(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148278
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】焼菓子用ミックス粉及び焼菓子
(51)【国際特許分類】
A21D 10/02 20060101AFI20241010BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20241010BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20241010BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
A21D10/02
A21D2/18
A21D2/26
A23G3/34 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061282
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】312015185
【氏名又は名称】日清製粉プレミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】石崎 純一
【テーマコード(参考)】
4B014
4B032
【Fターム(参考)】
4B014GB11
4B014GG10
4B014GG12
4B014GG14
4B014GK09
4B014GL11
4B014GP01
4B014GP15
4B032DB40
4B032DK02
4B032DK15
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4B032DK23
4B032DK47
4B032DK49
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】フランスパンのような硬い表皮の硬さ及び質感のある表皮の外観と内部に空洞が少ないもっちりしっとりした内相とを併せ持つ焼菓子及びそれを製造できる焼菓子用ミックス粉を提供すること。
【解決手段】加工澱粉を10質量%以上95質量%以下、膨張剤を0.5質量%以上5質量%以下、及び、蛋白素材を2質量%以上15質量%以下含有し、加工澱粉がアセチル化された澱粉とリン酸架橋された澱粉とを含む、焼菓子用ミックス粉。前記加工澱粉のうち、α化物と非α化物の割合(α化物:非α化物)の質量比が、1:3以上1:20以下であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工澱粉を10質量%以上95質量%以下、
膨張剤を0.5質量%以上5質量%以下、及び、
蛋白素材を2質量%以上15質量%以下含有し、加工澱粉がアセチル化された澱粉とリン酸架橋された澱粉とを含む、焼菓子用ミックス粉。
【請求項2】
前記加工澱粉のうち、α化物と非α化物の割合(α化物:非α化物)の質量比が、1:3以上1:20以下である、請求項1に記載の焼菓子用ミックス粉。
【請求項3】
前記加工澱粉が、タピオカ由来の澱粉を含む、請求項1又は2に記載の焼菓子用ミックス粉。
【請求項4】
前記蛋白素材が、乳蛋白及び卵白粉から選択される1種または2種以上を含む、請求項1又は2に記載の焼菓子用ミックス粉。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のミックス粉を用いて得られる、焼菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセチル化された澱粉及びリン酸架橋された澱粉、蛋白素材及び膨張剤を含む加工澱粉を用いた焼菓子用ミックス粉及び焼菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
焼菓子の一つとして、シュー皮(シューパフ)が挙げられる。シュー皮は、一般に、小麦粉、卵、水、油脂等を混合して製造したシュー生地を、焼成することによって製造されている。また一般に、シュー生地は、水を沸騰させ、これにバターなどの油脂を入れ、更に煮立たせたものの中に小麦粉を加えて該小麦粉中の澱粉を糊化させ、最後に卵を加えて適当な硬さに調整することにより製造されている。
【0003】
シュー皮(シューパフ)について、事業所又は家庭内での製造容易性や新たな食感等を求めて、加工澱粉や蛋白素材を用いた工夫が従来なされている。例えば特許文献1に記載の発明は、α化リン酸架橋澱粉と未架橋のα化澱粉とカゼインとを含むミックス粉により、シュー皮の膨化向上や安定製造を図るものであり、特許文献2に記載の発明は、α化澱粉とα化架橋澱粉とα化穀粉とからなるミックス粉により安定製造を図るものであり、特許文献3に記載の発明は、アミロペクチン含量80質量%以上の澱粉とα化澱粉とを組み合わせ、もちもちした食感のシュー皮を得ようとするものである。
【0004】
特許文献1~3は内相が空洞である柔らかい食感のシュー皮に関するものであるが、近年、焼菓子の分野における需要者のニーズは多種多様化しており、従来にない形態の焼菓子が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08-275721号公報
【特許文献2】特開平09-037706号公報
【特許文献3】WO2017/037756号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フランスパンのような質感及び硬さを感じさせる表皮の外観と内部に空洞が少ないもっちりしっとりした内相とを併せ持つ焼菓子及びそれを製造できる焼菓子用ミックス粉を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、アセチル化された澱粉とリン酸架橋された澱粉、蛋白素材及び膨張剤を所定条件にて組み合わせることで、フランスパンの質感及び硬さを感じさせる表皮の外観ともっちりしっとりした空洞の少ない内相とを併せ持つ、従来ない形態の焼菓子が得られることを見出した。
【0008】
本発明は上記知見に基づくものであり、加工澱粉を10~95質量%、膨張剤を0.5~5質量%、及び、蛋白素材を2~15質量%含有し、アセチル化された澱粉及びリン酸架橋された澱粉を含む焼菓子用ミックス粉を提供するものである。
【0009】
また本発明は、上記ミックス粉を用いて得られる、焼菓子を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、フランスパンのような質感及び硬さを感じさせる表皮の外観と内部に空洞が少ないもっちりしっとりした内相とを併せ持つ、新たな形態の焼菓子及びそれを製造できる焼菓子用ミックス粉を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。以下、本発明の焼菓子用ミックス粉を単に「ミックス粉」又は「本発明のミックス粉」と記載する場合がある。
本発明のミックス粉は穀粉類を含有する。穀粉類としては、穀粉及び澱粉が挙げられる。穀粉には、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、デュラム粉等の小麦粉;米粉、トウモロコシ粉、馬鈴薯粉、タピオカ粉、甘藷粉等の未加工穀粉と、未加工穀粉に熱処理等の加工処理を施した加工穀粉とが含まれる。
【0012】
また澱粉には、後述するアセチル化された澱粉及びリン酸架橋された澱粉のほか、穀粉を由来とする澱粉及びその加工澱粉が含まれる。具体的には例えば、澱粉としては、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の未加工澱粉が挙げられる。加工澱粉としては、未加工澱粉にエーテル化、エステル化、α化、架橋処理、酸化処理、油脂加工等の処理の1つ以上を施したものが挙げられる。エーテル化澱粉には、ヒドロキシプロピル化澱粉が含まれる。
【0013】
本発明において、アセチル化された澱粉及びリン酸架橋された澱粉を含め、加工澱粉の含有量はミックス粉中、10質量%以上95質量%以下であることを必須とする。加工澱粉の含有量が10質量%未満であると、フランスパンのような表皮様の硬さ及び質感のある外観と内部に空洞が少ないもっちりしっとりした内相の両立の効果が得られない。95質量%超であると得られる焼菓子の表皮が柔らかくなりフランスパン様の硬さ及び質感のある外観が得難く、また内相の空洞が大きく、しっとりもっちりした食感が得られない。本発明におけるフランスパンのような表皮の様の硬さ及び質感のある外観及び内相における空洞の少なさやしっとりもっちりした食感を一層高める点から、加工澱粉の含有量はミックス粉中、20質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上86質量%以下であることが特に好ましい。また上述した本発明の効果を好適に得る観点から、加工澱粉以外の穀粉類は、加工澱粉100質量部に対し15質量部以下であることが好適であり、10質量部以下がより好適である。
【0014】
本発明では、所定量の加工澱粉、膨張剤及び蛋白素材の存在下でアセチル化された澱粉をリン酸架橋澱粉とともに含むことで、フランスパン様の表皮の硬さ及び質感のある外観と、内相における空洞の少なさやしっとりもっちりした食感とを両立させることができる。上記の効果が得られる理由は明確ではないが、上記構成とすることで、焼成時の膨み(窯伸び)を好適に制御することができ、このことが空洞が少なく、表皮が厚く硬くなり、しっとりもっちりした食感を実現できる理由の一つではないかと推測している。
【0015】
アセチル化された澱粉とは、アセチル化処理を施された澱粉をいう。アセチル化処理とは、澱粉を酢酸又は無水酢酸、酢酸ビニル等と反応させてエステル化(アセチル化)させる処理をいう。本発明で用いるアセチル化された澱粉は、公知の方法を採用して原料澱粉から製造したものであってもよく、市販品を利用してもよい。アセチル化された澱粉は、アセチル化以外のその他の処理、例えば、α化、酸化、エーテル化、油脂加工等の処理が施されていてもよい。アセチル化された澱粉としてはリン酸架橋処理等の架橋処理が施されていないものを好適に用いることができる。フランスパンのような表皮の硬さ及び質感のある外観と内部に空洞が少ないもっちりしっとりした内相の両立の観点から、アセチル化された澱粉として好ましいものとしてはとりわけ、酢酸澱粉が挙げられ、とりわけ非α化酢酸澱粉が好ましく挙げられる。ここで、非α化酢酸澱粉は、α化、酢酸処理以外の別加工を行ったものを含む。
【0016】
リン酸架橋された澱粉は、原料澱粉にリン酸架橋処理を施した澱粉である。リン酸架橋処理とは、澱粉をトリメタリン酸ナトリウムまたはオキシ塩化リンでエステル化する処理をいう。本発明で用いるリン酸架橋された澱粉は、公知の方法を採用して原料澱粉から製造したものであってもよく、市販品を利用してもよい。リン酸架橋された澱粉は、リン酸架橋処理以外のその他の処理、例えば、α化、酸化、エーテル化、油脂加工等の処理が施されていてもよい。リン酸架橋された澱粉としてはアセチル化処理が施されていないものを好適に用いることができる。フランスパンのような表皮の硬さ及び質感のある外観と内部に空洞が少ないもっちりしっとりした内相の両立の観点から、リン酸架橋された澱粉として好ましいものとしてはとりわけ、リン酸架橋α化澱粉が挙げられる。ここでいうリン酸架橋α化澱粉とは、リン酸架橋及びα化以外の加工を行ったものを含むものとする。
【0017】
本発明のミックス粉において、加工澱粉はアセチル化された澱粉及びリン酸架橋された澱粉のみからなるものであってもよいが、アセチル化された澱粉及びリン酸架橋された澱粉以外の加工澱粉を含んでいてもよい。
アセチル化された澱粉とリン酸架橋された澱粉は合計で、ミックス粉における加工澱粉中、60質量%以上であることが、フランスパン様の表皮の硬さ及び質感のある外観並びに内相における空洞の少なさ及びしっとりもっちりした食感を良好に得る点で好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが最も好ましい。
【0018】
また、アセチル化された澱粉とリン酸架橋された澱粉の量比は、アセチル化された澱粉100質量部に対し、リン酸架橋された澱粉の含有量が5質量部以上50質量部以下であることがフランスパン様の表皮の硬さ及び質感のある外観並びに内相における空洞の少なさ及びしっとりもっちりした食感を良好に得る点で好ましく、7質量部以上47質量部以下がより好ましく、10質量部以上45質量部以下であることが特に好ましい。
【0019】
更に、アセチル化された澱粉の含有量は、ミックス粉中、50質量%以上90質量%以下であることが、フランスパン様の表皮の硬さ及び質感のある外観並びに内相における空洞の少なさ及びしっとりもっちりした食感を良好に得る点で好ましく、55質量%以上87質量%以下がより好ましく、60質量%以上85質量%以下であることが特に好ましい。
例えば、本発明において、アセチル化された澱粉として、非α化酢酸澱粉を用いる場合、その含有量は、ミックス粉中、50質量%以上90質量%以下であることが、フランスパン様の表皮の硬さ及び質感のある外観並びに内相における空洞の少なさ及びしっとりもっちりした食感を良好に得る点で好ましく、55質量%以上87質量%以下がより好ましく、60質量%以上85質量%以下であることが特に好ましい。
また本発明において、アセチル化された澱粉として、α化酢酸澱粉を用いる場合、その含有量は、ミックス粉中90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下であってもよく、40質量%以下、又は30質量%以下であることもありうる。下限としては特に限定はなく、含有する場合は、2質量%以上、或いは5質量%以上であってもよい。
【0020】
リン酸架橋された澱粉は、ミックス粉中、3質量%以上25質量%以下であることが、フランスパン様の表皮の硬さ及び質感のある外観並びに内相における空洞の少なさ及びしっとりもっちりした食感を良好に得る点で好ましく、4質量%以上23質量%以下がより好ましく、5質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。
例えば、本発明において、リン酸架橋された澱粉として、α化澱粉及び非α化澱粉のいずれを用いる場合も、リン酸架橋α化澱粉、リン酸架橋非α化澱粉はそれぞれ、単独、又は合計で、ミックス粉中、上記のリン酸架橋された澱粉の好ましい量と同様の量を用いることができる。
【0021】
本発明では加工澱粉がタピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米粉、もち米粉から選ばれる少なくとも一種を含むことが、しっとりもっちりした内相の食感を得やすい点や内部の空洞を少なくする点で好ましく、とりわけタピオカ澱粉を用いる事が好ましい。例えば、アセチル化された澱粉及び/又はリン酸架橋された澱粉としてタピオカ澱粉を用いてもよい。タピオカ澱粉は、ミックス粉における全澱粉中、30質量%以上、或いは40質量%以上、或いは50質量%以上、或いは55質量%以上、或いは65質量%以上であってもよい。
【0022】
本発明におけるミックス粉は、加工澱粉中、α化物:非α化物の質量比が特定範囲内であることが好ましい。ここでいうα化物としては、α化された澱粉が全て包含され、架橋、アセチル化等のエステル化、エーテル化、酸化、油脂加工等のα化以外の処理が施されている澱粉を含む。
また、非α化物は、加工澱粉のうち、α化処理がなされていない澱粉を指し、架橋、アセチル化等のエステル化、エーテル化、酸化、油脂加工等のα化以外の処理が施されている澱粉を含む。
【0023】
本発明においては、加工澱粉中、α化物:非α化物の質量比が1:20以下であることが好ましい。その場合、得られる焼き菓子における表皮を硬くしやすくフランスパン様の硬さ及び質感のある外観が得やすく、また空洞の形成を防止できるため、しっとりもっちり食感をより得やすくなるためである。また、加工澱粉中、α化物:非α化物の質量比が1:3以上であることが内部に空洞が少ないもっちりしっとりした内相ができる利点があるため好ましい。この観点から、加工澱粉中、α化物:非α化物の質量比が1:5以上15以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明のミックス粉が含有する膨張剤としては、特に制限無く用いることができ、例えば、炭酸水素ナトリウム(重曹)、ベーキングパウダー、イスパタ、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特にベーキングパウダー等の合成膨張剤を用いる事がフランスパン様の表皮の硬さ及び質感のある外観やしっとりもっちりした内相の得やすさの点、ボリュームの点で好ましい。
【0025】
本発明のミックス粉では、膨張剤の含有量が0.5~5質量%である。膨張剤の含有量が0.5質量%未満である場合、表皮が柔らかくなり、内相に空洞が目立ち、しっとりもっちりした食感が得難くなる。
また、膨張剤の含有量が5質量%超である場合も、表皮が柔らかくなり、内相に空洞が目立ち、しっとりもっちりした食感が得難くなる。
これらの観点から、ミックス粉中、膨張剤の含有量が1質量%以上4.5質量%以下であることが好ましく、2質量%以上4質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明のミックス粉では、蛋白素材を必須とする。これにより、本発明では、フランスパンのような硬い表皮が首尾よく得られるものとなる。具体的には、蛋白素材としては、乳蛋白、卵白粉、大豆蛋白、小麦蛋白が挙げられる。乳蛋白とは、乳由来の蛋白素材、大豆蛋白とは大豆由来の蛋白素材、小麦蛋白とは、小麦由来の蛋白素材を指す。蛋白素材における蛋白質含有量は好適には60質量%以上であり、特に好適には70質量%以上である。
【0027】
乳蛋白としては、ホエー、脱塩ホエー、ホエーパウダー(脱塩ホエーパウダーを含む)、ホエータンパク質濃縮物(WPC)、ホエータンパク質分離物(WPI)、全脂粉乳、脱脂粉乳、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳、高純度乳タンパク質(TMP)、乳タンパク質濃縮物(MPC)、乳タンパク質分離物(MPI)カゼイン、カゼインナトリウム等が挙げられる。
【0028】
また、卵白粉とは、卵白液を常法により乾燥して得られるもので、「乾燥卵白」又は「粉末乾燥卵白」と呼ばれることもある。乾燥の手段としては噴霧乾燥(スプレードライ)、静置乾燥(バンドライ)、真空凍結乾燥(フリーズドライ)等のいずれの方法を採用しても差し支えない。卵白液としては、殻付生卵を割卵分離して得られるもののほか、凍結卵白を解凍したもの、卵白液を熱変性を生じさせない程度に常法により加熱殺菌処理をしたものや、保存中の褐変を防止するため液卵白を常法により脱糖処理を経たもの等を適宜用いることができる。
【0029】
また大豆蛋白としては、脱脂大豆から調製される蛋白質、全脂大豆から調製される蛋白質の何れも用いることができ、また、その形態としては、粉末状又は比較的粒子の小さい顆粒状等、用途等に応じて適宜選択可能である。粉末状又は顆粒状の大豆蛋白は広く市販されており、本発明では、これらの市販品を適宜用いることができる。
更に、小麦蛋白としては、グルテンが挙げられる。
【0030】
本発明では、蛋白素材として、特に、乳蛋白、卵白粉から選ばれる一種又は二種以上を用いることが、焼菓子の表皮を硬くしやすく、内相に空洞が少なく、しっとりもっちりした食感としやすい点やボリュームが出やすい点で好ましい。ミックス粉において、乳蛋白と、卵白粉を組み合わせて用いる場合、両者の質量比は例えば乳蛋白100質量部に対し、卵白粉が10~1000質量部とすることができる。
【0031】
本発明において、蛋白素材の含有量はミックス粉中、2~15質量%である。蛋白素材の含有量が2質量%未満であると、焼菓子の表皮が柔らかくなり、内相に空洞が目立ち、しっとりもっちりした食感が得難くなる。また、蛋白素材の含有量が15質量%超であると、内相に空洞が目立ち内相が硬い食感になる問題がある。この観点から、蛋白素材の含有量はミックス粉中、3~13質量%であることが好ましく、4~11質量%であることがより好ましい。
【0032】
本発明のミックス粉は、前述の穀粉類、膨張剤及び蛋白素材以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、油脂類;乳化剤;ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、麦芽糖、トレハロース、果糖等の糖類;全卵粉、卵黄粉等の卵粉;酒やアルコール類、豆乳、食塩等の調味料;デキストリン等の糖類以外の糖質;香辛料、ドライフルーツ、ナッツ類、酵素、香料、増粘剤、食物繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて適宜の量で用いることができる。本発明のミックス粉において、穀粉類、膨張剤及び蛋白素材以外の他の成分の総含有量は、該ミックス粉中の穀粉類100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。
【0033】
本発明のミックス粉は、加工澱粉、膨張剤及び蛋白素材をはじめとする前述の成分を混合することによって得られる。本発明のミックス粉の常温常圧下での形態は、粉体であり、典型的には、粉末状又は顆粒状である。
【0034】
本発明のミックス粉は、焼菓子の製造に使用されるものである。一般に「焼菓子」とは、イーストを用いずに製造されるものであるところ、本発明のミックス粉はイーストを実質的に含有しないことが好適である。イーストを実質的に含有しないとは、ミックス粉におけるイーストの含有量が0.1質量%以下であることを意味し、0.05質量%以下であることが好ましく、0質量%であることが最も好ましい。「焼菓子」は表皮及び内相における上記の食感を有するものであれば、その製法や成分に特段の限定はないが、好ましくは油脂及び/又は水を加熱したものの中に穀粉類を加えて澱粉を糊化させ、必要に応じて卵を加えた生地を焼成して得られた焼菓子、或いは、α化澱粉を含む穀粉類に油脂及び/又は水を加え、必要に応じて卵を加えて混合させた生地を焼成して得られた焼菓子であることが、フランスパン様の硬さ及び質感のある表皮の外観とともに、シュー様の良好な膨らみや割れ目を有した外観を有しやすいことから好適である。このように、油脂及び/又は水を加熱したものの中に穀粉類を加えて澱粉を糊化させ、必要に応じて卵を加えた生地を焼成して得られた焼菓子、或いは、α化澱粉を含む穀粉類に油脂及び/又は水を加え、必要に応じて卵を加えて混合させた生地を焼成して得られた焼菓子を本明細書では「シュー菓子類」とも記載する。
【0035】
次に、本発明の焼菓子の好適な製造方法について説明する。
本製造方法は、前述の本発明のミックス粉を用いて生地(シュー菓子類用生地)を調製する工程(生地調製工程)と、該生地を焼成する工程(焼成工程)とを有する。
前記生地調製工程では、生地原料として、少なくとも本発明のミックス粉及び水性液を使用することが好適である。水性液としては、水;液卵;牛乳、豆乳等の植物乳等の液状の乳成分が挙げられる。更に生地原料としては、油脂を用いてもよい。油脂は25℃で固形である固形脂及び25℃で液体の液状油のいずれを用いてもよいが、特に後述のように加熱せずに生地を調製する場合、液状油が生地の調製の容易性等で有利である。
【0036】
前記液卵には、生卵の全部(全卵)又はその一部(卵黄、卵白)と、これらの乾燥体を水に希釈したものとが包含される。これらの卵成分としては、食品の製造に使用可能なものを特に制限なく用いることができ、例えば、鶏卵、ウズラ卵、アヒル卵、ダチョウ卵が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
前記生地調製工程における水の使用量は、本発明のミックス粉中の穀粉類100質量部に対して35~105質量部であることが好ましく、50~90質量部であることがより好ましい。ここで言う「水」には、液卵等の水を含む成分に含まれる水分が含まれる。水の使用量を計算する場合において生卵の含水率は75質量%とする。前記生地調製工程における水の使用量が対穀粉類100質量部に対して上記の量であることで、焼菓子のボリュームの向上や形状を良好にするほか、フランスパンのような表皮の硬さ及び質感のある表皮の外観が一層容易に得やすく内部の空洞を一層少なくできる利点がある。
【0038】
前記生地調製工程における液卵を用いる場合、その使用量は、本発明のミックス粉中の穀粉類100質量部に対して20~60質量部であることが好ましく、25~55質量部であることがより好ましい。液卵の量がこの範囲であると、焼菓子のボリュームが良好となるほか、食味が良くなる利点がある。
【0039】
前記生地調製工程において油脂を使用する場合、その使用量は、本発明のミックス粉中の穀粉類100質量部に対して5~35質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。油脂量がこの範囲であると、フランスパンのような表皮の硬さ及び質感のある表皮の外観が一層容易に得やすく内部の空洞を一層少なくできる利点がある。
【0040】
前記生地調製工程は、油脂及び/又は水を加熱し、これに本発明のミックス粉を加えて穀粉類を糊化し、更に液卵を加える方法によって実施する方法や、本発明のミックス粉、液卵、油脂及び/又は水を加熱することなく混合して該生地を調製する方法等が挙げられる。後者の方法によれば、熟練者の経験や勘に頼らずとも家庭内などで容易に高品質の焼菓子を製造することができる点で好ましい。後者の場合は、本発明のミックス粉にα化澱粉を含有させることが好適である。上記でいう加熱しないとは、例えば生地調製時の穀粉類温度が5℃以上40℃以下の範囲内である場合を例示できる。後者の方法の例としては、例えば、本発明のミックス粉に、水及び/又は油脂、液卵、必要に応じて他の成分を添加して混合物を得、該混合物をミキサーによって攪拌(ミキシング)することで生地を調製する方法が挙げられる。
【0041】
次いで、得られた生地を焼成する。焼成工程は基本的に、常法に従って実施することができる。焼成温度は180~230℃が表皮の硬さ、内相のしっとりもっちりした食感を首尾よく得られる点やフランスパンのような表皮を得られる点で好適であり、190~220℃が特に好適である。必要に応じ、前記生地調製工程の後、前記焼成工程の前に、生地を休ませるためのフロアタイムを設けてもよい。
【0042】
本発明は、本発明のミックス粉を用いて得られる、焼菓子を提供するものである。本発明者は、加工澱粉、膨張剤、蛋白素材を各所定量とし、加工澱粉がアセチル化された澱粉とリン酸架橋された澱粉とを含むことで、フランスパンのような表皮の質感と硬さのある外観、及び、しっとりもっちりし、空洞の少ない内相が得られることを見出した。ここで、焼菓子におけるフランスパンのような表皮の質感と硬さはこれまでにほとんど評価されておらず、物性として規定するには、新たな測定手法を見出さなければならず、膨大な時間が必要となる。しっとりもっちりした食感についても同様に具体的な規定には測定手法の開発が必要となる。これらの理由から、商品スパンが短い食品分野において先願主義の下、早期出願が求められることから、出願人は、焼菓子がミックス粉を用いて得られることを請求項に規定することとした。以上の通り、本願出願時には不可能又は非実際的事情が存在した。
【実施例0043】
表1に記載の配合のミックス粉を用いて、下記の工程で、焼菓子を作製した。表1及び表2の配合の単位は、質量部である。なお、表1に記載の成分としては、下記を用いた。
リン酸架橋α化澱粉:タピオカ由来(非アセチル化、非エーテル化)
アセチル化澱粉:タピオカ由来酢酸澱粉(非リン酸架橋、非α化)
α化澱粉:タピオカ由来(非リン酸架橋、非アセチル化)
α化アセチル化澱粉:タピオカ由来酢酸澱粉(非リン酸架橋)
澱粉:タピオカ由来(非加工)
膨張剤:ベーキングパウダー
(工 程)
下記表1の組成における「その他」の項の水、全卵及びサラダ油に、当該表1の組成のミックス粉を添加し、市販のミキサー(ビーターを取り付けたもの)にて、低速1分で撹拌した後、ミキサーの攪拌翼に付着した生地をかき落としてから中速で3分撹拌して生地を調製した(生地調製工程)。前記生地調製工程では、生地の原料を加熱することなく混合して該生地を調製した。混合温度は25℃であった。前記生地を直径2.2cmの円形の口金をつけた絞り袋に生地を入れ、該口金を介して天板上に該生地を絞り出し、1個当たり30gの成形生地を得た(成形工程)。前記成形生地について27℃、相対湿度75%の条件にて15分間のフロアタイムをとった後、210℃で18~20分焼成し、焼菓子を製造した。なお、各実施例で得られた焼き菓子はシュー様の割れ目や膨み、ボリューム感を有しつつフランスパン様の表皮の硬さを感じさせる外観であった。
また、各実施例の焼菓子の表皮の食感は、通常のシュー皮よりも硬く、一般的にフランスパンの表皮と比べると、やや柔らかいか、又はそれと同等の硬さを感じさせるものであった。
得られた焼菓子を以下の評価基準にて評価した。結果を表1に示す。総合評価は、3つの評価の平均値である。
【0044】
(評価基準:フランスパン様の表皮の外観)
5:外観上、フランスパンのような表皮の質感と硬さを有する。
4:外観上、フランスパンのような表皮の質感がややあり、硬さを有する。
3:外観上、フランスパンのような表皮の質感がややあり、硬さをやや有する。
2:外観上、フランスパンのような表皮の質感があまりなく、硬さもあまりない。
1:外観上、フランスパンのような表皮の質感がなく、硬さもない。
【0045】
(評価基準:内相)
5:内相に空洞がなくパンのような綺麗な内相が形成されている。
4:内相に空洞がほぼ無くパンのような内相が形成されている。
3:内相に空洞が少なくパンのような内相が形成されている。
2:内相がほぼ無い。
1:内相が無い。
【0046】
(評価基準:食感)
5:内相がしっとりもっちりとしている。
4:内相がややしっとりもっちりとしている。
3:内相のしっとりもっちり感を若干感じる。
2:しっとりもっちり感がほとんど感じられない。
1:しっとりもっちり感が感じられない。
【0047】
【0048】
【0049】
表1に示す通り、各実施例のミックス粉は、フランスパンのような硬い表皮及び質感のある表皮の外観と内部に空洞が少ないもっちりしっとりした内相とを併せ持つものであった。これに対し、表2に示す通り、各比較例は、外観上、フランスパンのような表皮の質感と硬さを有する点、内部の空洞の少なさの点、及び、しっとりもっちりした食感、のいずれについても劣るものであった。