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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148269
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】遮光性フィルム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
G02B5/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061266
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柴田 寛
【テーマコード(参考)】
2H042
【Fターム(参考)】
2H042AA13
2H042AA15
2H042AA22
2H042AA28
(57)【要約】
【課題】 光学部材等の薄型化、軽量化が可能であり、且つ遮光層の表面の光沢度を抑え、加工性が良好な遮光性フィルムを提供すること。
【解決手段】 バインダー樹脂、黒色顔料及び樹脂粒子を含有してなる遮光層を有する遮光性フィルムであって、前記樹脂粒子の復元率が10%以上、95%以下であることを特徴とする遮光性フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】

バインダー樹脂、黒色顔料および樹脂粒子を含有してなる遮光層を有する遮光性フィルムであって、前記樹脂粒子は復元率が10%以上、95%以下である、
遮光性フィルム。
【請求項2】
前記樹脂粒子が、アクリル樹脂粒子であることを特徴とする請求項1記載の遮光性フィルム。
【請求項3】
JIS Z8741に準拠した鏡面光沢度の測定方法において、遮光層のどちらかの一方の面の60°光沢度が5以下であることを特徴とする請求項1または2項記載の遮光性フィルム。
【請求項4】
前記遮光層のみからなる、請求項1または2項記載の遮光性フィルム。
【請求項5】
光学部材用である、請求項1または2記載の遮光性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
遮光性フィルムは、例えば、レンズユニット等の光学部材の他、オプトデバイス部材、表示デバイス部材、機械部品、電気・電子部品等の各種用途において、所望の波長の光を散乱または/および吸収等によりその波長の光を遮光するための遮光層を有する部材である。例えば、高性能一眼レフカメラ、コンパクトカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話用カメラのカメラモジュール等の光学用途では、小型化、薄型化、軽量化への要求により、金属材料により形成されていた光学機器の遮光性部材がプラスチック材料へと代わりつつある。
【0003】
また、このようなプラスチック材料を用いた遮光層としては、遮光層形成用の塗液を光学部材に直接塗布して遮光層を形成する方法もある。しかし、前記方法では遮光層の表面の形状や光が透過する遮光層端面の形状を、光学部材に適した形状に形成することが難しい。そこで、光学部材に遮光層形成用の塗液を直に塗布するのではなく、別途作製したフィルム形態の遮光性フィルムの利用が検討されている。
例えば、特許文献1には、樹脂成分に、黒色顔料と不定形シリカを必須成分とする遮光性フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-194514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の遮光フィルムには、表面及び打ち抜き端面の低反射性や遮光性が期待できる。しかし、不定形シリカは粒子自体が硬く、遮光層が脆くなってしまい、遮光層を打抜き加工する際にバリや割れが発生してしまう。打抜き加工時に発生するバリや割れは、特に打ち抜き加工部の端面の低反射性と遮光性を損なうという問題があった。
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、遮光層の表面の光沢度が低く低反射性に優れ、加工性に優れ、打ち抜き加工部の端面の低反射性にも優れる遮光性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の態様において本発明の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、バインダー樹脂、黒色顔料および樹脂粒子を含有してなる遮光層を有する遮光性フィルムであって、上記樹脂粒子は、復元率が10%以上、95%以下であることを特徴とする遮光性フィルムに関する。
【0007】
また、本発明は、上記樹脂粒子がアクリル樹脂粒子である上記遮光性フィルムに関する。
【0008】
また、JIS Z8741に準拠した鏡面光沢度の測定方法において、遮光層のどちらかの一方の面の60°光沢度が5以下である上記遮光性フィルムに関する。
【0009】
また、本発明は、上記遮光層のみからなる上記遮光性フィルムに関する。
【0010】
また、本発明は、光学部材用である上記遮光性フィルムに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、遮光層の表面の光沢度が低く低反射性に優れ、加工性に優れ、打ち抜き加工部の端面の低反射性にも優れる遮光性フィルムを提供できるようになった。本発明の遮光性フィルムにより光学機器の薄型化、軽量化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本願実施例1における遮光フィルムの打抜き加工端面の状態。
図2】本願比較例1における遮光フィルムの打抜き加工端面の状態。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。また、本明細書で特定する数値「A~B」とは、数値Aと数値Bを含み、且つ数値Aより大きく数値Bと数値Bより小さい範囲をいう。また、本明細書における「フィルム」とは、JISにおいて定義される「フィルム」のみならず、「シート」も含むものとする。
【0014】
《遮光層》
本実施形態の遮光性フィルムは、バインダー樹脂、黒色顔料及び樹脂粒子を含有してなる遮光層を有し、その遮光層の表面光沢度を抑え、加工性に優れた遮光性フィルムを提供できる。
【0015】
<バインダー樹脂>
バインダー樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン/ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン系樹脂、アルキド樹脂、アクリル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂等も用いることができる。これらは1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
なお、バインダー樹脂は、黒色顔料と樹脂粒子の分散性、遮光層の耐熱性と強度の点から、セルロース系樹脂が好ましい。
【0016】
セルロース系樹脂としては、セルロース、またはセルロース誘導体等が挙げられる。セルロース誘導体としては、例えば、セルロースエステル、セルロースカーバメート、セルロースエーテル等が挙げられる。
これらの中でも、黒色顔料と樹脂粒子の分散性と製造時の取り扱いの点から溶剤可溶性のセルロース系樹脂が好ましく、セルロースエステルが好適である。
【0017】
セルロースエステルとしては、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート;セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどのセルロースC3-5アシレート;セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースアセテートC3-5アシレートなどのセルロースアシレートが挙げられる。
また、セルロースカーバメートとしては、例えば、セルロースフェニルカーバメートが挙げられる。
また、セルロースエーテルとしては、例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、アルキル-カルボキシアルキルセルロース、これらの誘導体[例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウムなど]などが例示できる。
【0018】
バインダー樹脂の数平均分子量は、ポリスチレン換算で、好ましくは10,000以上、150,000以下、さらに好ましくは20,000以上、100,000以下である。数平均分子量が10,000以上であることにより、より充分な被膜強度を得ることができる。数平均分子量が150,000以下であることにより、遮光層形成用樹脂組成物にした時の粘度上昇を抑えることができる。
【0019】
バインダー樹脂は、JIS K7121に準じて測定したガラス転移温度は0℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、さらに好ましくは100℃以上である。この範囲にあることで遮光層の耐熱性を保持することができる。
【0020】
バインダー樹脂は、イソシアネート硬化剤と反応可能な官能基を有していることが好ましい。イソシアネート硬化剤と反応させることで、遮光層の耐熱性と耐薬品性を向上させることができる。イソシアネート硬化剤と反応可能な官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、N-メチロール基、N-アルコキシメチル基等が挙げられる。
【0021】
<イソシアネート硬化剤>
イソシアネート硬化剤は、2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物である。イソシアネート硬化剤は、例えば、芳香族系イソシアネート、脂肪族系イソシアネート、脂環族系イソシアネートなどのイソシアネート化合物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
また、上記のイソシアネート化合物のアダクト変性体、ビュレット変性体、アロファネート変性体、ウレトンイミン変性体、ウレトジオン変性体、カルボジイミド変性体などのいわゆる変性ポリイソシアネート(イソシアネートの変性体)も、イソシアネート硬化剤として使用できる。
【0023】
イソシアネート硬化剤は、好ましくは脂肪族系イソシアネートである。脂肪族系イソシアネートを使用することで遮光層の割れを抑えることができる。より好ましくは、脂肪族系イソシアネートの3量体である3官能以上に変性したポリイソシアネート(多官能変性ポリイソシアネート、変性体とも称する)である。多官能変性ポリイソシアネートを使用することで、塗膜の割れを抑え、耐熱性をあげることができる。さらに好ましくは、脂肪族系イソシアネートをイソシアヌレートに変性したポリイソシアネート(イソシアヌレート体)もしくは脂肪族系イソシアネートをビュレットに変性したポリイソシアネート(ビュレット体)である。イソシアヌレート体もしくはビュレット体を使用することで、耐熱性を高めるととともに、塗膜の割れも抑えることができる。
【0024】
また、遮光性フィルム中の遮光層は、バインダー樹脂100質量部に対して、イソシアネート硬化剤5~50質量部の割合で含むことが好ましく、さらに好ましくは、10~40質量部である。イソシアネート硬化剤を5質量部以上含むことにより遮光層のカールを抑制し易く、50質量部以下含むことにより割れにくく丈夫な遮光層を形成し易い。
【0025】
<黒色顔料>
黒色顔料としては、カーボンブラック、チタンブラック等の公知の黒色顔料を挙げることができる。これらの黒色顔料は、1種類または2種類以上を任意に併用して用いることができる。
黒色顔料としては、顔料の分散性、低コスト化等の観点からカーボンブラックを用いることが好ましく、遮光層に帯電防止効果を付与する場合は、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックは、アグリゲート、アグロメレート等の凝集体であっても良い。
【0026】
遮光層における、黒色顔料の含有量は、遮光性、および外観の深みの点から、バインダー樹脂100質量部に対して、2質量部以上40質量部以下であり、好ましくは5質量部以上30質量部以下の範囲である。この範囲にあることで、遮光層の遮光性を保持しながら、遮光層の引張強さも保持することが可能となる。
なお、後述する樹脂粒子がカーボンブラックや黒色酸化チタンなどの黒色顔料を内包する場合、樹脂粒子中の黒色顔料は、バインダー樹脂100質量部に対する黒色顔料の含有量には含めないものとする。
【0027】
黒色顔料の平均一次粒子径は、100nm以下であることが好ましい。この範囲にあることで、遮光層の遮光性、剛性力の向上や引張強度の低下を抑えることが可能となる。さらに、好ましい範囲は、一次平均粒子径が10nm以上50nm以下である。
なお、ここでいう、平均一次粒子径は、電子顕微鏡写真や光学顕微鏡写真の拡大画像(例えば、千倍~1万倍)から一次粒子の大きさを直接計測する一般的な方法で求めることができる。具体的には、50個~100個の粒子をサンプリングして、その短軸径と長軸径を計測し、その平均をその粒子の粒径とする。
【0028】
また、黒色顔料のBET比表面積(単に「比表面積」と略記することがある)は、30m/g以上、1500m/g以下であることが好ましい。より好ましくは50m/g以上、500m/g以下である。
【0029】
また、黒色顔料のDBP(ジブチルフタレート)吸油量(単に「吸油量」と略記することがある)は、100ml/100g以上であることが好ましい。DBP(ジブチルフタレート)吸油量を100ml/100g以上にすることにより、バインダー樹脂との親和性を向上させ、被膜強度をより効果的に高めることができる。より好ましくは500ml/100g以下である。
【0030】
<樹脂粒子>
樹脂粒子は、有機樹脂が粒子状を成した物質と定義される。樹脂粒子はバインダー樹脂に分散した状態で担持されるものでバインダー樹脂とは相溶しない。樹脂粒子は、復元率が10%以上、95%以下である。復元率がこの範囲にあることで、遮光層の塗膜の強度を保持しながら、柔軟な塗膜を形成できる。さらに、樹脂粒子を添加することにより、遮光性フィルムを打ち抜き加工する際の、加工部端部の割れを抑制することができ、加工部端面の反射を抑制することができる。樹脂粒子の復元率は、10%以上、50%以下であることが好ましく、10%以上、30%以下であることがより好ましい。
樹脂粒子の復元率は、実施例の項目にて後述する微小圧縮試験機を用いた付加-除荷試験によって求めることができる。
【0031】
樹脂粒子としては、各種の合成樹脂粒子、例えば、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン/メラミン/ホルムアルデヒド樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子、スチレン樹脂粒子、エチレン樹脂粒子、フッ素樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子等が挙げられる。
これらは1種の樹脂単独で粒子として用いることができ、また2種以上の樹脂を組み合わせて粒子として用いても良く、無機顔料を複合もしくは内包して用いても良い。より好ましくは、カーボンブラックや黒色酸化チタンなどの黒色顔料を内包させることが良い。黒色顔料を内包させることで遮光層の遮光性を保持することができる。
これらの中でも、耐久性に優れているアクリル樹脂粒子が好ましく用いられる。
【0032】
樹脂粒子の平均粒子径は、1μm以上15μm以下であることが好ましく、より好ましくは2μm以上10μm以下である。この範囲にあることで遮光層の遮光性を保持し、塗膜表面の光沢度を抑えることができる。ここでいう平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計を用いて測定したときの体積を基準とする累積粒度分布における50%の粒子径(d50)のことである。
【0033】
遮光層における、樹脂粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、好ましくは10質量部以上150質量部以下、より好ましくは20質量部以上100質量部以下である。この範囲にあることで遮光層の塗膜の強度を保持し、塗膜表面の光沢度を抑えることができる。
【0034】
遮光層は、例えば、無機顔料、その他の樹脂粒子、可塑剤、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、難燃剤、難燃助剤、耐衝撃改良剤、充填剤(又は補強剤)、分散剤、帯電防止剤、発泡剤、抗菌剤、滑剤などのその他添加剤を使用することができる。これらの添加剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0035】
<遮光層を有する遮光性フィルムの製造方法>
次に、遮光層を有する遮光性フィルムの製造方法の一例について説明する。但し、本発明の遮光層の製造方法は、以下の方法に限定されない。
【0036】
遮光層は、バインダー樹脂、黒色顔料および樹脂粒子を含有してなる遮光層形成用樹脂組成物から形成することができる。
遮光層形成用樹脂組成物は、バインダー樹脂、黒色顔料及び樹脂粒子に、さらに必要に応じてその他成分や溶剤等を加え、混合し、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、またはアトライター等の各種分散手段を用いて分散することにより製造できる。
【0037】
本発明における遮光性フィルムには、剥離性のない基材上に遮光層を設けた積層タイプの場合と、遮光層のみ(以下、遮光層単層、単層タイプともいう)の場合とがある。
積層タイプは、剥離性のない基材上に遮光層形成用樹脂組成物をコーティングし、溶剤を揮発させ、必要に応じてバインダー樹脂を硬化し遮光層を形成することにより得ることができる。あるいは、剥離可能な基材上に遮光層形成用樹脂組成物をコーティングし、溶剤を揮発させた後、遮光層を剥離可能な基材から剥離性のない基材上に転写し、さらに必要に応じてバインダー樹脂を硬化し遮光層を形成することにより得ることができる。
遮光層のみの場合は、剥離可能な基材上に遮光層形成用樹脂組成物をコーティングし、溶剤を揮発させ、必要に応じてバインダー樹脂を硬化し遮光層を形成した後、剥離可能な基材を遮光層から剥離することにより得ることができる。
打抜き加工部の端面における光の反射をできるだけ抑制・防止するという点からは、遮光層単層が好ましい。
【0038】
剥離性のない基材としては、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム等の合成樹脂フィルム、合成紙、紙、金属板などが挙げられる。
中でもポリエステルフィルムが好適に用いられ、延伸加工、特に二軸延伸加工されたポリエステルフィルムが機械的強度、寸法安定性に優れる点で特に好ましい。また、耐熱性の求められる用途への使用には、ポリイミドフィルムが好適に用いられる。遮光層と相乗して遮光性を高める観点から、基材には、必要に応じてカーボンブラック等の着色剤を含有させてもよい。
また、剥離性のない基材の厚みは、遮光性フィルムの用途、および構成により異なるが、1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上50μm以下とすることがより好ましい、特に好ましくは、4μm以上30μm以下である。1μm以上とすることにより、遮光性フィルムの生産性を確保することができる。また、100μm以下とすることにより、薄型化、軽量化を可能とすることができる。
【0039】
剥離可能な基材として、前記剥離性のない基材の表面に剥離層を設けたものが挙げられる。剥離層を設けるための処理剤としては、アルキド系樹脂化合物、フッ素系化合物、シリコーン系化合物が挙げられる。
【0040】
剥離可能な基材、剥離性のない基材は、いずれも場合も形成される遮光層の表面の光沢度を効果的に低下させるために、表面が粗面化されているものを用いることが好ましい。
剥離可能な基材の粗面化面上に、遮光層を形成し、剥離可能な基材を剥離することで、剥離可能な基材における粗面の状態を遮光層の表面に写し取ることができ、その結果、遮光層の光沢度を効果的に低下させることができる。
剥離可能な基材の表面を粗面化する方法としては、剥離層を設けるための処理剤に無機顔料、樹脂粒子等を添加して、粗面化と同時に剥離処理したり、処理の対象の基材の表面を物理的および/または化学的に粗面化した後、剥離処理したりする方法が挙げられる。物理的および/または化学的な粗面化の方法としては、処理の対象の基材表面に細かい砂を高速で吹き付けるサンドブラスト加工、基材を金属彫刻ロールと弾性ロールとの間を通すエンボス加工、基材表面を化学薬品で処理するケミカルエッチング等が挙げられる。剥離可能な基材としては、処理工程上の簡便さから粗面化と同時に剥離処理してなるものを用いることが好ましい。
【0041】
剥離可能な基材の粗面化の程度は、要求される光沢により異なるが、算術平均粗さRa(算術平均粗さ)(JIS B0601:2001)は0.1μm以上6μm以下とすることが好ましく、0.3μm以上5μm以下とすることがより好ましく、0.5μm以上4μm以下とすることがさらに好ましい。Raを0.1μm以上とすることにより光沢を低く抑えやすくすることができ、6μm以下とすることにより、剥離可能な基材を遮光層から剥離しやすくすることができる。剥離可能な基材の厚みは特に限定されることはないが、剥離時の作業性を考慮して、25~250μm程度とすることが好ましい。
【0042】
積層タイプの場合に用いる剥離性のない基材の表面を粗面化する方法は特に限定されない。例えば、マット化剤を含むマット層形成用塗布液(剥離性付与機能はない)を処理の対象の表面上に塗布、乾燥することにより粗面化したり、前述の場合と同様に、サンドブラスト加工、エンボス加工、ケミカルエッチング等によって物理的および/または化学的に粗面化したりすることができる。
【0043】
遮光層形成用樹脂組成物を剥離性のない基材または剥離可能な基材にコーティングする方法としては、一般的な方法でコーティング方法が挙げられる。例えば、ディップコート、ロールコート、バーコート、ダイコート、ブレードコート、エアナイフコート等の従来公知の塗布方法が挙げられる。
【0044】
積層タイプの遮光性フィルムにおける遮光層の厚みは、要求される光学濃度、構成により異なるが、厚みが許容される用途においては、遮光層の厚みを十分に採ればよく、これにより、遮光層中の黒色顔料の含有割合が大幅に削減され、塗膜強度の高い遮光層を実現することができる。このような用途においては、遮光層の厚みは、10μm以上、100μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以上、50μm以下である。
一方、特に薄膜化が求められる用途においては、遮光層の厚みは、1μm以上、10μm未満が好ましく、より好ましくは3μm以上、9μm以下であり、さらに好ましくは5μm以上、8μm以下である。このような範囲にあることで、光学濃度を十分に取ることができる。
【0045】
単層タイプの場合における遮光層の厚みは、要求される光学濃度、遮光性フィルムの構成により異なるが、厚みが許容される用途においては、遮光層の厚みを十分に採ればよく、これにより、遮光層中の黒色顔料の含有割合が大幅に削減され、塗膜強度の高い遮光層を実現することができる。このような用途においては、遮光層の厚みは、50μm以上、100μm以下が好ましい。
一方、特に薄膜化が求められる用途においては、遮光層の厚みは、1μm以上、50μm未満が好ましく、より好ましくは10μm以上、30μm以下である。1μm以上とすることにより、遮光層にピンホール等を生じにくくすることができ、充分な遮光性を得やすくできる。また、10μm以上にすることで塗膜強度の高い遮光層を得ることができる。
【0046】
なお、剥離可能な基材を用いて遮光層を形成する場合、遮光層の厚みは、剥離可能な基材の粗面化された表面の算術平均粗さRa(算術平均粗さ)(JIS B0601:2001)よりも大きくすることが好ましい。
【0047】
遮光性フィルムは、積層タイプであれ単層タイプであれ、少なくとも一方の表面の光沢度が5以下であることが好ましい。より好ましくは光沢度が3以下であり、さらに好ましくは1以下である。さらに両面とも光沢度が低い値であることが好ましい。遮光性フィルムの光沢度が低い値である程、光の乱反射を抑えることができる。例えば、レンズユニットとして用いた場合にノイズとして誤作動の原因となるおそれを効果的に防止できる。
光沢度は、日本電色工業社製 光沢計 VG-8000を用いて、測定角度(θ)60度で測定することで求めることができる。
また、遮光性フィルムの表面は凹凸形状を有していることが好ましく、遮光性フィルムの表面の算術平均粗さRa(算術平均粗さ)(JIS B0601:2001)は、0.1μm以上6μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.3μm以上5μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上4μm以下である。この範囲にあることで、表面の光沢度を効率的に抑えることができる。遮光フィルムの表面の光沢度を効果的に抑えるには、遮光層を形成する際、表面の算術平均粗さRa(算術平均粗さ)(JIS B0601:2001)が0.1μm以上6μm以下である剥離可能な基材を用いることが効果的である。
【0048】
遮光性フィルムは、積層タイプであれ単層タイプであれ、光学濃度は3以上であることが好ましい。より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上である。遮光性フィルムの光学濃度がこの範囲にあることで、遮光性を効果的に高めることができる。光学濃度は、光学濃度計(361T卓上式透過濃度計:X-RITE社製)を用いて求めることができる。
【0049】
遮光性フィルムは、積層タイプであれ単層タイプであれ、遮光層の表面抵抗値は、1×1010Ω/□以下であることが好ましい。表面抵抗値を上記範囲にすることにより、遮光性フィルムどうしの貼りつきや加工時の加工機への貼りつき等を防止し易い。より好ましくは、1×10Ω/□以下である。
【0050】
本発明の遮光性フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、接着剤層、粘着剤層等の機能層をさらに設けた状態で用いることができる。これら機能層を設けることにより、遮光性フィルム(特に単層タイプ)が薄い場合であっても遮光性と取り扱い性、安定性および加工性に優れる。
【0051】
接着剤層は、遮光性フィルムにおける遮光層を、光学部品、表示デバイス用部品、機械部品、電気・電子部品等に接着させるためのものである。接着剤層は、アクリル系接着剤、ウレタン接着剤、ポリエステル接着剤、シリコーン接着剤などの感圧接着剤、感熱接着剤などの各種接着剤から形成することができる。
【実施例0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。
【0053】
[実施例1]
下記組成の混合物をシェーカー(スキャンデックスSK450:Fast & Fluid Management社製)により均一に攪拌混合し、遮光層形成用樹脂組成物1を得た。続いて、剥離可能な基材の剥離処理面上に、得られた遮光層形成用樹脂組成物1を塗布、乾燥し、乾燥後の厚み20μmの遮光層を形成し、基材を剥離することで、遮光層単層からなる遮光性フィルムを得た。
ここで、剥離可能な基材とは、厚み100μmのポリエステルフィルムにサンドブラスト加工を行い、算術平均粗さRa(算術平均粗さ)(JIS B0601(2001))0.8に表面を粗面化し、その粗面化した面に離型剤(離型剤名 X:リンテック社製)で剥離処理したものである。
【0054】
<遮光層形成用樹脂組成物1>
・バインダー樹脂 セルロース系樹脂(CAP482-20:イーストマンコダック社製):100部
・硬化剤 イソシアネート硬化剤(タケネートD-170N:三井化学社製):20部
・黒色顔料 カーボンブラック(バルカンXC72R:CABOT社製):15部
・樹脂粒子 アクリル樹脂粒子(ARX-806:積水化成品工業)100部
・希釈溶剤(メチルエチルケトン/シクロヘキサノン=1/1(質量比)からなる混合溶剤):900部
【0055】
[実施例2~10、比較例1~3]
表3に記載するように、バインダー樹脂の種類を表1に記載されるバインダー樹脂に変え、樹脂粒子の種類を表2に記載される樹脂粒子に変え、樹脂粒子の配合量を変更した以外は、実施例1と同様にして、それぞれ遮光層形成用樹脂組成物および遮光性フィルムを製造した。表中、特に断りのない限り、数値は部を表し、「なし」は樹脂粒子を配合していないことを表す。
なお、表3の実施例9における樹脂-2の配合量は固形分としての量の意である。
【0056】
[樹脂粒子の復元率]
表2に記載される樹脂粒子の復元率は、微小圧縮試験機(MCT-211:島津製作所社製)を用いて、負荷-除荷試験によって求めた。まず、樹脂粒子を下部加圧板(SKS平板)上に載置し、「MCTM-211」の光学顕微鏡(対物レンズ倍率50倍)で一個の独立した樹脂粒子を選び出す。選び出した樹脂粒子の直径dを、「MCTM-211」の粒子径測定カーソルで測定した。選び出す樹脂粒子は、測定対象とする粒子径に応じて決定する。
次に、選び出した樹脂粒子の頂点に試験用圧子を下記の負荷速度で効果させることにより、最大試験力20mNまで樹脂粒子に荷重をかけたときの粒子径Aと、その後、最小試験力0.3mNまでに除荷したときの粒子径Bを測定する。粒子径A及び粒子径Bから得られる変位量(復元量)Lと、粒子径測定カーソルで測定された直径dとから、次の復元率の算出式
復元率(%)=復元量L(μm)/直径d(μm)×100
により、個別の樹脂粒子の復元率を求める。3つの樹脂粒子に対して、復元率の測定を行い、平均値を復元率とする。
【0057】
<復元率の測定条件>
試験温度:常温(20℃)、相対湿度65%
上部加圧圧子:直径50μmの平面圧子(材質:ダイヤモンド)
下部加圧板:SKS平板
試験種類:負荷-除荷試験
最大試験力:20mN
最小試験力:0.3mN
負荷速度:4.5mN/sec
負荷保持時間:3sec
除荷保持時間:1min
【0058】
[樹脂粒子の平均粒子径]
表2に記載される樹脂粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計を用いて測定したときの平均粒子径d50のことである。
【0059】
[遮光性フィルムの評価]
実施例、比較例で得られた遮光性フィルムについて、光学濃度、加工性、光沢度を評価した。結果を表3に示す。
【0060】
[評価項目]
1.光学濃度
得られた遮光フィルムについて、光学濃度を測定した。光学濃度は、光学濃度計(361T卓上式透過濃度計:X-RITE社製)を用いて求めた。光学濃度が6以上を「◎◎」とし、6未満4以上を「◎」とし、4未満を「〇」とした。
【0061】
2.加工性
得られた遮光性フィルムについて、遮光性フィルムを折り曲げすることで加工性を評価した。折り曲げは、遮光性フィルムの剥離性基材とは接していなかった面が凹状になるように2つ折りし、折り曲げた箇所を一往復しごいた。この時点で遮光性フィルムの折り目に割れが見えるものを「×」とした。
次いで、折り曲げた部分を反対側に2つ折りし(即ち、遮光性フィルムの剥離性基材とは接していなかった面が凸状になるように2つ折りし)、折り曲げた箇所を一往復しごいた。この時点で遮光性フィルムの折り目に割れが見えるものを「△」とした。
ここまでの折り曲げを1セットとし、1セットめで遮光性フィルムの折り目に割れが見えなかったものについて、さらに2セット(計3セット)の折り曲げを行って遮光性フィルムの折り目に割れが見えるものを「〇」とし、計5セット行って遮光性フィルムの折り目に割れが見えるものを「◎」とし、計5セット行っても遮光性フィルムの折り目が割れないものを「◎◎」とした。
【0062】
4.光沢度
得られた遮光フィルムについて、遮光性フィルムの剥離性基材とは接していなかった面の光沢度を測定した。光沢度は、光沢計(VG-8000:日本電色工業社製)を用いて、測定角度(θ)60度で測定することで求めた。光沢度が1以下を「◎」とし、1より大きく3以下を「〇」とし、3より大きく5以下を「△」とし、5より大きい場合を「×」とした。
【0063】
5.加工端面の反射
得られた遮光フィルムをプレス金型で打ち抜き加工し、加工後の端面の反射の程度を観察した。
デジタルマイクロスコープ(VHX―7000:キーエンス社製)を用いて、加工後の端面が水平になるように観察用ステージに載置し、前記端面に垂直方向の上方から、明るさ設定100で同軸落射光を当て、観察倍率500倍にて、端面のカラー画像を撮影した。カラー画像(例:図1(a)、図2(a))で観察される白っぽい反射部位を観察し易くするために、得られたカラー画像を画像処理ソフト(具体的には、フリーソフトであるGIMP-2.0)を用いて二値化(白黒)処理して(例:図1(b)、図2(b))、白い部分の面積の割合を算出した。白い部分は光が強く反射した部分であり、白い部分の割合が5%未満を「○」とし、5%以上10%未満を「△」とし、10%以上を「×」とした。
【0064】
6.遮光性フィルムの耐久性
得られた遮光性フィルムを温度60℃、相対湿度90%の環境下に500時間静置し、試験後の遮光フィルムの変形の有無を観察した。フィルムの変形が見られないものを「〇」、わずかにフィルムの変形が見られたものを「△」、フィルムの変形が見られたものを「×」とした。

【0065】
【表1】

【0066】
【表2】
【0067】
【表3】


【0068】
表3に示すように、本発明の遮光性フィルムは、バインダー樹脂、黒色顔料及び樹脂粒子を含有してなる遮光層を有しているものであって、復元率が10%以上の樹脂粒子を使用することで、遮光層表面の光沢度を抑えながら、遮光層の加工性を保持でき、加工端面の反射を低く抑えるという、良好な結果を確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の遮光性フィルムは、遮光層のみの単層でも加工性に優れているため、小型化、薄型化および軽量化が可能である。また、遮光性フィルムが基材を有する場合にも、遮光層単層の場合と同様に評価することができる。これらの結果より、本発明の遮光性フィルムは、高性能一眼レフカメラ、コンパクトカメラ、ビデオカメラ、携帯電話、プロジェクタ等の光学機器のシャッター、絞り部材等の光学部材用に好適に用いることができる。
図1
図2