IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社鷺宮製作所の特許一覧

特開2024-147998ヘルムホルツ共鳴器およびこれを備えた吸音装置、振動発電装置
<>
  • 特開-ヘルムホルツ共鳴器およびこれを備えた吸音装置、振動発電装置 図1
  • 特開-ヘルムホルツ共鳴器およびこれを備えた吸音装置、振動発電装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147998
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】ヘルムホルツ共鳴器およびこれを備えた吸音装置、振動発電装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/02 20060101AFI20241009BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20241009BHJP
   H02N 1/08 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
G10K11/02 140
G10K11/16 140
H02N1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060838
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石黒 巧真
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA06
5D061AA16
5D061CC04
(57)【要約】
【課題】ヘルムホルツ共鳴器の共鳴を妨げることなく、共鳴器内への異物の混入を防止することができるヘルムホルツ共鳴器を提供する。
【解決手段】空洞と前記空洞に連通するネック部とを有し、前記ネック部から離間した位置に音を通過させるフィルタ部材を設けることを特徴とする、ヘルムホルツ共鳴器を提供する。また、当該ヘルムホルツ共鳴器を備えた吸音装置、および振動発電装置も提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞と前記空洞に連通するネック部とを有し、
前記ネック部から離間した位置に音を通過させるフィルタ部材を設けることを特徴とする、ヘルムホルツ共鳴器。
【請求項2】
前記ネック部と前記フィルタ部材との間の離間空間の体積は前記ネック部の体積の15倍以上である、請求項1に記載のヘルムホルツ共鳴器。
【請求項3】
前記ネック部と離間した前記フィルタ部材の流路面積は前記ネック部のネック面積の15倍以上である、請求項1に記載のヘルムホルツ共鳴器。
【請求項4】
前記フィルタ部材は、不織布である、請求項1に記載のヘルムホルツ共鳴器。
【請求項5】
前記フィルタ部材は、防水透湿膜である、請求項1に記載のヘルムホルツ共鳴器。
【請求項6】
前記フィルタ部材は、e-ポリテトラフルオロエチレンから形成される、請求項1に記載のヘルムホルツ共鳴器。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のヘルムホルツ共鳴器を備えた吸音装置。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のヘルムホルツ共鳴器と、前記ヘルムホルツ共鳴器に設けられた振動発電素子とを有する、振動発電装置。
【請求項9】
前記ヘルムホルツ共鳴器は振動部を有し、前記振動発電素子は前記振動部に設けられている、請求項8に記載の振動発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルムホルツ共鳴器に関する。
【背景技術】
【0002】
音の振動を大きくする方法の一つに、ヘルムホルツ共鳴器が知られている。ヘルムホルツ共鳴器は、空洞と、当該空洞に連通し、一つの側面に開口部を有するネック部とを備えた箱体からなり、この箱体の空洞部の体積Vと、ネック部の面積Sおよび長さLから下記の式1によって決定される特定の周波数の振動に対して共鳴するものである。
【式1】
【0003】
(f:共鳴周波数
c:音速
S:ネック面積
L:ネック長さ
V:空間体積)
【0004】
ヘルムホルツ共鳴器は開口部を有するため、ヘルムホルツ共鳴器内に異物が侵入しやすく、異物により空間体積が減少し、共鳴周波数が変化するなどの問題があった。そこで、特許文献1は、ヘルムホルツ共鳴器の開口部に不織布などによる異物侵入防止膜を張り付けることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-62267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、後述する出願人の研究結果より、図2に示すように、異物侵入防止膜をヘルムホルツ共鳴器のネック部の開口部に接するように貼付すると(図2中のa参照)、音が通過する素材で形成された異物侵入防止膜であっても、十分に共鳴させることができないことが分かった。
【0007】
これらを鑑み、本発明は、ヘルムホルツ共鳴器の共鳴を妨げることなく、共鳴器内への異物の混入を防止することができるヘルムホルツ共鳴器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る一実施態様のヘルムホルツ共鳴器は、空洞と前記空洞に連通するネック部とを有し、前記ネック部から離間した位置に音を通過させるフィルタ部材を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ヘルムホルツ共鳴器の共鳴を妨げることなく、共鳴器内への異物の混入を防止することができるヘルムホルツ共鳴器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)本発明の第1実施形態のヘルムホルツ共鳴器の斜視図である。(b)(a)におけるIb-Ib線に沿った断面図である。
図2】ネック部とフィルタ部材との離間距離とヘルムホルツ共鳴との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明するが、本発明はこれらに限られない。
【0012】
1.ヘルムホルツ共鳴器
図1(a)は本発明の第1実施形態に係るヘルムホルツ共鳴器100の斜視図であり、図1(b)はIb-Ib線に沿った断面図である。図1(a)および図1(b)に示されるように、ヘルムホルツ共鳴器100は、空洞20と、空洞20に連通するネック部30とを有し、ネック部30から離間した位置にフィルタ部材50を設ける。以下、ヘルムホルツ共鳴器100の各構成を順に説明する。
【0013】
なお、詳細は後述するが、特許文献1では、音響孔を密接するように異物侵入防止膜が設けられていたのに対し、本実施形態では、ネック部30から離間した位置に音を通過させるフィルタ部材50が設けられることにより、ヘルムホルツ共鳴器の共鳴を妨げることなく、共鳴器内への異物の混入を防止することができる。
【0014】
筐体10は、空洞20を画定し、空洞20と外部環境とを連通するネック部30を有する。空洞20は、ヘルムホルツ共鳴器100に取り込まれた音が共鳴する空間である。さらに筐体10は、ネック部30と外部環境との間に離間空間40を有する。筐体10は、任意の形状であってよく、例えば、円筒形状や直方体形状であってもよい。
【0015】
筐体10は、筐体10の他の部分よりも剛性の低い振動部(不図示)が設けられていてもよい。振動部は、筐体10の他の部分よりも可撓性が高く、音圧を受けて振動することができる。
【0016】
振動部は、筐体10の一部に肉薄部を設け、筐体10の他の部分と一体的に形成してもよい。また、振動部として別個の部品である振動板(不図示)を筐体10に接合し、空洞20を画定してもよい。振動板の接合方法は、これに限定されないが、例えば、接着、溶着、およびねじ留めなどを用いることができる。
【0017】
振動部は任意の形状であってもよい。例えば、円盤状であってもよく、また多角形盤状であってもよい。また、振動部には振動発電素子(不図示)が設けられてもよい。その場合振動発電素子(不図示)を保持する形状をさらに有してもよい。
【0018】
振動部は、筐体10の他の部分と同じ材料から形成されていてもよく、また異なる材料で形成されてもよい。筐体10と振動部とが同じ材料で形成される場合、材料としてポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂、ポリカーボネート、および金属などを用いることができる。また、筐体10と振動部とが異なる材料から形成される場合、上記の材料の組み合わせで作成することができる。例えば筐体10をアクリル樹脂で形成し、PETで形成された振動板を接合して、ヘルムホルツ共鳴器100を形成してもよい。
【0019】
ネック部30は、空洞20と外部環境とを連通する。そのため、ネック部30は、音取り込み口として、外部の音を空洞20内に取り込むことができる。ネック部30は、流路面積であるネック面積S1と流路長さであるネック長さLと体積V1とを有し、空洞20の体積V0と共にヘルムホルツ共鳴器100の共鳴周波数を規定する。
【0020】
本実施形態では、筐体10はネック部30と外部環境との間に離間空間40を有し、離間空間40と外部環境との間に、フィルタ部材50が設けられている。
【0021】
フィルタ部材50は外部の音をヘルムホルツ共鳴器100内部に伝達しつつ、異物の侵入を防ぐ膜である。本実施形態における異物は、設置場所にもよるが、ほこりやゴミ等の固形物だけでなく、水も含む。フィルタ部材50は、好ましくは、防水透湿膜である。例えば、e-ポリテトラフルオロエチレン(e-PTFE)などのフッ素系樹脂で作成された不織布などをフィルタ部材50として用いることができる。
【0022】
また、ヘルムホルツ共鳴器100が屋内に設置される場合には、フィルタ部材50はガーゼなどの防水性がない通気性膜部材であってもよい。
【0023】
図2に離間空間40の体積V2を変化させた場合の周波数と振動振幅との関係をシミュレーションした研究結果を示す。aはネック部30の開口にフィルタ部材50を直接貼ったものであり、離間空間40の体積V2は0である。bは離間空間40の体積V2がネック部30の体積V1の15倍であり、フィルタ部材50の流路面積S2がネック面積S1の15倍の場合の振動振幅を示す。cは離間空間40の体積V2がネック部体積V1の50倍であり、フィルタ部材50の流路面積S2がネック面積S1の50倍である場合の振動振幅を示す。
【0024】
このように、離間空間40の体積V2が0の場合には振動振幅が増幅しない。これには、限定されないが、共鳴振動する際には、ネック部分30の空気が大きく移動するところ、フィルタ部材50が有する整流効果により、この移動が妨げられるためと考察する。
【0025】
一方、離間空間40の体積V2がネック部30の体積V1の15倍の場合には共鳴周波数での増幅が見られる。これより、フィルタ部材50を添付した状態で振動振幅を増幅するため、離間空間40の体積V2はネック部体積V1の15倍以上が好ましく、離間空間40の流路面積S2はネック面積S1の15倍以上であることが好ましい。
【0026】
2.吸音装置
ヘルムホルツ共鳴器100は、吸音装置に設置することができる。本実施形態の吸音装置は、ヘルムホルツ共鳴器100の共鳴を妨げることなく、共鳴器内への異物の混入を防止することができるため、異物による共鳴周波数の変化を受けることなく、吸音機能を発揮することができる。
【0027】
3.振動発電装置
ヘルムホルツ共鳴器100は、筐体10に振動発電素子(不図示)を設け、振動発電装置として用いることができる。例えば、筐体10を形成する壁の一部に振動部(不図示)を設け、当該振動部に振動発電素子を設置することで、ヘルムホルツ共鳴器100により増幅された振動を用いて発電を行うことができる。振動部は、筐体10よりも剛性が低い部分であり、筐体10よりも可撓性が高いため、増幅された音圧を受けて振動することができる。
【0028】
振動発電素子は、振動部における振幅が大きくなる領域に設けられ、振動部が外部からの音圧により振動し、さらにヘルムホルツ共鳴器の共鳴によって増幅された振動で振動部が振動することにより、発電を行う素子である。振動発電素子により発電された電気エネルギーは、配線(不図示)により外部に伝達され、センサ信号などに利用することができる。
【0029】
振動発電素子は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換する素子であれば任意の素子を用いることができる。例えば、振動発電素子として、櫛歯型電極を有する静電誘導型振動発電素子を用いてもよい。また、振動発電素子70は静電誘導型振動発電素子以外にもエレクトレット型発電素子、ピエゾ型発電素子、電磁誘導型、または磁歪型の発電素子を用いてもよい。
【0030】
また振動部自体が振動発電素子を形成してもよい。例えば、振動部に圧電膜を成型した圧電型振動発電素子を設けることができる。
【0031】
以上説明した実施の形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0032】
(1)ヘルムホルツ共鳴器は、空洞と前記空洞に連通するネック部とを有し、前記ネック部から離間した位置に音を通過させるフィルタ部材を設けることを特徴とする。
【0033】
このように構成したので、ヘルムホルツ共鳴器の共鳴を妨げることなく、共鳴器内への異物の混入を防止することができる。
【0034】
(2)ヘルムホルツ共鳴器において、前記ネック部と前記フィルタ部材との間の離間空間の体積は、前記ネック部の体積の15倍以上である。
【0035】
このように構成したので、ヘルムホルツ共鳴器は、フィルタ部材があっても振動振幅を増幅することができる。
【0036】
(3)ヘルムホルツ共鳴器において、前記ネック部と離間した前記フィルタ部材の流路面積は、前記ネック部のネック面積の15倍以上である。
【0037】
このように構成したので、ヘルムホルツ共鳴器は、フィルタ部材があっても振動振幅を増幅することができる。
【0038】
(4)ヘルムホルツ共鳴器において、フィルタ部材は、不織布である。
【0039】
このように構成したので、ヘルムホルツ共鳴器は、異物を共鳴器内に侵入させることなく、音を通過させ、共鳴させることができる。
【0040】
(5)ヘルムホルツ共鳴器において、フィルタ部材は、防水透湿膜である。
【0041】
このように構成したので、ヘルムホルツ共鳴器は、水を共鳴器内に侵入させることなく、音を通過させ、共鳴させることができる。
【0042】
(6)ヘルムホルツ共鳴器において、フィルタ部材は、e-ポリテトラフルオロエチレンから形成される。
【0043】
このように構成したので、ヘルムホルツ共鳴器は、水を共鳴器内に侵入させることなく、音を通過させ、共鳴させることができる。
【0044】
(7)吸音装置は、構成(1)~(6)のいずれか一項に記載のヘルムホルツ共鳴器を備える。
【0045】
このように構成したので、異物による共鳴周波数の変化を受けることなく、吸音機能を発揮することができる
【0046】
(8)振動発電装置は、構成(1)~(6)のいずれか一項に記載のヘルムホルツ共鳴器と、前記ヘルムホルツ共鳴器に設けられた振動発電素子とを有する。
【0047】
このように構成したので、異物による共鳴周波数の変化を受けることなく、振動により発電を行うことができる。
【0048】
(9)振動発電装置において、ヘルムホルツ共鳴器は振動部を有し、前記振動発電素子は前記振動部に設けられている。
【0049】
このように構成したので、ヘルムホルツ共鳴器により増幅された振動を用いて発電を行うことができる。
【0050】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定
されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の
範囲内に含まれる。
【0051】
また、上述の各実施の形態および変形例の一つもしくは複数を、適宜組合せてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 筐体
20 空洞
30 ネック部
40 離間空間
50 フィルタ部材
100 ヘルムホルツ共鳴器
図1
図2