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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148424
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】ケミカルルーピング燃焼システム
(51)【国際特許分類】
   F23C 10/10 20060101AFI20241010BHJP
   C01B 3/02 20060101ALI20241010BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20241010BHJP
   F23G 7/06 20060101ALI20241010BHJP
   F23J 15/00 20060101ALI20241010BHJP
   F23C 9/00 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
F23C10/10
C01B3/02 H
C01B32/50
F23G7/06 M
F23J15/00 Z
F23C9/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061538
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【弁理士】
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】佐山 勝悟
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀明
(72)【発明者】
【氏名】森 勇稀
(72)【発明者】
【氏名】青木 正和
【テーマコード(参考)】
3K064
3K070
3K078
3K091
4G146
【Fターム(参考)】
3K064AB03
3K064AB07
3K064AD04
3K064AD05
3K064AF02
3K064BA07
3K070DA29
3K070DA52
3K078AA06
3K078BA02
3K078CA02
3K078CA11
3K091AA20
3K091GA12
3K091GA36
4G146JA02
4G146JB02
4G146JC03
4G146JC36
4G146JC40
4G146JD06
(57)【要約】
【課題】、ケミカルルーピング燃焼システム全体のエネルギ効率を向上させる。
【解決手段】ケミカルルーピング燃焼システムは、金属粒子を酸化させる酸化塔と、水素と、炭素を含む化合物とが燃料として供給されると共に、酸化塔から酸化された金属粒子が供給され、燃料を用いて金属粒子を還元して二酸化炭素を含むガスを排出する燃料塔と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケミカルルーピング燃焼システムであって、
金属粒子を酸化させる酸化塔と、
水素と、炭素を含む化合物とが燃料として供給されると共に、前記酸化塔から酸化された金属粒子が供給され、前記燃料を用いて金属粒子を還元する燃料塔と、
を備える、ケミカルルーピング燃焼システム。
【請求項2】
請求項1に記載のケミカルルーピング燃焼システムであって、さらに、
前記燃料塔内の温度を取得する温度取得部と、
前記温度取得部により取得された温度と、所定の温度との差を用いて、前記燃料塔に供給する水素および炭素を含む化合物の流量を決定する制御部と、
を備える、ケミカルルーピング燃焼システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のケミカルルーピング燃焼システムであって、さらに、
水を電気分解して水素と酸素を生成する水電解部を備え、
前記水電解部は、生成された水素および酸素を前記燃料塔に供給する、ケミカルルーピング燃焼システム。
【請求項4】
請求項3に記載のケミカルルーピング燃焼システムであって、さらに、
前記酸化塔の下流側、かつ、前記燃料塔の上流側に配置されたループシールであって、前記酸化塔から前記燃料塔へのガスの流入を抑制するループシールを備え、
前記水電解部は、
生成された水素を前記燃料塔に供給し、
生成された酸素を、前記燃料塔の代わりに前記ループシールに供給する、ケミカルルーピング燃焼システム。
【請求項5】
請求項4に記載のケミカルルーピング燃焼システムであって、さらに、
前記水電解部により生成された水素を貯蔵する水素タンクを備え、
前記制御部は、
前記水電解部による水素と酸素との生成がある場合に、生成された酸素を前記燃料塔に供給し、かつ、生成された水素の少なくとも一部を前記水素タンクで貯蔵し、
前記水電解部による水素と酸素との生成がない場合に、前記水素タンクで貯蔵された水素を前記燃料塔に供給する、ケミカルルーピング燃焼システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルルーピング燃焼システムに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素を本質的に分離可能なケミカルルーピング燃焼システムが知られている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。特許文献1に記載されたシステムでは、固体酸素キャリアとしての金属が空気反応器で空気中の酸素と反応して酸化され、酸化された金属が燃料反応器で燃料により還元された後、再び空気反応器で酸化される。燃料反応器の下流側に設置された酸化触媒は、燃料反応器から排出される未燃の一酸化炭素を燃焼して、二酸化炭素へと変化させている。
【0003】
非特許文献1に記載された技術では、燃料塔で発生する金属の還元反応が吸熱反応であり、吸熱反応によって失われる熱量を燃料塔の外部ヒータで補っている。また、金属を酸化させる酸化塔から燃料塔までの間と、燃料塔から酸化塔までの間とに、ループシールが配置されている。ループシール内には、金属粒子の流動化のために水蒸気が供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013-522149号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Carl Linderholm, et al. "160h of chemical-looping combustion in a 10kW reactor system with a NiO-based oxygen carrier." International Journal of Greenhouse Gas Control Volume 2, issue 4, October 2008, Pages 520-530
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載された技術では、燃料塔内の吸熱反応で失われる熱量を外部ヒータの加熱で補っているため、放熱損失が大きい。また、ループシール内に供給する水蒸気の生成にエネルギを要する。そのため、ケミカルルーピング燃焼システムの全体のエネルギ効率をさらに向上させたいという要望があった。なお、特許文献1には、燃料反応器内で失われる熱量の補填やループシールについて言及されていない。
【0007】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、ケミカルルーピング燃焼システム全体のエネルギ効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
【0009】
(1)本発明の一形態によれば、ケミカルルーピング燃焼システムが提供される。このケミカルルーピング燃焼システムは、金属粒子を酸化させる酸化塔と、水素と、炭素を含む化合物とが燃料として供給されると共に、前記酸化塔から酸化された金属粒子が供給され、前記燃料を用いて金属粒子を還元する燃料塔と、を備える。
【0010】
この構成によれば、燃料塔内では、酸化した金属粒子を、燃料としての炭素を含む化合物が還元することにより吸熱反応が発生する。一方で、炭素を含む化合物に加えて燃料塔に供給される水素が、酸化した金属粒子を還元することにより弱発熱反応が発生する。そのため、炭素を含む化合物が金属粒子を還元することによる吸熱反応により失う熱量の全てまたは一部を、水素が金属粒子を還元することによる弱発熱反応の熱量で補うことができる。本構成では、燃料塔内を弱発熱反応により直接加熱するため、例えば、外部からヒータなどで燃料塔内を加熱する場合と比較して放熱損失が少ない。この結果、燃料として炭素を含む化合物のみが燃料塔に供給された場合よりも、システム全体のエネルギ効率が向上する。
【0011】
(2)上記態様のケミカルルーピング燃焼システムにおいて、さらに、前記燃料塔内の温度を取得する温度取得部と、前記温度取得部により取得された温度と、所定の温度との差を用いて、前記燃料塔に供給する水素および炭素を含む化合物の流量を決定する制御部と、を備えていてもよい。
この構成によれば、燃料塔内の温度が取得される。燃料塔内の温度と所定の温度との差に応じて燃料の水素と、炭素を含む化合物との流量割合が制御される。これにより、燃料塔内の温度に応じて金属粒子が水素に還元されることによる弱発熱反応を用いた燃料塔内の加熱が制御され、かつ、還元される金属粒子の量が制御される。この結果、燃料塔内の温度を所望の温度に制御した上で、酸化された金属粒子を還元できる。
【0012】
(3)上記態様のケミカルルーピング燃焼システムにおいて、さらに、水を電気分解して水素と酸素を生成する水電解部を備え、前記水電解部は、生成された水素および酸素を前記燃料塔に供給してもよい。
この構成によれば、水電解部により生成された水素および酸素が燃料塔に供給される。燃料塔に流入した酸素は、燃料塔内で燃料により還元された金属粒子を再酸化する。酸素が金属粒子を酸化することによる発熱反応によって燃料塔内が加熱される。水電解により生成される酸素は、空気中の酸素と異なり、窒素などの不純物を含んでいないため、燃料塔から高純度の二酸化炭素を回収できる。さらに、酸素は、水電解により生成される水素の副産物であるため、システム全体のエネルギ効率が向上する。
【0013】
(4)上記態様のケミカルルーピング燃焼システムにおいて、さらに、前記酸化塔の下流側、かつ、前記燃料塔の上流側に配置されたループシールであって、前記酸化塔から前記燃料塔へのガスの流入を抑制するループシールを備え、前記水電解部は、生成された水素を前記燃料塔に供給し、生成された酸素を、前記燃料塔の代わりに前記ループシールに供給してもよい。
この構成によれば、ループシール内には、水電解部により水素の副産物として生成された酸素が供給される。ループシール内では、金属粒子の流動を促進して、金属粒子同士の凝縮および固着を防止するためにガスが供給されることが好ましい。さらに、ループシール内に供給されるガスは、燃料塔へと流入する可能性があるため、窒素などの不純物を含んでいないことが好ましい。ループシール内に供給された酸素は、酸化塔からループシール内に流入しようとする窒素などの不純物の流入を抑制する。また、ループシール内に酸素が供給されることにより、不純物の流入を防ぐために他のガス(例えば、水蒸気)などを供給しなくても済む。すなわち、ループシール内に供給される酸素は、水電解により生成される水素の副産物であり、燃料塔内で金属粒子を再酸化させて燃料塔内を加熱するため、本構成のシステム全体のエネルギ効率が向上する。
【0014】
(5)上記態様のケミカルルーピング燃焼システムにおいて、さらに、前記水電解部により生成された水素を貯蔵する水素タンクを備え、前記制御部は、前記水電解部による水素と酸素との生成がある場合に、生成された酸素を前記燃料塔に供給し、かつ、生成された水素の少なくとも一部を前記水素タンクで貯蔵し、前記水電解部による水素と酸素との生成がない場合に、前記水素タンクで貯蔵された水素を前記燃料塔に供給してもよい。
この構成によれば、水電解部に水電解のための電力を供給する電力供給源からの電力供給が変動する場合に、電力供給量に応じて、水電解部からの水素と酸素の供給が制御されている。電力が供給されて水電解部が水素と酸素とを生成する場合に、生成された水素は水素タンクに貯蔵される。一方で、生成された酸素は、燃料塔に供給されて金属粒子を酸化して発熱反応を生じさせる。この結果、燃料塔内の炭素を含む化合物の還元反応によって失われる熱量が発熱反応により補われる。電力が供給されずに水電解部が水電解を行わない場合には、水素タンクに貯蔵された水素を燃料塔に供給することにより、炭素を含む化合物の還元反応によって失われた熱量が弱発熱反応により補われる。すなわち、本構成によれば、水電解部に供給される電力量に応じて、水電解による副産物の酸素を有効利用しつつ、電力供給がない場合には、水素タンクに貯蔵された水素が燃料塔内の加熱に利用される。この結果、システム全体のエネルギ効率が向上する。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、ケミカルルーピング燃焼システム、ケミカルルーピング燃焼装置、ケミカルルーピング燃焼方法、およびこれらの装置を備えるシステム、これら装置を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態としてのケミカルルーピング燃焼システムの概略ブロック図である。
図2】ケミカルループ燃焼の原理の説明図である。
図3】比較例のケミカルルーピング燃焼システムの概略ブロック図である。
図4】第2実施形態のケミカルルーピング燃焼システムの概略ブロック図である。
図5】第3実施形態のケミカルルーピング燃焼システムの概略ブロック図である。
図6】第4実施形態のケミカルルーピング燃焼システムの概略ブロック図である。
図7】第4実施形態の燃料の流量制御方法のフローチャートである。
図8】第5実施形態のケミカルルーピング燃焼システムの概略ブロック図である。
図9】第5実施形態の燃料の流量制御方法のフローチャートである。
図10】第6実施形態のケミカルルーピング燃焼システムの概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としてのケミカルルーピング燃焼システム(以降、単に、「燃焼システム」とも言う)100の概略ブロック図である。燃焼システム100では、金属粒子mgを酸化させる酸化塔10と、金属粒子mgを還元する燃料塔20との間に配置された空気塔側ループシール部(ループシール)60により酸化塔10から燃料塔20へと流入する窒素を抑制して、燃料塔20から高純度の二酸化炭素(CO2)が回収される。従来のケミカルルーピング燃焼システムでは、燃料塔20における金属粒子mgと炭化水素(炭素を含む化合物)との還元による吸熱反応により燃料塔20内の温度が低下するため、外部ヒータによって燃料塔20内を加熱していた。それに対して、本実施形態では、燃料塔20内に燃料として炭化水素に加えて水素(H2)が供給される。H2と金属粒子mgとの還元反応は弱発熱反応であるため、当該反応により燃料塔20内の温度低下が抑制される。H2を用いた弱発熱反応は、直接燃料塔20内を加熱するため、外部ヒータよりも放熱損失が少ない。この結果、本実施形態の燃焼システム100全体のエネルギ効率を向上させることができる。
【0018】
燃焼システム100内には、酸化塔10内での酸化と、燃料塔20内での還元とを繰り返して、空気中の酸素(O2)を酸化塔10から燃料塔20へと運ぶ金属粒子mgが循環している。本実施形態では、金属粒子mgとしてFe34の酸化反応を用いた例について説明する。金属粒子mgの粒径は、50mm以上250mm以下である。図1に示されるように、第1実施形態の燃焼システム100は、酸化塔10と、燃料塔20と、空気塔側ループシール部60と、燃料塔側ループシール部70と、サイクロン15と、脱水器40と、を備えている。
【0019】
酸化塔10は、O2を含む空気を用いて、下記式(1)に示される反応を生じさせてFe3O4を酸化させる。式(1)の酸化反応は発熱反応である。そのため、式(1)の反応が発生することにより熱が生じて、酸化塔10内のガスが暖められ、酸化塔10内はおよそ摂氏1000度(℃)まで加熱される。
【数1】
【0020】
酸化塔10は、図1に示されるように、鉛直方向に延びる筒状の形状を有している。酸化塔10内の鉛直下方には、シール10Sが設けられている。シール10Sは、複数の細かい穴が開いた部材である。シール10Sにより、酸化塔10の鉛直下方から供給される空気が酸化塔10内に流入して金属粒子mgを鉛直上方に運ぶ。一方で、シール10Sに設けられた穴の大きさは金属粒子mgよりも小さいため、金属粒子mgがシール10Sを通過して酸化塔10から漏れ出すことを防止する。なお、酸化塔10内の鉛直上方へと向かうガス流速は、重力とガス流れによる抗力が釣り合う終端速度、または、終端速度以上の速度に設定されている。
【0021】
酸化塔10内で酸化された金属粒子mgは、配管を介して接続されているサイクロン15内に流入する。サイクロン15は、遠心力を利用して金属粒子mgと、加熱されたガスとを分離する。図1に示されるように酸化塔10内で加熱されたガスは、サイクロン15の鉛直上方から流出して熱利用先へと供給される。熱利用先に供給されるガスの組成は、酸化塔10内における金属粒子mgの酸化によりO2が減少しているため、ほとんどがN2で構成されている。サイクロン15内でガスと分離された金属粒子mgは、図1に示されるように、サイクロン15の中心部分に設けられた鉛直下方に延びる配管内を通って、空気塔側ループシール部60へと移動する。
【0022】
空気塔側ループシール部60は、図1に示されるように、酸化塔10の下流側、かつ、燃料塔20の上流側に配置されている。空気塔側ループシール部60の鉛直下方には、シール60Sが設けられている。シール60Sは、複数の細かい穴が開いた部材である。シール60Sに形成された細かい穴は、金属粒子mgの粒径よりも小さい。そのため、図1に示されるように、シール60Sの上面には複数の金属粒子mgで形成された粒子層(ハッチングが施された部分)が形成されている。ここで水蒸気を用いるのは、水蒸気が燃料塔20に流入しても、脱水器40により除去できるためである。
【0023】
空気塔側ループシール部60では、シール60Sの鉛直下方から水蒸気が供給される。供給された水蒸気は、シール60Sを通過して、空気塔側ループシール部60の下流側に接続されている燃料塔20に流入する。シール60Sの下方から空気塔側ループシール部60内に水蒸気が供給されるため、N2を主成分とするガスが、粒子層を通過してサイクロン15から燃料塔20へと流入することが抑制される。
【0024】
空気塔側ループシール部60と燃料塔20とを接続する配管には、空気塔側ループシール部60から燃料塔20へと流動する流動床が配置されている。流動床の流動により、筒状の空気塔側ループシール部60から排出された金属粒子mgは、燃料塔20へと移動する。
【0025】
本実施形態では、燃料塔20には、燃料としての水素(H2)およびメタン(CH4)が供給されると共に、酸化塔10から酸化された金属粒子mgおよび空気塔側ループシール部60に供給された水蒸気を含むガスが供給される。燃料塔20は、H2およびCH4を用いて金属粒子mgを還元する。CH4と金属粒子mgとの還元反応により発生したCO2を含む混合ガスは排出される。
【0026】
燃料塔20は、図1に示されるように、鉛直方向に延びる筒状の形状を有している。燃料塔20内の鉛直下方には、シール20Sが設けられている。シール20Sは、複数の細かい穴が開いた部材である。燃料塔20では、シール20Sの下方から気体の燃料が供給される。なお、燃料塔20内のガス流速は、終端速度よりも遅い速度に設定され、燃料塔20の情報から金属粒子mgが飛び出さないように制御されている。
【0027】
燃料としてのCH4が供給された燃料塔20内では、上記式(1)で示される酸化塔10内で酸化された金属粒子mgであるFe23が、下記式(2)で示されるようにCH4により還元されてFe34に変化し、CO2を発生させる。下記式(3)で表される還元反応は、吸熱反応である。
【0028】
【数2】
【0029】
また、CH4と共に燃料としてのH2が供給された燃料塔20内では、酸化された金属粒子mgであるFe23が、下記式(3)で示されるようにH2により還元されてFe34に変化する。下記式(3)で表される還元反応は、弱発熱反応である。そのため、下記式(3)の弱発熱反応が発生すると、燃料塔20内は加熱される。
【0030】
【数3】
【0031】
上記式(1)で表される酸化塔10内の酸化反応と、上記式(2)で表される燃料塔20内のCH4の還元反応との和を取ると、燃料塔20内でのCH4による還元反応を含めた酸化塔10および燃料塔20の反応は、下記式(4)に示されるCH4の燃焼と同じ反応である。すなわち、金属粒子mgの酸化と、CH4による金属粒子mgの還元とで得られる熱の総量(酸化塔10の発熱と燃料塔20の吸熱との和)は、CH4の燃焼と同一である。
【数4】
【0032】
図1に示されるように、燃料塔20内における還元反応により生成されたCO2を含む混合ガスは、燃料塔20の鉛直上方から流出して脱水器40へと送られる。脱水器40により水蒸気が取り除かれた高純度のCO2は、CO2の利用先に送られる。CO2の利用先としては、例えば、CO2を液化または高圧化して貯蔵する貯蔵タンク等である。
【0033】
燃料塔20内における還元反応により還元された金属粒子mgは、図1に示されるように、燃料塔20の中心部分に設けられた鉛直下方に延びる配管内を通って、燃料塔側ループシール部70へと移動する。
【0034】
燃料塔20内から金属粒子mgが供給される燃料塔側ループシール部70は、燃料塔20の下流側、かつ、酸化塔10の上流側に配置されている。燃料塔側ループシール部70は、空気塔側ループシール部60と同じ構成を有している。燃料塔側ループシール部70の鉛直下方には、シール70Sが設けられている。シール70Sは、複数の細かい穴が開いた部材である。燃料塔側ループシール部70では、シール70Sの鉛直下方から水蒸気が供給される。供給された水蒸気は、シール70Sを通過して、燃料塔側ループシール部70の下流側に接続されている酸化塔10に流入する。燃料塔側ループシール部70と酸化塔10とを接続する配管には、燃料塔側ループシール部70から酸化塔10へと流動する流動床が配置されている。流動床の流動により、筒状の燃料塔側ループシール部70内の金属粒子mgは、酸化塔10へと移動する。以上説明したように、金属粒子mgは、酸化塔10内で酸化され、燃料塔20内で還元され、酸化塔10と燃料塔20との間を循環する。
【0035】
図2は、ケミカルループ燃焼の原理の説明図である。図2には、燃焼システム100の概略ブロック図が示されている。なお、図2では、金属粒子mgとして用いられる金属の原子(または分子)を、Meとして表現している。
【0036】
酸化塔10では、酸化ガスとしての空気が供給されて、金属粒子mgの酸化反応による反応熱がCO2を含まない高温のN2として熱利用先に供給される。燃料塔20では、酸化された金属粒子mgがH2およびCH4などの燃料に還元されて、還元反応により生成されたCO2を含む混合ガスが脱水器40に供給される。なお、H2により金属粒子mgが還元される場合にはCO2が発生しない。脱水器40で混合ガス中のH2Oが除去されて、高純度のCO2を含む混合ガスがCO2利用先に供給される。
【0037】
<比較例>
図3は、比較例のケミカルルーピング燃焼システム(燃焼システム)100xの概略ブロック図である。図3に示される比較例の燃焼システム100xでは、図1に示される燃焼システム100と比較して、燃料塔20x内に燃料としてCH4が供給され、H2が供給されない。そのため、比較例の燃料塔20x内では、H2による金属粒子mgの還元反応が発生しない、すなわち、H2と金属粒子mgとの弱発熱反応が発生しない。比較例では、弱発熱反応によって燃料塔20内が加熱されないため、燃焼システム100xは、燃料塔20内を加熱するヒータ25を備えている。
【0038】
それに対して、本実施形態の燃焼システム100では、燃料塔20には、燃料としての水素(H2)およびメタン(CH4)が供給される。燃料塔20では、燃料としてのH2およびCH4が、酸化塔10から酸化された金属粒子mgを還元する。本実施形態では、燃料塔20内では、酸化した金属粒子mgをCH4が還元することにより吸熱反応が発生する。一方で、CH4に加えて燃料塔20に供給されるH2が、酸化した金属粒子mgを還元することにより弱発熱反応が発生する。そのため、CH4が金属粒子mgを還元することによる吸熱反応により失う熱量の全てまたは一部を、H2が金属粒子mgを還元することによる弱発熱反応の熱量で補うことができる。燃料塔20内を弱発熱反応により直接加熱するため、本実施形態では、比較例のような外部からヒータ25を用いた加熱よりも放熱損失が少ない。この結果、燃料としてCH4のみが燃料塔20に供給された場合よりも、燃焼システム100全体のエネルギ効率が向上する。
【0039】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態のケミカルルーピング燃焼システム(燃焼システム)100aの概略ブロック図である。第2実施形態の燃焼システム100aは、図4に示されるように、さらに、水の電気分解してH2とO2とを生成する水電解装置(水電解部)30を備えている。第2実施形態の燃焼システム100aでは、第1実施形態の燃焼システム100と比較して、燃料塔20に供給されるH2が水電解装置30の水電解により生成されたH2であること、および、水電解により生成されたO2が燃料塔20に供給されることが異なる。第2実施形態では、第1実施形態と異なる構成について説明し、同じ構成等についての説明を省略する。
【0040】
第2実施形態では、燃料塔20内にO2が供給されることにより、上記式(1)で表されるように、燃料塔20内で還元された金属粒子mgの再酸化の発熱反応が発生する。酸化による発熱反応により、燃料塔20内が加熱される。水電解により生成されたO2を燃料塔に供給する場合には、燃料塔20内を加熱するためのH2の供給を節約できる。燃料塔20内に供給されるO2は、空気とは異なりN2を含んでいない。そのため、水電解により生成されたO2が燃料塔20に供給されても、燃料塔20から排出される混合ガス中のCO2濃度の低下を抑制できる。
【0041】
以上のように、第2実施形態の水電解装置30は、水の電気分解してH2とO2とを生成する。生成されたH2およびO2は、燃料塔20に供給される。第2実施形態では、燃料塔20に流入したO2は、燃料塔20内でCH4またはH2により還元された金属粒子mgを再酸化する。O2が金属粒子mgを酸化することによる発熱反応によって燃料塔20内が加熱される。水電解により生成されるO2は、空気中のO2と異なり、N2などの不純物を含んでいないため、燃料塔20から高純度のCO2を回収できる。さらに、O2は、水電解により生成されるH2の副産物であるため、燃焼システム100a全体のエネルギ効率が向上する。
【0042】
<第3実施形態>
図5は、第3実施形態のケミカルルーピング燃焼システム(燃焼システム)100bの概略ブロック図である。第3実施形態の燃焼システム100bでは、第2実施形態の燃焼システム100aと比較して、水電解装置30bで生成されたO2が燃料塔20の代わりに空気塔側ループシール部60に供給される点が異なる。第3実施形態では、第2実施形態と異なる構成について説明し、同じ構成等についての説明を省略する。
【0043】
第3実施形態では、空気塔側ループシール部60のシール60Sの下方から水蒸気と共に、水電解装置30bで生成されたO2が供給される。空気塔側ループシール部60にO2が供給されると、一部のO2は燃料塔20へと流入し、残りのO2はサイクロン15へと流入する。燃料塔20へと流入するO2は、第2実施形態で燃料塔20に供給されるO2と同様に、燃料塔20内で還元された金属粒子mgと反応する。O2と金属粒子mgとの酸化反応の発熱により、燃料塔20内が加熱される。
【0044】
以上のように、第3実施形態では、水電解装置30bで生成されたO2が燃料塔20の代わりに空気塔側ループシール部60に供給される。空気塔側ループシール部60では、金属粒子mgの流動を促進して、金属粒子mg同士の凝縮および固着を防止するために水蒸気などのガスが供給されることが好ましい。さらに、空気塔側ループシール部60内に供給されるガスは、燃料塔20へと流入する可能性があるため、N2などの不純物を含んでいないことが好ましい。空気塔側ループシール部60に供給されたO2は、酸化塔10から空気塔側ループシール部60内に流入しようとするN2などの不純物の流入を抑制する。また、空気塔側ループシール部60内にO2が供給されることにより、不純物の流入を防ぐための水蒸気の流量を低減できる。すなわち、空気塔側ループシール部60内に供給されるO2は、水電解により生成されるH2の副産物であり、燃料塔20内で金属粒子mgを再酸化させて燃料塔20内を加熱するため、燃焼システム100b全体のエネルギ効率が向上する。
【0045】
<第4実施形態>
図6は、第4実施形態のケミカルルーピング燃焼システム(燃焼システム)100cの概略ブロック図である。第4実施形態の燃焼システム100cは、第1実施形態の燃焼システム100と比較して、燃料塔20に供給される燃料としてのCH4およびH2の流量が制御される点が大きく異なる。第4実施形態では、第1実施形態と異なる構成および制御について説明し、同じ構成等についての説明を省略する。
【0046】
第4実施形態の燃焼システム100cは、図6に示されるように、さらに、燃料塔20内の温度TFRを検出する温度センサ(温度取得部)26と、検出された燃料塔20内の温度TFRを用いて燃料塔20に供給されるCH4とH2との流量を制御する制御部50とを備えている。本実施形態の温度センサ26は、燃料塔20に挿入された熱電対である。
【0047】
図6には図示されていないが、燃焼システム100cは、燃料塔20に供給されるCH4およびH2の流量のそれぞれを制御するバルブを備えている。制御部50は、燃料塔20内の温度TFRと、所定の温度である目標温度TFR_tarとの差に応じて、燃料塔20に供給するH2の流量QFR_H2およびCH4の流量QFR_HCを決定する。
【0048】
本実施形態の制御部50は、下記式(5)に温度センサ25により検出された燃料塔20内の温度TFRを代入することにより、現時点の時刻tからΔt秒後に、燃料塔20に供給するH2の流量QFR_H2を決定する。なお、式(5)におけるk1は、正の定数であり、ユーザが任意に設定できる。
【数5】
【0049】
ここで、燃料としてのCH4とH2とのいずれも、酸化された金属粒子mgと反応する。そのため、本実施形態の制御部50は、H2の流量QFR_H2を増加させた場合に、他方のCH4の流量QFR_HCを減少させる。一方で、制御部50は、H2の流量QFR_H2を減少させた場合に、他方のCH4の流量QFR_HCを増加させる。ここで、時刻tからΔt秒後のCH4の流量QFR_HC(t+Δt)は、下記式(6)のように表される。
【0050】
【数6】
1:1molのCH4で還元できる金属粒子量(mol(金属)/mol(CH4))
1:1molのH2で還元できる金属粒子量(mol(金属)/mol(H2))
本実施形態では、上記式(2),(3)の還元反応が発生するため、上記式(5)において、a1=12,b1=3である。
【0051】
図7は、第4実施形態の燃料の流量制御方法のフローチャートである。図7に示される流量制御フローでは、初めに、燃焼システム100cの制御を開始する(ステップS1)。制御部50は、温度センサ26を介して、燃料塔20内の温度TFRを取得する(ステップS2)。制御部50は、上記式(5)に温度TFRを代入することにより、燃料塔20に供給するH2の流量QFR_H2を決定する(ステップS3)。決定された流量QFR_H2のH2が燃料塔20に供給される。
【0052】
制御部50は、決定されたH2の流量QFR_H2を上記式(6)に代入することにより、燃料塔20に供給するCH4の流量を決定する(ステップS4)。決定された流量QFR_HCのCH4が燃料塔20に供給される。制御部50は、CH4の流量QFR_HCを決定してから所定の時間Δtが経過したか否かを判定する(ステップS5)。所定の時間Δtが経過していないと判定された場合には(ステップS5:NO)、制御部50は、所定の時間Δtが経過するまで待機する。
【0053】
所定の時間Δtが経過したと判定された場合には(ステップS5:YES)、制御部50は、流量制御フローを終了するか否かを判定する(ステップS6)。制御部50は、例えば、ユーザから終了の操作を受け付けたか否かを判定することにより、流量制御フローを終了するか否かを判定する。流量制御フローを終了しないと判定された場合には(ステップS6:NO)、ステップS2以降の処理が繰り返される。流量制御フローを終了すると判定された場合には(ステップS6:YES)、流量制御フローが終了する。なお、流量制御フローを終了するか否かの判定は、他の処理が行われているときに割り込んで判定されてもよい。
【0054】
以上のように、本実施形態の制御部50は、温度センサ26により検出された燃料塔20内の温度TFRと、目標温度TFR_tarとの差を用いて燃料塔20に供給されるCH4流量QFR_HCと、H2ノ流量QFR_H2とを決定する。燃料塔20内の温度TFRに応じて燃料のH2とCH4との流量割合が制御される。これにより、燃料塔20内の温度TFRに応じて金属粒子mgがH2に還元されることによる弱発熱反応を用いた燃料塔20内の加熱が制御され、かつ、還元される金属粒子mgの量が制御される。この結果、燃料塔20内の温度を目標温度TFR_tarに近づくように制御した上で、酸化された金属粒子mgを還元できる。
【0055】
<第4実施形態の変形例>
第4実施形態において、燃料塔20に供給されるH2の流量QFR_H2およびCH4の流量QFR_HCの決定方法は、一例であって変形可能である。例えば、制御部50は、下記式(7),(8)で決定されるH2の流量QFR_H2と、CH4の流量QFR_HCとを燃料塔20に供給してもよい。なお、式(7)におけるk2,b2および式(8)におけるQFR_HC_0は、任意に設定される定数である。
【0056】
【数7】
【数8】
【0057】
<第5実施形態>
図8は、第5実施形態のケミカルルーピング燃焼システム(燃焼システム)100dの概略ブロック図である。第5実施形態の燃焼システム100dは、第2実施形態の燃焼システム100aと比較して、水電解装置30dにより生成されるH2およびO2の流量が変動し、制御部50dが変動するH2およびO2の流量に応じて、燃料塔20に供給するガスの流量を制御することが大きく異なる。第5実施形態では、第2実施形態と異なる構成および制御について説明し、同じ構成等についての説明を省略する。
【0058】
燃焼システム100dは、図8に示されるように、さらに、制御部50dと、水電解装置30dにより生成されるH2を貯蔵可能な水素タンク35と、水電解装置30dに水電解のための電力を供給する変動性電力供給装置(電力供給装置)PWとを備えている。電力供給装置PWは、いわゆる太陽電池である。そのため、電力供給装置PWは、日中に太陽光発電を行って水電解装置30dに電力を供給し、夜間には水電解装置30dに電力を供給しない。
【0059】
本実施形態の制御部50dは、電力供給装置PWから水電解装置30dに電力の供給有無を検出する。また、制御部50dは、図8に図示されていない各種バルブの開閉を制御することにより、燃料塔20に供給されるCH4の流量QFR_HCと、O2の流量QFR_O2と、水素タンク35から燃料塔20に供給されるH2の流量QFR_H2とを制御する。制御部50dは、電力供給装置PWから電力が供給されて水電解装置30dが水電解を行ってH2およびO2を生成する場合に、生成されたO2をCH4と共に燃料塔20に供給し、生成されたH2を水素タンク35に貯蔵する。一方で、制御部50dは、電力供給装置PWから電力が供給されずに水電解装置30dが水電解を行わない場合に、水素タンク35に貯蔵されたH2をCH4と共に燃料塔20に供給する。なお、水電解時に生成されるH2の一部または全部が燃料塔20に供給されてもよい。
【0060】
本実施形態の制御部50dは、下記式(9)により燃料塔20へ供給するO2の流量QFR_O2を決定する。なお、式(9)におけるQO2_WLは、時刻tにおける水電解装置30dのO2の生成量である。また、k3,b3は、ユーザが任意に設定してよい定数である。
【0061】
【数9】
【0062】
燃料塔20に供給されたO2は、燃料により還元された金属粒子mgを再度酸化させる。そのため、再度酸化した金属粒子mgを還元するために追加の燃料が必要になる。本実施形態では、制御部50dは、追加の燃料として、下記式(10)により決定する流量QFR_H2のH2を供給する。
【0063】
【数10】
c:1molのH2の完全燃焼に必要なO2のmol量(mol(O2)/mol(H2))
【0064】
2の燃焼の化学式は下記式(11)により表されるため、式(10)のcは、0.5である。
【数11】
【0065】
上記式(9)において、下記関係式(12)が成立する場合には、水電解により生成された流量QFR_O2のO2が燃料塔20に供給されるだけでは、燃料塔20内を十分に加熱できない。この場合には、水電解により生成されるH2による燃料塔20内の加熱が必要になる。この場合に、制御部50dは、燃料塔20に供給されるH2の流量QFR_H2を、上記式(10)の代わりに下記式(13)により決定する。さらに、制御部50dは、燃料塔20に供給されるCH4の流量QFR_HCを、下記式(14)により決定する。k4,b4は、ユーザが任意に設定してよい定数である。
【0066】
【数12】
【数13】
【数14】
【0067】
図9は、第5実施形態の燃料の流量制御方法のフローチャートである。図9に示される流量制御フローでは、初めに、燃焼システム100dの制御を開始する(ステップS11)。制御部50dは、温度センサ26を介して、燃料塔20内の温度TFRを取得する(ステップS12)。制御部50dは、電力供給装置PWから水電解装置30dへと電力が供給されているか否かを判定する(ステップS13)。水電解装置30dへと電力が供給されていないと判定された場合には(ステップS13:NO)、制御部50dは、燃料塔20に供給するO2の流量QFR_O2をゼロに決定する(ステップS15A)。この場合に、制御部50dは、第4実施形態と同じように、上記式(5)に温度TFRを代入することにより、燃料塔20に供給するH2の流量QFR_H2を決定する(ステップS16A)。決定された流量QFR_H2のH2が燃料塔20に供給される。また、制御部50dは、決定されたH2の流量QFR_H2を上記式(6)に代入することにより、燃料塔20に供給するCH4の流量を決定する(ステップS17A)。決定された流量QFR_HCのCH4が燃料塔20に供給される。
【0068】
ステップS13の処理において、水電解装置30dへと電力が供給されていると判定された場合には(ステップS13:YES)、制御部50dは、水電解により生成されるO2の流量QFR_O2を燃料塔20に供給するだけで燃料塔20内を十分に加熱できるか否かを判定する(ステップS14)。本実施形態では、制御部50dは、上記式(12)において左辺に表される、現時点で水電解により生成されるO2の流量QO2_WLが右辺以上か否かで判定する。すなわち、十分なO2が水電解により生成されているか否かが判定される。
【0069】
ステップS14の処理において、十分なO2が水電解により生成されており、燃料塔20内を十分に加熱できると判定された場合には(ステップS14:YES)、制御部50dは、CH4の流量QFR_HCを定数の流量QFR_HC_0に決定する(ステップS15B)。決定された流量QFR_HC_0のCH4が燃料塔20に供給される。制御部50dは、上記式(9)を用いて、燃料塔20に供給されるO2の流量QFR_O2を決定する(ステップS16B)。決定された流量QFR_O2のO2が燃料塔20に供給される。制御部50dは、上記式(9)により決定された流量QFR_O2を上記式(10)に代入することにより、燃料塔20に供給するH2の流量QFR_H2を決定する(ステップS17B)。決定された流量QFR_H2のH2が燃料塔に供給される。
【0070】
ステップS14の処理において、十分なO2が水電解により生成されずに、燃料塔20内を十分には加熱できないと判定された場合には(ステップS14:NO)、制御部50dは、上記式(9)を用いて燃料塔20に供給するO2の流量QFR_O2を決定する(ステップS15C)。供給された流量QFR_O2のO2が燃料塔20に供給される。制御部50dは、上記式(9)により決定されたO2の流量QFR_O2を上記式(13)に代入することにより、燃料塔20に供給するH2の流量QFR_H2を決定する(ステップS16C)。決定された流量QFR_H2の水素が燃料塔20に供給される。制御部50dは、上記式(14)を用いて燃料塔20に供給するCH4の流量QFR_HCを決定する(ステップS17C)。決定された流量QFR_HCのCH4が燃料塔20に供給される。
【0071】
制御部50dは、ステップS17A~17Cのいずれかの処理が行われると、制御部50dは、流量制御フローを終了するか否かを判定する(ステップS18)。流量制御フローを終了しないと判定された場合には(ステップS18:NO)、ステップS12以降の処理が繰り返される。流量制御フローを終了すると判定された場合には(ステップS18:YES)、流量制御フローが終了する。なお、流量制御フローを終了するか否かの判定は、他の処理が行われているときに割り込んで判定されてもよい。
【0072】
以上のように、本実施形態の制御部50dは、水電解装置30dが水電解を行ってH2およびO2を生成する場合に、生成されたO2をCH4と共に燃料塔20に供給し、生成されたH2を水素タンク35に貯蔵する。一方で、制御部50dは、水電解装置30dが水電解を行わない場合に、水素タンク35に貯蔵されたH2をCH4と共に燃料塔20に供給する。すなわち、本実施形態では、水電解装置30dに電力供給装置PWからの電力供給が変動する場合に、電力供給量に応じて、水電解装置30dからのH2とO2の供給が制御されている。電力が供給されて水電解装置30dがH2とO2とを生成する場合に、生成されたH2は水素タンク35に貯蔵される。一方で、生成されたO2は、燃料塔20に供給されて金属粒子mgを酸化して発熱反応を生じさせる。この結果、燃料塔20内のCH4の還元反応によって失われる熱量が発熱反応により補われる。水電解装置30dが水電解を行わない場合には、水素タンク35に貯蔵されたH2を燃料塔20に供給することにより、CH4の還元反応によって失われた熱量が弱発熱反応により補われる。すなわち、本実施形態によれば、水電解装置30dに供給される電力量に応じて、水電解による副産物の酸素を有効利用しつつ、電力供給がない場合には、水素タンク35に貯蔵されたH2が燃料塔20内の加熱に利用される。この結果、燃焼システム100d全体のエネルギ効率が向上する。
【0073】
<第5実施形態の変形例>
第5実施形態では、電力供給装置PWから水電解装置30dに電力が供給されて水電解装置30dにより生成されたO2が燃料塔20に供給された。この際に、燃料塔20内でO2により再酸化された金属粒子mgを還元するための燃料として上記式(10)に示されるようにH2を用いたが、再酸化に用いられる燃料はCH4であってもよいし、H2とCH4との両方が用いられてもよい。
【0074】
第5実施形態では、水電解装置30dがO2を生成している期間と同じ期間に、生成されたO2が燃料塔20に供給されたが、生成されたO2が燃料塔20に供給されない期間があってもよい。例えば、水素タンク35に貯蔵されたH2の量が所定値以下の場合に、制御部50dは、水電解により生成されたO2を大気に放出し、生成されたH2を水素タンク35に貯蔵する又は燃料塔20に供給してもよい。この場合に燃料塔20を加熱するヒータ25を、燃焼システム100dが備えていてもよい。制御部50dは、水電解装置30dが水電解を行っている場合に、生成されるH2の少なくとも一部を水素タンク35に供給することが好ましい。また、制御部50dは、水素タンク35の貯蔵量が設定された上限値を超えている場合に、H2の消費を促すために、燃料塔20にCH4を供給せずに、H2のみを供給してもよい。
【0075】
<第6実施形態>
図10は、第6実施形態のケミカルルーピング燃焼システム(燃焼システム)100eの概略ブロック図である。第6実施形態の燃焼システム100eでは、第5実施形態の燃焼システム100dと比較して、水電解装置30で生成されたO2が、燃料塔20の代わりに空気塔側ループシール部60に供給される点が異なる。第6実施形態では、第5実施形態と異なる構成について説明し、同じ構成等についての説明を省略する。
【0076】
第6実施形態の制御部50eは、水電解装置30eが水電解によりH2およびO2を生成している場合に、生成されたH2を水素タンク35に貯蔵し、生成されたO2を空気塔側ループシール部60に供給する。空気塔側ループシール部60に供給されたO2の流量をQULS_O2と定義すると、流量QULS_O2は、定数k5と、燃料塔20に流入するO2の流量QFR_O2とを用いて下記式(15)のように表される。なお、定数k5は、1以上である。
【0077】
【数15】
【0078】
上記式(15)において、空気塔側ループシール部60に供給されたO2の全てが燃料塔20に流入する場合には、k5が1である。一方、空気塔側ループシール部60に供給されたO2の全てが酸化塔10に流入する場合には、k5が無限大である。そのため、制御部50eは、式(15)から決定されるO2の流量QFR_O2を用いて、第5実施形態の図9に示される流量制御フローのように、燃料塔20に供給される各種流量を制御する。
【0079】
<実施形態の変形例>
本発明は上記実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。また、上記実施形態において、ハードウェアによって実現されるとした構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されるとした構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【0080】
上記第1実施形態ないし第6実施形態では、ケミカルルーピング燃焼システムの一例について説明したが、ケミカルルーピング燃焼システムは、金属粒子mgを酸化する酸化塔10と、燃料として供給された炭素を含む化合物およびH2により金属粒子mgを還元する燃料塔20とを備える範囲で変形可能である。例えば、燃焼システム100は、空気塔側ループシール部60や燃料塔側ループシール部70を備えていなくてもよい。第2実施形態の燃焼システム100aでは、水電解装置30により生成されたH2およびO2が燃料塔20に供給されたが、供給されるH2およびO2は、水電解により生成されずに、他の装置やガスが貯蔵されたタンクから供給されてもよい。上記第5実施形態の燃焼システム100dが備える電力供給装置PWは、太陽電池であったが、電力供給が変動する電力源としては、再生エネルギを用いた電力源などの周知の装置を採用できる。電力供給装置PWは、燃焼システム100dに含まれない外部の電力源であってもよい。
【0081】
酸化塔10に供給されるO2を含むガスは、空気以外であってもよい。酸化塔10は、酸素を含む空気が供給される空気塔とも換言できる。燃焼システム100は、ヒータ25(図3)を備えていてもよく、燃料塔20内において、H2による金属粒子mgの還元反応やO2による金属粒子mgの酸化反応を用いた加熱に加えて、ヒータ25の加熱を利用してもよい。
【0082】
燃焼システム100を循環する金属粒子mgとして、Fe34以外の周知の材料が用いられてもよい。例えば、酸化された金属粒子mgをH2で還元する場合の反応式として、下記反応式(16),(17)に示されるNiやFeTiO3が金属粒子mgとして用いられてもよい。
【0083】
【数16】
【数17】
【0084】
また、燃料塔20に供給される燃料としての炭素を含む化合物は、炭化水素であるCH4以外のC26やC38などでもよく、炭化水素以外の化合物でもよく、周知の材料を採用できる。例えば、炭素を含む化合物としてC26を用いた場合に、酸化後の金属粒子mgとしてのFe23が還元される反応式は、下記式(18)のように表される。
【0085】
【数18】
【0086】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0087】
本発明は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
ケミカルルーピング燃焼システムであって、
金属粒子を酸化させる酸化塔と、
水素と、炭素を含む化合物とが燃料として供給されると共に、前記酸化塔から酸化された金属粒子が供給され、前記燃料を用いて金属粒子を還元する燃料塔と、
を備える、ケミカルルーピング燃焼システム。
[適用例2]
適用例1に記載のケミカルルーピング燃焼システムであって、さらに、
前記燃料塔内の温度を取得する温度取得部と、
前記温度取得部により取得された温度と、所定の温度との差を用いて、前記燃料塔に供給する水素および炭素を含む化合物の流量を決定する制御部と、
を備える、ケミカルルーピング燃焼システム。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のケミカルルーピング燃焼システムであって、さらに、
水を電気分解して水素と酸素を生成する水電解部を備え、
前記水電解部は、生成された水素および酸素を前記燃料塔に供給する、ケミカルルーピング燃焼システム。
[適用例4]
適用例1から適用例3までのいずれか一項に記載のケミカルルーピング燃焼システムであって、さらに、
前記酸化塔の下流側、かつ、前記燃料塔の上流側に配置されたループシールであって、前記酸化塔から前記燃料塔へのガスの流入を抑制するループシールを備え、
前記水電解部は、
生成された水素を前記燃料塔に供給し、
生成された酸素を、前記燃料塔の代わりに前記ループシールに供給する、ケミカルルーピング燃焼システム。
[適用例5]
適用例1から適用例4までのいずれか一項に記載のケミカルルーピング燃焼システムであって、さらに、
前記水電解部により生成された水素を貯蔵する水素タンクを備え、
前記制御部は、
前記水電解部による水素と酸素との生成がある場合に、生成された酸素を前記燃料塔に供給し、かつ、生成された水素の少なくとも一部を前記水素タンクで貯蔵し、
前記水電解部による水素と酸素との生成がない場合に、前記水素タンクで貯蔵された水素を前記燃料塔に供給する、ケミカルルーピング燃焼システム。
【符号の説明】
【0088】
10…酸化塔
10S…酸化塔のシール
15…サイクロン
20…燃料塔
20S…燃料塔のシール
26…温度センサ
25…ヒータ
30,30d,30e…水電解装置(水電解部)
35…水素タンク
40…脱水器
50,50d,50e…制御部
60…空気塔側ループシール部(ループシール)
60S…空気塔側ループシール部のシール
70…燃料塔側ループシール部
70S…燃料塔ループシール部のシール
100,100a,100b,100c,100d,100e…燃焼システム
100x…比較例の燃焼システム
PW…変動性電力供給装置
FR_H2…水素の流量
FR_O2…酸素の流量
FR_HC…メタンの流量
FR…燃料塔内の温度
FR_tar…目標温度
mg…金属粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10