(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148191
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】放電加工機およびサーボ制御方法
(51)【国際特許分類】
B23H 1/02 20060101AFI20241010BHJP
B23H 7/02 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B23H1/02 F
B23H1/02 C
B23H7/02 S
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061078
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦治
(72)【発明者】
【氏名】田井 克幸
(72)【発明者】
【氏名】荒井 祥次
【テーマコード(参考)】
3C059
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059AB01
3C059AB05
3C059BA01
3C059BA06
3C059CC02
3C059CH01
3C059EA02
3C059EA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】より正確で安定的なサーボ制御が可能な放電加工機を提供する。
【解決手段】所定のサンプリング期間あたりの電流波形の面積の総和である電流総和面積の実測値を算出する電流面積総和演算部631と、実測値とあらかじめ設定されている目標値とを比較し、実測値を目標値に近づけるサーボ制御指令を出力するサーボ司令部612と、サーボ制御指令に基づき、加工間隙の大きさを一定に維持するよう、サーボモータ21,23に駆動電流を出力するサーボ制御装置67と、を備える、放電加工機が提供される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物と工具電極とによって形成される加工間隙に電圧を印加して放電を発生させる電源装置と、
前記被加工物と前記工具電極とを相対移動させるサーボモータを含む相対移動装置と、
所定のサンプリング期間あたりの電流波形の面積の総和である電流面積総和の実測値を算出する電流面積総和演算部と、
前記実測値とあらかじめ設定されている目標値とを比較し、前記実測値を前記目標値に近づけるサーボ制御指令を出力するサーボ司令部と、
前記サーボ制御指令に基づき、前記加工間隙の大きさを一定に維持するよう、前記サーボモータに駆動電流を出力するサーボ制御装置と、を備える、放電加工機。
【請求項2】
前記電源装置は、
前記加工間隙に直列に接続されるとともに、前記加工間隙に電圧を印加して前記加工間隙に放電を誘起する第1の電源回路と、
前記第1の電源回路と並列に設けられ、前記加工間隙に直列に接続されるとともに、放電の発生が検出された時点で前記加工間隙に電圧を印加して、前記第1の電源回路から供給される電流よりも大きい電流を前記加工間隙に供給する第2の電源回路と、を備え、
前記第1の電源回路は、
加工間隙に直列に接続され、前記加工間隙に電圧を印加する第1の直流電源と、
前記第1の直流電源と前記加工間隙との間に直列に設けられる第1の主スイッチング素子と、を含み、
前記第2の電源回路は、
加工間隙に直列に接続され、前記加工間隙に電圧を印加する第2の直流電源と、
前記第2の直流電源と前記加工間隙との間に直列に設けられる第2の主スイッチング素子と、を含む、請求項1に記載の放電加工機。
【請求項3】
前記電流面積総和演算部は、前記サンプリング期間あたりの、放電の発生回数である放電数と、前記第2の主スイッチング素子のオン時間であるゲート幅と、前記第2の直流電源が印加する電圧の値である印加電圧値と、に基づき、前記実測値を算出する、請求項2に記載の放電加工機。
【請求項4】
前記第1の電源回路により前記加工間隙に所定の電圧を印加してから放電が発生するまでの時間である放電待機時間が閾値以上であるときの前記放電数である第1の放電数と、前記放電待機時間が前記閾値未満であるときの前記放電数である第2の放電数と、を個別に記憶する放電カウンタと、
前記放電待機時間が前記閾値以上であるとき、前記ゲート幅が第1のゲート幅となり、前記放電待機時間が前記閾値未満であるとき、前記ゲート幅が前記第1のゲート幅よりも短い第2のゲート幅となるよう、ゲート指令を出力するパルス司令部と、をさらに備え、
前記電流面積総和演算部は、前記第1の放電数と、前記第2の放電数と、前記第1のゲート幅と、前記第2のゲート幅と、前記印加電圧値と、に基づき、前記実測値を算出する、請求項3に記載の放電加工機。
【請求項5】
PID制御における操作量を算出するPID演算部をさらに備え、
前記サーボ司令部は、前記操作量に基づく前記サーボ制御指令を前記サーボ制御装置に出力する、請求項1に記載の放電加工機。
【請求項6】
前記工具電極の移動軌跡である加工軌跡が所望の加工形状の外側に設定されるとき、鋭角をなす所定長さの2本の直線状の加工軌跡で構成されるエッジ軌跡における前記目標値は、前記エッジ軌跡の始点に接続される所定長さの直線状の加工軌跡であるアプローチ軌跡および前記エッジ軌跡の終点に接続される所定長さの直線状の加工軌跡であるリターン軌跡における前記目標値よりも低く設定され、
前記加工軌跡が所望の加工形状の内側に設定されるとき、前記エッジ軌跡における前記目標値は、前記アプローチ軌跡および前記リターン軌跡における前記目標値よりも高く設定される、請求項1に記載の放電加工機。
【請求項7】
前記加工軌跡が所望の加工形状の外側に設定されるとき、
前記アプローチ軌跡の始点から前記アプローチ軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が低くなるよう設定され、
前記リターン軌跡の始点から前記リターン軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が高くなるよう設定され、
前記加工軌跡が所望の加工形状の内側に設定されるとき、
前記アプローチ軌跡の始点から前記アプローチ軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が高くなるよう設定され、
前記リターン軌跡の始点から前記リターン軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が低くなるよう設定される、請求項6に記載の放電加工機。
【請求項8】
前記工具電極の移動軌跡である加工軌跡が所望の加工形状の外側に設定されるとき、円弧状の加工軌跡である円弧軌跡における前記目標値は、前記円弧軌跡の始点に接続される所定長さの直線状の加工軌跡であるアプローチ軌跡および前記円弧軌跡の終点に接続される所定長さの直線状の加工軌跡であるリターン軌跡における前記目標値よりも低く設定され、
前記加工軌跡が所望の加工形状の内側に設定されるとき、前記円弧軌跡における前記目標値は、前記アプローチ軌跡および前記リターン軌跡における前記目標値よりも高く設定される、請求項1に記載の放電加工機。
【請求項9】
前記加工軌跡が所望の加工形状の外側に設定されるとき、
前記アプローチ軌跡の始点から前記アプローチ軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が低くなるよう設定され、
前記リターン軌跡の始点から前記リターン軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が高くなるよう設定され、
前記加工軌跡が所望の加工形状の内側に設定されるとき、
前記アプローチ軌跡の始点から前記アプローチ軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が高くなるよう設定され、
前記リターン軌跡の始点から前記リターン軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が低くなるよう設定される、請求項8に記載の放電加工機。
【請求項10】
被加工物と工具電極とによって形成される加工間隙に電圧を印加して放電を発生させる電源装置と、前記被加工物と前記工具電極とを相対移動させるサーボモータを含む相対移動装置と、を備える、放電加工機のサーボ制御方法であって、
所定のサンプリング期間あたりの電流波形の面積の総和である電流面積総和の実測値を算出し、
前記実測値とあらかじめ設定されている目標値とを比較し、前記実測値を前記目標値に近づけるサーボ制御指令を出力し、
前記サーボ制御指令に基づき、前記加工間隙の大きさを一定に維持するよう、前記サーボモータに駆動電流を出力する、サーボ制御方法。
【請求項11】
前記電源装置は、
前記加工間隙に直列に接続されるとともに、前記加工間隙に電圧を印加して前記加工間隙に放電を誘起する第1の電源回路と、
前記第1の電源回路と並列に設けられ、前記加工間隙に直列に接続されるとともに、放電の発生が検出された時点で前記加工間隙に電圧を印加して、前記第1の電源回路から供給される電流よりも大きい電流を前記加工間隙に供給する第2の電源回路と、を備え、
前記第1の電源回路は、
加工間隙に直列に接続され、前記加工間隙に電圧を印加する第1の直流電源と、
前記第1の直流電源と前記加工間隙との間に直列に設けられる第1の主スイッチング素子と、を含み、
前記第2の電源回路は、
加工間隙に直列に接続され、前記加工間隙に電圧を印加する第2の直流電源と、
前記第2の直流電源と前記加工間隙との間に直列に設けられる第2の主スイッチング素子と、を含む、請求項10に記載のサーボ制御方法。
【請求項12】
前記サンプリング期間あたりの、放電の発生回数である放電数と、前記第2の主スイッチング素子のオン時間であるゲート幅と、前記第2の直流電源が印加する電圧の値である印加電圧値と、に基づき、前記実測値が算出される、請求項11に記載のサーボ制御方法。
【請求項13】
前記第1の電源回路により前記加工間隙に所定の電圧を印加してから放電が発生するまでの時間である放電待機時間が閾値以上であるときの前記放電数である第1の放電数と、前記放電待機時間が前記閾値未満であるときの前記放電数である第2の放電数と、が個別に記憶され、
前記放電待機時間が前記閾値以上であるとき、前記ゲート幅が第1のゲート幅となり、前記放電待機時間が前記閾値未満であるとき、前記ゲート幅が前記第1のゲート幅よりも短い第2のゲート幅となるよう、ゲート指令が出力され、
前記第1の放電数と、前記第2の放電数と、前記第1のゲート幅と、前記第2のゲート幅と、前記印加電圧値と、に基づき、前記実測値が算出される、請求項12に記載のサーボ制御方法。
【請求項14】
PID制御における操作量が算出され、
前記操作量に基づく前記サーボ制御指令が出力される、請求項10に記載のサーボ制御方法。
【請求項15】
前記工具電極の移動軌跡である加工軌跡が所望の加工形状の外側に設定されるとき、鋭角をなす所定長さの2本の直線状の加工軌跡で構成されるエッジ軌跡における前記目標値は、前記エッジ軌跡の始点に接続される所定長さの直線状の加工軌跡であるアプローチ軌跡および前記エッジ軌跡の終点に接続される所定長さの直線状の加工軌跡であるリターン軌跡における前記目標値よりも低く設定され、
前記加工軌跡が所望の加工形状の内側に設定されるとき、前記エッジ軌跡における前記目標値は、前記アプローチ軌跡および前記リターン軌跡における前記目標値よりも高く設定される、請求項10に記載のサーボ制御方法。
【請求項16】
前記加工軌跡が所望の加工形状の外側に設定されるとき、
前記アプローチ軌跡の始点から前記アプローチ軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が低くなるよう設定され、
前記リターン軌跡の始点から前記リターン軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が高くなるよう設定され、
前記加工軌跡が所望の加工形状の内側に設定されるとき、
前記アプローチ軌跡の始点から前記アプローチ軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が高くなるよう設定され、
前記リターン軌跡の始点から前記リターン軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が低くなるよう設定される、請求項15に記載のサーボ制御方法。
【請求項17】
前記工具電極の移動軌跡である加工軌跡が所望の加工形状の外側に設定されるとき、円弧状の加工軌跡である円弧軌跡における前記目標値は、前記円弧軌跡の始点に接続される所定長さの直線状の加工軌跡であるアプローチ軌跡および前記円弧軌跡の終点に接続される所定長さの直線状の加工軌跡であるリターン軌跡における前記目標値よりも低く設定され、
前記加工軌跡が所望の加工形状の内側に設定されるとき、前記円弧軌跡における前記目標値は、前記アプローチ軌跡および前記リターン軌跡における前記目標値よりも高く設定される、請求項10に記載のサーボ制御方法。
【請求項18】
前記加工軌跡が所望の加工形状の外側に設定されるとき、
前記アプローチ軌跡の始点から前記アプローチ軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が低くなるよう設定され、
前記リターン軌跡の始点から前記リターン軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が高くなるよう設定され、
前記加工軌跡が所望の加工形状の内側に設定されるとき、
前記アプローチ軌跡の始点から前記アプローチ軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が高くなるよう設定され、
前記リターン軌跡の始点から前記リターン軌跡の終点に向かって、徐々に前記目標値が低くなるよう設定される、請求項17に記載のサーボ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電加工機および放電加工機におけるサーボ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工機においては、工具電極と被加工物とが、微小な隙間である加工間隙を介して対向配置される。放電加工機は、加工間隙に所定の電圧を印加して放電を発生させるとともに、工具電極と被加工物とを所定の送り速度で相対移動させて被加工物を所望の形状に加工する。放電加工機においては、加工間隙の大きさを一定に維持するサーボ制御が一般に行われる。
【0003】
サーボ制御の基準とするパラメータとしては、平均電圧、加工頻度、放電待機時間などが公知である。平均電圧とは、所定のサンプリング期間における加工間隙における電圧の平均値である。加工頻度とは、所定のサンプリング期間における放電数である。放電待機時間とは、加工間隙に所定の電圧を印加してから放電が発生するまでの時間である。これらのパラメータと基準値とを比較し、比較結果に応じて工具電極と被加工物との相対距離を調節することで、加工間隙が一定に保たれる。特許文献1は、平均電圧に基づくサーボ制御を開示している。特許文献2は、加工頻度に基づくサーボ制御を開示している。特許文献3は、放電待機時間に基づくサーボ制御を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2711293号公報
【特許文献2】特許第4569973号公報
【特許文献3】特公昭56-000170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
平均電圧によるサーボ制御は、外乱の影響を受けやすい。例えば、加工液の比抵抗値が下がると、電圧のリークが発生し、平均電圧も影響を受ける。加工頻度によるサーボ制御は、放電1発ごとの取り量を同一とみなし、放電数のみで制御を行う。換言すれば、加工頻度によるサーボ制御では、取り量に応じた重みづけがなされていない。放電待機時間によるサーボ制御は、放電待機時間が一定となるように制御を行う。しかしながら、放電待機時間を一定にしたとしても、必ずしも取り量が一定となるわけではない。以上のことから、平均電圧、加工頻度または放電待機時間に基づく従来のサーボ制御では、正確な制御が難しかった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、所定のサンプリング期間あたりの電流波形の面積の総和である電流面積総和に基づきサーボ制御を行う、放電加工機および放電加工機のサーボ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、被加工物と工具電極とによって形成される加工間隙に電圧を印加して放電を発生させる電源装置と、被加工物と工具電極とを相対移動させるサーボモータを含む相対移動装置と、所定のサンプリング期間あたりの電流波形の面積の総和である電流面積総和の実測値を算出する電流面積総和演算部と、実測値とあらかじめ設定されている目標値とを比較し、実測値を目標値に近づけるサーボ制御指令を出力するサーボ司令部と、サーボ制御指令に基づき、加工間隙の大きさを一定に維持するよう、サーボモータに駆動電流を出力するサーボ制御装置と、を備える、放電加工機が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、被加工物と工具電極とによって形成される加工間隙に電圧を印加して放電を発生させる電源装置と、被加工物と工具電極とを相対移動させるサーボモータを含む相対移動装置と、を備える、放電加工機のサーボ制御方法であって、所定のサンプリング期間あたりの電流波形の面積の総和である電流面積総和の実測値を算出し、実測値とあらかじめ設定されている目標値とを比較し、実測値を目標値に近づけるサーボ制御指令を出力し、サーボ制御指令に基づき、加工間隙の大きさを一定に維持するよう、サーボモータに駆動電流を出力する、サーボ制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の放電加工機では、所定のサンプリング期間あたりの電流波形の面積の総和である電流面積総和に基づきサーボ制御が行われる。電流面積総和は、放電のエネルギと直接的な相関があり、ひいては、取り量と直接的な相関がある。そのため、より正確で安定的なサーボ制御が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の放電加工機の概略構成図である。
【
図4】極間電圧、極間電流およびゲート信号を示すタイミングチャートである。
【
図6】アウトコーナ加工時のエッジ軌跡における距離と目標値の関係を示すグラフである。
【
図7】インコーナ加工時のエッジ軌跡における距離と目標値の関係を示すグラフである。
【
図9】アウトコーナ加工時の円弧軌跡における距離と目標値の関係を示すグラフである。
【
図10】インコーナ加工時の円弧軌跡における距離と目標値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に説明される各種変形例は、それぞれ任意に組み合わせて実施することができる。
【0012】
本実施形態の放電加工機1は、工具電極Tとしてワイヤ電極を使用するワイヤ放電加工機であるが、本発明は、総型電極を使用する形彫放電加工機およびパイプ電極を使用する細穴放電加工機にも適用することができる。
【0013】
図1に示されるように、本実施形態の放電加工機1は、上ワイヤガイドユニット11と、下ワイヤガイドユニット13と、加工槽15と、スタンド17と、テーブル19と、相対移動装置2と、を備える。上ワイヤガイドユニット11および下ワイヤガイドユニット13は、それぞれ、工具電極Tとしてのワイヤ電極を案内するワイヤガイドを有する。放電加工の対象となる被加工物Wは、スタンド17上に固定され、加工槽15内に載置される。加工槽15は、放電加工時は、加工液Lで満たされる。加工液Lは、純水または油を主成分とする誘電性流体である。
【0014】
相対移動装置2は、被加工物Wと工具電極Tとを相対移動させる。相対移動装置2は、被加工物W側を移動させるものであってもよいし、工具電極T側を移動させるものであってもよいし、両者を組み合わせたものであってもよい。本実施形態の相対移動装置2は、サーボモータとして、加工槽15が載置されるテーブル19を所定の水平方向であるX軸方向に移動させるX軸サーボモータ21と、テーブル19をX軸方向に直交する水平方向であるY軸方向に移動させるY軸サーボモータ23と、を含む。放電加工にあたり、工具電極Tと被加工物Wは、互いに非接触を保ちつつ近接するよう相対移動される。被加工物Wと工具電極とによって形成される隙間を、加工間隙という。加工間隙の大きさは一定に維持される。
【0015】
放電加工機1は、加工間隙に電圧を印加して放電を発生させる、電源装置3を備える。被加工物Wおよび工具電極Tは、電源装置3と電気的に接続される。
図2に示されるように、電源装置3は、加工間隙に直列に接続される第1の電源回路4と、第2の電源回路と並列に設けられるとともに、加工間隙に直接に接続される第2の電源回路5と、を備える。第1の電源回路4は、加工間隙に電圧を印加し、加工間隙に放電を誘起する。第2の電源回路5は、放電の発生が検出された時点で、加工間隙に電圧を印加し、第1の電源回路4から供給される電流よりも大きい電流である加工電流を供給する。以下、加工間隙における電圧を極間電圧、加工間隙における電流を極間電流という。また、放電加工機1は、
図3に示されるように、各部の制御を行う制御装置6として、数値制御装置61と、放電制御装置63と、パルス発生装置65と、サーボ制御装置67と、を備える。
【0016】
第1の電源回路4は、第1の直流電源41と、第1の主スイッチング素子42と、極性切換回路43と、放電検出回路44と、電流制限抵抗45と、逆流防止ダイオード46と、電圧計47と、を含む。
【0017】
第1の直流電源41は、加工間隙に直列に接続され、加工間隙に放電誘起用の電圧を印加する。第1の直流電源41の出力電圧は、放電を発生させるのに十分な大きさであればよい。
【0018】
第1の主スイッチング素子42は、第1の直流電源41と加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子である。極性切換回路43は、いわゆるブリッジ回路であり、一対の正極性スイッチング素子431と、一対の逆極性スイッチング素子433と、を含む。正極性スイッチング素子431は、第1の直流電源41の正極側と被加工物Wとの間に設けられるスイッチング素子と、第1の直流電源41の負極側と工具電極Tとの間に設けられるスイッチング素子と、を有する。逆極性スイッチング素子433は、第1の直流電源41の負極側と被加工物Wとの間に設けられるスイッチング素子と、第1の直流電源41の正極側と工具電極Tとの間に設けられるスイッチング素子と、を有する。
【0019】
放電検出回路44は、第1の主スイッチング素子42に並列に接続された、放電の発生を検出する回路である。放電検出回路44は、電流制限抵抗441と、検出回路用スイッチング素子443と、シャント抵抗445と、シャント抵抗445の両端に接続されたオペアンプ447と、を有する。電流制限抵抗441は、十分な抵抗値を有し、第1の直流電源41から加工間隙に供給される電流を可能な限り小さくする。検出回路用スイッチング素子443は、第1の主スイッチング素子42と同期してオン/オフされるスイッチング素子である。加工間隙に放電が発生すると、放電検出回路44に電流が流れ、シャント抵抗445の両端に電位差が生じる。この電位差がオペアンプ447によって増幅され、放電検出信号として出力される。
【0020】
正極性加工を行うとき、すなわち、第1の電源回路4が、被加工物Wが正極、工具電極Tが負極となる電圧を印加する場合、パルス発生装置65から、第1の主スイッチング素子42および検出回路用スイッチング素子443にゲート信号MGが供給されるとともに、正極性スイッチング素子431にゲート信号SGpが供給される。こうして、第1の主スイッチング素子42、検出回路用スイッチング素子443および正極性スイッチング素子431がオンされる。逆極性加工を行うとき、すなわち、第1の電源回路4が、被加工物Wが負極、工具電極Tが正極となる電圧を印加する場合、パルス発生装置65から、第1の主スイッチング素子42および検出回路用スイッチング素子443にゲート信号MGが供給されるとともに、逆極性スイッチング素子433にゲート信号SGnが供給される。こうして、第1の主スイッチング素子42、検出回路用スイッチング素子443および逆極性スイッチング素子433がオンされる。
【0021】
電流制限抵抗45は、第1の直流電源41と加工間隙との間に直列に設けられる。電流制限抵抗45は、十分な抵抗値を有し、第1の直流電源41から加工間隙に供給される電流を可能な限り小さくする。
【0022】
逆流防止ダイオード46は、極性切換回路43と、加工間隙との間に直列に配置され、第1の主スイッチング素子42、検出回路用スイッチング素子443、正極性スイッチング素子431および逆極性スイッチング素子433をサージ電圧から保護する。
【0023】
電圧計47は、加工間隙に並列に接続される。電圧計47は、極間電圧を測定し、測定値を放電制御装置63へと出力する。
【0024】
第2の電源回路5は、第2の直流電源51と、第2の主スイッチング素子52と、逆流防止ダイオード53と、を含む。
【0025】
第2の直流電源51は、加工間隙に直列に接続され、加工間隙に加工電流を供給するための電圧を印加する。第2の直流電源51が印加する電圧の値を、印加電圧値AVとする。
【0026】
第2の主スイッチング素子52は、第2の直流電源51と加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子である。本実施形態では、2つの第2の主スイッチング素子52が、第2の直流電源51を挟んで、それぞれ正極側と負極側に設けられる。
【0027】
加工間隙に放電が発生したことが検出されると、パルス発生装置65から、第2の主スイッチング素子52にゲート信号NGが供給され、第2の主スイッチング素子52がオンされる。そして、加工間隙に加工電流が供給される。所定時間が経過した後、ゲート信号MG,NGの供給が停止され、第1の主スイッチング素子42、検出回路用スイッチング素子443、および第2の主スイッチング素子52がオフされる。
【0028】
逆流防止ダイオード53は、第2の主スイッチング素子52の一方と、加工間隙との間に直列に配置され、第2の主スイッチング素子52をサージ電圧から保護する。
【0029】
放電制御装置63は、
図3に示されるように、電流面積総和演算部631と、放電カウンタ632と、放電待機時間演算部633と、パルス司令部634と、メモリ635と、を含む。
【0030】
電流面積総和演算部631は、各種データに基づき、電流面積総和Etの実測値Fmを算出する。電流面積総和Etは、1回の放電の電流波形の面積をEとしたとき、所定のサンプリング期間あたりの面積Eの総和をいう。
【0031】
放電カウンタ632は、放電検出回路44のオペアンプ447が出力した放電検出信号に基づき、放電の発生回数である放電数を記憶する。本実施形態では、放電カウンタ632は、放電待機時間τwが所定の閾値th以上であるときの放電数と、放電待機時間τwが所定の閾値th未満であるときの放電数とを、それぞれ第1の放電数CL、第2の放電数CSとして、個別に記憶する。
【0032】
放電待機時間演算部633は、各放電における放電待機時間τwを算出する。放電待機時間τwは加工間隙に所定の電圧を印加してから、放電が発生するまでの不特定の時間をいう。特に、本実施形態においては、放電待機時間τwは、第1の電源回路4により、加工間隙に所定の電圧を印加してから放電が発生するまでの時間をいう。放電待機時間演算部633は、第1の電源回路4が加工間隙への電圧印加を開始した時点、すなわち、パルス発生装置65がゲート信号MGの出力を開始した時点から、放電の発生が検出された時点までの時間をタイマーで測定し、放電待機時間τwを求める。
【0033】
パルス司令部634は、パルス発生装置65にゲート信号MG,SGp,SGn,NGを所定のタイミングで出力するように、ゲート指令を送る。本実施形態においては、第2の主スイッチング素子52に係るゲート信号NGは、放電の発生が検出されてから、放電待機時間τwに応じて設定される所定時間だけオンされる。換言すれば、ゲート信号NGのオン時間は、放電待機時間τwに応じて変化する値である。ここで、ゲート信号NGのオン時間をゲート幅NGwとし、ゲート幅NGwのうち相対的に長いゲート幅の設定値を第1のゲート幅NGwLとし、相対的に短いゲート幅の設定値を第2のゲート幅NGwSとする。本実施形態においては、パルス司令部634は、放電待機時間τwが所定の閾値th以上であるとき、ゲート幅NGwが第1のゲート幅NGwLとなり、放電待機時間τwが所定の閾値th未満であるとき、ゲート幅NGwが第2のゲート幅NGwSとなるよう、パルス発生装置65にゲート指令を出力する。本実施形態では、ゲート幅NGwは、2つのゲート幅NGwL,NGwSに区分されるが、放電待機時間τwに応じて3以上に区分されてもよい。
【0034】
メモリ635は、演算に必要なデータおよび演算結果を記憶する。
【0035】
数値制御装置61は、
図3に示されるように、PID演算部611と、サーボ司令部612と、メモリ613と、を含む。PID演算部611は、電流面積総和演算部631が演算した電流面積総和Etの実測値Fmと、その他データに基づき、PID制御における操作量、ひいては、出力速度を求める。サーボ司令部612は、電流面積総和Etの実測値Fmとあらかじめ設定されている目標値Ftとを比較し、実測値Fmを目標値Ftに近づけるサーボ制御指令を、サーボ制御装置67に出力する。特に、PID制御によるサーボ制御が行われる場合は、サーボ司令部612は、PID演算部611によって演算した操作量、ひいては出力速度に基づくサーボ制御指令をサーボ制御装置67に出力する。メモリ613は、演算に必要なデータおよび演算結果を記憶する。オペレータは、数値制御装置61の不図示の入力装置を介して、必要なパラメータを入力可能である。
【0036】
パルス発生装置65は、第1の主スイッチング素子42、検出回路用スイッチング素子443、正極性スイッチング素子431、逆極性スイッチング素子433および第2の主スイッチング素子52にゲート信号MG,SGp,SGn,NGを供給し、それらのオン/オフを切り換えることで、加工間隙に放電を発生させる。各スイッチング素子は、典型的にはMOSFET等の電解効果トランジスタである。
【0037】
サーボ制御装置67はドライバであり、サーボ制御指令に基づき、加工間隙の大きさを一定に維持するように、相対移動装置2のX軸サーボモータ21およびY軸サーボモータ23に駆動電流を出力する。
【0038】
以上説明した電源装置3および制御装置6の構成はあくまで一例であり、これに限定されない。例えば、本実施形態では、放電検出回路44によって放電の発生を検出したが、電圧計47によって測定した極間電圧の値を基に、放電の発生を検出してもよい。つまり、正極性加工では極間電圧が一定以上降下したとき、逆極性加工では極間電圧が一定以上上昇したときに、放電が発生したとみなしてよい。例えば、本実施形態では、電流面積総和Etに係る演算は放電制御装置63で、PID制御に係る演算は数値制御装置61で行われるが、数値制御装置61および放電制御装置63の一方で演算を行うよう構成してもよい。制御装置6は、所望の演算および制御が可能な限りにおいて、任意のソフトウェアとハードウェアが組み合わされて構成されてよい。制御装置6の各演算部および各司令部としては、FPGA、ASIC、DRP、DSP、CPU等の任意の演算装置が使用されてよい。
【0039】
ここで、本実施形態のサーボ制御について詳述する。
図4は、極間電圧、極間電流および各ゲート信号MG,SGp,SGn,NGのタイミングチャートを模式的に示している。
【0040】
図4に示されるように、極間電流の波形は、理想的には、放電が発生し、ゲート信号NGがオンになるタイミングから立ち上がり、ゲート信号NGがオフとなるタイミングを頂点とする三角波となる。ゆえに、ゲート信号NGのオン時間であるゲート幅NGwと極間電流のピーク値であるピーク電流値Ipとを乗算すれば、1回の放電の電流波形の面積Eの概算値が求められる。
【0041】
本実施形態では、所定のサンプリング期間あたりの電流波形の面積Eの総和である電流面積総和Etに基づき、サーボ制御を行う。電流面積総和Etは、加工間隙に発生する放電のエネルギと直接的な相関があるので、電流面積総和Etに基づいてサーボ制御を行うことで、実質的に、放電のエネルギに基づくサーボ制御が可能である。なお、本実施形態においては、電流面積総和Etに1を含む所定の係数を乗じた値が、電流面積総和Etの実測値Fmとして扱われる。
【0042】
ピーク電流値Ip、ゲート幅NGw、所定の定数Kおよび印加電圧値AVには、以下の数式1で示す比例関係がある。αは傾きを示す定数であり、実験で求めることができる。
【0043】
【0044】
「面積E=ゲート幅NGw×ピーク電流値Ip」であるから、数式1は以下の数式2のように変形できる。
【0045】
【0046】
ゆえに、所定のサンプリング期間、例えば10msあたりの放電数を求め、面積Eと放電数を乗算すれば、電流面積総和Etを求めることができる。本実施形態においては、ゲート幅NGwは、放電待機時間τwが所定の閾値th以上であるとき第1のゲート幅NGwLであり、放電待機時間τwが所定の閾値th未満であるとき第2のゲート幅NGwSである。また、放電数は、放電待機時間τwが所定の閾値th以上であるときは第1の放電数CLとしてカウントされ、放電待機時間τwが所定の閾値th未満であるときは第2の放電数CSとしてカウントされる。すなわち、電流面積総和演算部631は、以下の数式3に基づき、電流面積総和Etを算出してよい。また、前述のように、電流面積総和Etに係数を乗じた値を電流面積総和Etの実測値Fmとしてよいので、Etに代えてEt/αを求めてもよい。
【0047】
【0048】
このように算出した電流面積総和Etの実測値Fmは、外乱の影響を受けにくいパラメータであるとともに、取り量と直接的な相関がある。電流面積総和Etの実測値Fmに基づきサーボ制御を行うことで、より安定した、高精度の加工を行う事ができる。
【0049】
本実施形態では、第1の放電数CLと、第2の放電数CSと、第1のゲート幅NGwLと、第2のゲート幅NGwSと、印加電圧値AVと、に基づき、電流面積総和Etの実測値Fmを算出する。このようにすれば、比較的簡易な計算式で実測値Fmを算出でき、好ましい。ただし、電流面積総和Etの実測値Fmを算出できるのであれば、別の算出方法が採用されてもよい。例えば、電源装置3に極間電流を測定する電流計を設け、極間電流の値を基に、電流面積総和Etの実測値Fmが算出されてもよい。具体的に、極間電流のパルス幅とピーク電流値Ipとから実測値Fmが算出されてもよいし、あるいは、極間電流の波形の積分値から算出されてもよい。直接極間電流に基づき演算を行うことで、より正確に実測値Fmを算出できる。
【0050】
本実施形態においては、好ましくは、PID制御によるサーボ制御がなされる。すなわち、PID演算部611は、PID制御における操作量を算出する。そして、サーボ司令部612は、操作量に基づくサーボ制御指令、ひいては、操作量に基づいて算出した出力速度に係る指令を含むサーボ制御指令をサーボ制御装置67に出力する。PID制御における操作量は、所定の周期で更新される。ここで、ある時点の更新をn回目の更新とし、
Fn:操作量(添え字nは、n回目の操作量であることを示す。)
En:偏差(添え字nは、n回目の偏差であることを示す。)
Ei:積分偏差
Ed;微分偏差
Kp:比例ゲイン
Ki:積分ゲイン
Kd:微分ゲイン
Ft:電流面積総和Etの目標値
Fm:電流面積総和Etの実測値
とする。n回目の操作量Fnは、以下の数式4で求められる。
【0051】
【0052】
操作量の更新量ΔFは、n回目の操作量Fnとn-1回目の操作量Fn-1の差分である。また、速度の更新量ΔVと、操作量の更新量ΔFとの間には、所定の傾きβを比例定数とする比例関係がある。ゆえに、n回目の出力速度Vnは、以下の数式5で求められる。
【0053】
【0054】
従来は、単純に、実測値が目標値以下の時は所定の送り速度で工具電極Tを相対的に前進させ、実測値が目標値を越えているときは工具電極Tを相対的に後退させるサーボ制御が行われていた。サーボ制御時にPID制御を行うことで、従来技術と比べて、加工形状や板厚に応じた適正な送り速度で工具電極Tを相対移動させることができる。そのため、送り速度を必要以上に低下させることなく、高精度の加工を行うことができる。また、放電のエネルギと直接的な相関がある電流面積総和Etに基づいてPID制御がなされるので、工具電極Tと被加工物Wが接触して短絡が発生する前に送り速度が低下される。そのため、短絡の発生が防止される。
【0055】
加工形状に応じて電流面積総和Etの目標値Ftを変化させてもよい。特にコーナー部においては、輪郭形状の崩れ、いわゆるダレが発生しやすいので、コーナー部において目標値Ftを調整することで、より高精度の加工を行う事が出来る。ここで、工具電極Tの移動軌跡を加工軌跡という。コーナー部への加工において、加工軌跡が所望の加工形状の内側に設定される加工をアウトコーナ加工といい、加工軌跡が所望の加工形状の外側に設定される加工をインコーナ加工という。コーナー部は、角度の異なる2本の直線で形成されるエッジ部と、円弧で形成される円弧部に大別され、それぞれの加工軌跡をエッジ軌跡、円弧軌跡という。
【0056】
図5にはエッジ軌跡の例が示される。エッジ軌跡b,cは、鋭角をなす所定長さの2本の直線状の加工軌跡で構成される。ここで、エッジ軌跡bの始点に接続される所定長さの直線状の加工軌跡をアプローチ軌跡aとする。また、エッジ軌跡cの終点に接続される所定長さの直線状の加工軌跡をリターン軌跡dとする。
【0057】
アウトコーナ加工時は、エッジ軌跡b,cにおける目標値は、アプローチ軌跡aおよびリターン軌跡dにおける目標値よりも低く設定される。特に、
図6に示されるように、アプローチ軌跡aの始点からアプローチ軌跡aの終点に向かって、徐々に前記目標値が低くなるよう設定され、リターン軌跡dの始点からリターン軌跡dの終点に向かって、徐々に前記目標値が高くなるよう設定されることが好ましい。本実施形態では、アプローチ軌跡aの終点およびリターン軌跡dの始点における目標値LtL1は、エッジ軌跡b,cにおける目標値FtL2よりも高く設定される。換言すれば、電流面積総和Etの目標値Ftは、アプローチ軌跡aにおいて通常の目標値FtNから目標値LtL1へと推移し、エッジ軌跡b,cにおいて目標値FtL2に変更されたあと、リターン軌跡dにおいて目標値LtL1から通常の目標値FtNへと推移する。結果として、エッジ軌跡b,cにおいては、送り速度が自動的に大きくなる。
【0058】
インコーナ加工時は、エッジ軌跡b,cにおける目標値は、アプローチ軌跡aおよびリターン軌跡dにおける目標値よりも高く設定される。特に、
図7に示されるように、アプローチ軌跡aの始点からアプローチ軌跡aの終点に向かって、徐々に前記目標値が高くなるよう設定され、リターン軌跡dの始点からリターン軌跡dの終点に向かって、徐々に前記目標値が低くなるよう設定されることが好ましい。本実施形態では、アプローチ軌跡aの終点およびリターン軌跡dの始点における目標値LtH1は、エッジ軌跡b,cにおける目標値FtH2よりも低く設定される。換言すれば、電流面積総和Etの目標値Ftは、アプローチ軌跡aにおいて通常の目標値FtNから目標値LtH1へと推移し、エッジ軌跡b,cにおいて目標値FtH2に変更されたあと、リターン軌跡dにおいて目標値LtH1から通常の目標値FtNへと推移する。結果として、エッジ軌跡b,cにおいては、送り速度が自動的に小さくなる。
【0059】
図8には円弧軌跡の例が示される。円弧軌跡fは、円弧状の加工軌跡で構成される。ここで、円弧軌跡fの始点に接続される所定長さの直線状の加工軌跡をアプローチ軌跡eとする。また、円弧軌跡fの終点に接続される所定長さの直線状の加工軌跡をリターン軌跡gとする。
【0060】
アウトコーナ加工時は、円弧軌跡fにおける目標値は、アプローチ軌跡eおよびリターン軌跡gにおける目標値よりも低く設定される。特に、
図9に示されるように、アプローチ軌跡eの始点からアプローチ軌跡eの終点に向かって、徐々に前記目標値が低くなるよう設定され、リターン軌跡gの始点からリターン軌跡gの終点に向かって、徐々に前記目標値が高くなるよう設定されることが好ましい。本実施形態では、アプローチ軌跡eの終点およびリターン軌跡gの始点における目標値LtL1は、円弧軌跡fにおける目標値FtL2よりも高く設定される。換言すれば、電流面積総和Etの目標値Ftは、アプローチ軌跡eにおいて通常の目標値FtNから目標値LtL1へと推移し、円弧軌跡fにおいて目標値FtL2に変更されたあと、リターン軌跡gにおいて目標値LtL1から通常の目標値FtNへと推移する。結果として、円弧軌跡fにおいては、送り速度が自動的に大きくなる。
【0061】
アウトコーナ加工時は、円弧軌跡fにおける目標値は、アプローチ軌跡eおよびリターン軌跡gにおける目標値よりも高く設定される。特に、
図10に示されるように、アプローチ軌跡eの始点からアプローチ軌跡eの終点に向かって、徐々に前記目標値が高くなるよう設定され、リターン軌跡gの始点からリターン軌跡gの終点に向かって、徐々に前記目標値が低くなるよう設定されることが好ましい。本実施形態では、アプローチ軌跡eの終点およびリターン軌跡gの始点における目標値LtH1は、円弧軌跡fにおける目標値FtH2よりも高く設定される。換言すれば、電流面積総和Etの目標値Ftは、アプローチ軌跡eにおいて通常の目標値FtNから目標値LtH1へと推移し、円弧軌跡fにおいて目標値FtH2に変更されたあと、リターン軌跡gにおいて目標値LtH1から通常の目標値FtNへと推移する。結果として、円弧軌跡fにおいては、送り速度が自動的に小さくなる。
【0062】
このように、コーナー部において目標値Ftを変化させることで、より高精度の加工が実現できる上に、送り速度が適正化される。特に、アプローチ軌跡a,eおよびリターン軌跡d,gにおいて、徐々に目標値Ftが変化するよう制御した場合は、急激な目標値Ftの変化が抑えられるので、ハンチングが防止される。本実施形態では、アプローチ軌跡a,eおよびリターン軌跡d,gにおいては、比例的に目標値Ftを増減させたが、これに限定されるものではない。例えば、目標値Ftの増減は二次関数的に行われてもよい。また、本実施形態では、アプローチ軌跡a,eの終点およびリターン軌跡d,gの始点における目標値LtL1,FtH1と、エッジ軌跡b,cおよび円弧軌跡fにおける目標値FtL2,LtH2と、に差を設けたが、両者は同一であってよい。
【0063】
以上に説明したコーナー部に係る制御は、典型的にはワイヤ放電加工機に適用される。ただし、型彫放電加工機または細穴放電加工機において単純形状の工具電極Tを使用して創成加工を実施する場合など、型彫放電加工機または細穴放電加工機に対しても、本制御を好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 放電加工機
2 相対移動装置
21 X軸サーボモータ
23 Y軸サーボモータ
3 電源装置
4 第1の電源回路
41 第1の直流電源
42 第1の主スイッチング素子
5 第2の電源回路
51 第2の直流電源
52 第2の主スイッチング素子
611 PID演算部
612 サーボ司令部
631 電流面積総和演算部
632 放電カウンタ
634 パルス司令部
67 サーボ制御装置
T 工具電極
W 被加工物