(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149370
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】スパイラル分離膜エレメント、それを用いた水処理装置、水処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 63/10 20060101AFI20241010BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20241010BHJP
B01D 63/12 20060101ALI20241010BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20241010BHJP
【FI】
B01D63/10
B01D63/00 510
B01D63/12
C02F1/44 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218929
(22)【出願日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2023061161
(32)【優先日】2023-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】誉田 剛士
(72)【発明者】
【氏名】谷口 秀
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太朗
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA61
4D006HA65
4D006JA02B
4D006JA05A
4D006JA05B
4D006JA05C
4D006JA06A
4D006JA19C
4D006MA09
4D006MC48
4D006MC56X
4D006MC62
4D006NA41
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB03
4D006PB06
4D006PB08
4D006PC51
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】
分離膜エレメントを運転したときの供給側流路のファウリングを抑制しながら、圧力損失を低減できる分離膜エレメントを提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明の分離膜エレメントは、少なくとも集水管と、分離膜と、供給側流路材と、透過側流路材とを備えるスパイラル分離膜エレメントであって、前記分離膜エレメントの集水管の軸方向に対して垂直な断面において、集水管の中心と任意の外周を結ぶ直線上に位置する前記分離膜と前記供給側流路材によって形成される供給側流路Fについて、内周側の供給側流路の厚みが外周側の流路高さより小さく、前記供給側流路材の厚みDが350μm以上650μm以下となることを特徴とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも集水管と、分離膜と、供給側流路材と、透過側流路材とを備えるスパイラル分離膜エレメントであって、前記分離膜エレメントの集水管の軸方向に対して垂直な断面において、集水管の中心と任意の外周を結ぶ直線上に位置する前記分離膜と前記供給側流路材によって形成される供給側流路Fについて、内周側の供給側流路の厚みが外周側の流路高さより小さく、前記供給側流路材の厚みDが350μm以上650μm以下であることを特徴とする分離膜エレメント。
【請求項2】
前記供給側流路Fについて、外周側の供給側流路高さDOに対する内周側の供給側流路高さDIの比が0.950以下であることを特徴とする請求項1に記載の分離膜エレメント。
【請求項3】
前記供給側流路材は一方向に並んだ複数の繊維状物Aから構成される繊維状列Xおよび前記繊維状列Xとは異なる方向に並んだ複数の繊維状物Bから構成される繊維状列Yとが互いに立体交差して交点を形成したネット形状であり、前記繊維状物Aおよび前記繊維状物Bの少なくとも一方は、太径部と細径部を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の分離膜エレメント。
【請求項4】
前記細径部の糸径に対する前記太径部の糸径の割合が1.5以上2以下であることを特徴する、請求項3に記載の分離膜エレメント。
【請求項5】
前記繊維状物Aおよび前記繊維状物Bの少なくとも一方の長手方向に垂直方向の断面の真円度が0mm以上0.25mm以下であることを特徴とする、請求項3に記載の分離膜エレメント。
【請求項6】
前記供給側流路材の平面から厚み方向に観察したとき、任意の交点と隣り合う交点間の繊
維が一方から他方に向かってテーパー状繊維であることを特徴とする、請求項3に記載の分離膜エレメント。
【請求項7】
前記分離膜エレメントの集水管長手方向の長さが500mm以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の分離膜エレメント。
【請求項8】
請求項1または2に記載の分離膜エレメントを用いて被処理水を処理する水処理装置であって、請求項1または2に記載の分離膜エレメントを少なくとも2本以上直列に配置する水処理装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載の分離膜エレメントを用いて被処理水を処理する水処理方法であって、請求項1または2に記載の分離膜エレメントを少なくとも2本以上直列に配置して使用する水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物を含む種々の液体から不純物を分離するため、特に海水の淡水化、かん水の脱塩、超純水の製造または排水処理などに用いるための分離膜エレメント、それを用いた水処理装置、水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水およびかん水などに含まれるイオン性物質を除くための技術においては、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして、分離膜エレメントによる分離法の利用が拡大している。分離膜エレメントによる分離法に使用される分離膜は、その孔径や分離機能の点から、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜および正浸透膜に分類される。これらの膜は、例えば海水、かん水および有害物を含んだ水などからの飲料水の製造、工業用超純水の製造、並びに排水処理および有価物の回収などに用いられており、目的とする分離成分及び分離性能によって使い分けられている。
【0003】
分離膜エレメントとしては様々な形態があるが、分離膜の一方の面に原水を供給し、他方の面から透過流体を得る点では共通している。分離膜エレメントは、束ねられた多数の分離膜を備えることで、1個の分離膜エレメントあたりの膜面積が大きくなるように、つまり1個の分離膜エレメントあたりに得られる透過流体の量が大きくなるように形成されている。分離膜エレメントとしては、用途や目的にあわせて、スパイラル型、中空糸型、プレート・アンド・フレーム型、回転平膜型、平膜集積型などの各種の形状が提案されている。
【0004】
例えば、逆浸透ろ過には、スパイラル分離膜エレメントが広く用いられる。スパイラル分離膜エレメントは、集水管と、集水管の周囲に巻き付けられた分離膜ユニットとを備える。分離膜ユニットは、供給水としての原水(つまり被処理水)を分離膜表面へ供給する供給側流路材、原水に含まれる成分を分離する分離膜、及び分離膜を透過し供給側流体から分離された透過流体を集水管へと導くための透過側流路材が積層されることで形成される。スパイラル分離膜エレメントは、原水に圧力を付与することができるので、透過流体を多く取り出すことができる点で好ましく用いられている。
【0005】
分離膜エレメントを用いて供給水を処理する際に、長期間分離膜エレメントを運転していると、供給水中の有機物やゴミなどの汚れ物質(ファウラント)が分離膜や供給側流路材に詰まっていくことがある(ファウリング)。ファウリングが生じると、圧力損失の増大やそれに伴う造水量の低下が引き起こされる。
【0006】
このようなファウリングによるエレメント性能低下を抑制するためには、例えば供給側流路材の厚さを厚くし、供給水が通過する供給側流路を広くすることでファウラントが詰まる箇所を少なくすることが挙げられる。しかし、供給側流路材の厚さを厚くすると分離膜エレメントに充填可能な分離膜の面積が減ってしまい、分離膜エレメントの透水性が低下する。
【0007】
そこで、供給側流路材の形状を工夫した分離膜エレメントの性能向上が提案されている。具体的には、特許文献1では、供給側流路材中の繊維状物の交点と交点の間の繊維を細くすることで、圧力損失やファウリング性を低減させたネットが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記した分離膜エレメントは、分離膜エレメント全体の供給側流路高さが最適化されておらず、分離膜エレメントの性能を十分に発揮できていない場合があった。そこで、本発明は、分離膜エレメントの構造を制御することで、ファウリングを抑制しながら、圧力損失を低減できる分離膜エレメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明およびその好ましい態様は、下記[1]~[9]の構成を有する。
[1] 少なくとも集水管と、分離膜と、供給側流路材と、透過側流路材とを備えるスパイラル分離膜エレメントであって、前記分離膜エレメントの集水管の軸方向に対して垂直な断面において、集水管の中心と任意の外周を結ぶ直線上に位置する前記分離膜と前記供給側流路材によって形成される供給側流路Fについて、内周側の供給側流路の厚みが外周側の流路高さより小さく、前記供給側流路材の厚みDが350μm以上650μm以下であることを特徴とする分離膜エレメント。
[2] 前記供給側流路Fについて、外周側の供給側流路高さDOに対する内周側の供給側流路高さDIの比が0.950以下であることを特徴とする[1]に記載の分離膜エレメント。
[3] 前記供給側流路材は一方向に並んだ複数の繊維状物Aから構成される繊維状列Xおよび前記繊維状列Xとは異なる方向に並んだ複数の繊維状物Bから構成される繊維状列Yとが互いに立体交差して交点を形成したネット形状であり、前記繊維状物Aおよび前記繊維状物Bの少なくとも一方は、太径部と細径部を有することを特徴とする、[1]または[2]に記載の分離膜エレメント。
[4] 前記細径部の糸径に対する前記太径部の糸径の割合が1.5以上2以下であることを特徴する、[3]に記載の分離膜エレメント。
[5] 前記繊維状物Aおよび前記繊維状物Bの少なくとも一方の長手方向に垂直方向の断面の真円度が0mm以上0.25mm以下であることを特徴とする、[3]に記載の分離膜エレメント。
[6] 前記供給側流路材の平面から厚み方向に観察したとき、任意の交点と隣り合う交点間の繊維が一方から他方に向かってテーパー状繊維であることを特徴とする、[3]に記載の分離膜エレメント。
[7] 前記分離膜エレメントの集水管長手方向の長さが500mm以上であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の分離膜エレメント。
[8] [1]または[2]に記載の分離膜エレメントを用いて被処理水を処理する水処理装置であって、[1]~[5]のいずれか一項に記載の分離膜エレメントを少なくとも2本以上直列に配置する水処理装置。
[9] [1]または[2]に記載の分離膜エレメントを用いて被処理水を処理する水処理方法であって、[1]または[2]に記載の分離膜エレメントを少なくとも2本以上直列に配置して使用する水処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、供給水がエレメントに流入するとき、流速が遅いところの流路を広くすることで、ファウリングを抑制し、薄い供給側流路材を搭載しても分離膜エレメント全体としての圧力損失を抑制できるため、透水性や脱塩率といった分離性能に優れた分離膜エレメントを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、分離膜エレメントの一例を示す一部展開斜視図である。
【
図2】
図2は、供給側流路材の一例を示す平面図である。
【
図3】
図3は、一般的な円管や平板間の流速分布を示す図である。
【
図4】
図4は、分離膜エレメントに供給される流速分布の例を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の分離膜エレメントの供給側流路高さパターンの例を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明以外の分離膜エレメントの供給側流路高さパターンの例を示す図である。
【
図7】
図7は供給側流路高さのグラフを説明する図である。
【
図8】
図8は、分離膜エレメントの流路高さを測定する方法を示した図である。
【
図9】
図9(a)~
図9(c)は、本発明において、好ましい供給側流路材の態様を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定して解釈されるものではない。
【0014】
尚、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。また、本明細書において、「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0015】
<分離膜エレメント>
本発明のスパイラル分離膜エレメントは、少なくとも集水管と、分離膜と、供給側流路材と、透過側流路材とを備える。
【0016】
図1に示すスパイラル分離膜エレメント1では、供給側の流路を形成する供給側流路材2としては、高分子製のネットが使用されている。また、透過側流路材4としては、分離膜3の落ち込みを防ぎ、かつ透過側の流路を形成させる目的で、供給側流路材2よりも間隔が細かいトリコットが使用されている。透過側流路材4と該透過側流路材4の両面に重ね合わせて封筒状に接着された分離膜3とにより、封筒状膜5が形成される。封筒状膜5の内側が透過側流路を構成している。供給側流路材2と交互に積層された封筒状膜5は、開口部側の所定部分を集水管6の外周面に接着しスパイラル状に巻囲される。
図1に示すx軸の方向が集水管6の長手方向である。またy軸、z軸を含む平面方向が集水管6の長手方向と垂直な方向である。
【0017】
スパイラル分離膜エレメント1では、通常一方の側面から、供給水7が供給され、供給水7は、集水管6と平行に流れながら、透過水8と濃縮水9とに徐々に分離される。透過水8は、供給水7が供給される反対の側面からスパイラル分離膜エレメント1の外部へと出ていく。
【0018】
この方式においては、供給水7がスパイラル分離膜エレメント1の一方の側面から他方の側面へ流れるため必然的に膜に接している距離が十分にあり、それにより供給水7が、透過水8と濃縮水9とに十分に分離されるという特徴がある。
【0019】
<スパイラル分離膜エレメントの製造>
(分離膜リーフの形成)
分離膜リーフは、分離膜の間に供給側流路材を挟みこみ、供給側の面が内側を向くように分離膜を折りたたむことで形成されてもよいし、別々の2枚の分離膜を、供給側の面が向かい合うようにして重ね合わせ、分離膜の周囲を封止することで形成されてもよい。
【0020】
なお、「封止」する方法としては、接着剤またはホットメルトなどによる接着、加熱またはレーザなどによる融着、およびゴム製シートを挟みこむ方法が挙げられる。接着による封止は、最も簡便で効果が高いために特に好ましい。
【0021】
(スパイラル分離膜エレメントの製造)
スパイラル分離膜エレメントは、中心パイプに取り付けられたベースとなる透過側流路材の上に、分離膜リーフと透過側流路材を、接着剤を塗布しながら交互に積層し、巻回することでスパイラル型とすることができる。この時、巻囲張力や部材の厚み、素材などをコントロールすることで、供給側流路の厚みを調整することができる。
【0022】
<スパイラル分離膜エレメントの構造>
スパイラル分離膜エレメントは、均一な厚みの供給側流路材、均一な厚みの透過側流路材、均一な厚みの膜を用いて一定の張力で巻囲すると、基本的に均一な厚みの流路を形成することができる。しかしながら、円管や二平板間の流速分布は、乱流または層流によって形状は異なるが、
図3に示すように壁面で最も遅く、円管の中心部で最も速いすり鉢状の速度分布となる。
図1や
図4に示すようにスパイラル分離膜エレメント1の端面からの集水管6の飛び出しが短く、スパイラル分離膜エレメント1の端面の上流側において供給水7が集水管6によって特に分断されていない場合、スパイラル分離膜エレメントの供給水が流入するとき、
図4に示すように、外周側で流速が遅く、内周側で流速が速くなる。つまり、均一な流路よりも外周側の流路が広い流路分布を持ったエレメントの方が供給水が澱みやすい箇所の流路スペースを確保し、ファウリングを抑制することができる。更に、薄い供給側流路材を適用する際のエレメント全体の圧力損失を抑制することができる。本願では、特に分離膜エレメントの圧力損失が課題となる、分離膜エレメントの集水管長手方向の長さが500mm以上の構成において特に有用である。同一直径を持つ分離膜エレメントにおいて、集水管長手方向の長さが長いほど、同一運転圧力で運転する際に分離膜エレメントの流量が多くなり、圧力損失が大きくなる。特に分離膜エレメントの集水管長手方向の長さが500mm以上になると、分離膜エレメントの圧力損失低減が運転時の有効圧力確保に有効に働く。
【0023】
そのため、本実施形態では分離膜エレメントの集水管に対して垂直な断面において、集水管の中心と任意の外周を結ぶ直線上に位置する分離膜と供給側流路材によって形成される供給側流路Fについて、外周側の供給側流路高さDOが内周側の供給側流路高さDIより大きい。このような流路高さ分布にする方法としては、最初に巻囲張力を強くし、その後巻囲張力を下げる方法や、一度、均一な厚みの流路を形成してから、外周側を少し巻き緩める方法、接着剤の塗布量を外周部で少なくすることで外周部の流路を広くする方法、スパイラル分離膜エレメントの外周側で、供給側流路材のピッチを狭くしたり、供給側流路材の素材を変えたり、外周部に当たる供給側流路材の一部に水に溶ける素材をコーティングして後から溶かすことで外周部を広くする方法や、透過側流路材の厚みをスパイラル分離膜エレメントの外周側で薄くなるように設計する方法などが可能である。
【0024】
供給側流路Fにおける供給側流路高さDFはX線CT装置を用いることで、非破壊で測定することができる。スパイラル分離膜エレメントの集水管の中心と任意の外周を結ぶ直線L上に位置する分離膜と供給側流路材によって形成される供給側流路Fについて、カット面からある程度離れた、カットの影響がない箇所を分析する必要があるため、カット面から集水管長手方向に平行な方向に2インチの位置から4インチの位置までの解析を行う。直線L上の平面で直線Lを中心とする縦3.5インチ×横1インチ×奥行き2インチの直方体を解析範囲とし、それぞれの流路の空間体積を測定する。
供給側流路高さDFを測定するとき、直方体によって切り取られる範囲において、流路の片端が中心パイプまたは外周のフィラメントワインディングに触れていると、流路体積が過小評価されてしまう。そのため、流路の両端が直方体の長辺によって切り取られている流路のみを有効とする。
【0025】
外周側の供給側流路高さDOは外周から20%の流路の平均値を用いる。例えば、流路数が60個存在する場合、外周から12個の流路の平均値をDOとする。内周側の供給側流路高さDIは、集水管から20%の流路の平均値を用いる。DO及びDIを算出するとき、小数点が生じた場合は、四捨五入して整数値とする。本実施形態の好ましい範囲としては、DO、外周から20%~40%の流路高さの平均値、40%~60%の流路高さの平均値、60%~80%の流路高さの平均値、DIの順に徐々に小さくなる(同値も含む)ことが好ましい。
【0026】
(供給側流路高さパターン)
本実施形態の供給側流路高さのパターンとしては、
図5(a)~(e)に示すように、外周部の流路高さD
Oが大きく、内周側の供給側流路高さD
Iが小さい形状が例として挙げられる。
図5のグラフの見方としては、
図7に示すように、横軸が流路の位置、縦軸が流路高さであり、分離膜エレメントの外周側の流路高さがグラフの左側、内周側の流路高さがグラフの右側に位置するようにプロットしたときの分布を示している。
【0027】
本発明以外の従来の形態の供給側流路高さのパターンとして、
図6のような均一な流路が例として挙げられる。
【0028】
(DOに対するDIの比)
外周側の流路高さDOに対する内周側の供給側流路高さDIの比DI/DOは、0.950以下が好ましい。DI/DOがこの範囲であると、分離膜エレメントに流入する供給水のバランスが良く、ファウリング及び圧力損失を低減することができる。DI/DOの下限値としては0.75以上であることが好ましく、この範囲であると、分離膜エレメントに流入する供給水の流れが偏ることによる圧力損失を低減することができる。
【0029】
<供給側流路>
(供給側流路材)
スパイラル分離膜エレメントに用いられる供給側流路材は、一般に、
図2に示すように、一方向に並んだ、繊維状物A(21)から構成される複数の繊維状列X、および繊維状列Xとは異なる方向に並んだ、繊維状物B(22)から構成される複数の繊維状列Yから構成され、繊維状列Xと繊維状列Yとが互いに立体交差して複数の地点で交点を形成したネット形状をしている。
【0030】
スパイラル分離膜エレメントにおいて、透過の駆動力は膜間差圧であるため、造水量を向上させるためには膜間差圧を増加させることが有効である。膜間差圧は、分離膜エレメントへの印加圧力から流動抵抗と浸透圧を差し引いたもので表される。よって、膜間差圧を増加させるには、印加圧力を大きくする、流動抵抗を下げる又は膜面浸透圧を下げることが必要である。膜面浸透圧は膜面濃度分極が生じることで増大する。供給側流路材の繊維状物は、供給水をかき乱す役割があり、膜面濃度分極を抑制するためには、繊維状物後方の膜面に供給水の渦(流れ)を生み出すことが重要である。
【0031】
スパイラル分離膜エレメントに用いられる供給側流路材の形状は、膜と膜の間のスペースを確保できるものであれば、この形状に限らず、井桁状、波板状など様々なものを用いることができる。
【0032】
(供給側流路材の厚み)
供給側流路材の平均厚さは、350μm以上650μm以下の範囲が好ましい。供給側流路材の平均厚さがこの範囲であれば、本実施形態において、分離膜エレメントへの膜面積を確保しつつ、圧力損失を低減し、膜面や供給側流路材に堆積し得るファウラントなどの物質が詰まりにくい十分な供給側流路を確保でき、ポンプの必要動力を大きくすることなく、長期にわたり安定的に分離膜エレメントの運転を行うことが可能となる。この範囲よりも供給側流路材が薄くなると、圧力損失が大きくなったり、ファウリングが進行しやすくなる原因になる。この範囲よりも供給側流路材が厚くなると、分離膜エレメントの分離膜面積を確保できなくなることと、ハンドリング性の観点で好ましくない。
【0033】
なお、交点部及び供給側流路材の厚みの測定には市販のマイクロスコープやX線CT測定装置を用いて、繊維状列に平行な縦断面を観察し、その距離を測定することで求めることができ、測定モードを用いて交点部または供給側流路材の厚みの任意の30カ所の径を抽出して測定し、その平均値とすることができる。
【0034】
(供給側流路材の繊維形状)
本実施形態では、繊維状物Aおよび繊維状物Bの少なくとも一方において、繊維状物の長手方向に沿って太径部と細径部を有すること、つまり繊維状物の長手方向に沿って糸径が変化していることが好ましい。繊維状物において、相対的に糸径が大きい部分を太径部、相対的に糸径が小さい部分を細径部と呼ぶ。
【0035】
浸透圧は、分離膜表面に生じる濃度分極が大きくなると上昇する。分離膜エレメントにおいて、供給水の流速が遅い場合であったり、膜面から流体が剥離したり、繊維の前後に流体が流れにくい状態であると、濃度分極の上昇に繋がる。すなわち、濃度分極を抑制するには、膜面流速を上げる、もしくは膜面に接する繊維を減らすことが効果的である。そこで、繊維状物Aおよび繊維状物Bは、任意の繊維状列を含む縦断面において、繊維状列Xおよび繊維状列Yの細径部は分離膜の膜面と接触しないため、全体として分離膜の膜面に接する繊維が少なくなり、濃度分極の上昇を抑制できる。さらに、このような構成により、供給側流路材の空隙率が向上するため、排濁性を高め、流動抵抗の低減にも効果がある。
【0036】
細径部の糸径に対する太径部の糸径の割合は1.5以上2以下の範囲が好ましい。細径部の糸径に対する太径部の糸径の割合がこの範囲であれば、より効果的に濃度分極の上昇を抑制し、排濁性を高め、流動抵抗を低減することが可能になる。供給側流路材の好ましい平均厚さの範囲及び細径部の糸径に対する太径部の糸径の好ましい割合の範囲を考慮すると、繊維状物の太径部は175μm以上325μm以下の範囲が好ましく、繊維状物の細径部は87μm以上217μm以下の範囲が好ましい。
【0037】
また、繊維状物Aおよび繊維状物Bの少なくとも一方において、繊維状物をその長手方向と垂直方向に切断したときの断面の真円度は、0mm以上0.25mm以下の範囲であることが好ましい。真円度がこの範囲であれば、供給側流路材の流動抵抗を低減することが可能になる。真円度とは、「JIS B 0621-1984幾何偏差の定義および表示」に記載の通り、円形形体を二つの同心の幾何学的円で挟んだとき、同心二円の間隔が最小となる場合の、二円の半径の差(mm)で表す。例えばキーエンス社製高精度形状測定システムKS-1100を用い、繊維状物の長手方向の糸径を測定し、その最大値を太径部の糸径、最小値を細径部の糸径として測定することができる。また、繊維状物の任意の部分を30カ所抽出してその断面を観察し、それぞれの真円度の平均値を算出した。更に好ましい実施形態では、繊維状物Aおよび繊維状物Bの少なくとも一方において、テーパー状をした部分を有する繊維で供給側流路材が構成されることである。繊維状物Aおよび繊維状物Bの少なくとも一方がテーパー状の繊維で構成されることで、供給側流路材の剛性を保ちつつ、流動抵抗上昇の原因となる流体の急縮流・急拡流を抑制することができ、流動抵抗を低減できる。繊維状物A、繊維状物Bは片方がテーパー状の繊維でもよいし、両方がテーパー状の繊維でもよい。
【0038】
本実施形態におけるテーパー状とは、繊維状物Aと繊維状物Bが形成する交点と、隣り合う交点の間の繊維が一方から他方に向かって拡径している、具体的に、先細り形状または先太り形状になっていることを指す。ここでは、便宜上、テーパー状の繊維をテーパー、繊維が先細り形状になっておらず糸径が均一であるものを寸胴、交点間の繊維が細くなっており、ネッキングが存在する繊維をネッキングと呼称する。例えば、
図9(a)~
図9(c)に示すような供給側流路材2a~2cにおける繊維状列の交点間の形状がテーパー、
図10(a)に示すような供給側流路材2dにおける繊維状列の交点間の形状が寸胴、
図10(b)に示すような供給側流路材2eにおける繊維状列の交点間の形状がネッキングに当たる。
【0039】
図9(a)に示したように、供給側流路材2aの平面に対して垂直な方向から観察したとき、繊維が一方から他方に先細り形状になっていればよい。先細り形状になっていることで、糸からの流体剥離を抑制し、流動抵抗を低くすることが出来る。好ましくは、
図9(b)及び
図9(c)に示したように、テーパー状の繊維が、一定の方向、具体的に供給水(原水)側から濃縮水側に向かって先細りとなった形状である。このような形状であれば、糸からの流体の剥離を抑制し、流体の急拡流および急縮流を防ぎ、流動抵抗を低減することが出来る。
【0040】
また、供給側流路材の平面を観察したとき、繊維が重なり合う部分には、
図9(b)及び
図9(c)に示したように水かき部wが形成されることが好ましい。なお、「水かき部」とは、テーパー状繊維の太径部が重なり合ったときに形成される、平面視で繊維の中央部よりも幅広の部分をいう。供給側流路材に水かき部wが形成されると、それぞれの交点の強度が向上し、ネット全体の剛性が上がるため、定長寸法カットや装置通過性といった巻囲時のハンドリング性が上がったり、長期運転時にネットがズレにくくなる。
【0041】
また、繊維が寸胴形状やネッキングである場合に比べ、テーパー状であると、交点部の樹脂量が増え、交点部の形状が中央部に比べて幅広になりなだらかになるため、膜が傷つきにくく、除去率が低下しにくい。
【0042】
また、ネッキングであると、糸径が細い割合が多いため、供給側流路面積率を上げやすく、供給側流路材の空隙率が大きくなり、排濁性を高め、流動抵抗を低くすることが出来る。しかし、テーパー形状と同一流路面積率で比較した場合、ネッキング形状であるとネッキング箇所で流路が急激に拡大もしくは縮小するため、局所的なファウリングやエネルギー損失が起き、差圧が大きくなる傾向にある。さらに、ネッキング形状は糸径が細い割合が多いため、剛性が低くなりやすい傾向にある。
【0043】
(素材)
供給側流路材の素材は特に限定されないが、成形性の観点から熱可塑性樹脂が好ましく、特にポリエチレンおよびポリプロピレンは分離膜の表面を傷つけにくく、また安価であるので好適である。また、供給側流路材は、繊維状物Aと繊維状物Bが同じ素材で形成されても構わないし、異なる素材で形成されていても構わない。
【0044】
(製造方法)
ネット状の供給側流路材の成形は、一般的に内側と外側の2つの円周上に多数の孔を配置した内側と外側の2つの口金を逆方向に回転させながら、押出機から溶融させた樹脂を供給して、樹脂が口金から出る時または出た直後に内側と外側の口金から出る糸を溶融状態で交差させて溶融し網状構造を形成する。この段階ではネットは筒状の形状を取る。その後筒状のネットは冷却固化により厚みや糸径、交点部間隔を決定後、切開されてシート状ネットとして引き取られる。
【0045】
本実施形態のように、交点厚みが保たれたまま、交点部間の繊維状物において糸径が異なる領域が存在し、平面から見たときに繊維形状がテーパーである供給側流路材を製造するには、小さい口金孔から高い樹脂吐出圧で樹脂を供給し、筒状のネットの樹脂が完全に冷却固化する前に筒状ネットの内側に、筒状ネットの内径より径の大きい治具を通過させて、幅方向および長手方向に同時に引っ張りを加えながら冷却固化させる方法を採用することができる。筒状のネットの樹脂が完全に冷却固化する前に筒状ネットの内側に、筒状ネットの内径より径の大きい治具を通過させて作製したネットは、交点部から中央部にかけてなだらかに繊維状物の糸径が細くなることが特徴である。交点部間の繊維状物において糸径が均一である寸胴形状の供給側流路材を製造するには、口金孔から低い樹脂吐出圧で樹脂を供給し、筒状のネットの樹脂が完全に冷却固化する前に筒状ネットの内側に、筒状ネットの内径より径の大きい治具を通過させて、テーパー形状の供給側流路材よりも低い比率で幅方向および長手方向に同時に引っ張りを加えながら冷却固化させる方法を採用することが出来る。
【0046】
一方、一旦筒状のネットの冷却固化を行った後に再度、加熱炉内で縦延伸および横延伸を行う方法により製造されたネットは、交点部に対し中央部の繊維状物の糸径がネッキングした形状のネットを製造することが可能であり、ネットの糸形状を観察することで、両者の製造方法の違いを判別することができる。
【0047】
なお、繊維状列の交点部間における中央部が交点部に比べて細径の糸で構成されたネットを製造する方法はこれらに限定されず、エンボス加工やインプリント加工、プレス法などにより交点部間の繊維状物を圧縮変形させる方法、金型に溶融樹脂を流延し取り出す方法、3Dプリンターを用いて製造しても構わない。
【0048】
<透過側流路>
(透過側流路材)
封筒状膜5において、分離膜3は透過側の面を対向させて重ね合わされており、分離膜3同士の間には透過側流路材4が配置され、透過側流路材4によって透過側流路が形成される。透過側流路材の材料としては限定されず、トリコットや不織布、突起物を固着させた多孔性シート、凹凸成形し、穿孔加工を施したフィルム、凹凸不織布を用いることができる。また、透過側流路材として機能する突起物を分離膜の透過側に固着させてもよい。
【0049】
<分離膜エレメントの利用>
分離膜エレメントは、直列または並列に接続して圧力容器に収納されることで、分離膜モジュールとして使用されてもよいが、少なくとも2本以上直列に配置して使用するのが好ましい。システム全体として圧力損失を抑制しつつ、得られる造水量を増やすことが可能となる。
【0050】
また、上記の分離膜エレメント、分離膜モジュールは、それらに流体を供給するポンプや、その流体を前処理する装置などと組み合わせて、水処理装置を構成することができる。この水処理装置を用いることにより、例えば供給水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0051】
水処理装置の操作圧力は高い方が除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、分離膜エレメントの供給流路、透過流路の保持性を考慮すると、分離膜モジュールに供給水を透過する際の操作圧力は、0.2MPa以上6MPa以下が好ましい。
【0052】
供給水温度は、高くなると塩除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上45℃以下が好ましい。
【0053】
また、原水のpHが中性領域にある場合、原水が海水などの高塩濃度の液体であっても、マグネシウムなどのスケールの発生が抑制され、また、膜の劣化も抑制される。
【0054】
(供給水)
本実施形態の分離膜エレメントへの供給水は特に限定されず、予め処理された水道水でもよく、海水やかん水、下廃水のように溶液中の不純物が多いものでもよい。例えば、水処理に使用する場合、原水(供給水)としては、海水、かん水、排水等の500mg/L以上100g/L以下のTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」で表されるが、1Lを1kgと見なして「重量比」で表されることもある。定義によれば、0.45μmのフィルターで濾過した溶液を39.5~40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【実施例0055】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0056】
(供給側流路材Pの作製)
ポリプロピレンを材料として、多数の小さい孔を配置した内側と外側の2つの口金を逆方向に回転させながら、押出機から溶融させた樹脂を高い吐出圧で供給して、網状構造を有する筒状ネットを成形した。さらに筒状のネットの樹脂が完全に冷却固化する前に筒状ネットの内側に、筒状ネットの内径より径の大きい治具を通過させて、幅方向および長手方向に同時に引っ張りを加えながら冷却固化させる方法により、交点部から中央部にかけてなだらかに繊維状物の糸径が細くなるテーパー形状の、表1に示す供給側流路材を作製した。なお、押出機からの溶融樹脂吐出圧、筒状ネットを通過させる治具の寸法、引き取り速度を変更し、最終的に表1の供給側流路材形状となるよう構造制御を行った。
【0057】
(供給側流路材Qの作製)
ポリプロピレンを材料として、多数の孔を配置した内側と外側の2つの口金を逆方向に回転させながら、押出機から溶融させた樹脂を供給して、網状構造を有する筒状ネットを成形し、繊維形状が寸胴であるネットを製造した。なお、押出機からの溶融樹脂吐出圧、引き取り速度を変更し、最終的に表1、2の供給側流路材形状となるよう構造制御を行った。
【0058】
(供給側流路材Rの作製)
ポリプロピレンを材料とし、供給側流路材Qと同様の手順で作製した筒状のネットを一旦冷却固化させ、その後、加熱炉内で縦延伸次いで横延伸を逐次で行い、交点部に対し中央部の繊維状物の糸径がネッキングした形状のネットを製造した。なお、押出機からの溶融樹脂吐出圧、縦および横の延伸倍率、引き取り速度を変更し、最終的に表1の供給側流路材形状となるよう構造制御を行った。
【0059】
(供給側流路材の厚み測定)
供給側流路材を10×10cmに切り出し、キーエンス社製ワンショット3D形状測定機VR-3000を用い、供給側流路材の繊維状列に平行な縦断面を倍率20倍で観察し、任意の交点部分の厚みを30カ所抽出して測定し、その平均値を算出した。
【0060】
(供給側流路高さ)
分離膜エレメントを集水管長手方向に垂直な方向に、端部から6インチの位置から12インチの位置でカットし、6インチの長さの円筒状サンプルを切り出した。流路構造を崩さないために、エレメントのカット面の両側から接着剤を全面に塗布し、エレメントの端部から接着剤をわずかに含浸させた。円筒状サンプルを60度の中心角を持つ扇形を底面に持つ柱体にカットし、観察サンプルを得た。その後、扇状サンプルの重量変化がなくなるまで、40℃に設定した真空オーブンで乾燥させた。GE社製X線CT測定装置Phoenix v |tome| x m300を用い、管電流100μA、管電圧150kV、解像度19.8μmの条件でスキャンし、3D像を得た。その後、VOLUMEGRAPHICS社製VGSTUDIOMAXで解析を行い、供給側流路高さを測定した。
【0061】
供給側流路高さの測定方法は、供給側流路の体積から求めることができる。
図8に示すように、分離膜エレメントの集水管の軸方向に対して垂直な断面において、集水管の中心と任意の外周を結ぶ直線L上に位置する分離膜と供給側流路材によって形成される供給側流路Fを縦3.5インチ×横1インチ×奥行2インチの直方体の領域で区切り、それぞれの流路の空間体積を測定し、それぞれの流路に対応した供給側流路の体積を取得した。集水管や外周のフィラメントワインディングに流路の片端が触れている場合、他の流路に比べて体積が小さくなるため、公平に流路高さを比較することができない。そのため、流路の両端が縦3.5インチ×横1インチの長方形の領域における、縦線に触れている流路のみを解析した。得られる流路体積は供給側流路材込みの値であるため、供給側流路材の空隙率で割ることで供給側流路材を無視した流路体積を得ることができる。円弧の長さはImageJを用いて測定した。画面上のスケールに合わせて直線選択ツールでなぞり、Set Scaleで実寸とピクセルの関係を設定した。円弧に沿って折れ線選択ツールでなぞり、Measureを選択して円弧の長さを得た。流路の上下に円弧が存在するため、上下の円弧を測定し、それらの平均値を円弧の長さとした。流路の奥行きは解析範囲で既知の値であり、円弧の長さ、供給側流路材の空隙率を用いて式(1)により供給側流路の厚みD
Fを得た。
【0062】
【0063】
(供給側流路材の空隙率測定)
供給側流路材を50cm×50cmの大きさにカットし、重量を測定し、単位面積当たりの重量(kg/m2)を計算した。得られた値を供給側流路材の厚みで割り、単位体積当たりの重量(kg/m3)を計算した。式(2)より、素材密度(kg/m3)を用いて供給側流路材の空隙率を計算した。
【0064】
【0065】
(供給側流路材太径部の糸径DA及び細径部の糸径DB測定)
キーエンス社製高精度形状測定システムKS-1100を用い、繊維状物の糸径を計測した。繊維状物において隣接する交点間の部分を30個の区間に等分に分割し、各区間の中心箇所の糸径を測定した。測定された30個の糸径のうち、最大値をDA、最小値をDBとして算出した。
【0066】
(供給側流路材繊維状物の真円度測定)
キーエンス社製高精度形状測定システムKS-1100を用い、繊維状物の任意の部分を30カ所抽出してその断面を観察し、それぞれの真円度の平均値を算出した。
【0067】
<実施例>
(スパイラル分離膜エレメントの作製)
ポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布(繊度:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1cc/cm2/sec、密度0.80g/cm3)上にポリスルホンの16.0質量%のDMF溶液を180μmの厚みで室温(25℃)にてキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置し、80℃の温水で1分間浸漬することによって繊維補強ポリスルホン支持膜からなる、多孔性支持層(厚さ130μm)ロールを作製した。
【0068】
その後、多孔性支持膜のポリスルホンからなる層の表面をm-PDAの1.4質量%およびε-カプロラクタム1.0重量%を含む水溶液中に2分間浸漬してから、垂直方向にゆっくりと引き上げた。さらに、エアーノズルから窒素を吹き付けることで、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。
【0069】
その後、トリメシン酸クロリド0.07質量%を含むn-デカン溶液を、膜の表面が完全に濡れるように塗布してから、1分間静置した。その後、膜から余分な溶液をエアブローで除去し、80℃の熱水で1分間洗浄して、複合分離膜ロールを得た。
【0070】
このように得られた分離膜を、分離膜エレメントでの有効面積が47.0m2となるように折り畳み断裁加工し、ポリプロピレン製ネット(厚み:0.6mm)を供給水側流路材として挟み込んで分離膜リーフを作製した。
【0071】
得られた分離膜リーフの透過側面に透過側流路材としてトリコット(厚み:0.26mm)を積層し、リーフ接着剤を塗布して、PVC(ポリ塩化ビニル)製集水管(幅:1016mm、径:47.6mm、孔数40個×直線状1列)に積層体を20%巻囲するごとに巻囲張力を段階的に下げてスパイラル状に巻き付け、巻囲体の外周面をテープで固定後、両端のエッジカットと端板取り付けを行い、一方の側面から供給水が供給され濃縮水が排出される、直径が8インチの分離膜エレメントを作製した。
【0072】
(造水量)
分離膜エレメントを圧力容器に入れて、供給水として、温度25℃、濃度32000ppm、pH7.0のNaCl水溶液を用い、運転圧力5.52MPa、回収率8%とした。24時間運転した後に1分間のサンプリングを行い、1日あたりの造水量(m3/日)として表した。
【0073】
(除去率(TDS除去率))
造水量の測定における1分間の運転で用いた供給水およびサンプリングした透過水について、TDS濃度を伝導率測定により求め、下記式からTDS除去率を算出した。
【0074】
TDS除去率(%)=100×{1-(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
(エレメント圧力損失)
分離膜エレメントを装填する円筒状圧力容器の上流側(供給水側)と下流側(濃縮水側)を長野計器製差圧計(型式DG16)を介して配管で接続し、運転中のエレメント圧力損失を計測した。運転条件は、供給水流量は150L/分、運転圧力は1.0MPaとし、供給水には逆浸透膜処理水を用いた。また、エレメント内部の気泡が抜けた後は透過水配管のコックを閉じ、実質的に膜ろ過が行えない状態、つまり供給水が全量濃縮水として排出される状態で運転を行いエレメント差圧(kPa)の測定を行った。
【0075】
(ファウリング試験)
分離膜エレメントを圧力容器に入れて、供給水として海水を用い、運転圧力5.5MPa、温度25℃、回収率8%の条件下で24時間運転した後に1分間のサンプリングを行い、その時の初期造水量(m3/日)を得た。その後、4週間連続運転を行い、通水後造水量(m3/日)を得た。初期造水量と通水後造水量から、下記式(3)に従い、造水量低下率(%)を求めた。また通水後圧力損失から初期圧力損失を引いた値を圧力損失上昇として算出した。
【0076】
【0077】
(実施例1)
作製したエレメントを圧力容器に入れて、上述の条件で評価したところ、結果は表1の通りであった。
【0078】
(実施例2~14)
供給側流路を表1の通りにした以外は全て実施例1と同様にして、分離膜エレメントを作製した。
【0079】
分離膜エレメントを圧力容器に入れて、実施例1と同条件で各性能を評価したところ、結果は表1の通りであった。
【0080】
<比較例>
(比較例1~4)
供給側流路を表2の通りにした以外は全て実施例1と同様にして、分離膜エレメントを作製した。
【0081】
分離膜エレメントを圧力容器に入れて、上述の条件で各性能を評価したところ、結果は表2の通りであった。
【0082】
【0083】
【0084】
表1、2に示す結果から明らかなように、実施例1~14の分離膜エレメントは、ファウリングと圧力損失を抑えつつ、優れた分離性能を安定して備えていると言える。