(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014812
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】メタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物の作製方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/00 20060101AFI20240125BHJP
A23K 50/90 20160101ALI20240125BHJP
A01K 67/04 20060101ALI20240125BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20240125BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20240125BHJP
A01K 67/033 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
A01K67/00 E
A23K50/90
A01K67/04 Z
A23K10/30
A23K20/163
A01K67/033 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117893
(22)【出願日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2022116791
(32)【優先日】2022-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504178742
【氏名又は名称】田中 龍一郎
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】田中 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌之
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005EA03
2B005FA03
2B005FA07
2B150AA09
2B150DC13
2B150DD44
(57)【要約】
【課題】痛風と糖尿病の2つの病態を併せ持つ肥満の蚕を用いて、メタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物を提供する。
【解決手段】油蚕であって、糖液を塗布した桑葉を投与、または、糖液を加えた桑葉抽出物を投与されたことによって、ヒトの肥満、痛風、糖尿病の全てに類似した疾患モデル動物として利用する。油蚕は、具体的には、o06油蚕、o211油蚕、o22油蚕、o30油蚕、又はo31油蚕の何れかを用いる。o06油蚕などは総合データベースSilkwormBaseの中の油蚕の系統である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全身が均一な半透明で生命力がある油蚕に対して、糖液を塗布した桑葉を投与するステップ、または、糖液を加えた桑葉抽出物を投与するステップを含むことにより、ヒトの肥満、痛風、糖尿病の全てに類似した疾患モデル動物を作製することを特徴とするメタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物の作製方法。
【請求項2】
家蚕の尿酸蓄積能のみが突然変異で欠損した系統の内、o06油蚕、o211油蚕、o22油蚕、o30油蚕、又はo31油蚕の何れかに、糖液を塗布した桑葉を投与するステップ、または、糖液を加えた桑葉抽出物を投与するステップを含むことにより、ヒトの肥満、痛風、糖尿病の全てに類似した疾患モデル動物を作製することを特徴とするメタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物の作製方法。
【請求項3】
全身が均一な半透明で生命力がある油蚕であって、糖液を塗布した桑葉を投与、または、糖液を加えた桑葉抽出物を投与されたことによって、ヒトの肥満、痛風、糖尿病の全てに類似した疾患モデル動物として利用できることを特徴とするメタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物。
【請求項4】
家蚕の尿酸蓄積能のみが突然変異で欠損した系統の内、o06油蚕、o211油蚕、o22油蚕、o30油蚕、又はo31油蚕の何れかであって、糖液を塗布した桑葉または糖液を加えた桑葉抽出物を投与されたことによって、ヒトの肥満、痛風、糖尿病の全てに類似した疾患モデル動物として利用できることを特徴とするメタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物。
【請求項5】
請求項3または4のメタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物を用いて、哺乳類のメタボリックシンドロームを改善又は予防する薬剤若しくは食品素材のスクリーニング方法。
【請求項6】
全身が均一な半透明で生命力がある油蚕に対して、D-グルコースを含む飼料を与え、生育阻害を示さず油蚕の体重と血糖値を増加させたことを特徴とする高血糖モデル動物。
【請求項7】
前記油蚕が、o06油蚕、o211油蚕、o22油蚕、o30油蚕、又はo31油蚕の何れかである請求項6の高血糖モデル動物。
【請求項8】
請求項6又は7の高血糖モデル動物を用いて、前記油蚕の血糖値と尿酸値を、それぞれヒトの血糖値と尿酸値に対比することで、前記油蚕に与える食事量又は食事構成における血糖値および尿酸値への影響を評価する高血糖モデル動物の利用方法。
【請求項9】
請求項6又は7の高血糖モデル動物を用いて、前記油蚕の血糖値と尿酸値を、それぞれヒトの血糖値と尿酸値に対比することで、前記油蚕に投与する薬剤における血糖値および尿酸値への影響を評価する高血糖モデル動物の利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vivoメタボリックシンドローム改善機能評価用のモデル動物の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肥満、高血糖症、高尿酸血症は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群ともいう)と密接に結びついており、心臓をはじめとする循環器に関連するイベント発症のリスクファクターであり、また、腎不全の最大原因とも言われている。
医師の診断を受けることのない潜在的患者(未病患者)は、極めて多数存在しており、特に、痛風患者は、耐糖能異常を有する頻度が高く20~50%と報告されている。
各自で傷病や症候を判断し医療品を使用し、各自で健康を管理し、また疾病を治療するといったセルフメディケーションにより、こうした未病患者の肥満、高血糖、尿酸生成を抑制し、適正レベルに維持することが重要であり、そのために医師の処方不要のサプリメントや機能性食品の開発が急務である。
【0003】
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群ともいう)は、内蔵脂肪の蓄積による内臓脂肪型の肥満に加え、脂質異常、高血圧、高血糖の動脈硬化リスクが2つ以上重なり、心臓病や脳卒中などになりやすい病態を言う。
このメタボリックシンドロームを改善・予防する薬剤や食品素材の候補となる化合物が、メタボリックシンドロームの改善機能を有しているかの評価を行うためには、動物個体を用いる必要があり、かかる改善機能を簡便に安価で測定できるモデル動物が必要となる。
しかしながら現状、メタボリックシンドローム改善機能評価用のモデル動物自体は存在せず、個別で複数の病態動物を使った評価が必要となり、重複するコストがかかる。
【0004】
一方で、哺乳動物を使った食品や化粧品原料についての(医薬品開発を除く)薬理毒性試験は、2013年以来、EU欧州連合で禁止され、これを我が国メーカーも遵守している。このような背景のもと、日本独自の遺伝子資源の一つである蚕を利用する種々の栄養食品やその原料、抗生物質や化成品などの総合評価は、SGDsに適った動物愛護と倫理審査プロセスを要しない真の機能性評価ツールとしての有用性が期待される。
蚕を用いた化合物の探索は、蚕の使用による倫理的な問題が生じず、個体の大きさがある程度大きく、動きも緩慢であり、蚕の体液内への注射が容易で、体液の採取も可能である。特許文献1では、高血糖蚕を糖尿病モデル動物として利用している。また、特許文献2では、蚕の中でも、幼虫の皮膚が透明になる油蚕を利用した尿酸代謝異常の突然変異について報告がなされている。
また、本発明者らは、特許文献3において、尿酸代謝の分析に基づく高尿酸血症のモデル動物として、ナショナルバイオリソース-蚕の中核機関(九州大学大学院農学研究院)と国立遺伝学研究所が共同で開発したカイコリソースの総合データベース(SilkwormBase)の中の油蚕の系統であるo06油蚕の使用について報告している。
【0005】
なお、家蚕(Bombyx mori)の尿酸生成、蓄積などの代謝にかかる遺伝子異常(突然変異)の系統が、油蚕である。元々、家蚕はシルク生産昆虫として交配と改良がなされてきた日本の遺伝子資源として知られている。そのため、純良かつ高品質なシルク(金色や医療繊維素材となるもの等)を生み出せる家蚕の系統について以前から多くの研究がなされている。体躯の小さい、また系統によっては虚弱体質の油蚕は、その付加価値がほとんど無く、珍しい形態というだけでシーズが残されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y,Matsumoto et al.,“高血糖カイコを用いた糖尿病の基礎研究と創薬展開”, 生化学第86巻第5号,pp.613-619(2014).
【非特許文献2】N.Kawamoto et al.,“油蚕:尿酸代謝異常突然変異”,蚕糸・昆虫バイオテック 80(2),pp.75-80 (2011).
【非特許文献3】R.Tanaka et al.,“The Use of Translucent Skin Mutants of the Silkworm"o06" Strain as a Model of Hyperuricemia Based on Analysis of Uric AcidMetabolism”, AATEX 25(1), pp.1-12 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記特許文献3に開示されるとおり、高尿酸血症モデルマウスの代替として、天然由来成分の単回、任意経口投与での評価からカミツレ由来の尿酸値低下作用物質を見出した。また、上記特許文献2に開示されるとおり、糖負荷状態の蚕を糖尿病モデル動物として薬剤の開発に利用している例がある。
しかしながら、痛風と糖尿病の2つの病態を併せ持つ肥満の蚕は、知られていないのが現状である。
【0008】
かかる状況に鑑みて、本発明は、痛風と糖尿病の2つの病態を併せ持つ肥満の蚕を用いて、メタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、痛風と糖尿病の2つの病態を併せ持つ肥満の油蚕の作製に成功した。現状、真正メタボリックシンドローム(特に高尿酸血症を原発とする糖尿病)のモデル動物は存在せず、作製に成功した油蚕は、低コストで実施可能な種々の栄養食品やその原料、抗生物質や化成品などの機能性総合評価が可能であり、SGDsに適った動物愛護と倫理審査プロセスを要しない機能性評価ツールとしての有用性が高い。
【0010】
すなわち、本発明のメタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物の作製方法は、全身が均一な半透明で生命力がある油蚕に対して、糖液を塗布した桑葉を投与するステップ、または、糖液を加えた桑葉抽出物を投与するステップを含むことにより、ヒトの肥満、痛風、糖尿病の全てに類似した疾患モデル動物を作製する。
【0011】
ここで、油蚕は、具体的には、家蚕の尿酸蓄積能のみが突然変異で欠損した系統の内、o06油蚕、o211油蚕、o22油蚕、o30油蚕、又はo31油蚕の何れかを用いる。o06油蚕、o211油蚕、o22油蚕、o30油蚕、o31油蚕は、総合データベースSilkwormBaseの中の油蚕の系統である。
各油蚕の系統の入手方法については、九州大学大学院農学研究院遺伝子資源開発研究センター(福岡県福岡市西区元岡744)からそれぞれ入手(分譲依頼)できる。油蚕の系統(o系)において、形質として皮膚の透明度の高いもの(o06, o211, o22)が特に好ましく、また、透明度がやや劣るもの(o30とo31)でも成長が良いことから好ましい。
【0012】
九州大学大学院農学研究院遺伝子資源開発研究センターは、日本医療開発機構(AMED)に現在移管されたナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP) における蚕リソースを統括する代表機関であり、基礎研究に用いる生物資源を収集、保存・整備し、研究者に提供している。遺伝子資源開発研究センターが現在維持する油蚕の系統(o系)は41系統あり、油蚕の全身が半透明のもの(o06油蚕、o211油蚕、o22油蚕、o30油蚕、o31油蚕)の他に、全身がゼブラ模様のもの(ゼブラタイプ)もある。なお、各系統の詳細は、遺伝子資源開発研究センターが運営するNBRPカイコ(SIlkwormBase)において公開されている。また、尿酸蓄積能とは、血中から尿酸を真皮細胞へとトランスポートできない、或いは、でき難いものもあれば、トランスポートされたものを顆粒化して蓄積できないものもある。
本発明で用いることのできる油蚕は、全身が半透明であり、体内で尿酸を生成するが、尿酸を真皮細胞内に輸送できない場合と、輸送しても細胞内で尿酸顆粒の形で蓄積できない場合の両方の系統が存在し、いずれの場合においても表皮に尿酸顆粒が存在しないことから光を乱反射せず体表が透明~半透明になることが特徴である。蚕の体内において尿酸はキサンチン脱水素酵素(XDH、E.C. 1.1.1.204)の働きで生成するが、XDHはヒポキサンチンをキサンチンに変換し、キサンチンはさらに尿酸へと段階的に酸化する反応を触媒する。本発明で用いることのできる油蚕としては、現状での昆虫生化学的常識からその実験中において安定性、継続性があり(途中で死なない)、シンプルにプリン代謝(ヒポキサンチン->キサンチン->尿酸->アラントイン)が説明できる系統であることが要件となる。明確にプリン代謝が説明できないと、マウスなどの代替として使用できないからである。また、試料となる油蚕を、ツベルクリン接種で使用する26ゲージ針よりもさらに細い針の注射器を使って注射しても、幾ばくかの出血は避けられず、この負担に耐え、出血を止めるメラノーシスを起こし(ヒトでいう血小板で傷口を塞ぐ反応)、少なくとも2時間以上延命できる生命力がある系統でなければ、尿酸や血糖の定量評価はできない。
【0013】
また、本発明のメタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物は、全身が均一な半透明で生命力がある油蚕であって、糖液を塗布した桑葉を投与、または、糖液を加えた桑葉抽出物を投与されたことによって、ヒトの肥満、痛風、糖尿病の全てに類似した疾患モデル動物として利用できる。
ここで、上記と同様に、油蚕は、具体的には、家蚕の尿酸蓄積能のみが突然変異で欠損した系統の内、o06油蚕、o211油蚕、o22油蚕、o30油蚕、又はo31油蚕の何れかを用いる。
【0014】
本発明のスクリーニング方法は、上記のメタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物を用いて、哺乳類のメタボリックシンドロームを改善又は予防する薬剤若しくは食品素材のスクリーニングを行うものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のメタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物によれば、油蚕を用いるため、低コスト、低投与量での改善機能評価ができるといった効果がある。特にその血球成分含量が通常マウスのそれと比べ極めて低いことから、自ずと体液を得る前処理操作が簡便であるといった効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図7】春季の蚕と秋季の蚕の糖負荷群の平均体重変動を示すグラフ
【
図9】アンセリン及びアンセリン様物質の投与における血糖値低下のグラフ
【
図10】アーユルベーダ資源植物エキスの投与における血糖値低下のグラフ
【
図11】メトホルミンその他の投与における血糖値低下のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0018】
(実施手順について)
実験に用いた油蚕は、九州大学大学院農学研究院遺伝子資源開発研究センターの総合データベース(SilkwormBase)の中の油蚕の系統で、全身が均一な半透明で生命力があるo06油蚕を用いた。
o06油蚕の血糖の定量方法に関しては、油蚕プール血漿(溶液)を用いたNMR(Nuclear
Magnetic Resonance)測定による油蚕の血糖を検出することにより、NMR測定条件を決定した。油蚕プール血漿の処理液(300μL→油蚕の血15μL相当)を用いてNMR測定を行った。NMR測定条件(検出濃度確認と溶媒、測定温度)は、TSP-d4(3-(トリメチルシリル)プロピオン酸-d4ナトリウム塩)を内標準物質、トレハロース無水(Trehalose anhydrous)で検量線を作成した(r2=0.9978)。糖のNMR測定溶媒として汎用される重水を始め、配糖体の測定で利用される重DMSOや重ピリジンで、血糖測定に良好な温度条件を決定した。
【0019】
次に、評価試料(油蚕)の作製について説明する。o06油蚕を飼育し、5齢2日目の実験前夜から糖液を塗布した新鮮桑葉に切り替え、17時間後に評価試料に対して疑似静脈内に注射器を用いて投与し、投与2時間後に尾角から採血した。
肥満度は、5齢2日目の実験前夜から糖液を塗布した新鮮桑葉に切り替えた後、17時間後の体重の変化で確認した。また、尿酸値の測定には、10μLを採血し、HPLC-UV法(紫外検出の高速液体クロマトグラフ)を用いて、血漿中UA(uric acid)値(mg/dL)を測定した。また、血糖値の測定には、15μLを採血し、1H-NMR法で血糖値(mg/dL)を測定した。
【0020】
図1において、(1)は油蚕の疑似静脈内投与のイメージ図、(2)は糖液に予め浸した新鮮な桑葉を油蚕に与えたイメージ図を示している。
新鮮な桑葉に10(w/v%)のD-グルコース(D-glucose)の糖液を塗布し、採血前夜の17時から翌朝10時の17時間、評価試料のo06系統の油蚕(5齢2日目)に、糖液を塗布した桑葉を与えた。評価試料(コントロールでは生理食塩水のみ)を単回投与し、2時間後に油蚕の尾角から採血を行った。ここで、糖液の濃度について10(w/v%)としたのは、糖濃度が高すぎると浸透圧の関係で、新鮮な桑葉が痛むのと、ネクローシス(身体の一部分を構成する組織細胞の死)の発生で萎縮(体重減少)のリスクを考慮したためであり、また、油蚕の桑葉への食いつきの良さも考慮し、糖液の濃度を決定した。
【0021】
血漿UA値(mg/dL)は、HPLC-UV法で測定し、また、血糖値(mg/dL)は、1H-NMR法で測定した。
陽性対照としては、アロプリノール(allopurinol)(高尿酸血症改善薬)、病態マウスに対する血中尿酸値低下作用が認められたカミツレ由来のTrans-2-β-D-glucopyranosyloxy-4-methoxy
cinnamic acid(2G4M)結晶とした。
【0022】
(実験結果について)
図2は、体重測定結果を示すグラフであり、縦軸は体重(g)、横軸は時間(hr)を示している。また、実施例Aは、上記のとおり糖液を塗布した桑葉で飼育した油蚕(糖負荷群)、比較例Aは、無調整の桑葉で飼育した油蚕(無調整群)を表す。
図2に示すように、比較例Aの体重の自然増加に対する実施例Aの体重増加率(%)は、わずか17時間の糖負荷で約119%を示し、肥満化したことが分かる。n=7での試験を2度繰り返して確認したところ、体重増加は18.5~19%であり、再現性があった。
非特許文献1において、通常の蚕を用いてこれに配合飼料を与える際にグルコースを添加して飼育すると、高グルコース負荷で顕著な生育阻害が生じ、高血糖に伴う脂肪の蓄積と体重増加といった生活習慣病に特徴的な状態が発現しない問題があった。本実施例で明らかになったように、本発明の油蚕を用いた病態モデル動物の作製方法で、グルコースの高負荷で生育阻害を示さず油蚕の体重と次に示すように血糖値を増加させたことを特徴とする高血糖モデル動物が実現できた。
【0023】
図3は、油蚕の血漿中血糖シグナルの比較図であり、(1)は実施例Aの油蚕の血漿中血糖シグナル、(2)は比較例Aの油蚕の血漿中血糖シグナル、また(3)は糖標準品(420mg/dL)のシグナルを示している。また、
図4は、血糖値(mg/dL)の測定結果を示すグラフである。
図3及び
図4に示すように、実施例A(n=4~6)は、一晩(17時間)で比較例Aが与える血糖値の5~8倍の値を示し、有意な高血糖状態を示したことが分かる。
【0024】
図5は、血漿UA値の測定結果を示すグラフであり、下記表1は、実施例A~C及び比較例Aの尿酸(UA)値をそれぞれ表す。ここで、実施例Bは、油蚕(糖負荷群)にアロプリノールを加えたもの、実施例Cは、油蚕(糖負荷群)にカミツレ由来の上記2G4M結晶を加えたものを表す。
【0025】
【0026】
図5及び上記表1に示すように、比較例Aに対して、実施例A~Cの尿酸値(mg/dL)は、ヒトと近似し、一過性の低傾向(ヒト:より水への溶解度の高いグルコースが血中に存在するため、血中尿酸は腎臓での再吸収がされず尿排泄あるいは糞排泄され、結果的に血中尿酸が低下するが、この状態は腎臓が悲鳴をあげている末期的な状況である、油蚕:腸管に存在する尿酸はそのまま、あるいはアラントインとして糞排泄され、血中移行は少ない、この時期は放尿しないためと推察)を示したが、同治療薬のアロプリノールとカミツレ由来の2G4M結晶(>>99%)のヒトでの治療時の投与量に従った単回投与でin vitroと同様に低下作用を示した。ここで、n=7である。
【0027】
図6は、血中尿酸値(mg/dL)の測定結果を示すグラフである。実施例Dは、糖負荷状態の油蚕+アンセリン群を表す。アンセリン標準品(焼津水産化学工業株式会社製)は、in vitro試験でキサンチンオキシダーゼ(XO)を阻害しなかったが、糖負荷状態の油蚕を用いた試験では、その血中尿酸値を低下させた。すなわち、このことはXO阻害とは異なる作用機序(再利用酵素のHGPRT(ヒポキサンチン-グアニン-ホスホリボシルトランスフェラーゼ)の活性化)による尿酸低下作用であり、XO阻害活性以外でのin vivo利用の可能性をも示唆し、Hyp,Xanサルベージ活性を有するアンセリン類の評価が可能であることを示している。
本発明のメタボリックシンドローム改善機能評価用モデル動物、糖負荷しないo06油蚕、いずれもアンセリンやカルノシンといったXO阻害活性が無いが、尿酸値を下げる物質の評価や、HGPRT活性評価が行えるといった特性がある。
以上の結果から、油蚕の血糖値と尿酸値を、それぞれヒトの血糖値と尿酸値に対比することで、油蚕に与える様々な薬剤による血糖値および尿酸値への影響を評価する高血糖モデル動物の利用方法が与えられることが明らかとなった。
【0028】
油蚕は、通常の蚕と同様に低コスト(18円/匹程度)、低投与量(0.075mg/匹程度、マウスの約30分の1以下)での評価が可能であり、特にその血球成分含量が通常のマウスのそれと比べ約0.16%と極めて低いため、体液を得る前処理操作が簡便である。また、ウリカーゼ活性を有するマウス(約500円以上/匹)に、オキソン酸を前投与し作成する病態モデル動物と異なり、同活性が殆ど観られない先天性高尿酸血症のo06系統の油蚕は、比較的安定な病態素材である。さらに、作用機序が微妙に異なる高尿酸血症治療剤のフェブリク(登録商標)、ウリアデック(登録商標)、ザイロリック(登録商標)の全てで、o06系統の油蚕とマウスとの薬効の同等性が広く確認されている。
【0029】
図7は、春季の蚕と秋季の蚕の糖負荷群の平均体重変動を示すグラフであり、縦軸は体重(g)、横軸は時間(hr)を示している。
図7に示すように、糖負荷による体重増加は、季節性に影響されないことが分かる。ここで、n=5~7、春季の蚕の体重増加は36.9%、秋季の蚕の体重増加は36.8%である。
また、
図8は、胴幅(腹囲)の測定結果であり、縦軸は胴幅(mm)、横軸は時間(hr)を示している。o06系統(5令2日目)への17時間の糖負荷によれば、
図8に示すように、胴幅の自然増加に対する糖負荷群の胴幅増加率(%)が236%を示し、胴幅増加(メタボ効果)が確認できた。n=20での試験結果である。
以上より、糖負荷o06系統油蚕のメタボリックシンドローム様(高血糖、肥満、腹囲増大)が確認された。