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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014910
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】表示装置
(51)【国際特許分類】
   H04N 5/64 20060101AFI20240125BHJP
   G06T 19/00 20110101ALI20240125BHJP
   G06F 3/01 20060101ALI20240125BHJP
   G09G 5/00 20060101ALI20240125BHJP
   G02B 27/02 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
H04N5/64 511A
G06T19/00 A
G06F3/01 510
G09G5/00 510G
G09G5/00 550C
G02B27/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023190649
(22)【出願日】2023-11-08
(62)【分割の表示】P 2021528604の分割
【原出願日】2019-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康宣
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中出 眞弓
(72)【発明者】
【氏名】秋山 仁
(57)【要約】
【課題】HMDの技術に関して、高度な機能と重量低減とをバランス良く実現でき、ユーザの使い勝手を向上できる技術を提供する。
【解決手段】実施の形態のHMDは、ユーザの視野に画像を表示できるヘッドマウントディスプレイ装置であって、ユーザの頭部に装着され、画像を表示する表示面を持つ頭装着部と、頭装着部と通信し、ユーザの体幹の一部に装着される体幹装着部とを備え、頭装着部と体幹装着部との相対的な位置関係を計測し、位置関係に基づいて、頭装着部の位置および方向を含む状態および体幹装着部の位置および方向を含む状態を把握する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置であって、
画像を表示する表示部と、
前記表示部と通信を行う検出部と、を備え、
前記表示部と前記検出部との相対的な位置関係を測定し、
前記位置関係に基づく前記表示部の位置および方向を含む状態、ならびに前記検出部の位置および方向を含む状態を把握し、
前記画像を表示する際の基準となる座標系として、
世界座標系と、
前記検出部に固定される検出座標系と、
前記表示部に固定される表示座標系と、
慣性座標系と、
を有し、
前記慣性座標系は、前記表示部または前記検出部の位置の変化に追随して原点が移動し、前記画像の配置位置に関して前記表示部および前記検出部の方向の変化に対して追随しない座標系であり、
前記画像に関する情報毎に、前記基準となる座標系を選択して設定する、
表示装置。
【請求項2】
請求項1記載の表示装置において、
前記検出部は、ユーザの首または肩の付近に装着され、前記ユーザの首または肩に対し左右に配置される筐体と、前記左右の筐体を接続するように前記ユーザの首または肩に対し後ろに配置される筐体とを有する、
表示装置。
【請求項3】
請求項1記載の表示装置において、
前記検出部には、前記表示装置の位置および方向を含む状態を検出するためのセンサの少なくとも一部を有し、
前記センサで検出した情報と、前記位置関係とに基づいて、前記表示装置の位置および方向を含む状態を計算し、前記状態に応じて前記画像の表示を制御する、
表示装置。
【請求項4】
請求項1記載の表示装置において、
前記表示部と前記検出部との少なくとも一方には、前記位置関係を測定するための測距センサを有する、
表示装置。
【請求項5】
請求項4記載の表示装置において、
前記検出部に有する前記測距センサから、前記表示部の筐体に設けられている複数のマーカの位置を測定する、または、前記表示部に有する前記測距センサから、前記検出部の筐体に設けられている複数のマーカの位置を測定する、
表示装置。
【請求項6】
請求項1記載の表示装置において、
前記検出部には、前記検出部の位置および方向を含む状態を検出するための体幹センサを有し、
前記検出部は、前記位置関係を測定し、前記体幹センサで検出した情報と、前記位置関係とに基づいて、前記表示部の位置および方向を含む状態を計算し、前記検出部の位置および方向を含む状態を用いた前記画像の表示制御と、前記表示部の位置および方向を含む状態を用いた前記画像の表示制御とを行う、
表示装置。
【請求項7】
請求項1記載の表示装置において、
前記表示部には、前記表示部の位置および方向を含む状態を検出するための頭部センサを有し、
前記表示部は、前記位置関係を測定し、前記頭部センサで検出した情報と、前記位置関係とに基づいて、前記検出部の位置および方向を含む状態を計算し、前記表示部の位置および方向を含む状態を用いた前記画像の表示制御と、前記検出部の位置および方向を含む状態を用いた前記画像の表示制御とを行う、
表示装置。
【請求項8】
請求項1記載の表示装置において、
前記検出部は、メインコントローラを有し、
前記メインコントローラは、前記位置関係に基づいて前記状態を把握し、前記状態に応じた前記画像の表示制御のための表示データを前記表示部に送信する、
表示装置。
【請求項9】
請求項1記載の表示装置において、
前記検出部と前記表示部とを接続する接続線を備え、
前記接続線は、ユーザの体幹に対し左右対称に配置される2本の接続線を有する、
表示装置。
【請求項10】
請求項1記載の表示装置において、
前記検出部は、ユーザの体幹に対し左右の筐体に、メインバッテリを有し、
前記検出部と前記表示部とを接続する接続線を備え、
前記検出部から前記接続線を通じて前記表示部に給電される、
表示装置。
【請求項11】
請求項1記載の表示装置において、
前記検出部は、ユーザの体幹に対し左右の筐体に、マイクおよびスピーカを有する、
表示装置。
【請求項12】
請求項1記載の表示装置において、
前記検出部と前記表示部とを接続する接続線を備え、
前記検出部の有線通信回路と前記表示部の有線通信回路との間で前記接続線を通じて有線通信を行う、
表示装置。
【請求項13】
請求項1記載の表示装置において、
前記検出部の無線通信回路と前記表示部の無線通信回路との間で無線通信を行う、
表示装置。
【請求項14】
請求項1記載の表示装置において、
前記検出部と前記表示部とを接続する接続線を備え、
前記検出部には、無線給電のための送電回路および送電アンテナ部を有し、
前記表示部には、前記無線給電のための受電回路を有し、
前記接続線には、前記無線給電のための受電アンテナ部を有し、
前記送電アンテナ部と前記受電アンテナ部が近接配置され、前記送電アンテナ部と前記受電アンテナ部との間で前記無線給電を行う、
表示装置。
【請求項15】
請求項1記載の表示装置において、
前記検出部または前記表示部には、ユーザの視野を撮影するカメラを有する、
表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドマウントディスプレイ装置(Head Mounted Display:HMD)の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザの頭部に装着されるHMDは、透過型または非透過型の表示面に仮想物体等の画像を表示できる。従来のHMDは、表示面に画像を表示する方式としては、世界座標系に合わせた位置に表示する方式や、ユーザの頭(対応するHMD)の方向に合わせた位置に表示する方式がある。また、他の方式としては、ユーザの胴体等の体幹の方向に合わせた位置に表示する方式も提案されている。
【0003】
上記HMDに係わる先行技術例として、特開2019-28638号公報(特許文献1)が挙げられる。特許文献1には、ヘッドマウントディスプレイ等として、頭部の向きを検出する頭部センサー、体幹の向きを検出する体幹センサー等を備え、装着者の周囲の仮想空間に、体幹レイヤーと頭部レイヤーの2層からなるとともに連続的な情報表示領域を構成する仮想デスクトップを構築する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-28638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HMDは、機能の高度化等に伴って重量が大きくなる傾向がある。HMDの重量によってユーザの身体的負担が大きくなり、例えば長時間の利用はしにくくなる。ユーザの身体的負担を低減するためには、HMDの重量をなるべく低減することが要求される。
【0006】
HMDの機能の高度化の例としては、ユーザの状態に応じて表示面への画像の表示を制御する機能が挙げられる。例えば、ユーザの頭方向に合わせた画像表示と体幹方向に合わせた画像表示とを併用できる機能が挙げられる。特許文献1の例では、ユーザの体幹に装着されたセンサから計測した体幹の方向を、画像の表示基準として用いている。特許文献1の例では、頭方向と体幹方向との2つの方向を検出できるように、頭部のHMDとユーザの体幹との両方に、3軸角速度センサのようなセンサを備える。
【0007】
HMDの機能の高度化のためには、センサを含む各種のデバイスの実装が必要である。しかし、重いデバイスや多数のデバイスを実装するほど、HMDの重量が増加する。特許文献1の例では、同じ種類のセンサを二重に設ける必要があり、このような構成は、センサの有効利用の観点では改善余地がある。HMDの実装では、高度な機能の観点と重量の観点とでバランス良く設計する必要がある。
【0008】
本発明の目的は、HMDの技術に関して、高度な機能と重量低減とをバランス良く実現でき、ユーザの使い勝手を向上できる技術を提供することである。上記以外の課題等については、発明を実施するための形態において示される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち代表的な実施の形態は、以下に示す構成を有する。一実施の形態の表示装置は、画像を表示する表示部と、前記表示部と通信を行う検出部と、を備え、前記表示部と前記検出部との相対的な位置関係を測定し、前記位置関係に基づく前記表示部の位置および方向を含む状態、ならびに前記検出部の位置および方向を含む状態を把握し、前記画像を表示する際の基準となる座標系として、世界座標系と、前記検出部に固定される検出座標系と、前記表示部に固定される表示座標系と、慣性座標系と、を有し、前記慣性座標系は、前記表示部または前記検出部の位置の変化に追随して原点が移動し、前記画像の配置位置に関して前記表示部および前記検出部の方向の変化に対して追随しない座標系であり、前記画像に関する情報毎に、前記基準となる座標系を選択して設定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のうち代表的な実施の形態によれば、高度な機能と重量低減とをバランス良く実現でき、ユーザの使い勝手を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態1のヘッドマウントディスプレイ装置(HMD)を含む、表示システムの構成を示す図である。
図2】実施の形態1のHMDの構成を示す図である。
図3】実施の形態1のHMDで、制御部等の構成を示す図である。
図4】実施の形態1のHMDで、主な処理フローを示す図である。
図5】実施の形態1のHMDで、座標系および位置関係の測距等について示す図である。
図6】実施の形態1のHMDで、位置関係の計算等について示す図である。
図7】実施の形態1のHMDで、首装着部での要素の実装例を示す図である。
図8】実施の形態1のHMDで、接続線に関する構成例を示す図である。
図9】実施の形態1のHMDで、筐体の幅についての構成例を示す図である。
図10】実施の形態1のHMDで、構成要素を分離する構成例を示す図である。
図11】実施の形態1のHMDで、表示情報および座標系情報の構成例を示す図である。
図12】本発明の実施の形態2のHMDの構成を示す図である。
図13】本発明の実施の形態3のHMDの構成を示す図である。
図14】本発明の実施の形態4のHMDの構成を示す図である。
図15】本発明の実施の形態5のHMDにおける、第1表示制御例の第1状態等を示す図である。
図16】実施の形態5のHMDで、第1表示制御例の第2状態を示す図である。
図17】実施の形態5のHMDで、第1表示制御例の第3状態を示す図である。
図18】実施の形態5のHMDで、第1表示制御例の第4状態を示す図である。
図19】実施の形態5のHMDで、第2表示制御例として頭部座標系を基準としたアプリアイコンの表示例を示す図である。
図20】実施の形態5のHMDで、第2表示制御例として首部座標系を基準としたアプリアイコンの表示例を示す図である。
図21】実施の形態5のHMDで、第3表示制御例を示す図である。
図22】実施の形態5のHMDで、第4表示制御例として、アプリの表示座標系の設定例を示す図である。
図23】実施の形態5のHMDで、第4表示制御例として、アプリアイコンの表示座標系の設定例を示す図である。
図24】実施の形態5のHMDで、第4表示制御例として、作業用ツールの表示座標系の設定例を示す図である。
図25】実施の形態5のHMDで、第5表示制御例として、慣性座標系の概念を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
(実施の形態1)
図1図11を用いて、本発明の実施の形態1のヘッドマウントディスプレイ装置(HMD)について説明する。
【0014】
実施の形態1のHMDは、分離型の構成を有し、大別して頭装着部と首装着部との2つの部分で構成される。HMD機能の構成要素は、それらの2つの部分に分かれて実装される。例えば、頭装着部には、表示デバイスが実装され、首装着部には、主要なセンサ群、コントローラ、およびバッテリ等が実装される。このような分離型の構成によって、頭装着部に実装されるデバイスを低減でき、高度な機能のために必要なセンサ群のうち少なくとも一部のセンサの頭装着部への実装を省略することができる。これにより、このHMDは、ユーザの頭部に装着される頭装着部の重量を、従来のHMDに比べて低減できる。よって、このHMDは、ユーザの装着感が良くなり、長時間の利用もしやすくなる。
【0015】
また、このHMDは、ユーザの動きに応じて、首装着部の位置および方向(対応する姿勢)と、頭装着部の位置および方向(対応する姿勢)とが、独立的に変化し得る。そのため、このHMDは、首装着部と頭装着部との相対的な位置関係を測定するための手段を備える。その手段の例として、このHMDは、首装着部に測距センサを備え、首装着部から頭装着部の位置および方向を測定する。そして、このHMDは、測定した位置関係を用いて、座標系の回転等の計算に基づいて、首装着部の位置および方向等の状態と、頭装着部の位置および方向等の状態との両方を把握する。
【0016】
このHMDは、上記位置関係を用いて、頭装着部または首装着部の一方のセンサで検出した状態(対応するセンサデータ等)を、頭装着部または首装着部の他方の座標系での状態(対応するセンサデータ等)に補正、変換することができる。すなわち、このHMDは、頭装着部のセンサで検出した頭部座標系での状態を、位置関係を用いて、首装着部の首部座標系での状態に変換できる。また、このHMDは、首装着部のセンサで検出した首部座標系での状態を、位置関係を用いて、頭装着部の頭部座標系での状態に変換できる。
【0017】
実施の形態1のHMDは、このような構成によって、ユーザの頭方向(対応する頭装着部の方向)と、体幹方向(対応する首装着部の方向)との両方を検出でき、それらの2つの方向の各方向を用いた仮想物体の表示制御が可能である。このHMDは、例えば、頭部座標系での頭方向に合わせた位置への画像の表示と、首部座標系での体幹方向に合わせた位置への画像の表示とが、併用できる。このような高度な機能によって、ユーザの作業を支援できる等、利便性を高めることができる。
【0018】
実施の形態1のHMDは、特に、頭装着部ではなく首装着部に、位置姿勢センサを実装する。この位置姿勢センサは、首・肩を含む体幹を基準とした位置や方向(対応する姿勢)を検出するセンサであり、言い換えると首部座標系での状態を検出するセンサである。このセンサで検出した状態は、そのままでは、頭(対応する頭装着部および頭部座標系)を基準とした状態とは異なる。そのため、このHMDは、首装着部で検出した状態から、上記位置関係に基づいて、座標系の計算によって、頭部座標系を基準とした状態を得る。
【0019】
[表示システム]
図1は、実施の形態1のHMD1を含む、表示システムの構成を示す。HMD1は、頭装着部1Aと首装着部1Bとが接続線4で接続されている。頭装着部1Aと首装着部1Bは、ケーブルである接続線4によって、通信および給電が可能に接続されている。図1では示していないが、HMD1を装着するユーザの身体が存在する。ユーザの頭には頭装着部1Aが装着され、ユーザの首・肩の付近には首装着部1Bが装着される。HMD1は、オプションとして、リモコンである操作器2が付属してもよい。ユーザは、手に持った操作器2によるHMD1の操作が可能である。例えば首装着部1Bと操作器2が近距離無線通信を行う。HMD1は、外部の機器と通信してもよい。例えば、HMD1は、通信網を介して事業者のサーバ3Aや自宅のPC3B等と接続されてもよい。なお、説明上の方向として、座標系とは別に、X,Y,Z方向を用いる場合がある。X方向は、ユーザの身体およびHMD1に対して前後方向に対応する。Y方向は、ユーザの身体およびHMD1に対して左右方向に対応する。Z方向は、ユーザの身体およびHMD1に対して上下方向に対応する。
【0020】
頭装着部1Aは、例えば眼鏡状の筐体10を有し、筐体10には、透過型の表示面5を含む表示デバイスや、カメラ6等の構成要素が実装されている。筐体10の一部、例えば左右の側面の付近には、測距のためのマーカ部13を含み、マーカ部13には、測定点となる複数のマーカ17が形成されている。
【0021】
首装着部1Bは、例えば弧形状の筐体として、筐体11および筐体12を有する。筐体11は、ユーザの首・肩に対し左右の位置に配置される部分であり、右側筐体11Rと左側筐体11Lとを有する。筐体12は、左右の筐体11を接続し、ユーザの首・肩の後ろの位置に配置される部分である。筐体11には、測距センサ7、マイク8、スピーカ9、操作入力部14等が実装されている。
【0022】
HMD1は、従来のHMDのように初期化状態からの変位の差によってHMDの位置や方向等の状態を測定する構成ではなく、首装着部1Bの測距センサ7から直接的に頭装着部1Aの位置や方向等の位置関係を測定する構成である。これにより、このHMD1は、頭装着部1Aにおける位置姿勢センサ等の構成要素の搭載を省略し、頭装着部1Aの重量低減を図る。
【0023】
従来のHMDにおける位置や姿勢の測定用のセンサとしては、加速度センサ、角速度センサ(ジャイロセンサ)、地磁気センサ、GPS受信器、カメラ、および測距センサ等が挙げられる。なお、カメラを含め、これらのデバイスをセンサと総称する場合がある。加速度センサは、HMDの移動量を計測すると共に、静止時には重力加速度ベクトルを計測できるので、HMDの傾きを計測することができる。角速度センサは、HMDの向きの変化を計測する。地磁気センサは、地磁気の方向の検出に基づいてHMDの向きを推定する。GPS受信器は、GPS電波によって受信できる情報に基づいて、HMDの位置を緯度および経度の値として知ることができる。カメラは、外界の特徴点を撮影する。特徴点がある方向と地図情報とからHMDの位置および向きが推定できる。測距センサは、外界の特徴点までの距離を測定する。その距離と地図情報とからHMDの位置および向きが推定できる。
【0024】
実施の形態1のHMD1は、上記のようなHMDの状態を測定するためのセンサの少なくとも一部のセンサを、頭装着部1Aではなく首装着部1Bに実装する。そのため、HMD1は、首装着部1Bと頭装着部1Aとの相対的な位置関係を測定するための機能を備える。HMD1は、その位置関係を用いて、首装着部1Bのセンサで測定したデータと、頭装着部1Aのセンサで測定したデータとの間での変換を行う。
【0025】
HMD1は、首装着部1Bに実装されている測距センサ7から、頭装着部1Aの筐体10に対し、位置関係の把握のための測距を行う。特に、測距センサ7は、筐体10の複数のマーカ17の位置を、複数の特徴点として計測する。複数の特徴点は、同一直線上にない3点以上の点とすればよい。首装着部1Bは、計測した特徴点に基づいて、頭装着部1Aの頭部座標系と首装着部1Bの首部座標系との位置関係を得ることができる(後述の図5)。
【0026】
HMD1は、得た位置関係を用いて、首装着部1Bのセンサで検出した状態を、頭装着部1Aの頭部座標系を基準とした状態に補正、変換することができる。また、HMD1は、得た位置関係を用いて、頭装着部1Aのセンサで検出した状態を、首装着部1Bの首部座標系を基準とした状態に補正、変換することができる。よって、HMD1は、頭部座標系を基準とした頭の位置および方向等の状態と、首部座標系を基準とした体幹の位置および方向等の状態との両方を把握できる。HMD1は、それらの状態のデータを用いて、頭方向等に応じた仮想物体の表示制御と、体幹方向等に応じた仮想物体の表示制御との両方を行うことができる。
【0027】
[HMD]
図2は、実施の形態1のHMD1の機能ブロック構成を示す。頭装着部1Aは、プロセッサ100、メモリ120、通信インタフェース部130、電源回路141、サブバッテリ142、表示デバイス150、カメラ6、操作入力部18等を備え、それらはバス等を介して相互に接続されている。
【0028】
プロセッサ100は、頭装着部1Aを制御するサブコントローラである。メモリ120には、プロセッサ100等が扱うデータや情報が記憶される。通信インタフェース部130は、首装着部1Bとの間で接続線4を介して有線通信を行う通信回路等の部分である。電源回路141は、首装着部1Bから接続線4を通じて給電を受ける部分であり、サブバッテリ142に充電を行う。サブバッテリ142は、頭装着部1A内の各部に電力を供給する。サブバッテリ142の実装は省略してもよい。その場合、電源回路141から各部へ給電を行う。表示デバイス150は、表示データに基づいて表示面5の領域に仮想物体等の映像、画像を表示する。カメラ6は、頭装着部1Aの前方を含む周囲の画像を撮影する。操作入力部18は、例えばHMD1の操作のための操作ボタン等を含む。操作入力部18の実装は省略可能である。マーカ部13は、複数のマーカ17を含み、マーカ17の発光を制御する回路等を含んでもよい。
【0029】
首装着部1Bは、プロセッサ200、メモリ220、通信インタフェース部230、電源回路241、メインバッテリ242、操作入力部14、測距センサ7、位置姿勢センサ70、音声入力部、および音声出力部等を備え、それらはバス等を介して相互に接続されている。
【0030】
プロセッサ200は、首装着部1Bを含むHMD1全体を制御するメインコントローラである。メモリ220には、プロセッサ200等が扱うデータや情報が記憶される。通信インタフェース部230は、頭装着部1Aとの間で接続線4を介して有線通信を行う通信回路等の部分である。また、通信インタフェース部230は、外部との無線通信や、操作器2との間での近距離無線通信も行う。電源回路241は、外部電源からメインバッテリ242に充電を行い、また、接続線4を通じて首装着部1Bへ給電を行う部分である。メインバッテリ242は、首装着部1B内の各部に電力を供給する。操作入力部14は、例えばHMD1の操作のための操作ボタン等を含む。測距センサ7は、後述の併用タイプであり、マーカ17の測距と、通常の測距との両方を行う。位置姿勢センサ70は、加速度センサ71、角速度センサ72、地磁気センサ73、およびGPS受信器74を含む。音声入力部は、左右のマイク8を含む。音声出力部は、左右のスピーカ9およびイヤホンを含む。
【0031】
メモリ220には、HMD1の機能を構成するための制御プログラム、各アプリケーションを実現するアプリケーションプログラム、および設定情報等も記憶される。設定情報は、システム設定情報やユーザ設定情報を含む。制御プログラムまたはアプリケーションプログラムは、例えばユーザの視界に作業支援のためのグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)を含む仮想物体(対応する表示オブジェクト)を表示するプログラムである。
【0032】
実施の形態1では、首装着部1Bは、ユーザの体幹のうちの首・肩の付近に装着される部分としたが、これに限らず可能である。首装着部1Bは、ユーザの体幹の方向等の状態を検出できる構成であればよいので、体幹のうちのいずれかの箇所に装着される部分としての体幹装着部とすることができる。すなわち、体幹装着部は、胸、背中、腹、腰等に装着される部分としてもよい。
【0033】
実施の形態1で装着箇所として首付近が選択されている理由としては、スピーカやマイクの利用にも便利である点の他に、以下の点もある。すなわち、頭装着部と体幹装着部との距離をなるべく短くし、それらを有線で接続する場合のケーブル(対応する接続線4)の長さをなるべく短くする点がある。ケーブルが短いほど、身体にケーブルがまとわりつく感じを低減でき、ユーザの装着感、動き易さ、使い勝手をより良好にできる。変形例として、頭装着部1Aと首装着部1Bとの通信および給電に関する接続は、有線に限らず、無線としてもよい。
【0034】
[HMD-処理部]
図3は、頭装着部1Aのプロセッサ100および首装着部1Bのプロセッサ200によって実現される制御部等の機能ブロック構成を示す。
【0035】
頭装着部1Aは、プロセッサ100等によって実現される制御部内の各処理部として、データ取得部100a、データ処理部100b、通信制御部100c、および表示制御部100dを有する。頭装着部1Aは、メモリ120等によって実現される記憶部に、表示情報D11等を記憶する。表示情報D11は、首装着部1Bから受信した表示データ等である。
【0036】
首装着部1Bは、プロセッサ200等によって実現される制御部内の各処理部として、データ取得部200a、データ処理部200b、通信制御部200c、および表示制御部200dを有する。首装着部1Bは、メモリ220等によって実現される記憶部に、表示情報D21、座標系情報D22等を記憶する。表示情報D21は、表示制御のための画像や制御情報を含む表示データに相当し、頭装着部1Aへ送信するデータを含む。座標系情報D22は、後述の頭部座標系や首部座標系の各座標系と、それらの位置関係とを管理および制御するための情報に相当する。
【0037】
頭装着部1Aのデータ取得部100aは、カメラ6で撮影した画像等のデータを取得し、記憶部に記憶する。なお、頭装着部1Aに他のセンサを備える場合には、データ取得部100aは、そのセンサで検出したデータを取得し、記憶部に記憶する。データ処理部100bは、データ取得部100aが取得したデータを必要に応じて処理し、通信制御部100cに渡す。通信制御部100cは、そのデータを、通信インタフェース部130を通じて首装着部1Bに送信する制御を行う。
【0038】
首装着部1Bのデータ取得部200aは、位置姿勢センサ70の各センサで検出したデータや、測距センサ7の通常の測距で検出したデータを取得し、記憶部に記憶する。通信制御部200cは、頭装着部1Aの通信制御部100cからのデータを、通信インタフェース部230を通じて受信し、データ処理部200bに渡す。また、プロセッサ200は、測距センサ7を用いて、頭装着部1Aのマーカ17についての測距を行わせる。データ取得部200aは、その測距のデータも取得する。データ処理部200bは、データ取得部200aで取得した各データや、頭装着部1Aからの各データを、必要に応じて処理する。
【0039】
データ処理部200bは、マーカ17の測距データに基づいて、首装着部1Bに対する頭装着部1Aの相対的な位置関係を計算する。この位置関係は、首部座標系と頭部座標系との間における、原点の位置関係や回転の関係に相当する。データ処理部200bは、計算した位置関係に関するデータを、座標系情報D22に記憶する。
【0040】
データ処理部200bは、位置関係を用いて、首部座標系の位置および方向等の状態と、頭部座標系の位置および方向等の状態とを計算する。その際、データ処理部200bは、首装着部1Bの位置姿勢センサ70で検出したデータから、位置関係に基づいて、頭部座標系での状態を表すデータへの補正、変換を行う。その際、データ処理部200bは、後述の座標系の回転の計算に基づいて、その補正、変換を行う。データ処理部200bは、計算して得た状態等のデータを、座標系情報D22に記憶する。
【0041】
表示制御部200dは、データ処理部200bで得た状態等のデータを参照し、表示面5への仮想物体の表示制御を行う。表示制御部200dは、例えば、頭方向に合わせた位置に画像を表示するための表示データと、体幹方向に合わせた位置に画像を表示するための表示データとを作成し、表示情報D22に記憶する。また、表示制御部200dは、頭装着部1Aのカメラ6の画像データ等を用いた表示制御を行ってもよい。
【0042】
通信制御部200cは、表示情報D21の表示データを、通信インタフェース部230を通じて頭装着部1Aに送信する制御を行う。頭装着部1Aの通信制御部100cは、その表示データを受信し、表示情報D11に記憶する。表示制御部100dは、その表示データに従って表示デバイス150を制御し、表示面5に画像を表示させる。
【0043】
なお、実施の形態1では、表示制御部100dは表示制御部200dからの表示データに従ってそのまま表示面5への画像表示を行う構成であるため、表示制御部100dの実装は省略または簡略にできる。他の実施の形態では、表示制御部100dは、表示制御部200dによる表示制御とは独立で、頭装着部1Aでの特有の表示制御を行ってもよい。例えば、表示制御部100dは、カメラ6の画像を用いた表示制御を行ってもよい。また、頭装着部1Aに視線検出機能を備える場合、表示制御部100dは、その機能を用いて検出した視線方向に応じた画像表示制御を行ってもよい。また、頭装着部1Aにカメラ6や他のセンサを備えない構成とする場合、データ処理部100bの実装を省略または簡略にできる。主な処理を首装着部1Bのメインコントローラで行う構成とすることで、頭装着部1Aのデバイスの実装を低減できる。
【0044】
また、実施の形態1では、首装着部1Bのデータ処理部200bによって、位置関係を用いた状態の変換等の計算を行うが、他の実施の形態では、首装着部1Bから頭装着部1Aへ位置関係のデータを送信し、頭装着部1Aのデータ処理部100bによって同様の計算を行ってもよい。
【0045】
[HMD-処理フロー]
図4は、実施の形態1のHMD1における主な処理フローを示す。図4は、首装着部1BによるステップS11~S17と、頭装着部1AによるステップS21~S26とを有する。ステップS11で、首装着部1Bは、ユーザの操作に基づいて電源がON状態にされると、起動処理を行って回路動作を開始すると共に、頭装着部1Aへ通信を行う。ステップS21で、頭装着部1Aは、首装着部1Bからの通信に応じて回路動作を開始する。
【0046】
ステップS12で、首装着部1Bは、データ取得部200aによって各データを取得する。この際の取得データは、位置姿勢センサ70による検出データや、測距センサ7によるマーカ17の測距の測距データを含む。ステップS22で、頭装着部1Aは、データ取得部100aによってデータを取得する。ステップS23で、頭装着部1Aは、通信制御部100cによってデータを首装着部1Bへ送信する。ステップS13で、首装着部1Bは、通信制御部200cによってそのデータを受信する。
【0047】
ステップS14で、データ処理部200bは、取得データを用いて、頭装着部1Aとの位置関係を計算し、位置関係を用いて、位置姿勢センサ70で検出した状態に関する補正、変換を行う。これにより、データ処理部200bは、首部座標系での状態を表すデータと、頭部座標系での状態を表すデータとの両方を得て、座標系情報D22を更新する。
【0048】
ステップS15で、表示制御部200dは、座標系情報D22に基づいて、仮想物体の表示制御のための表示データを作成し、表示情報D21に記憶する。ステップS16で、通信制御部200cは、表示データを頭装着部1Aへ送信する。ステップS24で、頭装着部1Aの通信制御部100cは、その表示データを受信する。ステップS25で、表示制御部100dは、その表示データに基づいて、表示面5に画像を表示する。
【0049】
ステップS17で、首装着部1Bは、ユーザの操作に基づいて電源がOFF状態にされた場合(Yes)には、首装着部1Bの終了処理を行い、本フローが終了となる。終了処理の際には、頭装着部1Aへの通信も行われる。電源がON状態のままの場合(No)には、ステップS12に戻り、同様の繰り返しである。また、ステップS26で、頭装着部1Aは、首装着部1Bの電源がOFF状態にされた場合(Yes)には、頭装着部1Aの終了処理を行い、本フローが終了となる。電源がON状態のままの場合(No)には、ステップS22に戻り、同様の繰り返しである。
【0050】
[座標系および位置関係]
図5は、実施の形態1のHMD1における、各座標系および位置関係に係わる構成を示す。なお、図5は接続線4やユーザの身体等の図示を省略している。(A)はHMD1の状態の第1例を示し、(B)は状態の第2例を示す。(A)の状態では、ユーザの首等の体幹の方向と頭の方向とが殆ど同じであり、前向きである。対応して、首装着部1Bの方向(軸XN)と頭装着部1Aの方向(軸XH)とが殆ど同じである。頭装着部1Aにおける座標系を、頭部座標系CH{軸XH,YH,ZH}とし、原点を原点OHとする。首装着部1Bにおける座標系を、首部座標系CN{軸XN,YN,ZN}とし、原点を原点ONとする。原点ONの位置は、首装着部1Bの各部(特に測距センサ7の位置)からの相対的な位置関係に基づいて規定される。この状態では、軸XHおよびXNは前方向に対応し、軸YHおよびYNは左方向に対応し、軸ZHおよびZNは上方向に対応している。首部座標系CNは、言い換えると体幹座標系である。
【0051】
ベクトルV1は、首装着部1Bに対する頭装着部1Aの相対的な位置関係を表すベクトルであり、原点ONから原点OHへのベクトルである。なお、ベクトルV1の逆向きのベクトルを考えた場合、そのベクトルは、頭装着部1Aに対する首装着部1Bの相対的な位置関係を表すベクトルである。
【0052】
(B)の状態は、(A)の状態から、ユーザが体幹を殆ど変化させずに、頭の向きおよび位置を変化させた場合の例である。(B)の状態は、(A)の状態に対し、首装着部1Bの状態は殆ど変化していない。(B)の状態は、(A)の状態に対し、頭装着部1Aの位置が少し前に移動しており、かつ、頭装着部1Aの方向が左側に少し回転している。
【0053】
HMD1は、首装着部1Bの測距センサ7から、頭装着部1Aの複数のマーカ17を測距する。ベクトルv1は、その測距の際の、測距センサ7の位置からマーカ17の位置までのベクトルである。HMD1は、測距データに基づいて、首装着部1Bからの頭装着部1Aの相対的な位置関係を計算する。この位置関係は、原点間のベクトルV1と、頭部座標系CHと首部座標系CN座標系との間の回転とで表される。
【0054】
位置関係を計算するために測距が必要な測定点(対応するマーカ17)は、少なくとも同一直線上にはない3点である。図示の例では、左右の2つの測距センサ7を用いて左右で合計4点を測距する構成であるが、これに限らず、結果として3点の測距ができれば、位置関係の計算が可能である。マーカ17の位置は、図示の例では、筐体10の側面における前方の端の一箇所と、途中の一箇所とに有するが、これに限らず可能である。また、この構成例では、左右の2つの測距センサ7によって、それぞれ、筐体10の左右の2点ずつを測距する。これに限らず、1つの測距センサ7から筐体10の左右のマーカ17を測距してもよい。
【0055】
また、図5で、測距センサ7は、併用タイプであり、位置関係計算用の測距501と、通常の測距502との2種類の測距が可能である。測距501は、ベクトルv1を含むようなマーカ17の測距である。通常の測距502は、HMD1の前方を含む周囲の物体に対する測距である。通常の測距502は、例えば周囲の部屋の構造を把握するための測距である。これに限らず、変形例のHMDでは、位置関係計算用の測距501のための測距センサと、通常の測距502のための測距センサとが、別体で設けられてもよい。例えば、筐体11の前側の位置に通常の測距502用の測距センサが設けられ、筐体11の中間または後側の位置、または筐体12に、測距501用の測距センサが設けられてもよい。また、それらの2種類の測距センサは、頭装着部1Aと首装着部1Bに分かれて実装されてもよい。
【0056】
[測距センサ]
測距センサ7は、TOFセンサ(TOF:Time Of Flight)やステレオ方式のカメラ等が適用できる。TOFセンサは、照射した参照光が物体に当たって戻ってくる光を検出し、その光の飛行時間から距離を計算する。TOFセンサを適用する場合、参照光の波長の光を効率よく反射する反射部材を、頭装着部1Aにマーカ17として配置してもよい。参照光の波長は、例えば近赤外域の波長である。これにより、TOFセンサの反射光の強度が増して、測定誤差が低減でき、特徴点の検出も容易になる。また、近赤外域の参照光を用いる場合、屋外での外乱光の影響に強くなる効果もある。
【0057】
ステレオ方式のカメラは、撮像した左右の画像内の特徴点の差から距離を計算する。ステレオ方式のカメラを適用する場合、頭装着部1Aのマーカ17として、発光マーカを配置してもよい。マーカ部13がマーカ17の発光を制御してもよい。この発光マーカは、例えば近赤外光を発光する。これにより、ステレオ方式のカメラにおける入射光が増して、測定誤差が低減でき、特徴点の検出も容易になり、TOFカメラの場合と同様の効果が得られる。
【0058】
また、首装着部1Bの測距センサ7から頭装着部1Aのマーカ17を測距する際に、何らかの影響によって、測距が難しい場合もあるかもしれない。その場合、HMD1は、首装着部1B側の測距センサ7と、頭装着部1A側のカメラ6または他のセンサとの両方により、マーカ17以外での外界の任意の特徴点を測定し、それらの両方の測定データに基づいて位置関係を推定してもよい。変形例として、首装着部1Bと頭装着部1Aの両方に測距センサ7を備えてもよく、その場合、上下の2つの測距センサ7による測距データを利用して位置関係を推定できる。
【0059】
測距センサ7は、併用タイプとすることで、実装するデバイスの数および重量を低下できる。測距センサ7は、通常の測距用と位置関係の測距用とで別体とする場合、実装するデバイスの数および重量が増えるが、測定距離に応じた最適な測距センサを選択できる利点がある。
【0060】
[位置関係計算および表示制御]
図6は、前述の位置関係の計算等についての処理例を示す。首装着部1Bは、ステップS01で、測距センサ7によるマーカ17の測距の測距データDMを得る。首装着部1Bは、ステップS02で、測距データDMを用いて、頭装着部1Aとの位置関係を計算し、位置関係データDLを得る。首装着部1Bは、ステップS03で、位置姿勢センサ70による、首部座標系CNを基準とした位置および方向等の状態のセンサデータSN等のデータを得る。首装着部1Bは、ステップS04で、首部座標系CNのセンサデータSNから、位置関係データDLを用いて、座標系の回転に基づいた補正、変換の処理によって、頭部座標系CHを基準とした位置および方向等の状態を表すセンサデータSH等のデータを得る。
【0061】
首装着部1Bは、ステップS05で、首部座標系CNのセンサデータSNを用いた表示制御、および頭部座標系CHのセンサデータSHを用いた表示制御の処理を行う。首装着部1Bは、例えば、頭方向に合わせた仮想物体の表示のための表示データと、体幹方向に合わせた仮想物体の表示のための表示データとを作成し、頭装着部1Aへ送信する。
【0062】
頭装着部1Aは、ステップS06で、首装着部1Bからの表示データに基づいて、表示面5に各画像を表示する。すなわち、頭装着部1Aは、首部座標系CNを基準とした表示データに従って体幹方向に合わせた位置に画像を表示し、また、頭部座標系CHを基準とした表示データに従って頭方向に合わせた位置に画像を表示する。
【0063】
[首装着部]
図7は、首装着部1Bにおける構成要素の実装例を示す。首装着部1Bは、Y方向で左右の筐体11(11L,11R)のそれぞれの内部に、左右対称の配置として、制御回路701、およびバッテリ702が実装されている。筐体11には、X方向で前側にバッテリ702が配置され、後側に制御回路701が配置されている。制御回路701は、図2のプロセッサ200、メモリ220、および通信インタフェース部230等の各部が実装されているIC基板等の部分に対応する。バッテリ702は、メインバッテリ242が実装されている部分に対応する。
【0064】
ある構成要素は、少なくとも、左右の筐体11または後ろの筐体12のうちのいずれかの箇所に配置されている。あるいは、ある構成要素は、左右の筐体11に分かれて複数の部分として配置されてもよい。また、ある構成要素は、左右の筐体11に分かれて二重化されていてもよい。例えば、プロセッサ200は、左右の制御回路701の一方に配置されており、他方の制御回路701には別の構成要素が配置されている。例えば、メインバッテリ242は、左右のバッテリ702の2つの部分として分かれて配置され、二重化されている。一方のバッテリ702を現用とし、他方のバッテリ702を充電用として使用してもよい。左右の各バッテリ702を交換可能な構成としてもよい。この場合、ユーザは、一方のバッテリ702を使用したまま、電源を落とさずに、他方のバッテリ702を交換することができる。また、例えば、測距センサ7は、左右の筐体11に2つの測距センサとして分かれて配置されている。測距センサ7や他のセンサを二重化し、左右の一方のみでも機能するようにしてもよい。
【0065】
本例のように、各構成要素の実装に関して、なるべく左右対称の構成とすることで、HMD1全体で左右の重量のバランスをとる。すなわち、右側筐体11Rの重量と左側筐体11Lの重量とをほぼ同じとする。また、筐体12を含めて前後方向でも重量のバランスをとる。これにより、ユーザのHMD1の装着感がより良くなる。ある構成要素を左右の筐体11に二重化する冗長構成の場合には、可用性向上等の効果が得られる。なお、図7の配置に限らず、例えばX方向で前側に制御回路701、後側にバッテリ702を配置してもよい。マイク8やスピーカ9等の他の構成要素についても、左右で重量のバランスをとるように、左右の筐体11にそれぞれ配置されている。
【0066】
HMDは、機能の高度化に応じて消費電力も増加する傾向がある。これに応じて、バッテリを実装する場合に必要なバッテリ容量や重量も増加する傾向がある。よって、実施の形態1の例では、首装着部1Bにメインバッテリ242を実装することで、頭装着部1Aの重量低減を図っている。それと共に、首装着部1Bの左右の筐体11に2つのバッテリ702として同じ重量の部品を対称に配置することで、首装着部1Bの左右の重量のバランスをとっている。左右の重量のバランスは、左右に同じ部品を配置することでとる構成でもよいし、ある構成要素(例えばプロセッサ200)と他の構成要素との間でとる構成でもよい。これにより、HMD1の全体で重量のバランスがとりやすく、装着時の首装着部1Bの位置ずれの要因も低減される。
【0067】
[接続線]
図8は、HMD1における接続線4の取り付け等に関する構成例を示す。(A)は第1構成例であり、装着のしやすさを考慮した構成例である。HMD1は、左右の各々の接続線4(4L,4R)を有する。接続線4における一方端は、頭装着部1Aの筐体10の左右部分の中央付近、装着時のユーザの耳に対し手前の位置の端子に接続される。接続線4における他方端は、首装着部1Bの左右の筐体11の中央付近の位置の端子に接続される。接続線4は、ユーザの耳の前を通って垂れ下がる状態となる。間隔801は、Y方向において、頭装着部1Aの筐体10の左右の接続線4(4L,4R)の取り付け位置間の距離である。間隔802は、Y方向において、首装着部1Bの筐体11の左右の接続線4の取り付け位置間の距離である。HMD1では、頭に対する表示面5の位置ずれが表示性能に影響する。そのため、このように、左右対称に2本の接続線4によって頭装着部1Aと首装着部1Bを接続する構成とする。これにより、左右の重量のバランスがとれ、位置ずれの要因が減るので、好適である。
【0068】
ユーザは、HMD1を装着する際には、首・肩に首装着部1Bを掛け、頭の眼前に頭装着部1Aを掛ける。ユーザは、休息時等、頭装着部1Aによる画像表示を利用しない場合には、頭装着部1Aを頭から外して胸前に下げた状態にすることもできる。なお、この構成例では、ユーザによって筐体の端子に対し接続線4を接続および非接続が可能であるが、接続線4が筐体に固定で接続されている形態としてもよい。
【0069】
(B)は第2構成例である。左右の各接続線4(4L,4R)における一方端は、頭装着部1Aの筐体10の左右部分の後端位置、装着時のユーザの耳に対し後ろの位置に接続される。接続線4における他方端は、首装着部1Bの左右の筐体11の後ろ寄りの位置に接続される。接続線4は、ユーザの耳の後ろを通って垂れ下がる状態となる。間隔803および間隔804は、同様に、接続線4の取り付け位置間の距離を示す。
【0070】
接続線4の態様は、図8の例に限らず可能である。他の態様では、接続線4の他方端が首装着部1Bの後ろの筐体12に接続されてもよいし、左右に分けずに1本の接続線4としてまとめられてもよい。
【0071】
接続線4の間隔について、(A)の第1構成例では、間隔801と間隔802が概略的に同じである場合を示す。(B)の第2構成例では、間隔803よりも間隔804が少し広い場合を示す。
【0072】
HMD1の筐体および接続線4の間隔等の構成については、各種の態様が可能である。頭部側の間隔801と首部側の間隔802とを同じとしてもよい。頭部側の間隔801よりも首部側の間隔802を大きくしてもよい。頭部側の間隔801よりも首部側の間隔802を小さくしてもよい。また、上記間隔は、予め固定に設計されているが、他の形態としては、例えば筐体を柔軟性や可撓性を持つ構成や変形可能な構成とすることで、上記間隔をユーザが調節できるようにしてもよい。例えば、首装着部1Bにおいて、左右の筐体11が剛性の部材で構成され、後ろの筐体12が曲がる部材で構成されてもよい。ユーザは、体格や服装や装着感等に合わせて、首装着部1Bの間隔802を調節できる。また、間隔802の調節の際、HMD1は、例えば測距センサ7または他のセンサを用いて、その時の間隔802を測定してもよい。上記間隔801,802や、HMD1の筐体に配置されている各種のセンサ等の構成要素の間の位置関係については、HMD1の機能の実現のために、予め設定値として設定されている。上記間隔802等が変更された場合、上記設定値も更新される。
【0073】
首装着部1Bは、弧形状に限らず可能であり、例えば筐体11の首前が閉じる形状でもよい。左右の筐体11を棒状としたが、これに限らず、肩パッドのように平らに近い形状としてもよい。首装着部1Bを、例えばベストや作業着のような衣服の形状としてもよい。
【0074】
図9は、図8に関連して、Y方向における、HMD1の筐体の左右の部分間の間隔についての構成例を示す。図9は、ユーザが頭装着部1Aおよび首装着部1Bを装着した状態の正面を模式的に示す。幅W1は、頭装着部1Aの筐体10の左右の部分のY方向の幅を示す。幅W2は、首装着部1Bの筐体11の左右の部分のY方向の幅を示す。(A)は、幅W1と幅W2が同程度である場合を示す。(B)は、幅W1よりも幅W2の方が大きい場合(W1<W2)を示す。
【0075】
HMD1は、首装着部1Bの測距センサ7から頭装着部1Aのマーカ17への測距がしやすいように、測距センサ7およびマーカ17等の位置や、各部の幅等の寸法が設計されていることが望ましい。(A)の場合、測距センサ7から上方にマーカ17を測定する。(B)の場合、測距センサ7から上方のやや斜め方向でマーカ17を測定する。実施の形態1では、装着のしやすさ、位置ずれ要因の低減、測距のしやすさ等を考慮して、首部側の幅W2を、頭部側の幅W1以上とする(W1≦W2)。これに限らず可能であり、他の形態では、首部側の幅W2の方が小さい構成(W1>W2)としてもよい。
【0076】
なお、マーカ17は、筐体10の下向きの面に配置されてもよいし、横向きの面に配置されてもよい。測距センサ7は、筐体11の上向きの面に配置されてもよいし、横向きの面に配置されてもよい。変形例としては、(A)で、首装着部1Bの筐体11から左右の外側に延長して離れた位置901に測距センサ7または他のセンサ等の部位が配置されてもよい。また、その延長の長さをユーザによって調節できる形態でもよい。
【0077】
[分離構成例]
図10は、実施の形態1および各変形例のHMD1において、頭装着部1Aと首装着部1Bとの上下部位に構成要素を分離して実装するいくつかの構成例をまとめた表を示す。
【0078】
まず、実施の形態1における構成は、前述の図2等の通りであるが、首装着部1Bには、測距センサ7、位置姿勢センサ70、メインバッテリ242、マイク8およびスピーカ9等が設けられ、頭装着部1Aには、カメラ6、表示デバイス150、サブバッテリ142等が設けられている。位置姿勢センサ70は、前述の加速度センサ71、角速度センサ72、地磁気センサ73、およびGPS受信器74を含み、測距センサ7およびカメラ6については分けて考えている。首装着部1Bはユーザの体幹に固定されるため、この位置姿勢センサ70は、ユーザの体幹の方向等の状態を検出する。測距センサ7は、通常の測距では、首装着部1Bの周囲の物体との距離を測定する(図5)。カメラ6による外界の撮影は、ユーザの視点に近く外界が撮影しやすい方が有利である。そのため、実施の形態1では、首装着部1Bよりも高い位置にある頭装着部1Aにカメラ6を設ける。
【0079】
次に、実施の形態1の変形例1は、実施の形態1と異なる構成点として、カメラ6についても、首装着部1Bに設ける。これにより、頭装着部1Aの重量をより低減できる。なお、変形例1では、カメラ6の画像は、首部座標系CNを基準とした画像である。そのため、頭部座標系CHを基準とした画像情報を得たい場合には、カメラ6の画像に対し、前述の位置関係を用いた補正、変換を行ってもよい。変形例1は、頭装着部1Aの重量低減を重視し、多くの構成要素が首装着部1Bに実装されている。
【0080】
次に、変形例2は、実施の形態1と異なる構成点として、頭装着部1Aに、首装着部1Bの測距センサ7とは別に、通常の測距用の測距センサを第2測距センサとして設ける。外界の物体の測距は、外界が見えやすい方が有利であるため、変形例2では、より高い位置である頭装着部1Aに第2測距センサを設ける。
【0081】
次に、変形例3は、実施の形態1と異なる構成点として、位置姿勢センサ70の一部のセンサを頭装着部1Aに設け、他の一部のセンサを首装着部1Aに設ける。特に、頭装着部1Aには加速度センサ71および角速度センサ72を実装し、首装着部1Bには地磁気センサ73およびGPS受信器74を実装する。頭部の回転方向および重力方向の検出の精度は特に重要であるため、高度な機能を重視する場合、変形例3のように、頭装着部1Aにセンサを搭載する利点がある。
【0082】
次に、変形例4は、首装着部1Bおよび頭装着部1Aの両方に、種類が重複するが、位置姿勢センサを設ける。特に、首装着部1Bには高性能のセンサをメインセンサとして実装し、頭装着部1Aには軽量のセンサをサブセンサとして実装する。例えば、HMD1は、通常時には、首装着部1Bのセンサを使用して高精度のデータを取得し、何らかの理由で首装着部1Bのセンサデータが取得できない場合には、頭装着部1Aのセンサデータを取得してもよい。変形例4は、頭装着部1Aの重量を抑制しつつ、高精度や可用性を重視する構成である。
【0083】
他の変形例としては、首装着部1Bではなく頭装着部1Aにマイク8およびスピーカ9等が設けられてもよい。上記のような各種の構成を組み合わせる形態も勿論可能である。
【0084】
[座標系]
図5の頭装着部1Aの頭部座標系CHと首装着部1Bの首部座標系CNとの座標系の関係等について以下に説明する。なお、以下の説明では、座標系は右手系に統一する。頭部座標系CHと首部座標系CNとの間での座標系の回転は、オイラー角や正規化四元数で表すことができる。以下では、座標系の回転を表すため、正規化四元数を用いる。プロセッサ200(特に図3のデータ処理部200b)は、このような座標系の回転を含む計算を行う。
【0085】
正規化四元数とは、ノルムが1の四元数であり、ある軸の回りの回転を表すことができる。単位ベクトル(nX,nY,nZ)を回転軸とした角度ηの回転を表す正規化四元数qは、下記の式1となる。
式1: q=cos(η/2)+nXsin(η/2)i+nYsin(η/2)j+nZsin(η/2)k
【0086】
i,j,kは四元数の単位である。ベクトル(nX,nY,nZ)の向きに向いた場合の右回りの回転が、ηが正の回転方向である。任意の座標系の回転は、この正規化四元数で表すことができる。
【0087】
記号の用法をまとめる。四元数qの実数部分を、Sc(q)で表す。四元数qの共役四元数を、q*で表す。四元数qのノルムを1に正規化する演算子を、[・]で定義する。qを任意の四元数とすると、次の式2が、演算子[・]の定義である。式2の右辺の分母が四元数qのノルムである。
式2: [q]=q/(qq*)1/2
【0088】
次に、座標点あるいはベクトル(pX,pY,pZ)を表現する四元数pを、次の式3で定義する。
式3: p=pXi+pYj+pZk
【0089】
本明細書では、特に断りが無い限り、成分表示でない座標点やベクトルを表す記号は四元数表示であるとする。また、回転を表す記号は正規化四元数であるとする。
【0090】
単位ベクトルn方向と垂直な平面へのベクトルの射影演算子を、PT(n)とする。ベクトルpの射影は、次の式4で表される。
式4: PT(n)p=p+nSc(np)
【0091】
座標点あるいは方向ベクトルp1が、四元数qで表される原点中心の回転操作により、座標点あるいは方向ベクトルp2に変換されたとする。すると、方向ベクトルp2は次の式5で計算できる。
式5: p2=qp1q*
【0092】
単位ベクトルn1を単位ベクトルn2に重ねるように、n1とn2を含む平面に垂直な軸回りに回転させる正規化四元数を、R(n1,n2)とする。R(n1,n2)は下記の式6となる。
式6: R(n1,n2)=[1-n2n1]
【0093】
次に、頭装着部1Aの頭部座標系CHと首装着部1Bの首部座標系CNとの2つの座標系の関係を説明する。ユーザが首や頭を動かすと、2つの座標系間の位置関係が変わる。例えば、図5の(A)の状態から(B)の状態に変わる。実施の形態1のHMD1は、首装着部1Bの測距センサ7から頭装着部1Aのマーカ17で示す特徴点の測定を常時に行うことで、2つの座標系間の位置関係を把握する。
【0094】
頭部座標系CHにおける測定点(対応するマーカ17)の座標、言い換えると筐体10の形状等は、予め設計上分かっている。頭部座標系CHにおけるこれらの3点の座標値を、pH0,pH1,pH2とする。首部座標系CNにおける3点の座標値は、測距センサ7による測定で分かる。これらの3点の座標値を、pN0,pN1,pN2とする。
【0095】
HMD1は、まず、座標系の方向を合わせるための回転を計算する。3個の測定点を、第1測定点、第2測定点、第3測定点とする。第1測定点から第2測定点および第3測定点へ向かう各方向への単位ベクトルの頭部座標系CHでの表現を、nH1,nH2とする。同様に、首部座標系CNでの表現を、nN1,nN2とする。これらは具体的には下記の式7となる。なお、向きの異なる2つの方向ベクトルが得られればよく、測定点の数は3に限られない。
式7:
nH1=[pH1-pH0]
nH2=[pH2-pH0]
nN1=[pN1-pN0]
nN2=[pN2-pN0]
【0096】
最初に、頭部座標系CHの表現における回転において、nH1をnN1に重ねる回転である回転qTAを考える。ここでは、回転qTAは下記の式8とする。
式8: qTA=R(nH1,nN1)
【0097】
次に、この回転qTAにより、nH1,nH2が回転された方向を、nA1,nA2とする。この方向は下記の式9である。
式9:
nA1=qTAnH1qTA*=nN1
nA2=qTAnH2qTA*
【0098】
同じ方向間の角度であるから、nA1とnA2のなす角度は、nN1とnN2のなす角度に等しい。また、3つの測定点は同一直線上にはないので、nN1とnN2のなす角度は0ではない。従って、nA1すなわちnN1を軸とした回転qTBが一意に決まり、nA2をnN2に重ねることができる。具体的には、回転qTBは下記の式10で与えられる。
式10: qTB=R([PT(nN1)nA2],[PT(nN1)nN2])
【0099】
この回転qTBにより、nA1とnA2は、下記の式11のnN1とnN2に回転される。
式11:
nN1=qTBnA1qTB*
nN2=qTBnA2qTB*
【0100】
あらためて、回転qTを下記の式12で定義する。この回転qTが、首部座標系CNの方向を頭部座標系CHの方向に合わせる、頭部座標系CHにおける回転である。
式12: qT=qTBqTA
【0101】
最後に、座標原点の関係を求める。頭部座標系CHにおける、首部座標系CNの座標原点をONHとすると、ONHは下記の式13で与えられる。
式13: ONH=pH0-qT*pN0qT
【0102】
以上より、首装着部1Bから、頭装着部1Aの特徴点のうち同一直線上にない3点以上の特徴点(対応するマーカ17)の位置を測定できれば、首部座標系CNの方向と頭部座標系CHの方向との関係、すなわち前述の位置関係を求めることができる。これにより、HMD1は、頭部座標系CHと首部座標系CNを統合的に用いることができる。
【0103】
上記のように計算した頭部座標系CHと首部座標系CNとの関係が分かれば、位置姿勢センサ等のセンサが頭装着部1Aと首装着部1Bのどちらに配置されていたとしても、一方の座標系の値から他方の座標系の値へ相互に変換できる。そのため、前述の位置姿勢センサ70、具体的には加速度センサ71、角速度センサ72、地磁気センサ73、およびGPS受信器74と、カメラ6と、測距センサ7とを含む各種のデバイスは、基本的に頭装着部1Aと首装着部1Bのどちらに実装されていてもよい。実施の形態1のHMD1は、上記デバイスの少なくとも一部を頭装着部1Aではなく首装着部1Bに実装する構成である。これにより、上記デバイスを用いた高度な機能と共に、頭装着部1Aの重量を低減できる。
【0104】
[表示情報および座標系情報]
図11は、首装着部1Bにおける表示情報D21および座標系情報D22の構成例を示す。表示情報D21のDB(データベース)には、表示オブジェクト情報テーブルT01を含む。表示オブジェクト情報テーブルT01には、表示面5に表示する表示オブジェクト毎に、オブジェクトID、表示座標系、配置座標、および配置方向等の情報が記憶されている。表示座標系は、各座標系から選択できる。配置座標および配置方向は、表示座標系における位置座標および方向である。
【0105】
座標系情報D22のDBには、座標系情報テーブルT02を含む。座標系情報テーブルT02には、各種の座標系毎に、原点位置や正面方向等の情報が記憶されている。各種の座標系は、世界座標系(CWとする)、頭部座標系CH、首部座標系CN、および後述の慣性座標系(CIとする)等がある。各座標系の原点は、世界座標系CWの原点G1、頭部座標系CHの原点G2(=OH)、首部座標系CNの原点G3(=ON)、慣性座標系CIの原点G4とし、それぞれ、ある座標系を基準とした位置座標を持つ。各座標系の正面方向は、例えばある1つの軸の方向として表される。
【0106】
[効果等]
上記のように、実施の形態1のHMD1によれば、分離型の構成により、高度な機能と重量低減とをバランス良く実現でき、ユーザの使い勝手を向上できる。
【0107】
変形例として、首装着部1B側にカメラ6を備える構成(図10の変形例1)とする場合、そのカメラ6としては、広角カメラを適用してもよい。広角カメラは、例えば180度以上の画角で撮像可能なカメラである。HMD1は、その広角カメラで撮影した広角画像の中から、頭装着部1Aの頭方向に対応する一部の画像を判断して切り取り、その切り取った画像を、頭方向を基準とした画像表示制御に使用してもよい。この構成は、特に、非透過型の表示面5の場合に有効である。また、その広角カメラを、通常の外界の撮影用と、位置関係の測定用とに併用してもよい。
【0108】
(実施の形態2)
図12を用いて、本発明の実施の形態2のHMDについて説明する。以下、実施の形態2等における実施の形態1とは異なる構成部分について説明する。実施の形態2のHMD1は、頭装着部1Aに測距センサ7を設け、首装着部1Bに複数のマーカ17を設ける。すなわち、実施の形態2における首装着部1Bと頭装着部1Aとの位置関係の測距は、実施の形態1に対し反対の関係となる。HMD1は、頭装着部1Aの測距センサ7から首装着部1Bの複数のマーカ17を特徴点として測距し、測距データに基づいて、頭装着部1Aに対する首装着部1Bの位置関係を計算する。HMD1は、その位置関係を用いて、頭装着部1Aのセンサで検出した状態のデータと、首装着部1Bのセンサで検出した状態のデータとの間での補正、変換を行う。この計算は実施の形態1と同様に実現できる。
【0109】
図12は、実施の形態2のHMD1の構成を示す。頭装着部1Aには、測距センサ7、カメラ6、および表示デバイス150等が実装されている。首装着部1Bには、位置姿勢センサ70、バッテリ(メインバッテリ242)、マイク8、およびスピーカ9等が実装されている。本例では、頭装着部1Aの測距センサ7は、通常の測距用と位置関係の測距用との併用タイプを用いる。この測距センサ7は、左右対称で2個の測距センサとして、筐体10の前側の左右端の付近に配置されており、概略的に下方にある複数のマーカ17を測距する。また、本例では、首装着部1Bの左右の筐体11のそれぞれには、3個ずつで合計6個のマーカ17が配置されている。ベクトルV2は、頭座標系CHの原点OHからみた首座標系CNの原点ONへの位置関係を表すベクトルである。
【0110】
実施の形態2のHMD1によれば、実施の形態1と同様の効果が実現できる。ただし、頭装着部1Aの重量の観点では、実施の形態1のように首装着部1Bに測距センサ7を設ける方が有利である。実施の形態2の変形例としては、頭装着部1Aに、通常の測距用の第2測距センサを別体として設けてもよい。首装着部1Bにその第2測距センサを設けてもよい。また、変形例として、カメラ6を首装着部1B側に実装してもよい。
【0111】
(実施の形態3)
図13を用いて、実施の形態3のHMDについて説明する。ユーザの服装等の影響によって、頭装着部1Aと首装着部1Bとの位置関係が、測距センサ7を用いて光学的に測定できない場合があるかもしれない。実施の形態3では、そのような場合にも位置関係を測定できる方式を示す。
【0112】
図13は、実施の形態3のHMD1の構成を示す。このHMD1は、実施の形態1に対し異なる構成点として、位置姿勢センサ70について、頭装着部1A、首装着部1Bに加速度センサ71および地磁気センサ73を含むセンサを有する。
【0113】
まず、首装着部1Bから見た頭装着部1Aの回転中心位置は、個人に応じて定まり、略一定であるので、これを定位置に取る。HMD1には、その位置を予め設定しておく。あるいは、HMD1には、測距センサ7等によってその平均的な回転中心位置を光学的に測定できた時の値を設定しておく。例えば、頭装着部1Aの回転中心を頭部座標系CHの座標原点に取れば、座標系間の方向の関係を求めることにより座標系間の関係が定まる。次に、各座標系の方向の関係を求める。垂直方向の方向の関係については、加速度センサ71である3軸加速度センサにより重力加速度が測定できるので、その重力加速度の向きの各座標系での測定値の差から求めることができる。そして、頭(対応する頭部座標系CH)と体幹(対応する首部座標系CN)とにおける水平面での方向の差については、頭装着部1Aと首装着部1Bとの双方に備える地磁気センサ73を用いて、双方の水平面での方位の差を求めることができる。地磁気センサは、外界の影響で、方位の絶対値にずれが生じることがあるが、相対値については比較的安定に求めることができる。以上により、頭部座標系CHと首部座標系CNとの間の方向の関係は、実施の形態1と同様に計算できる。
【0114】
上記のように、実施の形態3では、実施の形態1で説明した3つの測定点における第1測定点から第2測定点および第3測定点へ向かう各方向の代わりに、各座標系における重力加速度の方向と、地磁気での例えば北方向とを用いて、座標系間の方向の関係を計算する。これにより、実施の形態3では、頭装着部1Aと首装着部1Bとの位置関係が光学的に測定できない状況の場合でも、位置関係を推定することができる。
【0115】
上記のように、実施の形態3によれば、高度な機能を重視する観点で、実施の形態1と同様の効果を得られる。実施の形態3の変形例として、測距センサ7を備えない構成としてもよい。
【0116】
他の変形例として以下も可能である。HMD1は、首装着部1Bと頭装着部1Aとの位置関係を一時的に測定できない状況になることがあり得る。その場合、HMD1は、位置関係を用いた変換ができないことから、首部座標系CNを基準とした画像の表示、または、頭部座標系CHを基準とした画像の表示ができない場合がある。この場合に、HMD1は、例外的対応処理として、位置関係を用いない表示、例えば頭部座標系CHを基準とした画像の表示、または首部座標系CNを基準とした画像の表示を行うようにしてもよい。HMD1は、その後、再び位置関係が測定できた場合に、上記例外的対応処理を停止し、元の表示に戻る。
【0117】
(実施の形態4)
図14を用いて、実施の形態4について説明する。実施の形態4のHMDは、頭装着部1Aと首装着部1Bとの給電に関して無線給電機能を実装し、頭装着部1Aと首装着部1Bとの間で無線通信を行う構成である。
【0118】
図14は、実施の形態4のHMD1の構成例を示す。接続線4は、1本で構成され、頭装着部1Aの筐体10との接続によってループ形状を成している。接続線4の一方端は、頭装着部1Aの筐体10の例えば左側の部分の後端に接続され、筐体10内の電源回路141(図2)と接続されている。接続線4の他方端は、筐体10の例えば右側の部分の後端に接続されている。この電源回路141は、無線給電の受電回路を含む。
【0119】
接続線4のうちの中間の部分は、首装着部1Bの筐体12に接して配置される部分であり、受電アンテナ部4Cが実装されている。筐体12には、送電アンテナ部12Cが実装されている。送電アンテナ部12Cは、筐体11の電源回路241と接続されている。この電源回路241は、無線給電の送電回路を含む。送電アンテナ部12Cおよび受電アンテナ部4Cには、例えばそれぞれコイルが形成されている。近接している送電アンテナ部12Cと受電アンテナ部4Cとの間では、電磁誘導の作用によって無線給電が行われる。なお、無線給電の方式については限定しない。
【0120】
頭装着部1Aの筐体10の例えば右側の部分には、無線通信インタフェースに対応した無線通信回路10Cが実装されている。首装着部1Bの筐体11の一部、例えば右側筐体11Rの一部には、無線通信回路11Cが実装されている。このHMD1は、頭装着部1Aの無線通信回路10Cと首装着部1Bの無線通信回路11Cとの間で適宜に無線通信を行うことで、上下部位が連携して機能を実現する。なお、無線通信用のアンテナが接続線4や筐体12に形成されてもよい。
【0121】
なお、接続線4と筐体12との接続部分については、ユーザによって分離と固定ができる構成としてもよい。接続線4はフレキシブルであり、ある程度以上の長さが余裕として確保されているため、ユーザは自由に首や頭を動かすことができる。
【0122】
(実施の形態5)
図15を用いて、実施の形態5について説明する。実施の形態5のHMDは、前述の表示制御に関する機能を有し、ユーザの頭の状態と体幹の状態とに応じた画像の表示制御の例を示す。
【0123】
[表示制御]
従来技術例のHMDは、仮想物体等の画像の表示方式としては、外界の世界座標系と、頭に合わせた局所座標系(実施の形態1では頭部座標系CH)との2つの基準を用いている。あるいは、特許文献1の例のように、頭に合わせた座標系と、体幹に合わせた座標系(実施の形態1では首部座標系CN)との2つの基準を用いる提案もある。これらに対し、実施の形態5のHMD1は、世界座標系CW、頭部座標系CH、および首部座標系CNの3つの基準を全て用い、各座標系での画像表示を制御する。これにより、このHMD1は、高度な機能を実現し、ユーザの利便性を向上させる。
【0124】
なお、非透過型の表示面5の方式において、ユーザの視野全面がVRの画像を表示するディスプレイとなる没入型の方式もある。その場合にも、画像内の「仮想世界」をユーザが移動していく態様では、その「仮想世界」を本発明で呼ぶ「世界」と解釈すれば、同様の表示方式が構成でき、同様の効果も得られる。従って、本発明における表示方式は、特に断りがない限り、透過型、非透過型(特に没入型)の両方を含む。没入型の場合をさらに詳述すると、「仮想世界」内での移動が、実際のHMDの外界での移動によりなされる場合と、コントローラ(操作器2)による制御入力による場合とがある。いずれも、世界内でのユーザの意図による移動として捉えることができる。
【0125】
実施の形態5のHMD1では、表示面5に画像を表示する位置の制御を含む表示制御に関して、以下の3種類の制御を併用する。
【0126】
(1)世界座標系CWを基準とした画像表示位置制御。この表示制御は、例えば、外界の物体の近傍の位置に例えば作業支援のための仮想物体を表示させる場合等に用いる。
【0127】
(2)頭部座標系CHを基準とした画像表示位置制御。この表示制御は、例えば、HMD1のグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)におけるシステム情報、メニュー、コマンド、およびアイコン等の画像を、ユーザの頭方向に対応した視界内に表示させる場合に用いる。
【0128】
(3)首部座標系CNを基準とした画像表示位置制御。一方、ある種の仮想物体の表示については、上記世界座標系CWでの表示や頭部座標系CHでの表示では、利便性が良くない場合もある。例えば、作業手順や作業用ツール等の表示が挙げられる。この種の仮想物体は、例えば世界座標系CWを基準とした固定の位置に配置された場合、ユーザの移動の都度、配置のやり直しの手間が発生する。なお、ここでのユーザの移動とは、実空間でのユーザの移動の他、コントローラ(操作器2)等による仮想空間内でのユーザ視点の移動も含む。
【0129】
そこで、実施の形態5では、この種の仮想物体の表示制御に関して、首部座標系CNを基準とした配置を利用する。すなわち、HMD1は、この種の仮想物体を、ユーザの体幹方向に合わせた位置に配置する。この配置の場合、ユーザの移動に伴って仮想物体も追随した位置に表示されるので、配置のやり直しの手間が省ける。
【0130】
また一方、上記仮想物体を、頭部座標系CHを基準とした位置に配置する場合、ユーザの移動には追随して表示されるが、ユーザの視野正面の固定位置に配置されるので、視野正面が見え難くなる場合もある。例えば、仮想物体が視野正面の中心位置に配置された場合、作業対象や作業の手元が見え難くなる。仮想物体が視野正面の中心位置から外した位置に配置された場合、仮想物体が見え難くなるか、大きなサイズの仮想物体や多数の仮想物体を配置できないという制限がある。
【0131】
そこで、実施の形態5では、この種の仮想物体に関して、首部座標系CNを基準とした表示制御を利用する。すなわち、この表示制御では、対象の仮想物体を、世界座標系CW内でのユーザの意図的な移動に追随して首装着部1Bの体幹方向に合わせるように表示すると共に、頭方向の変化には追随しないように表示する。この表示制御では、対象の仮想物体を、首装着部1Bの体幹方向に対する頭装着部1Aの頭方向の変化に応じて、表示面5に対する表示の位置および方向が変化するように表示する。これにより、上記制限が無く、作業しやすくなる等の効果が得られる。ユーザは、例えば作業対象の実物がある正面方向を避けた位置に作業ツール等の仮想物体を配置することができ、頭の方向を変えればその仮想物体の視認にも支障は無く、大きなサイズの仮想物体や多数の仮想物体を配置することもできる。
【0132】
[表示制御例(1)]
図15図18は、各座標系を基準とした表示制御例を示す。まず、図15の(A)は、HMD1を装着したユーザの視野全体5Aの例を示す。視野全体5Aで中心にはFOV(field of view)5Bがあり、実物の例として、作業台5C上の作業対象物5Dがある。視野全体5Aは、ユーザが視認できる範囲全体である。視野全体5Aは、ユーザが作業対象物5Dに向かって立っており、体幹および顔も自然に正面を向いている時の視野全体を示す。FOV5Bは、透過型のHMD1における表示面5で表示オブジェクトが表示できる範囲、表示領域を示す。点P1はFOV5Bの中心点を示す。(A)は、ユーザの視点から表示面5を透過して作業対象物5D等が見えている状態である。
【0133】
なお、非透過型のHMDの場合、視野全体5Aを表示領域として表示オブジェクトを表示でき、その場合のFOV5Bは、ユーザの頭および両眼の正面にある視認しやすい範囲の目安に相当する。非透過型の表示面5の場合、作業対象物5D等は、ビデオシースルーまたはシミュレーションによる、実物に対応する仮想物体として表示される。
【0134】
(B)は、(A)の視野全体5Aに対し、表示面5のFOV5Bで仮想物体等の表示オブジェクトを重畳表示する例を示し、第1状態とする。実物以外の要素は、透過型、非透過型のいずれの方式の場合でも、仮想物体等の表示オブジェクト(対応する画像)である。本例では、表示オブジェクトとして、システム情報61、HMDメニュー62、作業説明63、および作業用ツール64を有する。
【0135】
システム情報61は、HMD1のシステムがユーザに提供する情報であり、例えば電波強度、時刻、バッテリ残量等の状態を表す画像がある。また、HMDメニュー62は、ユーザが指示等を入力するためのGUI部品であり、例えばHOMEボタン等の仮想物体である。システム情報61およびHMDメニュー62は、頭部座標系CHを基準とした表示の例であり、FOV5Bにおける固定の位置に表示される。例えば、システム情報61は、FOV5B内の上辺の領域に表示されており、HMDメニュー62であるHOMEボタンは、FOV5B内の左下に表示されている。システム情報61等は、ユーザの動きによってHMD1の位置や方向が変わった場合でも、視野全体5AおよびFOV5B内で同じ位置に表示される。
【0136】
作業説明63は、ユーザに作業対象物5Dに関する作業を説明するための仮想物体である。作業説明63は、世界座標系CWを基準とした表示の例であり、作業対象物5Dの近傍の固定の位置に表示される。作業説明63は、ユーザの移動等によってHMD1の位置や方向が変わった場合でも、世界座標系CW内の同じ位置に表示される。
【0137】
作業用ツール64は、ユーザの作業を支援するためのツール等の仮想物体である。作業用ツール64Aは、作業の手順を伝える動画やアニメーション等を表示する。作業用ツール64Bは、操作のためのコマンドが設けられている。作業説明63や作業用ツール64は、例えば作業支援アプリケーションによって生成される。作業用ツール64は、首部座標系CNを基準とした表示の例であり、ユーザの体幹方向に合わせた位置に表示される。作業用ツール64は、首装着部1Bと頭装着部1Aとの位置関係が変化した場合、視野全体5A内での表示位置が変化する。以下、首部座標系CNを基準とした作業用ツール64の表示の変化について説明する。
【0138】
図16は、図15の第1状態からの変化後の状態の例である第2状態を示す。図16は、ユーザの体幹の向きがそのままで、ユーザが頭を斜め下に向けることで、顔の正面を作業対象物5Dに向けた状態である。FOV5Bの点P1には作業説明63がある。作業用ツール64は、視野基準で言うと上方に移動して、FOV5Bから完全に外れている。
【0139】
図17は、図15の第1状態からの変化後の状態の例である第3状態を示す。図17は、ユーザの体幹の向きはそのままで、ユーザが顔を左上方向に向けることで、視野全体5B内で作業用ツール64を右下方向に下げ、左側の作業用ツール64AをFOV5B内に納めた状態である。点P1には作業用ツール64Aがある。
【0140】
図18は、図15の第1状態からの変化後の状態の例である第4状態を示す。図18は、ユーザが顔の向きを体幹に対して変化させずに体幹を左斜め前に向けた状態である。この場合、世界座標系CWを基準とした表示オブジェクトである作業説明63は、視野全体5A内で右に移動している。一方、首部座標系CNを基準とした表示オブジェクトである作業用ツール64は、体幹方向に合わせて配置されるので、視野全体5A内で位置を変えていない。このような首部座標系CNを基準とした表示は、例えばユーザが移動しながら同じ作業用ツール64を使用する場合等に好適である。
【0141】
上記例のように、実施の形態5のHMD1では、検出および計算した状態のデータに基づいて、仮想物体の表示制御の方式として、世界座標系CW、頭部座標系CH、および首部座標系CNの各座標系を基準とした仮想物体の表示を、選択および併用可能である。特に、首部座標系CNを基準とした表示方式では、仮想物体の配置位置に関して、ユーザおよびHMD1の移動に追随しながらも、頭装着部1Aおよび頭の方向の変化には追随しないような表示が可能である。これにより、表示オブジェクトの種類や性質に応じたきめ細かな表示が可能であり、ユーザの作業を好適に支援できる等、利便性が向上する。
【0142】
[表示制御例(2)]
図19図20は、実施の形態5における第2表示制御例を示す。図19は、HMD1の表示面5で、FOV5B内に、頭部座標系CHを基準とする方式を用いて、複数のアプリアイコン66を表示する例を示す。本例では、ユーザによる前述のHMDメニュー62のHOMEボタンの選択実行に応じて、HMD1は、ホーム画面を開き、ホーム画面において複数(本例では8個)のアプリアイコン66を並列に表示する。アプリアイコン66は、GUI部品である仮想物体の例であり、ユーザによる選択実行に応じて対応するアプリケーションの表示等を制御するためのアイコンである。HMD1は、通常時には、頭座標系CHを基準としてFOV5B内の固定の位置にアプリアイコン66を表示する方式を用いる。ユーザによるHMDメニュー62のCLOSEボタンの選択実行により、元の表示状態であるアプリアイコン66を表示しない状態に戻る。ユーザが頻繁に使用するアプリアイコン66等の仮想物体については、このようにFOV5B内の固定の位置に表示された方が、利便性が高い。
【0143】
なお、アプリアイコン66の表示の妨害となる表示オブジェクトについては表示を一時的に停止してもよいし、アプリアイコン66を上層に重畳表示するようにしてもよい。また、例えば、FOV5B内で複数のページの各ページにアイコンが配置され、HMDメニュー62の1つのページ変更ボタン等によるページ変更操作を受け付ける方式を用いてもよい。これにより、表示面5に総合的に表示できるアイコン数を増やすことができる。
【0144】
さらに、図20は、首部座標系CNを基準としてアプリアイコン66を表示する例を示す。HMD1は、体幹方向に合わせて、視野全体5A内に複数のアプリアイコン66を並列に配置する。FOV5B内には、そのうちの一部のアプリアイコン66が表示されている。ユーザが体幹の向きをそのままで顔の向きを変えることにより、FOV5B内に表示されるアプリアイコン66を変えることができる。例えば、ユーザが顔を左上に向ければ、“A”のアプリアイコン66がFOV5B内に入る。このように、首部座標系CNを基準とした表示方式では、体幹に対する頭の向きの変更によって、従来よりも多数のアプリアイコン66の全てをFOV5B内で視認できる。
【0145】
[表示制御例(3)]
図21は、実施の形態5における第3表示制御例を示す。さらに、世界座標系CWを基準としたアプリアイコンの配置方式を用いてもよい。例えば、特定の装置の操作用のアプリケーションは、その装置の場所で用いることが多いので、そのアプリケーションの仮想物体を、世界座標系CW内のその装置の近傍の位置に配置すると、利便性が高い。
【0146】
図21の(A)は、視野全体5A内で、世界座標系CW内における作業台5C上の作業対象物5Dの近傍の固定の位置に、作業対象物5Dの操作用のアプリケーションの制御のためのアプリアイコン67を表示する例を示す。
【0147】
また、その際、世界座標系CW内での表示オブジェクトとしてのアプリアイコン67の配置は、ユーザのいる方向を基準とした位置および向きでの配置としてもよい。また、その際、ユーザの作業の邪魔にならないように、ユーザと作業対象物5Dの作業箇所を結ぶ線上を避けた位置にアプリアイコン67を配置してもよい。図21の(B)は、そのアプリアイコン67の配置の例を、鉛直上方から見下ろした位置関係として示す。一点鎖線の矢印の方向2101は、ユーザおよびHMD1の代表点と作業対象物5Dの代表点とを結ぶ、頭方向または体幹方向に対応した方向である。破線の矢印の方向2102は、ユーザおよびHMD1の代表点と、アプリアイコン67の配置位置とを結ぶ方向である。アプリアイコン67の配置位置は、作業対象物5Dに重ならないように例えば右隣とされている。アプリアイコン67の配置方向は、方向2102に合わせられている。
【0148】
[表示制御例(4)]
図22は、実施の形態5における第4表示制御例を示す。上記各座標系を基準とする表示方式については、ユーザの指示や事前設定に応じて選択可能としてもよいし、HMD1が判断して選択してもよい。対象の仮想物体毎や種類毎、アプリケーション毎に、表示方式を選択可能としてもよい。図22は、アプリケーションの表示に用いる座標系の設定例を示す。図22は、あるアプリのプロパティ(対応する仮想物体)の表示であり、そのアプリのアイコンやツール等の仮想物体を表示する座標系を、頭部座標系CH、首部座標系CN、および世界座標系CWから選択して設定できる例を示す。
【0149】
また、図23は、仮想物体に、表示座標系を表す画像を重畳表示する例を示す。図23は、あるアプリアイコン66において、一部に、表示座標系を表す画像68が重畳表示されている。本例の画像68は、世界座標系CWを表す画像であり、このアプリアイコン66の表示座標系が世界座標系CWであることを表している。常時に画像68を表示するようにしてもよいし、ユーザがアプリアイコン66を仮選択した場合や所定の指示を入力した場合等に、画像68を表示するようにしてもよい。
【0150】
さらに、この表示座標系を表す画像68を、表示座標系の制御ボタンとして用いてもよい。HMD1は、ユーザによる画像68の選択実行に応じて、対応する仮想物体の表示座標系を、頭部座標系CH、首部座標系CN、および世界座標系CWの間で切り替えるように設定する。例えば、画像68は、3つの座標系を循環的に切り替えるボタンでもよい。例えばアプリアイコン66の画像68の選択状態は、対応するアプリケーションの起動時の表示座標系を表す。アプリアイコン66が選択実行された場合、HMD1は、その時の画像68の選択状態に応じた表示座標系の位置に、対応するアプリケーションを起動する。すなわち、その表示座標系の位置に、作業用ツール等の仮想物体が配置される。また、このアプリアイコン66の画像68の選択動作は、即時の表示座標系の切り替えに用いてもよい。例えば、最初、アプリアイコン66の画像68の状態が頭部座標系CHであり、前述の図19の例のように表示される。次に、ユーザによる画像68の選択操作によって画像68の状態が首部座標系CNに変更される。この時、HMD1は、そのアプリアイコン66が配置されている座標系および位置を、首部座標系CN内の位置に変更する。座標系の変更は、前述の座標系間の関係に基づいて可能である。
【0151】
図24の(A)は、前述の作業用ツール64Aの例において、仮想物体の表示座標系の切り替えの一例を示す。本例は、仮想物体の近傍に配置したボタン等の仮想物体に対するユーザの選択実行に応じて表示座標系の切り替えを行う例である。作業用ツール64Aは、作業手順を伝える動画等の表示オブジェクト64aの領域に対し、隣接する位置、例えば上辺領域に、表示座標系の切り替え等の操作を可能とする制御用の表示オブジェクト64bが表示されている。表示オブジェクト64b内には、表示座標系の切り替えの操作を可能とするボタン64c、“-”で示す縮小ボタン64d、“×”で示す終了ボタン64eが含まれている。
【0152】
ボタン64cは、表示座標系切り替えボタンであり、図23の画像68と同様に循環的な切り替えボタンとしてもよい。ボタン64cは、頭部座標系CH、首部座標系CN、および世界座標系CWの各座標系を表す画像(対応するボタン)を含む。現在選択されている表示座標系に対応する画像は、例えば枠で囲って強調表示されている。ユーザは、所望の表示座標系のボタンの選択操作によって、この作業用ツール64Aの表示座標系を切り替えることができる。
【0153】
表示座標系切り替えの利用例としては、ユーザは、ある場所で、世界座標系CWに配置されている複数の表示オブジェクトの表示座標系を、首部座標系CNもしくは頭部座標系CHに変更する。ユーザは、その場所から移動することで、それらの表示オブジェクトを運搬するようなことができる。そして、ユーザは、移動後の場所で、それらの表示オブジェクトの表示座標系を、例えば世界座標系CWに戻す。これにより、ユーザは、少ない手間で、各表示オブジェクトの世界座標系CW内での位置を変更することができる。
【0154】
上記運搬時や、しばらく注視しなくてもよい表示オブジェクトについては、縮小表示すると、表示スペースの有効利用ができる。HMD1は、ユーザの指示等に応じて、仮想物体の表示サイズを変更する。図24の(B)は、(A)の縮小ボタン64dの操作によって、作業用ツール64Aを縮小表示した例を示す。制御用ボタンの1つには、矩形で示す拡大ボタン64fがあり、拡大ボタン64fの操作によって、作業用ツール64Aを元の状態に戻すことができる。縮小表示に限らず、アイコンに変化させる等の態様も可能である。以上のように、仮想物体毎に表示座標系を切り替える機能により、ユーザの利便性を高めることができる。
【0155】
[表示制御例(5)]
図25は、実施の形態5における第5表示制御例を示す。頭装着部1Aと首装着部1Bとの位置関係が分からない場合に、首部座標系CNの代替として使用する座標系を設けてもよい。ここでは、この座標系を慣性座標系CIと呼ぶ。この慣性座標系CIは、具体的には、世界座標系CWの座標原点を、頭部座標系CH(対応する頭装着部1A)または首部座標系CN(対応する首装着部1B)の移動に追随させて構成する座標系である。例えば、ある地点で、ユーザから見て北の方向の慣性座標系CI上の位置に配置した表示オブジェクトは、ユーザが移動しても、また向きを変えても、常にユーザに対し北の方向の位置に表示される。
【0156】
このような慣性座標系CIを基準とした表示方式も、仮想物体の配置位置に関して、ユーザおよびHMD1の移動に追随しながらも頭装着部1Aの向きの変化には追随しないという表示方式である。ユーザの身体の正面方向(首部座標系CNの体幹方向)が分からない場合に、慣性座標系CIを用いることで、ユーザの近辺に配置しておきたい仮想物体を、ユーザの周囲の広範囲の方向に配置できる等の効果を持つ。この表示方式は、世界座標系CWを測定できるHMDであれば適用可能である。
【0157】
HMD1は、例えば何らかの原因で頭装着部1Aと首装着部1Bとの位置関係が一時的に分からなくなり、首部座標系CNの方向が分からなくなった場合に、首部座標系CNに配置されている表示オブジェクトの表示座標系を慣性座標系CIに切り替える。HMD1は、再び首部座標系CNの方向が分かるようになった時点で、その表示オブジェクトの表示座標系を慣性座標系CIから首部座標系CNに戻す。あるいは、HMD1は、ユーザの指示(例えば第4表示制御例と同様の操作)に応じて、対象の仮想物体等の表示座標系として慣性座標系CIを選択し、切り替えるようにしてもよい。
【0158】
図25は、慣性座標系CIの概念を示す。最初、世界座標系CW内の位置P01に、HMD1を装着したユーザがいる。ユーザの体幹および頭の方向は例えば北向きである。北向きに対応するFOV25A内には、仮想物体251,252,253等が見えている。慣性座標系CIの3軸を(XI,YI,ZI,)で示す。軸ZIは鉛直方向、軸XIは北方向、軸YIは西方向に対応する。HMD1は、所定の契機で、仮想物体251等の表示座標系を例えば首部座標系CNから慣性座標系CIに変更する。
【0159】
ユーザが位置P01から移動し、頭の向きを回転するように変更した場合を、位置P02に示す。頭方向は、例えば北向きから右側に45度程度回転している。慣性座標系CIの原点は、位置P01から位置P02に移動している。仮想物体251等は、慣性座標系CIと共に移動しており、ユーザの位置P02から位置関係を保持したまま北方向の位置に配置されている。位置P02での頭方向のFOV25B内では、仮想物体251は見えず、仮想物体252は見えている。HMD1は、所定の契機で、仮想物体251等の表示座標系を、慣性座標系CIから例えば首部座標系CNに戻す。以上のように、新たな座標系の導入により、多様な条件下で、仮想物体の表示制御ができ、ユーザの利便性をより向上できる。
【0160】
以上、本発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は前述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0161】
1…HMD、1A…頭装着部、1B…首装着部、2…操作器(リモコン)、3A…サーバ、3B…PC、4…接続線、5…表示面、6…カメラ、7…測距センサ、8…マイク、9…スピーカ、10,11,12…筐体、14…操作入力部、17…マーカ。
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