(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014833
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】水冷原子炉の一次回路の金属部品を処理するための改善された方法
(51)【国際特許分類】
G21D 1/00 20060101AFI20240125BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
G21D1/00 W
G21D1/00 X
G21F9/28 521D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023118470
(22)【出願日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】2207411
(32)【優先日】2022-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・ユ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】汚染物質を原子炉へ移す原因となる一次回路の水中への腐食生成物の放出を減らす。
【解決手段】PWR原子炉の運転サイクル中に一次回路のニッケル系合金又はコバルト系合金で製造された金属部品の内部表面を処理する方法に関連する。方法は、原子炉運転サイクル中に一次回路の水と接触した一次回路の全ての金属部品によって一次回路中に排出されやすいニッケルの量を見積もる工程;見積もられたニッケルの量の全てを固定するのに必要なマグネタイトの量を計算する工程;水が80℃から180℃の間の温度を有する場合、計算されたマグネタイトの量を、一次回路の水中に溶解させることによって得られる処理水を生成する工程;及び少なくとも1種の金属部品の内部表面に、見積もられたニッケルの量の全て又は一部を固定することが可能な保護酸化物の層を形成するように、この処理水を一次回路に循環させる工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転サイクル中に、水冷原子炉の一次回路の少なくとも1種の金属部品の内部表面を処理する方法であって、蒸気発生器管、ポンプ、又はフィッティングから選択される前記金属部品が、ニッケル系合金又はコバルト系合金で製造され、
前記原子炉の運転サイクル中に、前記一次回路の水と接触した、前記一次回路の全ての前記金属部品によって、前記一次回路中に排出されやすいニッケルの量を見積もるステップと、
見積もられたニッケルの前記量の全てを固定するのに必要なマグネタイトの量を計算するステップと、
前記水が、80℃から180℃の間の温度を有する場合、計算されたマグネタイトの前記量を、前記一次回路の前記水の中に溶解させることによって得られる処理水を生成するステップと、
少なくとも1種の金属部品の前記内部表面に、見積もられたニッケルの前記量の全て又は一部を固定することが可能な保護酸化物の層を形成するように、前記処理水を前記一次回路に循環させるステップと
を含み、
前記一次回路において循環する前記処理水の一部分が、前記運転サイクル中に、連続的に浄化され、その一方で、浄化手段を備える補助回路中に分かれ、次いで、前記一次回路中に再注入され、前記方法が、前記浄化手段によって前記浄化された処理水から取り除かれた鉄の量を補うように、前記補助回路中に、及び前記浄化手段の下流に水性鉄溶液(Fe(II))を注入するステップを更に含む、方法。
【請求項2】
前記注入するステップが、20℃から120℃の間の、前記浄化された処理水の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理水の生成中の前記一次回路の前記水が、80℃から120℃の間の温度を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記マグネタイトが、粉末形態で導入される、請求項1に記載の処理方法。
【請求項5】
前記原子炉の運転の継続時間が、12か月~24か月である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項6】
前記ニッケル系合金が、少なくとも60質量%のニッケルを含む合金からなり、前記コバルト系合金が、少なくとも60質量%のコバルトを含む合金からなる、請求項1に記載の処理方法。
【請求項7】
前記合金が、前記ニッケル系合金について、A600合金及びA690合金から選択され、前記コバルト系合金について、Stellite(商標)合金から選択される、請求項6に記載の処理方法。
【請求項8】
前記一次回路の前記水の中に導入されるマグネタイトのモル量が、排出されやすいニッケルのモル量の少なくとも2倍である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項9】
前記一次回路の前記水の中に導入されるマグネタイトのモル量が、少なくとも20モルである、請求項8に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、熱伝達媒体として水を使用した原子炉の一次回路を処理する方法の分野である。
【0002】
本発明は、特に、一次回路を汚染する原因となる腐食生成物の放出に関して、一次回路の金属部品、例えば、原子炉の一次回路の、蒸気発生器の管、ポンプ、及びフィッティングの挙動を改善することに関連する。
【背景技術】
【0003】
熱伝達媒体として水を使用する原子炉において、水は、原子炉のコア及び蒸気発生器を通る閉回路(一次回路と称される)において循環する。一次回路はまた、他の金属部品、例えば、一次ポンプ(すなわち、一次回路のポンプ、以下「ポンプ」)、フィッティング(バルブ等)、及び水循環配管も装備する。
【0004】
運転中の原子炉の容器において、一次回路の水は、核燃料の核分裂反応によって生じる熱を回収する。それは、一般に、286℃から330℃の間の温度である。
【0005】
本開示において、表現「~から~の間」は、その境界を含むものとして理解されるべきであることに留意されたい。
【0006】
ポンプによって、一次回路の水は、原子炉の容器を離れ、蒸気発生器の管に入る。これらの管において、水は、蒸気を発生するために、二次回路と称される、別の回路の水とその熱を交換し、それによって、電気を生じる目的のターボ同期発電機を動かす。
【0007】
一次回路の水の高温条件及び圧力条件により、特に、蒸気発生器の管を構成する合金の広範囲な腐食が引き起こされる。
【0008】
蒸気発生器の管の合金は、一般に、60%から75%の間のニッケルの質量パーセントを含有し;故に、その腐食は、腐食生成物の一部の溶出によって、一次回路の水中へのニッケル元素の排出をもたらす。
【0009】
一次回路の水が、原子炉のコアにおいて循環する場合、ニッケルは、放射線を照射され、放射性コバルト58(58Co)を生じ、それは、腐食生成物によって形成された層におけるコバルトの組み込みによって、一次回路(蒸気発生器を含む)全体を汚染する可能性がある。
【0010】
同じ移動メカニズムは、一次回路の水と、一次回路のフィッティング及びポンプにおいて使用されるコバルト系合金との間で起こる。これは、これらのコバルト系合金の腐食生成物の一部の溶出によって、一次回路の水中へのコバルト元素の排出が起こるためである。
【0011】
一次回路の水が、原子炉のコアにおいて循環する場合、コバルトは放射線を照射され、放射性コバルト60(60Co)を生じ、それは、腐食生成物によって形成された層におけるコバルトの組み込みによって、一次回路(蒸気発生器を含む)全体を汚染する可能性がある。
【0012】
しかし、核燃料を再装填し、一次回路及び蒸気発生器で定期メンテナンスを実行しようとする前に、原子炉の操作者は、放射能が十分に減少したことを確認せねばならない。一次回路の、この汚染は、放射能の低減のための待機時間を長引かせることになり、したがって、時間の損失をもたらし、故に事業収益の損失をもたらす。
【0013】
したがって、初めに、蒸気発生器の管を構成する合金の腐食により、ニッケルを一次回路の水中に排出することを最大限避け、次に、一次回路のポンプ及びフィッティングを構成する合金の腐食により、コバルトを一次回路の水中に排出することを最大限避けることによって、一次回路におけるコバルト58及びコバルト60の量を制限する必要がある。
【0014】
特許出願国際公開第2013/093382A1号において、出願者は、放射性コバルトによってもたらされる汚染を限定するために、発生源で、一次回路中への、蒸気発生器管の腐食からもたらされるニッケルの排出を制限する処理方法を提案した。
【0015】
水冷原子炉の蒸気発生器管の内部表面を処理するための、この方法は、水が、80℃から180℃の間の温度を有する場合、原子炉の一次回路の水中に、マグネタイト(Fe3O4)の一定量を導入することによって得られる、処理水を生成する、先の工程、及び蒸気発生器管の内部表面に処理水を接触させるように、この処理水を一次回路に循環させる工程を含み、それによって、処理水は、原子炉の運転サイクル中に蒸気発生器管を構成する合金によって、一次回路中に排出されやすいニッケルの量の全て又は一部を固定するための、保護酸化物の層を内部表面に形成する。
【0016】
したがって、一次回路の水中に導入されるマグネタイトの量は、処理水が、原子炉の運転サイクル中に蒸気発生器管を構成する合金によって、一次回路中に排出されやすいニッケルの全て又は一部を固定するための、保護酸化物の層を管の内部表面に形成することを可能にするように選択される。
【0017】
しかし、この方法は、有効であるが、時間の経過と共に有効性を損なう。
【0018】
これは、既知の方法において、一次流体が連続的に浄化されるからである。より正確には、一次回路において循環する水(一次流体)の一部分は、一次回路に隣接して配置された、いわゆる、化学体積制御(RCV)補助回路中に分かれ、特に、浄化手段(メカニカルフィルタ及びイオン交換樹脂が並んだ脱塩装置)を使用して、一次回路の水を浄化する(不純物を除く)ことを可能にする。
【0019】
したがって、運転サイクルの開始時(すなわち、原子炉が始動され、水が80℃から180℃の間の温度を有する期間)に導入されるFe3O4の量は、原子炉の運転サイクル中のRCV回路の浄化作用故に、経時的に徐々に減少し、RCVの役割は、とりわけ、意図的に導入されたマグネタイトを含む、一次回路の水に可溶性である腐食生成物を除去することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】国際公開第2013/093382号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
発明者らは、コバルト及びニッケルの放射化にそれぞれ由来する、コバルト60及びコバルト58によってもたらされる汚染を限定するために、発生源で、一次回路中への、蒸気発生器管の腐食からもたらされるニッケルの排出、又は一次回路のポンプ及びフィッティングの腐食からもたらされるコバルトの排出を更により制限する処理方法を提案することによって、出願者の方法を改善する目的を彼ら自身で設定した。
【0022】
より一般的には、本発明の目的は、汚染物質を原子炉へ移す原因となる、一次回路の水中への腐食生成物の放出を減らすことである。標的の化学元素は、主に、ニッケル及びコバルトであり、比較的程度は低いが、クロムである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
したがって、本発明は、運転サイクル中に、水冷原子炉の一次回路の少なくとも1種の金属部品の内部表面を処理する方法であって、蒸気発生器管、ポンプ、又はフィッティングから選択される金属部品が、ニッケル系合金又はコバルト系合金で製造され、
方法が:
- 原子炉の運転サイクル中に、一次回路の水と接触した、一次回路の全ての金属部品によって一次回路中に排出されやすいニッケルの量を見積もる工程;
- 見積もられたニッケルの量の全てを固定するのに必要なマグネタイトの量を計算する工程;
- 水が、80℃から180℃の間の温度を有する場合、計算されたマグネタイトの量を、一次回路の水中に溶解させることによって得られる処理水を生成する工程;及び
- 少なくとも1種の金属部品の内部表面に、見積もられたニッケルの量の全て又は一部を固定することが可能な保護酸化物の層を形成するように、この処理水を一次回路に循環させる工程;
を含み、
一次回路において循環する処理水の一部分が、運転サイクル中に、連続的に浄化され、その一方で、浄化手段を備える補助回路中に分かれ、次いで、一次回路中に再注入され、方法が、浄化手段によって浄化処理水から取り除かれた鉄の量を補うように、この補助回路中に、及び浄化手段の下流に水性鉄溶液(Fe(II))を注入する工程を更に含む、方法に関連する。
【0024】
念のために、水冷原子炉は、1年から2年の間続くサイクルによって作動し、その間、原子炉は、使用済み燃料を抜き出し、新しい燃料を再装填するために停止される。完全な運転サイクルは、特に、始動段階(温度が180℃未満である)、温態停止温度280℃での安定化段階、及び出力運転段階(電力生産期間)を含み、ここで、核安全局に申告された明細書に従って十分に画定された、一次回路の化学的調整(一次回路の水は、核燃料の消耗に応じて変わることがあるが、それらは完全に確立されている制限内のホウ酸、水酸化リチウム、及び二水素を含有する)で、温度は、286℃から330℃の間で変化する。
【0025】
金属フィッティング部品は、例えば、バルブ又はポンプベアリングであってもよい。
【0026】
水性鉄の注入は、運転サイクルを通して起こる;注入は、連続的又は非連続的(しかし周期的)であってもよい。この注入は、鉄の損失を補う。
【0027】
本発明の文脈において、「鉄の水溶液」、「水性鉄溶液」、又は「水性鉄」は、区別なく称され;これは、溶解した鉄を含有する水溶液を意味し、鉄は、酸化度+2を有する。酸化度+2を有する鉄を含有する化学種は、極めて多様であり得る:鉄(II)の水酸化物、酢酸塩、又は他の化学種。したがって、水性形態の鉄Fe(II)は、有機起源の化学種と錯体形成された形態、例えば、酢酸鉄又は水酸化鉄で、水溶液中に導入され得る。
【0028】
水性形態鉄(Fe(II))が、ニッケル系合金(蒸気発生器の管)だけでなく、一次回路のポンプ及びフィッティング(バルブ、ポンプベアリング等)において使用されるコバルト系合金にも作用するので、水性形態の鉄(Fe(II))の使用は、特に有利であり、それは、コバルトがまた、原子炉のコアの中性子の影響の下、放射化されるので特に有利である。
【0029】
Fe3O4の初めの注入、続いて運転サイクル全体にわたる水性鉄(II)の注入(連続的又は非連続的)は、コバルト58Co及びコバルト60Coの濃度を減らす効果を有する。
【0030】
注入は、20℃から120℃の間の、浄化処理水の温度で好ましくは実施される。これは、水性鉄を一次流体と混合することを容易にし、沈殿現象を制限する。
【0031】
処理水の生成中の一次回路の水は、80℃から120℃の間の温度を好ましくは有する。
【0032】
有利には、マグネタイトは粉末形態で導入される。
【0033】
有利には、原子炉の運転の継続時間は、12か月~24か月である。
【0034】
有利には、ニッケル系合金は、少なくとも60質量%のニッケルを含む合金からなり、コバルト系合金は、少なくとも60質量%のコバルトを含む合金からなる。合金は、ニッケル系合金について、A600合金及びA690合金から選択され、コバルト系合金について、Stellite(商標)合金(これらのコバルト系合金の分類において区別することなく)から好ましくは選択される。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、一次回路の水中に導入される、マグネタイトのモル量は、排出されやすいニッケルのモル量の少なくとも2倍である。
【0036】
有利には、一次回路の水中に導入されるマグネタイトのモル量は、少なくとも20モルである。
【0037】
本発明の、他の態様、目的、利点、及び特徴は、非限定的な例として与えられる、本発明の好ましい一実施形態の、以下の詳細な説明、及び添付の
図1(図のみである)に関する、以下の詳細な説明を読むと、より十分に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明による一次回路の概略図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明による処理方法は、有利には、マグネタイト(スピネル型構造を有する)が、2酸化度の鉄Fe(II)及びFe(III)を含有することを活用する。これにより:
- 蒸気発生器管の内部表面に、単純化された一般式AB2O4(Aは、Ni(II)、Fe(II)、及びCo(II)から選択され、Bは、Fe(III)及びCr(III)から選択される)のスピネル型構造を有する保護酸化物の層;
- コバルト系合金で製造された、一次回路の金属部品(ポンプ、フィッティング)の内部表面に、単純化された一般式AB2O4(Aは、Co(II)及びFe(II)から選択され、BはFe(III)である)のスピネル型構造を有する保護酸化物の層
を形成するために、とりわけ、蒸気発生器管の合金に含有されたニッケル元素、鉄元素、及びクロム元素、並びにコバルト元素(本発明の処理方法が実施される前に、ニッケルの放射線照射からもたらされる、又は一次回路のフィッティング及びポンプを形成する合金において存在する)を組み合わせることが可能になる。
【0040】
例として、故に、蒸気発生器管(例えば、A600合金又はA690合金で製造された管)の内部表面に、分子式NixFe1-xFe2yCr2(1-y)O4の混合酸化物の保護層、例えば、NiFe2O4層又はFeCr2O4層を形成すること、及びフィッティング及びポンプ(例えば、4等級Stellite(商標)合金で製作された)の内部表面に、CoFe2O4の保護層を形成することを可能にする。
【0041】
形成される、相対的に不溶性の酸化物の層は、一次回路の水における、ニッケルの排出(管の腐食に由来する)及びコバルトの排出(フィッティング及びポンプの腐食に由来する)を制限し、更に抑制するバリアを構成する。
【0042】
酸化物の1種又は複数の層の存在は、原子炉の冷態停止の継続時間を短縮し、結果として、メンテナンス操作中の、原子炉の人による操作の個人線量測定を減らす。
【0043】
出願人の先行特許出願国際公開第2013/093382A1号で示されたように、一次回路の水の温度が80℃から180℃の間(場合により、80℃から120℃の間)である場合、マグネタイトを導入することは、処理を成功させるための重要な点である。
【0044】
既知の方法において、一次回路の流体は、塩基性で操作され、原子炉の通常運転及び温態停止の間に媒体を還元し、故に、広がる腐食を最小化する。したがって、一般に、一次流体は、ホウ酸、水酸化リチウム、及び溶解二水素を含有する。より正確には、一次回路の水は、一般に、25mL/kg~50mL/kg(0℃、1バール)である濃度の二水素の添加によって、還元媒体を構成する。PWR技術の全ての原子炉は、一次流体の放射線分解を抑えるためにH2形態の水素を使用する。こうした媒体において、マグネタイトは、原子炉の規準の操作状態、すなわち典型的には286℃から330℃の間の温度よりも、80℃から180℃の間の温度でより可溶性である特殊性を有する。
【0045】
下限温度80℃は、水酸化第一鉄Fe(OH)2の形成を避けるのに必要である。これは、この下限未満の温度で、合金での保護スピネルの形成が損なわれ、形成される酸化物の稠密度が全体的に良くないからである。上限温度180℃(又は120℃)について、これは、規準の操作において、原子炉の温度上昇の前にある限界温度に対応する。念のため、完全な運転サイクルは、始動段階(数日間続く)、温態停止温度での安定化段階(やはり数日間続く)、規準の運転段階(数か月続き、その間、発電所は、電気を生じる)、最後に使用済み核燃料を置き換えるための、設備の停止段階を含む。
【0046】
実際、典型的には、原子炉の発散の前に、原子炉が停止されるとき、一般に、マグネタイトは一次回路の水中に導入される。次いで、マグネタイトは、一次回路の水中に、全体的に、又は部分的に溶解する。一次回路における循環の後、こうして処理された水中に含有されるマグネタイトは、蒸気発生器管、ポンプ、又はフィッティングから選択される、原子炉の金属部品の内部表面に、それに保護酸化物層を形成するために、水のように接触することができる。
【0047】
本発明による処理方法は、例えば、加圧水原子炉(PWR)型の水冷原子炉の一次回路で実施されることが意図される。運転サイクルの開始時に、すなわち、原子炉の(再)開始段階の間に、マグネタイトは、温度が80℃から180℃の間である、一次回路の任意の部品に導入され得る。例として、マグネタイトは、RCV回路の出口で、計量ポンプを介して、原子炉の一次回路の水中に導入され、又はRCV回路の出口で一次回路のフィルター内に設置され得る。
【0048】
マグネタイトは、その溶出に有利に作用するために、例えば、粉末形態で導入される。
【0049】
一次回路の水中に導入されるマグネタイトの量は、原子炉の運転サイクル全体にわたって、一次回路のニッケル系金属部品又は一次回路のコバルト系部品によって一次回路中に排出されやすい、ニッケル又はコバルトの全て又は一部を固定するために、ニッケル系合金又はコバルト系合金で製造された、一次回路の1種又は複数の金属部品に保護酸化物の層をin situ形成することを可能にするようなものである。酸化物の層を特徴づけるために、且つ導入されるマグネタイトの量を見積もるために、ニッケルの量は、コバルト又はクロムの量よりもむしろ考慮される。その理由は、これらの2種の化学種は、実際に少量であり、一次回路中に排出される化学種の物質収支において極めて可変である。したがって、コバルト及びクロムは、常に、一次回路中に注入される鉄(II)の質量を計算することにおいて無視され得る。
【0050】
所与の運転期間について、一次回路の水中に導入されるマグネタイトの量を予め決定するために、例えば、化学的測定若しくは電位差定量等の技術を使用して、又は原子炉停止中の産業設備の放射化学表示数値を使用して、すなわち、停止中に放出されたNi及びCoの質量を見積もるための、コバルト58及びコバルト60の放射能ピークの面積を測定して、同じ運転期間にわたって、一次水回路におけるニッケルの量を測定することが可能である。
【0051】
或いは、排出されやすいニッケルの量は、原子炉が停止されるときに観測される放射能ピークの高さをニッケルの比と比較することによって計算され、ニッケルの濃度と、一次回路の水によって運ばれる全放射能との比(化学元素による比は、当業者に既知の値であり、操作者によって核安全局に申告される)を与える。ニッケルの比(Ni比)を知り、原子炉が停止されるときの一次回路の水の全放射能を測定することによって、以下の計算によって、一次回路の水中に存在するニッケル濃度を見積もることができる:
全放射能×Ni比=ニッケル濃度
【0052】
一次回路の水の体積を知ることにより、以下の計算によって、保護酸化物の層に固定するのに必要であるニッケルの全量を見積もることができる:
Ni濃度×一次回路の容積=Niの量
【0053】
原子炉の2つの停止を分ける、運転の継続時間(すなわち、運転サイクル)は、一般に12か月から24か月であり、優先的には18か月である。
【0054】
その部品用の蒸気発生器管は、典型的には、ニッケル少なくとも60質量%、優先的には60質量%~75質量%を含む合金で典型的に構成される。それは、例えば、A600合金又はA690合金から選択される合金である。
【0055】
これらのパラメータの結果によれば、蒸気発生器管の腐食に続いて、排出されたニッケルの量は、一般に、原子炉の運転の18か月後、それぞれ、少なくとも10モル、優先的には20モル~50モルである。
【0056】
一次回路の水中に導入される、マグネタイトのモル量は、排出されやすいニッケルのモル量の少なくとも2倍に対応することを考慮して決定される。したがって、マグネタイトのモル量は、概して、それぞれ、少なくとも20モル(マグネタイト4.6kg)、優先的には40モル(マグネタイト9.2kg)~100モル(マグネタイト23kg)である。
【0057】
上記で説明したように、一次回路中に導入されるマグネタイトの量は、時間の経過と共に減少する。これは、一次回路の水の流れの小画分(典型的には1%未満)が、水によって運搬される化学種(水性化学種及び固体化学種)を除去することになる浄化手段を含有するRCV補助回路中に分かれるからである。実際、全ての元素Fe、Ni、Co等は、RCV回路において通る一次流体の部分から浄化される。
【0058】
およそ100時間で、一次流体は、RCVの浄化回路を完全に通過した。鉄の損失は、一次流体が一新される度に、
質量_鉄_損失=平衡_濃度×質量_一次_水
であり、式中、「質量_鉄_損失」は、一次流体が完全に一新される度に、浄化手段によって保持される鉄の質量(kg)(それ故に100時間当たり)であり、「平衡濃度」は、原子炉の電力運転中に直面する物理的条件及び化学的条件での、マグネタイトの平均平衡濃度(kg/kg水)であり、「質量_一次_水」は、運転中の一次回路に含有される水の質量(kg)である。
【0059】
「平衡_濃度」が、9×10-8モル/kg水又は5×10-9kg/kg水に等しいこと(原子炉の電力運転中に直面する物理的条件及び化学的条件の全てにわたって2分の1未満で変化する)、並びに「質量_一次_水」が300×103kg(原子炉の設計及び電力によって変化する)に等しいことを知ることにより、鉄の損失は、一次流体が一新される度に、およそ0.027モル、すなわち、1.51gである。したがって、鉄の損失は、一次流体の浄化故に、18か月サイクルにわたって、(365日/12か月)×18か月×(24時間/日)/100時間浄化=浄化による131の完全な一新であり、すなわち、鉄0.2キログラム(又は、鉄3.58モル)程度が、一次回路の水において、原子炉の運転サイクル期間全体にわたって失われる。鉄の損失は、浄化率に直接依存する。しかし、鉄の損失は、運転サイクル当たり1キログラム程度のままである。
【0060】
既存の方法に対する改善は、浄化手段からの出口のRCV回路中に水性鉄を注入し、故に鉄の損失を補うことによって、意図的に導入されたマグネタイトの損失、水を浄化することによって引き起こされた損失を補うことにある。したがって、望ましくない元素は、一次流体の浄化部分から適切に取り除かれ、その一方で、保護酸化物の層を形成するのに必要な鉄の量を保存する。
【0061】
一次水の一部分を浄化するための、この方法は、原子炉の運転サイクル全体を通して作用する。したがって、方法の改善は、鉄元素を、連続的に、又は非連続的に一次回路に戻る浄化された水に意図的に導入することによって、鉄元素の損失を補うことにある。
【0062】
運転サイクル中に水性鉄形態の鉄を注入することは、運転サイクル中に、この注入によって補われる鉄の量が、原子炉が始動するときに初めに注入された鉄の量よりもかなり少ないので、マグネタイトを導入することよりも、より容易に実施されるという利点がある。更に、鉄の最初の注入(マグネタイトの形態)が、理論において、根源でニッケル及びコバルトをブロックするのに十分であるはずだったことを知ることにより、RCV回路の運転によって引き起こされる鉄の小さな損失を補う場合であるので、必要に応じて、時間と共に少量の鉄を注入することは、一回で大量に鉄を注入するよりもより容易である。
【0063】
鉄の損失を補うために、サイクル中に導入される水性鉄の全量は、RCV回路によって浄化された一次流体の量に応じて決まり、故に、以下の式による浄化率Q浄化によって決まる:
Q注入(Fe)×C組成(Fe)=Q浄化×C溶解度(マグネタイト)
式中、Q注入(Fe)は、水性鉄溶液(Fe(II))を注入するのに使用される注入システムの流量であり、C組成(Fe)は、注入された水性鉄溶液(Fe(II))の鉄の濃度であり、Q浄化は、RCV回路の流量であり、C溶解度(マグネタイト)は、PWRの物理的条件及び化学的条件での、マグネタイトの平均溶解度である。
【0064】
C溶解度(マグネタイト)が水1kg当たり鉄[2~8].10-9kgの間であること、Q浄化が、RCV回路における一次水の流れのおよそ1%の分流のために、およそ10トン毎時間(10.103kg/時間)に等しいこと、及びサイクル継続時間18か月が(365日間×24時間×18/12)、すなわち13140時間に対応することを知ることにより、C溶解度(マグネタイト)の値が、水1kg当たり鉄5.10-9kgと等しくなるように設定される場合、18か月のサイクルで鉄0.657kgの損失が行われる。
【0065】
要するに、結果として、運転サイクル18か月当たりの補充の鉄1kg弱(用いられた浄化率及び運転サイクルの継続時間に応じて調節される)に相当するものを導入する必要がある。
【0066】
本発明による水冷原子炉の一次回路1の概略図の例を
図1に示す。それは、原子炉コア2、蒸気発生器3、ポンプ4、及び浄化手段6を備えるRCV回路5を含む。RCV回路における一次水流れの分流1%の場合が示された。RCV回路5において、浄化手段6の出口で、注入手段7を使用して、一定量の水性鉄を注入して、鉄の損失を補う。
【0067】
水性鉄は、補助回路の浄化手段の下流に注入される。好ましくは、注入は、浄化手段の下流に位置するRCV回路の領域だけでなく、一次流体の温度が20℃から120℃の間であるRCV回路の領域でも行われる。これは、一次流体と水性鉄との混合を容易にし、一次回路の水と共に注入された溶液の混合が不十分である場合、120℃を超えて現れることがある沈殿現象を制限する。
【0068】
既知の方法において、且つ前述されたように、原子炉の規準操作中の一次回路の流体は、塩基性であり、媒体を還元する。好ましくは、一次回路に課された化学的条件(pH及びレドックス)を乱さないために、注入された水性鉄溶液もまた還元媒体である。水性鉄溶液Fe(II)は、例えば、O2のない状態、故に真空で調製することができ、例えば、5mL/kgから50mL/kgの間の濃度で水素を添加すること(0℃、1バール)によって、溶解した二水素を含有する水中でより良好に調製することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 一次回路
2 原子炉コア
3 蒸気発生器
4 ポンプ
5 RCV回路
6 浄化手段
7 注入手段
【外国語明細書】