(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148172
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物、射出成形体及び車載部品
(51)【国際特許分類】
C08L 25/08 20060101AFI20241009BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20241009BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20241009BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20241009BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C08L25/08
C08L51/04
C08L83/04
C08L33/00
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024061114
(22)【出願日】2024-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2023061012
(32)【優先日】2023-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】小林 松太郎
(72)【発明者】
【氏名】岩本 大和
(72)【発明者】
【氏名】松本 達也
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F206AA13
4F206AA45
4F206AB07
4F206JA07
4F206JL02
4J002AE054
4J002BC04W
4J002BG055
4J002BN12X
4J002BN143
4J002BN22X
4J002BP013
4J002BP033
4J002CP034
4J002FD024
4J002GC00
4J002GG01
4J002GG02
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】本開示が解決する課題は、耐熱性、靭性、剛性、アクリル系樹脂材料との溶着性に優れたスチレン系樹脂組成物を提供することである。
【解決課題】本開示は、スチレン系単量体単位(a1)及び不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)を含むスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を含むコアシェル構造のゴム状粒子(B)と、を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、前記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の含有量は40質量%~95質量%であり、かつ前記ゴム状粒子(B)の含有量は5質量%~60質量%である、スチレン系樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体単位(a1)及び不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)を含むスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を含むコアシェル構造のゴム状粒子(B)と、を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、前記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の含有量は40質量%~95質量%であり、かつ前記ゴム状粒子(B)の含有量は5質量%~60質量%である、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)はスチレン系単量体単位(b4)をさらに含有し、かつ前記スチレン系単量体単位(b4)の含有量は、当該コアシェル構造のゴム状粒子(B)の総量(100質量%)に対して、5質量%以下である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)中に含有される前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)の含有量は、当該コアシェル構造のゴム状粒子(B)の総量(100質量%)に対して、3~40質量%である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)は共役ジエン系単量体単位(b2)をさらに含有し、かつ前記共役ジエン系単量体単位(b2)の含有量は前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)の総量(100質量%)に対して、50~90質量%である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系樹脂組成物は、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)を0.5~30質量%さらに含有する、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
潤滑オイル(G)を0.05~3.00質量%さらに含有する、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)はスチレン系単量体単位(b4)をさらに含有し、
前記スチレン系単量体単位(b4)の含有量をYとし、前記潤滑オイル(G)の含有量をXとした場合、Y/X≦10となる、請求項6に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
前記潤滑オイル(G)はシリコーンオイルである、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項9】
前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)は、共役ジエン系単量体単位(b2)及びシロキサン系単量体単位(b3)からなる群から選択される1種又は2種以上をさらに含有し、かつ前記共役ジエン系単量体単位(b2)及び前記シロキサン系単量体単位(b3)の合計含有量が、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)の総量(100質量%)に対して、50質量%以上である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項10】
ノッチ有シャルピー衝撃強度(ISO179準拠、試験条件1eA)が4.0kJ/m2以上である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項11】
前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、全スチレン系単量体単位の含有量が72質量%以下である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項12】
前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)及びスチレン系エラストマー(D)、アクリル系エラストマー(E)からなる群から選択される1種又は2種以上をさらに0.5質量%以上含有する、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項13】
前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、アクリル系樹脂(F)をさらに1.0質量%以上含有する、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項14】
明度(L*)が50以下である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物を射出成形してなる射出成形体。
【請求項16】
アクリル系樹脂材料と溶着する、請求項15に記載の射出成形体。
【請求項17】
車載に用いられる、請求項14に記載の射出成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スチレン系樹脂組成物、該スチレン系樹脂組成物を用いて成形される射出成形体及び該射出成形体からなる車載部品に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン-メタクリル酸共重合樹脂等に代表されるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂は、耐熱性、透明性、剛性及び外観に優れ、且つ安価であり、スチレンモノマーへの熱分解による再利用も容易でケミカルリサイクル特性にも優れることから、弁当、惣菜等の食品容器の包装材料、住宅の断熱材用の発泡ボード、拡散剤を入れた液晶テレビの拡散板等に広く用いられている。そのため、ヘッドランプ、リアランプ、フォグランプ及びターンランプ等の車両用灯具若しくは車両内外装材、家電又はOA機器といった、耐熱性が要求される用途にも今後の展開が期待される。
しかし、汎用スチレン系樹脂と比べて、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂は機械的強度の面で劣ることが課題である。そのため、当該スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂に機械的強度を付与する技術が求められている。
例えば、特許文献1には、スチレン-メタクリル酸共重合体に対して、耐衝撃性ポリスチレン及びメチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(以下、MBS樹脂とも称する。)を配合することにより、実用的な耐熱性を保ったまま靭性を向上する技術が記載されている。
一方、車両用灯具に用いられる材料に関する技術として、特許文献2及び3が挙げられる。当該特許文献2には、ランプレンズの材料である分子量約10万のメチルメタクリレート樹脂と、ランプボディの材料であるABS樹脂とを熱溶着により接合する灯具は、レンズの接合部が溶着歪のためクラックが生じ易いという問題点を解決する技術が開示されている。より詳細には、メタクリル系樹脂に軟質ゴム層を含む多層構造重合体をブレンドした樹脂組成物に関する技術が記載されている。そして、特許文献3には、芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位、及びマレイミド単量体単位から構成されるマレイミド系共重合体と、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂又はSAN樹脂、から選ばれた1種又は2種以上の樹脂とを混練混合した樹脂組成物に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-44086号公報
【特許文献2】特開平07-282602号公報
【特許文献3】国際公開2021/006265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の技術では、機械強度の向上が不十分であった。特にノッチを有する場合の耐衝撃性の向上が不十分であり、耐衝撃性を向上するためにMBS樹脂の量を増やすと耐熱性、剛性が十分得られないことが確認された。また、上記特許文献2にも記載の通り、樹脂製のランプレンズと樹脂製のランプボディとの結合の手段として熱板溶着等の熱溶着が従来から用いられる。しかし、樹脂成形品同士の接合では異種樹脂間の相溶性等に起因して、ランプレンズとランプボディとが剥離する虞があるという新たな問題が生じる。さらには、上記特許文献3の技術では、耐薬品性、耐熱性、耐衝撃性及び流動性については検討されているものの、靭性、剛性及び異なる樹脂同士の熱溶着性については検討されていない。
また、昨今の循環型社会の形成の潮流を受けて、樹脂材料等のケミカルリサイクルが求められている。しかし、ABS樹脂はシアン化ガスの発生によりリサイクルし難いため、ABS樹脂以外の代替品が必要になる。
そこで、本開示が解決する課題は、耐熱性、靭性、剛性及びアクリル系樹脂材料との溶着性に優れたスチレン系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記問題点に鑑みて鋭意研究を進めた結果、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)とをそれぞれ所定量含有することにより、耐熱性、靭性、剛性及びアクリル系樹脂材料との溶着性に優れたスチレン系樹脂組成物、それを用いた射出成形体、並びに前記射出成形体からなる車載部品の実現に成功し、本開示を完成するに至った。すなわち、本開示は以下の通りである。
【0006】
[1]スチレン系単量体単位(a1)及び不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)を含むスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を含むコアシェル構造のゴム状粒子(B)と、を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、前記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の含有量は40質量%~95質量%であり、かつ前記ゴム状粒子(B)の含有量は5質量%~60質量%である、スチレン系樹脂組成物。
【0007】
[2]前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)はスチレン系単量体単位(b4)をさらに含有し、かつ前記スチレン系単量体単位(b4)の含有量は、当該コアシェル構造のゴム状粒子(B)の総量(100質量%)に対して、5質量%以下である、前記[1]に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0008】
[3]前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)中に含有される前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)の含有量は、当該コアシェル構造のゴム状粒子(B)の総量(100質量%)に対して、3~40質量%である、前記[1]又は[2]に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0009】
[4]前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)は共役ジエン系単量体単位(b2)をさらに含有し、かつ前記共役ジエン系単量体単位(b2)の含有量は前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)の総量(100質量%)に対して、50~90質量%である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【0010】
[5]前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)を0.5~30質量%さらに含有する、前記[1]~[4]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【0011】
[6]潤滑オイル(G)を0.05~3.00質量%さらに含有する、前記[1]~前記[5]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【0012】
[7]前記スチレン系樹脂組成物は、潤滑オイル(G)をさらに含有し、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)はスチレン系単量体単位(b4)をさらに含有し、
かつ前記スチレン系単量体単位(b4)の含有量をYとし、前記潤滑オイル(G)の含有量をXとした場合、Y/X≦10となる、前記[1]~前記[6]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【0013】
[8]前記潤滑オイル(G)はシリコーンオイルである、前記[1]~前記[7]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【0014】
[9]前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)は、共役ジエン系単量体単位(b2)及びシロキサン系単量体単位(b3)からなる群から選択される1種又は2種以上をさらに含有し、かつ前記共役ジエン系単量体単位(b2)及び前記シロキサン系単量体単位(b3)の合計含有量が、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)の総量(100質量%)に対して、50質量%以上である、前記[1]~前記[8]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【0015】
[10]ノッチ有シャルピー衝撃強度(ISO179準拠、試験条件1eA)が4.0kJ/m2以上である、前記[1]~前記[9]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【0016】
[11]前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、全スチレン系単量体単位の合計含有量が72質量%以下である、前記[1]~前記[10]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【0017】
[12]前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)及びスチレン系エラストマー(D)、アクリル系エラストマー(E)からなる群から選択される1種又は2種以上をさらに0.5質量%以上含有する、前記[1]~前記[11]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【0018】
[13]前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、アクリル系樹脂(F)をさらに1.0質量%以上含有する、前記[1]~前記[12]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【0019】
[14]明度(L*)が50以下である、前記[1]~前記[12]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【0020】
[15]前記[1]~前記[14]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物を射出成形してなる、射出成形体。
【0021】
[16]アクリル系樹脂材料と溶着する、前記[15]に記載の射出成形体。
【0022】
[17]車載に用いられる、前記[15]又は前記[16]に記載の射出成形体。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、耐熱性、靭性、剛性及びアクリル系樹脂材料との溶着性に優れた成形体に使用される、スチレン系樹脂組成物を提供することである。
本開示によれば、耐熱性、靭性、剛性、アクリル系樹脂材料との溶着性に優れた射出成形体及び該射出成形体からなる車載部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0025】
[スチレン系樹脂組成物]
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物ということもある。)は、スチレン系単量体単位(a1)及び不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)を有するスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を含むコアシェル構造のゴム状粒子(B)とを、含有し、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、前記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の含有量は40質量%~95質量%であり、かつ前記ゴム状粒子(B)の含有量は5質量%~60質量%である。
また、本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、必要により、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)及びスチレン系エラストマー(D)、アクリル系エラストマー(E)、アクリル系樹脂(F)及び潤滑オイル(G)からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有してもよい。
これにより、耐熱性、靭性、剛性、アクリル系樹脂材料との溶着性、特に熱溶着性に優れたスチレン系樹脂組成物を提供することができる。
一般的な樹脂成形品同士を溶着又は接合(特に、熱溶着又は熱接合)する方法としては、例えば、ホットメルト等の接着剤による接合、熱板溶着等の熱溶融させることによる熱接合、樹脂成形品間の接合部を振動させることにより発生する摩擦熱を利用した振動溶着、樹脂成形品間の接合部にレーザー光を照射して、当該接合部の吸収発熱を利用したレーザー溶着等が用いられている。しかし、いずれの溶着又は接合方法であっても、異種樹脂成形体同士を溶着又は接合する場合、溶着又は接合力は、両者の樹脂同士の相溶性に大きく影響される。本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、特定の組成のスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を含むコアシェル構造のゴム状粒子(B)とをそれぞれ特定の配合量で含有するため、特にアクリル系樹脂材料に対して良好な溶着性(例えば、熱溶着性)を示し、かつ前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)の存在により、靭性及び剛性に優れたスチレン系樹脂組成物を提供することができると考えられる。
以下、本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0026】
「スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)」
本実施形態におけるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位(a1)と不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)とを必須成分としてなる共重合樹脂(以下単に樹脂(A)ともいう)であり、スチレン系樹脂組成物の耐熱性向上に寄与する。また、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)は、必要により、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)である必須成分以外、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2-2)及び/又はその他単量体単位(a3)をさらに有してもよい。スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の含有量は40~95質量%であり、好ましくは45~94質量%、より好ましくは50~93質量%、更に好ましくは55~92質量%である。スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の含有量を40質量%以上にすることで耐熱性の付与効果を十分に得ることができ、95質量%以下にすることにより、後述のゴム状粒子(B)による耐衝撃性向上効果を得ることができる。
本実施形態のスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)は、ランダム共重合体あるいは交互共重合体であることが好ましい。
【0027】
<スチレン系単量体(a1)>
本実施形態のスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)において、前記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の総量に対して、スチレン系単量体単位(a1)の含有量は60~98質量%であり、好ましくは70~97質量%、より好ましくは75~95質量%、より更に好ましくは80~95質量%、最も好ましくは82~90質量%の範囲である。スチレン系単量体単位(a1)の含有量が60質量%より少ないと流動性、成形性の低下を招き、98質量%よりも多いと後述の(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)を所望量含有させにくくなり、特に、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)による耐熱性の向上効果が十分に得られない。
【0028】
本実施形態において、スチレン系単量体(a1)としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、パラメチルスチレン、オルトメチルスチレン、メタメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。特に工業的観点からスチレン及びα-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。スチレン系単量体(a1)としては、これらを単独又は2種以上混合して使用できる。
【0029】
スチレン系単量体(a1)中のスチレン単量体の存在比(=スチレン含有量)は、90.0質量%以上が好ましく、より好ましくは95.0質量%以上、さらに好ましくは99.0質量%以上、よりさらに好ましくは99.5質量%以上、最も好ましくは99.9質量%以上である。スチレン系単量体(a1)中のスチレン単量体の含有量を90.0質量%以上とすることで、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の製造時に、工業的な工程で重合反応を制御しやすく、重合転化率を高く維持することができる。
【0030】
なお、本明細書における「スチレン系単量体単位(a1)」とは、スチレン系単量体(a1)が重合された高分子を構成する繰返し単位を意味し、スチレン系単量体(a1)の重合反応又は架橋反応により、当該スチレン系単量体(a1)中の炭素-炭素二重結合が単結合(-C-C-)になった繰返し単位(又は構造単位)である。また、本明細書中のその他の単量体単位も同様の意味である。
【0031】
<不飽和カルボン酸系単量体(a2)>
本実施形態のスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)において、不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)は耐熱性、耐熱性、耐油性、機械強度、耐傷性、及び後述のゴム状粒子(B)、アクリル系樹脂(F)との相溶性向上、またスチレン系樹脂組成物のアクリル系樹脂材料との溶着性の向上、特に熱溶着性向上の効果を果たす。
不飽和カルボン酸系単量体(a2)は、(メタ)アクリル酸単量体(a2-1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2-2)を包含する。
【0032】
<(メタ)アクリル酸単量体(a2-1)>
本実施形態のスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)において、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)は、耐熱性、耐油性、及び後述のゴム状粒子(B)、アクリル系樹脂(F)との相溶性の向上、あるいはアクリル系樹脂材料に対するスチレン系樹脂組成物全体の溶着性の向上、特に熱溶着性の向上の効果を果たす。
本実施形態のスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)が、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)を含有する場合、前記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の総量に対して、前記(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量は2~40質量%が好ましく、さらに好ましくは3~35質量%、より好ましくは5~30質量%、より更に好ましくは8~25質量%、最も好ましくは10.5~20質量%の範囲である。また別の態様では、前記(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量は、好ましくは3~20質量%、より好ましくは4~17質量%、より更に好ましくは8~14質量%である。(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量が2質量%未満では顕著な耐熱性向上の効果が不十分である。また、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量が40質量%を超える場合は、樹脂粘度の増加による加工性の低下、吸水率上昇による成形時の気泡発生、製造時に粘度が高くなりすぎるため好ましくない。そして、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量を2質量%以上とすることで耐熱性の向上効果を得ることができ、当該含有量を40質量%以下にすることで粘度が上昇しすぎることを抑えることができる。特に(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量を8~25質量%とすることでアクリル系樹脂(F)と良好な相溶性を得ることできる。また、スチレン系樹脂組成物にアクリル系樹脂(F)をさらに混練した場合、アクリル系樹脂材料に対するスチレン系樹脂組成物全体のより優れた溶着性、特に熱溶着性の向上効果及び強度向上効果を効率的に得ることができる。
【0033】
本実施形態において、(メタ)アクリル酸単量体(a2-1)としては、アクリル酸又はメタクリル酸等が挙げられる。特に工業的観点から(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)としては、これらを単独又は2種以上混合して使用してもよい。(メタ)アクリル酸単量体(a2-1)は、耐熱性向上効果の大きいメタクリル酸が特に好ましい。
【0034】
<(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2-2)>
本実施形態において、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)は、さらに(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)を含有してもよい。当該(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)は、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)のみでは不足する分のアクリル系樹脂に対する溶着性の向上、特に熱溶着性向上効果、ゴム状粒子(B)及び/又はアクリル系樹脂(F)との相溶性、耐油性、及び機械強度、耐傷性を向上させる役割を果たす。前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)としては、以下の一般式(1):
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1は、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、R
2はエステル置換基を表し、具体的には、炭素原子数1~12のアルキル基を表す。)で表されることが好ましい。
本実施形態において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)のエステル置換基(上記一般式(1)中のR
2)の炭素原子数としては、10以下が好ましく、より好ましくは8以下、より更に好ましくは4以下である。エステル置換基の炭素原子数が10を上回ると耐熱性低下の効果が大きく、好ましくない。
【0035】
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2-2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸(n-オクチル)、(メタ)アクリル酸(2-エチルヘキシル)、(メタ)アクリル酸デシル等が挙げられる。これらは単独で又は混合して使用することができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2-2)としては、工業的に入手し易い点から(メタ)アクリル酸メチル又は(メタ)アクリル酸ブチルが好ましく、耐熱性低下を抑えられる点からメタクリル酸メチルが特に好ましい。
本実施形態のスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)が(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)を含有する場合、前記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)の含有量の範囲は、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の総量に対して、例えば、1~40質量%であることが好ましく、より好ましくは2~32質量%、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは3~17質量%、より更に好ましくは3~15質量%、最もより好ましくは4~10質量%である。
【0036】
<スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の好ましい形態>
本実施形態のスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)を含有する多元重合体であってもよい。すなわち、本実施形態のスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の二元共重合体の他に、スチレン系単量体(a1)と(メタ)アクリル酸単量体(a2-1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2-2)とが共重合された三元共重合体あるいはスチレン系単量体単位(a1)と2種の(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)とを含有する三元共重合体であってもよい。これにより、アクリル系樹脂材料に対する熱溶着性、ゴム状粒子(B)及びアクリル系樹脂(F)との相溶性、表面硬度の向上、機械強度の向上の効果がさらに得られる。また、スチレン系樹脂組成物とアクリル系樹脂材料との熱溶着性向上効果も得られる。
また、ポリマー連鎖中で(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)等の不飽和カルボン酸エステル単量体単位が(メタ)アクリル酸単位(a2-1)等の不飽和カルボン酸単量体単位と隣り合わせに配置されると、不飽和カルボン酸同士の架橋反応を抑制する等の効果が得られる。
【0037】
特に、アクリル系樹脂材料との熱溶着性、ゴム状粒子(B)との相溶性を重視し、ゴム状粒子(B)による耐衝撃性向上効果、スチレン系樹脂組成物とアクリル系樹脂材料との溶着性の向上、特に熱溶着性向上効果を重視する場合、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位(a1)と(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)とが共重合された三元共重合体であることが好ましい。また、当該三元共重合体は、ランダム共重合体であることがより好ましい。
【0038】
本実施形態におけるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)が、スチレン系単量体単位(a1)、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)、及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)を有する場合、前記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の総量に対して、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量は2~30質量%であることが好ましく、かつ(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)の含有量は0超~20質量%であることが好ましく、より好ましくは、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量は3~25質量%であり、かつ(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)の含有量は2~17質量%であり、更に好ましくは、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量は5~20質量%であり、かつ(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)の含有量は3~15質量%であり、より更に好ましくは、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)の含有量は9~17質量%であり、かつ(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)の含有量は4~10質量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)の含有量を20質量%以下に抑えることで、成形加工時の流動性に優れた組成物を得ることができる。
【0039】
<その他単量体(a3)>
本実施形態におけるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)は、上述した、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)を含む。)以外のその他単量体単位(a3)をさらに有してもよい。
すなわち、本実施形態において、当該その他単量体単位(a3)は、スチレン系単量体単位(a1)、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)と共重合可能であれば発明の効果を損なわない範囲で、特に制限されることなく、上記に示した2つの単量体以外の単量体と共重合してよい。
例えば上記に示した3つの単量体以外のその他単量体(a3)としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、マレイミド、及び核置換マレイミド等が挙げられる。
本実施形態において、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)がその他単量体(a3)を有する場合、前記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の総量に対して、その他単量体(a3)の含有量は、12質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
【0040】
<スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の特性>
本実施形態におけるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)中の、スチレン系単量体単位(a1)、(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)及びその他単量体単位(a3)の各含有量は、熱分解GC/MSを用いて各単量体単位が既知の樹脂により作成した検量線により定量することができる。
本実施形態におけるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の200℃でのメルトフローレートは、好ましくは0.2~4.0、より好ましくは0.3~3.5、更に好ましくは0.4~3.0であることができる。上記メルトフローレートが0.2以上である場合、流動性の観点で好ましく、4.0以下である場合、樹脂の機械的強度の観点で好ましい。本開示で、メルトフローレートは、ISO 1133に準拠して、200℃、荷重5kgにて測定される値である。
【0041】
本実施形態におけるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は標準ポリスチレン換算で、10万~40万であることが好ましく、より好ましくは12万~30万、さらに好ましくは14万~28万、より更に好ましくは17万~23万の範囲である。重量平均分子量が10万~40万である場合、衝撃強度と流動性とのバランスの実用性に優れるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)が得られる。
一方、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の数平均分子量(Mn)は、4万~15万であることが好ましく、より好ましくは5万~12万、更に好ましくは6~11万の範囲である。
また、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)のZ平均分子量(Mz)は、20万~70万であることが好ましく、より好ましくは25万~50万、更に好ましくは30~45万の範囲である。
上記各平均分子量はゲルパーミエイションクロマトグラフィーにより、ポリスチレン標準換算で測定できる。
【0042】
本実施形態におけるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)のビカット軟化温度は、好ましくは105~135℃、より好ましくは107~130℃、更に好ましくは108~128℃、より更に好ましくは115℃~127℃、最も好ましくは120~126℃である。スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)のビカット軟化温度を105℃以上にすることで、組成物の耐熱性向上効果を得ることができ、135℃以下にすることによりアクリル系樹脂(F)と混練しやすくなる。本明細書中におけるビカット軟化温度の測定方法はISO 306に準拠して5kg荷重、昇温速度50℃/分又は1kg荷重、昇温速度120℃/分で測定したものである。
【0043】
<スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の製造方法>
本実施形態のスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の製造法について以下説明する。
本実施形態のスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の製造法は、スチレン系単量体(a1)と、不飽和カルボン酸系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸単量体(a2-1)及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2-2))と、必要に応じてその他単量体単位(a3)と、溶媒と、を混合して混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液を重合して反応生成物を生成する重合工程と、前記反応生成物を回収する工程とを含むことが好ましい。
スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の重合方法としては、特に制限はないが、例えばラジカル重合法、その中でも、塊状重合法又は溶液重合法を好ましく採用できる。
具体的には、重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応の単量体、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程と、を備える。
【0044】
本実施形態において、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤を含有させる。重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、なかでも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
【0045】
本実施形態において、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の重合時には必要に応じて連鎖移動剤を使用することもできる。連鎖移動剤の例としては、例えば、αメチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等を挙げることができる。
【0046】
上記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の重合方法としては、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。重合溶媒としては、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等の芳香族溶媒が好ましく、必要に応じてアルコール類又はケトン類等の極性溶媒を組み合わせてスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の溶解性を調整した溶媒系を用いてもよい。
本実施形態において、重合溶媒は、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)を構成する全単量体100質量部に対して、3~35質量部の範囲で使用するのが好ましく、より好ましくは5~30質量部の範囲である。前記全単量体100質量部に対して重合溶媒35質量部を超えると、重合速度が低下し、且つ得られる樹脂分子量も低下するので、樹脂の機械的強度が低下する傾向がある。また、重合溶媒が3質量部未満では重合時に除熱の制御が難しくなる恐れがある。全単量体100質量部に対して3~35質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
また、本実施形態のスチレン系樹脂組成物の任意の添加成分である炭素原子数10以上の1価アルコールを重合系から添加する場合は、全重合溶媒100質量%に対して、炭素原子数10以上の1価アルコールを1~10質量%の割合で添加することが好ましい。
【0047】
本実施形態におけるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)を得るための重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、一般的なスチレン系樹脂の重合方法に従って適宜選択すればよい。例えば、塊状重合による場合には、完全混合型反応器を1基、又は複数基連結した重合装置を用いることができる。また脱揮工程についても特に制限はなく、塊状重合で行う場合、最終的に未反応モノマーが、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下になるまで重合を進め、かかる未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度であり、分解抑制の観点から190~260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0048】
「コアシェル構造のゴム状粒子(B)」
本実施形態において(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を含むコアシェル構造のゴム状粒子(B)(単にゴム状粒子(B)ともいう)は、スチレン系樹脂組成物の耐衝撃性、特にスチレン系樹脂組成物がノッチ等の切り欠き部分を有するときの耐衝撃性、すなわち靭性を向上させる役割を有する。
本実施形態のコアシェル構造のゴム状粒子(B)は、コア部としての低ガラス転移温度(Tg)ポリマー架橋体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を主成分とする重合体を含むシェル部とを有し、かつ前記コア部の少なくとも一部が前記シェル部により被覆された構造を有する。また、前記コア部は、ゴム状粒子(B)内に1個以上有していればよい。
上記コア部を構成する低ガラス転移温度(Tg)ポリマー架橋体としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)、共役ジエン系単量体単位(b2)及びシロキサン系単量体単位(b3)からなる群から選択される1種又は2種以上を主成分とする当該低ガラス転移温度(Tg)ポリマー架橋体であることが好ましい。
上記シェル部を構成する重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を主成分とする重合体であることが好ましく、必要により、後述のスチレン系単量体単位(b4)をさらに含有してもよい。そのため、上記シェル部を構成する重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)から選択される1種又は2種以上の単量体単位を含有する重合体である、あるいはスチレン系単量体単位(b4)から選択される1種又は2種以上の単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)から選択される1種又は2種以上の単量体単位とを有する共重合体でありうる。
本明細書における「主成分」とは、架橋体又は重合体の総量に対して、50質量%以上を占めることをいい、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、95質量%以上及び98質量%以上の順でより好ましい。
【0049】
本実施形態のコアシェル構造のゴム状粒子(B)の含有量は、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、5~60質量%であり、より好ましくは11~40質量%、更に好ましくは16~35質量%、より更に好ましくは17~30質量%、最も好ましくは18~26質量%の範囲である。スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して5質量%以上とすることにより、耐衝撃耐性を向上することができる。一方、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して60質量%以下とすることにより、耐熱性及び剛性低下を防ぐことができる。特に16質量%以上とすることで、ノッチ等の切り欠きに対する耐衝撃性を向上する。また30質量%以下とすることで、耐衝撃性と剛性のバランスに優れたスチレン系樹脂組成物を得ることができる。
なお、本明細書におけるコアシェル構造のゴム状粒子(B)は、後述のゴム状重合体粒子(C-2)の平均粒子径の算出方法と同様に電子顕微鏡により判別することができる。そして、本実施形態のスチレン系樹脂組成物が、後述の耐衝撃性スチレン系樹脂(C)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)とを含有する場合、ゴム状粒子(B)及びゴム状重合体粒子(C-2)との判別は、電子顕微鏡により行う。また、必要により、ゴム状粒子(B)及びゴム状重合体粒子(C-2)に対して、四酸化オスミウム処理及び/又はルテニウム錯体処理を行ってもよい。
【0050】
<(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)>
本実施形態のコアシェル構造のゴム状粒子(B)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を含有する。当該(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)はスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)界面の親和性を向上し、ゴム状粒子(B)によるスチレン系樹脂組成物全体の耐衝撃性向上効果において重要な役割を果たすとともに、アクリル系樹脂材料との溶着性の向上、特に熱溶着性向上効果、ゴム状粒子(B)の安定性、耐油性を向上させる役割を果たす。
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)は、コアシェル構造のゴム状粒子(B)のコア部及び/又はシェル部のどちらに含まれてもよい。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)がコア部に含まれる場合は、後述の共役ジエン単量体単位(b2)あるいはシロキサン系単量体単位(b3)を主成分とする低ガラス転移温度(Tg)ポリマー架橋体と複合ゴムを形成してもよく、内部クレーズ発生による耐衝撃性向上だけでなく、熱安定性、耐油性向上効果を果たす。一方、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)がシェル部に含まれる場合は、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)界面の親和性が向上することで耐衝撃性向上効果を奏する。また、スチレン系樹脂組成物のアクリル系樹脂材料との溶着性の向上、特に熱溶着性向上効果も果たす。
本実施における別の形態のコアシェル構造のゴム状粒子(B)は、コア部及び/又はシェル部が、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を主成分として構成されてもよい。これにより、内部クレーズ発生による耐衝撃性向上だけでなく、熱安定性又は耐候性向上効果を果たす。コア部は比較的低ガラス転移温度(Tg)であり、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)と親和性が高いことが好ましいため、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)のエステル置換基の炭素原子数は1~10が好ましく、より好ましくは2~7、よりさらに好ましくは3~5である。
なお、コアシェル構造のゴム状粒子(B)のコア部が(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)のみから構成されてよく、あるいはゴム状粒子(B)のシェル部が(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)のみから構成されてもよい。
【0051】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)の化学構造としては、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2-2)と同様に、以下の一般式(1)で表される単量体単位であることが好ましい。
【化2】
(上記一般式(1)中、R
1は、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、R
2はエステル置換基を表し、具体的には、炭素原子数1~12のアルキル基を表す。)で表されることが好ましい。
本実施形態において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)のエステル置換基(上記一般式(1)中のR
2)の炭素原子数としては、10以下が好ましく、より好ましくは7以下、より更に好ましくは4以下である。特に7以下とすることで、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との界面の親和性を保つことができる。
【0052】
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸(n-オクチル)、(メタ)アクリル酸(2-エチルヘキシル)、(メタ)アクリル酸デシル等が挙げられる。これらは単独で又は混合して使用することができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)としては、工業的に入手し易い点、熱安定性、耐熱性、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との界面の親和性のから(メタ)アクリル酸メチル又は(メタ)アクリル酸ブチルが好ましい。特に耐熱性、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との界面の親和性の観点からはメタクリル酸メチルが好ましく、熱安定性の観点からはアクリル酸ブチル、アクリル酸メチルが好ましい。
また(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)がコアシェル構造のゴム状粒子(B)のコア部に含まれて、かつ共役ジエン系単量体単位(b2)及び/又はシロキサン系単量体単位(b3)からなる相と複合体を形成する場合は、耐衝撃性向上の観点から、アクリル酸ブチルを主成分(50質量%超)とする(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)であることが好ましい。一方、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)がシェル相に含まれる場合は、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との界面における親和性の観点から、メタクリル酸メチルを主成分(50質量%超)として一部アクリル酸ブチル及び/又はアクリル酸メチルを含む(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)であることが好ましい。
換言すると、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)がゴム状粒子(B)のコア部中に含有し、共役ジエン系単量体単位(b2)及び/又はシロキサン系単量体単位(b3)からなる相と複合体を形成する場合、コア部中の前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)はアクリル酸ブチルが主成分であることが好ましい。
一方、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)がゴム状粒子(B)のシェル部中に含有する場合、シェル部中の前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)はメタクリル酸メチルが主成分であることが好ましい。そして、前記シェル部には一部アクリル酸ブチル及び/又はアクリル酸メチルを含んでもよい。
【0053】
本実施形態において、コアシェル構造のゴム状粒子(B)全体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)の含有量の範囲は、コアシェル構造のゴム状粒子(B)の総量に対して、3~40質量%であることが好ましく、次に好ましくは5~35質量%、より好ましくは7~30質量%、さらに好ましくは10~27質量%、より更に好ましくは15~25質量%、最もより好ましくは10~22質量%の範囲である。3~40質量%の範囲とすることで、スチレン系樹脂組成物の剛性、耐衝撃性バランスに優れ、特に7~30質量%とすることでスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との界面の親和性向上による靭性、スチレン系樹脂組成物のアクリル系樹脂材料に対する溶着性、特に熱溶着性に優れる。
【0054】
<共役ジエン系単量体単位(b2)>
本実施形態において、コアシェル構造のゴム状粒子(B)は、共役ジエン系単量体単位(b2)を含有してもよい。共役ジエン系単量体(b2)は、一対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。工業的な入手し易さから1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)が好ましく、耐衝撃強度向上の観点から1,3-ブタジエンがより好ましい。
【0055】
コアシェル構造のゴム状粒子(B)が共役ジエン系単量体単位(b2)を含有する場合、共役ジエン系単量体単位(b2)はコア部を形成することが好ましい。共役ジエン系単量体単位(b2)は重合時のラジカル架橋反応あるいは架橋剤により架橋され、コア部に低ガラス転移温度(Tg)ポリマー架橋体を構成することで、衝撃に対してクレーズ発生を助長し、耐衝撃性の向上効果を果たす。
【0056】
また共役ジエン系単量体(b2)は重合する二重結合の位置や重合時の二重結合の転移によって、ゴム状粒子(B)中の共役ジエン系単量体単位(b2)は複数の構造があり得る。例えば1,3-ブタジエンの場合、1,4-シス構造の単量体単位、1,4-トランス構造の単量体単位、1,2-ビニル構造の単量体単位の混在した単量体単位を形成する。いずれも共役ジエン系単量体(b2)に由来する単量体単位であることから、本明細書中ではこれらの構造すべてをまとめて共役ジエン系単量体単位(b2)とする。
【0057】
コアシェル構造のゴム状粒子(B)における共役ジエン系単量体単位(b2)の含有量は、ゴム状粒子(B)全体に対して、好ましくは50~90質量%、より好ましくは60~87質量%、更に好ましくは65~85質量%、より更に好ましくは68~83質量%である。共役ジエン系単量体単位(b2)の含有量を50質量%以上とすることで、耐衝撃性の向上が大きく好ましい。また90質量%以下とすることでシェル部によるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との相溶性を担保することができる。
【0058】
<シロキサン系単量体単位(b3)>
本実施形態において、コアシェル構造のゴム状粒子(B)は、シロキサン系単量体単位(b3)を含有することが好ましい。前記シロキサン系単量体単位(b3)は、以下の一般式(2)で表される、いわゆるオルガノシロキサン系の単量体構造である。
【0059】
【化3】
(上記一般式(2)中、R
3及びR
4はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~10のアルキル基又はフェニル基を表し、前記アルキル基中の1以上の-CH
2-は、互いに隣接しないよう-O-に置換されてもよい。)
【0060】
前記一般式(2)中のR3及びR4としては、炭素原子数1~10のアルキル基、又はフェニル基が好ましく、より好ましくは炭素原子数1~7のアルキル基、更に好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基、より更に好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基、最も好ましくはメチル基である。
【0061】
コアシェル構造のゴム状粒子(B)がシロキサン系単量体単位(b3)を含有する場合、当該シロキサン系単量体単位(b3)はコア部を形成することが好ましい。シロキサン系単量体単位(b3)は架橋剤により架橋され、コア部に低ガラス転移温度(Tg)ポリマー架橋体を構成することで、衝撃に対してクレーズ発生を助長し、耐衝撃性の向上効果を果たす。
またシロキサン系単量体単位(b3)の架橋体は、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)からなる架橋体と海島構造のモルフォロジーを持つ複合ゴムを形成することによって、コア部で内部クレーズを形成し、耐衝撃性の向上効果を上げても良い。
【0062】
コアシェル構造のゴム状粒子(B)におけるシロキサン系単量体単位(b3)の含有量は、コアシェル構造のゴム状粒子(B)全体に対して、好ましくは15~90質量%、より好ましくは20~80質量%、さらに好ましくは25~70質量%の範囲である。
【0063】
<スチレン系単量体単位(b4)>
本実施形態のコアシェル構造のゴム状粒子(B)はスチレン系単量体単位(b4)を含有してもよい。スチレン系単量体単位(b4)を含有する場合は、当該スチレン系単量体単位(b4)はシェル部を形成することが好ましい。スチレン系単量体(b4)としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、パラメチルスチレン、オルトメチルスチレン、メタメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。特に工業的観点からスチレン及びα-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。スチレン系単量体(b4)としては、これらを単独又は2種以上混合して使用できる。また、その場合のスチレン系単量体(b4)中のスチレン単量体の存在比(=スチレン含有量)は、90.0質量%以上が好ましく、より好ましくは95.0質量%以上、さらに好ましくは99.0質量%以上、よりさらに好ましくは99.5質量%以上、最も好ましくは99.9質量%以上である。スチレン系単量体(b4)中のスチレン単量体の含有量を90.0質量%以上とすることで、工業的な工程で重合反応を制御しやすく、重合転化率を制御しやすい。
【0064】
コアシェル構造のゴム状粒子(B)に含まれるスチレン系単量体単位(b4)の含有量は、ゴム状粒子(B)全体に対して、好ましくは30質量%以下、25質量%以下、22質量%以下、18質量%以下、14質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、8.0質量%以下、5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、1.0質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0質量%の順でより好ましい。特に5.0質量%以下とすることによって、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との界面の親和性に優れ、耐衝撃性向上効果が得られやすい。
また、コアシェル構造のゴム状粒子(B)がスチレン系単量体単位(b4)を含有する場合、スチレン系単量体単位(b4)の含有量の下限は、ゴム状粒子(B)全体に対して、0質量%超でありうる。スチレン系単量体単位(b4)の含有量の好ましい範囲は、ゴム状粒子(B)全体に対して、0質量%超5.0質量%以下であることが好ましい。
【0065】
<その他単量体(b5)>
本実施形態におけるコアシェル構造のゴム状粒子(B)は、(メタ)アクリル酸単量体単位(b1)及び、必要に応じて含まれる、共役ジエン系単量体単位(b2)、シロキサン系単量体単位(b3)及びスチレン系単量体単位(b4)以外のその他単量体単位(b5)をさらに有してもよい。
すなわち、本実施形態において、当該その他単量体単位(b5)は、(メタ)アクリル酸単量体単位(b1)、並びに、必要に応じて含まれる、共役ジエン系単量体単位(b2)、シロキサン系単量体単位(b3)及びスチレン系単量体単位(b4)と共重合可能であれば発明の効果を損なわない範囲で、特に制限されることなく、上記に示した単量体以外の単量体と共重合してよい。
例えば上記に示した3つの単量体以外のその他単量体(b5)としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、マレイミド、及び核置換マレイミド等が挙げられる。
本実施形態において、コアシェル構造のゴム状粒子(B)がその他単量体(b5)を有する場合、コアシェル構造のゴム状粒子(B)全体に対して、その他単量体(b5)の含有量は、12質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。その他単量体(b5)の含有量の好ましい範囲は、ゴム状粒子(B)全体に対して、0質量%超5.0質量%以下であることが好ましい。
【0066】
<コアシェル構造のゴム状粒子(B)の粒子径>
コアシェル構造のゴム状粒子(B)の平均粒子径は、0.10~2.0μmが好ましく、つぎ好ましくは0.12~1.7μm、より好ましくは0.14~1.2μm、更に好ましくは0.15~1.0μm、より更に好ましくは0.16~0.50μm、0.19~0.30μmの範囲である。特に粒子径を0.10~2.0μmの範囲とすることで、スチレン系樹脂組成物の耐衝撃性向上効果に優れる。
本開示において、平均粒子径の測定方法は、後述の実施例の欄に示す通り、透過型電子顕微鏡による断面観察画像から計測される値である。
【0067】
<好ましいコアシェル構造のゴム状粒子(B)の形態>
本実施形態の好ましいコアシェル構造のゴム状粒子(B)の形態は、コア部が、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)、共役ジエン系単量体単位(b2)及びシロキサン系単量体単位(b3)からなる群から選択される1種又は2種以上を主成分とする低ガラス転移温度(Tg)ポリマー架橋体であり、かつシェル部が(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を主成分とする重合体である。本実施形態の別の好ましいコアシェル構造のゴム状粒子(B)の形態は、コア部が、共役ジエン系単量体単位(b2)及びシロキサン系単量体単位(b3)からなる群から選択される1種又は2種以上を主成分とする低ガラス転移温度(Tg)ポリマー架橋体を含有し、かつシェル部が(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を主成分とする重合体である。
本実施形態において、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)は、共役ジエン系単量体単位及びシロキサン系単量体単位からなる群から選択される1種又は2種以上を含有し、かつ前記共役ジエン系単量体単位(b2)又は前記シロキサン系単量体単位(b3)の合計含有量が、当該コアシェル構造のゴム状粒子(B)の総量(100質量%)に対して、50質量%以上含有することが好ましい。
上記コア部を構成する低ガラス転移温度(Tg)ポリマー架橋体の好ましい形態は、靭性向上を重視する場合は、共役ジエン系単量体単位(b2)を主成分とすることが好ましく、特に好ましくはブタジエン単量体単位を主成分とするポリブタジエンゴムであることが好ましい。
靭性向上と併せて耐候性も重視する場合、上記コア部は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)とシロキサン系単量体単位(b3)からなる群から選択される1種又は2種以上を主成分とすることが好ましく、特に好ましくはポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーンゴムと、アクリル酸(n-ブチル)単量体単位を主成分とするアクリルゴムと、の海島構造を有する複合ゴムである。
上記シェル部を構成する重合体の好ましい形態は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を主成分とする重合体であるが、さらに好ましくはメタクリル酸メチル単量体単位の含有量が、シェル部の総量に対して60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは97質量%以上、よりさらに好ましくは98質量%以上、最よりさらに好ましくは99質量%以上である。シェル部の総量に対してメタクリル酸メチル単量体単位の含有量を90質量%以上とすることで、前記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との界面における相溶性を向上し、高い靭性向上効果を得ることができる。
【0068】
<コアシェル構造のゴム状粒子(B)の製造方法>
コアシェル構造のゴム状粒子(B)の製造方法としては、ゴムラテックス(例えば、ポリブタジエン系ゴムラテックス、ポリオルガノシロキサン系ゴムラテックス、ポリオルガノシロキサン-アクリルゴム複合系ラテックス等)粒子(コア部)を製造してから、シェル相をグラフト共重合させる乳化重合法が好ましい。これにより粒子径を所望の大きさに制御することができる。
【0069】
<<耐衝撃性スチレン系樹脂(C)>>
本実施形態の好ましい態様として、スチレン系樹脂組成物は、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)(単に樹脂(C)とも称する。)を含有することが好ましい。スチレン系樹脂組成物はゴム変性スチレン系樹脂(C)を適量含有することで、ゴム状粒子(B)との併用効果を発揮し、衝撃強度により優れた、スチレン系樹脂組成物又は射出成形体を得ることができる。
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂(C)は、スチレン系単量体単位(c1)と、必要に応じてその他単量体単位(c3)とを含む樹脂のスチレン系ポリマーマトリックス(C-1)中に、ポリブタジエン単量体単位等の共役ジエン系単量体単位(c2)を有するゴム状重合体(C-R)に対して、スチレン系単量体単位(c1)と必要に応じてその他単量体単位(c3)とを含むスチレン系ポリマーがグラフトされてなる、及び/又は、内包されてなる、ゴム状重合体粒子(C-2)が分散した構造からなる。
すなわち耐衝撃性スチレン系樹脂(C)は、ゴム状重合体(C-R)の存在下でスチレン系単量体(c1)と必要に応じてその他単量体(c3)を重合することにより得られるいわゆるハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)でありうる。換言すると、本実施形態の耐衝撃性スチレン系樹脂(C)は、スチレン系ポリマーマトリックス(C-1)とゴム状重合体粒子(C-2)とを含有する。そして、前記ゴム状重合体粒子(C-2)は、ゴム状重合体(C-R)から構成される粒子であり、スチレン系単量体(c1)と必要に応じてその他単量体(c3)からなるスチレン系ポリマーが前記粒子の表面にグラフトされている、及び/又は、前記ゴム状重合体粒子(C-2)内に内包されている。また、スチレン系ポリマーマトリックス(C-1)は、スチレン系単量体(c1)と必要に応じてその他単量体(c3)からなる樹脂の連続相である。さらに、ゴム変性スチレン系樹脂(C)は、スチレン系ポリマーマトリックス(C-1)(海相)中に前記ゴム状重合体粒子(C-2)(島相)が存在する、海島構造を有することが好ましい。
そのため、前記ポリマーマトリックス(C-1)は、スチレン系単量体(c1)及び必要に応じてその他単量体(c3)を共重合してなるスチレン系ポリマーを含有する。また、前記ゴム状重合体粒子(C-2)は、共役ジエン系単量体単位(c2)を有するゴム状重合体(C-R)を主成分とするゴム架橋粒子であり、スチレン系単量体単位(c1)及び必要に応じてその他単量体(c3)を含むスチレン系ポリマーにより前記粒子の表面がグラフトされており、さらに前記スチレン系ポリマーをゴム架橋粒子中に内包していてもよい。
【0070】
本実施形態のスチレン系組成物が耐衝撃性スチレン系樹脂(C)を含有する場合、前記スチレン系組成物中における耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の含有量は、前記スチレン系樹脂組成物の総量に対して、0.5~30質量%が好ましく、より好ましくは2~25質量%、更に好ましくは3~20質量%、より更に好ましくは4~17質量%の範囲である。特に耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の含有量を0.5~30質量%の範囲とすることにより、ゴム状粒子(B)との相互作用により耐衝撃性向上効果を発揮し、特に3~20質量%の範囲とすることにより、耐衝撃性向上効果と、アクリル系樹脂材料に対する熱溶着性により優れたスチレン系樹脂組成物を得ることができる。
【0071】
<スチレン系単量体(c1)>
本実施形態において、スチレン系単量体(c1)としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、パラメチルスチレン、オルトメチルスチレン、メタメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。特に工業的観点からスチレン及びα-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。スチレン系単量体(c1)としては、これらを単独又は2種以上混合して使用できる。
【0072】
スチレン系単量体(c1)中のスチレン単量体の存在比(=スチレン含有量)は、90.0質量%以上が好ましく、より好ましくは95.0質量%以上、さらに好ましくは99.0質量%以上、よりさらに好ましくは99.5質量%以上、最も好ましくは99.9質量%以上である。スチレン系単量体(c1)中のスチレン単量体の含有量を90.0質量%以上とすることで、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の製造時に、工業的な工程で重合反応を制御しやすく、重合転化率を高く維持することができる
【0073】
<共役ジエン系単量体(c2)>
本実施形態におけるゴム状重合体(C-R)又はゴム状重合体粒子(C-2)は、共役ジエン系単量体単位(c2)を構成成分とする。
また、本願明細書において共役ジエン系単量体(c2)は、一対の共役二重結合を有するジオレフィン単量体であり、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。工業的に入手し易い観点から1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)が好ましい。
共役ジエン系単量体(c2)は重合時に二重結合の位置が転移し、ゴム状重合体(C-R)中の共役ジエン系単量体単位の構造としては、1,3-ブタジエンの場合、1,4-シス構造の単量体単位、1,4-トランス構造の単量体単位、1,2-ビニル構造の単量体単位の混在した単量体単位を形成するが、これらすべてをまとめて共役ジエン系単量体単位(c2)とする。
本実施形態において、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)中の共役ジエン系単量体単位(c2)の含有量は、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の総量に対して、好ましくは0.5~20.0質量%、より好ましくは1.0~15.0質量%、より更に好ましくは2.0~13.0質量%である。耐衝撃性スチレン系樹脂(C)及びスチレン系樹脂組成物中の共役ジエン系単量体単位(c2)の含有量は、後述の実施例の項に記載する手順、又はこれと等価な方法で測定することができる。
【0074】
<その他単量体(c3)>
本実施形態の耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の任意成分である、その他単量体(単位)(c3)としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸(n-ブチル)、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸(n-ブチル)、メタクリル酸イソプロピル等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、無水マレイン酸、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられるが、工業的に入手し易く、スチレン系単量体単位(c3)と共重合に供しやすい点から、アクリル酸(n-ブチル)、メタクリル酸メチルが好ましく、スチレン系樹脂組成物全体のアクリル系樹脂材料に対する熱溶着性及び耐熱性の観点から、メタクリル酸メチルが最も好ましい。
本実施形態において、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)中のその他単量体(単位)(c3)の含有量は、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の総量に対して、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
特に、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)が、その他単量体(c3)として(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む場合、ポリマーマトリックス(C-1)の総量に対して、(メタ)アクリル酸エステル単量体を30~60質量%含むことが好ましく、より好ましくは33~58質量%、さらに好ましくは36~56質量%、より更に好ましくは39~54質量%の範囲である。30~60質量%の範囲とすることでスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との相溶性優れ、36~56質量%の範囲とすることで、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との相溶性及びアクリル系樹脂材料に対する熱溶着性のバランスに優れる。
【0076】
<ゴム状重合体粒子(C-2)>
本実施形態において、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)中のゴム状重合体粒子(C-2)を構成するゴム状重合体(C-R)としては、共役ジエン系単量体(c2)から形成されることが好ましく、共役ジエン系単量体単位(c2)を有する重合体であることがより好ましい。当該ゴム状重合体(C-R)の具体例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等が使用できるが、工業的観点から、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン、シス含有率の低いローシスポリブタジエン、又はこれらの両方を用いることができる。スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造であってもよく、ブロック構造であってもよく、これらの組合せであってもよい。これらのゴム状重合体(C-R)は、一種を単独で用いてもよく、又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
【0077】
本実施形態において、ゴム状重合体(C-R)の分散粒子であるゴム状重合体粒子(C-2)中には、スチレン系単量体単位(c1)及び必要に応じてその他単量体(c3)を含む重合体が内包(オクルード)されていることが好ましい。当該内包の形態としては、スチレン系単量体単位(c1)を有する重合体からなる複数の島状ドメイン相を、ゴム状重合体(C-2)が内包した、いわゆるサラミ構造型の分散粒子が好ましい。また、ゴム状重合体粒子(C-2)の表面には、スチレン系単量体単位(c1)及び必要に応じてその他単量体(c3)を含む重合体がグラフトされていてもよい。
【0078】
本実施形態における耐衝撃性スチレン系樹脂(C)中のゴム状重合体粒子(C-2)の平均粒子径は好ましくは0.4~5.0μm、より好ましくは0.5~4.0μm、更に好ましくは0.7~3.0μmである。0.4μm以上とすることで、スチレン系樹脂組成物を構成する前記ゴム状粒子(B)の粒子径に対して、大きな粒子径のゴム状重合体粒子(C-2)を導入できるため、スチレン系樹脂組成物に衝撃を与えた際に初期の応力集中を担うことができる。これにより耐衝撃性が向上する。5.0μm以下とすることで、導入する粒子数を増やすことができる。
耐衝撃性スチレン系樹脂(C)はゴム状重合体(C-R)の存在下で撹拌機付きの反応器内でスチレン系単量体(c1)を重合させて得られるが、ゴム状重合体粒子(C-2)の平均粒子径は、撹拌機の回転数、用いるゴム状重合体(C-2)の分子量等で調整することができる。本開示において、ゴム状重合体粒子(C-2)の平均粒子径は、後述の実施例の欄で示す通り、透過型電子顕微鏡による断面観察画像から計測される値である。なお、上記ゴム状重合体粒子(C-2)は射出成形時や、延伸シート成形時における配向場では引き延ばされ、粒子径は105~400%程度大きくなる。
【0079】
本実施形態において、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の200℃でのメルトフローレートは、好ましくは0.5~10.0g/10分、より好ましくは0.7~8.0g/10分、更に好ましくは1.0~7.0g/10分である。上記メルトフローレートが0.5~10.0g/10分の範囲であれば、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との混合性が良く、また機械的強度も良好である。本開示で、メルトフローレートは、ISO 1133に準拠して、200℃、荷重5kgにて測定される値である。
【0080】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物が、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)を含有する場合、当該スチレン系樹脂組成物のクロロホルム不溶分は、10%~40%であることが好ましく、15%~35%であることがより好ましく、20%~30%であることがさらに好ましい。
スチレン系樹脂組成物の「クロロホルム不溶分」とは、対象物であるスチレン系樹脂組成物1gをクロロホルム20mlに加えて23℃で2時間振とうした後、当該クロロホルムに未溶解の成分をいい、前記クロロホルム不溶分は、スチレン系樹脂組成物の総量に対して、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)中のゴム状重合体粒子(C-2)の含有量と、コアシェル構造のゴム状粒子(B)の含有量との合計量でありうる。そして、前記ゴム状重合体粒子(C-2)の含有量は、粒子内に内包される樹脂及びグラフトされるポリマーを包含する。また、ゴム状粒子(B)の含有量は、コア部とシェル部とグラフトされるポリマーを包含する。
前記「クロロホルム不溶分」の算出方法は、具体的には、以下の方法により算出している。
沈殿管に測定対象物1g(W1)を精秤し、クロロホルム20mLを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機(佐久間製作所社製、SS-2050A ローター:6B-N6L)にて温度4℃、回転数20000rpm、遠心加速度45100×Gで60分間遠心分離した。沈澱管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除いた。クロロホルムを含んだ不溶分の質量を精秤し、この質量をW5とする。引き続き、160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケーター内で室温まで冷却後、クロロホルム不溶分の質量を精秤し、この質量をW6とする。そして、沈殿管内からクロロホルム不溶分を回収した
下記式により、クロロホルム不溶分及びクロロホルム不溶分の膨潤指数を求めた。
クロロホルム不溶分の膨潤指数=(W5/W6)
クロロホルム不溶分(%)=(W6/W1)×100
【0081】
<耐衝撃性スチレン系樹脂(C)製造方法>
耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の製造方法は特に制限されるものではないが、ゴム状重合体(C-R)の存在下、スチレン系単量体(c1)と必要に応じてその他単量体(c3)、及び溶媒を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、反応途中で懸濁重合に移行する塊状-懸濁重合、あるいはゴム状重合体(C-2)であるラテックス粒子の存在下、スチレン系単量体(c1)を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体(C-R)、スチレン系単量体(c1)、並びに必要に応じてその他単量体(c3)や有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と、複数の槽型反応器とを直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0082】
<<スチレン系エラストマー(D)>>
本実施形態の好ましい態様として、スチレン系樹脂組成物はスチレン系エラストマー(D)(単にエラストマー(D)とも称する。)をさらに含有することが好ましい。本開示のスチレン系樹脂組成物に使用するスチレン系エラストマー(D)は、ハードブロックをスチレン系単量体(単位)(d1)、ソフトブロックを共役ジエン系単量体(単位)(d2)とするブロック共重合体のことである。スチレン系エラストマー(D)としては、スチレン系単量体単位(d1)のハードブロックと、ブタジエン単量体単位のソフトブロックとを有するブロック共重合体がより好ましい。
当該スチレン系単量体(d1)としては、上記スチレン系単量体(a1)と同様の単量体が挙げられる。また、当該共役ジエン系単量体(d2)としては、上記共役ジエン系単量体(c2)と同様の単量体が挙げられる。
【0083】
スチレン系エラストマー(D)のブロック共重合の好ましい連鎖構造としては、スチレン系単量体単位(d1)-ブタジエン単量体単位ジブロック型、スチレン系単量体単位(d1)-ブタジエン単量体単位-スチレン系単量体単位(d1)トリブロック型、ブタジエン単量体単位-スチレン系単量体単位(d1)-ブタジエン単量体単位トリブロック型等が挙げられる。機械強度向上観点から、スチレン系エラストマー(D)は、スチレン系単量体単位(d1)-ブタジエン単量体単位-スチレン系単量体単位(d1)のトリブロック型のブロック共重合体が好ましい。
【0084】
スチレン系エラストマー(D)を構成するスチレン系単量体単位(d1)と共役ジエン系単量体単位(d2)との含有量としては、スチレン系エラストマー(D)の総量に対して、スチレン系単量体単位(d1)の含有量が20~70質量%であることが好ましく、より好ましくはスチレン系単量体単位(d1)の含有量が25~50質量%であり、共役ジエン系単量体単位(d2)の含有量は100質量%の残余である。スチレン系単量体単位(d1)の含有量が20~70質量%であれば、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)への分散性が適度に良くなり、機械的強度及び外観に優れたものが得られる。
スチレン-ブタジエンエラストマー等のスチレン系エラストマー(D)の製造法としてはラジカル重合法、アニオン重合法、高分子反応法が挙げられるが、工業的観点からアニオン重合法が好ましい。
【0085】
本実施形態のスチレン系組成物がスチレン系エラストマー(D)を含有する場合、スチレン系エラストマー(D)の含有量は、前記スチレン系樹脂組成物の総量に対して0.5~10.0質量%が好ましく、より好ましくは1.0~7.0質量%、更に好ましくは1.5~4.5質量%でありうる。
なお、本実施形態のスチレン系エラストマー(D)は、ゴム状重合体(C-R)又はゴム状重合体粒子(C-2)とは異なるポリマーである。
【0086】
<<アクリル系エラストマー(E)>>
本実施形態の好ましい態様として、スチレン系樹脂組成物はアクリル系エラストマー(E)(単にエラストマー(E)とも称する。)を含有することが好ましい。本開示のスチレン系樹脂組成物に使用するアクリル系エラストマー(E)は、ハードブロックをメタクリル酸メチル単量体単位(e1)、ソフトブロックをアクリル酸エステル単量体単位(e2)とするブロック共重合体のことである。アクリル系エラストマー(E)としては、メタクリル酸メチル単量体(単位)のハードブロックと、アクリル酸エステル単量体単位(e2)のソフトブロックとを有するブロック共重合体がより好ましい。
したがって、アクリル系エラストマー(E)はブロック共重合体であるが、後述のアクリル系樹脂(F)は、ランダム重合体又は交互重合体である点で両者は相違する。
当該アクリル酸エステル単量体(e2)としては、下記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(f1)のうちアクリル酸エステル単量体単位と同様の単量体が挙げられる。
【0087】
アクリル系エラストマー(E)のブロック共重合の好ましい連鎖構造としては、メタクリル酸メチル-アクリル酸エステル(e2)ブロック型、メタクリル酸メチル-アクリル酸エステル(e2)-メタクリル酸メチルトリブロック型、アクリル酸エステル(e2)-メタクリル酸メチル-アクリル酸エステル(e2)トリブロック型等が挙げられるが、機械強度向上観点からメタクリル酸メチル-アクリル酸エステル(e2)-メタクリル酸メチルのトリブロック型のものが好ましい。
【0088】
アクリル系エラストマー(E)を構成するメタクリル酸メチル単量体(e1)とアクリル酸エステル単量体(e2)との含有量としては、アクリル系エラストマー(E)の総量に対して、メタクリル酸メチル単量体(e1)の含有量が20~65質量%が好ましく、より好ましくは30~55質量%である。一方、アクリル酸エステル単量体(e2)の含有量は100質量%の残余である。メタクリル酸メチル単量体(e1)の含有量が20~65%であれば、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)への分散性が適度に良くなり、機械的強度及び外観に優れたものが得られる。
【0089】
本実施形態のスチレン系組成物がアクリル系エラストマー(E)を含有する場合、前記アクリル系エラストマー(E)の含有量は、前記スチレン系樹脂組成物の総量に対して、0.5~20質量%が好ましく、より好ましくは1~10質量%、より更に好ましくは2~6質量%であり、0.5~20質量%の範囲とすることで、スチレン系樹脂組成物へ添加した際に耐熱性の低下を抑えて機械強度を向上することができる。
【0090】
<<アクリル系樹脂(F)>>
本実施形態の一態様として、スチレン系樹脂組成物は、アクリル系樹脂(F)(単に樹脂(F)ともいう)を含有してもよい。そして、前記アクリル系樹脂(F)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(f1)を含有する。また、前記アクリル系樹脂(F)は、ランダム重合体又は交互重合体でありうる。アクリル系樹脂(F)を所定量含有することにより、スチレン系樹脂組成物全体のアクリル系樹脂材料に対する溶着性の向上、特に熱溶着性の向上効果、耐衝撃性の向上効果、耐油性の向上効果、耐傷性の向上効果をより発揮する。
なお、本明細書におけるアクリル系樹脂(F)とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(f1)の含有量が40質量%超である合成樹脂の総称である。
本開示において、アクリル系樹脂(F)の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)は、後述の実施例の欄に記載の通り、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を使用して測定される値である。
アクリル系樹脂(F)は分岐構造を含んでいても良いが、種々の溶媒(アセトン、テトラヒドロフラン、クロロホルム等)に対して可溶なポリマー構造であることが好ましい。
【0091】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物がアクリル系樹脂(F)を含有する場合、前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、アクリル系樹脂(F)の含有量は、1~50質量%が好ましく、2~36質量%がより好ましく、3~31質量%がさらに好ましく、6~28質量%がさらにより好ましく、より更に好ましくは8~25質量%、最も好ましくは11~22質量%である。
前記アクリル系樹脂(F)の含有量を1~50質量%とすることにより、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)によって向上した耐熱性の低下を抑えつつ、上記の効果を得ることができる。
本実施形態において、特にスチレン系樹脂組成物の成形性又は低吸湿性を重視する場合、アクリル系樹脂(F)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体に対して、1質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%未満である。
本実施形態のアクリル系樹脂(F)を構成する単量体単位は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(f1)であり、好ましくは(メタ)アクリル酸単量体単位(f2)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(f1)を含有する繰返し単位、又は(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(f1)を2種以上含有する繰返し単位である。なかでも、アクリル系樹脂(F)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(f1)を2種以上含有することがさらに好ましい。
【0092】
本実施形態において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(f1)の含有量は、アクリル系樹脂(F)の総量に対して、好ましくは40質量%超であり、より好ましくは50質量%超、さらに好ましくは60質量%超、よりさらに好ましくは70質量%超、更により好ましくは80%超、最も好ましくは90質量%超である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(f1)の含有量を40質量%超とすることにより、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との相溶性を向上することができ、特に90質量%超とすることでより高い相溶性をスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)に対して得ることができる。
以下、本実施形態の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(f1)及び(メタ)アクリル酸単量体単位(f2)について説明する。
【0093】
<(メタ)アクリル酸エステル単量体(f1)>
本実施形態のアクリル系樹脂(F)を構成する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(f1)は、メタクリル酸エステル単量体単位(f1-1)及びアクリル酸エステル単量体単位(f1-2)を包含する。そして、前記メタクリル酸エステル単量体単位(f1)の前駆体である(メタ)アクリル酸エステル単量体(f1)としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸(n-ブチル)、アクリル酸(2-エチルヘキシル)、アクリル酸(n-オクチル)、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2-エチルヘキシル)、メタクリル酸(n-オクチル)、メタクリル酸ベンジル等が挙げられる。なかでも、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(f1)は、工業的に入手しやすく安価な点から、アクリル酸メチル、アクリル酸(n-ブチル)、メタクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体(f1)は単独で又は混合して使用することができ、2種の(メタ)アクリル酸エステル単量体を組み合わせることが好ましい。
【0094】
本実施形態のアクリル系樹脂(F)を構成する単量体単位の好ましい態様としては、耐熱性と熱分解性を両立する観点から、上記に挙げられている単量体単位のうち、(メタ)アクリル酸エステル単量体(f1)を2種含むことが好ましく、メタクリル酸エステル種及びアクリル酸エステル種を共重合した組み合わせがより好ましく、メタクリル酸メチル-アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル-アクリル酸(n-ブチル)共重合体が更に好ましく、メタクリル酸メチル-アクリル酸メチル共重合体が最も好ましい。
【0095】
<(メタ)アクリル酸単量体(f2)>
本実施形態において、(メタ)アクリル酸単量体(f2)としては、アクリル酸又はメタクリル酸が挙げられる。
本実施形態において、アクリル系樹脂(F)が(メタ)アクリル酸単量体(f2)を含有する場合、アクリル系樹脂(F)の総量に対して、(メタ)アクリル酸単量体単位(f2)の含有量の上限は、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、12質量%以下、10質量%以下の順で好ましい。
【0096】
<アクリル系樹脂(F)の好ましい形態>
本実施形態の好ましいアクリル系樹脂(F)としては、2元又は3元共重合体であることが好ましく、メタクリル酸エステル種(メタクリル酸エステル単量体単位(f1-1))とアクリル酸エステル種(アクリル酸エステル単量体単位(f1-2))とを共重合したメタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体であり、かつ前記メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体の総量に対してアクリル酸エステル単量体単位(f1-2)を0.3~20質量%含有する共重合体が好ましく、アクリル酸エステル単量体単位(f1-2)を0.5~15質量%含有する共重合体がより好ましく、アクリル酸エステル単量体単位(f1-2)を1.0~12質量%含有する共重合体が更に好ましく、アクリル酸エステル単量体単位(f1-2)を1.5~10質量%含有する共重合体がよりさらに好ましい。
【0097】
本実施形態のアクリル系樹脂(F)は、メタクリル酸メチル-アクリル酸メチル共重合体であることが好ましく、かつ前記共重合体の総量に対して、アクリル酸メチルを0.5~12質量%含有する共重合体がさらに好ましい。これにより、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)によって向上した耐熱性の低下を最小限に抑えつつ、アクリル系樹脂(F)の添加効果を得ることができる。
【0098】
<その他単量体(f3)>
本実施形態のアクリル系樹脂(F)は、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(f1)及び(メタ)アクリル酸単量体単位(f2)以外のその他単量体単位(f3)をさらに有してもよい。すなわち、当該その他単量体(f3)は、(メタ)アクリル酸単量体(f2)及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体(f1)と共重合可能であれば発明の効果を損なわない範囲で、特に制限されることなく、上記に示した単量体以外の単量体と共重合してよい。例えば上記に示した単量体以外のその他単量体(f3)としては、スチレン、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、マレイミド、及びN-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等の核置換マレイミド等が挙げられる。
本実施形態において、その他単量体単位(f3)の含有量は、アクリル系樹脂(F)の総量に対して、0~20質量%であることが好ましく、0~15質量%であることがより好ましく、0~10質量%であることがさらに好ましい。
【0099】
アクリル系樹脂(F)の重量平均分子量(Mw)としては5~100万が好ましく、より好ましくは6~90万、さらに好ましくは7~30万、より更に好ましくは8~25万である。アクリル系樹脂(F)の重量平均分子量(Mw)を5万以上にすることにより、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)と混練した時に強度付与することができ、重量平均分子量(Mw)を100万以下とすることでスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)との粘度差を抑え、スチレン系樹脂組成物中に(メタ)アクリル系)が良好に分散することができ、かつアクリル系樹脂(F)に由来する未溶融物の発生を抑制し、外観良好な樹脂組成物、射出成形体を得ることができる。
【0100】
<アクリル系樹脂(F)の製造方法>
本実施形態のアクリル系樹脂(F)の製造方法は特に制限されるものではないが、塊状重合、溶媒を加えた溶液重合、あるいは水中に懸濁剤により有機層を分散させ重合はさせる懸濁重合等のプロセスにより製造することができる。特にアクリル系樹脂(F)は粘度が高くなるので、懸濁重合による重合プロセスが好ましい。
【0101】
<<潤滑オイル(G)>>
本実施形態の好ましい態様としては、スチレン系樹脂組成物は、潤滑オイル(G)(単にオイル(G)ともいう。)をさらに含有することが好ましい。潤滑オイル(G)を含有したスチレン系樹脂組成物は、流動性向上効果と、樹脂組成物中のコアシェル構造のゴム状粒子(B)や、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)との相互作用により、耐衝撃性(靭性)を向上させる効果を示す。
本実施形態で用いられる潤滑オイル(G)とは、110℃以下に流動点を有する常温でオイル状、ワックス状物質の総称である。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物中の潤滑オイル(G)の含有量としては、スチレン系樹脂全体(100質量%)に対し、好ましくは0.05~3.00質量%、つぎに好ましくは0.07~2.50質量%、より好ましくは0.10~2.30質量%、さらに好ましくは0.20~1.50質量%、さらにより好ましくは0.30~1.50質量%、よりさらに好ましくは0.30~1.50質量%、よりさらに好ましくは0.30~1.00質量部%、最も好ましくは0.40~0.70質量%の範囲である。0.05質量%以下では流動性向上効果が得られず、3.00質量部以上にすると耐熱性の低下を招来する。特に0.30~1.00質量部の範囲とすることで流動性、耐衝撃性、剛性、耐熱性のバランスに優れたスチレン系樹脂組成物が得られる。
【0102】
本実施形態で用いられる潤滑オイル(G)の具体例としては、原油から生成される鉱油系(ミネラル)、化学合成油、天然植物油等が挙げられる。鉱油系としてはパラフィン系、ナフテン系、化学合成油としてはポリ-α-オレフィンオリゴマー系、ポリブテンオリゴマー系、エチレンプロピレン共重合オリゴマー系、脂肪酸エステル系、天然ガス変性系(GTL)、アルキルベンゼン、シリコーンオイル、ポリアルキレングリコールオリゴマー系、天然油としては実油、キリ油、シアオイル、アルファルファ油、ケシ油、カボチャ油、冬カボチャ油、雑穀油、オオムギ油、キノア油、ライ麦油、ククイ油、トケイソウ油、シアバター、アロエベラ油、甘扁桃油、桃核油、大豆油、カシュー油、ピーナッツ油、アボカド油、バオバブ油、ルリヂサ油、ブロッコリー油、キンセンカ油、椿油、キャノーラ油、ニンジン油、サフラワー油、亜麻油、アブラナ種子油、綿実油、ココナツ油、カボチャ種子油、小麦胚芽油、ホホバ油、ユリ油、マカデミア油、コーン油、メドフォーム油、モノイオイル、ヘイゼルナッツ油、杏仁油、クルミ油、オリーブ油、月見草油、パーム油、ブラックカラント種油、キーウィ種子油、グレープシード油、ピスタチオ油、ジャコウバラ油、ゴマ油、ダイズ油、ヒマワリ油、ヒマシ油、スイカ油等が挙げられる。潤滑オイル(G)としては上記を化学変性させたものを用いてもよい。例えば、水素化(水素添加)により二重結合量を調整したり、エポキシ化、アミノ化、メルカプト化、した潤滑オイル(G)を必要に応じて用いても良い。工業的に入手可能なことから流動パラフィン、シリコーンオイルが好ましい。耐衝撃性向上効果の観点からシリコーンオイルが特に好ましい。なお、シリコーンオイルの好ましい含有量は、上記潤滑オイル(G)の含有量の範囲を援用する。
【0103】
本実施形態において、潤滑オイル(G)の動粘度は、25℃で1000mm2/s以下であることが好ましく、20~1000mm2/sであることがより好ましく、50~500mm2/sであることがさらにより好ましく、70~300mm2/sであることがよりさらに好ましい。
【0104】
本実施形態における潤滑オイル(G)の流動点は110℃以下であり、100℃以下であることが好ましく、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下、よりさらに好ましくは50℃以下、さらにより好ましくは30℃以下、さらにより好ましくは10℃以下、さらにより好ましくは0℃以下、さらにより好ましくは-20℃以下、さらにより好ましくは-30℃以下、特に好ましくは-40℃以下である。潤滑オイル(G)の流動点が100℃超であると、潤滑オイル(G)がスチレン系樹脂組成物に対して分散しにくく、添加又は混合操作が困難になる。特に流動点が-30℃以下の潤滑オイル(G)を用いることで、高い耐衝撃性向上効果を得ることができる。
【0105】
潤滑オイル(G)の低沸点成分は少ないことが押出成形時の揮発分の問題を回避するために有効である。JIS K2254の減圧蒸留法又はガスクロマトグラフ法から常圧換算した値で5%溜出温度が400℃以上であることが好ましい。
【0106】
本実施形態において、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)に含まれるスチレン系単量体単位(b4)の含有量をXとし、潤滑オイル(G)の含有量をYとすると、X/Y≦10であることが好ましい。X/Y≦10であれば、より優れた耐衝撃性の向上効果を得ることができる。
【0107】
潤滑オイル(G)をスチレン系樹脂組成物に添加する方法は、特に制限は無く、潤滑オイル(G)を重合工程で添加する方法、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー等の公知の混練機を用いて混練する方法等がある。
本実施形態における潤滑オイル(G)の同定は、当業者にとって一般的な方法により容易に確認できる。
例えば、熱分解GC-MS、液体クロマトグラフィー(LC)、1H-NMR又は13C-NMR等の各種分析装置によって同定、定量及び分子量の測定を行うことができる。
【0108】
前記潤滑オイル(G)がシリコーンオイルである場合、添加量はSi(ケイ素)量換算でも規定することができる。ケイ素量換算ではスチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対し、150ppm~10000ppmであることが好ましく、より好ましくは300ppm~8000ppm、よりさらに好ましくは500ppm~7000ppm、よりさらに好ましくは1000ppm~5000ppmである。ケイ素量を定量する場合、プラズマ発光分光法(ICP法)等の方法で測定することができる。
【0109】
シリコーンオイルの25℃における動粘度は、好ましくは10mm2/s~5000mm2/s、より好ましくは15mm2/s~3000mm2/s、より好ましくは20mm2/s~1000mm2/s、より好ましくは30mm2/s~500mm2/s、より好ましくは50mm2/s~200mm2/s、である。
【0110】
シリコーンオイルとしては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルエチルポリシロキサン等が挙げられる。中でも、市販されており、安価である点から、ジメチルポリシロキサンが好ましい。
【0111】
<<任意の添加成分>>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記(A)~(G)成分以外に、公知のスチレン系樹脂において使用が一般的な各種の任意の添加成分を、公知の作用効果を達成するために含有してもよい。本実施形態の任意の添加成分としては、例えば、炭素原子数10以上の1価アルコール、高級脂肪酸系界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防曇剤、着色剤等があげられる。配合の方法については特に規定はないが、例えば、重合時に添加して重合する方法、又は重合後溶融混練する前に、ブレンダーであらかじめ添加剤を混合し、押出機又はバンバリーミキサー等にて溶融混錬する方法、高濃度マスターバッチを作成して混錬する方法等が挙げられる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、炭素原子数10以上の1価アルコール、高級脂肪酸系界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防曇剤及び着色剤からなる群から選択される1種又は2種以上の添加成分を含有してもよい。
【0112】
<炭素原子数10以上の1価アルコール>
本実施形態における炭素原子数10以上の1価アルコール(以下単にアルコールともいう。)は任意の添加成分であり、成形時のスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)のゲル化を抑制し、良好な外観のスチレン系樹脂組成物及びスチレン系樹脂組成物からなる成形体の外観向上に寄与する。炭素原子数10以上の1価アルコールの含有量は、前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、0.01~1.0質量%であり、好ましくは0.03~0.8質量%、より好ましくは0.05~0.6質量%、より更に好ましくは0.07~0.5質量%である。炭素原子数10以上の1価アルコールの含有量を0.01質量%以上にすることにより、成形加工時におけるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)のゲル化を抑制することができる。一方、1.0質量%以下にすることで耐熱性低下と臭気の発生を抑えることができる。炭素原子数10以上の1価アルコールの含有量を0.07~0.5質量%にすることで特に耐熱性を低下させることなく、十分なゲル抑制効果を得られる。
【0113】
炭素原子数10以上の1価アルコールとしては、水酸基を1つ含む炭素原子数10以上のアルコール類であり、アルコールを構成する炭素鎖中に酸素又は窒素等のヘテロ原子を含んでもよく、当該炭素鎖中に2重結合、3重結合、エステル結合、アミド結合等、単結合以外の結合を含んでもよい。炭素原子数としては16以上が好ましく、より好ましくは17以上、より更に好ましくは18以上50以下である。上記炭素原子数10以上の1価アルコールは、スチレン系樹脂組成物又はスチレン系樹脂組成物からなる成形体に含有されていればよい。したがって、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)を重合する際に使用する重合溶液中に炭素原子数10以上の1価アルコールを存在(又は添加)させることにより、最終生成物である樹脂組成物中に1価アルコールを残留させてもよく、あるいはスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)とゴム状粒子(B)とを混錬する際に添加し押出機中で混合させることで含有させてもよい。
【0114】
本実施形態において、炭素原子数10以上の一価アルコールの沸点は、260℃以上が好ましく、更に好ましくは270℃以上、よりさらに好ましくは290℃以上である。アルコール類の沸点が260℃未満であると、揮発性が高くなり、成形時等に異臭が発生する傾向がある。
【0115】
上記炭素原子数10以上の1価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、1-ヘキサデカノール、イソヘキサデカノール、1-オクタデカノール(ステアリルアルコール)、5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-1-オクタノール、イソオクタデカノール、1-イソイソエイコサノール、8-メチル-2-(4-メチルヘキシル)-1-デカノール、2-ヘプチル-1-ウンデカノール、2-ヘプチル-4-メチル-1-デカノール、2-(1,5-ジメチルヘキシル)-(5,9-ジメチル)-1-デカノール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類等が挙げられる。
【0116】
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル類は以下の一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【化4】
(上記一般式(3)中、Rは炭素原子数12~20のアルキル基であり、Xはエチレンオキサイドの平均付加数を表し、1~15の整数である。)
好ましいアルコールの具体的な製品名としては日産化学社製「ファインオキソコール180」や花王社製「エマルゲン109P」、「カルコール8098」等が挙げられる。
【0117】
<酸化防止剤>
本実施形態における酸化防止剤は任意の添加成分であり、スチレン系樹脂組成物に対して、長期安定性、成形安定性等を目的に必要に応じて添加される。酸化防止剤として、例えばオクタデシル-3-(3,5-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール(製品としてはイルガノックス1076)等のヒンダートフェノール系酸化防止剤、トリス(2,4-ジ-ターシャリーブチルフェニル)フォスファイト(製品としてはイルガフォス176)等のリン系酸化防止剤等を挙げることができる。これらをそれぞれ単独、あるいは2種以上を組み合わせて適宜用いてもよい。特に一次酸化防止剤であるフェノール系酸化防止剤と、二次酸化防止剤であるリン系酸化防止剤を組み合わせることで優れた相乗効果を発揮する。酸化防止剤の添加量としてはスチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して0.001~3.0質量%が好ましく、より好ましくは0.010~2.0質量%、さらに好ましくは0.050~1.0質量%、よりさらに好ましくは0.080~0.8質量%、よりさらに好ましくは0.1~0.6質量%の範囲である。
【0118】
<離型剤>
本実施形態における離型剤は任意の添加成分であり、射出成形に供する場合は特に、スチレン系樹脂組成物は離型剤を有することが好ましい。離型剤の含有方法としては、スチレン系樹脂組成物を調整する際に、混練する内潤剤の形態をとっても、スチレン系樹脂組成物を造粒直後にドライブレンドする外潤剤の形態をとっても、その二つの形態を組み合わせてもよい。
【0119】
本実施形態の離型剤の含有量は、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対し、0.001~2.0質量%であることが好ましく、上限値としては、1.8質量%以下、1.7質量%以下、1.6質量%以下、1.5質量%以下、1.4質量%以下、1.3質量%以下、1.2質量%以下、1.1質量%以下、1.0質量%以下、0.9質量%以下、0.8質量%以下、0.7質量%以下、0.6質量%以下の順でより好ましく、下限値としては、0.003質量%以上、0.005質量%以上、0.007質量%以上、0.009質量%以上、0.012質量%以上、0.031質量%以上、0.066質量%以上、0.090質量%以上、0.11質量%以上、0.16質量%以上、0.21質量%以上、0.26質量%以上、0.31質量%以上の順で好ましい。0.001~2.0質量%の範囲とすることで離型性に優れたスチレン系樹脂組成物を得ることができ、特に0.01~0.8質量%の範囲とすることで、離型性と耐熱性のバランスに優れたスチレン系樹脂組成物を得ることができる。
【0120】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物が、内潤剤として離型剤を含有する場合、当該内潤剤の含有量としては、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対し、0.05~2.0質量%が好ましく、より好ましくは0.10~1.5質量%、より好ましくは0.13~1.0質量%、更に好ましくは0.17~0.8質量%の範囲である。特に0.13~1.0質量%の範囲とすることで、過度のブリードアウトを抑え、離型性に優れたスチレン系樹脂組成物を得ることができる。
【0121】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物が、外潤剤として離型剤を含有する場合、当該外潤剤としての離型剤の含有量としては、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対し、好ましくは0.005~0.5質量%、より好ましくは0.007~0.2質量%、更に好ましくは0.008~0.1質量%の範囲である。特に0.008~0.1質量%の範囲とすることで、金型汚染を抑えて、離型性に優れたスチレン系樹脂組成物を得ることができる。
【0122】
本実施形態の離型剤としては例えば、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、グリセリン、モスステアリン酸グリセロール、エチレンビスステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、グリセリン、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、等のグリセリン系エステル、ペンタエリスリトールステアレート等が挙げられる。スチレン系樹脂との相性の観点から、エチレンビスステアリン酸アミド、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムが好ましい。
【0123】
<光安定剤>
本実施形態における光安定剤は任意の添加成分であり、必要に応じてスチレン系樹脂組成物を屋外等の光劣化が懸念される用途に供する際には添加することが好ましい。光安定剤は、自身に紫外線吸収能はないが、スチレン系樹脂系組成物が紫外線を吸収することで発生した光ラジカルを捕捉し、無害化することで、ラジカルによるスチレン系樹脂組成物の劣化や着色を防ぐ機能を有する。その機構ゆえ、熱ラジカル捕捉剤としても機能することが期待されるので、熱安定剤としても機能し得る。当該光安定剤としてはヒンダートアミン系化合物が好ましく、2級アミン型、3級アミン型、N-O-R型等のヒンダートアミン系化合物が挙げられる。光安定剤は、単独又は2種以上組み合わせて用いることができ、後述の紫外線吸収剤を併用することで、より高い耐光性効果が得られる。換言すると、スチレン系樹脂系組成物又はその成形品の長期間の屋外における使用による露光後の着色や強度低下を抑制することができる。光安定剤は主に光ラジカル発生が多い樹脂表面で機能を発揮するため、より効果を発揮させたい場合は低分子タイプのものが好ましいが、過剰なブリードアウトによる金型汚染等を防いだり、より長期的な安定効果を必要とする場合は適切な分子量調整をしたり、低分子、高分子タイプの併用を検討する必要がある。
【0124】
光安定剤の含有量としては、スチレン系樹脂組成物の総量に対して、0.001~2.0質量%が好ましく、上限値としては1.8質量%以下、1.6質量%以下、1.4質量%以下、1.2質量%以下、1.0質量%以下、0.8質量%以下、0.7質量%以下の順で好ましく、下限値としては0.005質量%以上、0.010質量%以上、0.021質量%以上、0.051質量%以上、0.061質量%以上、0.071質量%以上、0.079質量%以上、0.089質量%以上、0.12質量%以上、0.17質量%以上の順で好ましい。光安定剤の含有量としては、上記の上限値、下限値の任意の組み合わせで選ぶことができる。
【0125】
光安定剤としては、ヒンダートアミン系化合物であることが好ましい。当該ヒンダートアミン系化合物としては、具体的には、ビス(1,2,2,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-ウンデカンオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ヘキサン-1,6-ジアミン、ブチル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)等が挙げられ、具体的な製品名としては、ADEKA社製アデカスタブLA-52、アデカスタブLA-57、アデカスタブLA-63P、アデカスタブLA-68、アデカスタブLA-72、アデカスタブLA-77Y、アデカスタブLA-77G、アデカスタブLA-81、城北化学社製JF-90G、JF-95、BASFジャパン社製Chimassorb2020FDL、Chimassorb944FDL、Tinuvn622SF等が挙げられる。
【0126】
<紫外線吸収剤>
本実施形態における紫外線吸収剤は任意の添加成分であり、必要に応じてスチレン系樹脂組成物を屋外等の光劣化が懸念される用途に供する際には添加することが好ましい。紫外線吸収剤は、スチレン系樹脂組成物が吸収する紫外線を、当該スチレン系樹脂組成物に代わって吸収し、熱や化学エネルギーに変換することで、スチレン系樹脂組成物の紫外線吸収による光ラジカル発生を抑制し、樹脂の劣化や着色を抑制する機能を有する。当該紫外線吸収剤としては、不対電子を有する原子(酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子等)を含む連結基を介して結合された2以上の芳香環を有し、かつ1以上の芳香環がフェノール性水酸基を有する化合物であることが好ましい。当該化合物であると、光を吸収して励起状態になった後、化学エネルギーに変換する化学構造を備えうる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート系化合物、シアノアクリレート系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、マロン酸エステル系化合物、ホルムアミジン系化合物、サリシレート系化合物等が挙げられる。これら紫外線吸収剤は、単独又は2種以上組み合わせて用いることができ、前記光安定剤と紫外線吸収剤とを併用することで、より高い耐光性効果、換言すれば、スチレン系樹脂組成物の露光後の着色や強度低下を抑制することができる。また、スチレン系樹脂組成物に添加される樹脂が吸収しやすい紫外線波長(250~350nm)を代わって吸収することができる紫外線吸収剤が好ましい。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物がより好ましい。
【0127】
本実施形態の紫外線吸収剤の含有量としては、スチレン系樹脂組成物の総量に対して、0.001~2.0質量%が好ましく、上限値としては1.8質量%以下、1.6質量%以下、1.4質量%以下、1.2質量%以下、1.0質量%以下、0.8質量%以下、0.7質量%以下の順で好ましく、下限値としては0.005質量%以上、0.010質量%以上、0.021質量%以上、0.051質量%以上、0.061質量%以上、0.071質量%以上、0.079質量%以上、0.089質量%以上、0.12質量%以上、0.17質量%以上の順で好ましい。紫外線吸収剤の含有量としては、上記の上限値、下限値の任意の組み合わせで選ぶことができる。
【0128】
前記ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、6-(2-ベンゾトリアゾリル)-4-tert-オクチル-6’-tert-ブチル-4’-メチル-2,2’-メチレンビスフェノール]2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール等が挙げられ、具体的な製品名としては、ADEKA社製アデカスタブLA-32、アデカスタブLA-36、アデカスタブLA-36RG、城北化学社製JF-77、JF-79、JF-80、JF-83、JF-832、JAST-500、BASTジャパン社製TinuvinP、Tinuvin234、Tinuvin234FF、Tinuvin326、Tinuvin329、Tinuvin360等が挙げられる。
【0129】
前記トリアジン系化合物としては、例えば、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、N,N’,N’’-トリ(m-トリル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン、2,4,6-トリス(4-ブトキシ-2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、エチルヘキシルトリアジン、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2,4-ジヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、ベモトジノール、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン等が挙げられ、具体的な製品名としてはADEKA社製アデカスタブLA-46、アデカスタブLA-F70、BASTジャパン社製Tinuvin1577ED、Tinuvin1600等が挙げられる。
【0130】
前記ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、2-ヒドロキシ-4-(オクチルオキシ)ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられ、具体的な製品名としては、ADEKA社製アデカスタブ1413、BASTジャパン社製Chimassorb81、Chimassorb81FL等が挙げられる。
【0131】
紫外線吸収剤としては2種以上を混合して用いても良く、好ましい形態としてはスチレン系樹脂の芳香族に由来する紫外線吸収ピークが光劣化に伴い、紫外線吸収が増感する領域(波長250~300nm)を効率的に吸収できる紫外線吸収剤と、地表に最も降り注ぐ紫外線領域(波長300~400nm)を効率的に吸収できる紫外線吸収剤とを併用するものである。具体的には、波長250~300nmを効率的に吸収できる紫外線吸収剤として、トリアジン系紫外線吸収剤に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤又はベンゾフェノン系紫外線吸収剤を組み合わせた併用系の紫外線吸収剤が好ましい。
【0132】
<着色剤>
本実施形態における着色剤は、任意の添加成分であり、スチレン系樹脂組成物を着色する必要がある際に使用される。特に車載関連部材としてスチレン系樹脂組成物を適用する場合には黒に着色することが多い。黒着色することで車載適用するうえで好ましい外観と一部熱や光に対する耐性を付与することができる。着色剤としては特に限定されないが、カーボンブラック、酸化チタン、有機染料を用いることができる。カーボンブラックとしてはファーネス法(ファーネスブラック)、チャンネル法(チャンネルブラック)、アセチレン法(アセチレンブラック)、サーマル法(サーマルブラック)の製法により生産されたものが挙げられる。
【0133】
スチレン系樹脂組成物をカーボンブラックで黒着色する場合、スチレン系樹脂組成物中のカーボンブラックの含有量としては、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、0.05~5.0質量%が好ましい。当該カーボンブラックの含有量が0.05質量%未満では目的の黒色度が発現されず、灰色っぽくなり、また5.0質量%超では黒色度に変化がなくなる。そのため、コスト及び機械強度の観点から5.0質量%以下であることが好ましい。着色剤の添加方法としては特に限定されるものではない。重合時の後添加、混錬時に直接配合、高濃度マスターバッチを用いて混錬時に添加してもよい。
【0134】
<着色剤マスターバッチ>
以下本実施形態における任意の添加成分である着色剤を添加する際にマスターバッチを使用して添加する方法について記載する。
マスターバッチのベース樹脂としては本実施形態の必須成分であるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)、又は好ましい形態の添加成分であるアクリル系樹脂(F)を用いることが好ましい。マスターバッチ中のベース樹脂含有量としては、マスターバッチの総量に対して、30~70質量%が好ましく、より好ましくは40~60質量%の範囲である。30質量%以上とすることで、樹脂としての粘弾性を付与することができ、取り扱い易くなる。70質量%以下とすることで、所望量の着色剤をスチレン系樹脂組成物に存在させ易くなり、なおかつコストの面で優れる。マスターバッチ中の着色剤の含有量としてはマスターバッチの総量に対して、上記と同様の理由で30~70質量%が好ましく、より好ましくは40~60質量%の範囲である。
【0135】
着色剤がカーボンブラックのように粉体状の顔料である場合、マスターバッチを調整する際にベース樹脂及び着色剤以外に分散剤を含有することが好ましい。当該分散剤は一般的に使用されている分散剤が使用でき、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸金属塩、エチレンビスステアリン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、変性ポリエチレンワックス等が挙げられる。スチレン-不飽和カルボン酸系樹(A)との反応性の観点から、ポリエチレンワックスが好ましい。分散剤の含有量としてはマスターバッチの総量に対して、2~20質量%が好ましく、より好ましくは3~17質量%の範囲である。2質量%以上とすることで着色剤の量にもよるが、着色剤を分散させることができ、20質量%以下とすることで、スチレン系樹脂組成物の耐熱性の低下を抑えることができる。
【0136】
マスターバッチの製造方法としては、前記ベース樹脂(樹脂(A)又は樹脂(F)が好ましい。)に対して着色剤と必要に応じて分散剤をブレンドし、混錬押出やニーダーを用いて調整することができる。混錬温度としては200~280℃が好ましく、より好ましくは220~260℃の範囲である。
【0137】
<<スチレン系樹脂組成物の好ましい実施形態の成分構成>>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)とを有し、かつ前記樹脂(A)及び前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、65~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは75~95質量%でありうる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)と任意の添加成分とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)及び任意の添加成分の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、70~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは80~95質量%でありうる。
【0138】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)と樹脂(C)とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)及び前記樹脂(C)の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、70~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは80~90質量%でありうる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)と樹脂(C)と任意の添加成分とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)、前記樹脂(C)及び前記任意の添加成分の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、85~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは90~95質量%でありうる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)と樹脂(C)と潤滑オイル(G)と任意の添加成分とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)、前記樹脂(C)及び前記任意の添加成分の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、85~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは90~95質量%でありうる。
【0139】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)とエラストマー(D)とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)及び前記エラストマー(D)の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、70~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは75~95質量%、さらに好ましくは80~90質量%でありうる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)とエラストマー(D)と任意の添加成分とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)、前記エラストマー(D)及び前記任意の添加成分の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、80~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは85~97質量%、さらに好ましくは90~95質量%でありうる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)とエラストマー(D)と潤滑オイル(G)と任意の添加成分とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)、前記エラストマー(D)、前記潤滑オイル(G)及び前記任意の添加成分の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、80~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは85~97質量%、さらに好ましくは90~95質量%でありうる。
【0140】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)とエラストマー(E)とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)及び前記エラストマー(E)の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、70~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは80~90質量%でありうる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)とエラストマー(E)と任意の添加成分とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)、前記エラストマー(E)及び前記任意の添加成分の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、85~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは90~95質量%でありうる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)とエラストマー(E)と潤滑オイル(G)と任意の添加成分とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)、前記エラストマー(E)、前記潤滑オイル(G)及び前記任意の添加成分との合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、85~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは90~95質量%でありうる。
【0141】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)と樹脂(F)とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)及び前記エラストマー(F)の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、70~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは80~90質量%でありうる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)と樹脂(F)と任意の添加成分とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)、前記樹脂(F)及び前記任意の添加成分の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、85~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは90~95質量%でありうる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)と樹脂(F)と潤滑オイル(G)と任意の添加成分とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)、前記樹脂(F)、前記潤滑オイル(G)及び前記任意の添加成分の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、85~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは90~95質量%でありうる。
【0142】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)と潤滑オイル(G)とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)及び前記潤滑オイル(G)の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、70~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは80~90質量%でありうる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)とコアシェル構造のゴム状粒子(B)と潤滑オイル(G)と任意の添加成分とを有し、かつ前記樹脂(A)、前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)、前記潤滑オイル(G)及び前記任意の添加成分の合計含有量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、85~100質量%占めることが好ましく、より好ましくは90~95質量%でありうる。
【0143】
<<スチレン系樹脂組成物の好ましい実施形態>>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、前記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)と前記コアシェル構造のゴム状粒子(B)は、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)を海、コアシェル構造のゴム状粒子(B)を島とした海島構造であることが好ましい。ゴム変性スチレン系樹脂(C)を使用する場合、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)とゴム変性スチレン系樹脂(C)のマトリクス部分を海相とし、ゴム変性スチレン系樹脂(C)に含まれるゴム粒子を島相とした海島構造であることが好ましい。また、前記海島構造の島相となるゴム粒子はコアシェル構造のゴム状粒子(B)とゴム変性スチレン系樹脂(C)に含まれるゴム状重合体粒子(C-2)とが混在してもよい。
【0144】
<<スチレン系樹脂組成物のベストモード>>
本実施形態の特に好ましい形態は、スチレン系単量体単位(a1)及び不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)を含むスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を含むコアシェル構造のゴム状粒子(B)と、シリコーンオイルとを含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、前記スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の含有量は40質量%~95質量%であり、かつ前記ゴム状粒子(B)の含有量は5質量%~60質量%であり、
前記ゴム状粒子(B)は前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)、共役ジエン系単量体単位(b2)及びスチレン系単量体単位(b4)を含有し、かつ前記ゴム状粒子(B)の総量(100質量%)に対して、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)の含有量が3~40質量%であり、前記共役ジエン系単量体単位(b2)の含有量が50~90質量%であり、前記シリコーンオイルの含有量が0.30~1.50質量%であり、
前記スチレン系単量体単位(b4)の含有量をYとし、前記シリコーンオイルの含有量をXとした場合、Y/X≦10となる、スチレン系樹脂組成物である。
これにより、耐熱性、靭性、剛性及びアクリル系樹脂材料との溶着性により優れた特性を有する。特に組成物全体として優れた靭性を有する。
【0145】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物においてゴム変性スチレン系樹脂(C)が使用される場合、ゴム変性スチレン系樹脂(C)に含まれるゴム粒子はコアシェル構造又はサラミ状構造が挙げられ、耐衝撃性の観点からサラミ状構造であることが特に好ましい。
【0146】
[スチレン系樹脂組成物の物性と性状]
以下に本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物の物性と性状について述べる。
<スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度(℃)>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度は110℃以上であることが好ましく、より好ましくは112℃以上、更に好ましくは115℃以上、より更に好ましくは118℃以上、最も好ましくは120℃以上である。当該ビカット軟化温度を110℃以上とすることにより、耐熱性に優れた成形体を得ることができ、特に120℃以上とすることで、車載部品に使用可能な成形体を得ることができる。当該ビカット軟化温度は、ISO306に準拠して、荷重1kg、昇温速度120℃/時間の条件で測定できる。また、必要に応じて荷重5kg、昇温速度50℃/時間の条件で測定しても良いが、その場合は、105℃以上の範囲が好ましく、より好ましくは110℃以上の範囲である。
【0147】
<スチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレート(g/10分)>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレートは1.0~20.0g/10分の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.0~10.0g/10分であり、、より好ましくは2.0~9.0g/10分であり、さらに好ましくは2.5~8.0g/10分の範囲である。メルトフローレートを1.0g/10分以上にすることにより、良好な成形性が得られ、10.0g/10分以下にすることにより、強度に優れた樹脂を得ることができる。当該メルトマスフローレートはISO1133に準拠して、220℃、荷重10kgの条件で測定される値である。また、必要に応じて200℃、荷重5kgの条件で測定しても良いが、その場合は0.1~3.0g/10分の範囲が好ましく、より好ましくは0.2~1.5g/10分の範囲である。
【0148】
<スチレン系樹脂組成物のシャルピー衝撃強度(kJ/m2)>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物のシャルピー衝撃強度(ノッチ有)は、4.0kJ/m2以上であることが好ましく、次に好ましくは4.5kJ/m2以上、より好ましくは5.0kJ/m2以上、更に好ましくは6.0kJ/m2以上、より更に好ましくは8.0kJ/m2以上、最も好ましくは10.0kJ/m2以上である。4.0kJ/m2以上とすることで靭性に優れた射出成形体を得ることができ、特に10.0kJ/m2以上とすることで車載用途にも適用可能な靭性をもった射出成形体を得ることができる。
【0149】
<スチレン系樹脂組成物の曲げ弾性率(MPa)>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物の曲げ弾性率は2000MPa以上が好ましく、より好ましくは2100MPa以上、さらに好ましくは2200MPa以上の範囲である。曲げ弾性率を2000MPa以上とすることで剛性に優れた成形体を得ることができる。
【0150】
<スチレン系樹脂組成物の引張降伏応力(MPa)>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物の引張降伏応力35MPa以上が好ましく、より好ましくは40MPa以上、さらに好ましくは42MPa以上の範囲である。引張降伏応力を35MPa以上とすることで剛性と強度のバランスに優れた成形体を得ることができる。
【0151】
<スチレン系樹脂組成物の明度(L*)(-)>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物の明度(L*)は50以下であることが好ましく、45以下、40以下、38以下、36以下、34以下、32以下の順でより好ましい。明度(L*)は50以下とすることで耐光性に優れたスチレン系樹脂組成物とその成形体を得ることができ、さらに38以下とすることで色調に優れる。
【0152】
<スチレン系樹脂組成物の密度(g/cm3)>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物の密度は1.20g/cm3以下が好ましく、より好ましくは1.15g/cm3以下、さらに好ましくは1.10g/cm3以下、よりさらに好ましくは1.09g/cm3以下、よりさらに好ましくは1.08g/cm3以下、よりさらに好ましくは1.07g/cm3以下、よりさらに好ましくは1.06g/cm3以下である。密度を1.20g/cm3以下とすることで、成形体の軽量化に寄与することができる。
【0153】
<スチレン系樹脂組成物中の全スチレン系単量体の含有量>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物中に含まれる全スチレン系単量体の残留物の含有量は3000μg/g以下が好ましく、より好ましくは2000μg/g以下、さらに好ましくは1500μg/g以下、よりさらに好ましくは1000μg/g以下、よりさらに好ましくは900μg/g以下、よりさらに好ましくは800μg/g以下、よりさらに好ましくは700μg/g以下の範囲である。全スチレン系単量体の残留物の含有量を3000μg/g以下とすることで熱溶着時に加熱面から気泡が発生するのを抑制することができる。一方で、100μg/g以上含有することで流動性を向上させるので好ましい。スチレン系樹脂組成物中に含まれるスチレン系単量体は基本的に重合残渣である。
【0154】
<スチレン系樹脂組成物中のスチレン2量体及び3量体の含有量>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物中に含まれるスチレン2量体及び3量体の含有量は1.00質量%以下が好ましく、より好ましくは0.90質量%以下、さらに好ましくは0.80質量%以下、よりさらに好ましくは0.70質量%以下、よりさらに好ましくは0.60質量%以下、よりさらに好ましくは0.50質量%以下、よりさらに好ましくは0.40質量%以下の範囲である。スチレン2量体及び3量体の含有量を1.00質量%以下とすることで熱溶着時に加熱面から気泡が発生するのを抑制することができる。一方で、0.10質量%以上含有することで流動性を向上させるので好ましい。スチレン系樹脂組成物中に含まれるスチレン2量体3量体の含有量は基本的に重合時に生成する副生物である。
【0155】
<スチレン系樹脂組成物中の全スチレン系単量体単位の含有量>
また、本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、全スチレン系単量体単位(スチレン系樹脂組成物を構成する各樹脂中のスチレン系単量体単位の合計量)の含有量の上限値としては72質量%以下であることが好ましく、71質量%以下、70質量%以下、69質量%以下、68質量%以下、69質量%以下、68質量%以下の順でより好ましい。スチレン系樹脂組成物中の全スチレン系単量体単位の総和を72質量%以下とすることでアクリル系樹脂材料との熱溶着性に優れたスチレン系樹脂組成物を得ることができる。全スチレン系単量体単位の含有量の下限値としては45質量%以上が好ましく、46質量%以上、47質量%以上。48質量%以上、49質量%以上、50質量%以上、51質量%以上の順でより好ましい。スチレン系樹脂組成物中の全スチレン系単量体単位の総和を45質量%以上とすることで、易成形性、低吸水性、低比重のスチレン系樹脂組成物を得ることができる。スチレン系樹脂組成物中の全スチレン系単量体単位の含有量範囲としては上記上限値及び下限値から任意に組み合わせることができる。
前記全スチレン系単量体単位とは、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)に含まれるスチレン系単量体単位(a1)、後述のコアシェル構造のゴム状粒子(B)に含まれるスチレン系単量体単位(b4)、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)含まれるスチレン系単量体単位(c1)、スチレン系エラストマー(D)含まれるスチレン系単量体単位(d1)、アクリル系樹脂(F)に含まれるその他単量体単位(f3)としてのスチレン系単量体単位、及びその他任意成分も含めたスチレン系樹脂組成物の構成成分中に含まれるスチレン系単量体単位の合計である。
【0156】
<スチレン系樹脂組成物における全共役ジエン系単量体単位の含有量>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物中に含まれる全共役ジエン系単量体単位の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体に対し、0~25質量%が好ましく、より好ましくは5~20質量%、より更に好ましくは8~19質量%、最も好ましくは10~18の範囲である。特に全共役ジエン系単量体単位の含有量を8~19質量%の範囲とすることにより、耐衝撃強度と剛性のバランスに優れた樹脂組成物及び該組成物を成形してなる射出成形体を得ることができる。
全共役ジエン系単量体単位とは、コアシェル構造のゴム状粒子(B)に含まれる共役ジエン系単量体単位(b2)、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)含まれる共役ジエン系単量体(c2)、スチレン系エラストマー(D)含まれる共役ジエン系単量体(d2)、及びその他任意成分も含めたスチレン系樹脂組成物の構成成分中に含まれる共役ジエン系単量体単位の合計である。
【0157】
<スチレン系樹脂組成物における全(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物に含まれる全(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が、前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、2~20質量%含有することが好ましく、好ましくは3~15質量%、より好ましくは4~11質量%、より更に好ましくは5~9質量%の範囲である。スチレン系樹脂組成物全体における全(メタ)アクリル酸単量体の含有量が上記範囲であると、耐熱性向上効果とアクリル系樹脂材料との熱溶着性を十分に得ることができる。
全(メタ)アクリル酸単量体単位とは、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)に含まれる(メタ)アクリル酸単量体単位(a2-1)、アクリル系樹脂(F)に含まれる(f2)、及びその他任意成分も含めたスチレン系樹脂組成物の構成成分中に含まれる(メタ)アクリル酸単量体の合計である。
【0158】
<スチレン系樹脂組成物における全アクリル酸メチル単量体単位の含有量>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物に含まれる全アクリル酸メチル単量体単位の含有量が、前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、0~10質量%含有することが好ましく、好ましくは0.3~3.0質量%の範囲である。
【0159】
<スチレン系樹脂組成物における全ゴム状粒子>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物に含有された全ゴム状粒子の平均粒子径は、0.08~5.0μmであることが好ましく、0.10~4.5μmであることがより好ましく、0.12~4.0μmであることがさらに好ましく、0.14~3.5μmであることがよりさらに好ましく、0.16~3.0μmであることがよりさらに好ましく、0.16~3.0μmであることがよりさらに好ましく、0.18~3.0μmであることがよりさらに好ましく、0.20~2.0μmであることがよりさらに好ましく、0.22~1.5μmであることがよりさらに好ましい。
全ゴム状粒子、いわゆるみかけのゴム状粒子の平均粒子径が上記範囲であると、スチレン系樹脂組成物に対する強度付与効果が最大になる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物全体における全ゴム状粒子の総量(内包樹脂を含む)は、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、5.0~30質量%であることが好ましく、8.0~28質量%であることがより好ましく、10~26質量%であることがさらに好ましく、14~26質量%であることがよりさらに好ましい。特に10~26質量%の範囲であることで、靭性に優れたスチレン系樹脂組成物を得ることができる。
全ゴム状粒子とは、コアシェル構造のゴム状粒子(B)及び耐衝撃性スチレン系樹脂(C)に含まれるゴム状重合体粒子(C-2)(グラフト/オクルード含む)、の合計である。
上記全ゴム状粒子の平均粒子径の測定方法は、以下の条件を用いてレーザー回折式粒径測定装置で行っている。
ポリプロピレン製ディスポーサルカップに、測定対象物(スチレン系樹脂組成物)1gmgと、N,N-ジメチルホルムアミド20mLとを入れて、超音波振動を3分間かけて溶解・分散させた。振動させた状態で、サンプルの白濁液の一部を採取し、測定用セルに入れ、回転子で撹拌させながら、レーザー回折式粒径測定装置((株)堀場製作所製、LA-960V2)を用いて、前記スチレン系樹脂組成物を含むN,N-ジメチルホルムアミド溶液の分散質の粒子径(d50%)及び積分分布曲線を求めた。このとき、サンプルの屈折率は1.6―0.00i、溶媒の屈折率を1.43とした。
【0160】
[スチレン系脂組成物の製造方法]
本実施形態において、スチレン系脂組成物の製造方法は、スチレン系単量体単位(a1)及び不飽和カルボン酸系単量体単位(a2)を含むスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を含むコアシェル構造のゴム状粒子(B)及び任意成分(耐衝撃性スチレン系樹脂(C)、スチレン系エラストマー(D)、アクリル系エラストマー(E)、アクリル系樹脂(F)及び任意の添加成分からなる群から選択される少なくとも1種)を配合、溶融、混練、造粒する方法は特に限定されず、一般的なスチレン樹脂の製造で常用されている方法を用いることができる。例えば、ドラムタンブラー、ヘンシェルミキサー等で配合(混合)した上記各成分をバンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー等を用いて溶融、混練し、ロータリーカッター、ファンカッター等で造粒することによってスチレン系脂組成物を得ることができる。溶融、混練における樹脂温度は180~240℃が好ましい。目標とする樹脂温度にするためには、押出機等のシリンダー温度は樹脂温度よりも10~20℃低い温度に設定することが好ましい。樹脂温度が180℃未満では混合が不十分となり好ましくない。一方、樹脂温度が240℃を超えると樹脂の熱分解が起こり好ましくない。
【0161】
[成形品]
本開示に係るスチレン系脂組成物の用途としては、インジェクションブロー成形、シート体(フィルムも含む)、射出成形、又は押出成形に供されることが好ましい。そのため、本実施形態は、スチレン系樹脂組成物を射出成形したスチレン系樹脂製の射出成形体でありうる。また、本実施形態の別の態様としては、スチレン系樹脂製の射出成形体及び前記射出成形体と溶着(例えば、熱溶着)したアクリル系樹脂材料を有する射出成形体であってもよい。
また、本実施形態のスチレン系樹脂組成物を含む成形品、好ましくは、射出成形品(射出圧縮を含む)、複写機、ファックス、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、パソコン、プリンター、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジ等のOA機器、家庭電化製品、電気・電子機器のハウジングや各種部品、ヘッドランプ、リアランプ、フォグランプ及びターンランプ等の車両用灯具若しくは車両内外装材、発泡断熱材、絶縁フィルム等に好適に用いられる。
【実施例0162】
次に本発明を実施例及び比較例により詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における樹脂、樹脂組成物、成形体の分析、評価方法は、下記の通りである。
[各樹脂及び樹脂組成物の特性評価]
(1)各単量体単位の含有量の測定
以下の条件にて熱分解GC/MSにて実施例及び比較例で調製した各樹脂及び樹脂組成物中に含まれる各単量体単位の含有量の測定を行なった。各単量体単位の含有量が既知な標準サンプルを用いた検量線法にて定量値を得た。
<<試料調製>>
実施例及び比較例で調製した樹脂、又は組成物を精密天秤にて20μgをサンプルカップに秤量。
<<測定条件>>
<熱分解ユニット>
機器 :フロンティアラボ製 PY-3030D
加熱炉温度 :600℃
<GC/MSユニット>
機器 :島津製作所製 GCMS-GP2020NX
カラム :Ultra Alloy-5
(長さ30m、膜厚0.25μm、径0.250mmφ)
カラム温度 :50℃に5分間保持し、10℃/分で昇温させ、100℃からは7℃/分で昇温させ、300℃で10分間保持した。
注入口温度 :300℃
検出器温度 :300℃
スプリット比 :1/300
キャリアガス :ヘリウム
検出装置 :質量分析計(MSD)
検出条件 :スキャンモード又はSIMモード(不要ピークと要検出ピークの重なりがある場合)
なお、各単量体ピークの検出に際し、ピーク強度の飽和や、検出したいピーク同士の重なり避けるため、適宜サンプル量の調整、使用するカラムや、昇温速度等の検出条件を適宜調整してもよい。
【0163】
(2)平均分子量の測定
実施例及び比較例で製造した各樹脂及び樹脂組成物の平均分子量(Mn、Mw、Mz)を、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で標準ポリスチレンを用いた検量線法により、標準ポリスチレン換算分子量として測定した。
測定機器:東ソー製HLC―8220
分別カラム:東ソー製TSK gel Super HZM-H(内径4.6mm)を直列に2本接続
ガードカラム:東ソー製TSK guard column Super HZ-H
測定溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
試料濃度:測定試料5mgを10mLの溶媒に溶解し、0.45μmのフィルターでろ過を行った。
注入量:10μL
測定温度:40℃
流速:0.35mL/分
検出器:示差屈折率計
検量線の作成には東ソー製のTSK標準ポリスチレン11種類(F-850、F-450、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000)を用いた。1次直線の近似式を用いて検量線を作成した。なお組成部中中にTHF不溶物がある場合は、0.2~0.5μm程度のメンブレンフィルターによりTHF不溶分除去して測定した。
【0164】
(3)メルトマスフローレート(g/10分)
ISO 1133に準拠して測定した。樹脂(A)及び樹脂(C)においては、200℃、荷重5kgの試験条件で測定した。実施例及び比較例で作成したスチレン系樹脂組成物では、220℃荷重10kgの試験条件で測定した。
【0165】
(4)ビカット軟化温度の測定(℃)
実施例及び比較例で製造した各樹脂及び樹脂組成物のビカット軟化温度をISO306に準拠して測定した。樹脂(A)及び樹脂(F)においては荷重5kg、昇温速度50℃/時間の試験条件で測定した。実施例及び比較例で作成したスチレン系樹脂組成物では荷重1kg、昇温速度120℃/時間の試験条件で測定した。
【0166】
(5)密度の測定(g/cm3)
実施例及び比較例で製造した各樹脂及び樹脂組成物の密度をISO1183(A法)に準拠し測定した。
【0167】
(6)ゴム状粒子の平均粒子径の測定(μm)
コアシェル構造のゴム状粒子(B)及び耐衝撃性スチレン系樹脂(C)中のゴム状重合体粒子(C-2)の平均粒子径(μm)について、各樹脂及び樹脂組成物の熱プレス品を作成し、透過型電子顕微鏡による断面観察によって観察された200個のゴム状重合体粒子について、下記式(2):
平均粒子径=Σ(ni×Di4)/Σ(ni×Di3)
{上記式(2)中、niは粒子径Diを有するゴム状重合体粒子の個数であり、Diはゴム状重合体粒子の長径と短径の平均値である。}
により5視野の画像から得られた粒子径(5×200個)を平均することで計算した。
【0168】
(7)低分子成分の分析
スチレン系樹脂組成物中における炭素原子数10以上の1価アルコール、スチレン単量体、スチレン2量体3量体の含有量についてガスクロマトグラフィーを用いて以下の条件で測定した。
<<試料調製>>
樹脂1.0gをメチルエチルケトン5mLに溶解後、更に標準物質としてp-ジエチルベンゼンを200μg/gになるように調整したヘキサン5mLを加えポリマー成分を再沈させ、上澄み液を採取し、測定液とした。
<<測定条件>>
測定機器:Agilent社製 6850 シリーズ GCシステム
検出器:FID
カラム:DB-WAX
(長さ60m、膜厚0.50μm、径0.320mmφ)
注入量:1μL
スプリット比:50:1
カラム温度:100℃で5分保持→10℃/分で130℃まで昇温→10℃/分で
180℃まで昇温→180℃で10分保持→20℃/分で
220℃まで昇温→220℃で10分保持
注入口温度:230℃
検出器温度:300℃
キャリアガス:ヘリウム
なお、各ピークの検出に際し、他ピークの重なりや、ピーク強度の飽和を避けるため、適宜サンプルの希釈率等の前処理や、使用するカラムや、昇温速度等の検出条件を適宜調整してもよい。
【0169】
(8)引張試験、曲げ試験及び衝撃試験
(8―1)スチレン系樹脂組成物のダンベル成形
実施例及び比較例で製造した各ペレット状樹脂組成物を東芝機械社製EC60NにてタイプAの4mmダンベルを以下の条件にて成形した。
ペレット乾燥:80℃で2時間以上
計量:63mm
射出時間:20秒
保圧切替:10mm以下のショートショットポイント
保圧:ショートショット時、保圧0MPaのときのMAX射出圧×1.0MPa
保圧時間:10秒
シリンダー温度:ノズル側からホッパー側にかけて230-250-230-210℃
スクリュー回転速度:100回/分
クッション:4.5~5.5mm
金型温度:60℃
冷却時間:25秒
【0170】
(8-2)曲げ弾性率(MPa)
前項(8―1)で得られた4mm厚ダンベル片から切削機を用いて80×10×4mmの試験片を作製した。ISO178に準拠し、曲げ速度2mm/分にて曲げ試験を実施し、曲げ弾性率を測定した。n5平均の値を測定値とした。
【0171】
(8-3)引張降伏応力(MPa)
前項(8―1)で得られた4mm厚ダンベルについてダンベル引張試験をISO527-1に準拠して実施(引張速度50mm/分)し、引張降伏応力を測定した。n5平均の値を測定値とした。
【0172】
(8-4)シャルピー衝撃試験(ノッチ有)(kJ/m2)
前項(8―1)で得られた4mm厚ダンベル片から切削機を用いてノッチを有する80×10×4mmの試験片を作製した。ISO179(1eA)に準拠し、シャルピー衝撃強さ(ノッチ有)を測定した。n5平均の値を測定値とした。
【0173】
(9)明度(L*)の測定(-)
実施例及び比較例で製造した各ペレット状樹脂組成物を2mmプレートに射出成形し、JIS Z8722に準拠して試験片の明度(L*)を測定した。試験片としては、射出成形により作製した2mm厚プレートを用いた。明度(L*)の測定には、分光測色計(コニカミノルタ社製CM-2002)を用いた。測定条件はSCIモード(正反射光を含
む)で行った。n3平均の値を測定値とした。
【0174】
(10)アクリル熱溶着性評価
(10―1)剥離面強度の測定(N)
実施例及び比較例で作成したスチレン系樹脂組成物及び旭化成社製のアクリル樹脂デルペット80Nについて、前項(8-1)と同様にダンベル片を作成した。各ダンベル片のゲート側から5cmのところで、ダンベルを切断した試験片(10A)を作成した。次に実施例及び比較例で作成したスチレン系樹脂組成物の該試験片の反突き出しピン側と、アクリル樹脂デルペット80Nの該試験片の反突き出しピン側とを、切断面から各3cmのところで重ね合わせ、耐熱テフロン(登録商標)テープで固定した試験片(10B)を作成した。
試験片(10B)を温度150℃に設定したオーブンに導入し、予めオーブン内で予熱した0.5kgの分胴を試験片(10B)のスチレン系樹脂組成物とアクリル系樹脂材料の接着面に乗せ、オーブン内に10分静置した。この際、ダンベル片の熱変形を防ぐため、予めオーブン内で予熱した金属板で固定した。試験片(10B)をオーブンから取り出し、5分間空気下で放冷し、スチレン系樹脂組成物とアクリル系樹脂材料が熱溶着された試験片(10C)を得た。
前記試験片(10C)を島社製オートグラフAGS-5kNXを用いて、引張速度5mm/分の条件で引張試験に供し、熱溶着界面剥離時の試験力(N)を測定し、n5平均の値を剥離面強度とした。
【0175】
(10-2)熱板溶着における加熱時間(秒)
実施例及び比較例で作成したスチレン系樹脂組成物を、3辺の長さが26cmの立方体の1面に開口部と2cmの接着面を持つ、肉厚1cmのハウジング状部品(10D)に射出成形した。次に旭化成社製のアクリル樹脂デルペット80Nを30cm×30cmの外周に2cmの平滑な接着面を持つ板状のカバー部品(10E)に射出成形した。
次にハウジング状部品(10D)と板状のカバー部品(10E)とを、300℃に加熱した熱板を介して配置し、それぞれ熱板に対して接着面を向けた状態で1cmまで近づけた状態で、加熱時間(10T)を取った後、熱板を除去し、ハウジング状部品(10D)と板状のカバー部品(10E)の接着面を圧着し、3分間の空冷を経て、熱溶着体(10DE)を得た。上記方法で熱溶着体(10DE)を10個作成し、ハウジング状部品(10D)の面に掌を置いて、ハウジング状部品(10D)の面に対して並行にずり応力をかけた際に熱溶着面が剥離する個数を数えた際、10個中8個以上になる最小の加熱温度(10T)を熱板溶着における加熱時間(秒)としてアクリルへの熱溶着性を評価した。なお、加熱時間は35秒から5秒刻みで増やしていった。
【0176】
(11)耐候性の評価
実施例及び比較例で作成したスチレン系樹脂組成物の2mmプレートを射出成形により調整し、スガ試験機社製サンシャインウェザーメーターS80BBRを用いて、ブラックパネル温度63℃、雨アリ、2000時間の試験条件で耐候試験に供した。耐候試験後の色差(ΔE)を測定し、以下の基準で評価した。
◎:ΔEが1.0以下
〇:ΔEが1.0超5.0以下
△:ΔEが5.0超8.0以下
×:ΔEが8.0超
【0177】
[各樹脂の調製及びスチレン系樹脂組成物の製造例]
以下各樹脂の調整とスチレン系樹脂組成物の具体的な製造方法について述べる。
<スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)の製造例>
-樹脂(A1)の調製-
スチレン65.5質量部、メタクリル酸メチル3.3質量部、メタクリル酸5.8質量部、エチルベンゼン22.9質量部、2-エチル-1-ヘキサノール2.5質量部及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.027質量部からなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が3.6リットルの完全混合型反応器に供給し、次に未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合反応器の重合温度は130℃とした。単軸押出機の温度を210~230℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系樹脂は樹脂ペレットとして回収した。上述の分析法によって得られた樹脂(A1)の物性を以下の表1に示す。
【0178】
-樹脂(A2)及び樹脂(A3)の調製-
上記樹脂(A1)と同様の手順で樹脂(A2)及び樹脂(A3)を調製した。得られた樹脂(A2)及び樹脂(A3)の組成及び物性を表1に示す。
【0179】
-樹脂(A4)の調製-
モノマーとしてスチレンのみを用いて、上記と同様の手順にてスチレン単独重合体として樹脂(A4)を表1に示す組成、物性にて得た。
【0180】
【0181】
<コアシェル構造のゴム状粒子(B)の製造例>
-ゴム状粒子(B1)の調製-
撹拌機付耐圧容器に純水200質量部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩0.002質量部、硫酸第一鉄0.0012質量部、エチレンジアミンテトラ酢酸ジナトリウム塩0.008質量部、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム0.03質量部、を仕込み、脱酸した後に、ブタジエン100質量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.05質量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.2質量部を添加し、それから6時間かけてポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムを1.4質量部滴下した後、反応溶液中のpH6.5~7.5において50℃で124時間保持し、転化率98重量%で、平均粒子径0.18μmのジエン系ゴムラテックスを得た。
続いて上記で得られたゴムラテックス(固形分約71部)を60℃に保持しながら、単量体としてのメタクリル酸メチル55質量部、アクリル酸(n-ブチル)5質量部を1時間にわたって添加した。また上記単量体の添加と同時に、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.09質量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.1質量部、の添加を開始し、それから反応溶液中のpHを6.5~7.5、温度を約60℃に保ちながら2時間かけて全量を添加した。さらに反応溶液を、約60℃で1時間保持して、平均粒子径200nmのグラフト共重合体ラテックスを調製し、酸化防止剤としてイルガノックス1076を1質量部添加した後、塩化カルシウム水溶液で凝析処理し、水洗、脱水乾燥を経ることで粉体としてゴム状重合体粒子(B1)を得た。ゴム状重合体粒子(D1)の組成及び物性を表4に示す。
-ゴム状粒子(B2)、(B3)、(B8)~(B11)の調製-
各単量体のフィード量、重合条件を調整し、ゴム状粒子(B1)と同様の手順でゴム状粒子(B2)、(B3)、(B8)~(B11)を調製した。得られた各ゴム状粒子(B)の組成及び物性を表2に示す。
【0182】
【0183】
また、上記表2に示す組成物のほかに以下の製品を(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b1)を含有するコアシェル構造のゴム状粒子(B)として実施例にて使用した。コアシェル構造のゴム状粒子(B)中のスチレン系単量体単位の含有量は、前項(1)に記載した熱分解GC/MSで定量した値を示す。
また以下に、コアシェル構造のゴム状粒子(B4)~(B7)及び(B12)の組成を示す。
・ゴム状粒子(B4):メタクリル酸メチル-スチレン-ブタジエン系(MBS系)ゴム粒子
シェル部:メタクリル酸メチル-スチレン共重合体
コア部:ポリブタジエン
ゴム状粒子(B4)全体に対してスチレン系単量体単位含有量:5質量%超
三菱ケミカル社製メタブレン C-223A(製品名)
・ゴム状粒子(B5):メタクリル酸メチル-ブタジエン系(MB系)ゴム粒子
シェル部:ポリメタクリル酸メチル
コア部:ポリブタジエン
ゴム状粒子(B5)全体に対してスチレン系単量体単位含有量:5質量%以下
三菱ケミカル社製:メタブレン E-875A(製品名)
・ゴム状粒子(B6):アクリル-シリコーン系ゴム粒子
シェル部:ポリメタクリル酸メチル
コア部:ポリジメチルシロキサン-ポリアクリル酸(n-ブチル)複合体
ゴム状粒子(B6)全体に対してスチレン系単量体単位含有量:5質量%以下
三菱ケミカル社製:メタブレンS-2130(製品名)
・ゴム状粒子(B7):メタクリル酸メチル-スチレン-ブタジエン系(MBS系)ゴム粒子
シェル部:メタクリル酸メチル-スチレン共重合体
コア部:ポリブタジエン
ゴム状粒子(B7)全体に対してスチレン系単量体単位含有量:5質量%超
カネカ社製カネエース M511(製品名)
・ゴム状粒子(B12):メタクリル酸メチル-アクリル酸ブチル系ゴム粒子
ゴム状粒子(B12)全体に対してスチレン系単量体単位含有量:5質量%以下
三菱ケミカル社製:メタブレンW-450A(製品名)
【0184】
<耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の製造例>
-耐衝撃性スチレン系樹脂(C1)の調製-
攪拌機を備えた層流型反応器3基(1.5リットル)を直列に連結し、その後に二段ベント付き押出機を配置した重合装置を用いて、耐衝撃性スチレン系樹脂(C1)(以下、樹脂(C1))を製造した。撹拌機付き原料タンクにスチレン82.4質量部、エチルベンゼン9.0質量部、ゴム状重合体(C-R)として宇部興産社製ハイシスブタジエンゴム13HBを8.6質量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.02質量部を投入、撹拌機でゴム成分を溶解後、この原料溶液を反応器に0.75リットル/hrの容量で供給し、第1段の反応機の温度を110~120℃、第2段の反応機の温度を120~130℃、第3段の反応機の温度140~150℃で重合を行った。また押出機温度は210~240℃、真空度は3kPa、最終反応器から出た重合液中の全固形分は70.5質量%であった。ゴム状重合体粒子(C-2)の平均粒子径は第1段層流型反応機の撹拌機の回転数を110rpmに調整することで制御した。得られた樹脂(C1)の組成、特性を表3に示す。
【0185】
-樹脂(C2)の調製-
ゴム状重合体(C-R)として宇部興産社製ハイシスブタジエンゴム15HBを用いて、上記と同様の手順にて樹脂(C2)を表3に示す組成、物性にて得た。
【0186】
-樹脂(C3)及び(C4)の調製-
モノマーとして、スチレン、必要により添加されるメタクリル酸メチル、必要により添加されるアクリル酸ブチル、及び、ゴム状重合体(C-R)として、旭化成製スチレン-ブタジエン共重合体625Aを用いて、上記と同様の手順にて樹脂(C3)及び(C4)を表3に示す組成、物性にて得た。
【0187】
【0188】
<実施例で使用したスチレン系エラストマー(D)>
本明細書の実施例においてスチレン系エラストマー(D)として以下の2種を用いた。
(D1)旭化成社製タフプレン125(製品名)
(D2)旭化成社製タフテックM1913(製品名)
【0189】
<実施例で使用したアクリル系エラストマー(E)>
本明細書の実施例においてアクリル系エラストマー(E)として以下を用いた。
(E1)クラレ社製クラリティLA2270(製品名)
【0190】
<アクリル系樹脂(F)の製造例>
-樹脂(F1)の調製-
攪拌機を有する5L容器に水2kg、第三リン酸カルシウム65g、炭酸カルシウム39g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39gを投入し、それらを混合・撹拌することで懸濁剤を調製した。次に60Lの反応器に水26kgを投入して80℃に昇温し、懸濁重合の準備を行った。80℃に達して恒温状態になったことを確認した後、重合原料としてメタクリル酸メチル1.52kg、アクリル酸メチル0.22kg、ラウロイロパーオキサイド0.99g、n-オクチルメルカプタン4.93g、及び上記懸濁剤を投入した。その後、約80℃を保って懸濁重合を行い、発熱ピークを観測後、92℃に1℃/minの速度で昇温し、92℃で60分間温度を保持した。続いて50℃まで冷却した後、20質量%硫酸を投入して懸濁剤を溶解させた。次いでその重合反応溶液を60L反応器から取り出し、篩目開き1.7mmの篩にかけて巨大凝集物を除去した後、ブフナー漏斗にて水層と固形物とを分離し、ビーズ状ポリマーを得た。当該ビーズ状ポリマーをブフナー漏斗上で、5回、約20Lの蒸留水で洗浄、脱水を繰り返した後、乾燥させ、単軸押出機を用いてペレタイズし、ペレット状樹脂として樹脂(F1)を得た。
【0191】
-樹脂(F2)~樹脂(F5)の調製-
上記樹脂(F1)と同様の手順で樹脂(F2)~樹脂(F5)を調製した。得られた樹脂(F2)~樹脂(F5)の組成及び物性を表4に示す。
【0192】
【0193】
<潤滑オイル(G)>
本明細書の実施例において、潤滑オイル(G)として流動パラフィンを用いる場合は、三光化学工業社製PS-350S(製品名)を用いた。
本明細書の実施例において、潤滑オイル(G)としてシリコーンオイルを用いる場合は、GE東芝シリコーン社製ポリジメチルシロキサンオイル、PP-17(製品名)を用いた。表5におけるシリコーンオイルの含有量は、仕込み量から算出している。一方、スチレン系樹脂組成物からシリコーンオイルの含有量を算出する場合は、プラズマ発光分光法(ICP法)によりケイ素量を定量して概算することができる。なお、実施例で作製したシリコーンオイルを含むスチレン系樹脂組成物におけるケイ素量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対してケイ素量換算で150ppm~10000ppmの範囲であることを確認した。
【0194】
<<実施例で使用した任意の添加成分>>
<炭素原子数10以上の1価アルコール>
本明細書の実施例において炭素原子数10以上の1価アルコールとして以下アルコール種を使用した。
日産化学社製:ファインオキソコール180(製品名)「化合物名:5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-1-オクタノール」
花王社製:エマルゲン109P(製品名)「化合物名:ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテルモノアルコール」
【0195】
<着色剤>
以下の手順でスチレン系樹脂組成物を黒着色するためのカーボンブラックのマスターバッチを作成した。
-黒マスターバッチの調製-
前記樹脂(A1)2.8kg、カーボンブラック2.8kg、ポリエチレンワックス0.5kgをドライブブレンドし、混錬押出し、ペレタイズ後、黒色ペレットとして、樹脂(A1)をベース樹脂とする黒マスターバッチを得た。
【0196】
<酸化防止剤>
本明細書の実施例において酸化防止剤として、以下の3種の酸化防止剤を使用した。
フェノール系酸化防止剤(1):BASFジャパン社製Irganox1076(製品名)「化合物名:オクタデシル-3-(3,5-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート」
フェノール系酸化防止剤(2):住友化学株式会社製スミライザーGS(製品名)「化合物名:2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル=アクリラート」
リン系酸化防止剤:BASFジャパン社製Irgafos168(製品名)「化合物名:トリス(2,4-ジ-ターシャリーブチルフェニル)フォスファイト」
【0197】
<光安定剤>
本明細書の実施例において光安定剤として、以下を使用した。
ヒンダートアミン系光安定剤:ビス(2,2,6,6‐テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート
【0198】
<紫外線吸収剤>
本明細書の実施例において紫外線吸収剤として、以下を使用した。
紫外線吸収剤:アデカ社製LA-32(製品名)「化合物名:2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール」
【0199】
<離型剤(内潤剤)>
本明細書の実施例において離型剤(外潤剤)として、以下を使用した。
外潤剤:花王社製カルコール8098「化合物名:ステアリルアルコール」
【0200】
<離型剤(外潤剤)>
本明細書の実施例において離型剤(外潤剤)として、以下を使用した。
外潤剤:花王社製カオーワックスEB-FF「化合物名:エチレンビスステアリン酸アミド」
【0201】
<<スチレン系樹脂組成物及び発泡押出シートの製造例>>
以下にスチレン系樹脂組成物及び射出成形体の製造方法について示す。
[実施例1]
-スチレン系樹脂組成物の製造-
スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(A)として表1記載の樹脂(A1)を93.0質量部、コアシェル構造のゴム状粒子(B)として、三菱ケミカル社製メタブレンS2130(B6)を15.0質量部、潤滑オイル(G)としてシリコーンオイルを0.5質量部、及び表6に記載の配合で任意の添加成分を添加してドライブレンドした。芝浦機械社製二軸押出機TEM26SSを用いて混練押出、ペレタイズを経て、ペレット状樹脂としてスチレン系樹脂組成物[1]を得た。スクリュー回転数150rpm、シリンダー温度は180~230℃、フィード量10kg/hとした。樹脂温度は250~260℃であった。スチレン系樹脂組成物[1]の性状、物性並びに射出成形体の評価結果を表5に示す。
【0202】
[実施例2~62]
配合を下記表6のように変更した以外は実施例1と同様にしてスチレン系樹脂組成物[2]~[62]を得た。得られたスチレン系樹脂組成物の評価結果を表5に示す。
【0203】
【0204】
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
[比較例1~2及び比較例4]
配合を下記表7のように変更した以外は実施例1と同様にして比較例1~2及び比較例4のスチレン系樹脂組成物を得た。得られたスチレン系樹脂組成物の評価結果を表6に示す。
【0209】
[比較例3]
比較例3として、スチレン系樹脂組成物の代わりに、奇美実業製耐熱ABS、PA-777E(スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体とスチレン-アクリロニトリル-N-フェニルマレイミド共重合体からなる樹脂組成物)を用いて実施例と同様の評価を行った。評価結果を表6に示す。スチレン-アクリロニトリル系樹脂であるABSを用いた系ではアクリル系樹脂材料との熱溶着性が本願のスチレン系樹脂組成物よりも劣る結果となった。
【0210】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、耐熱性、靭性、剛性、アクリル系樹脂材料との熱溶着性に優れる。そのため本発明のスチレン系樹脂組成物は、押出成形でも非発泡シート又は発泡シート、それらを用いた食品包装容器、又は射出成形による成形品(電気製品部品、玩具、日用品、各種工業部品)等に幅広く使用可能で、特に耐熱性、靭性、剛性、アクリル系樹脂材料と熱溶着性が求められる車載部品有用であり、産業界に果たす役割は大きい。