(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148240
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】塗り床材組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20241010BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061196
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000232542
【氏名又は名称】日本特殊塗料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】東出 真吾
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DG051
4J038DG111
4J038DG131
4J038DG272
4J038KA06
4J038KA08
4J038NA03
4J038NA27
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】塗り床材における耐候性や塗膜の黄変という欠点を解決し、なおかつ石油など化石由来資源である樹脂の使用を削減することにより、環境問題の解決を図る。
【解決手段】水分散ポリオールには、バイオマスポリオールを含み、PDI(ペンタメチレンジイソシアネート・ペンタメチレンジイソシアネートのポリイソシアネート)には、乾燥重量当たりのバイオマス度55%以上のPDIを含む、水系ポリウレタン樹脂系塗り床材組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散ポリオールと、PDI(ペンタメチレンジイソシアネート・ペンタメチレンジイソシアネートのポリイソシアネート)からなる水系ポリウレタン樹脂系塗り床材組成物であって
水分散ポリオールには、バイオマスポリオールを含み、
PDIには、乾燥重量当たりのバイオマス度55%以上のPDIを含むことを特徴とする
塗り床材組成物。
【請求項2】
水分散ポリオールと、PDIからなる水系ポリウレタン樹脂系塗り床材組成物であって
水分散ポリオールには、バイオマスポリオールを含み、総ポリオール樹脂中のバイオマス度を20%以上とし、
PDIは、バイオマス度55%以上のPDIを重合反応して生成するポリウレタン樹脂中の乾燥重量当たりのバイオマス度が35%以上であることを特徴とする
塗り床材組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗り床材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
屋内、屋外を問わず、塗料の塗装により床部に塗膜を形成する所謂塗り床材は、広く使用されている。樹脂系としては、硬度の高い塗膜を形成することができるエポキシ樹脂系、あるいは、塗装の汎用性が高く、耐久性のある塗膜を形成することができるポリウレタン樹脂系などを挙げることができる。
溶剤系樹脂と比較すると、より環境に配慮された水系樹脂の方が取り扱い性に優れ、臭気も低いなどの利点が挙げられる。しかし、水系ポリウレタン樹脂系塗り床材でも、クルードMDI(4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート)を使用したものは、耐候性に課題があり、塗膜が黄変するという欠点がある。
【0003】
また、環境問題への意識の高まりから、近年では化石資源由来の樹脂原料から、動植物等のバイオマス由来の樹脂原料に置き換えた塗料製品が注目されている。例えば特許文献1には、溶融押出ラミネート用アンカーコート剤として、ポリオール樹脂にバイオマスポリオール組成物を含むコート剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水系ポリウレタン樹脂系塗り床材に内在する欠点を改善し、なおかつ環境問題への意識の高まりにこたえる塗り床材が求められている。
【0006】
そこで本発明は、水系ポリウレタン樹脂系塗り床材であって、耐候性に優れ、なおかつ塗膜の黄変が発生しない塗り床材を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
<1>
水分散ポリオールと、PDI(ペンタメチレンジイソシアネート・ペンタメチレンジイソシアネートのポリイソシアネート)からなる水系ポリウレタン樹脂系塗り床材組成物であって
水分散ポリオールには、バイオマスポリオールを含み、
PDIには、乾燥重量当たりのバイオマス度55%以上のPDIを含むことを特徴とする
塗り床材組成物。
<2>
水分散ポリオールと、PDIからなる水系ポリウレタン樹脂系塗り床材組成物であって
水分散ポリオールには、バイオマスポリオールを含み、総ポリオール樹脂中のバイオマス度を20%以上とし、
PDIは、バイオマス度55%以上のPDIを重合反応して生成するポリウレタン樹脂中の乾燥重量当たりのバイオマス度が35%以上であることを特徴とする
塗り床材組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明による水系ポリウレタン樹脂系塗り床材組成物は、耐候性に優れるため、屋内屋外を問わず使用することが可能である。また、塗装塗膜が黄変しないため、長期間に渡り塗装された床の美観を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る塗り床材組成物について説明する。以下の実施形態における各構成及びそれらの組み合わせは例であり、本発明は実施形態によって限定されることはない。
本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0011】
<溶媒>
本発明の水系ポリウレタン樹脂系塗り床材組成物は、水を溶媒とする。水の配合割合は、本発明の塗り床材組成物の混合分散性、塗装作業性、乾燥成膜性、白セメント比率などを勘案して任意に調整される。
【0012】
<ポリオール>
ポリオールは、ポリエーテルポリオール、ポリマーポリオール、ポリエステルポリオールを使用することができる。本発明においては、使用するポリオールのうち、バイオマス度20%以上のバイオマスポリオールを含むことを必須とする。
【0013】
バイオマスポリオールというのは、生成原料が化石原料由来ではなく、動植物由来の原料からなるポリオールのことである。本発明の塗り床材に配合するバイオマスポリオールは、ポリオール全量に対して任意の割合での置き換えが可能である。即ち、全量をバイオマスポリオールとすることも可能である。本発明に使用するバイオマスポリオールは、従来塗り床材に使用されているポリオールと比較して、水酸基価、分子量において、同程度である場合には、バイオマスポリオールを塗り床材に使用した場合において、その物性に与える影響は小さいものである。
【0014】
<イソシアネート>
本発明の塗り床材はイソシアネートとして、PDI(ペンタメチレンジイソシアネート・ペンタメチレンジイソシアネートのポリイソシアネート)のうち、バイオマス度55%以上のバイオマスPDIを使用することができる。バイオマスPDIは、イソシアネート全量に対して任意の割合での置き換えが可能である。即ち、全量をバイオマスPDIとすることも可能である。バイオマスPDI以外のイソシアネートとしては、従来公知のイソシアネートを併用することが可能であるが、塗装塗膜の黄変という不具合を回避するためには、各種の石油由来の従来公知のイソシアネートの中では、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)の併用が好ましい。
【0015】
バイオマスポリオール、バイオマスPDIは、両方とも従来の化石原料由来の原料ではなく、動植物由来の原料からできている樹脂である。植物由来の原料としては、トウゴマ(ひまし油)、トウモロコシ、サトウキビ、甜菜、ソルガム、カシューナッツ、大豆、アブラヤシ等由来の糖やデンプンを原料として、発酵などにより異なる物質に転移させ、モノマーを合成した後、重合反応によりポリマーとしている。
【0016】
<その他配合物>
本発明の塗り床材には、以上の配合物の他、増粘剤、チキソトロピー付与剤、消泡剤、分散剤、紫外線吸収剤、防錆剤、防カビ剤等、その他従来公知の塗り床材に使用されている添加剤を、必要に応じて本発明による効果を阻害しない範囲で添加することが可能である。
【0017】
本発明の塗り床材は、必要に応じて着色顔料、染料等を添加することにより、塗膜を着色することも可能とする。着色顔料、染料等の着色剤は、粉体によっても、あるいはペースト状によるものであっても使用可能である。
【0018】
本発明の塗り床材は、従来公知の塗料製造方法、製造工程により製造することが可能である。高速羽根型撹拌機、オープン又は加圧ニーダー、ロールミル、グレンミル、その他塗料製造設備の使用が可能である。
【0019】
本発明の塗り床材は、従来公知の塗装方法により、塗装することが可能である。即ち、刷毛塗り、ローラー塗装、流し塗り塗装、鏝塗り塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装等各種現場塗装機による塗装が適用できる。
【実施例0020】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。
【0021】
以下の表1に示す通り、実施例~比較例3の配合物になる塗り床材を作製し、モルタル製板にコテ塗りにより塗装し、各塗装試験板を23℃で48時間養生した。各塗装試験板のそれぞれの乾燥塗装膜厚は1.5~2mmであった。また粉体や顔料の比率を増加させることにより、10mm程度の塗膜を形成することができる。
〔表1〕(表中の数値は質量部)
【0022】
〔耐黄変性〕
色相の変化が判別しやすい淡彩色で塗装した各試験板を、キセノンランプ式促進耐候性試験機に入れ、240時間経過後、色差計によりΔbを測定し、Δb値により耐黄変性を評価した。Δb値が1.5以下であれば〇、10.0を越えていれば×とした。
【0023】
〔耐衝撃性〕
各塗装試験板を、日本塗り床工業会編著 塗り床ハンドブックの「塗り床の衝撃強さ試験方法(NNK-002 2020)」に規定される衝撃試験を実施した。おもりを5回落下させた後の塗膜表面を目視にて観察し、塗膜表面にひび割れ、浮き、はがれ、その他の異常が認められれば×とし、塗膜表面に異常が無ければ〇とした。
【0024】
〔塗膜外観〕
各塗装試験板の塗装後23℃で48時間養生後の、乾燥塗膜表面を目視にて観察した。平滑で均一な表面であれば〇、フクレなどの顕著な発泡跡などの凹凸などの異常が表面に認められれば×とした。
【0025】
〔結果〕
実施例~比較例3の試験結果によれば、本発明になる塗り床材は、ウレタン架橋成分樹脂中のバイオマス度が45%と高く、化石原料由来の従来塗り床材と比較して、環境問題に対して優れた塗り床材である。更には、従来の水系ポリウレタン樹脂系塗り床材の問題点とされていた、塗膜の耐黄変性、塗膜外観、塗膜の耐衝撃性について大きく改善された塗り床材を実現したものである。
【0026】
〔その他の実施形態〕
上述の実施形態は本発明の例示であって、本願発明はこれらの例に限定されず、これらの例に周知技術や慣用技術、公知技術を組み合わせたり、一部置き換えたりしてもよい。また当業者であれば容易に思いつく改変発明も本願発明に含まれる。