(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014924
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】熱発電電池、熱発電電池の製造方法及び熱発電体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02N 11/00 20060101AFI20240125BHJP
H10N 10/17 20230101ALI20240125BHJP
【FI】
H02N11/00 A
H10N10/17 Z
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191595
(22)【出願日】2023-11-09
(62)【分割の表示】P 2018248082の分割
【原出願日】2018-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100114270
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 朋也
(74)【代理人】
【識別番号】100130052
【弁理士】
【氏名又は名称】大阪 弘一
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】梅 ▲ヒョウ▼
(72)【発明者】
【氏名】松下 祥子
(57)【要約】
【課題】高温環境下にて実用可能な熱発電電池、熱発電電池の製造方法及び熱発電体の製造方法を提供する。
【解決手段】熱発電電池は、熱電変換層および固体電解質層が積層された複数の熱利用発電素子を含み、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱発電体と、絶縁状態で組み合わされる第1のケース体と第2のケース体とを含み、熱発電体を収容する導電性のケースと、第1のケース体と第2のケース体を電気的に絶縁しつつ、第1のケース体または第2のケース体と固体電解質層とを熱発電体の側面で電気的に絶縁する絶縁部材と、ケースに収容され、熱発電体およびケースに挟まれて圧縮される圧縮導電体と、を備える。圧縮導電体を、第1のケース体および第2のケース体の少なくとも一方の側に配置することによって、第1のケース体、熱発電体および第2のケース体は、積層方向で電気的に接続される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換層および固体電解質層が積層された複数の熱利用発電素子を含み、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱発電体と、
互いに組み合わされる第1のケース体と第2のケース体とを含み、前記熱発電体を収容する導電性のケースと、
前記第1のケース体と前記第2のケース体を電気的に絶縁しつつ、前記第1のケース体または前記第2のケース体と前記固体電解質層とを前記熱発電体の側面で電気的に絶縁する絶縁部材と、
前記ケースに収容され、前記熱発電体および前記ケースの間に位置する圧縮導電体と、
を備え、
前記圧縮導電体を、前記第1のケース体および前記第2のケース体の少なくとも一方の側に配置することによって、前記第1のケース体、前記熱発電体および前記第2のケース体は、前記熱電変換層および前記固体電解質層の積層方向で電気的に接続され、
前記圧縮導電体は、前記熱電変換層に接する、熱発電電池。
【請求項2】
前記圧縮導電体は、前記熱発電体および前記ケースの隙間を埋めるように、前記熱発電体及び前記ケースの間に挟まれる、請求項1に記載の熱発電電池。
【請求項3】
第1のケース体と第2のケース体とを含む導電性のケースと、
前記導電性のケースに収容され、順に積層される熱電変換層および固体電解質層を含む熱利用発電素子と、
前記第1のケース体と前記第2のケース体とを電気的に絶縁つつ、前記第1のケース体または前記第2のケース体と前記固体電解質層とを前記熱利用発電素子の側面で電気的に絶縁する絶縁部材と、
前記ケースに収容され、前記熱利用発電素子および前記ケースの間に位置する圧縮導電体と、
を備え、
前記第1のケース体と、前記熱利用発電素子と、前記第2のケース体とは、互いに電気的に接続され、
前記圧縮導電体は、前記熱電変換層に接する、熱発電電池。
【請求項4】
前記圧縮導電体は、前記熱利用発電素子および前記ケースの隙間を埋めるように、前記熱利用発電素子及び前記ケースの間に挟まれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱発電電池。
【請求項5】
前記熱電変換層は、互いに積層される電子熱励起層及び電子輸送層を有し、
前記電子熱励起層は、前記固体電解質層に接する、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱発電電池。
【請求項6】
前記圧縮導電体は、前記電子輸送層に接触する、請求項5に記載の熱発電電池。
【請求項7】
前記圧縮導電体は、金属多孔体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱発電電池。
【請求項8】
前記圧縮導電体は、前記第1のケース体および前記第2のケース体の両側に配置されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱発電電池。
【請求項9】
前記第1のケース体および前記第2のケース体のそれぞれは、その一端が閉鎖されると共にその他端が開口する有底円筒形状を呈する、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱発電電池。
【請求項10】
前記第1のケース体は、第1の板部材と、前記第1の板部材の縁に沿って設けられる第1の側壁とを有し、
前記第2のケース体は、第2の板部材と、前記第2の板部材の縁に沿って設けられる第2の側壁とを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱発電電池。
【請求項11】
前記圧縮導電体は、不変鋼板から形成される、請求項1~10のいずれか一項に記載の熱発電電池。
【請求項12】
熱電変換層および固体電解質層が積層された複数の熱利用発電素子を形成して熱発電体を得る工程と、
前記熱発電体と圧縮導電体とを、導電性を有する第1のケース体および第2のケース体のいずれかに収容する工程と、
前記熱発電体を収容した、前記第1のケース体または前記第2のケース体と前記熱発電体の側面とが電気的に絶縁され、かつ前記第1のケース体と前記第2のケース体とが電気的に絶縁されるように、絶縁部材を介在させた状態で前記第1のケース体と前記第2のケース体とを組み合わせる工程と、
を含み、
前記圧縮導電体は、前記熱電変換層に接する、熱発電電池の製造方法。
【請求項13】
前記熱電変換層は、互いに積層される電子熱励起層及び電子輸送層を有し、
前記電子熱励起層は、前記固体電解質層に接する、請求項12に記載の熱発電電池の製造方法。
【請求項14】
前記圧縮導電体は、前記電子輸送層に接触する、請求項13に記載の熱発電電池の製造方法。
【請求項15】
前記第1のケース体は、第1の板部材と、前記第1の板部材の縁に沿って設けられる第1の側壁とを有し、
前記第2のケース体は、第2の板部材と、前記第2の板部材の縁に沿って設けられる第2の側壁とを有する、請求項12~14のいずれか一項に記載の熱発電電池の製造方法。
【請求項16】
前記圧縮導電体は、前記熱発電体および前記ケースの隙間を埋めるように、前記熱発電体及び前記ケースの間に挟まれる、請求項12~15のいずれか一項に記載の熱発電電池の製造方法。
【請求項17】
前記圧縮導電体は、不変鋼板から形成される、請求項12~16のいずれか一項に記載の熱発電電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱発電電池、熱発電電池の製造方法及び熱発電体の製造方法に関し、特に熱電変換機能を奏する熱発電電池、熱発電電池の製造方法及び熱発電体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地熱又は工場の排熱等を利用した熱利用発電として、ゼーベック効果を利用した方法が挙げられる。また、ゼーベック効果を利用しない熱利用発電として、下記特許文献1に開示される熱利用発電素子が挙げられる。下記特許文献1では、電解質と、熱励起電子及び正孔を生成する熱電変換材料とを組み合わせることによって、熱エネルギーを電気エネルギーに変換することが開示されている。このような熱利用発電素子を電子部品の電源として用いることによって、例えば一般的な電池が劣化しやすい高温環境下(例えば、50℃以上)においても、当該電子部品に対して安定した電力を供給できる。このため、上記熱利用発電素子の実用化に向けた研究開発がなされている。研究開発のテーマの一つとして、従来の電池との置換容易性を確保する観点から、上記熱利用発電素子の実用的なパッケージ構造が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/038988号
【特許文献2】特開2010-56067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電池の一種として、コイン型電池(ボタン型電池)が挙げられる。このコイン型電池は、外部電源とは独立した状態で電源を必要とし、低消費電力である電子部品に対して主に用いられる。上記特許文献2では、使用に伴う膨張等に起因した接触面圧のばらつき対策として、ばねが収容されているコイン型リチウム二次電池が開示されている。
【0005】
高温環境下にて実用可能な電池を得るために、例えば、上記特許文献2に記載されるようなコイン型電池に上記特許文献1に記載される熱利用発電素子を組み合わせることが考えられる。しかしながら、単に上記組み合わせを実施するだけでは、起電力、信頼性等の観点から実用に耐え得る電池を得ることができない。したがって、さらなる改良が必要である。
【0006】
本発明の一側面の目的は、高温環境下にて実用可能な熱発電電池、熱発電電池の製造方法及び熱発電体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る熱発電電池は、熱電変換層および固体電解質層が積層された複数の熱利用発電素子を含み、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱発電体と、絶縁状態で組み合わされる第1のケース体と第2のケース体とを含み、熱発電体を収容する導電性のケースと、第1のケース体と第2のケース体を電気的に絶縁しつつ、第1のケース体または第2のケース体と固体電解質層とを熱発電体の側面で電気的に絶縁する絶縁部材と、ケースに収容され、熱発電体およびケースに挟まれて圧縮される圧縮導電体と、を備え、圧縮導電体を、第1のケース体および第2のケース体の少なくとも一方の側に配置することによって、第1のケース体、熱発電体および第2のケース体は、熱電変換層および固体電解質層の積層方向で電気的に接続される。
【0008】
上記熱発電電池は、熱の印加によって発電する熱発電体を備える。この熱発電体は、積層方向において積層される複数の熱利用発電素子を有する。これにより、熱発電電池の起電力を向上できる。また、熱発電体を収容するケースには、圧縮導電体が収容されている。これにより、熱発電体へ不要な圧力が印加されることを防止できるので、熱発電体の破損を抑制できる。さらには、圧縮導電体がケースと熱発電体とに介在するので、ケースと熱発電体との接触不良を良好に防止できる。したがって上記一側面によれば、高温環境下にて実用可能な熱発電電池を提供できる。
【0009】
熱電変換層は、順に積層される電子熱励起層及び電子輸送層を有し、電子熱励起層は、固体電解質層に接してもよい。この場合、電子輸送層を介して電子熱励起層から電子が良好に取り出されるので、熱発電体の性能を向上できる。
【0010】
圧縮導電体は、金属多孔体であってもよい。この場合、圧縮導電体が容易に塑性変形することによって、圧縮導電体を介してケースから熱発電体に加わる圧力を低減できる。このため、熱発電体の破損を抑制できる。
【0011】
上記熱発電電池においては、圧縮導電体は、第1のケース体および第2のケース体の両側に配置されてもよい。この場合、第1のケース体および第2のケース体と熱発電体との接触不良をより良好に防止できる。
【0012】
第1のケース体および第2のケース体のそれぞれは、その一端が閉鎖されると共にその他端が開口する有底円筒形状を呈してもよい。
【0013】
本発明の別の一側面に係る熱発電電池の製造方法は、熱電変換層および固体電解質層を繰り返し積層してなる熱利用発電素子を形成して熱発電体を得る工程と、熱発電体と圧縮導電体とを、導電性を有する第1のケース体および第2のケース体のいずれかに収容する工程と、熱発電体を収容した、第1のケース体または第2のケース体と熱発電体の側面とが電気的に絶縁され、かつ第1のケース体と第2のケース体とが電気的に絶縁されるように、絶縁部材を介在させた状態で第1のケース体と第2のケース体とを組み合わせることにより、熱発電体をケースに収容する工程と、を含む。
【0014】
上記製造方法によって、高温環境下にて実用可能な熱発電電池の製造方法を提供できる。
【0015】
本発明のさらに別の一側面に係る熱発電体の製造方法は、熱電変換層および固体電解質層が積層された複数の熱利用発電素子を含む熱発電体の製造方法であって、熱電変換層を形成した後に、熱電変換層上に固体電解質を形成する工程を複数回繰り返して熱発電体を得る工程を含む。この製造方法によって実用可能な熱発電体の製造方法を提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一側面によれば、高温環境下にて実用可能な熱発電電池、熱発電電池の製造方法及び熱発電体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態に係る熱発電電池を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、熱利用発電素子の発電機構を説明するための模式図である。
【
図3】
図3(a)~(c)は、熱発電体の製造方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は、熱発電電池の製造方法を説明するための図である。
【
図5】
図5(a)は、実施形態の第1変形例に係る熱発電電池を示す概略断面図であり、
図5(b)は、実施形態の第2変形例に係る熱発電電池を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0019】
まず、
図1を参照しながら、本実施形態に係るコイン電池の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る熱発電電池を示す概略断面図である。
図1に示される熱発電電池1は、外部から熱が供給されることによって発電する熱利用発電池である。熱発電電池1は、ケース2と、熱発電体3と、圧縮導電体4と、ガスケット5とを有する。ガスケット5は、絶縁部材の一例に相当する。
【0020】
ケース2は、導電性を示す金属製もしくは合金製の中空容器であり、ハウジング11及び蓋12を有する。本実施形態では、ケース2はステンレス製である。ハウジング11及び蓋12のいずれか一方が、第1のケース体および第2のケース体のいずれか一方の一例に相当し、ハウジング11及び蓋12のいずれか他方が、第1のケース体および第2のケース体のいずれか他方の一例に相当する。
【0021】
ハウジング11は、熱発電電池1における正極及び負極の一方として機能する部材であり、熱発電体3、圧縮導電体4、及びガスケット5を収容する。ハウジング11は、底板11a及び側壁11bを有する。底板11aは、例えば円板形状、楕円板形状、多角板形状等を呈する。側壁11bは、底板11aの縁に沿って設けられる。本実施形態では、底板11aは円板形状を呈するので、ハウジング11は、その一端が底板11aにて閉鎖されると共にその他端が開口する有底円筒形状を呈する。
【0022】
蓋12は、熱発電電池1における正極及び負極の他方として機能する部材であり、ガスケット5を介してハウジング11を封止する。蓋12は、天板12a及び側壁12bを有する。天板12aは、例えば円板形状、楕円板形状、多角板形状等を呈する。天板12aの直径は、ハウジング11の内径よりも小さい。このため、ハウジング11と蓋12とを組み合わせたとき、蓋12は、ハウジング11の側壁11bに囲まれるように配置される。また、側壁12bは、天板12aの縁に沿って設けられており、底板11aに向かって延在している。本実施形態では、天板12aもまた円板形状を呈するので、蓋12は、その一端が天板12aにて閉鎖されると共にその他端が開口する有底円筒形状を呈する。
【0023】
熱発電体3は、外部から熱が供給されることによって発電する部材(すなわち、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する部材)であり、ケース2のハウジング11及び蓋12に電気的に接続される。本実施形態では、熱発電体3は、ハウジング11の底板11aに接触する一方で、ハウジング11の側壁11b及び蓋12とは離間している。熱発電体3と側壁11b,12bとの間にガスケット5が存在することによって、熱発電電池1の短絡を防止できる。また、熱発電体3がケース2に収容されたとき、熱発電体3は、蓋12の側壁12bに囲まれるように配置される。
【0024】
熱発電体3は、積層される複数の熱利用発電素子21を有する。例えば、熱発電体3は、1個以上10個以下の熱利用発電素子21を有する。各熱利用発電素子21は、外部から熱が供給されることによって、熱励起電子及び正孔を生成する。熱利用発電素子21による熱励起電子及び正孔の生成は、例えば25℃以上300℃以下にて実施される。十分な数の熱励起電子及び正孔を生成する観点から、熱発電電池1の使用時において熱利用発電素子21は、50℃以上に加熱されてもよい。熱利用発電素子21の劣化等を良好に防止する観点から、熱発電電池1の使用時において熱利用発電素子21は、200℃以下に加熱されてもよい。なお、十分な数の熱励起電子が生成される温度は、例えば「熱利用発電素子21の熱励起電子密度が1015/cm3以上となる温度」である。
【0025】
複数の熱利用発電素子21は、ケース2のハウジング11と蓋12とが組み合わされる方向(以下、単に「積層方向」とする)に沿って積層される。このため、各熱利用発電素子21は、直列接続されている。複数の熱利用発電素子21のそれぞれは、積層方向において積層する熱電変換層22及び固体電解質層23を有する。このため、熱電変換層22と固体電解質層23とが交互に積層されることによって、熱電変換層22及び固体電解質層23が繰り返し積層された熱発電体3が形成される。熱電変換層22は、積層方向において積層される電子熱励起層22a及び電子輸送層22bを有する。
【0026】
電子熱励起層22aは、熱利用発電素子21にて熱励起電子及び正孔を生成する層であり、固体電解質層23に接する。電子熱励起層22aは、熱電変換材料を含む。熱電変換材料は、高温環境下にて励起電子が増加する材料であり、例えば、金属半導体(Si,Ge)、テルル化合物半導体、シリコンゲルマニウム(Si-Ge)化合物半導体、シリサイド化合物半導体、スクッテルダイト化合物半導体、クラスレート化合物半導体、ホイスラー化合物半導体、ハーフホイスラー化合物半導体、金属酸化物半導体、有機半導体等の半導体材料である。比較的低温にて十分な熱励起電子を生成する観点から、熱電変換材料は、ゲルマニウム(Ge)でもよい。電子熱励起層22aは、複数の熱電変換材料を含んでもよい。電子熱励起層22aは、熱電変換材料以外の材料を含んでもよい。例えば、電子熱励起層22aは、熱電変換材料を結合させるバインダ、熱電変換材料の成形を補助する焼結助剤などを含んでもよい。電子熱励起層22aは、例えばスキージ法、スクリーン印刷法、放電プラズマ焼結法、圧縮成形法、スパッタリング法、真空蒸着法、科学気相成長法(CVD法)、スピンコート法等によって形成される。
【0027】
電子輸送層22bは、電子熱励起層22aにて生成された熱励起電子を外部へ輸送する層であり、積層方向において電子熱励起層22aを介して固体電解質層23の反対側に位置する。このため本実施形態では、熱発電体3において最もハウジング11の底板11aに近い電子輸送層22bは、底板11aに接触する。電子輸送層22bは、電子輸送材料を含む。電子輸送材料は、その伝導帯電位が熱電変換材料の伝導帯電位と同じかそれよりも正である材料である。電子輸送材料の伝導帯電位と、熱電変換材料の伝導帯電位との差は、例えば0.01V以上0.1V以下である。電子輸送材料は、例えば半導体材料、金属材料、電子輸送性有機物等である。電子輸送層22bは、例えばスキージ法、スクリーン印刷法、放電プラズマ焼結法、圧縮成形法、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、スピンコート法等によって形成される。
【0028】
半導体材料は、例えば、電子熱励起層22aに含まれる半導体材料と同一である。金属材料は、例えば金属、合金、N型金属酸化物、N型金属硫化物、ハロゲン化アルカリ金属、アルカリ金属等である。N型金属は、例えばニオブ、チタン、亜鉛、錫、バナジウム、インジウム、タングステン、タンタル、ジルコニウム、モリブデン及びマンガンである。電子輸送性有機物は、例えば、N型導電性高分子、N型低分子有機半導体、π電子共役化合物等である。電子輸送層22bは、複数の電子輸送材料を含んでもよい。電子輸送層22bは、電子輸送材料以外の材料を含んでもよい。例えば、電子輸送層22bは、電子輸送材料を結合させるバインダ、電子輸送材料の成形を補助する焼結助剤などを含んでもよい。
【0029】
電子輸送層22bは、単層構造を有してもよいし、多層構造を有してもよい。例えば、電子輸送層22bは、金属層と半導体層との積層体でもよい。この場合、半導体層が電子熱励起層22aに接触してもよい。金属層の化学反応を防止もしくは抑制する観点から、金属層に含まれる金属は、例えばチタン、金、白金、銀、タングステン、タンタル等である。一例では、金属層は白金層(Pt層)であり、半導体層はn型Si層である。n型Si層は、例えばシリコン層にリン等をドーピングすることによって形成される。
【0030】
固体電解質層23は、熱発電体3にて十分な数の熱励起電子が生成される温度にて、電荷輸送イオン対が内部を移動できる固体電解質を含む層である。固体電解質層23内を上記電荷輸送イオン対が移動することによって、固体電解質層23に電流が流れる。「電荷輸送イオン対」は、互いに価数が異なる安定な一対のイオンである。一方のイオンが酸化または還元されると他方のイオンとなり、電子と正孔とを移動できる。固体電解質層23内の電荷輸送イオン対の酸化還元電位は、電子熱励起層22aに含まれる熱電変換材料の価電子帯電位よりも負である。このため、電子熱励起層22aと固体電解質層23との界面では、電荷輸送イオン対のうち、酸化されやすいイオンが酸化され、他方のイオンとなる。なお、固体電解質層23は、電荷輸送イオン対以外のイオンを含んでもよい。固体電解質層23は、例えばスキージ法、スクリーン印刷法、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、ゾルゲル法、又はスピンコート法によって形成できる。
【0031】
固体電解質層23に含まれる固体電解質は、例えば、上記温度にて物理的及び化学的に安定である物質であり、多価イオンを含む。固体電解質は、例えば、ナトリウムイオン伝導体、銅イオン伝導体、鉄イオン伝導体、リチウムイオン伝導体、銀イオン伝導体、水素イオン伝導体、ストロンチウムイオン伝導体、アルミニウムイオン伝導体、フッ素イオン伝導体、塩素イオン伝導体、酸化物イオン伝導体等である。固体電解質は、例えば、分子量60万以下のポリエチレングリコール(PEG)またはその誘導体でもよい。固体電解質がPEGである場合、例えば銅イオン、鉄イオン等の多価イオン源が固体電解質層23に含まれてもよい。寿命向上等の観点から、アルカリ金属イオンが固体電解質層23に含まれてもよい。PEGの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによりポリスチレン換算で測定される重量平均分子量に相当する。固体電解質層23は、固体電解質以外の材料を含んでもよい。例えば、固体電解質層23は、固体電解質を結合させるバインダ、固体電解質の成形を補助する焼結助剤などを含んでもよい。
【0032】
ここで、
図2を参照しながら、熱利用発電素子の発電機構の概要について説明する。
図2は、熱利用発電素子の発電機構を説明するための模式図である。説明のため、本段落における固体電解質層23に含まれる電荷輸送イオン対を鉄イオン(Fe
2+,Fe
3+)とする。まず、高温環境下において、電子熱励起層22aにて励起した電子e
-が生じる。この電子e
-は、電子輸送層22bに移動する。これにより、電子熱励起層22aには正孔h
+が生じる。この正孔h
+は、電子熱励起層22aと固体電解質層23との第1界面にてFe
2+を酸化する。すなわち、この正孔h
+が第1界面にてFe
2+の電子を奪う。これにより、第1界面に位置するFe
2+がFe
3+になる。一方、電子輸送層22b内にて過剰になった電子e
-は、外部に移動し、抵抗R及び端子Tを通過して固体電解質層23に到達する。固体電解質層23に到達した電子e
-は、固体電解質層23と端子Tとの第2界面にてFe
3+を還元する。これにより、第2界面に位置するFe
3+がFe
2+になる。そして、第1界面にて酸化されたFe
3+が第2界面に向かって拡散されると共に、第2界面にて還元されたFe
2+が第1界面に向かって拡散される。これにより、第1界面と第2界面との上記酸化還元反応が維持される。このような熱励起による電子の生成と、酸化還元反応とが発生することによって、熱利用発電素子21が発電する。なお、電子が抵抗Rを通過する際に発生する仕事が発電に相当する。
【0033】
図1に戻って、圧縮導電体4は、積層方向におけるケース2と熱発電体3との隙間を埋める部材であり、積層方向においてケース2と熱発電体3とに挟まれる。本実施形態では、圧縮導電体4は、積層方向において熱発電体3と蓋12との間に位置しており、熱発電体3の固体電解質層23と蓋12の天板12aとに接触している。圧縮導電体4は、例えば金属多孔体である。このため、熱発電体3及び圧縮導電体4がケース2に封止されるとき、圧縮導電体4が圧縮変形され得る。金属多孔体は、複数の孔が設けられる三次元多孔質金属体であり、金属多孔体内の孔同士は、互いにつながってもよいし、互いに離間してもよい。金属多孔体は、積層方向から見て網目状に形成されてもよい。この場合、積層方向から見た各網目は、例えば菱形状、六角形状等の多角形状を呈する。金属多孔体は、例えばエキスパンドメタルの加工品などでもよい。
【0034】
熱発電体3へ印加される圧力を低減する観点から、圧縮導電体4は、金属ばね等と比較して弾性力が顕著に小さくてもよい。すなわち上記観点から、圧縮導電体4は塑性変形する部材でもよい。熱発電電池1が加熱されるときに熱発電体3へ印加される圧力を低減する観点から、圧縮導電体4は、不変鋼板によって形成されてもよい。この場合、圧縮導電体4が熱膨張しにくくなるので、圧縮導電体4から熱発電体3へ印加される圧力を良好に低減できる。
【0035】
ガスケット5は、ケース2内の隙間を埋める絶縁部材である。本実施形態では、ガスケット5は、ハウジング11の側壁11bと熱発電体3の側面との隙間を埋める。また、ガスケット5は、蓋12の側壁12bの周囲を覆う。これにより、ガスケット5は、ハウジング11と蓋12との短絡を良好に防止する。ガスケット5は、耐熱性及び絶縁性を示す樹脂材料を含み、例えばフッ素含有樹脂である。
【0036】
次に、
図3(a)~(c)及び
図4を参照しながら、本実施形態に係る熱発電電池1の製造方法の一例について説明する。
図3(a)~(c)は、熱発電体の製造方法を説明するための図であり、
図4は、熱発電電池の製造方法を説明するための図である。
【0037】
まず、
図3(a),(b)に示されるように、電子輸送層22b上に電子熱励起層22aを形成することによって、熱電変換層22を形成する。本実施形態では、
図3(a)に示されるように、電子熱励起層22aを構成する半導体材料ターゲット41をスパッタリングすることによって、電子輸送層22b上に電子熱励起層22aを形成する。なお、電子輸送層22bは、例えば後述する方法にて仮基板等に予め形成されている。
【0038】
次に、
図3(b),(c)に示されるように、熱電変換層22上に固体電解質層23を形成することによって、熱利用発電素子21を形成する。本実施形態では、
図3(b)に示されるように、CVD法によって、シャワーヘッド51から供給される固体電解質層23を構成する物質を熱電変換層22に積層させ、固体電解質層23を形成する。これにより、
図3(c)に示されるように、熱利用発電素子21を形成する。
【0039】
次に、電子輸送層22bを構成する電子輸送材料ターゲット42をスパッタリングすることによって、電子輸送層22bを熱利用発電素子21上に形成する。このように
図3(a)~(c)に示される各層の形成を複数回繰り返し実施することによって、複数の熱利用発電素子21を有する熱発電体3を形成する。
【0040】
次に、
図4に示されるように、熱発電体3及び圧縮導電体4を準備する。続いて、熱発電体3及び圧縮導電体4をハウジング11に収容する。このとき、ハウジング11の底板11a上に熱発電体3を配置した後、当該熱発電体3上に圧縮導電体4を配置する。加えて、ハウジング11の側壁11bと熱発電体3の側面とが電気的に絶縁されるようにガスケット5が設けられる。
【0041】
続いて、ガスケット5を介在させた状態でハウジング11と蓋12とを組み合わせることによって、熱発電体3及び圧縮導電体4を封止する。このとき、蓋12の側壁12bをガスケット5に埋め込む。これにより、蓋12の側壁12bと、ハウジング11の側壁11b、熱発電体3の側面、及び圧縮導電体4の側面との絶縁状態を確保する。すなわち、蓋12の側壁12bと、ハウジング11の側壁11b、熱発電体3の側面、及び圧縮導電体4の側面とが電気的に絶縁される。そして、ハウジング11と蓋12とをかしめることによって、
図1に示される熱発電電池1を製造できる。
【0042】
以上に説明した本実施形態に係る製造方法にて製造された熱発電電池1は、熱の印加によって発電する熱発電体3を備える。この熱発電体3は、積層方向において積層される複数の熱利用発電素子21を有する。これにより、熱発電電池1の起電力を向上できるので、熱発電電池1は、電子部品の電源としての機能を良好に発揮できる。また、各熱利用発電素子21は、熱電変換層22と、固体電解質層23とを有する。これにより、高温環境下に設置された熱発電電池1は、熱を電気に変換することによって、接続された電子部品に対して電気エネルギーを長期的に供給できる。また、複数の熱利用発電素子21の間には、通常の電池では必要とされる集電体を省略できる。
【0043】
また、熱発電体3を収容するケース2には、圧縮導電体4も収容されている。この圧縮導電体4がケース2と熱発電体3との隙間を埋めることによって、ケース2と熱発電体3との接触不良を良好に防止できる。加えて、熱発電体3は、リチウム二次電池等と比較して、使用に伴う膨張、並びに熱膨張が発生しにくい。このため、熱発電体3とケース2(ハウジング11及び蓋12)との接触面圧は、リチウム二次電池等と比較して変化しにくい。したがって、例えば上記特許文献1に示されるようなばねではなく圧縮導電体4を用いたとしても、電流密度の低下は十分に抑制される。加えて、熱発電体3へ不要な圧力が印加されることを防止できるので、熱発電体3の破損を抑制できる。したがって本実施形態によれば、高温環境下にて実用可能な熱発電電池1を提供できる。
【0044】
加えて、本実施形態に係る熱発電電池1は、小型化及び薄型化が可能である。このため、例えば高温環境下に配置されるセンサ等の電子部品に対する電源として、熱発電電池1が利用可能である。
【0045】
本実施形態では、熱電変換層22は、順に積層される電子熱励起層22a及び電子輸送層22bを有し、電子熱励起層22aは、固体電解質層23に接する。このため、電子熱励起層22aから電子が良好に取り出されるので、熱発電体3の性能を向上できる。加えて、各熱利用発電素子21の間に集電体が設けられない場合であっても、熱発電体3が良好な性能を発揮できる。
【0046】
本実施形態では、圧縮導電体4は、金属多孔体であってもよい。この場合、圧縮導電体4の弾性を低下できるので、圧縮導電体4を介してケース2から熱発電体3に加わる圧力を低減できる。このため、熱発電体3の破損を良好に抑制できる。
【0047】
以下では、
図5(a),(b)を参照しながら上記実施形態の変形例を説明する。以下の各変形例の説明において、上記実施形態と重複する記載は省略する。したがって以下では、上記実施形態と異なる部分のみを説明する。
図5(a)は、実施形態の第1変形例に係る熱発電電池を示す概略断面図であり、
図5(b)は、実施形態の第2変形例に係る熱発電電池を示す概略断面図である。
【0048】
図5(a)に示される熱発電電池1Aは、圧縮導電体4の代わりに別の圧縮導電体4Aを備える。圧縮導電体4Aは、積層方向においてハウジング11の底板11aと熱発電体3との間に位置する。このため、圧縮導電体4Aは、底板11aと、熱発電体3の電子輸送層22bとに接触する。一方、第1変形例では、蓋12の天板12aは、固体電解質層23に直接接する。このような第1変形例においても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0049】
図5(b)に示される熱発電電池1Bは、圧縮導電体4,4Aの両方を備える。このような第2変形例においても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて、ケース2と熱発電体3との接触不良をより良好に防止できる。
【0050】
本発明に係る熱発電電池、熱発電電池の製造方法及び熱発電体の製造方法は、上記実施形態及び上記変形例に限定されず、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態及び上記変形例では、熱電変換層に電子輸送層が含まれているが、これに限られない。すなわち、熱電変換層に電子輸送層が含まれなくてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1,1A,1B…熱発電電池、2…ケース、3…熱発電体、4,4A…圧縮導電体、5…ガスケット、11…ハウジング、11a…底板、11b…側壁、12…蓋、12a…天板、12b…側壁、21…熱利用発電素子、22…熱電変換層、22a…電子熱励起層、22b…電子輸送層、23…固体電解質層。