい。
【0059】
さらに、溶接波形制御装置100は、溶接条件取得部を備えていてもよい。溶接条件取得部は、溶接ロボット20が溶接した際の溶接の施工条件(作業者によって設定された溶接の施工条件)を取得する。溶接の施工条件は、例えば、溶接電流値、溶接電圧値、溶接速度、停止時間、アーク発生時間、アーク停止時間、ピッチ間隔及び冷却時間等が含まれ、さらにはワイヤ送給装置によって制御されるワイヤ送給速度が含まれてもよい。
【0060】
そして、パラメータ出力部150は、特徴量抽出部120によって抽出された特徴量及び調整情報取得部130によって取得された溶接の調整情報に加えて、溶接条件取得部によって取得された溶接条件に基づいて、機械学習モデルを用いて、溶接時の溶接電流波形から調整された各要素を波形制御パラメータとして出力する。具体的には、
図5に示された機械学習モデルにおいて、溶接時の溶接電流波形から抽出された特徴量及び溶接の調整情報に加えて、さらに、溶接条件取得部によって取得された溶接条件(例えば、溶接電流値、溶接電圧値、溶接速度、停止時間、アーク発生時間、アーク停止時間、ピッチ間隔及び冷却時間等の溶接の施工条件)を入力データとして、調整された(A)調整パルス電流、(B)調整ベース電流、(C)調整パルス間隔、(D)調整パルス時間、(E)調整立上り時間、及び(F)調整立下り時間の各要素を波形制御パラメータとして出力する。これには、予め、特徴量抽出部120によって抽出された特徴量、調整情報取得部130によって取得される溶接の調整情報、及び溶接条件取得部によって取得された溶接条件を入力データとして、調整された(A)調整パルス電流、(B)調整ベース電流、(C)調整パルス間隔、(D)調整パルス時間、(E)調整立上り時間、及び(F)調整立下り時間の各要素を波形制御パラメータとして出力データとする機械学習モデルを備えていればよい。
【0061】
図6は、パラメータ出力部150によって出力された波形制御パラメータに基づいて生成された調整後の溶接電流波形を示す図である。
図6に示されるように、溶接波形取得部110によって取得された溶接電流波形からビード幅が少し太くなるように調整された溶接電流波形が生成されている。これは、ユーザが溶接ロボット20によって行われた溶接結果を確認して、所望の溶接の調整情報(調整項目「ビード幅」及び調整量「+1」)を入力することにより、当該ユーザの要求に応えるように、適切に調整された調整後の溶接電流波形が生成されることを示している。
【0062】
記憶部160には、各種設定された条件や
図4に示された機械学習モデルが記憶されている。例えば、記憶部160には、溶接波形取得部110によって取得された溶接波形から、特徴量抽出部120によって抽出する特徴量に関する情報が記憶されており、特徴量抽出部120は、当該情報を参照する。また、記憶部160には、調整情報取得部130によって取得される溶接の調整情報に関する情報が記憶されており、例えば、調整項目や当該調整項目に対する調整量に関する規定などが記憶されている。
【0063】
なお、記憶部160に記憶されるものはこれらに限定されるものではなく、これら以外にも溶接波形制御装置100の処理において必要なデータが記憶され、また、処理過程において一時的にデータが記憶されてもよい。
【0064】
[溶接波形制御方法]
次に、本発明の一実施形態における溶接波形の制御方法について、具体的に詳しく説明する。
図7は、本発明の一実施形態に係る溶接波形制御装置100が実行する溶接波形制御方法M100を示すフローチャートである。
図7に示されるように、溶接波形制御方法M100は、ステップS110~S150を含み、各ステップは、溶接波形制御装置100に含まれるプロセッサによって実行される。
【0065】
ステップS110では、溶接波形取得部110は、溶接時の溶接波形を取得する(溶接波形取得ステップ)。具体例として、溶接波形取得部110は、溶接ロボット20によって実施された溶接時の溶接電流波形を取得する。
【0066】
ステップS120では、特徴量抽出部120は、ステップS110で取得した溶接波形に基づいて特徴量を抽出する(特徴量抽出ステップ)。具体例として、特徴量抽出部120は、
図3に示されたように、溶接電流波形から、(a)パルス電流、(b)ベース電流、(c)パルス間隔、(d)パルス時間、(e)立上り時間、及び(f)立下り時間の各要素を特徴量として抽出する。
【0067】
ステップS130では、調整情報取得部130は、所望の溶接の調整情報を取得する(調整情報取得ステップ)。具体例としては、溶接ロボット20によって行われた溶接結果をユーザが確認し、ビード幅をもう少し太くしたい場合には、所望の溶接の調整情報として、例えば、調整項目「ビード幅」、調整量「+1」を入力する。そして、調整情報取得部130は、当該溶接の調整情報(調整項目「ビード幅」及び調整量「+1」)を取得する。
【0068】
さらに、ユーザは、複数の調整項目を選択することも可能であり、例えば、ビード幅を少し太くし、且つスパッタ量を少なくしたい場合には、調整項目「ビード幅」、調整量「+1」を入力し、さらに、調整項目を「スパッタ量」、調整量を「-1」を入力してもよく、調整情報取得部130は、複数の調整項目とそれらに対応する調整量を調整情報として取得してもよい。
【0069】
ステップS140では、機械学習モデル設定部140は、ステップS130で取得した所望の溶接の調整情報に基づいて機械学習モデルを設定する(機械学習モデル設定ステップ)。具体例としては、記憶部160に予め記憶されている
図4に示された複数の機械学習モデルから、ステップS130で取得した調整項目に応じて、当該調整項目に対応する機械学習モデルを選択して設定する。例えば、調整項目「ビード幅」の場合、当該「ビード幅」に対応する機械学習モデル(1-a)~(1-f)を設定する。
【0070】
ステップS150では、パラメータ出力部150は、ステップS120で抽出した特徴量及びステップS130で取得した溶接の調整情報に基づいて、ステップS140で設定した機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力する(パラメータ出力ステップ)。具体例として、パラメータ出力部150は、
図5に示されたように、(a)パルス電流、(b)ベース電流、(c)パルス間隔、(d)パルス時間、(e)立上り時間、及び(f)立下り時間の各要素、及びユーザが所望する溶接の調整情報(調整項目「ビード幅」及び調整量「+1」)を入力データとして、機械学習モデル(1-a)~(1-f)を用いて、調整された(A)調整パルス電流、(B)調整ベース電流、(C)調整パルス間隔、(D)調整パルス時間、(E)調整立上り時間、及び(F)調整立下り時間の各要素を波形制御パラメータとして出力する。その結果、波形制御パラメータに基づいて、ビード幅が少し太くなるように調整された溶接電流波形を生成することができる。
【0071】
なお、ステップS130で溶接の調整情報に関して複数の調整項目を取得する場合には、ステップS120で抽出した特徴量、及びステップS130で取得した複数の調整項目とそれらに対応する調整量を含む調整情報を入力データとし、これらに対応する波形制御パラメータを出力データとする機械学習モデルを、記憶部160に予め記憶し、ステップS140で当該機械学習モデルを設定するようにしてもよい。
【0072】
また、ユーザが、調整項目として複数の項目を選択し、例えば、調整項目「ビード幅」、調整量「+1」を入力し、さらに、調整項目を「スパッタ量」、調整量を「-1」を入力していた場合、ステップS120~S150の処理を繰り返し、1回目に、調整項目「ビード幅」及び調整量「+1」に対応するように波形制御パラメータを調整した後、2回目に、調整項目を「スパッタ量」及び調整量を「-1」に対応するように波形制御パラメータを調整してもよい。
【0073】
また、例えば、ユーザによって、調整項目「ビード幅」、調整量「+3」が入力されていた場合、ステップS120~S150の処理を繰り返し、1回目に、調整項目「ビード幅」、調整量「+1」に対応するように波形制御パラメータを調整した後、2回目に、1回目と同様に、調整項目「ビード幅」、調整量「+1」に対応するように波形制御パラメータを調整した後、さらに、3回目も同様に、調整項目「ビード幅」、調整量「+1」に対応するように波形制御パラメータを調整してもよい。すなわち、調整項目「ビード幅」、調整量「+1」を3回繰り返す。
【0074】
以上のように、本発明の一実施形態に係る溶接波形制御装置100及び溶接波形制御方法M100によれば、記憶部160には、機械学習モデルが溶接の調整情報に含まれる調整項目及び波形制御パラメータの調整項目に対応して記憶されており、機械学習モデル設定部140は、調整情報取得部130によって取得された溶接の調整情報に含まれる調整項目に基づいて機械学習モデルを設定する。そして、パラメータ出力部150は、特徴量抽出部120によって抽出された特徴量、及び調整情報取得部130によって取得された溶接の調整情報に基づいて、機械学習モデル設定部140によって設定された機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力する。その結果、波形制御パラメータに基づいて、ユーザの要望に沿って適切に調整された溶接電流波形を生成することができる。
【0075】
また、機械学習モデルの入力データとしての各要素を確認することができるため、例えば、作業者は、出力された波形制御パラメータ及び/又はそれらに基づいて生成された溶接電流波形に対する要因や影響を確認したり、分析したりすることができる。
【0076】
[機械学習モデルの変形例]
なお、本実施形態では、記憶部160には、
図4に示されたように、溶接の調整情報に含まれる調整項目及び波形制御パラメータの調整項目毎に対応する機械学習モデルが記憶されていたが、これに限定されるものではない。例えば、記憶部160は、溶接の調整情報に含まれる調整項目を入力データとして、波形制御パラメータの調整項目毎に対応する機械学習モデルを予め記憶してもよい。
【0077】
[変形例1]
図8は、波形制御パラメータの調整項目毎に対応する機械学習モデルの一覧を例示する図である。
図8に示されるように、記憶部160では、溶接波形に基づく特徴量及び溶接の調整情報に含まれる調整項目・調整量を入力データとして、溶接波形を生成するための波形制御パラメータを出力データとする機械学習モデルを、波形制御パラメータの調整項目毎に対応して記憶されている。
【0078】
図8に示される機械学習モデルは、
図4に示される機械学習モデルに比べて、入力データの項目が1つ多い分(溶接の調整情報に含まれる調整項目)、予め学習させるデータ数を増加させるとよい。これにより、記憶部160に予め記憶させる機械学習モデルを少なくすることができる。
【0079】
[変形例2]
さらに、波形制御パラメータの調整項目も機械学習モデルの入力データとして加えてもよい。具体的には、記憶部160は、溶接波形に基づく特徴量、溶接の調整情報に含まれる調整項目・調整量及び波形制御パラメータの調整項目を入力データとして、溶接波形を生成するための波形制御パラメータを出力データとする機械学習モデルを記憶する。すなわち、溶接の調整情報に含まれる調整項目や波形制御パラメータの調整項目毎ではなく、1つの機械学習モデルである。
図8に示される機械学習モデルと比べて、さらに入力データの項目が1つ多い分(波形制御パラメータの調整項目)、予め学習させるデータ数をさらに増加させるとよい。これにより、記憶部160に予め記憶させる機械学習モデルを1つにすることができ、機械学習モデル設定部140は、複数の機械学習モデルから少なくとも1つ以上を選択する必要がなく、当該機械学習モデルを設定すればよい。
【0080】
[機械学習モデル(入力データ)の変形例]
なお、本実施形態では、特徴量抽出部120によって溶接電流波形から特徴量を抽出し、調整情報取得部130によってユーザが所望する溶接の調整情報を取得し、パラメータ出力部150は、当該抽出した特徴量及び取得した溶接の調整情報を入力データとして機械学習モデルを用いて波形制御パラメータを出力データとしていた(例えば、
図5)。また、特徴量抽出部120によって特徴量を抽出する場合、溶接電流波形を入力データとして機械学習モデルを用いて特徴量を抽出することも含まれるが、例えば、溶接電流波形及び溶接の調整情報を入力データとする機械学習モデルを用いて、波形制御パラメータを出力データとしてもよい。
【0081】
図9は、溶接電流波形及び溶接の調整情報を入力データとする機械学習モデルを用いて、波形制御パラメータを出力する様子を示す図である。
図9に示されるように、溶接電流波形及び溶接の調整情報(ここでは、調整項目「ビード幅」に対する調整量「+1」)を入力データとして、機械学習モデル(1-a’)~(1-f’)を用いて、(A)調整パルス電流、(B)調整ベース電流、(C)調整パルス間隔、(D)調整パルス時間、(E)調整立上り時間、及び(F)調整立下り時間などの各要素を波形制御パラメータとして出力している。すなわち、
図5では特徴量及び溶接の調整情報を入力データとしていたが、
図9では溶接電流波形及び溶接の調整情報を入力データしている点で異なる。
【0082】
ここで用いられる機械学習モデル(1-a’)~(1-f’)は、例えば、LSTM(Long Short-Term Memory)などのRNN(Recurrent Neural Network)であるが、特徴量抽出層を備える。当該特徴量抽出層では、中間データとして、(a)パルス電流、(b)ベース電流、(c)パルス間隔、(d)パルス時間、(e)立上り時間、及び(f)立下り時間の各要素を抽出可能な構成にするとよい。
【0083】
例えば、溶接電流波形及び溶接の調整情報を入力データとして、溶接電流波形の特徴量((a)パルス電流、(b)ベース電流、(c)パルス間隔、(d)パルス時間、(e)立上り時間、及び(f)立下り時間の各要素を)を抽出データとする機械学習モデル(特徴量抽出層)に全結合層を用いて構成され、(A)調整パルス電流、(B)調整ベース電流、(C)調整パルス間隔、(D)調整パルス時間、(E)調整立上り時間、及び(F)調整立下り時間などの各要素(波形制御パラメータ)を出力データとする機械学習モデルにしてもよい。
【0084】
なお、ここで用いられる機械学習モデル(1-a’)~(1-f’)をRNNとしたが、これに限定されるものではなく、溶接電流波形及び溶接の調整情報を入力データとして、波形制御パラメータを出力データとして溶接電流波形を生成できるのであれば、例えば、LightGBM、ランダムフォレスト及びサポートベクターマシンなども機械学習モデルとして用いてもよい。
【0085】
また、本実施形態では、溶接波形取得部110によって取得される溶接時の溶接波形を溶接電流波形としたが、これに限定されるものではなく、例えば、溶接電圧波形でもよい。溶接時の溶接波形として、溶接電流波形を取得してもよいし、溶接電圧波形を取得してもよいし、さらには溶接電流波形及び溶接電圧波形を取得してもよい。
【0086】
図10は、溶接波形取得部110によって取得された溶接電圧波形から抽出される特徴量を示す図である。
図10に示されるように、溶接電圧波形の場合、特徴量抽出部120は、溶接電圧波形から、(a)パルス電圧、(b)ベース電圧、(c)パルス間隔、(d)パルス時間、(e)立上り時間、及び(f)立下り時間の各要素が特徴量として抽出すればよい。そして、パラメータ出力部150は、これらの各要素及び溶接の調整情報を入力データとして、機械学習モデルを用いて溶接電圧波形を生成するための波形制御パラメータを出力する。
【0087】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0088】
10…溶接ロボットシステム、20…溶接ロボット、21…溶接トーチ、30…ティーチペンダント、40…ロボット制御装置、50…電源、100…溶接波形制御装置、110…溶接波形取得部、120…特徴量抽出部、130…調整情報取得部、140…機械学習モデル設定部、150…パラメータ出力部、160…記憶部、M100…溶接波形制御方法、S110~S150…溶接波形制御方法M100の各ステップ