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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148313
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】制震構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20241010BHJP
   E04H 9/14 20060101ALI20241010BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20241010BHJP
   F16F 7/00 20060101ALN20241010BHJP
【FI】
E04H9/02 351
E04H9/14 G
F16F15/02 L
F16F7/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061347
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】507011611
【氏名又は名称】株式会社進富
(71)【出願人】
【識別番号】516152952
【氏名又は名称】構法開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129849
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】大西 克則
(72)【発明者】
【氏名】依田 佳幸
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AA17
2E139AC04
2E139AD03
2E139BA23
2E139BA30
2E139BD41
3J048AA01
3J048AC01
3J048AD05
3J048AD16
3J048BA02
3J048BA10
3J048EA38
3J066AA22
3J066BA04
3J066BB01
3J066BC01
3J066BD05
(57)【要約】
【課題】上層階のみならず一階の揺れも軽減可能な制震構造を提供する。
【解決手段】地盤2に打ち込まれた杭20の上に構築される建築物10に適用される制震構造1であって、杭20の設置位置において、地盤2を掘削し地盤表面3よりも低い位置に形成された杭設置面30と、杭設置面30の上方に位置する杭可動域40と、杭設置面30と建築物10の一階床部との間で延在する杭20の上端部に設置された減衰材50とを備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に打ち込まれた杭の上に構築される建築物に適用される制震構造であって、
前記杭の設置位置において、前記地盤を掘削し地盤表面よりも低い位置に形成された杭設置面と、前記杭設置面の上方に位置する杭可動域と、前記杭設置面と前記建築物の一階床部との間で延在する前記杭の上端部に設置された減衰材とを備えた
ことを特徴とする制震構造。
【請求項2】
前記杭可動域は、前記杭の上端部を囲う円柱形状を呈している
ことを特徴とする請求項1に記載の制震構造。
【請求項3】
前記杭可動域は、筒体にて外周面が区画され、
前記減衰材は、前記筒体の上端開口部を覆う蓋体にて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の制震構造。
【請求項4】
前記減衰材は、弾塑性部材にて形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の制震構造。
【請求項5】
前記杭可動域は、前記杭設置面から上方に向かって拡径する円錐台形状を呈しており、
前記減衰材は、前記杭可動域に充填された砂にて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の制震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地震に耐えるための構造には、現在大きく分けて「耐震構造」と「免震構造」と「制震構造」の三種類がある。耐震構造は、柱や梁を大きくし建物全体で地震の揺れに耐える構造である。免震構造は、基礎と建物を切り離してその間に免震装置を入れ、建物本体への揺れを軽減させる構造である。制震構造は、建物内部に制震装置を取り付けてエネルギーを吸収する構造である。
【0003】
免震構造は、地震により振幅する地盤と建物を絶縁するため、建物を載せる架台と基礎との間にアイソレータを介し、ダンパーで架台を減衰させるとともに、配管類を変位に追従できる構造にしているため、高価な費用がかかる。また、免震構造は、国土交通省認定を取得するか、建設省告示第2009号に従った構造にしなければならない。そのため、免震装置は大型の建築物に採用されることが多い。一方、低層住宅においては、建物免震構造と比較して低価格である耐震構造と制震構造(例えば特許文献1参照)が採用されることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-007868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
耐震構造は、太く頑丈な柱、梁で建物自体が地震に耐えることができるものの、地震のエネルギーが直接建物に伝わるため、制震構造や免震構造に比べて、建物の揺れが大きくなってしまう問題があった。一方、制震構造では、制震装置が地震エネルギーを吸収するので、建物の構造体の損傷を抑制できるとともに、二階以上の上層階の揺れを軽減できるものの、一階の揺れは大きいままであった。具体的には、例えば三階建ての場合、一階に制震装置を設けることで、二階と三階の揺れを軽減できるが、一階の床の揺れは軽減できなかった。
【0006】
そこで、本発明は、三層以上の建物において、一層を基礎部分として制震装置を設け、その二層を一階、その三層以上を二階以上とすることで、二階以上の上層階のみならず一階の揺れも軽減可能な制震構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するための本発明は、地盤に打ち込まれた杭の上に構築される建築物に適用される制震構造である。前記杭の設置位置において、前記地盤を掘削し地盤表面よりも低い位置に形成された杭設置面と、前記杭設置面の上方に位置する杭可動域と、前記杭設置面と前記建築物の一階床部との間で延在する前記杭の上端部に設置された減衰材とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の制震構造によれば、建築物の一階床部と前記杭設置面との間で延在する杭の上端部が杭可動域内で移動することで建築物の上層階のみならず一階の揺れを軽減できる。また、減衰材によって、地震の揺れが効率的に減衰され、建築物の揺れがより一層軽減される。したがって、建築物の一階およびそれ以上の上層階における揺れを軽減することができ、建築物全体の揺れを軽減することができる。また、建築物の一階床部と前記杭設置面との間で延在する杭の上端部が杭可動域内で水平移動するのを制震することで建築物の一階および上層階の揺れを軽減できる。また、建築物の一階床部と前記杭設置面との間で延在する杭を柱として構造計算して、地震による水平移動量と剛性を制震装置で効率良く制震させることができる。
【0009】
本発明の制震構造においては、前記杭可動域は、前記杭の上端部を囲う円柱形状を呈しているものが好ましい。このような構成によれば、杭を中心とした前後左右の全方向において杭が変形可能となり、全方向の揺れを効果的に軽減することができる。
【0010】
本発明の制震構造においては、前記杭可動域は、筒体にて外周面が区画され、前記減衰材は、前記筒体の上端開口部を覆う蓋体にて構成されているものが好ましい。このような構成によれば、筒体を挿入することで杭可動域を容易に区画して形成することができる。また、蓋体によって筒体内への異物の混入を抑制できる。
【0011】
本発明の制震構造においては、前記減衰材は、弾塑性部材にて形成されているものが好ましい。このような構成によれば、地震時の揺れを効率的に軽減できる。
【0012】
本発明の制震構造においては、前記杭可動域は、前記杭設置面から上方に向かって拡径する円錐台形状を呈しており、前記減衰材は、前記杭可動域に充填された砂にて構成されているものが好ましい。このような構成によれば、杭可動域の構成が簡単になり、施工費用を軽減できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の制震構造によれば、二階以上の上層階のみならず一階の揺れも軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)は本発明の実施形態に係る制震構造を示した全体図、(b)は建築架構を説明するための全体図である。
図2】本発明の実施形態に係る制震構造の基礎部を示した要部断面図である。
図3】(a)および(b)は本発明の実施形態に係る制震構造の基礎部の地震時の挙動を示した要部断面図である。
図4】(a)および(b)は本発明の実施形態に係る制震構造の減衰材の地震時の変形状態を示した平面図である。
図5】本発明の実施形態に係る制震構造が適用された建築物の地震時の挙動を示した全体図である。
図6】変形例に係る減衰材を示した図であって、(a)は通常時の状態を示した平面図、(b)は地震時の変形状態を示した平面図である。
図7】本発明の第二の実施形態に係る制震構造の基礎部を示した要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の制震構造を実施するための形態を、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態の建築物の形状は一例であって、敷地形状や要求される階数に応じて適宜変更される。図1に示すように、本実施形態に係る建築物10は二階建ての戸建て住宅である。従来の制震構造では、二階以上の上層階の揺れを軽減できるものの、一階の揺れは大きいままであった。そこで本発明者らは、図1の(b)に示すように、地盤2から突出する杭頭部21の長さを長くし、杭頭部21に制振装置22を設ければ、杭頭部21が地盤の揺れを吸収し、一階の揺れが軽減されることを見出した。しかし、この場合、一階の階高が高くなるため、一階へ上がるための階段が必要となり、施工手間と費用が大きくなるとともに、居住者への負担が大きくなってしまう。そこで、本発明らは、一階階高を低くできる構造として、制震構造1を発明した。本実施形態に係る制震構造1は、図1の(a)に示すように、地盤2に打ち込まれた杭20の上に構築される杭基礎構造の建築物10に適用される構造であって、杭設置面30と、杭可動域40と、減衰材50とを備えている。つまり、本実施形態の建築物10は、三層の建物において、下側となる一層を基礎部分として制震装置を設け、二層を一階とし、三層を二階としている。
【0016】
杭20は、所定の深さまで地盤2に打ち込まれ、杭頭部21が地盤2の上に突出している。杭20は、例えば鋼管にて構成されている。杭20は、建築物10の下側で複数設けられ、X軸方向およびY軸方向に所定間隔をあけて配置されている。杭頭部21は、減衰材50を設置した状態で、地震力や風力による移動が杭可動域40内となるように構造計算されている。杭設置面30から突出する杭頭部21は、例えば1000mm程度の高さ寸法であるが、杭頭部21の高さ寸法は、長いほど建築物10の水平移動量が大きくなり制振効果を大きくできる。水平移動量が建築基準法の制限内で、且つ架構構造材が許容強度内であることで建築可能となる。杭20は、図示しないボルト等を介して建築物10に接続されている。なお、杭20と建築物10との接合方法は、ボルト接合に限定されるものではなく、溶接接合等の他の方法であってもよい。
【0017】
建築物10は、例えば溝形鋼からなる基礎梁を格子フレーム状に組み合わせて構成された基盤フレーム11を備えている。基盤フレーム11の下部には、杭20がボルト(図示せず)により接続されている。基盤フレーム11と杭20との接合構造は、ピン接合および剛接合のいずれであってもよい。建築物10の一階および二階には図示しない減衰装置が設けられている。
【0018】
図1の(a)および図2に示すように、杭設置面30は、杭20の設置位置において、地盤2に打ち込まれた杭20が上方に露出される地表面である。杭20の杭頭部21は、杭設置面30から上方に向かって突出している。杭設置面30は、建築物10を構築する地盤2を掘削して形成されており、地盤表面3よりも低い位置に設けられている。杭設置面30は、杭20よりも大径であり、杭20の外周を囲む環状の平面にて構成されている。
【0019】
杭可動域40は、杭設置面30から上方に突出した杭20の杭頭部21が地震時に揺動可能な領域である。杭可動域40は、杭設置面30の上方に位置しており、杭20の上端部である杭頭部21を囲う円柱形状を呈している。杭可動域40は、筒体41にて外周面が区画されている。筒体41は、例えば円筒形のコンクリート枡であり、地盤2に掘削された穴に挿入されている。筒体41の内部空間が、杭可動域40となる。筒体41の下部には、筒体41が設置される地業31が形成されている。地業31は、杭20が挿通する挿通孔32を備えており、杭設置面30に形成されている。筒体41の上端部には、環状の段部43が形成されている。段部43には、減衰材50が設置される。筒体41は、コンクリート製の枡にて構成されているが、これに限定されるものではなく、樹脂製の枡であってもよいし、枡以外の筒体であってもよい。
【0020】
減衰材50は、杭20の揺れを減衰させる部材であって、杭設置面30と建築物10の一階床部に設けられた基盤フレーム11との間で延在する杭頭部21(杭20の上端部)に設置されている。減衰材50は、筒体41の上端部に設置された高減衰ゴム等の弾塑性部材からなる蓋体にて構成されている。減衰材50は、筒体41の上端部の段部43に係止される円盤状の部材であって、中央部に杭20が挿通する挿通孔51を備えている。減衰材50は、中央部の厚さ寸法が周縁部の厚さ寸法よりも大きくなっている。杭20が変形する際には、図4に示すように、杭20の移動方向前方の減衰材50が圧縮され、移動方向後方の減衰材50が伸長されるように、減衰材50が変形する。杭20の変形に応じて、減衰材50の圧縮と伸長とが繰り返し為される。
【0021】
次に、図3乃至図5を参照しながら、本実施形態の制震構造1の地震時の各部の挙動を説明する。杭20は、地震時に図3に示すような変形を起こす。地盤2から左向きの土圧P1が作用すると、図3の(a)に示すように、建築物10には右向きの慣性力P2が作用し、杭設置面30から上方に突出した杭20の杭頭部21が右側に傾斜する。一方、地盤2から右向きの土圧P1が作用すると、図3の(b)に示すように、建築物10には左向きの慣性力P2が作用し、杭設置面30から上方に突出した杭20の杭頭部21が左側に傾斜する。地震時にはこの動作を繰り返すこととなる。
【0022】
このとき、杭設置面30の近傍の振幅(地際振幅)から、地盤2の表面高さの振幅(地表振幅)、基盤フレーム11の高さの振幅(基盤振幅)へと、上方に向かうに連れて振幅が大きくなる。基盤振幅と地際振幅との差は、杭20の杭設置面30における揺れと、基盤フレーム11の揺れとの差であって、地震の揺れ(地盤2の揺れ)と建築物10の揺れとの差となる。
【0023】
また、地盤2の表面高さにおいては、減衰材50によって杭20に対して、土圧に対向する向きの抵抗力が作用し(図4の(a)および(b)参照)、減衰材50の圧縮と伸長とが繰り返されて、揺れの応力が熱エネルギーに変換される。これによって、地震の揺れが効率的に減衰され、建築物10の揺れが軽減される。このように、杭頭部21の揺れを減衰材50によって減衰させることで地震の揺れを吸収し、建築物10の揺れを軽減している。要するに、地盤2から基盤フレーム11に伝わる揺れが基盤振幅と地際振幅との差の分小さくなり、建築物10の一階における揺れを軽減することができる。
建築物10の全体で見れば、図5に示すように、杭頭部21が杭可動域40内で振動することで一階の揺れが軽減され、さらに、一階に設けられた減衰装置(図示せず)で二階の揺れがさらに軽減される。
【0024】
以上説明したように、本実施形態の制震構造1によれば、建築物10の一階の基盤フレーム11と杭設置面30との間で延在する杭20の杭頭部21が杭可動域40内で移動するのを減衰させることで建築物10の二階のみならず一階の揺れを軽減できる。また、減衰材50によって、地震の揺れが効率的に減衰され、建築物10の揺れがより一層軽減される。したがって、建築物10の一階およびそれ以上の上層階(本実施形態では二階)における揺れを軽減することができ、一階も含む建築物10全体の揺れを軽減することができる。
具体的には、構造計算で用いる大地震である震度6程度までの揺れであれば、揺れが軽減されることで、各階に損傷は発生せず、継続して居住することができる。また、震度7を超える超大地震の揺れが発生した際には、鋼管製の杭20が塑性変形する場合があるが、強度と剛性は復元可能であるので、軽微な補修で建築物10を再利用することができる。
【0025】
杭可動域40は、杭20の上端部を囲う円柱形状を呈しているので、杭20を中心とした前後左右の全方向において杭20が変形可能となり、全方向の揺れを効果的に軽減することができる。また、杭可動域40は、筒体41にて外周面が区画されているので、筒体41を地盤2の掘削部分に挿入することで、杭可動域40を容易に区画して形成することができる。
【0026】
杭設置面30は、地盤2を掘削し地盤表面3よりも低い位置に形成されているので、建築物10の全体の高さを低くすることができる。したがって、一階の階高が必要以上に高くならないので、居住者の生活を快適なものとできる。
【0027】
減衰材50は、筒体41の上端開口部を覆う蓋体にて構成されているので、筒体41内への異物の混入を抑制できる。減衰材50は、弾塑性部材にて形成されているので、地震時の揺れを効率的に軽減できる。
【0028】
また、制震構造1は、地震時の揺れのみならず、交通振動を含む地盤2の軽微な揺れも軽減できるとともに、強風の脈動による建築物10の振動揺れも軽減できる。さらに、制震構造1は、従来の免震構造よりも安価に設置できるので、低層の戸建て住宅であっても適用し易い。
【0029】
また、制震構造1によれば、建築物10の一階基礎と杭設置面と30の間で延在する杭20の杭頭部21を一階の柱として構造計算できる。これによって、各階の振幅や変形率を算出することができる。なお、建築構造計算の方法において、杭20は、地盤2から延出する一階柱として計算するが、二階建て建築物10としては、一階床下の架構であり、建物としての一階柱ではない。このような制震構造1によれば、二階建ての一階床部の揺れが軽減されるので、二階建ての一階と二階の揺れを軽減する建物を提供することができる。
【0030】
さらに、制震構造1は、建築基準法による水平力(地震力や風力)に対して、架構構造材(杭20等)が許容強度内であることと許容変形量内となるように構造計算することで、免震構造や制震構造の特別許可(認可)を取得する必要はない。また、減衰材50は、付加機能として構造に影響なく指定材料を使用するので、減衰材50についても認定を取得する必要はない。また、架構構造材を許容強度内で設計しておくことで地震や風による水平変形後に元の状態に復元することができる。
杭頭部21の移動量は、建築基準法における制限まで大きな数値であることが好ましい。これにより、減衰材50により杭可動域40内での移動を効率的に減衰させることができ、減衰材による減衰効果が大きく得られるので、一階床部の揺れを大幅に軽減することができる。
【0031】
次に、図6を参照しながら、変形例に係る減衰材55の構成を説明する。
かかる減衰材55は、図6の(a)に示すように、金属製の円盤にて構成されている。減衰材55は、中央部に杭20が挿通する挿通孔56を備えている。挿通孔56の周囲には、貫通孔57が所定の間隔をあけて複数形成されている。貫通孔57は、杭20の変形時に減衰材55の変形を吸収するものであって、例えば円形を呈している。貫通孔57は、減衰材55の芯を中心に45度ピッチで放射状に形成されている。
【0032】
杭20が変形する際には、図6の(b)に示すように、杭20の移動方向前方の貫通孔57が押し潰され、移動方向後方の貫通孔57が引き延ばされて、減衰材55が変形する。各貫通孔57は、杭20の変形に応じて押し潰しと、引き延ばしが繰り返し為される。このように、減衰材55の貫通孔57の押し潰しと引き延ばしとが繰り返されることで、揺れの応力が熱エネルギーに変換される。これによって、前記実施形態の減衰材50と同様に、地震の揺れが効率的に減衰され、建築物10の揺れが軽減される。
【0033】
次に、図7を参照しながら、本発明の第二の実施形態に係る制震構造1aの構成を説明する。第二実施形態の制震構造1aでは、杭可動域45および減衰材58の形状および構成が実施形態と異なっている。
図7に示すように、第二実施形態の杭可動域45は、杭設置面30から上方に向かって拡径する円錐台形状を呈しており、減衰材58は、杭可動域45に充填された砂や砂利等にて構成されている。
【0034】
杭設置面30は、杭20の設置位置において、地盤2に打ち込まれた杭20が地盤2の穴から上方に突出される地表面である。杭設置面30は、杭可動域45の底面に位置する杭用挿通穴の上端部である。
【0035】
杭可動域45は、地盤2に掘削された穴の内周面にて区画されており、上部が広がる円錐台形状になっている。円錐台の下端部は、杭20と同径となっている。杭頭部21の上方に向かうにつれて、杭20の外周面と杭可動域45との隙間が大きくなっている。これによって、杭頭部21は、杭設置面30から上方に突出する部分が、杭可動域45内で変形可能となっている。
【0036】
減衰材58は、杭可動域45内で、杭20の周囲に充填された砂や砂利にて構成されており、上方に向かうに連れて、水平方向の厚さ寸法が大きくなっている。減衰材58を構成する砂や砂利は、乾燥したものが用いられている。減衰材58は、砂や砂利に代えて(または加えて)粘土や低強度コンクリートを用いてもよい。減衰材58は、杭頭部21の移動になり変形または破壊されることでエネルギーを吸収して、減衰機能を発揮する。なお、その他の構成については、前記実施形態と同様であるので同じ符号を付して説明を省略する。
【0037】
以上のように、杭可動域45内に砂を充填することで、地震時に杭20が変形すると、砂を押し退けて移動することになるので、杭頭部21に反力が作用し、揺れの応力が熱エネルギーに変換される。これによって、前記実施形態の減衰材50と同様に、地震の揺れが効率的に減衰され、建築物10の揺れが軽減される。第二実施形態の構成によれば、杭可動域45の構成が簡単になり、施工手間と費用を軽減できる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。例えば、前記実施形態では、筒体41の上端部に、減衰材50として蓋体を設置しているが、これに限定されるものではない。例えば、筒体41の内部に減衰材として砂や砂利等を充填してもよいし、筒体41の内部に減衰材として砂や砂利等を充填するとともに、減衰材として蓋体を合わせて設置してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 制震構造
2 地盤
20 杭
21 杭頭部
30 杭設置面
40 杭可動域
41 筒体
45 杭可動域
50 減衰材
55 減衰材
58 減衰材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7