(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148448
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】リチウム二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20241010BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20241010BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241010BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20241010BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/40
H01M10/052
H01M10/058
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061578
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】谷木 良輔
(72)【発明者】
【氏名】角田 宏郁
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK16
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029CJ16
5H029DJ12
5H029DJ13
5H029HJ05
5H029HJ06
5H029HJ07
5H029HJ09
5H029HJ17
5H050AA07
5H050BA16
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA20
5H050CB12
5H050DA03
5H050FA08
5H050FA09
5H050GA18
5H050HA05
5H050HA06
5H050HA07
5H050HA09
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】充放電サイクル特性に優れるリチウム二次電池及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】一実施形態に係るリチウム二次電池負極は、正極と、を備えるリチウム二次電池であって、負極が、集電体層と、リチウム金属箔からなる第1のリチウム金属層と、粒状のリチウム金属を含む第2のリチウム金属層と、リチウム金属を含み多孔質である第3のリチウム金属層と、をこの順序で有し、粒状のリチウム金属の平均粒径が、第3のリチウム金属層の平均空孔径よりも大きい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、正極と、を備えるリチウム二次電池であって、
前記負極が、
集電体層と、
リチウム金属箔からなる第1のリチウム金属層と、
粒状のリチウム金属を含む第2のリチウム金属層と、
リチウム金属を含み多孔質である第3のリチウム金属層と、
をこの順序で有し、
前記粒状のリチウム金属の平均粒径が、前記第3のリチウム金属層の平均空孔径よりも大きい、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記第3のリチウム金属層の空孔率が、10~40%である、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記第3のリチウム金属層の平均空孔径が、0.1~3μmである、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記粒状のリチウム金属の平均粒径が、1~22μmである、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
下記式(1)で求められる面積割合Sが、60面積%以上である、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池。
面積割合S={S3/(S2+S3)}×100・・・式(1)
[式(1)中、S2は、前記負極の第3のリチウム金属層側の主面における第2のリチウム金属層の面積であり、S3は、前記負極の第3のリチウム金属層側の主面にける前記第3のリチウム金属層の面積である。]
【請求項6】
(a)集電体層及びリチウム金属箔を有する負極と、正極と、を備えるリチウム二次電池前駆体を準備する工程と、
(b)前記リチウム二次電池前駆体を0.01~0.5Cで充電率が10~100%となるまで充電し、その後、前記リチウム二次電池前駆体を0.2C~2.5Cで放電する工程と、
を備え、
工程(b)を2回以上実施する、リチウム二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池はこれまでのニッケル水素電池や鉛蓄電池と比較して高い容量を実現できることから、携帯電話、ノートパソコン用電源、また大型の電力貯蔵用電源や自動車用電源としても注目及び導入が進んでいる。しかし、各種電子機器の高機能化や電源の需要の高まりからさらなるリチウム電池の高容量化が期待されている。リチウム二次電池は、電極を構成する材料内にリチウムイオンを挿入脱離することで充放電を行うリチウムイオン二次電池とは異なり、リチウム金属が析出、溶解することで充放電を行う。軽金属であることからグラファイトと比較して数倍から10倍の容量を有し、また、極めて卑な電位を有するため、大きな期待がされている。(特許文献1~3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-214008号公報
【特許文献2】特開2000-133314号公報
【特許文献3】特許第5317435号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
負極活物質としてリチウム金属を用いる場合において生じる問題として、充電時に負極の表面に不均一にリチウム金属核が生成して成長するということが挙げられる。リチウム金属が不均一に析出すると、析出したリチウム金属の先端ほど電解液に触れることができる。そのため他の箇所よりもリチウム析出が容易となり、析出したリチウム金属の先端がさらに延伸していく形で樹状のリチウム金属が析出する(デンドライト)。デンドライト化が進行するほど、比表面積が大きくなるため還元分解物は多くなる。
【0005】
さらに放電過程でリチウム金属の溶解時にデンドライト上の析出リチウム金属の一部が剥がれ、放電に寄与できない部分(デッドリチウム)を生じ、リチウム金属の微粉化が進行する。
【0006】
還元分解物の堆積やリチウム金属の微粉化がサイクルを重ねるにつれ進行していくため、負極が大きく膨張してしまう。負極の膨張は、電解液の枯渇を促進し、安全性の低減し、サイクル特性の低下を招くことから大きな課題である。
【0007】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、充放電サイクル特性に優れるリチウム二次電池及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 負極と、正極と、を備えるリチウム二次電池であって、
上記負極が、
集電体層と、
リチウム金属箔からなる第1のリチウム金属層と、
粒状のリチウム金属を含む第2のリチウム金属層と、
リチウム金属を含み多孔質である第3のリチウム金属層と、
をこの順序で有し、
上記粒状のリチウム金属の平均粒径が、上記第3のリチウム金属層の平均空孔径よりも大きい、リチウム二次電池。
[2]上記第3のリチウム金属層の空孔率が、10~40%である、[1]に記載のリチウム二次電池。
[3]上記第3のリチウム金属層の平均空孔径が、0.1~3μmである、[1]又は[2]に記載のリチウム二次電池。
[4]上記粒状のリチウム金属の平均粒径が、1~22μmである、[1]~[3]のいずれかに記載のリチウム二次電池。
[5]下記式(1)で求められる面積割合Sが、60面積%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のリチウム二次電池。
面積割合S={S3/(S2+S3)}×100・・・式(1)
[式(1)中、S2は、負極の第3のリチウム金属層側の主面における第2のリチウム金属層の面積であり、S3は、負極の第3のリチウム金属層側の主面にける第3のリチウム金属層の面積である。]
[6](a)集電体層及びリチウム金属箔を有する負極と、正極と、を備えるリチウム二次電池前駆体を準備する工程と、
(b)上記リチウム二次電池前駆体を0.01~0.5Cで充電率が10~100%となるまで充電し、その後、上記リチウム二次電池前駆体を0.2C~2.5Cで放電する工程と、
を備え、
工程(b)を2回以上実施する、リチウム二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、充放電サイクル特性に優れるリチウム二次電池及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るリチウム二次電池の模式断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る負極30Cの断面図である。
【
図3】
図3の(a)は、実施例で得られたリチウム二次電池の負極の断面の一部を撮影したSEM写真である。
図3(b)は、実施例で得られたリチウム二次電池の負極の第3のリチウム金属層側の主面を撮影したSEM写真である。
図3(c)は、実施例で得られたリチウム二次電池の負極の第3のリチウム金属層側の主面を撮影したSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、本開示の好適な実施形態について説明する。
【0012】
[リチウム二次電池]
本実施形態に係るリチウム二次電池100は、
図1に示すように、発電素子90、及び、ケース80を備える。発電素子90は、負極30C、正極10、及び、セパレータ20を多数有する積層体である。発電素子90において、負極30Cと正極10とが交互に配置され、かつ、負極30Cと正極10との間にセパレータ20が配置されている。発電素子90の各層には非水電解液が含浸されている。
【0013】
(負極30C)
図2は、一実施形態に係る負極30Cの断面図である。負極30Cは、集電体層32と、リチウム金属箔からなる第1のリチウム金属層34と、粒状のリチウム金属36aを含む第2のリチウム金属層36と、リチウム金属を含み多孔質である第3のリチウム金属層38と、をこの順序で有する。負極30Cは、集電体層32の一対の主面上のそれぞれに第1~第3のリチウム金属層を備えていてもよく、集電体層32の一方の主面上にのみ、第1~第3のリチウム金属層を備えていてもよい。負極30Cは、集電体層32の一方の主面上に第1~第3のリチウム金属層を備え、集電体層32のもう一方の主面上に第1のリチウム金属層のみを備えていてもよい。
【0014】
集電体層32は、導電性の板材であればよく、例えば、銅、ニッケル、ステンレス又はそれらの合金の金属薄板(金属箔)を用いることができる。導電率の観点から銅箔であることが好ましい。銅箔は、圧延銅箔であってもよいし、他の銅箔であってもよい。集電体層32の厚さに限定はないが、例えば、2~20μmとすることができる。
【0015】
第1のリチウム金属層34の厚さは、特に限定されないが、2μm以上であることができ、50μm以下であることができる。
【0016】
第1のリチウム金属層34の空隙率は、1%以下であってよく、空隙を有していなくてもよい。
【0017】
第2のリチウム金属層36は、粒状のリチウム金属36aを含む。第2のリチウム金属層36は、粒状のリチウム金属36aの集合体であってよい。隣接する粒状のリチウム金属36aは一部が接合していてもよい。粒状のリチウム金属36aは、単結晶であってよい。
【0018】
粒状のリチウム金属36aの平均粒径は、後述する第3のリチウム金属層38の平均空孔径よりも大きい。粒状のリチウム金属36aの平均粒径は、1~22μmであってよい。平均粒径は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0019】
第2のリチウム金属層36の空隙率は、3~40%であってよい。空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて断面加工した部分を観察および党外の面積を測定することにより測定される。
【0020】
第2のリチウム金属層36の厚さは、1~25μmであってよい。
【0021】
第3のリチウム金属層38は、リチウム金属を含み多孔質である。第3のリチウム金属層38は、第2のリチウム金属層36に含まれる粒状のリチウム金属を含まない。
【0022】
第3のリチウム金属層38の空孔率は、10~40%であることが好ましく、15~30%であることがより好ましい。空孔率が10%以上であることでリチウムイオンが通過し易くなる。空孔率が40%以下であることでデンドライトの析出を抑制できる傾向がある。そのため、空孔率が上記範囲であるリチウム二次電池は、サイクル特性に一層優れる傾向がある。空孔率は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0023】
第3のリチウム金属層38の平均空孔径は、充放電サイクル特性を一層向上できる傾向があることから、0.1~3μmであることが好ましく、0.5~1μmであることがより好ましい。平均空孔径が0.1μm以上であることでリチウムイオンが通過し易くなる。平均空孔径が3μm以下であることでデンドライトの析出を抑制できる傾向がある。そのため、平均空孔径が上記範囲であるリチウム二次電池は、サイクル特性に一層優れる傾向がある。平均空孔径は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0024】
第3のリチウム金属層38におけるリチウム金属の含有量は、80質量%以上、95質量%以上、99質量%以上、又は100質量%であってよい。
【0025】
第3のリチウム金属層38の厚さは、2~50μmであってよい。
【0026】
負極30Cの下記式(1)で求められる面積割合Sは、充放電サイクル特性を一層向上できる傾向があることから、60面積%以上であることが好ましく、70面積%以上であることがより好ましく、80面積%以上であることが更に好ましい。面積割合Sは、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0027】
面積割合S={S3/(S2+S3)}×100・・・式(1)
[式(1)中、S2は、リチウム二次電池の負極の第3のリチウム金属層側の主面における第2のリチウム金属層の面積であり、S3は、リチウム二次電池の負極の第3のリチウム金属層側の主面における第3のリチウム金属層の面積である。]
【0028】
負極30Cの全体厚みは、1~150μmとすることができる。
【0029】
負極30Cは、本体部、及び、本体部から突出するタブ部を有していてよい。
【0030】
負極30Cの平面形状は、最終的な電池の形状に合わせて種々の形を取ることができる。例えば、負極30Cはタブ部を有していなくてもよい。また、本体部の形状も円形などでもよい。
【0031】
(作用機序)
リチウム二次電池100は、第2のリチウム金属層36及び第3のリチウム金属層を有し、且つ、粒状のリチウム金属36aの平均粒径が、第3のリチウム金属層38の平均空孔径よりも大きい。これにより、第2のリチウム金属層36の表面に不均一にリチウム金属核が生成して成長することを第3のリチウム金属層が抑制する。その結果、リチウム二次電池100は、負極の膨張が抑制され、サイクル特性に優れたものとなる。
【0032】
(正極10)
正極10は、正極集電体12、及び、正極集電体12の両面に設けられた正極活物質層14を有する。
【0033】
正極集電体12は導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属箔であることができる。
【0034】
正極活物質層14は、正極活物質、導電助剤、及び、バインダーを含む。
【0035】
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンとカウンターアニオンのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な活物質を含む。
【0036】
正極活物質は、例えば、複合金属酸化物である。複合金属酸化物の例は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、及び、一般式:LiNixCoyMnzMaO2の化合物(一般式中においてx+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMPO4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、LiNixCoyAlzO2(0.9<x+y+z<1.1)である。正極活物質は、有機物でもよい。例えば、有機物の正極活物質の例は、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセンである。
【0037】
導電助剤は、正極活物質の間の電子伝導性を高める。導電助剤の例は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物である。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素材料が好ましい。
【0038】
バインダーは、活物質同士を結合する。バインダーには、公知のものを用いることができる。バインダーの例はフッ素樹脂である。フッ素樹脂の例は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等である。
【0039】
バインダーの他の例は、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムである。またバインダーの更に他の例は、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂である。
【0040】
(セパレータ20)
セパレータ20は、電気絶縁性及び多孔質構造を有する。セパレータ20の例は、樹脂の微多孔フィルムである。樹脂の例は、ポリイミド系樹脂;ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂である。樹脂は単独重合体でも、共重合体でも、複数の重合体の混合物でもよい。樹脂の微多孔フィルムは、樹脂フィルムの延伸(乾式法)あるいは樹脂フィルム中の造孔剤などの除去(湿式法)等により製造されることができる。
【0041】
セパレータ20の他の例は、各種繊維の不織布(紙)である。繊維の例は、上記の各樹脂の繊維、セルロース繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ガラス繊維である。
【0042】
セパレータ20の更に他の例は固体電解質である。固体電解質の例は、高分子固体電解質、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質である。
【0043】
セパレータ20は、上記の材料の単層でもよいが、上記の材料の任意の2以上の積層体でもよい。セパレータ20は、その一方の主面又は両方の主面に、上記の材料以外の材料を含む層を更に備えていてもよい。そのような材料は、無機材料であってもよく、有機材料であってもよい。無機材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア及びチタニアなどの金属酸化物、並びにリチウムイオン伝導体(LISICON、LLZ、LLTO)などの固体電解質が挙げられる。
【0044】
(非水電解液)
非水電解液は、外装体50内に封入され、発電素子90に含浸している。非水電解液は、例えば、非水溶媒と電解質とを有する。電解質は、非水溶媒に溶解している。
【0045】
非水溶媒は、例えば、環状カーボネートと、鎖状カーボネートと、を含有する。環状カーボネートは、電解質を溶媒和する。環状カーボネートは、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートである。環状カーボネートは、プロピレンカーボネートを少なくとも含むことが好ましい。鎖状カーボネートは、環状カーボネートの粘性を低下させる。鎖状カーボネートは、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。非水溶媒は、その他、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等を有してもよい。
【0046】
電解質は、例えば、リチウム塩である。電解質は、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、LiCF3CF2SO3、LiC(CF3SO2)3、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiN(CF3CF2CO)2、LiBOB等である。リチウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
(外装体50)
外装体50は、その内部に発電素子90及び非水電解液を密封する。外装体50は、非水電解液の外部への漏出や、外部からのリチウム二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止する。
【0048】
外装体50は、図示は省略するが、金属箔と、金属箔の両面に積層された樹脂層と、を有することができる。
【0049】
金属箔としては例えばアルミ箔を用いることができる。樹脂層には、ポリプロピレン等の高分子膜を利用できる。樹脂層を構成する材料は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用い、内側の高分子膜の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等を用いることができる。
【0050】
図示は省略するが、通常、正極及び負極のタブ部にそれぞれ接続されたリードが、外装体の内外を連通している。リードは、アルミ、ニッケル、銅にニッケルメッキされた金属板等の導電材料から形成されていることができる。特に、正極10側に接続されるリードについてはアルミ金属板を用いることが好ましく、負極30C側に接続されるリードについては、ニッケル金属板又は銅にニッケルメッキされた金属板を用いることが好ましい。
【0051】
本実施形態では、発電素子90の両最外層は負極30Cとされているが、これに限定されず、例えば、発電素子90の両最外層が正極でもよい。
【0052】
正極(または負極)の積層数に特に限定はなく、例えば1層でもよく、10層、20層等の多層でもよい。
【0053】
[リチウム二次電池の製造方法]
本実施形態に係るリチウム二次電池は、下記工程(a)及び工程(b)を備え、工程(b)を2回以上実施する。
(a)集電体層及びリチウム金属箔を有する負極と、正極と、を備えるリチウム二次電池前駆体を準備する工程。
(b)リチウム二次電池前駆体を0.01~0.5Cで充電率が10~100%となるまで充電し、その後、リチウム二次電池前駆体を0.2C~2.5Cで放電する工程。
【0054】
(工程(a))
リチウム二次電池前駆体は、負極と、正極と、負極及び正極の間に配置されたセパレータとを有する。これらは、非水電解液が含浸されている。負極の集電体層、リチウム金属箔、正極及びセパレータは、上記実施形態に係るリチウム二次電池100と同じものを使用することができる。
【0055】
(工程(b))
工程(b)を2回以上実施することで、上記実施形態に係る第2のリチウム金属層及び第3のリチウム金属層が形成される。
【実施例0056】
以下、本開示について、実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
[リチウム二次電池の作製]
(実施例1)
集電体層として厚さ8μmの銅箔を用意した。集電体層の一方の主面に、厚さ20μmのリチウム金属箔を配置したのち、所定の形状にカットし、本体部とタブとを有する第1の積層体を得た。
【0057】
厚さ15μmのアルミニウム箔の一面に、正極スラリーを塗布し、負極と同様の本体部及びタブ部を有する所定の形状にカットした。正極スラリーは、正極活物質と導電助剤とバインダーと溶媒とを混合して作製した。
【0058】
正極活物質として複合金属酸化物の一つであるLiNixCoyMnzMaO2(x=0.83,y=0.09,z=0.07,a=0.01,M=Al)を用いた。導電助剤としてカーボングラックを用いた。バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。正極活物質、導電助剤、バインダーの質量比は、95:2:3とした。乾燥後の正極活物質層における正極活物質の担持量は、10mg/cm2とした。正極スラリーから乾燥炉内で溶媒を除去し、正極を作製した。
【0059】
作製した第1の積層体と正極とを、厚さ10μmのポリプロピレン製のセパレータを介して交互に積層し、第1の積層体の11枚と正極の10枚とを積層することで第2の積層体を作製した。両最外の電極はいずれも第1の積層体とした。さらに、第2の積層体における第1の積層体のタブ部にニッケル製の負極リードを、第2の積層体の正極のタブ部にアルミニウム製の正極リードを、それぞれ超音波溶接機によって取り付けた。
【0060】
そして第2の積層体を、ケース内に挿入して周囲の1箇所を除いてヒートシールすることにより閉口部を形成した。その後、ケース内に非水電解液を注入した。非水電解液は、1,2-ジメトキシエタン溶媒中に、リチウム塩として4M(mol/L)のLiN(FSO2)2を添加したものとした。そして、残りの1箇所を真空シール機によって減圧しながらヒートシールで密封し、リチウム二次電池前駆体を作製した。
【0061】
次に、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて、25℃の環境下で、リチウム二次電池前駆体を充電してその放電する充放電サイクルを2サイクル実施した。これによりリチウム二次電池を得た。充電は、定電流充電法で表1に示すCレートで充電率(SOC)が表1に示す値となるまで行った。放電は、定電流放電で表1に示すCレートでセル電圧が3.0Vになるまで行った。得られたリチウム二次電池の負極は、集電体層/Li金属箔(第1のリチウム金属層)/粒状のリチウム金属を含む第2のリチウム金属層/リチウム金属を含み多孔質である第3のリチウム金属層の構造を有する。
【0062】
(実施例2~10、比較例2、3)
充放電サイクルにおいて充電時のCレート、充電率及び放電時のCレートを表1に示す値としたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を得た。得られたリチウム二次電池の負極は、集電体層/Li金属箔(第1のリチウム金属層)/粒状のリチウム金属を含む第2のリチウム金属層/リチウム金属を含み多孔質である第3のリチウム金属層の構造を有する。
【0063】
(比較例1)
充放電サイクルの実施回数を1回としたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を得た。得られたリチウム二次電池の負極は、集電体層/Li金属箔(第1のリチウム金属層)/リチウム金属を含み多孔質である第3のリチウム金属層/粒状のリチウム金属を含む第2のリチウム金属層の構造を有する。
【0064】
[評価]
<実施例1~10、比較例1~3>
(サイクル特性)
二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いてリチウム二次電池のサイクル経過後の要電容量維持率を測定した。25℃の環境下で、0.2Cで4.3Vまで定電流定電圧充電し、1Cで3.0Vまで定電流放電する充放電サイクルを1充放電サイクルとして設定し、初期の容量の80%以下に低下するまでに要したサイクル数を測定した。結果を表1に示した。
【0065】
(負極の厚み変化)
100サイクル経過後のリチウム二次電池を分解し、負極の厚み変化を測定した。厚み変化割合は、(「100サイクル後の負極の厚さ」-「初回充電前の負極の厚さ」)/(「初回充電前の負極の厚さ」)×100で求めた。結果を表1に示した。
【0066】
(第3のリチウム金属層の平均空孔径)
リチウム二次電池の負極の第3のリチウム金属層の主面を走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、商品名「SU8010」)で観察(倍率:2000倍)して画像を撮影した。得られた画像を色味に基づいて二値化することで、第3のリチウム金属層について、空孔と、空孔以外とを識別した。画像中の空孔を抽出して全ての空孔径を測定し、その平均値を平均空孔径として採用した。結果を表1に示した。
【0067】
(第3のリチウム金属層の空孔率)
リチウム二次電池の負極の第3のリチウム金属層の主面を走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、商品名「SU8010」)で観察(倍率:2000倍)して画像を撮影した。得られた画像を輝度に基づいて二値化することで、第3のリチウム金属層について、空孔と、空孔以外とを識別した。二値化した画像から空孔率を測定した。結果を表1に示した。
【0068】
(第2のリチウム金属層の平均粒径)
リチウム二次電池の負極の第2のリチウム金属層の断面を走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、商品名「SU8010」)で観察(倍率:5000倍)して画像を撮影した。得られた画像を輝度に基づいて二値化することで第2のリチウム金属層の粒子を識別した。画像中の全ての粒子径を測定し、その平均値を平均粒径として採用した。結果を表1に示した。
【0069】
(面積割合S)
リチウム二次電池の負極の第3のリチウム金属層側の主面を走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、商品名「SU8010」)で観察(倍率:500倍)して画像を撮影した。得られた画像を輝度に基づいて二値化することで、第2のリチウム金属層と、第3のリチウム金属層とを識別した。二値化した画像から、主面を平面視で観察したときの第2のリチウム金属層の面積S2と、主面を平面視で観察したときの第3のリチウム金属層の面積S3とを求めた。S2及びS3から、下記式(1)で求められる面積割合Sを算出した。結果を表1に示した。
【0070】
面積割合S={S3/(S2+S3)}×100・・・式(1)
[式(1)中、S2は、リチウム二次電池の負極の第3のリチウム金属層側の主面における第2のリチウム金属層の面積であり、S3は、リチウム二次電池の負極の第3のリチウム金属層側の主面における第3のリチウム金属層の面積である。]
【0071】
【0072】
図3の(a)は、実施例で得られたリチウム二次電池の負極の断面の一部を撮影したSEM写真(倍率:5000倍)である。粒状のリチウム金属を含む第2のリチウム金属層及び多孔質の第3のリチウム金属層が形成されていることが分かる。
図3(b)は、実施例で得られたリチウム二次電池の負極の第3のリチウム金属層側の主面を撮影したSEM写真(倍率:2000倍)である。粒状のリチウム金属を含む第2のリチウム金属層及び多孔質の第3のリチウム金属層が形成されていることが分かる。
図3(c)は、実施例で得られたリチウム二次電池の負極の第3のリチウム金属層側の主面を撮影したSEM写真(倍率:500倍)である。第2のリチウム金属層36及び第3のリチウム金属層38が存在することが分かる。