(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148354
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】マグネシウム合金のリサイクル設備及びリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
C22B 26/22 20060101AFI20241010BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20241010BHJP
C22B 9/16 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C22B26/22
C22B7/00 F
C22B9/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061421
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】山口 毅
(72)【発明者】
【氏名】部谷 道雄
(72)【発明者】
【氏名】川邊 主税
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 貴英
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA38
4K001BA22
4K001BA23
4K001CA01
4K001GA19
(57)【要約】
【課題】マグネシウム合金を溶解させる際の防燃ガスの使用量を低減することが可能であり、環境面、安全面、及びコスト面で優れたマグネシウム合金のリサイクル設備を提供する。
【解決手段】本開示は、以下の手段を有する、マグネシウム合金のリサイクル設備である:マグネシウム合金スクラップを、マグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素であって、且つマグネシウムの溶解時に不燃である不燃金属の存在下で溶解する溶解手段。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の手段を有する、マグネシウム合金のリサイクル設備:
(a)マグネシウム合金スクラップを、マグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素であって、且つマグネシウムの溶解時に不燃である不燃金属の存在下で溶解する溶解手段。
【請求項2】
前記不燃金属がアルミニウム及び亜鉛からなる群より選択される、請求項1に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
【請求項3】
前記不燃金属がアルミニウムである、請求項2に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
【請求項4】
前記溶解手段が、前記マグネシウム合金スクラップ中のアルミニウムも含めて、マグネシウムとアルミニウムの合計質量に対するアルミニウムの質量比が33質量%以上となるように、前記アルミニウムと前記マグネシウム合金スクラップとを溶解する手段である、請求項3に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
【請求項5】
前記マグネシウムとアルミニウムの合計質量に対するアルミニウムの質量比が33質量%~70質量%である、請求項4に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
【請求項6】
以下の手段をさらに有する、請求項5に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備:
(b)前記溶解手段を経た、前記アルミニウムと前記マグネシウム合金スクラップとの混合溶解物を凝固させることにより、Al-Mg金属間化合物を含有する原料を得る凝固手段。
【請求項7】
前記凝固手段が、前記アルミニウムと前記マグネシウム合金スクラップとの混合溶解物を、回転ロール又は水中に滴下することにより、凝固させる手段であり、
以下の手段をさらに有する、請求項6に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備:
(c)前記Al-Mg金属間化合物を含有する原料を加工することにより、Al-Mg金属間化合物を含有する粒状原料を得る加工手段;及び
(d)前記粒状原料と、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金チップと、を射出成形により混合溶解することで、最終目標組成のアルミニウム成分量を有するマグネシウム合金射出成形体にリサイクルする成分調整手段。
【請求項8】
前記凝固手段が、前記アルミニウムと前記マグネシウム合金スクラップとの混合溶解物を鋳造することにより、Al-Mg金属間化合物を含有するAl-Mgインゴットを得る手段であり、
以下の手段をさらに有する、請求項6に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備:
(d)前記Al-Mgインゴットと、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金と、を混合溶解することにより、最終目標組成のアルミニウム成分量を有するマグネシウム合金にリサイクルする成分調整手段。
【請求項9】
以下の手段をさらに有し:
(c)前記Al-Mgインゴットを粒状に加工して、粒状原料としてのAl-Mg粒子を得る加工手段;
前記成分調整手段が、前記Al-Mg粒子と、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金と、を混合溶解する手段である、請求項8に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
【請求項10】
前記成分調整手段が、前記Al-Mg粒子と、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金チップと、を射出成形により混合溶解することで、最終目標組成のアルミニウム成分量を有するマグネシウム合金射出成形体にリサイクルする手段である、請求項9に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
【請求項11】
前記加工手段が、打撃手段を用いて前記Al-Mgインゴットを粉砕加工する手段である、請求項9に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
【請求項12】
前記マグネシウムとアルミニウムの合計質量に対するアルミニウムの質量比が42質量%~65質量%である、請求項5~11のいずれか一項に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
【請求項13】
以下の工程を有する、マグネシウム合金のリサイクル方法:
(a)マグネシウム合金スクラップを、マグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素であって、且つマグネシウムの溶解時に不燃である不燃金属の存在下で溶解する溶解工程。
【請求項14】
前記溶解工程が、予め溶解した前記不燃金属中へ、前記マグネシウム合金スクラップを投入する方法により行われる、請求項13に記載のマグネシウム合金のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金のリサイクル設備及びマグネシウム合金のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に記載されているように、マグネシウム射出成形品の不要部分(クリーンスクラップ)は、材料メーカーにより回収され、再溶解及び成分調整された後、チップ化され、射出成形に再利用される。また、マグネシウム射出成形品の製品部分は、塗装などの表面処理が施され、製品として使用された後、分別回収される。そして、分別回収された製品部分は、塗装を剥離された後、クリーンスクラップと同様に再溶解及び成分調整され、チップ化され、射出成形に再利用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「マグネシウム筐体のリサイクル技術」、成形加工、一般社団法人プラスチック成形加工学会、2004年、第16巻、第3号、p.163―167
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶融マグネシウム(溶湯)は、空気に触れると発火、燃焼する。そのため、マグネシウムを溶解する際は、マグネシウムの燃焼を防ぐために防燃ガスの使用が必要となる。防燃ガスとしては、SF6ガスが最も一般的に使用されている。しかし、SF6ガスの地球温暖化係数はCO2ガスの23,900倍と非常に大きく、海外では使用禁止になるほどである。SF6ガスに替えてHFC-134aやSO2ガスといった防燃ガスも使用されているものの、環境負荷、人体への安全性、又はコスト等の点で課題を有しているのが現状である。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、マグネシウム合金を溶解させる際の防燃ガスの使用量を低減することが可能であり、環境面、安全面、及びコスト面で優れたマグネシウム合金のリサイクル設備並びにリサイクル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係るマグネシウム合金のリサイクル設備は、以下の手段を有する:
マグネシウム合金スクラップを、マグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素であって、且つマグネシウムの溶解時に不燃である不燃金属の存在下で溶解する溶解手段。
【0007】
また、本開示の一実施形態に係るマグネシウム合金のリサイクル方法は、以下の工程を有する:
マグネシウム合金スクラップを、マグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素であって、且つマグネシウムの溶解時に不燃である不燃金属の存在下で溶解する溶解工程。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、マグネシウム合金を溶解させる際の防燃ガスの使用量を低減することが可能であり、環境面、安全面、及びコスト面で優れたマグネシウム合金のリサイクル設備並びにリサイクル方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、防燃ガスを用いてマグネシウム合金を溶解する手段を含むリサイクルフローを示す。
【
図1B】
図1Bは、本開示の一実施形態に係るリサイクルフローを示す。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係るリサイクルフローを示す。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態に係る射出成形機の概略正面図を示す。
【
図5A】
図5Aは、黒鉛るつぼに投入したアルミニウム及びマグネシウム合金スクラップの写真である。
【
図5B】
図5Bは、黒鉛るつぼ内でアルミニウム及びマグネシウム合金スクラップ溶解する様子を示す写真である。
【
図5C】
図5Cは、溶湯を鋳型へ鋳込む様子を示す写真である。
【
図5D】
図5Dは、実施例で得られたAl
12Mg
17インゴットの断面を示す写真である。
【
図6】
図6は、実施例で得られたAl
12Mg
17インゴットのXRD分析結果である。
【
図7】
図7は、Al
12Mg
17インゴットをハンマーで粉砕して得られる粒状原料の写真である。
【
図8】
図8は、実施例における溶解工程でのアルミニウムとマグネシウムの成分比、並びに成分調整工程で用いたAM60Bチップ及びリサイクル品として得られるAZ91Dの前記成分比を記したAl-Mg二元状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<マグネシウム合金のリサイクル設備>
本開示の一実施形態に係るマグネシウム合金のリサイクル設備は、少なくとも以下の手段を有する。マグネシウム合金スクラップを、マグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素であって、且つマグネシウムの溶解時に不燃である不燃金属の存在下で溶解する溶解手段。以下、
図1A、
図1B及び
図2を参照して、本実施形態に係るマグネシウム合金のリサイクルフローを説明する。
【0011】
図1Aは、防燃ガスを使用してマグネシウム合金を溶解する手段を含むマグネシウム合金のリサイクルフローを示す。また、
図1Bは、本開示の一実施形態に係るマグネシウム合金のリサイクルフローを示し、
図2は、
図1Bに示すリサイクルフローが有する各手段を、写真又は図と共に、より具体的に説明するリサイクルフローである。
【0012】
図1Aに示すリサイクルフローは、まず、射出成形で得られたマグネシウム合金(AZ91D)射出成形体をゲートカットし、良品・不良品を選別する工程S1を有する。そして、続く溶解工程S2で、工程S1で得られた製品部以外の部分や不良品のマグネシウム合金スクラップを単独で溶解するため、防燃ガスの使用が必要となる。次いで、溶解により得られたマグネシウム合金の溶湯を鋳込み、凝固することにより、マグネシウム合金のインゴットが得られる(工程S3)。さらに、該インゴットを切削し(工程S4)、得られたマグネシウム合金チップを射出成形することにより(工程S5)、マグネシウム合金スクラップは、マグネシウム合金射出成形体としてリサイクルされる。
【0013】
一方で、
図1B及び
図2に示す本実施形態に係るリサイクルフローは、
図1Aの工程S1に対応する工程S11に続いて、該工程S11で得られた製品部以外の部分や不良品のマグネシウム合金スクラップに、アルミニウムを添加して溶解する溶解工程(溶解手段)S12を有する。この溶解工程S12によれば、燃焼しないMg/Al比でアルミニウムを溶解させることができ、防燃ガスの使用量を低減することができる。
【0014】
また、Mg/Al比を適切な範囲に調整することにより、Al12Mg17のような金属間化合物が生成される。そのため、マグネシウム合金スクラップとアルミニウムを含む溶湯を、凝固工程(凝固手段)S13で鋳込みし、凝固して得られるAl-Mgインゴットは、金属間化合物を含むものとなる。金属間化合物は、脆く、砕けやすいという性質を有することから、得られるAl-Mgインゴットは、続く加工工程(加工手段)S14で、例えばハンマー等の打撃手段を用いて叩くだけで、容易に粒状に粉砕加工することが可能である。
【0015】
最後に、前記粉砕により得られたAl-Mg金属間化合物(Al
12Mg
17)粒子と、マグネシウム合金チップと、を最終目標組成となるような比率で混合する成分調整工程(成分調整手段)S15を経た後、射出成形を行う(工程S16)。その結果、マグネシウム合金スクラップは、マグネシウム合金射出成形体としてリサイクルされる。このように、本実施形態によれば、マグネシウム合金の溶解時における防燃ガスの使用量を低減することができる。さらには、溶解時のMg/Al比を適切な範囲に調整することにより、容易に粉砕し得る金属間化合物を含むインゴットを得ることができる。その結果、本実施形態によれば、
図1Aに示すリサイクルフローで必要となる、インゴットを切削する手間やコストを省くことが可能となる。以下、本実施形態に係るリサイクル設備が有する各手段(工程)について詳細に説明する。
【0016】
[溶解手段]
上記のとおり、マグネシウムは、大気中で溶解すると発火、燃焼する。そのため、本実施形態では、マグネシウム合金スクラップを単独で溶解せずに、マグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素であって、且つマグネシウムの溶解時に不燃である金属(「不燃金属」とも称する)と共に溶解する。その結果、本実施形態によれば、マグネシウム合金溶解時の防燃ガスの使用量を低減することが可能となる。
【0017】
(マグネシウム合金スクラップ)
マグネシウム合金スクラップとは、射出成形時に湯道(ランナー)内に存在するランナー部といったマグネシウム合金の射出成形品を製造する際に不要となる部分(製品部以外の部分)や、不良品等である。マグネシウム合金スクラップは、マグネシウム合金を用いた製品をリサイクルする際に排出される不要となったマグネシウム合金、又はリサイクルされるべきマグネシウム合金であってもよい。マグネシウム合金としては、特に限定されず、Mg-Al合金、Mg-Al-Zn合金、Mg-Zn合金、Mg-Zn-Zr合金、Mg-Cu-Zn合金、Mg-希土類元素合金、Mg-希土類元素-Zr合金、Mg-Al-Si合金等を用いることができる。より具体的に、マグネシウム合金としては、AZ91D、AM60B、AM50A、AE42、AS41等が挙げられるが、これらの中でも、AZ91Dが最も一般的に用いられている。
【0018】
(不燃金属)
本開示に係る不燃金属は、マグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素であって、且つマグネシウムの溶解時に不燃である金属である。ここで、マグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素とは、マグネシウム合金を構成する元素のうち、マグネシウムの次に成分比率が大きい元素を意味する。具体的に、上記のようなマグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素としては、アルミニウム、亜鉛、ジルコニウム、銅、希土類元素、シリコン、マンガン等が挙げられる。そして、これらの中でも、マグネシウムの溶解時に不燃である金属、すなわち不燃金属としては、アルミニウム又は亜鉛が好ましく、アルミニウムがより好ましい。
【0019】
(マグネシウムと不燃金属との成分比)
以下、不燃金属としてアルミニウムを用いた場合における、マグネシウムとアルミニウムとの成分比について、
図3に示すAl-Mg二元状態図を参照して説明する。
【0020】
図3に示すAl-Mg二元状態図によれば、アルミニウム比率が42質量%以上(マグネシウム比率が58質量%以下)で、金属間化合物であるAl
12Mg
17が生成される。なお、本開示における「アルミニウム比率」とは、マグネシウム合金スクラップ中のアルミニウムも含めた、マグネシウムとアルミニウムの合計質量に対するアルミニウムの質量比を意味する。さらにアルミニウム量を増やしていくと、Al
12Mg
17以外にAl
3Mg
2も生成される。具体的に、アルミニウム比率が62質量%~64質量%(マグネシウム比率が36質量%~38質量%)で、Al
3Mg
2が生成される。したがって、金属間化合物を主成分として含有する生成物を得るためには、
図3の(a)に示す範囲、すなわちアルミニウム比率が42質量%~64質量%(マグネシウム比率が36質量%~58質量%)となるように、マグネシウム合金スクラップとアルミニウムとを混合することが好ましい。
【0021】
なお、二元状態図は、平衡状態における各成分の比率を示すものであり、非平衡状態にある場合等には、各成分の比率が、二元状態図に示される数値から、ずれる場合がある。そのため、本開示に係るマグネシウムと不燃金属との成分比(比率)は、平衡状態における成分比(比率)を意味するものである。また、本開示に係るマグネシウムと不燃金属との成分比(比率)の範囲は、二元状態図から読み取った数値に基づくものであり、特に断りのない限り、記載されている数値の前後1%の範囲を含むことを意図するものである。すなわち、例えば、「42質量%以上64質量%以下」は、「約42質量%以上約64質量%以下」を意図する範囲であり、この場合、「約」は、その数値の前後1%を含むことを意味する。
【0022】
アルミニウム比率が上記範囲(42質量%~64質量%)よりも多い場合、あるいは少ない場合であっても、生成物中の金属間化合物の割合が多ければ、該生成物は、金属間化合物に近い性質を有するものと考えられる。
【0023】
具体的に、アルミニウム比率を64質量%から増やしていくと、Al3Mg2に加えてAlが生成される。防燃効果のみを考慮すれば、アルミニウム比率が例えば99質量%となるまでマグネシウム合金スクラップを希釈しても問題ない。よって、防燃効果の観点からは、アルミニウム比率は64質量%超え、99質量%以下の範囲(100質量%は含まない)であってもよい。ただし、アルミニウム比率が多くなるにつれて、必要となるアルミニウムの量も多くなる。また、アルミニウム比率が極端に多い場合、後述する成分調整工程にて再溶解インゴットとマグネシウム合金とを混合する際に、微量の再溶解インゴットの添加によって目標の最終組成が達成される。そのため、均一な混合という観点からは、アルミニウム比率が極端に多くならないように調整することが好ましい。
【0024】
一方で、
図3の(b)に示す範囲、すなわちアルミニウム比率が64質量%超えであっても、70質量%以下であれば(マグネシウム比率が36質量%未満であっても30質量%以上であれば)、Alに対するAl
3Mg
2の生成量が十分多くなり、得られるインゴットは、金属間化合物の特性を発揮しやすい。
【0025】
以上から、アルミニウム比率は70質量%以下(マグネシウム比率は30質量%以上)であることが好ましい。さらに、後述する加工工程における粉砕のし易さを考慮すると、後の工程で得られるインゴットは、延性を有するAlを含まないことが好ましい。したがって、アルミニウム比率は、Alの生成を抑制し得る範囲、すなわち、64質量%以下(マグネシウム比率は36質量%以上)であることがより好ましい。ただし、後述する実施例4の結果を参照すれば、アルミニウム比率が65質量%である場合にも、本開示に係る防燃ガスの使用量を低減する効果が十分に得られることが実証されている。したがって、本実施形態では、アルミニウム比率は65質量%以下(マグネシウム比率は35質量%以上)であることがより好ましいとも言うことができる。
【0026】
また、アルミニウム比率を42質量%から少なくしていくと、Al
12Mg
17に加えてMgが生成される。しかし、
図3の(c)に示す範囲、すなわちアルミニウム比率が42質量%より少なくても、33質量%以上であれば(マグネシウム比率が58質量%超えであっても、67質量%以下であれば)、Mgの生成も抑えられ、得られるインゴットは、脆く、砕けやすいという金属間化合物の特性を発揮しやすい。防燃という観点では、溶融状態におけるアルミニウム比率が多いほど防燃効果は高くなるものの、アルミニウム比率が33質量%以上である場合には、防燃ガスの使用を大幅に低減することが可能である。一方、アルミニウム比率が33質量%未満である場合も、アルミニウムを全く添加しない場合や、アルミニウムを9質量%含有する汎用マグネシウム合金であるAZ91Dを用いた場合と比較すれば、優れた防燃効果を有しており、防燃ガスの使用量を低減することができる。以上から、アルミニウム比率は、33質量%以上(マグネシウム比率は67質量%以下)であることが好ましく、42質量%以上(マグネシウム比率は58質量%以下)であることがより好ましい。
【0027】
このように、溶解手段では、用いるマグネシウム合金スクラップ中のアルミニウム及びマグネシウムの比率に応じて、アルミニウム比率が好ましくは上記範囲内となるように、混合するマグネシウム合金スクラップ及びアルミニウムの量を適宜調整する。なお、以上は、不燃金属としてアルミニウムを用いた場合について説明したが、不燃金属として例えば亜鉛を使用した場合にも、上記と同様の理論に基づき、好ましい亜鉛比率を決定することができる。
【0028】
(溶解工程の手順)
溶解手段を用いる溶解工程では、マグネシウム合金スクラップを不燃金属の存在下で溶解させる。ここで、不燃金属の存在下でマグネシウム合金スクラップを溶解させるとは、マグネシウム合金スクラップを、単独で溶解させる態様を排除する意図である。すなわち、マグネシウム合金スクラップの溶解時に、不燃金属も共に存在していればよい。溶解手段としては、例えば、るつぼ等の耐熱容器が用いられ、溶解工程は、必要に応じて、撹拌下で実施される。るつぼの材質は、マグネシウムや不燃金属の溶解に耐え得ることを前提として特に限定されないが、例えば、黒鉛るつぼ及び鋳鋼製るつぼ等を用いることができる。溶解の際は、必要に応じて、精錬のためフラックスを用いてもよい。
【0029】
溶解工程では、不燃金属が溶解しているるつぼ内へマグネシウム合金スクラップを投入してもよく、両者をるつぼ内で混合した後に、一緒に溶解してもよい。ただし、マグネシウム合金の一例であるAZ91Dの融点は595℃であり、不燃金属として好ましく用いられるアルミニウムの融点は660℃である。そのため、マグネシウム合金スクラップとアルミニウムとを、共にるつぼに入れた状態で溶解を始めると、最初にマグネシウムが溶けて、発火する恐れがある。したがって、溶解手段は、予めアルミニウム(不燃金属)のみを単独で溶解させておき、その溶解したアルミニウム(不燃金属)中へ、マグネシウム合金スクラップを投入する手段であることが好ましい。この方法によれば、マグネシウム(不燃金属)のみが先に溶解することを抑制することが可能であり、マグネシウムが燃焼するリスクをより低減することができる。
【0030】
なお、マグネシウム合金スクラップ中に水分が巻き込まれていたり、水分が付着していたりする場合がある。そのような場合には、溶解したアルミニウム(不燃金属)中へマグネシウム合金スクラップを投入する際に、溶湯がはじけ飛ぶ可能性がある。そのため、安全性の観点から、マグネシウム合金スクラップは、必要に応じて、予備加熱等により水分を除去した後に使用することが好ましい。また、溶湯表面での火種の発生を抑制するため、窒素ガスやアルゴンガスのような不活性ガスのフロー下で溶解工程を実施してもよい。
【0031】
アルミニウムとマグネシウム合金スクラップが混合溶解した後は、生成するAl12Mg17等の融点(450℃程度)を考慮し、該融点よりも少し高い温度を保つことにより、溶融状態を維持することができる。そのため、アルミニウムとマグネシウム合金スクラップが混合溶解した後は、例えば500℃位まで温度を下げて鎮静化及び均一化させてもよい。あるいは、鎮静化や均一化の工程が不要である場合は、溶解したアルミニウム中へマグネシウム合金スクラップを投入し、両者が混合溶解した段階で軽く撹拌し、すぐに金型に鋳込んでインゴットを作製等する次工程へ進めてもよい。
【0032】
[凝固手段]
本実施形態に係るリサイクル設備は、前記溶解手段を経て得られる不燃金属とマグネシウム合金スクラップとの混合溶解物を凝固させることにより、不燃金属とマグネシウムとの金属間化合物(以下、「M1-Mg金属間化合物」とも称する)を含有する原料を得る凝固手段を有していてもよい。
【0033】
具体的に、凝固手段は、前記混合溶解物を鋳造することにより、前記M1-Mg金属間化合物を含有する原料としてのM1-Mg金属間化合物を含有するM1-Mgインゴットを得る鋳造手段であってもよい。一実施形態に係る鋳造手段では、前記マグネシウム合金スクラップと、不燃金属の一例であるアルミニウムとを含む溶湯を鋳型へ流し込み、固化させることにより、Al-Mgインゴットを得る。上述のように、溶解工程での前記アルミニウム比率が33質量%~70質量%である場合、得られるAl-Mgインゴットは、Al-Mg金属間化合物を含む。さらに、前記アルミニウム比率が42質量%~64質量%(又は65質量%)である場合は、Al-Mg金属間化合物を主成分として含有するAl-Mgインゴットが得られる。なお、本開示中、「主成分として含有する」とは、当該成分が対象物の総量に対して50質量%以上、例えば60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上含まれることを意味し、実質的に当該成分100質量%からなる場合も含む。
【0034】
凝固手段を経て得られるAl-MgインゴットがAl-Mg金属間化合物を含むことは、例えば、XRD分析等を行うことによって確認することができる。
【0035】
また、凝固手段は、前記混合溶解物を回転ロール又は水中に滴下すること等により急冷し、凝固させる手段であってもよい。具体的に、前記混合溶解物を、例えば一対の回転ロール間に供給し、シート状に加工することにより、前記M1-Mg金属間化合物を含有する原料としてのシート状原料を得ることができる。さらに、凝固手段は、該シート状原料を切断、破砕して、粒状原料に加工する加工手段を後段に備えていてもよい。なお、本開示中、粒状とは、粒状、粒子状、チップ状及びペースト状等も含む意味であり、射出成形に用いる原料として適切な形状であればよい。
【0036】
[成分調整手段]
本実施形態に係るリサイクル設備は、前記凝固手段を経て得られるM1-Mg金属間化合物を含有する原料と、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金と、を混合溶解することにより、最終目標組成のアルミニウム成分量を有するマグネシウム合金にリサイクルする成分調整手段を有していてもよい。
【0037】
上述の溶解手段では、マグネシウム合金スクラップをアルミニウムによって希釈している。そのため、前記凝固手段を経たM1-Mg金属間化合物を含有する原料は、リサイクル原料として用いたマグネシウム合金スクラップに比べて、マグネシウム比率が低く、アルミニウム比率が高いものである。そこで、前記M1-Mg金属間化合物を含有する原料と、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金と、を混合溶解することにより、最終目標組成のアルミニウム成分量を有するマグネシウム合金を得ることができる。なお、最終目標組成とは、例えば、リサイクル原料であるマグネシウム合金スクラップと同等の組成であってもよく、適宜、所望の組成を設定してもよい。
【0038】
成分調整に用いる、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金は特に限定されず、最終目標組成に合わせて、適宜、選択することができる。そのようなマグネシウム合金としては、例えば、アルミニウムを6質量%含有するAM60BやAZ61、アルミニウムを5質量%含有するAM50Aのような市販チップが挙げられる。成分調整用のマグネシウム合金の使用量は、最終目標組成を考慮して、適宜設定すればよい。
【0039】
凝固手段を経て得られるM1-Mg金属間化合物を含有する原料は、例えば、Al-Mgインゴット自体であってもよく、また、該M1-Mg金属間化合物を含有する原料を、適宜、加工して得られるAl-Mg粒子やAl-Mgチップ等の、M1-Mg金属間化合物を含有する粒状原料であってもよい。
【0040】
[加工手段]
すなわち、本実施形態に係るリサイクル方法は、前記凝固手段を経て得られるAl-Mgインゴット等のM1-Mg金属間化合物を含有する原料を、粉砕又は切削等により粒状に加工し、M1-Mg金属間化合物を含有する粒状原料を得る加工手段を有していてもよい。凝固手段(鋳造手段)を経て得られるAl-MgインゴットがAl-Mg金属間化合物を含む場合、特に、Al-Mg金属間化合物を主成分として含む場合、該インゴットは脆く、ハンマーやプレス等の打撃手段を用いて粉砕することにより、容易に粒状に加工することができる。もちろん、加工手段として切削等の機械加工を行うことにより粒状にしてもよい。ただし、本開示の一実施形態に係るAl-Mg金属間化合物を含むAl-Mgインゴットは、切削等の機械加工を必要とせず、ハンマー等の打撃手段を用いて手で粉砕することにより、粒状原料としての、Al-Mg金属間化合物を含むAl-Mg粒子に加工することができる。
【0041】
なお、前記成分調整手段は、加工手段を経て得られるAl-Mg粒子等のM1-Mg金属間化合物を含有する粒状原料と、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金チップと、を、射出成形機を用いて射出成形することにより混合溶解する射出成形手段であってもよい。これにより、リサイクル品として、最終目標組成のアルミニウム成分量を有するマグネシウム合金射出成形体が得られる。
【0042】
図4は、本開示の一実施形態に係る射出成形機1の概略正面図を示す。
図4に示すように、射出成形機1は、金型を型締めする型締装置2と、射出される材料を加熱溶融して射出する射出装置3と、から構成されている。
図4に示す射出成形機によれば、型締装置2は、紙面左側と右側の2つの金型4A及び4Bを有する。そして、射出装置3は、シリンダ5と、シリンダ5内に収容されたスクリュ6と、スクリュ6を駆動する駆動機構7と、を備えている。シリンダ5の周りには、シリンダ5を加熱するためのヒータ8が配置される。スクリュ6は、駆動機構7によって回転駆動されるとともに矢印Xの方向に駆動される。駆動機構7はカバー9で覆われている。シリンダ5の後端部近傍には、射出される材料を供給するホッパー10が設けられている。シリンダ5の先端には、2つの金型4Aと4Bとで形成される金型内部の隙間(キャビティー)に射出材料を供給する射出ノズル11が設けられている。
【0043】
このような構成を有する射出成形機1を用いて、ホッパー10から、M1-Mg金属間化合物を含有する粒状原料と、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金チップと、を供給する。供給された材料は、ヒータ8の熱及びスクリュ6の回転により生じる剪断発熱により加熱されて溶融する。そして、混合溶解した材料が、射出ノズル11の先端から、金型内部の隙間に射出される。その後、金型を、混合溶解した材料の凝固温度以下まで冷却することで、金型内に、リサイクル品であるマグネシウム合金射出成形体が得られる。
【0044】
<マグネシウム合金のリサイクル方法>
本開示の一実施形態に係るマグネシウム合金のリサイクル方法は、少なくとも以下の工程を有する。マグネシウム合金スクラップを、マグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素であって、且つマグネシウムの溶解時に不燃である不燃金属の存在下で溶解する溶解工程。
【0045】
本開示の一実施形態に係るマグネシウム合金のリサイクル方法は、以下から選択される1つ以上の工程をさらに有していてもよい。前記溶解工程を経て得られる不燃金属とマグネシウム合金スクラップとの混合溶解物を凝固させることにより、M1-Mg金属間化合物を含有する原料を得る凝固工程;前記凝固工程を経て得られるM1-Mg金属間化合物を含有する原料と、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金と、を混合溶解することで、最終目標組成のアルミニウム成分量を有するマグネシウム合金にリサイクルする成分調整工程;前記凝固工程を経て得られるM1-Mg金属間化合物を含有する原料を、粉砕又は切削等により粒状に加工することにより、M1-Mg金属間化合物を含有する粒状原料を得る加工工程。
【0046】
前記凝固工程は、前記不燃金属とマグネシウム合金スクラップとの混合溶解物を鋳造することにより、M1-Mg金属間化合物を含有するM1-Mgインゴットを得る鋳造工程であってもよい。また、前記凝固工程は、前記混合溶解物を回転ロール又は水中に滴下すること等により急冷し、凝固させる工程であってもよい。凝固工程の後、加工工程を行うことにより、M1-Mg金属間化合物を含有する粒状原料を得ることができる。その場合、前記成分調整工程は、加工工程を経て得られるAl-Mg粒子等の該M1-Mg金属間化合物を含有する粒状原料と、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金チップと、を、射出成形機を用いて射出成形することにより混合溶解する射出成形工程であってもよい。これにより、リサイクル品として、最終目標組成のアルミニウム成分量を有するマグネシウム合金射出成形体が得られる。
【0047】
本開示に係るリサイクル方法が有する上記各工程は、上述の本開示に係るリサイクル設備が有する対応する各手段を用いて目的の手順を実施する工程である。そのため、上記本開示に係るリサイクル設備について説明した、対応する各手段を、適宜、各工程と読み替えて、本開示に係るリサイクル方法に適用可能であり、詳細な説明は省略する。
【実施例0048】
[実施例1~3]
図1B及び
図2に示すリサイクルフローに従い、実施例1~3に係るマグネシウム合金のリサイクル方法を実施した。また、
図5A~Dは、各工程を実施する様子を示す写真である。リサイクル原料であるマグネシウム合金スクラップとしては、アルミニウムを9質量%含むAZ91Dマグネシウム合金(商品名:TMクリンプ、中央工産(株)製)の射出成形品から製品部を取り除いたランナー部を使用した。また、アルミニウムとしては、純アルミニウム系でアルミニウム含有率が99.7質量%以上(アルミニウム100質量%とみなす)であるA1070アルミニウム合金丸棒(φ50mm)を使用した。
【0049】
(溶解工程)
黒鉛るつぼに、A1070アルミニウム合金とAZ91Dマグネシウム合金スクラップとの質量比が1:1.6となるよう、合計900gの材料を入れ、るつぼ炉内で700℃まで加熱した(
図5A及び
図5B)。このとき、混合溶解した状態で、マグネシウム合金スクラップ中のアルミニウムも含めたマグネシウム及びアルミニウムの総量に対するアルミニウム比率は44質量%であった。溶解時に、何も添加しない条件(実施例1)、精錬のため塩化物系のフラックスのみ添加する条件(実施例2)、前記フラックスの添加に加え、溶湯表面にアルゴンガスをフローする条件(実施例3)の3条件で溶解工程を実施した。結果を表1に示す。表1に示すように、アルゴンガスをフローした実施例3では、一切の火種も発生しなかった。また、実施例1及び2では、溶湯表面に僅かな火種が発生したものの、マグネシウム合金を大気中で溶解したときのように次々と燃焼していくような現象は見られなかった。
【0050】
(鋳造工程)
適宜、溶湯表面の火種を除去し、軽く攪拌した後、鋳鉄製の鋳型に溶湯を鋳込み(
図5C)、冷却、凝固させることにより、金属間化合物であるAl
12Mg
17を主成分とするAl-Mgインゴットを得た。
図5Dは、得られたAl
12Mg
17インゴットの断面を示す写真である。なお、得られたインゴットをXRD分析(ターゲット:Co、加速電圧:45kV、ビーム電流:40mA)したところ、
図6に示す結果が得られた。
図6に示すように、得られたインゴットの回折ピークは、既知のAl
12Mg
17のピークと一致し、金属間化合物であるAl
12Mg
17が生成したことを確認することができた。
【0051】
(加工工程)
金属間化合物であるAl
12Mg
17は非常に脆いことから、得られたAl-Mgインゴットを、ハンマーを用いて、手で粉砕したところ、
図7に示すように、容易に粒状に粉砕することができた。このように、加工工程では、10mm以下にまでAl-Mgインゴットを粉砕し、ふるいにかけて微粉を除去することにより、粒状原料としてのAl-Mg(Al
12Mg
17)粒子を得た。なお、比較のため、AZ91Dマグネシウム合金やA1070アルミニウム合金をハンマーで叩いてみたところ、粉砕することはできなかった。
【0052】
(成分調整工程)
加工工程で得られたAl-Mg(Al12Mg17)粒子と、市販の、アルミニウムを6質量%含むAM60Bマグネシウム合金チップ(商品名:TMクリンプ、中央工産(株)製)とを、質量比でAl12Mg17:AM60B=7.9:92.1となるよう計量し、容器内でよく混合した。混合したチップを、マグネシウム射出成形機(商品名:JLM280-MGIIe、(株)日本製鋼所製)のホッパーから投入し、射出成形した(シリンダ温度:610℃)。その結果、シリンダ内で両材料が混合溶解され、金型内に高速射出されることで、リサイクル品である、アルミニウムを9質量%含むAZ91Dマグネシウム合金の射出成形体が得られた。なお、シリンダ温度は、AM60Bの液相線である615℃よりも高い温度であってもよい。また、Al12Mg17は450℃で溶解し、AM60Bも固相線温度540℃から溶解し始めるため、AZ91Dの完全溶融温度である600℃あるいはそれ以下の半溶融温度の設定であってもよい。
【0053】
[実施例4]
A1070アルミニウム合金とAZ91Dマグネシウム合金との質量比が1.6:1となるよう、すなわち、マグネシウムとアルミニウムの合計質量に対するアルミニウム比率が65質量%となるように溶解した以外は、実施例3と同様の方法により、溶解工程、鋳造工程及び加工工程を実施した。結果を表1に示す。その結果、燃焼や火種の発生は見られなかった。また、鋳造工程では、金属間化合物であるAl3Mg2を主成分とするインゴットが得られた。このインゴットをハンマーで叩いたところ、容易に粒状に粉砕することができた。
【0054】
【0055】
実施例1及び2に係る溶解工程で、溶湯表面の一部で観察された火種は、アルゴンガスのような不活性ガスフローによって抑制することができる。ただし、今回は、アルミニウムとマグネシウム合金スクラップを同時に加熱し、昇温中に攪拌することもなかったため、より軽いマグネシウムが上部に偏析したことにより、火種が発生したものと考えられる。そのため、上述のように、最初にアルミニウムのみを単独で溶解させ、そこにマグネシウム合金スクラップを投入して溶け込ませることで、火種の発生を防ぐことができる。また、一旦、アルミニウムの融点である650℃以上で混合溶解させた後に、すぐさまAl-Mg金属間化合物の融点である450℃よりも少し高い温度である500℃前後に溶解温度を下げることで、マグネシウムの部分的な燃焼を防ぐことができる。
【0056】
以下、
図8に示すAl-Mg二元状態図を参照して、実施例の結果を考察する。実施例1~3では、溶解工程で、A1070アルミニウム合金とAZ91Dマグネシウム合金スクラップの質量比が1:1.6となるように混合し、アルミニウム比率は44質量%(マグネシウム比率は56質量%)であった。
図8から分かるように、このアルミニウム比率では、金属間化合物であるAl
12Mg
17が主に生成し、上記のとおり、Al
12Mg
17を主成分とするAl-Mgインゴットを作製することができた。そして、成分調整工程で、該インゴットを粉砕した粒状原料と、最終目標組成(アルミニウム:9質量%)よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金チップ(アルミニウム:6質量%)とを混合溶解することで、最終目標組成を有するマグネシウム合金射出成形体が得られた。
【0057】
また、実施例4では、溶解工程で、A1070アルミニウム合金とAZ91Dマグネシウム合金スクラップの質量比が1.6:1となるように混合し、アルミニウム比率は65質量%(マグネシウム比率は35質量%)であった。
図8から分かるように、このアルミニウム比率では、金属間化合物であるAl
3Mg
2が主に生成し、上記のとおり、Al
3Mg
2を主成分とするAl-Mgインゴットを作製することができた。
【0058】
本明細書は、以下の開示を含む。
[構成1]
以下の手段を有する、マグネシウム合金のリサイクル設備:
(a)マグネシウム合金スクラップを、マグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素であって、且つマグネシウムの溶解時に不燃である不燃金属の存在下で溶解する溶解手段。
[構成2]
前記不燃金属がアルミニウム及び亜鉛からなる群より選択される、構成1に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
[構成3]
前記不燃金属がアルミニウムである、構成2に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
[構成4]
前記溶解手段が、前記マグネシウム合金スクラップ中のアルミニウムも含めて、マグネシウムとアルミニウムの合計質量に対するアルミニウムの質量比が33質量%以上となるように、前記アルミニウムと前記マグネシウム合金スクラップとを溶解する手段である、構成3に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
[構成5]
前記マグネシウムとアルミニウムの合計質量に対するアルミニウムの質量比が33質量%~70質量%である、構成4に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
[構成6]
以下の手段をさらに有する、構成4又は5に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備:
(b)前記溶解手段を経た、前記アルミニウムと前記マグネシウム合金スクラップとの混合溶解物を凝固させることにより、Al-Mg金属間化合物を含有する原料を得る凝固手段。
[構成7]
前記凝固手段が、前記アルミニウムと前記マグネシウム合金スクラップとの混合溶解物を、回転ロール又は水中に滴下することにより、凝固させる手段であり、
以下の手段をさらに有する、構成6に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備:
(c)前記Al-Mg金属間化合物を含有する原料を加工することにより、Al-Mg金属間化合物を含有する粒状原料を得る加工手段;及び
(d)前記粒状原料と、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金チップと、を射出成形により混合溶解することで、最終目標組成のアルミニウム成分量を有するマグネシウム合金射出成形体にリサイクルする成分調整手段。
[構成8]
前記凝固手段が、前記アルミニウムと前記マグネシウム合金スクラップとの混合溶解物を鋳造することにより、Al-Mg金属間化合物を含有するAl-Mgインゴットを得る手段であり、
以下の手段をさらに有する、構成6に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備:
(d)前記Al-Mgインゴットと、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金と、を混合溶解することにより、最終目標組成のアルミニウム成分量を有するマグネシウム合金にリサイクルする成分調整手段。
[構成9]
以下の手段をさらに有し:
(c)前記Al-Mgインゴットを粒状に加工して、粒状原料としてのAl-Mg粒子を得る加工手段;
前記成分調整手段が、前記Al-Mg粒子と、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金と、を混合溶解する手段である、構成8に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
[構成10]
前記成分調整手段が、前記Al-Mg粒子と、最終目標組成よりもアルミニウム成分量が少ないマグネシウム合金チップと、を射出成形により混合溶解することで、最終目標組成のアルミニウム成分量を有するマグネシウム合金射出成形体にリサイクルする手段である、構成9に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
[構成11]
前記加工手段が、打撃手段を用いて前記Al-Mgインゴットを粉砕加工する手段である、構成9又は10に記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
[構成12]
前記マグネシウムとアルミニウムの合計質量に対するアルミニウムの質量比が42質量%~65質量%である、構成5~11のいずれかに記載のマグネシウム合金のリサイクル設備。
[方法1]
以下の工程を有する、マグネシウム合金のリサイクル方法:
(a)マグネシウム合金スクラップを、マグネシウム合金を構成するマグネシウム以外の主要元素であって、且つマグネシウムの溶解時に不燃である不燃金属の存在下で溶解する溶解工程。
[方法2]
前記溶解工程が、予め溶解した前記不燃金属中へ、前記マグネシウム合金スクラップを投入する方法により行われる、方法1に記載のマグネシウム合金のリサイクル方法。