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特開2024-148061シランカップリング剤、表面処理無機酸化物、及び物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148061
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】シランカップリング剤、表面処理無機酸化物、及び物品
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/12 20060101AFI20241009BHJP
   C09C 3/00 20060101ALI20241009BHJP
   C09C 1/40 20060101ALI20241009BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20241009BHJP
   C09C 1/28 20060101ALI20241009BHJP
   C09C 1/04 20060101ALI20241009BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20241009BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20241009BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C09C3/12
C09C3/00
C09C1/40
C09C1/36
C09C1/28
C09C1/04
C09D17/00
C09D7/62
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060951
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA18
4J037AA22
4J037AA25
4J037CB23
4J037CC25
4J037CC29
4J037EE02
4J037FF15
4J038FA011
4J038GA02
4J038GA06
4J038GA09
4J038HA006
4J038KA20
4J038NA01
4J038NA06
4J038PA17
4J038PC08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】無機酸化物の、各種の媒体への分散性、相溶性、及び充填性等の特性を向上させることが可能な、表面処理に用いられるシランカップリング剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)又は(2)で表される化合物である。

(RはC数1~18の炭化水素基;Rは水素原子又はC数1~3の炭化水素基;Rはメチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基;複数のRは、相互に独立に水素原子又はメチル基;mは0~2の数;nは10~70の数)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物の表面処理に用いられるシランカップリング剤であって、
下記一般式(1)又は(2)で表される化合物であるシランカップリング剤。
(前記一般式(1)及び(2)中、Rは炭素数1~18の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基を示し、Rはメチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基を示し、複数のRは、相互に独立に水素原子又はメチル基を示し、mは0~2の数を示し、nは10~70の数を示す)
【請求項2】
無機酸化物を請求項1に記載のシランカップリング剤で表面処理した処理物である表面処理無機酸化物。
【請求項3】
前記無機酸化物が、その平均粒子径が10nm~100μmの無機酸化物微粒子である請求項2に記載の表面処理無機酸化物。
【請求項4】
前記無機酸化物微粒子100質量部を前記シランカップリング剤0.5~50質量部で表面処理した処理物である請求項3に記載の表面処理無機酸化物。
【請求項5】
前記無機酸化物微粒子が、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、及び複合酸化物顔料からなる群より選択される少なくとも一種である請求項3に記載の表面処理無機酸化物。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか一項に記載の表面処理無機酸化物を含有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランカップリング剤、表面処理無機酸化物、及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコキシシリル基をその分子構造中に有するシランカップリング剤は、シリカ、アルミナ、酸化チタン、及び酸化亜鉛等の無機フィラーや無機顔料等の無機酸化物の濡れ性、接着性、相溶性、分散性、機械的強度、耐水性、及び耐ブリードアウト性等の物性を改善するための表面改質剤として用いられている。
【0003】
シランカップリング剤で無機酸化物の表面を処理すると、シランカップリング剤のアルコキシシリル基と無機酸化物の水酸基とが脱アルコール反応及び脱水縮合する。そして、シランカップリング剤が無機酸化物の表面に化学結合するとともに、シランカップリング剤は自己縮合もする。これにより、シランカップリング剤の有機基が無機酸化物の表面に導入され、導入される有機基の特性によって、無機酸化物の物性を改善することができる。
【0004】
これまでに、無機酸化物を表面処理するためのシランカップリング剤、及びシランカップリング剤によって表面処理されたガラス、無機フィラー、及び無機顔料等の無機酸化物が種々提案されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-095457号公報
【特許文献2】特開2011-190179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、さらなる技術の発展に伴い、顔料等の無機酸化物を液媒体中に分散させた分散液や、無機酸化物を樹脂中に分散させた複合材料を提供するにあたり、無機酸化物の分散性や相溶性等の特性をさらに向上させることが求められている。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、無機フィラーや無機顔料等の無機酸化物の表面を処理することで、各種の媒体への分散性、相溶性、及び充填性等の特性を無機酸化物に付与する、又は無機酸化物のこれらの特性を向上させることが可能なシランカップリング剤を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、このシランカップリング剤を用いた表面処理無機酸化物、及びこの表面処理無機酸化物を含有する物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示すシランカップリング剤が提供される。
[1]無機酸化物の表面処理に用いられるシランカップリング剤であって、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物であるシランカップリング剤。
【0009】
(前記一般式(1)及び(2)中、Rは炭素数1~18の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基を示し、Rはメチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基を示し、複数のRは、相互に独立に水素原子又はメチル基を示し、mは0~2の数を示し、nは10~70の数を示す)
【0010】
また、本発明によれば、以下に示す表面処理無機酸化物が提供される。
[2]無機酸化物を前記[1]に記載のシランカップリング剤で表面処理した処理物である表面処理無機酸化物。
[3]前記無機酸化物が、その平均粒子径が10nm~100μmの無機酸化物微粒子である前記[2]に記載の表面処理無機酸化物。
[4]前記無機酸化物微粒子100質量部を前記シランカップリング剤0.5~50質量部で表面処理した処理物である前記[3]に記載の表面処理無機酸化物。
[5]前記無機酸化物微粒子が、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、及び複合酸化物顔料からなる群より選択される少なくとも一種である前記[3]又は[4]に記載の表面処理無機酸化物。
【0011】
さらに、本発明によれば、以下に示す物品が提供される。
[6]前記[2]~[5]のいずれかに記載の表面処理無機酸化物を含有する物品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無機フィラーや無機顔料等の無機酸化物の表面を処理することで、各種の媒体への分散性、相溶性、及び充填性等の特性を無機酸化物に付与する、又は無機酸化物のこれらの特性を向上させることが可能なシランカップリング剤を提供することができる。また、本発明によれば、このシランカップリング剤を用いた表面処理無機酸化物、及びこの表面処理無機酸化物を含有する物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<シランカップリング剤>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の一実施形態は、無機酸化物の表面処理に用いられるシランカップリング剤であり、下記一般式(1)又は(2)で表される、その分子構造中にポリアルキレングリコール鎖及びアルコキシシリル基を有する化合物である。
【0014】
(前記一般式(1)中、Rは炭素数1~18の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基を示し、Rはメチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基を示し、複数のRは、相互に独立に水素原子又はメチル基を示し、mは0~2の数を示し、nは10~70の数を示す)
【0015】
(前記一般式(2)中、Rは炭素数1~18の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基を示し、Rはメチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基を示し、複数のRは、相互に独立に水素原子又はメチル基を示し、mは0~2の数を示し、nは10~70の数を示す)
【0016】
本実施形態のシランカップリング剤で無機酸化物の表面を処理すると、シランカップリング剤のアルコキシシリル基が、無機酸化物の表面の水酸基と反応し、脱アルコールや脱水縮合する。これにより、シランカップリング剤が無機酸化物の表面に化学結合する。また、シランカップリング剤の有機基であるポリアルキレングリコール鎖は、繰り返し単位を有するある程度の分子量のポリマー鎖である。このため、このポリアルキレングリコール鎖が無機酸化物を分散させる媒体と親和して相溶性し、無機酸化物の分散性、充填性、及び流動性等の特性を向上させることができる。
【0017】
シランカップリング剤のポリアルキレングリコール鎖の片末端は、アルキルエーテルである。一般式(1)及び(2)中、Rで表される炭化水素基の炭素数は1~18であり、好ましくは1~4である。ポリアルキレングリコール鎖としては、ポリエチレングリコール鎖、ポリプロピレングリコール鎖、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールランダムポリマー鎖、及びポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックポリマー鎖などを挙げることができる。なかでも、市販品があるとともに、親水性及び疎水性を制御しやすいことから、その片末端がメチル基である、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール鎖が好ましい。
【0018】
一般式(1)及び(2)中、nは10~70の数、好ましくは20~50の数である。本実施形態のシランカップリング剤の分子量は、通常、約400~4,000の範囲である。nが10未満である場合、分子量が小さすぎてしまい、分散媒体との相溶性が不足しやすくなる。一方、nが70超であると、分子量が大きすぎてしまい、分散媒体に対するポリアルキレングリコール鎖の影響により、分散媒体の物性が損なわれるとともに、反応性が低下して無機酸化物の表面を処理しにくくなる。
【0019】
シランカップリング剤のアルコキシシリル基は、アルキルジアルコキシシリル基又はトリアルコキシシリル基である。一般式(1)及び(2)中、Rで表される炭素数1~3の炭化水素基は、反応性を考慮すると、メチル基又はエチル基であることが好ましい。一般式(1)及び(2)中、Rは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基であり、反応性を考慮するとメチル基が好ましく、安定性を考慮するエチル基が好ましい。
【0020】
一般式(1)で表されるシランカップリング剤は、その構造中に尿素結合を有する。また、一般式(2)で表されるシランカップリング剤は、その構造中にアミド結合を有する。このため、本実施形態のシランカップリング剤は、水やアルカリ水等の分散媒体を用いる場合であっても耐加水分解性に優れており、耐水性及び耐薬品性も良好である。また、尿素結合やアミド結合が、無機酸化物の表面の酸素原子と水素結合して吸着しやすいといった効果を得ることもできる。
【0021】
一般式(2)で表されるシランカップリング剤は、その構造中にカルボキシ基を有する。このカルボキシ基を中和してイオン化することで、表面処理した無機酸化物(表面処理無機酸化物)の親水性を高めることができる。さらに、ポリアルキレングリコール鎖がポリエチレングリコール鎖である場合、ポリエチレングリコール鎖の水溶解性と、中和してイオン化されたカルボキシ基との作用によって、表面処理した無機酸化物(表面処理無機酸化物)をより良好な状態で水に微分散させることができる。また、ポリアルキレングリコール鎖がその表面に結合した無機酸化物を水や有機溶剤等の液媒体に分散させた場合、たとえ無機酸化物が沈降したとしても、ポリアルキレングリコール鎖の性質によって無機酸化物同士の凝集を抑制することができるとともに、たとえ凝集したとしても、撹拌及び混合等するだけで元の分散状態に近い状態に戻すことができる。
【0022】
一般式(2)で表されるシランカップリング剤で表面処理した無機酸化物(表面処理無機酸化物)を中和せずに分散媒体中に分散させるとともに、アミノ基を含有するポリマー型分散剤を用いると、カルボキシ基と分散剤中のアミノ基がイオン結合するので、分散剤の分散効果を向上させることができる。また、エポキシ樹脂等のカルボキシ基と反応する基を有する樹脂を分散媒体として用いて複合材料とする場合、樹脂中のエポキシ基とカルボキシ基が架橋反応するので、得られる複合材料の機械物性を高めることができる。
【0023】
本実施形態のシランカップリング剤は、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアミンと、このポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアミン中のアミノ基と反応しうる基を有する一般的なシランカップリング剤とを反応させることで製造することができる。すなわち、一般式(1)で表されるシランカップリング剤は、例えば、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアミンと、イソシアネート基及びアルコキシシリル基を有する化合物とを反応させることで製造することができる。また、一般式(2)で表されるシランカップリング剤は、例えば、無水コハク酸基及びアルコキシシリル基を有する化合物とを反応させることで製造することができる。
【0024】
イソシアネート基及びアルコキシシリル基を有する化合物としては、従来公知のシランカップリング剤を用いることができる。そのようなシランカップリング剤としては、3-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、及び3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0025】
無水コハク酸基及びアルコキシシリル基を有する化合物としては、3-メチルジメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、3-メチルジエトキシシリルプロピルコハク酸無水物、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、及び3-トリエトキシシリルプロピルコハク酸無水物等を挙げることができる。なお、アルコキシシリル基は加水分解する場合がある。本実施形態のシランカップリング剤には、一部のアルコキシ基が加水分解してシラノール基となっているものが含まれていてもよい。
【0026】
ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアミンと、アミノ基と反応しうる基を有する化合物(反応性基含有化合物)は、従来公知の方法で混合させて反応させことができる。例えば、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアミン及び反応性基含有化合物の一方の化合物を反応容器に入れ、通常、室温(25℃)~100℃、好ましくは室温(25℃)~40℃で保持する。そして、他方の化合物を添加、好ましくは滴下、さらに好ましくは有機溶媒で希釈した希釈物を滴下する。発熱反応であるため、温度を適度に維持しつつ反応させることが好ましい。反応は、イソシアネート基や酸無水物基が消失するまで継続させればよい。イソシアネート基等の消失は、例えば、赤外分光光度計を使用して赤外吸収(IR)を測定し、イソシアネート基等に由来する吸収ピークの消失、又は尿素結合等に由来する吸収ピークの生成により確認することができる。また、滴定等によってアミン価を測定し、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアミンのアミノ基に由来するアミン価が0mgKOH/gとなるまで反応させてもよい。
【0027】
ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアミンや反応性基含有化合物を希釈するための有機溶媒としては、トルエン等の炭化水素系溶媒;メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン等の環状エーテル系溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール系溶媒;ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;テトラメチル尿素等の尿素系溶媒;エチレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;等を挙げることができる。なかでも、反応液を水にあけて生成物を析出させる後処理工程を考慮して、水に親和性を有する、好ましくは水に溶解する有機溶媒を用いることが好ましい。
【0028】
なお、イソシアネート基又は酸無水物基を有するシランカップリング剤で無機酸化物の表面を従来公知の方法にしたがって処理した後、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアミンを反応させることで、目的とする表面処理無機酸化物を得ることができる。
【0029】
本実施形態のシランカップリング剤は、経時的に吸収した水分とアルコキシシリル基が反応してしまう可能性がある。このため、製造したシランカップリング剤、又はシランカップリング剤の溶液に脱水剤を添加してもよい。脱水剤としては、例えば、オルト酢酸トリメチルやオルト酢酸トリエチル等のオルトカルボン酸エステルを用いることが好ましい。脱水剤の添加量は、シランカップリング剤100質量部に対して、0.1~5質量部とすればよい。
【0030】
<表面処理無機酸化物>
本発明の表面処理無機酸化物の一実施形態は、上述のシランカップリング剤で無機酸化物を表面処理した処理物である。本実施形態の表面処理無機酸化物は、上述のシランカップリング剤で無機酸化物の表面を処理し、シランカップリング剤に由来するポリアルキレングリコール鎖を無機酸化物の表面に導入することで得ることができる。
【0031】
無機酸化物としては、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化銅、イットリア、酸化モリブデン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化アンチモン、及びこれらの複合酸化物;マグネシウム、ストロンチウム、及びカルシウムなどのアルカリ土類金属と、鉄、マンガン、コバルト、及びニッケル等との複合酸化物;コバルト、クロム、チタン、及びアルミニウム等の複合酸化物;クレイ及び雲母等の天然鉱物;等を挙げることができる。
【0032】
無機酸化物の形状としては、ガラス板等の板状の他、不定形、及び微粒子状等を挙げることができる。なかでも、無機酸化物の形状は微粒子状であることが好ましい。すなわち、無機酸化物は無機酸化物微粒子であることが好ましい。無機酸化物微粒子の表面を本実施形態のシランカップリング剤で処理することで、無機酸化物微粒子の性質を改善することができる。
【0033】
無機酸化物微粒子としては、顔料;プラスチックのフィラー;充填剤として用いられる二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、及び複合酸化物顔料等の無機フィラー;等を挙げることができる。これらの無機酸化物微粒子を本実施形態のシランカップリング剤で表面処理することで、分散性、充填性、及び流動性等の特性を向上させることができる。
【0034】
無機酸化物微粒子の形状としては、不定形、球状、立方体状、直方体状、金平糖状、扁平状、円盤状、錐状、板状、針状、凸凹型、及び多孔質状等を挙げることができる。無機酸化物粒子の平均粒子径は、10nm~100μmであることが好ましく、50nm~20μmであることがさらに好ましい。無機酸化物微粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡写真を画像処理して測定した値の平均値として算出することができる。針状等の球状でない形状の場合は、長軸と短軸の平均値を粒子径とする。なお、液媒体中に分散させて動的光散乱法によって測定することもできる。
【0035】
無機酸化物は、本実施形態のシランカップリング剤以外の表面処理剤で予め表面処理されていてもよい。表面処理としては、シリカ処理、アルミナ処理、シリカアルミナ処理、及びジルコニア処理等の無機処理;オレイン酸処理等の有機酸処理;従来公知のシランカップリング剤処理やシラザン処理等を挙げることができる。従来公知のシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及びN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。また、シラザンとしては、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、及びペンタメチルジシラザン等を挙げることができる。
【0036】
シランカップリング剤の使用量は、無機酸化物の量や表面積等に応じて適宜設定すればよい。例えば、無機酸化物として無機酸化物微粒子を用いる場合、無機酸化物微粒子100質量部をシランカップリング剤0.5~50質量部で表面処理することが好ましく、1~20質量部で表見処理することがさらに好ましい。無機酸化物微粒子100質量部に対するシランカップリング剤の量が0.5質量部未満であると、表面処理することによって得られる効果が不十分になることがある。一方、50質量部超であると、余剰のシランカップリング剤によって分散液等の粘度が過度に上昇する場合がある。
【0037】
表面処理無機酸化物は、乾式法、湿式法、及び塗布法等によって製造することができる。乾式法では、無機酸化物微粒子等の無機酸化物をタンブラー、高速撹拌機、及び粉砕機等に入れるとともに、前述のシランカップリング剤を添加する。水や有機溶媒で希釈するとともに、必要に応じて、塩酸及び酢酸等の酸成分、又はアンモニア水及び水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ成分を触媒として添加する。内容物を撹拌及び混合して、又は撹拌及び混合しながら少しずつ噴霧して、シランカップリング剤を無機酸化物の表面に固着させる。処理後は乾燥することが好ましく、80℃以上に加熱して乾燥することがさらに好ましく、120℃以上に加熱して乾燥することがさらに好ましい。適度に加熱することで、無機酸化物の表面とシランカップリング剤との反応を完結させることができる。乾燥後、必要に応じて粉砕処理することで、目的とする本実施形態の表面処理無機酸化物を得ることができる。
【0038】
また、湿式法では、水や有機溶媒等の液媒体中で、無機酸化物と前述のシランカップリング剤とを混合する。必要に応じて分散処理し、シランカップリング剤を無機酸化物の表面と反応させる。加水分解を促進させるため、水の他、酸成分やアルカリ成分の水溶液を触媒として添加してもよい。無機酸化物と前述のシランカップリング剤とを混合するには、ディスパーやホモジナイザー等の混合機を使用することができる。分散処理の際に使用する分散機として、ボールミル、縦型ビーズミル、横型ビーズミル、及び高圧ホモジナイザー等を用いることで、微粒子状の無機酸化物を一次粒子付近まで細かく分散させた状態でシランカップリング剤と反応させることができ、微粒子状の無機酸化物を個別に処理することができる。
【0039】
処理済の無機酸化物(表面処理無機酸化物)とシランカップリング剤を含有する混合液は、ろ過してもよいし、フィルタを用いて粗大粒子を除去してもよい。次いで、シランカップリング剤のポリアルキレングリコール鎖が溶解しない貧溶剤に析出させた後、ろ過することで、ペーストの状態とすることができる。例えば、ポリアルキレングリコール鎖中のオキシプロピレン単位(PO)の割合が70質量%以上である場合、水に析出させることで、ペーストの状態で得ることができる。また、エバボレーター等を使用して混合液から液媒体の少なくとも一部を留去させることで、ペーストの状態とすることができる。さらに、混合液から液媒体を完全に留去させることで、固体の状態とすることもできる。また、スプレードライ等で混合液を噴霧しながら乾燥させることで、粉末の状態とすることもできる。得られたペースト、固体、及び粉末を加熱して乾燥させることで、シランカップリング剤のアルコキシシリル基と無機酸化物の表面に存在する水酸基等との反応を完結させることが好ましい。得られる乾燥物を必要に応じて粉砕機で粉砕して粉末状とすることが好ましい。
【0040】
無機酸化物の形状が、ガラス板等の板状やフィルム状である場合、例えば、シランカップリング剤、又は水や有機溶媒等の溶媒に溶解させたシランカップリング剤溶液を無機酸化物の表面に塗布又は噴霧する。シランカップリング剤溶液中のシランカップリング剤の含有量は、10質量%未満とすることが好ましい。シランカップリング剤溶液を塗布又は噴霧後、120℃以上に加熱して乾燥及び硬化させることで、シランカップリング剤のアルコキシシリル基と無機酸化物の表面に存在する水酸基等との反応を完結させることが好ましい。これにより、シランカップリング剤で形成された硬化膜を無機酸化物の表面に固着させて、目的とする無機酸化物を得ることができる。
【0041】
<物品>
本発明の物品の一実施形態は、前述の表面処理無機酸化物を含有するものである。本実施形態の物品に用いる表面処理無機酸化物は、前述の通り、無機酸化物の表面にシランカップリング剤に由来するポリアルキレングリコール鎖が導入されたものであるため、表面が親水性である。このため、例えば、防曇性及び着霜防止性等の機能性表面を有するガラスや鏡等の物品として有用である。
【0042】
また、微粒子状の表面処理無機酸化物(表面処理微粒子)を用いる場合、表面に結合したポリアルキレングリコール鎖を溶解しうる液媒体中に表面処理微粒子を分散させることで、沈降したとしてもポリアルキレングリコール鎖の含溶媒による粒子間密着防止効果により、撹拌等するだけで実質的に元の分散状態まで容易に戻すことが可能な、再分散性に優れた分散液とすることができる。
【0043】
なお、表面処理微粒子を、塗料、インキ、及びコーティング剤等の機能性フィラーや充填剤として用いることができる。例えば、ポリアルキレングリコール鎖を溶解しうる溶媒を含有する塗料やインク中に表面処理微粒子を分散させることで、分散性に優れた塗料及びインクとすることができる。また、紫外線・電子線硬化型コーティング剤等のコーティング剤に表面処理微粒子を充填剤として配合することで、高充填率であるとともに、流動性に優れたコーティング剤とすることができる。さらに、ポリスチレン、ポリエステル、及びポリアクリル等の熱可塑性樹脂や、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、及びアルキッド樹脂等の熱硬化性樹脂に対して、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上の充填率で表面処理微粒子を充填することができるとともに、流動性及び加工性も良好である。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0045】
<シランカップリング剤の合成>
(実施合成例1)
ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールモノメチルエーテルモノアミン(商品名「ジェファーミンM2005」、ハンツマン社製、PO/EO=29/5(モル比)、実測アミン価25.25mgKOH/g)(M2005)222.2部(0.1mol)を反応容器に入れた。下記式(3)で表される化合物(シランカップリング剤、商品名「X-12-967C」、信越化学工業社製、Mw262.1)27.5部(0.105mol)、及びジエチレングリコールジメチルエーテル(DMDG)27.5部を別の容器に入れ、混合して均一な溶液を調製した。室温条件下、調製した溶液を30分間かけて反応容器内に滴下した。滴下中に発熱し、反応が進行していることを確認した。滴下終了後、45℃まで昇温して1時間撹拌し、カルボキシ基を有するポリマー型のシランカップリング剤を含有するシランカップリング剤溶液TQ-1を得た。一部をサンプリングして赤外吸収(IR)を測定し、酸無水物に由来するピークの消失により反応がほぼ完結していることを確認した。ハロゲンランプ水分計を使用して測定した固形分は、90.7%であった。また、得られたシランカップリング剤溶液TQ-1中のシランカップリング剤のアミン価は、約0mgKOH/gであった。アミン価は、2-プロパノール/トルエン混合溶剤に試料を溶解させるとともに、2-プロパノール性0.1N-HCl溶液を滴定溶液として用い、電位差滴定装置を使用して滴定及び算出した。得られたシランカップリング剤溶液TQ-1中のシランカップリング剤は、水に実質的に不溶であることを確認した。
【0046】
【0047】
(実施合成例2)
ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールモノメチルエーテルモノアミン(商品名「ジェファーミンM600」、ハンツマン社製、PO/EO=9/1(モル比)、実測アミン価96.51mgKOH/g)(M600)116.3部(0.2mol)、及びDMDG 116.3部を反応容器に入れた。式(3)で表される化合物55.1部(0.21mol)及びDMDG 55.1部を別の容器に入れ、混合して均一な溶液を調製した。室温条件下、調製した溶液を30分間かけて反応容器内に滴下した。滴下中に発熱し、反応が進行していることを確認した。滴下終了後、45℃まで昇温して1時間撹拌し、カルボキシ基を有するポリマー型のシランカップリング剤を含有するシランカップリング剤溶液TQ-2を得た。一部をサンプリングして赤外吸収(IR)を測定し、酸無水物に由来するピークの消失により反応がほぼ完結していることを確認した。ハロゲンランプ水分計を使用して測定した固形分は、49.8%であった。また、得られたシランカップリング剤溶液TQ-2中のシランカップリング剤のアミン価は、約0mgKOH/gであった。得られたシランカップリング剤溶液TQ-2中のシランカップリング剤は、水に実質的に不溶であることを確認した。
【0048】
(実施合成例3~5)
表1に示す種類及び量の材料を用いたこと以外は、前述の実施合成例1及び2と同様にして、カルボキシ基を有するポリマー型のシランカップリング剤を含有するシランカップリング剤溶液TQ-3~5を得た。得られたシランカップリング剤溶液TQ-3~5の詳細を表1に示す。また、表1中の略号の意味を以下に示す。
・M1000:商品名「ジェファーミンM1000」、ハンツマン社製、PO/EO=3/19(モル比)、実測アミン価57.23mgKOH/g
・M41:商品名「ゲナミンM41/2000」、クラリアント社製、PO/EO=1/4(モル比)、実測アミン価26.10mgKOH/g
・M3085:商品名「ジェファーミンM3085」、ハンツマン社製、PO/EO=8/58(モル比)、実測アミン価18.48mgKOH/g
【0049】
【0050】
(実施合成例6)
M2005 222.2部(0.1mol)を反応容器に入れた。下記式(4)で表される化合物(シランカップリング剤、商品名「KBE-9007N」、信越化学工業社製、Mw247.4)24.7部(0.1mol)、DMDG 24.7部を別の容器に入れ、混合して均一な溶液を調製した。室温条件下、調製した溶液を30分間かけて反応容器内に滴下した。滴下中に発熱し、反応が進行していることを確認した。滴下終了後、室温で30分間撹拌し、ポリマー型のシランカップリング剤を含有するシランカップリング剤溶液TQ-6を得た。一部をサンプリングして赤外吸収(IR)を測定し、イソシアネート基に由来するピークの消失により反応がほぼ完結していることを確認した。ハロゲンランプ水分計を使用して測定した固形分は、90.8%であった。また、得られたシランカップリング剤溶液TQ-6中のシランカップリング剤のアミン価は、約0mgKOH/gであった。
【0051】
【0052】
(実施合成例7~10)
表2に示す種類及び量の材料を用いたこと以外は、前述の実施合成例6と同様にして、カルボキシ基を有するポリマー型のシランカップリング剤を含有するシランカップリング剤溶液TQ-7~10を得た。得られたシランカップリング剤溶液TQ-7~10の詳細を表2に示す。
【0053】
【0054】
(比較合成例1)
2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エタンアミン(Mw163.2)(MEEEA)81.6部(0.5mol)、及びDMDG 81.6部を反応容器に入れた。式(3)で表される化合物123.7部(0.5mol)及びDMDG 123.7部を別の容器に入れ、混合して均一な溶液を調製した。調製した溶液を1時間かけて反応容器内に水冷しながら滴下した。滴下中に発熱し、反応が進行していることを確認した。滴下終了後、室温で30分間撹拌し、シランカップリング剤を含有するシランカップリング剤溶液HS-1を得た。一部をサンプリングして赤外吸収(IR)を測定し、酸無水物に由来するピークの消失により反応がほぼ完結していることを確認した。ハロゲンランプ水分計を使用して測定した固形分は、49.7%であった。また、得られたシランカップリング剤溶液HS-1中のシランカップリング剤のアミン価は、約0mgKOH/gであった。得られたシランカップリング剤溶液HS-1中のシランカップリング剤は、水に可溶であることを確認した。
【0055】
(比較合成例2)
MEEEA 81.6部(0.5mol)、及びDMDG 81.6部を反応容器に入れた。式(4)で表される化合物137.6部(0.525mol)及びDMDG 137.6部を別の容器に入れ、混合して均一な溶液を調製した。調製した溶液を1時間かけて反応容器内に水冷しながら滴下した。滴下中に発熱し、反応が進行していることを確認した。滴下終了後、45℃まで昇温して1時間撹拌し、シランカップリング剤を含有するシランカップリング剤溶液HS-2を得た。一部をサンプリングして赤外吸収(IR)を測定し、イソシアネート基に由来するピークの消失により反応がほぼ完結していることを確認した。ハロゲンランプ水分計を使用して測定した固形分は、50.1%であった。また、得られたシランカップリング剤溶液HS-2中のシランカップリング剤のアミン価は、約0mgKOH/gであった。得られたシランカップリング剤溶液HS-2中のシランカップリング剤は、水に可溶であることを確認した。
【0056】
<表面処理無機酸化物(表面処理微粒子)の製造(1)>
(実施例1)
酸化チタン顔料(商品名「R-900」、ケマーズ社製)100部、メタノール39.0部、シランカップリング剤溶液TQ-1 11.0部(シランカップリング剤10部)、イオン交換水50部、及び酢酸0.1部を樹脂製の容器に入れた。0.5mmジルコニアビーズ400部を容器に充填し、ペイントコンディショナーを使用して2時間振とうして分散処理し、顔料分散液を得た。ジルコニアビーズを分離して取り出した顔料分散液を大量の水に投入し、生成した析出物をろ過してイオン交換水で洗浄し、水ペーストを得た。得られた水ペーストを120℃の乾燥機で12時間乾燥させて、塊状の乾燥物を得た。得られた乾燥物の粉砕機で粉砕して、微粒子状の表面処理無機酸化物である表面処理微粒子MB-1を得た。
【0057】
得られた表面処理微粒子の赤外吸収(IR)を測定したところ、カルボニル基に由来する微量のピークが確認された。これは、シランカップリングのアミド結合中のカルボニル基に由来するピークと考えられる。一方、シランカップリング剤中のポリアルキレングリコール鎖のエーテル結合に由来するピークは、酸化チタンに由来するピークと重なっており、確認することができなかった。ハロゲンランプ水分計を使用して測定した不揮発分は、99.8%であった。また、400℃に加熱して有機分を燃焼させる熱分析を行って測定した無機残分は、91.3%であった。以上の結果より、所定量のシランカップリング剤が酸化チタンの表面に結合していると考えられる。
【0058】
(実施例2~4、比較例1、2)
表3に示す種類及び量のシランカップリング剤溶液又はシランカップリング剤を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、微粒子状の表面処理無機酸化物である表面処理微粒子MB-2~4、HB-1、2を得た。得られた表面処理微粒子MB-2~4、HB-1、2の詳細を表3に示す。また、表3中の略号の意味を以下に示す。
・573:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、商品名「KBM-573、信越化学社製
・OTMS:オクタデシルトリメトキシシラン、東京化成社製
【0059】
【0060】
<評価(1)>
表4に示す種類の表面処理微粒子120部、トルエン40部、及びメチルエチルケトン40部を樹脂製の容器に入れた。0.5mmジルコニアビーズを容器に充填し、ペイントコンディショナーを使用して2時間振とうして分散処理し、顔料分散液W-1~6を得た。得られた顔料分散液のうち、流動性を有するものについてはB型粘度計を使用して粘度を測定した。また、動的光散乱式の粒子径分布測定装置(商品名「nanoSAQRA」、大塚電子社製)を使用して、得られた顔料分散液中の顔料(酸化チタン)の平均粒子径(メジアン径(D50))を測定した。さらに、以下に示す評価基準にしたがって顔料分散液の分散性を評価した。結果を表4に示す。
○:液状であり、平均粒子径が300nm以下であった。
×:ゲル又はチクソトロピックであり、平均粒子径が300nm超であった。
【0061】
【0062】
<表面処理無機酸化物(表面処理微粒子)の製造(2)>
(実施例5)
シランカップリング剤溶液TQ-1に代えてシランカップリング剤溶液TQ-3を用いたこと、及び酸化チタン顔料100部に対してシランカップリング剤5部を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして顔料分散液を得た。得られた顔料分散液をセパラブルフラスコに入れ、エバポレーターを使用して揮発分を除去して濃縮し、水ペーストを得た。得られた水ペーストを120℃の乾燥機で12時間乾燥させて、塊状の乾燥物を得た。得られた乾燥物の粉砕機で粉砕して、微粒子状の表面処理無機酸化物である表面処理微粒子MB-5を得た。得られた表面処理微粒子MB-5の不揮発分は99.8%であり、無機残分は96.2%であった。
【0063】
(実施例6~10、比較例3、4)
表5に示す種類及び量のシランカップリング剤溶液を用いたこと以外は、前述の実施例5と同様にして、微粒子状の表面処理無機酸化物である表面処理微粒子MB-6~10、HB-3、4を得た。得られた表面処理微粒子MB-6~10、HB-3、4の詳細を表5に示す。
【0064】
【0065】
<評価(2)>
表6に示す種類の表面処理微粒子55部、水41部、ヘキサンジオール2部、及び5%水酸化ナトリウム水溶液2部を容器に入れた。0.5mmジルコニアビーズを容器に充填し、ペイントコンディショナーを使用して2時間振とうして分散処理し、顔料分散液W-7~14を得た。得られた顔料分散液のうち、流動性を有するものについてはB型粘度計を使用して粘度を測定した。また、動的光散乱式の粒子径分布測定装置(商品名「ナイコンプ380」、インテグリス社製)を使用して、得られた顔料分散液中の顔料(酸化チタン)の平均粒子径(メジアン径(D50))を測定した。さらに、以下に示す評価基準にしたがって顔料分散液の分散性を評価した。結果を表6に示す。
○:液状であり、平均粒子径が300nm以下であった。
×:ゲル又はチクソトロピックであり、平均粒子径が300nm超であった。
【0066】
【0067】
表面処理微粒子MB-5~7は、カルボキシ基を有するシランカップリング剤を用いて調製したものであり、カルボキシ基が中和されてイオン化したことで、分散性がより向上したと考えられる。
【0068】
<表面処理無機酸化物(表面処理微粒子)の製造(3)>
(実施例11)
シリカゾル(商品名「スノーテックスST-OS」、日産化学社製、シリカ分20%、平均粒子径9nm)200部をセパラブルフラスコに入れた。シランカップリング剤溶液TQ-6 3.3部、イソプロパノール(IPA)200部、及び28%アンモニア水0.5部を添加し、還流しながら5時間加熱反応させた。取り出した内容物にプロピレングリコールモノメチルエーテル(MPG)100部を添加し、エバポレーターを使用して揮発分を除去して、表面処理微粒子MB-11のMPG分散液を得た。得られた分散液は極薄い半透明の分散液であり、固形分は23.9%であった。
【0069】
<評価(3)>
ペンタエリスリトールトリアクリレート(商品名「アロニクスM-305」、東亞合成社製)100部、表面処理微粒子MB-11のMPG分散液31.4部、光開始剤(商品名「イルガキュア2959」、BASFジャパン社製)4部を混合し、紫外線硬化性のコーティング剤を得た。PETフィルム(商品名「コスモシャインA4300」、東洋紡社製、膜厚100μm)にバーコーターを使用して乾燥膜厚3μmとなるように得られたコーティング剤を塗布した後、100℃で5分乾燥させた。80W/cmの高圧水銀灯で積算光量300mJ/cmとなるように光照射し、コーティング剤を硬化させてコーティングフィルムを得た。ヘイズメーターを使用して測定したコーティングフィルムの全光線透過率は92.2%、ヘイズ値は0.5であり、ブツや異物がなく、透明性に優れたコーティング膜を形成することができた。
【0070】
<表面処理無機酸化物(表面処理微粒子)の製造(4)>
(実施例12)
アルミナの球状粉末(平均粒子径10μm、表面未処理)500部、メタノール500部、シランカップリング剤溶液TQ-1 13.7部、及び28%アンモニア水1部をバットに入れ、ホモジナイザーを用いて2,000回転で30分間混合撹拌して混合液を得た。大量の水が入った容器内に得られた混合液を撹拌しながら添加した。生成した析出物をろ過してイオン交換水で洗浄し、水ペーストを得た。得られた水ペーストを120℃の乾燥機で12時間乾燥させて、塊状の乾燥物を得た。得られた乾燥物の粉砕機で粉砕して、微粒子状の表面処理無機酸化物である表面処理微粒子MB-12を得た。得られた表面処理微粒子MB-12の不揮発分は99.9%であり、無機残分は98.9%であった。
【0071】
(比較例5)
シランカップリング剤溶液TQ-1に代えて、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(商品名「KBM603」、信越化学社製)2.5部を用いたこと以外は、前述の実施例12と同様にして、表面処理微粒子HB-5を得た。得られた表面処理微粒子HB-5の不揮発分は99.9%であり、無機残分は99.7%であった。
【0072】
<評価(4)>
(i)アルミナの球状粉末(平均粒子径10μm、表面未処理)80部、(ii)表面処理微粒子MB-12 80部、又は(iii)表面処理微粒子HB-5 80部を樹脂製の容器に入れた。エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、商品名jER-871)20部をそれぞれ添加して撹拌し、混合物(i)~(iii)を得た。混合物(i)は、ほとんど流動しない高粘度液体であった。混合物(iii)は、粘度15Pa・sの高粘度液体であった。これに対し、混合物(ii)は、粘度6.3Pa・sの低粘度液体であった。表面処理されることでアルミナとエポキシ樹脂との相溶性が向上し、高充填化されるとともに、流動性も向上したと考えられる。
【0073】
<表面処理無機酸化物(表面処理基材)の製造(5)>
(実施例13)
シランカップリング剤溶液TQ-5 10部、IPA190部、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200部を混合してコーティング液を得た。また、ガラス板(7cm×7cm)をテトラヒドロフラン及びメタノールでそれぞれ洗浄した後、スピンコーターにセットした。コーティング剤をガラス板上に滴下し、2,000rpm、30秒間の条件でコーティングした後、80℃で10分間、及び120℃で30分間乾燥させて、表面処理基材MB-13を得た。膜厚測定器(商品名「F20-UV」、フィルメトリクス社製)を使用して測定したコーティング膜の膜厚は、213nmであった。
【0074】
(実施例14)
シランカップリング剤溶液TQ-5に代えて、シランカップリング剤溶液TQ-10を用いたこと以外は、前述の実施例13と同様にして、表面処理基材MB-14を得た。膜厚測定器を使用して測定したコーティング膜の膜厚は、198nmであった。
【0075】
<評価(5)>
表面処理基材MB-13、14、及び未処理のガラス板の水との接触角をそれぞれ測定した。未処理のガラス板の水との接触角は約68°であった。これに対して、表面処理基材MB-13は約40°であり、MB-14は約41°であった。また、表面処理基材MB-13を0.1%水酸化ナトリウム水溶液に30秒浸漬させた後、乾燥させた。そして、同様に測定した水との接触角は、約31°であった。用いたシランカップリング剤中のカルボキシ基が中和されてイオン化し、表面の親水性が向上して接触角が小さくなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のシランカップリング剤を用いることで、分散性、充填性、流動性、及び親水性等が向上した表面処理無機酸化物を製造することができる。そして、この表面処理無機酸化物は、種々のコーティング剤等に配合される充填剤や着色剤として有用であり、水性塗料、油性塗料、水性インク、水性インクジェットインク、溶剤系インクジェットインク、紫外線硬化型インクジェットインク、半導体封止材、ディスプレイ部材、電子部品部材、屈折率制御フィルム、遮熱フィルム、磁性流体、及び蛍光体等の様々な分野で用いられる物品への展開が期待される。