(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148066
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/76 20060101AFI20241009BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241009BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20241009BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20241009BHJP
F16J 15/44 20060101ALI20241009BHJP
C10M 147/00 20060101ALI20241009BHJP
C10M 105/52 20060101ALI20241009BHJP
C10M 105/54 20060101ALI20241009BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20241009BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20241009BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20241009BHJP
【FI】
F16C33/76 A
F16C19/06
F16C41/00
F16C33/58
F16J15/44 Z
C10M147/00
C10M105/52
C10M105/54
C10N50:10
C10N40:02
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060971
(22)【出願日】2023-04-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)、研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム「大学・エコシステム推進型 スタートアップ・エコシステム形成支援」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】谷 弘詞
【テーマコード(参考)】
3J042
3J216
3J217
3J701
4H104
【Fターム(参考)】
3J042AA03
3J042AA09
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3J042CA17
3J216AA02
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3J217JA02
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3J701AA02
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3J701BA73
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3J701FA23
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3J701FA33
3J701FA38
4H104CD01A
4H104CD04A
4H104LA20
4H104PA01
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】グリースの漏出を防止する。
【解決手段】軸受(1)は、内輪(21)と、内輪と中心軸を共有する外輪(31)と、内輪に固定された第1密封部(22)と、外輪に固定され、第1密封部よりも内側に位置する第2密封部(32)と、第1密封部および第2密封部の間の空間に封入されたグリース(51)と、第1密封部における端部に形成された第1漏出防止層(23)と、外輪における、少なくとも第1漏出防止層に対向した領域に形成された第2漏出防止層(33)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1輪と、
前記第1輪と中心軸を共有する第2輪と、
前記第1輪に固定された第1密封部と、
前記第2輪に固定され、前記第1密封部に対向する領域を有し、前記第1密封部よりも内側に位置する第2密封部と、
前記第1密封部および前記第2密封部の間に封入されたグリースと、
前記第1密封部の端部に形成された第1漏出防止層と、
前記第2輪における、少なくとも前記第1漏出防止層に対向した領域に形成された第2漏出防止層と、を備える軸受。
【請求項2】
前記第2輪の、前記第1漏出防止層に対向した領域を含む面のうち、前記第1漏出防止層に対向した領域より内側の領域には、前記第2漏出防止層が形成されていない領域を含む、請求項1に記載の軸受。
【請求項3】
前記第2密封部の端部に形成された第3漏出防止層と、
前記第1輪における、少なくとも前記第3漏出防止層に対向した領域に形成された第4漏出防止層と、をさらに備える請求項1または2に記載の軸受。
【請求項4】
前記第1輪の、前記第3漏出防止層に対向した領域を含む面のうち、前記第3漏出防止層に対向した領域より外側の領域には、前記第4漏出防止層が形成されていない領域を含む、請求項3に記載の軸受。
【請求項5】
前記第2漏出防止層は接着剤が硬化した層である、請求項1に記載の軸受。
【請求項6】
前記第1密封部および前記第2密封部は導体であり、
前記グリースは導電性を有している、請求項1に記載の軸受。
【請求項7】
前記第1漏出防止層および前記第2漏出防止層は絶縁体である、請求項1に記載の軸受。
【請求項8】
前記グリースが炭化水素系基油を含み、前記第1漏出防止層および前記第2漏出防止層はフッ素系コーティング材を含み、またはシリコーン系コーティング材を含む、あるいは、
前記グリースがフッ素系基油またはシリコーン系基油を含み、前記第1漏出防止層および前記第2漏出防止層は炭化水素系コーティング材を含む、請求項1に記載の軸受。
【請求項9】
前記第1漏出防止層と前記第2漏出防止層とは、互いに離れている、請求項1に記載の軸受。
【請求項10】
前記第1密封部における、前記第1密封部および前記第2密封部が対向した領域に、分割された第1導電性パターンを有し、
前記第2密封部における、前記第1密封部および前記第2密封部が対向した領域に、分割された第2導電性パターンを有し、
前記第1導電性パターンまたは前記第2導電性パターンの一方から電気信号を取り出す、請求項1に記載の軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジアル球軸受は、一般的に、外輪、内輪、転動体、および保持器で構成されている。また、外部からの異物の混入を防ぐためや、軸受内空間に封入したグリースの漏れを防止するため、開口端部にシール部材が設けられている。シール付きラジアル球軸受において、グリースが軌道輪である外輪または内輪の軸方向両端部に設けられたシール溝に付着するとグリース漏れに繋がる場合がある。これに対し、グリース漏れは、シール部材のシールリップと軌道輪との接触力を大きくすることにより抑制できる。しかし、その一方で、摩擦抵抗が大きくなり、トルクの上昇や発熱の原因となることが知られている。従来、シール性を確保しつつ、摩擦抵抗を低減する技術として種々の提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、撥油コーティングを付した球軸受が開示されており、撥油コーティングによって、シールまたはシールドからのグリースの漏出を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の構成は、1つのシールまたはシールドの場合の構成である。2つのシールまたはシールドが狭小隙間を形成しつつ相対運動した場合では、1つのシールまたはシールドの場合に対して、隙間におけるグリースに作用する圧力およびその圧力による作用は異なると考えられる。そのため、2つのシールまたはシールドの間のグリースの漏出を防ぐことはできない。
【0006】
本発明の一態様は、2つのシールまたはシールドを備えた軸受において、グリースの漏出を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の態様1に係る軸受は、第1輪と、前記第1輪と中心軸を共有する第2輪と、前記第1輪に固定された第1密封部と、前記第2輪に固定され、前記第1密封部に対向する領域を有し、前記第1密封部よりも内側に位置する第2密封部と、前記第1密封部および前記第2密封部の間の空間に封入されたグリースと、前記第1密封部における端部に形成された第1漏出防止層と、前記第2輪における、少なくとも前記第1漏出防止層に対向した領域に形成された第2漏出防止層と、を備える。
【0008】
上記の構成によれば、第1漏出防止層および第2漏出防止層によって、第1密封部および第2密封部の間に封入されたグリースの漏出を防止することができる。
【0009】
本発明の態様2に係る軸受は、前記態様1において、前記第2輪の、前記第1漏出防止層に対向した領域を含む面のうち、前記第1漏出防止層に対向した領域より内側の領域には、前記第2漏出防止層が形成されていない領域を含んでもよい。
【0010】
上記の構成によれば、第1漏出防止層に対向する面のうち、第1漏出防止層の端部から内側の領域において、第2漏出防止層が形成された領域と、第2漏出防止層が形成されない領域を作ることができる。そのため、第2漏出防止層が形成されていない領域が、直接グリースと接触することができる。
【0011】
本発明の態様3に係る軸受は、前記態様1または2において、前記第2密封部の端部に形成された第3漏出防止層と、前記第1輪における、少なくとも前記第3漏出防止層に対向した領域に形成された第4漏出防止層と、をさらに備えてもよい。
【0012】
上記の構成によれば、第3漏出防止層および第4漏出防止層によって、グリースが軸受の転動輪が存在する空間に流出すること、および転動輪の周りのグリースと混ざり合うことを防ぐことができる。
【0013】
本発明の態様4に係る軸受は、前記態様3において、前記第1輪の、前記第3漏出防止層に対向した領域を含む面のうち、前記第3漏出防止層に対向した領域より外側の領域には、前記第4漏出防止層が形成されていない領域を含んでもよい。
【0014】
上記の構成によれば、第3漏出防止層に対向する面のうち、第3漏出防止層の端部から内側の領域において、第4漏出防止層が形成された領域と、第4漏出防止層が形成されない領域を作ることができる。そのため、第4漏出防止層が形成されていない領域が、直接グリースと接触することができる。
【0015】
本発明の態様5に係る軸受は、前記態様1から4のいずれかにおいて、前記第2漏出防止層は接着剤が硬化した層であってもよい。
【0016】
上記の構成によれば、第2漏出防止層を接着剤が硬化した層とすることができる。これにより、第1漏出防止層と第2漏出防止層との間の隙間をより小さくすることができる。
【0017】
本発明の態様6に係る軸受は、前記態様1から5のいずれかにおいて、前記第1密封部および前記第2密封部は導体であり、前記グリースは導電性を有してもよい。
【0018】
上記の構成によれば、軸受において導通を取ることができるようになる。これによって、軸受が設置された環境が電磁ノイズ環境下であっても、転動体を破損させることを防ぐことができる。
【0019】
本発明の態様7に係る軸受は、前記態様1から6のいずれかにおいて、前記第1漏出防止層および前記第2漏出防止層は絶縁体であってもよい。
【0020】
本発明の態様8に係る軸受は、前記態様1から7のいずれかにおいて、前記グリースが炭化水素系基油を含み、前記第1漏出防止層および前記第2漏出防止層はフッ素系コーティング材を含み、またはシリコーン系コーティング材を含む、あるいは、前記グリースがフッ素系基油またはシリコーン系基油を含み、前記第1漏出防止層および前記第2漏出防止層は炭化水素系コーティング材を含んでもよい。
【0021】
上記の構成によれば、漏出防止層とグリースとが弾きあうため、グリースが軸受外に漏出することを防ぐことができる。
【0022】
本発明の態様9に係る軸受は、前記態様1から8のいずれかにおいて、前記第1漏出防止層と前記第2漏出防止層とは、互いに離れていてもよい。
【0023】
上記の構成によれば、第1漏出防止層と第2漏出防止層との間に隙間が空いているため、摩擦なく軸受が回転することができる。
【0024】
本発明の態様10に係る軸受は、前記態様1から5、7から9のいずれかにおいて、前記第1密封部における、前記第1密封部および前記第2密封部が対向した領域に、分割された第1導電性パターンを有し、前記第2密封部における、前記第1密封部および前記第2密封部が対向した領域に、分割された第2導電性パターンを有し、前記第1導電性パターンまたは前記第2導電性パターンの一方から電気信号を取り出してもよい。
【0025】
上記の構成によれば、軸受の回転によって摩擦帯電することができ、軸受から電気信号を取り出すことができる。そのため、軸受の状態等を推定することができるようになる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、グリースの漏出を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施形態1に係る軸受の要部の構成を示す断面図である。
【
図2】比較例に係る軸受の要部の構成を示す断面図である。
【
図3】ある試験体の要部の構成を示す断面図である。
【
図4】別の試験体の要部の構成を示す断面図である。
【
図5】計測した電圧値から抵抗値を算出したグラフである。
【
図6】実施形態3に係る軸受の要部の構成を示す断面図である。
【
図7】実施形態3に係る導電性パターンを示す図である。
【
図8】実施形態3に係る導電性パターンを示す図である。
【
図9】実施形態4に係る軸受の要部の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0029】
(軸受1の構造)
図1は、実施形態1に係る軸受1の要部の構成を示す断面図である。本実施形態ではラジアル球軸受である軸受1に関して説明する。軸受1は、内輪21(第1輪)と外輪31(第2輪)と、転動体41と、保持器42と、を備える。内輪21と外輪31は中心軸Cを回転軸として共有する。なお、転動体41は導体でできている。軸受1は、内輪21と外輪31との間の両側の開口を塞ぐように、両側の開口のそれぞれに第1密封部22および第2密封部32を備える。両側の第1密封部22は、構造が軸受2の中心面について面対称で、同一である。また、両側の第2密封部32は、構造が軸受2の中心面について面対称で、同一である。回転軸Cを中心に内輪21および外輪31が相対的に回転する。
【0030】
第1密封部22は、円環形状であり、その内周において内輪21に固定されており、その外周は外輪31近傍に隙間を空けて位置する。第2密封部32は、円環形状であり、その外周において外輪31に固定されており、その内周は内輪21近傍に隙間を空けて位置する。結果的に、第2密封部32は、第1密封部22に対向する領域を有する。第2密封部32は、第1密封部よりも内側に位置する。また、第1密封部22および第2密封部32は、ともに導体である。
【0031】
第1密封部22の外輪31側の端部、特に端面には、第1漏出防止層23が形成されている。また、外輪31における、少なくとも第1漏出防止層23に対向した領域に第2漏出防止層33が形成されている。さらに、第2密封部32の内輪21側の端部、特に端面には、第3漏出防止層34が形成されている。また、内輪21における、少なくとも第3漏出防止層34に対向した領域に第4漏出防止層24が形成されている。
【0032】
なお、第1漏出防止層23、第2漏出防止層33、第3漏出防止層34、および第4漏出防止層24は、撥油性が高いコーティング材、特にフッ素系コーティング材などの絶縁体である。第1漏出防止層23、第2漏出防止層33、第3漏出防止層34、および第4漏出防止層24は、第1グリース51に対して撥油性を有する。
【0033】
また、外輪31の、第1漏出防止層23に対向した領域を含む面のうち、第1漏出防止層23に対向した領域より内側の領域には、第2漏出防止層33が形成されていない領域を含む方が好ましい。内輪21の、第3漏出防止層34に対向した領域を含む面のうち、第3漏出防止層34に対向した領域より外側の領域には第4漏出防止層24が形成されていない領域を含む方が好ましい。
【0034】
第1密封部22および第2密封部32の間には、第1グリース51(グリース)が封入されている。また、転動体41が位置する2つの第1密封部22の間には、第2グリース52が封入されている。第2グリース52は、炭化水素系油を基油として、増稠材および添加剤を含む。
【0035】
なお、フッ素系コーティングは、炭化水素系基油に対して撥油性能が高い。そのため、第1漏出防止層23、第2漏出防止層33、第3漏出防止層34、および第4漏出防止層24は、第1グリース51および第2グリース52を弾く。
【0036】
また、第1漏出防止層23および第2漏出防止層33は互いに離れており、接触していない。例えば、第1漏出防止層23および第2漏出防止層33の間の間隔は0.1mmである。このように隙間が空いているため、余計な摩擦を生み出すことが無い。また、互いの間の隙間の間隔は。0.1mmに制限されず、コーティングによる撥油性能によって第1グリース51が軸受1外に漏れださなければ、任意の値をとることができる。第3漏出防止層34および第4漏出防止層24の関係に関しても第1漏出防止層23および第2漏出防止層33の関係と同様である。
【0037】
第1グリース51は導電性グリースであってもよい。この場合、外輪31が第1グリースに接する領域(外輪31における第1密封部22と第2密封部32との間の領域)は、第2漏出防止層33が形成されていない領域を含んでもよい。
【0038】
(比較例)
軸受1の優位性を示すための比較例を
図2に示す。
図2は、比較例に係る軸受100の要部の構成を示す断面図である。軸受100は、軸受1と異なり、第2漏出防止層33および第4漏出防止層24が備わっていない。つまり、第1密封部22と外輪31との間には、第1漏出防止層23しか備わっていなく、第2密封部32と内輪21との間には、第3漏出防止層34しか備わっていない。
【0039】
軸受1および軸受100の比較実験を行った。ともに、外輪31を固定して、内輪21を回転数2000rpmで1時間回転させたところ、軸受1ではグリース51の漏出が確認されなかったが、軸受100では第1グリース51の漏出が確認された。このことから、第1漏出防止層23および第3漏出防止層34のみでは、十分な漏出防止性能がないことがわかる。特に、軸受1では、500時間以上回転した後でも第1グリース51の漏出は確認されなかった。
【0040】
したがって、第1密封部22と外輪31と、第2密封部32と内輪21との間に存在する第1漏出防止層23、第2漏出防止層33、第3漏出防止層34、および第4漏出防止層24によって、軸受1では第1グリース51の漏出を防げている。これに対して軸受100は、第2漏出防止層33および第4漏出防止層24を有さないため、第1グリース51が漏出しているものと考えられる。つまり、第1密封部22と外輪31と、第2密封部32と内輪21との間に存在する隙間には、該隙間を塞ぐための第1グリース51に対して撥油性を有した漏出防止層を両サイドに設けた方がよい。
【0041】
(作用効果)
第1漏出防止層23および第2漏出防止層33が、第1グリース51を弾くことにより、第1グリース51の軸受1の外への漏出を防ぐことができる。また、第3漏出防止層34および第4漏出防止層24が、第1グリース51と第2グリース52を弾くことにより、第1グリース51と第2グリース52の混合を予防することができる。これにより、転動体41周りの第2グリース52によって、軸受1としての回転に関する潤滑を行い、第1グリース51によって、軸受1に対して付加価値を付与することができる。付加価値としては、例えば、後述する導通の確保および発電素子の追加などが挙げられる。
【0042】
また、第1漏出防止層23および第2漏出防止層33は接触しておらず、第3漏出防止層34および第4漏出防止層24は接触していない。そのため、軸受1の回転に対する摩擦は発生せず、回転に必要な回転トルクは小さい。
【0043】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0044】
実施形態2では、軸受の導電性を確認している。軸受の多くは金属で作られていることが多く、電流を流すが、軸受全体が単一の導体ではないために接触抵抗が大きい。その結果、インバータ等に起因する電磁ノイズ環境下では、ノイズによって印加された電流によって、転動体41などに焼き付けが生じることがある。このような現象を軸受における電食と呼ぶ。そのため、軸受は電食を防ぐために、導電性が高い方が好ましい。
【0045】
本実施形態では、軸受の導電性を確認するために、2つの異なる試験体を用いて比較実験を行った。
図3は、ある試験体Aの要部の構成を示す断面図である。
図4は、別の試験体Bの要部の構成を示す断面図である。
【0046】
試験体Aは、軸受1と同じ構成であり、転動体41に代えて、絶縁体のセラミックでできた転動体41aを備える。また、第1グリース51に代えて、導電性グリースを採用した第1グリース51aを備える。第1グリース51aは、第2漏出防止層33および第4漏出防止層24が形成されていない内輪21および外輪31の領域に接触している。導電性グリースは、炭化水素系油を基油としてカーボンブラック、銀ナノワイヤ、添加剤などを含んでおり、その体積抵抗率は10Ωcm以下である。
【0047】
試験体Bは、試験体Aと異なり、第2漏出防止層33aおよび第4漏出防止層24aが形成される領域が異なる。試験体Bでは、外輪における第1漏出防止層23に対向する面のうち、第1漏出防止層23の端部に対向した領域から内側の領域は、全て第2漏出防止層33aが形成されている。内輪における第3漏出防止層34に対向する面のうち、第3漏出防止層34の端部に対向した領域から外側の領域は、全て第4漏出防止層24aが形成されている。また、試験体Bも、試験体Aと同様に転動体41aおよび第1グリース51aを備える。結果的に、試験体Bでは、第1グリース51aは内輪21および外輪31に接触しない。
【0048】
試験体Aおよび試験体Bの比較実験を行った。ともに、外輪31を固定して、内輪21を回転数2000rpmで1時間回転させたところ、試験体Aではグリース51aの漏出が確認されず、試験体Bでも第1グリース51aの漏出は確認されなかった。
【0049】
次に、試験体Aおよび試験体Bの導通状態を確認した。内輪21から外輪31に、それぞれの試験体Aおよび試験体Bに対し直列に接続した外部抵抗R0を介して、所定の電圧E0を印加した際の外部抵抗R0の両端の電圧値を計測した。なお、電圧値の計測は、0~3000rpmの範囲で回転数を変化させながら計測した。
図5は、計測した電圧値から抵抗値を算出したグラフである。なお、抵抗値の算出に際しては、外部抵抗R0と試験体Aまたは試験体Bの抵抗との合成抵抗に対する、外部抵抗R0の分圧を用いて、試験体Aおよび試験体Bの抵抗値を算出した。なお、転動体41aが絶縁体であるため、試験体Aおよび試験体Bでは転動体41aを経由した経路において電流が流れることはない。
【0050】
図5に示すように、試験体Bは導通が検出されなかった。対して、試験体Aは、十分に小さい抵抗値において、導通が検出された。試験体Aでは、内輪21、第1密封部22、第1グリース51、第2密封部32、外輪31の順番(第1ルート)で電流が流れることになる。試験体Aでは、第2漏出防止層33および第4漏出防止層24が、それぞれ第1漏出防止層23および第3漏出防止層34に対向した領域のみに存在する。そのため、内輪21および外輪31が直接的に第1グリースに接触している箇所があり、内輪21、第1グリース51a、外輪31で電流が流れるルート(第2ルート)が存在している。
【0051】
対して、試験体Bでは、外輪における第1漏出防止層23に対向する面のうち、第1漏出防止層23の端部に対向した領域から内側の領域は、第2漏出防止層33aが形成されており、内輪における第3漏出防止層34に対向する面のうち、第3漏出防止層34の端部に対向した領域から外側の領域は、第4漏出防止層24aが形成されている。そのため、第1グリース51aが直接的に内輪21および外輪31に接触している領域がなく、電流が流れるルートは、第1ルートのみとなる。
【0052】
試験体Aでは、第1ルートに加えて第2ルートで電流が流れ得るのに対し、試験体Bは第1ルートのみでしか電流が流れ得なかった。この違いによって抵抗値が大きく異なったものと考えられる。
【0053】
(作用効果)
第1グリース51aによって、試験体Aの内輪21と外輪31との間での導通を確保することができる。これによって、電磁ノイズ環境において、試験体Aを使用した場合でも、転動体41の焼き付きを防止することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、転動体41として絶縁体のセラミックを用いた試験体Aおよび試験体Bに対して評価したが、これに限定されず、導体である金属であってもよい。すなわち、試験体Aではなく、軸受1であってもよい。この場合であっても、第2ルートによって内輪21から外輪31への導通は確保されているために、電磁ノイズ環境下における転動体41への焼き付きなどを防止することができる。具体的には、内輪21、転動体41、外輪31の順番(第3ルート)での抵抗が、第2ルートの抵抗よりも十分に大きい場合には、第2ルートで主に電流が流れるために、転動体41の電食を防ぐことができる。
【0055】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0056】
実施形態3では、軸受が、互いに回転し、対向した導電性パターンを有し、該導電性パターンによって第1グリース51を挟むことにより、付加価値として発電機能を備えることを目的としている。
【0057】
(軸受3の構成)
図6は、実施形態3に係る軸受3の要部の構成を示す断面図である。軸受3では、第1密封部22および前記第2密封部32が対向した領域において、第1密封部22が分割された第1導電性パターン25を有し、第2密封部32が分割された第2導電性パターン35を有する。つまり、第1導電性パターン25および第2導電性パターン35は、第1グリース51bに接している。なお、軸受3では、第1グリース51に代えて第1グリース51bを備えている。
【0058】
第1グリース51bは、絶縁性の摩擦帯電するグリースであり、特にフッ素系基油または炭化水素系基油であることが好ましい。ここで、第1グリース51bがフッ素系基油であれば、第1漏出防止層23、第2漏出防止層33、第3漏出防止層34および第4漏出防止層24は、それぞれシリコーン系コーティングまたは炭化水素系コーティングであってもよい。第1グリース51bが炭化水素系基油であれば、第1漏出防止層23、第2漏出防止層33、第3漏出防止層34および第4漏出防止層24は、それぞれシリコーン系コーティングまたはフッ素系コーティングであってもよい。なお、フッ素系コーティングとしては、例えばパーフルオロアルキル基を有するフッ素樹脂が好ましい。シリコーン系コーティングとしては、例えばジメチルシロキサンメチルフェニルシロキサン等を用いることが好ましい。炭化水素系コーティングとしては、例えばウレタンまたはアクリルを含むものが好ましい。
【0059】
(導電性パターン35および25)
図7は、実施形態3に係る導電性パターン35を示す図である。導電性パターン35は、複数の第1電極35aと、複数の第2電極35bと、第1出力配線35cと、第2出力配線35dと、を備える。
【0060】
第1電極35aおよび第2電極35bは、円周上に互い違いに形成された、扇形状(2つの円弧と2つの半径とに囲まれた形状)の電極である。各扇型状の大きさは、一定であるため、一定ピッチおきに各電極が円周上に配置されていることになる。また、必ずしも各扇型形状が一定ピッチである必要はなく、離散して配置されていればよい。第1電極35aおよび第2電極35bの形状はこれに限らない。複数の第1電極35aは互いに電気的に接続されている。複数の第2電極35bは互いに電気的に接続されている。第1電極35aおよび第2電極35bの対は、回転方向に沿って複数形成されている。
【0061】
また、第1電極35aは、第1出力配線35cに接続されている。第2電極35bは、第2出力配線35dに接続されている。第1出力配線35cおよび第2出力配線35dは、それぞれ各電極に対し接続された電線である。
【0062】
図8は、実施形態3に係る導電性パターン25を示す図である。導電性パターン25は、少なくとも1つの第3電極25aを含む。第3電極25aは、円周上に形成された、扇形上の電極である。第3電極25aが複数形成されている場合、複数の第3電極25aは、回転方向に沿って離散的に配置され、一定ピッチおきに配置されることが好ましい。導電性パターン25において、第3電極が形成されていない領域は、絶縁部25bである。
【0063】
なお、複数の第3電極25aのピッチと、複数の第1電極35aのピッチとは同じである。第3電極25aの形状はこれに限られず、任意の形状を取っても良い。第3電極25aは互いに電気的に接続されていてもよい。
【0064】
複数の第3電極25aは、複数の第1電極35aおよび複数の第2電極35bと対向し得る半径位置に配置されている。
【0065】
なお、導電性パターン25および導電性パターン35のうち少なくとも一方は帯電層(図示省略)を備えてもよい。帯電層は、第1グリース51bに接する形で形成される。
【0066】
(回転による摩擦帯電)
外輪31に対して内輪21が回転する場合に関して考える。つまり、導電性パターン35に対して、導電性パターン25が回転することになり、言い換えると、導電性パターン35がステータであり、導電性パターン25がロータである。なお、ロータ・ステータの関係性はこれに限定されず、逆であってもよく、つまり、外輪31に導電性パターン25が備わっており、内輪21に導電性パターン35が備わっていてもよい。
【0067】
導電性パターン35に対して、導電性パターン25が回転することによって、第1グリース51bも導電性パターン35に対して移動する。そのため、導電性パターン35と第1グリース51bとの間に摩擦が生じる。
【0068】
その結果として、導電性パターン35および第1グリース51bは、摩擦によって互いに逆極性に帯電(摩擦帯電)する。第3電極25aは、表面に近接する帯電した第1グリース51bの影響で分極し得る。この際、導電性パターン25には、第3電極25aが形成された領域と、絶縁部25bとが存在する。そのため、導電性パターン25における電荷分布は回転方向において一様ではない。
【0069】
それゆえ、複数の第1電極35aに第3電極25aが対向するときと、複数の第1電極35aに絶縁部25bが対向するときとで、複数の第1電極35aの電位が変化する。同様に、複数の第2電極35bに第3電極25aが対向するときと、複数の第2電極35bに絶縁部25bが対向するときとで、複数の第2電極35bの電位が変化する。
【0070】
第1電極35aおよび第2電極35bの一方に第3電極25aが対向しているとき、他方に絶縁部25bが対向している。第3電極25aが対向する電極は交互に入れ変わるため、複数の第1電極35aと複数の第2電極35bとの電圧は変化する。なお、絶縁部25bが対向している場合は、第3電極25aが対向している場合よりも、より多くの第1グリース51bが第1電極35aおよび第2電極35bに対向することになる。
【0071】
以上の結果として、第1出力配線35cおよび第2出力配線35dの間には電位が発生し、これを計測することで、軸受3の状態量、例えば、回転数等を推定することができる。つまり、軸受3では、第2導電性パターン35から電気信号を取り出すことができる。なお、上述したように第1導電性パターン25および第2導電性パターン35の配置は限定されない。そのため、第2導電性パターン35を備えた外輪31に対して、第1導電性パターン25を備えた内輪21が回転するのではなく、第2導電性パターン35を備えた内輪21に対して、第1導電性パターン25を備えた外輪31が回転してもよい。
【0072】
〔実施形態4〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0073】
実施形態4では、実施形態1に対し、第1漏出防止層23、第2漏出防止層33、第3漏出防止層34、および第4漏出防止層24の形状および材質が異なり、他は同一である。
【0074】
(接着剤による封止)
図9は、実施形態4に係る軸受4の要部の構成を示す断面図である。
図10は、
図9の一部を拡大した図である。軸受4は、第1漏出防止層23cおよび第3漏出防止層34cがフッ素系コーティング材であり、コーティングしている形状が実施形態1とは異なる。実施形態4では、第1漏出防止層23cは、第1密封部22の端面だけではなく、第1密封部22における、中心軸Cに垂直な平面P1の一部に形成されていてもよい。
【0075】
同様に、第3漏出防止層34cは、第2密封部32の端面だけではなく、第2密封部32における、中心軸Cに垂直な平面P2の一部に形成されていてもよい。
【0076】
また、第2漏出防止層33cおよび第4漏出防止層24cは、紫外線硬化型炭化水素系接着剤である。つまり、第2漏出防止層33cおよび第4漏出防止層24cは、接着剤が硬化した層である。
【0077】
次に、第1漏出防止層23cと第2漏出防止層33cの形成方法の一例を示す。まず、第1密封部22の端面に第1漏出防止層23cとしてフッ素系コーティング材を10μm程度の厚みで塗布する。第2密封部32の外側に第1グリース51が塗布されている状態で、第1漏出防止層23cを形成した第1密封部22を軸受4に組込み、すき間から出てくる余分な第1グリース51を溶剤でふき取る。その後、第2漏出防止層33cとなる紫外線硬化型炭化水素系接着剤を第1漏出防止層23cと外輪31の間の開口部に塗布する。紫外線硬化型炭化水素系接着剤とフッ素系コーティング材は濡れ性が悪いため接着しない。また、開口部の内部には第1グリース51が存在するため、紫外線硬化型炭化水素系接着剤は、第1密封部22の端面に対向する外輪31の表面に付着する。この状態で紫外線を照射することにより、紫外線硬化型炭化水素系接着剤は硬化して第2漏出防止層33cが形成される。第3漏出防止層34cと第4漏出防止層24cの形成方法も基本的には上記と同様である。
【0078】
なお、第1漏出防止層23cのフッ素系コーティング材と、第2漏出防止層33cの紫外線硬化型炭化水素系接着剤の濡れ性は非常に悪いために、互いに接合することはない。そのため、第1漏出防止層23cと第2漏出防止層33cとの間の隙間を限りなく小さくしつつ、互いに回転させることができるようになる。もちろん、軸受4が回転することで、第1漏出防止層23cおよび第2漏出防止層33cは互いに削りあって摩耗する。そのため、軸受4の回転に対する摩擦にならない程度まで、互いの間の隙間は広がり得る。結果的に、第1漏出防止層23cおよび第2漏出防止層33cの間の隙間は、回転には支障がないがごく狭い隙間になる。また、第3漏出防止層34cおよび第4漏出防止層24cに関しても、第1漏出防止層23cおよび第2漏出防止層33cと同様である。
【0079】
図10に示すように、平面P1の一部にもフッ素系コーティング材を形成することにより、後から第2漏出防止層33c用の紫外線硬化型炭化水素系接着剤を塗布する際に、作業ミスによってフッ素系コーティング材が形成されていない部分が誤って接着されることを防ぐことができる。そのため、第1密封部22および第2密封部32の端面だけではなく、平面P1および平面P2の一部にもフッ素系コーティング材を形成しておくことが好ましい。
【0080】
〔変形例〕
(第1グリース51と各漏出防止層の材質)
実施形態1では、第1漏出防止層23、第2漏出防止層33、第3漏出防止層34、第4漏出防止層24がフッ素系コーティング材を含み、第1グリース51が炭化水素系基油を含むものとしたが、これに制限されない。例えば、第1漏出防止層23、第2漏出防止層33、第3漏出防止層34、第4漏出防止層24がシリコーン系コーティング材を含み、第1グリース51が炭化水素系基油を含んでもよい。また、第1漏出防止層23、第2漏出防止層33、第3漏出防止層34、第4漏出防止層24が炭化水素系コーティング材を含み、第1グリース51がフッ素系基油を含んでもよい。
【0081】
(スラスト球軸受)
実施形態1から4では、ラジアル球軸受を対象として記載したがこれに制限されず、スラスト球軸受であってもよい。つまり、内輪21に代えて軸軌道盤(第1輪)と、外輪31に代えてハウジング軌道盤(第2輪)と、を備えたスラスト球軸受であってもよい。この場合でも、軸軌道盤に第1密封部22が、ハウジング軌道盤に第2密封部32が配置されることは変わりない。
【0082】
(漏出防止層の配置)
実施形態1から4では、各漏出防止層は、密封部と外輪31または内輪21との間において第1グリース51の漏出を防止していた。これに対して、本変形例では、第1密封部22と第2密封部32との間において、第1グリース51の漏出を防止することを目的とする。
【0083】
第1密封部22と第2密封部32とが対向する領域の外周と内周において、各漏出防止層を形成する。つまり、第1漏出防止層は、第1密封部22における第1密封部22と第2密封部32とが対向する領域の外周に、第2密封部32に向けて突出して形成される。第2漏出防止層は、第2密封部32における第1密封部22と第2密封部32とが対向する領域の外周に、第1密封部22に向けて突出して形成される。第3漏出防止層は、第2密封部32における第1密封部22と第2密封部32とが対向する領域の内周に、第1密封部22に向けて突出して形成される。第4漏出防止層は、第1密封部22における第1密封部22と第2密封部32とが対向する領域の内周に、第2密封部32に向けて突出して形成される。
【0084】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0085】
1、2、3、4 軸受
21 内輪(第1輪)
22 第1密封部
23、23c 第1漏出防止層
24、24a、24c 第4漏出防止層
25 第1導電性パターン
31 外輪(第2輪)
32 第2密封部
33、33c 第2漏出防止層
34、34a、34c 第3漏出防止層
35 第2導電性パターン
41、41a 転動体
42 保持器
51、51a、51b 第1グリース(グリース)
52 第2グリース
C 中心軸