(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014804
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ガラスセラミックス誘電体
(51)【国際特許分類】
C03C 10/04 20060101AFI20240125BHJP
C03C 3/062 20060101ALI20240125BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20240125BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C03C10/04
C03C3/062
C04B35/495
H01B3/12 313
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117523
(22)【出願日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2022115857
(32)【優先日】2022-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】傅 杰
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 圭介
【テーマコード(参考)】
4G062
5G303
【Fターム(参考)】
4G062AA11
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(57)【要約】
【課題】常温での誘電率が高く、室温から225℃における静電容量の変化量が小さく、かつ誘電損失も小さい誘電体を提供する。
【解決手段】酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、P
2O
5成分 10.0~30.0%、Nb
2O
5成分 20.0~65.0%、RO成分の合計量 5.0~50.0% (式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)を含有し、モル比Nb
2O
5/P
2O
5が1.0超であり、25℃において10kHzにおける誘電率が60以上であるガラスセラミックスにより前記課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
P2O5成分 10.0~30.0%、
Nb2O5成分 20.0~65.0%、
RO成分の合計量 5.0~50.0% (式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)
を含有し、
モル比Nb2O5/P2O5が1.0超であり、25℃において10kHzにおける誘電率が60以上であることを特徴とするガラスセラミックス。
【請求項2】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
SiO2成分 0~20.0%、
GeO2成分 0~20.0%、
B2O3成分 0~20.0%、
Al2O3成分 0~15.0%、
MgO成分 0~30.0%、
CaO成分 0~30.0%、
SrO成分 0~30.0%、
BaO成分 0~30.0%、
ZnO成分 0~40.0%、
K2O成分 0~15.0%、
WO3成分 0~20.0%、
Ta2O5成分 0~30.0%、
TiO2成分 0~15.0%、
ZrO2成分 0~15.0%、
SnO2成分 0~10.0%、
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Ce、Gd、Y、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)の合計量 0~10.0%、
M´xOy成分(式中、M´はV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Moからなる群より選択される1種以上)の合計量 0~10.0%、
Sb2O3成分 0~10.0%、
外割でFを0~30.0%
を含有することを特徴とする請求項1に記載のガラスセラミックス。
【請求項3】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で、SiO2成分、B2O3成分及びAl2O3成分からなる群から選ばれる1種以上を合計量で0%以上20%以下含有する請求項1または2に記載のガラスセラミックス。
【請求項4】
-30℃~70℃における平均線膨張係数が80×10-7/K以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のガラスセラミックス。
【請求項5】
主結晶相としてPNb9O25及びその固溶体うちの1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のガラスセラミックス。
【請求項6】
室温から225℃までの温度領域における静電容量の変化率が±30%以内であり、かつ誘電正接(tanδ)が0.1以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のガラスセラミックス。
【請求項7】
請求項1または2に記載のガラスセラミックスを含むことを特徴とする誘電体。
【請求項8】
請求項7に記載の誘電体を含有することを特徴とするフィラー材。
【請求項9】
請求項7に記載の誘電体を含有することを特徴とするコンデンサー。
【請求項10】
請求項1または2に記載のガラスセラミックスを含むことを特徴とする全固体二次電池用負極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温での誘電率が高く、室温から225℃における静電容量の変化量が小さく、かつ誘電正接(tanδ)も小さいガラスセラミックスに関するものであり、大容量高電圧用途だけでなく高温用途向けコンデンサーなどの誘電材料としても好適である。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化問題に対して様々な対策が取られる中、電力エネルギー利用の高効率化や温室効果ガスを排出しない電力システムやデバイスへの需要が高まっており、電力変換技術の占める役割は大きい。例えば、瞬間的に高電圧がかかる工業用高圧電源や送電設備、医療・半導体加工向けエキシマレーザー、医療用X線装置、電気自動車の起動電源などに用いられる蓄電装置には高いエネルギー貯蔵密度を有するコンデンサーが求められる。
【0003】
エネルギー貯蔵密度は、(1/2)×ε0εrE2(ここで、ε0は真空の誘電率、εrは材料の誘電率、Eは絶縁破壊強度)の式で表されるように、高いエネルギー貯蔵密度を得るためには高い誘電率と高い絶縁破壊強度の2点を両立する必要がある。
【0004】
交流電圧の印加によって誘起される誘電分極や反転、イオンの移動、空間電荷等が原因で生じる電気エネルギーの損失、つまり誘電損失は、誘電正接(tanδ)の値に応じて決まるため、コンデンサー等の電子部品においては誘電正接の値が限りなく小さいことが好ましい。
他方で、自動車のエンジンルームの様に仕様上高温環境に曝される場合やコンデンサーにかかる電圧や電流密度が高まると熱負荷も増加するため、温度変化に対する静電容量の変化率が小さい誘電材料が求められる。
【0005】
回路基板や電子部品に使用される誘電体材料として、ガラスセラミックスを使用する提案がなされている(例えば、特許文献1~4)。これら特許文献1~4の提案は、いずれもガラス粉末と無機フィラーとを混合し、成形、焼成するものであるため、緻密性が低く、ポアやボイドが発生したりし、均一な材料になり難く、無機フィラーがガラスと反応して所望の誘電率と絶縁破壊強度が得られないという問題があった。
【0006】
一方、SiO2-TiO2-SrO系ガラスに熱処理を加えることによってSrTiO3結晶を析出させた誘電体ガラスセラミックスが提案されているが(例えば、特許文献5)、誘電率は30程度と低かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-339049号公報
【特許文献2】特開2007-217274号公報
【特許文献3】特開2003-192430号公報
【特許文献4】特許第3805173号公報
【特許文献5】特開2011-230960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
誘電率が高く、高温での静電容量の安定性に優れる材料を得ること。一例として、コンデンサーなど様々な用途へ応用され、高誘電率材料の代表格であるチタン酸バリウムは、120℃以上の高い温度域において静電容量が著しく変化するため、これ以上の温度では使用困難とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討し、既存の技術と異なった組成系で上記の課題を解決することができるガラスセラミックス誘電体(所定の誘電率を備えるガラスセラミックス)を見出し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(10)である。
(1)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
P2O5成分 10.0~30.0%、
Nb2O5成分 20.0~65.0%、
RO成分の合計量 5.0~50.0% (式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)
を含有し、
モル比Nb2O5/P2O5が1.0超であり、25℃において10kHzにおける誘電率が60以上であることを特徴とするガラスセラミックス。
(2)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
SiO2成分 0~20.0%、
GeO2成分 0~20.0%、
B2O3成分 0~20.0%、
Al2O3成分 0~15.0%、
MgO成分 0~30.0%、
CaO成分 0~30.0%、
SrO成分 0~30.0%、
BaO成分 0~30.0%、
ZnO成分 0~40.0%、
K2O成分 0~15.0%、
WO3成分 0~20.0%、
Ta2O5成分 0~30.0%、
TiO2成分 0~15.0%、
ZrO2成分 0~15.0%、
SnO2成分 0~10.0%、
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Ce、Gd、Y、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)の合計量 0~10.0%、
M´xOy成分(式中、M´はV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Moからなる群より選択される1種以上)の合計量 0~10.0%、
Sb2O3成分 0~10.0%、
外割でFを0~30.0%
を含有することを特徴とする(1)に記載のガラスセラミックス。
(3)酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で、SiO2成分、B2O3成分及びAl2O3成分からなる群から選ばれる1種以上を合計量で0%以上20%以下含有する(1)または(2)に記載のガラスセラミックス。
(4)-30℃~70℃における平均線膨張係数が80×10-7/K以下であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
(5)主結晶相としてPNb9O25及びその固溶体うちの1種または2種以上を含むことを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
(6)室温から225℃までの温度領域における静電容量の変化率が±30%以内であり、かつ誘電正接(tanδ)が0.1以下であることを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
(7)(1)から(6)のいずれかに記載のガラスセラミックスを含むことを特徴とする誘電体。
(8)(7)に記載の誘電体を含有することを特徴とするフィラー材。
(9)(7)に記載の誘電体または(8)に記載のフィラー材を含有することを特徴とするコンデンサー。
(10)(1)から(6)のいずれかに記載のガラスセラミックスを含むことを特徴とする全固体二次電池用負極活物質。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、常温において高い誘電率が得られると同時に、室温から225℃における静電容量の変化率の小さいガラスセラミックス誘電体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1、2及び比較例のXRDパターンを示す図である。
【
図2】室温における実施例1、2及び比較例の周波数依存性を示す図である。
【
図3】室温から350℃までの温度範囲で10kHzにおける実施例1の静電容量の変化率と誘電正接を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について説明する。
本発明は、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
P2O5成分 10.0~30.0%、
Nb2O5成分 20.0~65.0%、
RO成分の合計量 5.0~50.0% (式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)
を含有し、
モル比Nb2O5/P2O5が1.0超であり、25℃において10kHzにおける誘電率が60以上であることを特徴とするガラスセラミックスである。
【0013】
本発明のガラスセラミックス誘電体は、ガラスを熱処理することでガラス相中に結晶相を析出させて得られる材料であるため、結晶化ガラスとも呼ばれる。ガラスセラミックス誘電体は、ガラス相及び結晶相から成る材料のみならず、ガラス相が実質的に全て結晶相に変化した材料、すなわち、材料中の結晶量(結晶化度)が実質的に100%のものも含んでよい。なお、本発明のガラスセラミックス誘電体に含まれる結晶相の好ましい種類や結晶化度の好ましい値は後述する。
【0014】
本発明のガラスセラミックス誘電体は誘電率が高く、室温から225℃における静電容量の変化率が小さいため、大容量高電圧用途だけでなく高温用途におけるコンデンサーなどの誘電材料としても好適に用いることが出来る。
ここで、本発明において「室温」とは25℃を意味する。「常温」についても同じ意味である。
【0015】
<ガラス成分>
本発明のガラスセラミックス誘電体を構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。以下において単に「%」と記した場合、「モル%」を意味するものとする。
また、本願明細書中において「%」で表されるガラス組成は、すべて酸化物換算組成の全物質量における百分率を意味するものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラスセラミックス誘電体の構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が、熔融によってすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した組成をいう。したがって「酸化物換算組成の全物質量における百分率」は、すべての成分が酸化物として存在しているとしたときの生成酸化物の質量の総和を100モル%とし、それに対する各成分の存在量を意味する。
なお、以下において「外割」とは、上記の「酸化物換算組成の全物質量」に含めないことを意味し、外割の比率は、上記の生成酸化物の質量の総和を100モル%としたときの、これに対する存在量を百分率で表した値を意味するものとする。
【0016】
P2O5成分は、ガラスの網目構造を構成しガラスの安定性を高めると共に、誘電性結晶の構成成分となる本発明のガラスセラミックス誘電体において必須成分である。特に、P2O5成分を10.0%以上含有することで、より安定的にガラスを作製することができる。10.0%未満であるとガラスの作製が困難となる。従って、P2O5成分の含有量は、好ましくは10.0%以上、より好ましくは12.0%以上、より好ましくは14.0%以上、さらに好ましくは18.0%以上とする。
他方で、P2O5成分の含有量を30.0%以下にすることで、所望の誘電率をより容易に得ることができる。従って、P2O5成分の含有量は、好ましくは30.0%以下、より好ましくは29.0%以下、より好ましくは28.0%以下、より好ましくは26.0%以下とする。
【0017】
Nb2O5成分は、ガラスの安定性を高めるとともに、誘電性結晶の構成成分となる成分であるので、本発明のガラスセラミックス誘電体において必須成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、65.0%以下含有することが好ましく、55.0%以下含有することがより好ましく、50.0%以下含有することがより好ましく、47.0%以下含有することがさらに好ましく、45.0%以下含有することがさらに好ましく、42.0%以下含有することがさらに好ましく、40.0%以下含有することがさらに好ましい。一方、所望の誘電特性を得るには下限の添加量は20.0%以上であることがより好ましく、25.0%以上であることがより好ましく、28.0%以上であることがさらに好ましい。
なお、モル比Nb2O5/P2O5が大きくなることによって所望の結晶が得られやすくなるだけでなく、線膨張係数も小さくなり割れにくくなる。従って、モル比Nb2O5/P2O5は、1.00超であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましく、1.15以上であることがさらに好ましく、1.20以上であることがさらに好ましく、1.25以上であることがさらに好ましく、1.30以上であることがさらに好ましい。上限は、限定されるものではないが、3.00以下であってもよく、2.50以下であってもよく、2.00以下であってもよく、1.80以下であってもよく、1.60以下であってもよい。
【0018】
GeO2成分は、ガラスの安定性を高めるとともに、誘電性結晶の構成成分となるので、本発明のガラスセラミックス誘電体において任意成分である。Ge4+イオンとして結晶構造中に固溶することで、誘電率が向上するだけでなく、温度変化に対する静電容量の安定性を高めるのに効果的な成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、20%以下含有することが好ましく、15%以下含有することがより好ましく、10%以下含有することがさらに好ましく、8.0%以下含有することがさらに好ましい。一方、所望の誘電特性を得るには下限の添加量は0%超であることが好ましく、1.0%以上であることがより好ましく、2.0%以上であることがさらに好ましい。
【0019】
TiO2成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、さらに誘電性結晶の構成成分またはその核形成剤となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体において任意成分である。しかし、この成分の含有率が高すぎるとガラスセラミックスの誘電損失が大きくなる傾向が強くなるので、15.0%以下含有することが好ましく、10.0%以下含有することがより好ましく、7.0%以下含有することが最も好ましい。
【0020】
SiO2成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。しかし、この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性低下や熔解性悪化を引き起こすだけでなく、ガラスセラミックス誘電体の誘電率も低下しやすくなる傾向がある。具体的な含有率は20.0%以下であることが好ましく、15.0%以下であることがより好ましく、10.0%以下であることがさらに好ましく、7.0%以下であることがさらに好ましい。一方、所望の誘電特性を得るには下限の添加量は0%超であることが好ましく、1.5%以上であることがより好ましく、3.5%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
B2O3成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。しかし、この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性低下や熔解性悪化を引き起こすだけでなく、ガラスセラミックス誘電体の誘電率も低下しやすくなる傾向がある。具体的な含有率は20.0%以下であることが好ましく、15.0%以下であることがより好ましく、10.0%以下であることがさらに好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
Al2O3成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。しかし、この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性低下や熔解性悪化を引き起こすだけでなく、ガラスセラミックス誘電体の誘電率も低下しやすくなる傾向がある。具体的な含有率は15.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。一方、所望の誘電特性を得るには下限の添加量は0%超であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましく、1.0%以上であることがさらに好ましい。
なお、より高い安定性のガラスを得るために、SiO2成分、B2O3成分及びAl2O3成分の合計(これらからなる群から選ばれる1種以上の合計量)は0%~20.0%の範囲であることが好ましく、0%超~20.0%の範囲であることがより好ましく、1.5%~15.0%の範囲であることがさらに好ましく、3.0%~12.0%の範囲であることがさらに好ましく、5.0%~10.0%の範囲であることが最も好ましい。
【0023】
MgO成分は、ガラスの安定性を高めると共に誘電性結晶の構成成分となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に任意に添加できる成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30.0%以下含有することが好ましく、20.0%以下含有することがより好ましく、10.0%以下含有することがさらに好ましく、5.0%以下含有することがさらに好ましい。
【0024】
CaO成分は、ガラスの安定性を高めると共に、誘電性結晶の構成成分となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に任意に添加できる成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30.0%以下含有することが好ましく、25.0%以下含有することがより好ましく、20.0%以下含有することがさらに好ましく、15.0%以下含有することがさらに好ましく、10.0%以下含有することがさらに好ましい。
一方、所望の誘電特性を得るには下限の添加量は0%超であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましく、1.0%以上であることがさらに好ましい。
【0025】
SrO成分は、ガラスの安定性を高めると共に、誘電性結晶の構成成分となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に任意に添加できる成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30.0%以下含有することが好ましく、20.0%以下含有することがより好ましく、10.0%以下含有することがさらに好ましく、5.0%以下含有することがさらに好ましい。
【0026】
BaO成分は、ガラスの安定性を高めると共に、誘電性結晶の構成成分となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に任意に添加できる成分である。従って、好ましくは0%以上、より好ましくは0%超、さらに好ましくは2.5%以上、さらに好ましくは5.0%以上、さらに好ましくは10.0%以上含有してもよい。他方で、この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30.0%以下含有することが好ましく、25.0%以下含有することがより好ましく、20.0%以下含有することが最も好ましい。
【0027】
MO成分(式中、MはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)は、ガラスの安定性および誘電率の向上に効果のある成分である。従って、MO成分の合計量は、0%以上50%以下であることが好ましく、0%超45%以下であることがより好ましく、3%以上40%以下であることがさらに好ましく、5%以上35%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
ZnO成分は、ガラスの安定性を高めると共に誘電性結晶の構成成分となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に任意に添加できる成分である。従って、好ましくは0%以上、より好ましくは0%超、さらに好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは3.0%以上含有してもよい。他方で、この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下するのみではなく、目的な結晶相も析出しにくくなる傾向があるので、40.0%以下含有することが好ましく、33.0%以下含有することがより好ましく、30.0%以下含有することがさらに好ましい。
なお、ガラスの安定性を維持すると共に誘電率を向上させるため、上記のMgO成分、CaO成分、SrO成分、BaO成分及びZnO成分の合計(RO成分の合計量)は5.0%~50.0%の範囲であることが好ましく、10.0%~43.0%の範囲であることがより好ましく、15.0%~40.0%の範囲であることがさらに好ましく、20.0%~38.0%の範囲であることがさらに好ましい。
【0029】
K2O成分は、ガラスの安定性を高める効果があるので本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。しかし、この成分含有率が高すぎるとガラスセラミックス誘電体の誘電率が低下しやすくなる傾向がある。具体的な含有率は15.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
Ta2O5成分は、ガラスの安定性を高めると共に、誘電性結晶の構成成分となり得る成分である。この成分が含まれる場合、結晶構造中Nb5+イオンのサイトにTa5+イオンが固溶し誘電率を高める効果がある。具体的な含有率は30.0%以下であることが好ましく、20.0%以下であることがより好ましく、10.0%以下であることがさらに好ましく、8.0%以下であることがさらに好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向がある。
【0031】
WO3成分は、ガラスの安定性を高めると共に、ガラスセラミックス誘電体の誘電率の向上にも寄与するので本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は20.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向がある。
【0032】
ZrO2成分は、ガラスの安定性を高めると共に、誘電性結晶の核形成剤として寄与するので本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は15.0%以下であることがより好ましく、10.0%以下であることがさらに好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるだけでなく、所望の結晶相が得られなくなる場合がある。
【0033】
SnO2成分は、誘電性結晶の核形成剤の役割を果たし、誘電特性の向上に寄与する本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は10.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向がある。
【0034】
Sb2O3成分は、ガラスの脱泡剤の効果があり、本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は10.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがより好ましい、0.5%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向がある。
【0035】
本発明のガラスセラミックス誘電体は、モル比(P2O5+ZnO)/(SiO2+B2O3)が1.0以上であることで、ガラスの安定性を高め、誘電率を高めることができる。従って、モル比(P2O5+ZnO)/(SiO2+B2O3)は1.0以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、2.5以上であることがさらに好ましく、3.0以上であることがより好ましく、3.5以上であることが更に好ましい。
モル比(P2O5+ZnO)/(SiO2+B2O3)が20.0超になると、所望の結晶相が析出しにくくなり、誘電率が低下する傾向がある。従って、モル比(P2O5+ZnO)/(SiO2+B2O3)は20.0以下が好ましく、18.0以下がより好ましく。15.0以下がより好ましく、12.0以下がさらに好ましい。
【0036】
本発明のガラスセラミックス誘電体は、モル比(Nb2O5+ZnO)/(Nb2O5+TiO2)が0.1以上であることで所望の結晶相を析出しやすくなり、誘電率を高めることができる。従ってモル比(Nb2O5+ZnO)/(Nb2O5+TiO2)は0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.8以上であることが更に好ましい。
モル比(Nb2O5+ZnO)/(Nb2O5+TiO2)が3.0超になると、所望の結晶相を析出しにくくなり、誘電率が低下する傾向がある。従って、モル比(Nb2O5+ZnO)/(Nb2O5+TiO2)は3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましく、2.0以下であることがより好ましく1.8以下であることが更に好ましい。
【0037】
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Ce、Gd、Y、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)は、誘電特性の向上に効果があるので、本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。これらの含有量の合計が10.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。これらの成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向がある。
【0038】
M´xOy成分(式中、M´は、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Moからなる群より選択される1種以上)は、誘電特性の改善に効果があるので、本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。これらの含有量の合計が10.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。これらの成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向がある。
【0039】
F成分はガラスの安定性を高め、誘電性結晶の核形成剤の役割を果たすので、本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。その含有率は、外割で30.0%以下であることが好ましく、15.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。この成分の含有率が高すぎると誘電特性が低下しやすくなる傾向がある。
【0040】
本発明のガラスセラミックス誘電体は、ナイオベート化合物、タングステンブロンズ型結晶、ペロブスカイト型結晶、Ti2Nb10O29結晶、TiO2結晶、BaTi2O5結晶、CaTi2O5結晶及びこれらの固溶体からなる群から選ばれる一種または一種以上を含むことが好ましい。なお、上述のナイオベート化合物としては、PNb9O25、P2.5Nb18O50、BaTiP2O8、BaNb2P2O11、ZnNb4P2O17結晶及びこれらのGe4+イオン固溶体、V5+イオン固溶体、Ta5+イオン固溶体からなる群から選ばれる一種または一種以上を含むことがより好ましく、PNb9O25または/及びその固溶体を含むことが最も好ましい。上述のタングステンブロンズ型結晶としては、BaNb2O6、SrNb2O6、CaNb2O6、ZnNb2O6結晶及びこれらの固溶体からなる群から選ばれる一種または一種以上を含むことが特に好ましい。上述のペロブスカイト型としてはBaTiO3、SrTiO3、CaTiO3及びこれらの固溶体からなる群から選ばれる一種または一種以上を含むことが特に好ましい。
【0041】
なお、本発明のガラスセラミックス誘電体の結晶相及びその大きさは、熱処理条件の調整により制御することが可能であるが、所望の誘電特性を得るために上述の結晶相の析出量(結晶化度)は30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。その平均サイズは、ナノオーダーから数十ミクロンまでの範囲が好ましい。
【0042】
本発明のガラスセラミックス誘電体は、室温において10kHzにおける誘電率(ε)が60以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましく、90以上であることがさらに好ましく、100以上であることがさらに好ましい。また、室温から225℃までの温度領域における静電容量の変化率は±30%以内であることが好ましく、±20%以内であることがより好ましく、±15%以内であることがさらに好ましい。さらに、誘電正接(tanδ)は0.1以下であることが好ましく、0.07以下であることがより好ましく、0.05以下であることがさらに好ましく、0.03以下であることが最も好ましい。なお、本発明において、インピーダンスアナライザー(例えばソーラトロン社製 SI1260)を用いて100Hzから100kHzまでの周波数にわたって静電容量及び誘電正接(tanδ)を測定し、C=ε0εrS/d(ここで、Cは静電容量、ε0は真空の誘電率、εrは材料の誘電率、Sは電極面積、dは試料厚み)の式から誘電率を算出した。
【0043】
また、本発明のガラスセラミックス誘電体は、平均線膨張係数が小さいことが好ましい。熱膨張および収縮による割れを低減されるため、-30℃~70℃における平均線膨張係数が80×10-7/K以下であることが好ましく、75×10-7/K以下であることがより好ましく、70×10-7/K以下であることがさらに好ましい。
【0044】
誘電特性の温度依存性は100Hzから100kHzまでの周波数にわたって室温から350℃までの温度範囲で測定した。温度に対する誘電率の変化率(εT)は、25℃における誘電率を基準としたとき、各温度における誘電率がどれだけ変化するかを求め、下記の式で算出した。
εT(%)=[(目的の温度における誘電率-25℃における誘電率)/25℃における誘電率]×100%
【0045】
<用途>
本発明のガラスセラミックス誘電体は、任意の形にすることが可能であるため、様々な用途において利用できる。例えば、通信機器や電子機器に搭載される回路基板及び電子部品、大容量高電圧コンデンサーなどの誘電材料として使用される。コンデンサーは電力変換装置における電流変動の緩衝、カップリングや平滑用に使用される。高電圧コンデンサーは半導体の加工や視力矯正手術で利用されるエキシマレーザー機器のほか、医療用X線装置、工業用高電圧電源や、再生可能エネルギー用送電システムに必要不可欠な部品である。これらの誘電材料は単独で上記の用途に用いられる以外に、繊維、粉末及びペーストなどの態様で他の誘電体と複合化した形でも使用されることも可能である。具体的には、基板上にパターン電極を形成された誘電体基板、積層基板材料、誘電体共振素子、誘電材料の焼成助剤、誘電体ペースト(誘電体粉末を有機化合物等からなるビヒクル中に懸濁させたものであって、通常、スクリーン印刷や打ち抜き型印刷により電極上に成膜されて使用される)等の用途が挙げられる。さらに、優れた誘電特性と低線膨張係数を併せ持つため、電子材料用樹脂のフィラーとして好適に用いることができる。樹脂との複合により、樹脂の誘電特性や電気特性や耐熱性等の改善ができる。
【0046】
また、本発明のガラスセラミックスを負極活物質として含む負極材を用いて全固体二次電池(全固体リチウム二次電池)を形成することもできる。例えば、本発明のガラスセラミックスを含む負極材と、正極活物質を含む正極材と、固体電解質材と、インターコネクタ層などと、を一体成形させて全固体二次電池を形成してもよい。
【0047】
<ガラスセラミックス誘電体の製造方法>
本発明のガラスセラミックス誘電体は、
(i)所定の比で混合した原料を熔融し、その融液を冷却してガラスを得る工程と、(ii)ガラスをそのガラス転移点以上の温度で熱処理することでガラスセラミックス誘電体に変換する結晶化工程とを含んでいる。
【0048】
(1)工程(i)
各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を調合し、均一に混合してから白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して電気炉又は燃焼炉で1200~1500℃の温度範囲で1~24時間熔融し、攪拌均質化したのち、その融液を冷却してガラスを得る工程である。なお、原料は特に限定されるものではなく酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物等の通常のガラスに使用される原料を適宜に選択すればよく、ガラス化の条件は、ガラス組成及び熔解量等に応じて適宜に設定すればよい。また、本工程で得られるガラス体の形状は特に限定されず、用途に応じて板状、繊維状、粒状等であってよい。
【0049】
(2)工程(ii)
上記工程(i)で得られたガラスを熱処理することで、ガラスセラミックス誘電体に変換する結晶化工程である。この熱処理は、ガラスのガラス転移点以上の温度で行われる。ガラス転移点(Tg)は、組成により相違するが、概ね500℃~750℃の範囲にある。熱処理温度の上限は、特に限定されないが、DTA測定で見られた結晶化ピークを示す温度より400℃高い温度を上限とすることが好ましい。本発明のガラスの最高結晶化温度は組成により大きく異なるが、概ね650℃~1100℃の範囲である。また、熱処理時間は、ガラスセラミックス誘電体に変換し得る時間であり、熱処理温度が高いと短く、低いと長くなり、通常0.1~100時間の範囲である。なお、この結晶化工程は、1段階の熱処理でもよいし、2段階以上の熱処理過程を経てもよい。
【0050】
なお、工程(ii)はバルクガラスからバルクガラスセラミックス誘電体を作製するのに最も適する手法であるが、ガラスの形状に応じて工程(ii)における熱処理温度を適宜に設定する必要がある。例えば、工程(i)で得られたガラスは粉末であり、その粉末を用いて焼結法でシート状のガラスセラミックス誘電体を作製する場合は、緻密化を図るためガラスからガラスセラミックス誘電体に変化する温度(焼成温度)は上述の熱処理温度の上限より高い温度にする場合がある。
【実施例0051】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0052】
(実施例1)
組成:5SiO2―3Al2O3-21P2O5-6TiO2-30Nb2O5―17.5BaO-14CaO-3.5ZnO (モル%)
上記の組成になるように原料(SiO2、Al2O3、TiO2、Nb2O5、Ba(PO3)2、Ca(PO3)2、CaCO3、ZnO)を調合し、よく混合した後、白金坩堝に投入した後1450℃の炉内で熔解した。融液を攪拌均質化してから、金型に流し込み、板状のガラスを得た。その後、950℃で4時間熱処理を行い、ガラスセラミックス誘電体に変換した。得られたガラスセラミックス誘電体について約20mm×20mm×1mmに加工し、表1に記載の物性項目を評価した。
ガラスセラミックス誘電体の結晶相についてX線回折装置(Bruker社製、商品名:D8 DISCOVER)で確認した結果、主結晶相としてPNb9O25が析出したことが判明した。PNb9O25の析出割合は得られたXRDパターンの解析により算出した。先ず、全パターン分解法(WPPD)によりプロファイルフィッテングを行い、アモルファス相の面積および結晶相のピーク面積をそれぞれ算出し、アモルファス相を除いた結晶相ごとのピーク面積の比からPNb9O25の析出割合を算出した。
ガラスセラミックス誘電体の平均線膨張係数(CTE)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS-16(2019)「光学ガラスの常温付近の平均線膨張係数の測定方法」を参考に、マックサイエンス社製TD5000Sを用いて測定した。具体的には、試料を直径4mm、長さ20mmの円柱状に加工し、-30℃~70℃の温度範囲において、温度と材料の伸びの関係を示す膨張曲線の傾きから平均線膨張係数を算出した。
【0053】
(実施例2)
組成:5SiO2―3Al2O3-20P2O5-7GeO2-30Nb2O5―17.5BaO-14CaO-3.5ZnO (モル%)
上記の組成になるように原料(SiO2、Al2O3、GeO2、Nb2O5、Ba(PO3)2、Ca(PO3)2、CaCO3、ZnO)を調合し、よく混合した後、白金坩堝に投入した後1400℃の炉内で熔解した。融液を攪拌均質化してから、ガラス溶液を急冷することにより板状のガラスを作製した。その後、950℃で4時間熱処理を行い、ガラスセラミックス誘電体に変換した。得られたガラスセラミックス誘電体について約20mm×20mm×1mmに加工し、表1に記載の物性項目を評価した。
ガラスセラミックス誘電体の結晶相についてX線回折装置(Bruker社製、商品名:D8 DISCOVER)で確認した結果、主結晶相としてPNb9O25の固溶体である(P,Ge)Nb9O25が析出したことが判明した。[0052]段落に記載の方法と同様に(P,Ge)Nb9O25の析出割合を算出した。
【0054】
実施例1、2と類似な方法で(一部は結晶化条件を変えて)実施例3~14及び比較例1を作製した。表1に実施例及び比較例の組成、主結晶相、平均線膨張係数、25℃において10kHzにおける誘電率及び誘電正接をまとめた。この表または
図1と2に示すように実施例の方が、PNb
9O
25の結晶相またはその固溶体がより多く析出し、より高い誘電率を示すことが明らかになった。
図3に代表例として実施例1の温度に対する静電容量の変化率を示す。この図から実施例1の静電容量の変化率が室温から225℃までの範囲で±15%以内、誘電正接tanδが0.02以下であることが確認できる。
【0055】