(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014807
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】分散型音響センシングを改良するためのマルチスパン光ファイバシステムおよび技術
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
G01H9/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023117568
(22)【出願日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】63/391,041
(32)【優先日】2022-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】502101180
【氏名又は名称】サブコム,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジン-シン カイ
(72)【発明者】
【氏名】カール デビッドソン
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ダブリュー. パターソン
(72)【発明者】
【氏名】アレクセイ エヌ. ピリペツキー
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB16
2G064BA02
2G064BC12
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064CC42
(57)【要約】
【課題】 分散型音響センシングを改良するためのマルチスパン光ファイバシステムおよび技術を開示する。
【解決手段】 分散型音響センシングシステムは、光ファイバを介して少なくとも1つのスパンにわたってアウトバウンドDAS信号を送信するように構成されるDAS送信機と、前記DAS信号に基づいてレイリー後方散乱信号を受信するように構成されるDAS受信機と、DAS送信機および/またはDAS受信機に結合され、DASシステムのセンシングの感度を高めるように構成される少なくとも1つのコンポーネントとを備える、分散型音響センシング(DAS)ステーションを含んでもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバを介して少なくとも1つのスパンにわたってアウトバウンドDAS信号を送信するように構成されるDAS送信機と、
前記アウトバウンドDAS信号に基づいてレイリー後方散乱信号を受信するように構成されるDAS受信機と、
前記DAS送信機および/または前記DAS受信機に結合され、分散型音響センシングシステムのセンシング用の感度を高めるように構成される少なくとも1つのコンポーネントとを備える、分散型音響センシング(DAS)ステーションを含む、
分散型音響センシングシステム。
【請求項2】
前記少なくとも1つのコンポーネントは、
アウトバウンドDAS信号を受信するように構成される第1の音響光変調器(AOM)と、
第1のAOMの第1の出力信号を受信して前記アウトバウンドDAS信号の強度を高めるための第1の増幅器と、
前記第1の増幅器の出力を受信するように構成される第2のAOMと、を含む、
請求項1に記載の分散型音響センシングシステム。
【請求項3】
前記第1のAOMの出力信号の第1の幅は、前記第2のAOMの第2の出力信号の第2の幅よりも大きく、
前記第2の出力信号は、時間において前記第1の出力信号を中心とする、
請求項2に記載の分散型音響センシングシステム。
【請求項4】
前記第2の幅はT2で表され、T2=n*GL/cである、
(ただし、nは光ファイバの屈折率であり、GLは、メートルを単位とする光ファイバのゲージ長であり、cは光速である)
請求項3に記載の分散型音響センシングシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つのコンポーネントは、
前記アウトバウンドDAS信号を受信するための第1の増幅器と、
前記DAS送信機に位置し、前記第1の増幅器からの出力を受信するように構成され、1GHz~10GHz間の帯域幅を有する狭帯域光フィルタと、を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の分散型音響センシングシステム。
【請求項6】
前記少なくとも1つのコンポーネントは、
前記DAS受信機に位置し、前記レイリー後方散乱信号を受信するように構成され、10GHzよりも小さい帯域幅を有する狭帯域光フィルタを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の分散型音響センシングシステム。
【請求項7】
前記帯域幅は1GHzよりも小さい、
請求項6に記載の分散型音響センシングシステム。
【請求項8】
前記少なくとも1つのコンポーネントは、
前記DAS送信機と前記DAS受信機との間に結合された光周波数シフタと、
前記光周波数シフタに結合された掃引周波数シンセサイザと、を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の分散型音響センシングシステム。
【請求項9】
少なくとも1つのスパンの開始から前記レイリー後方散乱信号の増幅を減衰または低減するように構成される受信機パワートラッカーを更に含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の分散型音響センシングシステム。
【請求項10】
前記受信機パワートラッカーは、
少なくとも1つのスパンの開始で比較的大きな減衰を有する光プログラマブルアッテネーターであって、前記減衰が、少なくとも1つのスパンの終端で徐々にゼロに低減する光プログラマブルアッテネーターと、または
少なくとも1つのスパンの開始からのアウトバウンドDAS信号に対して比較的小さな電流または比較的小さな利得を有し、少なくとも1つのスパンの終端からのアウトバウンドDAS信号に対して比較的大きな電流または比較的大きな利得を有する光プリアンプと、を含む、
請求項9に記載の分散型音響センシングシステム。
【請求項11】
光ファイバを介して少なくとも1つのスパンにわたってDASステーションのDAS送信機からアウトバウンド分散型音響センシング(DAS)信号を送信することと、
DAS受信機で前記アウトバウンドDAS信号に基づくレイリー後方散乱信号を受信することと、
前記アウトバウンドDAS信号の送信および前記レイリー後方散乱信号の受信の間に、少なくとも1つの処理操作を実行してセンシングの感度を高めることと、を含む、
分散型音響センシングシステムの操作方法。
【請求項12】
第1の音響光変調器(AOM)で前記アウトバウンドDAS信号を受信することと、
第1の増幅器で前記第1のAOMの第1の出力信号を受信してその強度を高めることと、
第2のAOMで前記第1の増幅器の出力を受信することと、を更に含む、
請求項11に記載の分散型音響センシングシステムの操作方法。
【請求項13】
前記第1のAOMの出力信号の第1の幅は、前記第2のAOMの第2の出力信号の第2の幅よりも大きく、
前記第2の出力信号は、時間において前記第1の出力信号を中心とする、
請求項12に記載の分散型音響センシングシステムの操作方法。
【請求項14】
第2の幅はT2で表され、T2=n*GL/cである、
(ただし、nは光ファイバの屈折率であり、GLは、メートルを単位とする光ファイバのゲージ長であり、cは光速である)
請求項13に記載の分散型音響センシングシステムの操作方法。
【請求項15】
第1の増幅器で前記アウトバウンドDAS信号を受信することと、
1GHz~10GHz間の帯域幅を有する狭帯域光フィルタで前記第1の増幅器の出力を受信することと、を更に含む、
請求項11~14のいずれか一項に記載の分散型音響センシングシステムの操作方法。
【請求項16】
10GHzよりも小さい帯域幅を有する狭帯域光フィルタで前記レイリー後方散乱信号を受信することを更に含む、
請求項11~14のいずれか一項に記載の分散型音響センシングシステムの操作方法。
【請求項17】
前記DAS送信機と前記DAS受信機との間に結合された光周波数シフタを用いて周波数掃引/周波数シフトを実行することを含む、
請求項16に記載の分散型音響センシングシステムの操作方法。
【請求項18】
受信機パワートラッカーを用い、開始と逆となる少なくとも1つのスパンの終端からのレイリー後方散乱信号のパワーと比べ、少なくとも1つのスパンの開始から受信されたレイリー後方散乱信号のパワーの増幅を選択的に減衰または降低することを更に含む、
請求項11~14のいずれか一項に記載の分散型音響センシングシステムの操作方法。
【請求項19】
前記受信機パワートラッカーは、
少なくとも1つのスパンの開始で比較的大きな減衰を有する光プログラマブルアッテネーターであって、前記減衰が、少なくとも1つのスパンの終端で徐々にゼロに低減する光プログラマブルアッテネーターと、または
少なくとも1つのスパンの開始からの前記レイリー後方散乱信号に対して比較的小さな電流または比較的小さな利得を有し、少なくとも1つのスパンの終端からの前記レイリー後方散乱信号に対して比較的大きな電流または比較的大きな利得を有する光プリアンプと、を含む、
請求項18に記載の分散型音響センシングシステムの操作方法。
【請求項20】
光ファイバを介して少なくとも1つのスパンにわたってアウトバウンドDAS信号を送信するように構成されるDAS送信機と、
前記アウトバウンドDAS信号に基づいてレイリー後方散乱信号を受信するように構成されるDAS受信機と、
前記アウトバウンドDAS信号を受信するように構成される第1の音響光変調器(AOM)と、
第1のAOMの第1の出力信号を受信して前記アウトバウンドDAS信号の強度を高めるための第1の増幅器と、
前記第1の増幅器の出力を受信するように構成される第2のAOMと、
前記第1の増幅器からの出力を受信し、1GHz~10GHz間の帯域幅を有する狭帯域光フィルタと、を備える、分散型音響センシング(DAS)ステーションを含む、
分散型音響センシングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2022年7月21日に出願された名称が「MUL TISPAN OPTICAL FIBER SYSTEM AND TECHNIQUES FOR IMPROVED DISTRIBUTED ACOUSTIC SENSING」であって、米国仮出願番号が63/391041である発明の特許出願に対して、優先権の利益を主張するものであり、その全体を引用により本願に援用する。
【0002】
本開示の実施例は、光ファイバ通信システム分野に関する。特に、本開示は、海底光ケーブルにおける分散型音響センシング(DAS)の感度を拡張して改善するための技術に関する。
【背景技術】
【0003】
分散型音響センシング(DAS)システムにおいて、光ケーブルは、光ケーブル付近で外乱または異常の連続的なリアルタイムまたはほぼリアルタイムな監視を提供することに使用できる。言い換えれば、ケーブル自体は、DAS環境(例えば、陸地環境、海洋)において海底環境等の内外で発生する異なるタイプの破壊、干渉、不規則性、音響振動活動(自然のものであるか人為的なものであるかにかかわらない)を検出または監視するためのセンシング素子として使用できる。そのため、DASシステムの光ケーブルに結合された光電子デバイス/機器は、光ケーブルシステムにおける特定距離の範囲内の反射光信号(例えば、レイリー後方散乱信号)を検出して処理することができる。
【0004】
通常、DASシステムは、インテロゲータユニット(IU)としてのポイントステーションを含んでもよく、コヒーレントレーザパルスを用いて光ファイバケーブルを探知し、ここで、戻った光後方散乱信号の位相、周波数、振幅、到達時間または偏光状態の変化を測定する。パルス間の光位相シフトは、光ファイバにおける歪みに比例することができ、これにより、このような外乱による位相への影響で測定されるように、振動等を検出する能力をもたらす。例えば、DASシステムは、レイリー後方散乱に基づく(レイリー後方散乱DASシステムに基づくとも呼ばれる)ことができる。
【0005】
従来方法において、分散型センシングは50km未満~150kmに限定され、且つ、1つの光ファイバスパンしかセンシングできない。使用されるセンシングファイバは、マルチモードファイバ(MMF)、シングルモードファイバ(SMF)、スベシャルセンシングファイバ、または正分散を有する他の光ファイバタイプであってもよく、通常、低損失を表し、より高いセンシングの感度をもたらす。なお、現在使用されている分散型音響センシング(DAS)機器のシステムは、シングルモードファイバ(SMF)または正分散および低損失を有する他の光ファイバを採用する。従って、DASシステムのDAS範囲およびセンシング能力が著しく制限されることは知られている。
【0006】
上記および他の考慮に関し、本開示を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施例において、分散型音響センシングシステムを提供する。DASシステムは、光ファイバを介して少なくとも1つのスパンにわたってアウトバウンドDAS信号を送信するように構成されるDAS送信機と、DAS信号に基づいてレイリー後方散乱信号を受信するように構成されるDAS受信機と、DAS送信機および/またはDAS受信機に結合され、DASシステムのセンシングの感度を高めるように構成される少なくとも1つのコンポーネントとを備える、分散型音響センシング(DAS)ステーションを含んでもよい。
【0008】
別の実施例において、分散型音響センシングシステムの操作方法は、少なくとも1つのスパンにわたって光ファイバを介してDASステーションのDAS送信機からアウトバウンド分散型音響センシング(DAS)信号を送信することと、DAS受信機でDAS信号に基づいてレイリー後方散乱信号を受信することと、アウトバウンドDAS信号の送信およびレイリー後方散乱信号の受信の間に、少なくとも1つの処理操作を実行してセンシングの感度を高めることとを含んでもよい。
【0009】
別の実施例において、分散型音響センシングシステムは、分散型音響センシング(DAS)ステーションを含んでもよい。DASステーションは、光ファイバを介して少なくとも1つのスパンにわたってアウトバウンドDAS信号を送信するように構成されるDAS送信機と、DAS信号に基づいてレイリー後方散乱信号を受信するように構成されるDAS受信機とを備えてもよい。DASステーションは、第1の音響光変調器(AOM)、第1の増幅器、および第2のAOMを更に含んでもよく、第1の音響光変調器は、アウトバウンドDAS信号を受信するように構成され、第1の増幅器は、第1のAOMの第1の出力信号を受信してアウトバウンドDAS信号の強度を高めるように構成され、第2のAOMは、第1の増幅器の出力を受信するように構成される。DASステーションは、第1の増幅器からの出力を受信するように構成されて1GHz~10GHzの間の帯域幅を有する狭帯域光フィルタを更に含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】単一の100kmスパンに構築されたDASシステムにおいて、ノイズフロアのパワースペクトル密度(PSD)をセンシング距離の関数として示す図である。
【
図2A】本開示の実施例に基づいて配置されたDASシステムを示す図である。
【
図2B】例示的なDASパルス軌跡を示す図である。
【
図3】センシングレーザーの参照相対強度雑音(RIN)スペクトルの理想的な記述を示す図である。
【
図4A】D+光ファイバスパンにおいて、DASセンシング信号に応答するノイズをDASセンシングチャネル光周波数に対する周波数の関数として示す図である。
【
図4B】D-光ファイバスパンにおいて、DASセンシング信号に応答するノイズをDASセンシングチャネル光周波数に対する周波数の関数として示す図である。
【
図4C】誘導ブリルアン散乱(SBS)プロセス(P_SBS)によるDAS信号パワー(Pp)消費と距離との関係を示す図である。
【
図5】単一の50kmスパン(P=0.7Wまたは28.5dBm、実験室での最大値)において、受信されたDAS信号のパワースペクトル密度(PSD)の測定された周波数シフトを実験的に示す図である。
【
図6】周波数シフト信号と受信機の帯域幅曲線との合成図を示す図である。
【
図7】本開示の更なる実施例に基づいて配置された別のDASシステムを示す図である。
【
図8】0.2dB/kmの損失を有する50kmスパンにおいて、3つの異なる送信パワー値での受信パワーを距離の関数として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
現在、以下で図面を参照しながら本実施例をより十分に説明し、例示的な実施例を示す。実施例の範囲は、本明細書で説明される実施例に制限されるものと解釈されるべきではない。逆に、これらの実施例は、本開示を徹底かつ完全にし、実施例の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。図面において、同じ数字は常に同じ構成要素を指す。
【0012】
図面に関する具体的な実施例を詳細に説明する前に、実施例に関する一般的な特徴を振り返る。新規なDAS装置、システム、アーキテクチャおよび技術を提供し、DASのセンシング能力、特に感度を高める。
【0013】
センシング信号の消光比を高める
いくつかの実施例において、センシング信号の消光比(ER)を高めるための技術および装置を提供する。
図1は、単一の100kmスパンに構築されたDASシステムにおいて、ノイズフロアのパワースペクトル密度(PSD)をセンシング距離の関数として示す。センシングスパンからのノイズフロアパワースペクトル密度(PSD)は、ノイズレベルに対する測定であり、特定の位置における感度を確定する。PSDの単位はdB_rad
2/HzまたはdB_rad/√Hzであり、且つ、数値が低いほど良い。一番上の曲線は、総PSDを表し、他の曲線は、PSDに対する特定の貢献を表し、送信機からの有限消光比(ER)、受信機からのローカル発振器と自然放射増幅光(LO_ASE)ビート雑音、およびDAS機器全体の制限(Back-to-BackまたはBtB)を含む。
図1に一般的に示されるように、分散型センシングの感度は、センシング信号のERに大きく依存する。なお、音響光変調器(AOM)は、通常50~70dBのERを提供する。しかし、センシング信号のデューティは非常に低い(例えば、2kHzのセンシング周波数が35dBである場合、150nsまたは30mのゲージ長を有する)。従って、センシング信号の信号対雑音比(SNR)は著しく低下する(ERは、70dBから僅か35dBに低下する)。該例において、ノイズフロア(PSD)は、20kmよりも大きい距離でのERの貢献によって制限される。従って、DAS信号のERを改善することにより、実際のDASセンシングシステムにおけるPSDを制限することに寄与することができる。
【0014】
図2Aは、本開示の実施例によるDASシステム200のアーキテクチャを示し、且つ、
図2Bは、例示的なDASパルスを示す。他の特徴を除き、DASシステム200は、発光ダイオードのシンボルで表されたDASステーション202、光カプラー(例えば、10dB)、およびAOM1とAOM2として示された2つの音響光変調器(AOM)を含む。AOM1は、増幅器(例えば、昇圧エルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA))の前のアウトバウンドパスに位置し、より広いパルス(曲線252、T
1、
図2Bを参照し、低い変調損失を有する)によって駆動できる。AOM1は、誘導ブリルアン散乱(SBS)の閾値を高めるためにスペクトル広がりを更に導入する。AOM2は、昇圧EDFAの後ろに位置し、狭いパルス(曲線254を参照し、T
2=n*GL/c<T
1)によって駆動され、ただし、nは光ファイバの屈折率であり、GLは、メートルを単位とするゲージ長であり、cは真空中の光速である。
【0015】
図2Aに示される実施形態の著しい特徴は、一方が昇圧EDFAの前に位置して他方が昇圧EDFAの後ろに位置する2つのAOMを使用し、且つ、相対パルス幅を設定することを含み、ここで、T
2<T
1である。T
1>T
2の場合、
図2Bに示すとおりである(ここで、パルスは、中心揃えに配置される)。従って、昇圧EDFAの入力信号が高いため、昇圧増幅器後の光信号対雑音比(OSNR)は高く、(OSNR)の劣化を軽減する。従って、
図2Aの実施例において、2つのAOMをカスケードすることにより、ノイズフロアを著しく低減する。T
1を最適化することにより、センシング信号の高いERと高いOSNRとを同時に実現することができる。
【0016】
狭Tx光フィルタを用いてシード信号を低減する
分散型センシングにおいて、レイリー後方散乱プロセスの高損失(~35dB)により、受信信号のパワーは、通常低い。従って、高い送信ピーク電力が必要となる。しかし、このような高ピーク電力は、非線形性を生成してシステムノイズ(シード)を増幅し、それに対応し、センシング信号を枯渇させる。シードは、センシングレーザーの相対強度雑音(RIN)および昇圧増幅器からの自然放射増幅光(ASE)に現れる。
図3は、曲線302を示し、センシングレーザーの例示的なRINスペクトルを表す。図に示されるように、緩和振動により、10GHz領域に非常に強い周波数成分が存在する。従って、低いRINを有するレーザーを、DAS信号を生成するソースとして選択することは非常に有用である。
【0017】
図2Aに戻り、DASシステム200は、昇圧EDFAの後ろに位置する光フィルタ203を含んでもよく、該光フィルタ203は、レーザーによって生成されたRIN(特に10GHz成分)および昇圧EDFAから生成できるASEを制限することに用いられ、変調不安定性(MI)または四光波混合(FWM)に起因する非線形干渉(NLI)パワーを低減する。
【0018】
狭いRx光フィルタを用いて受信機ノイズを低減する
コヒーレント受信機の同相信号除去比(CMRR)がある値(例えば、20dB)よりも低い場合、ノイズ-ノイズビートは、顕著なペナルティを引き起こすことができる。光センシングにおいて、センシング信号の周辺でのMI/FHMによる非線形干渉(NLI)ノイズは、遥かに高い。周知のように、NLIは、D+光ファイバを含むシステムで極めて有害である。D+光ファイバシステムで、MIは、通常、単一のスパン後に~10GHzのピークを表し、且つ、該ピークは、センシング信号の中心よりも30dB高い可能性がある。
図4Aは、20個のスパン後にMIにより生成されたNLIを示し、ピーク周波数が~6GHzにシフトし、且つ、該ピークは、センシング信号の中心よりも~30dB高く、単一のスパンと比べると、該NLIは、10dBという低い光パワーで生成されるものである。FWMにより生成されたNLIも、~10GHzのBWを有し、且つ、
図4Bの曲線420に示されるように、+/-5GHz帯域幅内の全てのNLIノイズを積分することにより、センシング信号の-10dBに達することができる。該FWM/MI信号は、SBS処理により更に増幅(逆方向で)され、センシング信号を更に枯渇させることができる(
図4Cの曲線430を参照する)。
図2AのDASシステム200に戻り、受信機に帯域幅<10GHz(場合によって、BW<1GHz)の光フィルタを置くことにより、これらのNLIを著しく減少することができる。
【0019】
図2AのDASシステム200の実施例において、送信機および受信機に光フィルタリングを置くことにより、受信機のOSNRの上昇を招く。狭送信機光フィルタリングは、例えば、光フィルタ203を使用することにより、非線形プロセスのシードパワーを減少することができる。NLIパワーを低減することにより、DAS信号パワー消費を低減する。狭受信フィルタ204は、DAS受信機におけるフォトダイオードのNLIノイズパワーを制限することに用いられる。
【0020】
周波数シフトトラッカー
既知のDASシステムにおいて、センシング信号の高ピーク電力は、非常に大きな光位相シフトを引き起こす可能性がある。該位相シフトは、光ヘテロダイン検波後に、以下の式に示されるように、追加の周波数シフトに変換される。
【0021】
(式1)
【数1】
ただし、Δf
NLIはNLIによる周波数シフトであり、ΔΦはラジアンを単位とするNLIによる位相シフトであり、ΔtはDASパルス幅(30mのゲージ長に対して150nsである)であり、γは光ファイバの非線形係数であり、Pは、光ファイバの入力でのピークDAS信号(ポンプ)パワーであり、L
eは、有効ファイバの長さである。光ヘテロダイン後の総周波数シフトは、Δf
NLI+Δf
AOMであり、ただし、Δf
AOMは、DAS送信機におけるAOMによる総線形周波数であり、
図2A示すとおりである。1つの例において、Δf
AOMは~200MHzであってもよく、且つ、Δf
NLIは、HDF3光ファイバの1つのスパン後に(P=1W、γ=1.2/W-km)、~52Mhzであってもよい。
図5は、単一の50kmのHDF3光ファイバスパン(P=0.7W、実験室での最大値)において、受信されたDAS信号のパワースペクトル密度(PSD)の実験で測定された周波数シフトを示す。PSD値は、1、2、4、8、16、32および49kmにおける周波数の関数と表示される。距離の増加に伴う周波数シフト、センシングスパンの終端(49キロメートル)でのスペクトル分割、および顕著な広がりを観察することができる。
【0022】
マルチスパンDASセンシングシステムにおいて、このようなNLIによる周波数シフトは線形に増加する。いくつかのスパン後に、累積された周波数シフトは、受信機の帯域幅よりも遥かに大きくなってもよい。
図6に示されるように、「DAS Sig」シフトが500MHzを超え、該シフトは、受信機の電気帯域幅(例えば、500MHz)を超えることができる。特に、電気帯域幅は、ローパスフィルタ「LPフィルタ」曲線とバンドパスフィルタ「BPフィルタ」曲線とのコンボリューションである。最終的なフィルタリング後の信号の「組み合わせ」は、
図6に現れない。この場合、信号は、上記フィルタのコンボリューションによって完全にフィルタリングされる(10
-3のレベルよりも遥かに低い)。
【0023】
本開示の更なる実施例によれば、
図7は、別のDASシステムを記述する。該実施例において、DASシステム700は、掃引周波数シンセサイザ、音響光周波数シフタ(AOFS)および可変アッテネータを含み、ここで、DASシステム700の操作原理は、以下で詳細に説明する。
【0024】
特に、ローカル発振器の周波数は、以下のような方式で周波数掃引を行うことができる。
(式2)
【数2】
(ただし、N
pre-spanは、センシングスパンの前のスパン数であり、l=ct/2nは、1つ前の光増幅器までの距離(DASセンシング機器までの距離ではない)であり、nは光ファイバの屈折率であり、αは光ファイバの損失であり、GLはゲージ長であり、cは真空中の光速である。)
【0025】
他の実施例において、他の周波数シフト関数(線形、二次等)は使用でき、総周波数シフト[ΔfNLI+ΔfAOM+Δf(t)]がDAS受信機の電気帯域幅内にあれば良い。本開示の実施例によれば、受信機のデジタル信号処理(DSP)ユニットが該追加の周波数シフトの除去に使用できるため、システム変化による位相は主となる。
【0026】
図7の実施例において、該周波数掃引/周波数シフトは、音響光周波数シフタ(AOFS)により提供できる。あるいは、周波数掃引/周波数シフトは、周波数シフタとして操作された他の光変調器(ニオブ酸リチウム、電気吸収等のような電気光部品を含む)により提供できる。
【0027】
センシング信号パワートラッカー
レイリー後方散乱信号を用いたセンシング形態において、受信信号のパワー変化は、線形伝送領域におけるスパン損失の2倍である。
図8は、0.2dB/kmの損失を有する50kmスパンにおいて、異なるDAS信号の送信パワーでの受信パワーを距離の関数として示すグラフである。線形パワー範囲内(本例で、23dBmおよび26.5dBm)に、信号パワーは、50km内で~20dB低下し、DAS信号の送信パワーが28.5dBmに上昇すると、該パワー低下は30dBに上昇する。
【0028】
なお、0.2dB/kmの光ファイバを有する100kmスパンにおいて、線形伝送領域でも、レイリー後方散乱信号パワーも40dB変化する。しかし、全ての受信機は、フォトダイオード(PD)操作を線形範囲内に保持するために、最大パワー制限を持つ。この場合、センシングスパンの遠端から受信されたパワーは小さすぎ、受信機のノイズに埋もれている可能性がある。この問題を解決するために、DASシステム700に更に示されるように、受信機の飽和(
図7の可変減衰成分を参照する)を回避するために、受信機パワートラッカーを提供してスパンの開始からの信号を減衰する(または、小さく増幅する)ことができる。
【0029】
センシングスパンからの受信信号は、線形伝送領域におけるP(l)=P
Ray(0)e
-2αlと表すことができ、ただし、αは光ファイバ損失であり、P
Ray(0)およびP(l)は、光ファイバの近端または距離lからのレイリー後方散乱パワーである。アッテネータまたは増幅器は、以下の方式でプログラミングできる。
(式3)
【数3】
(ただし、P(l)'は、PDより距離lにおける最終的な受信光パワーであり、Lはスパンの全長であり、βは、新たに導入されたパワー減衰/増幅因子であり、且つ2α>2α-2βである。このようなパワートラッカー方法を使用し、パワー依存性は、e
-2αlからe
-2(α-β)lに変化する。上記例示的な式において、l=Lである場合、パワーが変化しないため、スパンの開始(l=0)からのDAS信号は、DAS信号のパワー減衰がe
-2βLであり、且つ、スパンの終端(1=L)からのDAS信号は、全く減衰しない。α=βである場合、パワー曲線は、センシング距離全体で平坦である。
【0030】
他の実施例において、パワー曲線の他の関数(線形、二次等)を採用することができ、総パワー曲線がDAS受信機の線形ダイナミックレンジよりも小さくなれば良い。受信機のデジタル信号処理(DSP)部品(個別に示されないが、通常、DASステーションに位置する)では、該追加のパワー曲線を除去し、DASシステムによるパワー推移を保留することができる。異なる非制限的な実施例において、該パワートラッカーは、1)スパンの開始で大きな減衰を有し、スパンの終端で徐々にゼロに低減する光プログラマブルアッテネーター、および2)スパンの開始からの信号に対して小さな電流または小さな利得を有し、スパンの遠端からの信号に対して大きな電流または大きな利得を有する光プリアンプという方式により実施することができる。
【0031】
本開示の範囲は、本文で記述された具体的な実施例によって限定されるものではない。実際には、本文に係る本開示の内容に加え、本開示の他の様々な実施例および修正は、当業者にとって、上記説明および図面から明らかとなる。従い、このような他の実施例および修正は、本開示の範囲内に含まれるものとする。また、本開示が特定の環境で特定の目的のために特定の実施形態の文脈で説明したが、当業者は、その有用性がこれらに限定されず、本開示が任意の数の環境で任意の数の目的のために有利に実施され得ることを認識する。従い、以下に記載される特許請求の範囲は、本文に記載された本開示の全ての幅および精神に基づいて解釈されるべきである。
【外国語明細書】