(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148013
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】膜ハウジングの洗浄方法、当該洗浄方法により洗浄された膜ハウジング、及び当該膜ハウジングを備える超純水製造装置
(51)【国際特許分類】
B01D 65/00 20060101AFI20241009BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20241009BHJP
【FI】
B01D65/00
C02F1/42 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060870
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】手塚 歩生
(72)【発明者】
【氏名】蔦野 恭平
【テーマコード(参考)】
4D006
4D025
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA71
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4D025BA15
4D025BA17
4D025BA27
4D025CA01
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、微量の金属溶出をより一層低減させる膜を備える膜ハウジングの洗浄方法を提供することにある。
【解決手段】膜ハウジングの洗浄方法は、当該膜ハウジングに、金属濃度(各元素濃度)100ng/L以下の洗浄液を導入して、前記膜ハウジング内と前記洗浄液とを接触させる第1の洗浄工程と、前記第1の洗浄工程の終了後に行われ、前記膜ハウジングに超純水を通水して、前記膜ハウジング内と前記超純水とを接触させる第2の洗浄工程と、前記第2の洗浄工程中又は前記第2の洗浄工程終了後に行われ、前記第2の洗浄工程中に前記膜ハウジング内と接触して前記膜ハウジングから排出された超純水中の金属濃度、又は、前記第2の洗浄工程終了後に前記膜ハウジングに再度超純水を通水して、前記膜ハウジング内と接触して前記膜ハウジングから排出された超純水中の金属濃度を分析する分析工程と、前記分析工程で得られた結果に基づいて、前記第2の洗浄工程の再実施、又は、前記第1の洗浄工程及び前記第2の洗浄工程の再実施の要否を判断する工程と、を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液が導入される導入口と処理液が排出される排出口とが形成され、前記導入口から導入された前記被処理液を処理して前記排出口から排出する膜ハウジングの洗浄方法であって、
前記膜ハウジングに、金属濃度(各元素濃度)100ng/L以下の洗浄液を導入して、前記膜ハウジング内と前記洗浄液とを接触させる第1の洗浄工程と、
前記第1の洗浄工程の終了後に行われ、前記膜ハウジングに超純水を通水して、前記膜ハウジング内と前記超純水とを接触させる第2の洗浄工程と、
前記第2の洗浄工程中又は前記第2の洗浄工程終了後に行われ、前記第2の洗浄工程中に前記膜ハウジング内と接触して前記膜ハウジングから排出された超純水中の金属濃度、又は、前記第2の洗浄工程終了後に前記膜ハウジングに再度超純水を通水して、前記膜ハウジング内と接触して前記膜ハウジングから排出された超純水中の金属濃度を分析する分析工程と、
前記分析工程で得られた結果に基づいて、前記第2の洗浄工程の再実施、又は、前記第1の洗浄工程及び前記第2の洗浄工程の再実施の要否を判断する工程と、
を有することを特徴とする、膜ハウジングの洗浄方法。
【請求項2】
前記第1の洗浄工程において、前記膜ハウジング内を前記洗浄液で満たし、前記膜ハウジング内を前記洗浄液に1~24時間浸漬させることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記第2の洗浄工程において、前記膜ハウジング内に、超純水をLV0.1~2m/hで1~24時間通水することを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記分析工程において、前記膜ハウジングから排出された超純水中の金属(Li、B、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Sr、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Ba、W、Pbのうち少なくとも1種)の濃度が1ng/Lを超える場合に、前記第2の洗浄工程、又は、前記第1の洗浄工程及び前記第2の洗浄工程を再実施することを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記膜ハウジングに備えられた膜がイオン吸着膜又は微粒子除去膜であることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項6】
前記洗浄液が酸溶液であることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記洗浄液が硝酸溶液であることを特徴とする、請求項6に記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記第1の洗浄工程の前に、前記膜ハウジングに、超純水をLV0.1~2m/hで1時間以上通水する工程を有することを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項9】
被処理液が導入される導入口と処理液が排出される排出口とが形成された膜ハウジングであって、前記被処理液を通水して、前記膜ハウジングで処理されて前記膜ハウジングから排出された処理水中の金属濃度(各元素濃度)が0.01ng/L以下である膜ハウジング。
【請求項10】
請求項9に記載の膜ハウジングを備える超純水製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水等の製造に用いられる膜ハウジングの洗浄方法、当該洗浄方法により洗浄された膜ハウジング、及び当該膜ハウジングを備える超純水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超純水は、一般的に原水(河川水、地下水、工業用水等)を前処理システム、一次純水システム及び二次純水システム(サブシステム)で順次処理することにより製造されている。
超純水は、微量分析、半導体製造工程等様々な場面で使用されている。例えば、超純水は、研究機関等でブランク、サンプルの希釈や標準物質の調製、半導体製造工程における洗浄工程等様々な用途に使用されている。
超純水に含まれる金属は、実験値のブランクや半導体デバイスの歩留まりを低下させる直接の原因となるため、超純水にはより高純度な水質が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、再生工程において、塩酸等の酸の水溶液をイオン交換体に通液することで、通水カラム1に含まれていた不純物(特には金属)を除去することができることが開示されている。
特許文献2には、酸、例えば、塩酸、硝酸、その他の無機強酸を、添加濃度1mg/L~100mg/L)の範囲で添加した超純水を分離膜モジュールに通水すると、分離膜の一次側に残留した金属を吸着したイオン交換基を有するポリマーから金属イオンが脱着、放出され、イオン交換基を有するポリマーが再生されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-53547号公報
【特許文献2】特開2018-34157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の半導体デバイスの急速な高集積化・微細化に伴い、超純水中の金属不純物濃度の管理値はますます高まっている。それに伴い、研究機関などで分析に使用する超純水もより高純度な水質が求められている。
例えば、微量金属を分析する誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)は、より低濃度を分析するためにブランクである超純水中の金属(バックグラウンド)の低減が必須となる。高純度の超純水を得るために、超純水製造設備からユースポイント(洗浄装置等)の間や洗浄装置の近傍に、超純水に含まれる金属イオンや微粒子等の不純物を更に低減化させるため、イオン交換体または精密ろ過膜(MF)や限外ろ過膜(UF)を設置する場合がある。しかし、コンディショニング(洗浄状態)が不十分な膜ハウジングを設置した場合は、膜ハウジングから不純物が溶出し、ユースポイントに供給される超純水の水質が悪化する恐れがある。
また、膜ハウジングからの不純物溶出は、超純水を連続的に通水し続けることで低減可能であるが、多くの時間を要する。
したがって、本発明の目的は、微量の不純物溶出をより一層低減させる膜ハウジングの洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、被処理液が導入される導入口と処理液が排出される排出口とが形成され、前記導入口から導入された前記被処理液を処理して前記排出口から排出する膜ハウジングの洗浄方法であって、
前記膜ハウジングに、金属濃度(各元素濃度)100ng/L以下の洗浄液を導入して、前記膜ハウジング内と前記洗浄液とを接触させる第1の洗浄工程と、
前記第1の洗浄工程の終了後に行われ、前記膜ハウジングに超純水を通水して、前記膜ハウジング内と前記超純水とを接触させる第2の洗浄工程と、
前記第2の洗浄工程中又は前記第2の洗浄工程終了後に行われ、前記第2の洗浄工程中に前記膜ハウジング内と接触して前記膜ハウジングから排出された超純水中の金属濃度、又は、前記第2の洗浄工程終了後に前記膜ハウジングに再度超純水を通水して、前記膜ハウジング内と接触して前記膜ハウジングから排出された超純水中の金属濃度を分析する分析工程と、
前記分析工程で得られた結果に基づいて、前記第2の洗浄工程の再実施、又は、前記第1の洗浄工程及び前記第2の洗浄工程の再実施の要否を判断する工程と、
を有することを特徴とする、膜ハウジングの洗浄方法により達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、微量の不純物溶出がより一層低減された膜ハウジングの洗浄方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の膜ハウジングの実施形態の一つ(膜カートリッジ)を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は本発明の膜ハウジングの実施形態の一つ(カプセルフィルター)を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の洗浄工程の一例を示す概略構成図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2の洗浄工程の一例を示す概略構成図である。
【
図5】
図5は、本発明の分析工程の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されない。
本発明の洗浄方法は、洗浄液及び超純水を用いて、被処理液を通液する膜ハウジングを洗浄する方法である。
膜ハウジングとは、膜が設置されたハウジングのことを言う。膜のハウジングへの設置は、膜をハウジングに直接設置しても、カートリッジ内に格納された状態の膜(膜カートリッジ)をハウジングに設置する形態で設置してもよい。あるいは膜とハウジングが一体型となったもの(カプセルフィルター)を用いてもよい。
本発明の洗浄方法において、膜ハウジングの洗浄は、通常、通液前の膜ハウジングに対し実施される。膜ハウジングの洗浄は、通常、膜が設置されたハウジング(膜ハウジング)の状態(膜とハウジングが一体型となったカプセルフィルターの場合を含む)で実施する。膜ハウジングが分離可能な場合、膜あるいは膜カートリッジとハウジングとを分離した状態で実施してもよいが、膜あるいは膜カートリッジとハウジングを分離した状態で別々に洗浄する場合は、さらに、ハウジングに、膜、あるいは膜カートリッジが設置された状態で洗浄するのが好ましい。以下での説明は、ハウジングに膜、あるいは膜カートリッジが設置された状態(カプセルフィルターの場合を含む)で洗浄する場合について説明するが、これに限定されない。
【0010】
<膜及び膜カートリッジ>
本発明で洗浄処理する膜としては、被処理液を通液する機能を有する膜であれば、未使用の新品であっても、使用したものであっても、膜の使用状態に制限されない。
また膜の材質についても、特に制限されないが、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレンの他、セルロース、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン等の材質のものが挙げられ、機能別で挙げると、イオン吸着膜や、微粒子除去膜等が挙げられる。
イオン吸着膜とは、イオン交換反応により金属イオンを吸着する機能や、静電的な相互作用により金属イオンや微粒子を除去する機能を有する膜であればよく例えば、スルホン酸基等の強酸性イオン交換基を官能基とするカチオン吸着膜やカルボキシル基等の弱酸性イオン交換基を官能基とするカチオン吸着膜が挙げられる。また強塩基性アニオン交換基、弱塩基性アニオン交換基を有するアニオン吸着膜や、キレート交換基を有するキレート吸着膜を使用してもよい。
微粒子除去膜とは、膜の細孔により微粒子を捕捉する機能を有する膜であればよく、例えば、限外濾過膜(UF膜)や精密濾過膜(MF膜)、ナノ濾過膜(NF膜)、逆浸透膜(RO膜)等が挙げられる。微粒子除去膜として挙げた膜が、イオン交換能を有している場合もある。 なお、本発明では、イオン交換能を有する膜をイオン交換膜と称し、イオン交換能を有しない膜を微粒子除去膜と称する。
膜に関しては、個別のケースに収納されたカートリッジの形態で構成されてもよい。
【0011】
<ハウジング>
ハウジングとしては、HDPE(高密度ポリエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂)、PCTFE(三フッ化塩化エチレン)、ETFE(四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等を材質とするハウジングが挙げられ、また、ハウジングの内壁に用いられるライニング層や、接合部に用いられるシール材(O-リング等)の材質も、PVDF、PTFE、PFA、FEP、PCTFE、ETFE等が好ましい。
ハウジングの形状としては、被処理液が導入される導入口と処理液が排出される排出口が形成されたハウジングであれば、その形状、容積等は特に制限されない。
【0012】
以下、膜カートリッジをハウジング内に設置した膜ハウジングの形態について、
図1を用いて具体的に説明する。
図1は、膜カートリッジを設置した膜ハウジングの実施形態の一つを示す概略断面図である。膜ハウジング1(膜カートリッジ使用)は、ハウジングヘッド13及びハウジングボウル15から形成される容器内に、膜(不図示)が格納されたカートリッジ(膜カートリッジ)14が装着されている。ハウジングヘッド13はO-リング(不図示)を介してハウジングボウル15に着脱自在に固定されており、カートリッジを交換する場合は、ハウジングヘッド13とハウジングボウル15を分離することにより、カートリッジ14を着脱できる。ハウジングボウル15の底面には、処理液等液体を排出するためのドレイン16が設けられている。
ハウジングヘッド13には、被処理液の導入口11と処理液の排出口12が形成されており、本発明の洗浄方法を実施する際は、この導入口11から、洗浄液あるいは超純水が投入され、これらの液体は、図中の矢印の経路を辿り排出口12から排出される。例えば、膜カートリッジを取り付けるハウジングにはEntegris社のケムロックPFAハウジング、PALL社のメガブラストなどを使用する。
【0013】
次に、膜とハウジングが一体型となった膜ハウジング(カプセルフィルター)の形態について、
図2を用いて具体的に説明する。
図2は膜とハウジングが一体型となった膜ハウジングの形態の一つであるカプセルフィルターを示す概略断面図であり、膜ハウジング1(カプセルフィルター)は、ハウジング22内に、膜部材20が固定されている。膜部材20は、上面部25、底面部26、内心材23、外心材24、膜材料21から形成される。膜材料21の具体的な形態としては、プリーツ状のろ過材から形成されているものが挙げられる。
ハウジングの上部及び底部には、それぞれ、処理液の排出口12と被処理液の導入口11とが形成されており、本発明の洗浄方法を実施する際は、この導入口11から、洗浄液あるいは超純水が投入され、これらの液体は、図中の矢印の経路を辿り排出口12から排出される。例えば、Cobetter社のNovaconやIongardシリーズ、Entegris社のProtegoシリーズ、PALL社のイオンクリーンシリーズなどを使用する。
【0014】
以下、本発明の洗浄方法の各工程について図面を用いて具体的に説明する。
<第1の洗浄工程>
図3は、第1の洗浄工程の一例を示す概略構成図である。
図3に示すように、第1の洗浄工程では、前述の膜ハウジング1に被処理液を導入する前に、洗浄液2を導入して、前述の膜ハウジング1内と、洗浄液2を接触させる。洗浄液2は金属濃度(各元素濃度)100ng/L以下であれば、酸性溶液又は塩基性溶液のいずれであってもよい。ここで言う、洗浄液2の金属濃度(各元素濃度)とは、膜ハウジング1に導入される洗浄液2に含まれる各金属元素の濃度のことを言う。酸性溶液としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸溶液が挙げられ、塩基性溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液等が挙げられる。溶液を調製する溶媒としては、例えば、純水(比抵抗:約10MQ・cm)、超純水(比抵抗:約18MQ・cm)等の水が挙げられるが、洗浄による汚染抑制の点から、超純水が好ましく使用される。
好ましい具体例としては、膜ハウジング1内が洗浄液2で満ちるまで、膜ハウジング1に洗浄液2を薬液注入ポンプや窒素圧送等の送液手段3で通液し、膜ハウジング1内が洗浄液で満ちたら、通液を止め、1時間以上膜ハウジング1内を洗浄液2に浸漬して接触させる。接触時間の上限は特に制限されないが、好ましくは24時間以下とする。また洗浄液2の温度は、特に制限されないが、通常室温(例えば15~30℃)の範囲で実施される。
【0015】
洗浄液2に含まれる金属としては、代表的なものとして、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、および鉄(Fe)等の金属、及びこれら金属のイオンが挙げられる。
本発明では、洗浄液2の金属濃度(各元素濃度)が100ng/L以下であり、好ましくは50ng/L以下、さらに好ましくは10ng/L以下であってもよい。
【0016】
洗浄液2の酸及びアルカリ濃度は、例えば0.1質量%以上であり、0.2質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。酸及びアルカリ濃度の上限は特にないが、酸及びアルカリ濃度が高濃度である場合、酸及びアルカリの洗浄(第2の洗浄工程)に時間を要する場合がある。洗浄液2の酸及びアルカリ濃度が0.1質量%未満であると、洗浄効果が低い場合がある。
【0017】
<洗浄液調製容器>
洗浄液2を調製する容器としては、HDPE(高密度ポリエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂)、PCTFE(三フッ化塩化エチレン)、ETFE(四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等を材質とする容器が挙げられ、容器の形状、容積等は特に制限されない。
【0018】
<第2の洗浄工程>
図4は、第2の洗浄工程の一例を示す概略構成図である。
図4に示すように、本発明の洗浄方法では、前述の第1の洗浄工程の終了後、膜ハウジング1に超純水(UPW)を通水して、膜ハウジング1内を超純水と接触させる。この第2の洗浄工程により、膜ハウジング1の洗浄効果を高めることができる。超純水は、膜ハウジング1に対し線速度(LinearVelocity:LV)0.1~2m/hで、1~24時間通水することが好ましい。通液する超純水の温度は、特に制限されないが、通常室温(例えば15~30℃)の範囲で実施される。洗浄に使用する超純水は、金属濃度(各元素濃度)が0.1ng/L以下であることが好ましく、0.05ng/L以下がより好ましい。ここで言う、超純水の金属濃度(各元素濃度)とは、膜ハウジング1に導入される超純水に含まれる各金属元素の濃度のことを言う。
【0019】
<前洗浄工程>
本発明の洗浄法では、膜ハウジング1の洗浄効果をより一層高めるために、第1の洗浄工程より前の工程にて、膜ハウジング1に対し、超純水による洗浄処理(前洗浄処理)を行ってもよい。
この洗浄処理の条件は特に制限されないが、膜ハウジング1に対し、超純水をLV0.1~2m/hで1時間以上通水することができる。通液する超純水の温度は、特に制限されないが、通常室温(例えば15~30℃)の範囲で実施される。洗浄に使用する超純水は、第2の洗浄処理工程と同様、金属濃度(各元素濃度)が0.1ng/L以下であることが好ましく、0.05ng/L以下がより好ましい。ここで言う、超純水の金属濃度(各元素濃度)とは、膜ハウジング1に導入される超純水に含まれる各金属元素の濃度のことを言う。
【0020】
<分析工程>
図5は、分析工程の一例を示す概略構成図である。
図5に示すように、本発明の洗浄方法では、洗浄処理が十分であるか否かの確認手段として、第2の洗浄工程中又は第2の洗浄工程終了後に行われ、第2の洗浄工程中に膜ハウジング内と接触して膜ハウジング1から排出された超純水中の金属、又は、第2の洗浄工程終了後に膜ハウジングに再度超純水を通水して、膜ハウジング内と接触して膜ハウジングから排出された超純水中の金属濃度を確認する目的で分析工程を設けている。分析工程では、第2の洗浄工程中又は第2の洗浄工程終了後、膜ハウジング1に対し、超純水を通常LV0.1~2m/hで通水し、前記膜ハウジング1から排出された超純水を濃縮手段4により濃縮し、濃縮したサンプル中の金属濃度を分析する。分析するサンプルは、濃縮せず、膜ハウジング1から排出される超純水から直接採取したものであってもよい。
なお、膜ハウジング1に対する最適流量と、濃縮手段4に対する最適流量が異なる場合、ハウジング1と濃縮手段4との間にバルブを設置し、適切な流量となるように調整する。膜ハウジング1への流量は、膜ハウジング1と濃縮手段4との間にある流量計5と、濃縮手段4側の流量計5とで膜ハウジング1への流量を測定し、濃縮手段4への流量は、濃縮手段4側の流量計で濃縮手段4への流量を測定して調整する。
濃縮手段4としては、例えば、サンプル水を加熱して濃縮する加熱濃縮法や、吸着体、例えば、イオン交換体によってサンプル水中の金属を捕捉し、捕捉した金属を酸等の溶離液を用いて溶離するイオン交換体濃縮法等の濃縮手段などが挙げられるが、濃縮時の汚染リスクが低減できることから、イオン交換体濃縮法が好ましい。特に、モノリス状有機多孔質体を用いると、イオン交換体にかかる差圧が小さく、短時間でイオン交換体に通水できるため、モノリス状有機多孔質体を使用した濃縮分析を採用することが好ましい。
サンプルの分析方法としては、サンプル水中の金属を金属濃度の測定装置、例えば誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いてサンプル水あるいは溶離液中の金属濃度(各元素濃度)を測定して行う。ここで言う、サンプル水あるいは溶離液中の金属濃度(各元素濃度)とは、サンプル水あるいは溶離液に含まれる各金属元素の濃度(つまり、洗浄後の膜ハウジングから溶出する各金属元素の濃度)のことを言う。
第2の洗浄工程中あるいは第2の洗浄工程終了後の膜ハウジング1から溶出する金属(Li、B、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Sr、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Ba、W、Pbのうち少なくとも1種)の濃度が、それぞれ1ng/L以下であることが好ましく、少なければ少ないほどよく、0.1ng/L以下であってもよく、0.01ng/L以下であってもよい。
【0021】
金属濃度の分析に使用されるイオン交換体は、非粒子状有機多孔質イオン交換体であり、連続骨格相と連続空孔相とからなり、連続骨格の厚みは、1~100μmの範囲であり、連続空孔の平均直径は、1~1000μmの範囲であり、全細孔容積は、0.5~50mL/gの範囲であり、乾燥状態での重量当たりのイオン交換容量は、1~9mg当量/gの範囲であり、イオン交換基が前記有機多孔質イオン交換体中に分布していることを特徴とするイオン交換体が挙げられる。
【0022】
本発明の洗浄方法では、分析工程で得られた分析結果に基づいて、再洗浄の要否を判断する工程を設けている。再洗浄の要否は、分析工程で得られた分析結果において、目的とする濃度以上の金属の排出が確認され、洗浄処理が十分でないと判断された場合、好ましくは、分析工程において、前記ハウジング1から排出された超純水中の金属(Li、B、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Sr、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Ba、W、Pbのうち少なくとも1種)の濃度が1ng/Lを超える場合には、再洗浄を実施する。再洗浄は、前述の第2の洗浄処理又は第1の洗浄工程と第2の洗浄工程を、繰り返し実施し、その都度(第2の洗浄工程中あるいは第2の洗浄工程終了後)、前述の分析工程により金属濃度を分析し目的とする金属濃度以下になるまで、再洗浄を実施する。
【0023】
本発明の洗浄方法により洗浄された膜ハウジングは、微量の金属溶出がより一層低減されており、これを例えば、小型/中型の超純水製造装置あるいは超純水製造システムの末端等に適用することで、高品質な超純水の製造が可能となる。小型の超純水製造装置とは、例えば、研究機関等の分析用途などに使用される流量2L/min以下の超純水製造装置を言う。中型の超純水製造装置とは、例えば、電子部品洗浄等に使用される流量1000~3000m3/hの超純水製造装置を言う。超純水製造システムとは、例えば、半導体製造工場などで使用される流量1000~10000m3/h程度の超純水製造システムを言う。
【0024】
以上の説明では、膜ハウジングの形態についての適用例について説明したが、本発明の洗浄方法は、ハウジングに設置される前の膜(膜カートリッジ)のみを洗浄する場合についても適用可能である。
以下[1]~[8]は、本発明の洗浄方法を膜ハウジングに設置される前の膜(膜カートリッジ)のみに適用する場合の好ましい実施形態の例であり、これらの例では、膜ハウジングの形態についての説明が適宜適用される。
[1]被処理液が導入される導入口と処理液が排出される排出口とが形成され、前記導入口から導入された前記被処理液を処理して前記排出口から排出する膜ハウジングに使用される膜(膜カートリッジ)の洗浄方法であって、
金属濃度(各元素濃度)100ng/L以下の洗浄液と、前記膜(膜カートリッジ)とを接触させる第1の洗浄工程と、
前記第1の洗浄工程の終了後に行われ、前記膜(膜カートリッジ)に超純水を通水して、前記膜(膜カートリッジ)と前記超純水とを接触させる第2の洗浄工程と、
前記第2の洗浄工程中又は前記第2の洗浄工程終了後に行われ、前記第2の洗浄工程中に前記膜(膜カートリッジ)内と接触して排出された超純水中の金属濃度、又は、前記第2の洗浄工程終了後に前記膜(膜カートリッジ)に再度超純水を通水して、前記膜(膜カートリッジ)と接触して前記膜(膜カートリッジ)から排出された超純水中の金属濃度を分析する分析工程と、
前記分析工程で得られた結果に基づいて、前記第2の洗浄工程の再実施、又は、前記第1の洗浄工程及び前記第2の洗浄工程の再実施の要否を判断する工程と、
を有することを特徴とする、膜(膜カートリッジ)の洗浄方法。
[2]前記第1の洗浄工程において、前記膜(膜カートリッジ)全体が前記洗浄液で接触する状態で維持し、前記膜(膜カートリッジ)を前記洗浄液に1~24時間浸漬させることを特徴とする、前記[1]に記載の洗浄方法。
[3]前記第2の洗浄工程において、前記膜(膜カートリッジ)に、超純水をLV0.1~2m/hで1~24時間通水することを特徴とする、前記[1]に記載の洗浄方法。
[4]前記分析工程において、前記膜(膜カートリッジ)と接触後の超純水中の金属(Li、B、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Sr、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Ba、W、Pbのうち少なくとも1種)の濃度が1ng/Lを超える場合に、前記第2の洗浄工程、又は、前記第1の洗浄工程と前記第2の洗浄工程を再実施することを特徴とする、前記[1]に記載の洗浄方法。
[5]前記膜(膜カートリッジ)がイオン吸着膜(膜カートリッジ)又は微粒子除去膜(膜カートリッジ)であることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
[6]前記洗浄液が酸溶液であることを特徴とする、前記[1]に記載の洗浄方法。
[7] 前記洗浄液が硝酸溶液であることを特徴とする、前記[6]に記載の洗浄方法。
[8]前記第1の洗浄工程の前に、前記膜(膜カートリッジ)に、超純水をLV0.1~2m/hで1時間以上通水する工程を有することを特徴とする、前記[1]に記載の洗浄方法。
【実施例0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが本発明は以下の実施例に限定されない。
【0026】
実施例1:イオン交換膜を備える膜ハウジングに対する洗浄処理(酸性溶液の洗浄液及び超純水による洗浄品)
<評価膜ハウジング(一体型カプセルフィルター)>
膜ハウジングとして、膜とハウジングが一体となっている一体型カプセルフィルターを使用した。
この一体型カプセルフィルターは、イオン交換基がスルホン酸基であり、膜の母体の材質がポリエチレンであるイオン交換膜とHDPE製のハウジングとから構成される。
【0027】
<洗浄手順>
・超純水による洗浄処理(1回目)
イオン交換膜を備えたカプセルフィルターについて、超純水による洗浄処理を行った。超純水は金属濃度(各元素濃度)が0.05ng/L以下のものを使用した。
超純水による洗浄処理は、イオン交換膜を備えたカプセルフィルターに対してLV0.6m/hで超純水を2500時間通液することで洗浄処理した。
・酸性溶液の洗浄液による洗浄処理
金属濃度(各元素濃度)が100ng/L以下の高純度硝酸を、金属濃度(各元素濃度)が0.05ng/L以下の超純水で、金属濃度(各元素濃度)が20ng/L以下で濃度が3重量%である硝酸溶液を調製した。調製には金属溶出がないフッ素樹脂製のハウジングを使用した。
前述の超純水による洗浄処理後のイオン交換膜を備えたカプセルフィルターについて、調製した酸性溶液を封入し18時間接触することで酸処理した。
・酸処理後の超純水による洗浄処理(2回目)
酸処理後のイオン交換膜を備えたカプセルフィルターについて、金属濃度(各元素濃度)が0.05ng/L以下の超純水を、イオン交換膜を備えたカプセルフィルターに対してLV0.6m/hで24時間通液することで洗浄処理した。
・洗浄処理中の流出液中の金属濃度の分析
第2の洗浄工程中のイオン交換膜を備えたカプセルフィルターに対してLV0.45m/hで、超純水を24時間通液し、流出液中の金属濃度について、表1に示す金属種について、流出液をモノリス状有機多孔質体で濃縮し、溶離液として硝酸溶液を用いて金属を溶離し、得られた溶離液中の金属濃度をICP-MS(アジレントテクノロジー社製、8900)で測定した。なお、ICP-MSでの金属濃度の分析においては、予め、複数の金属濃度の標準試料を用いてカウント値(CPS)と金属濃度の検量線を作製しておき、試験サンプル(試験水又は処理水)を測定し、検量線に基づいて、そのカウント値に対応する金属濃度を、試験水又は処理水の金属濃度とした。
【0028】
実施例2:微粒子除去膜を備えた膜ハウジングに対する洗浄処理(酸性溶液の洗浄液及び超純水による洗浄品)
<評価膜のハウジング(一体型カプセルフィルター)>
膜ハウジングとして、膜とハウジングが一体となっている一体型カプセルフィルターを使用した。
このカプセルフィルターは、イオン交換基を有さず、膜の母体の材質がポリエーテルスルホンである微粒子除去膜とHDPE製のハウジングとから構成される。
<洗浄手順>
実施例1の<洗浄手順>における超純水による洗浄処理(1回目)を、微粒子除去膜を備えたカプセルフィルターに対しLV0.6m/hで金属濃度(各元素濃度)が0.05ng/L以下の超純水を340時間通液することで洗浄処理するに変更する以外は、実施例1と同様にして、微粒子除去膜を備えたカプセルフィルターを洗浄処理し、第2の洗浄工程中の流出液中の金属濃度を分析した。
【0029】
比較例1:超純水のみによる洗浄品
実施例1と同じイオン交換膜を備えたカプセルフィルターに対し、実施例1の<洗浄手順>における超純水による洗浄工程中、イオン交換膜を備えるハウジングに対してLV0.45m/hで、金属濃度(各元素濃度)が0.05ng/L以下の超純水を24時間通液し、流出液中の金属濃度を実施例1と同様にして分析した。
【0030】
比較例2:超純水のみによる洗浄品
実施例2と同じ微粒子除去膜を備えたカプセルフィルターに対し、LV0.6m/hで金属濃度(各元素濃度)が0.05ng/L以下の超純水を340時間通液した微粒子除去膜を備えたカプセルフィルターに対し、LV0.45m/hで、金属濃度(各元素濃度)が0.05ng/L以下の超純水を24時間通液し、流出液中の金属濃度を実施例1と同様にして分析した。
以上の実施例1、2及び比較例1、2の分析結果を表1に示す。
【0031】
【0032】
表1より、イオン交換膜を備えたカプセルフィルターでは、超純水のみによる洗浄品(比較例1)では、Naの除去が不十分であるのに対し、酸性溶液及び超純水による洗浄品(実施例1)では、Naが十分に除去され、Naの溶出量が定量下限である0.005ng/L以下となった。
また微粒子除去膜を備えたカプセルフィルターでは、超純水のみによる洗浄品(比較例2)では、Al及びCaの除去が不十分であるのに対し、酸性溶液及び超純水による洗浄品(実施例2)では、Al及びCaが十分に除去され、Al及びCaの溶出量が定量下限である0.005ng/L以下となった。
以上より、本発明の酸性溶液の洗浄液による洗浄方法が有効であることが実証された。