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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147991
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】障害物検知装置及び設定装置
(51)【国際特許分類】
   B61L 29/00 20060101AFI20241009BHJP
   G08B 21/00 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
B61L29/00 A
G08B21/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060818
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】金子 亮
【テーマコード(参考)】
5C086
5H161
【Fターム(参考)】
5C086AA60
5C086BA30
5C086CA11
5C086CA28
5C086CB15
5C086CB36
5C086DA08
5H161AA01
5H161MM05
5H161MM14
5H161NN10
5H161NN12
5H161PP07
5H161PP11
(57)【要約】
【課題】踏切道にどのくらいの人や車両が存在するのかに応じた制御を行って踏切障害物を検知可能な技術を提供すること。
【解決手段】障害物検知装置1は、踏切道における物体の滞留量を示す滞留量データを取得する滞留量取得部203と、センサ17による検知対象領域を少なくとも道路通行方向に沿ってN個(N≧1)の検知エリアに分割することと、当該検知エリアに物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かをセンサ17の検知結果に基づいて判定することと、当該判定の結果に基づいて所定の外部通知を行うことと、を所与の制御パラメータに従って実行する実行制御部220と、滞留量データに基づいて制御パラメータを制御するパラメータ制御部210と、を備える。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏切道における少なくとも道路通行方向に沿った物体の位置を検知可能な所定の検知手段の検知結果に基づいて踏切障害物を検知する障害物検知装置であって、
前記踏切道における前記物体の滞留量を示す滞留量データを取得する滞留量取得手段と、
前記検知手段による検知対象領域を少なくとも前記道路通行方向に沿ってN個(N≧1)の検知エリアに分割することと、当該検知エリアに前記物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを前記検知手段の検知結果に基づいて判定することと、当該判定の結果に基づいて所定の外部通知を行うことと、を所与の制御パラメータに従って実行する実行制御手段と、
前記滞留量データに基づいて前記制御パラメータを制御するパラメータ制御手段と、
を備える障害物検知装置。
【請求項2】
前記滞留量取得手段は、踏切警報開始の際の前記滞留量を示す開始時滞留量データを取得し、
前記パラメータ制御手段は、前記開始時滞留量データに基づいて前記制御パラメータを制御する、
請求項1に記載の障害物検知装置。
【請求項3】
前記パラメータ制御手段は、
踏切警報が行われた直近過去所定回数分の前記開始時滞留量データに基づいて開始時滞留量参照データを設定することと、
前記開始時滞留量参照データに基づいて前記制御パラメータを制御することと、
を行う、請求項2に記載の障害物検知装置。
【請求項4】
前記制御パラメータは、前記実行制御手段の実行制御開始を指示するパラメータを含み、
前記パラメータ制御手段は、
前記開始時滞留量参照データが所定の僅少条件を満たす場合には、踏切警報開始の前に前記実行制御開始を指示するように前記制御パラメータを制御することと、
前記開始時滞留量参照データが前記僅少条件を満たさない場合には、踏切警報開始と同時又は開始の後に前記実行制御開始を指示するように前記制御パラメータを制御することと、
を行う、
請求項3に記載の障害物検知装置。
【請求項5】
前記パラメータ制御手段は、前記開始時滞留量参照データが前記僅少条件を満たす場合には、踏切警報開始の前と後とで異なる前記制御パラメータにする、
請求項4に記載の障害物検知装置。
【請求項6】
前記制御パラメータは、前記N個の値を示すパラメータを含む、
請求項2~5の何れか一項に記載の障害物検知装置。
【請求項7】
前記制御パラメータは、前記閾値時間を示すパラメータを含む、
請求項2~5の何れか一項に記載の障害物検知装置。
【請求項8】
前記滞留量取得手段は、踏切警報開始からの時系列の前記滞留量を示す時系列滞留量データを取得し、
前記パラメータ制御手段は、所与の時系列滞留量基準データと、今回の前記時系列滞留量データとを対比して、前記制御パラメータを制御する、
請求項1~5の何れか一項に記載の障害物検知装置。
【請求項9】
前記制御パラメータは、前記実行制御手段の実行制御開始を指示するパラメータを含み、
前記パラメータ制御手段は、今回の前記時系列滞留量データが示す滞留量が、前記時系列滞留量基準データが示す滞留量に対して所定の相当条件を満たしたタイミングを検出し、当該検出に応じて前記実行制御開始を指示するように前記制御パラメータを制御する、
請求項8に記載の障害物検知装置。
【請求項10】
請求項8に記載の障害物検知装置の前記N個の値及び/又は前記閾値時間を設定する設定装置であって、
過去の前記時系列滞留量データに基づいて前記時系列滞留量基準データを設定する基準データ設定手段と、
時系列の前記滞留量を仮定した所与の時系列滞留量仮定データと、前記設定された前記時系列滞留量基準データとに基づいて、所定の好適条件を満たす前記N個の値及び/又は前記閾値時間を選定するシミュレーション処理を行うシミュレーション処理手段と、
を備える設定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踏切障害物を検知する障害物検知装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
踏切道における人や車両等の踏切障害物を検知して外部へ通知する障害物検知装置が知られている。障害物検知装置は、踏切警報を開始してから停止するまでの間に踏切障害物を検知すると、踏切道に接近する列車や当該列車の乗務員に報知するために、特殊信号発光機を作動させる信号を出力したり(特殊信号発光機の作動と合わせて特発発報等と呼ばれる場合がある)、停止信号を現示するための信号を出力する等の外部通知の制御を行う。
【0003】
ところで、踏切道に存在する何らかの物体を検知した場合に直ちに外部へ通知することとすると、不必要な通知をしてしまう過剰通知という不都合が生じる場合がある。例えば、踏切警報の開始時に踏切道にいた人や車両が遮断完了前までに踏切道を渡りきるケースでは、過剰通知が行われる場合があった。このような過剰通知の不都合は、外部通知のタイミングを踏切警報の開始時よりも遅らせることで低減できる。しかし、外部通知の時点で横断中の人等が踏切道に残っていれば、過剰通知は生じてしまう。これに対処するための仕組みとしては、何らかの物体を一定時間以上継続して検知した場合に、踏切障害物として検知する仕組みが知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の技術によれば、横断中の人等は除外しつつ、踏切道に取り残されるおそれのある物体を踏切障害物として検知することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-10681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術を適用すると、踏切障害物を検知するまでに時間を要し、その分外部通知のタイミングが遅くなるデメリットがある。そもそも、あらゆる状況に対して同一の処理を画一的に適用するには問題がある。過剰通知が問題となるのは、多くの人や車両が行き来する(通行量が多い)踏切道の場合であり、通行量が少ない踏切道で問題が生じる可能性は低い。つまり、過剰通知へは、通行量を把握して適切に対処することが求められる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、踏切道にどのくらいの人や車両が存在するのかに応じた制御を行って踏切障害物を検知可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、踏切道における少なくとも道路通行方向に沿った物体の位置を検知可能な所定の検知手段(例えば、図1のセンサ17)の検知結果に基づいて踏切障害物を検知する障害物検知装置であって、前記踏切道における前記物体の滞留量を示す滞留量データを取得する滞留量取得手段(例えば、図10の滞留量取得部203)と、前記検知手段による検知対象領域を少なくとも前記道路通行方向に沿ってN個(N≧1)の検知エリアに分割することと、当該検知エリアに前記物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを前記検知手段の検知結果に基づいて判定することと、当該判定の結果に基づいて所定の外部通知を行うことと、を所与の制御パラメータに従って実行する実行制御手段(例えば、図10の実行制御部220)と、前記滞留量データに基づいて前記制御パラメータを制御するパラメータ制御手段(例えば、図10のパラメータ制御部210)と、を備える障害物検知装置である。
【0008】
第1の発明によれば、踏切道における人や車両の滞留量を示す滞留量データに基づいて、踏切障害物の検知に用いる制御パラメータを制御することができる。したがって、踏切道にどのくらいの人や車両が存在するのかに応じた制御を行って踏切障害物を検知し、外部へ通知することが可能となる。これによれば、不必要な外部通知(過剰通知)を防止しつつ、踏切障害物を適切に検知することができる。
【0009】
また、第2の発明は、上記の発明において、前記滞留量取得手段が、踏切警報開始の際の前記滞留量を示す開始時滞留量データを取得し、前記パラメータ制御手段は、前記開始時滞留量データに基づいて前記制御パラメータを制御する、障害物検知装置である。
【0010】
第2の発明によれば、踏切警報開始の際の滞留量を示す開始時滞留量データを取得し、制御パラメータの制御に用いることができる。したがって、踏切警報の開始時点で踏切道にどのくらいの人や車両が存在するのかに応じた制御を行って踏切障害物を検知し、外部へ通知することが可能となる。
【0011】
また、第3の発明は、上記の発明において、前記パラメータ制御手段が、踏切警報が行われた直近過去所定回数分の前記開始時滞留量データに基づいて開始時滞留量参照データを設定することと、前記開始時滞留量参照データに基づいて前記制御パラメータを制御することと、を行う、障害物検知装置である。
【0012】
第3の発明によれば、踏切警報が行われた直近過去所定回数分の開始時滞留量データから開始時滞留量参照データを設定し、制御パラメータの制御に用いることができる。
【0013】
また、第4の発明は、上記の発明において、前記制御パラメータが、前記実行制御手段の実行制御開始を指示するパラメータを含み、前記パラメータ制御手段は、前記開始時滞留量参照データが所定の僅少条件を満たす場合には、踏切警報開始の前に前記実行制御開始を指示するように前記制御パラメータを制御することと、前記開始時滞留量参照データが前記僅少条件を満たさない場合には、踏切警報開始と同時又は開始の後に前記実行制御開始を指示するように前記制御パラメータを制御することと、を行う、障害物検知装置である。
【0014】
第4の発明によれば、踏切障害物の検知及び外部通知の実行制御開始を指示するパラメータを制御することができる。すなわち、踏切警報開始の際の滞留量が十分に少ない(踏切道に人や車両がほとんどいない)状態が続いており、僅少条件を満たす場合に当該パラメータを制御して、踏切警報開始の前に踏切障害物の検知及び外部通知の実行を開始することができる。一方、僅少条件を満たさない場合には、当該パラメータを制御して、踏切警報開始と同時又は開始の後に踏切障害物の検知及び外部通知の実行を開始することができる。
【0015】
また、第5の発明は、上記の発明において、前記パラメータ制御手段が、前記開始時滞留量参照データが前記僅少条件を満たす場合には、踏切警報開始の前と後とで異なる前記制御パラメータにする、障害物検知装置である。
【0016】
第5の発明によれば、踏切警報開始の前に踏切障害物の検知及び外部通知の実行制御を開始する場合は、踏切警報開始の前と後とで異なる制御パラメータにすることができる。
【0017】
また、第6の発明は、上記の発明において、前記制御パラメータが、前記N個の値を示すパラメータを含む、障害物検知装置である。
【0018】
第6の発明によれば、滞留量データに基づいて、N個の値を示すパラメータを制御することができる。
【0019】
また、第7の発明は、上記の発明において、前記制御パラメータが、前記閾値時間を示すパラメータを含む、障害物検知装置である。
【0020】
第7の発明によれば、滞留量データに基づいて、閾値時間を示すパラメータを制御することができる。
【0021】
また、第8の発明は、上記の発明において、前記滞留量取得手段が、踏切警報開始からの時系列の前記滞留量を示す時系列滞留量データを取得し、前記パラメータ制御手段は、所与の時系列滞留量基準データと、今回の前記時系列滞留量データとを対比して、前記制御パラメータを制御する、障害物検知装置である。
【0022】
第8の発明によれば、今回の時系列滞留量データを時系列滞留量基準データと対比して、制御パラメータを制御することができる。
【0023】
また、第9の発明は、上記の発明において、前記制御パラメータが、前記実行制御手段の実行制御開始を指示するパラメータを含み、前記パラメータ制御手段は、今回の前記時系列滞留量データが示す滞留量が、前記時系列滞留量基準データが示す滞留量に対して所定の相当条件を満たしたタイミングを検出し、当該検出に応じて前記実行制御開始を指示するように前記制御パラメータを制御する、障害物検知装置である。
【0024】
第9の発明によれば、踏切障害物の検知及び外部通知の実行制御開始を指示するパラメータを制御することができる。すなわち、今回の踏切警報開始からの滞留量の変化が、時系列滞留量基準データが示す滞留量に対して所定の相当条件を満たしたタイミングを検出して当該パラメータを制御することで、検出したタイミングにおいて踏切障害物の検知及び外部通知の実行を開始することができる。
【0025】
また、第10の発明は、上記の発明の障害物検知装置の前記N個の値及び/又は前記閾値時間を設定する設定装置であって、過去の前記時系列滞留量データに基づいて前記時系列滞留量基準データを設定する基準データ設定手段(例えば、図15の基準データ設定部31)と、時系列の前記滞留量を仮定した所与の時系列滞留量仮定データと、前記設定された前記時系列滞留量基準データとに基づいて、所定の好適条件を満たす前記N個の値及び/又は前記閾値時間を選定するシミュレーション処理を行うシミュレーション処理手段(例えば、図15のシミュレーション処理部33)と、を備える設定装置である。
【0026】
第10の発明によれば、過去の時系列滞留量データに基づいて時系列滞留量基準データを設定し、時系列滞留量仮定データと、時系列滞留量基準データとに基づくシミュレーション処理を行って、好適なN個の値及び/又は閾値時間を選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】障害物検知装置の適用例を示す図。
図2図1の踏切道における踏切遮断機の設置例を示す図。
図3】踏切道におけるカメラの設置例を示す図。
図4】踏切道への列車の接近に伴う踏切遮断機の状態変化と、踏切道における物体の滞留量変化と、の関係を示す図。
図5】踏切道画像を示す模式図。
図6】他の踏切道画像を示す模式図。
図7】通行量が多い場合の検知エリアの設定例を示す図。
図8】通行量が少ない場合の検知エリアの設定例を示す図。
図9】夜間の時間帯の場合の検知エリアの設定例を示す図。
図10】第1実施形態における障害物検知装置の機能構成例を示すブロック図。
図11】第1実施形態の障害物検知装置が行う処理の流れを示すフローチャート。
図12図11に続く処理の流れを示すフローチャート。
図13】第1の処理の流れを示すフローチャート。
図14】第2の処理の流れを示すフローチャート。
図15】第2実施形態における全体システムの構成例を示す図。
図16】時系列滞留量基準データの設定について説明するための図。
図17】検知開始タイミングの検出について説明するための図。
図18】第2実施形態で用いるエリア設定データを説明するための図。
図19】シミュレーション処理を説明するための図。
図20】第2実施形態における障害物検知装置の機能構成例を示すブロック図。
図21】第2実施形態の障害物検知装置が行う処理の流れを示すフローチャート。
図22】変形例における踏切障害物の検知を説明するための図。
図23】変形例における踏切障害物の検知を説明するための他の図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付す。
【0029】
〔第1実施形態〕
先ず、第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態における障害物検知装置の適用例を示す図である。また、図2は、図1の踏切道における踏切遮断機の設置例を示す図である。図1に示すように、障害物検知装置1は、監視対象の踏切道10に存在して列車の通行障害となる踏切障害物を、センサ17の検知信号に基づいて検知する装置である。踏切道10には、踏切警報機や踏切遮断機12a,12b(図2を参照)等を含む踏切保安設備11と、当該踏切保安設備11の動作を制御する踏切制御装置14と、が設置されている。
【0030】
ここで、踏切保安設備11の踏切遮断機12a,12bは、図2に示すように、踏切道10への進入を遮断するため、より具体的には、鉄道線路を横断する道路部分への進入を遮断するため、当該道路部分への両側の入口に設置される。本実施形態では、踏切道における道路部分は片側一車線の対面通行を想定している。そのため、図2では、当該道路部分への両側の入口において、車両の進入側と進出側とをそれぞれ遮断する踏切遮断機12a(12a-1,2),12b(12b-1,2)が設置された例を示している。各踏切遮断機12a,12bは、列車の接近時において踏切警報が開始されると、図2に示すように、遮断かん13を降下させて、踏切道10への人や車両の進入を遮断する。例えば、先ず、車両の進入側の踏切遮断機12a-1,2が遮断かん13を降下させる(片遮断)。そして、遮断かん13が所定の降下位置まで降下して片遮断が完了したならば、車両の進出側の踏切遮断機12b-1,2が遮断かん13を降下させる。遮断かん13が所定の降下位置まで降下すると、全遮断が完了する。また、列車が通過した後は、踏切遮断機12a,12bは、遮断かん13を上昇させて、踏切道10への人や車両の進入を許容する。
【0031】
図1に戻る。センサ17は、踏切道10を含む検知対象領域20に存在する物体を検知可能な検知手段であり、検知対象領域20に存在する物体の位置を随時検知し、検知した物体の位置を検知信号として出力する。センサ17は、物体の位置として、少なくとも道路通行方向に沿った方向の位置を検知することができる装置である。つまり、物体の位置を、検知対象領域20を二次元平面として道路通行方向に沿った方向の一次元の位置又は二次元の位置として検知する。なお、検知対象領域20を高さ方向を含む三次元空間とした三次元の位置として検知してもよい。センサ17は、投光器と受光器との間で光を投受光する光電式、超音波を照射してその反射波を受信する超音波式、放射したレーザ光の反射光を受光するレーザレーダ式、撮影画像を画像解析する画像式等、何れの検知方式によるものでもよい。例えば、光電式とする場合には、道路通行方向に直交する方向に投光器と受光器との組を配置し、道路通行方向に沿って複数の組を配置することで、道路通行方向に沿った方向の位置を検知することができる。
【0032】
障害物検知装置1は、センサ17の検知信号に基づいて、検知対象領域20に存在する物体を踏切障害物として検知する。そして、障害物検知装置1は、踏切障害物を検知した場合には、接近する列車や当該列車の乗務員にその旨を報知するため、所定の外部通知を行う。本実施形態では、障害物検知装置1は、外部通知として、特殊信号発光機15へ発報信号を出力して発光を開始させる。外部通知は、停止信号を現示するための信号として利用することもできる。
【0033】
また、本実施形態では、障害物検知装置1は、踏切道10の画像(踏切道画像)に基づいて、踏切道10における人や車両等の物体の滞留量を算出する。そのため、障害物検知装置1には、カメラ19から踏切道画像が随時入力されるようになっている。図3は、踏切道10におけるカメラ19の設置例を示す図である。図3では、鉄道線路等の図示は省略している。図3に示すように、カメラ19は、踏切道10を斜め上方から俯瞰する位置に設置され、踏切道10を含む検知対象領域20を撮影する。踏切道10に事故の監視用等としてカメラが設置されている場合には、それを利用することとしてもよい。
【0034】
[詳細]
上記したように、障害物検知装置1は、列車の接近時に踏切道10に存在する人や車両等の踏切障害物を検知して、外部への通知を行う(障害物検知処理)。踏切警報が開始された後のどのタイミングから踏切障害物を検知して外部通知を行うのかは、列車の制動距離の他、急ブレーキ時における乗客の乗り心地の悪化等も考慮して定めておく必要がある。踏切道10に踏切障害物が存在するときには、列車を踏切道10までに安全に停車させる必要があるからである。踏切道10において人や車両が立ち往生している等の場合に外部通知が遅れると、安全性が低下してしまう。例えば、図2の例では、片遮断の完了後、全遮断完了前までに外部通知を行う構成とすることができる。ただし、なるべく片遮断完了に近いタイミングで行うのが望ましい。
【0035】
しかし、外部通知には、過剰通知の問題があった。すなわち、踏切道10に何らかの物体が存在する場合に直ちに踏切障害物であるとして検知するのでは、横断中の人や車両についても踏切障害物として検知してしまい、過剰通知が頻発してしまう。外部通知が行われると列車は減速する。そのため、過剰通知がなされると不要な減速が生じ、列車遅延や乗り心地の悪化を招く。片遮断完了の後でも踏切道10を人が横断し始める事態が生じ得ることから、過剰通知に対処する仕組みが必要となる。
【0036】
過剰通知は、通行量の多い踏切道で頻発し得る。特に、交通量が多くなるラッシュ時等の混雑する時間帯では、先を急ぐ人や車両が多いため過剰通知が生じ易い。これに対し、通行量が少ない踏切道の場合、過剰通知の問題は比較的生じ難い。一方で、踏切警報の開始後に限らず、踏切道10における踏切障害物の検知が求められる場面もある。例えば、通行量が日中よりもさらに少なくなる夜間の時間帯では、安全性の観点から、踏切道10に人が倒れているとか車両が立ち往生している等のケースを踏切警報開始の前であっても検知して、早期に外部通知を行うことが望ましい。
【0037】
図4は、横軸を時間として、踏切道10への列車の接近に伴う踏切遮断機12a,12bの状態変化と、踏切道10における人や車両等の物体の滞留量変化と、の関係を示す図である。図4では、上段において、踏切警報開始のタイミングt11と、その後の片遮断完了及び全遮断完了の各タイミングt13,t15と、を示している。また、図4の下段において、踏切警報開始のタイミングt11を起点とした滞留量の時間変化(滞留量変化)を示している。具体的には、通行量が比較的多いときの滞留量変化の傾向を一点鎖線のグラフで示し、通行量が比較的少ないときの滞留量変化の傾向を二点鎖線のグラフで示している。各グラフが示すように、踏切道10における物体の滞留量は、踏切警報開始のタイミングt11以降に減少し始める。そして、正常時であれば、片遮断が完了するタイミングt13の前後で滞留量は「0」になる。踏切道10の物体が横断中の人や車両である場合は、その後に渡りきって踏切道10に存在しなくなるからである。また、通行量の違いに着目すると、通行量が少ない場合は、多い場合に比べて踏切警報開始のタイミングt11での滞留量が少なく、より早い段階で踏切道10から人や車両がいなくなる。図4では図示していないが、夜間の時間帯では、二点鎖線で示すよりさらに滞留量が少なくなることが想定される。
【0038】
そこで、本実施形態では、障害物検知装置1は、踏切警報開始の際の滞留量の値をもとに、通行量の判定を行う。そして、障害物検知装置1は、通行量判定の結果に応じて制御パラメータを制御して、障害物検知処理の実行制御に用いる。
【0039】
1.滞留量の算出について
障害物検知装置1は、カメラ19からの踏切道画像を画像処理し、フレーム毎に人及び車両の滞留量を算出する。図5は、踏切警報開始のタイミングで得られた踏切道画像を模式的に示す図であり、図6は、片遮断完了のタイミングで得られた踏切道画像を模式的に示す図である。滞留量は、図5図6に例示する踏切道画像から人51や車両53の画像部分を検出することで、滞留量を算出する。手順としては、先ず、入力された踏切道画像について歪み補正を行い、歪み補正後の画像を鳥瞰変換して正規化平面画像に変換する。そして、得られた画像から人及び車両を検出して、それらの数を滞留量として算出する。なお、人や車両が存在していないときの踏切道画像を基準画像として事前に取得しておき、入力された踏切道画像を基準画像と比較して、滞留量を算出する構成としてもよい。例えば、画素毎に輝度値を比較して、その差が所定値以上である画像部分を抽出する。そして、抽出部分の面積の画像全体に占める割合を滞留量として算出する。或いは、抽出した画像部分それぞれが人であるか車両であるかを認識する所定の画像認識処理を行って、画像に写っている人及び車両それぞれの数を滞留量として算出する。
【0040】
また、踏切道10に人や車両が存在する場合は、その位置や移動速度(速度ベクトル)を算出することができる。例えば、踏切道画像における検知対象領域20の四隅の頂点a,b,c,d(図3を参照)の位置座標と、実際の踏切道10の大きさと、から画素の寸法を実寸に補正することで、抽出した人や車両の踏切道10における位置を算出する。また、検出した人や車両のフレーム間での位置の変化から、各々の移動速度(図5図6に矢印で示す速度ベクトル)を算出する。その他、踏切警報開始以降の時系列の滞留量を示す時系列滞留量データ(つまり、踏切警報開始以降の当該踏切道10における滞留量変化)から、滞留量の減衰速度を算出する構成を追加することとしてもよい。
【0041】
また、踏切警報が開始されるたびに、例えば、全遮断完了までの間の時系列滞留量データを取得・収集することで、踏切警報中の人や車両の流動特性を明らかにすることができる。例えば、時系列滞留量データを朝/昼/夜等の時間帯毎に収集することで、各時間帯における人や車両の流動特性が明らかになる。他にも、季節や天候毎に時系列滞留量データを収集したり、近隣にレジャー施設がある場合はイベント開催時に時系列滞留量データを収集することで、周辺環境に応じた流動特性も明らかにできる。また、当該踏切道10が、時間帯を問わず終日通行量が多い踏切道なのか、ラッシュ時等の特定の時間帯だけ通行量が多い踏切道なのか、終日通行量が少ない踏切道なのか、といったことも把握できる。
【0042】
ここで、踏切警報開始のタイミング、片遮断完了及び全遮断完了のタイミング、踏切警報終了のタイミング等の各タイミングは、踏切制御装置14からの踏切制御情報に基づいて判定する。踏切制御情報は、踏切警報機が鳴動しているか否かや、踏切遮断機12a,12bが上昇した開放状態なのか下降した遮断状態なのかといった、踏切保安設備11の動作状態(踏切制御装置14による制御状態)を示す情報である。また、踏切道10にマイクを設置して警報音を検知することで、踏切警報開始及び踏切警報終了のタイミングを判定することとしてもよい。また、踏切道画像から遮断かんの領域55(図6を参照)を検出することで、片遮断完了及び全遮断完了のタイミングを判定する構成を採用してもよい。
【0043】
2.滞留量データの取得について
本実施形態では、障害物検知装置1は、踏切警報開始の際の滞留量を示す滞留量データを開始時滞留量データとして取得する。例えば、図4の例では、踏切警報開始のタイミングt11における滞留量の値を、開始時滞留量データとして取得する。そして、障害物検知装置1は、踏切警報が行われた過去所定回数分(例えば直前1回分としてもよいし直前3回分としてもよい)の開始時滞留量データに基づいて、開始時滞留量参照データを設定する。具体的には、例えば、過去所定回数分の各開始時滞留量データが示す踏切警報開始の際の滞留量の値の平均値(以下「開始時平均滞留量」という)Aαを、開始時滞留量参照データとして設定する。これにより、開始時平均滞留量Aαは、踏切警報が行われる毎に、踏切道10を通行する現況(すなわち過去所定回数分)の交通量に沿った値に更新・設定されることとなる。そのため、交通量が少なくなれば少なくなった交通量に応じた開始時平均滞留量Aαに設定され、交通量が多くなれば多くなった交通量に応じた開始時平均滞留量Aαに設定される。
【0044】
3.通行量判定について
本実施形態では、障害物検知装置1は、開始時平均滞留量Aαを閾値判定することで、踏切道10の通行量が多いか少ないかを判定し、さらに、通行量がごく少ない夜間の時間帯なのかを判定する。具体的には、例えば、予め設定される通行量判定閾値Taを用いて、通行量が多いか少ないかの判定を行う。すなわち、開始時平均滞留量Aα≧Taの場合は通行量が多く、開始時平均滞留量Aα<Taの場合は通行量が少ないと判定する。また、予め設定される僅少条件判定閾値Tb(Tb<Ta)を用いて、夜間の時間帯なのかの判定を行う。すなわち、開始時平均滞留量Aα<Tbの場合は僅少条件を満たすとして、夜間の時間帯と判定する。
【0045】
4.制御パラメータの制御について
障害物検知処理では、障害物検知装置1は、検知対象領域20を少なくとも道路通行方向に沿ってN個(N≧1)の検知エリアに分割することと、当該検知エリアに物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かをセンサ17からの検知信号に基づいて判定することと、当該判定の結果に基づいて外部通知を行うことと、を所与の制御パラメータに従って実行することで踏切障害物を検知し、外部通知を行う。
【0046】
そして、本実施形態では、障害物検知装置1は、障害物検知処理の実行制御にあたって、N個の値を示すパラメータ(以下「分割数パラメータ」という)と、閾値時間を示すパラメータ(以下「閾値時間パラメータ」という)と、障害物検知処理の実行制御開始を指示するパラメータ(以下「実行開始指示パラメータ」という)と、の3つの制御パラメータを制御する。
【0047】
4-1.実行開始指示パラメータについて
本実施形態では、障害物検知装置1は、踏切警報が開始された場合は、片遮断完了のタイミングを検知開始タイミングとして、障害物検知処理の実行制御を開始する。そのために、障害物検知装置1は、片遮断完了のタイミングで障害物検知処理の実行制御開始を指示するように、実行開始指示パラメータを制御する。
【0048】
また、障害物検知装置1は、通行量判定の結果、夜間の時間帯と判定された場合には、次の踏切警報開始よりも前のタイミングを検知開始タイミングとして、障害物検知処理の実行制御を開始する。そのために、障害物検知装置1は、踏切警報終了の際に、次の踏切警報開始前の所定のタイミングを検知開始タイミングとして設定する。例えば、次に踏切警報が開始される予定の時刻よりも所定時間前のタイミングを、検知開始タイミングとして設定する。例えば、次に踏切警報が開始される予定の時刻までの時間間隔の半分となる時刻を検知開始タイミングとするように設定することができる。そして、障害物検知装置1は、検知開始タイミングで障害物検知処理の実行制御開始を指示するように、実行開始指示パラメータを制御する。
【0049】
4-2.分割数パラメータ及び閾値時間パラメータについて
本実施形態では、検知対象領域20に検知エリアを設定し、設定した検知エリア毎に閾値時間を設定するためのエリア設定を予め複数種類用意しておく。そして、障害物検知装置1は、通行量判定の結果に応じて1つ又は複数のエリア設定を適宜切り替えて用いることで、分割数パラメータ及び閾値時間パラメータを制御する。例えば、いつのタイミングでどのエリア設定を適用するのかを定めたエリア設定データとして、(1)通行量判定で通行量が多いと判定された場合に用いる第1のエリア設定データ301(図10を参照)と、(2)通行量が少ないと判定された場合に用いる第2のエリア設定データ303(図10を参照)と、(3)夜間の時間帯と判定された場合に用いる第3のエリア設定データ305(図10を参照)と、を予め設定しておく。
【0050】
(1)通行量が多いと判定された場合
図7は、第1のエリア設定データ301に基づく検知エリアの設定例を示す図である。図7に示すように、通行量が多い場合は、踏切警報開始後の片遮断完了から全遮断完了までの第1期間と、全遮断完了から踏切警報終了までの第2期間と、でエリア設定を切り替えて用いる検知エリアの設定(つまり、N個の数及び検知エリア毎の閾値時間の設定)を行う。
【0051】
具体的には、第1期間で用いるエリア設定は、多種混在エリア設定である。多種混在エリア設定は、閾値時間が異なる複数種類の検知エリアを混在させて踏切道10の道路通行方向に沿ってN個配置することで、検知対象領域20を分割したエリア設定である。図7の例では、閾値時間がT1である種類αの3個の検知エリア(第1,第3,第5検知エリア)と、閾値時間がT2である種類βの3個の検知エリア(第2、第4、第6検知エリア)との合計6個(N=6)の検知エリア(第1~第6検知エリア)を、道路通行方向に沿って交互に配置している。
【0052】
一方、第2期間で用いるエリア設定は、単一の検知エリアとする単一エリア設定である。図7の例では、閾値時間が「0」である種類γの1個(N=1)の検知エリアを示している。
【0053】
したがって、通行量が多い場合の障害物検知処理では、片遮断完了から全遮断完了までの間は、検知対象領域20を道路通行方向に沿って複数の検知エリアに分割する。そして、分割した検知エリア毎に物体が存在する状態がその閾値時間継続したか否かを判定して、踏切障害物を検知する。ここで、人や車両といった物体が1つの検知エリアの通過に要する通過時間は、分割した検知エリアの大きさに応じて異なる。検知対象領域20を分割した検知エリアの数が多いほど通過時間は短くなる。多種混在エリア設定を用いることによれば、検知対象領域20を分割した検知エリア毎に、物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを判定すれば済むため、閾値時間を短くすることが可能となる。これによれば、通行量が多い場合に頻発する過剰通知を防止しつつ、移動速度が遅く踏切道10に取り残されるおそれのある物体についても、適切に踏切障害物として検知することができる。一方、全遮断完了後は、検知対象領域20に存在する何らかの物体を検知すると、直ちに外部通知を行う。
【0054】
(2)通行量が少ないと判定された場合
図8は、第2のエリア設定データ303に基づく検知エリアの設定例を示す図である。図8に示すように、通行量が少ない場合は、踏切警報開始後の片遮断完了から踏切警報終了までの第3期間で1つのエリア設定を用いて、検知エリアの設定(N個の数及び検知エリア毎の閾値時間の設定)を行う。
【0055】
具体的には、第3期間で用いるエリア設定は、単一エリア設定である。図8の例では、閾値時間が「0」である種類γの1個(N=1)の検知エリアを示している。したがって、通行量が少ない場合の障害物検知処理では、片遮断完了以降に検知対象領域20に物体が存在する場合は、当該物体を踏切障害物と判定して、直ちに外部通知を行うこととなる。
【0056】
(3)夜間の時間帯と判定された場合
図9は、第3のエリア設定データ305に基づく検知エリアの設定例を示す図である。図9に示すように、夜間の時間帯の場合は、踏切警報開始の前のタイミングとして設定される検知開始タイミングから次の踏切警報開始までの第4期間で1つのエリア設定を用いて、検知エリアの設定(N個の数及び検知エリア毎の閾値時間の設定)を行う。
【0057】
具体的には、第4期間で用いるエリア設定は、多種混在エリア設定である。図9の例では、閾値時間がT3である種類δの2個の検知エリア(第8,第10検知エリア)と、閾値時間がT4である種類εの2個の検知エリア(第9、第11検知エリア)との合計4個(N=4)の検知エリア(第8~第11検知エリア)を、道路通行方向に沿って交互に配置している。
【0058】
夜間の時間帯では、障害物検知装置1は、上記した実行開始指示パラメータの制御によって、踏切警報開始前の検知開始タイミングで障害物検知処理の実行制御を開始する。より具体的には、図9の多種混在エリア設定に基づく検知エリアの設定を行って、踏切障害物を検知する。これによれば、夜間の時間帯は、踏切警報開始前であっても踏切障害物を検知して、外部通知を行うことができる。その場合の外部通知には、指令所等への通知を含めることもできる。
【0059】
その後、踏切警報が開始された場合には、障害物検知装置1は、当該時点での通行量判定の結果に基づき検知エリアを設定して、踏切障害物を検知する。通行量がごく少ない夜間の時間帯であるので、基本的には、図8を参照して上述した「(2)通行量が少ないと判定された場合」と同様に、障害物検知装置1は、第2のエリア設定データ303に基づくエリア設定を行って、踏切障害物を検知することとなる。
【0060】
なお、図7の多種混在エリア設定では合計6個の検知エリア(第1~第6検知エリア)を混在させるとしたが、N個の値はこれに限らず、5個以下でもよいし7個以上でもよい。また、検知エリアの種類を2種類(種類α,β)としたが、種類の組み合わせ(つまり、検知エリア毎の閾値時間の設定)はこれに限らず、別の組み合わせでもよいし、3種類以上の組合せとすることもできる。例えば、3種類以上とした場合、種類の異なる検知エリアを種類の順に周期的且つ繰り返し配置する設定とすることとしてもよい。また、踏切道の両端(道路通行方向の入口/出口:図7の多種混在エリア設定の例では第1エリアと第6エリア)の検知エリアを特殊種類の検知エリアとし、それ以外の踏切道の中間の検知エリアを1種類或いは2種類以上の検知エリアとして配置することとしてもよい。図9の多種混在エリア設定についても同様であり、N個の値や検知エリア毎の閾値時間は適宜設定することができる。すなわち、通行量が多い場合や夜間の時間帯の場合に適用する多種混在エリアの具体的なN個の値や検知エリア毎の閾値時間の設定は、予め監視対象の踏切道10に適した設定にしておく。
【0061】
[機能構成]
図10は、第1実施形態における障害物検知装置1の機能構成例を示すブロック図である。図10に示すように、障害物検知装置1は、操作部110と、表示部120と、通信部130と、処理部200と、記憶部300とを備え、一種のコンピュータシステムとして構成される。
【0062】
操作部110は、例えば、ボタンスイッチやタッチパネル等の入力装置で実現され、操作入力に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部120は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)やタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に応じた各種表示を行う。通信部130は、有線又は無線の通信装置で実現され、所与の外部装置との通信を行う。
【0063】
処理部200は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算回路や当該演算回路を含む制御ボード等で実現され、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ等に基づいて、各種の演算処理を行って障害物検知装置1の動作を制御する。
【0064】
本実施形態では、処理部200は、滞留量算出部201と、滞留量取得部203と、パラメータ制御部210と、実行制御部220と、を含む。これら各機能部は、プログラムを実行することによりソフトウェアとして実現される演算処理ブロックであってもよいし、信号処理回路によって実現される回路ブロックであってもよい。本実施形態では、処理部200が所定のプログラムを実行することによりソフトウェアとして実現される演算処理ブロックとして説明する。
【0065】
滞留量算出部201は、カメラ19から随時入力される踏切道画像から人及び車両の画像部分を検出・特定して、踏切道10における物体の時系列の滞留量をフレーム毎に算出する。
【0066】
滞留量取得部203は、踏切警報開始の際の滞留量の値を開始時滞留量データ307として取得する。
【0067】
パラメータ制御部210は、参照データ設定部211と、通行量判定部213と、実行開始指示パラメータ制御部215と、検知エリア設定部217と、を備え、障害物検知処理で用いる制御パラメータ(実行開始指示パラメータ、分割数パラメータ、及び閾値時間パラメータ)を制御する。
【0068】
参照データ設定部211は、滞留量取得部203によって取得された過去所定回数分の開始時滞留量データ307が示す滞留量の値の平均値(開始時平均滞留量)Aαを算出して、開始時滞留量参照データ309として更新・設定する。
【0069】
通行量判定部213は、参照データ設定部211によって設定された開始時滞留量参照データ309を参照し、予め設定される通行量判定閾値Taを用いて開始時平均滞留量Aαを閾値判定することで、踏切道10の通行量が多いか少ないかを判定する。また、通行量判定部213は、予め設定される僅少条件判定閾値Tb(Tb<Ta)を用いて開始時平均滞留量Aαを閾値判定することで、夜間の時間帯なのかを判定する。
【0070】
実行開始指示パラメータ制御部215は、踏切警報開始後の片遮断完了のタイミングで障害物検知処理の実行制御開始を指示するように、実行開始指示パラメータを制御する。また、実行開始指示パラメータ制御部215は、通行量判定部213によって夜間の時間帯と判定された場合には、次の踏切警報開始前の所定のタイミングを検知開始タイミングとして設定する。そして、実行開始指示パラメータ制御部215は、当該検知開始タイミングで障害物検知処理の実行制御開始を指示するように、実行開始指示パラメータを制御する。
【0071】
検知エリア設定部217は、通行量判定部213による判定の結果に応じたエリア設定データを用いて検知対象領域20に検知エリアを設定して、分割数パラメータ及び閾値時間パラメータを制御する。具体的には、検知エリア設定部217は、通行量判定部213によって通行量が多いと判定された場合は、第1のエリア設定データ301を用いて検知エリアを設定する(図7を参照)。通行量が少ないと判定された場合は、第2のエリア設定データ303を用いて検知エリアを設定する(図8を参照)。夜間の時間帯と判定された場合には、第3のエリア設定データ305を用いて検知エリアを設定する(図9を参照)。
【0072】
実行制御部220は、分割部221と、判定部223と、外部通知制御部225と、を備え、障害物検知処理の実行制御を行う。
【0073】
分割部221は、検知エリア設定部217の設定に従って、検知対象領域20を道路通行方向に沿ってN個(N≧1)の検知エリアに分割する。
【0074】
判定部223は、分割部221によって分割された検知エリア毎に、当該検知エリアに物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを、検知手段であるセンサ17の検知結果に基づいて判定する。具体的には、センサ17により検知された物体の位置から当該物体が何れの検知エリアに存在するのかを判定する。そして、当該検知エリアに当該物体が存在する状態の継続時間が、当該検知エリアに定められた閾値時間に達したか否かを判定する。
【0075】
外部通知制御部225は、判定部223の判定結果に基づいて所定の外部通知を行う。具体的には、判定部223によってある検知エリアに物体が存在する状態が当該検知エリアに定められた閾値時間に達したと判定された場合に、踏切障害物を検知したとしてその旨を外部通知する。外部通知としては、例えば、踏切道10に接近する列車に向けて設置された特殊信号発光機15へ発報信号を出力して発光を開始させるとしてもよいし、当該踏切道10に接近する列車の車上装置へ無線で通知するようにしてもよい。
【0076】
記憶部300は、ICメモリやハードディスク等の記憶媒体により実現される。記憶部300は、障害物検知装置1を動作させ、障害物検知装置1が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、当該プログラムの実行中に使用されるデータ等が予め記憶され、或いは処理の都度一時的に記憶される。本実施形態では、記憶部300には、通行量が多いとき用の第1のエリア設定データ301(図7を参照)、通行量が少ないとき用の第2のエリア設定データ303(図8を参照)、及び夜間の時間帯用の第3のエリア設定データ305(図9を参照)と、開始時滞留量データ307と、開始時滞留量参照データ309と、が記憶される。
【0077】
第1のエリア設定データ301は、第1期間で用いる多種混在エリア設定のN個の数及び検知エリア毎の閾値時間の設定を含む多種混在エリア設定データ3011と、第2期間で用いる単一エリア設定の閾値時間の設定を含む単一エリア設定データ3013と、を格納する。
【0078】
第2のエリア設定データ303は、第3期間で用いる単一エリア設定の閾値時間の設定を含む単一エリア設定データ304を格納する。
【0079】
第3のエリア設定データ305は、第4期間で用いる多種混在エリア設定のN個の数及び検知エリア毎の閾値時間の設定を含む多種混在エリア設定データ306を格納する。
【0080】
[処理の流れ]
図11及び図12は、第1実施形態において障害物検知装置1が行う処理の流れを示すフローチャートである。図11に示すように、本処理では、踏切警報が開始された場合に(ステップS1:YES)、先ず、滞留量取得部203が、当該踏切警報開始の際の滞留量を示す開始時滞留量データ307を取得する(ステップS3)。本実施形態では、滞留量算出部201が、カメラ19からの踏切道画像に基づいて検知対象領域20における物体の滞留量を随時算出している。ステップS3では、滞留量取得部203は、処理の時点(踏切警報開始のタイミング)における滞留量を開始時滞留量データ307として取得する。
【0081】
続いて、参照データ設定部211が、ステップS3で取得した開始時滞留量データ307を含む過去所定回数分の開始時滞留量データ307に基づいて開始時平均滞留量Aαを算出し、開始時滞留量参照データ309の設定・更新を行う(ステップS5)。
【0082】
続いて、通行量判定部213が、ステップS5で設定した開始時滞留量参照データ309の開始時平均滞留量Aαに基づいて、通行量が多いか少ないかの判定を行う(ステップS7)。
【0083】
その後は、実行開始指示パラメータ制御部215が、片遮断完了のタイミングを検知開始タイミングとし、当該検知開始タイミングにて障害物検知処理の実行制御開始を指示するように、実行開始指示パラメータを制御する(ステップS9)。
【0084】
そして、ステップS9での実行開始指示パラメータの制御により、実行制御部220が、片遮断完了のタイミングで(ステップS13:YES)、障害物検知処理の実行制御を開始する。その場合は、踏切警報開始の際のステップS7での通行量の判定結果に応じて処理を分岐し、通行量が多いと判定されていた場合は(ステップS15:YES)、第1の処理を行う(ステップS17)。
【0085】
図13は、第1の処理の流れを示すフローチャートである。図13に示すように、第1の処理では、先ず、検知エリア設定部217が、第1のエリア設定データ301の多種混在エリア設定データ3011を用い、検知対象領域20に多種混在エリア設定に基づく検知エリアを設定することで(図7を参照)、分割数パラメータ及び閾値時間パラメータを制御する(ステップS101)。
【0086】
そして、実行制御部220が、ステップS101での分割数パラメータ及び閾値時間パラメータの制御のもとで踏切障害物を検知し、外部通知を行う。すなわち、先ず、分割部221が、ステップS101での検知エリアの設定に従って、検知対象領域20を道路通行方向に沿ってN個(N≧1)の検知エリアに分割する(ステップS103)。続いて、判定部223が、センサ17からの検知信号に基づいて、検知対象領域20に何らかの物体が存在するかを判定する。そして、判定部223は、物体が存在する場合には(ステップS105:YES)、物体の位置から当該物体が存在する検知エリアを判定し(ステップS107)、当該検知エリアに当該物体が存在する状態の継続時間が、当該検知エリアの閾値時間に達したか否かを判定する。継続時間が閾値時間に達していない場合は(ステップS109:NO)、ステップS113に移行する。一方、継続時間が閾値時間に達した場合には(ステップS109:YES)、外部通知制御部225が、当該物体を踏切障害物として検知して、特殊信号発光機15へ発報信号を出力する等の外部通知を行う(ステップS111)。全遮断が完了するまでは(ステップS113:NO)、ステップS105に戻って上記した処理を繰り返す。
【0087】
そして、全遮断が完了したならば(ステップS113:YES)、検知エリア設定部217が、第1のエリア設定データ301の単一エリア設定データ3013を用い、検知対象領域20に単一エリア設定に基づく検知エリアを設定することで(図7を参照)、分割数パラメータ及び閾値時間パラメータを制御する(ステップS115)。
【0088】
その後は、実行制御部220が、ステップS115での分割数パラメータ及び閾値時間パラメータの制御のもと、ステップS103~ステップS111と同様の要領で踏切障害物を検知して、外部通知を行う。すなわち、先ず、分割部221が、ステップS115での検知エリアの設定に従って検知対象領域20を分割する(ステップS117)。続いて、判定部223が、検知対象領域20に何らかの物体が存在する場合には(ステップS119:YES)、物体の位置から当該物体が存在する検知エリアを判定する(ステップS121)。そして、当該検知エリアに当該物体が存在する状態の継続時間が、当該検知エリアの閾値時間に達した場合には(ステップS123:YES)、外部通知制御部225が、当該物体を踏切障害物として検知し、外部通知を行う(ステップS125)。
【0089】
踏切警報が終了するまでは(ステップS127:NO)、ステップS119に戻って上記した処理を繰り返す。踏切警報が終了した場合には(ステップS127:YES)、障害物検知処理の実行制御を終了して、図11のステップS31に移行する。
【0090】
ステップS15の分岐に戻り、ステップS7で通行量が少ないと判定されていた場合は(ステップS15:NO)、第2の処理を行う(ステップS19)。
【0091】
図14は、第2の処理の流れを示すフローチャートである。図14に示すように、第2の処理では、先ず、検知エリア設定部217が、第2のエリア設定データ303の単一エリア設定データ304を用い、検知対象領域20に単一エリア設定に基づく検知エリアを設定することで(図8を参照)、分割数パラメータ及び閾値時間パラメータを制御する(ステップS201)。
【0092】
その後は、実行制御部220が、ステップS201での分割数パラメータ及び閾値時間パラメータの制御のもと、ステップS103~ステップS111と同様の要領で踏切障害物を検知して、外部通知を行う。すなわち、先ず、分割部221が、ステップS201での検知エリアの設定に従って検知対象領域20を分割する(ステップS203)。続いて、判定部223が、検知対象領域20に何らかの物体が存在する場合には(ステップS205:YES)、物体の位置から当該物体が存在する検知エリアを判定する(ステップS207)。そして、当該検知エリアに当該物体が存在する状態の継続時間が、当該検知エリアの閾値時間に達した場合には(ステップS209:YES)、外部通知制御部225が、当該物体を踏切障害物として検知し、外部通知を行う(ステップS211)。
【0093】
踏切警報が終了するまでは(ステップS213:NO)、ステップS205に戻って上記した処理を繰り返す。踏切警報が終了した場合には(ステップS213:YES)、障害物検知処理の実行制御を終了して、図11のステップS31に移行する。
【0094】
そして、ステップS31では、通行量判定部213が、ステップS5で設定された開始時滞留量参照データ309の開始時平均滞留量Aαに基づいて、夜間の時間帯かを判定する。そして、夜間の時間帯と判定された場合には(ステップS31:YES)、図12のステップS33に移行する。
【0095】
図12に示すように、ステップS33では、実行開始指示パラメータ制御部215が、次の踏切警報開始よりも前の検知開始タイミングを設定する。そして、実行開始指示パラメータ制御部215は、当該検知開始タイミングにて障害物検知処理の実行制御開始を指示するように、実行開始指示パラメータを制御する(ステップS35)。
【0096】
そして、ステップS35での実行開始指示パラメータの制御により、実行制御部220が、ステップS33で設定された検知開始タイミングで(ステップS39:YES)、障害物検知処理の実行制御を開始する。その場合は、検知エリア設定部217が、第3のエリア設定データ305の多種混在エリア設定データ306を用い、検知対象領域20に多種混在エリア設定に基づく検知エリアを設定することで(図9を参照)、分割数パラメータ及び閾値時間パラメータを制御する(ステップS42)。
【0097】
そして、実行制御部220が、ステップS37での分割数パラメータ及び閾値時間パラメータの制御のもとで踏切障害物を検知し、外部通知を行う。すなわち、先ず、分割部221が、ステップS42での検知エリアの設定に従って、検知対象領域20を道路通行方向に沿ってN個(N≧1)の検知エリアに分割する(ステップS43)。続いて、判定部223が、センサ17からの検知信号に基づいて、検知対象領域20に何らかの物体が存在するかを判定する。そして、判定部223は、物体が存在する場合には(ステップS45:YES)、物体の位置から当該物体が存在する検知エリアを判定し(ステップS47)、当該検知エリアに当該物体が存在する状態の継続時間が、当該検知エリアの閾値時間に達したか否かを判定する。継続時間が閾値時間に達していない場合は(ステップS49:NO)、ステップS53に移行する。一方、継続時間が閾値時間に達した場合には(ステップS49:YES)、外部通知制御部225が、当該物体を踏切障害物として検知して、外部通知を行う(ステップS51)。踏切警報が開始されるまでは(ステップS53:NO)、ステップS45に戻って上記した処理を繰り返す。
【0098】
踏切警報が開始された場合には(ステップS53:YES)、一旦障害物検知処理の実行制御を終了した後、図11のステップS3に戻って、上記した処理を繰り返す。その場合は、夜間の時間帯であるため、基本的には、ステップS7では通行量が少ないと判定され、ステップS16では第2のエリア設定データ303を用いたエリア設定が行われることとなる。したがって、ステップS53で判定された踏切警報開始の前と後とで、分割数パラメータが示すN個の値及び閾値時間パラメータが示す検知エリア毎の閾値時間が異なる設定とされる。
【0099】
以上説明したように、第1実施形態によれば、踏切警報開始の際の踏切道における人や車両の滞留量に基づいて、踏切道における通行量が多いのか少ないのかや、夜間の時間帯なのかを判定できる。そして、判定結果に基づいて、障害物検知処理で用いる制御パラメータを制御することができる。これによれば、踏切道にどのくらいの人や車両が存在するのかに応じた制御を行って踏切障害物を検知し、外部へ通知することが可能となる。
【0100】
なお、第1実施形態では、踏切警報開始の際の滞留量を示す開始時滞留量データを取得して、その都度通行量が多いか少ないかの判定を行うこととした。これに対し、監視対象の踏切道における人や車両の流動特性を上記した要領で事前に把握することで、季節毎や天候毎、時間帯毎に適用するエリア設定データの候補を予め用意しておく構成も可能である。その場合は、用意されたエリア設定データの候補の中から、現在時刻や周辺環境等に応じたエリア設定データを選択的に用いて、障害物検知処理の実行制御を行う。これによれば、踏切警報が開始されるたびに通行量の判定をしなくて済むため、踏切道10へのカメラ19の常設は不要となる。
【0101】
また、第1実施形態では、片遮断完了のタイミングを検知開始タイミングとして障害物検知処理の実行制御を開始し、踏切障害物を検知する例を説明した。これに対し、踏切警報開始時を検知開始タイミングとし、踏切警報開始と同時に実行制御を開始する構成としてもよい。
【0102】
また、第1実施形態では、開始時平均滞留量Aαが十分に小さく僅少条件を満たす場合、具体的には、開始時平均滞留量Aα<僅少条件判定閾値Tbの場合に夜間の時間帯とみなして踏切警報開始前の検知開始タイミングで障害物検知処理の実行制御を開始する例を説明した。しかし、上述した「夜間の時間帯」とする例は一例であり、当該実行制御は夜間の時間帯に限らず行うことができる。例えば、早朝や日中の時間帯であっても、開始時平均滞留量Aαが僅少条件を満たす場合に図9の多種混在エリア設定に基づく検知エリアの設定を行って、踏切障害物を検知することとしてもよい。すなわち、必ずしも時間帯を判定する必要はない。
【0103】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態について説明する。図15は、本実施形態における全体システムの構成例を示す図である。図15に示すように、本実施形態では、障害物検知装置1aと、設定装置3と、がネットワークを介して互いにデータを送受可能に構成されている。
【0104】
第1実施形態では、図4に示した踏切道における滞留量変化の傾向から、片遮断完了のタイミングを検知開始タイミングとして、障害物検知処理の実行制御を開始する例を説明した。しかし、人や車両の実際の流動特性は、踏切道によって異なる。そこで、本実施形態では、障害物検知装置1aは、踏切警報開始からの時系列の滞留量を示す時系列滞留量データを事前に収集して、踏切警報開始後のいつのタイミングを検知開始タイミングとするのか(実行開始指示パラメータの制御によって指示する検知開始タイミングをいつにするのか)を検出する。また、分割数パラメータ及び閾値時間パラメータについては、設定装置3でのシミュレーションによって、監視対象の踏切道に適した値を選定する。
【0105】
1.実行開始指示パラメータについて
実行開始指示パラメータを設定するため、障害物検知装置1aは、事前に収集した複数の時系列滞留量データに基づいて、時系列滞留量基準データ315a(図20を参照)を設定する。図16は、時系列滞留量基準データ315aの設定について説明するための図である。図16では、踏切警報開始の時点を原点とする時間を横軸として、収集した各時系列滞留量データに係る時系列の滞留量の変化を細い実線で示すとともに、それら時系列滞留量データをもとに設定した時系列滞留量基準データ315aに係る時系列の滞留量の変化を太い実線で示している。例えば、障害物検知装置1aは、各時系列滞留量データを構成する時系列の滞留量を時間毎に比較して外れ値を除外した上で、最小二乗法による回帰分析を行って、時系列滞留量基準データ315aを生成して設定する。
【0106】
そして、踏切警報が開始された場合には、障害物検知装置1aは、時系列滞留量基準データ315aと、今回の時系列滞留量データ(今回時系列滞留量データ)と、を対比して検知開始タイミングを判定・検出することで、実行開始指示パラメータを制御する。
【0107】
図17は、検知開始タイミングの検出について説明するための図である。図17では、踏切警報開始の時点を原点とする時間を横軸として、今回時系列滞留量データを細い実線で示し、時系列滞留量基準データ315aを太い実線で示している。より詳細には、図17では、今のタイミングをt2として、今回時系列滞留量データを示している。本実施形態では、図17中にハッチングを付して示す検出期間内で、検知開始タイミングの検出を行う。例えば、検出期間の始期t21は、踏切警報開始時から所定時間p21が経過した時点とされ、終期t23は、時系列滞留量基準データ315aにおいて滞留量が「0」になるタイミングt25よりも所定時間p23の分遡った時点とする。
【0108】
そして、検出期間(t21~t23)の間、障害物検知装置1aは、現在時点の滞留量が、時系列滞留量基準データ315aにおける対応する時間の滞留量に対して所定の相当条件を満たしたタイミングを、検知開始タイミングとして検出する。具体的には、障害物検知装置1aは、相当条件を「今の滞留量と時系列滞留量基準データ315aの滞留量との差が所定値未満であること」等として、現在時点が、相当条件を満たす検知開始タイミングであるかを判定する。例えば、図17のタイミングt2において両者の差が所定値未満であると判定したことで、相当条件を満たす検知開始タイミングであるとして検出する。その場合は、障害物検知装置1aは、障害物検知処理の実行開始制御を指示するように実行開始指示パラメータを制御する。なお、相当条件を満たすタイミングを検出しないまま検出期間の終期t23が到来した場合には、終期t23の時点を検知開始タイミングとして、障害物検知処理の実行開始制御を指示するように実行開始指示パラメータを制御する。
【0109】
2.分割数パラメータ及び閾値時間パラメータについて
図18は、本実施形態において検知エリアの設定に用いるエリア設定データ311a(図20を参照)を説明するための図である。図18に示すように、本実施形態のエリア設定データ311aは、上記した実行開始指示パラメータの制御によって指示される検知開始タイミングから、全遮断完了までの第5期間で用いるエリア設定が多種混在エリア設定又は単一エリア設定とされ、全遮断完了から踏切警報終了までの第2期間で用いるエリア設定が単一エリア設定とされた設定となっている。そして、本実施形態では、設定装置3が、第5期間で用いるエリア設定の選定(つまり、N個の値(N≧1))及び検知エリア毎の閾値時間の選定を行う。
【0110】
設定装置3は、図15に示すように、基準データ設定部31と、シミュレーション処理部33と、を備える。
【0111】
基準データ設定部31は、障害物検知装置1aが監視対象とする踏切道で過去に取得された時系列滞留量データに基づいて、時系列滞留量基準データを設定する。ここでの設定は、図17を参照して説明したのと同様の処理を行い、回帰分析を行うことで実現できる。
【0112】
シミュレーション処理部33は、所与の時系列滞留量仮定データと、基準データ設定部31によって設定された時系列滞留量基準データとに基づいて、所定の好適条件を満たすN個の値及び/又は閾値時間を選定するシミュレーション処理を行う。
【0113】
図19は、シミュレーション処理を説明するための図である。本実施形態では、設定装置3は、シミュレーション処理に先立ち、障害物検知装置1aから、当該障害物検知装置1aで過去に収集された踏切警報時毎の複数の踏切警報時取得データ5を取得する。踏切警報時取得データ5は、踏切警報開始から踏切警報終了までの間にカメラ19で撮影された踏切道画像データ(動画データ)や、フレーム毎に算出された時系列の滞留量を示す時系列滞留量データの他、フレーム毎に検出された人や車両の位置データ、検出された人や車両の移動速度データ等を含む。基準データ設定部31は、例えば、ここで取得した踏切警報時取得データ5毎の時系列滞留量データに基づいて、時系列滞留量基準データを設定する。
【0114】
また、設定装置3は、図18に示した踏切警報開始後の検知開始タイミングから全遮断完了までの第5期間で用いるエリア設定の候補(エリア設定候補)として、N個の値や検知エリア毎の閾値時間の設定が異なる複数のエリア設定7を予め用意しておく。本実施形態では、図7及び図9にそれぞれ例示したようなN個の値と混在させる検知エリアの種類とが異なる多種混在エリア設定と、図7等に例示した単一エリア設定と、をエリア設定候補として用意しておく。
【0115】
そして、シミュレーション処理部33は、踏切警報時取得データ5を時系列滞留量仮定データとして用いて、シミュレーション処理を行う。具体的には、シミュレーション処理部33は、踏切警報時取得データ5のうちの1つをシミュレーション対象とし、当該踏切警報時取得データ5に従ってその踏切警報中の踏切道における人や車両の移動を仮想的に再現する。その上で、シミュレーション処理部33は、先ず、当該踏切警報時取得データ5の時系列滞留量データと、基準データ設定部31によって設定された時系列滞留量基準データとを対比して、図17を参照して説明した要領で検知開始タイミングを検出する。そして、検知開始タイミングを検出したならば、エリア設定候補として用意されたエリア設定7を1つずつ適用して踏切道の検知対象領域に検知エリアを設定し、障害物検知処理を実行する。全てのエリア設定7を適用して障害物検知処理を実行したならば、1つの踏切警報時取得データ5に係るシミュレーションを終了する。その後は、他の踏切警報時取得データ5をシミュレーション対象として、同様の処理を繰り返す。
【0116】
ここでの処理により、各踏切警報時取得データ5に係る踏切警報時毎に、各エリア設定7をそれぞれ用いた場合の障害物検知処理を仮想的に実行することができる。その後は、シミュレーション処理部33は、障害物検知処理の結果を評価する。例えば、踏切障害物が適正に検知されたか否かや、外部通知のタイミングが速いか遅いか等の評価基準に基づいて評価値を算出して、求めた評価値をエリア設定7毎に集計する。そして、シミュレーション処理部33は、集計の結果最も評価値が高いエリア設定7を選んで、好適条件を満たすN個の値及び検知エリア毎の閾値時間を選定する。当該選定を受けて、障害物検知装置1aは、検知開始タイミングから全遮断完了までの第5期間(図18を参照)で用いるエリア設定を選定されたエリア設定として、エリア設定データ311a(図20を参照)を設定する。
【0117】
[機能構成]
図20は、第2実施形態における障害物検知装置1aの機能構成例を示すブロック図である。図20では、第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付して示している。図20に示すように、障害物検知装置1aは、操作部110と、表示部120と、通信部130と、処理部200aと、記憶部300aとを備え、一種のコンピュータシステムとして構成される。
【0118】
本実施形態では、処理部200aは、滞留量算出部201と、滞留量取得部203aと、パラメータ制御部210aと、実行制御部220と、を含む。
【0119】
滞留量取得部203aは、踏切警報開始からの時系列の滞留量を今回時系列滞留量データ313aとして取得する。
【0120】
パラメータ制御部210aは、実行開始指示パラメータ制御部215aと、検知エリア設定部217aと、を備え、障害物検知処理で用いる制御パラメータ(実行開始指示パラメータ、分割数パラメータ、及び閾値時間パラメータ)を制御する。
【0121】
実行開始指示パラメータ制御部215aは、滞留量取得部203aによって取得された今回時系列滞留量データ313aが示す滞留量が、時系列滞留量基準データ315aが示す滞留量に対して相当条件を満たしたタイミングを検出し、当該検出に応じて実行制御開始を指示するように制御パラメータを制御する。
【0122】
検知エリア設定部217aは、エリア設定データ311aを用いて検知対象領域に検知エリアを設定して、分割数パラメータ及び閾値時間パラメータを制御する。
【0123】
また、記憶部300aには、エリア設定データ311aと、今回の時系列滞留量データである今回時系列滞留量データ313aと、時系列滞留量基準データ315aと、が記憶される。
【0124】
[処理の流れ]
図21は、第2実施形態において障害物検知装置1aが行う処理の流れを示すフローチャートである。図21に示すように、本処理では、踏切警報が開始された場合に(ステップS300:YES)、先ず、滞留量取得部203aが、今回時系列滞留量データ313aの取得を開始する(ステップS301)。滞留量取得部203aは、滞留量算出部201が随時算出している時系列の滞留量を示す時系列滞留量データを、今回時系列滞留量データ313aとして取得する。
【0125】
その後は、実行開始指示パラメータ制御部215aが、ステップS301で取得される今回時系列滞留量データ313aと、時系列滞留量基準データ315aとを対比して、今回時系列滞留量データ313aが示す滞留量が、時系列滞留量基準データ315aが示す滞留量に対して相当条件を満たしたタイミングを検知開始タイミングとして検出する(ステップS303)。そして、実行開始指示パラメータ制御部215aは、検知開始タイミングを検出したならば(ステップS305:YES)、障害物検知処理の実行制御開始を指示するように実行開始指示パラメータを制御する(ステップS307)。また、実行開始指示パラメータ制御部215aは、検知開始タイミングを検出しないまま(ステップS305:NO)、検出期間の終期となった場合も(ステップS309:YES)、ステップS307に移行して、障害物検知処理の実行制御開始を指示するように実行開始指示パラメータを制御する。
【0126】
そして、ステップS307での実行開始指示パラメータの制御により、実行制御部220が、障害物検知処理の実行制御を開始する。その場合は、検知エリア設定部217aが、エリア設定データ311aを用いて検知対象領域に検知エリアを設定する制御を開始して、分割数パラメータ及び閾値時間パラメータを制御する(ステップS311)。
【0127】
その後は、実行制御部220が、ステップS311での分割数パラメータ及び閾値時間パラメータの制御のもとで踏切障害物を検知し、外部通知を行う。すなわち、先ず、分割部221が、ステップS311での検知エリアの設定に従って、検知対象領域20を道路通行方向に沿ってN個(N≧1)の検知エリアに分割する(ステップS313)。続いて、判定部223が、センサ17からの検知信号に基づいて、検知対象領域20に何らかの物体が存在するかを判定する。そして、判定部223は、物体が存在する場合には(ステップS315:YES)、物体の位置から当該物体が存在する検知エリアを判定し(ステップS317)、当該検知エリアに当該物体が存在する状態の継続時間が、当該検知エリアの閾値時間に達したか否かを判定する。継続時間が閾値時間に達していない場合は(ステップS319:NO)、ステップS323に移行する。一方、継続時間が閾値時間に達した場合には(ステップS319:YES)、外部通知制御部225が、当該物体を踏切障害物として検知して、特殊信号発光機15へ発報信号を出力する等の外部通知を行う(ステップS321)。踏切警報が終了するまでは(ステップS323:NO)、ステップS313に戻って上記した処理を繰り返す。
【0128】
そして、踏切警報が終了した場合には(ステップS323:YES)、障害物検知処理の実行制御を終了し、ステップS300に戻って踏切警報が開始されるまで待機する。
【0129】
以上説明したように、第2実施形態によれば、時系列滞留量基準データ315aと、今回時系列滞留量データ313aとを対比して検知開始タイミングを検出して、障害物検知処理の実行制御を開始することができる。また、障害物検知装置1aで過去に収集された踏切警報時毎の複数の踏切警報時取得データ5をもとにシミュレーションを行って、検知エリアの設定に用いるエリア設定(N個の値及び検知エリア毎の閾値時間)を選定することができる。これによれば、踏切道にどのくらいの人や車両が存在するのかに応じた制御を行って踏切障害物を検知し、外部へ通知することが可能となる。
【0130】
なお、季節や天候、時間帯等が異なる踏切警報時取得データ5を障害物検知装置1aから取得することで、季節毎や天候毎、時間帯毎に、好適条件を満たすエリア設定(N個の値及び検知エリア毎の閾値時間)を選定することができる。その場合は、障害物検知装置1aは、現在時刻や周辺環境等に応じて検知開始タイミングから全遮断完了までの障害物検知処理で用いるエリア設定を使い分けて、踏切障害物を検知することが可能となる。
【0131】
また、第1実施形態では、踏切警報が開始された場合は、片遮断完了のタイミングを検知開始タイミングとして障害物検知処理の実行制御を開始することとした。これに対し、第2実施形態で説明した検知開始タイミングの検出を行って、障害物検知処理の実行制御を開始する構成としてもよい。すなわち、第2実施形態での踏切警報開始後の検知開始タイミングの検出と、第1実施形態での通行量に応じた障害物検知処理の実行制御と、を組み合わせて踏切障害物を検知する構成も可能である。
【0132】
また、第2実施形態では、エリア設定データ311aを用いた障害物検知処理を例示したが、今回時系列滞留量データ313aを用いて踏切障害物を検知する構成も可能である。図22は、図17に示したタイミングt2以降の時系列の滞留量を含む今回時系列滞留量データ313aを示す図であり、正常時(踏切道に踏切障害物が存在しない場合)の例を示している。図22は、タイミングt2が検知開始タイミングとして検出された例である。また、図23は、図22とは別の踏切警報時の今回時系列滞留量データ313aを示す図であり、異常時(踏切道に踏切障害物が存在している場合)の例を示している。図23は、タイミングt3が検知開始タイミングとして検出された例である。
【0133】
踏切道に踏切障害物が存在しない正常時は、今回時系列滞留量データ313aが示す滞留量の値は最終的に「0」になる。そのため、図22に例示するように、検知開始タイミングt2以降の滞留量の変化は減少傾向を示す。これに対し、踏切道に踏切障害物が存在している場合は、図23に例示するように、検知開始タイミングt3以降の滞留量の変化が減少傾向になく、時系列滞留量基準データ315aが示す滞留量よりも高い値で推移する。そこで、検知開始タイミング以降の今回時系列滞留量データ313aが後者の変化傾向を示す場合に、踏切障害物が存在するとして、外部通知を行う構成としてもよい。
【0134】
また、第2実施形態では、障害物検知装置1aは、監視対象の踏切道の滞留量を事前に収集し、図16を参照して説明した要領で回帰分析を行って時系列滞留量基準データ315aを生成・設定することとした。これに対し、設定装置3の基準データ設定部31によって設定された時系列滞留量基準データを障害物検知装置1aが取得し、時系列滞留量基準データ315aとして設定する構成としてもよい。つまり、設定装置3では、シミュレーションのために障害物検知装置1aから時系列滞留量データを取得して回帰分析を行い、時系列滞留量基準データを設定している。障害物検知装置1aが、設定装置3から当該時系列滞留量基準データを取得する構成にすることで、障害物検知装置1aにおいて回帰分析を行う必要がない。
【符号の説明】
【0135】
1,1a 障害物検知装置、200,200a 処理部、201 滞留量算出部、203,203a 滞留量取得部、210,210a パラメータ制御部、211 参照データ設定部、213 通行量判定部、215,215a 実行開始指示パラメータ制御部、217,217a 検出エリア設定部、220 実行制御部、221 分割部、223 判定部、225 外部通知制御部、300,300a 記憶部、301 第1のエリア設定データ、303 第2のエリア設定データ、305 第3のエリア設定データ、311a エリア設定データ、307 開始時滞留量データ、309 開始時滞留量参照データ、313a 今回時系列滞留量データ、315a 時系列滞留量基準データ、3 設定装置、31 基準データ設定部、33 シミュレーション処理部、10 踏切道、11 踏切保安設備、12 踏切遮断機、14 踏切制御装置、15 特殊信号発光機、17 センサ、19 カメラ、20 検知対象領域
図1
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図6
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