(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148126
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】穀物タンパク質組成物で麹を固体培養した食肉様麹菌体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/14 20060101AFI20241009BHJP
A23L 31/00 20160101ALI20241009BHJP
【FI】
C12N1/14 A
A23L31/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093646
(22)【出願日】2023-06-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2023060576
(32)【優先日】2023-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522341908
【氏名又は名称】Agro Ludens株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 清崇
(72)【発明者】
【氏名】川端 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン ラフォン
(72)【発明者】
【氏名】青谷 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】エドワード ベイリー
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
【Fターム(参考)】
4B018MD80
4B018ME14
4B018MF13
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AC14
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】麹の固体培養により得られる麹菌の固体培養物を含み、旨味の強い食肉様麹菌体組成物とその製造方法を提供する。
【解決手段】穀物中のアルファ化澱粉質をアミラーゼで糖化させた後に、糖化液を除去して得られる穀物タンパク質組成物を、固体培養の培養基質として麹菌を固体培養する。麹菌の培養により得られる固体培養物は、穀物タンパク質組成物と麹菌菌糸を伸長させた麹菌体とを含み、食肉様麹菌体組成物として用いられる。また、穀物タンパク質組成物として、バイオアルコールの製造プロセスの蒸留共産物である蒸留穀物残渣を用いて麹菌を固体培養しても、食肉様麹菌体組成物が得られる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物中のアルファ化澱粉質をアミラーゼで糖化させた後に、固液分離して糖化液を除去して得られる穀物タンパク質組成物を、固体培養の基質として種麹を植菌して麹を培養することにより、穀物タンパク質組成物と麹菌菌糸を伸長させた麹菌体を含む固体培養物を得ることを特徴とする、食肉様麹菌体組成物の製造方法。
【請求項2】
前記穀物中のアルファ化澱粉質をアミラーゼで糖化させる工程が、加水した生の穀物を昇温させてから耐熱性アミラーゼを添加して、アルファ化した澱粉質を糖化する工程である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
穀物タンパク質組成物として、穀物を原料とするバイオアルコールの蒸留共産物である蒸留穀物残渣を用い、穀物タンパク質組成物を固体培養の基質として種麹を植菌して麹を培養することにより、穀物タンパク質組成物と麹菌菌糸を伸長させた麹菌体を含む固体培養物を得ることを特徴とする、食肉様麹菌体組成物の製造方法。
【請求項4】
前記麹菌がアスペルギルス属の麹菌である、請求項1または3に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の方法により製造される、穀物タンパク質組成物と麹菌菌糸を伸長させた麹菌体を含む食肉様麹菌体組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の食肉様麹菌体組成物を含有する、食肉代替用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麹菌体を食肉代替用素材とする食肉様麹菌体組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりや、タンパク質資源の枯渇や価格の高騰、食肉生産による環境負荷低減という持続可能な開発目標の観点から、代替タンパク質素材の研究開発が進められている。このような代替タンパク質の一つとして、糸状菌を原料とするマイコプロテインが知られている。例えば、糸状菌である麹菌を液体培養し、培養により増殖した麹菌自体を回収して、代替タンパク質の主原料とすることが報告されている(特許文献1)。麹菌の液体培養では、水分活性の高い培地が酵母や細菌のコンタミネーションを受けやすく、大量の酸素を必要とするのでエアレーションの動力が必要であり、また液体培地あたりの菌体収率が小さく大量の廃水が発生するという、技術的、経済的な面で解決するべき課題が多いのが現状である。
【0003】
この課題を解決するために本発明者らは、麹菌を蒸煮米で固体培養して得られる麹菌の固体培養物に加水混合して、麹菌体からなる食肉様麹菌体を、残存する米培養基質から分離・回収できることを報告した(特許文献2)。液体培養に比べ、固体培養で得られる食肉様麹菌体は、より不均一さやコントラストを感じるへテロ感を有し、食肉様麹菌体として優れているものの、固体培養物から残存基質を洗浄・除去する工程が煩雑であったり、この工程で旨み成分が流出するという問題があった。
【0004】
また、有用な植物性タンパク質である米由来の米タンパク質を分離、抽出する技術の開発は従来から進められている。試薬や薬品を使用せずに米タンパク質を安全な条件で製造するために、たとえば、原料として米ぬかを耐熱性α-アミラーゼの水溶液に添加して分散させ、分散液を加熱してアミラーゼの作用によって米ぬか中のでんぷんを消化させ、消化物中から固形分を分取して乾燥する高純度米蛋白質の製造法(特許文献3)や、 澱粉を含有する穀物粉砕物と水とのスラリーを加熱して、複数の澱粉分解酵素を段階的に作用させてから酵母で発酵させ、発酵させたスラリーを固液分離して固体の画分を回収して蛋白質濃縮物を得る(特許文献4)等の様々な技術が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-23172号公報
【特許文献2】特許第7264556号公報
【特許文献3】特開平6-197699号公報
【特許文献4】特表2011-516095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、麹を固体培養して得られる麹菌の固体培養物から食肉様麹菌体を製造するに際し、残存する培養基質を除去する工程が不要となり、しかも、より味のよい食肉様麹菌体組成物を製造する方法とその食肉様麹菌体組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意創意工夫した結果、蒸煮によりアルファ化した米などの穀物に、アミラーゼを作用させて澱粉質を糖化させた後、固液分離により糖化液を分離して得られる穀物タンパク質組成物は、液化して除去された中心部の澱粉質の跡が空隙となり、嵩密度が小さく酸素供給しやすい麹培養に適した穀物タンパク質組成物となり、これを培養基質として麹を固体培養すると、得られる固体培養物は外観が挽肉様であり、残存基質を除去する工程を要することなく、そのまま挽肉様食品として利用可能な食肉様麹菌体組成物となることを見出した。
この方法によれば、残存基質の除去工程が要らないばかりかむしろ、基質である穀物タンパク質組成物と麹菌菌糸を伸長させた麹菌体を含むため、麹菌の酵素作用によりタンパク質がアミノ酸まで分解されて、基質も麹自体もより旨味の強い美味しい挽肉様の食肉様麹菌体が得られ、食味も食感も栄養学上も優れたものとなる。
【0008】
さらに、糖化させた蒸煮穀物を酵母で発酵させて得られるエタノール等を蒸留するバイオアルコールの製造プロセスの蒸留共産物である蒸留穀物残渣(Distiller‘s Grain)も、麹を固体培養する基質となる穀物タンパク質組成物として使用できることを見出して、本発明を完成させるに至った。動物飼料用以外の蒸留穀物残渣の新たな用途が開発される。
【0009】
本発明は、以下(1)~(4)の食肉様麹菌体組成物の製造方法に関する。
(1)穀物中のアルファ化澱粉質をアミラーゼで糖化させた後に、固液分離して糖化液を除去して得られる穀物タンパク質組成物を、固体培養の基質として種麹を植菌して麹を培養することにより、穀物タンパク質組成物と麹菌菌糸を伸長させた麹菌体を含む固体培養物を得ることを特徴とする、食肉様麹菌体組成物の製造方法。
(2)前記穀物中のアルファ化澱粉質をアミラーゼで糖化させる工程が、加水した生の穀物を昇温させてから耐熱性アミラーゼを添加して、アルファ化した澱粉質を糖化する工程である、上記(1)に記載の製造方法。
(3)穀物タンパク質組成物として、穀物を原料とするバイオアルコールの蒸留共産物である蒸留穀物残渣を用いて、穀物タンパク質組成物を固体培養の基質として種麹を植菌して麹を培養することにより、穀物タンパク質組成物と麹菌菌糸を伸長させた麹菌体を含む固体培養物を得ることを特徴とする、食肉様麹菌体組成物の製造方法。
(4)前記麹菌がアスペルギルス属の麹菌である、上記(1)または(3)に記載の製造方法。
【0010】
また、本発明は、以下(5)の食肉様麹菌体組成物、および(6)の食肉代替用食品に関する。
(5)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法により製造される、穀物タンパク質組成物と麹菌菌糸を伸長させた麹菌体を含む食肉様麹菌体組成物。
(6)上記(5)に記載の食肉様麹菌体組成物を含有する、食肉代替用食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、物性と食感を肉類に類似させて利用するための食肉様麹菌体を含む組成物を、より手間のかからない方法で大量生産できる。
液体培養では、麹菌のアミラーゼ、ペプチダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ等の酵素の生産性が、固体培養と比較して全般的に著しく低下し、麹菌の酵素生産は、液体培養よりも固体培養の方が高い生産能を示す。固体培養された麹菌は、これら酵素の量が多く活性が高いことから、固体培養から得られる麹菌体には、麹の自己消化物や酵素や酵素分解物が含まれており、食味が良好でよりヘテロ感のある食肉様麹菌体となる。
【0012】
本発明では、固体培養物から残存基質を除去する工程が不要であるだけでなく、得られる食肉様麹菌体組成物は、基質である穀物タンパク質組成物と麹菌菌糸を伸長させた麹菌体を含むため、麹菌の酵素作用により基質や麹自体のタンパク質がアミノ酸まで分解されて、より旨味の強い美味しい挽肉様の食肉様麹菌体組成物となり、これを用いれば食味も食感も優れた食肉代替用食品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例2で製造した米タンパク質組成物の写真を示す。
【
図2】実施例4で製造した食肉様麹菌体組成物の写真を示す。
【
図3】実施例2の、米タンパク質組成物を100g用いてハンバーグ状に成型し、フライパンで焼成した食品の断面写真を示す。
【
図4】実施例4の、食肉様麹菌体組成物を100g用いてハンバーグ状に成型し、フライパンで焼成した食品の断面写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
味噌、醤油、清酒、焼酎、泡盛などの醸造食品の製造においては、蒸煮した穀類、穀物などの固体培地(固体基質)へ種麹である麹菌の胞子を散布し、その表面で麹菌を増殖させる固体培養法で固体麹(固体培養物)を製麹する。
本発明は、穀物タンパク質組成物を固体基質として麹菌を固体培養した固体培養物に関するものであり、基質である穀物タンパク質組成物と麹菌菌糸を伸長させた麹菌体を含む、食肉様麹菌体組成物とその製造方法に係る。
【0015】
麹菌とは麹をつくるための糸状菌の総称であり、本発明で用いる麹菌は、上記醸造食品の製造において使用されている麹菌が好ましく、アスペルギルス属やモナスカス属の、例えばアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・ルチュエンシス(Aspergillus luchuensis)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・グラウカス(Aspergillus glaucus)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamari)、モナスカス・ピローサス(Monascus pilosus)、モナスカス・プルプレウス(Monascus purpureus)、モナスカス・アンカ(Monascus anka)等が用いられる。
また、東南アジアで食される糸状菌による発酵食品である餅麹やテンペの製造に使用されるクモノスカビのリゾープス属(Rizopus)やケカビのムコール属(Mucor)も用いられる。
【0016】
本発明で固体培地の原料に用いる穀物は、イネ科の作物の種子であり、たとえば米、麦、トウモロコシ等が挙げられる。これらは粗破砕物であったり、玄米、分づき米等の米糠や小麦やトウモロコシのふすまが残っているものでもよい。
まず、穀物を洗浄して水に浸漬して水を吸収させてから、蒸煮機、蒸気殺菌機などにより十分に蒸煮して、澱粉質をアルファ化する。たとえば、穀物として米を使用する場合には、通常蒸煮温度100~120℃、蒸煮時間10~60分で蒸米を得るが、この条件に限定されるものではなく、穀物の種類や形状によって蒸煮条件を適宜変更する。
【0017】
蒸煮した穀物に少量加水し放冷してから、アミラーゼを添加して10~50℃程度で数時間、穀物中のアルファ化した澱粉質を加水分解して液化糖化する。加水は穀物の澱粉質を酵素により加水分解するのに適した量であれば、特に制限されない。
アミラーゼは、澱粉を加水分解できる酵素の総称であり、本発明において使用するアミラーゼは、液化酵素と言われるα-アミラーゼが主体であり、アルファ化した澱粉に対しブドウ糖間の結合を加水分解により切断して液化糖化する。
【0018】
また、アミラーゼとして、至適温度が70℃以上である耐熱性アミラーゼを用いると、穀物のアルファ化と澱粉の液化を同時に行うことができる。耐熱性α-アミラーゼは、至適温度が70℃以上好ましくは80℃以上のものを用いると、アミラーゼ処理を70℃~100℃、好ましくは80℃~100℃で行うことができるので、澱粉のアルファ化と液化を同じ工程で行える。
本発明で使用する耐熱性α-アミラーゼは、公知の耐熱性α-アミラーゼを使用することができ、例えばBIOTHERMOSIZE X-55D(Biogreen Enzyme Co.Ltd.タイ国)は高温で安定で、高い酵素活性を示すので好ましい。酵素の添加量は、穀物中のデンプンが温度80~100℃で1~2時間内に充分に加水分解される程度の量を用いるのが好ましい。
【0019】
まず、洗浄した生の穀物を加熱容器に収納して加水する。加水は、この後穀物の澱粉を酵素により加水分解反応するために行うので、加水量はそれに適した量であれば特に制限されない。加水が多すぎると酵素が薄まり分解反応が遅れるため、たとえば穀物1重量部に対して、水2~9重量部が好ましい。また、使用する耐熱性アミラーゼの至適pHが酸性側にある場合には、加水後乳酸等の有機酸を添加して、pHを5程度に調整する。
【0020】
加水した生の穀物を加熱処理により昇温させて、耐熱性アミラーゼを添加する。穀物の澱粉がアルファ化する前の70℃程度の温度で、耐熱性アミラーゼを添加することが好ましく、さらに昇温させると澱粉のアルファ化と澱粉の酵素分解による液化反応が同時に進行して、澱粉の糖化反応時間を短縮できる。酵素添加後の反応温度は80~100℃、反応時間は30分から2、3時間程度が好ましい。
【0021】
このようにして、蒸煮した穀物にアミラーゼを作用させて糖化させる場合でも、耐熱性アミラーゼを作用させて糖化させる場合でも、アミラーゼによる加水分解反応後、いずれも穀物中の澱粉質は糖化されて粘度の高い糖化液となるので、これを除くために、固液分離により糖化液と穀物タンパク質組成物とを分離する。
固液分離には公知の分離方法であるろ過、遠心分離、圧搾分離等のいずれも用いることができる。たとえば、フィルタープレスやスクリュープレスを用いると、含水率が40~70%程度の穀物タンパク質組成物が得られる。組成物に含まれる水分中にはオリゴ糖が含まれており、これをそのまま麹菌の固体培地の栄養分として用いることができる。
【0022】
固液分離により回収された穀物タンパク質組成物は、中心部の澱粉のみ糖化してそれが固液分離により除かれるため、中がスカスカで空隙が発生し、嵩密度が小さく酸素供給しやすく、構造上麹培養に適した穀物タンパク質組成物となる。また、乾燥重量で約75%がタンパク質でありオリゴ糖も含まれているため、麹菌の主な栄養源となる。
【0023】
得られた穀物タンパク質組成物に、そのまま種麹を植菌できる。本発明における種麹の形態は、胞子でも菌糸でもよく、種麹の添加量は、固体培地の固形分の0.1~1.5重量%であり1重量%程度が好ましい。
植菌後の培養温度は20~40℃が好ましく、また、培養時間は任意であるが、1~10日程度である。麹菌の増殖状態が緻密となるには、米タンパク質組成物の場合には、静置培養で常温で2、3~5日程度を要する。
【0024】
穀物タンパク質組成物上で麹菌が増殖すると、穀物タンパク質組成物の周りには、麹菌の菌糸が基質に喰い込んだ状態である破精が発生する。破精が緻密となった状態の固体培養物は、そのまま見た目が挽肉様である。この固体培養物は、穀物タンパク質組成物と麹菌菌糸を伸長させた麹菌体を含み、麹菌の酵素作用により麹自体だけでなく基質のタンパク質がアミノ酸まで分解されるので、より旨味が強くなり、穀物タンパク質組成物の周りに菌糸が回り、挽肉様の食味と食感になる。
【0025】
また、麹菌を培養するための穀物タンパク質組成物として、糖化させた蒸煮穀物を微生物で発酵させて、生成したエタノール等を蒸留するバイオアルコールの製造プロセスにおいて、蒸留共産物である蒸留穀物残渣(Distiller‘s Grain)を適宜粒径を調整して用いることができる。
穀物由来のバイオアルコールの製造プロセスでは、まず原料の穀物を粉砕して水と混合してスラリーを形成し、これをアミラーゼ等の酵素を添加して液化して、澱粉を糖に加水分解してマッシュを形成する。マッシュを加熱して酵素を不活性化した後、冷却したマッシュに酵母等の微生物を添加して発酵させ、発酵後、発酵ブロスを蒸留して目的物のアルコールを回収する。
【0026】
蒸留塔の塔底液は、蒸留穀物残渣と溶解材料と水を含み、これを固形分である蒸留穀物残渣と蒸留廃液に分離する。固液分離には公知の分離方法であるろ過、遠心分離、圧搾分離等のいずれも用いることができる。
固液分離により回収された蒸留穀物残渣は、穀物の種類やバイオマスの処理条件にもよるが、乾燥重量で少なくとも約20~25%のタンパク質含量を有する穀物タンパク質組成物である。
【0027】
このようにして得られた穀物タンパク質組成物を必要に応じて適宜粒径を調整してから、そのまま種麹を植菌して固体培養すると、穀物タンパク質組成物上で麹菌が増殖する。穀物タンパク質組成物の周りに、麹菌の菌糸が基質に喰い込んだ状態である破精が発生して、破精が緻密となった状態の固体培養物は、穀物タンパク質組成物と麹菌菌糸を伸長させた麹菌体を含む食肉様麹菌体組成物であり、麹菌の酵素作用により麹自体だけでなく基質のタンパク質がアミノ酸まで分解されるので、より旨味が強くなり、穀物タンパク質組成物の周りに菌糸が回り、挽肉様の食味と食感になる。
【0028】
本発明の食肉様麹菌体組成物は、そのまま食肉代替食品として使用することができ、乾燥してからも使用できる。また、本発明の食肉様麹菌体組成物に、他の食肉代替食材、たとえば大豆などの植物性蛋白質素材や卵などの1種以上混合したり、食肉に混合してもよい。特に挽肉に混合すると違和感がない。たとえば、ハンバーグ、ミートボール、ギョーザ、シューマイ、肉まんの具や、各種肉加工食品が挙げられる。
また、大豆ミートと同様に、食肉様麹菌体組成物を2軸エクストルーダー等で加工することにより、タンパク質を組織化し食感、形状が変化した食肉代替用食品を得ることができる。
このように、本発明の食肉様麹菌体組成物を含有する食肉代替用食品には、挽肉様のもの以外にも、公知のエクストルーダー処理技術等で任意に加工された形状や食感のものが包含される。
【0029】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の「%」は「重量%」を意味する、
【実施例0030】
[実施例1]
[米タンパク質組成物の製造(その1)]
米10kgを洗浄して1時間浸水した後、100℃で40分間蒸煮処理をし、米の固形分率が30%になるように加水した。液温55℃以下でpHを5程度に調整し、グルク100G(天野エンザイム株式会社)を10g添加し、混合攪拌した。室温にて12時間静置した後、スクリュープレスによって、糖化反応物から米タンパク質組成物を回収した。
【0031】
[実施例2]
[米タンパク質組成物の製造(その2)]
加熱容器中の洗浄した米35kg対して、全容量が100Lになるように加水した。乳酸2.5mLを加え、pHを5.0程度になるように調整した。昇温を開始し、デンプンのα化が始まる前の70℃で、耐熱性アミラーゼBIOTHERMOSIZE X-55D(Biogreen Enzyme(Thailand)Co.Ltd.)を50mL添加した。沸点到達後、1時間保持し、その後スクリュープレスによって、糖化反応物から米タンパク質組成物を回収した。写真を
図1に示す。
【0032】
[実施例3]
[蒸留穀物残渣の製造]
カッターミルで5mm以下に粉砕したコーン10kgに対して、全容量が50Lになるように加水した。乳酸2.5mLを加え、pHを5程度になるように調整した。昇温を開始し、アルファ化が始まる前の70℃で耐熱性アミラーゼ BIOTHERMOSIZE X-55D(Biogreen Enzyme(Thailand)Co.Ltd.)を50mL添加した。沸点到達後、1時間保持した。その後、室温に糖化液を冷却し、酵母を10g投入し、室温で2日間エタノール発酵させた。その後、エタノール発酵液を単蒸留し、固形残渣をスクリュープレスで脱水し、蒸留穀物残渣を得た。
【0033】
[実施例4]
[食肉様麹菌体組成物の製造]
米麹菌は、A.oryzaeの麹菌粉末を用いた。
実施例2で製造した米タンパク質組成物の湿重量に対して、2w/w%の米麹を植菌し、室温25℃で3日間常法で麹を静置培養した。米タンパク質組成物の周りに破精(麹菌の菌糸が基質に喰い込んだ状態)が発生した食肉様麹菌体組成物が得られた。写真を
図2に示す。
【0034】
[実施例5]
[焼成テスト]
実施例2で得られた米タンパク質組成物と実施例4で得られたと食肉様麹菌体組成物のそれぞれ100gに対して、パーム油10gと小麦粉5gを混合し、常法によりハンバーグ状に成型しフライパンで焼成した。
図3と
図4にそれぞれの写真を示す。実施例2で得られた米タンパク質組成物には、食物繊維感があるのに対して、実施例4で得られた米タンパク組成物で固体培養した食肉様麹菌体組成物には、肉粒感があり、旨みが強く感じられた。