(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148423
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20241010BHJP
H01M 8/04014 20160101ALI20241010BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20241010BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20241010BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/04 N
H01M8/04014
H01M8/0432
H01M8/04746
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061537
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【弁理士】
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】若杉 知寿
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA28
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127CC01
5H127DB74
5H127DC76
5H127EE18
(57)【要約】
【課題】消費電力を抑制した上で、高出力時の燃料電池を十分に冷却する。
【解決手段】燃料電池システムは、燃料電池と、燃料電池を冷却する冷媒が循環して流れる循環流路と、循環流路を流れる冷媒を冷却するためのラジエータと、ラジエータに風を送るファンと、燃料電池のカソード極から排出されたカソードオフガス中の水を回収する回収器と、回収器により回収された液体の水を前記ラジエータの外表面に供給する水供給部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
燃料電池を冷却する冷媒が循環して流れる循環流路と、
前記循環流路を流れる冷媒を冷却するためのラジエータと、
前記ラジエータに風を送るファンと、
前記燃料電池のカソード極から排出されたカソードオフガス中の水を回収する回収器と、
前記回収器により回収された液体の水を前記ラジエータの外表面に供給する水供給部と、
を備える、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記ファンは、
前記ラジエータの上流側に配置された押込通風型であり、
回転軸に沿って延び、前記回転軸回りに回転する中空の軸部と、
前記軸部に接続して前記回転軸回りに回転して、ラジエータに風を送るファン回転体と、
前記回転軸回りに回転し、前記軸部の中空の内部と接続して径方向に沿って形成された中空部を有する円板状のディスクと、
を有し、
前記中空部は、前記ディスクの径方向外側の端部で開口されており、
前記水供給部は、前記軸部の中空内部に液体の水を供給する、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池システムであって、
前記ディスクは、
第1ディスクと、
前記第1ディスクよりも下流側に配置され、前記第1ディスクの外径よりも小さい外径を有する第2ディスクと、
を有する、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記回収器と前記水供給部との間に配置され、水を圧縮する昇圧ポンプを備え、
前記ファンは、前記ラジエータの下流側に配置された吸込通風型であり、
前記水供給部は、前記ラジエータの上流側に配置され、前記ラジエータの外表面に前記昇圧ポンプにより圧縮した水を噴霧する、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記カソード極に流入する空気と、前記カソードオフガスとの熱交換を行う熱交換器を備え、
前記回収器は、熱交換後の前記カソードオフガス中の水を回収する、燃料電池システム。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記燃料電池から排出される冷媒の温度を取得する温度取得部と、
取得された冷媒の温度が閾値以上の場合に前記ファンを作動させ、前記燃料電池の温度が前記閾値未満の場合に前記ファンを停止させる制御部と、
を備える、燃料電池システム。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記回収器と前記水供給部との間に配置されて、前記回収器から前記水供給部に送られる水に含まれるフッ素イオンを、希土類酸化物と反応させることにより除去するフッ素処理部を備える、燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水を用いて燃料電池を冷却するシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたシステムでは、冷却水の推定流量と、燃料電池の消費電力との関係に基づいたマップを用いて、流路の異常状態が検出される。当該システムは、燃料電池のスタック流路からラジエータ流路に向かう途中に、バイパス流路に分岐させるための三方弁を備えている。三方弁の開度を調整することにより、異常が発生している流路が特定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池車の登坂走行など燃料電池に対する出力要求が高いほど、燃料電池の温度が上昇する。燃料電池の発熱が冷却能力を上回り、燃料電池の温度が上限温度を超えると、燃料電池の出力に規制がかかってしまい、十分な走行速度を確保できない場合がある。燃料電池の高出力時には、ラジエータに送風するラジエータファンの回転数が上昇する。しかしながら、ラジエータファン、冷却水を循環させるためのポンプ、および燃料電池に圧縮空気を送るコンプレッサなどを含む補機動力損失は小さくない。ラジエータファンの回転数が上昇すると、ラジエータファンの消費電力は上昇する。そのため、補機を含むシステム全体の消費電力を抑制した上で、燃料電池を冷却するための十分な冷却能力を確保したい要望があった。特許文献1に記載されたシステムでは、これらの冷却能力の向上について言及されていない。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、消費電力を抑制した上で、高出力時の燃料電池を十分に冷却することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、燃料電池システムが提供される。この燃料電池システムは、燃料電池と、燃料電池を冷却する冷媒が循環して流れる循環流路と、前記循環流路を流れる冷媒を冷却するためのラジエータと、前記ラジエータに風を送るファンと、前記燃料電池のカソード極から排出されたカソードオフガス中の水を回収する回収器と、前記回収器により回収された液体の水を前記ラジエータの外表面に供給する水供給部と、を備える。
【0008】
この構成によれば、カソードオフガスに含まれる水がラジエータの外表面に供給されることにより、水の気化熱がラジエータのチューブ内を流れる冷媒を冷却する。本構成では、従来、外気に排出されていたカソードオフガス中の水の気化熱を利用することにより、ラジエータの冷却能力を向上させる。これにより、高出力時の燃料電池を冷却するために、ファンの回転数の上昇を抑制できる。この結果、本構成では、システム全体の消費電力を抑制した上で、高出力時の燃料電池を十分に冷却できる。
【0009】
(2)上記態様の燃料電池システムにおいて、前記ファンは、前記ラジエータの上流側に配置された押込通風型であり、回転軸に沿って延び、前記回転軸回りに回転する中空の軸部と、前記軸部に接続して前記回転軸回りに回転して、ラジエータに風を送るファン回転体と、前記回転軸回りに回転し、前記軸部の中空の内部と接続して径方向に沿って形成された中空部を有する円板状のディスクと、を有し、前記中空部は、前記ディスクの径方向外側の端部で開口されており、前記水供給部は、前記軸部の中空内部に液体の水を供給してもよい。
この構成によれば、ファン内部に供給された水がディスクの遠心力を利用して、ディスクの径方向外側から噴霧される、いわゆるアトマイザーディスク方式によって水がラジエータの外表面へと供給される。アトマイザーディスク方式では、ファンに供給される水の流量と、ファンの回転数と、ディスク径との調整に応じて、ディスクから噴霧される液滴の状態を制御できる。液滴の状態が制御されることにより、ラジエータの外表面に薄い液膜を形成するために適した大きさの液滴をディスクから噴霧できる。この結果、ラジエータの冷却能力をより向上させることができる。
【0010】
(3)上記態様の燃料電池システムにおいて、前記ディスクは、第1ディスクと、前記第1ディスクよりも下流側に配置され、前記第1ディスクの外径よりも小さい外径を有する第2ディスクと、を有してもよい。
この構成によれば、ファンは、外径の異なる第1ディスクと第2ディスクとを有している。上流側に配置された第1ディスクは、下流側に配置された第2ディスクよりも大きい外径を有している。そのため、第1ディスクの径方向外側から噴霧される液滴と、第2ディスクの径方向外側から噴霧される液滴とは、互いに干渉せずにラジエータの外表面へと供給される。そのため、本構成では、ラジエータの外表面のより広い範囲に液滴が供給されるため、より多くの気化熱によってラジエータの冷却能力が向上する。
【0011】
(4)上記態様の燃料電池システムにおいて、さらに、前記回収器と前記水供給部との間に配置され、水を圧縮する昇圧ポンプを備え、前記ファンは、前記ラジエータの下流側に配置された吸込通風型であり、前記水供給部は、前記ラジエータの上流側に配置され、前記ラジエータの外表面に前記昇圧ポンプにより圧縮した水を噴霧してもよい。
この構成によれば、ファンがラジエータの下流側に配置された吸込通風型であるため、ラジエータ通過時の圧力損失によりラジエータの上流側で流れ場を一様化する。これにより、ラジエータの外表面に対して、サイズの小さい液滴が偏在することを抑制される。また、昇圧ポンプの圧縮によりラジエータの外表面に微細な液滴を供給できるため、液分散性が向上する。これにより、気化しなかった液滴のラジエータからの液だれを抑制して、液利用率を向上させることができる。
【0012】
(5)上記態様の燃料電池システムにおいて、さらに、前記カソード極に流入する空気と、前記カソードオフガスとの熱交換を行う熱交換器を備え、前記回収器は、熱交換後の前記カソードオフガス中の水を回収してもよい。
この構成によれば、カソード極に流入する空気の温度は、カソードオフガスの温度よりも低い。カソードオフガスがカソード極に流入する空気により冷却されることで、カソードオフガスからの回収水量を増加させることができる。
【0013】
(6)上記態様の燃料電池システムにおいて、さらに、前記燃料電池から排出される冷媒の温度を取得する温度取得部と、取得された冷媒の温度が閾値以上の場合に前記ファンを作動させ、前記燃料電池の温度が前記閾値未満の場合に前記ファンを停止させる制御部と、
を備えてもよい。
この構成によれば、燃料電池から排出される冷媒の温度が閾値以上、すなわち、燃料電池の高出力時に、ラジエータにより冷媒の冷却能力が必要な時にファンが作動する。一方で、燃料電池の出力が高くない場合には、ファンが作動せずに、カソードオフガスから回収された水は、ラジエータの外表面に供給されない。これにより、燃料電池の冷却が必要な場合にのみ、ファンが作動し、回収器に貯蔵された水が使用される。この結果、燃料電池が高出力の際に、水を間欠させずにラジエータに供給できる。
【0014】
(7)上記態様の燃料電池システムにおいて、さらに、前記回収器と前記水供給部との間に配置されて、前記回収器から前記水供給部に送られる水に含まれるフッ素イオンを、希土類酸化物と反応させることにより除去するフッ素処理部を備えてもよい。
この構成によれば、カソードオフガスから回収された水に含まれるフッ素イオンは、フッ素処理部により除去される。カソードオフガスから回収された水には、燃料電池の電解質膜の劣化により、フッ素イオンが含まれる場合がある。フッ素イオンを含む水がラジエータの外表面に噴霧されると、ラジエータが腐食するおそれがある。本構成によれば、ラジエータの腐食の原因となるフッ素イオンを、ラジエータの外表面に噴霧する水から除去できる。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、冷却装置、燃料電池システム、燃料電池冷却システム、冷却方法、燃料電池冷却方法、およびこれらの装置を備える又は方法を実現するシステム、これら装置または方法を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態としての燃料電池システムの概略ブロック図である。
【
図2】比較例の燃料電池システムの概略ブロック図である。
【
図3】ファンの回転数に応じて変化する消費電力および熱伝達率の説明図である。
【
図4】ラジエータに噴霧される水の流量と熱伝達率との関係の説明図である。
【
図5】第1実施形態の燃料電池システムの効果の説明図である。
【
図6】第1実施形態の燃料電池システムの効果の説明図である。
【
図7】第2実施形態のファンおよび水供給部の概略断面図である。
【
図8】膜状分裂域と紐状分裂域との境界および紐状分裂域と滴状分裂域との境界の説明図である。
【
図9】第3実施形態の燃料電池システムの概略ブロック図である。
【
図10】ポンプの動力損失についての説明図である。
【
図11】ポンプの動力損失についての説明図である。
【
図12】第4実施形態の燃料電池システムの概略ブロック図である。
【
図16】第4実施形態のファンの消費エネルギーの説明図である。
【
図18】比較例のファンの消費エネルギーの説明図である。
【
図19】第5実施形態の燃料電池システムの概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としての燃料電池システム1の概略ブロック図である。本実施形態の燃料電池システム1では、燃料電池10のカソードオフガスに含まれる水をラジエータ40に向かって噴霧する。噴霧された液滴は、ラジエータ40の外表面に付着し、ラジエータ40に送付するファン20により気化する。ラジエータ40内を流れる冷媒は、水の気化熱により冷却される。この結果、本実施形態の燃料電池システム1では、高出力時に燃料電池10が発熱しても、ファン20の回転数を抑制して、すなわち、ファン20を作動させるための消費電力を抑制した上で、燃料電池10を冷却できる。
【0018】
第1実施形態の燃料電池システム1は、燃料電池車の動力源として搭載されている。燃料電池システム1は、
図1に示されるように、燃料電池10と、燃料電池10に圧縮空気を送るコンプレッサCPと、燃料電池10に供給する水素を貯蔵している水素タンクTKと、水素を循環させる水素循環器CCと、燃料電池10を冷却する冷媒が流れる循環流路60と、循環流路60内を流れる冷媒を循環させるポンプP1と、冷媒を冷却するラジエータ40と、ラジエータ40に風を送るファン20と、カソードオフガス中の水を回収する回収器30と、水を噴霧する水供給部70と、水供給部70に水を送るためのポンプ50と、を備えている。
【0019】
燃料電池10は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode. Assembly)11と、MEA11の各面に形成されたアノード側ガス拡散層(アノード側GDL(Gas Diffusion Layer))12およびカソード側ガス拡散層(カソード側GDL(Gas Diffusion Layer))13と、内部にMEA11を冷却する冷媒が流れる流路が形成されたセパレータ14,15と、を備えている。
【0020】
MEA11は、電解質膜と、電解質膜の一方の面に形成されたアノード触媒層と、電解質膜の他方の面に形成されたカソード触媒層とを備えている。アノード触媒層は、電解質膜がアノード側GDL12と対向する面に形成されている。カソード触媒層は、電解質膜がカソード側GDL13と対向する面に形成されている。アノード触媒層は、アノード極として機能する。カソード触媒層は、カソード極として機能する。
【0021】
アノード側GDL12には、水素タンクTKから水素が供給される。カソード側GDL13には、コンプレッサCPにより圧縮された圧縮空気が供給される。MEA11では、アノード側GDL12から供給された水素がアノード触媒層で水素イオンとなってカソード触媒層へと移動する。カソード触媒層では、電解質膜カソード側GDL13から供給された酸素が水素イオンと結合して水が発生する。
【0022】
アノード側GDL12に接触しているセパレータ14の内部には、冷媒が流れる冷却流路14fが形成されている。同じように、カソード側GDL13に接触しているセパレータ15の内部には、冷媒が流れる冷却流路15fが形成されている。
図1に示されるように、冷却流路14f,15fは、循環流路60と接続している。
【0023】
水素タンクTKから供給される水素は、水素循環器CCを介して燃料電池10のアノード側GDL12に供給される。アノード側GDL12に供給された水素の一部は、利用されずに燃料電池から排出され、水素循環器CCにより再度アノード側GDL12へと供給される。
【0024】
コンプレッサCPにより圧縮された空気(Air)は、燃料電池10のカソード触媒層に供給され、圧縮空気に含まれる酸素がMEA11を介して供給される水素イオンと反応して水を発生させる。カソード側GDL13に供給された空気の一部と、カソード側GDL13で発生した水(H2O)とを含むカソードオフガスは、回収器30へと供給される。回収器30は、カソードオフガス中の水分を分離する気液分離器である。回収器30により分離された液体の水は、回収器30内に貯蔵される。分離された気体は、大気へと排出される。
【0025】
循環流路60は、燃料電池10の冷却流路14f,15fと、ラジエータ40と、ポンプP1とを接続している。循環流路60を介して、冷却流路14f,15fを通過して昇温した冷媒は、ラジエータ40により冷却される。ラジエータ40は、冷媒が内部を通過する複数のチューブと、複数のチューブ間を接続するフィンと、各チューブに冷媒を分散させて供給するアッパータンクと、各チューブ内を通過した冷媒をまとめて循環流路60に供給するロアタンクとを備えている。ファン20によりチューブおよびフィン(以降、チューブとフィンとをまとめて「ラジエータコア」とも呼ぶ)に風と液滴とが送られることで、チューブ内を通過する冷媒が冷却される。ラジエータ40により冷却された冷媒は、循環流路60によりポンプP1へと送られる。ポンプP1は、流入した冷媒を再び燃料電池10の冷却流路14f,15fへと循環させる。
【0026】
回収器30に貯蔵された水は、ポンプ50により水供給部70へと送られる。水供給部70は、ファン20の回転軸におけるラジエータ40に対向する位置に取り付けられている。水供給部70は、ポンプ50により送られてきた水をラジエータコアに向かって噴霧する。本実施形態のファン20は、ラジエータ40に対して水が噴霧される上流側から風を送る、いわゆる押込通風型のファンである。水供給部70から噴霧された水(液滴)は、ラジエータコアの外表面に付着する。ラジエータコアの外表面に付着した液滴は、気化する。液滴の気化熱によりチューブ内を通過する冷媒が冷却される。
【0027】
図2は、比較例の燃料電池システム1xの概略ブロック図である。比較例の燃料電池システム1xは、
図1に示される燃料電池システム1と比較して、回収器30と、ポンプ50と、水供給部70とを備えていない。そのため、比較例の燃料電池システム1xでは、燃料電池10に対する電力の出力要求が増加して燃料電池10の温度が上昇した場合に、ファン20の回転数を増加させることにより、ラジエータ40内の冷媒を冷却し、燃料電池10の温度上昇を抑制している。
【0028】
図3は、ファン20の回転数に応じて変化する消費電力および熱伝達率の説明図である。
図3には、横軸にファン20の回転数(rpm)を取った場合の、ファン20の消費電力(kW)の変化率と、ラジエータ40の熱伝達率(W/(m
2・K))の変化率とが示されている。
図3ではファン20の消費電力が黒丸で示され、ラジエータ40の熱伝達率が白丸で示されている。
図3に示されるように、ファン20の回転数が増加すると、ファン20の消費電力も増加する。また、ファン20の回転数が増加すると、ラジエータ40の熱伝達率も増加する、すなわち、ラジエータ40が冷媒を冷却する能力が向上する。
【0029】
燃料電池システム1xにおけるコンプレッサCPと、冷媒を循環させるポンプP1と、ファン20とを合わせた補機の消費電力は、燃料電池システム1xの発電効率を3,4%程低下させる。そのため、発電効率に対する補機の消費電力の影響は大きい。特に、燃料電池10への要求出力が高い高重量車両の登坂走行時などでは、ファン20の消費電力が及ぼす影響は大きい。この影響に対して、本実施形態の燃料電池システム1では、ラジエータ40に噴霧される液滴の気化熱の利用することにより、ファン20の回転数の上昇を抑制して、補機の消費電力の増加を抑制する。
【0030】
図4は、ラジエータ40に噴霧される水の流量と熱伝達率との関係の説明図である。
図4には、ラジエータ40に噴霧される噴霧液流量(m
3/s)に応じて変化する、ラジエータ40の外表面の気化熱による熱伝達率(W/(m
2・K))と、膜Re数(膜レイノルズ数)Re,fとが示されている。
図4では、熱伝達率が白丸で示され、膜Re数Re,fが黒丸で示されている。膜Re数Re,fは、下記式(1)を用いて算出される。
【0031】
【数1】
ν
L:動粘性係数(m
2/s)
Γ1:単位膜幅当たりの液流量(m
2/s)
【0032】
上記式(1)により算出された膜Re数Re,fを用いて、Nusselt数Nuは、下記式(2)のように表される。また、Nusselt数Nuは、重力加速度g(m2/s)と、熱伝導率λL(W/(m・K))とを用いて、下記式(3)のようにも表すことができる。
【0033】
【数2】
【数3】
α
f:熱伝達率(W/(m
2・K))
【0034】
上記式(3)により算出された熱伝達率α
fが、
図4で白丸により示されている。
図4に示されるように、ファン20に噴霧される液流量が増加すると、ラジエータ40の外表面の気化熱における熱伝達率が低下する。これは、ラジエータ40の外表面に付着する液滴によって形成される液膜が薄いほど、液膜の気化熱による冷却能力が向上することを表している。
【0035】
図5および
図6は、第1実施形態の燃料電池システム1の効果の説明図である。
図5には、燃料電池10の出力電力(kW)に応じて変化する、ファン20の回転数の変化と、補機を動かすために用いられる補機動力(kW)の変化とが示されている。すなわち、
図5では、燃料電池10を冷却する冷却能力を同じにした場合の第1実施形態と比較例とのそれぞれのファン回転数および補機動力が示されている。
図5では、第1実施形態のファン回転数が白丸で示され、比較例のファン回転数が黒丸で示されている。また、第1実施形態の補機動力が白抜きの三角で示され、比較例の補機動力が黒塗りの三角で示されている。
図5に示されるように、ラジエータ40の外表面に液滴を噴霧する第1実施形態では、比較例と比較して、燃料電池10の出力増加に伴うファン回転数および補機動力の増加が抑制されている。
【0036】
図6には、燃料電池10の出力電力に応じて変化する、第1実施形態の液滴の噴霧量(kg/s)の変化と、比較例と比較した場合の第1実施形態の電力効率の向上しろ(%)の変化とが示されている。
図6では、噴霧量が黒丸で示され、向上しろが白丸で示されてる。
図6に示されるように、噴霧量は燃料電池10の出力電力の増加に伴ってほぼ比例して増加する。一方で、向上しろは、燃料電池10の出力電力が60kWを超えたからの増加率が高くなっている。このことから、第1実施形態におけるラジエータ40の外表面への液滴の噴霧は、燃料電池10の出力が高いときにより高い効果を奏することがわかる。
【0037】
以上のように、本実施形態の燃料電池システム1では、回収器30がカソードオフガス中の水を回収する。水供給部70は、送られてきた水をラジエータ40に向かって噴霧し、噴霧された水はラジエータ40の外表面に付着する。本実施形態では、カソードオフガスに含まれる水がラジエータ40の外表面に供給されることにより、水の気化熱がラジエータ40のチューブ内を流れる冷媒を冷却する。本実施形態では、従来、外気に排出されていたカソードオフガス中の水の気化熱を利用することにより、ラジエータ40の冷却能力を向上させる。これにより、高出力時の燃料電池10を冷却するために、ファン20の回転数の上昇を抑制できる。この結果、燃料電池システム1全体の消費電力を抑制した上で、高出力時の燃料電池10を十分に冷却できる。
【0038】
<第2実施形態>
第2実施形態では、第1実施形態と比較して水供給部70aの構成が異なる。第2実施形態では、ファン20aがいわゆるアトマイザーディスク方式によってラジエータ40へと液滴を噴霧する。
【0039】
図7は、第2実施形態のファン20aおよび水供給部70aの概略断面図である。
図7には、ファン20aおよび水供給部70aの回転軸OL1に沿った縦断面が示されている。ファン20aは、
図7に示されるように、回転軸OL1に沿って延びて回転軸OL1回りに回転する軸部25と、軸部25と共に回転する回転ファン21と、軸部25に接続して軸部25と共に回転軸OL1回りに回転する3つの円板状のディスク22~24とを備えている。なお、
図7では、回転軸OL1に沿って、ファン20aに対して、水供給部70aからファン20aへと向かう方向(図中左方向)にラジエータ40が配置される。すなわち、
図7では、左側が下流側であり、右側が上流側である。
【0040】
軸部25の内部には中空を有する。回転ファン21は、中心軸OL1回りに回転して、下流側に配置されたラジエータ40へと送風する。3つのディスク22~24は、回転軸OL1を中心として径方向外側へと延びている円板形状を有し、上流側から順番に回転軸OL1に沿って等間隔に配置されている。3つのディスク22~24は、上流側から順番に最も外径が大きい第1ディスク22と、第1ディスク22よりも外径が小さい第2ディスク23と、第2ディスク23よりもさらに外径が小さい第3ディスク24とで構成されている。ディスク22~24のそれぞれの内部には、軸部25の中空の内部に接続して径方向に沿って形成された中空部SP1~SP3が形成されている。中空部SP1~SP3は、
図7に示されるように、各ディスク22~24の径方向外側の端部で開口している。
【0041】
水供給部70aは、ファン20aの軸部25の中空の内部へと水を供給する。そのため、軸部25の内部に供給された水は、各ディスク22~24に形成された中空部SP1~SP3に流入する。ディスク22~24は、軸部25と共に回転しているため、中空部SP1~SP3に流入した水は、遠心力によって径方向外側の端部から液滴DRとして噴霧される。噴霧された液滴DRは、回転ファン21の回転によって発生する風によって、ラジエータ40の外表面へと運ばれて付着する。
【0042】
第1実施形態で説明したように、ラジエータ40の外表面に付着する液滴DRが形成する液膜は、薄いほど冷却能力が向上する。本実施形態の水供給部70aは、ファン20aの回転角速度ω(rad/s)を用いて、軸部25に供給する水の流量を制御することで、ディスク22~24から噴霧される水が紐状分裂域(微小滴)の形状の液滴DRが噴霧される。
【0043】
ここで、流量の無次元数をΓ2は、下記式(4)のように表される。また、レイノルズ数Reは、下記式(5)のように表される。慣性力を表面張力で除した比We数は、下記式(6)のように表される。
【数4】
r:ディスク半径(m)
F:流量(m
3/s)
γ
L:液水の動粘度(Pa・s)
【数5】
【数6】
ρ
L:密度(kg/m
3)
σ
L:表面張力(N/m)
【0044】
ここで、紐状分裂域よりも慣性力が大きい場合には、液滴DRは、膜状分裂域の形状としてディスク22~24から噴霧される。また、紐状分裂域よりも表面張力が大きい場合には、液滴DRは、滴状分裂域の形状として噴霧される。膜状分裂域と紐状分裂域との境界を表す無次元数Γ2は、下記式(7)のように表される。また、紐状分裂域と滴状分裂域との境界を表す無次元数Γ2は、下記式(8)のように表される。
【0045】
【0046】
図8は、膜状分裂域と紐状分裂域との境界BD1および紐状分裂域と滴状分裂域との境界BD2の説明図である。
図8には、ファン20aの回転数が250rpm、燃料電池10の出力電力が40~90kWの際の水の流量F、ディスク22~24の直径がφ100(白抜きの四角),75(白抜きの三角),50(白丸)(mm)の場合の境界BD1,BD2がグラフ上に示されている。各ディスク22~24のプロットが複数存在するのは、出力電力が10kWごとに応じて複数をプロットしたためである。本実施形態では、
図8の横軸の乗数mの値は、上記式(7)から算出された「-0.94」である。また、縦軸の乗数nの値は、上記式(8)から算出された「0.25」である。なお、
図8内には、紐状分裂域(微小滴)、膜状分裂域、および滴状分裂域(粗い)のイメージ図が示されている。
【0047】
以上のように第2実施形態のファン20aは、回転軸OL1を中心として径方向外側へと延びている円板形状のディスク22~24を有している。ディスク22~23のそれぞれの内部には、軸部25の中空の内部に接続して径方向に沿って形成された中空部SP1~SP3が形成されている。中空部SP1~SP3は、
図7に示されるように、各ディスク22~24の径方向外側の端部で開口している。水供給部70aは、ファン20aの軸部25の中空の内部へと水を供給する。本実施形態では、ファン20a内部に供給された水がディスク22~24の遠心力を利用して、ディスク22~24の径方向外側から噴霧される、いわゆるアトマイザーディスク方式によって水がラジエータ40の外表面へと供給される。アトマイザーディスク方式では、ファン20aに供給される水の流量と、ファン20aの回転数と、ディスク22~24の径との調整に応じて、ディスク22~24から噴霧される液滴DRの状態を制御できる。液滴DRの状態が制御されることにより、ラジエータ40の外表面に薄い液膜を形成するために適した大きさの液滴DRをディスク22~24から噴霧できる。この結果、ラジエータ40の冷却能力をより向上させることができる。
【0048】
また、第2実施形態では、3つのディスク22~24は、上流側から順番に最も外径が大きい第1ディスク22と、第1ディスク22よりも外径が小さい第2ディスク23と、第2ディスク23よりもさらに外径が小さい第3ディスク24とで構成されている。すなわち、本実施形態のファン20aは、外径の異なるディスク22~24を有している。例えば、最も上流側に配置された第1ディスク22は、下流側に配置された第2ディスク23および第3ディスク24よりも大きい外径を有している。そのため、第1ディスク22の径方向外側から噴霧される液滴DRと、第2ディスク23および第3ディスク24の径方向外側から噴霧される液滴DRとは、互いに干渉せずにラジエータ40の外表面へと供給される。そのため、本実施形態では、ラジエータ40の外表面のより広い範囲に液滴DRが供給されるため、より多くの気化熱によってラジエータ40の冷却能力が向上する。
【0049】
<第3実施形態>
図9は、第3実施形態の燃料電池システム1bの概略ブロック図である。第3実施形態の燃料電池システム1bでは、第1実施形態の燃料電池システム1と比較して、ファン20bがラジエータ40の下流側に配置された吸込通風型である点と、ポンプ50bが昇圧した水を水供給部70bに供給する昇圧ポンプとして機能する点とが異なる。そのため、第3実施形態では、第1実施形態と異なる点について説明し、第1実施形態と同じ構成等について説明を省略する。
【0050】
第3実施形態では、ポンプ(昇圧ポンプ)50bが水供給部70bに送る水を昇圧することにより、第2実施形態のアトマイザーディスク方式よりも微細(例えば、φ1~100μm)な液滴DRがラジエータ40の外表面に噴霧される。本実施形態の水供給部70bは、一液型ノズルである。水供給部70bは、広角(120°)の噴霧パターンを形成する。
【0051】
ここで、ポンプ50bが水を昇圧することにより、燃料電池システム1bの補機動力の損失は拡大する。
図10および
図11は、ポンプ50bの動力損失についての説明図である。
図10には、ポンプ50bから水供給部70bに供給される水の吐出流量(L/min)に応じた、ポンプ50bが消費する動力と、ポンプ50bが昇圧した水の吐出圧(MPa)とが示されている。
図10にプロットされた点は、燃料電池10の出力電力を40kWから90kWまで10kWずつ変化させた際のプロット点である。
図10では、ポンプ50bの動力が白丸で示され、吐出圧が白抜きの三角で示されている。
図10に示されるように、ポンプ50bの吐出流量が増加するに伴い、比例してポンプ50bの動力は増加する。一方で、ポンプ50bの吐出圧は、吐出流量に依存せずにほぼ一定の2MPaである。
【0052】
図11には、燃料電池10の出力電力に応じた、補機としての昇圧するポンプ50bと、ファン20bと、ポンプP1とのそれぞれが消費する動力の変化が示されている。
図11では、水を昇圧するポンプ50bの動力が白抜きの三角で示され、ファン20bの動力が白抜きの四角で示され、ポンプP1の動力が白丸で示されている。
図11に示されるように、いずれの補機の動力も燃料電池10の出力電力が増加するにつれて増加する。ポンプ50bとファン20bとの動力を比較すると、ポンプ50bの動力の増加率および増加する動力幅が小さい。すなわち、ポンプ50bの動力が増加しても、それ以上にファン20bの動力を減少させることができる。
【0053】
以上のように第3実施形態のポンプ50bが水供給部70bに送る水を昇圧する。これにより、水供給部70bは、微細(例えば、φ1~100μm)な液滴DRをラジエータ40の外表面に噴霧する。本実施形態では、ファン20bがラジエータ40の下流側に配置された吸込通風型であるため、ラジエータ40通過時の圧力損失によりラジエータ40の上流側で流れ場を一様化する。これにより、ラジエータ40の外表面に対して、サイズの小さい液滴DRが偏在することが抑制される。また、ポンプ50bの圧縮によりラジエータ40の外表面に微細な液滴DRが供給されるため、液分散性が向上する。これにより、気化しなかった液滴DRのラジエータからの液だれを抑制して、液利用率を向上させることができる。
【0054】
<第4実施形態>
図12は、第4実施形態の燃料電池システム1cの概略ブロック図である。第4実施形態の燃料電池システム1cは、第1実施形態の燃料電池システム1と比較して、熱交換器80と、貯水タンク90と、温度センサ65と、制御部29とを備える点が異なる。そのため、第4実施形態では、第1実施形態と異なる点について説明し、第1実施形態と同じ構成や制御等についての説明を省略する。
【0055】
燃料電池システム1cが備える熱交換器80は、
図12に示されるように、コンプレッサCPと燃料電池10との間、かつ、燃料電池10と回収器30との間に配置されている。熱交換器80は、コンプレッサCPにより圧縮された空気と、燃料電池10のカソード側GDL13から排出されるカソードオフガスとの熱交換を行う。熱交換により、コンプレッサCPにより圧縮された空気は加熱されたカソード側GDL13に流入する。一方で、カソードオフガスは、冷却されて回収器30へと供給される。なお、
図12には、熱交換器80に流入する圧縮空気の温度の一例と、熱交換器80から排出されるカソードオフガスの温度の一例とが示されている。回収器30に供給されたカソードオフガスはおよそ30℃まで冷却されて、カソードオフガス中の水を回収する。燃料電池システム1cが備える貯水タンク90は、
図12に示されるように、回収器30と、ポンプ50との間に配置され、回収器30が回収した水を貯蔵する。
【0056】
図13は、熱交換器80の効果についての説明図である。
図13には、燃料電池10の出力電力に応じて変化する回収器30がカソードオフガスから回収する液流量(kg/s)が示されている。
図13では、回収器30に供給されるカソードオフガスの温度が40℃,50℃,60℃のそれぞれの場合に、回収器30が凝縮する液流量がプロットされている。40℃が白丸で示され、50℃が白抜きの三角で示され、60℃が白抜きの四角で示されている。
図13の各プロット点で示されるように、回収器30に供給されるカソードオフガスの温度が低いほど、より多くの水がカソードオフガスから回収される。また、燃料電池10の出力電力が高いほど、より多くの水がカソードオフガスから回収される。
【0057】
燃料電池システム1cが備える温度センサ(温度取得部)65は、燃料電池10から排出される冷媒の出口温度を検出する熱電対である。制御部29は、温度センサ65により検出された燃料電池10の温度に応じて、ファン20の回転数を制御する。具体的には、制御部29は、温度センサ65により検出された冷媒の出口温度が予め設定された閾値以上の場合にファン20を作動させる。一方で、制御部29は、冷媒の出口温度が閾値未満の場合にはファン20を作動させずに停止させる。なお、水供給部70は、ファン20が作動している場合に水の噴霧し、ファン20が停止している場合には水の噴霧を停止する。そのため、冷媒の出口温度が閾値未満、すなわち燃料電池10の出力電力が高くない場合には、回収器30により回収された水が貯水タンク90で徐々に増加する。
【0058】
ここで、燃料電池システム1cを搭載し、燃料電池10の出力電力によって駆動する車両のモード走行について考察する。
図14および
図15は、モード走行の説明図である。
図14には、横軸にモード走行時の経過時間を取った場合の、燃料電池10の出力電力と、燃料電池10の発熱量(kW)とのそれぞれの変化が示されている。
図14では、出力電力が黒丸で示され、発熱量が白丸で示されている。
図14に示されるモード走行では、モード走行を開始してから250秒(sec)後および1700秒後に、出力電力および発熱量が特に上昇している。なお、
図14,15に示される状態は、水供給部70によりラジエータ40に水が噴霧されていないモード走行時である。
【0059】
図15には、横軸にモード走行時の経過時間を取った場合の、燃料電池10の温度(℃)と、ラジエータ40に流入する冷媒の入口温度(℃)と、ラジエータ40から流出する冷媒の出口温度(℃)とのそれぞれの変化が示されている。
図15では、燃料電池10の温度が白丸で示され、ラジエータ40に流入する冷媒の入口温度が白抜きの四角で示され、ラジエータ40から流出する冷媒の出口温度が黒塗りの四角で示されている。また、
図15では、外気温度と、燃料電池10の温度の制御目標である目標温度(Target)が直線で示されている。
図15に示されるように、
図14で出力電力および発熱量が特に上昇しているモード走行の経過時間付近の250秒後および1700秒後付近で、燃料電池10の温度が目標温度を上回っている。
【0060】
図16から
図18までの各図は、第4実施形態の燃料電池システム1cの効果の説明図である。
図16には、モード走行時の車両に対して第4実施形態の制御部29によるファン20の回転制御を行った場合のファン出力と、ファン20の累積消費エネルギー(kJ)との時系列変化が示されている。
図16では、ファン20の出力が実線で示され、ファンの累積消費エネルギーが破線で示されている。
図16に示される例では、1サイクルのモード走行時のファン20の累積消費エネルギーは、7.4kJ/cycであった。なお、
図16,17に示される例では、ファン20の回転時の回転数が250rpmと一定に制御され、貯水タンク90における初期の水貯蔵量が1kgであり、回収器30によりカソードオフガスから回収される水の温度が40℃である。制御部29は、燃料電池10の発熱量が10kW以上の場合に、ファン20を作動させ、水供給部70がラジエータ40の外表面に水を噴霧する。
【0061】
図17には、モード走行時の貯水タンク90内の水貯蔵量(kg)の時系列変化と、ファン20に噴霧された水噴霧量(kg/s)との時系列変化とが示されている。
図17では、水貯蔵量が破線で示され、水噴霧量が実線で示されている。
図17に示される水貯蔵量が常にゼロよりも多いため、ファン20の作動時には必ず水供給部70から水がラジエータ40の外表面に噴霧されている。一方で、モード走行開始から300秒後付近の水貯蔵量は、初期の水貯蔵量の1kgよりも減っているため、水を貯蔵する貯水タンク90が存在しない場合には、水供給部70から水を噴霧できない状態が発生することがわかる。
【0062】
図18には、水供給部70による水の噴霧を行わない比較例の燃料電池システムを搭載した車両の走行時の、ファン出力と、ファン20の累積消費エネルギーとの時系列変化が示されている。制御部29は、
図16に示されるモード走行時と同じように、燃料電池10の発熱量が10kW以上の場合に、ファン20を作動させる。
図18に示される比較例では、ラジエータ40に水を噴霧しない代わりに、ファン20の回転数を上昇させることでラジエータ40内の冷媒を冷却する。
図18に示されるように、
図16に示される本実施形態と異なり、モード走行開始から300秒後付近および1700秒後付近で、ファン20の回転数は250rpmよりも大きく上昇している。その結果、ファン20の累積消費エネルギーも増加し、1サイクルのモード走行時のファン20の累積消費エネルギーは、46.5kJ/cycであった。すなわち、第4実施形態の燃料電池システム1cは、比較例の燃料電池システムと比較し、より少ないエネルギー消費で冷媒を冷却できることがわかる。なお、
図18のファン20の累積消費エネルギーを表す縦軸のスケールは、
図16のスケールよりも大きく表されている。
【0063】
以上のように、第4実施形態の熱交換器80は、コンプレッサCPにより圧縮された空気と、燃料電池10のカソード側GDL13から排出されるカソードオフガスとの熱交換を行う。本実施形態では、カソード側GDL13に流入する空気の温度は、カソードオフガスの温度よりも低い。カソードオフガスがカソード側GDL13に流入する空気により冷却されることで、カソードオフガスからの回収水量を増加させることができる。
【0064】
また、第4実施形態の制御部29は、温度センサ65により検出された燃料電池10から排出される冷媒の出口温度が予め設定された閾値以上の場合にファン20を作動させる。本実施形態では、燃料電池10から排出される冷媒の温度が閾値以上、すなわち、燃料電池10の高出力時に、ラジエータ40により冷媒の冷却能力が必要な時にファン20が作動する。一方で、燃料電池10の出力が高くない場合には、ファン20が作動せずに、カソードオフガスから回収された水は、ラジエータ40の外表面に供給されない。これにより、燃料電池10の冷却が必要な場合にのみ、ファン20が作動し、貯水タンク90に貯蔵された水が使用される。この結果、燃料電池10が高出力の際に、水を間欠させずにラジエータ40に供給できる。
【0065】
<第5実施形態>
図19は、第5実施形態の燃料電池システム1dの概略ブロック図である。第5実施形態の燃料電池システム1dは、第1実施形態の燃料電池システム1と比較して、第4実施形態の熱交換器80と、フッ素処理部95とを備える点が異なる。そのため、第5実施形態では、第1実施形態と異なる点のうち、フッ素処理部95について説明し、第1実施形態と同じ構成等および熱交換器80についての説明を省略する。
【0066】
燃料電池システム1dが備えるフッ素処理部95は、
図19に示されるように、回収器30と、ポンプ50との間に配置されている。フッ素処理部95には回収器30から水が供給される。また、本実施形態のフッ素処理部95には、凝集剤としての消石灰(Ca(OH)
2)が供給される。カソードオフガス中の水には、燃料電池10のMEA11の電解質膜に含まれるフッ素化合物からフッ素イオンが微量に含まれる場合がある。回収器30により回収された水分中のフッ素イオン濃度が一定以上に達すると、水が噴霧されたラジエータ40を腐食されるおそれがある。そのため、本実施形態では、フッ素イオンを難溶性のフッ化カルシウム(CaF
2)として凝縮沈殿させる消石灰がフッ素処理部95に供給される。フッ素処理部95内で沈殿したフッ化カルシウムは、分離および除去される。また、フッ化カルシウムがフッ素処理部95から分離・除去されることにより、難溶性のフッ化カルシウムが水供給部70に供給されて、噴霧するスプレーの目を詰まらせることを抑制できる。
【0067】
<実施形態の変形例>
本発明は上記実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。また、上記実施形態において、ハードウェアによって実現されるとした構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されるとした構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【0068】
上記第1実施形態ないし第5実施形態では、燃料電池システムの一例について説明した。しかし、燃料電池システムは、燃料電池10と、ラジエータ40と、ファン20と、カソードオフガス中の水を回収する回収器30と、ラジエータ40の外表面に水を噴霧する水供給部70とを備える範囲で変形可能である。第1実施形態のファン20は、ラジエータ40の下流側に配置された、いわゆる吸込通風型であってもよい。上記実施形態では、燃料電池システム1が車両に搭載される例について説明したが、燃料電池システム1の使用については、周知技術の範囲で適用可能である。
【0069】
第2実施形態のファン20aが備えるディスクの数は、3つ未満であってもよいし、4つ以上であってもよい。また、上流側に位置するディスク22の直径が、下流側に位置するディスク23,24の直径よりも小さくてもよいし、同じであってもよい。また、第2実施形態のファン20aと、ディスク22~24を備える回転体とが別体であってもよい。この場合には、ファン20aがラジエータ40の下流側に配置された吸込通風型であり、ディスク22~24を備える回転体がラジエータ40の上流側に配置されてもよい。また、ファンは、ラジエータ40の上流側と下流側とのいずれにも配置されてもよい。
【0070】
第2実施形態の燃料電池システムは、第4実施形態が備えた制御部29を備えてもよい。この場合に、制御部29は、ディスク22~24のディスク半径rを用いて、上記式(4)~(8)を算出することにより、ファン20aの回転角速度ωと、水供給部70が供給する水の流量Fとを制御することにより、ラジエータ40の外表面に噴霧される液滴DRの形状が紐状分裂域になるように制御してもよい。この変形例では、液滴DRが気化しやすい液膜をラジエータ40のチューブおよびフィンの表面に形成するため、ラジエータ40が冷媒を冷却する能力が向上する。
【0071】
上記第4実施形態では、制御部29は、燃料電池10から排出される冷媒の出口温度に応じてファン20の回転数を制御したが、制御の元となる温度は、冷媒の出口温度以外であってもよい。例えば、制御部29は、ラジエータ40により冷却された後の冷媒の温度に応じてファン20を制御してもよいし、燃料電池10の温度に応じてファン20を制御してもよい。また、制御部29は、ファン20の回転数の制御を一定回数のオン/オフではなく、温度に応じて回転数の増減を制御してもよい。
【0072】
上記第5実施形態のフッ素処理部95は、回収器30から供給される水に含まれるフッ化イオンを除去する範囲で変形可能である。例えば、フッ素処理部95に供給される化合物は、カルシウム塩であればよく、例えば、塩化カルシウムであってもよい。
【0073】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0074】
本発明は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
燃料電池を冷却する冷媒が循環して流れる循環流路と、
前記循環流路を流れる冷媒を冷却するためのラジエータと、
前記ラジエータに風を送るファンと、
前記燃料電池のカソード極から排出されたカソードオフガス中の水を回収する回収器と、
前記回収器により回収された液体の水を前記ラジエータの外表面に供給する水供給部と、
を備える、燃料電池システム。
[適用例2]
適用例1に記載の燃料電池システムであって、
前記ファンは、
前記ラジエータの上流側に配置された押込通風型であり、
回転軸に沿って延び、前記回転軸回りに回転する中空の軸部と、
前記軸部に接続して前記回転軸回りに回転して、ラジエータに風を送るファン回転体と、
前記回転軸回りに回転し、前記軸部の中空の内部と接続して径方向に沿って形成された中空部を有する円板状のディスクと、
を有し、
前記中空部は、前記ディスクの径方向外側の端部で開口されており、
前記水供給部は、前記軸部の中空内部に液体の水を供給する、燃料電池システム。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の燃料電池システムであって、
前記ディスクは、
第1ディスクと、
前記第1ディスクよりも下流側に配置され、前記第1ディスクの外径よりも小さい外径を有する第2ディスクと、
を有する、燃料電池システム。
[適用例4]
適用例1から適用例3までのいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記回収器と前記水供給部との間に配置され、水を圧縮する昇圧ポンプを備え、
前記ファンは、前記ラジエータの下流側に配置された吸込通風型であり、
前記水供給部は、前記ラジエータの上流側に配置され、前記ラジエータの外表面に前記昇圧ポンプにより圧縮した水を噴霧する、燃料電池システム。
[適用例5]
適用例1から適用例4までのいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記カソード極に流入する空気と、前記カソードオフガスとの熱交換を行う熱交換器を備え、
前記回収器は、熱交換後の前記カソードオフガス中の水を回収する、燃料電池システム。
[適用例6]
適用例1から適用例5までのいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記燃料電池から排出される冷媒の温度を取得する温度取得部と、
取得された冷媒の温度が閾値以上の場合に前記ファンを作動させ、前記燃料電池の温度が前記閾値未満の場合に前記ファンを停止させる制御部と、
を備える、燃料電池システム。
[適用例7]
適用例1から適用例6までのいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記回収器と前記水供給部との間に配置されて、前記回収器から前記水供給部に送られる水に含まれるフッ素イオンを、希土類酸化物と反応させることにより除去するフッ素処理部を備える、燃料電池システム。
【符号の説明】
【0075】
1,1b,1c,1d,1x…燃料電池システム
10…燃料電池
11…MEA
12…アノード側GDL
13…カソード側GDL
14,15…セパレータ
14f,15f…冷却流路
20,20a,20b…ファン
21…回転ファン
22…第1ディスク
23…第2ディスク
24…第3ディスク
25…軸部
29…制御部
30…回収器
40…ラジエータ
50…ポンプ
50b…ポンプ(昇圧ポンプ)
60…循環流路
65…温度センサ(温度取得部)
70,70a,70b…水供給部
80…熱交換器
90…貯水タンク
95…フッ素処理部
CC…水素循環器
CP…コンプレッサ
DR…液滴
OL1…ファンの回転軸
P1…ポンプ
SP1,SP2,SP3…中空部
TK…水素タンク