(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148070
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】制輪子計測装置
(51)【国際特許分類】
F16D 66/02 20060101AFI20241009BHJP
F16D 49/00 20060101ALI20241009BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
F16D66/02 L
F16D49/00 A
G01B11/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060980
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 紗葵
【テーマコード(参考)】
2F065
3J058
【Fターム(参考)】
2F065AA01
2F065AA51
2F065AA63
2F065CC11
2F065DD13
2F065FF04
2F065JJ19
2F065JJ26
2F065QQ08
2F065QQ24
2F065QQ25
2F065QQ31
2F065RR08
2F065SS01
2F065SS09
3J058BA60
3J058BA70
3J058DB02
3J058FA21
(57)【要約】
【課題】汚れ・脱落等の多様な異常状態を含めて鉄道車両の制輪子の状態・摩耗量を把握・計測する。
【解決手段】取得部111は、カメラ3から供給される画像を取得する。判定部112は、取得部111が取得した画像に対して、メモリ12に記憶されている学習済みモデル121を用いて、その画像によって撮影された車輪の周辺領域において、その車輪を制動する制輪子の摩耗量の計測が可能か否かを判定する。計測部113は、判定部112が上述した摩耗量の計測が可能である、と判定した場合に、取得部111が取得した画像を用いて、その画像に写っている制輪子の摩耗量を計測する。通知部114は、計測部113が制輪子の摩耗量を計測した場合に、表示部15を制御して表示させることにより、その摩耗量を利用者に通知する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の所定領域を撮影した画像を取得する取得部と、
取得した前記画像に対して、学習済みモデルを用いて前記所定領域における制輪子の摩耗量の計測が可能か否かを判定する判定部と、
前記計測が可能である、と判定された場合に、前記画像を用いて前記摩耗量を計測する計測部と、
計測された前記摩耗量を通知する通知部と、を有する制輪子計測装置。
【請求項2】
前記通知部は、計測された前記摩耗量が閾値を超えたときに警告を通知する
請求項1に記載の制輪子計測装置。
【請求項3】
前記学習済みモデルは、制輪子が設置され、又は脱落した車輪をそれぞれ撮影した複数の学習用画像と、該学習用画像のそれぞれが示す前記制輪子の脱落の有無の情報と、を対応付けた学習用データに基づく機械学習により生成されたモデルであり、
前記判定部は、前記学習済みモデルを用いて前記脱落が有ると判定した場合に、前記制輪子の脱落により前記計測が可能でないと判定し、
前記脱落が無いと判定した場合に、前記画像から前記制輪子の形状の認識を試みて、該認識ができないときに、前記制輪子の汚れにより前記計測が可能でないと判定し、該認識ができたときに、前記計測が可能であると判定し、前記通知部は、前記判定部による判定の結果を通知する請求項1に記載の制輪子計測装置。
【請求項4】
前記学習済みモデルは、制輪子が設置された車輪をそれぞれ撮影した複数の学習用画像と、該学習用画像のそれぞれが示す前記制輪子の位置の情報と、を対応付けた学習用データに基づく機械学習により生成されたモデルであり、
前記判定部は、前記学習済みモデルを用いて前記制輪子の位置を特定し、該位置における前記制輪子の形状の認識を試みて、該認識ができないときに、前記計測が可能でないと判定し、該認識ができたときに、前記計測が可能であると判定する請求項1に記載の制輪子計測装置。
【請求項5】
前記取得部は、前記画像とともに、前記鉄道車両の種別を示す車輌情報、及び該鉄道車両における前記所定領域の位置を示す位置情報を取得し、
前記判定部は、前記車輌情報、及び前記位置情報を用いて前記画像における前記制輪子の位置を特定し、該位置における前記制輪子の形状の認識を試みて、該認識ができないときに、前記計測が可能でないと判定し、該認識ができたときに、前記計測が可能であると判定する請求項1に記載の制輪子計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の制輪子の状態・摩耗量を把握・計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通過時等に鉄道車両の床下部を撮影して、その撮影された画像から制輪子の摩耗量を計測する計測装置が開発されている。例えば、特許文献1は、撮影された制輪子の画像から二値化とハフ変換を用いて制輪子の摩耗の程度を計測する手法を開示している。
【0003】
また、例えば、特許文献2は、制輪子に予め設けられた点検用溝を用いて制輪子の摩耗量を計測する手法を開示している。
【0004】
また、例えば、特許文献3は、走行中の車両の車輪を検知したときにその車輪の制輪子をフラッシュランプで照射してCCDカメラで撮影し、得られた撮影画像を解析して制輪子の厚さ(制輪子の摩耗状況)を求める踏面制輪子の計測装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3157829号公報
【特許文献2】特許第3515397号公報
【特許文献3】特開平10-19523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、3に記載の技術は、例えば、制輪子が汚れていたり、脱落していたりすると正しく状態を把握することができない。また、特許文献2に記載の技術は、予め点検用溝が設けられており、かつ、その点検用溝が泥汚れ等によって埋もれていない場合にしか、制輪子の摩耗量を計測することができない。
【0007】
本発明の目的の一つは、汚れ・脱落等の多様な異常状態を含めて鉄道車両の制輪子の状態・摩耗量を把握・計測することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、鉄道車両の所定領域を撮影した画像を取得する取得部と、取得した前記画像に対して、学習済みモデルを用いて前記所定領域における制輪子の摩耗量の計測が可能か否かを判定する判定部と、前記計測が可能である、と判定された場合に、前記画像を用いて前記摩耗量を計測する計測部と、計測された前記摩耗量を通知する通知部と、を有する制輪子計測装置、を第1の態様として提供する。第1の態様の制輪子計測装置によれば、利用者は、汚れ・脱落等の多様な異常状態を含めて鉄道車両の制輪子の状態・摩耗量を把握・計測することができる。
【0009】
第1の態様の制輪子計測装置において、前記通知部は、計測された前記摩耗量が閾値を超えたときに警告を通知する、という構成が第2の態様として採用されてもよい。第2の態様の制輪子計測装置によれば、利用者は、警告により制輪子の交換の要否、時期等を知ることができる。
【0010】
第1の態様の制輪子計測装置において、前記学習済みモデルは、制輪子が設置され、又は脱落した車輪をそれぞれ撮影した複数の学習用画像と、該学習用画像のそれぞれが示す前記制輪子の脱落の有無の情報と、を対応付けた学習用データに基づく機械学習により生成されたモデルであり、前記判定部は、前記学習済みモデルを用いて前記脱落が有ると判定した場合に、前記制輪子の脱落により前記計測が可能でないと判定し、前記脱落が無いと判定した場合に、前記画像から前記制輪子の形状の認識を試みて、該認識ができないときに、前記制輪子の汚れにより前記計測が可能でないと判定し、該認識ができたときに、前記計測が可能であると判定し、前記通知部は、前記判定部による判定の結果を通知する、という構成が第3の態様として採用されてもよい。第3の態様の制輪子計測装置によれば、利用者は制輪子が脱落している場合、及び形状の認識が不可能な程度に汚れている場合のいずれであっても、制輪子の状態を知ることができる。
【0011】
第1の態様の制輪子計測装置において、前記学習済みモデルは、制輪子が設置された車輪をそれぞれ撮影した複数の学習用画像と、該学習用画像のそれぞれが示す前記制輪子の位置の情報と、を対応付けた学習用データに基づく機械学習により生成されたモデルであり、前記判定部は、前記学習済みモデルを用いて前記制輪子の位置を特定し、該位置における前記制輪子の形状の認識を試みて、該認識ができないときに、前記計測が可能でないと判定し、該認識ができたときに、前記計測が可能であると判定する、という構成が第4の態様として採用されてもよい。第4の態様の制輪子計測装置によれば、利用者は、制輪子の位置を特定した上で、形状の認識が可能な場合にその摩耗量を知ることができる。
【0012】
第1の態様の制輪子計測装置において、前記取得部は、前記画像とともに、前記鉄道車両の種別を示す車輌情報、及び該鉄道車両における前記所定領域の位置を示す位置情報を取得し、前記判定部は、前記車輌情報、及び前記位置情報を用いて前記画像における前記制輪子の位置を特定し、該位置における前記制輪子の形状の認識を試みて、該認識ができないときに、前記計測が可能でないと判定し、該認識ができたときに、前記計測が可能であると判定する、という構成が第5の態様として採用されてもよい。第5の態様の制輪子計測装置によれば、車輌情報、及び位置情報を用いない場合に比べて、制輪子の摩耗量の計測が可能か否かの判定の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る制輪子計測システム9の全体構成の例を示す図。
【
図2】制輪子計測装置1の構成の例を示すブロック図。
【
図5】正常な制輪子を撮影した画像に基づく学習用データ422の例を示す図。
【
図6】制輪子に異常がある画像に基づく学習用データ422の例を示す図。
【
図7】制輪子計測装置1の機能的構成の例を示す図。
【
図8】制輪子計測装置1の動作の流れの例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態>
<制輪子計測システムの全体構成>
図1は、本発明の実施形態に係る制輪子計測システム9の全体構成の例を示す図である。この制輪子計測システム9は、軌道上を走行する鉄道車両Tの床下部のうち、車輪の周辺領域を撮影して、その車輪に制動力を与える制輪子の摩耗量を計測するシステムである。この制輪子計測システム9は、制輪子計測装置1、入線検知センサ2、カメラ3、学習装置4、及び通信回線5を有する。
【0015】
入線検知センサ2は、鉄道車両Tが入線したことを検知するセンサであり、例えば、赤外線センサである。
【0016】
カメラ3は、鉄道車両Tの床下部のうち、車輪の周辺領域を撮影する機器であり、例えば、デジタルスチルカメラ、ビデオカメラ等である。なお、カメラ3は、車輪の周辺領域等、制輪子が撮影される可能性が高い領域を撮影するのであれば、鉄道車両の床下部ではない部分を撮影してもよい。カメラ3は、例えば、超低床車両、懸垂式モノレール等で、車輪を制動する制輪子を撮影してもよい。
【0017】
学習装置4は、車輪の周辺領域を撮影した画像から制輪子の摩耗量の計測が可能か否かを判定する際に用いる学習済みモデルを生成する装置である。学習装置4は、例えば、コンピュータである。
【0018】
制輪子計測装置1は、学習装置4から供給される学習済みモデルを参照し、鉄道車両Tの車輪の周辺領域を撮影した画像に基づいて、その車輪に取り付けられた制輪子の摩耗量の計測が可能か否かを判定する装置である。この制輪子計測装置1は、この制輪子の摩耗量の計測が可能である、と判定した場合にその摩耗量を計測して利用者に通知する。
【0019】
図1に示す制輪子計測装置1は、入線検知センサ2、及びカメラ3と通信可能に接続されている。また、この制輪子計測装置1は、通信回線5を経由して学習装置4と通信可能に接続されている。制輪子計測装置1は、例えば、コンピュータである。制輪子計測装置1は、例えば、鉄道事業者の管理室、中央制御室等に設置される。
【0020】
通信回線5は、有線又は無線で制輪子計測装置1と学習装置4とを通信可能に接続する回線である。通信回線5は、例えばLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)であってもよいし、イントラネット、インターネットであってもよいし、これらの組合せであってもよい。また、通信回線5は、公衆交換通信網(PSTN:Public Switched Telephone Networks)、サービス統合デジタル網(ISDN:Integrated Services Digital Network)等を含むものでもよい。
【0021】
<制輪子計測装置の構成>
図2は、制輪子計測装置1の構成の例を示すブロック図である。
図2に示す制輪子計測装置1は、プロセッサ11、メモリ12、インタフェース13、及び表示部15を有する。
【0022】
プロセッサ11は、メモリ12に記憶されているコンピュータプログラム(以下、単にプログラムという)を読出して実行することにより制輪子計測装置1の各部を制御する。プロセッサ11は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。
【0023】
表示部15は、液晶ディスプレイ等の表示画面を有しており、プロセッサ11の制御の下、画像を表示する。
【0024】
なお、制輪子計測装置1は、利用者による操作を受付けてその操作内容に応じた信号をプロセッサ11に送る操作部を有してもよい。この操作部は、各種の指示をするための操作子を備えている。ここで操作子は、例えば、操作ボタン、キーボード、タッチパネル等である。表示部15の表示画面の上には、操作部の透明のタッチパネルが重ねて配置されてもよい。
【0025】
メモリ12は、プロセッサ11に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する記憶手段である。メモリ12は、RAM(Random Access Memory)、又はROM(Read Only Memory)を有する。なお、メモリ12は、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等を有してもよい。また、メモリ12は、学習済みモデル121、及び閾値表122を記憶する。
【0026】
学習済みモデル121は、画像から制輪子の有無、又はその摩耗量の計測可能性を判定するのに用いられる機械学習済みのモデルである。この学習済みモデル121は、学習装置4において生成され、供給されるモデルである。
【0027】
閾値表122は、摩耗量の計測値と比較される閾値を記憶する表である。
図3は、閾値表122の例を示す図である。
図3に示すこの閾値表122は、摩耗量の計測値と比較される閾値に対応付けて警告文が記憶されている。摩耗量の計測値がこの閾値表122に記述された閾値を超えたとき、制輪子計測装置1は、この閾値に対応付けて記憶されている警告文を表示部15に表示させる。
【0028】
インタフェース13は、制輪子計測装置1を、入線検知センサ2、及びカメラ3のそれぞれと通信可能に接続するインタフェースである。また、このインタフェース13は、通信回線5を経由して学習装置4と制輪子計測装置1とを通信可能に接続する。
【0029】
<学習装置の構成>
図4は、学習装置4の構成の例を示すブロック図である。
図4に示す学習装置4は、プロセッサ41、メモリ42、及びインタフェース43を有する。
【0030】
インタフェース43は、通信回線5を経由して学習装置4と制輪子計測装置1とを通信可能に接続する。
【0031】
メモリ42は、プロセッサ41に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する記憶手段である。メモリ42は、RAM、又はROMを有する。なお、メモリ42は、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等を有してもよい。また、メモリ42は、学習済みモデル421、及び学習用データ422を記憶する。
【0032】
プロセッサ41は、メモリ42に記憶されているプログラムを読出して実行することにより学習装置4の各部を制御する。プロセッサ41は、例えばCPUである。プロセッサ41は、メモリ42に記憶された学習用データ422を、いわゆる教師データとして用いて学習済みモデル421を生成する。
【0033】
図5は、正常な制輪子を撮影した画像に基づく学習用データ422の例を示す図である。
図5(a)には、正常な制輪子を撮影した画像が示されている。メモリ42に記憶される学習用データ422は、例えば、人(作業者という)の手作業によってこの画像に表現されている部品の名称と位置とを付加することで作成される。この部品の名称、及び位置の情報は、アノテーションと呼ばれる。なお、この手作業は、生成途中にある学習済みモデル421を用いて半自動的に行われてもよい。
【0034】
例えば、
図5(b)には、
図5(a)に示した、正常な制輪子を撮影した画像にアノテーションが付加された様子が示されている。作業者は画像の中に制輪子と、この制輪子を車両下部に取り付ける制輪子頭と、この制輪子が押し付けられる車輪と、を認識し、それらを矩形で囲んでラベル付けをする。この矩形は、バウンディングボックス等と呼ばれる。そして、矩形とラベルとの組が上述したアノテーションである。このアノテーションは、車両下部で撮影される可能性のある各部品の分類と、その位置の情報を示している。すなわち、このアノテーションのうち、制輪子を示すアノテーションが付加された複数の画像を含む学習用データ422は、制輪子が設置された車輪をそれぞれ撮影した複数の学習用画像と、この学習用画像のそれぞれが示す制輪子の位置の情報と、を対応付けた学習用データの例である。
【0035】
なお、作業者は、制輪子頭を構成する部品として、例えば、制輪子を取り付けるボルト・ナット等を含んだ取付具、バネ等の弾性体によって制輪子を車輪に向けて押し付ける押圧部等の位置を示すアノテーションを、それぞれ画像に付加してもよい。
【0036】
学習装置4のプロセッサ41は、この学習用データ422を用いて、例えば深層学習の手法により、学習済みモデル421を生成する。すなわち、この学習済みモデル421は、制輪子が設置された車輪をそれぞれ撮影した複数の学習用画像と、これらの学習用画像のそれぞれが示す制輪子の位置の情報と、を対応付けた学習用データに基づく機械学習により生成された学習済みモデルの例である。生成されたこの学習済みモデル421は、通信回線5を介して制輪子計測装置1に供給される。
【0037】
制輪子計測装置1のプロセッサ11は、供給された学習済みモデル421のコピーをメモリ12に学習済みモデル121として記憶する。そして、プロセッサ11は、この学習済みモデル121を参照して、カメラ3が撮影した画像から制輪子頭、車輪等の各種の部品と、その位置とを特定する、いわゆる物体検出を実行する。この物体検出において、検出される部品の種類は、他の部品との相対的な位置関係に応じて分類されてもよい。
【0038】
なお、学習装置4において深層学習に用いられる学習用データ422は、制輪子が存在する車両床下領域のみを撮影した画像のみで作成されなくてもよい。この学習用データ422は、例えば、制輪子が脱落した様子を撮影した画像、及び、制輪子のブレーキ材が摩耗して台金のみとなった様子を撮影した画像等からも作成される。
図6は、制輪子に異常がある画像に基づく学習用データ422の例を示す図である。
【0039】
図6(a)には、制輪子が脱落した画像が示されている。この画像には、制輪子頭、及び車輪をそれぞれ示すアノテーションが付加されるが、それらに挟まれた位置にあるべき制輪子が脱落しているため、制輪子を示すアノテーションは付加されない。
【0040】
また、
図6(b)には、制輪子が摩耗して台金(制輪子台金という)のみになっている画像が示されている。この画像には、制輪子頭、及び車輪をそれぞれ示すアノテーションが付加され、さらに、それらに挟まれた位置に、制輪子台金を示すアノテーションが付加される。制輪子台金は、ブレーキ材が残存している制輪子と区別される。
【0041】
図6(a)に示した、制輪子が脱落した状態を示す画像には、例えば、制輪子が脱落していることを示すラベルがアノテーションとして付加されていてもよい。また、
図6(b)に示した制輪子台金のみが残っている状態を示す画像には、制輪子にブレーキ材が残存しておらず、台金のみが残っていることを示すラベルがアノテーションとして付加されていてもよい。また、泥、埃等で汚れていて輪郭・形状が認識不可能な状態の制輪子が教師データを構成する画像として用いられてもよい。
【0042】
学習装置4のプロセッサ41は、これらの画像、及び付加されたアノテーションを含む学習用データ422に基づいて深層学習を行うことにより、学習済みモデル421を生成する。したがって、この学習済みモデル421は、制輪子が設置され、又は脱落した車輪をそれぞれ撮影した複数の学習用画像と、この学習用画像のそれぞれが示す制輪子の脱落の有無の情報と、を対応付けた学習用データに基づく機械学習により生成された学習済みモデルの例である。
【0043】
生成されたこの学習済みモデル421は、撮影された画像から制輪子が脱落しているか否か、及び、その制輪子が台金のみになっているか否か等を判定することに用いられる。
【0044】
<制輪子計測装置の機能的構成>
図7は、制輪子計測装置1の機能的構成の例を示す図である。制輪子計測装置1のプロセッサ11は、メモリ12に記憶されたプログラムを読出して実行することにより、
図7に示す取得部111、判定部112、計測部113、及び通知部114として機能する。
【0045】
取得部111は、入線検知センサ2から鉄道車両T(
図1参照)の入線を検知した旨の通知を取得すると、カメラ3に対して撮影を指示する。カメラ3は、レンズ等の光学部品が予め鉄道車両Tの床下部に向けられており、その床下部のうち、車輪の周辺領域を撮影して得られた画像を制輪子計測装置1に供給する。取得部111は、カメラ3から供給される画像を取得する。すなわち、この取得部111は、鉄道車両の所定領域を撮影した画像を取得する取得部の例である。
【0046】
判定部112は、取得部111が取得した画像に対して、メモリ12に記憶されている学習済みモデル121を用いて、その画像によって撮影された車輪の周辺領域において、その車輪を制動する制輪子の摩耗量の計測が可能か否かを判定する。すなわち、この判定部112は、取得した画像に対して、学習済みモデルを用いて鉄道車両の所定領域における制輪子の摩耗量の計測が可能か否かを判定する判定部の例である。
【0047】
なお、この判定部112が判定に用いる学習済みモデル121は、上述した学習装置4により生成された学習済みモデル421のコピーである。この学習済みモデル421は、例えば、上述した
図5(b)に示すアノテーションが付された画像を含む学習用データ422に基づく機械学習により生成されている。
【0048】
この場合、このアノテーションは、車両下部で撮影される可能性のある各部品の分類と、その位置の情報を示している。そのため、学習済みモデル421、及びそのコピーである学習済みモデル121を用いると、判定部112は、取得した画像において検出される部品と、その位置の情報とを特定することが可能である。そして、判定部112は、特定された部品と、その位置の情報に基づいて、制輪子があるか否か、ある場合にその制輪子がどの位置にあるか、その位置にある制輪子の形状は認識できるか否か、を判定することができる。
【0049】
この判定部112は、特定された部品の中に制輪子がない場合、制輪子が脱落したと判定し、その摩耗量の計測は不可能であると判定する。また、この判定部112は、特定された部品の中に制輪子がある場合、この制輪子の形状の認識を試みる。そして、この判定部112は、制輪子の位置が特定されているものの、汚れ等によってその形状の認識ができない場合、その摩耗量の計測は不可能であると判定する。この場合、この判定部112は、学習済みモデルを用いて制輪子の位置を特定し、その位置における制輪子の形状の認識を試みて、その認識ができないときに、計測が可能でないと判定し、その認識ができたときに、計測が可能であると判定する判定部の例である。
【0050】
なお、上述した判定部112は、制輪子の脱落を判定するために、制輪子の位置を特定していたが、学習装置4において生成された学習済みモデル421のコピーである学習済みモデル121を参照して、画像から直接、制輪子が脱落しているか否かを判定してもよい。この場合、学習装置4は、制輪子が脱落した状態を示す画像と、この画像に付された、制輪子が脱落していることを示すアノテーションとを含む学習用データ422から、上述した学習済みモデル421を生成すればよい。この場合、この判定部112は、学習済みモデルを用いて制輪子の脱落が有ると判定した場合に、制輪子の脱落によりその摩耗量の計測が可能でないと判定し、制輪子の脱落が無いと判定した場合に、画像から制輪子の形状の認識を試みて、その認識ができないときに、制輪子の汚れにより計測が可能でないと判定し、その認識ができたときに、計測が可能であると判定する判定部の例である。
【0051】
計測部113は、判定部112が上述した摩耗量の計測が可能である、と判定した場合に、取得部111が取得した画像を用いて、その画像に写っている制輪子の摩耗量を計測する。この摩耗量は、例えば、制輪子の厚み方向に相当する画素数等から計測される。すなわち、この計測部113は、鉄道車両の所定領域における制輪子の摩耗量の計測が可能である、と判定された場合に、取得した画像を用いてその摩耗量を計測する計測部の例である。
【0052】
通知部114は、計測部113が制輪子の摩耗量を計測した場合に、表示部15を制御して表示させることにより、その摩耗量を利用者に通知する。つまり、この通知部114は、計測された摩耗量を通知する通知部の例である。
【0053】
なお、
図7に示す通知部114は、メモリ12に記憶された閾値表122を参照して、計測部113によって計測された摩耗量が閾値表122に記述されている閾値を超えているか否かを判定する。そして、計測された摩耗量が閾値表122に記述されているいずれかの閾値を超えている、と判定した場合、その摩耗量を利用者に通知するとともに、その摩耗量が超えた閾値に対応付けられた警告文を表示部15に表示させる。この場合、この通知部114は、計測された摩耗量が閾値を超えたときに警告を通知する通知部の例である。
【0054】
<制輪子計測装置の動作>
図8は、制輪子計測装置1の動作の流れの例を示すフロー図である。制輪子計測装置1のプロセッサ11は、入線検知センサ2からの信号を受けて、この入線検知センサ2が鉄道車両Tの入線を検知したか否かを判定する(ステップS101)。入線検知センサ2が鉄道車両Tの入線を検知していない、と判定する間(ステップS101;NO)、プロセッサ11は、この判定を続ける。
【0055】
入線検知センサ2が鉄道車両Tの入線を検知した、と判定すると(ステップS101;YES)、プロセッサ11は、カメラ3に撮影を指示し(ステップS102)、撮影された画像をカメラ3から取得する(ステップS103)。そして、プロセッサ11は、取得した画像に対して学習済みモデル121を用いた物体検出を行う(ステップS104)。
【0056】
物体検出の結果が得られると、プロセッサ11は、画像によって撮影された車輪の周辺領域において制輪子が脱落しているか否かを判定する(ステップS105)。制輪子が脱落している、と判定する場合(ステップS105;YES)、プロセッサ11は、この脱落を制輪子の異常として制輪子計測装置1の利用者に通知し(ステップS106)、処理を終了する。
【0057】
一方、制輪子が脱落していない、と判定する場合(ステップS105;NO)、プロセッサ11は、制輪子の形状が認識可能であるか否かを判定する(ステップS107)。制輪子の形状が認識可能でない、と判定する場合(ステップS107;NO)、プロセッサ11は、認識不可能であることを制輪子の異常として制輪子計測装置1の利用者に通知し(ステップS106)、処理を終了する。
【0058】
一方、制輪子の形状が認識可能である、と判定する場合(ステップS107;YES)、プロセッサ11は、カメラ3から取得した画像に基づいて、その画像に写っている制輪子の摩耗量を計測する(ステップS108)。
【0059】
プロセッサ11は、計測された摩耗量を、予め閾値表122に記述された一以上の閾値と比較し、その摩耗量がいずれかの閾値を超えたか否かを判定する(ステップS109)。計測された摩耗量がいずれかの閾値を超えた、と判定する場合(ステップS109;YES)、プロセッサ11は、閾値表122において、その閾値に対応付けて記憶されている警告文を用いて利用者に警告し(ステップS110)、処理を終了する。
【0060】
一方、計測された摩耗量がいずれの閾値も超えていない、と判定する場合(ステップS109;NO)、プロセッサ11は、計測されたその摩耗量を通知し(ステップS111)、処理を終了する。
【0061】
以上に示した通り、この制輪子計測システム9は、制輪子が脱落し、又は汚れているために、その摩耗量を計測できない場合、その状況を正確に把握して利用者に伝えることができる。また、摩耗量を計測できない場合に、制輪子の摩耗量を計測することがないため、計測にかかるエネルギーを節約することができる。
【0062】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさ及び配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。したがって、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0063】
<変形例>
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例は組み合わされてもよい。
【0064】
<1>
上述した実施形態において、制輪子計測装置1は、カメラ3によって撮影された画像を取得する際に、その画像とともに、その画像に写っている鉄道車両Tの種別の情報を取得していなかったが、この情報を取得してもよい。また、制輪子計測装置1は、カメラ3が撮影した画像と、その画像が撮影された領域が、鉄道車両Tにおいてどの位置であるかを示した情報と、を対応付けて取得してもよい。
【0065】
この場合、学習装置4で生成される学習済みモデル421は、鉄道車両Tの種別ごとに生成されてもよい。また、学習済みモデル421は、鉄道車両Tにおける画像の撮影位置ごとに生成されてもよい。そして、これらの情報(鉄道車両Tの種別を示す車輌情報、画像の撮影位置を示す位置情報)を取得して、それに対応する学習済みモデル421を選択した上で、制輪子計測装置1は、制輪子の摩耗量の計測が可能であるか否かを判定すればよい。これにより、制輪子計測装置1は、画像に写っている車輪、制輪子頭等の各部品を特定する精度を上げることができる。
【0066】
この場合、制輪子計測装置1のプロセッサ11により実現する取得部111は、画像とともに、鉄道車両の種別を示す車輌情報、及びその鉄道車両における所定領域の位置を示す位置情報を取得する取得部の例である。
【0067】
また、このプロセッサ11により実現する判定部112は、車輌情報、及び位置情報を用いて画像における制輪子の位置を特定し、その位置における制輪子の形状の認識を試みて、その認識ができないときに、計測が可能でないと判定し、その認識ができたときに、計測が可能であると判定する判定部の例である。
【0068】
<2>
上述した実施形態において、プロセッサ11は、CPUであったが、他のプロセッサでもよい。プロセッサ11は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)であってもよいし、FPGAを含んでもよい。また、プロセッサ11は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、又は他のプログラマブル論理デバイスを有したものでもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…制輪子計測装置、11…プロセッサ、111…取得部、112…判定部、113…計測部、114…通知部、12…メモリ、121…学習済みモデル、122…閾値表、13…インタフェース、15…表示部、2…入線検知センサ、3…カメラ、4…学習装置、41…プロセッサ、42…メモリ、421…学習済みモデル、422…学習用データ、43…インタフェース、5…通信回線、9…制輪子計測システム。