(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148231
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】蒸発原料用容器および固体気化供給システム
(51)【国際特許分類】
C23C 16/448 20060101AFI20241010BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20241010BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C23C16/448
C23C16/455
H01L21/31 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061179
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000143411
【氏名又は名称】株式会社高純度化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】塚田 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】東 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 正秋
(72)【発明者】
【氏名】柴山 卓眞
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4K030AA02
4K030AA03
4K030AA11
4K030AA16
4K030BA01
4K030BA02
4K030BA05
4K030BA10
4K030BA18
4K030BA20
4K030BA22
4K030BA38
4K030BA42
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4K030BB12
4K030EA01
4K030HA01
5F045AA04
5F045AA15
5F045AC03
5F045AC11
5F045AC15
5F045AC16
5F045AC17
5F045EE02
5F045EE19
(57)【要約】
【課題】略一定の蒸発速度で安定的に蒸発原料の気化を継続する蒸発原料用容器を提供する。
【解決手段】
本発明にかかる蒸発原料用容器は、蒸発原料Sを貯留し蒸発させるための蒸発原料用容器100であって、外側容器2に収容されこの外側容器2とともに二重壁構造を形成する内側容器1と、内側容器1に対して着脱可能に設けられた内蓋3aおよび外側容器2に対して着脱可能に設けられた外蓋3bを有する蓋体3と、蓋体3に配設されたキャリアガス導入口14に連接されたガス導入管5と、を備える。そして、内側容器1にはその内部を上下2つの空間に仕切るための仕切壁13が設けられ、蒸発原料を蒸発させる際には、仕切壁13の平均表面温度が内側容器1の側壁1aの平均表面温度より50℃以上高いことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発原料を貯留し、蒸発させるための蒸発原料用容器であって、
外側容器に収容され当該外側容器とともに二重壁構造を形成する内側容器と、
前記内側容器に対して着脱可能に設けられた内蓋、および前記外側容器に対して着脱可能に設けられた外蓋、を有する蓋体と、
前記蓋体に配設されたキャリアガス導入口に連接されたガス導入管と、
を備え、
さらに、前記内側容器には、その内部を、当該内側容器の上壁を構成する内蓋側の蒸発原料貯留空間と前記内側容器の底部壁側のキャリアガス拡散空間との上下2つの空間に仕切るための仕切壁が設けられ、当該仕切壁の上面に蒸発原料を貯留し、
前記仕切壁には1つ以上の貫通孔が形成され、
前記ガス導入管の先端が、前記仕切壁を貫通し、前記内側容器の底部壁の直上の位置まで延伸する構造を有することとし、
前記キャリアガス導入口を介して供給されたキャリアガスを、前記ガス導入管の先端から前記キャリアガス拡散空間で放出し、前記キャリアガス拡散空間で拡散したキャリアガスを、前記貫通孔を介して前記蒸発原料貯留空間に放出し、加熱により前記蒸発原料貯留空間で蒸発した蒸発原料と前記蒸発原料貯留空間で拡散したキャリアガスとを混合させた混合ガスを、前記蓋体に配設された混合ガス導出口から放出し、
蒸発原料を蒸発させる際には、前記仕切壁の平均表面温度が、前記内側容器の側壁の平均表面温度より50℃以上高い、
ことを特徴とする蒸発原料用容器。
【請求項2】
前記内側容器を構成するすべての容器壁と蒸発原料との接触面積である第1の面積に対して、前記仕切壁と蒸発原料との接触面積である第2の面積を、80%以上とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の蒸発原料用容器。
【請求項3】
蒸発原料を加熱するための加熱ヒーターを前記外側容器の底面側外部に設置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の蒸発原料用容器。
【請求項4】
前記外側容器の内壁と前記内側容器の外壁との間にヒートシールドを設置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の蒸発原料用容器。
【請求項5】
前記外側容器の内壁と前記内側容器の外壁との間の空間を真空状態とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の蒸発原料用容器。
【請求項6】
前記外側容器の内壁または前記内側容器の外壁に同一長の複数の突起を設け、前記外側容器の内壁と前記内側容器の外壁との間に一定間隔の隙間を形成するとともに、「前記隙間の長さ」>「前記キャリアガス拡散空間の高さ方向の長さ」とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の蒸発原料用容器。
【請求項7】
蒸発原料を貯留し、蒸発させるための蒸発原料用容器であって、
外側容器に収容され当該外側容器とともに二重壁構造を形成する内側容器と、
前記内側容器に対して着脱可能に設けられた内蓋、および前記外側容器に対して着脱可能に設けられた外蓋、を有する蓋体と、
前記蓋体に配設されたキャリアガス導入口に連接されたガス導入管と、
を備え、
さらに、前記内側容器には、その内部を、当該内側容器の上壁を構成する内蓋側の蒸発原料貯留空間と前記内側容器の底部壁側のキャリアガス拡散空間との上下2つの空間に仕切るための仕切壁が設けられ、当該仕切壁の上面に蒸発原料を貯留し、
前記仕切壁には1つ以上の貫通孔が形成され、
前記ガス導入管の先端が、前記仕切壁を貫通し、前記内側容器の底部壁の直上の位置まで延伸する構造を有することとし、
前記キャリアガス導入口を介して供給されたキャリアガスを、前記ガス導入管の先端から前記キャリアガス拡散空間で放出し、前記キャリアガス拡散空間で拡散したキャリアガスを、前記貫通孔を介して前記蒸発原料貯留空間に放出し、加熱により前記蒸発原料貯留空間で蒸発した蒸発原料と前記蒸発原料貯留空間で拡散したキャリアガスとを混合させた混合ガスを、前記蓋体に配設された混合ガス導出口から放出し、
蒸発原料を蒸発させる際には、前記仕切壁からの伝熱による熱流量が、前記内側容器を構成するすべての容器壁からの伝熱による総熱流量に対して、80%以上である、
ことを特徴とする蒸発原料用容器。
【請求項8】
前記内側容器を構成するすべての容器壁と蒸発原料との接触面積である第1の面積に対して、前記仕切壁と蒸発原料との接触面積である第2の面積を、80%以上とする、
ことを特徴とする請求項7に記載の蒸発原料用容器。
【請求項9】
蒸発原料を加熱するための加熱ヒーターを前記外側容器の底面側外部に設置する、
ことを特徴とする請求項7に記載の蒸発原料用容器。
【請求項10】
前記外側容器の内壁と前記内側容器の外壁との間にヒートシールドを設置する、
ことを特徴とする請求項7に記載の蒸発原料用容器。
【請求項11】
前記外側容器の内壁と前記内側容器の外壁との間の空間を真空状態とする、
ことを特徴とする請求項7に記載の蒸発原料用容器。
【請求項12】
前記外側容器の内壁または前記内側容器の外壁に同一長の複数の突起を設け、前記外側容器の内壁と前記内側容器の外壁との間に一定間隔の隙間を形成するとともに、「前記隙間の長さ」>「前記キャリアガス拡散空間の高さ方向の長さ」とする、
ことを特徴とする請求項7に記載の蒸発原料用容器。
【請求項13】
前記内側容器、前記内蓋および前記ガス導入管は、気体および固体の状態の蒸発原料との接触部分を、当該蒸発原料を構成する金属と同じ金属材料であって、かつ純度が2N~6Nの金属材料、で構成する、
ことを特徴とする請求項1~12のいずれか1つに記載の蒸発原料用容器。
【請求項14】
さらに、
前記外側容器と前記外蓋とを固定するための締結部材、
を備え、
前記締結部材は、前記外側容器と前記外蓋に設けられたボルト挿入孔に挿入されたボルト部材、および当該ボルト部材に螺合して締結可能なナット部材、により構成される、
ことを特徴とする請求項13に記載の蒸発原料用容器。
【請求項15】
蒸発原料として薄膜形成用金属ハロゲン化合物を使用する場合、
前記薄膜形成用金属ハロゲン化合物が一般式:MXnで表すことができる化合物であり、
Mが前記薄膜形成用金属ハロゲン化合物を構成する金属の元素を示し、Xがハロゲン元素を示し、nがXの数を示す、
ことを特徴とする請求項13に記載の蒸発原料用容器。
【請求項16】
化学気相成長(CVD)法による成膜に用いられる蒸発原料を貯留する、
ことを特徴とする請求項13に記載の蒸発原料用容器。
【請求項17】
原子層堆積(ALD)法による成膜に用いられる蒸発原料を貯留する、
ことを特徴とする請求項13に記載の蒸発原料用容器。
【請求項18】
前記キャリアガス拡散空間で拡散したキャリアガスを加熱し、
加熱により蒸発した蒸発原料と加熱されたキャリアガスとを混合させ、混合ガスを生成する、
ことを特徴とする請求項13に記載の蒸発原料用容器。
【請求項19】
請求項1~12のいずれか1つに記載の蒸発原料用容器と、
蒸発原料と、
を備える、
ことを特徴とする固体気化供給システム。
【請求項20】
さらに、
キャリアガス導入口から前記蒸発原料用容器内にキャリアガスを供給するためのキャリアガス供給手段、
を備える、
ことを特徴とする請求項19に記載の固体気化供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐腐食性に優れた蒸発原料用容器、およびその蒸発原料用容器を用いた固体気化供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学気相成長(CVD)法による成膜方法では、蒸発による気化方法を用いた固体気化供給システムが従来から用いられてきた。このシステムでは、蒸発原料が充填された容器(蒸発原料用容器)の外面(側面、底面)を加熱することによって容器の内面が熱源となり、容器内面に接触する蒸発原料から気化が始まる。
【0003】
下記特許文献1には、充填された蒸発原料に対して熱を伝えることが可能な一般的な蒸発原料用容器として、たとえば、容器内の加熱表面積を増加させることによって、熱源となる内面と蒸発原料との接触面積を増加させた蒸発器が開示されている。具体的にいうと、この蒸発器は、加熱されたガス導入管に蒸発原料を接触させる構造や、蒸発器内に蒸発原料を充填した複数の内部容器(ホルダ)を積み重ねて配置することによって、蒸発原料の接触面積を増やす構造や、ホルダの底面にガス拡散用の貫通孔である管を設けることによって、加熱された管に蒸発原料を接触させる構造、等を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の蒸発器において、熱源であるホルダ(内部容器)の底面部分と蒸発原料との接触については、蒸発原料の気化に伴う自重による落下(自重落下)により継続するものの、もう一方の熱源であるホルダの側面部分、ガス導入管およびガス拡散用の管と、蒸発原料との接触については、蒸発原料の気化が進むと壁面と蒸発原料との距離が徐々に離れていき、これにより、伝熱効率が低下し、徐々に気化量が減少する。
【0006】
すなわち、上記特許文献1に記載の蒸発器においては、ホルダ底面が蒸発原料への主な加熱源となっており、時間の経過とともに、ホルダの側面部分、ガス導入管およびガス拡散用の管からの熱が蒸発原料に伝わりづらい状態となるため、気化量が徐々に減少傾向となる。そして、蒸発原料の気化が進み、蒸発速度の低下が顕著になると、蒸発した蒸発原料を使用して行う成膜工程において安定した成膜速度を確保することが困難となる。
【0007】
また、近年は、より蒸気圧の低い蒸発原料が薄膜形成に使用されることで、蒸発原料の気化が進むほど蒸発速度の低下が大きくなる傾向となっており、これに伴って、成膜速度が確保できないという問題が顕著に表れるようになってきた。一方で、半導体製品のさらなる高性能化が求められており、その結果として、膜の面内分布(膜厚、電気的特性)の均一性が望まれている。さらに、原子層堆積(ALD)法による成膜を行う場合、その膜には、原子レベルでの無欠陥や均一性が求められるため、成膜速度を極限まで一定にする必要がある。したがって、蒸発原料の蒸発速度の安定化に対する対策は、今後さらに重要となる。
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、略一定の蒸発速度で安定的に蒸発原料の気化を継続する蒸発原料用容器、およびその蒸発原料用容器を用いた固体気化供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる蒸発原料用容器は、蒸発原料を貯留し、蒸発させるための蒸発原料用容器であって、たとえば、外側容器に収容され当該外側容器とともに二重壁構造を形成する内側容器と、内側容器に対して着脱可能に設けられた内蓋および外側容器に対して着脱可能に設けられた外蓋を有する蓋体と、蓋体に配設されたキャリアガス導入口に連接されたガス導入管と、を備える。
【0010】
さらに、内側容器には、その内部を、この内側容器の上壁を構成する内蓋側の蒸発原料貯留空間と内側容器の底部壁側のキャリアガス拡散空間との上下2つの空間に仕切るための仕切壁が設けられ、この仕切壁の上面に蒸発原料を貯留する。また、仕切壁には1つ以上の貫通孔が形成され、ガス導入管の先端が、仕切壁を貫通し、内側容器の底部壁の直上の位置まで延伸する構造を有する。
【0011】
上記のように構成された本発明にかかる蒸発原料用容器は、キャリアガス導入口を介して供給されたキャリアガスを、ガス導入管の先端からキャリアガス拡散空間で放出し、キャリアガス拡散空間で拡散したキャリアガスを、貫通孔を介して蒸発原料貯留空間に放出し、加熱により蒸発原料貯留空間で蒸発した蒸発原料と蒸発原料貯留空間で拡散したキャリアガスとを混合させた混合ガスを、蓋体に配設された混合ガス導出口から放出し、蒸発原料を蒸発させる際には、仕切壁の平均表面温度が、内側容器の側壁の平均表面温度より50℃以上高いことを特徴とする。または、蒸発原料を蒸発させる際には、仕切壁からの伝熱による熱流量が、内側容器を構成するすべての容器壁からの伝熱による総熱流量に対して、80%以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明にかかる蒸発原料用容器によれば、仕切壁を蒸発原料に対する加熱源とし、気化に伴う自重落下により蒸発原料を継続的に仕切壁と接触させることによって、蒸発原料の蒸発速度を低下させることなく、略一定の蒸発速度で安定的に蒸発原料の気化を継続させることができる。
【0013】
さらに、本発明にかかる蒸発原料用容器は、内側容器を構成するすべての容器壁と蒸発原料との接触面積である第1の面積に対して、仕切壁と蒸発原料との接触面積である第2の面積を、80%以上とすることが好ましい。
【0014】
また、本発明にかかる蒸発原料用容器においては、蒸発原料を加熱するための加熱ヒーターを外側容器の底面側外部に設置するか、外側容器の内壁と内側容器の外壁との間にヒートシールドを設置するか、外側容器の内壁と内側容器の外壁との間の空間を真空状態とすることにより、仕切壁を蒸発原料に対する加熱源とすることとした。また、外側容器の内壁または内側容器の外壁に同一長の複数の突起を設け、外側容器の内壁と内側容器の外壁との間に一定間隔の隙間を形成するとともに、「隙間の長さ」>「キャリアガス拡散空間の高さ方向の長さ」とすることにより、仕切壁を蒸発原料に対する加熱源とすることとしてもよい。
【0015】
さらに、本発明にかかる蒸発原料用容器において、内側容器、内蓋およびガス導入管は、気体および固体の状態の蒸発原料との接触部分を、蒸発原料を構成する金属と同じ金属材料であって、かつ純度が2N~6Nの金属材料、で構成することが望ましい。これにより、優れた熱伝導性および耐腐食性が得られる。
【0016】
さらに、本発明にかかる蒸発原料用容器は、外側容器と外蓋とを固定するための締結部材を備え、締結部材は、外側容器と外蓋に設けられたボルト挿入孔に挿入されたボルト部材およびこのボルト部材に螺合して締結可能なナット部材により構成される。
【0017】
さらに、本発明にかかる蒸発原料用容器は、蒸発原料として薄膜形成用金属ハロゲン化合物を使用する場合、薄膜形成用金属ハロゲン化合物が一般式:MXnで表すことができる化合物であり、Mが薄膜形成用金属ハロゲン化合物を構成する金属の元素を示し、Xがハロゲン元素を示し、nがXの数を示すことを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明にかかる蒸発原料用容器は、化学気相成長(CVD)法による成膜に用いられる蒸発原料や、原子層堆積(ALD)法による成膜に用いられる蒸発原料、を貯留可能とする。
【0019】
さらに、本発明にかかる蒸発原料用容器は、キャリアガス拡散空間で拡散したキャリアガスを加熱し、加熱により蒸発した蒸発原料と加熱されたキャリアガスとを混合させ、混合ガスを生成する。
【0020】
また、本発明にかかる固体気化供給システムは、上述した蒸発原料用容器と、蒸発原料と、を備えることを特徴とする。さらに、キャリアガス導入口から蒸発原料用容器内にキャリアガスを供給するためのキャリアガス供給手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた熱伝導性および耐腐食性に加え、略一定の蒸発速度で安定的に蒸発原料の気化を継続する蒸発原料用容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明にかかる蒸発原料用容器の第1の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、仕切壁の構造の一例を示す平面図である。
【
図3】
図3は、本発明にかかる蒸発原料用容器の第2の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明にかかる蒸発原料用容器の第3の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明にかかる蒸発原料用容器の第4の実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明にかかる蒸発原料用容器および固体気化供給システムの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。すなわち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良などが加えられたものも本発明の範囲に属する。また、本願の明細書および図面において、同様に説明することが可能な要素については、同一の符号を付すことにより重複説明を省略する場合がある。
【0024】
<第1の実施形態>
本発明にかかる蒸発原料用容器および固体気化供給システムの第1の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0025】
<全体構成>
図1は、本発明にかかる蒸発原料用容器の第1の実施形態を模式的に示す断面図であり、詳細には、キャリアガスG1、蒸発した蒸発原料G2(たとえば、蒸発した薄膜形成用金属ハロゲン化合物G2)、および混合ガスG3のガスの流れを説明するための図である。
【0026】
図1に示す蒸発原料用容器100は、蒸発原料Sを貯留し、蒸発させるための容器であり、たとえば、内側容器1と、外側容器2と、内蓋3aおよび外蓋3bを有する蓋体3と、締結部材4と、ガス導入管5とを備える。この蒸発原料用容器100は、
図1に示すように、内側容器1および外側容器2によって構成された二重壁構造を有し、蒸発原料Sを貯留する内側容器1が実質的な容器本体を形成する。また、本実施形態においては、蒸発原料用容器100の底面側外部(外側容器2の底面側外部)に加熱ヒーター6を設置し、蒸発原料用容器100を底面側外部から加熱することによって、蒸発原料Sを蒸発(気化)させる。
【0027】
本実施形態の蒸発原料用容器100において、内側容器1は、たとえば、円筒形状に形成された容器であり、蒸発原料Sや、キャリアガスG1、蒸発により気化した蒸発原料G2(以後、単に蒸発原料G2と呼ぶ)および混合ガスG3、と接触する容器壁として機能する側壁1aおよび底部壁1bが形成されている。また、内側容器1には、内部を蒸発原料貯留空間11とキャリアガス拡散空間12との上下2つの空間に仕切るための円板状の仕切壁13(仕切壁13も容器壁の一部として機能する)が設けられている。この蒸発原料貯留空間11は、仕切壁13の上面と内側容器1の上壁を構成する内蓋3aとの間に形成された空間であり、本実施形態では、この仕切壁13の上面、すなわち、内側容器1の蒸発原料貯留空間11に蒸発原料Sを貯留する。また、キャリアガス拡散空間12は、仕切壁13の下面と内側容器1の底部壁1bとの間に形成された空間である。
【0028】
さらに、本実施形態の蒸発原料用容器100においては、
図1に示すように、蓋体3の中心部に設けられたキャリアガス導入口14に連設されたガス導入管5の先端が、仕切壁13の中心部を貫通し、内側容器1の底部壁1bの直上の位置まで延伸する構造を有する。すなわち、ガス導入管5の先端は、内側容器1の底部壁1bには当接していない。これにより、外部から供給されたキャリアガスG1が、ガス導入管5内を流れ、その先端からキャリアガス拡散空間12で放出、拡散される。
【0029】
仕切壁13には、キャリアガス拡散空間12において拡散されたキャリアガスG1を蒸発原料貯留空間11に供給するための1つ以上の貫通孔15が形成されている。
図2は、仕切壁13の構造の一例を示す平面図である。すなわち、キャリアガス拡散空間12内で拡散したキャリアガスG1は、これらの貫通孔15を通り抜けて、蒸発原料貯留空間11に放出される(底吹き法)。そして、内側容器1の蒸発原料貯留空間11内で蒸発して気体となった蒸発原料G2と蒸発原料貯留空間11内で拡散したキャリアガスG1とを混合させた混合ガスG3が、混合ガス導出口16から放出される。
【0030】
また、仕切壁13は、たとえば、
図2に示すように、複数の貫通孔15が形成されたシャワーヘッド構造を有することが好ましい。シャワーヘッド構造とは、複数の貫通孔15がキャリアガスG1の噴出孔となり、シャワー状のガス流動を実現する構造である。
【0031】
また、仕切壁13に形成される複数の貫通孔15の配置については、特に制限はなく、たとえば、
図2に示すように、均等に貫通孔15を配置することとしてもよい。また、図示は省略するが、複数の貫通孔15の配置については、たとえば、仕切壁13を周回するように複数の貫通孔15を形成し、複数の貫通孔15の軌跡が渦巻きを描くようにしてもよい。
【0032】
また、仕切壁13は、たとえば、多孔質体で構成することとしてもよい。この場合、仕切壁13には、
図2に示すような貫通孔15を形成する必要はない。多孔質体により、キャリアガス拡散空間12に流入したキャリアガスG1が蒸発原料貯留空間11に放出され、拡散される。そして、蒸発原料貯留空間11内において、キャリアガスG1、蒸発原料G2、および混合ガスG3のガス流動が行われる。また、多孔質体はフィルタの機能を有するため、キャリアガス拡散空間12内で発生したパーティクルをここで捕集除去することができる。本実施形態の仕切壁13で使用可能な多孔質体としては、たとえば、セラミックが挙げられる。
【0033】
また、ガス導入管5を上記のように構成することによって、蒸発原料用容器100(外側容器2)を底面側外部から加熱した際に、キャリアガス拡散空間12に拡散されたキャリアガスG1についても同時に加熱することができ、この加熱されたキャリアガスG1を仕切壁13の貫通孔15を介して蒸発原料貯留空間11に放出することができる。このため、蒸発原料Sに対して、加熱されたキャリアガスG1を接触させることができ、蒸発原料Sを安定的かつ高流量で気化させることができる。
【0034】
なお、仕切壁13については、内側容器1の一部を構成するものであり、たとえば、内側容器1と一体化した構造であってもよいし、また、必要に応じて内側容器1から取り外し可能な構造であってもよい。また、取り外し可能な構造とした場合における仕切壁13の取り付け位置については、特に限定するものではなく、たとえば、内側容器1の内部で係止され固定できる構造であれば、適宜調整可能とする。
【0035】
また、本実施形態の蒸発原料用容器100において、外側容器2は、内側容器1と同様の円筒形状に形成されかつ内側容器1よりも一回り大きく形成された容器である。そして本実施形態においては、外側容器2の内部に内側容器1を収容することにより、上記二重壁構造の容器を形成する。また、外側容器2は、その上端部に、外蓋3bと密着可能に形成された環状の鍔部2aが設けられている。なお、これら2つの容器(1,2)の形状については、キャリアガスG1、蒸発原料G2および混合ガスG3のガス拡散を容易にする形状であればよく、円筒形状に限定するものではない。
【0036】
また、本実施形態の蒸発原料用容器100において、内蓋3aは、内側容器1の上端部周縁に対し密着かつ着脱可能に設けられ、また、外蓋3bは、外側容器2に対して着脱可能にかつ内蓋3aに対して密着可能に設けられ、これら2つの蓋により蓋体3を形成する。そして、この蓋体3には、内側容器1内にキャリアガスG1を供給するためのキャリアガス導入口14、および蒸発原料G2とキャリアガスG1とを混合させた混合ガスG3を外部に放出するための混合ガス導出口16、が配設される。本実施形態では、一例として、キャリアガス導入口14を、円盤状に形成された蓋体3(内蓋3a、外蓋3b)の中心部に貫通可能に設けることとし、さらに、混合ガス導出口16を、蓋体3の中心部以外の場所に貫通可能に設けることとした。これにより、本実施形態では、外部から供給されたキャリアガスG1が、キャリアガス導入口14に連設されたガス導入管5を通って内側容器1内のキャリアガス拡散空間12に流入し、仕切壁13に形成された貫通孔15を介して内側容器1内の蒸発原料貯留空間11で拡散する。そして、蒸発原料貯留空間11で蒸発して気体となった蒸発原料G2と蒸発原料貯留空間11で拡散したキャリアガスG1とを混合させた混合ガスG3が、混合ガス導出口16から放出される。
【0037】
また、本実施形態の蒸発原料用容器100において、締結部材4は、外側容器2と外蓋3bとを固定するための部材であり、たとえば、外側容器2の鍔部2aと外蓋3bに設けられたボルト挿入孔に挿入されたボルト部材、およびこのボルト部材に螺合して締結可能なナット部材、により構成される。
【0038】
また、本実施形態において、加熱ヒーター6は、
図1に示すように、外側容器2の底部に沿って、蒸発原料用容器100(外側容器2)の底面側外部に設置される。蒸発原料用容器100を底面側外部から加熱することにより、内側容器1の底部壁1bとキャリアガス拡散空間12とを介して仕切壁13が加熱源となって、仕切壁13に接触する蒸発原料Sを蒸発(気化)させる。そして、蒸発原料Sを蒸発させる際には、仕切壁13の平均表面温度が、内側容器1の側壁1aの平均表面温度より50℃以上高くなるように、加熱ヒーター6を制御する。仕切壁13の平均表面温度と内側容器1の側壁1aの平均表面温度との温度差が50℃未満の場合は、内側容器1の側壁1aが加熱源となり、内側容器1の側壁1aに接触する蒸発原料Sの蒸発が促進されるため好ましくない。
【0039】
前述したように、一般的には、容器を底面側および側面側から加熱して蒸発原料Sを蒸発させる気化方法が採用されているが、このような気化方法では、一方の加熱源である底面部分と接触する蒸発原料Sについては気化に伴う自重落下により気化が安定的に継続するものの、もう一方の加熱源である側面部分と接触する蒸発原料Sについては、気化が進むにつれて壁面との距離が離れていき、徐々に気化量が減少する。すなわち、気化が進むと、時間の経過とともに蒸発原料Sの蒸発速度が低下する。
【0040】
一方、本実施形態においては、加熱ヒーター6を、外側容器2の底部に沿って蒸発原料用容器100の底面側外部に設置し、内側容器1の仕切壁13のみを蒸発原料Sの加熱源とするように構成した。仕切壁13を蒸発原料Sに対する加熱源とすることによって、気化に伴う自重落下により蒸発原料Sを継続的に仕切壁13と接触させる。これにより、本実施形態の蒸発原料用容器100は、蒸発原料Sの蒸発速度を低下させることなく、すなわち、常時一定の気化量を保持しつつ、蒸発原料Sの気化を継続させることができる。そして、蒸発原料用容器100により一定の気化量が保持されることによって、成膜工程において安定した成膜速度を確保することができ、さらに、膜の面内分布(膜厚、電気的特性)の均一性を実現することもできる。
【0041】
なお、本実施形態の蒸発原料用容器100は、蓋体3に設けられたキャリアガス導入口14とそのキャリアガス導入口14へ向けてキャリアガスG1を流すためのガス配管(図示せず)とを接続するための継手部材(図示せず)、および同じく蓋体3に設けられた混合ガス導出口16とその混合ガス導出口16から放出される混合ガスG3を流すためのガス配管(図示せず)とを接続するための継手部材(図示せず)、をさらに設けることとしてもよい。
【0042】
また、本実施形態においては、内側容器1の側壁1aに接触する蒸発原料Sの蒸発をさらに抑制する観点から、内側容器1を構成するすべての容器壁と蒸発原料Sとの接触面積である第1の面積(総接触面積)に対して、仕切壁13と蒸発原料Sとの接触面積である第2の面積を、80%以上とすることが好ましい。
【0043】
また、本実施形態においては、蒸発原料Sを蒸発させる際に、仕切壁13の平均表面温度が内側容器1の側壁1aの平均表面温度より50℃以上高くなるように、加熱ヒーター6を制御することとしたが、これに限るものではなく、たとえば、蒸発原料Sを蒸発させる際に、内側容器1の仕切壁13からの伝熱による熱流量が、内側容器1を構成するすべての容器壁からの伝熱による総熱流量に対して、80%以上となるように、加熱ヒーター6を制御することとしてもよい。総熱流量に対する仕切壁13からの伝熱による熱流量の割合が80%未満の場合は、内側容器1の側壁1aに接触する蒸発原料Sの蒸発が促進されるため好ましくない。
【0044】
<各部材の材料>
本実施形態の蒸発原料用容器100においては、内側容器1の容器壁およびガス導入管5が、蒸発原料Sを構成する金属と同じ金属材料であって、かつ、たとえば、純度99~99.9999%(2N~6N)の銅、純度99~99.9999%(2N~6N)のアルミニウム、または純度99~99.9999%(2N~6N)のチタンなどの高純度の金属材料、で構成されている。これにより、熱伝導性に優れた容器が得られる。なお、「純度」とは、定量分析により決定した主成分の試料中に占める割合(重量比)のことを意味する。たとえば、内側容器1の容器壁およびガス導入管5を構成する銅、アルミニウムまたはチタンの純度が99%未満であると、これらの部材の熱伝導性が低下する点において好ましくない。また、内側容器1の容器壁およびガス導入管5を構成する銅、アルミニウムまたはチタンの純度が99.9999%を超えると、これらの部材の強度が低下する点において好ましくない。
【0045】
なお、内側容器1の容器壁には、側壁1a、底部壁1b、仕切壁13、および内側容器1の上壁を構成する蓋体3の蒸気接触面(内蓋3aの蒸気接触面に相当)を含む。すなわち、蒸発原料Sが蒸発原料用容器100内に投入された際に、蒸発原料G2が接触する内側容器1内の壁部は、すべて容器壁である。
【0046】
たとえば、蒸発原料が塩化アルミニウムの場合、内側容器1内においては、塩化アルミニウムが水分と反応して塩酸などの酸化ガスが発生する。しかしながら、内側容器1の容器壁およびガス導入管5に純度99.9%のアルミニウムを使用すると、たとえば、この塩酸ガスにより内側容器1内で腐食が発生した場合であっても、アルミニウムが溶出することになり、キャリアガスG1と塩化アルミニウムの蒸発ガスG2とを混合させた混合ガスG3が、アルミニウム以外の元素によって汚染されることはない。
【0047】
なお、内側容器1の容器壁以外の部分(内蓋3aの蒸気接触面以外の部分を含む)の材料は、特に制限はないが、製造上の観点から、上記同様の金属材料で構成されることが好ましい。
【0048】
また、外側容器2、外蓋3bおよび締結部材4の材料としては、特に制限はないが、製造上および使用上(ハンドリングや運搬において、内側容器1および外側容器2を含めた容器全体を、保持および保護する強度が必要となる。)の観点から、たとえば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル合金、アルミニウム合金、スーパーステンレス、ステンレス鋼などを使用することが好ましい。これらのうち、アルミニウム、銅、チタンは、その純度が99%以上であることが好ましく、純度99~99.9999%であることがさらに好ましい。ニッケル合金としては、たとえば、ハステロイやインコネルなどを使用することができ、このハステロイおよびインコネルは、Ni、Moを含む合金のことである。アルミニウム合金としては、たとえば、アルミニウム-銅系合金およびアルミニウム-マグネシウム合金を使用することができるが、これらの合金に限定されるものではない。
【0049】
ハステロイは、その組成については適宜決定することができるが、具体的には、Niが40~60質量%、Moが30~50質量%である。
【0050】
また、インコネルについても、その組成については適宜決定することができるが、具体的には、Niが20~50質量%、Moが70~50質量%である。
【0051】
また、スーパーステンレスは、Niを17.00~19.50質量%、Crを19.00~21.00質量%、Moを5.50~6.50質量%、Nを0.16~0.24質量%、Cuを0.50~1.00質量%含み、さらに、Cが0.020質量%以下、Siが0.80質量%以下、Mnが1.00質量%以下、Pが0.030質量%以下、Sが0.015質量%以下の、耐腐食性を高めたステンレス鋼である。
【0052】
<キャリアガスおよび蒸発原料>
また、本実施形態の蒸発原料用容器100においては、キャリアガスG1として、たとえば、水素、ヘリウム、窒素、酸素、アルゴン、一酸化炭素、二酸化炭素などを使用する。具体的には、ヘリウム、アルゴンを使用することが好ましい。ただし、蒸発原料との反応の影響がない範囲であれば、水素、窒素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の使用が許容される。
【0053】
また、より反応性の高い蒸発原料として、たとえば、薄膜形成用金属ハロゲン化合物を使用する場合、蒸発原料Sは、下記一般式で表すことができる化合物であることが好ましい。
【0054】
一般式 : MXn
ただし、上記一般式において、Mは、Al、Cu、Ti、Hf、Zr、Ta、Wのいずれかの元素を示す。Xは、ハロゲン元素を示す。nは、Xの数である。
【0055】
上記一般式で表すことができる化合物としては、たとえば、Xが塩素(Cl)である場合、塩化アルミニウム(AlCl3)、塩化銅(CuClまたはCuCl2)、塩化チタン(TiCl3)、塩化ハフニウム(HfCl4)、塩化ジルコニウム(ZrCl4)、塩化タンタル(TaCl5)、五塩化タングステン(WCl5)、六塩化タングステン(WCl6)を挙げることができる。
【0056】
本実施形態の蒸発原料用容器100は、上記一般式で表すことができる化合物のように腐食性が強い蒸発原料であっても、良好に保存することができ、蒸発原料に存在する不純物の割合を非常に小さくすることができる。また、蒸発原料用容器100は、容器内の蒸発原料を気体(G2)または固体(S)のいずれかの状態で保持する。
【0057】
また、本実施形態の蒸発原料用容器100は、化学気相成長(CVD)法、有機金属化学気相成長(MOCVD)法、原子層堆積(ALD)法による成膜に用いられる蒸発原料を溜めておくための容器として使用することができ、たとえば、原子層堆積(ALD)法による成膜に用いられる蒸発原料を溜めておくための容器として使用することが好ましい。具体的には、原子層堆積(ALD)法は、化学気相成長(CVD)法によって形成される膜よりも薄い膜を形成することが可能な方法であり、数nm程度の非常に薄い膜を成膜することができる。しかしながら、その反面、膜の精度が蒸発原料に含まれる不純物による影響を受けやすい。そこで、本実施形態では、蒸発原料用容器100を用いることによって、蒸発原料に含まれる不純物を極微量とする。
【0058】
<蒸発原料用容器の製造方法>
本実施形態の蒸発原料用容器100は、たとえば、以下のように製造する。まず、公知の方法で、素材をくりぬくこと、またはロール状の加工物を溶接することによって、鍔部2aを有する外側容器2を作製する。つぎに、容器本体を構成する内側容器1を作製する。この内側容器1は、蒸発原料Sを構成する金属と同じ金属材料であって、かつ、たとえば、純度99~99.9999%の銅、純度99~99.9999%のアルミニウム、または純度99~99.9999%のチタンなどの高純度の金属材料で構成する。そして、外側容器2の内部に内側容器1を収容することにより二重壁構造の容器を作製する。つぎに、蓋体3を作製する。具体的には、内側容器1に対して着脱可能とする内蓋3aと、外側容器2に対して着脱可能とする外蓋3bとを作製する。なお、少なくとも内側容器1の上壁を構成する内蓋3aの蒸気接触面は、内側容器1と同様に、蒸発原料Sを構成する金属と同じ金属材料であって、かつ、たとえば、純度99~99.9999%の銅、純度99~99.9999%のアルミニウム、または純度99~99.9999%のチタンなどの高純度の金属材料で構成する。また、外側容器2の鍔部2aおよび外蓋3bには、締結部材4を螺合するためのボルト挿入孔を形成し、このボルト挿入孔に適合した締結部材4(ボルト部材およびナット部材)を用意する。そして、蓋体3に配設されたキャリアガス導入口14に連設するガス導入管5と、蓋体3に配設されたキャリアガス導入口14および混合ガス導出口16に接続する各種の継手部材(図示せず)と、を用意する。また、ガス導入管5についても、内側容器1と同様に、蒸発原料Sを構成する金属と同じ金属材料であって、かつ、たとえば、純度99~99.9999%の銅、純度99~99.9999%のアルミニウム、または純度99~99.9999%のチタンなどの高純度の金属材料で構成する。このようにして、蒸発原料用容器100を構成するための各部材を得る(準備工程)。
【0059】
その後、準備工程により得た各部材を組み立てて蒸発原料用容器100を作製する(組み立て工程)。なお、本実施形態の蒸発原料用容器100を製造する方法については、上記方法に限定されるものではない。
【0060】
<蒸発原料用容器の使用方法>
本実施形態においては、まず、蒸発原料用容器100のキャリアガス導入口14を、継手部材などを介してキャリアガスタンク(図示せず)と連結し、さらに、混合ガス導出口16を、継手部材などを介して半導体処理設備(図示せず)に連結する。
【0061】
つぎに、蒸発原料用容器100の内側容器1(仕切壁13上)に、蒸発原料Sを投入し、その後、蓋体3(内蓋3a、外蓋3b)で内側容器1を閉じ、外側容器2の鍔部2aと外蓋3bとを締結部材4で固定することにより内側容器1を密閉する。そして、加熱ヒーター6を、外側容器2の底部に沿って、蒸発原料用容器100の底面側外部に設置する。
【0062】
つぎに、加熱ヒーター6を使用して底面側外部から蒸発原料用容器100(外側容器2)を加熱するとともに、キャリアガスタンク(図示せず)からキャリアガスG1を蒸発原料用容器100の内側容器1内に供給する。詳細には、キャリアガスG1が、ガス導入管5内を流れ、その先端からキャリアガス拡散空間12で放出、拡散され、さらに、キャリアガス拡散空間12内で拡散したキャリアガスG1が、仕切壁13の貫通孔15を通り抜けて、蒸発原料貯留空間11に放出される。これにより、加熱源である仕切壁13と接触する蒸発原料Sは、気化に伴う自重落下により略一定の蒸発速度で安定的に気化を継続することができ、蒸発原料貯留空間11で気化した蒸発原料G2と蒸発原料貯留空間11で拡散されたキャリアガスG1とを混合させた混合ガスG3が、混合ガス導出口16から放出される。なお、蒸発原料Sは、加熱によって蒸発(気化)して原料ガスとなる。
【0063】
その後、半導体処理設備(図示せず)において、化学気相成長(CVD)法、有機金属化学気相成長(MOCVD)法、または原子層堆積(ALD)法による成膜が行われる。この半導体処理設備は、成膜対象である基板が配置される設備(たとえば、CVD装置の反応室)であり、この半導体処理設備内に配置された基板上に所望の薄膜を形成する。
【0064】
これにより、本実施形態の蒸発原料用容器100は、蒸発原料中における容器由来の不純物の割合を非常に小さくすることができ、伴って、高純度の混合ガスG3を半導体処理設備(図示せず)に供給することができる。また、本実施形態の蒸発原料用容器100は、上述したとおり、略一定の蒸発速度で安定的に蒸発原料の気化を継続することができるため、すなわち、一定の気化量を保持することができるため、成膜工程において安定した成膜速度を確保することができ、さらには、膜の面内分布(膜厚、電気的特性)の均一性を実現することもできる。
【0065】
このように、本実施形態の蒸発原料用容器100は、CVD,ALD,MOCVDなどの気相としてガス化させる用途の容器であり、たとえば、半導体処理設備に混合ガスG3を供給するための圧力容器として用いられる。
【0066】
<固体気化供給システム>
つづいて、本実施形態の蒸発原料用容器100を用いた固体気化供給システムについて説明する。本実施形態の固体気化供給システムは、上述した蒸発原料用容器100と、内側容器1内に貯留する蒸発原料Sと、を備えたものである。なお、この固体気化供給システムは、内側容器1内にキャリアガスG1を供給するためのキャリアガス供給手段(図示せず)をさらに備えていてもよい。
【0067】
本実施形態の固体気化供給システムにおいては、キャリアガス導入口14から供給されたキャリアガスG1が蒸発原料用容器100内に流入し、蒸発原料用容器100の底面側外部からの加熱により蒸発原料用容器100内で蒸発した蒸発原料G2とキャリアガスG1とを混合させた混合ガスG3を、混合ガス導出口16から放出する。これにより、本実施形態の固体気化供給システムにおいては、より高純度の蒸発原料を略一定の蒸発速度で半導体処理設備(図示せず)に供給することができる。
【0068】
具体的には、本実施形態の固体気化供給システムは、以下のように構成されていることが好ましい。まず、蒸発原料用容器100の内側容器1内(仕切壁13上)に、蒸発原料Sを投入する。つぎに、蒸発原料用容器100を底面側外部から加熱することによって、仕切壁13を加熱源として蒸発原料Sを加熱するとともに、ガス導入管5を通って流入するキャリアガスG1を内側容器1内に放出し、拡散する。そして、加熱により内側容器1内で蒸発した蒸発原料G2と内側容器1内で拡散されたキャリアガスG1とを混合させ、混合ガスG3を生成する。これにより、気化に伴う蒸発原料Sの仕切壁13への自重落下により略一定の蒸発速度で安定的に気化を継続させることができるため、すなわち、一定の気化量を保持することができるため、成膜工程において安定した成膜速度を確保することができ、さらには、膜の面内分布(膜厚、電気的特性)の均一性を実現することもできる。
【0069】
<第2の実施形態>
つづいて、本発明にかかる蒸発原料用容器および固体気化供給システムの第2の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、前述した第1の実施形態と同様に説明することが可能な要素については、同一の符号を付すことにより重複説明を省略する。
【0070】
<全体構成>
図3は、本発明にかかる蒸発原料用容器の第2の実施形態を模式的に示す断面図であり、詳細には、キャリアガスG1、蒸発原料G2および混合ガスG3のガスの流れを示す図である。本実施形態においては、前述した第1の実施形態と同様に加熱ヒーター6を外側容器2の底面側外部に設置するとともに、さらに、外側容器2の側面を包囲するように加熱ヒーター21を設置する場合を想定する。
【0071】
図3に示す蒸発原料用容器200は、蒸発原料Sを貯留しかつ蒸発させるための容器であり、たとえば、二重壁構造を形成する2つの容器である内側容器1および外側容器2と、内蓋3aおよび外蓋3bを有する蓋体3と、外側容器2と外蓋3bとを固定するための締結部材4と、外部から供給されたキャリアガスG1を内側容器1内に放出するためのガス導入管5と、を備える。さらに、蒸発原料用容器200は、外側容器2の側面側(加熱ヒーター21)からの加熱による蒸発原料Sの蒸発を抑制するために、すなわち、加熱ヒーター21から蒸発原料Sへの熱流量を抑制するために、外側容器2の内壁と内側容器1の外壁との間にヒートシールド22を設置する。そして、蒸発原料Sを蒸発させる際には、ヒートシールド22の作用および加熱ヒーターの制御により、仕切壁13の平均表面温度を、内側容器1の側壁1aの平均表面温度より50℃以上高くする。なお、外側容器2の内壁と内側容器1の外壁との間にヒートシールド22を設置した点以外の構成は、前述した第1の実施形態の蒸発原料用容器100と同様である。
【0072】
また、蒸発原料用容器200において用いる各部材の材料、キャリアガスおよび蒸発原料については、前述した第1の実施形態の蒸発原料用容器100と同様に説明することが可能であるため、重複した説明を省略する。
【0073】
また、蒸発原料用容器200の製造方法については、外側容器2の内部に内側容器1を収容する際に、外側容器2の内壁と内側容器1の外壁との間にヒートシールド22を設置すること以外は、前述した第1の実施形態(蒸発原料用容器100の製造方法)と同様である。
【0074】
<蒸発原料用容器の使用方法>
本実施形態においては、第1の実施形態と同様に、まず、蒸発原料用容器200のキャリアガス導入口14を、継手部材などを介してキャリアガスタンク(図示せず)と連結し、さらに、混合ガス導出口16を、継手部材などを介して半導体処理設備(図示せず)に連結する。
【0075】
つぎに、蒸発原料用容器200の内側容器1(仕切壁13上)に、蒸発原料Sを投入し、その後、蓋体3(内蓋3a、外蓋3b)で内側容器1を閉じ、外側容器2の鍔部2aと外蓋3bとを締結部材4で固定することにより内側容器1を密閉する。そして、加熱ヒーター6を蒸発原料用容器200の底面側外部に設置するとともに、外側容器2の側面を包囲するように加熱ヒーター21を設置する。
【0076】
つぎに、加熱ヒーター6および加熱ヒーター21を使用して外部から蒸発原料用容器200(外側容器2)を加熱するとともに、キャリアガスタンク(図示せず)からキャリアガスG1を蒸発原料用容器200の内側容器1内に供給する。詳細には、キャリアガスG1が、ガス導入管5内を流れ、その先端からキャリアガス拡散空間12で放出、拡散され、さらに、キャリアガス拡散空間12内で拡散したキャリアガスG1が、仕切壁13の貫通孔15を通り抜けて、蒸発原料貯留空間11に放出される。この際、蒸発原料用容器200は、ヒートシールド22の作用により、加熱ヒーター21から蒸発原料Sへの熱流量が抑制されるため、加熱ヒーター21からの加熱による蒸発原料Sの蒸発を抑制することができる。すなわち、内側容器1の側壁1aが蒸発原料Sの加熱源になることを回避することができる。これにより、加熱源である仕切壁13と接触する蒸発原料Sは、気化に伴う自重落下により略一定の蒸発速度で安定的に気化を継続することができ、蒸発原料貯留空間11で気化した蒸発原料G2と蒸発原料貯留空間11で拡散されたキャリアガスG1とを混合させた混合ガスG3が、混合ガス導出口16から放出される。
【0077】
その他の蒸発原料用容器200の使用方法については、前述した第1の実施形態(蒸発原料用容器100の使用方法)と同様である。
【0078】
なお、本実施形態の蒸発原料用容器200を用いた固体気化供給システムは、加熱ヒーター6および加熱ヒーター21を使用して外部から蒸発原料用容器200(外側容器2)を加熱すること、およびヒートシールド22の作用によって加熱ヒーター21からの加熱による蒸発原料Sの蒸発を抑制すること、を除き、前述した第1の実施形態の固体気化供給システムと同様である。
【0079】
<第3の実施形態>
つづいて、本発明にかかる蒸発原料用容器および固体気化供給システムの第3の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、前述した第1の実施形態と同様に説明することが可能な要素については、同一の符号を付すことにより重複説明を省略する。
【0080】
<全体構成>
図4は、本発明にかかる蒸発原料用容器の第3の実施形態を模式的に示す断面図であり、詳細には、キャリアガスG1、蒸発原料G2および混合ガスG3のガスの流れを示す図である。本実施形態においても、前述した第2の実施形態と同様に、加熱ヒーター6を外側容器2の底面側外部に設置するとともに、さらに、外側容器2の側面を包囲するように加熱ヒーター21を設置する。
【0081】
図4に示す蒸発原料用容器300は、蒸発原料Sを貯留しかつ蒸発させるための容器であり、たとえば、二重壁構造を形成する2つの容器である内側容器1および外側容器2と、内蓋3aおよび外蓋3bを有する蓋体3と、外側容器2と外蓋3bとを固定するための締結部材4と、外部から供給されたキャリアガスG1を内側容器1内に放出するためのガス導入管5と、を備える。このように構成さる蒸発原料用容器300は、蒸発原料Sを加熱する際に、外側容器2の内壁と内側容器1の外壁との間の空間31を真空状態にする。これにより、外側容器2の側面を包囲するように設置された加熱ヒーター21から蒸発材料Sへの熱流量を抑制することができる。そして、蒸発原料Sを蒸発させる際には、仕切壁13の平均表面温度を、真空状態とした空間31の作用および加熱ヒーターの制御により、内側容器1の側壁1aの平均表面温度より50℃以上高くする。なお、外側容器2と内側容器1との間の空間31を真空状態にした点以外の構成は、前述した第1の実施形態の蒸発原料用容器100と同様である。
【0082】
また、蒸発原料用容器300において用いる各部材の材料、キャリアガスおよび蒸発原料については、前述した第1の実施形態の蒸発原料用容器100と同様に説明することが可能であるため、重複した説明を省略する。
【0083】
<蒸発原料用容器の製造方法>
蒸発原料用容器300の製造方法については、外側容器2と内側容器1との間の空間31を真空にすること以外は、前述した第1の実施形態(蒸発原料用容器100の製造方法)と同様である。
【0084】
なお、空間31を真空にする方法は、一例として、二重壁構造の蒸発原料用容器300(外側容器2)の底面または側面に真空形成用の穴部2bを形成し、蒸発原料用容器300を真空のチャンバー内に収容し、真空状態の中で穴部を埋める方法、が採用可能である。穴部を埋める材料については、特に限定はしないが、耐熱性に優れかつ外側容器2と同等の強度を有する材料であることが望ましい。
【0085】
<蒸発原料用容器の使用方法>
本実施形態においては、第1の実施形態と同様に、まず、蒸発原料用容器300のキャリアガス導入口14を、継手部材などを介してキャリアガスタンク(図示せず)と連結し、さらに、混合ガス導出口16を、継手部材などを介して半導体処理設備(図示せず)に連結する。
【0086】
つぎに、蒸発原料用容器300の内側容器1(仕切壁13上)に、蒸発原料Sを投入し、その後、蓋体3(内蓋3a、外蓋3b)で内側容器1を閉じ、外側容器2の鍔部2aと外蓋3bとを締結部材4で固定することにより内側容器1を密閉するとともに、外側容器2と内側容器1との間の空間31を真空にする。そして、加熱ヒーター6を蒸発原料用容器300の底面側外部に設置し、さらに、外側容器2の側面を包囲するように加熱ヒーター21を設置する。
【0087】
つぎに、加熱ヒーター6および加熱ヒーター21を使用して外部から蒸発原料用容器300(外側容器2)を加熱するとともに、キャリアガスタンク(図示せず)からキャリアガスG1を蒸発原料用容器300の内側容器1内に供給する。詳細には、キャリアガスG1が、ガス導入管5内を流れ、その先端からキャリアガス拡散空間12で放出、拡散され、さらに、キャリアガス拡散空間12内で拡散したキャリアガスG1が、仕切壁13の貫通孔15を通り抜けて、蒸発原料貯留空間11に放出される。この際、蒸発原料用容器300は、真空状態に形成された外側容器2と内側容器1との間の空間31の作用により、加熱ヒーター21から蒸発原料Sへの熱流量が抑制されるため、加熱ヒーター21からの加熱による蒸発原料Sの蒸発を抑制することができる。すなわち、内側容器1の側壁1aが蒸発原料Sの加熱源になることを回避することができる。これにより、加熱源である仕切壁13と接触する蒸発原料Sは、気化に伴う自重落下により略一定の蒸発速度で安定的に気化を継続することができ、蒸発原料貯留空間11で気化した蒸発原料G2と蒸発原料貯留空間11で拡散されたキャリアガスG1とを混合させた混合ガスG3が、混合ガス導出口16から放出される。
【0088】
その他の蒸発原料用容器300の使用方法については、前述した第1の実施形態(蒸発原料用容器100の使用方法)と同様である。
【0089】
なお、本実施形態の蒸発原料用容器300を用いた固体気化供給システムは、加熱ヒーター6および加熱ヒーター21を使用して外部から蒸発原料用容器300(外側容器2)を加熱すること、および真空状態に形成された外側容器2と内側容器1との間の空間31の作用によって加熱ヒーター21からの加熱による蒸発原料Sの蒸発を抑制すること、を除き、前述した第1の実施形態の固体気化供給システムと同様である。
【0090】
<第4の実施形態>
つづいて、本発明にかかる蒸発原料用容器および固体気化供給システムの第4の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、前述した第1の実施形態と同様に説明することが可能な要素については、同一の符号を付すことにより重複説明を省略する。
【0091】
<全体構成>
図5は、本発明にかかる蒸発原料用容器の第4の実施形態を模式的に示す断面図であり、詳細には、キャリアガスG1、蒸発原料G2および混合ガスG3のガスの流れを示す図である。本実施形態においても、前述した第2の実施形態および第3の実施形態と同様に、加熱ヒーター6を外側容器2の底面側外部に設置するとともに、さらに、外側容器2の側面を包囲するように加熱ヒーター21を設置する。
【0092】
図5に示す蒸発原料用容器400は、蒸発原料Sを貯留しかつ蒸発させるための容器であり、たとえば、二重壁構造を形成する2つの容器である内側容器1および外側容器2と、内蓋3aおよび外蓋3bを有する蓋体3と、外側容器2と外蓋3bとを固定するための締結部材4と、外部から供給されたキャリアガスG1を内側容器1内に放出するためのガス導入管5と、を備える。さらに、蒸発原料用容器400は、外側容器2の内壁または内側容器1の外壁に同じ長さLの複数の突起41を設ける。具体的にいうと、突起41は、内側容器1の外壁と外側容器2の内壁との間隔が全周に渡り長さLを保つように配置される。すなわち、外側容器2の内壁と内側容器1の外壁との間に一定間隔の隙間を形成する。
図5は、一例として、突起41を外側容器2の内壁に設けた場合を想定する。そして、この突起41は、蒸発原料Sを蒸発させる際に、仕切壁13の平均表面温度が内側容器1の側壁1aの平均表面温度より50℃以上高くなるように、その長さL(内側容器1の外壁と外側容器2の内壁との間隔)を、キャリアガス拡散空間12の高さ方向の長さHよりも長くなるように設ける(L>H)。また、突起41の材料は、製造上の観点から、内側容器1または外側容器2と同質の材料を用いることが好ましい。突起41は、内側容器1または外側容器2と接合するからである。これにより、外側容器2の側面を包囲するように設置された加熱ヒーター21から蒸発材料Sへの熱流量を抑制する。なお、外側容器2の内壁または内側容器1の外壁に突起41を設けた点以外は、前述した第1の実施形態の蒸発原料用容器100と同様である。
【0093】
また、蒸発原料用容器400において用いる突起41以外の各部材の材料、キャリアガスおよび蒸発原料については、前述した第1の実施形態の蒸発原料用容器100と同様に説明することが可能であるため、重複した説明を省略する。
【0094】
また、蒸発原料用容器400の製造方法については、外側容器2の内壁または内側容器1の外壁に突起41を設けること以外は、前述した第1の実施形態(蒸発原料用容器100の製造方法)と同様である。
【0095】
<蒸発原料用容器の使用方法>
本実施形態においては、まず、蒸発原料用容器400のキャリアガス導入口14を、継手部材などを介してキャリアガスタンク(図示せず)と連結し、さらに、混合ガス導出口16を、継手部材などを介して半導体処理設備(図示せず)に連結する。
【0096】
つぎに、蒸発原料用容器400の内側容器1(仕切壁13上)に、蒸発原料Sを投入し、その後、蓋体3(内蓋3a、外蓋3b)で内側容器1を閉じ、外側容器2の鍔部2aと外蓋3bとを締結部材4で固定することにより内側容器1を密閉する。そして、加熱ヒーター6を蒸発原料用容器400の底面側外部に設置するとともに、外側容器2の側面を包囲するように加熱ヒーター21を設置する。
【0097】
つぎに、加熱ヒーター6および加熱ヒーター21を使用して外部から蒸発原料用容器400(外側容器2)を加熱するとともに、キャリアガスタンク(図示せず)からキャリアガスG1を蒸発原料用容器400の内側容器1内に供給する。詳細には、キャリアガスG1が、ガス導入管5内を流れ、その先端からキャリアガス拡散空間12で放出、拡散され、さらに、キャリアガス拡散空間12内で拡散したキャリアガスG1が、仕切壁13の貫通孔15を通り抜けて、蒸発原料貯留空間11に放出される。この際、蒸発原料用容器400は、突起41の長さLとキャリアガス拡散空間12の高さ方向の長さHとの差(L>H)より、加熱ヒーター21から蒸発原料Sへの熱流量が抑制されるため、加熱ヒーター21からの加熱による蒸発原料Sの蒸発を抑制することができる。すなわち、内側容器1の側壁1aが蒸発原料Sの加熱源になることを回避することができる。これにより、加熱源である仕切壁13と接触する蒸発原料Sは、気化に伴う自重落下により略一定の蒸発速度で安定的に気化を継続することができ、蒸発原料貯留空間11で気化した蒸発原料G2と蒸発原料貯留空間11で拡散されたキャリアガスG1とを混合させた混合ガスG3が、混合ガス導出口16から放出される。
【0098】
その他の蒸発原料用容器400の使用方法については、前述した第1の実施形態(蒸発原料用容器100の使用方法)と同様である。
【0099】
なお、本実施形態の蒸発原料用容器400を用いた固体気化供給システムは、加熱ヒーター6および加熱ヒーター21を使用して外部から蒸発原料用容器400(外側容器2)を加熱すること、および外側容器2の内壁または内側容器1の外壁に突起41を設けることによって加熱ヒーター21からの加熱による蒸発原料Sの蒸発を抑制すること、を除き、前述した第1の実施形態の固体気化供給システムと同様である。
【0100】
<第1~第4の実施形態>
なお、上述した第1~第4の実施形態の蒸発原料用容器(100~400)においては、気体および固体の状態の蒸発原料Sとの接触部分を、蒸発原料Sを構成する金属と同じ金属材料であって、かつ、純度99~99.9999%(2N~6N)の金属材料で構成することとしたが、熱伝導性と強度の観点から、上記接触部分を、蒸発原料Sを構成する金属と同じ金属材料であって、かつ、純度99.99~99.999%(4N~5N)の金属材料で構成することがより好ましい。
【実施例0101】
以下、本発明にかかる蒸発原料用容器を実施例および比較例によって、さらに具体的に説明する。なお。本発明はこれに限定されるものではない。
【0102】
<実施例1~24>
実施例1~24においては、内側容器1、外側容器2、蓋体3、締結部材4、ガス導入管5およびこの容器を構成するその他の部材(継手部材(図示せず)を含む)を備えた蒸発原料用容器100~400を作製した。具体的にいうと、実施例1~6では、表1に示す「材質」および「純度(%)」の材料によって構成された「容器壁およびガス導入管」(表の「内側容器壁」に相当)を有する蒸発原料用容器100を作製した。また、実施例7~12では、表2に示す「材質」および「純度(%)」の材料によって構成された「容器壁およびガス導入管」を有する蒸発原料用容器200を作製した。また、実施例13~18では、表3に示す「材質」および「純度(%)」の材料によって構成された「容器壁およびガス導入管」を有する蒸発原料用容器300を作製した。また、実施例19~24では、表4に示す「材質」および「純度(%)」の材料によって構成された「容器壁およびガス導入管」を有する蒸発原料用容器400を作製した。
【0103】
<比較例1~11>
一方、比較例1~6においては、表5に示す条件で蒸発原料用容器を作製した。具体的には、「容器壁およびガス導入管」を、表5に示す「材質」および「純度(%)」の材料によって作製した。なお、比較例において作成した蒸発原料用容器の構造は、蒸発原料用容器100と同様とした。すなわち、実施例1~6とは「容器壁およびガス導入管」の材料のみが異なる。
【0104】
そして、各実施例および各比較例においては、それぞれ、混合ガス導出口の下流側に、CV値(水置換)が1.5のバルブを設置し、このバルブを介して混合ガスG3の供給を行った。
【0105】
<実施例の方法>
実施例1~24の蒸発原料用容器および比較例1~6の蒸発原料用容器に、表1~表5の「蒸発原料」の欄に示す薄膜形成用金属ハロゲン化合物Sを投入し、内側容器内にキャリアガスG1を供給して、蒸発した薄膜形成用金属ハロゲン化合物G2とキャリアガスG1とを混合させた混合ガスG3を生成した。具体的には、3kgの薄膜形成用金属ハロゲン化合物Sを20h加熱し、蒸発(気化)させた。
【0106】
なお、実施例1~24の蒸発原料用容器については、薄膜形成用金属ハロゲン化合物Sを蒸発させる際、仕切壁の平均表面温度が、内側容器の側壁の平均表面温度より50℃~60℃高くなるように、加熱ヒーターを制御した。一方、比較例1~6は、平均表面温度が平均表面温度より35℃~45℃高くなるように加熱ヒーターを制御した。
【0107】
そして、生成した混合ガスG3を用いて、原子層堆積(ALD)法による成膜を行い、その際、マスフローメーターを使用して蒸発速度(g/min)を測定した。蒸発速度の測定は、蒸発の初期(加熱開始から1h後)、中期(加熱開始から10h後)および末期(加熱開始から18h後)において実施した。
【0108】
<その他の実施例>
つぎに、本発明にかかる蒸発原料用容器をその他の実施例によって、さらに具体的に説明する。
【0109】
<実施例25~30>
実施例25~30においては、上述した実施例1~6と同一の蒸発原料用容器100(表6に示す「材質」および「純度(%)」の材料によって構成された「容器壁およびガス導入管」を有する蒸発原料用容器100)を作製し、混合ガス導出口の下流側に、CV値(水置換)が1.5のバルブを設置し、このバルブを介して混合ガスG3の供給を行った。
【0110】
<実施例の方法>
実施例25~30の蒸発原料用容器に、表6の「蒸発原料」の欄に示す薄膜形成用金属ハロゲン化合物Sを投入し、内側容器内にキャリアガスG1を供給して、蒸発した薄膜形成用金属ハロゲン化合物G2とキャリアガスG1とを混合させた混合ガスG3を生成した。具体的には、3kgの薄膜形成用金属ハロゲン化合物Sを20h加熱し、蒸発(気化)させた。
【0111】
なお、実施例25~30の蒸発原料用容器については、薄膜形成用金属ハロゲン化合物Sを蒸発させる際、内側容器の仕切壁からの伝熱による熱流量が、内側容器を構成するすべての容器壁からの伝熱による総熱流量に対して、80%~90%以上となるように、加熱ヒーターを制御した。
【0112】
そして、生成した混合ガスG3を用いて、原子層堆積(ALD)法による成膜を行い、その際、マスフローメーターを使用して蒸発速度(g/min)を測定した。蒸発速度の測定は、蒸発の初期(加熱開始から1h後)、中期(加熱開始から10h後)および末期(加熱開始から18h後)において実施した。
【0113】
つぎに、「容器壁およびガス導入管」を表7に示す「材質」および「純度(%)」の材料により作製した蒸発原料用容器100(実施例31~46)と、「容器壁およびガス導入管」を表8に示すステンレスにより作製した蒸発原料用容器(比較例7~16:「内側容器壁」の材料以外は蒸発原料用容器100と同じ)とを使用して、原子層堆積(ALD)法によりALD膜を成膜後の、「蒸発原料中の不純物の量」、「内部表面粗さ」および「成長速度」を評価した。
【0114】
表7、表8は、原子層堆積(ALD)法によりALD膜を成膜後の、「蒸発原料中の不純物の量」、「内部表面粗さ」および「成長速度」を示したものである。
【0115】
成膜後の蒸発原料中の不純物(表7、表8に示す12成種の元素)の量はICPMS(誘導結合プラズマ質量分析計)によって測定した。なお、表7の「成膜前」の欄において、成膜前の蒸発原料中の不純物(表7、表8に示す12成種の元素)の量を記載している。
【0116】
不純物の量の測定は、以下の方法によって行った。まず、成膜後に、内側容器内に残った蒸発原料Sの残留物を回収した。つぎに、回収物を、ICPMS(誘導結合高周波プラズマ質量分析法)の装置にて王水を用いて所定量を溶解させ、これをホットプレートで120℃に加熱して蒸発乾固させた。その後、蒸発乾固されたものを希釈し、測定試料を得た。そして、上記分析計にて測定試料中の金属不純物を測定した。
【0117】
また、上記成膜前後において、内側容器の内表面の表面粗さを、AFM(原子間力顕微鏡)アナライザー(HORIBA社製)によって測定した。この表面粗さは、複数回測定してその平均値を算出した。成膜前の表面粗さをBとし、成膜後の表面粗さをAとして、AをBで除算した値(A/B)を算出した。算出した「A/B」の値を、表7および表8の「内部表面粗さ」の欄に示す。
【0118】
また、原子層堆積(ALD)法による成膜において、成長速度(GPC:Growth Per Cycle)の測定を行った。具体的には、上述した成膜時において、0.2秒当たりに1回の割合でバルブを開閉して、蒸発原料を含む混合ガスG3を成膜室に導入する。1回のバルブの開閉が行われる0.2秒を1サイクルとし、8インチのシリコンウェーハに成膜した膜厚を測定し、単位時間(1サイクル)当たりの膜の成長速度を算出した。
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
<評価>
表1~表5に示すように、実施例1~24の蒸発原料用容器(100、200、300、400)は、比較例1~6の蒸発原料用容器と比べて、蒸発原料の蒸発期間の末期において蒸発速度の低下が少ないという結果が得られた。また、表6に示すように、実施例25~30の蒸発原料用容器100についても、実施例1~24の蒸発原料用容器と同程度に、蒸発原料の蒸発期間の末期において蒸発速度の低下が少ないという結果が得られた。
【0128】
また、表7、表8の結果から分かるように、実施例31~46の蒸発原料用容器は、比較例7~16の蒸発原料用容器と比べて、不純物の量が少ないことが分かった。また、実施例31~46の蒸発原料用容器は、「内部表面粗さ」の「A/B」の値が1に近い値となり、成膜前後における表面粗さの差が小さいことが分かった。ここで、この表面粗さの差が小さいということは、蒸発原料による腐食の程度が少なかったことを表しており、耐腐食性が高いといえる。このような結果から、実施例31~46の蒸発原料用容器は、耐腐食性に優れたものであるといえる。加えて、実施例31~46の蒸発原料用容器は、成長速度が速いという結果も得られた。