(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148230
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】金属薄膜の原子層堆積方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/18 20060101AFI20241010BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C23C16/18
H01L21/285 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061178
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000143411
【氏名又は名称】株式会社高純度化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】水井 誠
(72)【発明者】
【氏名】水谷 文一
【テーマコード(参考)】
4K030
4M104
【Fターム(参考)】
4K030AA11
4K030AA16
4K030AA17
4K030AA18
4K030BA01
4K030CA04
4K030CA12
4K030EA01
4K030EA03
4K030FA10
4K030HA01
4K030JA01
4K030JA05
4K030JA09
4K030JA10
4M104BB04
4M104BB18
4M104DD43
4M104DD45
(57)【要約】
【課題】金属錯体を前駆体原料として、熱原子層堆積(熱ALD)法により金属薄膜を堆積させる方法であって、失活の懸念のあるプラズマや酸素混入の懸念があるオゾンなどの酸素含有酸化剤を用いない方法を提供する。
【解決手段】芳香族アニオン配位子を持つ金属錯体を、基板温度を金属錯体の分解温度よりも3℃以上低い温度とした反応室内に供給する工程1と、該反応室内に100~50,000Paの水素分圧をもつ水素含有ガスを供給する工程2とを含む、熱ALD法を用いた金属薄膜の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アニオン配位子を持つ金属錯体を、基板温度を金属錯体の分解温度よりも3℃以上低い温度とした反応室内に供給する工程1と、
該反応室内に100~50,000Paの水素分圧をもつ水素含有ガスを供給する工程2とを含む、熱原子層堆積(熱ALD)法を用いた金属薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記芳香族アニオン配位子がシクロペンタジエニル配位子である、請求項1に記載の金属薄膜の製造方法。
【請求項3】
アルキル配位子を持つ金属錯体を、基板温度を金属錯体の分解温度よりも3℃以上低い温度とした反応室内に供給する工程1と、
該反応室内に100~50,000Paの水素分圧をもつ水素含有ガスを供給する工程2とを含む、熱原子層堆積(熱ALD)法を用いた金属薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記金属錯体が水溶液中における水和イオンと単体金属との間の標準酸化還元電位が-1.1Vより大きい金属の錯体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記水素含有ガスが、酸素原子を含まない混合ガスである、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱原子層堆積(熱ALD)法により、金属薄膜を形成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な化学蒸着(CVD)法と比べて、段差被覆性や膜厚制御性に優れる技術として、原子層堆積(ALD)法が知られている。ALD法は、原子層単位で薄膜を形成する技術であり、通常、(1)ガス化した原料を一層だけ基板表面と反応または吸着させ、余分な原料をパージする、(2)酸化剤や還元剤などの反応ガスを供給して、基板上の原料を目的とする堆積物になるように反応させる、の二つの工程を繰り返すことにより成膜を行う。このように、原料を連続的でなく一層ずつ堆積させるため、ALD法には段差被覆性や膜厚制御性に優れるという特徴がある。また、ALD法では、原料を熱分解させないので、比較的低温下に絶縁膜を形成することができる。このため、例えば、メモリ素子のキャパシタや、液晶ディスプレイのようにガラス基板を用いる表示装置における、薄膜トランジスタのゲート絶縁膜の形成などへの応用が期待される。
【0003】
ALD法には、熱で反応を促進する熱ALD(TALD)や、プラズマを利用して反応を促進するプラズマ援用ALD(PEALD)がある。このうち、PEALDはより低温で成膜可能であることから、温度に敏感な材料への適用が可能である。例えば、特許文献1には、ビス(シクロペンタジエニル)ルテニウム(Ru(Cp)2)やビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)(Ru(EtCp)2)等のルテニウム前駆体を使用し、反応ガスおよびパージガスとして、アンモニア(NH3)ガス、または、窒素(N2)と水素(H2)の混合ガスを使用して、400℃以下の温度でプラズマ援用ALD(PEALD)により、ルテニウム薄膜を形成する方法が記載されている。
【0004】
前記ルテニウム薄膜の形成方法では、400℃以下の加熱下に、プラズマと、アンモニアガスまたは窒素/水素混合ガスが用いられる。特許文献1では、アンモニア(NH3)ガスおよび窒素/水素混合ガスのいずれもプラズマ支援無しではルテニウム前駆体と反応しないと記載されるとおり、特許文献1の成膜方法においては、プラズマ支援無しに熱だけで反応を進行させてルテニウム薄膜を堆積することは困難である。
【0005】
プラズマを利用して反応を促進することで、低温での成膜が可能となり、温度に敏感な材料への適用が可能となる一方、アンモニアおよび水素などを用いる際に、プラズマによってラジカル種を生成させて行うため、これらが堆積途中で失活することにより段差被覆性が悪くするおそれがある。
【0006】
一方、特許文献2では、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)(Ru(EtCp)2)などの芳香族アニオン配位子を持つ有機金属錯体を前駆体とし、求核性のアンモニアガスと求電子性の水素ガスとの混合ガスを反応ガスとして使用することで、プラズマを使用せずに、ルテニウム薄膜を形成する方法や、トリメチルトリメチルホスフィン金((CH3)3AuP(CH3)3)などのアルキル配位子を持つ有機金属錯体を前駆体とし、アンモニアと水素の混合ガスを反応ガスとして使用することで、プラズマを使用せずに、ルテニウム薄膜を形成する方法が記載されている。しかしながら、特許文献2の方法では、求核性のガスと求電子性のガスを混合して用いるので、複数の原料を混合して反応室に供給するか、または、あらかじめ混合した特別な原料を使用する必要があり煩雑である。このため、プラズマ支援無しに熱ALD法を用いて、煩雑な工程を必要とせずにルテニウム薄膜を成膜する方法が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0177601号明細書
【特許文献2】国際公開第2019/017285号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属錯体を前駆体原料として、熱原子層堆積(熱ALD)法により金属薄膜を堆積させる方法であって、失活の懸念のあるプラズマや、酸素混入の懸念があるオゾンなどの酸素含有酸化剤を用いない方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、熱原子層堆積(熱ALD)法において、芳香族アニオン配位子を持つ金属錯体またはアルキル配位子を持つ金属錯体に対して、特定の水素分圧をもつ水素含有ガスを用いることで、プラズマや酸化剤を用いずに金属薄膜を堆積できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の事項からなる。
本発明の熱ALD法を用いた金属薄膜の製造方法は、芳香族アニオン配位子を持つ金属錯体を、基板温度を金属錯体の分解温度よりも3℃以上低い温度とした反応室内に供給する工程1と、該反応室内に100~50,000Paの水素分圧をもつ水素含有ガスを供給する工程2とを含むことを特徴とする。
前記芳香族アニオン配位子はシクロペンタジエニル配位子であることが好ましい。
【0010】
本発明の熱ALD法を用いた金属薄膜の製造方法は、アルキル配位子を持つ金属錯体を、基板温度を金属錯体の分解温度よりも3℃以上低い温度とした反応室内に供給する工程1と、該反応室内に100~50,000Paの水素分圧をもつ水素含有ガスを供給する工程2とを含むことを特徴とする。
【0011】
前記金属錯体は、水溶液中における水和イオンと単体金属との間の標準酸化還元電位が-1.1Vより大きい金属の錯体であることが好ましい。
前記水素含有ガスは、酸素原子を含まないガスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、芳香族アニオン配位子を持つ金属錯体またはアルキル配位子を持つ金属錯体に対して、特定の水素分圧をもつ水素含有ガスを用いることで、低温でも芳香族アニオン配位子またはアルキル配位子を脱離させることができ、金属錯体の熱分解温度より十分に低い温度での熱ALD成膜が可能である。つまり、本発明の熱ALD法では、プラズマや酸化剤を用いずに、還元剤のみでルテニウムなどの金属薄膜を堆積することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の金属薄膜の熱原子層堆積(熱ALD)法について詳細に説明する。
本発明の一態様である金属薄膜の熱ALD法は、芳香族アニオン配位子を持つ金属錯体を、基板温度を金属錯体の分解温度よりも3℃以上低い温度とした反応室内に供給する工程1と、該反応室内に100~50,000Paの水素分圧をもつ水素含有ガスを供給する工程2とを有する。なお、本発明における水素分圧は、反応室内の水素分圧であり、反応室内に圧力分布がある場合は、基板表面における水素分圧のことを指す。
【0014】
金属薄膜を熱ALD法によって堆積する場合、基板上に、金属錯体などの金属原子を含む原料を供給して、飽和するまで吸着(反応を伴う吸着を含む)させる第一の工程と、反応ガスとして、特定の分圧をもつ水素含有ガスを供給して、その吸着した原料の金属原子以外の部分を脱離させる第二の工程とを繰り返す方法により金属薄膜を形成する。このとき、金属錯体を反応ガスと十分に反応させるために、従来はプラズマや酸化剤を用いていた。本発明は、このようなALD法において、芳香族アニオン配位子を持つ金属錯体(以下「原料」ともいう。)を、基板を設置した反応室内に供給した後、該反応室内に、特定の水素分圧をもつ水素含有ガスを供給することにより、プラズマや酸化剤を用いることなく、かつ、金属薄膜を原料の熱分解温度より低温で堆積できるというものである。
【0015】
前記芳香族アニオン配位子には、例えば、シクロペンタジエニル配位子、置換シクロペンタジエニル配位子、インデニル配位子、置換インデニル配位子、ペンタレニル配位子、および置換ペンタレニル配位子などの五員環を含む芳香族配位子が挙げられる。これらのうち、シクロペンタジエニル配位子および置換シクロペンタジエニル配位子が好ましい。ここで、置換配位子とは、前記五員環を構成する水素原子の一部または全部が他の基で置換されたものを指す。前記他の基とは、炭素および水素以外の元素を含まない基が好ましく、合成のしやすさから、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、またはt-ブチル基であることが好ましい。置換配位子において、前記他の基はすべて同じでもよいし、異なっていてもよい。なかでも、金属錯体が常温で液体になりやすい、エチルシクロペンタジエニル配位子、ペンタメチルシクロペンタジエニル配位子、およびn-プロピルテトラメチルシクロペンタジエニル配位子が特に好ましい。
【0016】
本発明において、一つの金属原子に配位する芳香族アニオン配位子の数に制限はないが、芳香族アニオン配位子は嵩高いので、反応ガスと金属原子との相互作用を阻害しない点から、3個以下が好ましく、2個以下が特に好ましい。
【0017】
前記金属錯体は、芳香族アニオン配位子以外の配位子を持たない、すなわち、芳香族アニオン配位子のみが配位した構造であってもよいが、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限度において、芳香族アニオン以外の配位子を持っていてもよい。このような芳香族アニオン以外の配位子としては、メチル配位子などのアルキル配位子や、水素(ヒドリド配位子)が好ましく、メチル配位子が特に好ましい。
【0018】
一方、芳香族アニオン配位子を持つ金属錯体を形成する金属には、特に制限はないが、配位子成分の混入を避けるため、酸化され難いものが好ましく用いられる。つまり、0価の金属の状態で存在しやすく、基板上に安定的に存在できる金属であることが好ましい。具体的には、ルテニウム、コバルト、およびタングステンなど、水溶液中における水和イオンと単体金属との間の標準酸化還元電位が-1.1Vより大きい金属の錯体であることが好ましく、より好ましくは-0.3V以上、特に好ましくは、0.2V以上である。なお、複数の価数の水和イオンが存在する場合、そのうちの最も低い値を採用し、水和イオンが不安定なものは酸化物の電位で代用し、複数の価数の酸化物が存在する場合はそのうちの最も低い値を採用する。
【0019】
金属錯体の具体例は、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)(Ru(EtCp)2)、(2,4-ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)(Ru(DMPD)(EtCp))、ビス(エチルシクロペンタジエニル)コバルト(II)(Co(EtCp)2)およびビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)タングステン(IV)=ジヒドリド((iPrCp)2WH2)などが挙げられる。金属錯体中の金属原子と芳香族アニオン配位子との組み合わせは、該金属錯体の安定性や蒸気圧に応じて選択される。なお、金属錯体中、金属原子と芳香族アニオン配位子とは、通常、共有結合を形成している。また、本発明の効果を阻害しない限り、芳香族アニオン配位子以外の配位子を持っていても良いが、芳香族アニオン配位子以外の配位子を持たないことが好ましい。
【0020】
本発明の他態様となる金属薄膜の熱ALD法は、アルキル配位子を持つ金属錯体を、基板温度を金属錯体の分解温度よりも3℃以上低い温度とした反応室内に供給する工程1と、該反応室内に100~50,000Paの水素分圧をもつ水素含有ガスを供給する工程2とを含む。
【0021】
前記アルキル配位子は、陰イオン(アニオン)性配位子である、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、s-ブチルおよびt-ブチルなどが挙げられる。これらのアルキル配位子はALDプロセスに必要な金属錯体の安定性や蒸気圧に応じて選択することができる。
【0022】
前記金属錯体は、前記アルキル配位子を安定化させるため、アルキル以外の配位子を併せ持っていてもよい。このような配位子としては、非イオン性配位子が好ましく、ホスフィン配位子がより好ましい。ホスフィン配位子としては、トリメチルホスフィンおよびトリフェニルホスフィンなどが挙げられ、トリメチルホスフィンが特に好ましい。
【0023】
アルキル配位子を持つ金属錯体としては、通常は、水溶液中における水和イオンと単体金属との間の標準酸化還元電位が-2V以上となる金属の錯体が用いられるが、好ましくは標準酸化還元電位が-1.1V以上、より好ましくは0.2V以上、特に好ましくは、0.3V以上となる金属の錯体が用いられる。金属には、貴金属、具体的には、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムおよびオスミウムなどが用いられる。これらの貴金属のうち、特に金が好ましい。
【0024】
一般にALD法では、工程1と工程2とで、基板温度は同一にして行うのが通常である。また、工程1では、基板温度を原料が熱分解する温度よりも低くして原料を飽和吸着させる必要がある。基板温度は、反応室内での反応温度、すなわち、原料を基板上に吸着させる温度、および、原料と反応ガスとを反応させるときの基板の温度である。
【0025】
本発明においても、熱分解によらず、熱分解温度よりも低い温度で原料と反応ガスとを反応させて、芳香族アニオン配位子を揮発性の化合物に変換して脱離させる。本発明において熱分解温度とは、真空にした反応室内に置かれた基板上に吸着させた原料が、反応ガスが存在しなくても、自発的に分解する温度を指しており、具体的には、原料が基板に飽和吸着せずに、分解物が堆積し始める温度をいう。ただし実際は、真空室内で基板に吸着した原料が自然に分解する温度は、通常の熱重量分析(TG)で測定した熱分解温度とほぼ同じである。
【0026】
基板温度は、基板の温度均一性を考慮すると、この熱分解温度よりも一定程度以上低いことが必要で、3℃以上、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上低くする。
【0027】
前記金属錯体から芳香族アニオン配位子を脱離させて、金属膜を形成させるには、従来、還元性の反応ガスが用いられてきた。反応ガスとして、水素ガスや炭素系ガスやアンモニアなどの低分子量のアミン類などを用いた場合、芳香族アニオン配位子との反応に必要な活性化エネルギーを十分に下げられず、低温での反応が困難となるため、これらのガスにプラズマ処理をしてラジカル種を発生させるなどして活性化エネルギーを下げる必要があった。
【0028】
一方、特許文献2のように、還元性の反応ガスとして、求電子性のガスと求核性のガスとの混合ガスを用いれば、求核性のガスが金属錯体中の金属と相互作用を及ぼし、金属と芳香族アニオン配位子の結合エネルギーを弱めると同時に、芳香族アニオン配位子と求電子性のガスが反応して、非常に安定な化合物を生成して脱離する。しかしながら、求電子性のガスとして用いられるのはアンモニアなどの低分子量のアミン類であり、金属膜への窒素混入のおそれがある。
【0029】
本発明では、還元性の反応ガスとして、100~50,000Paの水素分圧をもつ水素含有ガスを使用することにより、求電子性のガスと求核性のガスとを混合して用いなくても、従来は熱分解温度より低い温度では脱離させられなかった芳香族アニオン配位子を熱分解温度より3℃以上低い温度で脱離させることができる。具体的にいうと、本発明の熱ALDを用いれば、求核性のガスの触媒効果によらず、芳香族アニオン配位子をその熱分解温度より3℃以上低い温度で脱離させることができる。
本発明によれば、求核性のガスの触媒効果によらず芳香族アニオン配位子を脱離させることができるため、煩雑な工程を必要とせず、結果として、汚染のおそれの少ない熱ALD成膜が可能となる。
【0030】
水素含有ガスは、水素ガス以外に、アルゴンガス、窒素ガスまたは二酸化炭素などの不活性ガスを混合したガスである。水素含有ガスは、水素ガスおよび不活性ガス以外の、還元性ガスや酸化性ガスを含まないことが好ましい。ただし、二酸化炭素は条件によっては高い反応性を示すことがあるので、水素含有ガスは、水素ガスと不活性ガスとの混合ガスでも、酸素原子を含まない混合ガスであることが特に好ましい。水素含有ガスの水素分圧は、100~50,000Paが好ましく、1,000~50,000Paがより好ましく、5,000~50,000Paが特に好ましい。
【実施例0031】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0032】
〔共通条件〕熱ALD法によるルテニウム膜の形成
ALD装置内に自然酸化膜付きシリコンウエハを設置し、前駆体としてビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)(Ru(EtCp)2)を用い、反応ガスとして、水素ガスを用いてALD成膜を行った。このとき、Ru(EtCp)2を外部で気化する温度は100℃とし、基板温度は350℃とした。Ru膜を得るために、Ru(EtCp)2と水素ガスを交互に供給して、ALD成膜を行った。水素ガスの供給量は、マスフローコントローラ(FCS-T1000Z;(株)フジキン製)を用いて制御した。水素ガス供給時の最大圧力は、隔膜圧力計(TRD-10-P13NC;大亜真空(株)製)を用いて測定した。
【0033】
前記したルテニウム膜の形成方法において、実施例1~3および比較例1に示す条件で、水素ガスの供給および成膜を行い、ルテニウム膜の膜厚を測定した。
[実施例1]
水素ガス供給時の最大圧力が8300Paとなるような条件で50サイクル成膜したRu膜の膜厚を、エリプソメトリー分光装置(FE-5000S;大塚電子(株)製)で測定した結果、平均13.6nmのRu膜が得られた。成膜サイクル数を変化させてRu膜の膜厚の変化を調べた結果、Ru膜が成膜されない時間(インキュベーションタイム)は存在しないことが確認できた。また、このRu膜をグロー放電発光分析装置(GD-Profiler2;(株)堀場製作所製)で元素分析した結果、Ruが有意に検出された。
【0034】
[実施例2]
水素ガス供給時の最大圧力が3600Paとなるような条件で50サイクル成膜したRu膜の膜厚を、エリプソメトリー分光装置(FE-5000S;大塚電子(株)製)で測定した結果、平均11.6nmのRu膜が得られた。また、このRu膜をグロー放電発光分析装置(GD-Profiler2;(株)堀場製作所製)で元素分析した結果、Ruが有意に検出された。
【0035】
[実施例3]
水素ガス供給時の最大圧力が110Paとなるような条件で50サイクル成膜したRu膜の膜厚を、エリプソメトリー分光装置(FE-5000S;大塚電子(株)製)で測定した結果、平均9.2nmのRu膜が得られた。また、このRu膜をグロー放電発光分析装置(GD-Profiler2;(株)堀場製作所製)で元素分析した結果、Ruが有意に検出された。
【0036】
[比較例1]
水素ガス供給時の最大圧力が30Paとなるような条件で50サイクル成膜したRu膜の膜厚を、エリプソメトリー分光装置(FE-5000S;大塚電子(株)製)で測定した結果、平均2.7nmのRu膜が得られた。また、このRu膜をグロー放電発光分析装置(GD-Profiler2;(株)堀場製作所製)で元素分析した結果、Ruが有意に検出されなかった。