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特開2024-148215ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための組成物および組合せ
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  • 特開-ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための組成物および組合せ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148215
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための組成物および組合せ
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20241010BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241010BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20241010BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20241010BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20241010BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20241010BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/28
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K35/745
A61K31/198
C12N1/20 E
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061138
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】305018395
【氏名又は名称】協同乳業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】生田 かよ
(72)【発明者】
【氏名】松本 光晴
(72)【発明者】
【氏名】掛山 正心
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C084
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD19
4B018MD85
4B018ME10
4B018MF14
4B065AA21X
4B065AC20
4B065BD33
4B065CA41
4B065CA44
4C084AA17
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA17
4C084MA21
4C084MA23
4C084MA28
4C084MA31
4C084MA32
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZC021
4C084ZC022
4C084ZC751
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC59
4C087MA02
4C087MA13
4C087MA16
4C087MA17
4C087MA21
4C087MA23
4C087MA28
4C087MA31
4C087MA32
4C087MA35
4C087MA37
4C087MA41
4C087MA43
4C087MA52
4C087MA58
4C087MA59
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA15
4C087ZC02
4C087ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206HA32
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA33
4C206MA36
4C206MA37
4C206MA41
4C206MA43
4C206MA48
4C206MA51
4C206MA52
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA61
4C206MA63
4C206MA72
4C206MA78
4C206MA79
4C206MA83
4C206MA86
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA15
4C206ZC02
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】 本発明は、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための組成物および組合せに関する。
【解決手段】 本発明の組成物および組合せは、腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分を含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分を含む、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための組成物。
【請求項2】
腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分が、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分との組合せである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分が、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物とアルギニンとの組合せである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物およびアルギニンの組合せである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状が、認知的柔軟性の低下である、請求項1-4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状が、認知症である、請求項1-4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
飲食品である、請求項1-4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
飲食品である、請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
飲食品である、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
医薬品である、請求項1-4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
医薬品である、請求項6に記載の組成物。
【請求項13】
医薬品である、請求項7に記載の組成物。
【請求項14】
ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分との組合せ。
【請求項15】
ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物とアルギニンとの組合せ。
【請求項16】
ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンとの組合せ。
【請求項17】
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である、請求項16に記載の組合せ。
【請求項18】
飲食品、または、医薬品である、請求項14-16のいずれか1項に記載の組合せ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための組成物および組合せに関する。
【背景技術】
【0002】
(1)ディスバイオシス
有益な菌を含む多種類の腸内細菌が適切なバランスを保ちつつ多様性に富んだ腸内細菌叢を保有することが、生活習慣病および加齢性疾患予防を含む宿主の健康維持に極めて重要であることが近年の研究で明らかとなって来た。これに対し、有益な菌が減少や、抗生物質服用などによる特定細菌種の異常増殖など多様性が欠如し、腸内細菌叢のバランスが乱れた状態は、「ディスバイオシス」と呼称される。ディスバイオシスが進行すると、腸管を保護する粘液が希薄化してバリア機能の低下や炎症が起こり、菌や菌体成分のリポ多糖類(LPS)が血中に漏れ出す状態(リッキーガットシンドローム)が生じ、その血液が全身を巡ることで全身性の慢性的な炎症が生じ、さまざまな不調や疾病を引き起こす。具体的には、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎など)、代謝性疾患(メタボリックシンドローム、糖尿病、非アルコール性脂肪肝など)、自己免疫疾患(喘息、アレルギーなど)、精神・神経系疾患(自閉症スペクトラム、うつ病、アルツハイマー型認知症など)との関連性が示唆されている。
【0003】
腸内細菌叢-腸-脳軸と情動行動および認知機能の関係は注目されている。マウスにおける抗生物質投与で腸内菌叢が破壊されると認知的柔軟性が低下する、という報告がされている(Tamada et al.,Frontiers in Neuroscience,2022,Volume 16,Article 882339)。しかし、認知的柔軟性に対する腸内菌叢が破壊されること(ディスバイオーシス)による認知的柔軟性の低下に対し、どのような処置をすることができるかについては不明であった。
【0004】
(2)ポリアミン
ポリアミンは細胞の健全性維持に必須の生理活性アミンであり、核酸保護や翻訳伸長に関与し、細胞増殖をはじめ、細胞分化や細胞活動に多大な影響を及ぼしている。ポリアミンは生体細胞が自ら生合成するが、加齢に伴いその生合成能が低下する。しかしながら、産生能が低下した場合は、食事および腸内細菌叢が産生する外因性ポリアミンから生体に補充できる。食事から摂取されるポリアミンは小腸で大部分が吸収されるため一過性であるが、腸内細菌叢が産生するポリアミンは栄養素等の腸管腔内環境の条件が整っている限り持続的供給が可能であり、ポリアミン供給源としての可能性を秘めている。
【0005】
本発明者らは、これまでに腸内細菌叢由来ポリアミン産生促進は、マウスにおいて大腸上皮細胞増殖維持や寿命延伸、ヒト試験ではアテローム性動脈硬化症発症リスク低減作用などを誘導することを報告してきた。
【0006】
本発明者らは、腸内ポリアミン産生誘導が若齢マウスの学習記憶に与える影響を調べた。報酬を学習の正の強化因子とするタッチパネルオペラント装置を用いて、若齢マウス(2~5ヶ月齢)への上記シンバイオティクス投与による学習記憶力および海馬学習記憶関連遺伝子への影響を検討した。具体的には、タッチパネルには略台形型に4つのスポット(丸穴)を配置し、その内の1つを正解とし、正解スポットをマウスが選択(ノーズポーク)することで報酬を与えた。対角に位置するスポットを交互に選択することで報酬が得られるルールを習得する原学習を行い、次に正解対角を反転させる逆転学習を10日間毎に反復し、変化(新しい正解対角)への適応力(認知的柔軟性)を評価した。結果、シンバイオティクス投与群も投与しない対照群のいずれも共に反復逆転課題を習得し逆転場面での認知的柔軟性を示した。シンバイオティクス投与群は対照群と比較し、逆転学習において原学習と同じ正解スポットとなる場合の成績が高く、反復毎にルール(対角線の交互選択)の習得度が上昇する傾向もみられた(日本栄養食糧学会(2020年)要旨)。
【0007】
逆転学習において原学習と同じ正解スポットとなる場合の成績が高い、ということは、原学習の正解に固執していることを示し、十分な認知的柔軟性が得られたとは言い難い状態である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-102054
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tamada et al.,Frontiers in Neuroscience,2022,Volume 16,Article 882339
【非特許文献2】Sientific Reports 4:4548,2014|DOI:10.1038/srep04548
【非特許文献3】第74回 日本栄養食糧学会(2020年) 要旨 「腸内ポリアミン産生誘導が若齢マウスの学習記憶に与える影響」 生田かよ他
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分により、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下を抑制できることを見出し、本発明を想到した。腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分は、好ましくは、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物とアルギニンとの組合せである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
限定されるわけではないが、本発明は、以下の態様を含む。
[1]
腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分を含む、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための組成物。
[2]
腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分が、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分との組合せである、[1]に記載の組成物。
[3]
腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分が、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物とアルギニンとの組合せである、[1]に記載の組成物。
[4]
腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物およびアルギニンの組合せである、[1]に記載の組成物。
[5]
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である、[4]に記載の組成物。
[6]
ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状が、認知的柔軟性の低下である、[1]-[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[7]
ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状が、認知症である、[1]-[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[8]
飲食品である、[1]-[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[9]
飲食品である、[6]に記載の組成物。
[10]
飲食品である、[7]に記載の組成物。
[11]
医薬品である、[1]-[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[請求項12]
医薬品である、[6]に記載の組成物。
[請求項13]
医薬心である、[7]に記載の組成物。
[14]
ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分との組合せ。
[15]
ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物とアルギニンとの組合せ。
[16]
ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物とアルギニンとの組合せ。
[17]
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物が、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である、[16]に記載の組合せ。
[18]
飲食品、または、医薬品である[14]-[16]のいずれか1項に記載の組合せ。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組成物または組合せにより、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下を抑制できる。本発明の組成物または組合せにより、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、逆転1から逆転5の逆転初日の最初の200選択の行動変容を解析した結果を示す。逆転前の正解対角移動(すなわち不正解行動)する率を灰色線で、逆転後の正解対角移動(すなわち正解行動)する率を黒色線で示す。データは平均値±標準誤差で示す。LKM512+Arg群では、コントロール群と比較して、逆転3から逆転5にかけて、正解対角移動の立ち上がりが早く(上昇のタイミングや数値の上昇)、逆転へ素早く対応していることが分かった。
図2図2は、逆転4から逆転5の逆転初日の最初の100選択の正解対角選択率を解析した結果を示す。最初の100選択を25選択ずつ4ブロックに分け、各ブロックの選択の正解対角選択率を棒グラフで示した。「選択」とは、タッチスクリーン上のスポットをマウスが直接鼻でタッチする行動を示す。正解スポットでも不正解スポットでも1回タッチすれば1選択したことになる。データは平均値±標準誤差で示す。LKM512+Arg群は、特に逆転4、5において、コントロール群と比較してどの区画においても、逆転後正解対角選択率が高く、より早期に正解対角に適応していることを示した。
図3図3は、第一選択での正解率を示す。「第一選択」とは、各試行における最初の選択を示す。「試行」とは、タッチスクリーン上にスポットが提示されてから、マウスが報酬を得るまでを示す。コントロール群では、逆転1、3において第一選択での正解率は高かったが、逆転2、4においてはLKM512+Arg投与群と同程度の成績を示した。図3の縦軸は、第一選択での正解率、横軸は試験日を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本明細書において他に断りがない限り、本明細書で使用される技術および科学用語は、当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。本明細書に開示された物質、材料および例は単なる例示であり、制限することを意図していない。本明細書において「一態様において」と言及する場合は、その態様に限定されない、即ち、非限定的であることを意味する。
【0015】
1.組成物
一態様において、本発明は、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための組成物に関する。非限定的に、前記組成物は、腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分を含む。
【0016】
「腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分」は、腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する可能性がある成分であれば特に限定されない。一態様において、腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分は、微生物、例えば、アクチノバクテリア門(Actinobacteria)、バクテロイデテス門(Bacteroidetes)、ファーミキュテス門(Firmicutes)またはプロテオバクテリア門(Proteobacteria)に属する微生物を含む。一態様において、前記腸内細菌のポリアミン生成を促進する成分は、アクチノバクテリア門のフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物、特開2012-102054に「腸内細菌のポリアミン生成を促進する成分」として記載されている物質を含む。その他に、ポリアミンを生成し得るビフィドバクテリウム属、腸内細菌叢を変え得るオリゴ糖や難消化性糖類(食物繊維)、難消化性ペプチドなども含む。
【0017】
一態様において、前記腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分は、2以上の成分を含む。一態様において、前記腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分は、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物を含む。一態様において、前記腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分は、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分、との組合せである。一態様において、前記組成物は、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分を含む。
【0018】
「当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分」は、非限定的に、例えば、特開2012-102054に「腸内細菌のポリアミン生成を促進する成分」として記載されている物質である。「当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分」は、非限定的に、例えば、アラニン、アルギニン、セリン、プロリン、リシン、γ-アミノ酪酸、ヒドロキシプロリン、リンゴ酸、アスパラギン酸、イソロイシン、チロシン、バリン、ロイシン、アデニン、ウラシル、イノシン、フマル酸、ニコチン酸、ヒポキサンチン、又はこれらの組合せ、からなる群から選択される物質である。「当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分」は、非限定的に、例えば、アラニン、アルギニン、セリン、γ-アミノ酪酸、リンゴ酸、ロイシン、アデニン、ウラシル、イノシン、ヒポキサンチン、又はこれらの組合せ、からなる群から選択される物質である。「当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分」は、1成分でも、2成分以上(2成分、3成分、4成分、5成分、5成分以上)の組合せであってもよい。好ましくは、「当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分」は、アルギニンである。
【0019】
前記「ビフィドバクテリウム属に属する微生物」は、グラム陽性の偏性嫌気性桿菌の一種で、放線菌網ビフィドバクテリウム属に属する微生物で、ビフィズス菌と総称されることもある。一態様において、前記組成物に含まれる「ビフィドバクテリウム属に属する微生物」は、以下:ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス(B.animalis subsp.lactis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種アニマリス(B.animalis subsp.animalis)、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラタム(B.pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム(B.catenulatum)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B.bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B. breve)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.infantis)およびビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(B.adolescentis)からなる群より選択される、種または亜種に属する微生物である。
【0020】
一態様において、前記「ビフィドバクテリウム属に属する微生物」は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物である。「ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス」は、ビフィドバクテリウム・アニマリス種の亜種で、複数の菌株が知られている。非限定的に、LKM512株(登録商標)、GCL2505株(商標)、BE80株(登録商標)(DN-173 010)、HN019(登録商標)、BB-12株(登録商標)等が含まれる。
【0021】
一態様において、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である。ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスLKM512株は、寄託番号FERM P-21998として2010年8月10日に独立行政法人 製品評価技術基盤機構 NITE特許微生物寄託センター(NITE-IPOD:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8;独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターより2012年4月に業務承継)に寄託されている。
【0022】
一態様において、前記腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分は、ビフィドバクテリウム属に属する微生物とアルギニンとの組合せである。非限定的に、前記組成物は、ビフィドバクテリウム属に属する微生物とアルギニンを含む。
【0023】
一態様において、前記腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物およびアルギニンの組合せである。非限定的に、前記組成物は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物およびアルギニンを含む。
【0024】
一態様において、前記腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)とアルギニンとの組合せである。非限定的に、前記組成物は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)とアルギニンを含む。
【0025】
非限定的に、本発明の組成物は、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するために有用である。「ディスバイオシス」とは、腸内の有益な菌の減少または一部の細菌の異常増殖により、多様性が欠如し腸内細菌叢のバランスが乱れた状態を意味する。「ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状」とは、年齢に関係なく、腸内細菌叢のバランスが乱れた状態に起因する、全ての認知機能低下の症状を含む。本明細書の実施例ではマウスに抗生物質を投与して人為的にディスバイオーシスを起こしたマウスに対し、前記組成物が、認知的柔軟性の低下を抑制することを明らかにした。
【0026】
非限定的に、「ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状」は、認知症、軽度認知障害、認知症認知的柔軟性の低下、およびもの忘れからなる群から選択される。「認知症」は、ディスバイオーシスに起因するもので、非限定的に、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知量、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、若年性認知症を含む。
【0027】
一態様において、前記ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状は、認知的柔軟性の低下である。「認知的柔軟性」とは、認知機能の1つであり、外部からの情報等の刺激(目、耳や鼻等から入った情報)に対して考え方を柔軟に変える能力である。認知的柔軟性は、環境から情報を把握し、直面している種々の状況に合わせて戦略を選択し、動作変更、状況の要件の調整など、柔軟な対応をするのに必要な能力である。「認知的柔軟性」は、課題ルールのシフト(shifting)、課題や心的セット間の切り替え(shifting between tasks or mental sets)、セット転換(set shifting)とも呼ばれ、2つの異なる概念について思考を切り替えたり、同時に複数の概念について考えたり、複数の戦略や状況の変化を伴った複数のタスクの中から選択する能力である。
【0028】
一態様において、前記ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状が、認知症である。
【0029】
非限定的に、前記「ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状」は、腸脳軸(広義の腸脳相関)に起因する認知機能低下の症状であり、例えば、加齢に依存する認知機能低下(異常タンパク質の脳組織沈着などが主要因)とは異なるものである。非特許文献3は、腸内ポリアミン産生誘導が若齢マウスの学習記憶に与える影響を記載している。前記「ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状」は、非特許文献3に記載の若齢マウスの学習記憶の低下とは、生物学的年齢は関与せず、腸内細菌叢の変動(悪化)に起因するという点において異なる。
【0030】
前記組成物は、腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分の量は、特に限定されない。好ましくは、腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分は、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するために有効な量で、摂取(本明細書において「摂取」には「投与」の意味も含む)される。
【0031】
非限定的に、ビフィドバクテリウム属に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分は、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するために有効な量で摂取されることが好ましい。用量は、対象となる動物の種類、体重、体長、年齢、体長とによって適宜調整し得る。
【0032】
例えば、ヒトを対象とする場合、1回用量あたり、ビフィドバクテリウム属に属する微生物は、1×10~1×1011cfu、好ましくは1×10~1×1011cfu、1×10~1×1010cfu、1×10~1×1011cfu、1×10~1×1010cfuである。
【0033】
ビフィドバクテリウム属に属する微生物と組み合わせる、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分の用量は、成分の種類に応じて適宜選択しうる。例えばアルギニンを組み合わせる場合のアルギニンの量は、1回用量あたり、10mg~20000mg、好ましくは10mg~2000mg、50mg~1000mg、100mg~1000mg、200mg~1000mg、300mg~800mgである。
【0034】
前記組成物の摂取回数、摂取期間、摂取頻度は特に限定されない。ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置する効果が確認できる回数、期間、摂取することが望ましい。組成物の成分である腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分は、人体への安全性が確認されているものである。組成物の成分であるビフィドバクテリウム属に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分(例えば、アルギニン)はいずれも人体への安全性が確認されているものである。ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置する効果が持続的に確認できるまでの回数、期間、継続的に摂取してもよい。非限定的に、摂取回数は1回、1回以上、2回以上、3回以上、5回以上、8回以上、10回以上、12回以上、15回以上、20回以上、25回以上、30回以上である。摂取回数の上限は特にない。一態様において摂取期間は、1日以上、2日以上、3日以上、5日以上、7日以上、10日以上、14日以上、20日以上、25日以上、30日以上、40日以上、50日以上、60日以上、2か月以上、3か月以上、4か月以上、6か月以上である。摂取期間の上限は特にない。一態様において、摂取期間は、1日~12か月、1日~6か月、1日~3か月、1日~2か月、1日~50日、1日~30日、1日~20日である。摂取頻度も特に限定されない。一態様において、1日3回、1日2回、1日1回、2日1回、3日1回、4日1回、5日に1回、1週間に1回、10日に1回、2週間に1回、1か月に1回である。一態様において、1週間に1回程度、あるいはそれ以上の頻度で摂取する。
【0035】
一態様において、前記組成物は、単回投与される。一態様において、前記組合せは、継続的に2回以上投与される。
【0036】
一態様において、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下が実際に確認される前から、予防的に摂取を開始してもよい。例えば、抗生物質の摂取によりディスバイオーシスが生じる可能性がある場合、予防的に摂取してもよい。
【0037】
前記組成物の摂取のタイミングは限定されない。前記組成物は、飲食前、食事中、また飲食後のいずれに摂取してもよい。
【0038】
前記組成物の摂取方法も特に限定されない。好ましくは、経口摂取である。
【0039】
前記組成物を摂取する対象は、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下が生じる可能性がある動物であれば、特に限定されない。例えば、愛玩動物、産業用動物等が含まれる。一態様において対象は、ヒトである。一態様において、非ヒト哺乳動物を対象としていてもよい。非ヒト哺乳動物の例は、ヒト以外の霊長類(サル、チンパンジー、ゴリラ等)、イルカ、アシカ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、モルモット、ウサギ等が含まれる。
【0040】
一態様において、前記組成物は、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下が生じている動物、またはディスバイオーシスに伴う認知機能低下が生じる可能性のある動物を対象としる。「ディスバイオーシスに伴う認知機能低下が生じている動物」は、例えば、抗生物質投与により腸内細菌叢のバランスが乱れていることが確認された動物、アレルギー等の疾病あるいは好き嫌いにより食事の偏りによるディスバイオーシスが生じた動物、加齢により生じるディスバイオーシス、あるいは、強いストレス等の環境要因を受けてディスバイオーシスに陥った動物などである。「ディスバイオーシスに伴う認知機能低下が生じる可能性のある動物」は、例えば、抗生物質を継続的または一時的な摂取により、腸内細菌叢のバランスが乱れる可能性がある動物(実際にディスバイオーシスに伴う認知機能低下が生じていることが確認される前であってもよい)である。
【0041】
一態様において、「ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置する」ことは、「ディスバイオーシスに伴う認知機能低下を抑制する」ことを含む、好ましくは、前記組成物は、対象のディスバイオーシスに伴う認知機能低下を抑制する。「認知機能低下を抑制する」とは、前記組成物を摂取しない場合と比較して、摂取した場合にディスバイオーシスに伴う認知機能低下が抑制される、好ましくは2%以上抑制される、5%以上抑制される、10%以上抑制される、15%以上抑制される、20%以上抑制される、30%以上抑制される、50%以上抑制されることを意味する。
【0042】
「認知機能低下の抑制」は、例えば、認知的柔軟性の向上を指標にすることもできる。例えば、「認知機能低下を抑制する」とは、前記組成物を摂取しない場合と比較して、摂取した場合に認知的柔軟性が向上する、好ましくは2%以上向上する、5%以上向上する、10%以上向上する、15%以上向上する、20%以上向上する、30%以上向上する、50%以上向上することを意味する。
【0043】
「認知的柔軟性」は、公知の方法によって調べることが可能である。例えば、ウィスコンシンソーティングテストが知られる。この課題は、あるルールに則り試験者より提示されるカードから被験者はルールを推測し、最適なカードを選択・提示する。その後、試験者より正否が伝えられ、被験者はそれを手がかりとしてルールを推測し、カード選択・提示を行う。被験者が任意の連続正答数に到達後、試験者が予告なくルールを変更し、ルール変更に対する応答を調べることで、被験者の認知的柔軟性を特徴づける、というものである。一態様として、「認知的柔軟性」の評価に、タッチスクリーン、例えば、タッチスクリーンオペラント装置を用いることができる。タッチスクリーンオペラント装置とは、タッチパネルに複数のスポット(例えば、左右非対称に4つのスポット)を配置したものである。スポットの内1つの正解スポットを対象(例えば、マウス)が選択(例えば、鼻タッチ)する。正解スポットを選択した場合に、対象に報酬を与える。例えば、対角に位置するスポットを交互に選択することで報酬が得られるルールを習得する原学習を行い、次に正解対角を反転させる逆転学習を定められた回数のセッション毎に反復し、逆転への順応力(認知的柔軟性)を評価することができる。
【0044】
一態様において、前記組成物は、飲食品または医薬品であってもよい。前記組成物は、医薬品または食品(例えば、機能性食品、健康食品、サプリメントなど)として継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒剤(ドライシロップを含む)、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、錠剤(チュアブル剤などを含む)、散剤(粉末剤)、丸剤などの各種の固形製剤、または内服用液剤(液剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)などの液状製剤などの形態で調製することができるが、特に限定されるものではない。腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分、例えば、ビフィドバクテリウム属に属する微生物およびアルギニンは腸溶コーティングされていても、されていなくてもよい。
【0045】
腸溶コーティングは、当業者に公知のものを使用でき、特に限定されない。例えば、腸溶コーティングされた錠剤として、有用な成分を含む素錠の表面に、アンダーコート層と、大腸崩壊性基剤層と、第1の腸溶性基剤層と、第2の腸溶性基剤層とを、この順に被覆してなり、前記第1の腸溶性基剤層がゼインを含み、前記第2の腸溶性基剤層がシェラックを含む、大腸ドラッグデリバリーシステム錠剤を使用することができる。
【0046】
前記組成物は、必要に応じ、従来公知の着色剤、保存剤、香料、風味剤、コーティング剤などの成分を配合して調製することもできる。
【0047】
前記組成物が飲食品である場合、以下のような形態であってもよい。例えば、飲料、発酵食品、菓子類、パン類、スープ類等の各種食品若しくはその添加成分として;または、ドッグフード、キャットフードなどの各種ペットフード若しくはその添加成分として使用することができる。これらの食品の製造方法は、前記組成物の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各用途で当業者に使用されている方法に従えばよい。前記組成物を適用できる食品は、例えば、対象が日常的に摂取する食品だけでなく、特定保健用食品、栄養機能食品、特別用途食品、機能性表示食品等の機能性食品にも適用できる。前記組成物が適用可能な飲食品の具体例としては、乳飲料、ヨーグルト、発酵乳、乳酸菌飲料、チーズ、プリン、アイスクリーム、氷菓、清涼飲料水(フルーツジュース、緑茶、紅茶、烏龍茶、およびコーヒー等を含む)、サプリメント、および豆乳等が挙げられる。固形食品に前記組成物を加える場合には、例えば顆粒剤、および粉剤等の形態で加えることが好ましい。また、飲料、ペースト状食品に前記組成物を加える場合には、例えばマイクロカプセルの形態で加えることが好ましい。
【0048】
前記医薬品は、有効成分をそのまま用いてもよいし、薬学的に許容できる担体、賦形剤、添加剤等を加えて製剤化してもよい。剤形としては、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤等が挙げられる。製剤化は、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解剤、溶解補助剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを適宜使用し、常法により行うことができる。
【0049】
製剤化に用いられる成分の例としては、精製水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等薬学的に許容される有機溶剤、動植物油、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ソルビトール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、コーンスターチ、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、トラガント、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、高級アルコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0050】
前記医薬品が丸剤または錠剤の場合、糖衣、胃溶性、腸溶性物質で被覆してもよい。
【0051】
例えば、液剤の形態にする場合は、ペクチン、キサンタンガム、グアガムなどの増粘剤を配合することができる。また、コーティング剤を用いてコーティング錠剤にすることも、ペースト状の膠剤とすることもできる。さらに、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0052】
2.組合せ
一態様において、本発明は、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための組合せ、に関する。非限定的に、前記組合せは、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分、との組合せである。一態様において、本発明は、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分、との組合せであって、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための前記組合せ、に関する。
【0053】
一態様において、前記組合せは、ビフィドバクテリウム属に属する微生物とアルギニンとの組合せである。
【0054】
一態様において、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)である。
【0055】
前記組合せにおいて、ビフィドバクテリウム属に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分(例えば、アルギニン)とは、同時に摂取しても、逐次摂取してもよい。逐次摂取する場合に、摂取の順番は問わない。逐次摂取する場合には、非限定的に、双方を2時間以内、1時間以内、30分以内、20分以内、15分以内、10分以内、5分以内に摂取するのが好ましい。
【0056】
一態様において、前記組合せは、飲食品、または、医薬品である。1種類の飲食品または医薬品に、ビフィドバクテリウム属に属する微生物と当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分(例えば、アルギニン)の双方が含まれていてもよいし、あるいは、2種類以上の飲食品または医薬品に、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスに属する微生物と当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分が別々に含まれていてもよい。
【0057】
一態様において、前記組合せは、単回投与される。一態様において、前記組合せは、継続的に2回以上投与される。
【0058】
一態様において、前記組合せは、対象のディスバイオーシスに伴う認知機能低下を抑制する。「認知機能低下を抑制する」とは、前記組合せを摂取しない場合と比較して、摂取した場合にディスバイオーシスに伴う認知機能低下が抑制される、ことを意味する、「認知機能低下の抑制」は、例えば、認知的柔軟性の向上を指標にすることもできる。例えば、「認知機能低下を抑制する」とは、前記組合せを摂取しない場合と比較して、摂取した場合に認知的柔軟性が向上することを意味する。
【0059】
本発明は一態様において、本発明は、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分、との組合せであって、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下を抑制するための、前記組合せに関する。
【0060】
上記各用語の説明は、「1.組成物」において説明した通りである。
【0061】
特に不都合がない場合には、「1.組成物」において記載した事項は、本項目の組合せにも適用する。
【0062】
3.使用、方法等
本発明は、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するためのめの方法であって、腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分を対象に投与することを含む、方法に関する。本発明はまた、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するためのめの方法であって、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分を、対象に投与することを含む、方法に関する。
【0063】
本発明は、腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分の、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための方法への使用に関する。本発明はまた、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分の、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための方法への使用に関する。
【0064】
本発明は、腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分の、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための組成物または組合せの製造への使用に関する。本発明はまた、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分のディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置するための組成物または組合せの製造への使用に関する。
【0065】
本発明は、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置する方法へ使用される、腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する成分に関する。本発明はまた、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置する方法へ使用される、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物と、当該微生物以外の腸内細菌叢のポリアミン生成を促進する1以上の成分の組合せに関する。
【0066】
上記各用語の説明は、「1.組成物」、「2.組合せ」において説明した通りである。
【0067】
特に不都合がない場合には、「1.組成物」、「2.組合せ」において記載した事項は、本項目の組合せにも適用する。
【実施例0068】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0069】
実施例1 認知的柔軟性試験
本実施例において、抗生物質投与により生じさせたディスバイオーシスに伴う認知機能低下に関する認知的柔軟性試験を行った。
方法
雌性C57BL/6Jマウス(10週齢)を日本チャールスリバー株式会社(現在はジャクソンラボラトリー)より購入した。数日間の馴化後、体重測定結果から、2グループに分け、1グループを、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P-21998)とアルギニンとの併用摂取(「LKM512+Arg摂取」)群とし、生理食塩水を摂取する別の1グループをコントロール群とした。LKM512+Arg群は、Arg水溶液(pH7.0)にMRS寒天培地(Becton,Dickinson and Company,USA)で48時間培養したLKM512をシャーレ1枚分のコロニー懸濁し、Argが0.3mg/g体重となるように胃ゾンデにて強制経口投与した。コントロール群は、生理的リン酸緩衝液を同様に強制経口投与した。投与は試験開始3日前より週3回行った。また両群ともに、抗生物質ストレプトマイシンが最終濃度2.0mg/mlとなるように飲用水に溶解し、試験開始4日前より週に1日(24時間)のみ自由飲水投与を行った。
【0070】
認知的柔軟性試験は、タッチスクリーンオペラント装置(小原医科産業株式会社)を使用して実施した。装置は、タッチスクリーン、モニター、ペレットディスペンサー、給水装置、スピーカー、室内灯、カメラ、チャンバーで構成されている。タッチスクリーンには左右上下非対称の四角の各頂点に直径1.8cmの穴を開けたカバーをし、その穴(スポット)をマウスが直接鼻でタッチすることで、「選択」が認識される。
【0071】
装置への馴化および選択行動の形成後、マウスは学習1を行う。学習1では、マウスは4つのスポットのうち、一つの対角線上にある2つのスポットを交互に選択することで報酬が得られることを学習する。試験が開始すると、全4スポットが光って提示され、マウスが正解スポットを選択すれば、ベル音が鳴るとともに報酬が1つペレットディスペンサーより給餌される。不正解である他の3つのスポットを選択すれば、スポットと照明が消え、再び選択画面が提示される。
【0072】
タッチスクリーン上にスポットが提示され、報酬が与えられるまでを1試行とし、1日に150試行もしくは60分経過のどちらかを満たした場合にその日の試験の終了とした。学習1を10日間行い、マウスは「指定された対角スポットを交互に選択することで報酬が得られる」というルールを習得する。
【0073】
次に、学習2を8日間行った。学習2では、報酬が得られる対角が逆転し、学習1とは異なる対角線上の2つのスポットを交互に選択することで報酬が与えられる。その後、再び報酬が得られる対角が学習1での対角スポットに逆転し、その後も逆転を繰り返した。その逆転に対する初日の行動変容過程(正解選択数の増加スピード)および第一選択での正解率を認知的柔軟性の指標として評価した。
結果
正解対角が変化した初日の最初の200選択を解析した(図1)。逆転後の正解対角移動(正解行動)累積数(黒線)を比較したところ、200選択で逆転3においてはコントロール群では約17.5であるのに対してLKM512+Arg群では23、逆転4においてはコントロール群で21.3に対してLKM512+Arg群では40.3、逆転5においてはコントロール群の40.8に対して、LKM512+Arg群は50.3を超えており、逆転後の正解対角移動累積数の立ち上がりが早かった。
【0074】
次に、逆転初日の最初の100選択において、逆転後の正解対角選択率を、25選択ずつに区切り分析した(図2)。LKM512+Arg群は、逆転4、5において、コントロール群と比較してどの区画においても、逆転後正解対角選択率が高く、より早期に正解対角に適応していることを示した。
【0075】
図3では、第一選択での正解率を示す。第一選択での正解率とは、各試行における最初の選択が正解である確率である。「試行」とは、「タッチスクリーン上にスポットが提示されてから、マウスが報酬を得るまでの一連の行為」を意味する。コントロール群では、逆転1、3において第一選択での正解率は高かった。しかしながら、逆転2、4においてはLKM512+Arg投与群と同程度の成績を示した。この結果から、コントロール群では、逆転1、3において正解となる対角でのみ、成績が高くなっており、片方の対角に固執していることが理解される。それに対し、LKM512+Arg投与群はどちらかの対角に偏る行動は認められず、逆転後の正解対角への適応が徐々に早まり、抗生物質投与で生じる固執性が抑えられた。固執性は、加齢とともに強固となり、柔軟な思考を困難とする。固執性の高まりは認知的柔軟性低下を評価する重要な指標の一つである。抗生物質投与による菌叢攪乱が固執性を高めるが、LKM512+Argにより改善し、認知的柔軟性低下を抑制することを示した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の組成物または組合せにより、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下を抑制できることが明らかになった、本発明により、ディスバイオーシスに伴う認知機能低下の症状を予防又は処置することができる、組成物(組合せ)が提供される。
図1
図2
図3