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  • 特開-トリチウム水含有汚染水の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014909
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】トリチウム水含有汚染水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/06 20060101AFI20240125BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20240125BHJP
   G21F 9/08 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
G21F9/06 591
G21F9/12
G21F9/08 511B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023190547
(22)【出願日】2023-11-08
(62)【分割の表示】P 2018119033の分割
【原出願日】2018-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2017158894
(32)【優先日】2017-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592048970
【氏名又は名称】日鉄セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】大石 徹
(57)【要約】
【課題】トリチウムを含む大量の汚染水を、実用的なレベルでの減容量化を可能とした処理方法を提供する。
【解決手段】トリチウム水含有汚染水を、ポリアクリル酸系の吸水性ポリマーに吸水させて含水吸水性ポリマーとすること、含水吸水性ポリマー中にグルコースを存在させること、含水吸水性ポリマーの水分を10~60℃で吸水量の90~99%以上を蒸発させると共に、水分中のトリチウム濃度を減少させて半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーとすること、及びこの濃縮含水吸水性ポリマーを容器に一定期間保管して無害化することからなるトリチウム水含有汚染水の処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリチウム水含有汚染水をポリアクリル酸塩系の吸水性ポリマーに、吸水量が吸水性ポリマーの10~1000重量倍となるように吸水させて含水吸水性ポリマーとすること、含水吸水性ポリマー中に、非電界質の水溶性の糖質を存在させること、この含水吸水性ポリマーの水分を大気に晒しながら又は流通ガスを流しながら10~60℃で吸水量の90~99%を蒸発させると共に、水分中のトリチウム濃度を減少させて半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーとすること、及び半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーを容器に保管することを特徴とするトリチウム水含有汚染水の処理方法。
【請求項2】
非電界質の水溶性の糖質が、グルコースである請求項1に記載のトリチウム水含有汚染水の処理方法。
【請求項3】
半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーを更に蒸発処理に付して、水分濃度を減少させると共に、水分中のトリチウム濃度を減少させる請求項1又は2に記載のトリチウム水含有汚染水の処理方法。
【請求項4】
トリチウム水含有汚染水に、非電界質の水溶性の糖質を溶解させた後、糖質を結晶化させて、糖質中にトリチウムを取り込むことを特徴とするトリチウム水含有汚染水の処理方法。
【請求項5】
密閉空間において、トリチウム水含有汚染水と離間させて吸水性ポリマーを配置し、水蒸気を介した交換によって、トリチウム水含有汚染水中のトリチウムを吸水性ポリマーに移動することを特徴とするトリチウム水含有汚染水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリチウムを含む大量の汚染水を、実用的なレベルでの減容量化を可能とした処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原発の汚染水処理として、多核種除去設備ではトリチウムを除く放射性物質の除去が可能になっている。汚染水中のトリチウム濃度については、法的規制値である6×10Bq/L以下まで下げることが要請されている。
ここで、トリチウム(T)はトリチウム水(HTO又はTO)として存在するが、これは軽水(HO)との分離が困難である。
【0003】
トリチウム分離技術としては、液体水素としてから低温蒸留する方法や、トリチウム水と軽水を多段で蒸留する方法がある。後者の蒸留法は軽水とトリチウム水の蒸気圧の違いにより分離する方法である。しかし、トリチウム水と軽水の蒸気圧差が小さく、理論段数が大きくなり、装置の大型化やエネルギー消費が大きいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2015/098160号
【特許文献2】特開2017-100090号公報
【特許文献3】特開2016-13535号公報
【特許文献4】特開2015-112589号公報
【0005】
特許文献1は、充填材としてシリカゲルビーズが充填された蒸留塔によって、40℃以下の低温蒸留を行うようにして、トリチウム水を濃縮することを教える。そして、低温蒸留を行うと、例えば60℃の場合に比べて40℃の場合には比揮発度が1.05から1.16に向上するとし、蒸留塔の充填材としてシリカゲルビーズを使用すると、比揮発度が更に向上するから、両者の相乗効果により理論段数を小さくでき、実用可能な装置の小型化を図ることができるとする。
【0006】
特許文献2は、トリチウム水を電解槽で電気分解し、生じた水素ガスをパラジウム合金製の分離膜により水素とトリチウムに分離する方法を教える。
特許文献3は、トリチウムを含む汚染水に、有機酸、有機酸アルカリ塩等の有機物を投入し、微細気泡を循環させて微細気泡界面を介してカルボン酸基のα位の水素をトリチウムと置換させる反応を生じさせ、これに無機金属塩を添加し、トリチウム置換生成物の水不溶性を増加させ、次いで活性炭、ゼオライトにより吸着分離する方法を開示する。
特許文献4は、トリチウム水を含む汚染水を、界面前進凍結法によって凍結水の結晶を層状に析出させながら、これを掻き取り除去し、除去した凍結水の結晶を含む汚染水を、熟成槽に供給し、凍結トリチウム水の結晶を成長させ、成長した凍結トリチウム水の結晶を含む汚染水を、固液分離装置で凍結トリチウム水の結晶と汚染水とに分離する方法を開示する。
【0007】
上記のようにトリチウム水を含む汚染水の処理技術にはいくつかの方法が提案されているが、100万Bq/Lを超えるような高濃度で、多量に存在する汚染水を処理して、6万Bq/L以下とするには設備費や運転コストが高いという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、設備が簡単で、運転コストが低く、汚染水の高度な減容化が可能な処理方法が望まれていた。本願発明は、かかる処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、トリチウム水含有汚染水を、吸水性ポリマーに吸水させて含水吸水性ポリマーとすること、含水吸水性ポリマーの水分を80℃以下の低温で吸水量の50%以上を蒸発又は留出させて水分中のトリチウム水を吸水性ポリマー中に濃縮して濃縮含水吸水性ポリマーとすること、トリチウム水が濃縮された濃縮含水吸水性ポリマーを容器に保管することを特徴とするトリチウム水含有汚染水の処理方法である。
【0010】
本発明の第二の態様は、トリチウム水含有汚染水を吸水性ポリマーに吸水させて含水吸水性ポリマー又は含水吸水性ポリマーを含む水相とすること、この含水吸水性ポリマー又は水相の水分を80℃以下の低温で吸水量の50%以上を蒸発又は留出させて半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーとすること、半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーを容器に保管することを特徴とするトリチウム水含有汚染水の処理方法である。
【0011】
上記トリチウム水含有汚染水を吸水性ポリマーに吸水させて含水吸水性ポリマーとする際に非電界質の水溶性の糖質を存在させることなどして、含水吸水性ポリマー中に上記糖質を存在させることが望ましい。また、半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーを更に蒸発処理に付して、水分濃度を減少させると共に、水分中のトリチウム濃度を減少させることが望ましい。
【0012】
上記蒸発又は留出は、雰囲気温度以上、好ましくは20~60℃で行うことができる。また、吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩系のポリマーが使用できる。そして、吸水性ポリマーの10~1000重量倍の水を吸水させて、吸水量の90~99%を蒸発又は留出させることにより、大幅な減量化が達成可能となる。
【0013】
本発明の第三の態様は、密閉空間において、トリチウム水含有汚染水に非電界質の水溶性の糖質を溶解させた後、糖質を結晶化させて、糖質中にトリチウムを取り込むことを特徴とするトリチウム水含有汚染水の処理方法である。
【0014】
本発明の第四の態様は、密閉空間において、トリチウム水含有汚染水と離間させて吸水性ポリマーを配置し、水蒸気を介した同位体交換等によって、トリチウム水含有汚染水中のトリチウムを吸水性ポリマーに移動することを特徴とするトリチウム水含有汚染水の処理方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トリチウム水含有汚染水の容量を大幅に減量できる。
【0016】
また、本発明の第二の態様によれば、吸水性ポリマーを加えることによって、水分が濃縮され半固形状態となったとき、表面積が増大して蒸発速度を向上させることができる。また、空気中の水分との同位体交換を促進し、吸水性ポリマーに吸水されたトリチウム水中のトリチウム量の減少を促進することができる。更に、これに非電解質の糖分を加えることによって、濃縮されるにつれて結晶化が生じて吸水性ポリマーの表面積をより増大させて上記効果を更に向上させることができる。
【0017】
本発明の第三の態様によれば、糖質を結晶化させることにより、糖質中又は結晶水中に効率良くトリチウムを取り込むことができる。
本発明の第四の態様によれば、密閉空間において、トリチウム水含有汚染水と吸水性ポリマーを離間配置することで、トリチウム水を吸水性ポリマーに移動させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例4におけるトリチウム量の経時変化を示すグラフである。
図2】実施例4における乾燥速度の経時変化を示すグラフである。
図3】実施例5におけるトリチウム量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を説明する。
本発明は、トリチウム水含有汚染水を吸水性ポリマーに吸水させて含水吸水性ポリマーとすること、含水吸水性ポリマーの水分を80℃以下の低温で吸水量の50%以上を蒸発又は留出させて濃縮含水吸水性ポリマーとすること、及び濃縮含水吸水性ポリマーを容器に保管することを要件として有する。
【0020】
トリチウム水含有汚染水は、規制値以上のトリチウム水を含むものが適するが、あまりに高濃度であると、排出されるガス又は留出水の濃度を安全な程度に下げることが困難となるので、規制値の100倍程度以下にあることが好ましい。したがって、あまりに高濃度である場合は、淡水等で希釈することがよい。また、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等のイオンは、吸水性ポリマーの吸水性能を妨害し、低下させるので、これらの妨害イオンを事前に除去することがよい。ここで、トリチウム水の濃度は、Bq/Lで管理することが望ましく、規制値は排水の場合は6万Bq/L以下であり、排ガスの場合は5Bq/L以下である。
【0021】
吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸塩系のポリマーが適するが、これには限定されない。しかし、吸水性ポリマーが吸水しうる最大吸水率(吸水量g/吸水性ポリマーg)が高いものが好ましく、20~1000程度のものが適する。
【0022】
トリチウム水含有汚染水を吸水させて含水吸水性ポリマーとする方法には制限はないが、含浸法が適する。含水量は吸水性ポリマーの吸水率によって異なるが、最大吸水率の100%以下とすることがよく、50~99%の範囲が好ましい。別の観点からは、吸水性ポリマーの10~1000重量倍、好ましくは20~500重量倍の水を吸水させることが望ましい。
【0023】
トリチウム水含有汚染水を、非電界質の水溶性の糖質の存在下で、吸水性ポリマーに吸水させるなどして、含水吸水性ポリマー中に糖質を含有させることが、蒸発を促進するために望ましい。
糖質としては、非電界質で、水溶性であり、結晶性を示すものが好ましい。すなわち、一定の濃度となったとき、含水吸水性ポリマーに吸水された汚染水から析出して結晶として析出するものが好ましい。このような性質を有する糖分であれば、任意の糖質を使用することができるが、ぶどう糖(グルコース)、果糖、アラビノースのような単糖類、砂糖(ショ糖)、乳糖、でんぷん、キシリトールのような二糖類又は多糖類等が挙げられるが、入手の容易性の点から好ましくは単糖類や二糖類の糖類である。
糖質の使用量は、吸水性ポリマーの種類や糖質の溶解度等によっても異なるが、吸水性ポリマー1重量部に対し、密度1.18g/mlの糖質溶液として、10~1000重量部の範囲が適する。いずれにしても、含水吸水性ポリマーを濃縮する前は少なくとも一部を溶解していて、濃縮が進行するにつれて析出する必要があるので、これから適当な使用量が計算できる。
【0024】
トリチウム水含有汚染水を吸水した含水吸水性ポリマーは、次に蒸発又は蒸留処理により、吸水量の50%以上を蒸発又は留出させる。この処理は、含水吸水性ポリマーの水分の一部を除去して乾燥する処理であるので、乾燥処理という。ここで、乾燥処理は、80℃以下、好ましくは60℃以下で行う。下限の温度は水が液体を保持する0℃以上とすることがよいが、雰囲気温度以上で行えば、冷却操作が不要となる。また、雰囲気温度付近で行えば、加熱を最小限とすることも可能である。このような観点から、好ましくは、10~60℃、より好ましくは15~40℃で行う。この温度を80℃以下の低温とすることにより、蒸気圧比P(H2O)/P(HTO)を高くすることが可能となる。例えば、100℃でのP(H2O)/P(HTO)は、760/739であるが、80℃では355/341となり、20℃では24/22となる。なお、吸水性ポリマーは低温となると、そして乾燥が進むと、周囲の水分を吸水する特性があるので、吸水性ポリマーの種類や雰囲気の湿度にもよるが、乾燥処理の後半では温度を30℃以上とすることがよい。
【0025】
吸水性ポリマー自体が水素を多量に含む化合物であるため、汚染水中のトリチウムと吸水性ポリマーの水素が置換する反応が生じることが考えられる。
【0026】
乾燥処理は、含水吸水性ポリマー中の水分を蒸発させる場合と、留出させる場合がある。蒸発させる場合は、蒸発した水分を排ガスとして排出することがよく、留出させる場合は排水として排出することがよい。
【0027】
蒸発により乾燥処理を行う場合は、低温で大気に晒しながらゆっくり蒸発させる方法があるが、大量に処理する場合は、空気のような流通ガスを流しながら蒸発させることがよい。このようにガスを流しながら蒸発させると、排ガス中の水分が十分に希釈され、上記規制値を満足させることが容易となる。別の観点からは、上記規制値を満足させるような温度と流通ガス量とすることがよい。流通ガスを流しながら行う場合は、含水吸水性ポリマーを穴あきの容器や袋に入れて行うことがよい。
また、乾燥が進むと含水吸水性ポリマー中の水分のトリチウム水濃度が高まるので、温度を徐々に低くするか、流通ガス量を多くして排ガス中のトリチウム水濃度を一定値以下に保つことが望ましい。そして、乾燥温度を雰囲気温度より高くする場合は、原発設備の運転又は事故処理で発生する比較的低温の廃熱を有効利用することが可能である。また、流通ガスの湿度を上げることは乾燥を促進するために有効であり、この場合も原発設備の廃熱又は排ガスが使用可能である。乾燥処理時間は、含水吸水性ポリマーの表面積にもよるが1日以上であることがよく、5~15日程度が好ましい。
また、太陽光を利用する自然乾燥法であれば、加熱手段や冷却手段を大幅に簡素化できる利点がある。この場合は、太陽光を取り入れる窓がある屋内や屋外において、上部が開放された容器や袋に含水吸水性ポリマーを入れて、日光が当たるようにして、又は温室効果により温度を上げた屋内として、保存するだけで乾燥を行わせることができる。この乾燥法は、処理時間が長くなり、所定の湿度管理や排ガス管理が必要ではあるが、強制的に乾燥させる場合に比べて、乾燥処理コストが大幅に低減できる。必要であれば、屋内の換気に加熱された空気等を使用することもできる。
【0028】
留出により乾燥処理を行う場合は、蒸留装置のような装置を使用してもよく、上記蒸発に使用するような装置を使用してもよい。いずれにしても、発生又は排出されるガスの少なくとも一部は、冷却されて留出し、排水となる。この排水が規制値を満足しない場合は、再度本発明の処理に付すことができる。
乾燥処理は、トリチウム水含有汚染水を吸水させた初期の含水吸水性ポリマーに含まれる水分の80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95~99%が除去されるまで行うことがよい。これ以上を除去しようとすると、排ガス中又は排水中のトリチウム水濃度が高いものとなる。一方、水分除去率が低いと残る含水吸水性ポリマーの体積が増えて保管量が増えることになる。吸水性ポリマーの1~2重量倍程度の水分は残すことが望ましい。
【0029】
乾燥処理がなされ、トリチウム水を吸水性ポリマー中に濃縮して含む濃縮含水吸水性ポリマーは、規制値を大きく超えるので、これは容器に入れて規制値以下となるまで保管することがよい。本発明では、乾燥処理によりその体積を大幅に減少させている上、全体として固体状のゲルであるので、保管が容易である。半減期から計算される十分な保管期間を経た後は、これを燃焼させて処理すれば、最終的な廃棄物量も大幅に減少する。また、乾燥処理が流通ガスを流して行われる場合は、高温や密閉装置を必要としないので、装置が簡素化できるだけでなく、流通ガスとして空気が使用可能であるので、運転コストに優れる。更に、排ガス中のトリチウム水濃度は温度又は流通ガス量を変化させることにより容易に制御可能なので、安全に運転ができる。
【0030】
本発明の第二の態様において、上記乾燥処理は上記と同様に行うことができるが、空気中の水蒸気との同位体交換反応を進めるためには、常温付近において行うことが有利である。乾燥処理が進行すると含水吸水性ポリマー又はこれを含む水相の流動性が徐々に減少し、含水吸水性ポリマー相からなる半固形状となるが、この場合、通常の液状の水溶液に比べて表面積を著しく増大させることができる。吸水性ポリマーの最大吸水率以下の水分量となると純粋な水相は消失し、全体として半固形状となり、更に水分量を減少させると流動性が低下し、吸水性ポリマーの1重量倍程度以下の水分量となるとほぼ固形状となるので、吸水性ポリマー最大吸水率の10~90%程度の半固体状となるように乾燥処理することがよい。
【0031】
半固体状になった後においても、乾燥処理することが有利である。この場合、吸水性ポリマーが存在するため、表面積が増大し、常温付近においても蒸発が促進され、空気中の水分との同位体交換反応が増加し、最終的に得られる半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーに含まれる汚染水中のトリチウム濃度を減少させることができる。
そして、吸水性ポリマー又はこれを含む水相中に糖質が存在する場合は、乾燥が進むとこれが結晶として析出して、表面積を更に増大させて乾燥と同位体交換反応が増加する。
【0032】
本発明の第三の態様においては、トリチウム水含有汚染水に、非電界質の水溶性の糖質を溶解させた後、糖質を結晶化させて、糖質中にトリチウムを取り込み濃縮すると同時に、トリチウム水含有汚染水中のトリチウム水濃度を低下させる。これは、糖質とトリチウム水が接触して糖質の水素との同位体交換と、結晶化した糖質の結晶水として含まれる水分としてのトリチウム水の取り込みが生じることによるものと推測される。なお、水溶性の糖質としては、グルコース以外にアラビノース、水溶性デンプン等に同様な取り込みが認められるが、セルロース等の水に不溶の糖類はトリチウムの取り込みがほとんど認められない。
【0033】
本発明の第四の態様においては、密閉空間において、トリチウム水含有汚染水と離間させて吸水性ポリマーを配置し、水蒸気を介した交換によって、トリチウム水含有汚染水中のトリチウムを吸水性ポリマーに移動させる。これは、密閉空間において蒸発した水蒸気が気相で同位体交換すること、トリチウム水が吸水性ポリマーに比較的よく吸水されることなどによるものと推測される。
【0034】
以下に具体的な運転例を説明する。
例1
吸水性ポリマーとしてアクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物からなる高吸水性樹脂TAISAP-SK273(台湾塑膠工業有限公司社製)を使用し、この10gを目開き60メッシュのス
テンレス網製円筒状の1000mL容器に入れ、トリチウム60000Bq/Lを含有する汚染水1000gを吸水させて試料S1とする。
この試料をステンレス網製容器ごとガラス製の容器内に設置し、30℃の空気を10日間流して水分重量が1/10となるまで乾燥させる。
この時の乾燥後の試料中に含まれる水分中のトリチウムは、蒸気圧比P(H2O)/P(HTO)からのシミュレーション結果から最低でも76400 Bq/L以上となるが、吸水性ポリマーによるトリチウム含有水のゲル化効果により更に大きな値が期待できる。よって、トリチウム含有汚染水を、高度に減容化できる。
他方、乾燥により排気中に含まれるトリチウム濃度はシミュレーション結果から、その最大値が0.0016Bq/cm3以下となり、トリチウムの大気中排出基準0.005Bq/cm3以下を満たしている。
【0035】
例2
例1で使用したと同様の試料S1を用い、この試料をステンレス網製容器ごとガラス製の容器内に設置し、50℃の空気を5日間流して水分重量が1/10となるまで乾燥させる。
この時の乾燥後の試料中に含まれる水分中のトリチウムは、同様にシミュレーション結果から最低でも69700 Bq/L以上となるが、吸水性ポリマーの効果により、更に大きな値が期待できる。よって、トリチウム含有汚染水を、高度に減容化できる。
他方、排気中に含まれるトリチウム濃度のシミュレーション結果から、その最大値が0.0044Bq/cm3以下となり、トリチウムの大気中排出基準を満たしている。なお、この条件下で乾燥温度が52.8℃以上となると、排気中に含まれるトリチウム濃度の最大値が大気中排出基準値の0.005Bq/cm3以上に達する可能性があるため、注意が必要である。
【0036】
例3
例1と同様の試料S1をステンレス製トレイ上に設置し、室内のドラフト内に15日間放置して水分重量が1/10となるまで乾燥させる。この時の温度、湿度は雰囲気条件(室温約25℃)とする。乾燥後の試料中に含まれる水分中のトリチウム濃度のシミュレーション結果は76500 Bq/L以上であり、トリチウム含有汚染水を、高度に減容化できる。
他方、周囲の空気中に含まれるトリチウム濃度の最大値は0.0012Bq/cm3以下であり、トリチウムの大気中排出基準を満たしている。
【0037】
実施例4
トリチウム水原液(Perkinelmer HTO 37MBq/mL)を使用して、各種の試料を作成した。
試料として、約0.6kBq/mLのトリチウムを含む純水10mL (試料S4A)と、トリチウムを約0.6kBq/mLのトリチウムを含む純水10mL に吸水ポリマー(三洋化成工業社製:サンフレッシュST-500D)0.1gを加えたもの(試料S4B)と、約0.5kBq/gのトリチウムを含むグルコース(富士フイルム和光純薬社製:特級試薬)水溶液10mL (濃度0.18g/mL)に吸水ポリマー0.1gを加えたもの(試料S4C)を用意した。
これらの試料S4A、S4B、S4Cを、同一の試料について各8本の液体シンチレーションカウンタ測定用の20mLガラスバイヤル瓶(直径2.4cm、高さ4.5cm、開口部直径1.5cm)に入れた。試料を入れたバイヤル瓶を、ドラフト中に放置して常温で自然蒸発、乾燥させた。1~4 日ごとに、そのうち1 本づつの重量を測定して、トリチウムを含まない超純水を加えて蒸発分を補った上で液体シンチレーター(Aquasol-2) 10mLを加えて、液体シンチレーションカウンタ(PerkinElmer,Tri-Carb)で各試料を5分間測定した。各試料の放射能をトリチウム既知の試料と比較して定量することにより、トリチウム量(T量:Bq)の経時変化を求めた。
【0038】
結果を表1、及び図1~2に示す。各試料S4A、S4B、S4Cの乾燥速度は、ほとんど差がない(図2)が、トリチウムの減少速度については吸水ポリマーとグルコースを加えた試料S4Cでは、劇的に増大した(図1)。
表1及び表2において、試料重量(g)は、トリチウム含有水、吸水ポリマー及びグルコースの合計量であり、バイヤル瓶中に残った試料(乾燥残留物)の重量である。表1及び表2において、トリチウム濃度(T濃度:Bq/g)は、次式で計算したものであり、トリチウム量の測定にあたり超純水を加えて蒸発分を補っていることから、初期試料重量基準に換算した値である。
トリチウム濃度(Bq/g)=トリチウム量(Bq)/試料重量(g)×初期試料重量(g)/試料重量(g)
ここで、トリチウム量(Bq)/試料重量(g)をT1(Bq/g)とし、初期試料重量(g)/試料重量(g)をkとすれば、上記式は、下記式で表される。
トリチウム濃度(Bq/g)=T1(Bq/g)×k
【0039】
【表1】
【0040】
実施例5
トリチウムを0.4kBq/g含むグルコース水溶液10mL(濃度0.18g/mL)(試料S5A)、トリチウムを0.3kBq/mL含むグルコース水溶液10mL(濃度0.09g/mL)に吸水ポリマー0.1gを加えたもの(試料S5B)、トリチウムを0.4kBq/mL含むグルコース水溶液10mL(濃度0.18g/mL)に吸水ポリマー0.1gを加えたもの(試料S5C)、トリチウムを0.3kBq/mL含むグルコース水溶液10mL(濃度0.27g/mL)に吸水ポリマー0.1gを加えたもの(試料S5D)、トリチウムを0.3kBq/mL含むグルコース水溶液10mL(濃度0.36g/mL)に吸水ポリマー0.1gを加えたもの(試料S5E)を用いた。
これらの試料を、実施例4と同様に各8本の20mLガラスバイヤル瓶に入れ、ドラフト中に放置して常温で自然蒸発、乾燥させた。1~5 日ごとに、実施例4と同様にして重量測定、及び液体シンチレーションカウンタによる測定を行った。
【0041】
結果を表2、及び図3に示す。
グルコースと吸水ポリマーを加えた試料S5B、S5C、S5D、S5Eは、いずれもトリチウム量は大きく減少している(図3)。
【0042】
【表2】
【0043】
実施例6
試料S6として、蓋付きガラス密閉容器中で、トリチウム濃度が0.6kBq/mL になるように調整したトリチウム水100mLを98℃に加熱し、グルコース103gを加えてグルコースの飽和溶液を作成した。これをドラフト内で、密閉した状態で約1ヶ月間、室温(10~20℃)で放置した。
ガラス密閉容器中で十分な量のグルコースの結晶が生成したことが確認された。その中の溶液部分 0.5mL (0.955g)および結晶部分1.45g を分取した。溶液部分はそのまま液体シンチレータ10mL を加え、また、結晶部分は5mLのトリチウムを含有しない純水に溶解させた後、液体シンチレータ10mL を加え、液体シンチレーションカウンタで測定した。
トリチウムを含むグルコース飽和溶液のトリチウム濃度(Bq/g)は、溶液部分が131Bq/g、結晶部分が249 Bq/gで、トリチウム濃度の比(結晶/溶液)は、1.90となった。グルコース結晶中のトリチウム濃度が溶液中よりも1.9 倍高いのは、グルコース結晶中の水素原子と HTO中のトリチウム原子が優先的に同位体交換を起こしたためであると考えられる。
【0044】
実施例7
トリチウムを含有しない純水 50gに吸水ポリマー0.5gを添加して固化させたものをガラス製シャーレに入れ、これを試料S7とした。
乾燥剤を除いたデシケーター容器中に、試料S7と、トリチウム濃度を1.44kBq/gに調整したトリチウム含有水50gを入れたポリ製のビーカーを静置し、デシケーター容器を密閉して放置した。
14日、21日及び42日経過後、デシケーターを開封し、試料S7の上部より一部(0.5~1.2g程度)を分取後、液体シンチレータ10mL を加え、液体シンチレーションカウンタで測定した。
結果を表3に示す。試料S7中のトリチウム濃度(T濃度:kBq/g)は、時間の経過とともに増加し、42日後には、元のトリチウム含有水中のトリチウム濃度の約28%にまで達した。
このことは、密閉空間内で吸水ポリマーを利用すれば、水蒸気を介した同位体交換によって、非接触でトリチウムが移動したことが推測される。
【0045】
【表3】
図1
図2
図3