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2024-148110情報処理システム、情報処理方法および情報処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148110
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】情報処理システム、情報処理方法および情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20241009BHJP
【FI】
G06N20/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061044
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】桑原 誠
(72)【発明者】
【氏名】臼井 正則
(72)【発明者】
【氏名】森 朋彦
(72)【発明者】
【氏名】村松 潤哉
(72)【発明者】
【氏名】岡地 涼輔
(57)【要約】      (修正有)
【課題】現象を精度良く再現可能な非線形な物理モデルを構築する情報処理システム、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】方法は、それぞれの変数の属性を表す情報を含む複数の第1の説明変数と、少なくとも1つの目的変数と、を入力することと、所定の物理量の属性と、物理量に含まれるパラメータの属性との対応関係を示す第1のデータを参照することと、入力データに含まれる第1の説明変数のなかから、目的変数の属性に対応する複数の第1の説明変数を要素とする第1のパラメータ群を特定することと、特定した第1のパラメータ群を第2のデータに含まれる複数のパラメータによって記述される非線形関数に入力し、第1のパラメータ群のうちの少なくとも2つの要素の非線形結合項を含む第2の説明変数を生成することと、目的変数と第2の説明変数とに基づき、第1の説明変数と目的変数との関係を示す第1の物理モデルを生成することと、を含む。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理システムであって、
記憶部と、少なくとも1つのプロセッサを備え、
前記記憶部は、第1のデータと、第2のデータとを記憶するように構成され、ここで、
前記第1のデータは、所定の物理量の属性と、当該物理量に含まれるパラメータの属性との対応関係を示し、
前記第2のデータは、複数の前記パラメータによって記述される非線形関数を含み、
前記プロセッサは、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行するように構成され、
取得ステップでは、複数の第1の説明変数と、少なくとも1つの目的変数とを含む入力データを取得し、ここで、
前記第1の説明変数および前記目的変数のそれぞれは、それぞれの変数の属性を表す情報を含み、
特定ステップでは、前記第1のデータを参照することにより、取得した前記入力データに含まれる第1の説明変数のなかから、前記目的変数の属性に対応する複数の前記第1の説明変数を要素とする第1のパラメータ群を特定し、
生成ステップでは、特定された前記第1のパラメータ群を前記第2のデータに含まれる前記非線形関数に入力することにより、前記第1のパラメータ群のうちの少なくとも2つの要素の非線形結合項を含む第2の説明変数を生成し、
前記目的変数と前記第2の説明変数とに基づき、前記第1の説明変数と前記目的変数との関係を示す第1の物理モデルを生成する、もの。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記第2の説明変数は、前記物理量に対応する属性を有し、
前記特定ステップでは、前記入力データに対する前記第1の物理モデルの誤差が所定の許容値以上の場合、前記第1のデータを参照することにより、生成された前記第2の説明変数のなかから、前記目的変数の属性に対応する複数の前記第2の説明変数を要素とする第2のパラメータ群を特定し、
前記生成ステップでは、特定された前記第2のパラメータ群を前記第2のデータに含まれる前記非線形関数に入力することにより、前記第2のパラメータ群のうちの少なくとも2つの要素の非線形結合項を含む第3の説明変数を生成し、
前記目的変数と前記第3の説明変数とに基づき、前記第1の説明変数と前記目的変数との関係を示す第2の物理モデルを生成する、もの。
【請求項3】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記非線形関数は、複数の前記パラメータの積を変数として有する合成関数を含む、もの。
【請求項4】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記取得ステップでは、前記入力データとして、所定の半導体素子製造システムによる製造データを取得し、ここで、前記製造データは、前記目的変数としての前記半導体素子製造システムによって製造される半導体素子の特性と、前記第1の説明変数としての当該半導体素子の製造条件とを含み、
前記第1のデータは、前記半導体素子の特性を表す物理量と、前記製造条件を表す前記パラメータの属性との対応関係を示す、もの。
【請求項5】
請求項4に記載の情報処理システムにおいて、
前記半導体素子の特性を表す物理量は、当該半導体素子の電気的特性、膜厚、およびキャリア濃度のうちの少なくとも1つを含む、もの。
【請求項6】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記非線形関数は、ポアソン方程式および輸送方程式のうちの少なくとも1つに基づき構築される関数を含む、もの。
【請求項7】
情報処理方法であって、
請求項1~請求項6の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを含む、方法。
【請求項8】
情報処理プログラムであって、
少なくとも1つのコンピュータに、請求項1~請求項6の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを実行させる、もの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム、情報処理方法および情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、説明変数間に共線性があっても回帰係数の更新が安定し、出来映えの予測精度を向上できる技術が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の出来映え予測装置は、素材に対してプロセス処理を行って製品を生産する生産装置からプロセスデータを収集するプロセスデータ収集部と、上記収集されたプロセスデータに基づいて、上記プロセス処理が行われた製品の出来映え結果を表す出来映え算出値を、モデル式を用いて算出する予測モジュールと、上記予測モジュールから出力された出来映え算出値に補正係数を乗算して補正後出来映え算出値を求めた後、この補正後出来映え算出値に装置間差値を加算して出来映え予測値を算出する補正モジュールとを備え、上記補正モジュールの上記補正係数は、同一の製品に関して、上記プロセス処理が行われた製品の出来映えを検査する検査装置から出力された出来映えの実測値と、上記補正モジュールで算出された出来映え予測値との差を補正する係数であり、上記補正モジュールの上記装置間差値は、同一の製品に関して、上記出来映えの実測値と上記出来映え予測値との差における上記生産装置間差および上記検査装置間差を補正する補正値であることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-267242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような技術では、パラメータに対して線形なモデル式でしか表現することができない。一方、現実で問題となる現象は様々なパラメータが相互に相関をもつため、パラメータに対して非線形な関係を示すことがある。
【0006】
本発明では上記事情に鑑み、現象を精度良く再現可能な非線形な物理モデルを構築する技術を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、情報処理システムが提供される。この情報処理システムは、記憶部と、少なくとも1つのプロセッサを備える。記憶部は、第1のデータと、第2のデータとを記憶するように構成される。第1のデータは、所定の物理量の属性と、当該物理量に含まれるパラメータの属性との対応関係を示す。第2のデータは、複数のパラメータによって記述される非線形関数を含む。プロセッサは、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行するように構成される。取得ステップでは、複数の第1の説明変数と、少なくとも1つの目的変数とを含む入力データを取得する。第1の説明変数および目的変数のそれぞれは、それぞれの変数の属性を表す情報を含む。特定ステップでは、第1のデータを参照することにより、取得した入力データに含まれる第1の説明変数のなかから、目的変数の属性に対応する複数の第1の説明変数を要素とする第1のパラメータ群を特定する。生成ステップでは、特定された第1のパラメータ群を第2のデータに含まれる非線形関数に入力することにより、第1のパラメータ群のうちの少なくとも2つの要素の非線形結合項を含む第2の説明変数を生成する。目的変数と第2の説明変数とに基づき、第1の説明変数と目的変数との関係を示す第1の物理モデルを生成する。
【0008】
このような構成によれば、現象を精度良く再現可能な非線形な物理モデルを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】情報処理システム1を表す構成図である。
図2】情報処理装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】ユーザ端末3のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】プロセッサ23が備える機能部の一例を示す図である。
図5】第1のデータD1の一例を示す図である。
図6】第2のデータD2の一例を示す図である。
図7】情報処理に用いられる入力データD_inの一例を示す図である。
図8】情報処理システム1において実行される情報処理の流れの一例を示すアクティビティ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0011】
ところで、本実施形態に登場するソフトウェアを実現するためのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体(Non-Transitory Computer-Readable Medium)として提供されてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよいし、外部のコンピュータで当該プログラムを起動させてクライアント端末でその機能を実現(いわゆるクラウドコンピューティング)するように提供されてもよい。
【0012】
また、本実施形態において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、例えば電圧・電流を表す信号値の物理的な値、0または1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低、または量子的な重ね合わせ(いわゆる量子ビット)によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0013】
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、およびメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
【0014】
1.ハードウェア構成
本節では、ハードウェア構成について説明する。
【0015】
<情報処理システム1>
図1は、情報処理システム1を表す構成図である。情報処理システム1は、情報処理装置2と、ユーザ端末3とを備える。情報処理装置2と、ユーザ端末3とは、電気通信回線を通じて通信可能に構成されている。一実施形態において、情報処理システム1とは、1つまたはそれ以上の装置または構成要素からなるものである。仮に例えば、情報処理装置2のみからなる場合であれば、情報処理システム1は、情報処理装置2となりうる。以下、これらの構成要素について説明する。
【0016】
<情報処理装置2>
図2は、情報処理装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。情報処理装置2は、通信部21と、記憶部22と、少なくとも1つのプロセッサ23とを備え、これらの構成要素が情報処理装置2の内部において通信バス20を介して電気的に接続されている。各構成要素についてさらに説明する。
【0017】
通信部21は、USB、IEEE1394、Thunderbolt(登録商標)、有線LANネットワーク通信等といった有線型の通信手段が好ましいものの、無線LANネットワーク通信、3G/LTE/5G等のモバイル通信、BLUETOOTH(登録商標)通信等を必要に応じて含めてもよい。すなわち、これら複数の通信手段の集合として実施することがより好ましい。すなわち、情報処理装置2は、通信部21およびネットワークを介して、外部から種々の情報を通信してもよい。
【0018】
記憶部22は、前述の記載により定義される様々な情報を記憶する。これは、例えば、プロセッサ23によって実行される情報処理装置2に係る種々のプログラム等を記憶するソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、あるいは、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施されうる。記憶部22は、プロセッサ23によって実行される情報処理装置2に係る種々のプログラムや変数等を記憶している。本実施形態の記憶部22は、第1のデータD1と、第2のデータD2とを記憶するように構成される。これらのデータD1,D2の詳細は後述される。
【0019】
プロセッサ23は、情報処理装置2に関連する全体動作の処理・制御を行う。プロセッサ23は、例えば不図示の中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)である。プロセッサ23は、記憶部22に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、情報処理装置2に係る種々の機能を実現する。すなわち、記憶部22に記憶されているソフトウェアによる情報処理が、ハードウェアの一例であるプロセッサ23によって具体的に実現されることで、プロセッサ23に含まれる各機能部として実行されうる。これらについては、次節においてさらに詳述する。なお、プロセッサ23は単一であることに限定されず、機能ごとに複数のプロセッサ23を有するように実施してもよい。またそれらの組合せであってもよい。
【0020】
<ユーザ端末3>
図3は、ユーザ端末3のハードウェア構成を示すブロック図である。ユーザ端末3は、通信部31と、記憶部32と、プロセッサ33と、表示部34と、HMIデバイス35とを備え、これらの構成要素がユーザ端末3の内部において通信バス30を介して電気的に接続されている。通信部31、記憶部32およびプロセッサ33の説明は、情報処理装置2における各部の説明と同様のため省略する。
【0021】
表示部34は、ユーザ端末3筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。表示部34は、ユーザが操作可能なグラフィカルユーザインターフェース(Graphical User Interface:GUI)の画面を表示する。これは例えば、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示デバイスを、ユーザ端末3の種類に応じて使い分けて実施することが好ましい。
【0022】
HMIデバイス35は、ヒューマン・マシン・インターフェースデバイスである。HMIデバイス35は、ユーザ端末3の筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。例えば、HMIデバイス35は、表示部34と一体となってタッチパネルとして実施されてもよい。タッチパネルであれば、ユーザは、タップ操作、スワイプ操作等を入力することができる。もちろん、タッチパネルに代えて、スイッチボタン、マウス、QWERTYキーボード、音声認識装置、ジェスチャ検出装置、視線検出装置、生体信号検出装置、撮像装置などを採用してもよい。すなわち、HMIデバイス35がユーザによってなされた操作入力を受け付ける。HMIデバイス35は、応答として、通信バス30を介し操作入力に対応する信号をプロセッサ33に転送する。プロセッサ33が必要に応じて所定の制御や演算を実行しうる。HMIデバイス35は、ユーザからの入力を受付可能に構成されている入力部を含むともいえる。
【0023】
2.情報処理装置2の機能構成
図4は、プロセッサ23が備える機能部の一例を示す図である。図4に示すように、プロセッサ23は、取得部231と、特定部232と、生成部233とを備える。本節では、これらの機能部の概要を説明する。各機能部の詳細は、後述の情報処理と合わせて説明される。
【0024】
取得部231は、ユーザ端末3または他のデバイスからの情報を取得可能に構成される。取得部231は、記憶部22の少なくとも一部であるストレージ領域に記憶されている種々の情報を読み出し、読み出された情報を記憶部22の少なくとも一部である作業領域に書き込むことで、種々の情報を取得可能に構成されている。ストレージ領域とは、例えば、記憶部22のうち、SSD等のストレージデバイスとして実施される領域である。作業領域とは、例えば、RAM等のメモリとして実施される領域である。なお、取得部231による取得は、プロセッサ23に含まれる各機能部の出力結果を取得することを含む。取得部231は、例えば、第1のデータD1、第2のデータD2、および入力データD_inを取得する。これらのデータの詳細は後述される。
【0025】
特定部232は、取得した入力データD_in等に基づき種々の情報を特定可能に構成される。
【0026】
生成部233は、取得した第1のデータD1や特定部232の特定結果等に基づき種々の情報を生成可能に構成される。
【0027】
3.情報処理について
本節では、上記情報処理システム1において実行される情報処理について説明する。本実施形態の情報処理は、物理現象として、半導体デバイス製造システムによって所定の前駆体から半導体素子を製造する製造条件と、その結果として製造される半導体素子の特性との関係を再現するような物理モデルを構築する処理である。
【0028】
3.1.情報処理に用いられるデータの一例について
本節では、情報処理システム1おいて実行される情報処理に用いられるデータの一例に付いて説明する。
【0029】
図5は、第1のデータD1の一例を示す図である。図5に示すように、第1のデータD1は、所定の物理量と、当該物理量に含まれるパラメータの属性との対応関係を示す。
【0030】
第1のデータD1に含まれる物理量は、例えば、半導体素子の電気特性を表すものである。このような物理量としては、例えば、電荷密度、酸化膜圧、半導体素子の寸法などが挙げられる。なお、物理量はこれに限られず、透磁率、誘電率、弾性率、透過率、屈折率など、光学特性、機械特性、または磁気特性を表す物理量を含んでいてもよい。
【0031】
このような物理量は、少なくとも1つのパラメータを含み、このパラメータの変動に応じて変化する。言い換えれば、物理量に含まれるパラメータは、物理量の変化を引き起こす変数をいい、観測可能な量であることが好ましい。このようなパラメータのそれぞれには、属性が設定されている。属性とは、例えば、パラメータの物理的性質を表す情報であり、種々の関係式を通じてそれぞれの物理量に対応付けられている。すなわち、第1のデータD1は、半導体素子の特性を表す物理量と、製造条件を表すパラメータの属性との対応関係を示す。
【0032】
例えば、物理量としての電荷密度は、イオン注入情報やアニール条件などと対応付けられている。イオン注入条件は、半導体デバイス製造システムを用いて前駆体に対して所定のイオンを注入する条件を表し、例えば、注入するイオンの種類、イオンの注入量(例えば、イオンビームの強度)、イオンを含む。アニール条件は、前駆体または、イオンを注入された前駆体をアニールする条件であり、例えば、アニール温度、アニール雰囲気、アニール時間などを含む。
【0033】
別例として、物理量としての酸化膜厚は、前駆体の酸化条件、前駆体に含まれる基板に関する基板条件などと対応付けられている。酸化条件は、例えば、酸化時間、酸化温度、酸化雰囲気などを含む。基板条件は、例えば、基板を含む前駆体の設置位置、基板の不純物濃度、基板の材料(例えば、組成)などを含む。
【0034】
別例として、物理量としての寸法は、マスク条件、フォトレジスト条件、現像条件、ポストベーク条件などと対応付けられている。マスク条件は、基板に対して行うマスク処理の条件を表し、例えば、マスクの寸法、アラインメントのズレなどを含む。フォトレジスト条件は、基板に対して塗布するフォトレジストに関する条件であり、例えば、フォトレジストの種類、塗布方法、塗布量などを含む。現像条件は、前駆体に対する現像工程に関する条件であり、例えば、現像液の種類、現像液の量、現像時間などを含む。ポストベーク条件は、これらの処理が行われた前駆体に対して行われるポストベークに関する条件であり、例えば、ポストベークを行う温度、時間などを含む。物理量に含まれるパラメータの属性は、上述したものに限られず、例えば、プリベークに関する条件、レジストの露光に関する条件などを含んでもよい。
【0035】
以上より、半導体素子の特性を表す物理量は、当該半導体素子の電気的特性、膜厚、およびキャリア濃度のうちの少なくとも1つを含む。このような構成によれば、物理モデルの解釈性を高めることで、半導体デバイス製造プロセスの製造条件の改良をさらに促進することができる。
【0036】
第1のデータD1には、物理量に対応する関係式の候補に関する情報が記憶されている。物理量とパラメータとの関係は、対象となる系を表す基本方程式や既存の物理モデルを表す物理方程式によって規定可能である。このような物理方程式は、例えば、ポアソン方程式、Deal-Groveモデルの式、電子電流連続の式、正孔電流連続の式、エネルギー保存則、輸送方程式などが挙げられる。輸送方程式の方式は任意であり、例えば、ボルツマン輸送方程式、ドリフト拡散方程式、流体力学方程式などが挙げられる。以下、説明の便宜上、パラメータをPと総称し、異なるパラメータを区別する場合、数字を用いてP1,P2,P3と表記する。属性は、物理量の次元ともいえる。
【0037】
物理量のうちの少なくとも1つは、第2の説明変数に対応する物理量をパラメータとする上位物理量である。このような上位物理量は、例えば、半導体素子を駆動させるしきい値電圧が挙げられる。しきい値電圧には、例えば、電荷密度、酸化膜厚、寸法など、上述した、上位物理量でない物理量(以下、説明の便宜上、基本物理量という。)の属性を有するパラメータが含まれる。しきい値電圧方程式の詳細は後述される。
【0038】
図6は、第2のデータD2の一例を示す図である。図6に示すように、第2のデータD2は、複数のパラメータP1,P2によって記述される非線形関数を含む。本実施形態の非線形関数は、複数のパラメータP1,P2の積(P1×P2)を変数として有する合成関数hを含む。合成関数hは、2つのパラメータP1,P2から積(P1×P2)を生成する第1の関数f(P1,P2)と、fの出力Zを変数とする第2の関数g(Z)とを用いて、h(P1,P2)=g(f(P1,P2))として表される。第2の関数g(Z)は任意であるが、例えば、Z、Z、1/Z、Z-0.5、などのような、Zのべき乗関数Z(rは0以外の実数)、Zの指数関数e、Zの対数関数logZ(底は任意であるが、特に自然対数であることが好ましい。)であっても、Zの三角関数sinZ,cosZ,tanZ、Zの双曲線関数sinhZ,coshZ、tanhZなどが挙げられる。なお、合成関数hは、これらの関数に所定の係数を乗算したものや、定数を加えたものであってよい。また、合成関数hは、これらの関数のそれぞれを四則演算で組み合わせたものであってもよい。
【0039】
図7は、情報処理に用いられる入力データD_inの一例を示す図である。入力データD_inは、変数名と、各変数の属性と、各変数の具体的な数値とを含む。本実施形態では、入力データD_inは、1つの目的変数Yと、複数の説明変数X1~X8とにより構成されるデータ点を複数含む。以下、説明の便宜上、入力データD_inに含まれる説明変数を、第1の説明変数という。すなわち、第1の説明変数X1~X8および目的変数Yのそれぞれは、それぞれの変数の属性を表す情報を含む。
【0040】
本実施形態の入力データD_inは、半導体素子の製造状況を表す製造データであり、製造データは、半導体素子製造システムによって製造される半導体素子の特性と、当該半導体素子の製造条件とを含む。半導体素子の特性は、例えば、電荷密度であり、目的変数Yに対応する。半導体素子の製造条件は、例えば、上述した酸化条件(酸化時間)、イオン注入条件(イオン注入量、イオン注入エネルギー)、マスク寸法などが挙げられる。第1のデータD1に記憶される物理量は、半導体素子の特性を規定するように構成される。このような構成によれば、複雑な半導体デバイス製造プロセスの製造条件と製造結果の傾向を、製造データに基づき生成される物理モデルから推定することができる。したがって、半導体デバイス製造プロセスの製造条件の改良を促進することができる。
【0041】
3.2.情報処理の流れについて
図8は、情報処理システム1において実行される情報処理の流れの一例を示すアクティビティ図である。なお、当該情報処理は、図示されない任意の例外処理を含みうる。例外処理は、当該情報処理の中断や、各処理の省略を含む。当該情報処理にて行われる選択または入力は、ユーザによる操作に基づくものでも、ユーザの操作に依らず自動で行われるものでもよい。
【0042】
[アクティビティA1]
アクティビティA1にて、取得部231は、入力データD_inとして、所定の半導体素子製造システムによる製造データを取得する。このような構成によれば、物理モデルの解釈性を高めることで、半導体デバイス製造プロセスの製造条件の改良をさらに促進することができる。本実施形態では、取得部231は、図7にて示した入力データD_inを取得する。
【0043】
[アクティビティA2]
次に、アクティビティA2にて、特定部232は、第1のデータD1を参照することにより、取得した入力データD_inに含まれる第1の説明変数X1~X8のなかから、目的変数Yの属性に対応する複数の第1の説明変数を要素とする第1のパラメータ群を特定する。本実施形態では、目的変数Yの属性は、電荷密度という物理量に対応する。当該物理量に含まれるパラメータの属性は、イオン注入情報(詳細には、イオン注入量、イオン注入エネルギー等)やアニール情報等である。そのため、特定部232は、入力データD_inに含まれる第1の説明変数X1~X8のなかから、目的変数Yの属性に対応する、イオン注入量の属性を有する第1の説明変数X2と、イオン注入エネルギーの属性を有する第1の説明変数X4とを、第1のパラメータ群の要素として特定する。このような第1のパラメータ群は、{X2,X4}と表記することができる。
【0044】
[アクティビティA3]
次に、アクティビティA3にて、生成部233は、取得した目的変数Yに基づき、第1のパラメータ群{X2,X4}のうちの少なくとも2つの要素の非線形結合項を含む第2の説明変数を生成する。第2の説明変数は、特定された第1のパラメータ群{X2,X4}を第2のデータD2に含まれる非線形関数に入力することにより得られる。以下、説明の便宜上、このような非線形関数をFと表記し、非線形関数の出力となる第2の説明変数を、第2の説明変数Lという。非線形関数Fが第2のデータD2に複数記憶されている場合、生成部233は、異なる非線形関数Fごとに第2の説明変数Lを生成する。これにより、入力データD_inに含まれている第1の説明変数X1~X8のそれぞれに応じて、第2の説明変数Lが得られる。
【0045】
[アクティビティA4]
次に、アクティビティA4にて、生成部233は、生成された第2の説明変数Lの属性を、目的変数Yに相当する物理量に対応する関係式に従うように物理モデルを構築する。以下、説明の便宜上、アクティビティA4にて生成される物理モデルは、第1の物理モデルという。第1の物理モデルは、目的変数Yと第2の説明変数Lの対応関係を示す関数として表現可能である。このような構成によれば、入力データに基づき、実際の物理現象を精度良く再現可能な非線形な物理モデルを構築することができる。特に本実施形態の構成によれば、複雑な半導体デバイス製造プロセスの製造条件と製造結果の傾向を、製造結果に基づき生成される物理モデルから推定することができる。したがって、半導体デバイス製造プロセスの製造条件の改良を促進することができる。第1の物理モデルの構築態様は任意であるが、生成部233は、例えば、生成された第2の説明変数Lを定数倍し、または第1の説明変数X1~X8に依存しない係数の加算または減算する等の演算処理を行うことにより、演算処理が行われた第2の説明変数Lが目的変数Yを再現するように調整する。このように調整された第2の説明変数Lが、第1の物理モデルとして生成される。
【0046】
[アクティビティA5]
次に、処理がアクティビティA5に進み、プロセッサ23は、生成された第1の物理モデルの入出力と、入力データD_inとを比較し、第1の物理モデルの誤差が許容値以上であるか否かを判定する。当該誤差は、例えば、入力データD_inに含まれる第1の説明変数X1~X8の値に対応する目的変数Yと、当該第1の説明変数X1~X8を物理モデルに入力した場合における出力(例えば、第2の説明変数Lや、後述される第3の説明変数M)との誤差として規定される。
【0047】
[アクティビティA6]
入力データD_inに対する第1の物理モデルの誤差が許容値未満の場合、処理がアクティビティA6に進み、プロセッサ23は、第1の物理モデルをユーザに対して出力して、情報処理を終了する。
【0048】
[アクティビティA7]
一方、入力データD_inに対する第1の物理モデルの誤差が許容値以上の場合、処理がアクティビティA7に進み、特定部232は、第1のデータD1を参照することにより、生成された第2の説明変数Lのなかから、目的変数Yの属性に対応する複数の第2の説明変数Lを要素とする第2のパラメータ群を特定する。当該特定の具体的態様は、アクティビティA2と同様である。目的変数Yの属性と、第2の説明変数Lの属性とが一致していない場合、入力データD_inに対する第1の物理モデルの誤差が許容値以上となることがある。
【0049】
[アクティビティA8]
次に、アクティビティA8にて、生成部233は、特定された第2のパラメータ群を第2のデータD2に含まれる非線形関数Fに入力することにより、第2のパラメータ群のうちの少なくとも2つの要素の非線形結合項を含む第3の説明変数Mを生成する。これにより、第3の説明変数Mと第2のパラメータ群との関係は、非線形関数Fを通じて記述される。第2のパラメータ群と第1のパラメータ群との関係は、上述の処理により、非線形関数Fを通じて記述される。したがって、第3の説明変数Mと第1のパラメータ群とは、上記非線形関数を組み合わせることにより間接的に記述される。
【0050】
[アクティビティA9]
次に、アクティビティA9にて、目的変数と第3の説明変数Mとに基づき、第1の説明変数X1~X8と目的変数Yとの関係を示す第2の物理モデルを生成する。第2の物理モデルの生成態様は、第1の説明変数Xを第2の説明変数Lに置き換え、第2の説明変数を第3の説明変数Mに置き換えた場合にけるアクティビティA4の処理と同様である。
【0051】
[アクティビティA10]
次に、処理がアクティビティA10に進み、プロセッサ23は、生成された第2の物理モデルの入出力と、入力データD_inとを比較し、第2の物理モデルの誤差が許容値以上であるか否かを判定する。当該判定の具体的態様は、アクティビティA5の処理と同様である。
【0052】
第2の物理モデルの誤差が許容値以上である場合、プロセッサ23は、第3の説明変数Mを第2の説明変数Lに置き換えた上でアクティビティA7~アクティビティA10の処理を再度実行する。このような構成によれば、生成される第2の説明変数によって表現されるパラメータを用いて階層化された物理現象を段階的に再現することで、さらに複雑で非線形な物理モデルを構築することができる。
【0053】
[アクティビティA11]
一方、第2の物理モデルの誤差が許容値未満である場合、処理がアクティビティA11に進み、プロセッサ23は、最新の第2の物理モデルをユーザに対して出力して、情報処理を終了する。
【0054】
3.3.情報処理の詳細
本節では、上述した情報処理の詳細について説明する。
3.3.1.非線形関数がポアソン方程式に基づき構築される場合について
まず、非線形関数がポアソン方程式に基づき構築される場合について説明する。以下、説明の便宜上、1次元の系について説明するが、以下の議論は2次元以上の系についても同様に成り立つ。
【0055】
ポアソン方程式は、次の数式によって表される。
【数1】
【0056】
上記数式において、Vは、半導体素子に生じる電位差、xは当該電位差が生じる2つの位置の距離、ρは電荷密度、εは誘電率をそれぞれ表す。上記数式は、以下のように変形することができる。
【数2】
ただし、Eは電位差に伴う電界を示す。
【0057】
このような場合において、目的変数Yが電場E(すなわち電位勾配)であり、当該電位勾配には、第1のパラメータ群として2つの第1の説明変数X1,X2が含まれているとする。このとき、仮に2つの第1の説明変数X1,X2への目的変数Yの依存性を再現するように物理モデルを構築しようとすると、電場Eは、その明示的な説明変数である電荷密度ρとの関係において、線形でない。そのため、第1の説明変数X1,X2の線形結合(例えば、Y=A0+A1×X1+A2×X2。ただし、A0,A1およびA2は、それぞれX1およびX2に依存しない係数である。)によって電場Eの振る舞いを再現するような物理モデルを構築することができない。一方で、目的変数Yと2つの第1の説明変数X1,X2との間で非線形な関係を有する物理モデルを構築する場合、線形な関係を仮定した場合に比べてその探索範囲が膨大になるため、現実的な計算時間での物理モデルの構築が困難であった。
【0058】
そこで、本実施形態では、プロセッサ23は、第1のデータD1を参照し、入力データD_inに含まれる第1の説明変数のなかから、第1のパラメータ群の要素として第1の説明変数X1,X2を特定する。
【0059】
その後、プロセッサ23は、特定された第1の説明変数X1,X2の属性と目的変数Yの属性との関係に基づき、第2のデータD2に予め格納された非線形関数Fを特定し、当該非線形関数Fに第1のパラメータ群の要素である第1の説明変数X1,X2を入力することにより、第2の説明変数Lを得る。なお、複数の非線形関数Fが第2のデータD2に格納されている場合、プロセッサ23は、格納されている非線形関数Fのそれぞれに対して第1のパラメータ群{X1,X2}を入力し、これらの出力結果を入力データD_inと比較することにより、目的変数Yの再現性の高い第2の説明変数Lを出力するような非線形関数Fを探索する。このような比較のための指標は、成立性検証用係数ともよばれ、例えば重回帰分析の決定係数等の統計的指標を用いて計算される。プロセッサ23は、このような指標に基づき、最も精度のよい非線形関数Fを、第2の説明変数Lを生成するために用いる。本実施形態では、上記ポアソン方程式の形状より、以下の非線形関数Fが特定される。
【数3】
【0060】
ただし、上記数式におけるA1はX1,X2に依存しない係数である。本実施形態では、当該非線形関数Fの出力が、第2の説明変数Lとなる。その後、プロセッサ23は、生成された第2の説明変数Lと目的変数Yとを比較し、その誤差が最小となるような定数A1を探索する。このようにして得られた第1の説明変数X1,X2と第2の説明変数Lとの関係が、入力データD_inにおける第1の説明変数X1~X8と目的変数Yとの関係を再現する第1の物理モデルとして出力される。
【0061】
3.3.2.非線形関数がしきい値電圧方程式に基づき構築される場合について
本節では、非線形関数がしきい値電圧方程式に基づき構築される場合に付いて説明する。ここでは、半導体素子がMOSFETの場合について説明する。MOSFETのしきい値電圧V_THは、以下の数式によい表される。
【数4】
【0062】
ただし、V_FBは、フラット電圧、φ_Fは反転状態における表面ポテンシャル、C_oxはゲート酸化膜容量、εは誘電率、N_Aはドーピング密度である。以下説明の便宜上、反転状態における表面ポテンシャルを単に表面ポテンシャルという。
【0063】
このとき、ドーピング密度N_Aは、表面ポテンシャルφ_Fに依存する。また、表面ポテンシャルφ_Fを直接測定することは困難である。そのため、表面ポテンシャルφ_Fは、半導体素子に対する様々な測定を行うことにより間接的に推定される。このような場合、生成部233は、まず、第1の説明変数を複数の非線形関数Fに入力することにより第2の説明変数の候補を生成する。本実施形態では、プロセッサ23は、生成された第2の説明変数の候補のなかから、以下の2つの第2の説明変数L1,L2を、再現性が高い第2の説明変数と特定する。
【数5】
【数6】
【0064】
ただし、上記数式におけるA1,A2は第1の説明変数X1~X6に依存しない係数である。ここで、L1,L2は、ともに共通の第1の説明変数X6をパラメータとして含む。言い換えれば、複数の第2の説明変数が存在する場合、当該第2の説明変数を構成する第2のパラメータ群は、共通の要素を含む。これにより、現実の物理現象に即したより複雑な物理モデルを生成することができる。
【0065】
そして、第2の説明変数L1,L2の属性は、目的変数Yに対応する属性に含まれるものの、目的変数Yと異なる依存性を有するため、その誤差が許容値以上となり、アクティビティA5での判定条件が満たされない。その結果、処理がアクティビティA7以降に進み、生成部233は、これらの第2の説明変数L1,L2に基づき第3の説明変数Mの生成を行う。このとき、例えば、第2のデータD2に格納されている非線形関数Fを用いて、以下の第3の説明変数Mが生成される。
【数7】
【0066】
ただし、上記式におけるA3は、L1,L2に依存しない係数であり、B1=A1×A3/(A2)1/2である。プロセッサ23は、このように生成された第3の説明変数Mが入力データD_inに示される目的変数Yと第1の説明変数X1~X6との関係を満たすように、係数B2を決定することで、第2の物理モデルを生成する。このように生成された第2の物理モデルの入力データD_inに対する誤差が許容値未満となることで、プロセッサ23は、決定されたB1を有する第3の説明変数を、第2の物理モデルとして出力する。
【0067】
4.その他
上記情報処理の態様はあくまで一例であり、これに限られない。
【0068】
非線形関数Fは、ポアソン方程式やしきい値電圧方程式に基づき構築されるものに限られない。例えば、非線形関数Fは、以下の数式のように表される輸送方程式に基づき構築されてもよい。
【数8】
【0069】
上記数式において、J_eは電子の電流密度、qは電荷量、nは不純物濃度、μ_eは電子の移動度、Eは電界、D_eは電子拡散定数、xは半導体素子の寸法である。右辺の第1項はドリフト電流を表し、右辺の第2項は拡散電流を表す。
【0070】
上記輸送方程式における物理量の次元を反映し、第1のデータD1は、物理量としてのドリフト電流が、不純物濃度nを属性として含むように構築されている。また、第1のデータD1は、物理量としての不純物濃度nがイオン注入量とイオン注入エネルギーとを属性として含むように構築されている。このような第1のデータD1の階層構造から、生成部233は、上記輸送方程式に基づき以下のようなドリフト電流を表す第2の説明変数L1を生成する。
【数9】
【0071】
ただし、X2はイオン注入量を属性として有する第1の説明変数であり、X4はイオン注入エネルギーを属性として有する第1の説明変数である。
【0072】
上記輸送方程式における物理量の次元を反映し、第1のデータD1は、物理量としての拡散電流が、イオン注入量、イオン注入エネルギー、マスク寸法を属性として含むように構築されている。このような第1のデータD1を参照し、生成部233は、上記輸送方程式に基づき以下のようなドリフト電流を表す第2の説明変数L1を生成する。
【数10】
【0073】
ただし、X3は、マスク寸法の属性を有する第1の説明変数である。このようにして得られた第2の説明変数L1,L2は、上述した輸送方程式と次元を有するため、係数A1,A2を調整したとしても入力データD_inとの誤差を許容値未満にすることが困難である。
【0074】
そのため、生成部233は、このようにして得られた2つの第2の説明変数L1,L2を線形関数に入力することにより、以下の第3の説明変数Mを生成する。
【数11】
【0075】
生成部233は、このようにして得られた第3の説明変数Mが入力データD_inの目的変数Yを再現するように、係数A1,A2を探索し、第2の物理モデルを生成する。このように生成された第2の物理モデルは、上述した輸送方程式と近い関数の性質を有するため、誤差が許容値未満となる係数A1,A2を発見できる可能性が高い。
【0076】
なお、仮に、線形関数への入力によって誤差が許容値未満となる第2の物理モデルを生成することができない場合、生成部233は、第2の説明変数L1,L2を非線形関数に入力することにより、第3の説明変数に基づく第2の物理モデルを生成することを試みてもよい。このように、非線形関数は、ポアソン方程式および輸送方程式のうちの少なくとも1つに基づき構築される関数を含んでいてもよい。このような構成によれば、物理モデルの解釈性を高めることで、半導体デバイス製造プロセスの製造条件の改良をさらに促進することができる。
【0077】
また、非線形関数は、以下に表されるDeal-Groveモデルで表される熱酸化膜の膜厚に関する関係式に基づき構築される関数を含んでいてもよい。
【数12】
【0078】
ただし、toxは酸化膜厚、tは酸化時間、A,B,Cはこれらに依存しない係数である。上記Deal-Groveモデルは、酸化時間tが第1の説明変数となる場合、その酸化膜厚の値に応じて以下の2通りの関係式をとり得る。
【数13】
【数14】
【0079】
このような場合、生成部233は、第2のデータD2に記憶されている非線形関数のそれぞれに第1の説明変数としての酸化時間tを入力することにより、当該非線形関数ごとの物理量としての酸化膜圧toxを示す第2の説明変数を生成する。そして、生成部233は、目的関数としての入力データD_inの酸化膜圧toxと第2の説明変数とを比較し、その誤差が許容値未満となる非線形関数から生成される第1の物理モデルを最終的な物理モデルとして出力する。
【0080】
第2のデータD2に記憶されている基準関数は、2つのパラメータP1,P2に基づくものに限られず、3つ以上のパラメータP1,P2,P3,・・・に基づくものであってもよい。
【0081】
第1の物理モデルおよび第2の物理モデルは、半導体デバイス製造プロセスでの物理現象を再現するものに限られず、半導体素子以外の任意の製品の製造プロセスまたは処理プロセスを再現するものでもよい。また、物理モデルは、製品の製造プロセス等を再現するものに限られず、交通、人流、経済モデルなど、任意の物理現象を再現するものであってもよい。
【0082】
第1の物理モデルおよび第2の物理モデルは、具体的な関数に限られず、ルックアップテーブルや学習済みモデルとして表現することもできる。
【0083】
情報処理装置2は、オンプレミス形態であってもよく、クラウド形態であってもよい。クラウド形態の情報処理装置2としては、例えば、SaaS(Software as a Service)、クラウドコンピューティングという形態で、上述の機能や処理を提供してもよい。
【0084】
上記実施形態では、情報処理装置2が種々の記憶・制御を行ったが、情報処理装置2に代えて、複数の外部装置が用いられてもよい。すなわち、種々の情報やプログラムは、ブロックチェーン技術等を用いて複数の外部装置に分散して記憶されてもよい。
【0085】
上記実施形態は、情報処理システム1に限定されず、情報処理方法であっても、情報処理プログラムであってもよい。情報処理方法は、情報処理システム1の各ステップを含む。情報処理プログラムは、少なくとも1つのコンピュータに、情報処理システム1の各ステップを実行させる。
【0086】
上記情報処理システム1等は、次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0087】
(1)情報処理システムであって、記憶部と、少なくとも1つのプロセッサを備え、前記記憶部は、第1のデータと、第2のデータとを記憶するように構成され、ここで、前記第1のデータは、所定の物理量の属性と、当該物理量に含まれるパラメータの属性との対応関係を示し、前記第2のデータは、複数の前記パラメータによって記述される非線形関数を含み、前記プロセッサは、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行するように構成され、取得ステップでは、複数の第1の説明変数と、少なくとも1つの目的変数とを含む入力データを取得し、ここで、前記第1の説明変数および前記目的変数のそれぞれは、それぞれの変数の属性を表す情報を含み、特定ステップでは、前記第1のデータを参照することにより、取得した前記入力データに含まれる第1の説明変数のなかから、前記目的変数の属性に対応する複数の前記第1の説明変数を要素とする第1のパラメータ群を特定し、生成ステップでは、特定された前記第1のパラメータ群を前記第2のデータに含まれる前記非線形関数に入力することにより、前記第1のパラメータ群のうちの少なくとも2つの要素の非線形結合項を含む第2の説明変数を生成し、前記目的変数と前記第2の説明変数とに基づき、前記第1の説明変数と前記目的変数との関係を示す第1の物理モデルを生成する、もの。
【0088】
このような構成によれば、生成される第2の説明変数によって表現されるパラメータを用いて階層化された物理現象を段階的に再現することで、さらに複雑で非線形な物理モデルを構築することができる。
【0089】
(2)上記(1)に記載の情報処理システムにおいて、前記第2の説明変数は、前記物理量に対応する属性を有し、前記特定ステップでは、前記入力データに対する前記第1の物理モデルの誤差が所定の許容値以上の場合、前記第1のデータを参照することにより、生成された前記第2の説明変数のなかから、前記目的変数の属性に対応する複数の前記第2の説明変数を要素とする第2のパラメータ群を特定し、前記生成ステップでは、特定された前記第2のパラメータ群を前記第2のデータに含まれる前記非線形関数に入力することにより、前記第2のパラメータ群のうちの少なくとも2つの要素の非線形結合項を含む第3の説明変数を生成し、前記目的変数と前記第3の説明変数とに基づき、前記第1の説明変数と前記目的変数との関係を示す第2の物理モデルを生成する、もの。
【0090】
このような構成によれば、生成される第2の説明変数によって表現されるパラメータを用いて階層化された物理現象を段階的に再現することで、さらに複雑で非線形な物理モデルを構築することができる。
【0091】
(3)上記(1)または(2)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記非線形関数は、複数の前記パラメータの積を変数として有する合成関数を含む、もの。
【0092】
このような構成によれば、物理現象をより精度良く再現可能な非線形な物理モデルを構築することができる。
【0093】
(4)上記(1)~(3)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記取得ステップでは、前記入力データとして、所定の半導体素子製造システムによる製造データを取得し、ここで、前記製造データは、前記目的変数としての前記半導体素子製造システムによって製造される半導体素子の特性と、前記第1の説明変数としての当該半導体素子の製造条件とを含み、前記第1のデータは、前記半導体素子の特性を表す物理量と、前記製造条件を表す前記パラメータの属性との対応関係を示す、もの。
【0094】
このような構成によれば、複雑な半導体デバイス製造プロセスの製造条件と製造結果の傾向を、製造結果に基づき生成される物理モデルから推定することができる。したがって、半導体デバイス製造プロセスの製造条件の改良を促進することができる。
【0095】
(5)上記(4)に記載の情報処理システムにおいて、前記半導体素子の特性を表す物理量は、当該半導体素子の電気的特性、膜厚、およびキャリア濃度のうちの少なくとも1つを含む、もの。
【0096】
このような構成によれば、物理モデルの解釈性を高めることで、半導体デバイス製造プロセスの製造条件の改良をさらに促進することができる。
【0097】
(6)上記(1)~(5)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記非線形関数は、ポアソン方程式および輸送方程式のうちの少なくとも1つに基づき構築される関数を含む、もの。
【0098】
このような構成によれば、物理モデルの解釈性を高めることで、半導体デバイス製造プロセスの製造条件の改良をさらに促進することができる。
【0099】
(7)情報処理方法であって、上記(1)~(6)の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを含む、方法。
【0100】
このような構成によれば、入力データに基づき、物理現象を精度良く再現可能な非線形な物理モデルを構築することができる。
【0101】
(8)情報処理プログラムであって、少なくとも1つのコンピュータに、上記(1)~(6)の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを実行させる、もの。
【0102】
このような構成によれば、入力データに基づき、物理現象を精度良く再現可能な非線形な物理モデルを構築することができる。
もちろん、この限りではない。
【0103】
最後に、本開示に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0104】
1 :情報処理システム
2 :情報処理装置
3 :ユーザ端末
20 :通信バス
21 :通信部
22 :記憶部
23 :プロセッサ
30 :通信バス
31 :通信部
32 :記憶部
33 :プロセッサ
34 :表示部
35 :HMIデバイス
231 :取得部
232 :特定部
233 :生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8