(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148254
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】半導体増幅回路
(51)【国際特許分類】
H03F 3/68 20060101AFI20241010BHJP
H03F 3/60 20060101ALI20241010BHJP
H03F 3/195 20060101ALI20241010BHJP
H03F 1/56 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
H03F3/68
H03F3/60
H03F3/195
H03F1/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061231
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】大矢 章雄
【テーマコード(参考)】
5J067
5J500
【Fターム(参考)】
5J067AA04
5J067AA21
5J067CA62
5J067CA75
5J067CA92
5J067FA12
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5J067FA16
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5J067HA09
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5J067HA29
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5J067KA16
5J067KA29
5J067KS03
5J067KS11
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5J067QA03
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5J500AH25
5J500AH29
5J500AH33
5J500AK16
5J500AK29
5J500AM19
5J500AQ03
5J500AT03
5J500CK03
5J500CK07
5J500WU08
(57)【要約】
【課題】広帯域な回路の小型化を図る。
【解決手段】半導体増幅回路1は、回路基板2と、基準線AXを挟んで並んで配置された第1のトランジスタ5Aおよび第2のトランジスタ5Bを含む前段増幅器5と、前段増幅器5の出力端子から離れて配置された後段増幅器7と、前段増幅器5から出力された増幅信号を後段増幅器7に向けて伝搬させる段間整合回路6と、を備え、段間整合回路6は、位相調整ライン15と整合回路18とを有し、位相調整ライン15の第1の端部は、前段増幅器5の出力端子に接続され、位相調整ライン15の第2の端部は、端子21に接続され、整合回路18の入力端子は、端子21に接続され、整合回路18の出力端子は、後段増幅器7の入力端子に接続され、位相調整ライン15の第1の端部及び第2の端部は、基準線AX上に配置され、位相調整ライン15は、基準線AXを基準にして線対称な形状を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板と、
前記回路基板上において第1の基準線を挟んで並んで配置された第1のトランジスタおよび第2のトランジスタを含み、入力信号を増幅して前記第1の基準線上の出力端子から増幅信号を出力する前段増幅器と、
前記回路基板上において前記前段増幅器の出力端子から離れて配置され、前記出力端子から出力された前記増幅信号をさらに増幅する後段増幅器と、
前記回路基板上に形成され、前記前段増幅器の前記出力端子から出力された前記増幅信号を前記後段増幅器に向けて伝搬させる段間回路と、を備え、
前記段間回路は、
位相調整ラインと、
内部端子と、
前記前段増幅器と前記後段増幅器とのインピーダンスの整合を行う整合回路と、を有し、
前記位相調整ラインの第1の端部は、前記出力端子に接続され、前記位相調整ラインの前記第1の端部の反対側の第2の端部は、前記内部端子に接続され、
前記整合回路の入力端子は、前記内部端子に接続され、前記整合回路の出力端子は、前記後段増幅器の入力端子に接続され、
前記第1の端部と、前記第2の端部とは、前記第1の基準線上に配置され、
前記位相調整ラインは、前記第1の基準線を基準にして線対称な形状を有する、
半導体増幅回路。
【請求項2】
前記位相調整ラインは、リング形状を有する、
請求項1に記載の半導体増幅回路。
【請求項3】
前記位相調整ラインは、
前記第1の基準線に沿って形成された第1のラインと、
前記第1のラインから前記第1の基準線から離れる二つの方向に分岐して形成された第2のラインおよび第3のラインと、
を有する、
請求項1または請求項2に記載の半導体増幅回路。
【請求項4】
前記第2のラインおよび前記第3のラインは、前記第1のラインの幅の半分の幅を有するように形成されている、
請求項3に記載の半導体増幅回路。
【請求項5】
前記第2のラインおよび前記第3のラインは、前記第1の基準線に垂直な方向に分岐するように形成されている、
請求項3に記載の半導体増幅回路。
【請求項6】
前記第2のラインおよび前記第3のラインは、前記第1の基準線に垂直な線に対して線対称な形状を有するように形成されている、
請求項3に記載の半導体増幅回路。
【請求項7】
前記第2のラインおよび前記第3のラインは、前記第1の基準線に関して線対称な矩形状をなすように形成されている、
請求項6に記載の半導体増幅回路。
【請求項8】
前記回路基板上に、前記前段増幅器、前記後段増幅器、及び前記段間回路を含む回路部が複数並列に配置されている、
請求項1または請求項2に記載の半導体増幅回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体増幅回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2段のトランジスタを含む増幅回路が記載されている。この増幅回路には、前段のトランジスタと後段のトランジスタの間でインピーダンス整合を行うための電力分配器が含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の増幅回路では、広帯域な信号増幅を実現する回路の小型化を図ることが困難な傾向にあった。
【0005】
本開示は、広帯域な回路の小型化を図ることが可能な半導体増幅回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一側面に係る半導体増幅回路は、回路基板と、回路基板上において第1の基準線を挟んで並んで配置された第1のトランジスタおよび第2のトランジスタを含み、入力信号を増幅して第1の基準線上の出力端子から増幅信号を出力する前段増幅器と、回路基板上において前段増幅器の出力端子から離れて配置され、出力端子から出力された増幅信号をさらに増幅する後段増幅器と、回路基板上に形成され、前段増幅器の出力端子から出力された増幅信号を後段増幅器に向けて伝搬させる段間回路と、を備え、段間回路は、位相調整ラインと、内部端子と、前段増幅器と後段増幅器とのインピーダンスの整合を行う整合回路と、を有し、位相調整ラインの第1の端部は、出力端子に接続され、位相調整ラインの第1の端部の反対側の第2の端部は、内部端子に接続され、整合回路の入力端子は、内部端子に接続され、整合回路の出力端子は、後段増幅器の入力端子に接続され、第1の端部と、第2の端部とは、第1の基準線上に配置され、位相調整ラインは、第1の基準線を基準にして線対称な形状を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、広帯域な回路の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る半導体増幅回路1の構成を示す平面図である。
【
図2】
図2は、
図1の増幅回路部3の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、
図1の増幅回路部3の詳細な回路構成を示す回路図である。
【
図4】
図4は、回路基板2上の位相調整ライン15の構成を示す平面図である。
【
図5】
図5は、出力パワー(P5dB)の周波数特性のシミュレーション計算の結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、電力付加効率(PAE)の周波数特性のシミュレーション計算の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、第1の比較例に係る増幅回路部903Aの構成を示す回路図である。
【
図8】
図8は、第2の比較例に係る増幅回路部903Bの構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の第1側面に係る半導体増幅回路は、回路基板と、回路基板上において第1の基準線を挟んで並んで配置された第1のトランジスタおよび第2のトランジスタを含み、入力信号を増幅して第1の基準線上の出力端子から増幅信号を出力する前段増幅器と、回路基板上において前段増幅器の出力端子から離れて配置され、出力端子から出力された増幅信号をさらに増幅する後段増幅器と、回路基板上に形成され、前段増幅器の出力端子から出力された増幅信号を後段増幅器に向けて伝搬させる段間回路と、を備え、段間回路は、位相調整ラインと、内部端子と、前段増幅器と後段増幅器とのインピーダンスの整合を行う整合回路と、を有し、位相調整ラインの第1の端部は、出力端子に接続され、位相調整ラインの第1の端部の反対側の第2の端部は、内部端子に接続され、整合回路の入力端子は、内部端子に接続され、整合回路の出力端子は、後段増幅器の入力端子に接続され、第1の端部と、第2の端部とは、第1の基準線上に配置され、位相調整ラインは、第1の基準線を基準にして線対称な形状を有する。
【0010】
上記第1側面は、第1の基準線を挟んで回路基板上に配置された第1のトランジスタおよび第2のトランジスタを含む前段増幅器と、前段増幅器の出力端子から出力された増幅信号をさらに増幅する後段増幅器と、前段増幅器からの増幅信号を後段増幅器に伝搬させる段間回路とを備える半導体増幅回路である。そして、段間回路に含まれる位相調整ラインは、その第1の端部が前段増幅器の出力端子に接続され、その第2の端部が、整合回路を介して後段増幅器の入力端子に接続され、第1の基準線を基準にして線対称な形状を有している。このような構成により、回路基板を含む半導体増幅回路のサイズを大きくすることなく、位相調整ラインの長さを容易に調整することができる。それとともに、第1のトランジスタと位相調整ラインとの間で生じる結合容量と、第2のトランジスタと位相調整ラインとの間で生じる結合容量との間で均衡を図ることができる。これにより、第1のトランジスタ及び第2のトランジスタから出力される増幅信号における位相のずれを低減でき、高効率の信号増幅が可能となる。その結果、広帯域な回路の小型化を図ることができる。
【0011】
本開示の第2側面に係る半導体増幅回路は、上記第1側面において、位相調整ラインは、リング形状を有する、というものである。この場合、回路基板を含む半導体増幅回路のサイズを大きくすることなく、位相調整ラインの長さを容易に調整することができる。その結果、広帯域な回路の小型化を図ることができる。
【0012】
また、本開示の第3側面に係る半導体増幅回路は、上記第1側面または上記第2側面において、位相調整ラインは、第1の基準線に沿って形成された第1のラインと、第1のラインから第1の基準線から離れる二つの方向に分岐して形成された第2のラインおよび第3のラインと、を有する、というものである。この場合、第2のラインおよび第3のラインと前段増幅器との間で生じる結合容量を小さくすることができ、高効率の信号増幅を実現することができる。
【0013】
また、本開示の第4側面に係る半導体増幅回路は、上記第3側面において、第2のラインおよび第3のラインは、第1のラインの幅の半分の幅を有するように形成されている、というものである。かかる構成により、位相調整ラインの全体の特性インピーダンスを一致させることができ、高効率の信号増幅を実現することができる。
【0014】
また、本開示の第5側面に係る半導体増幅回路は、上記第3側面または上記第4側面において、第2のラインおよび第3のラインは、第1の基準線に垂直な方向に分岐するように形成されている、というものである。この場合、位相調整ラインの長さの調整の自由度を高めることができ、使用周波数帯域を容易に広げることができる。
【0015】
また、本開示の第6側面に係る半導体増幅回路は、上記第3側面から上記第5側面までのいずれかにおいて、第2のラインおよび第3のラインは、第1の基準線に垂直な線に対して線対称な形状を有するように形成されている、というものである。かかる構成によれば、位相調整ラインと前段増幅器との間で生じる結合容量と、位相調整ラインと整合回路との間で生じる結合容量とを含む全体の結合容量を小さくすることができ、高効率の信号増幅を実現することができる。
【0016】
また、本開示の第7側面に係る半導体増幅回路は、上記第6側面において、第2のラインおよび第3のラインは、第1の基準線に関して線対称な矩形状をなすように形成されている、というものである。このような構成の場合、位相調整ラインと前段増幅器との間で生じる結合容量と、位相調整ラインと整合回路との間で生じる結合容量とを含む全体の結合容量を小さくすることができ、高効率の信号増幅を実現することができる。
【0017】
また、本開示の第8側面に係る半導体増幅回路は、上記第1側面から上記第7側面までのいずれかにおいて、回路基板上に、前段増幅器、後段増幅器、及び段間回路を含む回路部が複数並列に配置されている、というものである。かかる構成によれば、広帯域な回路の小型化を図ることができる。
【0018】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
(半導体増幅回路の構成)
【0020】
図1は、本開示の一実施形態に係る半導体増幅回路1の構成を示す平面図である。この半導体増幅回路1は、アナログ信号を増幅するモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC:monolithic microwave integrated circuit)である。
【0021】
図1に示すように、半導体増幅回路1は、炭化ケイ素(SiC)等によって構成される回路基板2と、回路基板2上に搭載された複数の増幅回路部3とを備える。本実施形態の半導体増幅回路1では、増幅回路部3が4個で並列に設けられているが、任意の個数の増幅回路部3が設けられてもよい。
【0022】
図2は、増幅回路部3の概略構成を示すブロック図であり、
図3は、増幅回路部3の詳細な回路構成を示す回路図である。
【0023】
図2に示すように、増幅回路部3は、入力整合回路4、前段増幅器5、段間整合回路(段間回路)6、後段増幅器7、及び出力整合回路8を含む。入力整合回路4には外部から高周波(RF)信号(入力信号)が入力される。高周波信号は、例えば、9.5GHz以上13GHz以下の周波数の範囲のアナログ信号である。前段増幅器5は、入力整合回路4を介して高周波信号の入力を受け、高周波信号を増幅して増幅信号を出力する。前段増幅器5から出力された増幅信号は、段間整合回路6を経由して後段増幅器7に入力される。後段増幅器7は、入力された増幅信号をさらに増幅して出力する。後段増幅器7から出力された増幅信号は出力整合回路8を経由して外部に出力される。
【0024】
図3を参照して、増幅回路部3の回路構成を詳細に説明する。
【0025】
入力整合回路4は、キャパシタC1,C2,C3、インダクタL1,L2、及び導電ラインである配線部12を有する。配線部12の2つの端部のうちの第1の端部は、高周波信号が入力される入力端子11に接続されるとともに、キャパシタC1を介して基準電位線に接続(接地)されている。配線部12の2つの端部のうちの第2の端部は、前段増幅器5の入力に接続される。配線部12の第2の端部は、インダクタL1を介して、前段増幅器5のゲートバイアス供給用のバイアス入力端子13に接続されている。また、配線部12の第2の端部は、インダクタL2をも介して、前段増幅器5のゲートバイアス供給用のバイアス入力端子13に接続されている。キャパシタC2,C3は、それぞれ、バイアス入力端子13と基準電位線との間に接続されている。
【0026】
前段増幅器5は、第1のトランジスタ5A及び第2のトランジスタ5Bを有する。第1のトランジスタ5A及び第2のトランジスタ5Bは、例えばFETである。第1のトランジスタ5Aのゲート端子及び第2のトランジスタ5Bのゲート端子は、前段増幅器5の入力端子を構成し、入力整合回路4の配線部12を介して入力端子11に接続される。第1のトランジスタ5Aのドレイン端子及び第2のトランジスタ5Bのドレイン端子は、互いに接続されて前段増幅器5の出力端子を構成する。第1のトランジスタ5Aのソース端子及び第2のトランジスタ5Bのソース端子は、それぞれ、基準電位線に接続されている(接地されている)。第1のトランジスタ5A及び第2のトランジスタ5Bは、回路基板2上において、配線部12に沿って延びる基準線(第1の基準線)AXを挟んで並んで配置されている。すなわち、前段増幅器5の入力端子及び出力端子が基準線AX上に配置されるように構成される。
【0027】
段間整合回路6は、位相調整ライン15、バイアス回路16,17、及び整合回路18を有する。段間整合回路6は、回路基板2上に形成され、前段増幅器5の出力端子から出力された増幅信号を後段増幅器7に向けて伝搬させる回路要素である。
【0028】
位相調整ライン15は、回路基板2上に形成された4つの導電ラインである、第1のライン19A、第2のライン19B、第3のライン19C、及び第4のライン19Dを含む。第1のライン19Aは、その第1の端部が前段増幅器5の出力端子に接続された基準線AX上の端子20に接続され、基準線AXに沿って延びるように構成される。第4のライン19Dは、第1のライン19Aから前段増幅器5の反対側に分離されて、基準線AXに沿って延びるように形成されている。第2のライン19B及び第3のライン19Cは、それぞれ、第1のライン19Aの第2の端部と、第4のライン19Dの第1のライン19Aに近い第1の端部との間を接続するように形成されている。第4のライン19Dの第2の端部は、基準線AX上の端子(内部端子)21に接続されている。位相調整ライン15は、全体として、基準線AXを基準にして線対称な形状を有する。具体的には、位相調整ライン15の第2のライン19B及び第3のライン19Cは、基準線AXを基準にして線対称な矩形のリング形状をなすように構成される。
【0029】
バイアス回路16は、回路基板2上の導電ラインである配線部22,23、及びキャパシタC4,C5,C6を含む。配線部22及び配線部23は、前段増幅器5のドレインバイアス供給用のバイアス入力端子24と、端子21とを接続する。キャパシタC4,C5,C6は、バイアス入力端子24と基準電位線との間に接続されている。
【0030】
整合回路18は、前段増幅器5と後段増幅器7との間でインピーダンスの整合を行う回路である。整合回路18は、1つの入力端子25、2つの出力端子26A,26B、回路基板2上の導電ラインである配線部27A,27B,27C,27D、及び、キャパシタC8,C9,C10,C11を含む。入力端子25は、キャパシタC7を介して、位相調整ライン15の第4のライン19Dに接続された端子21に接続されている。また、入力端子25は、2つの配線部27A,28Bを経由して出力端子26Aに接続され、2つの配線部27C,28Dを経由して出力端子26Bに接続されている。キャパシタC8,C9は、それぞれ、配線部27Bの2つの端部と基準電位線との間に接続され、キャパシタC10,C11は、それぞれ、配線部27Dの2つの端部と基準電位線との間に接続されている。
【0031】
バイアス回路17は、抵抗素子29A,29B、及びキャパシタC12,C13を含む。抵抗素子29A及び抵抗素子29Bは、それぞれ、後段増幅器7のゲートバイアス供給用のバイアス入力端子30と、2つの出力端子26A,26Bとを接続する。キャパシタC12,C13は、バイアス入力端子30と基準電位線との間に接続されている。
【0032】
後段増幅器7は、回路基板2上において前段増幅器5の出力端子から基準線AXに沿った方向に離れて配置され、前段増幅器5から出力された増幅信号を段間整合回路6を経由して受けて、その増幅信号をさらに増幅する。後段増幅器7は、第1のトランジスタ31A、第2のトランジスタ31B、第3のトランジスタ31C、及び第4のトランジスタ31Dを有する。第1のトランジスタ31A、第2のトランジスタ31B、第3のトランジスタ31C、及び第4のトランジスタ31Dは、例えばFETである。第1のトランジスタ31Aのゲート端子及び第2のトランジスタ31Bのゲート端子は、後段増幅器7の第1の入力端子を構成し、整合回路18の出力端子26Aに接続される。第1のトランジスタ31Aのドレイン端子及び第2のトランジスタ31Bのドレイン端子は、互いに接続されて後段増幅器7の第1の出力端子32Aを構成する。第1のトランジスタ31Aのソース端子及び第2のトランジスタ31Bのソース端子は、それぞれ、基準電位線に接続されている(接地されている)。第3のトランジスタ31Cのゲート端子及び第4のトランジスタ31Dのゲート端子は、後段増幅器7の第2の入力端子を構成し、整合回路18の出力端子26Bに接続される。第3のトランジスタ31Cのドレイン端子及び第4のトランジスタ31Dのドレイン端子は、互いに接続されて後段増幅器7の第2の出力端子32Bを構成する。第3のトランジスタ31Cのソース端子及び第4のトランジスタ31Dのソース端子は、それぞれ、基準電位線に接続されている(接地されている)。
【0033】
出力整合回路8は、後段増幅器7の2つの出力端子32A,32Bから出力された増幅信号を合成して出力端子33に伝搬させるための回路部である。出力端子33において合成された増幅信号は、出力端子33から外部に出力される。出力整合回路8は、回路基板2上の4つの導電ラインである配線部34A,34B,34C,34D、及びキャパシタC14,C15を含む。配線部34A,34Bは、後段増幅器7の出力端子32Aと出力端子33との間で直列に接続されて形成されている。配線部34C,34Dは、後段増幅器7の出力端子32Bと出力端子33との間で直列に接続されて形成されている。キャパシタC14は、2つの配線部34A,34Bの間の接続点と基準電位線との間に接続されている。キャパシタC15は、2つの配線部34C,34Dの間の接続点と基準電位線との間に接続されている。
【0034】
ここで、
図4を参照して、段間整合回路6の位相調整ライン15の構成を詳細に説明する。
図4は、回路基板2上の位相調整ライン15の構成を示す平面図である。
【0035】
第2のライン19B及び第3のライン19Cは、それぞれ、基準線AXに沿った第1のライン19Aから垂直に離れる二つの方向に分岐し、基準線AXに垂直な方向に延びる直線部41B,41Cを有する。また、第2のライン19B及び第3のライン19Cは、それぞれ、直線部41B,41Cから垂直に屈曲して基準線AXに沿って延びる直線部42B,42Cと、直線部42B,42Cから垂直に屈曲して基準線AXに垂直な方向に沿って、第4のライン19Dの第1の端部まで延びる直線部43B,43Cと、をさらに有する。
【0036】
第1のライン19A及び第4のライン19Dは、回路基板2上で同一の線幅を有し、第2のライン19B及び第3のライン19Cは、全体として、回路基板2上で第1のライン19Aの半分の線幅を有する。このような構成により、位相調整ライン15が全体で均一な特性インピーダンスを有るように構成される。
【0037】
また、第1のライン19A、第2のライン19B、第3のライン19C、及び第4のライン19Dは、全体として、回路基板2に沿った基準線AXに垂直な基準線BXに対しても線対称な形状を有する。すなわち、第1のライン19Aの長さと第4のライン19Dの長さが同一とされ、4つの直線部41B,43B,41C,43Cの長さが同一とされ、2つの直線部42B,42Cの長さが同一とされる。
【0038】
上記構成の位相調整ライン15の計算上の線路長は、次のように計算される。第1のライン19Aの長さをD1、直線部42B,42Cの長さをD2、第4のライン19Dの長さをD3、直線部41B,43B,41C,43Cの長さをD4とすると、計算上の線路長Loは、下記式;
Lo=D1+(D4×2+D2)/2+D3
によって計算される。
【0039】
本実施形態に係る半導体増幅回路1は、上述した構成の複数の増幅回路部3を有し、回路基板2上に、入力整合回路4、前段増幅器5、段間整合回路(段間回路)6、後段増幅器7、及び出力整合回路8が、複数組で並列に配置された構成を有する。
【0040】
(半導体増幅回路の作用効果)
【0041】
以上説明した半導体増幅回路1は、基準線AXを挟んで回路基板2上に配置された第1のトランジスタ5Aおよび第2のトランジスタ5Bを含む前段増幅器5と、前段増幅器5の出力端子から出力された増幅信号をさらに増幅する後段増幅器7と、前段増幅器5からの増幅信号を後段増幅器7に伝搬させる段間整合回路6とを備える半導体増幅回路である。そして、段間整合回路6に含まれる位相調整ライン15は、その第1の端部が前段増幅器5の出力端子に接続され、その第2の端部が、整合回路18を介して後段増幅器7の入力端子に接続され、基準線AXを基準にして線対称な形状を有している。このような構成により、回路基板2を含む半導体増幅回路1のサイズを大きくすることなく、位相調整ライン15の長さを容易に調整することができる。それとともに、第1のトランジスタ5Aと位相調整ライン15との間で生じる結合容量と、第2のトランジスタ5Bと位相調整ライン15との間で生じる結合容量との間で均衡を図ることができる。これにより、第1のトランジスタ5A及び第2のトランジスタ5Bから出力される増幅信号における位相のずれを低減でき、高効率の信号増幅が可能となる。
【0042】
例えば、前段増幅器5から後段増幅器7に向けてパワーを十分に伝えるための整合を低域の周波数帯まで取るためには、位相調整ライン15の線路長を長くする必要がある。このような場合でも、回路基板2を大きくすることなく位相調整ライン15の線路長を調整することができる。また、回路基板2の厚さよりも位相調整ライン15の線幅が狭くなるほど、位相調整ライン15の第2のライン19Bと第1のトランジスタ5Aとの間の結合容量と、位相調整ライン15の第3のライン19Cと第2のトランジスタ5Bとの間の結合容量が無視できなくなる。このような場合、第1のトランジスタ5Aから出力される増幅信号と、第2のトランジスタ5Bから出力される増幅信号とが、結合容量の影響を受けるが、2つのトランジスタ5A,5Bから出力される2つの増幅信号間で位相のバランスが取れているために、増幅信号のパワーの低下が防止できる。その結果、広帯域な回路の小型化を図ることができる。
【0043】
また、半導体増幅回路1においては、位相調整ライン15が、第1のライン19Aと第4のライン19Dとの間に接続された矩形のリング状のライン19B,19Cを有している。この場合、回路基板2を含む半導体増幅回路1のサイズを大きくすることなく、位相調整ライン15の線路長Loを容易に調整することができる。また、位相調整ライン15と前段増幅器5との間で生じる結合容量と、位相調整ライン15と配線部22、23との間で生じる結合容量とを含む全体の結合容量を小さくすることができ、高効率の信号増幅を実現することができる。その結果、広帯域な回路の小型化を図ることができる。
【0044】
例えば、位相調整ライン15としては、第1のトランジスタ5Aのドレイン端子と第2のトランジスタ5Bのドレイン端子とから並列で引き出される2つのラインを設ける構成、あるいは端子20から並列で引き出される2つのラインを設ける構成も想定される。しかしながら、この場合はリング形状よりも位相調整ライン15の線路長Loが短くなり線路長Loの調整の自由度が低下する。また、位相調整ライン15の別の構成としては、ミアンダのように複雑な形状の構成も想定される。しかしながら、この場合は、ライン間の電磁的な結合が強まり、伝搬される増幅信号が乱れる可能性がある。
【0045】
また、半導体増幅回路1においては、位相調整ライン15は、基準線AXに沿って形成された第1のライン19Aと、第1のライン19Aから基準線AXから垂直な方向に分岐して形成された第2のライン19Bおよび第3のライン19Cとを有する。この場合、第2のライン19Bおよび第3のライン19Cと前段増幅器5との間で生じる結合容量を小さくすることができ、高効率の信号増幅を実現することができる。また、位相調整ライン15の線路長Loの調整の自由度を高めることができ、使用周波数帯域を容易に広げることができる。
【0046】
また、半導体増幅回路1においては、第2のライン19Bおよび第3のライン19Cは、第1のライン19Aの線幅の半分の線幅を有するように形成されている。かかる構成により、位相調整ライン15の全体の特性インピーダンスを一致させることができ、高効率の信号増幅を実現することができる。
【0047】
また、半導体増幅回路1においては、位相調整ライン15が基準線BXに対しても線対称な形状を有している。かかる構成によれば、位相調整ライン15と前段増幅器5との間で生じる結合容量と、位相調整ライン15と配線部22,23との間で生じる結合容量とを含む全体の結合容量を小さくすることができ、高効率の信号増幅を実現することができる。
【0048】
図7には、第1の比較例に係る増幅回路部903Aの構成を示す。増幅回路部903Aは、増幅回路部3と異なる構成の位相調整ライン915Aを備える。位相調整ライン915Aは、回路基板2上に形成された直線状の導電ラインであるライン19を含む。ライン19は、前段増幅器5と端子21との間に接続されている。このような増幅回路部903Aの構成においては、位相調整ライン915Aの線路長を長くしようとすると回路基板2の基準線AXに沿った方向のサイズを大きくせざるを得なくなる。そのため、使用周波数帯域を低域まで広げたい場合に回路の小型化を図ることが困難となる。
【0049】
図8には、第2の比較例に係る増幅回路部903Bの構成を示す。増幅回路部903Bは、増幅回路部3と異なる構成の位相調整ライン915Bを備える。位相調整ライン915Bは、回路基板2上に形成された3つの導電ラインである、第1のライン44A、第2のライン44B、及び第3のライン44Cを含む。第1のライン44A、第2のライン44B、及び第3のライン44Cは、位相調整ライン15の第1のライン19A、第2のライン19B、及び第4のライン19Dと同一の形状を有するように形成されている。ただし、第1のライン44A、第2のライン44B、及び第3のライン44Cは、回路基板2上で互いに同一の線幅を有する。つまり、位相調整ライン915Bは、基準線AXに対して非対称な形状を有する。このような増幅回路部903Bの構成においては、第1のトランジスタ5Aと位相調整ライン915Bとの間で生じる結合容量と、第2のトランジスタ5Bと位相調整ライン915Bとの間で生じる結合容量との間で差が生じてしまう。そのため、第1のトランジスタ5A及び第2のトランジスタ5Bから出力される増幅信号における位相のずれが生じてしまい、出力される増幅信号のパワーが低下する場合がある。
【0050】
次に、本実施形態の効果を実証するシミュレーション計算の結果を示す。
【0051】
シミュレーション計算に際しては、本実施形態に係る増幅回路部3において、回路基板2が厚さ100μmの炭化ケイ素(SiC)基板であり、第1の面(回路搭載面と反対側の面)に銅(Au)からなるグランド層(基準電位層)が形成され、第1の面の反対側の第2の面(回路搭載面)上に位相調整ライン15を含む導電ラインが厚さ4μmの銅(Au)からなる金属膜によって形成されていると想定された。さらに、本実施形態に係る増幅回路部3においては、位相調整ライン15として、第1のライン19A及び第4のライン19Dの線幅が30μm、第1のライン19A及び第4のライン19Dの長さがD1=D3=72.5μm、第2のライン19Bおよび第3のライン19Cの線幅が15μm、第2のライン19Bおよび第3のライン19Cの長さが、D4=200μm、D2=65μmで形成されていると想定された。すなわち、本実施形態に係る増幅回路部3においては、位相調整ライン15の基準線AXに沿った全体の長さがD5=240μmであり、位相調整ライン15の線路長Lo=377.5μmであると想定された。
【0052】
また、シミュレーション計算に際しては、「比較例1」として、第1の比較例に係る増幅回路部903Aにおいて、位相調整ライン915Aのライン19の長さを100μmであると想定された。また、「比較例2」として、第1の比較例に係る増幅回路部903Aにおいて、位相調整ライン915Aのライン19の長さを、本実施形態における位相調整ライン15の全体の長さD5と等しい240μmであると想定された。「比較例1」及び「比較例2」のいずれにおいても、位相調整ライン915Aの構成以外は、本実施形態と同一であると想定された。
【0053】
図5は、5dBゲインコンプレッション時の出力パワー(P5dB)[dBm]の周波数特性のシミュレーション計算の結果を示すグラフである。この結果から、比較例1では低域の周波数、すなわち、9.5GHz以上10GHz以下の周波数では出力パワーが目標値である43dBmを下回っていることが分かった。比較例2では、比較例1に比較すると、出力パワーが目標値を上回っている周波数帯域が広がっているが、9.5GHz付近の周波数では出力パワーが目標値を下回っていることが分かった。これに対して、本実施形態では、9.5GHz以上13GHz以下の周波数帯域にて出力パワーが目標値を十分に上回っていることが分かった。
【0054】
図6は、電力付加効率(PAE:Power Added Efficiency)[%]の周波数特性のシミュレーション計算の結果を示すグラフである。この結果から、比較例1では低域の周波数、すなわち、9.5GHz以上10.5GHz以下の周波数では電力付加効率が目標値である30%を下回っていることが分かった。比較例2では、比較例1に比較すると、電力付加効率が目標値を上回っている周波数帯域が広がっているが、9.5GHz以上10GHz以下の周波数では電力付加効率が目標値を下回っていることが分かった。これに対して、本実施形態では、9.5GHz以上13GHz以下の周波数帯域にて電力付加効率が目標値を十分に上回っていることが分かった。
【0055】
具体的には、上記のシミュレーション計算により、比較例2に関しては、周波数9.5GHzにおける出力パワー42.6dBm、電力付加効率26.7%と計算された。これに対して、本実施形態に関しては、周波数9.5GHzにおける出力パワーが2.5dBほど改善され、電力付加効率が9.4%ほど改善されることが分かった。
【0056】
以上、好適な実施の形態において本開示の原理を図示し説明してきたが、本開示は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本開示は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【符号の説明】
【0057】
1…半導体増幅回路
2…回路基板
3,903A,903B…増幅回路部
4…入力整合回路
11,25…入力端子
5…前段増幅器
5A…第1のトランジスタ
5B…第2のトランジスタ
31A,31B,31C,31D…トランジスタ
6…段間整合回路(段間回路)
7…後段増幅器
8…出力整合回路
15,915A,915B…位相調整ライン
19A…第1のライン
19B…第2のライン
19C…第3のライン
19D…第4のライン
18…整合回路
20…端子(出力端子)
21…端子(内部端子)
26A,26B,32A,32B,33…出力端子
AX…基準線(第1の基準線)
BX…基準線