(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148257
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】シート及び基板支持体
(51)【国際特許分類】
H01L 21/677 20060101AFI20241010BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
H01L21/68 A
G02F1/13 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061238
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】520487808
【氏名又は名称】シャープディスプレイテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲井 浩一
(72)【発明者】
【氏名】佐倉 右京
(72)【発明者】
【氏名】木村 和貴
(72)【発明者】
【氏名】平戸 伸一
(72)【発明者】
【氏名】池田 友成
【テーマコード(参考)】
2H088
5F131
【Fターム(参考)】
2H088FA17
2H088FA30
2H088HA01
2H088HA08
2H088HA12
2H088JA04
2H088JA10
2H088MA20
5F131AA03
5F131AA32
5F131AA33
5F131CA05
5F131DB02
5F131DB24
5F131DB25
5F131DB32
5F131DB34
5F131JA36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】基板との間の剥離帯電を抑制する基板搬送装置のシート及び基板支持体を提供する。
【解決手段】基板搬送装置において、支持アームの基板支持部には、パッド26及びシート27が設けられている。シート27は、基材27Aと、基材27Aにおけるパッド26側の面に設けられる粘着層27Bと、を有する。基材27Aは、ガラス繊維27A1と、フッ素を含有する絶縁性樹脂材料(絶縁性材料)と、からなる。基材27Aは、ガラス繊維27A1に絶縁性樹脂材料を含浸して製造されている。基材27Aに用いられる絶縁性樹脂材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる。PTFEは、比誘電率及び誘電正接が共に低いことから、優れた絶縁性能が得られる。粘着層27Bは、シリコーン系粘着剤からなる。粘着層27Bによってシート27がパッド26に対して取付状態に固着される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含有する絶縁性材料からなり、導電性粒子を含むことなく、表面に粗面を有する表層部を備えるシート。
【請求項2】
前記粗面は、算術平均粗さRaが1μm以上とされる請求項1記載のシート。
【請求項3】
前記粗面は、算術平均粗さRaが2μm以上とされる請求項1または請求項2記載のシート。
【請求項4】
前記絶縁性材料は、ポリテトラフルオロエチレンを含む請求項1または請求項2記載のシート。
【請求項5】
前記表層部が設けられる基材を備えており、
前記基材は、ガラス繊維を含む請求項1または請求項2記載のシート。
【請求項6】
前記表層部内に分散配合されるスペーサを備える請求項1または請求項2記載のシート。
【請求項7】
請求項1または請求項2記載のシートと、
基板を支持する基板支持部と、を備え、
前記シートは、前記基板支持部のうち、前記基板側を向いた面に設けられ、前記粗面が前記基板に接する基板支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、シート及び基板支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板搬送ロボット等に備えられて、基板を支持する基板支持体の一例として下記特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1には、基板支持体の一例として板状ワークを保持する保持台が記載されている。特許文献1に記載の保持台は、板状体と、その板状体を被覆する有機導電性被膜とを備え、有機導電性被膜の表面では、その算術平均粗さRaが1.0μm以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に記載のワーク保持台は、板状体を被覆する有機導電性被膜が導電性粒子を含有している。有機導電性被膜の表面の算術平均粗さRaが1.0μm以上であっても、導電性粒子に起因して有機導電性被膜の表面の摩擦係数が高くなるため、板状ワークの離型性が低下するという問題があった。板状ワークの離型性が低下すると、剥離帯電が生じ易くなるおそれがある。
【0005】
本明細書に記載の技術は、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、剥離帯電を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本明細書に記載の技術に関わるシートは、フッ素を含有する絶縁性材料からなり、導電性粒子を含むことなく、表面に粗面を有する表層部を備える。
【0007】
(2)また、上記シートは、上記(1)に加え、前記粗面は、算術平均粗さRaが1μm以上とされてもよい。
【0008】
(3)また、上記シートは、上記(1)または上記(2)に加え、前記粗面は、算術平均粗さRaが2μm以上とされてもよい。
【0009】
(4)また、上記シートは、上記(1)から上記(3)のいずれかに加え、前記絶縁性材料は、ポリテトラフルオロエチレンを含んでもよい。
【0010】
(5)また、上記シートは、上記(1)から上記(4)のいずれかに加え、前記表層部が設けられる基材を備えており、前記基材は、ガラス繊維を含んでもよい。
【0011】
(6)また、上記シートは、上記(1)から上記(5)のいずれかに加え、前記表層部内に分散配合されるスペーサを備えてもよい。
【0012】
(7)本明細書に記載の技術に関わる基板支持体は、上記(1)から上記(6)のいずれかに記載のシートと、基板を支持する基板支持部と、を備え、前記シートは、前記基板支持部のうち、前記基板側を向いた面に設けられ、前記粗面が前記基板に接する。
【発明の効果】
【0013】
本明細書に記載の技術によれば、剥離帯電を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1に係る液晶パネルの概略的な断面図
【
図5】実施形態1に係る比較実験1の実験結果を示す表
【
図6】実施形態1に係る比較実験2にて用いられる基板、台座及びシートを示す斜視図
【
図7】実施形態1に係る比較実験2の実験結果を示す表
【
図8】実施形態1に係る検証実験1の実験結果を示す表
【
図10】実施形態3に係るパッド及びシートの断面図
【
図11】実施形態4に係るベーク炉、シート及び基板の断面図
【
図12】実施形態4に係る検証実験2の実験結果を示す表
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態1>
実施形態1を
図1から
図8によって説明する。本実施形態では、液晶パネル10を構成する基板SUを搬送するための基板搬送装置20に備わるシート27及び支持アーム(基板支持体)25について例示する。なお、各図面の一部にはX軸、Y軸及びZ軸を示しており、各軸方向が各図面で示した方向となるように描かれている。
【0016】
先に、液晶パネル10の構成について簡単に説明する。液晶パネル10は、
図1に示すように、ほぼ透明で優れた透光性を有するガラス製の一対の基板10A,10Bと、一対の基板10A,10Bの間に配される液晶層10Cと、を備える。一対の基板10A,10Bのうち、表側に配されるものが対向基板(CF基板)10Aであり、裏側に配されるものがアレイ基板(TFT基板)10Bである。対向基板10A及びアレイ基板10Bは、いずれも透光性に優れたガラス材料からなる基板SUを有しており、基板SUの内面(液晶層10C側の面)に各種の膜がフォトリソグラフィ法等により積層形成された構成とされる。液晶層10Cは、電界印加に伴って光学特性が変化する物質である液晶分子を含む。なお、一対の基板10A,10Bの外面側(液晶層10C側とは反対側の面)には、それぞれ偏光板が貼り付けられている。
【0017】
アレイ基板10Bの内面側には、
図1に示すように、画素回路部11、共通電極12及び画素電極13等が設けられる。画素回路部11は、画素を駆動するための回路素子(TFT等)や配線(ゲート配線及びソース配線等)を含む。共通電極12は、全ての画素電極13と重畳するよう、アレイ基板10Bの主面内のほぼ全域にわたってベタ状に形成されている。共通電極12には、画素回路部11によって共通電位(基準電位)とされる共通電位信号が供給されている。画素電極13は、画素を構成しており、複数がアレイ基板10Bの主面内においてマトリックス状に並んで配されている。共通電極12及び画素電極13は、いずれもITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極材料からなる。画素電極13は、画素回路部11に含まれるTFTに接続されており、TFTのスイッチング動作に基づいて所定の電位(ソース配線に供給される画像信号に基づく電位)に充電されるようになっている。画素電極13は、共通電極12に対して絶縁膜14を介して上層側(液晶層10C側)に配されている。画素電極13には、複数のスリット13Aが開口形成されている。画素電極13が充電されると、画素電極13と共通電極12との間には電位差が生じる。すると、画素電極13におけるスリット13Aの開口縁と共通電極12との間には、アレイ基板10Bの主面に沿う成分に加えて、アレイ基板10Bの主面に対する法線方向の成分を含むフリンジ電界(斜め電界)が生じる。従って、このフリンジ電界を利用することで液晶層10Cに含まれる液晶分子の配向状態を制御することができ、この液晶分子の配向状態に基づいて所定の表示がなされる。つまり、本実施形態に係る液晶パネル10は、動作モードがFFS(Fringe Field Switching)モードとされている。
【0018】
対向基板10Aの内面側には、
図1に示すように、カラーフィルタ15、遮光部(ブラックマトリクス)16及びオーバーコート膜17等が設けられる。カラーフィルタ15は、アレイ基板10Bの画素電極13と重畳して配され、赤色(R),緑色(G),青色(B)の3色を呈する。互いに対向するカラーフィルタ15と画素電極13とが、表示単位である画素を構成する。なお、赤色(R),緑色(G),青色(B)に加えて、黄色(Y)や白色(W)を含む4色のカラーフィルタ15が設けられる場合もある。遮光部16は、隣り合うカラーフィルタ15間を仕切るよう格子状をなしており、画素間の混色防止等に機能する。オーバーコート膜17は、対向基板10Aのほぼ全域にわたってベタ状に配され、対向基板10Aの内面を平坦化するのに機能する。なお、両基板10A,10Bの最内面には、液晶層10Cに含まれる液晶分子を配向させるための配向膜がそれぞれ設けられている。
【0019】
上記のような構成の液晶パネル10を製造する際には、対向基板10Aやアレイ基板10Bを構成するガラス製の基板SUを搬送したり、液晶パネル10を搬送したりするため、
図2に示されるような基板搬送装置20が用いられる。基板搬送装置20は、
図2に示すように、ベース部21と、ベース部21に機械的に接続される第1可動部22と、第1可動部22に機械的に接続される第2可動部23と、第2可動部23に機械的に接続される第3可動部24と、第3可動部24に機械的に接続されていて基板SUを支持する支持アーム(基板支持体)25と、を有する。第1可動部22は、柱状をなしている。第1可動部22は、ベース部21に対して伸縮自在とされ、それにより支持アーム25をZ軸方向について変位させることができる。第2可動部23は、第1可動部22に対して回動可能な状態で軸支されている。第3可動部24は、第2可動部23に対して回動可能な状態で軸支されている。第2可動部23及び第3可動部24をそれぞれの回動軸周りに適宜に回動させることで、支持アーム25をX軸方向及びY軸方向について変位させることができる。
【0020】
支持アーム25は、
図2に示すように、基部25Aと、基部25Aに機械的に接続される複数の基板支持部25Bと、を有する。基部25Aは、複数の基板支持部25Bを横切る形で延在しており、複数の基板支持部25Bにおける一方の端部に連ねられている。基板支持部25Bは、基部25Aから直線的に延在する棒状をなしている。基板支持部25Bは、基部25Aの延在方向について間隔を空けて複数が並んで配されている。複数の基板支持部25Bは、表側(
図2の上側)を向いた各主面が面一状をなしており、その主面が基板SUを裏側から支持する支持面25B1とされる。
【0021】
基板支持部25Bには、
図3に示すように、パッド26及びシート27が設けられている。パッド26は、基板支持部25Bの支持面25B1に取り付けられている。パッド26は、緩衝材からなる。パッド26によって基板SUを緩衝することができるので、基板SUに衝撃が作用し難くなっている。シート27は、パッド26における基板支持部25B側とは反対側の面に接する形で取り付けられている。つまり、パッド26及びシート27は、基板支持部25Bの支持面25B1上にて積層形成されている。積層されたパッド26及びシート27は、基板支持部25Bの延在方向(X軸方向)について間隔を空けた位置に複数ずつ並んで配されている。パッド26は、シート27と基板支持部25Bとの間に挟み込まれている。シート27は、基板SUに対して直接接する。
【0022】
シート27の詳しい構成について
図4を参照して説明する。シート27は、
図4に示すように、基材27Aと、基材27Aにおけるパッド26側の面に設けられる粘着層27Bと、を有する。基材27Aは、ガラス繊維27A1と、フッ素を含有する絶縁性樹脂材料(絶縁性材料)と、からなる。基材27Aは、ガラス繊維27A1に絶縁性樹脂材料を含浸して製造されている。基材27Aに用いられる絶縁性樹脂材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:polytetrafluoroethylene)からなる。ポリテトラフルオロエチレンは、比誘電率及び誘電正接が共に低いことから、優れた絶縁性能が得られる。粘着層27Bは、シリコーン系粘着剤からなる。粘着層27Bによってシート27がパッド26に対して取付状態に固着される。
【0023】
基材27Aのうち、粘着層27B側とは反対側の部分が、
図4に示すように、表層部28とされる。表層部28は、基材27Aを構成する絶縁性樹脂材料、つまりポリテトラフルオロエチレンからなる。表層部28は、基板SUに直接接する表面を含んでいる。表層部28の表面は、微小な凹凸が繰り返し並んで形成される粗面29とされる。そして、表層部28は、導電性粒子(帯電防止剤)を含むことがない。導電性粒子は、シート27におけるいずれの部位にも含まれていない。以上のように、表層部28は、フッ素を含有する絶縁性材料からなるので、非粘着性に優れている。従って、表層部28の表面上に載せた基板SUを引き離す際の離型性が優れたものとなる。しかも、表層部28は、基板SUに接する表面に粗面29を有しているから、基板SUの離型性がより優れたものとなる。さらには、表層部28は、導電性粒子を含まないので、表面の摩擦係数が低下し、基板SUの離型性がさらに優れたものとなっている。以上により、表層部28の表面上に載せた基板SUを引き離す際に、剥離帯電が生じ難くなっている。しかも、基材27Aは、ガラス繊維27A1を含んでいるので、基材27Aの表面には、所定の表面粗さの凹凸が生じることになる。この凹凸を利用することで、表層部28の表面は、所定の表面粗さの粗面29となっている。
【0024】
表層部28の粗面29は、算術平均粗さRaが1μm以上とされ、より好ましくは算術平均粗さRaが2μm以上とされる。粗面29の算術平均粗さRaを1μm以上とすれば、仮に粗面の算術平均粗さRaが1μmに満たない場合に比べると、高い離型性が得られる。さらには、粗面29の算術平均粗さRaを2μm以上とすれば、仮に粗面の算術平均粗さRaが2μmに満たない場合に比べると、高い離型性が得られる。以上により、剥離帯電がより生じ難くなる。
【0025】
続いて、本実施形態に係るシート27の優位性を検証するため、以下の比較実験1,2を行った。先に、比較実験1について説明する。比較実験1では、表面に粗面を有さず導電性粒子(帯電防止剤)を含有しないシートを比較例1とし、表面に粗面を有していて導電性粒子を含有するシートを比較例2とし、表面に粗面29を有していて導電性粒子を含有しないシート27を実施例1とし、実施例1よりも粗い粗面29を有していて導電性粒子を含有しないシート27を実施例2とした。比較例1,2のシートと、実施例1,2のシート27と、は、いずれも基材がポリテトラフルオロエチレンを含む。比較例1のシートは、基材がガラス繊維27A1を含まない。比較例2のシートと、実施例1,2のシート27と、は、いずれも基材がガラス繊維27A1を含む。従って、比較例2のシートと、実施例1,2のシート27と、は、導電性粒子を含有するか否かで相違する。比較実験1では、上記した比較例1,2のシートと、実施例1,2のシート27と、について、それぞれの表面を、例えばレーザ顕微鏡等を用いて走査することで、表面の凹凸形状を測定し、それぞれの断面プロファイルを作成した。得られた各断面プロファイルに基づいて、粗面に含まれる凸部間の平均距離(単位は「μm」)と、粗面に含まれる凹部と凸部との深さの差の最大値(単位は「μm」)と、面積率(単位は「%」)と、算術平均粗さRa(単位は「μm」)と、最大高さ粗さRz(単位は「μm」)と、を得た。このうち、「面積率」は、各シートの表面の最大高さの90%以上となる部分の面積を、シートの全面積にて除した百分率である。また、比較例2のシートと、実施例1,2のシート27と、について、それぞれ走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いてガラス繊維27A1を撮像し、撮像して得た画像に基づいてガラス繊維27A1の太さ(単位は「μm」)を測定した。なお、比較例1のシートは、基材がガラス繊維27A1を含まないため、ガラス繊維27A1の太さを測定していない。これらの実験結果は、
図5の表に示される通りである。
【0026】
比較実験1の実験結果について
図5を用いて説明する。
図5によれば、比較例1,2は、いずれも算術平均粗さRaが1μmに満たないのに対し、実施例1,2は、いずれも算術平均粗さRaが1μm以上とされる。特に、実施例2は、算術平均粗さRaが2μm以上とされる。比較例1,2は、いずれも最大高さ粗さRzが2μmに満たないのに対し、実施例1,2は、いずれも最大高さ粗さRzが10μm以上とされる。特に、実施例2は、最大高さ粗さRzが15μm以上とされる。このように、各シートの表面粗さに関しては、比較例1、比較例2、実施例1、実施例2、の順で粗度が高くなっていることが分かる。また、比較例2は、ガラス繊維27A1の太さが5μm台とされるのに対し、実施例1及び実施例2は、ガラス繊維27A1の太さが7μm台とされる。比較例2及び実施例1は、凸部間の平均距離が400μm台とされ、凹部と凸部との深さの差の最大値が10μm台とされるのに対し、実施例2は、凸部間の平均距離が600μm台とされ、凹部と凸部との深さの差の最大値が60μm台とされる。
【0027】
比較実験2について説明する。比較実験2では、
図6に示すように、上記した比較実験1にて説明した比較例1,2のシートと、実施例1,2のシート27と、をそれぞれ台座BA上に載置しておき、台座BAの上方に配置した基板SUを上下動させ、基板SUを各シートに対して繰り返し接触・剥離させた。比較実験2では、接触・剥離の動作を20回繰り返し行った後、所定の電位測定器(例えば、シシド静電気株式会社製の静電電位測定器「STATIRON DZ4」)によって基板SUの裏側の主面(各シートとの接触面)と、各シートの表側の主面(基板SUとの接触面)と、の表面電位(単位は「V」)を測定した。比較実験2の実験結果は、
図7の表に示される通りである。なお、電位測定器と測定対象物(基板SUや各シート)との間の距離は、30mmとされる。各シートは、一辺が5mmの正方形とされる。比較実験2で用いた「基板SU」は、比較実験1の説明以前の段落にて説明した液晶パネル10を構成していてカラーフィルタ15等を備える対向基板10Aと同様の構造であり、幅寸法を15mmとし、長さ寸法を25mmとし、厚みを1mmとしたものである。また、比較実験2を行った実験室の環境は、恒温恒湿に保たれており、具体的には室温が22℃±1℃で、湿度が50%±2%とされる。
【0028】
比較実験2の実験結果について
図7を用いて説明する。
図7によれば、比較例1のシートに関しては、基板SUの表面電位が80Vであり、シートの表面電位が30Vであった。比較例2のシートに関しては、基板SUの表面電位が395Vであり、シートの表面電位が0Vであった。実施例1のシート27に関しては、基板SUの表面電位が35Vであり、シートの表面電位が0Vであった。実施例2のシート27に関しては、基板SUの表面電位が3Vであり、シートの表面電位が0Vであった。比較例1では、基板SU及びシートの両方に帯電が生じているのに対し、比較例2及び実施例1,2では、いずれも基板SUのみに帯電が生じ、シートには帯電が生じていない点で異なる。比較例2では、基板SUの表面に最大となる395Vもの帯電が生じている。これは、比較例2のシートに導電性粒子が含まれるため、表面の摩擦係数が高くなり、離型性が低下したことに起因すると推考される。実施例1では、基板SUの表面に生じた帯電が比較例1,2のいずれよりも抑制されている。これは、実施例1のシート27における粗面29の算術平均粗さRaが1μm以上の1.15μmとされることで、比較例1,2のいずれよりも高い離型性が得られたため、と推考される。実施例2では、基板SUの表面に生じた帯電が実施例1よりもさらに抑制されている。これは、実施例2のシート27における粗面29の算術平均粗さRaが2μm以上の2.23μmとされることで、実施例1よりもさらに高い離型性が得られたため、と推考される。
【0029】
続いて、検証実験1を行った。検証実験1では、比較実験1の説明以前の段落にて説明した基板搬送装置20に備わる基板支持部25Bのパッド26にシート27を取り付けた場合と取り付けなかった場合とで、液晶パネル10(
図1を参照)に不良が発生する確率である不良率に違いがあるか否かを検証した。検証実験1では、シート27として、比較実験1,2にて説明した実施例2を用いている。検証実験1では、一対の基板SU(対向基板10A及びアレイ基板10B)を貼り合わせてなる液晶パネル10を基板搬送装置20によって搬送した。詳しくは、検証実験1では、液晶パネル10を外部から支持アーム25へ受け渡して液晶パネル10を基板支持部25Bに支持させてから、液晶パネル10を支持アーム25から外部へ受け渡して液晶パネル10を基板支持部25Bから剥離した後に、液晶パネル10を検査し、不良の有無を判定した。不良の種類としては、液晶パネル10のうち、パッド26によって支持されていた部分に他の部分とは異なる跡が生じる「パッド跡」と、液晶パネル10に備わる複数の画素に、常時輝点となる画素が生じる「微小輝点」と、がある。これらの不良は、いずれも剥離帯電に起因して生じるものである。検証実験1の実験結果は、
図8の表に示される通りである。
【0030】
検証実験1の実験結果について
図8を用いて説明する。
図8によれば、シート27を取り付けなかった場合は、いずれの不良に係る不良率も100%であったのに対し、シート27を取り付けた場合は、いずれの不良に係る不良率も0%であった。このように、基板搬送装置20にシート27を使用することで、剥離放電に起因する不良を良好に防ぐことができる。
【0031】
以上説明したように本実施形態のシート27は、フッ素を含有する絶縁性材料からなり、導電性粒子を含むことなく、表面に粗面29を有する表層部28を備える。
【0032】
表層部28は、フッ素を含有する絶縁性材料からなるので、非粘着性に優れている。従って、表層部28の表面上に載せた基板SU等を引き離す際の離型性が優れたものとなる。しかも、表層部28は、表面に粗面29を有しているから、離型性がより優れたものとなる。さらには、表層部28は、導電性粒子を含まないので、表面の摩擦係数が低下し、離型性がさらに優れたものとなっている。以上により、表層部28の表面上に載せた基板SU等を引き離す際に、剥離帯電が生じ難くなっている。
【0033】
また、粗面29は、算術平均粗さRaが1μm以上とされる。仮に粗面の算術平均粗さRaが1μmに満たない場合に比べると、高い離型性が得られる。これにより、剥離帯電がより生じ難くなる。
【0034】
また、粗面29は、算術平均粗さRaが2μm以上とされる。仮に粗面の算術平均粗さRaが2μmに満たない場合に比べると、高い離型性が得られる。これにより、剥離帯電がより生じ難くなる。
【0035】
また、絶縁性材料は、ポリテトラフルオロエチレンを含む。ポリテトラフルオロエチレンは、比誘電率及び誘電正接が共に低いことから、優れた絶縁性能が得られる。その反面、ポリテトラフルオロエチレンは、帯電が生じ易い傾向にある。その点、表層部28は、表面に粗面29を有するとともに、導電性粒子を含まないので、優れた離型性が得られており、それにより剥離帯電を生じ難くすることができる。
【0036】
また、表層部28が設けられる基材27Aを備えており、基材27Aは、ガラス繊維27A1を含む。ガラス繊維27A1を含む基材27Aの表面には、所定の表面粗さの凹凸が生じている。この凹凸を利用することで、表層部28の表面に所定の表面粗さの粗面29を容易に設けることができる。
【0037】
また、本実施形態に係る支持アーム(基板支持体)25は、上記記載のシート27と、基板SUを支持する基板支持部25Bと、を備え、シート27は、基板支持部25Bのうち、基板SU側を向いた面に設けられ、粗面29が基板SUに接する。基板支持部25Bのうち、基板SU側を向いた面に設けられたシート27の粗面29が基板SUに接することで、基板SUの支持が図られる。シート27は、表面に粗面29を有するとともに、導電性粒子を含まないので、基板支持部25Bから基板SUを引き離す際に基板SUの離型性が優れたものとなる。これにより、剥離帯電が生じ難くなっている。
【0038】
<実施形態2>
実施形態2を
図9によって説明する。この実施形態2では、シート127の構成を変更した場合を示す。なお、上記した実施形態1と同様の構造、作用及び効果について重複する説明は省略する。
【0039】
本実施形態に係るシート127は、
図9に示すように、基材127Aに、実施形態1に記載したガラス繊維27A1が含まれず、スペーサ30が含有されている。スペーサ30は、例えば合成樹脂製とされ、所定の平均粒径となるよう製造されている。スペーサ30は、基材127Aを構成する絶縁性樹脂材料(ポリテトラフルオロエチレン)に、所定の分布密度でもって分散配合されている。基材127A中にスペーサ30を分散配合させることで、スペーサ30の粒径や分布密度等に応じて、表層部128の表面に所定の表面粗さ(算術平均粗さRaが1μm以上または2μm以上)の粗面129を容易に設けることができる。
【0040】
以上説明したように本実施形態によれば、表層部128内に分散配合されるスペーサ30を備える。表層部128内に分散配合されるスペーサ30の粒径や分布密度等を調整することで、表層部128の表面に所定の表面粗さの粗面129を容易に設けることができる。
【0041】
<実施形態3>
実施形態3を
図10によって説明する。この実施形態3では、上記した実施形態1からシート227の構成を変更した場合を示す。なお、上記した実施形態1と同様の構造、作用及び効果について重複する説明は省略する。
【0042】
本実施形態に係るシート227は、
図10に示すように、基材227Aに、実施形態1に記載したガラス繊維27A1と、実施形態2に記載したスペーサ30と、がいずれも含まれない。シート227は、絶縁性樹脂材料(ポリテトラフルオロエチレン)によって構成される基材227Aのうちの表層部228の表面に、研磨処理を施すことで、所定の表面粗さ(算術平均粗さRaが1μm以上または2μm以上)の粗面229が設けられている。
【0043】
<実施形態4>
実施形態4を
図11または
図12によって説明する。この実施形態4では、上記した実施形態1からシート327の取付対象物を変更した場合を示す。なお、上記した実施形態1と同様の構造、作用及び効果について重複する説明は省略する。
【0044】
本実施形態に係るシート327は、
図11に示すように、基板SUを焼成するためのベーク炉40に用いられる。ベーク炉40は、内部に基板SUを収容する基板収容室41Aを有する炉本体(基板支持体)41と、基板収容室41A内に配されて基板SUを支持する基板支持部42と、を有する。なお、炉本体41には、基板収容室41Aを外部に開放させる開口が設けられるとともに、基板収容室41Aの開口を開閉可能な形で扉が取り付けられている。基板支持部42は、基板SUの主面に沿って延在する細長い板状をなしている。基板支持部42は、基板収容室41Aの底面において、複数(
図11では3つ)が、自身の幅方向(X軸方向)について間隔を空けた位置に配されている。本実施形態では、シート327は、ベーク炉40のうちの各基板支持部42に取り付けられている。シート327は、基板支持部42における基板収容室41Aの底面側とは反対側の面に接する形で取り付けられている。つまり、基板支持部42及びシート327は、基板収容室41Aの底面上にて積層形成されている。シート327は、基板支持部42の長さ方向に沿って延在し、基板支持部42の全長にわたって設けられている。シート327は、粗面329が基板SUに対して直接接する。
【0045】
続いて、検証実験2を行った。検証実験2では、本段落以前に説明したベーク炉40に備わる基板支持部42にシート327を取り付けた場合と取り付けなかった場合とで、液晶パネル10(
図1を参照)に不良が発生する確率である不良率に違いがあるか否かを検証した。検証実験2では、シート327として、比較実験1,2にて説明した実施例2を用いている。検証実験2では、一対の基板SU(対向基板10A及びアレイ基板10B)を貼り合わせてなる液晶パネル10をベーク炉40に対して出し入れした。詳しくは、検証実験2では、液晶パネル10を外部からベーク炉40の基板収容室41A内に収容し、液晶パネル10を基板支持部42に支持させてから、液晶パネル10を基板収容室41A外へ取り出して液晶パネル10を基板支持部42から剥離した後に、液晶パネル10を検査し、不良の有無を判定した。不良の種類としては、液晶パネル10のうち、基板支持部42によって支持されていた部分に他の部分とは異なる跡が生じる筋状のムラである「スジムラ」と、液晶パネル10に備わる複数の画素に、常時輝点となる画素が生じる「微小輝点」と、がある。これらの不良は、いずれも剥離帯電に起因して生じるものである。検証実験2の実験結果は、
図12の表に示される通りである。
【0046】
検証実験2の実験結果について
図12を用いて説明する。
図12によれば、シート327を取り付けなかった場合は、いずれの不良に係る不良率も100%であったのに対し、シート327を取り付けた場合は、いずれの不良に係る不良率も0%であった。このように、ベーク炉40にシート327を使用することで、剥離放電に起因する不良を良好に防ぐことができる。
【0047】
<他の実施形態>
本明細書が開示する技術は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されず、例えば次のような実施形態も技術的範囲に含まれる。
【0048】
(1)実施形態1の比較実験2において、基板SUとしてアレイ基板10Bを用いた場合でも、比較実験2の実験結果と同様の傾向の結果が得られると推考される。
【0049】
(2)実施形態1,2を組み合わせて、シート27,127の基材27A,127Aに、ガラス繊維27A1とスペーサ30とを含ませることも可能である。
【0050】
(3)実施形態1,3を組み合わせて、ガラス繊維27A1を含有させた基材127Aの表面に研磨処理を施してもよい。
【0051】
(4)実施形態2,3を組み合わせて、スペーサ30を含有させた基材227Aの表面に研磨処理を施してもよい。
【0052】
(5)実施形態4に記載したベーク炉40に、実施形態2,3に記載したシート127,227を用いることも可能である。
【0053】
(6)実施形態4に記載したベーク炉40に備わる基板支持部42に、実施形態1に記載したようなパッド26を取り付けることも可能である。その場合、パッド26の材料として、基板SUの焼成温度に耐え得る材料を用いればよい。
【0054】
(7)実施形態1~4に記載した基板搬送装置20やベーク炉40以外であっても、基板SUを支持する基板支持部及び基板支持体を備える各種装置にシート27,127,227,327を設けることが可能である。
【0055】
(8)シート27,127,227,327は、粘着層27Bを有さない構成でもよい。その場合、例えばシート27,127,227,327を基板支持部25B,42に対して例えばコーティング等の手法によって一体的に設けるようにすればよい。
【0056】
(9)基板SUは、ガラス基板以外にも合成樹脂製の樹脂基板でもよい。
【0057】
(10)液晶パネル10の表示モードは、VA、FFS、IPS等のうちのいずれでもよい。
【0058】
(11)液晶パネル10以外の表示パネル(有機EL(Electro Luminescence)表示パネル等)を構成する基板SUに接するよう用いられるシート27,127,227,327であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
25…支持アーム(基板支持体)、25B…基板支持部、27,127,227,327…シート、27A,127A,227A…基材、27A1…ガラス繊維、28…表層部、29,129,229,329…粗面、41…炉本体(基板支持体)、42…基板支持部、SU…基板