(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001480
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】鋼材
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231227BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20231227BHJP
C21D 8/06 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/60
C21D8/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100157
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】志賀 聡
(72)【発明者】
【氏名】西島 良二
(72)【発明者】
【氏名】千葉 圭介
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA06
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA26
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA02
4K032CC04
4K032CD01
(57)【要約】
【課題】熱間圧延ままであっても、割れが発生することなく冷間鍛造、冷間転造、冷間圧造等の塑性加工を行う事ができ、且つ、高周波焼入れ後において硬さばらつきが少ない高硬度の鋼材の提供。
【解決手段】所望の化学組成を有し、金属組織において、フェライトの面積率が30%以上であり、パーライトの面積率が40%以上であり、パーライトブロックの重心間の平均距離が10~30μmであることを特徴とする鋼材を採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C :0.30~0.60%、
Si:0.01~0.10%、
Mn:0.20~1.50%、
P :0.050%未満、
S :0.001~0.050%、
Al:0.001~0.200%、
N :0.020%未満、
Cr:0.01~0.40%、および
O :0.0030%以下を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
金属組織において、
フェライトの面積率が30%以上であり、パーライトの面積率が40%以上であり、
パーライトブロックの重心間の平均距離が10~30μmであり、
ビッカース硬さが170HV以下であることを特徴とする
鋼材。
【請求項2】
化学組成が、質量%で、
C :0.30~0.60%、
Si:0.01~0.10%、
Mn:0.20~1.50%、
P :0.050%未満、
S :0.001~0.050%、
Al:0.001~0.200%、
N :0.020%未満、
Cr:0.01~0.40%、および
O :0.0030%以下を含有し、
さらに下記A群、B群およびC群からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
金属組織において、
フェライトの面積率が30%以上であり、パーライトの面積率が40%以上であり、
パーライトブロックの重心間の平均距離が10~30μmであり、
ビッカース硬さが170HV以下であることを特徴とする
鋼材。
[A群]
Mo:0.20%以下、
V :0.150%以下、
Nb:0.050%以下、および
Ti:0.050%以下、
からなる群から選択される1種または2種以上
[B群]
Cu:0.40%以下、
Ni:0.30%以下、
Sn:0.100%以下、および
B :0.0050%以下
からなる群から選択される1種または2種以上
[C群]
Ca:0.0050%以下、および
Mg:0.0050%以下
からなる群から選択される1種または2種
【請求項3】
質量%で、前記A群を含有する化学組成を有する請求項2に記載の鋼材。
【請求項4】
質量%で、前記B群を含有する化学組成を有する請求項2に記載の鋼材。
【請求項5】
質量%で、前記C群を含有する化学組成を有する請求項2に記載の鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化の観点から、例えば、歯車、シャフト、ボルト等の自動車用部品の製造において、熱間鍛造を冷間鍛造へ切り替えることが検討されている。また、シャフト等の自動車用部品の製造においては、部品硬度を確保するために、冷間鍛造後に行う浸炭焼入れを、高周波焼入れに切り替えることが検討されている。
【0003】
熱間鍛造を冷間鍛造に切り替えることにおいて、鋼材の延性不足の課題が挙げられる。この課題を解決するために、一般的には、冷間鍛造に供される鋼材には、冷間鍛造前に球状化焼鈍(SA)が施される。球状化焼鈍は、鋼材を高温域まで加熱して長時間保持する必要があるため、加熱炉等の熱処理設備が必要となり、且つ、加熱のためのエネルギーを消費する。そのため、球状化焼鈍を行うと製造コストが増大してしまう。このため、生産性の向上や省エネルギー化等の観点から、球状化焼鈍を簡略化および省略するための様々な技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、Ti炭化物、Tiを含有する複合炭化物、Ti窒化物を微細に析出させ、そのことによって圧延または鍛造中のオーステナイト結晶粒の成長を抑制し圧延または鍛造後の組織においてフェライト量を増加させ、かつ、フェライト粒度を均一にし、冷間加工性および熱処理歪み特性を向上させた鋼が開示されている。
【0005】
特許文献2には、冷間加工時に動的歪時効効果を生じさせて変形抵抗を増大させたり、Bの焼入れ性効果を妨げるフリーのNを固定する元素として、Zrおよび/またはHfを添加することで、冷間加工前の軟化焼鈍処理を省略して、非調質のまま良好に冷間加工を行うことができ、かつ部品成形後に熱処理を施した場合であっても、安定した強度を確保することのできる強度安定性に優れた線状または棒状鋼が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3333697号公報
【特許文献2】特許第3949899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
冷間鍛造後に高周波焼入れを行う際には、高周波焼入れ前の金属組織の適正化が課題となる。高周波焼入れは、高周波誘導加熱により急速加熱を行う熱処理である。高周波焼入れにより金属組織がオーステナイト化される時間は非常に短時間であり、炭素の固溶が不十分であれば硬さばらつきが生じる。冷間鍛造品は、球状セメンタイトが分散した組織、あるいは、フェライトおよびパーライトの複相組織であるため、冷間鍛造品に対して高周波焼入れを行うと、炭化物がオーステナイトへ十分に固溶できず、硬さばらつきが生じる。このような硬さばらつきを抑制するためには、高周波焼入れ前の金属組織をできる限り均一化することが有効である。
【0008】
高周波焼入れ前の金属組織を均一化するため、冷間鍛造後に、ベイナイト組織等に変態させる調質処理が施されることが多い。調質処理は、冷間鍛造品を800℃以上に加熱して、焼入れを行う処理であり、コストがかかるばかりでなく環境にも負荷がかかるため省略することが望まれている。
【0009】
特許文献1および2に開示の技術では、微細なフェライトおよびパーライト組織とすることで優れた冷間鍛造性を確保しているが、パーライト組織の分散形態を制御しておらず、高周波焼入れの短時間加熱にて炭素の拡散が不十分となることで、硬さばらつきが生じる場合がある。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、熱間圧延ままであっても、割れが発生することなく冷間鍛造、冷間転造、冷間圧造等の塑性加工を行う事ができ、且つ、高周波焼入れ後において硬さばらつきが少ない高硬度の鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0012】
(1)本発明の一態様に係る鋼材は、化学組成が、質量%で、
C :0.30~0.60%、
Si:0.01~0.10%、
Mn:0.20~1.50%、
P :0.050%未満、
S :0.001~0.050%、
Al:0.001~0.200%、
N :0.020%未満、
Cr:0.01~0.40%、および
O :0.0030%以下を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
金属組織において、
フェライトの面積率が30%以上であり、パーライトの面積率が40%以上であり、
パーライトブロックの重心間の平均距離が10~30μmであり、
ビッカース硬さが170Hv以下である。
(2)本発明の別の態様に係る鋼材は、化学組成が、質量%で、
C :0.30~0.60%、
Si:0.01~0.10%、
Mn:0.20~1.50%、
P :0.050%未満、
S :0.001~0.050%、
Al:0.001~0.200%、
N :0.020%未満、
Cr:0.01~0.40%、および
O :0.0030%以下を含有し、
さらに下記A群、B群およびC群からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
金属組織において、
フェライトの面積率が30%以上であり、パーライトの面積率が40%以上であり、
パーライトブロックの重心間の平均距離が10~30μmであり、
ビッカース硬さが170Hv以下である。
[A群]
Mo:0.20%以下、
V :0.150%以下、
Nb:0.050%以下、および
Ti:0.050%以下、
からなる群から選択される1種または2種以上
[B群]
Cu:0.40%以下、
Ni:0.30%以下、
Sn:0.100%以下、および
B :0.0050%以下
からなる群から選択される1種または2種以上
[C群]
Ca:0.0050%以下、および
Mg:0.0050%以下
からなる群から選択される1種または2種
(3)上記(2)に記載の鋼材は、質量%で、前記A群を含有する化学組成を有してもよい。
(4)上記(2)に記載の鋼材は、質量%で、前記B群を含有する化学組成を有してもよい。
(5)上記(2)に記載の鋼材は、質量%で、前記C群を含有する化学組成を有してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る上記態様によれば、熱間圧延ままであっても、割れが発生することなく冷間鍛造、冷間転造、冷間圧造等の塑性加工を行う事ができ、且つ、高周波焼入れ後において硬さばらつきが少ない高硬度の鋼材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態に係る鋼材の各要件について詳しく説明する。
まず、本実施形態に係る鋼材の化学組成について説明する。以下に記載する「~」を挟んで記載される数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」、「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。化学組成についての「%」は全て「質量%」を意味する。
【0015】
本実施形態に係る鋼材は、例えば、冷間鍛造、冷間転造、冷間圧造等の塑性加工を施されることで部品形状とされた後、高周波焼入れを施されてから使用される。まず、本実施形態に係る鋼材の化学組成について説明する。
本実施形態に係る鋼材は、化学組成が、質量%で、C:0.30~0.60%、Si:0.01~0.10%、Mn:0.20~1.50%、P:0.050%未満、S:0.001~0.050%、Al:0.001~0.200%、N:0.020%未満、Cr:0.01~0.40%、O:0.0030%以下、並びに、残部:Feおよび不純物を含有する。
以下、各元素について説明する。
【0016】
C:0.30~0.60%
Cは、鋼材の硬度を高める元素である。C含有量が0.30%未満であると、高周波焼入れ後の部品において所望の硬度を得ることができない。そのため、C含有量は0.30%以上とする。C含有量は、0.35%以上が好ましく、0.40%以上がより好ましい。
一方、C含有量が0.60%超であると、鋼材の硬度が高くなりすぎて、冷間加工性が劣る。そのため、C含有量は0.60%以下とする。C含有量は、0.55%以下が好ましく、0.50%以下がより好ましい。
【0017】
Si:0.01~0.10%
Siは、鋼材の焼入れ性を高める元素である。Si含有量が0.01%未満であると、高周波焼入れ後の部品において所望の硬度を得ることができない。そのため、Si含有量は0.01%以上とする。Si含有量は、好ましくは0.02%以上であり、より好ましくは0.04%以上である。
一方、Si含有量が0.10%超であると、鋼材の硬度が高くなりすぎて、冷間加工性が劣る。そのため、Si含有量は0.10%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.08%以下である。
【0018】
Mn:0.20~1.50%
Mnは、高周波焼入れ後の部品の硬度を高める元素である。Mn含有量が0.20%未満であると、高周波焼入れ後の部品において所望の硬度を得ることができない。そのため、Mn含有量は0.20%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.40%以上であり、より好ましくは0.60%以上である。
一方、Mn含有量が1.50%超であると、鋼材の硬度が高くなりすぎて、冷間加工性が劣る。そのため、Mn含有量は1.50%以下とする。Mn含有量は、好ましくは1.25%以下であり、より好ましくは1.00%以下である。
【0019】
P:0.050%未満
Pは、意図的に含有させなくても鋼中に含まれ得る元素である。Pは鋼中で偏析し易く、局所的な延性低下の原因となる。特に、P含有量が0.050%以上であると、局所的な延性低下が著しくなる。したがって、P含有量は0.050%未満とする。P含有量は、好ましくは0.030%以下である。
P含有量の下限値は特に限定しないが、0%としてもよく、0%超または0.002%以上としてもよい。
【0020】
S:0.001~0.050%
Sは、意図的に含有させなくても鋼中に含まれ得る元素である。Sは鋼中でMnと結合してMnSを形成し、熱間圧延時の割れ発生の原因となる。したがって、S含有量は0.050%以下とする。S含有量は、好ましくは0.040%以下であり、より好ましくは0.030%以下である。
S含有量を過度に低減すると脱Sコストが著しく高くなるため、S含有量は0.001%以上とする。S含有量は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.010%以上である。
【0021】
Al:0.001~0.200%
Alは脱酸剤として有効な元素である。Al含有量が0.001%未満であると、脱酸剤としての効果が得られない。そのため、Al含有量は0.001%以上とする。Al含有量は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.010%以上である。
一方、Al含有量が0.200%超であると、圧延材に粗大な窒化物を形成することで、冷間加工時の割れ発生起点となる。したがって、Al含有量は0.200%以下とする。Al含有量は、好ましくは0.150%以下であり、より好ましくは0.100%以下である。
【0022】
N:0.020%未満
Nは、意図的に含有させなくても鋼中に含まれ得る元素である。N含有量が0.020%以上であると、高周波焼入れ後の部品の靭性劣化が顕著となる。したがって、N含有量は0.020%未満とする。N含有量は、好ましくは0.018%以下であり、より好ましくは0.015%以下である。
N含有量の下限値は特に限定しないが、0%以上としてもよく、0%超または0.005%以上としてもよい。
【0023】
Cr:0.01~0.40%
Crは、鋼の焼入れ性を高め、高周波焼入れ後の部品の硬度を高める元素である。Cr含有量が0.01%未満であると、高周波焼入れ後の部品において所望の硬度を得ることができない。そのため、Cr含有量は0.01%以上とする。Cr含有量は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.10%以上である。
一方、Cr含有量が0.40%超であると、高周波焼入れ時の炭化物の溶体化を阻害し、高周波焼入れ後の部品において硬さばらつきが生じる。そのため、Cr含有量は0.40%以下とする。Cr含有量は、好ましくは0.35%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。
【0024】
O:0.0030%以下
Oは、鋼中に多く含まれると破壊の起点となる粗大な酸化物を形成し、鋼材の冷間加工性を劣化させる。そのため、O含有量は0.0030%以下とする。O含有量は、好ましくは0.0020%以下、より好ましくは0.0015%以下である。
O含有量の下限値は特に限定しないが、0%以上としてもよく、0%超または0.0005%以上としてもよい。
【0025】
本実施形態に係る鋼材の化学組成の残部はFeおよび不純物であってもよい。本実施形態において不純物とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入し、本実施形態に係る鋼材の特性を阻害しない範囲で許容される元素が例示される。
【0026】
本実施形態に係る鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、任意元素として、さらに下記A群、B群およびC群からなる群から選択される1種または2種以上を含有してもよい。以下の任意元素を含有しない場合の含有量は0%である。
[A群]
Mo:0.20%以下、
V :0.150%以下、
Nb:0.050%以下、および
Ti:0.050%以下、
からなる群から選択される1種または2種以上
[B群]
Cu:0.40%以下、
Ni:0.30%以下、
Sn:0.100%以下、および
B :0.0050%以下
からなる群から選択される1種または2種以上
[C群]
Ca:0.0050%以下、および
Mg:0.0050%以下
からなる群から選択される1種または2種
【0027】
Mo:0.20%以下
Moは析出強化により、鋼材の強度を向上させる元素である。この効果を得るために必要に応じてMoを含有させてもよい。しかし、Mo含有量が0.20%超であると、スラブの割れ感受性が高まりスラブの取り扱いが困難になる場合がある。そのため、Mo含有量は0.20%以下とすることが好ましい。
Mo含有量は0%であってもよい。
【0028】
V:0.150%以下
Vは、析出強化により、鋼材の強度を向上させる元素である。この効果を得るために必要に応じてVを含有させてもよい。しかし、V含有量が0.150%超であると、炭窒化物が多量に析出して鋼材の冷間加工性が劣化する場合がある。そのため、V含有量は0.150%以下とすることが好ましい。
V含有量は0%であってもよい。
【0029】
Nb:0.050%以下
Nbは結晶粒径の微細化及びNbCの析出強化により、鋼材の強度を向上させる元素である。この効果を得るために必要に応じてNbを含有させてもよい。しかし、Nb含有量を0.050%超としても上記効果は飽和する。そのため、Nb含有量は0.050%以下とすることが好ましい。
Nb含有量は0%であってもよい。
【0030】
Ti:0.050%以下
Tiは、結晶粒径の微細化及びTiCの析出強化により、鋼材の強度を向上させる元素である。Ti含有量が0.050%超であると、粗大なTiNを形成して高周波焼入れ後の部品の靭性を劣化させる場合がある。そのため、Ti含有量は0.050%以下とすることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.030%以下である。
Ti含有量は0%であってもよい。
【0031】
Cu:0.40%以下
Cuは高周波焼入れ後の部品の硬度を高める元素である。この効果を得るために必要に応じてCuを含有させてもよい。この効果を確実に得るためには、Cu含有量は0.02%以上とすることが好ましい。
しかしながら、Cu含有量が0.40%超であると、高周波焼入れ後の部品の靭性が低下する場合がある。そのため、Cu含有量は0.40%以下とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.25%以下である。
【0032】
Ni:0.30%以下
Niは高周波焼入れ後の部品の硬度を高める元素である。この効果を得るために必要に応じてNiを含有させてもよい。この効果を確実に得るためには、Ni含有量は0.02%以上とすることが好ましい。
しかしながら、Ni含有量が0.30%超であると、高周波焼入れ後の部品の靭性が劣化する場合がある。そのため、Ni含有量は0.30%以下とすることが好ましい。Ni含有量は、より好ましくは0.25%以下である。
【0033】
Sn:0.100%以下
Snは、結晶粒の粗大化を抑制し、鋼材の強度を向上させる元素である。この効果を得るために必要に応じてSnを含有させてもよい。しかし、Sn含有量が0.100%超であると、鋼が脆化して熱間圧延時に破断し易くなる。そのため、Sn含有量は0.100%以下とすることが好ましい。
Sn含有量は0%であってもよい。
【0034】
B:0.0050%以下
Bは、高周波焼入れ時に鋼中のNと結合して窒化物を形成する元素である。B含有量が0.0050%超であると、粗大な窒化物を形成して高周波焼入れ後の部品の靭性を劣化させる場合がある。そのため、B含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0030%以下である。
Bは含有されないことが好ましいため、B含有量は0%であってもよい。
【0035】
Ca:0.0050%以下
Caは鋼中のSを球形のCaSとして固定し、MnSなどの延伸介在物の生成を抑制して鋼材の成形性を向上させる元素である。この効果を得るために必要に応じてCaを含有させてもよい。しかし、Ca含有量を0.0050%超としても上記効果が飽和する。そのため、Ca含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。
Ca含有量は0%であってもよい。
【0036】
Mg:0.0050%以下
Mgは、鋼中の介在物の形状を好ましい形状に調整することにより、鋼材の成形性を高める作用を有する。この効果を得るために必要に応じてMgを含有させてもよい。しかし、Mg含有量が0.0050%超であると、鋼中に介在物が過剰に生成され、却って鋼材の成形性を低下させる場合がある。そのため、Mg含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。
Mg含有量は0%であってもよい。
【0037】
上述した鋼材の化学組成は、一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定すればよい。
なお、各元素含有量は、本実施形態で規定された有効数字に基づいて、測定された数値の端数を四捨五入して、本実施形態で規定された各元素含有量の最小桁までの数値とする。
【0038】
次に、本実施形態に係る鋼材の金属組織について説明する。
本実施形態に係る鋼材は、金属組織において、フェライトの面積率が30%以上であり、パーライトの面積率が40%以上であり、パーライトブロックの重心間の平均距離が10~30μmである。
【0039】
フェライトの面積率:30%以上
フェライトは、比較的硬度が低く、変形能が高い組織である。フェライトの面積率が30%未満であると、鋼材の硬度が高くなりすぎて、冷間加工性が劣化する。そのため、フェライトの面積率は30%以上とする。フェライトの面積率は、好ましくは33%以上であり、より好ましくは35%以上である。
フェライトの面積率の上限は特に限定しないが、後述するパーライトの面積率との関係から、60%以下としてもよい。
【0040】
パーライトの面積率:40%以上
本実施形態に係る鋼材は、パーライトブロックの重心間の平均距離を制御することで、高周波焼入れ後の部品の硬さばらつきを低減する。そのため、本実施形態においてパーライトは重要な組織である。
パーライトの面積率が40%未満であると、高周波焼入れ後の部品において硬さばらつきを低減することができない。そのため、パーライトの面積率は40%以上とする。パーライトの面積率は、好ましくは40%以上であり、より好ましくは43%以上である。
パーライトの面積率の上限は特に限定しないが、フェライトの面積率との関係から、70%以下としてもよい。
【0041】
残部組織
本実施形態に係る鋼材の金属組織は、フェライトおよびパーライト以外の残部組織として、ベイナイトおよびマルテンサイトを含んでもよい。残部組織の面積率は、所望量のフェライトおよびパーライトを確保するために、5%以下とすることが好ましい。残部組織の面積率は、より好ましくは1%以下であり、より一層好ましくは0%である。
【0042】
フェライトおよびパーライトの面積率は、以下の方法により測定する。
鋼材の表面から5mm以上深い位置から、圧延方向と垂直な断面を観察できるようにサンプルを採取する。このサンプルの断面を鏡面に仕上げる。
【0043】
サンプルの観察面を研磨した後、3体積%硝酸アルコール(ナイタール腐食液)を用いて観察面をエッチングする。エッチングされた観察面の観察視野(0.5mm×1.0mm)について、100倍の光学顕微鏡を用いて組織写真を撮影する。撮影された組織写真において、コントラストにより相を特定する。組織写真において、フェライト、パーライト、ベイナイトおよびマルテンサイトは、コントラストにより容易に区別できる。フェライトは白色の領域として観察される。パーライトはラメラ組織を有する相または黒色および灰色の領域として観察される。フェライトとして観察される領域の面積率を算出することで、フェライトの面積率を得る。また、パーライトとして観察される領域の面積率を算出することで、パーライトの面積率を得る。
なお、ベイナイトおよびマルテンサイトはフェライトよりも明度の低い領域として観察される。
各相の面積率の測定には、例えばWinROOFなど汎用的に使用される画像解析ソフトを用いれば良い。
【0044】
パーライトブロックの重心間の平均距離:10~30μm
パーライトブロックの重心間の平均距離が10μm未満であると、組織の微細化により鋼材の硬度が上昇し、冷間加工性が劣化する。そのため、パーライトブロックの重心間の平均距離は10μm以上とする。パーライトブロックの重心間の平均距離は、好ましくは13μm以上であり、より好ましくは15μm以上である。
一方、パーライトブロックの重心間の平均距離が30μm超であると、パーライトブロックが偏在しているため、高周波焼入れ後の硬さばらつきが大きくなる。そのため、パーライトブロックの重心間の平均距離は30μm以下とする。パーライトブロックの重心間の平均距離は、好ましくは28μm以下、より好ましくは25μm以下である。
【0045】
パーライトブロックの重心間の平均距離は以下の方法により測定する。
上述の面積率の測定方法のときと同様の方法により、100倍の光学顕微鏡を用いて撮影した組織写真からフェライトおよびパーライトを特定する。このときの測定視野は0.5mm×1.0mmとする。特定されたパーライトを黒く、フェライトを白くなるよう二値化を行う。得られた二値化画像を用いて各パーライト粒の重心位置を特定し、近接するパーライト粒同志を対象として重心座標間の平均距離を測定する。二値化から重心間平均距離の測定までの解析は、例えば三谷商事株式会社製WinROOFなど汎用的に使用される画像解析ソフトを用いることで行うことができる。
【0046】
本実施形態に係る鋼材は、ビッカース硬さが170Hv以下であることが好ましい。ビッカース硬さを170Hv以下とすることで、硬度が高くなりすぎず、冷間加工性を高めることができる。ビッカース硬さは、好ましくは160Hv以下であり、より好ましくは150Hv以下である。ビッカース硬さの下限は特に限定しないが、100Hv以上、120Hv以上、130Hv以上としてもよい。
【0047】
本実施形態に係る鋼材は、高周波焼入れ後におけるビッカース硬さが600Hv以上であることが好ましい。高周波焼入れ後におけるビッカース硬さが600Hv以上であれば、高い硬度が要求される自動車用部品に好適に適用することができる。高周波焼入れ後におけるビッカース硬さは、好ましくは620Hv以上であり、より好ましくは650Hv以上である。
【0048】
本実施形態に係る鋼材は、高周波焼入れ後におけるビッカース硬さの標準偏差が20Hv以下であることが好ましい。高周波焼入れ後におけるビッカース硬さの標準偏差が20Hv以下であれば、高周波焼入れ後において硬さばらつきが低減されていると判断することができる。高周波焼入れ後におけるビッカース硬さの標準偏差は、好ましくは15Hv以下であり、より好ましくは10Hv以下である。
このときの高周波焼入れは、例えば、鋼材からφ26mm×50mmのサンプルを採取し、高周波焼入れ装置を用いて、200kW×2.5secの条件で行う。平均加熱速度は300℃/sec以上とする。
【0049】
鋼材のビッカース硬さは以下の方法により測定する。
鋼材から試験片を採取し、板厚断面を耐水研磨紙で研磨する。次に、ダイヤモンド懸濁液を用いてバフ研磨した後、JIS Z 2244-1:2020に準拠して、表面から深さ方向50μm位置におけるビッカース硬さを10点以上測定する。負荷荷重は300gfとする。得られた測定値の平均値を算出することで、ビッカース硬さを得る。また、得られた測定値から標準偏差を算出することで、ビッカース硬さの標準偏差を得る。
高周波焼入れ後のビッカース硬さは、鋼材に対して高周波焼入れを施した後、上述の方法によりビッカース硬さを測定する。
ビッカース硬さの測定にはマイクロビッカース硬さ試験機を用いる。
【0050】
次に、本実施形態に係る鋼材の好ましい製造方法について説明する。以下に説明する製造方法によれば、本実施形態に係る鋼材を安定的に製造することができる。なお、以下に説明する温度は、スラブまたは鋼板の表面温度のことである。
【0051】
本実施形態に係る鋼材の好ましい製造方法は、以下の工程を備える。
熱間圧延の仕上げ圧延において、スタンド間の通過時間を1.0秒未満、且つ、仕上げ圧延完了温度を850~950℃として、仕上げ圧延を行う。
仕上げ圧延完了温度から500℃までの平均冷却速度は、0.05~1.00℃/secであり、且つ、下記(1)式を満足する平均冷却速度V(℃/sec)で冷却する。
0.02<C×Mn×V<0.15 …(1)
ただし、上記式中のCおよびMnはそれぞれ質量%でのC含有量およびMn含有量を示す。
以下、各工程について説明する。
【0052】
熱間圧延に供する鋳片は一般的な方法により製造すればよく、上述の化学組成を有する鋼を溶製することで製造すればよい。
また、熱間圧延開始温度(粗圧延の1スタンド目の入側温度)は、窒化物を十分に固溶させ、鋼材の冷間加工性を高めることができるため、1000℃以上とすることが好ましい。熱間圧延開始温度の上限は、例えば1300℃以下としてもよい。
【0053】
スタンド間の通過時間:1.0秒未満、且つ、仕上げ圧延完了温度:850~950℃
熱間圧延の仕上げ圧延では、仕上げ圧延の各スタンド間の通過時間を1.0秒未満とし、且つ、仕上げ圧延完了温度を850~950℃とすることが好ましい。ここでいう各スタンド間の通過時間とは、あるスタンドで圧延されてから、次のスタンドで圧延されるまでの時間のことである。各スタンド間の通過時間を1.0秒未満とすることで、ひずみの回復による粗大粒の生成を抑制することができる。その結果、パーライトブロックの重心間の平均距離を好ましく制御することができる。
仕上げ圧延完了温度(仕上げ圧延の最終スタンドの出側温度)を850℃以上とすることで、フェライトの微細化による冷間加工性の劣化を抑制することができる。また、仕上げ圧延完了温度を950℃以下とすることで、パーライトブロックの重心間の平均距離が長くなることを抑制することができる。その結果、高周波焼入れ後の硬さばらつきを低減することができる。
【0054】
平均冷却速度V:0.05~1.00℃/sec、且つ、上記(1)式を満足する
仕上げ圧延完了後は、仕上げ圧延完了温度から500℃までの範囲を0.05~1.00℃/secであり、且つ、上記(1)式を満足する平均冷却速度Vで冷却する。平均冷却速度Vを0.05℃/sec以上とすることで、粗大なフェライトの生成を抑制することができ、結果としてパーライトブロックの重心間の平均距離が長くなることを抑制することができる。その結果、高周波焼入れ後の硬さばらつきを低減することができる。また、平均冷却速度Vを1.00℃/sec以下とすることで、ベイナイトの生成による高硬度化を抑制することができ、冷間加工性の劣化を抑制することができる。
また、鋼材の化学組成中のC含有量およびMn含有量と、平均冷却速度Vとを上記(1)式を満足するように制御することで、所望の金属組織を得ることができる。上記(1)の中辺を0.02超とすることで、高周波焼入れ後の硬さばらつきを低減することができる。また、上記(1)式の中辺を0.15未満とすることで、高硬度化による冷間加工性の劣化を抑制することができる。
【0055】
以上説明した製造方法により、本実施形態に係る鋼材を安定的に製造することができる。
【実施例0056】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0057】
真空溶解炉を用いて、表1に示す化学組成を有する150kgのインゴットを溶製した。得られたインゴットに対して分塊圧延を行うことで、鋼片を得た。得られた鋼片に対し、表2に記載の条件により熱間圧延および冷却を施すことで、表3に示す棒鋼(鋼材)を得た。なお、表2に記載の平均冷却速度Vは、仕上げ圧延完了温度から500℃までの平均冷却速度である。
【0058】
得られた棒鋼について、上述の方法によりフェライトおよびパーライトの面積率、パーライトブロックの重心間の平均距離、並びに、ビッカース硬さを測定した。
また、得られた棒鋼に対して上述の条件により高周波焼入れを施し、高周波焼入れ後の棒鋼についてビッカース硬さおよびビッカース硬さの標準偏差を測定した。
得られた結果を表3に示す。
【0059】
得られたビッカース硬さが170Hv以下であった場合、熱間圧延ままであっても、割れが発生することなく冷間鍛造、冷間転造、冷間圧造等の塑性加工を行う事ができる、すなわち冷間加工性に優れると判断し、合格と判定した。一方、得られたビッカース硬さが170Hv超であった場合、冷間加工性に劣ると判断し、不合格と判定した。
【0060】
得られた高周波焼入れ後のビッカース硬さが600Hv以上であった場合、高周波焼入れ後において高硬度を有すると判断し、合格と判定した。一方、得られた高周波焼入れ後のビッカース硬さが600Hv未満であった場合、高周波焼入れ後において高硬度を有さないと判断し、不合格と判定した。
【0061】
得られた高周波焼入れ後のビッカース硬さの標準偏差が20Hv以下であった場合、高周波焼入れ後において硬さばらつきが低減されていると判断し、合格と判定した。一方、得られた高周波焼入れ後のビッカース硬さの標準偏差が20Hv超であった場合、高周波焼入れ後において硬さばらつきが低減されていないと判断し、不合格と判定した。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
表1~3を見ると、本発明例に係る鋼材は、優れた冷間加工性を有し、且つ、高周波焼入れ後において硬さばらつきが少なく、高硬度であることが分かる。一方、比較例に係る鋼材はいずれかの特性が劣化していることが分かる。
本発明に係る上記態様によれば、熱間圧延ままであっても、割れが発生することなく冷間鍛造、冷間転造、冷間圧造等の塑性加工を行う事ができ、且つ、高周波焼入れ後において硬さばらつきが少ない高硬度の鋼材を提供することができる。