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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148002
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】インクジェット用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20241009BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241009BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060848
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】長西 克樹
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EA13
2C056FC01
2H186BA10
2H186DA14
2H186FB09
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB54
4J039BC07
4J039BC20
4J039BE12
4J039BE22
4J039EA36
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】      (修正有)
【課題】吐出安定性に優れると共に、所望の画像濃度と優れた耐擦過性とを有する画像を形成できるインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】インクジェット用インクは、顔料と、第1界面活性剤と、第2界面活性剤と、水性媒体とを含有する。前記第1界面活性剤は、下記一般式(a)で表される化合物と、下記一般式(b)で表される化合物とを酸の存在下で反応させることにより得ることができる化合物であり、前記第2界面活性剤は、セラミドであり、前記水性媒体のオクタノール/水分配係数LogPは、-0.52以上-0.19以下である。

(式中、Rは、水素原子、又は炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表し、Rは、炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表し、nは、2以上5以下の整数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、第1界面活性剤と、第2界面活性剤と、水性媒体とを含有し、
前記第1界面活性剤は、下記一般式(S1)で表される化合物であり、
前記第2界面活性剤は、下記一般式(S2)で表される化合物であり、
前記水性媒体のオクタノール/水分配係数LogPは、-0.52以上-0.19以下である、インクジェット用インク。
【化1】
(前記一般式(S1)中、
1は、水素原子、又は炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表し、
2は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表し、
nは、2以上5以下の整数を表し、
前記一般式(S2)中、
mは、12以上20以下の整数を表す。)
【請求項2】
前記第1界面活性剤の含有割合は、0.01質量%以上3.00質量%以下である、請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記第2界面活性剤の含有割合は、0.01質量%以上2.00質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
前記第1界面活性剤は、下記化学式(S1-1)で表される化合物又は下記化学式(S1-2)で表される化合物である、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【化2】
【請求項5】
前記一般式(S2)において、mは、14、16又は18を表す、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【請求項6】
前記水性媒体は、水及び水溶性有機溶媒を含み、
前記水溶性有機溶媒は、第1混合溶媒、第2混合溶媒、第3混合溶媒、又は第4混合溶媒であり、
前記第1混合溶媒は、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、プロピレングリコール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルのみを含み、
前記第2混合溶媒は、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、プロピレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及び1,3-プロパンジオールのみを含み、
前記第3混合溶媒は、1,2-ペンタンジオール、プロピレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び1,3-ブタンジオールのみを含み、
前記第4混合溶媒は、1,2-ペンタンジオール、プロピレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールのみを含む、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置には、顔料及び水性媒体を含有する水性のインクジェット用インクを用いるものがある。インクジェット用インクには、吐出安定性に優れると共に、所望の画像濃度と優れた耐擦過性とを有する画像を形成できることが要求される。
【0003】
このような要求に対して、例えば、色材と、アルキルポリオール類とを含有し、アルキルポリオール類には、オクタノール/水分配係数LogPが-0.7以上0.01以下であり、かつ標準沸点が180℃以上250℃以下の第1アルキルポリオールが2種以上含まれるインクジェット用インクが提案されている(特許文献1)。上述のインクジェット用インクは、所定のオクタノール/水分配係数LogPを有するアルキルポリオールを含有することにより、目詰まり回復性及び連続印字安定性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-231107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット用インクによっても、吐出安定性と、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性とを十分に満足することはできない。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑みてなされたものであり、吐出安定性に優れると共に、所望の画像濃度と優れた耐擦過性とを有する画像を形成できるインクジェット用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェット用インクは、顔料と、第1界面活性剤と、第2界面活性剤と、水性媒体とを含有する。前記第1界面活性剤は、下記一般式(S1)で表される化合物である。前記第2界面活性剤は、下記一般式(S2)で表される化合物である。前記水性媒体のオクタノール/水分配係数LogPは、-0.52以上-0.19以下である。
【0008】
【化1】
【0009】
前記一般式(S1)中、R1は、水素原子、又は炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表す。R2は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。nは、2以上5以下の整数を表す。前記一般式(S2)中、mは、12以上20以下の整数を表す。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るインクジェット用インクは、吐出安定性に優れると共に、所望の画像濃度と優れた耐擦過性とを有する画像を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下において、体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、動的光散乱式粒径分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて測定された値である。本明細書では、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
【0012】
質量平均分子量(Mw)の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
【0013】
酸価の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本産業規格)K0070-1992」に従い測定した値である。
【0014】
<インク>
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット用インク(以下、単にインクと記載することがある)を説明する。本発明のインクは、顔料と、第1界面活性剤と、第2界面活性剤と、水性媒体とを含有する。第1界面活性剤は、下記一般式(S1)で表される化合物である。第2界面活性剤は、下記一般式(S2)で表される化合物である。水性媒体のオクタノール/水分配係数LogP(以下、単に「LogP」と記載することがある)は、-0.52以上-0.19以下である。
【0015】
【化2】
【0016】
一般式(S1)中、R1は、水素原子、又は炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表す。R2は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。nは、2以上5以下の整数を表す。一般式(S2)中、mは、12以上20以下の整数を表す。
【0017】
なお、一般式(S1)において、複数のR1は、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。
【0018】
本発明のインクは、上述の構成を備えることにより、吐出安定性に優れると共に、所望の画像濃度と優れた耐擦過性とを有する画像を形成できる。その理由は以下のように推察される。公知のインクを用いたインクジェット記録方法では、画像形成を行い、しばらく時間を置いた後に再度の画像形成を行う際に画像不良が発生し易い。この画像不良は、記録ヘッドのノズルの先端部付近(開口部付近)において、公知のインクのメニスカスが大気と接触し、公知のインクが乾燥することで発生する。公知のインクは、乾燥により水分が失われると、水溶性有機溶媒の含有割合が相対的に高くなり、疎水性が増大する。一方、記録ヘッドのノズルの内部(ノズルの先端部から離れた部位)では、このような現象は発生しない。その結果、記録ヘッドのノズルでは、ノズルの先端部付近に存在する公知のインクは疎水性が高く、ノズルの内部に存在する公知のインクは疎水性が低いという疎水性勾配が発生する。このような疎水性勾配が発生すると、公知のインクに含まれる顔料は、ノズルの先端部付近から、ノズルの内部へと移行する。その結果、記録ヘッドのノズルの先端部付近では、公知のインクの顔料濃度が低下して透明化する。また、記録ヘッドのノズルの内部では、公知のインクの顔料濃度が増大して増粘し、ノズル詰まりが誘発される。これらの結果、公知のインクを用いたインクジェット記録方法では、上述の画像不良が発生する。
【0019】
これに対して、本発明のインクは、第1界面活性剤を含有する。第1界面活性剤は、化粧品などの用途で一般的に用いられる界面活性剤である。第1界面活性剤は、気液界面の移動速度が大きい。そのため、第1界面活性剤は、記録ヘッドの先端部付近において本発明のインクのメニスカスが形成されると、メニスカスに速やかに移動して保護層を形成する。その結果、本発明のインクは、記録ヘッドの先端部付近における乾燥が抑制され、優れた吐出安定性を発揮できる。
【0020】
また、インクジェット記録方法で形成される画像は、記録媒体の表面に顔料が留まっている場合には耐擦過性が不十分となる。一方、インクジェット記録方法で形成される画像は、記録媒体の深部まで顔料が浸透している場合には画像濃度が不十分となる。これに対して、本発明のインクは、第2界面活性剤及び水性媒体を含有することで、形成される画像における顔料の位置を最適化している。具体的には、第2界面活性剤は、記録媒体に対する適度な浸透性を本発明のインクに付与する。その結果、本発明のインクは、記録媒体に着弾した後、記録媒体に速やかに浸透できる。また、本発明のインクは、比較的疎水性の高い水性媒体(LogPが-0.52以上-0.19以下の水性媒体)を含有するため、水性媒体中での顔料の分散状態がやや不安定である。そして、本発明のインクが記録媒体に浸透する際には、親水性が高い成分(例えば、水及び親水性の高い水溶性有機溶媒)は迅速に浸透し、他の成分(例えば、疎水性の高い水溶性有機溶媒及び顔料)はゆっくりと浸透するという速度差が発生する。その結果、本発明のインクは、記録媒体に浸透する際に、記録媒体の表面に比較的近い部位で疎水性の高い水溶性有機溶媒及び顔料が濃縮され、顔料が凝集する。これにより、本発明のインクは、記録媒体の表面から少し浸透した部位に顔料が留まっている画像(即ち、所望の画像濃度と優れた耐擦過性とを有する画像)を形成できる。以下、本発明のインクについて、更に詳細に説明する。なお、以下に説明する各成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
[顔料]
本発明のインクにおいて、顔料は、例えば、顔料被覆樹脂と共に顔料粒子を構成する。顔料粒子は、例えば、顔料を含むコアと、コアを被覆する顔料被覆樹脂とにより構成される。顔料被覆樹脂は、例えば、溶媒に分散して存在する。本発明のインクの色濃度、色相、又は安定性を最適化する観点から、顔料粒子の体積中位径としては、30nm以上200nm以下が好ましく、70nm以上130nm以下がより好ましい。
【0022】
顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193)が挙げられる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、及び71)が挙げられる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(122及び202)が挙げられる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(15、より具体的には15:3)が挙げられる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(19、23、及び33)が挙げられる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック(7)が挙げられる。
【0023】
本発明のインクにおいて、顔料の含有割合としては、0.50質量%以上10.00質量%以下が好ましく、1.50質量%以上5.00質量%以下がより好ましい。顔料の含有割合を0.50質量%以上とすることで、本発明のインクは、所望する画像濃度を有する画像を更に形成し易くなる。また、顔料の含有割合を10.00質量%以下とすることで、本発明のインクの流動性を確保できる。
【0024】
[顔料被覆樹脂]
顔料被覆樹脂は、本発明のインクの水性媒体に可溶な樹脂である。顔料被覆樹脂の一部は、例えば、顔料粒子の表面に存在し、顔料粒子の分散性を最適化する。顔料被覆樹脂の一部は、例えば、本発明のインクの水性媒体に溶解した状態で存在する。
【0025】
顔料被覆樹脂としては、スチレン-アクリル樹脂が好ましい。スチレン-アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び(メタ)アクリル酸のうち少なくとも1つのモノマーと、スチレンとの共重合体である。スチレン-アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する繰り返し単位((メタ)アクリル酸単位)、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位((メタ)アクリル酸アルキルエステル単位)及びスチレン単位を有することが好ましい。
【0026】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル及び(メタ)アクリル酸オクチルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル又はアクリル酸ブチルが好ましい。
【0027】
顔料被覆樹脂の有する全繰り返し単位のうち、(メタ)アクリル酸単位の割合としては、30質量%以上50質量%以下が好ましい。顔料被覆樹脂の有する全繰り返し単位のうち、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位の割合としては、35質量%以上55質量%以下が好ましい。顔料被覆樹脂の有する全繰り返し単位のうち、スチレン単位の割合としては、5質量%以上25質量%以下が好ましい。顔料被覆樹脂としては、メタクリル酸に由来する繰り返し単位と、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位と、アクリル酸ブチルに由来する繰り返し単位と、スチレン単位とを有する樹脂がより好ましい。
【0028】
インクにおいて、顔料被覆樹脂の含有割合としては、0.10質量%以上4.00質量%以下が好ましく、0.50質量%以上2.00質量%以下がより好ましい。顔料被覆樹脂の含有割合を0.10質量%以上とすることで、顔料成分の分散性を更に向上できる。顔料被覆樹脂の含有割合を4.00質量%以下とすることで、本発明のインクの吐出安定性を更に最適化できる。
【0029】
顔料被覆樹脂の酸価としては、30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下が好ましく、70mgKOH/g以上130mgKOH/g以下がより好ましい。顔料被覆樹脂の酸価を30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下とすることで、顔料の分散性を更に向上させつつ、本発明のインクの保存安定性を最適化できる。
【0030】
顔料被覆樹脂の酸価は、顔料被覆樹脂を合成する際に使用するモノマーの量を変えることによって調整できる。例えば、顔料被覆樹脂を合成する際に、酸性の官能基(例えば、カルボキシ基)を有するモノマー(より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸等)を使用することで、顔料被覆樹脂の酸価を増大させることができる。
【0031】
顔料被覆樹脂のMwとしては、10000以上50000以下が好ましく、15000以上25000以下がより好ましい。顔料被覆樹脂のMwを10000以上50000以下とすることで、本発明のインクの粘度の増大を抑制しつつ、形成される画像の画像濃度を更に最適化できる。
【0032】
顔料被覆樹脂のMwは、顔料被覆樹脂の重合条件(より具体的には、重合開始剤の使用量、重合温度、重合時間等)を変えることによって調整できる。
【0033】
顔料被覆樹脂の重合において、重合開始剤の使用量としては、モノマー混合物1モルに対して、0.001モル以上5モル以下が好ましく、0.01モル以上2モル以下がより好ましい。顔料被覆樹脂の重合においては、例えば、重合温度を50℃以上70℃以下、重合時間を10時間以上24時間以下とすることができる。なお、重合した顔料被覆樹脂は、塩基性化合物で等量中和してから本発明のインクの原料として用いることが好ましい。塩基性化合物としては、アルカリ金属イオンの水酸化物(例えば、NaOH又はKOH)が好ましい。
【0034】
[第1界面活性剤]
第1界面活性剤は、一般式(S1)で表される。第1界面活性剤は、本発明のインクの記録媒体に対する浸透性を最適化する。
【0035】
一般式(S1)において、R1で表される炭素原子数1以上3以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基及びiso-プロピル基が挙げられる。一般式(S1)において、R1は、水素原子を表すことが好ましい。
【0036】
一般式(S1)において、R2で表される炭素原子数1以上4以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基及びtert-ブチル基が挙げられる。一般式(S1)において、R2は、メチル基を表すことが好ましい。
【0037】
一般式(S1)において、nは、2又は3を表すことが好ましい。
【0038】
第1界面活性剤としては、下記化学式(S1-1)で表される化合物、又は下記化学式(S1-2)で表される化合物が好ましい。
【0039】
【化3】
【0040】
第1界面活性剤は、例えば、下記一般式(a)で表される化合物と、下記一般式(b)で表される化合物とを酸の存在下で反応させることにより得ることができる。下記一般式(a)及び(b)において、R1、R2及びnは、一般式(S1)と同義である。
【0041】
【化4】
【0042】
本発明のインクにおいて、第1界面活性剤の含有割合としては、0.01質量%以上3.00質量%以下が好ましく、0.07質量%以上1.00質量%以下がより好ましく、0.30質量%以上0.70質量%以下が更に好ましい。第1界面活性剤の含有割合を0.01質量%以上2.00質量%以下とすることで、本発明のインクの記録媒体に対する浸透性を更に最適化できる。
【0043】
[第2界面活性剤]
第2界面活性剤は、一般式(S2)で表される。第2界面活性剤は、記録ヘッドのノズル内において、本発明のインクの乾燥を抑制する。第2界面活性剤は、セラミドと呼ばれ、一般式(S2)で表される様々な化合物が市販されている。
【0044】
一般式(S2)において、mは、偶数であることが好ましく、14以上18以下の整数を表すことがより好ましく、14、16又は18を表すことが更に好ましい。
【0045】
本発明のインクにおいて、第2界面活性剤の含有割合としては、0.01質量%以上2.00質量%以下が好ましく、0.03質量%以上0.70質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.20質量%以下が更に好ましい。第2界面活性剤の含有割合を0.01質量%以上2.00質量%以下とすることで、本発明のインクの乾燥を更に効果的に抑制できる。
【0046】
[他の界面活性剤]
本発明のインクは、界面活性剤として第1界面活性剤及び第2界面活性剤のみを含有してもよいが、第1界面活性剤及び第2界面活性剤以外の界面活性剤(以下、他の界面活性剤と記載する)を更に含有してもよい。本発明が含有する界面活性剤において、第1界面活性剤及び第2界面活性剤の合計含有割合としては、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0047】
他の界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール界面活性剤(アセチレングリコール化合物を含む界面活性剤)、シリコーン界面活性剤(シリコーン化合物を含む界面活性剤)及びフッ素界面活性剤(フッ素樹脂又はフッ素含有化合物を含む界面活性剤)が挙げられる。アセチレングリコール界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物及びアセチレングリコールのプロピレンオキシド付加物が挙げられる。
【0048】
本発明のインクにおける他の界面活性剤の含有割合としては、0.01質量%以上1.00質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.20質量%以下がより好ましい。
【0049】
[水性媒体]
本発明のインクが含有する水性媒体は、水を含む媒体である。水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。水性媒体の具体例としては、水及び水溶性有機溶媒を含む水性媒体が挙げられる。
【0050】
水性媒体のLogPは、-0.52以上-0.19以下であり、-0.52以上-0.35以下が好ましく、-0.52以上-0.45以下がより好ましい。水性媒体のLogPを-0.52以上とすることで、水性媒体中での顔料の分散安定性を適度に不安定にすることができる。その結果、本発明のインクは、形成される画像の画像濃度を最適化できる。水性媒体のLogPを-0.19以下とすることで、水性媒体中で顔料が過度に不安定になることを抑制できる。その結果、本発明のインクは、形成される画像の耐擦過性を最適化できる。なお、水性媒体のLogPは、各種計算ソフト(例えば、実施例に記載のHSPiP)により測定できる。
【0051】
(水)
本発明のインクにおいて、水の含有割合としては、25.00質量%以上70.00質量%以下が好ましく、45.00質量%以上55.00質量%以下がより好ましい。水の含有割合を25.00質量%以上70.00質量%以下とすることで、水性媒体のLogPを上述の範囲に調整し易くなる。
【0052】
(水溶性有機溶媒)
水溶性有機溶媒としては、例えば、グリコール化合物、グリコールエーテル化合物、ラクタム化合物、含窒素化合物、アセテート化合物、チオジグリコール、グリセリン及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0053】
グリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールが挙げられる。
【0054】
グリコールエーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
【0055】
ラクタム化合物としては、例えば、2-ピロリドン及びN-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0056】
含窒素化合物としては、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ホルムアミド及びジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0057】
アセテート化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0058】
水溶性有機溶媒としては、グリコール化合物、又はグリコールエーテル化合物が好ましく、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール又はトリエチレングリコールモノブチルエーテルがより好ましく、下記に示す第1混合溶媒、第2混合溶媒、第3混合溶媒、又は第4混合溶媒であることが更に好ましい。
【0059】
第1混合溶媒は、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、プロピレングリコール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルのみを含む。この場合、本発明のインクにおいて、3-メチル-1,3-ブタンジオールの含有割合としては、9.00質量%以上10.00質量%以下が好ましい。1,2-ペンタンジオールの含有割合としては、8.00質量%以上10.00質量%以下が好ましい。プロピレングリコールの含有割合としては、18.00質量%以上22.00質量%以下が好ましい。トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合としては、5.00質量%以上7.00質量%以下が好ましい。
【0060】
第2混合溶媒は、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、プロピレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及び1,3-プロパンジオールのみを含む。この場合、本発明のインクにおいて、3-メチル-1,3-ブタンジオールの含有割合としては、8.00質量%以上9.00質量%以下が好ましい。1,2-ペンタンジオールの含有割合としては、8.00質量%以上10.00質量%以下が好ましい。プロピレングリコールの含有割合としては、12.50質量%以上14.00質量%以下が好ましい。トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合としては、10.00質量%以上12.00質量%以下が好ましい。1,3-プロパンジオールの含有割合としては、2.00質量%以上4.00質量%以下が好ましい。
【0061】
第3混合溶媒は、1,2-ペンタンジオール、プロピレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び1,3-ブタンジオールのみを含む。この場合、本発明のインクにおいて、1,2-ペンタンジオールの含有割合としては、8.00質量%以上10.00質量%以下が好ましい。プロピレングリコールの含有割合としては、14.00質量%以上16.00質量%以下が好ましい。トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合としては、7.00質量%以上9.00質量%以下が好ましい。3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有割合としては、9.50質量%以上11.50質量%以下が好ましい。1,3-ブタンジオールの含有割合としては、1.00質量%以上3.00質量%以下が好ましい。
【0062】
第4混合溶媒は、1,2-ペンタンジオール、プロピレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含む。この場合、本発明のインクにおいて、1,2-ペンタンジオールの含有割合としては、6.00質量%以上8.00質量%以下が好ましい。プロピレングリコールの含有割合としては、11.50質量%以上12.50質量%以下が好ましい。トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合としては、12.00質量%以上14.00質量%以下が好ましい。3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有割合としては、11.50質量%以上13.50質量%以下が好ましい。
【0063】
本発明のインクにおける水溶性有機溶媒の合計含有割合としては、35.00質量%以上60.00質量%以下が好ましく、40.00質量%以上50.00質量%以下がより好ましい。
【0064】
[他の成分]
本発明のインクは、必要に応じて、公知の添加剤(例えば、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0065】
[インクの製造方法]
本発明のインクは、例えば、顔料を含有する顔料分散液と、第1界面活性剤と、第2界面活性剤と、水性媒体とを攪拌機により均一に混合することにより製造できる。本発明のインクの製造では、各成分を均一に混合した後、フィルター(例えば孔径5μm以下のフィルター)により異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【0066】
(顔料分散液)
顔料分散液は、顔料を含む分散液である。顔料分散液は、顔料被覆樹脂を更に含むことが好ましい。顔料分散液の分散媒としては、水が好ましい。
【0067】
顔料分散液における顔料の含有割合としては、5.0質量%以上30.0質量%以下が好ましく、15.0質量%以上25.0質量%以下がより好ましい。顔料分散液における顔料被覆樹脂の含有割合としては、2.0質量%以上12.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以上7.0質量%以下がより好ましい。
【0068】
顔料分散液は、顔料と、顔料被覆樹脂と、分散媒(例えば、水)と、必要に応じて添加される成分(例えば、他の界面活性剤)とをメディア型湿式分散機により湿式分散することで調製できる。メディア型湿式分散機による湿式分散では、メディアとして、例えば、小粒径ビーズ(例えば、D50が0.5mm以上1.0mm以下のビーズ)を用いることができる。ビーズの材質としては、特に限定されないが、硬質の材料(例えば、ガラス及びジルコニア)が好ましい。
【0069】
本発明のインクの製造において顔料分散液を添加する場合、インクの全原料に対する顔料分散液の割合としては、例えば、10.0質量%以上40.0質量%以下である。
【実施例0070】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0071】
[第1界面活性剤の調製]
以下の方法により、第1界面活性剤である界面活性剤(S1-1)及び(S1-2)を調製した。
【0072】
(界面活性剤(S1-1))
油浴中に浸漬された丸底フラスコを反応容器として用いた。反応容器に、42.06g(0.4mol)の2-(2-アミノエトキシ)エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、分子量105.14)と、70.49g(0.8mol)の酢酸エチルと、0.33gの亜リン酸とを投入し、反応液を得た。N2雰囲気下において、反応液を還流させた(第1還流処理)。第1還流処理後、反応容器内の過剰な酢酸エチル及びエタノール(副生成物)を、蒸留によって留去した。
【0073】
第1還流処理は、以下に詳細を示すFT-IR装置(フーリエ変換赤外分光光度計)によって波数1646cm-1の位置に存在する特定ピークの比(反応により生じるアミドカルボニル構造に由来するピークの比)比をモニタリングしながら実施した。第1還流処理中は、反応の進行と共に、特定ピークの比が増大した。そして、特定ピークの比の増大がストップした段階で、反応が完全に進行したと判断し、第1還流処理を終了した。
【0074】
(FT-IR装置の詳細)
FT-IR装置:Nicolet iS10(サーモ・エレクトロン株式会社製)
ATR装置:一回反射型ATR用附属装置(ZnSe結晶使用)
検出器:DTGS検出器
【0075】
次に、35.24g(0.4mol)の酢酸エチルを反応液に加えた(酢酸エチル添加処理)。次に、N2雰囲気下において、反応液を還流させた(第2還流処理)。第2還流処理後、反応容器内の過剰な酢酸エチル及びエタノール(副生成物)を、蒸留によって留去した(留去処理)。
【0076】
第2還流処理は、上述のFT-IR装置によって特定ピークの比をモニタリングしながら実施した。第2還流処理中は、反応の進行と共に、特定ピークの比が増大した。そして、特定ピークの比の増大がストップした段階で、反応が完全に進行したと判断し、第2還流処理を終了した。
【0077】
酢酸エチル添加処理、第2還流処理及び留去処理の一連の処理は、第2還流処理中に特定ピークの比の増大が確認されなくなるまで、複数回繰り返し実施した。これにより、反応液中の2-(2-アミノエトキシ)エタノールを全て反応させた。得られた反応生成物を、上述の化学式(S1-1)で表される界面活性剤(S1-1)とした。
【0078】
(界面活性剤(S1-2))
2-(2-アミノエトキシ)エタノールの代わりに2-「2-(2-アミノエトキシ)エトキシ」エタノール(分子量149.19)を0.4mol用いた以外は、界面活性剤(S1-1)の調製と同様の方法により、界面活性剤(S1-2)を調製した。
【0079】
[第2界面活性剤の準備]
第2界面活性剤として、以下に示す界面活性剤(S2-1)~(S2-3)を準備した。
・界面活性剤(S2-1):富士フイルム和光純薬株式会社製「C14セラミド」(一般式(S2)で表され、mが14を表す化合物)
・界面活性剤(S2-2):富士フイルム和光純薬株式会社製「C16セラミド」(一般式(S2)で表され、mが16を表す化合物)
・界面活性剤(S2-3):富士フイルム和光純薬株式会社製「C18セラミド」(一般式(S2)で表され、mが18を表す化合物)
【0080】
[シアン顔料分散液の調製]
インクの調製に使用するためのシアン顔料分散液を調製した。シアン顔料分散液の調製においては、まず、顔料被覆樹脂(R)及び水を含有する顔料被覆樹脂溶液を調製した。
【0081】
(顔料被覆樹脂溶液の調製)
メタクリル酸に由来する繰り返し単位(MAA単位)と、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位(MMA単位)と、アクリル酸ブチルに由来する繰り返し単位(BA単位)と、スチレンに由来する繰り返し単位(ST単位)とを有するアルカリ可溶性樹脂を準備した。このアルカリ可溶性樹脂は、質量平均分子量(Mw)が20000、酸価が100mgKOH/gであった。このアルカリ可溶性樹脂における各繰り返し単位の質量比は、「MAA単位:MMA単位:BA単位:ST単位=40:15:30:15」であった。このアルカリ可溶性樹脂と、水酸化カリウム水溶液(KOH濃度:10質量%)とを混合した(中和処理)。中和処理により、アルカリ可溶性樹脂を、等量のKOHで中和した。これにより、顔料被覆樹脂(R)及び水を含有する顔料被覆樹脂溶液を得た。
【0082】
上述のアルカリ可溶性樹脂のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製「HLC-8020GPC」)を用いて下記条件により測定した。検量線は、東ソー株式会社製のTSKgel標準ポリスチレンであるF-40、F-20、F-4、F-1、A-5000、A-2500、及びA-1000と、n-プロピルベンゼンとを用いて作成した。
【0083】
(質量平均分子量の測定条件)
・カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperMultiporeHZ-H」(4.6mmI.D.×15cmのセミミクロカラム)
・カラム本数:3本
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:0.35mL/分
・サンプル注入量:10μL
・測定温度:40℃
・検出器:IR検出器
【0084】
[シアン顔料分散液の調製]
下記表1に示す組成となるように、シアン顔料(トーヨーカラー株式会社製「リオノール(登録商標)ブルーFG-7330」、成分:銅フタロシアニン、カラーインデックス:ピグメントブルー15:3)と、顔料被覆樹脂(R)を含有する上述の顔料被覆樹脂溶液と、アセチレングリコール界面活性剤である日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」(アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物)と、イオン交換水とを、メディア型湿式分散機(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製「DYNO(登録商標)-MILL」)のベッセルに投入した。
【0085】
なお、下記表1の「水」の含有割合は、上述のベッセルに投入したイオン交換水と、顔料被覆樹脂溶液に含まれていた水(詳しくは、アルカリ可溶性樹脂の中和に用いた水酸化ナトリウム水溶液に含まれていた水、及びアルカリ可溶性樹脂及び水酸化カリウムの中和反応で生じた水)との合計含有割合を示す。
【0086】
【表1】
【0087】
次いで、ベッセルの内容物を湿式分散した。メディアとしては、ジルコニアビーズ(粒子径1.0mm)を用いた。メディアの投入量は、ベッセルの容量に対して70体積%とした。分散条件は、温度10℃、周速8m/秒とした。これにより、シアン顔料分散液を得た。
【0088】
得られたシアン顔料分散液に含まれる顔料粒子の体積中位径(D50)を測定した。詳しくは、得られたシアン顔料分散液をイオン交換水で300倍に希釈し、これを測定試料とした。動的光散乱式粒径分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて、測定試料中の顔料粒子のD50を測定した。測定試料中の顔料粒子のD50を、シアン顔料分散液に含まれる顔料粒子のD50とした。なお、測定は10回行い、各測定結果の平均値を顔料粒子のD50として採用した。シアン顔料分散液に含まれる顔料粒子のD50は、100nmであった。
【0089】
<インクの調製>
以下の方法により、実施例1~11及び比較例1~9のインクを調製した。
【0090】
[実施例1]
シアン顔料分散液20.00質量部と、界面活性剤(S1-1)0.50質量部と、界面活性剤(S2-1)0.10質量部と、イオン交換水35.00質量部と、3-メチル-1,3-ブタンジオール9.50質量部と、1,2-ペンタンジオール9.00質量部と、プロピレングリコール19.90質量部と、トリエチレングリコールモノブチルエーテル6.00質量部とをビーカーに投入した。攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL-600」)を用いて、回転速度400rpmで、ビーカーの内容物を混合し、混合液を得た。フィルター(孔径5μm)を用いて混合液をろ過し、混合液に含有される異物及び粗大粒子を除去した。このようにして、実施例1のインクを得た。
【0091】
実施例1のインクに含まれる水性媒体(水、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、プロピレングリコール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテル)のオクタノール/水分配係数LogPを算出した。算出においては、計算ソフトとして、「Hansen Solubility Parameter in Practice(HSPiP)Ver.5.2.06」(開発者:Prof. Steven Abbott達)を用いた。実施例1のインクに含まれる水性媒体のオクタノール/水分配係数LogPは、-0.50であった。
【0092】
[実施例2~11及び比較例1~9]
各成分の種類及び量が表2~4に示す通りとなるように変更した以外は、実施例1のインクの調製と同様の方法により、実施例2~11及び比較例1~9のインクを調製した。比較例9では、第1界面活性剤及び第2界面活性剤とは異なる界面活性剤として、界面活性剤(X)(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)420」、アセチレン系界面活性剤)を用いた。
【0093】
なお、表2~4において、各成分の数値は、含有割合を示す。「MB」は、3-メチル-1,3-ブタンジオールを示す。「TEGMBE」は、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを示す。「MPD」は、3-メチル-1,5-ペンタンジオールを示す。
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
<評価>
以下の方法により、実施例1~11及び比較例1~9のインクについて、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性と、吐出安定性とを評価した。評価結果を下記表5~6に示す。なお、評価は、特に断りのない限り、温度25℃、湿度60%RHで行った。
【0098】
[評価機]
評価機として、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製試験機)を用いた。評価機は、ピエゾ方式の記録ヘッドと搬送台とを備えていた。評価機は、記録ヘッドのノズルをクリーニングするクリーニング機能を備えていた。記録ヘッドは、インク1滴当たりの体積が11pLとなるように設定された。記録ヘッドに、評価対象となるインク(詳しくは、実施例1~11及び比較例1~9のインクの何れか)を充填した。
【0099】
[画像濃度]
画像濃度の評価においては、記録媒体として、A4サイズの普通紙(富士フイルムビジネスイノベーション株式会社製「C2」、PPC用紙)を用いた。評価機を用いて、記録媒体にソリッド画像(サイズ:縦10cm、横10cm、印刷率:100%)を形成した。画像が形成された記録媒体を、温度25℃かつ湿度60%RHの環境下で1時間静置した。静置後、反射濃度計(X-Rite社製「RD-19」)を用いて、上述のソリッド画像のうち無作為に選択された10箇所において画像濃度を測定した。測定した10箇所の画像濃度の平均値を、ID値とした。画像濃度は、以下の基準に沿って判定した。
【0100】
(画像濃度の基準)
A(良好):ID値が1.20以上であった。
B(不良):ID値が1.20未満であった。
【0101】
[吐出安定性]
画像濃度の評価においてソリッド画像を形成した後、温度25℃かつ湿度10%RHの環境において、評価機の記録ヘッドをノズルクリーニング機能によりクリーニングした。クリーニング後、評価機を温度25℃かつ湿度10%RHの環境で1時間静置した。次に、静置後の評価機を用いて、上述の記録媒体に再度ソリッド画像を形成した。吐出安定性の低いインクを用いた評価機では、1時間静置の間に評価機の記録ヘッドのノズルでインクが乾燥し、ソリッド画像の形成ができなくなっていた。吐出安定性は、以下の基準で判定した。
【0102】
(吐出安定性の基準)
A(良好):記録ヘッドのノズルでインクが乾燥せず、ソリッド画像を形成できた。
B(不良):記録ヘッドのノズルでインクが乾燥し、ソリッド画像を形成できなかった。
【0103】
[耐擦過性]
耐擦過性の評価においては、記録媒体として、コピー用紙(モンディ社製「CC90」)を用いた。評価機を用いて、記録媒体にソリッド画像(サイズ:10cm×10cm)を形成した。次に、ソリッド画像を形成した記録媒体の上に未使用の記録媒体(評価用紙)を重ねて載せた。次に、評価用紙の上に直方体状の1kgの錘を置いた。この際、ソリッド画像の中心に錘の重心が位置するように錘を配置した。次に、錘を載せた状態で評価用紙の両端を把持し、評価用紙を一定方向に10往復移動させることにより、評価用紙でソリッド画像を擦った(荷重1kg)。次に、ソリッド画像から評価用紙に転写された汚れ画像の画像濃度を、反射濃度計(X-Rite社製「eXact」)で測定した。詳しくは、汚れ画像中において無作為に選択した10箇所の画像濃度を反射濃度計で測定し、10箇所の画像濃度の算術平均値を耐擦過性の評価値(ID値)とした。耐擦過性は、以下の基準で判定した。
【0104】
(耐擦過性の基準)
良好(A):ID値が0.008未満である。
不良(B):ID値が0.008以上である。
【0105】
【表5】
【0106】
【表6】
【0107】
表1~6に示すように、実施例1~11のインクは、顔料と、第1界面活性剤と、第2界面活性剤と、水性媒体とを含有していた。第1界面活性剤は、一般式(S1)で表される化合物であった。第2界面活性剤は、一般式(S2)で表される化合物であった。水性媒体のLogPは、-0.52以上-0.19以下であった。実施例1~11のインクは、吐出安定性に優れると共に、所望の画像濃度と優れた耐擦過性とを有する画像を形成できた。
【0108】
一方、比較例1のインクは、水性媒体のLogPが過度に高かった。比較例1のインクは、顔料の分散状態が不安定であり、記録媒体の着弾後に記録媒体の表面で速やかに顔料が凝集すると判断される。また、比較例1のインクは、ノズル内で乾燥条件に晒された際に、顔料が凝集してノズル詰まりを発生させると判断される。これらの結果、比較例1のインクは、吐出安定性及び形成される画像の耐擦過性が不良であった。
【0109】
比較例2のインクは、水性媒体のLogPが過度に低かった。比較例2のインクは、顔料の分散状態が過度に安定であり、記録媒体の着弾後に記録媒体の内部まで顔料が浸透すると判断される。その結果、比較例2のインクは、形成される画像の画像濃度が不良であった。なお、比較例2のインクは、形成される画像の耐擦過性も不良であった。
【0110】
比較例3、4及び8のインクは、乾燥抑制効果を有する第2界面活性剤を含有しなかった。その結果、比較例3、4及び8のインクは、吐出安定性が不良であった。なお、比較例3、4及び8のインクは、それぞれ、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性のうち少なくとも一方も不良であった。
【0111】
比較例5~7のインクは、記録媒体に対する浸透性をインクに付与する第1界面活性剤を含有しなかった。その結果、比較例5~7のインクは、形成される画像の耐擦過性が不良であった。なお、比較例5~7のインクは、それぞれ、吐出安定性及び形成される画像の画像濃度のうち少なくとも一方も不良であった。
【0112】
比較例9のインクは、第1界面活性剤及び第2界面活性剤を何れも含有せず、代わりに一般的な界面活性剤(アセチレン系界面活性剤)を含有していた。比較例9のインクは、吐出安定性、画像濃度及び耐擦過性の全てが不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明のインクは、画像を形成するために用いることができる。