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特開2024-14805分散管理および交差したセンシングパルスを有する分散型マルチスパン光ファイバDASシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014805
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】分散管理および交差したセンシングパルスを有する分散型マルチスパン光ファイバDASシステム
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/071 20130101AFI20240125BHJP
   H04B 10/25 20130101ALI20240125BHJP
【FI】
H04B10/071
H04B10/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023117533
(22)【出願日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】63/391,039
(32)【優先日】2022-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】502101180
【氏名又は名称】サブコム,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジン-シン カイ
(72)【発明者】
【氏名】カール デビッドソン
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ダブリュー. パターソン
(72)【発明者】
【氏名】アレクセイ エヌ. ピリペツキー
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AB06
5K102AD01
5K102LA06
5K102LA21
5K102MH15
5K102PA03
5K102PA04
5K102PH13
5K102PH41
5K102PH42
5K102PH50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】分散管理および交差したセンシングパルスを有する分散型マルチスパン光ファイバDASシステムを提供する。
【解決手段】分散型マルチスパン光ファイバDASシステム400は、光通信リンクの少なくとも1つのスパンにわたって第1方向にアウトバウンドDAS信号を送信するために用いられるDAS送信機と、アウトバウンドDAS信号に基づいてレイリー後方散乱信号を受信するために用いられるDAS受信機と、を有する分散型音響センシング(DAS)ステーション402を含む。ここで、DAS信号が少なくとも部分的にD-光ファイバにより転送される。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光通信リンクの少なくとも1つのスパンにわたって第1方向に、少なくとも部分的にD-光ファイバにより転送されるアウトバウンドDAS信号を送信するために用いられるDAS送信機と、前記アウトバウンドDAS信号に基づいてレイリー後方散乱信号を受信して分析するために用いられるDAS受信機とを含む、分散型音響センシング(DAS)ステーションを含む、
システム。
【請求項2】
前記アウトバウンドDAS信号を前記少なくとも1つのスパンのうち、第1スパンにルーティングするために用いられる第1外部サーキュレータと、
前記アウトバウンドDAS信号を前記少なくとも1つのスパンのセンシングスパンにルーティングして、DASステーションに向かって逆方向に前記レイリー後方散乱信号をルーティングするために用いられる第2外部サーキュレータと、をさらに含む、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1外部サーキュレータは、前記センシングスパンから前記レイリー後方散乱信号を受信し、前記レイリー後方散乱信号を前記DAS受信機にルーティングするように構成される、
請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記DASステーションは第1DASステーションであり、前記アウトバウンドDAS信号は第1アウトバウンドDAS信号であり、前記レイリー後方散乱信号は第1レイリー後方散乱信号であり、前記DAS送信機は第1DAS送信機であり、且つ前記DAS受信機は第1DAS受信機であり、前記システムは、
前記少なくとも1つのスパンにわたって前記第1方向とは反対方向である第2方向に、少なくとも部分的に前記D-光ファイバにより転送される第2アウトバウンドDAS信号を送信するために用いられる第2DAS送信機と、
前記第2アウトバウンドDAS信号に基づいて第2レイリー後方散乱信号を受信するために用いられる第2DAS受信機とを備える、第2DASステーションをさらに含む、
請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1アウトバウンドDAS信号を前記少なくとも1つのスパンのうち、前記第1DASステーションに隣接する第1スパンにルーティングするために用いられる第1外部サーキュレータと、
センシングスパン内で前記第1アウトバウンドDAS信号を前記D-光ファイバからD+光ファイバにルーティングするために用いられる第2外部サーキュレータと、をさらに含む、
請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記第2アウトバウンドDAS信号を前記少なくとも1つのスパンのうち、前記第2DASステーションに隣接する第2スパンにルーティングするために用いられる第3外部サーキュレータと、
センシングスパン内で前記第2アウトバウンドDAS信号を前記D+光ファイバから前記D-光ファイバにルーティングするために用いられる第4外部サーキュレータと、をさらに含む、
請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記DASステーションは、複数の異なる波長で複数のアウトバウンドDAS信号を複数のパルスとしてそれぞれ送信するように構成され、時間において互いに重ならないように、前記複数のアウトバウンドDAS信号が交差して配列される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記少なくとも1つのスパンは複数のスパンを含み、
第1スパンから第1レイリー後方散乱信号を受信し、且つ第2スパンから第2レイリー後方散乱信号を受信し、且つ、
前記第1レイリー後方散乱信号が時間において前記第2レイリー後方散乱信号と交差する、
請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのスパンは複数のスパンを含み、
前記システムは、前記少なくとも1つのスパンのセンシングスパンに入る前に、確定された周波数で前記アウトバウンドDAS信号のパワーがより高いレベルに増幅されるように構成され、且つ、
前記複数のスパンのうち、他のスパンの全部において、確定された周波数で前記アウトバウンドDAS信号のパワーが低減される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
光通信リンクの少なくとも1つのスパンにわたって延びる通信光ケーブルと、
前記光通信リンクの前記少なくとも1つのスパンにわたって第1方向に、少なくとも部分的にD-光ファイバにより転送されるアウトバウンドDAS信号を送信するために用いられるDAS送信機と、前記アウトバウンドDAS信号に基づいてレイリー後方散乱信号を受信するために用いられるDAS受信機とを含む分散型音響センシング(DAS)ステーションと、を含む、
通信システム。
【請求項11】
前記アウトバウンドDAS信号を前記少なくとも1つのスパンのうち、第1スパンにルーティングするために用いられる第1外部サーキュレータと、
前記アウトバウンドDAS信号を前記少なくとも1つのスパンのセンシングスパンにルーティングして、DASステーションに向かう逆方向に前記レイリー後方散乱信号をルーティングするために用いられる第2外部サーキュレータと、をさらに含む、
請求項10に記載の通信システム。
【請求項12】
前記第1外部サーキュレータは、前記センシングスパンから前記レイリー後方散乱信号を受信し、前記レイリー後方散乱信号を前記DAS受信機にルーティングするように構成される、
請求項11に記載の通信システム。
【請求項13】
前記DASステーションは第1DASステーションであり、前記アウトバウンドDAS信号は第1アウトバウンドDAS信号であり、前記レイリー後方散乱信号は第1レイリー後方散乱信号であり、前記DAS送信機は第1DAS送信機であり、且つ前記DAS受信機は第1DAS受信機であり、前記通信システムは、
前記少なくとも1つのスパンにわたって前記第1方向とは反対方向である第2方向に、少なくとも部分的に前記D-光ファイバにより転送される第2アウトバウンドDAS信号を送信するために用いられる第2DAS送信機と、
前記第2アウトバウンドDAS信号に基づいて第2レイリー後方散乱信号を受信するために用いられる第2DAS受信機と、を備える第2DASステーションをさらに含む、
請求項10に記載の通信システム。
【請求項14】
前記第1アウトバウンドDAS信号を前記少なくとも1つのスパンのうち、前記第1DASステーションに隣接する第1スパンにルーティングするために用いられる第1外部サーキュレータと、
センシングスパン内で前記第1アウトバウンドDAS信号を前記D-光ファイバからD+光ファイバにルーティングするために用いられる第2外部サーキュレータと、
前記第2アウトバウンドDAS信号を前記少なくとも1つのスパンのうち、前記第2DASステーションに隣接する第2スパンにルーティングするために用いられる第3外部サーキュレータと、
センシングスパン内で前記第2アウトバウンドDAS信号を前記D+光ファイバから前記D-光ファイバにルーティングするために用いられる第4外部サーキュレータと、をさらに含む、
請求項13に記載の通信システム。
【請求項15】
前記DASステーションは、複数の異なる波長で複数のアウトバウンドDAS信号を複数のパルスとしてそれぞれ送信するように構成され、時間において互いに重ならないように、前記複数のアウトバウンドDAS信号が交差して配列される、
請求項10に記載の通信システム。
【請求項16】
前記少なくとも1つのスパンは複数のスパンを含み、
第1スパンから第1レイリー後方散乱信号を受信するとともに、第2スパンから第2レイリー後方散乱信号を受信し、且つ、
前記第1レイリー後方散乱信号が時間において前記第2レイリー後方散乱信号と交差する、
請求項15に記載の通信システム。
【請求項17】
前記少なくとも1つのスパンは複数のスパンを含み、
前記通信システムは、前記少なくとも1つのスパンのセンシングスパンに入る前に、確定された周波数で前記アウトバウンドDAS信号のパワーがより高いレベルに増幅されるように構成され、且つ、
前記複数のスパンのうち、他のスパンの全部において、確定された周波数で前記アウトバウンドDAS信号のパワーが低減される、
請求項10に記載の通信システム。
【請求項18】
光ファイバにより第1方向にDASステーションのDAS送信機からアウトバウンドDAS信号を送信し、前記光ファイバはD-光ファイバであることと、
第1外部サーキュレータを用いて前記アウトバウンドDAS信号をDASステーションに隣接するマルチスパンリンクのローカルスパンにルーティングすることと、
第2外部サーキュレータを用いて、前記ローカルスパンと異なる前記マルチスパンリンクのセンシングスパンにより前記アウトバウンドDAS信号をルーティングすることと、
前記第1方向とは反対方向である第2方向に、前記第2外部サーキュレータにより、前記アウトバウンドDAS信号から導出されたレイリー後方散乱信号をルーティングすることと、
前記第1外部サーキュレータを用いて前記レイリー後方散乱信号を前記DASステーションにおけるDAS受信機にルーティングすることと、を含む、
分散型音響センシング(DAS)を実行する方法。
【請求項19】
前記DASステーションは第1DASステーションであり、前記アウトバウンドDAS信号は第1アウトバウンドDAS信号であり、前記レイリー後方散乱信号は第1レイリー後方散乱信号であり、前記DAS送信機は第1DAS送信機であり、前記DAS受信機は第1DAS受信機であり、且つ前記ローカルスパンは第1ローカルスパンであり、前記方法は、
前記マルチスパンリンクにより前記第2方向に、第2DASステーションの第2DAS送信機から第2アウトバウンドDAS信号を送信することと、
第3外部サーキュレータを用いて前記第2アウトバウンドDAS信号を前記第2DASステーションに隣接するマルチスパンリンクの第2ローカルスパンにルーティングすることと、
第4外部サーキュレータを用いて前記第2アウトバウンドDAS信号を、前記マルチスパンリンクのセンシングスパンを通過するようにルーティングすることと、
前記第1方向に、前記第4外部サーキュレータにより、前記第2アウトバウンドDAS信号から導出された第2レイリー後方散乱信号をルーティングすることと、
第3外部サーキュレータを用いて前記第2レイリー後方散乱信号を前記第2DASステーションにおける第2DAS受信機にルーティングすることと、をさらに含む、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1アウトバウンドDAS信号は、前記センシングスパンの前半で前記D-光ファイバを通過するようにルーティングされるとともに、前記センシングスパンの後半でD+光ファイバを通過するようにルーティングされ、及び
前記第2アウトバウンドDAS信号は、前記センシングスパンの後半で前記D-光ファイバを通過するようにルーティングされるとともに、前記センシングスパンの前半で前記D+光ファイバを通過するようにルーティングされる、
請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2022年7月21日に出願された、名称が「MUL TISPAN OPTICAL FIBER SYSTEM FOR IMPROVED DISTRIBUTED ACOUSTIC SENSING」の米国仮特許出願シリアル番号63/391,039の優先権を主張するものであり、そのすべての内容が引用により本文に併入される。
【0002】
本開示の実施例は光通信システムの分野に関する。特に、本開示は、海底光ケーブルにおける分散型音響センシング(DAS)の感度を拡張及び向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0003】
分散型音響センシング(DAS)システムにおいて、光ケーブルは、光ケーブル近傍の外乱又は異常の連続リアルタイム又は近接リアルタイムの監視を提供するために用いられることができる。言い換えれば、光ケーブル自体は、光ケーブル近傍のローカルDAS環境(例えば、陸上環境、海洋環境)内又は外で発生した自然要因又は人的要因によらない、異なるタイプの破壊、干渉、不規則性、音響振動活動を検出又は監視するようにセンシング素子として用いられることができる。そのために、DASシステムを構成して光ケーブルに結合された光電子デバイス/機器は、光ケーブルシステムにおける特定距離の範囲内で反射光信号(例えば、レイリー後方散乱信号)を検出及び処理することができる。
【0004】
通常、DASシステムは、コヒーレントレーザパルスを用いて光ファイバケーブルを探測し、そのうちの戻った光後方散乱信号の位相変化を測定するための問合せユニット(IU)として機能するサイトを含んでもよい。パルス間の光位相シフトは、光ファイバにおける歪みに比例することができることにより、このような外乱による位相への影響を測定するなど、振動又は類似的な状況を検出する能力をもたらす。例えば、DASシステムは、レイリー後方散乱に基づくことができる(レイリー後方散乱に基づくDASシステムとも呼ばれる)。
【0005】
既知の方法では、分散型センシングが<50kmから150kmに制限され、且つ1つの光ファイバスパンのみをセンシングすることができる。センシング光ファイバは、通常、マルチモード光ファイバ(MMF)、シングルモード光ファイバ(SMF)、又は他の正分散を有する光ファイバタイプであり、通常には低損失を示してより高いセンシング感度をもたらす。光ファイバは非線形であるため、このような正分散を有するセンシングスパンにわたって送信できる最大ピーク電力は約23dBmに制限される。従って、既知のDASシステムのDAS範囲及びセンシング能力は著しく制限される。
【0006】
これら及びその他の考慮についてこそ、本開示を提供する。
【発明の概要】
【0007】
1つの実施例において、システムを提供する。該システムは、光通信リンクの少なくとも1つのスパンにわたって第1方向にアウトバウンドDAS信号を送信するために用いられるDAS送信機(該DAS信号は、最初の第1スパンをセンシングすることのみに用いられてもよい)を含む分散型音響センシング(DAS)ステーションを含んでもよい。該システムは、アウトバウンドDAS信号に基づいて、レイリー後方散乱信号を分析するために用いられるDAS受信機をさらに備えてもよい。ここで、DAS信号が少なくとも部分的にD-光ファイバにより転送される。
【0008】
別の実施例において、光通信リンクの少なくとも1つのスパンにわたって延びる通信光ケーブルを備える通信システムを提供する。該通信システムは、光通信リンクの少なくとも1つのスパンにわたって第1方向にアウトバウンドDAS信号を送信するために用いられるDAS送信機と、アウトバウンドDAS信号に基づいてレイリー後方散乱信号を分析するために用いられるDAS受信機とを含む、分散型音響センシング(DAS)ステーションをさらに含んでもよい。ここで、DAS信号が少なくとも部分的にD-光ファイバにより転送される。
【0009】
別の実施例において、分散型音響センシング(DAS)を実行する方法を提供する。該方法は、D-及びD+光ファイバセグメントのハイブリッドである光ファイバにより、第1方向にDASステーションのDAS送信機からアウトバウンドDAS信号を送信することを含んでもよい。該方法は、第1外部サーキュレータを用いてアウトバウンドDAS信号をDASステーションに隣接するマルチスパンリンクのローカルスパンにルーティングすることと、第2外部サーキュレータを用いてアウトバウンドDAS信号を、ローカルスパンと異なるマルチスパンリンクのセンシングスパンを通過するようにルーティングすることとを含んでもよい。該方法は、第1方向とは反対方向である第2方向に、第2外部サーキュレータにより、アウトバウンドDAS信号から導出されたレイリー後方散乱信号をルーティングすることと、第1外部サーキュレータを用いてレイリー後方散乱信号をDASステーションにおけるDAS受信機にルーティングすることとをさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】D+光ファイバにおける変調不安定性(MI)及び4光波混合(FWM)によるセンシング信号パワーの消費を示す図である。
図1B】D-光ファイバにおける変調不安定性(MI)及び4光波混合(FWM)によるセンシング信号パワーの消費を示す図である。
図2A】本開示の実施例に係るDASシステムのアーキテクチャーを示す図である。
図2B】本開示の実施例に係るもう1つのDASシステムのアーキテクチャーを示す図である。
図3A】異なる光ファイバタイプ及び異なる蓄積分散を有するいくつかのテストプラットフォームの最適センシングパワーの比較を示す図である。
図3B】最適センシングパワーとスパン数との関係を描いた図である。
図4A】本開示のいくつかの実施例に係る分散型センシング分散図を示す図である。
図4B】本開示のいくつかの実施例に係る分散型センシング分散図を示す図である。
図4C】異なるいくつかの分散図についてセンシング光ファイバに沿うパワー推移を示す図である。
図5】本開示のいくつかの実施例に係るTxからの例示的な交差したDAS曲線を示す図である。
図6】本開示のいくつかの実施例に係るRxにおける交差したレイリー曲線を示す図である。
図7】本開示のいくつかの実施例に係る部分的に増幅されたセンシング信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
現在、以下には図面を参照して本実施例をより十分に説明し、そのうち、例示的な実施例を示している。実施例の範囲は、本文に記載された実施例に限られると解釈されるべきではない。逆に、これらの実施例を提供したことにより、本開示が徹底且つ完全になり、実施例の範囲を当業者へ十分に伝達している。図面では、類似的な数字は常に類似的な要素を指す。
【0012】
図面について具体的な実施例を詳しく説明する前に、実施例について一般的な特徴を回顧する。特に海底及び陸上光ケーブルを含む光通信システムの1つ又は複数のスパンにわたって、DASセンシング能力を向上させるための新規なDAS装置、システム、アーキテクチャー及び技術を提供する。様々な実施例によれば、DASシステムに負分散光ファイバ(D-光ファイバ)を導入することにより、DASセンシングの範囲を向上させる。
【0013】
参照として、既知の正分散(D+)光ファイバを用いる単一スパン又はマルチスパンセンシングシステムにおいて、変調不安定性(MI)により、最大パワーが信号パワーの損失による制限を受ける。MIとは指数関数的な非線形過程であり、そのうち、非線形干渉(NLI)パワーが指数的に増加している。MIはD+光ファイバのいくつかの位相整合条件下で(強い励起信号の周波数/波長の範囲内に)発生している。D+光ファイバにおいて、NLIパワーは下式により指数的に増加している。
【数1】
そのうち、GMIはMIゲインであり、Pin(O)は光ファイバ入力箇所で注入されるストークスパワーであり、Pout(L)は光ファイバ出力箇所で生成される反ストークスパワーであり、γは光ファイバ非線形係数であり、Pは光ファイバ入力箇所でのピークDAS信号(励起)パワーであり、Lはセンシングセグメントの光ファイバ長さであり、Lは有効光ファイバ長さであり、Nはセンシング点への増幅スパンの数であり、gMIはMI過程のゲイン係数であり、αは光ファイバ損失である。
【0014】
本開示の様々な実施例では、DASシステムのようなセンシングシステムにおいて、D光ファイバをセンシング光ファイバとして提供することにより、上記変調不安定性を減少させる。D-光ファイバにおいて、NLIは4光波混合(FWM)により支配され、そのうち、NLIは下式により二乗増加している。
【数2】
そのうち、GFWMは総FWMゲインであり、Pin(O)は光ファイバ入力箇所での注入光パワーであり、Pout(L)は光ファイバ入力箇所でFWMにより生成される光パワーであり、ΔβはFWM過程の位相整合条件であり、η1spanは単一スパンにおけるFWM効率であり、光ファイバ損失、位相整合条件、スパン長さなどの特性により決定される。
【0015】
図1A及び図1Bは、D+光ファイバスパン(そのうち、スパン入力はよい大きい有効面積がある光ファイバを有する)又は大きい部分分散を有する純D-光ファイバスパンを主に使用するNLIパワーと信号周波数オフセットとの比較を提供している。図中に、それぞれD+光ファイバ及びD-光ファイバにおいてMI及び4光波混合(FWM)によるセンシング信号パワーの消費を表現している。D+光ファイバにおける光スペクトルは、高送信パワー下で非常に堅固な台座(pedestal)を表示する。一方、D-光ファイバは、~29dBmの送信パワー下でも(テスト機器に制限される)、非常に小さいNLIパワーを表示する。
【0016】
図2AはDASセンシング装置200の模式図を示し、該装置は単一D-光ファイバスパンを使用する。図2BはDASセンシング装置250の模式図を示し、それはD-光ファイバを使用するマルチスパンセンシングに用いられるように構成される。DASセンシング装置250において、DAS送信機に隣接するサーキュレータ以外に、アウトバウンドDAS信号及びレイリー後方散乱信号をルーティングするように2つの追加のサーキュレータをさらに提供する。サーキュレータ1はDAS送信機から送信されたDAS信号を第1光ファイバスパン、即ちDASステーション201に隣接する光ファイバスパンにルーティングする。サーキュレータ1もレイリー後方散乱信号をDAS受信機にルーティングする。サーキュレータ2は正方向DAS信号をセンシングスパンにルーティングし、逆方向にレイリー後方散乱信号をルーティングする。なお、このような配置は、DAS信号を用いて(2番目のサーキュレータを用いて)リンクにおけるいずれかのスパンに対してタップを行い、1番目のサーキュレータによりレイリー後方散乱信号をDAS受信機に送信することを許可する。また、より多いDAS信号パワーを送信することにより感度を向上させるためにD-光ファイバがいずれかのセンシングシステムに用いられることができ、例えば、センシング感度を~10dB向上させるためにD-光ファイバがマルチスパンシステムに用いられることができる(例えば、図4Aを参照する)。また、レイリー信号をベアラする光ファイバは、レイリー信号のOSNRを増加するように正分散を有する低損失光ファイバであってもよい。なお、本文に使用される、用語のリンクとはシステム全体の長さ、例えば、通信システムの1つの端末と別の端末との間の長さを意味するが、用語のスパンとはリンクに沿って隣接するリピーター又は隣接する増幅機の間の距離を意味する。
【0017】
図2A及び2Bの実施例の1つの顕著な特徴は、D-光ファイバを分散型センシング媒体として実施し、且つ2つのサーキュレータを用いて正方向DAS信号及び後方レイリー散乱信号をルーティングするものである。D光ファイバを分散型センサとして用いると、現在のDAS方案に比べて、システム光信号雑音比(OSNR)が顕著に高められることができ、D-光ファイバはDAS信号が顕著に消費される前により多い光パワーに耐えることができるためである。
【0018】
図3Aは3種の異なるタイプの光ファイバを用いて測定された最適パワーを送信パワーとする関数の曲線図を表示する。D+テストプラットフォームは分散が+20ps/nm/kmの低損失光ファイバからなり(8つの52.8kmスパン後の蓄積分散が8400ps/nmである)、混合TGNAテストプラットフォームはD+及びD-光ファイバ(LMF1及びHDF2)を用いて、そのうち、412キロメートル後の正味の負蓄積分散が-1130ps/nmであるが、HDF3テストプラットフォームは分散が-14ps/nm/kmの純D-光ファイバを用いて、DAS波長下で412キロメートル後の総蓄積分散が-5670ps/nmである。図に示すように、「D+」光ファイバが最も低いセンシングパワーに耐えるが、「HDF3」が最も高いセンシングパワーに耐えることができる。「HDF3」及び「TGNA」測定を比較すると、大きい負分散の方がTGNAよりもよく、且つより大きいパワーに耐えることができ、約5倍低い負分散を表示する。
【0019】
図3Bは最適センシングパワーとセンシングスパン数との関係を示す曲線図であり、そのうち、スパン長さは50kmである。図に示すように、標準シングルモード光ファイバ(SMF)に比べて、D-光ファイバ(HDF3)は20個のスパン後に~17dB超えの光パワーに耐えることができ、且つ低損失D+光ファイバに比べて、20個のスパン後に~15dB超えの光パワーに耐えることができ、また、D光ファイバ(HDF3)の効果がスパン数の増加とともに増加している。
【0020】
本開示の付加される実施例によれば、所定のDASシステムにおいて、2つの逆方向におけるそれぞれの方向からスパンの前半をセンシングすることにより、スパン長さを倍にすることができる。図4Aは、複数のスパンを含むリンクの対向する両端に位置するDASステーション402とDASステーション404との2つのDASステーションが配置されるDASシステム400を示している。図4Aにおいて、サーキュレータ1eに示すように、第1外部サーキュレータを提供し、且つ(サーキュレータ2eに示すように)第2外部サーキュレータを提供し、そのうち、サーキュレータがD-光ファイバに結合されることができる。サーキュレータ1Wに示される第3外部サーキュレータ及びサーキュレータ2Wに示される第4外部サーキュレータを提供し、そのうち、サーキュレータがD+光ファイバなどの別の光ファイバに結合されることができる。サーキュレータ2eも第1カプラーに光接続され、図に示すように、サーキュレータ2wが第2カプラーに接続され、図に示すようである。図4B~4Cについて説明されたように、このような配置はDASシステムの機能を改善することに有利である。
【0021】
図4Bは単一スパンを混合構造に区画することを模式的に示す。この場合に、D-光ファイバがスパンの前半でセンシングの半分として用いられ、且つ超低損失D+光ファイバがスパンの後半として用いられる。なお、D+光ファイバに対して、D-光ファイバの損失がより高く(0.2が0.15dB/kmに比べる)、且つレイリー後方散乱係数もより高い(-78.8が-84.8dB/nsに比べる)。このような新規の分散図に対して、仮にスパンは100km(50km D-に続く50km D+)であれば、以下のシーンを応用する(図4Cも参照する)。1)10dB以上のパワーがセンシングスパンにわたって送信されることができる。2)同様な送信パワー下で、スパン全体がD-光ファイバのみにより作成されると、DAS信号の総損失が類似する(青色及び緑色曲線を比較する)。3)D-センシング部分から6-dB以上のレイリーパワーを取得することができる(D+センシングセグメントに比べる)。4)2×IRを用いると、D-/D+スパンが混合した場合に、スパンの後半からのクロストークパワーが6-dB減少する(緑色点線「D-和D+に対して、IR=2kHz」)。
【0022】
該実施形態の顕著な特徴は、該実施例が以下のような事実を利用したものである。即ち、D-光ファイバがより多い光パワー(より高いOSNRをもたらす)に耐えることができ、且つより大きいレイリー後方散乱係数(受信機におけるDAS信号パワーがより高い)を有するが、D+光ファイバがより低い損失(次段の直列エルビウム光ファイバ増幅機(EDFA)の入力パワーがより高いので、総OSNRがより高い)及びより低いレイリー後方散乱係数(DAS受信機において前半までのクロストークがより低い)を有する。もう1つの利点は、D-及びD+光ファイバからなる混合スパンは、総パス蓄積分散を減少させ、DAS受信機における分散補償の負担を減少させるものである。
【0023】
本開示の実施例によれば、正方向センシングDAS信号は非常に低いデューティ比を有するパルス信号として転送され、図5の底部の6本の軌跡に示すようである。マルチスパンDASセンシングシステムにおいて、いくつかの実施例によれば、複数のセンシングパルスはDASステーション(図2A、2B又は図4A~4CにおけるDAS送信機及びDAS受信機を参照し、DASステーションを表す)により異なる波長で生成される。このような方法において、送信機は複数の光源を含み、各光源が特定波長で光パルスを生成するように構成され、該特定波長が他の光源の波長と異なるようにしてもよい。異なるスパンにわたって特定波長のフィルタを提供することにより、各スパンにおけるループバック装置は特定波長をDASステーションに転送するように構成されてもよいので、特定スパンが戻ったレイリー後方散乱信号の波長により識別されることができ、異なるスパンを個別に問い合わせるという能力を提供する。図5のシーンにおいて、それぞれの曲線は異なる波長で生成される信号を表示してもよい。異なる波長で生成されるすべての信号はいずれも時間において送信機に整合すると、正方向インラインEDFAは巨大なパルス(例えば、150ns)を見て、それから長い時間(0.5ms)内に信号がない―30mのゲージ長さ及び2kHzの問合せ率を用いると、0.5msのウインドウ内に150nsのパルスが発生する。この場合に、リンク内の次のEDFAのQ切り替えが起こり、DASシステムに壊滅的なダメージを与える恐れがある。
【0024】
図5の実施形態の顕著な特徴は、異なるセンシングパルス(異なる波長で送信されるパルスに対応する)正及び後の方向に時間において交差するものである。センシングパルスを時間において交差すると、EDFA過渡効果を減少させ、転送/センシング光ファイバにおける非線形を減少させる。異なる波長の異なる個別軌跡の和の例示が図5の頂部の軌跡に示すようであり、そのうち、個別パルスが時間において解析される。従って、このような時間において交差する方法を用いて、異なる波長に対応する異なるDAS信号(センシングパルス)を送信すると、マルチスパンシステムで高センシングパワーを保持することができる。
【0025】
なお、後方レイリー信号パワーは時間(又は距離)の関数として一定ではない。パワーは1番目のスパンにわたってe-2αLにより減少される(図6における青色軌跡「スパン1」を参照する)。すべてのスパンからのパワーが同様な方式で整合されると、逆方向のすべてのインラインEDFAは同様なパワー変化を見る。図6に示すように、送信機から送信されたセンシングパルスを交差して問合せ率を適当に選択することにより、後方レイリー信号を時間において交差することができる。なお、最上部の曲線は、異なるスパンにおけるレイリー信号の総和を示している。この総和の幅は、各スパンからの単一信号の幅ほど顕著に変化しない。
【0026】
本開示のさらなる実施例では、該技術は、SMF、低損失D+、及び他の専用センシング光ファイバなどの他のタイプの光ファイバを用いるセンシングシステムにも用いられることができる。
【0027】
なお、マルチスパンセンシングDASシステムにおいて、NLIが正方向に蓄積されるが、特定されるセンシングスパンのみでセンシング信号が必要である。そして、レイリー後方散乱信号がセンシングスパン入力箇所でのサーキュレータにより収集される。本開示のさらなる実施例によれば、正方向における非線形を減少させるために、すべての他のスパンにわたって特定波長/周波数におけるセンシング信号のパワーを低減させ、且つセンシングスパンに入る前にセンシング信号をより高いレベルに増幅することができる。このシーンは図7で描かれる。
【0028】
異なる非限定的な実施例では、センシング信号の部分増幅は、異なる方法によって実現されることができる。1)センシング信号は、他のWDMチャネルからフィルタリングされ、高ゲイン増幅機により改めてルーティングされ、そして、WDM信号の残りの部分に返送されることができる。2)正方向センシング信号は非常に高いゲイン増幅機により増幅されることができ、そして、信号の残りの部分(現在のセンシングスパンに用いられる波長を除く)は波長選択光減衰機(例えば、波長選択スイッチなど)により減衰されることができる。3)センシング信号は、既知の位相整合FWM過程を使用するか、既知の位相制御非線形光ループミラーのパラメータを使用して増幅されるなど、波長選択光増幅機により選択的に増幅されることができる。他の実施例では、該技術は、SMF、低損失D+、音響感応性光ファイバ(ASF)など、他のタイプの光ファイバを用いるセンシングシステムにも用いられることができる。
【0029】
本開示の範囲は、本文に記載された具体的な実施例によって制限されるものではない。実際には、ここで記載されたことを除き、本開示の他の様々な実施例及び本開示に対する修正は、当業者にとって前述の説明及び図面から明らかになるものである。従って、このような他の実施例及び修正は、本開示の範囲内に入る旨である。また、本開示は特定環境において特定目的のための特定実施形態のコンテキストで説明されているが、その有用性はこれに限定されず、本開示は任意の数の環境において任意の数の目的のために有利に実施されることができることは、当業者が認識できることである。従って、以下に提案される請求項は、本文に記載された本開示のすべての広さ及び精神に基づいて解釈されるべきである。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
【外国語明細書】