(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149363
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】正極活物質、電気化学デバイス、及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20241010BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/36 E
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023208541
(22)【出願日】2023-12-11
(31)【優先権主張番号】202310370577.0
(32)【優先日】2023-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】呉 冠宏
(72)【発明者】
【氏名】王 文旭
(72)【発明者】
【氏名】孫 化雨
(72)【発明者】
【氏名】楊 文龍
(72)【発明者】
【氏名】王 雲輝
(72)【発明者】
【氏名】莫 方杰
(72)【発明者】
【氏名】劉 胡▲ユン▼
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA09
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】正極活物質を提供する。
【解決手段】正極活物質の二次粒子の内側には一次粒子の形態での第1のリン酸マンガン鉄リチウムを含み、二次粒子の外側には一次粒子の形態での第2のリン酸マンガン鉄リチウムを含む。第1のリン酸マンガン鉄リチウムの一般化学式はLi
xMn
aFe
1-a-a’M1
a’PO
4であり、ここで、0.9≦x≦1.10、0.4≦a≦0.9、及び0.001≦a’≦0.02であり、一次粒子の形態での第2のリン酸マンガン鉄リチウムの一般化学式はLi
yMn
bFe
1-b-b’M2
b’PO
4であり、ここで、0.9≦y≦1.10、0<b≦0.6、及び0.001≦b’≦0.02であり、a>bであり、M1とM2はそれぞれMg、Ti、V、Ni、Co、及びAlのうちの1つ以上である。第1のリン酸マンガン鉄リチウムと第2のリン酸マンガン鉄リチウムの面積比(S)は、S≧(0.4-b)/(a-0.4)を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次粒子を含む正極活物質であって、
前記二次粒子の内側には一次粒子の形態での第1のリン酸マンガン鉄リチウムを含み、
前記二次粒子の外側には前記一次粒子の形態での第2のリン酸マンガン鉄リチウムを含み、
前記第1のリン酸マンガン鉄リチウムの一般化学式はLixMnaFe1-a-a’M1a’PO4であり、ここで、0.9≦x≦1.10、0.4≦a≦0.9、及び0.001≦a’≦0.02であり、
前記第2のリン酸マンガン鉄リチウムの一般化学式はLiyMnbFe1-b-b’M2b’PO4であり、ここで、0.9≦y≦1.10、0<b≦0.6、及び0.001≦b’≦0.02であり、a>bであり、
M1及びM2はそれぞれ、Mg、Ti、V、Ni、Co、及びAlのうちの1つ以上であり、前記第1のリン酸マンガン鉄リチウムの前記第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する面積比はS≧(0.4-b)/(a-0.4)を満たし、Sが前記面積比である、
正極活物質。
【請求項2】
(a)前記第1のリン酸マンガン鉄リチウムの前記一般化学式において、aの値範囲は0.6≦a≦0.8である、及び
(b)前記第2のリン酸マンガン鉄リチウムの前記一般化学式において、bの値範囲は0<b<0.4である、
という条件のうちの少なくとも1つを満たす、
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記第1のリン酸マンガン鉄リチウムの前記第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する前記面積比はb/a≦S≦30b/aを満たす、
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記第1のリン酸マンガン鉄リチウムの前記第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する前記面積比は、0<b<0.55及び0.75<a≦0.9である場合、(0.55-b)/(a-0.55)≦S≦(0.75-b)/(a-0.75)を満たす、
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記第1のリン酸マンガン鉄リチウムの前記第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する前記面積比は、0<b<0.5及び0.5<a≦0.9である場合、S≧(0.5-b)/(a-0.5)を満たす、
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記第1のリン酸マンガン鉄リチウムの前記第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する前記面積比は、0<b<0.4及びa>0.7である場合、(0.4-b)/(a-0.4)≦S≦(0.7-b)/(a-0.7)を満たす、
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記一次粒子の表面は炭素で被覆され、前記炭素の被覆量は1%~3%であり、前記被覆量における百分率は前記一次粒子の質量中の前記炭素の質量の百分率である、
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
正極シートと、負極シートと、セパレータと
を含み、
前記正極シートは請求項1に記載の正極活物質を含む、
電気化学デバイス。
【請求項9】
請求項8に記載の電気化学デバイスを含む、
電子機器。
【請求項10】
正極シートと、負極シートと、セパレータと
を含み、
前記正極シートは請求項2に記載の正極活物質を含む、
電気化学デバイス。
【請求項11】
正極シートと、負極シートと、セパレータと
を含み、
前記正極シートは請求項3に記載の正極活物質を含む、
電気化学デバイス。
【請求項12】
正極シートと、負極シートと、セパレータと
を含み、
前記正極シートは請求項4に記載の正極活物質を含む、
電気化学デバイス。
【請求項13】
正極シートと、負極シートと、セパレータと
を含み、
前記正極シートは請求項5に記載の正極活物質を含む、
電気化学デバイス。
【請求項14】
正極シートと、負極シートと、セパレータと
を含み、
前記正極シートは請求項6に記載の正極活物質を含む、
電気化学デバイス。
【請求項15】
正極シートと、負極シートと、セパレータと
を含み、
前記正極シートは請求項7に記載の正極活物質を含む、
電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は正極活物質、電気化学デバイス、及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リン酸鉄リチウムは、良好な構造安定性、良好な温度安定性、良好な安全性能、及び良好なサイクル寿命という利点を有し、その原材料の資源は豊富である。このため、エネルギー蓄電池及び電気自動車用電池におけるリン酸鉄リチウムの応用が増加している。しかし、リン酸鉄リチウムのプラトー電圧は3.4V vs. Li/Li+にすぎず、これはエネルギー密度を制限する。リン酸マンガンリチウムはリン酸鉄リチウムと同一のオリビン構造を有する。リン酸鉄リチウムと比較し、リン酸マンガンリチウムははより高いプラトー電圧を有するが、その固有リチウムイオン固相の移動速度が遅く、充電分極が大きい。
【0003】
関連技術において、リン酸マンガンリチウム又はリン酸鉄リチウムのエネルギー密度及び導電率は主に、リン酸マンガンリチウムのマンガン部位上の鉄を部分的にドープする、又は、リン酸マンガンリチウムのマンガン位置を部分的に鉄に置き換えることにより向上される。しかし、マンガンによる分極の問題は依然として深刻である。更に、充放電プロセスの間に、リン酸鉄リチウム中のマンガンは析出しやすく、正極の表面にフッ化マンガンを形成する、又は、電解液に溶解し、負極上に析出する。これは、電池サイクルの間のエネルギー損失につながる。このため、高い容量、低い内部抵抗、及び良好な安定性を有するリン酸マンガン鉄リチウム材料の調製は、電気化学デバイスの研究開発にとって非常に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
関連技術における欠点を鑑み、本発明の目的は、正極活物質、正極シート、電気化学デバイス、及び電子機器を提供することにある。本発明の提供する正極活物質は、サイクルの間の金属マンガンの溶解を軽減するのに有益であり、電気化学デバイスのサイクル安定性及びエネルギー密度が更に向上する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
関連技術における課題を解決するため、本発明の第1の様態は二次粒子を含む正極活物質を提供する。二次粒子の内側には一次粒子の形態での第1のリン酸マンガン鉄リチウムを含み、二次粒子の外側には一次粒子の形態での第2のリン酸マンガン鉄リチウムを含む。
【0006】
第1のリン酸マンガン鉄リチウムの一般化学式はLixMnaFe1-a-a’M1a’PO4であり、ここで、0.9≦x≦1.10、0.4≦a≦0.9、及び0.001≦a’≦0.02であり、一次粒子の形態での第2のリン酸マンガン鉄リチウムの一般化学式はLiyMnbFe1-b-b’M2b’PO4であり、ここで、0.9≦y≦1.10、0<b≦0.6、及び0.001≦b’≦0.02であり、a>bであり、M1とM2はそれぞれMg、Ti、V、Ni、Co、及びAlのうちの1つ以上である。第1のリン酸マンガン鉄リチウムと第2のリン酸マンガン鉄リチウムの面積比Sは、S≧(0.4-b)/(a-0.4)を満たす。
【0007】
本発明の第2の様態は、上述した正極活物質を含む正極シートを提供する。
【0008】
本発明の第3の様態は、上述した正極シートを含む電気化学デバイスを提供する。
【0009】
本発明の第4の様態は、上述した電気化学デバイスを含む電子機器を提供する。
【0010】
本発明において用いられる試薬及び原材料は全て市販されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明が提供するポジティブな進歩的効果は下記を含む。
【0012】
(1)本発明において、特別な構造を有するリン酸マンガン鉄リチウム二次粒子が正極活物質として用いられる。リン酸マンガン鉄リチウムにおいて、内側から外側へ、マンガン元素含有量勾配は減少し、鉄元素含有量勾配は増加する。これは、リン酸マンガン鉄リチウムサイクルの間の金属マンガンの溶解問題を軽減するのに有益である。界面に関する内部抵抗も改善することができ、正極活物質のレート性能が向上し、エネルギー密度及びサイクル安定性が高まる。
【0013】
(2)二次粒子の構造は電解液が粒子の内側へ進入することを防止することができ、粒子の内側のサイクル安定性が向上する。内側は一次粒子の形態のマンガンの豊富なリン酸マンガン鉄リチウムであり、外側は一次粒子の形態のマンガンの乏しいリン酸マンガン鉄リチウムである勾配により、このため正極はサイクルの間の界面副反応が少なく、Mnの溶出速度がより緩慢である。このため、サイクル性能及び貯蔵性能が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】正極活物質の概略構造図である(符号1は一次粒子の形態での第1のリン酸マンガン鉄リチウムであり、符号2は一次粒子の形態での第2のリン酸マンガン鉄リチウムである)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
下記段落において実施例と併せて本発明を更に説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されない。下記実施例において特定の条件を指定しない実験方法については、従来の方法及び条件に基づき、又は製品説明書に基づき選択される。
【0016】
正極活物質
【0017】
本発明は、二次粒子を含む正極活物質を提供する。二次粒子の内側には一次粒子の形態での第1のリン酸マンガン鉄リチウムを含み、二次粒子の外側には一次粒子の形態での第2のリン酸マンガン鉄リチウムを含む。
【0018】
第1のリン酸マンガン鉄リチウムの一般化学式はLixMnaFe1-a-a’M1a’PO4であり、ここで、0.9≦x≦1.10、0.4≦a≦0.9、及び0.001≦a’≦0.02であり、一次粒子の形態での第2のリン酸マンガン鉄リチウムの一般化学式はLiyMnbFe1-b-b’M2b’PO4であり、ここで、0.9≦y≦1.10、0<b≦0.6、及び0.001≦b’≦0.02であり、a>bであり、M1とM2はそれぞれMg、Ti、V、Ni、Co、及びAlのうちの1つ以上である。第1のリン酸マンガン鉄リチウムと第2のリン酸マンガン鉄リチウムの面積比Sは、S≧(0.4-b)/(a-0.4)を満たす。
【0019】
関連技術における電池の充放電プロセスの間のマンガンが溶解しやすいことによるエネルギー損失を克服するため、広範な研究を通じて、本発明は、第1のリン酸マンガン鉄リチウムと第2のリン酸マンガン鉄リチウムとの面積比を調節することにより正極材料のエネルギー密度及びサイクル性能を改善できることを見出した。面積比が特定の条件を満たす場合、その電気的特性がより良好となる。
【0020】
本発明において、面積比は、CPSEMにおける第1のリン酸マンガン鉄リチウム及び第2のリン酸マンガン鉄リチウムの断面面積比を指す。
【0021】
本発明において、二次粒子は一次粒子が凝集して形成される。
【0022】
本発明において、第1のリン酸マンガン鉄リチウムの第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する質量比範囲は(0.4~36.5):1であってよい。
【0023】
いくつかの実施形態において、第1のリン酸マンガン鉄リチウムの第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する質量比範囲は、0.4:1、1:1、4.4:1、11.2:1、31.6:1、又は36.5:1であってよい。
【0024】
いくつかの実施形態において、第1のリン酸マンガン鉄リチウムの一般化学式において、aの値範囲は0.6≦a≦0.8である。
【0025】
いくつかの実施形態において、第2のリン酸マンガン鉄リチウムの一般化学式において、bの値範囲は0<b<0.4である。
【0026】
いくつかの実施形態において、第2のリン酸マンガン鉄リチウムの一般化学式において、bの値範囲は0.2≦b<0.4である。
【0027】
第1のリン酸マンガン鉄リチウムはマンガンの豊富なリン酸マンガン鉄リチウムである。Mn含有量が過度に低い場合、Mnプラトー電位を発揮することができず、低エネルギー密度につながり、Mn含有量が過度に高い場合、LMFPの導電性が劣り、容量が低く、低エネルギー密度につながる。第1のリン酸マンガン鉄リチウムはマンガンの乏しいリン酸マンガン鉄リチウムである。Mn含有量が過度に低い場合、Mnプラトー電位を発揮することができず、低エネルギー密度につながり、Mn含有量が過度に高い場合、外部Mn溶出が深刻となり、劣ったサイクル性能につながる。
【0028】
いくつかの実施形態において、第1のリン酸マンガン鉄リチウムの第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する面積比Sは次を満たす:0<b<0.55及び0.75<a≦0.9のとき、(0.55-b)/(a-0.55)≦S≦(0.75-b)/(a-0.75)である。
【0029】
いくつかの実施形態において、第1のリン酸マンガン鉄リチウムの第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する面積比Sは次を満たす:0<b<0.5及び0.5<a≦0.9のとき、S≧(0.5-b)/(a-0.5)である。
【0030】
いくつかの実施形態において、第1のリン酸マンガン鉄リチウムの第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する面積比Sはb/a≦S≦30b/aを満たし、7b/3a≦S≦15b/aを満たすことが好ましい。
【0031】
いくつかの実施形態において、第1のリン酸マンガン鉄リチウムの第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する面積比Sは、0<b<0.4及びa>0.7のとき、[(0.4-b)/(a-0.4)]≦S≦[(0.7-b)/(a-0.7)]であることが好ましい。
【0032】
いくつかの実施形態において、第1のリン酸マンガン鉄リチウムの第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する面積比Sは、0<b<0.5及びa>0.7のとき、[(0.5-b)/(a-0.5)]≦S≦[(0.7-b)/(a-0.7)]であることが好ましい。
【0033】
本発明において、二次粒子は一次粒子が凝集して得られる。一次粒子中にはマンガンの豊富な粒子とマンガンの乏しい粒子が存在する。凝集の間、マンガンの少ない粒子は外側に分布され、マンガンの豊富な粒子は内側に分布され、外側の乏しいマンガン含有量の二次粒子及び内側の豊富なマンガン含有量の二次粒子を形成する。
【0034】
本発明において、CPSEMにおいて、二次粒子の一次粒子数は10粒子/μm2~30粒子/μm2である。
【0035】
いくつかの特定の実施形態において、CPSEMにおける二次粒子の一次粒子数は20粒子/μm2である。
【0036】
一次粒子の表面は炭素で更に被覆されることが好ましい。
【0037】
ここで、炭素の被覆量は1%~3%であり、被覆量における百分率は一次粒子の質量中の炭素の質量の百分率である。
【0038】
いくつかの特定の実施形態において、第1のリン酸マンガン鉄リチウム及び第2のリン酸マンガン鉄リチウムの炭素の被覆量は共に1.8%である。
【0039】
本発明において、二次粒子の調製方法は下記ステップを含むことが好ましい。
【0040】
(1)第1のリン酸マンガン鉄リチウム前駆体(MFP1)の合成:硝酸マンガンと硝酸鉄とを特定のモル比でエタノールに溶解させ、次いで該金属塩のエタノール溶液をリン酸溶液に注ぎ、40℃で攪拌して4時間反応させ、濾過してから洗浄してMFP1を得る。
【0041】
(2)第2のリン酸マンガン鉄リチウム前駆体(MFP2)の原材料溶液をMFP1と混合し、pH=2に制御するためアンモニア水を添加し、50℃で攪拌して反応させ、濾過し、空気中で550℃で1時間焼成し、MFP1@MFP2を得る。
【0042】
(3)MFP1@MFP2を、リチウム源、炭素源、及びドープされた金属源と混合し、水を媒体として湿式粉砕し、噴霧乾燥し、650℃で15時間焼成し、生成物を得る。
【0043】
ステップ(1)において、硝酸マンガンと硝酸鉄のモル比はa:(1-a-a’)であってよく、ここで、0.4≦a≦0.9及び0.001≦a’≦0.02である。
【0044】
ステップ(2)において、MFP2の原材料溶液は、硝酸マンガン、硝酸鉄、及びリン酸を特定のモル比で混合し、これらを水に溶解させることにより得る。硝酸マンガン、硝酸鉄、及びリン酸のモル比はb:(1-b-b’):1であることが好ましく、ここで、0<b≦0.6及び0.001≦b’≦0.02である。
【0045】
ステップ(3)において、リチウム源のMFP1@MFP2に対するモル比は1.05:1であってよい。
【0046】
ステップ(3)において、炭素源の添加量はリチウム源とMFP1@MFP2との総質量の6%~12%であってよい。
【0047】
正極シート
【0048】
本発明の第2の様態は、上述した正極活物質を含む正極シートを提供する。
【0049】
正極シートは一般的に、正極活物質と、導電剤と、バインダーと、正極集電体とを含む。導電剤とバインダーの種類は本発明において特に限定されず、実際の要件に応じて選択されてよい。
【0050】
1つの例として、導電剤は導電性カーボンブラック(SP)であってよい。
【0051】
バインダーはポリフッ化ビニリデン(PVDF)であってよい。
【0052】
正極活物質、導電剤、及びバインダーの質量比は(90~99):1:2であり、例えば97:1.5:1.5であってよい。
【0053】
電気化学デバイス
【0054】
本発明の第3の様態は、上述した正極シートを含む電気化学デバイスを提供する。
【0055】
本発明において、電気化学デバイスは電池であってよい。電池は、正極シートと、正極シートと対向する負極シートと、正極シートと負極シートとの間に配置されるセパレータと、電解質とを含む。正極シートは上記で説明したものである。更に、電池は、正極シートと負極シートとセパレータを収容するための電池筐体、並びに電池筐体を封止する封止部材を任意的に含んでよい。
【0056】
負極シート
【0057】
電池において、負極シートは、負極集電体と、負極集電体上に形成される負極活物質層とを含む。負極活物質は、負極活物質と、任意的にバインダー及び導電剤を含み、添加量は異なる要件に応じて負極活物質層の総量の1%~50%内に調整されてよい。
【0058】
本発明において説明する負極活物質は、リチウムのインターカレーションとデインターカレーションとが可能な材料である。負極活物質は、結晶性炭素(天然黒鉛、人造黒鉛)、非晶質炭素、炭素被覆黒鉛、樹脂被覆黒鉛といった炭素材料と、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化錫、チタン酸リチウム、酸化亜鉛、酸化リチウムといった酸化物材料、又はリチウムを有する合金を形成することができるリチウム金属又は金属材料を含むが、これらに限定されない。ここで、リチウムを有する合金を形成することができる金属材料は、例えば、Cu、Sn、Si、Co、Mn、Fe、Sb、及びAgである。これら金属とリチウムとを含む二元合金又は三元合金も負極活物質として用いることができる。これら負極活物質は、単独又は2つ以上の組合せで用いられてよい。エネルギー密度を増加させる観点から、黒鉛といった炭素材料を、Si、Si合金、及びSi酸化物といったSi系材料とを組み合わせて用いてもよい。
【0059】
ここで、導電剤は電極が良好な充放電性能を発揮することを保証するために用いられる試薬である。導電剤は、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛といった黒鉛材料、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサーマルブラックといったカーボンブラック材料、炭素繊維や金属繊維といった導電性繊維、フッ化カーボン粉末、アルミニウム粉末、及びニッケル粉末といった金属粉末、金属粉末、酸化亜鉛、及びチタン酸カリウムといった導電性ウィスカー、及び二酸化チタンやポリフェニレン誘導体といった導電性金属酸化物を含んでよい。
【0060】
ここで、バインダーは、活物質と導電剤との間の結合を促進し、活物質と集電体との間の結合を促進する成分である。バインダーは一般的に、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、及び様々な共重合体から選択されてよい。
【0061】
ここで、電極活物質を支持する基材としての負極集電体は通常、3ミクロン~500ミクロンの厚さを有する金属箔である。材料が高い導電性を有し二次電池のシステム内で化学反応を生まない限り、集電体の材料に特に制限はない。例えば、材料は、ニッケル、チタン、アルミニウム、銀、ステンレス鋼、カーボン等を表面処理した箔材であってよい。負極集電体は通常、平滑面を有するが、負極活物質と集電体との間の密着性を向上させるため、その表面上に微細な線が形成されてもよい。負極集電体は、箔の他、フィルム、メッシュ、多孔質、発泡体、不織布といった様々な形態のうちの1つ又は組合せを採用してもよい。
【0062】
セパレータ
【0063】
セパレータは正極シートと負極シートとの間に配置され、高いイオン透過性及び高い機械的強度を有する絶縁フィルムが通常用いられる。セパレータは典型的に、9μm~18μmの厚さ、5μm~300μmの細孔径、180s/100mL~380s/100mLの通気性、及び30%~50%の気孔率を有する。セパレータとして、耐薬品性、疎水性である、ポリプロピレンといったオレフィン系ポリマーとガラス繊維又はポリエチレン製のシートや不織布が用いられる。
【0064】
電解質
【0065】
リチウムイオン電池において用いられる電解質は、通常、非水溶媒、リチウム塩、添加剤を含む。
【0066】
ここで、非水溶媒は、本技術分野における従来の非水溶媒であってよく、エステル系溶媒が好ましく、カーボネート系溶媒がより好ましい。ここで、カーボネート系溶媒は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、及びブチレンカーボネート(BC)のうちの少なくとも1つから選択されることが好ましい。
【0067】
ここで、リチウム塩は、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2F)2(略してLiFSI)、LiClO4、LiAsF6、LiB(C2O4)2(略してLiBOB)、LiBF2(C2O4)(略してLiDFOB)、LiN(SO2RF)2、及びLiN(SO2F)(SO2RF)のうちの少なくとも1つから選択されてよい。電解質中のリチウム塩の含有量は5%~20%が好ましい。
【0068】
ここで、添加剤は、炭酸ビニレン(VC)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ビニルエチレン(VEC)、硫酸ビニル(DTD)、硫酸ビニレン、1,3-プロパンスルトン(PS)、プロペンスルトン、1,4-ブタンスルトンのうちの少なくとも1つから選択されることが好ましい。電解質中に用いられる添加剤の典型的な量は、電解質の2%といった電解質の1%~4%である。
【0069】
本発明において電池の形状は特に限定されず、形状は、円筒形、角形、又は他の任意の形状であってよい。
【0070】
電子機器
【0071】
本発明における電子機器は、第3の様態による電気化学デバイスを含む。
【0072】
例示的に、本発明における電子機器は、モバイル装置(例えば、携帯電話、タブレットコンピュータ、ノートブックコンピュータ、ビデオレコーダ、ポータブルプリンタ/コピー機など)、電気自動車(例えば、純粋な電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクータ、電動ゴルフカート、電動トラックなど)、電気機関車、船舶、衛星、エネルギー貯蔵システム、バックアップ電源等であってよいが、これらに限定されない。
【0073】
本技術分野における一般常識に基づき、上述した好ましい条件を任意に組み合わせて、本発明の好ましい実施形態を得ることができる。
【0074】
実施例1
【0075】
(1)正極シートの作製
【0076】
正極活物質、Super P、及びPVDFを質量比97:1.5:1.5で混合した。正極活物質は、二次粒子LiMn0.75Fe0.25PO4@CとLiMn0.25Fe0.75PO4@Cとを含み、S=2.7とした。第1のリン酸マンガン鉄リチウム及び第2のリン酸マンガン鉄リチウムの炭素被覆量は共に1.5%とした。窒素メチルピロリドン(NMP)を高速攪拌で徐々に添加して特定の粘度の正極スラリーを調製した。次いで、調製したスラリーをアルミ箔上に均一に被覆させ、送風乾燥炉内で120℃で10分間乾燥させた。最後に、乾燥した電極シートを巻いて切断して正極シートを作製した。ここで、正極活物質の構造は図示している。
【0077】
(2)負極シートの作製
【0078】
負極活物質黒鉛、導電剤アセチレンブラック、増粘剤カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びバインダースチレン-ブタジエンゴムを質量比97:1:1:1で混合し、脱イオン水を添加して、真空ミキサーの作用下で負極スラリーを得た。負極スラリーを銅箔集電体上に厚さ8μmで均一に被覆させ、室温で乾燥させ、乾燥のためにオーブンに移し、次いで冷間プレス及びスリットして負極シートを得た。
【0079】
(3)電解液の調製
【0080】
有機溶剤はエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)の混合物であり、EC、DMC、EMCの体積比は3:3.5:3.5とした。10ppmより低い水分のアルゴン雰囲気グローブボックスにおいて、完全に乾燥したリチウムイオン塩(LiPF6)を上述した有機溶媒に溶解させ、均一に混合した後に電解液が得られ、LiPF6の濃度は1mоl/Lとした。
【0081】
(4)セパレータの作製
【0082】
12μm厚のポリプロピレンセパレータを選択した。
【0083】
(5)電池の作製
【0084】
上記で得た正極シート、セパレータ、人造黒鉛負極シートを、セパレータが絶縁のため正極シートと負極シートとの間に配置されるよう順に積層した。次いで、アルミニウム-プラスチックフィルムで覆い、乾燥させるため120℃の真空オーブンに移し、3.0g/Ahの電解液を注入した後に封止した。静置、熱間プレス、冷間プレス、4.5V成形、固定、選別、及び他のプロセスの後、最終的に容量1Ahのパウチ電池(即ちリチウムイオン電池)を得た。
【0085】
実施例2~16と比較例1~10のパラメータ設定は表1に示すとおりである。
【0086】
比較例2
【0087】
LiMn0.75Fe0.245Ti0.005PO4@CとLiMn0.25Fe0.745Ti0.005PO4@Cの物理的混合のみを行った。
【0088】
効果実施例
【0089】
(1)第1のリン酸マンガン鉄リチウムの第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する面積比(S)の試験:電極シートをCPにより切断し、SEM及びEDSを撮像し、一次粒子の形態での第1のリン酸マンガン鉄リチウムと第2のリン酸マンガン鉄リチウムがSEM画像及びEDS画像において確認され、次いで粒子面積をImage Jにより統計した。
【0090】
(2)エネルギー密度試験:25℃において、0.33C、2.5V~4.2Vで充放電(充電カットオフ電流0.05C)を行い、放電エネルギーを正極活物質の質量で除算したものをそのエネルギー密度とした。
【0091】
(3)サイクル試験:2.5V~4.2Vの範囲で、45℃において、1Cで500サイクル充放電を行い、1回目のサイクルに対する500回目のサイクルの容量比を容量維持率として記録した。
【0092】
【0093】
【0094】
表2のデータから、実施例1~16の正極活物質を電池に適用した場合、エネルギー密度は全て461Wh/kgを超え、1Cでの500サイクルの充放電の容量維持率は91.5%を超えており、良好な電気化学的性能を得られることが分かる。
【0095】
実施例と比較し、比較例1において第1のリン酸マンガン鉄リチウムのみが存在し、マンガン元素の勾配変化がなく、サイクル性能が劣るという影響が見られる。これは、マンガンが豊富な内側とマンガンの乏しい外側の勾配構造が存在する場合にはリン酸マンガン鉄リチウム中のMn溶出現象が緩和されるためである。比較例1はそのような構造を有さないことから、そのサイクル性能は劣る。
【0096】
実施例1と比較し、同一の正極活物質が比較例2に提供されているとはいえ、2つの正極活物質を物理的に混合して形成された粒子であってマンガン元素の勾配変化を形成せず、Mn溶出の現象を緩和することができず、そのサイクル性能は比較的劣る。
【0097】
比較例3におけるaとbの値は本発明の範囲内になく、本発明のマンガン濃度とは逆であり、構造は外側でマンガンが豊富で内側でマンガンが乏しい。その活物質はエネルギー密度は高いが、本発明の提供する構造を有さないことから、Mn溶出現象を緩和することができない。そのサイクル性能は実施例のものよりも遥かに劣る。
【0098】
比較例4~6は、a又はbの値が過度に高いか過度に低い場合、サイクル性能への影響が明らかでないとはいえ、エネルギー密度に一定の程度で影響し得ることを表している。リン酸マンガン鉄リチウム中のMn含有量が0.9以上である場合の電気的特性は特に劣るため、比較例5のエネルギー密度は劣る。特定範囲内で、Mn含有量が高いほどエネルギー密度が高くなる。比較例4~6において、全体的にMn含有量が低く、よってエネルギー密度が低い。
【0099】
比較例7~9において、面積比(S)は全て(0.4-b)/(a-0.4)未満であり、エネルギー密度が低い。これは、第1のリン酸マンガン鉄リチウムの第2のリン酸マンガン鉄リチウムに対する面積比(S)<該式である場合、Mn含有量が予期される範囲よりも低いためであり、よってエネルギー密度が低い。比較例10の第2のリン酸マンガン鉄リチウム中の鉄の含有量は本発明の提供する範囲内になく、そのサイクル性能は劣る。
【産業上の利用可能性】
【0100】
更に、本発明の正極活物質、電気化学デバイス、及びそれを含む電子機器はエレクトロニクス分野において利用可能であり、産業上の利用可能性が高い。
【0101】
加えて、上述した具体的な実施形態で説明した各具体的な技術的特徴は、矛盾しない限り、任意の適切な方法で組み合わせることができることに留意されたい。 不要な繰り返しを避けるため、本明細書では可能な様々な組合せについては説明しない。
【0102】
また、本発明の様々な実施形態は、本発明の精神に反しない限り任意に組み合わせることが可能であり、それらも本発明の開示内容と見なされるべきである。
【符号の説明】
【0103】
1:第1のリン酸マンガン鉄リチウム
2:第2のリン酸マンガン鉄リチウム
【外国語明細書】