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特開2024-148154大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関及びこれを動作させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148154
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関及びこれを動作させる方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 3/12 20060101AFI20241009BHJP
   F02B 25/02 20060101ALI20241009BHJP
   F02M 67/14 20060101ALI20241009BHJP
   F02D 19/10 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
F02B3/12
F02B25/02
F02M67/14
F02D19/10
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024050723
(22)【出願日】2024-03-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-04
(31)【優先権主張番号】PA202300308
(32)【優先日】2023-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(71)【出願人】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】イェンスン キム
(72)【発明者】
【氏名】パーション セバスティアン
【テーマコード(参考)】
3G023
3G066
3G092
【Fターム(参考)】
3G023AA06
3G023AA11
3G023AB05
3G023AC08
3G023AF02
3G066AA07
3G066AA16
3G066AB02
3G066AB05
3G066AB06
3G066BA22
3G066DA09
3G066DC17
3G092AA03
3G092AB06
3G092AB13
3G092AC10
3G092FA14
3G092FA16
3G092HC01Z
(57)【要約】      (修正有)
【課題】非常に遅い時期の主燃料噴射遅れで運転できる大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関の運転方法を提供する。
【解決手段】この機関は、少なくとも特定の回転速度域において、主燃料噴射を遅延して運転される。更に、少なくとも1回の予備燃料噴射が、前記主燃料噴射の前に実行される。方法は、複数のシリンダの各々につき、予備燃料噴射と主燃料噴射の間のクランク角範囲において、積分された燃焼前圧力(PCP)が観察され、PCPが、圧縮ストロークの同じ範囲における積分された圧縮圧力(CP)と比較され、PCPとCPの差の計算結果として、次の回転における予備燃料噴射の大きさが増加又は減少する。少なくとも1回の予備燃料噴射を行い、PCPとCPの比較に基づいて次の回転の予備燃料噴射の大きさを調整することで、所望の大きさのロバストな予備燃焼が得られ、主燃焼を膨張ストロークの後半に移動させる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関の運転方法であって、前記機関は、
内部にピストンを有する複数のシリンダを備え、前記ピストンは、前記機関の運転中にBDCとTDCの間を往復し、ピストンロッド、クロスヘッド、コネクティングロッドを介してクランクシャフトを動作させるように前記クランクシャフトに連結され、前記クランクシャフトは前記機関の運転中に一定の回転速度で回転し、
前記機関はまた、前記複数のシリンダの各々について、燃焼のために該シリンダ内に燃料を噴射するために、1つ又は複数の燃料弁を有する燃料噴射システムを備え、
燃料噴射のタイミングは、前記燃料弁の開閉を制御することにより、該燃料弁が関連付けられるシリンダのクランク角に対して制御され、
前記機関は、少なくとも特定の回転速度域において、主燃料噴射を遅延して運転され、
少なくとも1回の予備燃料噴射が、前記主燃料噴射の前に実行され、
前記方法は、
前記複数のシリンダの各々につき、予備燃料噴射と主燃料噴射の間の或るクランク角範囲において、積分された燃焼前圧力(PCP)が観察され、
前記PCPが、圧縮ストロークの同じ範囲における積分された圧縮圧力(CP)と比較され、
PCPとCPの差の計算結果として、次の回転における予備燃料噴射の大きさが増加又は減少することを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記予備燃料噴射は、遅くともTDC後4°のクランク角、より好ましくはTDC±2°、最も好ましくはTDCで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予備燃料噴射の大きさは、PCPとCPとの間の計算された差の結果として、次の回転において、0.1~0.5msの範囲内で増加又は減少され、好ましくは0.2ms未満で増加又は減少される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記主燃料噴射は、好ましくはTDC後12°より後、より好ましくはTDC後15°より後、最も好ましくはTDC後20°より後に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1回の予備燃料噴射は、機関全負荷時に前記主燃料噴射で噴射される燃料量よりも大幅に少ない燃料噴射量からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記予備燃料噴射は、遅延された前記主燃料噴射時のシリンダ内の温度がTDC時の該シリンダ内の温度と実質的に等しくなるようにするのに十分な量の燃料からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記主燃料噴射のための燃料はガス燃料であってもよく、前記予備燃料噴射用の燃料は着火液であってもよく、
前記着火液は主燃料噴射と同時に噴射されてもよい、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関であって、
内部にピストンを有する複数のシリンダを備え、前記ピストンは、前記機関の運転中にBDCとTDCの間を往復し、ピストンロッド、クロスヘッド、コネクティングロッドを介してクランクシャフトを動作させるように前記クランクシャフトに連結され、前記クランクシャフトは前記機関の運転中に一定の回転速度で回転し、
前記機関はまた、前記複数のシリンダの各々について、燃焼のために該シリンダ内に燃料を噴射するために、1つ又は複数の燃料弁を有する燃料噴射システムを備え、
前記機関はまた、前記燃料弁の開閉を制御することにより、該燃料弁が設置されるシリンダのクランク角に対する燃料噴射タイミングを制御するように構成される電子制御ユニットを備え、前記電子制御ユニットは、主燃料噴射の前に少なくとも1回の予備燃料噴射を行うことにより、少なくとも特定の回転速度範囲において、主燃料噴射を遅らせて前記機関を運転するように構成され、
前記電子制御ユニットが、前記複数のシリンダの各々につき、予備燃料噴射と主燃料噴射の間の或るクランク角範囲において、積分された燃焼前圧力(PCP)を観察し、前記PCPを、圧縮ストロークの同じ範囲における積分された圧縮圧力(CP)と比較し、PCPとCPの差の計算結果として、次の回転における予備燃料噴射の大きさを増加又は減少させるように構成されることを特徴とする、機関。
【請求項9】
前記電子制御ユニットは、前記予備燃料噴射を、クランク角で遅くともTDC後4°、より好ましくはTDC±2°、最も好ましくはTDCで行うのが好ましい、請求項8に記載の機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関の運転方法に関する。この機関は、内部にピストンを有する複数のシリンダを備える。前記ピストンは、機関運転中にBDCとTDCの間を往復し、ピストンロッド、クロスヘッド、コネクティングロッドを介してクランクシャフトを動作させるように前記クランクシャフトに連結する。前記クランクシャフトは前記機関の運転中に一定の回転速度で回転する。前記機関はまた、前記複数のシリンダの各々について、燃焼のために該シリンダ内に燃料を噴射するために、1つ又は複数の燃料弁を有する燃料噴射システムを備える。ここで、燃料噴射のタイミングは、前記燃料弁の開閉を制御することにより、該燃料弁が関連付けられるシリンダのクランク角に対して制御される。また前記機関は、少なくとも特定の回転速度域において、主燃料噴射を遅延して運転される。更に、少なくとも1回の予備燃料噴射が、前記主燃料噴射の前に実行される。
【0002】
本発明は、このような機関にも関する。
【背景】
【0003】
大型ターボ過給式2ストローク圧縮着火式クロスヘッド内燃機関は、通常、コンテナ船などの大型外航船や発電所の原動機として使用されている。
【0004】
特に、外航船で運転される場合、ねじり振動を制御することは困難である。このようなねじり振動は、機関とプロペラを接続するプロペラシャフトがねじり的に比較的柔軟であり、このねじり的に比較的柔軟なシステムが、機関からの変動する接線圧力(トルク)にさらされるために発生する。これは、ピストン機関からのトルクがクランクシャフト1回転にわたって大きく変動するという事実に起因しており、このような船舶におけるプロペラシャフトシステムに対する要件に大きく影響する。プロペラシャフトは、機関とプロペラという2つの大きな慣性を接続し、機関からの加振(excitation)と同じ周波数範囲に固有振動数を持つ機械システムを作り出す。これらの共振におけるシャフトの応力は、機関負荷100%時の平均トルクによる応力よりも高い。機関からのこの変化する接線圧力は、各シリンダのサイクルプロセスによって引き起こされ、クランクシャフトが回転するごとに繰り返される。各シリンダにおけるこのサイクルプロセスは、クランクシャフトトルクに大きな変動を発生させる。圧縮時にはトルクは負になり、膨張時には正になる。これは図5に示されており、1つのシリンダからのシリンダ圧力PとトルクQは連続線として、6つのシリンダからのトルクの合計は破線として示されている。1回転中に複数のシリンダを一様に分布させることで、クランクシャフトトルクのばらつきは小さくなるが、それでもなお大きい。図5の例では、クランクシャフトトルクが負になる期間が、実際には1回転に6回ある。負荷-ドライブシャフト-機関系のねじれ振動の問題は、4シリンダ、5シリンダ、6シリンダ、7シリンダ機関で顕著である。機関と負荷(例えばプロペラ)の間のドライブシャフトの柔軟性を考慮すると、これらの振動は重大である。機関とプロペラの慣性は、それらをつなぐ柔軟なシャフトと組み合わさり、共振を引き起こす。共振に近い状態で走行すると、トルク変動による加振が重要となる。
【0005】
ねじり振動の問題を軽減するために、バネ式や粘性式のトーショナルダンパーが採用されている。しかし、トーショナルダンパーは大幅なコストアップと効率の低下をもたらす。さらに、トーショナルダンパーを使用した場合でも、これらの機関はしばしばバードレンジ(Barred Speed Range (BSR),危険回転
【0006】
数範囲や連続運転禁止回転速度範囲とも呼ばれる)を有する。バードレンジでは、シャフトの高い応力が寿命を縮めるため、(典型的には60秒以上の)連続運転が許されない。連続運転が許されないため、バードレンジでは高い応力制限が適用される。しかし、圧縮圧力と燃焼圧力が上昇する傾向にあるため、許容応力振幅を達成するためには、さらなる対策が必要になることが多い。許容応力レベルを達成するために、5シリンダ及び6シリンダ機関では、バードレンジ、高強度シャフト材料の使用、重いフライホイールにもかかわらず、ダンパーが必要とされることが多い。
【0007】
シミュレーションと測定により、着火/燃焼の遅れがシリンダ圧力に影響を与え、トルク変動のある重要な次数を大幅に減少させることが示されている。従って、燃料噴射を遅らせることによって、ねじれ加振を減少させることができる。しかし、上死点(TDC)後10°のクランク角を越えて燃料噴射を遅らせることは、ディーゼルノックの発生により通常は不可能である。
【0008】
DK201770489A1では、ディーゼルノックに関する前述の問題を、TDC後に少なくとも1回、燃料の予備噴射を行うことで解決している。
【0009】
これにより、燃焼室内の温度がより高いレベルに保たれ、ディーゼルノックのリスクを伴わずに主噴射の最大許容遅れが増大する。この先行技術文献では、予備噴射はTDC後6~10°の間で行われる。
【0010】
US2006/0241848A1からは、冒頭で述べた種類の内燃機関を運転する別の方法が知られている。
【0011】
ダンパーは非常に高価であり、しばしば機関のコストの約10%を占める。また、特に5シリンダ機関では、一般的に使用されるスプリング式ダンパーは、バードレンジ以上でもかなりの電力を消費する。ダンパーの必要性を回避するために5次と6次の加振を大幅に減らすには、燃焼をTDC後10°クランク角よりかなり遅らせなければならない。本発明の出願人がクランク角20°を試験したとき、膨張が進みすぎて燃焼中の温度がディーゼルノックを防止するには低すぎることが明らかになった。ディーゼルノックは非常に破壊的な現象であり、実用上容認できない。燃焼室内の部品に過大な負荷を与え、カバーの浮き上がりにもつながる。
【0012】
5シリンダ及び6シリンダ機関のバードレンジは、通常、指定最大連続定格(Specified Maximum Continuous Rating,SMCR)速度の40%以上から始まる。40%のSMCR回転数における対応する機関負荷は、公称プロペラ曲線(Nominal Propeller Curve))上ではわずか6%であり、海上試運転条件下では、プロペラマージン(Light Running Margin,LRM)のため、さらに低くなる可能性がある。主燃焼による5次、6次へのプラスの効果を得るためには、予備燃焼を小さく抑える必要がある。そのため、予備燃焼のための燃料噴射の大きさをコントロールすることが重要である。これは、燃料噴射装置が噴射可能な最小量に近い場合は特に難しい。
【摘要】
【0013】
上記の点に鑑み、本発明の目的は、少なくとも所定の回転域において、上記の問題を克服するか少なくとも軽減するために、非常に遅い時期の主燃料噴射遅れで運転することができる、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関の運転方法を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、このような大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関を提供することである。更なる実装形態は、従属請求項や発明の詳細な説明、図面から明らかになるだろう。
【0015】
第1の捉え方によれば、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関の運転方法が開示される。この機関は、内部にピストンを有する複数のシリンダを備える。前記ピストンは、機関運転中にBDCとTDCの間を往復し、ピストンロッド、クロスヘッド、コネクティングロッドを介してクランクシャフトを動作させるように前記クランクシャフトに連結する。前記クランクシャフトは前記機関の運転中に一定の回転速度で回転する。前記機関はまた、前記複数のシリンダの各々について、燃焼のために該シリンダ内に燃料を噴射するために、1つ又は複数の燃料弁を有する燃料噴射システムを備える。ここで、燃料噴射のタイミングは、前記燃料弁の開閉を制御することにより、該燃料弁が関連付けられるシリンダのクランク角に対して制御される。また前記機関は、少なくとも特定の回転速度域において、主燃料噴射を遅延して運転される。更に、少なくとも1回の予備燃料噴射が、前記主燃料噴射の前に実行される。そして前記方法は、前記複数のシリンダの各々につき、予備燃料噴射と主燃料噴射の間の或るクランク角範囲において、積分された燃焼前圧力(PCP)が観察され、前記PCPが、圧縮ストロークの同じ範囲における積分された圧縮圧力(CP)と比較され、PCPとCPの差の計算結果として、次の回転における予備燃料噴射の大きさが増加又は減少することを特徴とする。
【0016】
「積分された燃焼前圧力(PCP)」という表現は、実際の燃焼前圧力(PCP)が、測定されたシリンダ圧力を或るクランク角範囲に亘って積分することによって導出されるものであることを意味する。同様に、「積分された圧縮圧力(CP)」という表現は、実際の圧縮圧力(CP)が、測定されたシリンダ圧力を、圧縮ストローク中の或るクランク角範囲に亘って積分することによって導出されるものであることを意味する。
【0017】
燃焼室内の圧力と温度は、ノッキングの発生に影響する。燃焼を遅らせると、燃焼室内の空気が膨張するため、温度と圧力の両方が低下する。少なくとも1回の予備燃料噴射を行い、PCPとCPの比較に基づいて次の回転の予備燃料噴射の大きさを調整することで、所望の大きさのロバストな予備燃焼が得られ、主燃焼を膨張ストロークの後半に移動させることができ、ディーゼルノックのリスクを伴わずに5次加振を大幅に低減することができる。これは、ダンパーのサイズ/容量を大幅に削減できることを意味し、設置の態様によっては省略することもできる。
【0018】
上記に置いて、TDCはクランク角0°である。PCPは、TDC後のaからbまでの角度ウィンドウにおけるシリンダ圧力の積分であり、ここでa及びbはともに>0である。一方CPは、TDCの反対側、すなわち-bから-aまでの同じ角度ウィンドウにおけるシリンダ圧力の積分である。差はPCPからCPを引いたものとして計算される。実際には、PCPとCPの両方をウィンドウの幅で割るので、計算された差は膨張側と圧縮側の平均圧力差になる。PCPとCPの計算された差が内部で選択された設定値より大きい場合、燃料の予備噴射の噴射サイズは(好ましくは機関制御システム(ECS))によって下げられる。逆もまた同様である。
【0019】
シリンダ圧力は通常、常に一定の角度距離で測定されるため、上記で言及した2つの角度ウィンドウ、すなわちそれぞれ圧縮ストロークと膨張ストロークでも測定される。しかし、時には、ウィンドウの一部でしか計測を行わず、ウィンドウの残りの部分では推定/計算を行うことが適切な場合もある。例えば、燃焼がTDCの前に起こり、積分された圧縮圧力(CP)を決定するために純粋な圧縮シリンダ圧力曲線が要求される場合、圧縮曲線のモデルを作成してもよく、それをCPCとCPの差を計算するために利用してもよい。このようなモデルは、おそらくシリンダ圧力の測定値の一部と、圧縮ストローク中に通常何が起こるかという熱力学的な仮定を利用することになる。
【0020】
燃料の予備噴射は、TDC後10°のクランク角まで遅くてもよいが、より確実な測定を得るためには、燃料の予備噴射をTDCに近づけるのが有利である。従って、予備燃料噴射は、遅くともTDC後4°のクランク角、より好ましくはTDC±2°、最も好ましくはTDCで行うのが好ましい。このようにすると、PCPとCPがより長い期間にわたって計算されるため、比較がより良好かつ正確になる。
【0021】
噴射される燃料の量や大きさは、通常、噴射継続時間に比例する。一例として、予備燃料噴射の継続時間は、最初は2msに設定されている。本発明によれば、予備燃料噴射の大きさは、PCPとCPとの間の計算された差の結果として、次の回転において、0.1~0.5msの範囲内で増加又は減少される。好ましくは0.2ms未満で増加又は減少される。
【0022】
本発明によれば、主燃料噴射は、好ましくはTDC後12°より後、より好ましくはTDC後15°より後、最も好ましくはTDC後20°より後に行われる。
【0023】
しかし、前述のように、予備燃焼と遅延主噴射を備える本発明が利用される最小燃料指数(Minimum Fuel Index)は、~40%のSMCR速度に相当する。従って、燃料指数がこの閾値を下回る場合、ガスの急激な圧力上昇(gas-excitation)の大幅な増加を伴う単一噴射が使用される。海上トライアルでの軽負荷運転のため、本発明による方法は、約40~45%SMCR回転数以上のバードレンジを持つ機関にのみ利用可能である。従って、6シリンダ機関の約50%にのみ適用可能である。本発明によれば、この問題に対する解決策は、機関がバードレンジ内で運転され、燃料指数が前述の閾値以下であれば、一部のシリンダへの燃料噴射を省略することである。燃料噴射を省略し、Pc/Psを大幅に低減するこのような方法は、7シリンダや8シリンダ機関のような、低回転域で回転数が制限される機関にも適用でき、推進システムのコスト削減を可能にする。また、0ピッチ基準を満たすために通常ねじり振動ダンパー(Torsional Vibration Damper,TVD)が必要とされる可変ピッチプロペラ(CPP)プロジェクトの船舶にも適用できる。またこれが、燃焼を伴わないシリンダのPc/Psの大幅な低減と組み合わされれば、バードレンジにおける主臨界次数(main critical order)の和、ガスの急激な圧力上昇は低減されうる。
【0024】
本発明によれば、少なくとも1回の予備燃料噴射は、機関全負荷時に主燃料噴射で噴射される燃料量よりも大幅に少ない燃料噴射量からなる。
【0025】
本発明によれば、予備燃料噴射は、遅延された主燃料噴射時の当該シリンダ内の温度がTDC時の当該シリンダ内の温度と実質的に等しくなるようにするのに十分な量の燃料からなる。
【0026】
本発明によれば、主燃料噴射用の燃料はガス燃料であってもよく、予備燃料噴射用の燃料は着火液であってもよい。
【0027】
前記着火液は主燃料噴射と同時に噴射されることもある。
【0028】
第2の側面によれば、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関が提供される。この機関は、内部にピストンを有する複数のシリンダを備える。前記ピストンは、機関運転中にBDCとTDCの間を往復し、ピストンロッド、クロスヘッド、コネクティングロッドを介してクランクシャフトを動作させるように前記クランクシャフトに連結する。前記クランクシャフトは前記機関の運転中に一定の回転速度で回転する。前記機関はまた、前記複数のシリンダの各々について、燃焼のために該シリンダ内に燃料を噴射するために、1つ又は複数の燃料弁を有する燃料噴射システムを備える。前記機関はまた、前記燃料弁の開閉を制御することにより、該燃料弁が設置されるシリンダのクランク角に対する燃料噴射タイミングを制御するように構成される電子制御ユニットを備える。前記電子制御ユニットは、主燃料噴射の前に少なくとも1回の予備燃料噴射を行うことにより、少なくとも特定の回転速度範囲において、主燃料噴射を遅らせて前記機関を運転するように構成される。そして前記機関は、前記電子制御ユニットが、前記複数のシリンダの各々につき、予備燃料噴射と主燃料噴射の間の或るクランク角範囲において、積分された燃焼前圧力(PCP)を観察し、前記PCPを、圧縮ストロークの同じ範囲における積分された圧縮圧力(CP)と比較し、PCPとCPの差の計算結果として、次の回転における予備燃料噴射の大きさを増加又は減少させるように構成されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、本願発明をより詳細に説明する。
図1】例示的な実施形態による大型2ストローク圧縮着火ターボ機関の前面と一方の側面を示す斜視図である。
図2図1の機関の後面(aft end)と他方の側面を示す斜視図である。
図3図1の機関の吸気系と排気系を図式化したものである。
図4】大型船舶に搭載された図1図3の機関を示している、
図5図1~3の機関が発生するトルク変動を説明する図である、
図6図1~3の機関が発生させるトルク変動の影響を説明する図である、
図7】先行技術の機関及び図1~3による機関の燃焼室温度と圧力を示す図である。
図8】本発明による機関の2つの異なる予備燃料噴射サイズに対する燃焼室圧力を示す図である。
【詳細説明】
【0030】
以下の詳細説明において、大型ターボ過給式2ストローククロスヘッド圧縮着火内燃機関について本発明を説明する。ただし実施形態によっては、内燃機関は別のタイプの機関で有り得ることに注意されたい。
【0031】
図1から図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関を描いている。この機関は、クランクシャフト22、コンロッド、クロスヘッド23、ピストンロッドを有する。図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関を、その吸気システム及び排気システムと共に略図により表現したものである。この実施形態において、機関は直列に6本のシリンダ1を有する。ターボ過給式大型2ストロークディーゼル機関は通常、直列に配される5本から16本のシリンダを有する。これらのシリンダはエンジンフレーム24に担持される。またこのような機関は、例えば、外洋航行船の主機関や、発電所において発電機を動かすための固定型の機関として用いられることができる。機関の全出力は、例えば5000~110000kWの範囲でありうる。
【0032】
機関は2ストロークユニフロー式ディーゼル機関(圧縮着火型機関)であることができ、シリンダ1の下部領域には、ピストンにより制御されるポートであるリング状の掃気ポート19が設けられ、シリンダ1の頂部中央には排気弁が配される。このため、燃焼室内の流れは常に下から上に向かっており、機関はいわゆるユニフロー型である。掃気空気は、掃気受け2から各シリンダ1の掃気ポート19へと導かれる。シリンダ1の往復ピストン21は、燃焼室14内で掃気空気を圧縮する。シリンダカバー26には燃料弁30が2つ又は3つ配される。燃料は、これらの燃料弁30から燃焼室14内へ噴射される。燃料弁30には電子制御ユニット50が信号線(図3で破線で示されている)を通じて接続されている。燃料噴射のタイミングは電子制御ユニット50によって制御される。燃焼が生じ、排気ガスが生成される。排気弁4が開くと、排気ガスは、シリンダ1に結びついた排気ダクト20を通って排気受け3へと流れ、更に第1の排気管18を通ってターボ過給器5のタービン6へと進む。そこから排気ガスは、第2の排気管7を通って排気される。タービン6は、シャフト8を介してコンプレッサ9を駆動する。コンプレッサ9には、空気入口10から空気が供給される。
【0033】
コンプレッサ9は、圧縮された掃気を、給気レシーバ2に繋がっている給気管11へと送り込む。掃気管11の掃気空気は、給気を冷却するためのインタークーラー12を通過する。冷却された給気は、電気モーター17により駆動される補助ブロワ16を通る。補助ブロワ16は、機関が低負荷又は部分負荷である場合に、給気レシーバ2へ向かう給気の流れを圧縮する。機関の負荷が高い場合は、ターボ過給器のコンプレッサ9が、十分に圧縮された掃気空気を供給することができるので、補助ブロワ16は、逆止弁15によってバイパスされる。
【0034】
シリンダ1はシリンダライナ13の中に形成される。シリンダライナ13はシリンダフレーム25によって担持される。シリンダフレーム25は期間フレーム24によって支持される。
【0035】
レシプロ機関において、死点とは、ピストンがクランクシャフトから最も遠い位置、又は最も近い位置のことである。前者は上死点(TDC)と呼ばれ、後者は下死点(BDC)と呼ばれる。
【0036】
図4は、大型船舶40に搭載された図1図3の機関を示している。機関1は、船舶40の船尾に比較的近い機関室に設置されている。プロペラシャフト42は、船尾に取り付けられたプロペラ44に機関を接続している。プロペラシャフト42と機関1との間には、トーショナルダンパー(図示せず)を取り付けることができる。
【0037】
図5は、機関サイクル中の各シリンダにおけるサイクルプロセスに起因する機関のトルク変動を示すグラフである。機関サイクルは横軸にクランク角(degCA)で示されている。圧縮時にはトルクは負になり、膨張時には正になる。図5には、1つのシリンダからのトルクQが連続線で、6つのシリンダからの合計トルクが破線で示されている。またはシリンダ圧力P(bar)も示されている。破線は、トルク変動が大きく、6シリンダ機関が1回転するごとにトルクがわずかにゼロを下回ることが6回あることを明確に示している。
【0038】
図6は、予備燃料噴射なしで運転される機関について、機関回転数(RPM)に対するねじり振動の影響の大きさ(又はそのシミュレーション結果)を示すグラフである。ねじり振動の影響の大きさは、エンジン回転数(RPM)に対するドライブシャフトの応力(MPa)として示されている。
【0039】
グラフは、46RPM付近にピークがあることを示している。46RPM付近に大きなピークがあるため、約42RPMから49RPMの間、つまり垂直に伸びる2本の破線の間がバードレンジとされる。ねじり振動に起因するドライブシャフトの応力の大きさ、特にピーク付近の応力は、燃料噴射を遅めに行い、少量の予備噴射を行うことで低減できる。
【0040】
グラフは、鎖型の2本の破線の形で、回転数に依存する2つの応力限度を示している。下側の鎖線未満の応力レベルであれば、連続運転が許容できる。高い方の鎖線より上の応力レベルは、決して許容できない。下側の鎖線と上側の鎖線の間の応力レベルは、限られた期間だけ許容できる。
【0041】
図7は、単一のシリンダの燃料噴射イベントのタイミングを示している。破線は、予備燃料噴射なしで運転される機関のイベントを示しており、連続線は、予備燃料噴射ありで運転される機関のイベントを示している。Pで示された線は燃焼室14内の圧力を示し、Tで示された線は燃焼室内の温度を示す。横軸にはTDCに対するクランク角が度単位で、縦軸には燃焼室内の圧力がBar単位で示されている。
【0042】
予備燃料噴射なしで運転される機関では、燃料噴射はTDCの5°後まで遅れる。TDC0°から5°の燃料噴射までの間、燃焼室14の温度と圧力はともに低下する。TDC後5°で燃料が噴射され、この瞬間から燃焼室内の温度は上昇し、それぞれが最大に達する。
【0043】
予備燃料噴射ありで運転される機関では、電子制御ユニット50が燃料弁30を作動させることで、少量の予備燃料噴射が実行される。予備燃料噴射は、図示の例ではTDC後4°付近で行われる。予備噴射は、その後に続く主噴射に比べて比較的少量の燃料を噴射する燃料噴射である。予備燃料噴射は、電子制御ユニット50によって制御され、主燃料噴射が実行されるまで燃焼室14内の温度がTDC0の温度より大幅に低下しないようにするのに十分な量の燃料を噴射する。燃料の予備噴射は、単一の噴射として、又は複数の小さな予備噴射の連続として実行することができ、電子制御ユニット50はそれに応じて構成される。主燃料噴射は、実施形態によっては、TDCの最大25°後まで遅延される。好ましくは、主燃料噴射はTDCの少なくとも12°後、より好ましくはTDCの少なくとも15°後、最も好ましくはTDCの少なくとも20°後に実行される。TDCのすぐ後に予備噴射を行うと、ディーゼルノックや他の燃焼問題を起こすことなく、主燃料噴射を20-25°まで遅らせることができることが、試験やシミュレーションで示されている。
【0044】
主燃料噴射の遅延は一般に燃費を悪化させるため、通常、主燃料噴射の遅延は、ねじり振動や共振の問題を伴う機関回転数範囲でのみ適用される。このため、実施形態によっては、電子制御ユニット50は、ねじり動作の問題を伴う機関の所定の回転数範囲においてのみ、予備燃料噴射及び遅延主燃料噴射を適用するように構成されている。勿論、二重噴射(予備噴射とそれに続く遅いタイミングでの主噴射)は、例えばNOx排出の低減など、他の目的にも使用することができる。
【0045】
本発明によれば、機関を運転する公知の方法を改善するために、 シリンダの各々につき、予備燃料噴射と主燃料噴射の間の或るクランク角範囲において、積分された燃焼前圧力(PCP)を観察し、 前記PCPを、圧縮ストロークの同じ範囲における積分された圧縮圧力(CP)と比較することが提案される。そして、PCPとCPの差の計算の結果、次の回転において、予備燃料噴射の大きさを増加又は減少させる。
【0046】
このようにすることで、所望の大きさのロバストな予備燃焼が得られ、主燃焼を膨張ストロークの後半に移動させることができ、ディーゼルノックのリスクを伴わずに5次加振を大幅に低減することができる。これは、ダンパーのサイズ/容量を大幅に削減できることを意味し、設置の態様によっては省略することもできる。
【0047】
よりロバストな測定を得るために、図8に示すように、予備燃料噴射をTDCにより近づけてもよい。
【0048】
ここで、予備燃料噴射は、クランク角0°、すなわちピストンがTDCにあるときに開始される。このようにすると、PCPとCPがより長い期間にわたって計算されるため、比較がより良好かつ正確になる。図8に2つの圧力曲線PCP1とPCP2を示す、
【0049】
ここで、前者の予備燃料噴射のサイズは約2ミリ秒、後者は約5ミリ秒である。
【0050】
本発明によれば、燃料の予備噴射の大きさは、PCPとCPとの間の計算された差の結果として、次の回転において、0.1~0.5msの範囲内、好ましくは0.2ms未満で増加又は減少される。
【0051】
図8に見られるように、主燃料噴射はTDCの約20°後に行われる。主燃料噴射後のdP/dTが急すぎる場合、安全上の理由から、次の回転で燃料の予備噴射を増やす必要がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関の運転方法であって、前記機関は、
内部にピストンを有する複数のシリンダを備え、前記ピストンは、前記機関の運転中にBDCとTDCの間を往復し、ピストンロッド、クロスヘッド、コネクティングロッドを介してクランクシャフトを動作させるように前記クランクシャフトに連結され、前記クランクシャフトは前記機関の運転中に一定の回転速度で回転し、
前記機関はまた、前記複数のシリンダの各々について、燃焼のために該シリンダ内に燃料を噴射するために、1つ又は複数の燃料弁を有する燃料噴射システムを備え、
燃料噴射のタイミングは、前記燃料弁の開閉を制御することにより、該燃料弁が関連付けられるシリンダのクランク角に対して制御され、
前記機関は、少なくとも特定の回転速度域において、主燃料噴射を遅延して運転され、
少なくとも1回の予備燃料噴射が、前記主燃料噴射の前に実行され、
前記方法は、
前記複数のシリンダの各々につき、予備燃料噴射と主燃料噴射の間の或るクランク角範囲において、積分された燃焼前圧力(PCP)が観察され、
前記PCPが、圧縮ストロークの対応するクランク角範囲における積分された圧縮圧力(CP)と比較され、
PCPとCPの差の計算結果として、次の回転における予備燃料噴射の持続時間が増加又は減少することを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記予備燃料噴射は、遅くともTDC後4°のクランク角、より好ましくはTDC±2°、最も好ましくはTDCで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予備燃料噴射の持続時間は、PCPとCPとの間の計算された差の結果として、次の回転において、0.1~0.5msの範囲内で増加又は減少され、好ましくは0.2ms未満で増加又は減少される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記主燃料噴射は、好ましくはTDC後12°より後、より好ましくはTDC後15°より後、最も好ましくはTDC後20°より後に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1回の予備燃料噴射は、機関全負荷時に前記主燃料噴射で噴射される燃料量よりも大幅に少ない燃料噴射量からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記予備燃料噴射は、遅延された前記主燃料噴射時のシリンダ内の温度がTDC時の該シリンダ内の温度と実質的に等しくなるようにするのに十分な量の燃料からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記主燃料噴射のための燃料はガス燃料であってもよく、前記予備燃料噴射用の燃料は着火液であってもよく、
前記着火液は主燃料噴射と同時に噴射されてもよい、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関であって、
内部にピストンを有する複数のシリンダを備え、前記ピストンは、前記機関の運転中にBDCとTDCの間を往復し、ピストンロッド、クロスヘッド、コネクティングロッドを介してクランクシャフトを動作させるように前記クランクシャフトに連結され、前記クランクシャフトは前記機関の運転中に一定の回転速度で回転し、
前記機関はまた、前記複数のシリンダの各々について、燃焼のために該シリンダ内に燃料を噴射するために、1つ又は複数の燃料弁を有する燃料噴射システムを備え、
前記機関はまた、前記燃料弁の開閉を制御することにより、該燃料弁が設置されるシリンダのクランク角に対する燃料噴射タイミングを制御するように構成される電子制御ユニットを備え、前記電子制御ユニットは、主燃料噴射の前に少なくとも1回の予備燃料噴射を行うことにより、少なくとも特定の回転速度範囲において、主燃料噴射を遅らせて前記機関を運転するように構成され、
前記電子制御ユニットが、前記複数のシリンダの各々につき、予備燃料噴射と主燃料噴射の間の或るクランク角範囲において、積分された燃焼前圧力(PCP)を観察し、前記PCPを、圧縮ストロークの対応するクランク角範囲における積分された圧縮圧力(CP)と比較し、PCPとCPの差の計算結果として、次の回転における予備燃料噴射の持続時間を増加又は減少させるように構成されることを特徴とする、機関。
【請求項9】
前記電子制御ユニットは、前記予備燃料噴射を、クランク角で遅くともTDC後4°、より好ましくはTDC±2°、最も好ましくはTDCで行うのが好ましい、請求項8に記載の機関。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関の運転方法に関する。この機関は、内部にピストンを有する複数のシリンダを備える。前記ピストンは、機関運転中にBDCとTDCの間を往復し、ピストンロッド、クロスヘッド、コネクティングロッドを介してクランクシャフトを動作させるように前記クランクシャフトに連結する。前記クランクシャフトは前記機関の運転中に一定の回転速度で回転する。前記機関はまた、前記複数のシリンダの各々について、燃焼のために該シリンダ内に燃料を噴射するために、1つ又は複数の燃料弁を有する燃料噴射システムを備える。ここで、燃料噴射のタイミングは、前記燃料弁の開閉を制御することにより、該燃料弁が関連付けられるシリンダのクランク角に対して制御される。また前記機関は、少なくとも特定の回転速度域において、主燃料噴射を遅延して運転される。更に、少なくとも1回の予備燃料噴射が、前記主燃料噴射の前に実行される。
【0002】
本発明は、このような機関にも関する。
【背景】
【0003】
大型ターボ過給式2ストローク圧縮着火式クロスヘッド内燃機関は、通常、コンテナ船などの大型外航船や発電所の原動機として使用されている。
【0004】
特に、外航船で運転される場合、ねじり振動を制御することは困難である。このようなねじり振動は、機関とプロペラを接続するプロペラシャフトがねじり的に比較的柔軟であり、このねじり的に比較的柔軟なシステムが、機関からの変動する接線圧力(トルク)にさらされるために発生する。これは、ピストン機関からのトルクがクランクシャフト1回転にわたって大きく変動するという事実に起因しており、このような船舶におけるプロペラシャフトシステムに対する要件に大きく影響する。プロペラシャフトは、機関とプロペラという2つの大きな慣性を接続し、機関からの加振(excitation)と同じ周波数範囲に固有振動数を持つ機械システムを作り出す。これらの共振におけるシャフトの応力は、機関負荷100%時の平均トルクによる応力よりも高い。機関からのこの変化する接線圧力は、各シリンダのサイクルプロセスによって引き起こされ、クランクシャフトが回転するごとに繰り返される。各シリンダにおけるこのサイクルプロセスは、クランクシャフトトルクに大きな変動を発生させる。圧縮時にはトルクは負になり、膨張時には正になる。これは図5に示されており、1つのシリンダからのシリンダ圧力PとトルクQは連続線として、6つのシリンダからのトルクの合計は破線として示されている。1回転中に複数のシリンダを一様に分布させることで、クランクシャフトトルクのばらつきは小さくなるが、それでもなお大きい。図5の例では、クランクシャフトトルクが負になる期間が、実際には1回転に6回ある。負荷-ドライブシャフト-機関系のねじれ振動の問題は、4シリンダ、5シリンダ、6シリンダ、7シリンダ機関で顕著である。機関と負荷(例えばプロペラ)の間のドライブシャフトの柔軟性を考慮すると、これらの振動は重大である。機関とプロペラの慣性は、それらをつなぐ柔軟なシャフトと組み合わさり、共振を引き起こす。共振に近い状態で走行すると、トルク変動による加振が重要となる。
【0005】
ねじり振動の問題を軽減するために、バネ式や粘性式のトーショナルダンパーが採用されている。しかし、トーショナルダンパーは大幅なコストアップと効率の低下をもたらす。さらに、トーショナルダンパーを使用した場合でも、これらの機関はしばしばバードレンジ(Barred Speed Range (BSR),危険回転
【0006】
数範囲や連続運転禁止回転速度範囲とも呼ばれる)を有する。バードレンジでは、シャフトの高い応力が寿命を縮めるため、(典型的には60秒以上の)連続運転が許されない。連続運転が許されないため、バードレンジでは高い応力制限が適用される。しかし、圧縮圧力と燃焼圧力が上昇する傾向にあるため、許容応力振幅を達成するためには、さらなる対策が必要になることが多い。許容応力レベルを達成するために、5シリンダ及び6シリンダ機関では、バードレンジ、高強度シャフト材料の使用、重いフライホイールにもかかわらず、ダンパーが必要とされることが多い。
【0007】
シミュレーションと測定により、着火/燃焼の遅れがシリンダ圧力に影響を与え、トルク変動のある重要な次数を大幅に減少させることが示されている。従って、燃料噴射を遅らせることによって、ねじれ加振を減少させることができる。しかし、上死点(TDC)後10°のクランク角を越えて燃料噴射を遅らせることは、ディーゼルノックの発生により通常は不可能である。
【0008】
DK201770489A1では、ディーゼルノックに関する前述の問題を、TDC後に少なくとも1回、燃料の予備噴射を行うことで解決している。
【0009】
これにより、燃焼室内の温度がより高いレベルに保たれ、ディーゼルノックのリスクを伴わずに主噴射の最大許容遅れが増大する。この先行技術文献では、予備噴射はTDC後6~10°の間で行われる。
【0010】
US2006/0241848A1からは、冒頭で述べた種類の内燃機関を運転する別の方法が知られている。
【0011】
ダンパーは非常に高価であり、しばしば機関のコストの約10%を占める。また、特に5シリンダ機関では、一般的に使用されるスプリング式ダンパーは、バードレンジ以上でもかなりの電力を消費する。ダンパーの必要性を回避するために5次と6次の加振を大幅に減らすには、燃焼をTDC後10°クランク角よりかなり遅らせなければならない。本発明の出願人がクランク角20°を試験したとき、膨張が進みすぎて燃焼中の温度がディーゼルノックを防止するには低すぎることが明らかになった。ディーゼルノックは非常に破壊的な現象であり、実用上容認できない。燃焼室内の部品に過大な負荷を与え、カバーの浮き上がりにもつながる。
【0012】
5シリンダ及び6シリンダ機関のバードレンジは、通常、指定最大連続定格(Specified Maximum Continuous Rating,SMCR)速度の40%以上から始まる。40%のSMCR回転数における対応する機関負荷は、公称プロペラ曲線(Nominal Propeller Curve))上ではわずか6%であり、海上試運転条件下では、プロペラマージン(Light Running Margin,LRM)のため、さらに低くなる可能性がある。主燃焼による5次、6次へのプラスの効果を得るためには、予備燃焼を小さく抑える必要がある。そのため、予備燃焼のための燃料噴射の大きさをコントロールすることが重要である。これは、燃料噴射装置が噴射可能な最小量に近い場合は特に難しい。
【摘要】
【0013】
上記の点に鑑み、本発明の目的は、少なくとも所定の回転域において、上記の問題を克服するか少なくとも軽減するために、非常に遅い時期の主燃料噴射遅れで運転することができる、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関の運転方法を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、このような大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関を提供することである。更なる実装形態は、従属請求項や発明の詳細な説明、図面から明らかになるだろう。
【0015】
第1の捉え方によれば、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関の運転方法が開示される。この機関は、内部にピストンを有する複数のシリンダを備える。前記ピストンは、機関運転中にBDCとTDCの間を往復し、ピストンロッド、クロスヘッド、コネクティングロッドを介してクランクシャフトを動作させるように前記クランクシャフトに連結する。前記クランクシャフトは前記機関の運転中に一定の回転速度で回転する。前記機関はまた、前記複数のシリンダの各々について、燃焼のために該シリンダ内に燃料を噴射するために、1つ又は複数の燃料弁を有する燃料噴射システムを備える。ここで、燃料噴射のタイミングは、前記燃料弁の開閉を制御することにより、該燃料弁が関連付けられるシリンダのクランク角に対して制御される。また前記機関は、少なくとも特定の回転速度域において、主燃料噴射を遅延して運転される。更に、少なくとも1回の予備燃料噴射が、前記主燃料噴射の前に実行される。そして前記方法は、前記複数のシリンダの各々につき、予備燃料噴射と主燃料噴射の間の或るクランク角範囲において、積分された燃焼前圧力(PCP)が観察され、前記PCPが、圧縮ストロークの対応するクランク角範囲における積分された圧縮圧力(CP)と比較され、PCPとCPの差の計算結果として、次の回転における予備燃料噴射の持続時間が増加又は減少することを特徴とする。
【0016】
「積分された燃焼前圧力(PCP)」という表現は、実際の燃焼前圧力(PCP)が、測定されたシリンダ圧力を或るクランク角範囲に亘って積分することによって導出されるものであることを意味する。同様に、「積分された圧縮圧力(CP)」という表現は、実際の圧縮圧力(CP)が、測定されたシリンダ圧力を、圧縮ストローク中の或るクランク角範囲に亘って積分することによって導出されるものであることを意味する。
【0017】
燃焼室内の圧力と温度は、ノッキングの発生に影響する。燃焼を遅らせると、燃焼室内の空気が膨張するため、温度と圧力の両方が低下する。少なくとも1回の予備燃料噴射を行い、PCPとCPの比較に基づいて次の回転の予備燃料噴射の持続時間を調整することで、所望の大きさのロバストな予備燃焼が得られ、主燃焼を膨張ストロークの後半に移動させることができ、ディーゼルノックのリスクを伴わずに5次加振を大幅に低減することができる。これは、ダンパーのサイズ/容量を大幅に削減できることを意味し、設置の態様によっては省略することもできる。
【0018】
上記に置いて、TDCはクランク角0°である。PCPは、TDC後のaからbまでの角度ウィンドウにおけるシリンダ圧力の積分であり、ここでa及びbはともに>0である。一方CPは、TDCの反対側、すなわち-bから-aまでの同じ角度ウィンドウにおけるシリンダ圧力の積分である。差はPCPからCPを引いたものとして計算される。実際には、PCPとCPの両方をウィンドウの幅で割るので、計算された差は膨張側と圧縮側の平均圧力差になる。PCPとCPの計算された差が内部で選択された設定値より大きい場合、燃料の予備噴射の噴射サイズは(好ましくは機関制御システム(ECS))によって下げられる。逆もまた同様である。
【0019】
シリンダ圧力は通常、常に一定の角度距離で測定されるため、上記で言及した2つの角度ウィンドウ、すなわちそれぞれ圧縮ストロークと膨張ストロークでも測定される。しかし、時には、ウィンドウの一部でしか計測を行わず、ウィンドウの残りの部分では推定/計算を行うことが適切な場合もある。例えば、燃焼がTDCの前に起こり、積分された圧縮圧力(CP)を決定するために純粋な圧縮シリンダ圧力曲線が要求される場合、圧縮曲線のモデルを作成してもよく、それをCPCとCPの差を計算するために利用してもよい。このようなモデルは、おそらくシリンダ圧力の測定値の一部と、圧縮ストローク中に通常何が起こるかという熱力学的な仮定を利用することになる。
【0020】
燃料の予備噴射は、TDC後10°のクランク角まで遅くてもよいが、より確実な測定を得るためには、燃料の予備噴射をTDCに近づけるのが有利である。従って、予備燃料噴射は、遅くともTDC後4°のクランク角、より好ましくはTDC±2°、最も好ましくはTDCで行うのが好ましい。このようにすると、PCPとCPがより長い期間にわたって計算されるため、比較がより良好かつ正確になる。
【0021】
噴射される燃料の量や大きさは、通常、噴射持続時間に比例する。一例として、予備燃料噴射の持続時間は、最初は2msに設定されている。本発明によれば、予備燃料噴射の大きさは、PCPとCPとの間の計算された差の結果として、次の回転において、0.1~0.5msの範囲内で増加又は減少される。好ましくは0.2ms未満で増加又は減少される。
【0022】
本発明によれば、主燃料噴射は、好ましくはTDC後12°より後、より好ましくはTDC後15°より後、最も好ましくはTDC後20°より後に行われる。
【0023】
しかし、前述のように、予備燃焼と遅延主噴射を備える本発明が利用される最小燃料指数(Minimum Fuel Index)は、~40%のSMCR速度に相当する。従って、燃料指数がこの閾値を下回る場合、ガスの急激な圧力上昇(gas-excitation)の大幅な増加を伴う単一噴射が使用される。海上トライアルでの軽負荷運転のため、本発明による方法は、約40~45%SMCR回転数以上のバードレンジを持つ機関にのみ利用可能である。従って、6シリンダ機関の約50%にのみ適用可能である。本発明によれば、この問題に対する解決策は、機関がバードレンジ内で運転され、燃料指数が前述の閾値以下であれば、一部のシリンダへの燃料噴射を省略することである。燃料噴射を省略し、Pc/Psを大幅に低減するこのような方法は、7シリンダや8シリンダ機関のような、低回転域で回転数が制限される機関にも適用でき、推進システムのコスト削減を可能にする。また、0ピッチ基準を満たすために通常ねじり振動ダンパー(Torsional Vibration Damper,TVD)が必要とされる可変ピッチプロペラ(CPP)プロジェクトの船舶にも適用できる。またこれが、燃焼を伴わないシリンダのPc/Psの大幅な低減と組み合わされれば、バードレンジにおける主臨界次数(main critical order)の和、ガスの急激な圧力上昇は低減されうる。
【0024】
本発明によれば、少なくとも1回の予備燃料噴射は、機関全負荷時に主燃料噴射で噴射される燃料量よりも大幅に少ない燃料噴射量からなる。
【0025】
本発明によれば、予備燃料噴射は、遅延された主燃料噴射時の当該シリンダ内の温度がTDC時の当該シリンダ内の温度と実質的に等しくなるようにするのに十分な量の燃料からなる。
【0026】
本発明によれば、主燃料噴射用の燃料はガス燃料であってもよく、予備燃料噴射用の燃料は着火液であってもよい。
【0027】
前記着火液は主燃料噴射と同時に噴射されることもある。
【0028】
第2の側面によれば、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド圧縮着火式内燃機関が提供される。この機関は、内部にピストンを有する複数のシリンダを備える。前記ピストンは、機関運転中にBDCとTDCの間を往復し、ピストンロッド、クロスヘッド、コネクティングロッドを介してクランクシャフトを動作させるように前記クランクシャフトに連結する。前記クランクシャフトは前記機関の運転中に一定の回転速度で回転する。前記機関はまた、前記複数のシリンダの各々について、燃焼のために該シリンダ内に燃料を噴射するために、1つ又は複数の燃料弁を有する燃料噴射システムを備える。前記機関はまた、前記燃料弁の開閉を制御することにより、該燃料弁が設置されるシリンダのクランク角に対する燃料噴射タイミングを制御するように構成される電子制御ユニットを備える。前記電子制御ユニットは、主燃料噴射の前に少なくとも1回の予備燃料噴射を行うことにより、少なくとも特定の回転速度範囲において、主燃料噴射を遅らせて前記機関を運転するように構成される。そして前記機関は、前記電子制御ユニットが、前記複数のシリンダの各々につき、予備燃料噴射と主燃料噴射の間の或るクランク角範囲において、積分された燃焼前圧力(PCP)を観察し、前記PCPを、圧縮ストロークの対応するクランク角範囲における積分された圧縮圧力(CP)と比較し、PCPとCPの差の計算結果として、次の回転における予備燃料噴射の持続時間を増加又は減少させるように構成されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、本願発明をより詳細に説明する。
図1】例示的な実施形態による大型2ストローク圧縮着火ターボ機関の前面と一方の側面を示す斜視図である。
図2図1の機関の後面(aft end)と他方の側面を示す斜視図である。
図3図1の機関の吸気系と排気系を図式化したものである。
図4】大型船舶に搭載された図1図3の機関を示している、
図5図1~3の機関が発生するトルク変動を説明する図である、
図6図1~3の機関が発生させるトルク変動の影響を説明する図である、
図7】先行技術の機関及び図1~3による機関の燃焼室温度と圧力を示す図である。
図8】本発明による機関の2つの異なる予備燃料噴射サイズに対する燃焼室圧力を示す図である。
【詳細説明】
【0030】
以下の詳細説明において、大型ターボ過給式2ストローククロスヘッド圧縮着火内燃機関について本発明を説明する。ただし実施形態によっては、内燃機関は別のタイプの機関で有り得ることに注意されたい。
【0031】
図1から図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関を描いている。この機関は、クランクシャフト22、コンロッド、クロスヘッド23、ピストンロッドを有する。図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関を、その吸気システム及び排気システムと共に略図により表現したものである。この実施形態において、機関は直列に6本のシリンダ1を有する。ターボ過給式大型2ストロークディーゼル機関は通常、直列に配される5本から16本のシリンダを有する。これらのシリンダはエンジンフレーム24に担持される。またこのような機関は、例えば、外洋航行船の主機関や、発電所において発電機を動かすための固定型の機関として用いられることができる。機関の全出力は、例えば5000~110000kWの範囲でありうる。
【0032】
機関は2ストロークユニフロー式ディーゼル機関(圧縮着火型機関)であることができ、シリンダ1の下部領域には、ピストンにより制御されるポートであるリング状の掃気ポート19が設けられ、シリンダ1の頂部中央には排気弁が配される。このため、燃焼室内の流れは常に下から上に向かっており、機関はいわゆるユニフロー型である。掃気空気は、掃気受け2から各シリンダ1の掃気ポート19へと導かれる。シリンダ1の往復ピストン21は、燃焼室14内で掃気空気を圧縮する。シリンダカバー26には燃料弁30が2つ又は3つ配される。燃料は、これらの燃料弁30から燃焼室14内へ噴射される。燃料弁30には電子制御ユニット50が信号線(図3で破線で示されている)を通じて接続されている。燃料噴射のタイミングは電子制御ユニット50によって制御される。燃焼が生じ、排気ガスが生成される。排気弁4が開くと、排気ガスは、シリンダ1に結びついた排気ダクト20を通って排気受け3へと流れ、更に第1の排気管18を通ってターボ過給器5のタービン6へと進む。そこから排気ガスは、第2の排気管7を通って排気される。タービン6は、シャフト8を介してコンプレッサ9を駆動する。コンプレッサ9には、空気入口10から空気が供給される。
【0033】
コンプレッサ9は、圧縮された掃気を、給気レシーバ2に繋がっている給気管11へと送り込む。掃気管11の掃気空気は、給気を冷却するためのインタークーラー12を通過する。冷却された給気は、電気モーター17により駆動される補助ブロワ16を通る。補助ブロワ16は、機関が低負荷又は部分負荷である場合に、給気レシーバ2へ向かう給気の流れを圧縮する。機関の負荷が高い場合は、ターボ過給器のコンプレッサ9が、十分に圧縮された掃気空気を供給することができるので、補助ブロワ16は、逆止弁15によってバイパスされる。
【0034】
シリンダ1はシリンダライナ13の中に形成される。シリンダライナ13はシリンダフレーム25によって担持される。シリンダフレーム25は期間フレーム24によって支持される。
【0035】
レシプロ機関において、死点とは、ピストンがクランクシャフトから最も遠い位置、又は最も近い位置のことである。前者は上死点(TDC)と呼ばれ、後者は下死点(BDC)と呼ばれる。
【0036】
図4は、大型船舶40に搭載された図1図3の機関を示している。機関1は、船舶40の船尾に比較的近い機関室に設置されている。プロペラシャフト42は、船尾に取り付けられたプロペラ44に機関を接続している。プロペラシャフト42と機関1との間には、トーショナルダンパー(図示せず)を取り付けることができる。
【0037】
図5は、機関サイクル中の各シリンダにおけるサイクルプロセスに起因する機関のトルク変動を示すグラフである。機関サイクルは横軸にクランク角(degCA)で示されている。圧縮時にはトルクは負になり、膨張時には正になる。図5には、1つのシリンダからのトルクQが連続線で、6つのシリンダからの合計トルクが破線で示されている。またはシリンダ圧力P(bar)も示されている。破線は、トルク変動が大きく、6シリンダ機関が1回転するごとにトルクがわずかにゼロを下回ることが6回あることを明確に示している。
【0038】
図6は、予備燃料噴射なしで運転される機関について、機関回転数(RPM)に対するねじり振動の影響の大きさ(又はそのシミュレーション結果)を示すグラフである。ねじり振動の影響の大きさは、エンジン回転数(RPM)に対するドライブシャフトの応力(MPa)として示されている。
【0039】
グラフは、46RPM付近にピークがあることを示している。46RPM付近に大きなピークがあるため、約42RPMから49RPMの間、つまり垂直に伸びる2本の破線の間がバードレンジとされる。ねじり振動に起因するドライブシャフトの応力の大きさ、特にピーク付近の応力は、燃料噴射を遅めに行い、少量の予備噴射を行うことで低減できる。
【0040】
グラフは、鎖型の2本の破線の形で、回転数に依存する2つの応力限度を示している。下側の鎖線未満の応力レベルであれば、連続運転が許容できる。高い方の鎖線より上の応力レベルは、決して許容できない。下側の鎖線と上側の鎖線の間の応力レベルは、限られた期間だけ許容できる。
【0041】
図7は、単一のシリンダの燃料噴射イベントのタイミングを示している。破線は、予備燃料噴射なしで運転される機関のイベントを示しており、連続線は、予備燃料噴射ありで運転される機関のイベントを示している。Pで示された線は燃焼室14内の圧力を示し、Tで示された線は燃焼室内の温度を示す。横軸にはTDCに対するクランク角が度単位で、縦軸には燃焼室内の圧力がBar単位で示されている。
【0042】
予備燃料噴射なしで運転される機関では、燃料噴射はTDCの5°後まで遅れる。TDC0°から5°の燃料噴射までの間、燃焼室14の温度と圧力はともに低下する。TDC後5°で燃料が噴射され、この瞬間から燃焼室内の温度は上昇し、それぞれが最大に達する。
【0043】
予備燃料噴射ありで運転される機関では、電子制御ユニット50が燃料弁30を作動させることで、少量の予備燃料噴射が実行される。予備燃料噴射は、図示の例ではTDC後4°付近で行われる。予備噴射は、その後に続く主噴射に比べて比較的少量の燃料を噴射する燃料噴射である。予備燃料噴射は、電子制御ユニット50によって制御され、主燃料噴射が実行されるまで燃焼室14内の温度がTDC0の温度より大幅に低下しないようにするのに十分な量の燃料を噴射する。燃料の予備噴射は、単一の噴射として、又は複数の小さな予備噴射の連続として実行することができ、電子制御ユニット50はそれに応じて構成される。主燃料噴射は、実施形態によっては、TDCの最大25°後まで遅延される。好ましくは、主燃料噴射はTDCの少なくとも12°後、より好ましくはTDCの少なくとも15°後、最も好ましくはTDCの少なくとも20°後に実行される。TDCのすぐ後に予備噴射を行うと、ディーゼルノックや他の燃焼問題を起こすことなく、主燃料噴射を20-25°まで遅らせることができることが、試験やシミュレーションで示されている。
【0044】
主燃料噴射の遅延は一般に燃費を悪化させるため、通常、主燃料噴射の遅延は、ねじり振動や共振の問題を伴う機関回転数範囲でのみ適用される。このため、実施形態によっては、電子制御ユニット50は、ねじり動作の問題を伴う機関の所定の回転数範囲においてのみ、予備燃料噴射及び遅延主燃料噴射を適用するように構成されている。勿論、二重噴射(予備噴射とそれに続く遅いタイミングでの主噴射)は、例えばNOx排出の低減など、他の目的にも使用することができる。
【0045】
本発明によれば、機関を運転する公知の方法を改善するために、シリンダの各々につき、予備燃料噴射と主燃料噴射の間の或るクランク角範囲において、積分された燃焼前圧力(PCP)を観察し、前記PCPを、圧縮ストロークの同じ範囲における積分された圧縮圧力(CP)と比較することが提案される。そして、PCPとCPの差の計算の結果、次の回転において、予備燃料噴射の大きさを増加又は減少させる。
【0046】
このようにすることで、所望の大きさのロバストな予備燃焼が得られ、主燃焼を膨張ストロークの後半に移動させることができ、ディーゼルノックのリスクを伴わずに5次加振を大幅に低減することができる。これは、ダンパーのサイズ/容量を大幅に削減できることを意味し、設置の態様によっては省略することもできる。
【0047】
よりロバストな測定を得るために、図8に示すように、予備燃料噴射をTDCにより近づけてもよい。
【0048】
ここで、予備燃料噴射は、クランク角0°、すなわちピストンがTDCにあるときに開始される。このようにすると、PCPとCPがより長い期間にわたって計算されるため、比較がより良好かつ正確になる。図8に2つの圧力曲線PCP1とPCP2を示す、
【0049】
ここで、前者の予備燃料噴射のサイズは約2ミリ秒、後者は約5ミリ秒である。
【0050】
本発明によれば、燃料の予備噴射の大きさは、PCPとCPとの間の計算された差の結果として、次の回転において、0.1~0.5msの範囲内、好ましくは0.2ms未満で増加又は減少される。
【0051】
図8に見られるように、主燃料噴射はTDCの約20°後に行われる。主燃料噴射後のdP/dTが急すぎる場合、安全上の理由から、次の回転で燃料の予備噴射を増やす必要がある。
【外国語明細書】