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特開2024-148043腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物
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  • 特開-腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148043
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20241009BHJP
   A61K 31/733 20060101ALI20241009BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20241009BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241009BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241009BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20241009BHJP
【FI】
A61K31/353
A61K31/733
A61P1/14
A61P43/00 121
A23L33/105
A23L33/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060925
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大里 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 祐司
(72)【発明者】
【氏名】友延 一市
(72)【発明者】
【氏名】青山 寛
(72)【発明者】
【氏名】山口 亨
(72)【発明者】
【氏名】綱川 みずき
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE05
4B018MD08
4B018MD47
4B018MD59
4B018ME14
4B018MF02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086EA20
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA73
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物の提供。
【解決手段】(A)非重合体カテキン類と(B)イヌリンを有効成分として含有する腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物であって、(A)非重合体カテキン類として1日あたり300mg以上の量で、且つ、(B)イヌリンとして1日あたり1.5g以上の量で経口投与又は経口摂取される腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)非重合体カテキン類と(B)イヌリンを有効成分として含有する腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物であって、(A)非重合体カテキン類として1日あたり300mg以上の量で、且つ、(B)イヌリンとして1日あたり1.5g以上の量で経口投与又は経口摂取される腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物。
【請求項2】
経口組成物が飲料であり、飲料中の(A)非重合体カテキン類の含有量が0.03質量%以上で、(B)イヌリンの含有量が0.15質量%以上である請求項1記載の腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物。
【請求項3】
経口組成物がインスタント飲料組成物であり、インスタント飲料組成物中の(A)非重合体カテキン類の含有量が1質量%以上で、(B)イヌリンの含有量が50質量%以上である請求項1記載の腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの消化管内には1000種類以上、100兆個以上の細菌が生息し、腸内細菌叢(フローラ)を形成している。最近の研究により、消化器疾患にとどまらず、代謝疾患、免疫疾患、精神疾患等、様々な疾患の発症機序に腸内細菌叢が関与していることが明らかにされつつある。特に、腸内細菌叢と肥満及び2型糖尿病との関連については早くから研究が行われ、腸内細菌叢解析により腸内細菌叢のかたよりや乱れが肥満及び2型糖尿病を引き起こす可能性が示唆されている。現在、腸内細菌叢の制御を通して、疾患の予防又は治療に生かす試みが活発に行われている。
【0003】
ブラウティア属(Blautia)細菌は、ヒト及び動物の全腸内細菌の3~11%程度を占める主要菌である。ブラウティア属細菌は、体内で肥満を解消する働きがある酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸を産生することが知られている。特許文献1には、ブラウティア属細菌を経口摂取すると内臓脂肪が低減することが開示されている。
また、2型糖尿病の患者腸内でブラウティア属細菌が減少していること、2型糖尿病寛解した者ではブラウティア属細菌が増加しており、ブラウティア属細菌は2型糖尿病寛解と正相関することが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
一方、非重合体カテキン類は、Camellia属の茶葉に含まれるポリフェノールの一種であり、継続摂取することにより内臓脂肪低減効果が得られることが報告されている(非特許文献1)。ポリフェノールの抗肥満作用には腸内細菌叢の変化が関係している可能性が示唆されているが、肥満者の腸内細菌叢に対する非重合体カテキン類(エピガロカテキンガレート)の効果を調べた試験では、非重合体カテキン類の継続摂取によりヒト腸内細菌叢の組成は変化しなかったことが報告されている(非特許文献2)。
また、イヌリンは、種々の植物に含まれる水溶性食物繊維の一種であり、腸内において人体に有益な細菌を増やすのに貢献することが知られている。肥満者における検討では、イヌリンを経口摂取させたところビフィズス菌やバクテロイデス属細菌が増加し、ブラウティア属細菌が減少したことが報告されている(非特許文献3、4)。
【0005】
非重合体カテキン類とイヌリンとの併用については、特許文献2に、非重合体カテキン類の保存劣化が抑制された食物繊維含有経口組成物が開示されている。
しかしながら、非重合体カテキン類及びイヌリンの経口摂取が腸内ブラウティア属細菌の存在量に及ぼす影響に関しては何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-184424号公報
【特許文献2】特開2022-23016号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】NPJ Biofilms Microbiomes. 2019 4;5(1):28
【非特許文献2】PLOS ONE DOI:10.1371/journal.pone.0153134 April 7, 2016
【非特許文献3】Clinical Nutrition 39, 2020:3618-3628
【非特許文献4】Gut 2019 68:1430-1438. doi:10.1136/gutjnl-2019-318424
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、非重合体カテキン類とイヌリンとの組み合わせに、腸内におけるブラウティア属細菌を増加する効果があることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、(A)非重合体カテキン類と(B)イヌリンを有効成分として含有する腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物であって、(A)非重合体カテキン類として1日あたり300mg以上の量で、且つ、(B)イヌリンとして1日あたり1.5g以上の量で経口投与又は経口摂取される腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、腸内におけるブラウティア属細菌の増加に有用な経口組成物を提供することができる。従って、ブラウティア属細菌が有する各種生理作用を有効に発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】腸内ブラウティア属細菌の存在率の変化量を示すグラフ。
図2】非重合体カテキン類とイヌリンの併用摂取による腸内ブラウティア属細菌量の推移を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物(以下、組成物ともいう)は、(A)非重合体カテキン類及び(B)イヌリンを腸内のブラウティア属細菌を増加するための有効成分として含有する。
本明細書において「非重合体カテキン類」とは、カテキン、ガロカテキン、エピカテキン及びエピガロカテキン等の非ガレート体と、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のガレート体を併せての総称である。本発明においては、上記8種の非重合体カテキン類のうち少なくとも1種を含有すればよい。
【0014】
(A)非重合体カテキン類の由来は特に限定されず、例えば、化学合成品でも、非重合体カテキン類を含有する植物から抽出したものでもよい。
非重合体カテキン類は、一般的には茶葉から抽出した茶抽出物、その濃縮物又はそれらの精製物(以下、これらを包括的に「茶抽出物等」とも称する)に含まれているため、これらから得られるものが好ましく使用される。ここで、「茶抽出物」とは、茶葉から水又は親水性有機溶媒を用いて抽出したものであって、濃縮や精製操作が行われていないものをいう。水としては、例えば、水道水、天然水、蒸留水、膜ろ過水、イオン交換水等が挙げられる。親水性有機溶媒としては、例えば、エタノール等の低級アルコールを挙げることができる。
また、抽出方法としては、ニーダー抽出、撹拌抽出、ドリップ抽出、カラム抽出等の公知の方法を採用することができる。
「茶抽出物の濃縮物」とは、上記茶抽出物から溶媒の少なくとも一部を除去して非重合体カテキン類濃度を高めたものをいう。茶抽出物の濃縮物は、例えば、特開昭59-219384号公報、特開平4-20589号公報、特開平5-260907号公報、特開平5-306279号公報等に記載の方法により調製することができる。更に、「茶抽出物の精製物」は、溶剤や吸着剤を用いて茶抽出物又はその濃縮物を処理し固形分中の非重合体カテキン類の純度を高めたものをいい、例えば、特開2004-147508号公報、特開2007-282568号公報、特開2006-160656号公報、特開2008-079609号公報等に記載の方法により調製することができる。
【0015】
抽出に使用する茶葉としては、Camellia属の茶葉、例えば、C.sinensis var.sinensis(やぶきた種を含む)、C.sinensis var.assamica又はそれらの雑種から得られる茶葉が挙げられる。茶葉は、摘採された生茶葉の他、これを乾燥、凍結等させたもの、又はこれらを製茶したものが包含される。
茶葉は、その加工方法により、不発酵茶葉、半発酵茶葉、発酵茶葉に分類される。不発酵茶葉としては、例えば、煎茶、深蒸し煎茶、焙じ茶、番茶、玉露、かぶせ茶、碾茶、釜入り茶、茎茶、棒茶、芽茶等の緑茶葉が挙げられる。半発酵茶葉としては、例えば、鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶等の烏龍茶葉が挙げられる。発酵茶葉としては、ダージリン、アッサム、スリランカ等の紅茶葉が挙げられる。茶葉は、1種又は2種以上を使用することができる。また、茶葉の他、茎を使用してもよい。なかでも、非重合体カテキン類の含有量が高いという点から、緑茶葉が好ましい。
【0016】
本明細書において「イヌリン」とは、多糖類の一群であって、グルコースにフルクトースが複数個結合した重合体をいう。
本発明に使用可能な(B)イヌリンは、スクロースのフルクトース残基側にD-フルクトースが主にβ-(2→1)結合した多糖である。成分(B)の平均重合度は2~100の範囲であり、2~60が好ましく、5~45がより好ましく、10~30が更に好ましく、10~25がより更に好ましい。ここで、本明細書において「平均重合度」とは、イヌリン中のサッカライド単位(フルクトース及びグルコース単位)の数の平均値をいう。なお、成分(B)の平均重合度は、例えば、以下のようにして、液体クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ、陰イオンクロマトグラフィ等の通常の分析法によって求めた分析結果のピークのトップを平均重合度とすることができる。カラムとして、例えば、信和化工製のULTRON PS-80N(8×300mm)(溶媒;水、流速;0.5mL/min、温度;50℃)、あるいは、TOSOH製のTSK-GEL G3000PWXL(7.8×300mm)(溶媒;水、流速;0.5mL/min、温度;50℃)を用い、検出器として示差屈折計を使用することによって確認された生成イヌリンの重合度を、標準物質として、例えば、植物由来のイヌリンであるオラフティ社のラフテリンST(平均重合度11)とラフテリンHP(平均重合度22)を用いて作成した検量線により求めることができる。なお、イヌリンの重合度の分析に関しては、Critical Reviews in Food Science and Nutrition,35(6),525-552(1995)等の文献を参考にして実施することができる。
【0017】
(B)イヌリンとしては、特に限定されず、例えば、市販品を使用することが可能である。例えば、Fuji FF(フジ日本精糖社製)、イヌリアHD、イヌリアIQ、イヌリアCLR、イヌリアOFP(以上、TEIJIN社製)、ラフテリンST、ラフテリンHP(以上、オラフティ社製)を挙げることができる。また、イヌリンを豊富に含む植物から当業者に周知の方法により採取したものを使用しても構わない。植物としては、例えば、チコリ、キクイモ、ダリア、ニンニク、ニラ、タマネギ、タンポポ、ゴボウを挙げることができる。さらに、イヌリンはチコリを酵素処理により分解したものやサトウキビから酵素処理により合成したものなど、食品として使用できる範囲内で処理を加えたものを使用しても構わない。
【0018】
後記実施例に示すように、(A)非重合体カテキン類と(B)イヌリンの組み合わせを経口摂取すると、腸内におけるブラウティア属細菌の有意な増加が認められる。
従って、(A)非重合体カテキン類と(B)イヌリンの組み合わせは、腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物となり得、また、腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物を製造するために使用することができる。また、(A)非重合体カテキン類と(B)イヌリンの組み合わせは、腸内のブラウティア属細菌を増加するために使用することができる。ここで、「使用」は、ヒトを含む動物への投与又は摂取であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0019】
本発明において、(A)非重合体カテキン類と(B)イヌリンは、どちらを先に経口投与又は経口摂取しても、同時に経口投与又は経口摂取してもよい。両剤を同時に経口投与又は経口摂取しない場合、両剤の投与又は摂取間隔は、(A)非重合体カテキン類又は(B)イヌリンの腸内ブラウティア属細菌増加作用の増強効果を奏するかぎり適宜選択しうる。
(A)非重合体カテキン類と(B)イヌリンを組み合わせてなる組成物は、これらを一の形態に配合したものでも、また単独に形態化したものを同時に又は間隔を空けて別々に使用できるようにしたキットであってもよい。
【0020】
本発明の組成物において、(A)非重合体カテキン類と(B)イヌリンの比率は、腸内ブラウティア属細菌増加効果を向上させる観点から、その質量比[(A)/(B)]で、好ましくは0.2~0.45であり、より好ましくは0.2~0.30であり、更に好ましくは0.21~0.25である。
【0021】
本明細書において、「腸内ブラウティア属細菌増加」とは、腸内に既存するブラウティア属細菌が増加することを意味する。ブラウティア属細菌は、ブラウティア属に属する細菌であり、例えば、ブラウティア・ヘンセンニ(Blautia hansenii)、ブラウティア・ヒドロゲノトロフィカ(Blautia hydrogenotrophica)、ブラウティア・スターコリス(Blautia stercoris)、ブラウティア・ファエシス(Blautia faecis)、ブラウティア・コッコイデス(Blautia coccoides)、ブラウティア・グルセラセア(Blautia glucerasea)、ブラウティア・ルティ(Blautia luti)、ブラウティア・プロダクタ(Blautia producta)、ブラウティア・シンキ
イ(Blautia schinkii)、ブラウティア・ワクスレレ(Blautia wexlerae)等が挙げられる。
ブラウティア属細菌の増加は、例えば、腸内細菌が含まれる試料について腸内細菌叢を解析し、腸内細菌叢を構成する細菌属、種の種類と組成に基づいて評価することができる。腸内細菌が含まれる試料としては、例えば、糞便、消化管液、消化管洗浄液、生体試料等が挙げられる。腸内細菌叢の解析手段は、例えば、菌叢ゲノムDNAに含まれる16SrRNA遺伝子の塩基配列に基づいて、腸内細菌叢における細菌系統組成を解析するメタゲノム解析が挙げられる。
【0022】
本明細書において、「経口組成物」とは、経口投与又は経口摂取に供される製品をいう。
本発明の腸内ブラウティア属細菌増加用経口組成物は、ヒトを含む動物に経口投与又は経口摂取した場合に、腸内におけるブラウティア属細菌を増加する効果を発揮するヒト又は動物用の医薬品、医薬部外品、食品又は飼料となり得る。
【0023】
当該医薬品(以下、医薬部外品を含む)は、(A)非重合体カテキン類及び(B)イヌリンを、腸内のブラウティア属細菌を増加するための有効成分として含有することが好ましい。更に、該医薬品は、該有効成分の機能が失われない限りにおいて、必要に応じて薬学的に許容される担体、又は他の有効成分、薬理成分等を含有していてもよい。
医薬品は任意の投与形態で投与され得る。投与形態としては、例えば、錠剤(チュアブル錠等を含む)、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤等の経口固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口液状製剤が挙げられる。形態は使用目的に応じて大きさを任意に調節することができる。
このような種々の剤形の製剤は、必要に応じて、薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、保存剤、増粘剤、流動性改善剤、嬌味剤、発泡剤、香料、被膜剤、希釈剤等や、他の薬効成分等と適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0024】
当該食品は、(A)非重合体カテキン類及び(B)イヌリンを、腸内のブラウティア属細菌を増加するための有効成分として含有することが好ましい。
食品には、ブラウティア属細菌の増加を訴求とし、必要に応じてその旨の表示が許可又は届出された食品(特定保健用食品、機能性表示食品)が含まれる。機能表示が許可又は届出された食品は、一般の食品と区別することができる。
食品の形態は、固形、半固形又は液状(例えば飲料)であり得る。例としては、各種食品組成物(パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、冷凍食品、アイスクリーム類、あめ類、ふりかけ類、スープ類、乳製品、シェイク、飲料、調味料等)、更には、上述した経口投与製剤と同様の形態(顆粒剤、粉剤、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、トローチ剤等の固形製剤)の栄養補給用組成物が挙げられる。手軽に摂取できることから、好ましくは飲料である。
飲料である場合、茶飲料でも、非茶飲料でもよい。茶飲料としては、例えば、緑茶飲料、紅茶飲料、烏龍茶飲料が挙げられ、中も緑茶飲料が好ましい。非茶飲料としては、例えば、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、スポーツ飲料、乳飲料等を挙げることができる。ここで、本明細書において「スポーツ飲料」とは、運動や日常生活等で発汗等によって失われた水分、電解質、ミネラル、エネルギーを効率よく補給することを目的とした清涼飲料水であり、ナトリウム濃度が0.010質量%以上の飲料をいう。
種々の形態の食品は、(A)非重合体カテキン類及び(B)イヌリンを、任意の食品材料、若しくは他の有効成分、又は食品に許容される添加物(例えば、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、酸味料、甘味料、苦味料、pH調整剤、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、固着剤、分散剤、流動性改善剤、湿潤剤、香科、調味料、風味調整剤)等と適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0025】
当該飼料は、(A)非重合体カテキン類及び(B)イヌリンを、腸内のブラウティア属細菌を増加するための有効成分として含有することが好ましい。
飼料の形態としては、好ましくはペレット状、フレーク状、マッシュ状又はリキッド状であり、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫、小鳥等に用いるペットフード等が挙げられる。
飼料は、(A)非重合体カテキン類及び(B)イヌリンを、他の飼料材料、例えば、肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類、ゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等と適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0026】
本発明の組成物において、(A)非重合体カテキン類と(B)イヌリンの含有量は、その剤形や形態により異なり得るが、経口投与又は経口摂取のしやすさ等を考慮して、適宜設定することができる。
なかでも、飲料の形態における(A)非重合体カテキン類の含有量は、その生理効果を効率よく享受する観点から、飲料中に、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.07質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上、さらに好ましくは0.13質量%以上である。なお、(A)非重合体カテキン類の含有量は、上記8種の非重合体カテキン類の合計量に基づいて定義される。
また、インスタント飲料組成物中の(A)非重合体カテキン類の含有量は、その生理効果を効率よく享受する観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは6質量%以上である。ここで、「インスタント飲料組成物」とは、所定の用法にしたがい液体で希釈して還元飲料として経口摂取されるものをいう。
本明細書において、非重合体カテキン類の含有量は、通常知られている測定法のうち測定試料の状況に適した分析法により測定することが可能であり、例えば、液体クロマトグラフィーで分析することが可能である。具体的には、後掲の実施例に記載の方法が挙げられる。
【0027】
飲料の形態における(B)イヌリンの含有量は、その生理効果を効率よく享受する観点から、飲料中に、好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.30質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
また、インスタント飲料組成物中の(B)イヌリンの含有量は、その生理効果を効率よく享受する観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。
本明細書において、(B)イヌリンの含有量は、通常知られている測定法のうち測定試料の状況に適した分析法により測定することが可能であり、例えば、後掲の実施例に記載の方法が挙げられる。なお、測定の際には装置の検出域に適合させるため、試料を凍結乾燥したり、装置の分離能に適合させるため試料中の夾雑物を除去したりする等、必要に応じて適宜処理を施してもよい。
【0028】
本発明の組成物の経口投与量又は経口摂取量は、(A)非重合体カテキン類として1日あたり300mg以上、且つ、(B)イヌリンとして1日あたり1.5g以上である。
経口投与量又は経口摂取量は、投与又は摂取対象の種、体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動し得るが、腸内ブラウティア属細菌増加効果を向上させる観点から、(A)非重合体カテキン類として、1日あたり、好ましくは400mg以上、より好ましくは500mg以上であり、また、好ましくは3000mg以下、より好ましくは2000mg以下、更に好ましくは1500mg以下、より更に好ましくは1300mg以下、より更に好ましくは1200mg以下、より更に好ましくは800mg以下である。
また、(B)イヌリンとして、1日あたり、好ましくは1.5g以上であり、より好ましくは1.7g以上、より好ましくは2.0g以上であり、好ましくは10g以下であり、より好ましくは9g以下、さらに好ましくは8g以下である。
なお、本明細書における経口投与量又は経口摂取量は成人1人(60kg)に対しての量とする。
本発明では斯かる量を1日に1回、2回又は3回以上に分け、経口投与又は経口摂取することが好ましい。
【0029】
本発明の組成物は、任意の計画に従って経口投与又は経口摂取され得る。
投与又は摂取期間は特に限定されず、単回投与又は摂取でもよいが、反復・連続して投与又は摂取することが好ましい。反復・連続して投与又は摂取する場合は、2週間以上、更に4週間以上、更に8週間以上、更に10週間以上、更に12週間以上連続して投与又は摂取することが好ましい。
【0030】
投与又は摂取対象者としては、それを必要とする若しくは希望するヒト又は非ヒト動物であれば特に限定されない。ブラウティア属細菌が有する各種生理作用から、対象の好ましい例として、内臓脂肪の蓄積量が高めのヒト(例えば、内臓脂肪面積80cm以上のヒト)、脂肪の多い食事を摂りがちのヒト等が挙げられる。
【実施例0031】
試験例1
1.試験食品
下記に示す配合組成で非重合体カテキン類(茶カテキンの力、花王(株)製)とイヌリン(発酵するナチュラルイヌリン、帝人(株)製)を混合し、粉末形態の食品を得た。
対照食品:非重合体カテキン類0mg+イヌリン0g
被験食品:非重合体カテキン類540mg+イヌリン2.25g
【0032】
食品中の非重合体カテキン類の分析方法とイヌリンの分析方法を以下に示す。
[非重合体カテキン類の分析]
純水で溶解希釈した試料を、高速液体クロマトグラフ(型式SCL-10AVP、島津製作所製)を用い、オクタデシル基導入液体クロマトグラフ用パックドカラム(L-カラムODS、4.6mmφ×250mm 粒子径5μm:財団法人 化学物質評価研究機構製)を装着し、カラム温度35℃でグラジエント法により測定する。移動相A液は酢酸を0.1mol/L含有する蒸留水溶液、B液は酢酸を0.1mol/L含有するアセトニトリル溶液とし、流速は1mL/分、試料注入量は10μL、UV検出器波長は280nmの条件で行う。なお、グラジエント条件は以下の通りである。
濃度勾配条件(体積%)
時間 A液濃度 B液濃度
0分 97% 3%
5分 97% 3%
37分 80% 20%
43分 80% 20%
43.5分 0% 100%
48.5分 0% 100%
49分 97% 3%
60分 97% 3%
【0033】
[イヌリンの分析]
AOAC Method 999.03 に準じて測定することができる。即ち、試料を熱水で抽出後、スクロースを酵素分解し、遊離糖にする。次に,水素化ホウ素ナトリウム溶液を加え、酵素分解で生じた遊離糖を、糖アルコールに変換する。その後、フラクタナーゼと反応させ、フラクタンをグルコース及びフルクトースに酵素分解し、発色液を加え、発色させて吸光度を測定する。なお、油脂が多い試料や乳化された試料である場合は、上記操作の前処理として脱脂を施してもよい。
【0034】
2.被験者及び方法
BMI高め(目標値BMI25kg/m以上)の20歳以上60歳未満の健常男性を対象に、ランダム化単盲検並行群間比較試験を行った。被験者を対照食品群と被験食品群の2つに群分けし、上記で調製した対照食品又は被験食品をそれぞれ350mLのお湯又は水に溶解して、1日1回、12週間、毎日好きなタイミングで摂取させた。
【0035】
0週、4週、8週、12週に各群の被験者から糞便の採取を行い、対照食品群5名、被験食品群6名を最終解析対象者とした。
腸内細菌叢の分析は、株式会社テクノスルガラボが保有する採便キットを用いて、実施した。rDNA(16SrRNA遺伝子)部分の塩基配列を標的としたアンプリコンシーケンス解析を用いて、各腸内細菌叢を同定した。プライマーに関しては、Pro341F - Pro805Rを使用し、PCRは先行文献(Development of a prokaryotic universal primer for simultaneous analysis of Bacteria and Archaea using next-generation sequencing. PLoS One. 2014 Aug 21;9(8):e105592. doi: 10.1371/journal.pone.0105592. eCollection 2014)に従って実施した。得られたDNA断片は、シーケンサー(Miseq,Illumia)とシーケンシングキット(MiSeq Reagent Kit v3,Illunia)を用いて、アンプリコンシーケンス解析を実施した。取得データの前処理は、先行文献(Inter- and intra-individual variations in seasonal and daily stabilities of the human gut microbiota in Japanese. Arch Microbiol. 2015 Sep;197(7):919-34. doi:10.1007/s00203-015-1125-0. Epub 2015 Jun 12及びcutPrimers:A New Tool for Accurate Cutting of Primers from Reads of Targeted Next Generation Sequencing. J Comput Biol. 2017 Nov;24(11):1138-1143. doi:10.1089/cmb.2017.0096. Epub 2017 Jul 17)に従い、実施した。相同性検索は、ソフトウェアMetagenome@KIN(World Fusion, Japan)を用いて実施した。データベースは、RDP Classifier ver.2.13(Naive Bayesian classifier for rapid assignment of rRNA sequences into the new bacterial taxonomy. Appl Environ Microbiol. 2007 Aug;73(16):5261-7. doi:10.1128/AEM.00062-07. Epub 2007 Jun 22)を用いた。
ブラウティア属細菌の存在率は、ブラウティア属細菌のコピー数/全菌体のコピー数により算出し、変化率(ΔBlautia)に関しては、本存在率の介入前後比較により算出した。
得られた数値は、平均値±標準偏差で示し、統計は1元配置分散分析を用い、その際に、性別、年齢、初期腸内ブラウティア属細菌の存在率、初期内臓脂肪面積値を調整した。有意水準は、0.05とした。
【0036】
3.結果
腸内ブラウティア属細菌の存在率の12週の変化量を図1に示す。0週、4週、8週、12週の腸内ブラウティア属細菌量の推移を図2に示す。図1より、被験食品群では、対照食品群と比較して、腸内ブラウティア属細菌の存在率が有意に高まることが確認された。また、図2より、被験食品の経口摂取により腸内ブラウティア属細菌が有意に増加することが確認された。
図1
図2