(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148082
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】腐食診断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3581 20140101AFI20241009BHJP
【FI】
G01N21/3581
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060996
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田邉 匡生
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE02
2G059FF04
2G059HH05
(57)【要約】
【課題】金属製部材の時間経過に伴う腐食状態の診断を行うことが可能な腐食診断方法を提供する。
【解決手段】金属表面に対してテラヘルツ波を照射すること、金属表面を経由したテラヘルツ波を検出すること、及び、金属表面における酸化被膜の発生からの経過時間と金属表面の表面誘電特性との関係に基づいて、テラヘルツ波の検出結果に応じた金属表面の腐食状態を非破壊及び非接触で診断すること、を含む腐食診断方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面に対してテラヘルツ波を照射すること、
前記金属表面を経由した前記テラヘルツ波を検出すること、及び、
前記金属表面における酸化被膜の発生からの経過時間と前記金属表面の表面誘電特性との関係に基づいて、前記テラヘルツ波の検出結果に応じた前記金属表面の腐食状態を非破壊及び非接触で診断すること、を含む腐食診断方法。
【請求項2】
前記金属表面は、金属製板状部材の表面であり、
前記表面誘電特性は、前記金属製板状部材の表面において反射された前記テラヘルツ波の反射率を含む
請求項1に記載の腐食診断方法。
【請求項3】
前記金属製板状部材の表面の腐食状態を診断する場合において、前記反射率が変化している場合に腐食状態が進行していると診断する
請求項2に記載の腐食診断方法。
【請求項4】
前記金属製板状部材は、鋼板である
請求項2に記載の腐食診断方法。
【請求項5】
前記金属表面は、金属線であり、
前記表面誘電特性は、前記金属線の表面を伝搬する前記テラヘルツ波の特性である伝搬特性を含む
請求項1に記載の腐食診断方法。
【請求項6】
前記伝搬特性は、前記金属線の表面を伝搬する前記テラヘルツ波の強度である伝搬強度を含み、
前記金属線の表面の腐食状態を診断する場合において、前記伝搬強度が増加している場合に腐食状態が進行していると診断する
請求項5に記載の腐食診断方法。
【請求項7】
前記金属線は、鋼線である
請求項5に記載の腐食診断方法。
【請求項8】
前記金属線は、絶縁皮膜により被覆された金属線であり、
前記金属表面は、前記絶縁皮膜と前記金属線との界面である
請求項5に記載の腐食診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、腐食診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製部材は、多くの産業用設備に使用されており、金属製部材の劣化は、設備全体の耐久性に大きな影響を与える。特に、金属製部材に生じる腐食は、腐食部分を起点とした割れの発生等により金属製部材の耐久性を低下させ、延いては、設備全体の耐久性にも影響する場合がある。従って、種々の設備に使用される金属製部材について、その腐食状態を把握し、必要に応じて金属製部材の交換等の保守作業を行うことは、設備全体の長寿命化、又は動作の安定化に寄与する。
【0003】
特許文献1には、絶縁電線の銅製内部素線における酸化膜発生を調べるための内部診断方法であって、内部素線の酸化膜が問題となる量未満である良基準電線と、酸化膜が多量に発生した劣基準電線とに対し、1.3~2.3THzの範囲から選んだ周波数の判定用遠赤外線を照射し、測定した反射強度を各々良基準値及び劣基準値として保存し、1.3THz未満又は2.3THz超過の周波数の較正用遠赤外線を良基準電線及び劣基準電線の少なくとも一方に照射し、測定した反射強度に基づいた較正基準値を保存し、診断対象電線に対して判定用遠赤外線及び較正用遠赤外線を照射し、各遠赤外線について測定した反射強度を判定反射強度及び較正反射強度とし、判定反射強度を、較正反射強度と較正基準値との比較により較正した上で、良基準値及び劣基準値と比較することにより、診断対象電線の酸化膜の発生状態を診断することを特徴とする絶縁電線の内部診断方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、絶縁電線に対して遠赤外線を照射することにより内部素線の酸化膜の発生の有無を診断しており、種々の金属製部材(例えば、裸電線)においても、時間経過に伴う腐食状態の診断を行うには、依然として改善の余地があった。そこで、本開示は上記事情に鑑み成されたものであり、金属製部材の時間経過に伴う腐食状態の診断を非破壊及び非接触で行うことが可能な腐食診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の技術に係る第1の態様は、金属表面に対してテラヘルツ波を照射すること、金属表面を経由したテラヘルツ波を検出すること、及び、金属表面における酸化被膜の発生からの経過時間と金属表面の表面誘電特性との関係に基づいて、テラヘルツ波の検出結果に応じた金属表面の腐食状態を非破壊及び非接触で診断すること、を含む腐食診断方法である。
【0007】
本開示の技術に係る第2の態様は、金属表面は、金属製板状部材の表面であり、表面誘電特性は、金属製板状部材の表面において反射されたテラヘルツ波の反射率を含む第1の態様に係る腐食診断方法である。
【0008】
本開示の技術に係る第3の態様は、金属製板状部材の表面の腐食状態を診断する場合において、反射率が変化している場合に腐食状態が進行していると診断する第2の態様に係る腐食診断方法である。
【0009】
本開示の技術に係る第4の態様は、金属製板状部材は、鋼板である第2の態様に係る腐食診断方法である。
【0010】
本開示の技術に係る第5の態様は、金属表面は、金属線であり、表面誘電特性は、金属線の表面を伝搬するテラヘルツ波の特性である伝搬特性を含む第1の態様に係る腐食診断方法である。
【0011】
本開示の技術に係る第6の態様は、伝搬特性は、金属線の表面を伝搬するテラヘルツ波の強度である伝搬強度を含み、金属線の表面の腐食状態を診断する場合において、伝搬強度が増加している場合に腐食状態が進行していると診断する第5の態様に係る腐食診断方法である。
【0012】
本開示の技術に係る第7の態様は、金属線は、鋼線である第5の態様に係る腐食診断方法である。
【0013】
本開示の技術に係る第8の態様は、金属線は、絶縁皮膜により被覆された金属線であり、金属表面は、絶縁皮膜と金属線との界面である第5の態様に係る腐食診断方法である。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、金属製部材の時間経過に伴う腐食状態の診断を行うことが可能な腐食診断方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る測定系の一例を示す平面図である。
【
図2】実施形態に係る腐食日数と反射率との関係の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る腐食日数と反射率との関係の一例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る最大引っ張り強さと反射率との関係の一例を示す図である
【
図5】実施形態に係る最大引っ張り強さと反射率との関係の一例を示す図である
【
図6】実施形態に係る腐食診断方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る測定系の一例を示す平面図である。
【
図8】実施形態に係る腐食日数と伝搬強度との関係の一例を示す図である。
【
図9】実施形態に係る腐食診断方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示の技術に係る一の実施形態について説明する。
【0017】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態に係る測定系1の一例を示す平面図である。
一例として
図1に示すように、測定系1は、テラヘルツ光源10、レンズ11、13、並びに15、ハーフミラー12、及び検出器14を備えている。テラヘルツ光源10からテラヘルツ波Wが出射される。本実施形態では、固定周波数で発振するインパットダイオードのテラヘルツ光源を用いているが、これはあくまでも一例に過ぎず、テラヘルツ波Wは様々な方法により発生させることができる。なお、本開示では、テラヘルツ波Wの発生源を「テラヘルツ光源」と称する等、テラヘルツ波Wを光波として表現する場合がある。テラヘルツ波Wは、周波数10GHz(ギガヘルツ)~10THz(テラヘルツ)と、電波と光波の中間の周波数領域にある。テラヘルツ波Wは、電波と光波の中間的性質を有する電磁波であり、電波のような透過性と光波のような直進性とを併せ持つ。
【0018】
テラヘルツ光源10から出射されたテラヘルツ波Wは、まずレンズ11に入射される。テラヘルツ波Wは、レンズ11により平行光とされる。平行光とされたテラヘルツ波Wは、ハーフミラー12に入射される。テラヘルツ波Wは、ハーフミラー12を透過し(図中矢印A参照)、レンズ13に入射される。テラヘルツ波Wは、レンズ13によって集光される。集光されたテラヘルツ波Wは、金属製部材20としての鋼板21に照射される。テラヘルツ波Wは、鋼板21の表面21Aによって反射される。ここで、鋼板21は、C:3wt%を含む鋼板であるが、これはあくまでも一例に過ぎず、鋼板21の組成は適宜設定される。
【0019】
鋼板21で反射されたテラヘルツ波Wは、再度レンズ13を通過した後、ハーフミラー12で出射時の光軸CL1と直交する方向に反射される(図中矢印B参照)。ハーフミラー12で反射されたテラヘルツ波Wは、光軸CL2に沿って進み、レンズ15によって集光された後、検出器14によって検出される。検出器14としては、例えば、ショットキーバリアダイオード型検出器を用いることができる。なお、検出器14としては、GaAs量子ドットの自由電子ガスによる検出器を用いてもよい。
【0020】
ここで、テラヘルツ波Wを金属表面に照射した場合、テラヘルツ波Wは電波及び光波の中間の性質を持つため、テラヘルツ波Wは、金属表面において金属中の電子等と相互作用する。すなわち、金属表面に照射されたテラヘルツ波Wは、金属表面における表面誘電特性を反映している。しかし、金属表面において酸化被膜が発生する場合、テラヘルツ波Wと金属表面との相互作用ではなく、酸化被膜との相互作用が発生するため、酸化被膜の表面誘電特性の影響を受ける。すなわち、金属表面を経由して検出されたテラヘルツ波Wは、金属表面における腐食状態を反映している。なお、以下では、酸化被膜が形成される場合の腐食について説明するが、本開示の技術は、腐食全般(例えば、金属表面におけるオキシ水酸化物の形成)に適用可能なことはもちろんである。
【0021】
そこで、本発明者は、腐食させた鋼板21の表面21Aにテラヘルツ波Wを照射し、表面誘電特性としての反射率と腐食状態との関係を得て、非破壊及び非接触で金属製の板状部材の腐食状態の診断に用いることを想到した。
【0022】
具体的には、テラヘルツ光源10から出射したテラヘルツ波Wの強度と、検出器14において検出されたテラヘルツ波Wの強度から反射率(すなわち、入射光の強度に対する反射光の強度の割合)を導出する。この場合において、鋼板21の表面21Aの腐食状態(すなわち、腐食の進行度合い)が変化すると、反射率もそれに応じて変化することになる。なぜならば、本来、鋼板21に酸化被膜が発生していない場合、テラヘルツ波Wは鋼板21の表面21Aで反射され、100%に近い反射率を示す。一方で、例えば、鋼板21に酸化被膜が発生している場合、表面21Aが覆われていることで反射率が変化する(例えば、反射率が低下する)。さらに、腐食の進行によって酸化被膜に含まれる鉄酸化物の種類が変化し、テラヘルツ波Wを吸収しやすい赤錆、又は黒錆が増えるので、反射率が変化する(例えば、反射率が低下する)。従って、鋼板21の表面21Aの腐食状態と反射率との関係を予め求めておけば、テラヘルツ波Wの反射率を導出することにより、鋼板21の表面21Aの腐食状態を非破壊及び非接触で診断することが可能となる。
【0023】
ここで、鋼板21に対して照射されるテラヘルツ波Wの周波数は、周辺環境又は電波法上の制限等に応じて10GHz~10THzの範囲から適宜設定されるが、特に好ましくは、30~50GHzの範囲である。
【0024】
図2及び
図3は、鋼板21における腐食の進行度合いと反射光との関係の一例を示す図である。
ここで、鋼板21の寸法は、60mm×60mmであり、
図2の場合は、板厚0.8mmであり、
図3の場合は、板厚0.5mmである。また、腐食日数は、濃度3.5%の塩水に浸漬した日数である。一例として
図2に示すように、腐食開始前は、反射率が99%であったが、腐食日数の経過と共に反射率が低下し、最終的に81%まで低下している。また、一例として
図3に示すように、腐食開始前は、反射率が97%であったが、腐食日数の経過と共に反射率が低下し、最終的に83%まで低下している。目視による観察では、腐食日数が6日目の時点で、鋼板21の全面が酸化被膜(例えば、赤錆)に覆われた状態であり、40日目の時点では、酸化被膜(例えば、赤錆、及び黒錆)の発生がさらに進行している。このように鋼板21における反射率が腐食日数の経過とともに低下している関係から、鋼板21の腐食状態を診断することができる。
【0025】
鋼板21の腐食状態の診断に当たっては、
図2及び
図3に示した関係を示すグラフを用いて、テラヘルツ波Wの反射率の導出結果から腐食状態の診断を行うことができる。また、テラヘルツ波Wの反射率を独立変数とし、腐食日数を従属変数とする演算式を用いて、腐食状態の診断を行うことができる。さらに、テラヘルツ波Wの反射率を入力値とし、腐食日数を出力値とするテーブルを用いて、腐食状態の診断を行うことができる。
【0026】
これらの場合において、例えば、導出された腐食日数が予め定められた日数(例えば、100日)以上である場合に、部材の交換が必要な腐食が発生したと診断することができる。また、その他の例として、テラヘルツ波Wの反射率が予め定められた値(例えば、60%)以下であった場合に、部材の交換が必要な腐食が発生したと診断することができる。
【0027】
また、腐食状態の診断に当たっては、腐食日数を求めるのではなく、腐食状態を段階的に分類するようにしてもよい。例えば、腐食状態に応じて腐食進行度を大、中、小の三段階に分類し、腐食進行度が大の場合に部材の交換が必要な腐食が発生したと診断してもよい。
【0028】
図4及び
図5は、鋼板21における最大引っ張り強さと反射率の関係の一例を示す図である。
上述したように反射率は、腐食の進行に応じて低下する。腐食が進行することで、鋼板21には腐食部分に起因した割れが発生する等の理由により強度が低下する。具体的には、最大引っ張り強さが低下する。一例として
図4に示すように、鋼板21の板厚が0.8mmであり、長さ81mm、幅10mmの引張り試験用試験片の場合、腐食の発生に伴って反射率が99%から81%まで低下すると、最大引っ張り強さが330N/mm
2から306N/mm
2まで低下している。また、一例として
図5に示すように、鋼板21の板厚が0.5mmであり、長さ81mm、幅10mmの引張り試験用試験片の場合、腐食の発生に伴って反射率が97%から83%まで低下すると、最大引っ張り強さが393N/mm
2から363N/mm
2まで低下している。このように、反射率を用いて鋼板21の腐食状態を診断することで、鋼板21の耐久性の低下を推定できる。
【0029】
次に、
図6を参照しながら、本実施形態に係る腐食診断方法について説明する。
図6は、本実施形態に係る腐食診断方法の一例を示すフローチャートである。
【0030】
一例として
図6に示す腐食診断方法では、先ず、ステップST10で、鋼板21に対してテラヘルツ光源10からテラヘルツ波Wが照射される。この後、腐食診断方法は、ステップST12へ移行する。
【0031】
ステップST12で、ステップST10で照射されたテラヘルツ波Wであって、鋼板21の表面21Aで反射されたテラヘルツ波Wが、検出器14によって検出される。この後、腐食診断方法は、ステップST14へ移行する。
【0032】
ステップST14で、ステップST12で検出されたテラヘルツ波Wの検出結果に応じて反射率が導出され、これを用いて鋼板21の表面の腐食状態が診断される。具体的には、反射率と腐食日数との予め定められた関係を用いて、導出した反射率に応じた腐食日数が求められ、腐食状態の診断(例えば、部材の交換が必要な腐食が発生しているという診断)が行われる。ステップST14が行われた後、腐食診断方法は、終了する。
【0033】
以上説明したように、本第1実施形態に係る腐食診断方法では、鋼板21の表面21Aにテラヘルツ波Wを照射し、鋼板21の表面21Aで反射されたテラヘルツ波Wが検出される。テラヘルツ波Wの検出結果に基づいて、鋼板21の表面における反射率が導出される。そして、鋼板21の表面21Aの反射率と腐食日数との関係に基づいて、導出された反射率に応じた腐食日数が求められる。これにより、鋼板21の表面21Aにおける時間経過に伴う腐食状態の診断を非破壊及び非接触で行うことが実現される。
【0034】
例えば、テラヘルツ波Wは、他の帯域の電磁波と比較して、電波法上の制約が少ない帯域を多く含み、産業分野への適用が行いやすい。また、テラヘルツ波Wは、エネルギーが比較的低く、人体へ照射された場合の影響が小さい帯域である。そのため、産業設備(例えば、トンネル、橋梁等のインフラ)の点検等、日常的に行われる保守作業において、本構成の腐食診断方法を適用することで、安全かつ簡便に作業を行うことができる。
【0035】
また、本第1実施形態では、鋼板21の表面21Aの反射率と腐食日数との関係では、腐食日数が経過するに従って反射率が低下する傾向が示されている。これにより、テラヘルツ波Wの検出結果に基づいて導出される反射率が低下している場合に、腐食が進行していると診断できる。この結果、鋼板21の表面における時間経過に伴う腐食状態の診断を行うことが実現される。
【0036】
また、本第1実施形態では、鋼板21に対してテラヘルツ波Wが照射され、テラヘルツ波Wの検出結果に応じて腐食状態が診断される。一般に鋼板21は、産業設備において多く使用されることの多い部材であり、鋼板21の腐食発生による耐久性の低下が産業設備へ与える影響が大きい場合がある。本構成では、鋼板21の表面における時間経過に伴う腐食状態の診断を行うことが実現されるので、鋼板21の交換等の保守作業を効率的に行うことができる。
【0037】
なお、上記第1実施形態では、鋼板21の表面21Aに酸化被膜が形成されることにより、腐食日数の経過とともに反射率が低下する形態例を挙げて説明したが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、腐食生成物の種類によっては、腐食生成物の誘電率次第で、腐食日数の経過とともに反射率が増加する場合があり、この場合でも本開示の技術は成立する。この場合において、鋼板21の表面21Aの反射率と腐食日数との関係では、腐食日数が経過するに従って反射率が増加する傾向が示される。これにより、テラヘルツ波Wの検出結果に基づいて導出される反射率が増加している場合に、腐食が進行していると判断できる。
【0038】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、テラヘルツ波を用いて鋼板21の表面21Aにおける腐食状態が診断される形態例を挙げて説明したが、本開示の技術はこれに限定されない。本第2実施形態では、テラヘルツ波を用いて、金属製部材20としての鋼線22の表面22Aにおける腐食状態が非破壊及び非接触で診断される。
【0039】
図7は、本実施形態に係る測定系30の一例を示す平面図である。
一例として
図7に示すように、測定系30は、テラヘルツ光源10、検出器14、及び一対の放物面鏡31並びに33を備えている。一対の放物面鏡31及び33は、互いに対向する位置に設けられている。放物面鏡31は、凹状の曲面とされた反射面31Aを有している。テラヘルツ光源10から出射されたテラヘルツ波Wは、反射面31Aにおいて反射される。また、放物面鏡33は、凹状の曲面とされた反射面33Aを有している。反射面33Aで反射されたテラヘルツ波Wは、検出器14に向かって進行する。
【0040】
ここで、放物面鏡33は、放物面鏡31の反射面31Aで反射されたテラヘルツ波Wの光路上に設けられていない。すなわち、放物面鏡31によって反射されたテラヘルツ波Wは、放物面鏡33には入射しない。この結果、鋼線22が設けられている場合を除き、検出器14において、テラヘルツ光源10から出射されたテラヘルツ波Wは検出されない。
【0041】
放物面鏡31及び33の間には鋼線22が設けられている。放物面鏡31の中央部分には、貫通孔31Bが設けられており、放物面鏡33の中央部分にも貫通孔33Bが設けられている。鋼線22の一端部が貫通孔31Bに挿通され、鋼線22の他端部が貫通孔33Bに挿通されている。
【0042】
テラヘルツ光源10から鋼線22に向かってテラヘルツ波Wが出射されると、テラヘルツ波Wの一部は、放物面鏡31によって反射される。放物面鏡31によって反射されるテラヘルツ波Wは、上述したように検出器14では検出されない。しかし、鋼線22に照射されたテラヘルツ波Wのうち一部のテラヘルツ波W1は、透過していくものの、残りのテラヘルツ波W2は、鋼線22の表面22Aを表皮効果によって伝搬していく。ここで、表皮効果とは、テラヘルツ波Wの特性の一つであり、金属等の屈折率の比較的高い物質の表面に沿ってテラヘルツ波Wが進行していく現象である。
【0043】
表皮効果により鋼線22の表面22Aを伝搬するテラヘルツ波Wは、鋼線22の表面22Aと相互作用するため、表面誘電特性を反映している。表面誘電特性は、鋼線22の表面22Aの腐食状態に大きな影響を受ける。そこで、本発明者は、腐食させた鋼線22を伝搬したテラヘルツ波W2の強度(以下単に「伝搬強度」とも称する)を測定することで、腐食状態と表面誘電特性としての伝搬強度との関係を得て、非破壊及び非接触で鋼線22の腐食状態の診断に用いることを想到した。
【0044】
図8は、腐食日数と検出器14において検出されたテラヘルツ波Wの強度との関係の一例を示す図である。
ここで、鋼線22は、線径1.5mmのピアノ線であり、腐食日数は、質量パーセント濃度3.5%の塩水に浸漬した日数である。一例として
図8に示すように、鋼線22の腐食が進行するに従って、検出器14において検出されるテラヘルツ波Wの強度(すなわち、伝搬強度)が増加している。具体的には、100GHzのテラヘルツ波Wを鋼線22へ照射すると、腐食開始前は、伝搬強度は20mVであるが、腐食日数の経過に伴い、伝搬強度は増加し、最終的に腐食日数10日では、伝搬強度は40mVである。また、40GHzのテラヘルツ波Wを鋼線22へ照射すると、腐食開始時から腐食日数15日ごろまでは、伝搬強度15mV程度であるが、腐食日数15日以降では、伝搬強度が増加し、腐食日数26日では、伝搬強度は、30mV程度まで増加する。このように、鋼線22に照射されたテラヘルツ波Wは、その一部が表皮効果により鋼線22の表面22Aを伝搬していく。そして、鋼線22の表面22Aに酸化被膜が形成されるに従って、表皮効果の影響が強くなり、伝搬強度が増加する。すなわち、鋼線22の表面22Aにおいて伝搬するテラヘルツ波の強度が腐食日数の経過とともに増加している関係から、鋼線22の腐食状態を非破壊及び非接触で診断することができる。
【0045】
なお、ここでは、鋼線22として線径1.5mmのピアノ線に対して腐食診断が行われる形態例を挙げて説明したが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、電車用架線設備に用いられる鋼線(線径90mm~135mm程)であっても本開示の技術は成立する。この場合において、テラヘルツ波Wは、例えば、15GHzのテラヘルツ波Wが用いられる。テラヘルツ波Wの周波数は、腐食状態に応じて適宜設定され得る。
【0046】
鋼線22の腐食状態の診断に当たっては、
図8に示した関係を示すグラフを用いて、テラヘルツ波Wの伝搬強度から腐食状態の診断を行うことができる。また、テラヘルツ波Wの伝搬強度を独立変数とし、腐食日数を従属変数とする演算式を用いて、腐食状態の診断を行うことができる。さらに、テラヘルツ波Wの伝搬強度を入力値とし、腐食日数を出力値とするテーブルを用いて、腐食状態の診断を行うことができる。
【0047】
なお、ここでは、伝搬強度によって腐食状態が診断される形態例を挙げたが本開示の技術はこれに限定されない。鋼線22の表面における伝搬特性によって腐食状態が診断されればよく、例えば、伝搬率(鋼線22に照射されたテラヘルツ波Wの強度に対する検出器14で検出されたテラヘルツ波Wの強度の割合)によって腐食状態が診断されてもよい。
【0048】
これらの場合において、例えば、導出された腐食日数が予め定められた日数(例えば、100日)以上である場合に、部材の交換が必要な腐食が発生したと診断することができる。また、その他の例として、テラヘルツ波Wの伝搬強度が予め定められた値(例えば、40mV)以上であった場合に、部材の交換が必要な腐食が発生したと診断することができる。
【0049】
また、腐食状態の診断に当たっては、腐食日数を求めるのではなく、腐食状態を段階的に分類するようにしてもよい。例えば、腐食状態に応じて腐食進行度を大、中、小の三段階に分類し、腐食進行度が大の場合に部材の交換が必要な腐食が発生したと診断してもよい。
【0050】
また、腐食状態の診断に用いられるテラヘルツ波Wの周波数は、測定条件に応じて切り替えられてもよい。一例として
図8に示したように、100GHzのテラヘルツ波Wは、腐食日数が10日以内で伝搬強度が大きく増加している。一方、40GHzのテラヘルツ波Wは、腐食日数が15日以降で伝搬強度が増加している。すなわち、腐食の初期段階では、100GHzのテラヘルツ波Wの感度が高く、腐食がある程度進行すると40GHzのテラヘルツ波Wの使用が適している。このように、腐食状態の診断に用いられるテラヘルツ波Wは、測定条件に応じて切り替えられてもよい。ここで、測定条件とは、前回の腐食診断からの経過日数、過去の検査実績、及び測定環境(気温、又は湿度)等から定まる条件を含む。なお、ここでは、100GHzから40GHzに切り替えられる形態例を挙げて説明したが、これはあくまでも一例にすぎない。例えば、300GHzから1THzまでの比較的高周波のテラヘルツ波Wから、40GHz程度の低周波のテラヘルツ波Wに切り替えられてもよい。
【0051】
次に、
図9を参照しながら、本実施形態に係る腐食診断方法について説明する。
図9は、本実施形態に係る腐食診断方法の一例を示すフローチャートである。
【0052】
一例として
図9に示す腐食診断方法では、先ず、ステップST20で、鋼線22に対してテラヘルツ光源10からテラヘルツ波Wが照射される。この後、腐食診断方法は、ステップST22へ移行する。
【0053】
ステップST22で、ステップST20で照射されたテラヘルツ波Wであって、鋼線22の表面22Aを伝搬したテラヘルツ波Wが、検出器14によって検出される。この後、腐食診断方法は、ステップST24へ移行する。
【0054】
ステップST24で、ステップST22で検出されたテラヘルツ波Wの伝搬強度に応じて、鋼線22の表面22Aの腐食状態が診断される。具体的には、伝搬強度と腐食日数との予め定められた関係を用いて、腐食日数が求められ、腐食状態の診断(例えば、部材の交換が必要な腐食が発生しているという診断)が行われる。ステップST24が行われた後、腐食診断方法は、終了する。
【0055】
以上説明したように、本第2実施形態に係る腐食診断方法では、鋼線22の表面にテラヘルツ波Wを照射し、鋼線22の表面を伝搬したテラヘルツ波Wが検出される。そして、伝搬強度と腐食日数との関係に基づいて、検出器14において検出された伝搬強度に応じた腐食日数が求められる。これにより、鋼板21の表面における時間経過に伴う腐食状態の診断を非破壊及び非接触で行うことが実現される。
【0056】
また、本第2実施形態では、伝搬強度と腐食日数との関係では、腐食日数が経過するに従って伝搬強度が増加する傾向が示されている。これにより、テラヘルツ波Wの検出結果により示される伝搬強度が増加している場合に、腐食が進行していると診断できる。この結果、鋼線22の表面における時間経過に伴う腐食状態の診断を行うことが実現される。
【0057】
また、本第2実施形態では、鋼線22に対してテラヘルツ波Wが照射され、テラヘルツ波Wの検出結果に応じて腐食状態が診断される。一般に鋼線22は、産業設備(例えば、トンネル、橋梁等のインフラ)において多く使用されることの多い部材(例えば、電線、電車用吊架線、又は自動車用ハーネス等)であり、鋼線22の腐食発生による耐久性の低下が産業設備へ与える影響が大きい場合がある。本構成では、鋼線22の表面における時間経過に伴う腐食状態の診断を行うことが実現されるので、鋼線22の交換等の保守作業を効率的に行うことができる。
【0058】
なお、上記各実施形態では、鉄鋼材料から成る部材に対する腐食診断方法について説明したが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、工業用純銅、又は銅合金から成る銅製部材(例えば、銅板、又は銅線)に対して、本開示に係る腐食診断方法が適用されてもよい。また、本開示に係る腐食診断方法は、表面に塗膜、めっき被膜、又は絶縁皮膜を備えた部材に対しても適用可能である。この場合において、金属の表面は、金属線と塗膜、めっき被膜、又は絶縁皮膜との界面である。
【0059】
また、上記各実施形態では、腐食開始からの経過時間として腐食日数の例を挙げたが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、腐食開始からの秒、分、又は時間であってもよいし、腐食開始から経過した年数であってもよい。
【0060】
また、上記各実施形態では、酸化被膜の形成に応じた腐食状態の診断を行っているが、本開示の技術は、これに限定されない。本開示の技術は、汚れ(例えば、泥又は埃)の検出に用いられてもよい。この場合において、テラヘルツ波Wと金属表面との相互作用ではなく、金属表面に存在する汚れとの相互作用が発生するため、汚れの表面誘電特性の影響を受ける。すなわち、金属表面を経由して検出されたテラヘルツ波Wは、金属表面における汚れの状態(例えば、汚れの種類又は量)を反映している。
【0061】
上記実施形態に関し、さらに以下を開示する。
<付記1>
金属表面に対してテラヘルツ波を照射すること、
上記金属表面を経由した上記テラヘルツ波を検出すること、及び、
上記金属表面における酸化被膜の発生からの経過時間と上記金属表面の表面誘電特性との関係に基づいて、上記テラヘルツ波の検出結果に応じた上記金属表面の腐食状態を非破壊及び非接触で診断すること、を含む腐食診断方法。
<付記2>
上記金属表面は、金属製板状部材の表面であり、
上記表面誘電特性は、上記金属製板状部材の表面において反射された上記テラヘルツ波の反射率を含む
付記1に記載の腐食診断方法。
<付記3>
上記金属製板状部材の表面の腐食状態を診断する場合において、上記反射率が変化している場合に腐食状態が進行していると診断する
付記2に記載の腐食診断方法。
<付記4>
上記金属製板状部材は、鋼板である
付記2又は3に記載の腐食診断方法。
<付記5>
上記金属表面は、金属線であり、
上記表面誘電特性は、上記金属線の表面を伝搬する上記テラヘルツ波の特性である伝搬特性を含む
付記1に記載の腐食診断方法。
<付記6>
上記伝搬特性は、上記金属線の表面を伝搬する上記テラヘルツ波の強度である伝搬強度を含み、
上記金属線の表面の腐食状態を診断する場合において、上記伝搬強度が増加している場合に腐食状態が進行していると診断する
付記5に記載の腐食診断方法。
<付記7>
上記金属線は、鋼線である
付記5又は6に記載の腐食診断方法。
<付記8>
上記金属線は、絶縁皮膜により被覆された金属線であり、
上記金属表面は、上記絶縁皮膜と上記金属線との界面である
付記5~7の何れか一つに記載の腐食診断方法。
【符号の説明】
【0062】
1,30 測定系
10 サブテラヘルツ光源
11、13 レンズ
12 ハーフミラー
14 検出器
20 金属製部材
21 鋼板
21A 表面
22 鋼線
31,33 放物面鏡
31A,33A 反射面
31B,33B 貫通孔
CL1、CL2 光軸
W テラヘルツ波