IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械工業株式会社の特許一覧

特開2024-148095射出成形機の管理装置、射出成形機、及び射出成形機の管理方法
<>
  • 特開-射出成形機の管理装置、射出成形機、及び射出成形機の管理方法 図1
  • 特開-射出成形機の管理装置、射出成形機、及び射出成形機の管理方法 図2
  • 特開-射出成形機の管理装置、射出成形機、及び射出成形機の管理方法 図3
  • 特開-射出成形機の管理装置、射出成形機、及び射出成形機の管理方法 図4
  • 特開-射出成形機の管理装置、射出成形機、及び射出成形機の管理方法 図5
  • 特開-射出成形機の管理装置、射出成形機、及び射出成形機の管理方法 図6
  • 特開-射出成形機の管理装置、射出成形機、及び射出成形機の管理方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148095
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】射出成形機の管理装置、射出成形機、及び射出成形機の管理方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/78 20060101AFI20241009BHJP
   B29C 45/84 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
B29C45/78
B29C45/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061024
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】根崎 雄太
(72)【発明者】
【氏名】稲田 雄一
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM04
4F206AP05
4F206AR06
4F206JL02
4F206JL07
4F206JP13
4F206JP14
4F206JP15
4F206JQ48
4F206JQ88
(57)【要約】
【課題】成形不良を抑制する、技術を提供する。
【解決手段】管理装置は、成形材料を送る方向に沿って上流側から下流側に複数のゾーンに区分けされるシリンダと、複数の前記ゾーンのそれぞれに設けられる温調器と、複数の前記ゾーンのそれぞれの実績温度を検出する温度検出器と、を備える射出成形機の管理装置である。前記管理装置は、複数の前記ゾーンのうち最上流の前記ゾーンと最下流の前記ゾーンを除く所定の前記ゾーンの前記実績温度を基に、前記成形材料のせん断による異常発熱を検知する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料を送る方向に沿って上流側から下流側に複数のゾーンに区分けされるシリンダと、複数の前記ゾーンのそれぞれに設けられる温調器と、複数の前記ゾーンのそれぞれの実績温度を検出する温度検出器と、を備える射出成形機の管理装置であって、
複数の前記ゾーンのうち最上流の前記ゾーンと最下流の前記ゾーンを除く所定の前記ゾーンの前記実績温度を基に、前記成形材料のせん断による異常発熱を検知する、射出成形機の管理装置。
【請求項2】
前記所定の前記ゾーンにおける前記実績温度と設定温度を基に、前記異常発熱を検知する、請求項1に記載の射出成形機の管理装置。
【請求項3】
前記異常発熱を検知した前記ゾーンよりも上流側の前記ゾーンの設定温度を高く変更する、請求項1又は2に記載の射出成形機の管理装置。
【請求項4】
前記異常発熱を検知した後であって前記設定温度を高く変更する前に前記設定温度の変更の許否を確認する通知を射出成形機のユーザに対して行い、その後に前記ユーザの許可を確認した場合に前記設定温度を高く変更することを行う、請求項3に記載の射出成形機の管理装置。
【請求項5】
内部の成形材料を加熱するシリンダと、前記シリンダの内部で回転することで前記成形材料を上流側から下流側に搬送する回転部材と、前記シリンダの温度を調整する複数の温調器と、前記シリンダの実績温度を検出する複数の温度検出器と、を備える射出成形機の管理装置であって、
前記複数の温度検出器は、前記成形材料の搬送方向で上流側に配置された第1の検出器と、前記第1の検出器よりも下流に配置された第2の検出器と、前記第2の検出器よりも下流に配置された第3の検出器と、を含み、
前記第2の検出器の前記実績温度を基に、前記成形材料のせん断による異常発熱を検知する、射出成形機の管理装置。
【請求項6】
前記複数の温調器は複数の加熱器を含み、
前記第1の検出器は、前記複数の加熱器のうちの最も上流側に配置された加熱器に最も近い温度検出器であり、
前記第3の検出器は、前記複数の加熱器のうちの最も下流側に配置された加熱器に最も近い温度検出器である、請求項5に記載の射出成形機の管理装置。
【請求項7】
請求項1、2、5又は6に記載の管理装置と、前記シリンダと、前記温調器と、前記温度検出器と、を備える、射出成形機。
【請求項8】
内部の成形材料を加熱するシリンダと、前記シリンダの内部に設けられる回転部材と、前記回転部材を回転させる駆動源と、前記回転部材の実績トルクを検出するトルク検出器と、を備える射出成形機の管理装置であって、
前記実績トルクを基に、前記成形材料のせん断による異常発熱を検知する、射出成形機の管理装置。
【請求項9】
請求項8に記載の管理装置と、前記シリンダと、前記回転部材と、前記駆動源と、前記トルク検出器と、を備える、射出成形機。
【請求項10】
成形材料を送る方向に沿って上流側から下流側に複数のゾーンに区分けされるシリンダと、複数の前記ゾーンのそれぞれに設けられる温調器と、複数の前記ゾーンのそれぞれの実績温度を検出する温度検出器と、を備える、射出成形機の管理方法であって、
複数の前記ゾーンのうち最上流の前記ゾーンと最下流の前記ゾーンを除く所定の前記ゾーンの前記実績温度を基に、前記成形材料のせん断による異常発熱を検知する、射出成形機の管理方法。
【請求項11】
内部の成形材料を加熱するシリンダと、前記シリンダの内部に設けられる回転部材と、前記回転部材を回転させる駆動源と、前記回転部材の実績トルクを検出するトルク検出器と、を備える、射出成形機の管理方法であって、
前記実績トルクを基に、前記成形材料のせん断による異常発熱を検知する、射出成形機の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の管理装置、射出成形機、及び射出成形機の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、金型装置を開閉する型締装置と、金型装置の内部に成形材料を射出する射出装置と、を備える(例えば特許文献1参照)。射出装置は、成形材料を送る方向に沿って上流側から下流側に複数のゾーンに区分けされるシリンダと、複数のゾーンのそれぞれに設けられる温調器と、複数のゾーンのそれぞれの実績温度を検出する温度検出器と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-306497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成形材料の熱劣化の抑制、又は成形サイクル時間(より詳細には冷却工程の時間)の短縮などの目的で、シリンダの温度を低く設定することがある。但し、シリンダの設定温度が低過ぎると、せん断による異常発熱が生じ、成形不良が発生してしまう。せん断による異常発熱は、熟練度の低いユーザが見過ごしやすい、成形不良の原因である。
【0005】
本発明の一態様は、成形不良を抑制する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る管理装置は、成形材料を送る方向に沿って上流側から下流側に複数のゾーンに区分けされるシリンダと、複数の前記ゾーンのそれぞれに設けられる温調器と、複数の前記ゾーンのそれぞれの実績温度を検出する温度検出器と、を備える射出成形機の管理装置である。前記管理装置は、複数の前記ゾーンのうち最上流の前記ゾーンと最下流の前記ゾーンを除く所定の前記ゾーンの前記実績温度を基に、前記成形材料のせん断による異常発熱を検知する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、成形不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係る射出成形機の型開完了時の状態を示す図である。
図2図2は、一実施形態に係る射出成形機の型締時の状態を示す図である。
図3図3は、シリンダとスクリュの一例を示す図である。
図4図4は、シリンダの設定温度に関する画面の一例を示す図である。
図5図5は、スクリュの一例を示す図である。
図6図6は、制御装置の構成要素の一例を機能ブロックで示す図である。
図7図7は、異常発熱の検知後、設定温度の変更前に通知する画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0010】
(射出成形機)
図1は、一実施形態に係る射出成形機の型開完了時の状態を示す図である。図2は、一実施形態に係る射出成形機の型締時の状態を示す図である。本明細書において、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向は互いに垂直な方向である。X軸方向およびY軸方向は水平方向を表し、Z軸方向は鉛直方向を表す。型締装置100が横型である場合、X軸方向は型開閉方向であり、Y軸方向は射出成形機10の幅方向である。Y軸方向負側を操作側と呼び、Y軸方向正側を反操作側と呼ぶ。
【0011】
図1図2に示すように、射出成形機10は、金型装置800を開閉する型締装置100と、金型装置800で成形された成形品を突き出すエジェクタ装置200と、金型装置800に成形材料を射出する射出装置300と、金型装置800に対し射出装置300を進退させる移動装置400と、射出成形機10の各構成要素を制御する制御装置700と、射出成形機10の各構成要素を支持するフレーム900とを有する。フレーム900は、型締装置100を支持する型締装置フレーム910と、射出装置300を支持する射出装置フレーム920とを含む。型締装置フレーム910および射出装置フレーム920は、それぞれ、レベリングアジャスタ930を介して床2に設置される。射出装置フレーム920の内部空間に、制御装置700が配置される。以下、射出成形機10の各構成要素について説明する。
【0012】
(型締装置)
型締装置100の説明では、型閉時の可動プラテン120の移動方向(例えばX軸正方向)を前方とし、型開時の可動プラテン120の移動方向(例えばX軸負方向)を後方として説明する。
【0013】
型締装置100は、金型装置800の型閉、昇圧、型締、脱圧および型開を行う。金型装置800は、固定金型810と可動金型820とを含む。
【0014】
型締装置100は例えば横型であって、型開閉方向が水平方向である。型締装置100は、固定金型810が取付けられる固定プラテン110と、可動金型820が取付けられる可動プラテン120と、固定プラテン110に対し可動プラテン120を型開閉方向に移動させる移動機構102と、を有する。
【0015】
固定プラテン110は、型締装置フレーム910に対し固定される。固定プラテン110における可動プラテン120との対向面に固定金型810が取付けられる。
【0016】
可動プラテン120は、型締装置フレーム910に対し型開閉方向に移動自在に配置される。型締装置フレーム910上には、可動プラテン120を案内するガイド101が敷設される。可動プラテン120における固定プラテン110との対向面に可動金型820が取付けられる。
【0017】
移動機構102は、固定プラテン110に対し可動プラテン120を進退させることにより、金型装置800の型閉、昇圧、型締、脱圧、および型開を行う。移動機構102は、固定プラテン110と間隔をおいて配置されるトグルサポート130と、固定プラテン110とトグルサポート130を連結するタイバー140と、トグルサポート130に対して可動プラテン120を型開閉方向に移動させるトグル機構150と、トグル機構150を作動させる型締モータ160と、型締モータ160の回転運動を直線運動に変換する運動変換機構170と、固定プラテン110とトグルサポート130の間隔を調整する型厚調整機構180と、を有する。
【0018】
トグルサポート130は、固定プラテン110と間隔をおいて配設され、型締装置フレーム910上に型開閉方向に移動自在に載置される。尚、トグルサポート130は、型締装置フレーム910上に敷設されるガイドに沿って移動自在に配置されてもよい。トグルサポート130のガイドは、可動プラテン120のガイド101と共通のものでもよい。
【0019】
尚、本実施形態では、固定プラテン110が型締装置フレーム910に対し固定され、トグルサポート130が型締装置フレーム910に対し型開閉方向に移動自在に配置されるが、トグルサポート130が型締装置フレーム910に対し固定され、固定プラテン110が型締装置フレーム910に対し型開閉方向に移動自在に配置されてもよい。
【0020】
タイバー140は、固定プラテン110とトグルサポート130とを型開閉方向に間隔Lをおいて連結する。タイバー140は、複数本(例えば4本)用いられてよい。複数本のタイバー140は、型開閉方向に平行に配置され、型締力に応じて伸びる。少なくとも1本のタイバー140には、タイバー140の歪を検出するタイバー歪検出器141が設けられてよい。タイバー歪検出器141は、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。タイバー歪検出器141の検出結果は、型締力の検出などに用いられる。
【0021】
尚、本実施形態では、型締力を検出する型締力検出器として、タイバー歪検出器141が用いられるが、本発明はこれに限定されない。型締力検出器は、歪ゲージ式に限定されず、圧電式、容量式、油圧式、電磁式などでもよく、その取付け位置もタイバー140に限定されない。
【0022】
トグル機構150は、可動プラテン120とトグルサポート130との間に配置され、トグルサポート130に対し可動プラテン120を型開閉方向に移動させる。トグル機構150は、型開閉方向に移動するクロスヘッド151と、クロスヘッド151の移動によって屈伸する一対のリンク群と、を有する。一対のリンク群は、それぞれ、ピンなどで屈伸自在に連結される第1リンク152と第2リンク153とを有する。第1リンク152は可動プラテン120に対しピンなどで揺動自在に取付けられる。第2リンク153はトグルサポート130に対しピンなどで揺動自在に取付けられる。第2リンク153は、第3リンク154を介してクロスヘッド151に取付けられる。トグルサポート130に対しクロスヘッド151を進退させると、第1リンク152と第2リンク153とが屈伸し、トグルサポート130に対し可動プラテン120が進退する。
【0023】
尚、トグル機構150の構成は、図1および図2に示す構成に限定されない。例えば図1および図2では、各リンク群の節点の数が5つであるが、4つでもよく、第3リンク154の一端部が、第1リンク152と第2リンク153との節点に結合されてもよい。
【0024】
型締モータ160は、トグルサポート130に取付けられており、トグル機構150を作動させる。型締モータ160は、トグルサポート130に対しクロスヘッド151を進退させることにより、第1リンク152と第2リンク153とを屈伸させ、トグルサポート130に対し可動プラテン120を進退させる。型締モータ160は、運動変換機構170に直結されるが、ベルトやプーリなどを介して運動変換機構170に連結されてもよい。
【0025】
運動変換機構170は、型締モータ160の回転運動をクロスヘッド151の直線運動に変換する。運動変換機構170は、ねじ軸と、ねじ軸に螺合するねじナットとを含む。ねじ軸と、ねじナットとの間には、ボールまたはローラが介在してよい。
【0026】
型締装置100は、制御装置700による制御下で、型閉工程、昇圧工程、型締工程、脱圧工程、および型開工程などを行う。
【0027】
型閉工程では、型締モータ160を駆動してクロスヘッド151を設定移動速度で型閉完了位置まで前進させることにより、可動プラテン120を前進させ、可動金型820を固定金型810にタッチさせる。クロスヘッド151の位置や移動速度は、例えば型締モータエンコーダ161などを用いて検出する。型締モータエンコーダ161は、型締モータ160の回転を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。
【0028】
尚、クロスヘッド151の位置を検出するクロスヘッド位置検出器、およびクロスヘッド151の移動速度を検出するクロスヘッド移動速度検出器は、型締モータエンコーダ161に限定されず、一般的なものを使用できる。また、可動プラテン120の位置を検出する可動プラテン位置検出器、および可動プラテン120の移動速度を検出する可動プラテン移動速度検出器は、型締モータエンコーダ161に限定されず、一般的なものを使用できる。
【0029】
昇圧工程では、型締モータ160をさらに駆動してクロスヘッド151を型閉完了位置から型締位置までさらに前進させることで型締力を生じさせる。
【0030】
型締工程では、型締モータ160を駆動して、クロスヘッド151の位置を型締位置に維持する。型締工程では、昇圧工程で発生させた型締力が維持される。型締工程では、可動金型820と固定金型810との間にキャビティ空間801(図2参照)が形成され、射出装置300がキャビティ空間801に液状の成形材料を充填する。充填された成形材料が固化されることで、成形品が得られる。
【0031】
キャビティ空間801の数は、1つでもよいし、複数でもよい。後者の場合、複数の成形品が同時に得られる。キャビティ空間801の一部にインサート材が配置され、キャビティ空間801の他の一部に成形材料が充填されてもよい。インサート材と成形材料とが一体化した成形品が得られる。
【0032】
脱圧工程では、型締モータ160を駆動してクロスヘッド151を型締位置から型開開始位置まで後退させることにより、可動プラテン120を後退させ、型締力を減少させる。型開開始位置と、型閉完了位置とは、同じ位置であってよい。
【0033】
型開工程では、型締モータ160を駆動してクロスヘッド151を設定移動速度で型開開始位置から型開完了位置まで後退させることにより、可動プラテン120を後退させ、可動金型820を固定金型810から離間させる。その後、エジェクタ装置200が可動金型820から成形品を突き出す。
【0034】
型閉工程、昇圧工程および型締工程における設定条件は、一連の設定条件として、まとめて設定される。例えば、型閉工程および昇圧工程におけるクロスヘッド151の移動速度や位置(型閉開始位置、移動速度切換位置、型閉完了位置、および型締位置を含む)、型締力は、一連の設定条件として、まとめて設定される。型閉開始位置、移動速度切換位置、型閉完了位置、および型締位置は、後側から前方に向けてこの順で並び、移動速度が設定される区間の始点や終点を表す。区間毎に、移動速度が設定される。移動速度切換位置は、1つでもよいし、複数でもよい。移動速度切換位置は、設定されなくてもよい。型締位置と型締力とは、いずれか一方のみが設定されてもよい。
【0035】
脱圧工程および型開工程における設定条件も同様に設定される。例えば、脱圧工程および型開工程におけるクロスヘッド151の移動速度や位置(型開開始位置、移動速度切換位置、および型開完了位置)は、一連の設定条件として、まとめて設定される。型開開始位置、移動速度切換位置、および型開完了位置は、前側から後方に向けて、この順で並び、移動速度が設定される区間の始点や終点を表す。区間毎に、移動速度が設定される。移動速度切換位置は、1つでもよいし、複数でもよい。移動速度切換位置は、設定されなくてもよい。型開開始位置と型閉完了位置とは同じ位置であってよい。また、型開完了位置と型閉開始位置とは同じ位置であってよい。
【0036】
尚、クロスヘッド151の移動速度や位置などの代わりに、可動プラテン120の移動速度や位置などが設定されてもよい。また、クロスヘッドの位置(例えば型締位置)や可動プラテンの位置の代わりに、型締力が設定されてもよい。
【0037】
ところで、トグル機構150は、型締モータ160の駆動力を増幅して可動プラテン120に伝える。その増幅倍率は、トグル倍率とも呼ばれる。トグル倍率は、第1リンク152と第2リンク153とのなす角θ(以下、「リンク角度θ」とも呼ぶ)に応じて変化する。リンク角度θは、クロスヘッド151の位置から求められる。リンク角度θが180°のとき、トグル倍率が最大になる。
【0038】
金型装置800の交換や金型装置800の温度変化などにより金型装置800の厚さが変化した場合、型締時に所定の型締力が得られるように、型厚調整が行われる。型厚調整では、例えば可動金型820が固定金型810にタッチする型タッチの時点でトグル機構150のリンク角度θが所定の角度になるように、固定プラテン110とトグルサポート130との間隔Lを調整する。
【0039】
型締装置100は、型厚調整機構180を有する。型厚調整機構180は、固定プラテン110とトグルサポート130との間隔Lを調整することで、型厚調整を行う。なお、型厚調整のタイミングは、例えば成形サイクル終了から次の成形サイクル開始までの間に行われる。型厚調整機構180は、例えば、タイバー140の後端部に形成されるねじ軸181と、トグルサポート130に回転自在に且つ進退不能に保持されるねじナット182と、ねじ軸181に螺合するねじナット182を回転させる型厚調整モータ183とを有する。
【0040】
ねじ軸181およびねじナット182は、タイバー140ごとに設けられる。型厚調整モータ183の回転駆動力は、回転駆動力伝達部185を介して複数のねじナット182に伝達されてよい。複数のねじナット182を同期して回転できる。尚、回転駆動力伝達部185の伝達経路を変更することで、複数のねじナット182を個別に回転することも可能である。
【0041】
回転駆動力伝達部185は、例えば歯車などで構成される。この場合、各ねじナット182の外周に従動歯車が形成され、型厚調整モータ183の出力軸には駆動歯車が取付けられ、複数の従動歯車および駆動歯車と噛み合う中間歯車がトグルサポート130の中央部に回転自在に保持される。尚、回転駆動力伝達部185は、歯車の代わりに、ベルトやプーリなどで構成されてもよい。
【0042】
型厚調整機構180の動作は、制御装置700によって制御される。制御装置700は、型厚調整モータ183を駆動して、ねじナット182を回転させる。その結果、トグルサポート130のタイバー140に対する位置が調整され、固定プラテン110とトグルサポート130との間隔Lが調整される。尚、複数の型厚調整機構が組み合わせて用いられてもよい。
【0043】
間隔Lは、型厚調整モータエンコーダ184を用いて検出する。型厚調整モータエンコーダ184は、型厚調整モータ183の回転量や回転方向を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。型厚調整モータエンコーダ184の検出結果は、トグルサポート130の位置や間隔Lの監視や制御に用いられる。尚、トグルサポート130の位置を検出するトグルサポート位置検出器、および間隔Lを検出する間隔検出器は、型厚調整モータエンコーダ184に限定されず、一般的なものを使用できる。
【0044】
型締装置100は、金型装置800の温度を調節する金型温調器を有してもよい。金型装置800は、その内部に、温調媒体の流路を有する。金型温調器は、金型装置800の流路に供給する温調媒体の温度を調節することで、金型装置800の温度を調節する。
【0045】
尚、本実施形態の型締装置100は、型開閉方向が水平方向である横型であるが、型開閉方向が上下方向である竪型でもよい。
【0046】
尚、本実施形態の型締装置100は、駆動部として、型締モータ160を有するが、型締モータ160の代わりに、油圧シリンダを有してもよい。また、型締装置100は、型開閉用にリニアモータを有し、型締用に電磁石を有してもよい。
【0047】
(エジェクタ装置)
エジェクタ装置200の説明では、型締装置100の説明と同様に、型閉時の可動プラテン120の移動方向(例えばX軸正方向)を前方とし、型開時の可動プラテン120の移動方向(例えばX軸負方向)を後方として説明する。
【0048】
エジェクタ装置200は、可動プラテン120に取付けられ、可動プラテン120と共に進退する。エジェクタ装置200は、金型装置800から成形品を突き出すエジェクタロッド210と、エジェクタロッド210を可動プラテン120の移動方向(X軸方向)に移動させる駆動機構220とを有する。
【0049】
エジェクタロッド210は、可動プラテン120の貫通穴に進退自在に配置される。エジェクタロッド210の前端部は、可動金型820のエジェクタプレート826と接触する。エジェクタロッド210の前端部は、エジェクタプレート826と連結されていても、連結されていなくてもよい。
【0050】
駆動機構220は、例えば、エジェクタモータと、エジェクタモータの回転運動をエジェクタロッド210の直線運動に変換する運動変換機構とを有する。運動変換機構は、ねじ軸と、ねじ軸に螺合するねじナットとを含む。ねじ軸と、ねじナットとの間には、ボールまたはローラが介在してよい。
【0051】
エジェクタ装置200は、制御装置700による制御下で、突き出し工程を行う。突き出し工程では、エジェクタロッド210を設定移動速度で待機位置から突き出し位置まで前進させることにより、エジェクタプレート826を前進させ、成形品を突き出す。その後、エジェクタモータを駆動してエジェクタロッド210を設定移動速度で後退させ、エジェクタプレート826を元の待機位置まで後退させる。
【0052】
エジェクタロッド210の位置や移動速度は、例えばエジェクタモータエンコーダを用いて検出する。エジェクタモータエンコーダは、エジェクタモータの回転を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。尚、エジェクタロッド210の位置を検出するエジェクタロッド位置検出器、およびエジェクタロッド210の移動速度を検出するエジェクタロッド移動速度検出器は、エジェクタモータエンコーダに限定されず、一般的なものを使用できる。
【0053】
(射出装置)
射出装置300の説明では、型締装置100の説明やエジェクタ装置200の説明とは異なり、充填時のスクリュ330の移動方向(例えばX軸負方向)を前方とし、計量時のスクリュ330の移動方向(例えばX軸正方向)を後方として説明する。
【0054】
射出装置300はスライドベース301に設置され、スライドベース301は射出装置フレーム920に対し進退自在に配置される。射出装置300は、金型装置800に対し進退自在に配置される。射出装置300は、金型装置800にタッチし、金型装置800内のキャビティ空間801に成形材料を充填する。射出装置300は、例えば、成形材料を加熱するシリンダ310と、シリンダ310の前端部に設けられるノズル320と、シリンダ310内に進退自在に且つ回転自在に配置されるスクリュ330と、スクリュ330を回転させる計量モータ340と、スクリュ330を進退させる射出モータ350と、射出モータ350とスクリュ330の間で伝達される荷重を検出する荷重検出器360と、を有する。
【0055】
シリンダ310は、供給口311から内部に供給された成形材料を加熱する。成形材料は、例えば樹脂などを含む。成形材料は、例えばペレット状に形成され、固体の状態で供給口311に供給される。供給口311はシリンダ310の後部に形成される。シリンダ310の後部の外周には、水冷シリンダなどの冷却器312が設けられる。冷却器312よりも前方において、シリンダ310の外周には、バンドヒータなどの第1加熱器313と第1温度検出器314とが設けられる。
【0056】
シリンダ310は、シリンダ310の軸方向(例えばX軸方向)に複数のゾーンに区分される。複数のゾーンのそれぞれに第1加熱器313と第1温度検出器314とが設けられる。複数のゾーンのそれぞれに設定温度が設定され、第1温度検出器314の検出温度が設定温度になるように、制御装置700が第1加熱器313を制御する。
【0057】
ノズル320は、シリンダ310の前端部に設けられ、金型装置800に対し押し付けられる。ノズル320の外周には、第2加熱器323と第2温度検出器324とが設けられる。ノズル320の検出温度が設定温度になるように、制御装置700が第2加熱器323を制御する。
【0058】
スクリュ330は、シリンダ310内に回転自在に且つ進退自在に配置される。スクリュ330を回転させると、スクリュ330の螺旋状の溝に沿って成形材料が前方に送られる。成形材料は、前方に送られながら、シリンダ310からの熱によって徐々に溶融される。液状の成形材料がスクリュ330の前方に送られシリンダ310の前部に蓄積されるにつれ、スクリュ330が後退させられる。その後、スクリュ330を前進させると、スクリュ330前方に蓄積された液状の成形材料がノズル320から射出され、金型装置800内に充填される。
【0059】
スクリュ330の前部には、スクリュ330を前方に押すときにスクリュ330の前方から後方に向かう成形材料の逆流を防止する逆流防止弁として、逆流防止リング331が進退自在に取付けられる。
【0060】
逆流防止リング331は、スクリュ330を前進させるときに、スクリュ330前方の成形材料の圧力によって後方に押され、成形材料の流路を塞ぐ閉塞位置(図2参照)までスクリュ330に対し相対的に後退する。これにより、スクリュ330前方に蓄積された成形材料が後方に逆流するのを防止する。
【0061】
一方、逆流防止リング331は、スクリュ330を回転させるときに、スクリュ330の螺旋状の溝に沿って前方に送られる成形材料の圧力によって前方に押され、成形材料の流路を開放する開放位置(図1参照)までスクリュ330に対し相対的に前進する。これにより、スクリュ330の前方に成形材料が送られる。
【0062】
逆流防止リング331は、スクリュ330と共に回転する共回りタイプと、スクリュ330と共に回転しない非共回りタイプのいずれでもよい。
【0063】
尚、射出装置300は、スクリュ330に対し逆流防止リング331を開放位置と閉塞位置との間で進退させる駆動源を有していてもよい。
【0064】
計量モータ340は、スクリュ330を回転させる。スクリュ330を回転させる駆動源は、計量モータ340には限定されず、例えば油圧ポンプなどでもよい。
【0065】
射出モータ350は、スクリュ330を進退させる。射出モータ350とスクリュ330との間には、射出モータ350の回転運動をスクリュ330の直線運動に変換する運動変換機構などが設けられる。運動変換機構は、例えばねじ軸と、ねじ軸に螺合するねじナットとを有する。ねじ軸とねじナットの間には、ボールやローラなどが設けられてよい。スクリュ330を進退させる駆動源は、射出モータ350には限定されず、例えば油圧シリンダなどでもよい。
【0066】
荷重検出器360は、射出モータ350とスクリュ330との間で伝達される荷重を検出する。検出した荷重は、制御装置700で圧力に換算される。荷重検出器360は、射出モータ350とスクリュ330との間の荷重の伝達経路に設けられ、荷重検出器360に作用する荷重を検出する。
【0067】
荷重検出器360は、検出した荷重の信号を制御装置700に送る。荷重検出器360によって検出される荷重は、スクリュ330と成形材料との間で作用する圧力に換算され、スクリュ330が成形材料から受ける圧力、スクリュ330に対する背圧、スクリュ330から成形材料に作用する圧力などの制御や監視に用いられる。
【0068】
尚、成形材料の圧力を検出する圧力検出器は、荷重検出器360に限定されず、一般的なものを使用できる。例えば、ノズル圧センサ、又は型内圧センサが用いられてもよい。ノズル圧センサは、ノズル320に設置される。型内圧センサは、金型装置800の内部に設置される。
【0069】
射出装置300は、制御装置700による制御下で、計量工程、充填工程および保圧工程などを行う。充填工程と保圧工程とをまとめて射出工程と呼んでもよい。
【0070】
計量工程では、計量モータ340を駆動してスクリュ330を設定回転速度で回転させ、スクリュ330の螺旋状の溝に沿って成形材料を前方に送る。これに伴い、成形材料が徐々に溶融される。液状の成形材料がスクリュ330の前方に送られシリンダ310の前部に蓄積されるにつれ、スクリュ330が後退させられる。スクリュ330の回転速度は、例えば計量モータエンコーダ341を用いて検出する。計量モータエンコーダ341は、計量モータ340の回転を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。尚、スクリュ330の回転速度を検出するスクリュ回転速度検出器は、計量モータエンコーダ341に限定されず、一般的なものを使用できる。
【0071】
計量工程では、スクリュ330の急激な後退を制限すべく、射出モータ350を駆動してスクリュ330に対して設定背圧を加えてよい。スクリュ330に対する背圧は、例えば荷重検出器360を用いて検出する。スクリュ330が計量完了位置まで後退し、スクリュ330の前方に所定量の成形材料が蓄積されると、計量工程が完了する。
【0072】
計量工程におけるスクリュ330の位置および回転速度は、一連の設定条件として、まとめて設定される。例えば、計量開始位置、回転速度切換位置および計量完了位置が設定される。これらの位置は、前側から後方に向けてこの順で並び、回転速度が設定される区間の始点や終点を表す。区間毎に、回転速度が設定される。回転速度切換位置は、1つでもよいし、複数でもよい。回転速度切換位置は、設定されなくてもよい。また、区間毎に背圧が設定される。
【0073】
充填工程では、射出モータ350を駆動してスクリュ330を設定移動速度で前進させ、スクリュ330の前方に蓄積された液状の成形材料を金型装置800内のキャビティ空間801に充填させる。スクリュ330の位置や移動速度は、例えば射出モータエンコーダ351を用いて検出する。射出モータエンコーダ351は、射出モータ350の回転を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。スクリュ330の位置が設定位置に達すると、充填工程から保圧工程への切換(所謂、V/P切換)が行われる。V/P切換が行われる位置をV/P切換位置とも呼ぶ。スクリュ330の設定移動速度は、スクリュ330の位置や時間などに応じて変更されてもよい。
【0074】
充填工程におけるスクリュ330の位置および移動速度は、一連の設定条件として、まとめて設定される。例えば、充填開始位置(「射出開始位置」とも呼ぶ。)、移動速度切換位置およびV/P切換位置が設定される。これらの位置は、後側から前方に向けてこの順で並び、移動速度が設定される区間の始点や終点を表す。区間毎に、移動速度が設定される。移動速度切換位置は、1つでもよいし、複数でもよい。移動速度切換位置は、設定されなくてもよい。
【0075】
スクリュ330の移動速度が設定される区間毎に、スクリュ330の圧力の上限値が設定される。スクリュ330の圧力は、荷重検出器360によって検出される。スクリュ330の圧力が設定圧力以下である場合、スクリュ330は設定移動速度で前進される。一方、スクリュ330の圧力が設定圧力を超える場合、金型保護を目的として、スクリュ330の圧力が設定圧力以下となるように、スクリュ330は設定移動速度よりも遅い移動速度で前進される。
【0076】
尚、充填工程においてスクリュ330の位置がV/P切換位置に達した後、V/P切換位置にスクリュ330を一時停止させ、その後にV/P切換が行われてもよい。V/P切換の直前において、スクリュ330の停止の代わりに、スクリュ330の微速前進または微速後退が行われてもよい。また、スクリュ330の位置を検出するスクリュ位置検出器、およびスクリュ330の移動速度を検出するスクリュ移動速度検出器は、射出モータエンコーダ351に限定されず、一般的なものを使用できる。
【0077】
保圧工程では、射出モータ350を駆動してスクリュ330を前方に押し、スクリュ330の前端部における成形材料の圧力(以下、「保持圧力」とも呼ぶ。)を設定圧に保ち、シリンダ310内に残る成形材料を金型装置800に向けて押す。金型装置800内での冷却収縮による不足分の成形材料を補充できる。保持圧力は、例えば荷重検出器360を用いて検出する。保持圧力の設定値は、保圧工程の開始からの経過時間などに応じて変更されてもよい。保圧工程における保持圧力および保持圧力を保持する保持時間は、それぞれ複数設定されてよく、一連の設定条件として、まとめて設定されてよい。
【0078】
保圧工程では金型装置800内のキャビティ空間801の成形材料が徐々に冷却され、保圧工程完了時にはキャビティ空間801の入口が固化した成形材料で塞がれる。この状態はゲートシールと呼ばれ、キャビティ空間801からの成形材料の逆流が防止される。保圧工程後、冷却工程が開始される。冷却工程では、キャビティ空間801内の成形材料の固化が行われる。成形サイクル時間の短縮を目的として、冷却工程中に計量工程が行われてよい。
【0079】
尚、本実施形態の射出装置300は、インライン・スクリュ方式であるが、プリプラ方式などでもよい。プリプラ方式の射出装置は、可塑化シリンダ内で溶融された成形材料を射出シリンダに供給し、射出シリンダから金型装置内に成形材料を射出する。可塑化シリンダ内には、スクリュが回転自在に且つ進退不能に配置され、またはスクリュが回転自在に且つ進退自在に配置される。一方、射出シリンダ内には、プランジャが進退自在に配置される。
【0080】
また、本実施形態の射出装置300は、シリンダ310の軸方向が水平方向である横型であるが、シリンダ310の軸方向が上下方向である竪型であってもよい。竪型の射出装置300と組み合わされる型締装置は、竪型でも横型でもよい。同様に、横型の射出装置300と組み合わされる型締装置は、横型でも竪型でもよい。
【0081】
(移動装置)
移動装置400の説明では、射出装置300の説明と同様に、充填時のスクリュ330の移動方向(例えばX軸負方向)を前方とし、計量時のスクリュ330の移動方向(例えばX軸正方向)を後方として説明する。
【0082】
移動装置400は、金型装置800に対し射出装置300を進退させる。また、移動装置400は、金型装置800に対しノズル320を押し付け、ノズルタッチ圧力を生じさせる。移動装置400は、液圧ポンプ410、駆動源としてのモータ420、液圧アクチュエータとしての液圧シリンダ430などを含む。
【0083】
液圧ポンプ410は、第1ポート411と、第2ポート412とを有する。液圧ポンプ410は、両方向回転可能なポンプであり、モータ420の回転方向を切換えることにより、第1ポート411および第2ポート412のいずれか一方から作動液(例えば油)を吸入し他方から吐出して液圧を発生させる。尚、液圧ポンプ410はタンクから作動液を吸引して第1ポート411および第2ポート412のいずれか一方から作動液を吐出することもできる。
【0084】
モータ420は、液圧ポンプ410を作動させる。モータ420は、制御装置700からの制御信号に応じた回転方向および回転トルクで液圧ポンプ410を駆動する。モータ420は、電動モータであってよく、電動サーボモータであってよい。
【0085】
液圧シリンダ430は、シリンダ本体431、ピストン432、およびピストンロッド433を有する。シリンダ本体431は、射出装置300に対して固定される。ピストン432は、シリンダ本体431の内部を、第1室としての前室435と、第2室としての後室436とに区画する。ピストンロッド433は、固定プラテン110に対して固定される。
【0086】
液圧シリンダ430の前室435は、第1流路401を介して、液圧ポンプ410の第1ポート411と接続される。第1ポート411から吐出された作動液が第1流路401を介して前室435に供給されることで、射出装置300が前方に押される。射出装置300が前進され、ノズル320が固定金型810に押し付けられる。前室435は、液圧ポンプ410から供給される作動液の圧力によってノズル320のノズルタッチ圧力を生じさせる圧力室として機能する。
【0087】
一方、液圧シリンダ430の後室436は、第2流路402を介して液圧ポンプ410の第2ポート412と接続される。第2ポート412から吐出された作動液が第2流路402を介して液圧シリンダ430の後室436に供給されることで、射出装置300が後方に押される。射出装置300が後退され、ノズル320が固定金型810から離間される。
【0088】
尚、本実施形態では移動装置400は液圧シリンダ430を含むが、本発明はこれに限定されない。例えば、液圧シリンダ430の代わりに、電動モータと、その電動モータの回転運動を射出装置300の直線運動に変換する運動変換機構とが用いられてもよい。
【0089】
(制御装置)
制御装置700は、例えばコンピュータで構成され、図1図2に示すようにCPU(Central Processing Unit)701と、メモリなどの記憶媒体702と、入力インターフェース703と、出力インターフェース704とを有する。制御装置700は、記憶媒体702に記憶されたプログラムをCPU701に実行させることにより、各種の制御を行う。また、制御装置700は、入力インターフェース703で外部からの信号を受信し、出力インターフェース704で外部に信号を送信する。
【0090】
制御装置700は、計量工程、型閉工程、昇圧工程、型締工程、充填工程、保圧工程、冷却工程、脱圧工程、型開工程、および突き出し工程などを繰り返し行うことにより、成形品を繰り返し製造する。成形品を得るための一連の動作、例えば計量工程の開始から次の計量工程の開始までの動作を「ショット」または「成形サイクル」とも呼ぶ。また、1回のショットに要する時間を「成形サイクル時間」または「サイクル時間」とも呼ぶ。
【0091】
一回の成形サイクルは、例えば、計量工程、型閉工程、昇圧工程、型締工程、充填工程、保圧工程、冷却工程、脱圧工程、型開工程、および突き出し工程をこの順で有する。ここでの順番は、各工程の開始の順番である。充填工程、保圧工程、および冷却工程は、型締工程の間に行われる。型締工程の開始は充填工程の開始と一致してもよい。脱圧工程の完了は型開工程の開始と一致する。
【0092】
尚、成形サイクル時間の短縮を目的として、同時に複数の工程を行ってもよい。例えば、計量工程は、前回の成形サイクルの冷却工程中に行われてもよく、型締工程の間に行われてよい。この場合、型閉工程が成形サイクルの最初に行われることとしてもよい。また、充填工程は、型閉工程中に開始されてもよい。また、突き出し工程は、型開工程中に開始されてもよい。ノズル320の流路を開閉する開閉弁が設けられる場合、型開工程は、計量工程中に開始されてもよい。計量工程中に型開工程が開始されても、開閉弁がノズル320の流路を閉じていれば、ノズル320から成形材料が漏れないためである。
【0093】
尚、一回の成形サイクルは、計量工程、型閉工程、昇圧工程、型締工程、充填工程、保圧工程、冷却工程、脱圧工程、型開工程、および突き出し工程以外の工程を有してもよい。
【0094】
例えば、保圧工程の完了後、計量工程の開始前に、スクリュ330を予め設定された計量開始位置まで後退させる計量前サックバック工程が行われてもよい。計量工程の開始前にスクリュ330の前方に蓄積された成形材料の圧力を削減でき、計量工程の開始時のスクリュ330の急激な後退を防止できる。
【0095】
また、計量工程の完了後、充填工程の開始前に、スクリュ330を予め設定された充填開始位置(「射出開始位置」とも呼ぶ。)まで後退させる計量後サックバック工程が行われてもよい。充填工程の開始前にスクリュ330の前方に蓄積された成形材料の圧力を削減でき、充填工程の開始前のノズル320からの成形材料の漏出を防止できる。
【0096】
制御装置700は、ユーザによる入力操作を受け付ける操作装置750や画面を表示する表示装置760と接続されている。操作装置750および表示装置760は、例えばタッチパネル770で構成され、一体化されてよい。表示装置760としてのタッチパネル770は、制御装置700による制御下で、画面を表示する。タッチパネル770の画面には、例えば、射出成形機10の設定、現在の射出成形機10の状態等の情報が表示されてもよい。また、タッチパネル770の画面には、例えば、ユーザによる入力操作を受け付けるボタン、入力欄等の操作部が表示されてもよい。操作装置750としてのタッチパネル770は、ユーザによる画面上の入力操作を検出し、入力操作に応じた信号を制御装置700に出力する。これにより、例えば、ユーザは、画面に表示される情報を確認しながら、画面に設けられた操作部を操作して、射出成形機10の設定(設定値の入力を含む)等を行うことができる。また、ユーザが画面に設けられた操作部を操作することにより、操作部に対応する射出成形機10の動作を行わせることができる。なお、射出成形機10の動作は、例えば、型締装置100、エジェクタ装置200、射出装置300、移動装置400等の動作(停止も含む)であってもよい。また、射出成形機10の動作は、表示装置760としてのタッチパネル770に表示される画面の切り替え等であってもよい。
【0097】
尚、本実施形態の操作装置750および表示装置760は、タッチパネル770として一体化されているものとして説明したが、独立に設けられてもよい。また、操作装置750は、複数設けられてもよい。操作装置750および表示装置760は、型締装置100(より詳細には固定プラテン110)の操作側(Y軸負方向)に配置される。
【0098】
(射出装置の詳細)
次に、図3を参照して、シリンダ310とスクリュ330の一例について説明する。射出装置300は、例えば、成形材料を加熱するシリンダ310と、シリンダ310の内部に設けられるスクリュ330と、を有する。スクリュ330は、回転部材の一例である。射出装置300は、スクリュ330を回転させることでスクリュ330に形成される螺旋状の溝に沿って上流側から下流側に(図3において右側から左側に)成形材料を送る。以下、上流側を後方と記載し、下流側を前方と記載することがある。
【0099】
シリンダ310は、シリンダ310の軸方向(例えばX軸方向)に複数(例えば5つ)のゾーンZ0~Z4に区分される。最も上流側のゾーンZ0には冷却器312が設けられ、残りの複数のゾーンZ1~Z4のそれぞれに第1加熱器313と第1温度検出器314とが設けられる。複数のゾーンZ0~Z4のそれぞれに設定温度が設定される。なお、ゾーンの数は、2つ以上であればよく、5つには限定されない。
【0100】
制御装置700は、ゾーンZ0の実績温度が設定温度になるように、冷媒供給器315から冷却器312に供給する冷媒の温度をフィードバック制御する。冷却器312は、成形材料の供給口311を冷却することで、ブリッジと呼ばれる現象を抑制する。ブリッジは、成形材料である樹脂ペレットが融けて詰まる現象である。冷却器312は、例えば水冷シリンダである。冷却器312又は冷媒供給器315が温度検出器を有してもよい。冷却器312は、温調器の一例である。
【0101】
また、制御装置700は、複数のゾーンZ1~Z4のそれぞれの実績温度を第1温度検出器314で検出すると共に、第1温度検出器314で検出した実績温度が設定温度になるように、ゾーンZ1~Z4ごとに第1加熱器313の出力を個別にフィードバック制御する。複数の第1加熱器313は、同じ構成でも異なる構成でもよい。第1加熱器313は、例えばバンドヒータである。第1加熱器313は、温調器の一例である。
【0102】
第1加熱器313の出力は、例えば単位時間当たりの通電時間の割合(%)で表される。通電時間の割合が大きいほど、第1加熱器313の出力が大きい。なお、図示しないが1つのゾーンに複数の第1加熱器313が設けられる場合、当該複数の第1加熱器313の通電時間の割合は同じ割合に制御される。また、図示しないが1つのゾーンに複数の第1温度検出器314が設けられてもよい。ゾーンの数と、第1加熱器313の数と、第1温度検出器314の数とは一致しなくてもよい。
【0103】
シリンダ310の前端部には、ノズル320が設けられる。ノズル320は、金型装置800(図1及び図2参照)に対し押し付けられ、金型装置800の内部に予め溶融した成形材料を射出する。ノズル320の外周には、第2加熱器323と第2温度検出器324とが設けられる。第2加熱器323と第2温度検出器324はゾーンZ5に設けられる。
【0104】
制御装置700は、ゾーンZ5の実績温度を第2温度検出器324で検出すると共に、第2温度検出器324で検出した実績温度が設定温度になるように、第2加熱器323の出力をフィードバック制御する。第2加熱器323は、例えばコイルヒータである。第2加熱器323の出力は、例えば単位時間当たりの通電時間の割合(%)で表される。
【0105】
なお、ノズル320も、シリンダ310と同様に、X軸方向に複数のゾーンに区分されてもよい。複数のゾーンのそれぞれに第2加熱器323と第2温度検出器324とが設けられる。この場合、制御装置700は、ゾーンごとに第2加熱器323の出力を個別にフィードバック制御する。複数の第2加熱器323は、同じ構成でも異なる構成でもよい。
【0106】
スクリュ330は、シリンダ310内に回転自在に且つ進退自在に配置される。計量モータ340がスクリュ330を回転させると、スクリュ330の螺旋状の溝に沿って成形材料が前方に送られる。成形材料は、前方に送られながら、シリンダ310からの熱によって徐々に溶融される。
【0107】
液状の成形材料がスクリュ330の前方に送られシリンダ310の前部に蓄積されるにつれ、スクリュ330が後退させられる。その後、射出モータ350がスクリュ330を前進させると、スクリュ330の前方に蓄積された液状の成形材料がノズル320から射出され、金型装置800内に充填される。
【0108】
次に、図4を参照して、シリンダ310の設定温度に関する画面771の一例について説明する。画面771は、設定温度を入力する入力部772~777を有する。ユーザは、画面771を見ながら操作装置750(図1及び図2参照)を操作することで、入力部772~777に設定温度を入力する。入力部772~777は、入力された設定温度を表示する。
【0109】
入力部772には、ゾーンZ0の設定温度T0refが入力される。ゾーンZ0の実績温度T0detが設定温度になるように、制御装置700が冷媒供給器315から冷却器312に供給する冷媒の温度をフィードバック制御する。冷却器312に供給する前と冷却器312から排出した後とで冷媒の温度がほとんど変化しないように、冷媒の流量が設定されてよい。ゾーンZ0の実績温度T0detは、冷媒の温度に保たれる。従って、冷媒の温度を検出することで、ゾーンZ0の実績温度T0detを検出することができる。
【0110】
入力部773~776には、ゾーンZ1~Z4の設定温度T1ref~T4refが入力される。ゾーンZ1の設定温度T1refは入力部773に、ゾーンZ2の設定温度T2refは入力部774に、ゾーンZ3の設定温度T3refは入力部775に、ゾーンZ4の設定温度T4refは入力部776に、それぞれ入力される。実績温度T1det~T4detが設定温度T1ref~T4refになるように、制御装置700が複数の第1加熱器313をフィードバック制御する。
【0111】
入力部777には、ゾーンZ5の設定温度T5refが入力される。ゾーンZ5の実績温度T5detが設定温度T5refになるように、制御装置700が第2加熱器323をフィードバック制御する。なお、ノズル320もシリンダ310と同様にX軸方向に複数のゾーンに区分されてもよく、複数のゾーンのそれぞれの設定温度が入力されてもよい。
【0112】
画面771は、ゾーンZ0~Z5の実績温度T0det~T5detを表示する表示部782~787を有する。ユーザは、画面771を見ることで、ゾーンZ0~Z5ごとに実績温度と設定温度の差を確認できる。表示部782はゾーンZ0の実績温度T0detを、表示部783はゾーンZ1の実績温度T1detを、表示部784はゾーンZ2の実績温度T2detを、表示部785はゾーンZ3の実績温度T3detを、表示部786はゾーンZ4の実績温度T4detを、表示部787はゾーンZ5の実績温度T5detを、それぞれ表示する。
【0113】
次に、図5を参照して、スクリュ330の一例について説明する。スクリュ330は、回転軸332と、回転軸332の周りに螺旋状に設けられるフライト333とを有する。フライト333に沿って螺旋状の溝334が形成される。計量モータ340がスクリュ330を回転させると、成形材料が螺旋状の溝334に沿って上流側から下流側に送られる。
【0114】
スクリュ330は、例えば、上流側から下流側に、供給ゾーンX1と、圧縮ゾーンX2と、計量ゾーンX3とをこの順番で有する。供給ゾーンX1は、ペレット状の成形材料を固相のまま前方に搬送する領域である。圧縮ゾーンX2は、成形材料を圧縮すると共に成形材料を溶融しながら前方に搬送する領域である。計量ゾーンX3は、溶融した成形材料を前方に搬送する領域である。
【0115】
螺旋状の溝334の深さは、供給ゾーンX1で深く、計量ゾーンX3で浅く、圧縮ゾーンX2において前方に向かうほど浅い。なお、供給ゾーンX1と計量ゾーンX3において、溝334の深さは一定である。供給ゾーンX1における溝334の深さD1と、計量ゾーンX3における溝334の深さD3との比(D1/D3)を、圧縮比とも呼ぶ。
【0116】
なお、スクリュ330の構成は特に限定されない。例えばスクリュ330の前端から後端まで、溝334の深さは一定であってもよい。
【0117】
次に、図3を再度参照して、シリンダ310内の成形材料の温度について説明する。シリンダ310内の成形材料の温度は、主にシリンダ310の設定温度で制御されるが、スクリュ330の回転によるせん断発熱によって変動しうる。せん断発熱は、成形材料にせん断応力が作用することで生じる。シリンダ310の設定温度が低いほど、成形材料の温度が低く、成形材料の粘度が高く、せん断応力が大きく、せん断発熱量が大きい。
【0118】
せん断発熱は、圧縮ゾーンX2において生じやすい。圧縮ゾーンX2において、上流側から下流側に向かうほど溝334の深さが浅く、せん断応力が大きいからである。せん断発熱は成形材料の温度を上げるので、せん断発熱量が大きいほど、成形材料の温度が高い。せん断発熱量は、第1加熱器313の出力とは異なり、制御困難である。
【0119】
それゆえ、成形材料の温度を所望の温度に制御するには、せん断発熱量を可及的に低減することが好ましい。成形材料の温度を所望の温度に制御するのは、例えば成形材料の温度が高過ぎると、成形不良が生じるからである。成形不良の頻度が高いと、金型装置800のメンテナンス頻度も高くなってしまう。
【0120】
成形材料の温度が高過ぎることで生じる成形不良としては、例えばガス焼け、黒点、または黒条が挙げられる。ガス焼けは、成形材料が金型装置800内のキャビティ空間801に流れ込むことで、キャビティ空間801のガスが圧縮され発熱し、成形材料が炭化する現象である。成形材料の温度が高過ぎると、成形材料の熱分解によってガスが大量に生じ、ガス焼けが生じる。黒点は、成形品に黒い点が生じる現象である。黒条は、成形品に黒い筋が生じる現象である。成形材料の温度が高過ぎると、成形材料の熱劣化が生じ、黒点または黒条が生じる。
【0121】
なお、成形材料の温度がシリンダ310の温度とは必ずしも一致しないことも、成形不良が生じる一因である。
【0122】
近年、射出成形の成形材料として、バイオプラスチックが検討されている。バイオプラスチックは、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの総称である。バイオマスプラスチックは、植物などの生物資源を原料とするプラスチックである。生分解性プラスチックは、微生物の働きで最終的に二酸化炭素と水に分解するプラスチックである。射出成形用のバイオプラスチックの一例として、PLA(ポリ乳酸)が挙げられる。PLAは、バイオマスプラスチックであって且つ生分解性プラスチックである。
【0123】
バイオプラスチックは、熱劣化が生じやすい。そこで、シリンダ310の温度を低く設定することがある。但し、シリンダ310の設定温度が低過ぎると、成形材料のせん断による異常発熱が生じ、成形不良が発生する。成形材料のせん断は、成形材料がスクリュ330に形成される螺旋状の溝334に沿って上流側から下流側に送られる際に生じる。せん断による異常発熱の一因として、上流側における加熱不足が挙げられる。
【0124】
シリンダ310の温度を低く設定することは、成形材料が通常の石油由来のプラスチックである場合にも行われることがある。例えば、成形サイクル時間(より詳細には冷却工程の時間)を短縮する目的でも行われる。いずれにしろ、シリンダ310の設定温度が低過ぎると、下流側でせん断による異常発熱が生じ、成形不良が発生してしまう。
【0125】
せん断による異常発熱が生じ、シリンダ310の温度調節が困難になると、成形サイクルの中断とメンテナンスが必要になってしまう。成形サイクルの中断が生じないように、設定温度と実績温度の差が1℃~2℃程度、場合によっては1℃未満であっても、対処が必要なことがある。従って、せん断による異常発熱は、熟練度の低いユーザが見過ごしやすい、成形不良の原因である。
【0126】
なお、せん断による異常発熱ではない設定温度と実績温度の差が生じた場合には、既述の通り、制御装置700はゾーンZ1~Z4ごとに第1加熱器313の出力を個別にフィードバック制御すればよい。つまり、正の温度差がある場合には第1加熱器313を停止することで放熱により実績温度が設定温度に近づくようにし、負の温度差がある場合には第1加熱器313により加熱して実績温度が設定温度に近づくようにする。一方、せん断による発熱が異常発熱である場合には、正の温度差がある場合に温度差をなくすように温度を下げても、成形サイクルの中断とメンテナンスが必要になるまで射出成形機10の状態が悪化してしまうため、通常のフィードバック制御では対処できず、正の温度差がある場合に上流側の温度を上げる制御が求められる。したがって、熟練度の低いユーザによりフィードバック制御が継続されると、成形サイクルの中断とメンテナンスが必要になるまで射出成形機10の状態が悪化してしまう恐れがある。
【0127】
そこで、本実施形態の制御装置700は、所定のゾーンの実績温度を基に、成形材料のせん断による異常発熱を検知する。ここで、所定のゾーンは、最上流のゾーンZ4と最下流のゾーンZ0を除く中流のゾーンZ1~Z3であって、通常、圧縮ゾーンX2と重なるゾーンZ2~Z3である。せん断による異常発熱は、熟練度の低いユーザが見過ごしやすい、成形不良の原因である。本実施形態によれば、制御装置700がせん断による異常発熱を検知するので、成形不良を抑制することができる。
【0128】
次に、図7を参照して、制御装置700の構成要素の一例について説明する。制御装置700は、管理装置の一例である。管理装置は、本実施形態では射出成形機10の一部であるが、射出成形機10とは別に設けられてもよい。管理装置は、例えばコンピュータで構成される。管理装置は、複数の射出成形機10を管理するホストコンピュータであってもよい。
【0129】
なお、図7に図示される各機能ブロックは概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。各機能ブロックの全部または一部を、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。各機能ブロックにて行われる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUにて実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現されうる。
【0130】
図7に示すように、制御装置700は、例えば、温度制御部711と、異常発熱検知部712と、通知制御部713と、許可確認部714と、設定温度変更部715と、事前確認部716と、を有する。温度制御部711は、実績温度T1det~T4detが設定温度T1ref~T4refになるように、複数の第1加熱器313をフィードバック制御する。異常発熱検知部712は、所定のゾーンの実績温度を基に、成形材料のせん断による異常発熱を検知する。通知制御部713は、異常発熱の検知時に設定温度の変更の許否を確認する通知を射出成形機10のユーザに対して行う。許可確認部714は、前記通知に対するユーザの許可を確認する。設定温度変更部715は、異常発熱を検知したゾーンよりも上流側のゾーンの設定温度を高く変更する。事前確認部716は、異常発熱を検知したときに前記通知を行って射出成形機10のユーザの許可を確認するか否かの選択を、予め受け付ける。以下、各構成要素について説明する。
【0131】
異常発熱検知部712は、所定のゾーンの実績温度を基に、成形材料のせん断による異常発熱を検知する。せん断による異常発熱は、熟練度の低いユーザが見過ごしやすい、成形不良の原因である。本実施形態によれば、異常発熱検知部712がせん断による異常発熱を検知するので、成形不良を抑制することができる。
【0132】
異常発熱を検知する対象のゾーンは、特に限定されないが、例えば計量工程中にスクリュ330の圧縮ゾーンX2と重なるゾーン(例えばゾーンZ2、Z3)であってよい。圧縮ゾーンX2においてせん断発熱量が大きいからである。異常発熱を検知する対象のゾーンは、1つまたは複数である。
【0133】
異常発熱検知部712は、例えば、所定のゾーン(例えばゾーンZ2)における実績温度T2detと設定温度T2refの差ΔT2(ΔT2=T2det-T2ref)を基に、異常発熱を検知する。ΔT2がゼロを超えると、ΔT2がゼロになるように、温度制御部711が第1加熱器313の出力を小さく制御する。それでも、ΔT2がゼロにならない場合、異常発熱が生じていると考えられる。異常発熱検知部712は、例えばΔT2が閾値以上である場合に、異常発熱が生じていると判断する。
【0134】
なお、異常発熱検知部712は、実績温度T2detと設定温度T2refを基に異常発熱を検知すればよく、実績温度T2detと設定温度T2refの差の代わりに、実績温度T2detと設定温度T2refの比を基に、異常発熱を検知してもよい。また、異常発熱検知部712は、実績温度T2detと設定温度T2refを変数とする関数を基に異常発熱を検知してもよい。
【0135】
異常発熱検知部712は、計量工程中に所定のゾーン(例えばゾーンZ2)における実績温度T2detの変化を基に、異常発熱を検知してもよい。計量工程は、スクリュ330を回転させる。スクリュ330の回転によってせん断応力が成形材料に作用し、せん断発熱が生じる。その結果、実績温度T2detが高くなる。異常発熱検知部712は、例えば計量工程中に実績温度T2detの変化量が閾値以上である場合に、異常発熱が生じていると判断する。
【0136】
複数の第1温度検出器314は、例えば成形材料の搬送方向で上流側に配置された第1の検出器(例えば第1温度検出器314A)と、第1の検出器よりも下流に配置された第2の検出器(例えば第1温度検出器314B又は314C)と、第2の検出器よりも下流に配置された第3の検出器(例えば第1温度検出器314D)と、を含む。
【0137】
異常発熱検知部712は、第2の検出器の実績温度を基に、成形材料のせん断による異常発熱を検知する。第1の検出器は、複数の第1加熱器313A~313Dのうちの最も上流側に配置された第1加熱器313Aに最も近い第1温度検出器314Aである。第3の検出器は、複数の第1加熱器313A~313Dのうちの最も下流側に配置された第1加熱器313Dに最も近い第1温度検出器314Dである。
【0138】
設定温度変更部715は、異常発熱検知部712で異常発熱を検知したゾーン(例えばゾーンZ2)よりも上流側のゾーン(例えばゾーンZ1)の設定温度T1refを高く変更する。温度制御部711は、変更後の設定温度T1frefに基づき、第1加熱器313をフィードバック制御する。上流側で成形材料を十分に加熱したうえで、下流側に成形材料を送ることができる。その結果、加熱不足による過剰なせん断応力の発生を抑制でき、過剰なせん断発熱の発生を抑制でき、成形不良を抑制できる。
【0139】
設定温度T1refを高く変更するゾーンは、異常発熱を検知したゾーンよりも上流側であればよく、冷却器312が設けられるゾーンZ0であってもよいが、第1加熱器313が設けられるゾーンZ1~Z4のうち、最も上流側のゾーンZ1であることが好ましい。成形材料の供給口311におけるブリッジの発生を抑制しつつ、せん断による異常発熱を抑制できる。
【0140】
設定温度T1refの変更量は、予め実験等で決められ記憶媒体702に記憶されたものを読み出して使用してもよいし、ΔT2に応じて決めてもよい。ΔT2が大きいほど、せん断発熱量が大きい。そこで、ΔT2が大きいほど、設定温度T1refの変更量が大きくてもよい。設定温度T1refの変更量は、成形材料の熱劣化が生じないように決めてもよい。
【0141】
通知制御部713は、異常発熱を検知した後であって設定温度を高く変更する前に設定温度の変更の許否を確認する通知を射出成形機10のユーザに対して行う。ユーザが許否を判断しやすいように、通知制御部713は(A)異常発熱を検知したゾーン、(B)設定温度を変更するゾーン、及び(C)変更後の設定温度の少なくとも1つを併せて通知してもよい。通知は、画像と音の少なくとも1つを用いて行われる。
【0142】
例えば、通知制御部713は、図7に示す画面791を表示装置760に表示する。画面791は、入力部792を有する。入力部792には、設定温度の変更を許可するか否かの選択が入力される。射出成形機10のユーザは、画面791を見ながら操作装置750を操作することで、入力部792に選択結果を入力する。
【0143】
あるいは、通知制御部713は、図7に示す画面791を射出成形機10のユーザの携帯機器に表示する指令を携帯機器に対して送信してもよい。ユーザは、画面791を見ながら携帯機器を操作することで、入力部792に選択結果を入力する。携帯機器は、入力部792の選択結果を射出成形機10に対して送信する。
【0144】
許可確認部714は、ユーザの許可を確認する。例えば、許可確認部714は、入力部792の選択結果を取得することで、ユーザの許可を確認する。許可確認部714は、少なくとも入力部792の選択結果を取得するまで、ユーザの許可が得られていないと判断する。
【0145】
設定温度変更部715は、ユーザの許可を確認した場合に設定温度を高く変更することを行ってもよい。制御装置700は、ユーザの許可を確認するまで、設定温度を高く変更することなく設定温度を維持する。ユーザの知らない間に、設定温度変更部715が設定温度を変更してしまうことを防止できる。
【0146】
なお、設定温度変更部715は、ユーザの許可を確認することなく、設定温度を高く変更してもよい。つまり、異常発熱検知部712が異常発熱を検知したときに、通知制御部713が前記許否を確認する通知を行うことなく、直ちに設定温度変更部715が設定温度を高く変更してもよい。直ちに設定温度を高く変更することで、直ちに成形不良を解消できる。よって、不良品の大量生産を回避でき、成形材料の無駄な消費を抑制できる。
【0147】
異常発熱検知部712が異常発熱を検知したときに直ちに設定温度変更部715が設定温度を高く変更する場合、ユーザの注意を喚起すべく、通知制御部713が設定温度の変更を射出成形機10のユーザに対して通知してもよい。その通知を行うタイミングは、設定温度の変更の後でも前でもよい。
【0148】
異常発熱検知部712が異常発熱を検知したときに直ちに設定温度変更部715が設定温度を高く変更する場合、通知制御部713は設定温度の変更に加えて(A)異常発熱を検知したゾーン、(B)設定温度を変更するゾーン、及び(C)変更後の設定温度の少なくとも1つを併せて通知してもよい。
【0149】
事前確認部716は、異常発熱を検知したときに設定温度の変更の許否を確認する通知を行って射出成形機10のユーザの許可を確認するか否かの選択を、異常発熱を検知する前に受け付ける。異常発熱を検知する前に、異常発熱を検知したときに直ちに設定温度を変更するか否かを決めておくことができる。
【0150】
例えば、事前確認部716は、図4に示す画面771を表示装置760に表示する。画面771は、入力部779を有する。入力部779には、射出成形機10のユーザの許可を確認するか否か(例えば設定温度を自動で変更するか否か)の選択が入力される。射出成形機10のユーザは、画面771を見ながら操作装置750を操作することで、入力部779に選択結果を入力する。事前確認部716は、入力部779の選択結果を取得することで、ユーザの意思を確認する。
【0151】
あるいは、事前確認部716は、図4に示す画面771を射出成形機10のユーザの携帯機器に表示する指令を携帯機器に対して送信してもよい。ユーザは、画面771を見ながら携帯機器を操作することで、入力部779に選択結果を入力する。携帯機器は、入力部779の選択結果を射出成形機10に対して送信する。事前確認部716は、入力部779の選択結果を取得することで、ユーザの意思を確認する。
【0152】
なお、本実施形態では設定温度変更部715が設定温度を変更するが、射出成形機10のユーザが図4に示す画面771を見ながら設定温度を変更してもよい。この場合、異常発熱検知部712が異常発熱を検知したときに、通知制御部713は単に異常発熱の発生を射出成形機10のユーザに対して通知すればよく、設定温度の変更の許否を確認する通知は不要である。
【0153】
射出成形機10のユーザが図4に示す画面771を見ながら設定温度を変更する場合、ユーザが設定温度を変更しやすいように、通知制御部713は(A)異常発熱を検知したゾーン、(B)設定温度を変更するゾーン、及び(C)変更後の設定温度の少なくとも1つを併せて通知してもよい。熟練度の低いユーザの利便性を向上できる。
【0154】
なお、本実施形態の異常発熱検知部712はシリンダ310の所定のゾーンの実績温度を基に異常発熱を検知するが、異常発熱検知部712はスクリュ330の実績トルクを基に異常発熱を検知してもよい。トルク検出器361(図3参照)は、計量工程中にスクリュ330の実績トルクを検出する。実績トルクが大きいほど、せん断応力が大きく、せん断発熱量が大きい。異常発熱検知部712は、例えば実績トルクが閾値以上である場合に、異常発熱が生じていると判断する。
【0155】
異常発熱検知部712が実績トルクを基に異常発熱を検知した場合、設定温度変更部715は所定のゾーンの設定温度を高く変更する。設定温度を高く変更するゾーンは、冷却器312が設けられるゾーンZ0であってもよいが、第1加熱器313が設けられるゾーンZ1~Z4のうち、最も上流側のゾーンZ1であることが好ましい。
【0156】
また、異常発熱検知部712が実績トルクを基に異常発熱を検知した場合、通知制御部713が設定温度の変更の許否を確認する通知を射出成形機10のユーザに対して行ってもよい。許可確認部714がユーザの許可を確認した場合に、設定温度変更部715が設定温度を高く変更してもよい。
【0157】
さらに、事前確認部716は、異常発熱検知部712が実績トルクを基に異常発熱を検知したときに設定温度の変更の許否を確認する通知を行って射出成形機10のユーザの許可を確認するか否かの選択を、異常発熱を検知する前に受け付けてもよい。
【0158】
以上、本発明に係る射出成形機の管理装置、射出成形機、及び射出成形機の管理方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0159】
10 射出成形機
310 シリンダ
312 冷却器(温調器)
313 第1加熱器(温調器)
314 第1温度検出器(温度検出器)
700 制御装置(管理装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7