(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148263
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】ホログラフィックディスプレイ装置および計算機合成ホログラム計算方法
(51)【国際特許分類】
G03H 1/22 20060101AFI20241010BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
G03H1/22
G02B3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061255
(22)【出願日】2023-04-05
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】下馬場 朋禄
(72)【発明者】
【氏名】藤森 颯真
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智義
【テーマコード(参考)】
2K008
【Fターム(参考)】
2K008CC03
2K008EE01
2K008FF27
2K008HH06
2K008HH23
(57)【要約】
【課題】簡易な光学系により再生像の視域と視野を拡大することができるホログラフィックディスプレイ装置および計算機合成ホログラム計算方法を提供する。
【解決手段】光源と、ホログラム表示素子と、複数の拡散部が周期的に並んだ拡散手段と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
ホログラム表示素子と、
複数の拡散部が周期的に並んだ拡散手段と、
を備えることを特徴とするホログラフィックディスプレイ装置。
【請求項2】
前記拡散部のピッチが等しく並んでいることを特徴とする請求項1に記載のホログラフィックディスプレイ装置。
【請求項3】
前記拡散手段は、同配置パターンの複数の前記拡散部からなるブロック領域を複数有し、
前記ブロック領域のピッチが等しく並んでいることを特徴とする請求項1に記載のホログラフィックディスプレイ装置。
【請求項4】
前記拡散手段は、前記拡散部がレンズからなるレンズアレイであることを特徴とする請求項1に記載のホログラフィックディスプレイ装置。
【請求項5】
前記ホログラム表示素子と前記拡散手段との離間距離を変更可能であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のホログラフィックディスプレイ装置。
【請求項6】
複数の前記拡散手段を選択的に切り替え可能であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のホログラフィックディスプレイ装置。
【請求項7】
複数の前記拡散手段にそれぞれ対応する計算機合成ホログラムを予め計算し記憶しており、
前記拡散手段の切り替えに連動して、前記計算機合成ホログラムも切り替え可能であることを特徴とする請求項6に記載のホログラフィックディスプレイ装置。
【請求項8】
光源と、
ホログラム表示素子と、
複数の拡散部が周期的に並んだ拡散手段と、を備えるホログラフィックディスプレイ装置の計算機合成ホログラム計算方法であり、
物体点から前記拡散手段まで回折計算を行う第1のステップと、
前記拡散手段の逆位相分布を乗算する第2のステップと、
前記拡散手段から前記ホログラム表示素子まで回析計算を行う第3のステップと、
前記ホログラム表示素子上の位相分布を保存する第4のステップと、
を備えることを特徴とする計算機合成ホログラム計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ホログラフィに用いるホログラフィックディスプレイ装置および計算機合成ホログラム計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ホログラフィは、理論的に光の波面を完全に再生することができ、人間が立体を知覚する要件(焦点調節,輻輳,両眼視差,運動視差)を全て満たすことができるため、人間にとって自然な3次元像を再生可能な技術である。電子ホログラフィの再生基本原理は、レーザー等の光源からの光(参照光)を空間光変調器(SLM)に入力される変調パターンとしての計算機合成ホログラム(CGH)に従って変調し、3次元像の反射光を再現した再生光を得ることで3次元像を再生するものである。なお、CGHは、SLMにおける振幅、あるいは位相の変調度合いを階調として記録しており、コンピュータグラフィクスで作成された3次元像データ、あるいは3次元カメラ等で取得された3次元像データから計算機上で合成される。また、CGHを表示するSLMとしては、例えば反射型液晶パネル(LCOS)や液晶ディスプレイ(LCD)等が知られており、ホログラム表示素子とも呼ばれる。
【0003】
電子ホログラフィによる3次元像の再生において、像の見える範囲(視域)は、ホログラム表示素子の画素ピッチに依存し、像の大きさ(視野)は、ホログラム表示素子の幅に依存している。例えば、現在市販されているSLM(3840×2160画素,画素ピッチ3.74μm,リフレッシュレート60Hz)においては、参照光の波長633nmの場合、再生像の視域が9.7°、視野が1.44cmとなり、液晶テレビ等の一般的な映像表示デバイスと比較すると極めて視域が狭く、視野も小さくなっている。
【0004】
このようなホログラム表示素子を用いたディスプレイ装置において、再生像の視域を広げるためには、ホログラム表示素子のピクセル間隔を微細化する必要があり、再生像の視野を大きくするためには、ホログラム表示素子の面積を大きくする必要がある。すなわち、再生像の視域と視野の両方を拡大するためには、膨大な画素数のホログラム表示素子が必要となり、実用上の大きな課題となっている。
【0005】
非特許文献1では、ホログラム表示素子に表示される1枚のホログラムを時分割制御する、詳しくは異なる方向に時分割で再生することにより、再生像の視域を拡大する手法が提案されている。しかしながら、非特許文献1の手法では、異なる方向に再生像を再生するために、複数の光源が必要となるだけでなく、時分割で再生するために、例えば30°×30°に視域を拡大する場合、理論上1500~1800Hzの高リフレッシュレートのホログラム表示素子が必要となるため、技術的な制約が大きく実用的ではなかった。
【0006】
非特許文献2では、複数のホログラム表示素子を並べて大面積のホログラム表示素子を構成することにより、再生像の視域と視野を拡大する手法が提案されている。しかしながら、非特許文献2の手法では、複数のホログラム表示素子を用いているため、システムが複雑化するとともに、ホログラム表示素子の面積に見合った大きな光学部品が必要となるため、システムサイズとコストの増大が問題となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】B. Lee, D. Yoo, J. Jeong, S. Lee, D. Lee, and B. Lee, “Wide-angle speckleless DMD holographic display using structured illumination with temporal multiplexing,” Opt. Lett. 45(8), 2148-2151 (2020).
【非特許文献2】Sasaki, H., Yamamoto, K., Wakunami, K., Ichihashi, Y., Oi, R. and Senoh, T., “Large size three-dimensional video by electronic holography using multiple spatial light modulators,” Sci Rep 4, 6177 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、非特許文献1,2における提案手法によって、再生像の視域と視野を拡大することは可能であるが、光学系やシステムの複雑化、高コスト化が避けられないことから、電子ホログラフィの実用化に向けて、簡易な光学系により再生像の視域と視野を拡大する手法が求められている。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、簡易な光学系により再生像の視域と視野を拡大することができるホログラフィックディスプレイ装置および計算機合成ホログラム計算方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のホログラフィックディスプレイ装置は、
光源と、
ホログラム表示素子と、
複数の拡散部が周期的に並んだ拡散手段と、
を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、光源から照射された光をホログラム表示素子に入力される計算機合成ホログラムに従って変調させ、さらに複数の拡散部が周期的に並んだ拡散手段を用いた簡易な光学系によって、再生像の視域と視野を拡大することができる。加えて、複数の拡散部が周期的に並ぶことにより、アライメントが合う配置箇所が複数存在するため、拡散手段のアライメントを行いやすい。
【0011】
前記拡散部のピッチが等しく並んでいることを特徴としている。
この特徴によれば、複数の拡散部が高精度で周期的に並んだ拡散手段を用いた簡易な光学系により、再生像の視域と視野を拡大することができる。加えて、複数拡散部が高精度で周期的に並ぶことにより、アライメントが合う配置箇所が複数存在するため、さらに拡散手段のアライメントを行いやすい。
【0012】
前記拡散手段は、同配置パターンの複数の前記拡散部からなるブロック領域を複数有し、
前記ブロック領域のピッチが等しく並んでいることを特徴としている。
この特徴によれば、同じ配置パターンの複数の拡散部からなるブロック領域を有することで、拡散手段に入力される光のノイズのパターンを変更することができる。
【0013】
前記拡散手段は、前記拡散部がレンズからなるレンズアレイであることを特徴としている。
この特徴によれば、レンズアレイの配置ずれが再生像の位置ずれとして現れるため、さらにアライメントを行いやすくすることができる。
【0014】
前記ホログラム表示素子と前記拡散手段との離間距離を変更可能であることを特徴としている。
この特徴によれば、ホログラム表示素子と拡散手段との離間距離に比例して再生像の視野を調整することができる。
【0015】
複数の前記拡散手段を選択的に切り替え可能であることを特徴としている。
この特徴によれば、拡散手段の構成に応じて、再生像の視域や視野を切り替えることができる。
【0016】
複数の前記拡散手段にそれぞれ対応する計算機合成ホログラムを予め計算し記憶しており、
前記拡散手段の切り替えに連動して、前記計算機合成ホログラムも切り替え可能であることを特徴としている。
この特徴によれば、拡散手段を切り替える度に計算機合成ホログラムを再計算する必要がなくなるため、再生像の視域や視野を迅速に切り替えることができる。
【0017】
本発明の他の一観点に係る計算機合成ホログラム計算方法は、
光源と、
ホログラム表示素子と、
複数の拡散部が周期的に並んだ拡散手段と、を備えるホログラフィックディスプレイ装置の計算機合成ホログラム計算方法であり、
物体点から前記拡散手段まで回折計算を行う第1のステップと、
前記拡散手段の逆位相分布を乗算する第2のステップと、
前記拡散手段から前記ホログラム表示素子まで回析計算を行う第3のステップと、
前記ホログラム表示素子上の位相分布を保存する第4のステップと、
を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、光源から照射された光をホログラム表示素子に入力される計算機合成ホログラムに従って変調させ、さらに複数の拡散部が周期的に並んだ拡散手段を用いた簡易な光学系によって、再生像の視域と視野を拡大することができる。加えて、複数拡散部が周期的に並ぶことにより、アライメントが合う配置箇所が複数存在するため、拡散手段のアライメントを行いやすい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態におけるホログラフィックディスプレイ装置の構成例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態における計算機合成ホログラム計算方法を示す説明図である。
【
図4】(a)~(c)は、レンズアレイの構成例を示す図である。
【
図5】実施例1におけるシミュレーションの条件を示す模式図である。
【
図6】(a)は、理想的な再生像を示す図であり、(b)は、実施例1のシミュレーションにより得られた再生像を示す図である。また、
図6は、中心から見た再生像を示している。
【
図7】
図6(b)の再生像について、視点を変更した状態を示す図である。
【
図8】実施例2において、計算機合成ホログラムの記録時と再生時とで拡散素子の配置(位相分布)をずらした様子を示す図である。
【
図9】(a)は、周期的な拡散素子に配置ずれがない場合に得られる再生像を示す図であり、(b)は、周期的な拡散素子に0.5mmの配置ずれがある場合に得られる再生像を示す図である。
【
図10】(a)は、非周期的な拡散素子に配置ずれがない場合に得られる再生像を示す図であり、(b)は、非周期的な拡散素子に0.5mmの配置ずれがある場合に得られる再生像を示す図である。
【
図11】(a)は、非周期的な拡散素子に配置ずれがない場合に得られる再生像を示す図であり、(b)~(d)は、非周期的な拡散素子に1~3ピッチの配置ずれがある場合に得られる再生像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態により実施することが可能であり、以下に示す実施形態や実施例の例示に限定されるものではない。
【0020】
図1に示されるように、本実施形態におけるホログラフィックディスプレイ装置は、例えば、参照光を照射する光源と、ホログラム表示素子としての空間光変調器(SLM)と、拡散手段としての拡散素子と、を備えており、SLMよりも再生像側、すなわち観察者側に拡散素子を1つ置いた簡易な光学系によって再生光に周期性を与えることにより、再生像の視域と視野を拡大することができる。具体的には、SLM(3840×2160画素,画素ピッチ3.74μm,リフレッシュレート60Hz)において、参照光の波長633nmの場合、再生像の視域(視域角α)が9.7°、視野(像サイズ)が1.44cmであったものが、
図1のように拡散素子を置くことにより、再生像の視域(視域角β)を30°、視野(像サイズ)を2.87cmに拡大することができる。
【0021】
なお、
図1においては、拡散素子が物体よりも再生像側に配置されているが、これに限らず、拡散素子が物体よりもSLM側に配置されていてもよい。なお、
図1のように、拡散素子が物体よりも再生像側に配置されている方が、高画質の再生像が得られる。
【0022】
光源は、SLMに参照光を照射可能なものであれば、レーザー、ミラー、レンズ等を組み合わせて構成されるものを例示することができる。
【0023】
SLMは、変調パターンとして入力される計算機合成ホログラム(CGH)に従って光源から照射された参照光を変調する。なお、SLMは、
図1に示される透過型のものに限らず、反射型のものであってもよい。
【0024】
ここで、本発明に係る計算機合成ホログラム(CGH)の計算方法について説明する。
図2に示されるように、CGHの計算方法は、物体点から拡散素子まで回折計算を行う第1のステップ(S1)と、拡散素子の逆位相分布を乗算する第2のステップ(S2)と、拡散素子からSLMまで回析計算を行う第3のステップ(S3)と、SLM上の位相分布を保存する第4のステップ(S4)と、を備えている。なお、拡散素子が物体よりもSLM側に配置されている場合であっても、同様の方法により計算されたCGHを用いて再生像を得ることができる。
【0025】
また、上述したCGHの計算において、第2のステップ(S2)に係る逆位相分布は、拡散素子特有のものであるため、CGHを一度作成したら物体点、拡散素子およびSLMの配置や離間距離等が同じ条件であれば再計算する必要がない。ここで、拡散素子の複素振幅分布は、例えば拡散素子の拡散部がレンズである場合には、焦点距離とレンズの大きさによって決まる。
【0026】
なお、本実施形態におけるホログラフィックディスプレイ装置は、複数の拡散素子を選択的に切り替え可能に構成されていてもよい。これによれば、再生像の再生に使用する拡散素子を切り替えることにより、再生像の視域や視野を切り替えることができる。
【0027】
また、本実施形態におけるホログラフィックディスプレイ装置は、図示しない制御部に拡散素子の種類に対応したCGHが予め計算されて記憶されており、拡散素子の切り替えに連動して対応するCGHに切り替え可能に構成されていてもよい。これによれば、再生像の再生に使用する拡散素子を切り替える度にSLMに入力されるCGHを再計算する必要がなくなるため、再生像の視域や視野を迅速に切り替えることができる。
【0028】
また、ホログラフィックディスプレイ装置は、物体点、拡散素子およびSLMの配置や離間距離等の条件を変更可能に構成されていてもよく、図示しない制御部が変更された条件に応じて拡散素子に対応するCGHを再計算するように構成されていてもよい。また、ホログラフィックディスプレイ装置は、所定の条件に切り替え可能に構成され、図示しない制御部に各条件と拡散素子の組み合わせに対応したCGHが予め計算されて記憶されており、条件の切り替えに連動して対応するCGHに切り替え可能に構成されていてもよい。
【0029】
本実施形態における拡散素子は、複素振幅分布が周期的なもの、すなわち複数の拡散部が周期的に並んだものであり、好ましくは拡散部としてのレンズが周期的に並んだレンズアレイ(
図3参照)である。以下、拡散素子としてレンズアレイを例に説明するが、拡散素子はレンズアレイに限らず、例えば拡散部としてのピンホールが周期的に並んだものであってもよい。
【0030】
レンズアレイの材質は、フューズドシリカ、ガラス、プラスチックのいずれであってもよく、レンズの形状は、凹、凸、球面、非球面のいずれであってもよい。また、レンズアレイの仕様は、対応波長380~780nmの範囲であることが好ましい。なお、レンズの大きさ/焦点距離が大きいほど、再生像の視域を拡大することができる。
【0031】
また、レンズアレイは、同一構成の複数のレンズ、特にレンズの大きさが同じレンズにより構成されることが好ましい。これにより、レンズアレイの配置ずれが再生像の位置ずれとして現れるため、アライメントを行いやすい。
【0032】
また、レンズアレイは、レンズのピッチが等しく並んでいることが好ましい。
【0033】
また、レンズアレイは、レンズが周期的に並んだものであれば、
図3、詳しくは
図4(a)に示されるような円形のレンズが三角配列されたものに限らず、
図4(b)に示されるように、レンズが正方配列されたものであってもよい。また、レンズは円形のものに限らず、例えば、四角形や六角形等の多角形であってもよい。
【0034】
また、レンズアレイは、同配置パターンの複数のレンズからなるブロック領域を複数有し、ブロック領域のピッチが等しく並んでいるものであってもよい。具体的には、
図4(c)に示されるように、大きさの異なるレンズが同配置パターンに配列されたブロック領域(鎖線で囲まれた領域)を複数有し、当該ブロック領域が三角配列されたもの等を例示することができる。このように、拡散素子は、同じ配置パターンの複数の拡散部からなるブロック領域を有することで、拡散素子に入力される光のノイズのパターンを変更することができる。
【0035】
なお、本発明において、拡散素子の複素振幅分布をu(x,y)としたとき、ある値x0,y0について、下記式(1)が成立するものを「周期的」と定義する。
【0036】
【0037】
なお、実際には、上記式(1)に従う正確な拡散素子を作成することは困難であるため、下記式(2)のように多少のばらつきは許容する。すなわち、拡散素子は、拡散部のピッチが等しく並べられるものに限らず、拡散部のピッチの10%以内、好ましくは1%以内の範囲は本発明の拡散部のピッチが等しいものとする。
【0038】
【実施例0039】
ここで、上記実施形態に係る実施例のホログラフィックディスプレイ装置をシミュレーションし、その効果を確認した。以下具体的に説明する。
【0040】
本実施例1においては、
図5に示されるように、SLM(3840×2160画素,画素ピッチ3.74μm,リフレッシュレート60Hz)と、レンズアレイ(焦点距離1.87mm,レンズの大きさ1.00mm×1.00mm,サイズ2.87cm×1.62cm)との間に物体(物体面)を配置し、SLMと物体面との離間距離を9.9cm、物体面とレンズアレイとの離間距離を5.4cm、物体面と眼(瞳径4mm角)との距離を10.8cmに設定した。なお、本実施例1のシミュレーションでは、CGHの計算を行いやすくするため四角形のレンズを用いた。光源から波長633nmの参照光を照射するシミュレーションを行った結果、
図6(b)および
図7に示されるように視域角30°、視野2.87cmの再生像を確認できた。なお、本実施例では、拡散角が30°のレンズアレイを用いているため、視域角が30°となっているが、拡散角が30°よりも大きい拡散素子を使用すれば、他に追加部品を使用することなく視域を拡大することが可能である。
【0041】
なお、
図6(b)は、再生像を視域の中心から見た再生像であり、
図7は、視域の中心から左側に視点を変更したときの再生像である。
図6(a)に示される理想的な再生像と比べると、どちらも画質の低下が確認できた。本実施例のシミュレーションにおいては、拡散部がレンズからなるレンズアレイを使用していることから、画質の低下はレンズのフーリエ変換作用に基づく誤差により説明することができるため、フーリエ変換作用による誤差を補正することにより、再生像の画質を向上させることが可能であると推測される。
本実施例2においては、前記実施例1と同じ条件でシミュレーションを行う。周期的な拡散素子としては、前記実施例1と同じレンズアレイを使用した。また、非周期的な拡散素子としては、レンズアレイと同じサイズの拡散板(サンプリングピッチ1.18μm,サイズ2.87cm×1.62cm)を使用する。なお、上述したように、レンズアレイは、焦点距離と画角(レンズの大きさ)により視域(視域角)が定まるのに対し、拡散板は、サンプリングピッチにより視域(視域角)が定まる。
このように、非周期的な拡散素子では、アライメントが合う配置箇所が1つだけであるため、拡散素子のアライメントにミクロンレベル或いはサブミクロンレベルの精度が要求されアライメントが困難であるが、周期的な拡散素子では、アライメントが合う配置箇所が複数存在することから、アライメントの堅牢性がある。また、周期的な拡散素子としてレンズアレイを用いることにより、レンズアレイの配置ずれが再生像の位置ずれとして現れるため、さらにアライメントを行いやすくすることができる。
以上、説明したように、本発明のホログラフィックディスプレイ装置は、光源から照射された光をホログラム表示素子に入力されるCGHに従って変調させ、さらに複数の拡散部が周期的に並んだ拡散手段を用いた簡易な光学系によって、再生像の視域と視野を拡大することができる。すなわち、両眼視が困難な小さな再生像しか再生できない一般的な画素数のホログラム表示素子に対して、拡散手段を追加した簡易な光学系により、再生像の視域と視野を拡大することができるため、ホログラフィックディスプレイ装置のシステムの小型化が可能である。なお、ホログラム表示素子に入力されるCGHは、本発明のホログラム表示素子の計算方法により計算されたものであることが好ましい。
また、本発明のホログラフィックディスプレイ装置においては、周期的な拡散素子を用いることによりアライメントが合う配置箇所が複数存在することから、拡散手段の配置をアライメントしやすい。そのため、例えばホログラフィックディスプレイ装置に拡散手段を移動させるダイヤル式の調整手段を設けることにより、拡散手段の配置を簡単にアライメントすることができる。
また、本発明のホログラフィックディスプレイ装置においては、レンズアレイを用いることにより、レンズアレイの配置ずれが再生像の位置ずれとして現れるため、さらにアライメントを行いやすくすることができる。
また、本発明に用いられる拡散手段は、拡散部とホログラム表示素子の画素を1:1の対応関係となるように揃える必要もないため、ホログラフィックディスプレイ装置をより簡素に構成することができる。
また、本発明のホログラフィックディスプレイ装置は、ホログラム表示素子と拡散手段との離間距離に比例して再生像の視野を拡大することができる。そのため、例えばホログラフィックディスプレイ装置にホログラム表示素子と拡散手段との離間距離を変化させるダイヤル式の調整手段を設けることにより、再生像の視野を簡単に変更することができる。また、ホログラム表示素子に対して拡散手段を移動させるように構成することにより、拡散手段を例えば前後方向と左右方向或いは上下方向に移動させる移動機構を設けるだけで、拡散手段の配置ずれのアライメントと再生像の視野の変更を容易に実現することができる。
また、本発明のホログラフィックディスプレイ装置は、複数の拡散手段を選択的に切り替え可能とすることにより、拡散手段の構成に応じて、再生像の視域や視野を切り替えることができる。また、選択された拡散手段の仕様によって、再生像の画質等を適宜変更することもできる。
また、本発明のホログラフィックディスプレイ装置は、複数の拡散手段にそれぞれ対応するCGHを予め計算し記憶しており、拡散手段の切り替えに連動して、パラメータも切り替えることにより、拡散手段を切り替える度にCGHを再計算する必要がなくなるため、再生像の視域や視野を迅速に切り替えることができる。また、例えば1つの拡散手段に対して物体点や離間距離等の再生環境に応じた複数のCGHが用意されていてもよい。
本発明は、光源から照射された光をホログラム表示素子に入力されるCGHに従って変調させ、さらに拡散手段を用いた簡易な光学系によって周期性を与えることによって、再生像の視域と視野を拡大することが可能なものであり、従来の再生像の視域と視野の拡大手法と比較してシステムの小型化とコストの抑制を達成することが可能であることから、電子ホログラフィの実用化に向けた重要な一歩として産業上の利用可能性がある。また、本発明は、システムの小型化が可能であるため、家庭用機器の他、携帯端末にも応用可能である。