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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014902
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】細胞培養チップの使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240125BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
C12M1/26
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023189906
(22)【出願日】2023-11-07
(62)【分割の表示】P 2020548383の分割
【原出願日】2019-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2018185218
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 誠
(57)【要約】
【課題】簡易な作業手順によって流路内の液体を残存させながらも開口部内に貯留された液体を吸引することを可能にする、細胞培養チップの使用方法を提供する。
【解決手段】細胞培養チップは、底部と、底部の上面に形成された基体部と、基体部の主面の一部から底部に向かう第一方向に基体部を開口されてなる第一ウェルと、第一ウェルに対して主面に平行な第二方向に離間した位置において第一方向に基体部を開口されてなる第二ウェルと、第一ウェルと第二ウェルとを前記第二方向に連絡する管状のチャンバとを有する。この方法は、第一ウェル内及びチャンバ内に培養液を充填する工程(a)と、所定の吸引力で第一ウェル内の培養液を吸引することでチャンバ内の培養液を第一ウェル内に流出させることなく第一ウェルの底面を露出させる工程(b)とを有する。
【選択図】図5C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養チップの使用方法であって、
前記細胞培養チップは、
底部と、
前記底部の上面に形成された基体部と、
前記基体部の前記底部とは反対側の面である主面の一部から前記底部に向かう第一方向に前記基体部を開口されてなる、第一ウェルと、
前記第一ウェルに対して前記主面に平行な第二方向に離間した位置において、前記第一方向に前記基体部を開口されてなる第二ウェルと、
前記底部と前記基体部とで挟まれた領域によって、前記第一ウェルと前記第二ウェルとを前記第二方向に連絡する管状のチャンバとを有し、
前記第一ウェルは、前記第一ウェルの毛細管力が前記チャンバの毛細管力よりも低い形状を呈し、
前記第一ウェル内及び前記チャンバ内に培養液を充填する工程(a)と、
所定の吸引力で前記第一ウェル内の前記培養液を吸引することで、前記チャンバ内の前記培養液を前記第一ウェル内に流出させることなく前記第一ウェルの底面を露出させる工程(b)とを有することを特徴とする、細胞培養チップの使用方法。
【請求項2】
前記工程(b)は、前記第一ウェル内に貯留された前記培養液を完全に吸引するまで実行されることを特徴とする、請求項1に記載の細胞培養チップの使用方法。
【請求項3】
前記工程(b)の後、新たな培養液を前記第一ウェル内に充填する工程(c)を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の細胞培養チップの使用方法。
【請求項4】
前記第一ウェルは、前記基体部の前記主面よりも前記底部に近い位置において、前記底部に近づくに連れて開口径が増加することなく連続的に減少する縮径領域を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養チップの使用方法。
【請求項5】
前記第一ウェルは、前記基体部からなる内壁を有してなり、
前記内壁は、前記第一ウェルの前記縮径領域において曲面又は前記主面とは非平行な平面を含むことを特徴とする、請求項4に記載の細胞培養チップの使用方法。
【請求項6】
前記第一方向に関して前記第一ウェルに連続して形成され、前記第一ウェルの前記縮径領域と前記チャンバとを前記第一方向に連絡する、連絡用ウェルを有し、
前記連絡用ウェルは、前記底部を底面とし、開口径が前記第一ウェルの前記縮径領域よりも狭いことを特徴とする、請求項4又は5に記載の細胞培養チップの使用方法。
【請求項7】
前記第一ウェルの底面が前記底部からなることを特徴とする、請求項4又は5に記載の細胞培養チップの使用方法。
【請求項8】
前記第二ウェルは、前記第二ウェルの毛細管力が前記チャンバの毛細管力よりも低い形状を呈することを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の細胞培養チップの使用方法。
【請求項9】
前記第二ウェルは、前記基体部の前記主面よりも前記底部に近い位置において、前記底部に近づくに連れて開口径が増加することなく連続的に減少する縮径領域を有することを特徴とする、請求項8に記載の細胞培養チップの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養チップの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は、生体・組織内において、(i)成長因子、ビタミン、ガス分子などの可溶性因子、(ii)細胞外マトリックスタンパク、硬さ、圧力などの不可溶性因子、(iii)細胞間相互作用、などで構成される「細胞外微小環境」中に存在する。細胞は、これらの因子が複雑且つ厳密に制御されながら、その機能が制御される。つまり、再生医療、細胞移植治療、薬剤開発などに有望視されているヒト多能性幹細胞(ヒトES/iPS細胞)などの目的細胞の機能を自在に制御するためには、この細胞外微小環境を自在に制御することが必須となる。
【0003】
従来、ヒトES/iPS細胞を含む細胞の培養や実験は、培養ディッシュやプレートを用いた2次元環境下で行われていた。しかし、本来、細胞は3次元環境下に置かれており、2次元環境下では本来の機能を発現することができないと考えられる。ヒトES/iPS細胞を用いた組織工学においても、3次元環境を整えることは非常に重要である。
【0004】
また、細胞外微小環境の大きさも非常に重要な因子となる。細胞は、生体内において、マイクロメートル(μm)スケールの微小環境下で制御される。しかし、従来の培養方法では、このように微小空間内において因子を制御することが困難であった。更に、これらの因子を網羅的に解析することは、ほぼ不可能であった。このような事情により、従来方法では困難であった、3次元での細胞培養環境を作製する手法が望まれていた。
【0005】
このような3次元での細胞培養環境を実現する手段として、従来、下記特許文献1に開示された、マイクロ流路チップが提案されている。
【0006】
図13は、下記特許文献1に開示されたマイクロ流路チップの構造を模式的に示す斜視図である。マイクロ流路チップ100は、基材101と樹脂フィルム102とを含み、基材101の主面側には、2箇所に開口部が形成され、これらの開口部が流入口111及び流出口112を構成している。また、これらの開口部(111,112)と連絡されるように、流路用の溝110が形成されている。溝110は、樹脂フィルム102で覆われており、管状の流路を構成している。図14は、マイクロ流路チップ100の構造を模式的に示す断面図である。
【0007】
検査時には、対象とする液体試料が流入口111から方向d111の向きに導入される。この液体試料は、流出口112に向けて溝110内を流れる。溝110の一部箇所は、検出部を兼ねている。例えば、溝110の途中には、特定のタンパク質などの、検出対象物質に反応して蛍光を発する物質が固定化されている。当該箇所(検出部)に対して蛍光顕微鏡を用いた観察が行われることで、液体試料内に特定の検出対象物質が含まれるか否かが判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-047614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マイクロ流路チップは、所定の環境下で培養空間内に細胞を培養し、この細胞の状態を観察する用途で利用される。培養に際しては、培地として液体の培養液が利用される。
【0010】
ある一定以上の時間(日数)にわたって特定の環境下で細胞を培養するに際しては、培養環境の維持、細胞に対する栄養の供給、老廃物の除去などの目的で、培地(培養液)を交換する作業が必要となる場合がある。例えば図13に示したマイクロ流路チップ100を用いて細胞を培養している場合において、培養液を交換する必要が生じた際には、流入口111又は流出口112から培養液を除去すると共に、新たに培養液を補充(追加)する作業が行われる。具体的には、内部を減圧したピペットを用いて流入口111又は流出口112からバキューム操作が行われることで、培養液が除去される。以下では、流入口111側からピペットを用いて培養液を抽出する作業を行う場合について説明するが、流出口112側から抽出する場合も同様である。
【0011】
流入口111側にピペットの先端を位置させた状態で、ピペットによる培養液の吸引作業を行う場合、吸引力が厳密に調整されていない場合には、流入口111内の培養液のみならず溝110内の培養液についても吸引されてしまう。この点につき、図15を参照して詳述する。
【0012】
図15は、図13及び図14を参照して上述した、従来のマイクロ流路チップ100から培養液を吸引する場合において、培養液の残量の変化を模式的に示す図面である。図15では、時間の経過と共に(a)、(b)、(c)、(d)の順に培養液の残量が変化(減少)している様子が模式的に示されている。また、図15では、培養液130が存在する領域に対してハッチングが施されている。
【0013】
従来のマイクロ流路チップ100から培養液を吸引する場合、ピペット120の先端を流入口111に挿入した状態で、培養液130がd120方向に吸引される。より詳細には、ピペット120の先端を流入口111の底面や底面近傍の側壁に押し当てながら、培養液130が吸引される。培養液130の吸引が進行するに連れて、培養液130の液面が徐々に低下する(図15(a)、(b)参照)。
【0014】
培養液130の吸引が更に進行すると、図15(c)に示すように、流入口111の底面が露出する状態となる。この時点において、図15(c)に示すように、流入口111のコーナ部分にはわずかに培養液130が残存した状態となる。
【0015】
図15(c)の状態から更に培養液130の吸引を進行させると、図15(d)に示すように、流入口111のコーナ部分には培養液130をそのまま残しながら、流路を構成する溝110内に存在していた培養液130が、溝110の内壁を伝って流入口111側へと導かれ(d121方向)、その後にピペット120によって吸引される。この結果、図15(d)に示すように、溝110内の培養液130の一部がピペット120によって吸引される。
【0016】
上述したように、培養液130の吸引は、例えば培養液130を交換するために行われる。すなわち、流入口111側に貯留されていた培養液130が例えば図15(d)に示すように除去された後、新たな培養液(ここでは便宜上「培養液130a」と記載する。)が流入口111側から導入される。この新たな培養液130aは、流入口111を通じて溝110内に流入する。この結果、すでに溝110内に存在していた古い培養液130は、流出口112側へと押し出される。これにより、溝110内の培養液130が新たな培養液130aに交換される。
【0017】
しかし、図15(d)に示すように、新たな培養液130aを流入させる際に、溝110内の培養液130が一部吸引されていると、溝110内において、新たな培養液130aと既存の培養液130との境界領域に気泡が残存してしまう場合がある。この気泡が存在している状態で新たな培養液130aが徐々に流入されると、培養液130aによって気泡が溝110内を押し出されるように移動する。このとき、溝110内において、より詳細には溝110の底面に付着した状態で培養されている細胞が、気泡の界面に生じる力によって剥離され、培養液(130/130a)と共に流されるおそれがある。
【0018】
また、培養液の交換作業の実行時に細胞を溝110内に留めることができた場合であっても、気泡が溝110内に残されたままの状態で培養液の交換作業が完了する場合が起こり得る。この場合、気泡が占める容積と培養チャンバ表面は培養に使用できなくなるため、本来の総細胞数と総培養液量から無秩序に減少し、正確な細胞試験ができなくなる。また、流路形状で設計した本来とする培養液の流動や拡散が阻害され、目的とする環境下で細胞を培養できなくなるおそれがある。例えば、細胞への輸送する培養液成分の濃度攪乱される、細胞にかかるシェアストレスが変化する、細胞から生じた老廃物や残渣が残留する、などのおそれがある。
【0019】
例えば、細胞からは生理活性物質(例えば、内分泌作用を示すサイトカイン、ホルモン、脂質、細胞外基質、マイクロRNA、エクソソーム、栄養素、又は薬剤など)が放出される。この生理活性物質は、溝110を覆う壁面に衝突して細胞側に戻されると、この細胞に対して作用することがある。しかし、溝110内に気泡が形成されてしまうと、この生理活性物質の流れが妨げられ、細胞の培養状態に影響が生じるおそれがある。
【0020】
以上のような事情が存在することから、培養液130を交換する際には、溝110内の培養液130を吸引しないように、吸引力を調整しながら行う必要がある。しかし、従来のマイクロ流路チップ100において、開口部(流入口111/流出口112)は一般的な筒形状(円筒形状)で構成されており、培養液130の吸引力を調整することについては何ら考慮されていない。このため、培養液130の吸引作業を行うに際しては、開口部(流入口111/流出口112)内に貯留されている培養液130は除去しながらも、溝110内に存在する培養液130の吸引が開始される直前に吸引作業を中断するという、厳密な調整が必要となる。
【0021】
従って、吸引作業を行うに際しては、作業員に厳密な調整スキルが要求されるところ、再現性が乏しいという問題がある。また、かかる事情の存在が、吸引作業を自動化することへの障害ともなる。
【0022】
本発明は、上記の課題に鑑み、簡易な作業手順によって流路内の液体を残存させながらも開口部内に貯留された液体を吸引することを可能にする、細胞培養チップの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る細胞培養チップは、
底部と、
前記底部の上面に形成された基体部と、
前記基体部の前記底部とは反対側の面である主面の一部から前記底部に向かう第一方向に前記基体部を開口されてなる、第一ウェルと、
前記第一ウェルに対して前記主面に平行な第二方向に離間した位置において、前記第一方向に前記基体部を開口されてなる第二ウェルと、
前記底部と前記基体部とで挟まれた領域によって、前記第一ウェルと前記第二ウェルとを前記第二方向に連絡する管状のチャンバとを有し、
前記第一ウェルは、前記第一ウェルの毛細管力が前記チャンバの毛細管力よりも低い形状を呈することを特徴とする。
【0024】
本発明は、前記細胞培養チップの使用方法であって、前記第一ウェル内及び前記チャンバ内に培養液を充填する工程(a)と、所定の吸引力で前記第一ウェル内の前記培養液を吸引することで、前記チャンバ内の前記培養液を前記第一ウェル内に流出させることなく前記第一ウェルの底面を露出させる工程(b)とを有することを特徴とする。
【0025】
本明細書において、「ウェルの毛細管力」という用語は、ウェルの内側面(内側壁)とウェルの底面(内底壁)とが交差するコーナ部分に生じる毛細管力を指す。
【0026】
図15を参照して上述したように、従来のマイクロ流路チップ100に培養液130を充填させた状態でピペット120による吸引動作を継続すると、開口部(流入口111)内に一部の培養液130が残存しているにもかかわらず、流路(溝110)内に貯留されている培養液130の吸引が開始されてしまう。これは、図15(c)に示すように、流入口111のコーナ部に形成された培養液130の液溜まり部分の毛細管力が、溝110の毛細管力よりも高いためであると考えられる。
【0027】
溝110の内壁、及び開口部(流入口111)の底面は、いずれも親水性が高く、その表面は薄く濡れた状態となっている。このため、図15(c)の状態から吸引動作を継続すると、毛細管力が流入口111のコーナ部よりも低い、溝110内に貯留された培養液130が、毛細管力の高い流入口111のコーナ部側に向かって、溝110の内壁及び流入口111の底面を伝って移動する。この結果、図15(d)に示すように、流入口111のコーナ部に貯留された培養液130はほとんど吸引されず、溝110内の培養液130の吸引が継続されてしまうものと考えられる。
【0028】
これに対し、本発明に係る細胞培養チップによれば、第一ウェルが、当該第一ウェルの毛細管力がチャンバの毛細管力よりも低くなる形状を呈している。この結果、第一ウェル側から吸引を開始すると、第一ウェル内に貯留されている液体(培養液)の吸引が実質的に完了するまで、チャンバ内に貯留されている液体の吸引が開始されることはない。従って、作業員は、単に、第一ウェル内に貯留されている液体が吸引できる程度の吸引力で液体の吸引を行うと共に、当該第一ウェルの吸引が完了した時点で吸引作業を停止すればよく、吸引作業に際して、吸引力や吸引時間を厳密に調整する必要がなくなる。
【0029】
これにより、従来のチップに対して培養液を交換する作業に比べて、作業員の作業は簡素化され、専門的なスキルが不要となるため、作業性が向上する。また、第一ウェル内に貯留されている液体を吸引できる程度の吸引力で吸引するだけでよく、厳密な調整が不要となるため、吸引作業の自動化が可能となる。
【0030】
前記工程(b)は、前記第一ウェル内に貯留された前記培養液を完全に吸引するまで実行されるものとしても構わない。
【0031】
前記使用方法は、前記工程(b)の後、新たな培養液を前記第一ウェル内に充填する工程(c)を有するものとしても構わない。
【0032】
前記細胞培養チップにおいて、前記底部と前記基体部とは、同一材料によって一体成型されることで構成されていても構わないし、異なる材料によって構成されていても構わない。
【0033】
前記チャンバは、培養空間を構成するチャンバ(培養チャンバ)とすることができる。また、前記チャンバは、前記培養チャンバと、前記培養チャンバと前記第一ウェルとを第二方向に連絡する連絡用の流路とを含んで構成されても構わない。後者の場合、前記第一ウェルの毛細管力が、前記チャンバを構成する前記連絡用の流路の毛細管力よりも低い構成とすることができる。
【0034】
前記細胞培養チップにおいて、前記第一ウェルは、前記基体部の前記主面よりも前記底部に近い位置において、前記底部に近づくに連れて開口径が増加することなく連続的に減少する縮径領域を有するものとしても構わない。
【0035】
上記の構成によれば、第一ウェルは、チャンバに近い位置の開口径が、チャンバに対して遠い位置の開口径よりも小さい形状を示す。かかる形状によれば、第一ウェルの底面の位置における毛細管力を小さくすることができる。
【0036】
前記第一ウェルは、前記基体部からなる内壁を有してなり、
前記内壁は、前記第一ウェルの前記縮径領域において曲面又は前記主面とは非平行な平面を含むものとしても構わない。
【0037】
かかる構成によれば、第一ウェルは、底面の近傍において、コーナ部分に傾斜面が形成され、この傾斜面と第一ウェルの底面との間のコーナ部分のコーナ角が鈍角となる。これにより、第一ウェルのコーナ部分の毛細管力が低下する。
【0038】
前記細胞培養チップは、前記第一方向に関して前記第一ウェルに連続して形成され、前記第一ウェルの前記縮径領域と前記チャンバとを前記第一方向に連絡する、連絡用ウェルを有し、
前記連絡用ウェルは、前記底部を底面とし、開口径が前記第一ウェルの前記縮径領域よりも狭いものとしても構わない。
【0039】
上述したように、前記第一ウェルは、前記縮径領域を有することで、前記底部に近い位置において、前記底部に近づくほど開口径が小さくなる形状を呈している。このため、開口径が最も小さい位置においては、基体部の肉厚が小さくなり、成型時に困難さを伴う可能性がある。
【0040】
これに対し、上記の構成のように連絡用ウェルを設けたことで、連絡用ウェルの周囲に位置する基体部の肉厚が確保されるため、成型が容易化される。また、この連絡用ウェルは、第一ウェルの縮径領域よりも開口径を小さくしているため、液体の吸引時において第一ウェル内に貯留されている液体のみを吸引することに対する妨げとはならない。すなわち、連絡用ウェル内に一部の液体を残存させている状態であったとしても、第一ウェル内に貯留されていた液体を実質的に完全に吸引することができる。言い換えれば、連絡用ウェルを設けた構成であっても、チャンバ内に貯留している液体を吸引することなく、第一ウェル内に貯留されていた液体を実質的に完全に吸引することが可能となる。
【0041】
前記細胞培養チップにおいて、前記第一ウェルの底面が前記底部からなるものとしても構わない。
【0042】
また、前記細胞培養チップにおいて、前記第二ウェルは、前記第二ウェルの毛細管力が前記チャンバの毛細管力よりも低い形状を呈するものとしても構わない。この場合、第一ウェルと第二ウェルのいずれのウェルからでも、チャンバ内に液体を貯留させたままで液体の吸引を行うことができる。
【0043】
前記第二ウェルは、前記基体部の前記主面よりも前記底部に近い位置において、前記底部に近づくに連れて開口径が増加することなく連続的に減少する縮径領域を有するものとしても構わない。
【0044】
また、本発明に係る細胞培養チップは、
底部と、
前記底部の上面に形成された基体部と、
前記基体部の前記底部とは反対側の面である主面の一部から前記底部に向かう第一方向に前記基体部を開口されてなる、第一ウェルと、
前記第一ウェルに対して前記主面に平行な第二方向に離間した位置において、前記第一方向に前記基体部を開口されてなる第二ウェルと、
前記底部と前記基体部とで挟まれた領域によって、前記第一ウェルと前記第二ウェルとを前記第二方向に連絡する管状のチャンバとを有し、
前記第一ウェルは、前記基体部の前記主面よりも前記底部に近い位置において、開口径が増加することなく連続的に減少する縮径領域を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0045】
本発明の細胞培養チップによれば、簡易な作業手順によって流路内の液体を残存させながらも開口部内に貯留された液体を吸引することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】細胞培養チップの一実施形態の構造を模式的に示す平面図である。
図2】細胞培養チップの一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
図3図2の一部拡大図である。
図4】細胞培養チップ内に培養液が充填された状態を模式的に示す図面である。
図5A】細胞培養チップ内に充填されていた培養液を吸引している状態を模式的に示す図面である。
図5B】細胞培養チップ内に充填されていた培養液を吸引している状態を模式的に示した図面であり、図5Aから吸引が進行した状態に対応する。
図5C】細胞培養チップ内に充填されていた培養液を吸引している状態を模式的に示した図面であり、図5Bから吸引が進行した状態に対応する。
図6】従来のマイクロ流路チップに充填されていた培養液を吸引している状態を模式的に示す図面である。
図7】細胞培養チップの別の実施形態の一部構造を模式的に示す断面図である。
図8】細胞培養チップの別の実施形態の構造を模式的に示す平面図である。
図9】細胞培養チップの別の実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
図10】細胞培養チップの別の実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
図11】細胞培養チップの別の実施形態の構造を模式的に示す平面図である。
図12A】細胞培養チップの別の実施形態の構造を模式的に示す平面図である。
図12B】細胞培養チップの別の実施形態の構造を模式的に示す平面図である。
図12C】細胞培養チップの別の実施形態の構造を模式的に示す平面図である。
図12D】細胞培養チップの別の実施形態の構造を模式的に示す平面図である。
図13】従来のマイクロ流路チップの構造を模式的に示す斜視図である。
図14】従来のマイクロ流路チップの構造を模式的に示す断面図である。
図15】従来のマイクロ流路チップから培養液を吸引する場合において、培養液の残量の変化を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明に係る細胞培養チップの実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面はあくまで模式的に図示されたものである。すなわち、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しておらず、また、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0048】
図1は、細胞培養チップの一実施形態の構造を模式的に示す平面図である。図2は、図1に示す細胞培養チップ1を、図1内のA1-A1線で切断したときの模式的な断面図である。なお、以下において、図1は、細胞培養チップ1をY方向から見たときのXZ平面図に対応し、図2は、細胞培養チップ1をXY平面で切断したものをZ方向から見たときのXY平面図に対応するものとして説明する。
【0049】
細胞培養チップ1は、底部3と基体部5とを備える。基体部5は、底部3とは反対側の面(主面5a)の一部から、底部3に向かってY方向に開口された第一ウェル10及び第二ウェル20を備える。すなわち、第一ウェル10は、基体部5の主面5a側に開口面10aを有し、底部3に向かってY方向に開口されている。同様に、第二ウェル20は、基体部5の主面5a側に開口面20aを有し、底部3に向かってY方向に開口されている。すなわち、Y方向が「第一方向」に対応する。
【0050】
第一ウェル10の開口面10aと第二ウェル20の開口面20aとは、基体部5の主面5aに平行な方向に離間した位置に配置されている。ここでは、両者が相互にX方向に離間した位置に配置されているものとして説明する。この場合、X方向が「第二方向」に対応する。なお、第一ウェル10の開口面10aと、第二ウェル20の開口面20aとは、Z方向に離間していても構わないし、X方向且つZ方向に離間していても構わない。「第二方向」とは、第一ウェル10の開口面10aから第二ウェル20の開口面20aに向かう方向に対応する。
【0051】
基体部5は、底部3側の位置において管状の凹部を有しており、この凹部と底部3とで挟まれた領域によってチャンバ7が形成されている。本実施形態では、チャンバ7が細胞を培養する空間を構成する。
【0052】
本実施形態において、チャンバ7は、一方の端部が連絡用ウェル19を介して第一ウェル10に連絡されており、他方の端部が連絡用ウェル29を介して第二ウェル20に連絡されている。なお、連絡用ウェル19は、第一ウェル10とY方向に連絡されており、底部3が連絡用ウェル19の底面を構成している。同様に、連絡用ウェル29は、第二ウェル20とY方向に連絡されており、底部3が連絡用ウェル29の底面を構成している。
【0053】
本実施形態において、第一ウェル10及び第二ウェル20は、主面5aよりも底部3に近い側の位置において、底部3に近づくに連れて開口径が増加することなく減少する領域を有する。この点につき、図3を参照して説明する。図3は、図2の第一ウェル10の近傍を拡大した図面である。
【0054】
図3に示すように、第一ウェル10は、基体部5の主面5aよりも底部3に近い側の位置において、底部3に近づくに連れて、すなわち+Y方向に進むに連れて、開口径10bが増加することなく減少している。この領域を、以下では「縮径領域11」と称する。なお、本実施形態では、第一ウェル10は、縮径領域11よりも基体部5の主面5aに近い側の位置においては、開口径10bが実質的に均一である。すなわち、第一ウェル10は、縮径領域11内において内壁10cが傾斜面を構成する。
【0055】
図4は、本実施形態の細胞培養チップ1内に培養液30が充填された状態を模式的に示す図面である。図示の都合上、図4では、培養液30が存在する領域にハッチングを施し、底部3及び基体部5にはハッチングを施していない。以下の図面においても、培養液30の存在する領域を明示する場合には、同様の方法で図示される。
【0056】
細胞培養チップ1に対して培養液30を充填するに際しては、第一ウェル10側又は第二ウェル20側から培養液30が注入される。例えば第一ウェル10側から培養液30が注入されることで、この培養液30は、連絡用ウェル19、チャンバ7を介して第二ウェル20側へと流入する。細胞培養チップ1内に培養液30が所定量以上注入されることで、第一ウェル10と第二ウェル20との間に位置するチャンバ7内が培養液30で充填される。これにより、チャンバ7内で細胞の培養を行うことができる。
【0057】
図4に示すように、細胞培養チップ1に培養液30が充填された状態から、ピペット31を用いて培養液30を抜き出す場合の態様について、説明する。以下では、第一ウェル10側からピペット31を用いて培養液30を吸引することで、培養液30が抜き出される場合について説明する。
【0058】
図5A図5Cは、ピペット31を用いて培養液30を吸引している状態を模式的に示した図面である。図5A図5B図5Cの順に培養液30の吸引が進行している態様が示されている。
【0059】
ピペット31の先端を第一ウェル10内に挿入し、吸引動作を開始すると、培養液30の液面が徐々に低下し始め(図5A参照)、やがて縮径領域11内にまで低下する(図5B参照)。その後、更に吸引動作を継続すると、培養液30の液面が連絡用ウェル19内にまで低下する(図5C参照)。なお、第一ウェル10内に貯留されていた培養液30を完全に吸引できる吸引力以上であって、所定の吸引力以下の範囲内の吸引力のまま、吸引動作を継続すると、培養液30の液面が更に低下し、やがて底部3が露出する(図5C参照)。このとき、連絡用ウェル19内のコーナ部分に培養液30の液溜まりが形成される(符号30a)。しかし、これ以上吸引動作を継続しても、培養液30の吸引が進行しない。
【0060】
すなわち、本実施形態の構成によれば、第一ウェル10内に貯留されていた培養液30の吸引が完了した直後の時点において、チャンバ7から培養液30が第一ウェル10側に向かって流入されることがない。そして、一定の吸引力のままでピペット31からの吸引動作を継続したとしても、培養液30の吸引が進行しない。
【0061】
このような現象が生じた理由につき、本発明者は以下のように考えている。
【0062】
図6は、従来のマイクロ流路チップ100に充填されていた培養液130を吸引している状態を模式的に示す図面であり、図15(c)と実質的に同一の図面である。
【0063】
流入口111(以下、ここでは「開口部111」と記載する。)のコーナ部分の角度をφ、前記コーナ部分に貯留する培養液130(130a)のメニスカスがコーナ部分に接触している箇所の両端間の距離をD1とすると、培養液130aのメニスカスに生じる毛細管力P1は、以下の(1)式によって表される。なお、下記(1)式内において、γは表面張力、θは培養液130(130a)の接触角を示す。
P1≒2・γcos(θ+φ/2)/(D1/2) ・・・・(1)
【0064】
一方、溝110の内径をD2とすると、溝110内に貯留されている培養液130(130b)のメニスカスに生じる毛細管力P2は、同様にγ及びθを用いて、以下の式で表される。ただし、下記(2)式では、溝110が平行に向かい合う内壁面を有しており、培養液130bのメニスカスが接触している箇所の両端間の角度は0°であるため、φ成分が0であるものとして計算している。
P2≒2・γcos(θ)/(D2/2) ・・・・(2)
【0065】
例えば、培養液130の接触角θを20°とし、溝110の内径D2を400μmとすると、培養液130aのメニスカスが開口部111のコーナ部分に接触している箇所の両端間の距離D1≒180μmのときに、P1=P2を満たす。言い換えれば、前記距離D1<180μmの場合には、培養液130aのメニスカスに生じる毛細管力P1は、溝110内に貯留されている培養液130bのメニスカスに生じる毛細管力P2よりも大きく、P1>P2となる。
【0066】
このことは、図6に示す従来のマイクロ流路チップ100において、開口部111から培養液130aを取り出すべく、開口部111のコーナ部分に残存していた培養液130aを吸引しようとすると、前記培養液130aは吸引されずに、溝110内の培養液130bの方が吸引されてしまうことを意味する。この状態は、図15(d)を参照して上述した事実に合致する。
【0067】
この事実を踏まえると、図3に示す構造において、チャンバ7内の培養液30のメニスカスの毛細管力よりも、第一ウェル10のコーナ部分に貯留される培養液30のメニスカスの毛細管力を小さくすることで、第一ウェル10内の培養液30を全て吸引できる程度の吸引力で吸引しても、チャンバ7側から培養液30を流出させることが防止できることが分かる。
【0068】
ここで、図3を参照して上述したように、本実施形態の細胞培養チップ1は、第一ウェル10の底部3側において、+Y方向に進行するに連れて開口径10bが減少する縮径領域11を備えている。この縮径領域11内におけるコーナ部分のコーナ角φは、図5Bに示すように鈍角となり、図6に示す従来のマイクロ流路チップの開口部111と比べて大きい。この結果、上記(1)式内のcos(θ+φ/2)の値が低下する。従って、図5Bの状態において、縮径領域11内におけるコーナ部分に貯留される培養液30のメニスカスに生じる毛細管力P1の値は、図6に示す従来構造における、開口部111のコーナ部分に貯留される培養液130(130a)のメニスカスに生じる毛細管力P1の値よりも低下する。
【0069】
この結果、縮径領域11内におけるコーナ部分に貯留される培養液30のメニスカスに生じる毛細管力P1は、チャンバ7内の培養液30のメニスカスの毛細管力P2よりも小さい値となる。これにより、図5Bの状態からピペット31で培養液30の吸引を持続しても、第一ウェル10のコーナ部分に培養液30を貯留することなく、培養液30の吸引が継続され、図5Cに示す状態へと進行させることができる。
【0070】
ところで、本実施形態の細胞培養チップ1は、連絡用ウェル19を備えており、この連絡用ウェル19のコーナ部分のコーナ角は、例えば、従来のマイクロ流路チップ100の開口部111と同様に、ほぼ90°であるものとしてもよい。この場合、図5Bの状態から吸引動作を継続すると、連絡用ウェル19のコーナ部分に培養液30(30a)が貯留された状態となる。しかし、図5Cの状態よりも前の状態において、少なくとも第一ウェル10内の培養液30については完全に除去ができているため、この時点で吸引動作を終了し、交換用の新たな培養液を第一ウェル10側から導入することが可能である。
【0071】
培養液30の接触角θと、チャンバ7の高さを既定した場合において、第一ウェル10の縮径領域11内における内壁10cをZ方向から見たときの傾斜面の長さD(面取り部の長さ)の好ましい最小値は、以下の表1に示すとおりである。縮径領域11内における内壁10cを、表に記載された値よりも大きい傾斜面とすることで、第一ウェル10内のコーナ部分の毛細管力をチャンバ7の毛細管力よりも低下させることができる。
【0072】
【表1】
【0073】
具体的な細胞培養チップ1の寸法例は、以下の通りである。
・基体部5の高さ(Y方向に係る長さ)は、1mm以上、20mm以下であり、一例として3mmである。
・底部3の高さ(Y方向に係る長さ)は、0.1mm以上、5mm以下であり、一例として1mmである。
・チャンバ7の高さ(Y方向に係る長さ)は、200μm以上、2000μm以下であり、一例として400μmである。
【0074】
・第一ウェル10の開口面10a側における開口径10bは、0.5mm以上、40mm以下であり、一例として2mmである。
・第一ウェル10のうち、縮径領域11内の開口径10bの最小値は、0.5mm以上、40mm以下であり、一例として1.75mmである。また、この縮径領域11内における内壁10cをZ方向から見たときの傾斜面の長さは、20μm以上、2000μm以下であり、一例として180μmである。
・連絡用ウェル19の開口径は、0.2mm以上、39mm以下であり、一例として1.75mmである。また、連絡用ウェル19の高さ(Y方向に係る長さ)は、0.2mm以上、3mm以下であり、一例として0.6mmである。
【0075】
・第一ウェル10の中心軸と第二ウェル20の中心軸との離間距離は、2mm以上、40mm以下であり、一例として9mmである。
・第二ウェル20の開口面20a側における開口径は、0.5mm以上、40mm以下であり、一例として1mmである。
・第二ウェル20のうち、縮径領域内の開口径の最小値は、0.5mm以上、40mm以下であり、一例として0.75mmである。また、この縮径領域11内における内壁10cをZ方向から見たときの傾斜面の長さは、20μm以上、2000μm以下であり、一例として180μmである。
・連絡用ウェル29の開口径は、0.2mm以上、39mm以下であり、一例として0.7mmである。また、連絡用ウェル19の高さ(Y方向に係る長さ)は、0.2mm以上、2000mm以下であり、一例として0.6mmである。
【0076】
(変形例)
本実施形態の細胞培養チップ1は、種々の変形が可能である。以下、説明する。
【0077】
〈1〉上述した本実施形態の細胞培養チップ1は、第二ウェル20側においても、第一ウェル10の縮径領域11と同様の縮径領域を有する構造であった。これにより、第二ウェル20側からピペット31によって培養液30を吸引した場合であっても、同様の理由により、チャンバ7内に培養液30を貯留させたままの状態で第二ウェル20内の培養液を除去することが可能である。ただし、本発明は、一方のウェル(第一ウェル10/第二ウェル20)側にのみ縮径領域を有する構造を排除しない。
【0078】
〈2〉図3には、細胞培養チップ1が縮径領域11内における第一ウェル10の内壁10cが平坦面である場合が図示されている。しかし、第一ウェル10のコーナ部分における毛細管力を低下させる観点からは、必ずしも当該内壁10cが平坦面である必要はなく、曲面で構成されていても構わない。図7は、縮径領域11内における第一ウェル10の内壁10cが曲面で構成されている場合における、第一ウェル10の近傍の構造を、図3にならって模式的に示した図面である。
【0079】
〈3〉図2及び図3には、第一ウェル10が、縮径領域11内において開口径10bが中心軸に対して対称性を有して減少する態様である場合について図示されている。しかし、縮径領域11内における中心軸と、縮径領域11よりも基体部5の主面5a側における中心軸が異なることで、第一ウェル10が偏心した形状を呈していても構わない。図8及び図9は、かかる構造を示す細胞培養チップ1につき、それぞれ、図1及び図2にならって図示したものである。なお、この態様において、図7のように縮径領域11内における内壁が曲面からなるものとしても構わないし、縮径領域11が第一ウェル10にのみ存在し、第二ウェル20側には縮径領域を有しないものとしても構わない。
【0080】
〈4〉図10に示すように、細胞培養チップ1は、連絡用ウェル(19/29)を備えないものとしても構わない。かかる構成においても、第一ウェル10は、縮径領域を備えているため、上述した理由により、チャンバ7側から培養液30を実質的に吸引することなく、第一ウェル10内の培養液30を除去することができる。
【0081】
ただし、図2に示したように、細胞培養チップ1が連絡用ウェル(19/29)を備えることで、当該箇所に位置する基体部5には、連絡用ウェル(19/29)の高さ相当分の厚み(肉厚)が確保される。このため、細胞培養チップ1の製造時に、安定的な成型を可能にするという観点からは、連絡用ウェル(19/29)を備えるのが好ましい。
【0082】
〈5〉図11に示すように、細胞培養チップ1が備えるチャンバ7は、実質的に細胞を培養する空間を構成する培養チャンバ7aと、この培養チャンバ7aと各ウェル(10/20)とを連絡する、培養チャンバ7aよりも開口径の狭い連絡用流路(7b/7c)とを含む構成としても構わない。この場合、第一ウェル10の毛細管力が、連絡用流路7bの毛細管力よりも小さくなるように、縮径領域11が形成されているものとすればよい。
【0083】
なお、図1及び図2に示した細胞培養チップ1の構造においては、上述したように、チャンバ7が細胞を培養する空間を構成する。すなわち、チャンバ7が培養チャンバに対応する。
【0084】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0085】
〈1〉上記実施形態において、細胞培養チップ1が備える底部3と基体部5とは別部材からなるものとして説明したが、底部3と基体部5とは同一部材が一体成型されることで構成されていても構わない。
【0086】
〈2〉図3を参照して説明した細胞培養チップ1が有する第一ウェル10は、縮径領域11よりも基体部5の主面5aに近い側の位置では開口径10bが実質的に均一であるものとした。しかし、第一ウェル10は、開口面10aから底部3側に向かう全体にわたって、開口径10bが減少する縮径領域11を有する構造であってもよい。
【0087】
〈3〉上記各実施形態の細胞培養チップ1によれば、内部に充填されていた培養液30を、チャンバ7内に培養液30を留めながら第一ウェル10側又は第二ウェル20側から抜き出すことを可能にすることについて説明した。しかし、チャンバ7内に留めながらも細胞培養チップ1から抜き出す対象となる内容物については、培養液30に限定されず、液体であればよい。
【0088】
〈4〉上記実施形態において、細胞培養チップ1から培養液30を吸引する際にピペット31を用いる場合を例示して説明したが、吸引方法はピペット31に限定されない。本発明の細胞培養チップ1は、一方のウェル(例えば第一ウェル10)側に吸引器具の先端を配置し、当該ウェル内に貯留されている培養液30を吸引するその他の一般的な方法を採用することが可能である。
【0089】
〈5〉上記実施形態では、一対のウェル(10,20)がチャンバ7によって連絡されてなる細胞培養チップ1について説明した。しかし、本発明の細胞培養チップ1において、ウェルの数やチャンバの数は限定されない。
【0090】
図12A図12Dは、別実施形態の細胞培養チップ1を、図1にならって模式的に図示した平面図である。
【0091】
図12Aに示す細胞培養チップ1は、3つのウェル(10,20,41)が直列的に形成されており、それぞれのウェル間を連絡するように、チャンバ(7,7)が形成されている。図12Bに示す細胞培養チップ1は、3つのウェル(10,20,41)が形成されている。ただし、図12Aに示す細胞培養チップ1とは異なり、ウェル10とウェル20とを連絡するチャンバ7と、ウェル10とウェル41とを連絡するチャンバ7とが相互に連絡されている。
【0092】
図12Cに示す細胞培養チップ1は、4つのウェル(10,20,41,42)を備えており、ウェル10とウェル20とを連絡するチャンバ7、ウェル10とウェル41とを連絡するチャンバ7、ウェル10とウェル42とを連絡するチャンバ7が、それぞれ独立して形成されている。
【0093】
図12Dに示す細胞培養チップ1は、6つのウェル(10,20,41,42,43,44)を備えており、隣接するウェル同士を連絡するようにチャンバ7が形成されている。ただし、各チャンバ7によって、全てのウェル(10,20,41,42,43,44)が直列的に環状に連絡されている。
【0094】
図12A図12Dの各図に示される細胞培養チップ1においても、ウェル(10,20,41,42,43,44)の毛細管力が、チャンバ7の毛細管力よりも低い形状を呈している。より具体的な構造の例については、上述した実施形態と共通であるため、説明を割愛する。
【0095】
〈6〉上記図2を参照して説明した細胞培養チップ1において、連絡用ウェル(19,29)は、各ウェル(10,20)とチャンバ7との間をY方向に連絡するものとして説明した。しかし、連絡用ウェル(19,29)は、各ウェル(10,20)とチャンバ7とを基体部5の主面5aに平行な方向(例えばX方向)にも連絡するように形成されていても構わない。すなわち、チャンバ7の端部がウェル(10,20)の直下には配置されておらず、連絡用ウェル(19,29)がX方向にも延在することで、ウェル(10,20)とチャンバ7とを連絡するように形成されていても構わない。
【符号の説明】
【0096】
1 : 細胞培養チップ
3 : 底部
5 : 基体部
5a : 基体部の主面
7 : チャンバ
7a : 培養チャンバ
7b,7c : 連絡用流路
10 : 第一ウェル
10a : 第一ウェルの開口面
10b : 第一ウェルの開口径
10c : 第一ウェルの内壁
11 : 縮径領域
19 : 連絡用ウェル
20 : 第二ウェル
20a : 第二ウェルの開口面
29 : 連絡用ウェル
30,30a : 培養液
31 : ピペット
41,42,43,44 : ウェル
100 : 従来のマイクロ流路チップ
101 : 基材
102 : 樹脂フィルム
110 : 溝
111 : 流入口
112 : 流出口
120 : ピペット
130,130a : 培養液
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13
図14
図15