IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 腰川 法男の特許一覧

<>
  • 特開-弦楽器付属品 図1
  • 特開-弦楽器付属品 図2
  • 特開-弦楽器付属品 図3
  • 特開-弦楽器付属品 図4
  • 特開-弦楽器付属品 図5
  • 特開-弦楽器付属品 図6
  • 特開-弦楽器付属品 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149404
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】弦楽器付属品
(51)【国際特許分類】
   G10D 3/18 20200101AFI20241010BHJP
   G10D 3/13 20200101ALI20241010BHJP
   G10D 3/14 20200101ALI20241010BHJP
   G10D 3/01 20200101ALI20241010BHJP
【FI】
G10D3/18
G10D3/13
G10D3/14
G10D3/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046613
(22)【出願日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2023062512
(32)【優先日】2023-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】523130947
【氏名又は名称】腰川 法男
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】腰川 法男
【テーマコード(参考)】
5D002
【Fターム(参考)】
5D002CC38
5D002CC56
5D002CC58
(57)【要約】
【課題】弦楽器の盗難または紛失が発生した場合であっても、弦楽器の位置を遠隔から特定して追跡することを可能にする。
【解決手段】本発明に係る弦楽器付属品は、弦楽器の演奏時に弦楽器本体に装着される弦楽器付属品であり、無線通信を介して当該弦楽器付属品の現在位置を特定可能にする情報を外部に送信する情報送信部と、前記情報送信部に電力を供給する給電部と、を有する位置特定モジュール200を備えて構成されており、位置特定モジュール200の一部または全体が当該弦楽器付属品内に埋設されていることを特徴とする。一例として、本発明に係る弦楽器付属品は、バイオリンまたはビオラに装着されるアゴアテ10であり、当該アゴアテ10内に位置特定モジュール200が埋設されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弦楽器の演奏時に弦楽器本体に装着される弦楽器付属品であって、
無線通信を介して当該弦楽器付属品の現在位置を特定可能にする情報を外部に送信する情報送信部と、前記情報送信部に電力を供給する給電部と、を有する位置特定モジュールを備えて構成されており、
前記位置特定モジュールの一部または全体が当該弦楽器付属品内に埋設されていることを特徴とする弦楽器付属品。
【請求項2】
前記弦楽器がバイオリンまたはビオラであり、当該弦楽器付属品が前記バイオリンまたは前記ビオラに装着されるアゴアテ、テールピース、ペグ、エンドピンのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器付属品。
【請求項3】
前記弦楽器本体から当該弦楽器付属品を容易に取り外すことができないようにするロック機構が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の弦楽器付属品。
【請求項4】
前記弦楽器がバイオリンまたはビオラであり、当該弦楽器付属品が前記弦楽器に装着されるアゴアテであって、前記アゴアテが前記弦楽器本体を挟み込むクランプ構造を有し、前記ロック機構が前記クランプ構造の締付力を付与するネジ型の締付部材の回動を規制する回動規制部により構成されることを特徴とする請求項3に記載の弦楽器付属品。
【請求項5】
前記弦楽器付属品が前記弦楽器に装着されるテールピースであって、前記テールピースに連結されているエンドピンが、前記弦楽器本体のエンドピン孔に挿通されるピン本体部と、前記ピン本体部に対して回動可能な可動部材と、前記可動部材の前記ピン本体部に対する回動を規制するストッパ部と、を有し、
前記ロック機構が、前記ストッパ部の位置を定めるストッパ位置決め部を備えて構成され、前記ストッパ位置決め部により定まる前記ストッパ部の位置に応じて、前記可動部材が回動可能となって前記ピン本体部を前記エンドピン孔から抜去できる状態と、前記可動部材が回動不能となって前記ピン本体部を前記エンドピン孔から抜去できない状態と、になることを特徴とする請求項3に記載の弦楽器付属品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器の演奏時に弦楽器本体に装着される弦楽器付属品に関し、特にバイオリンまたはビオラに装着されるアゴアテ、テールピース、ペグ、エンドピンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、位置情報を追跡したい追跡対象物に対して、GPS信号受信機で特定した現在位置に係る位置情報を外部に送信する位置特定モジュールを取り付けることで、当該追跡対象物の位置を遠隔から特定できる技術が知られている。
【0003】
下記の非特許文献1には、楽器とともに位置特定モジュール(GPSトラッカー)を楽器ケース内に収納することで、楽器の盗難時または紛失時にスマートフォンアプリを用いて楽器の位置を遠隔から特定することができる技術が開示されている。
【0004】
下記の特許文献1、2には、位置情報の追跡対象物として楽器が挙げられており、楽器に位置特定モジュール(無線位置特定可能タグまたはワイヤレス電子デバイス)を取り付けることで、楽器の位置を遠隔から特定できる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2022-529584号公報
【特許文献2】特表2020-535760号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】TRE GPS 楽器サービス簡単使い方ガイド、検索日:2022年12月1日、<URL:https://tregps.com/pdf/gakki_service_users_guide.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の楽器サービスでは、位置特定モジュールを楽器ケース内に収納している。このため、楽器ケースから取り出した状態の楽器は位置特定モジュールから離れてしまうため、例えば楽器ケースから取り出した楽器自体の盗難または紛失が発生した場合には楽器の位置を特定できないという問題がある。また、特許文献1、2には、位置情報の追跡対象部として楽器に位置特定モジュールを取り付けるとの記載はあるものの、具体的にどのように取り付けるかについては何ら言及されていない。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、弦楽器の盗難または紛失が発生した場合であっても、弦楽器の位置を遠隔から特定して追跡することを可能にする弦楽器付属品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る弦楽器付属品は、弦楽器の演奏時に弦楽器本体に装着される弦楽器付属品であって、無線通信を介して当該弦楽器付属品の現在位置を特定可能にする情報を外部に送信する情報送信部と、前記情報送信部に電力を供給する給電部と、を有する位置特定モジュールを備えて構成されており、前記位置特定モジュールの一部または全体が当該弦楽器付属品内に埋設されていることを特徴とする。
上記の構成によれば、弦楽器の盗難または紛失が発生した場合であっても、弦楽器の位置を遠隔から特定して追跡することが可能となる。特に演奏時に装着される弦楽器付属品内に位置特定モジュールの一部または全体が埋設されることで、弦楽器本体を改造したり演奏の邪魔となる新たな付属品を設けたりすることなく、演奏可能な状態の弦楽器の位置が特定可能となるとともに、位置特定モジュールの存在がその外観から容易に把握できないようになるため、盗難時に位置特定モジュールの取り外しが行われにくくなるとともに、美術工芸品としての弦楽器本体の美観を維持することが可能となる。
【0010】
本発明に係る弦楽器付属品は、上記の構成において、前記弦楽器がバイオリンまたはビオラであり、当該弦楽器付属品が前記バイオリンまたは前記ビオラに装着されるアゴアテ、テールピース、ペグ、エンドピンのいずれかであってもよい。
上記の構成によれば、バイオリンまたはビオラに装着されるアゴアテ、テールピース、ペグ、エンドピンのいずれかの弦楽器付属品に位置特定モジュールを設けることで、当該弦楽器付属品が装着されたバイオリンまたはビオラの位置を特定することが可能となる。
【0011】
本発明に係る弦楽器付属品は、上記の構成において、前記弦楽器本体から当該弦楽器付属品を容易に取り外すことができないようにするロック機構が設けられていてもよい。
上記の構成によれば、ロック機構により弦楽器本体から弦楽器付属品の取り外しが容易に行われないようにすることで、弦楽器本体から位置特定モジュールが取り外されたり離脱したりすることを防いで、弦楽器の位置を特定することが可能となる。
【0012】
本発明に係る弦楽器付属品は、上記の構成において、前記弦楽器がバイオリンまたはビオラであり、当該弦楽器付属品が前記弦楽器に装着されるアゴアテであって、前記アゴアテが前記弦楽器本体を挟み込むクランプ構造を有し、前記ロック機構が前記クランプ構造の締付力を付与するネジ型の締付部材の回動を規制する回動規制部により構成されていてもよい。
上記の構成によれば、バイオリンまたはビオラに締付部材の回動により装着されるアゴアテに関して、当該締付部材の回動を規制する回動規制部を設けることで、位置特定モジュールを有するアゴアテの取り外しが容易に行われないようにすることが可能となり、例えば盗難時に弦楽器本体から位置特定モジュールが取り外されることを防いで、弦楽器の位置を特定することが可能となる。
【0013】
本発明に係る弦楽器付属品は、上記の構成において、前記弦楽器付属品が前記弦楽器に装着されるテールピースであって、前記テールピースに連結されているエンドピンが、前記弦楽器本体のエンドピン孔に挿通されるピン本体部と、前記ピン本体部に対して回動可能な可動部材と、前記可動部材の前記ピン本体部に対する回動を規制するストッパ部と、を有し、前記ロック機構が、前記ストッパ部の位置を定めるストッパ位置決め部を備えて構成され、前記ストッパ位置決め部により定まる前記ストッパ部の位置に応じて、前記可動部材が回動可能となって前記ピン本体部を前記エンドピン孔から抜去できる状態と、前記可動部材が回動不能となって前記ピン本体部を前記エンドピン孔から抜去できない状態と、になってもよい。
上記の構成によれば、位置特定モジュールを有するテールピースに連結されているエンドピンに関して、ロック機構を備えるように改良することで、エンドピンおよびテールピースの取り外しが容易に行われないようにすることが可能となり、例えば盗難時に弦楽器本体から位置特定モジュールが取り外されることを防いで、弦楽器の位置を特定することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、弦楽器の盗難または紛失が発生した場合であっても、弦楽器の位置を遠隔から特定して追跡することが可能となる。特に演奏時に装着される弦楽器付属品内に位置特定モジュールの一部または全体が埋設されることで、弦楽器本体を改造したり演奏の邪魔となる新たな付属品を設けたりすることなく、演奏可能な状態の弦楽器の位置が特定可能となるとともに、位置特定モジュールの存在がその外観から容易に把握できないようになるため、盗難時に位置特定モジュールの取り外しが行われにくくなるとともに、美術工芸品としての弦楽器本体の美観を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態における弦楽器付属品が装着可能な弦楽器の構造を示す正面図である。
図2】(a)、(b)は、本発明の実施形態における弦楽器付属品の代表例としてアゴアテ、テールピースをそれぞれ示す斜視図であり、(c)は、弦楽器付属品が有する位置特定モジュールの機能を示すブロック図である。
図3】(a)、(b)は、本発明の実施形態における弦楽器付属品の代表例であるアゴアテに設けたロック機構の第1及び第2の例をそれぞれ示す図である。
図4】(a)、本発明の実施形態における弦楽器付属品を容易に取り外せないようにするロック機構の第3の例を説明するための図であり、(b)は、本発明の実施形態における弦楽器付属品を容易に取り外せないようにするロック機構が組み込まれたエンドピンの斜視図である。
図5図4(b)に示すエンドピンの分解斜視図である。
図6】本発明の実施形態において、エンドピンを含んで構成されるロック機構の第3の例を示す断面図であり、弦楽器本体のエンドピン孔にエンドピンを挿入する際の状態を説明するための図である。
図7】本発明の実施形態において、エンドピンを含んで構成されるロック機構の第3の例を示す断面図であり、弦楽器本体のエンドピン孔からエンドピンを抜去する際の状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態における弦楽器付属品について説明する。本明細書において参照する図面は、実際の寸法に対して必ずしも正確な縮尺を有するものではなく、構成を模式的に示すために一部を誇張または簡略化したものである。
【0017】
図1を参照しながら、本実施形態における弦楽器付属品が装着される弦楽器の一例について説明する。図1は、本実施形態における弦楽器付属品が装着可能な弦楽器の構造を示す正面図である。図1では弦楽器の一例としてバイオリン1を挙げているが、本発明に係る弦楽器はビオラであってもよく、さらにはチェロやコントラバスであってもよい。
【0018】
図1に示すバイオリン1は、中空の共鳴胴を形成する弦楽器本体2を備えている。弦楽器本体2は、表板3、裏板4(表板3の裏側に配置)、側板5、棹部6、指板7を備えて構成されている。
【0019】
表板3および裏板4は、略同一形状を有しており、中央部が左右対称の湾曲凹状となるように形成されている。側板5は、略同一形状の表板3および裏板4を重ねた側面を覆う形状に形成されている。側板5に表板3および裏板4を嵌め込むことによって、中空の共鳴胴を有する胴部(ボディ)が形成される。表板3には、通常、共鳴胴内の空気振動を外部に伝えるために左右一対のf字孔3aが形成されている。
【0020】
棹部6は、ネック6aおよびヘッド6bにより構成されている。ネック6aは湾曲した細長い部材である。ネック6aの基端側は胴部に固定されており、先端側にはヘッド6bが配置されている。ネック6aの表面には指板7が取り付けられている。ヘッド6bはスクロールとも呼ばれ、渦巻き状に形成されている。ヘッド6bには、その側方から左右互い違いに4本のペグ110の嵌挿を可能にするペグボックス6cが設けられている。
【0021】
図1に示すバイオリン1は、上記の弦楽器本体2に加えて、さらに、駒8aおよび上駒8b、4本の弦9、アゴアテ10、テールピース100、4本のペグ110、エンドピン120を備えて構成されている。駒8aおよび上駒8bは、4本の弦9を支持する部材である。駒8aは表板3の中央部に立設されており、上駒8bはネック6aとヘッド6bとの間に配置されている。
【0022】
4本の弦9は、一端がペグボックス6cに嵌挿された4本のペグ110にそれぞれ固定され、他端がテールピース100に固定されている。
【0023】
ペグ110は、棒状の糸巻部111と平板状の把持部112とが一体に構成されており、糸巻部111に弦9が固定された状態で、把持部112により糸巻部111を回動させることで、弦9の張力を調節することができるようになっている。
【0024】
テールピース100は、胴部の下側に表板3に接するように配置されており、4本の弦9をそれぞれ挿通させて固定するための4つの通孔101(図2(b)を参照)が形成されている。テールピース100には、図示しないテールワイヤの一端が固定できるようになっている。テールワイヤの他端は例えばループになっており、胴部の最下端の側板5に形成されている孔に嵌挿されたエンドピン120に当該ループを通すことで、胴部に対して固定されている。この構成により、4本の弦9は、テールピース100、テールワイヤおよびエンドピン120を介して胴部に固定され、テールワイヤの長さや4本のペグ110の糸巻部111に対する巻き付け量を調節することで、4本の弦9の張力を調節してそれぞれの弦9の音階を調律することができるようになっている。
【0025】
アゴアテ10は胴部に着脱可能に取り付けられており、胴部の最下端に位置する表板3の上部にアゴ板20が配置されている。アゴ板20は、演奏者が演奏時にアゴを当ててバイオリン1を支持するために設けられている。アゴ板20の位置は、左右対称の表板3の左側(右利き用)および右側(左利き用)のいずれかに偏って配置されてもよく、中央に配置されてもよい。
【0026】
上記の駒8aおよび上駒8b、4本の弦9、アゴアテ10、テールピース100、4本のペグ110、エンドピン120は、弦楽器本体2に装着される弦楽器付属品である。また、特にアゴアテ10、テールピース100、ペグ110、エンドピン120は4大付属品と呼ばれることがある。なお、ここでは弦楽器の一例としてバイオリン1を挙げているが、弦楽器がビオラであっても、バイオリン1と同様の弦楽器付属品が装着可能である。なお、弦楽器がチェロやコントラバスの場合には、地面に設置できるように長いエンドピン120が設けられており、通常、アゴアテ10は装着されない。
【0027】
本発明に係る弦楽器付属品は、演奏時に弦楽器本体2に装着されるすべての付属品を含むものであるが、好適には、4大付属品であるアゴアテ10、テールピース100、ペグ110、エンドピン120である。より詳細には、弦楽器がバイオリン1またはチェロの場合の弦楽器付属品は、アゴアテ10、テールピース100、ペグ110、エンドピン120であることが好ましく、弦楽器がチェロまたはコントラバスの場合の弦楽器付属品は、テールピース100、ペグ110、エンドピン120であることが好ましい。
【0028】
次に、図2(a)~(c)を参照しながら、本実施形態における弦楽器付属品の一例について説明する。図2(a)、(b)は、本実施形態における弦楽器付属品の代表例としてアゴアテ10、テールピース100をそれぞれ示す斜視図である。図2(c)は、弦楽器付属品が有する位置特定モジュール200の機能を示すブロック図である。
【0029】
図2(a)には、本実施形態における弦楽器付属品の一例であるアゴアテ10が図示されている。弦楽器付属品であるアゴアテ10は様々な種類のものが存在するが、いずれの種類においても、弦楽器本体2の表板3側と裏板4側とを挟み込んで装着するクランプ構造を有しており、ネジ型の締付部材を回動させることでクランプ構造に締付力を付与して、アゴアテ10を弦楽器本体2に固定させることができるようになっている。
【0030】
図2(a)に示すアゴアテ10は、アゴ板20と、アゴ板20に固定された上側支持部材30、40と、保持部材50と、保持部材50に固定された下側支持部材60、70と、長ナット80、90と、により構成されている。通常、アゴ板20には木材が使用され、その他の部材には真鍮やステンレス鋼等の金属が使用される。
【0031】
アゴ板20は、演奏者のアゴを支持するために表板3側に配置される部材である。アゴ板20の上面側は、演奏者のアゴの形状に合わせて楕円状(木の葉状)に形成されている。一方、アゴ板20の下面側には、テールワイヤおよびエンドピン120との干渉を避けるための凹部21と、弦楽器本体2の表板3に面接触する接触面部22、23とが形成されている。接触面部22、23には、弦楽器本体2の表板3を傷付けないように緩衝材が設けられてもよい。また、アゴ板20の側面には、上側支持部材30、40を固定するためのネジ孔24、25が所定距離だけ離れて設けられている。
【0032】
上側支持部材30、40は細長い部材であり、L字状に屈曲した形状に形成されている。上側支持部材30、40の一端および他端はネジ切りがなされている。上側支持部材30、40は、その一端がアゴ板20の側面に設けられたネジ孔24、25に螺合して固定されており、当該一端から弦楽器本体2の側方(側板5から離隔する方向)に向かって延伸して屈曲した後、弦楽器本体2の下方(表板3から裏板4に向かう方向)に延伸するように配置される。並行した2つの上側支持部材30、40の距離は所定距離となる。
【0033】
保持部材50は、裏板4側に配置される部材である。保持部材50には、弦楽器本体2の裏板4に面接触する接触面部51が形成されている。接触面部51には、弦楽器本体2の裏板4を傷付けないように緩衝材が設けられてもよい。
【0034】
下側支持部材60、70は細長い部材であり、L字状に屈曲した形状に形成されている。図示されているアゴアテ10では、下側支持部材60、70は、その一端が保持部材50と一体となるように接続されており、一方、他端はネジ切りがなされている。下側支持部材60、70は、保持部材50に固定された一端から弦楽器本体2の側方(側板5から離隔する方向)に向かって延伸して屈曲した後、弦楽器本体2の上方(裏板4から表板3に向かう方向)に延伸するように配置される。並行した2つの下側支持部材60、70間の距離は、上側支持部材30、40間の所定距離と同一となるように設定されている。
【0035】
長ナット80、90は、長手方向に沿って中空が形成された筒状部材である。長ナット80は両端の開口部81、82で開口しており、長ナット90は両端の開口部91、92で開口している。各開口部81、82、91、92近傍の内周面にはネジ切りがなされている。また、長ナット80、90には、長ナット80、90を側面から貫通する小さな貫通孔83、84、93、94が形成されている。図示されているアゴアテ10では、一例として、長ナット80に、長手方向の異なる位置であって周方向に90°ずれた位置に2つの貫通孔83、84が形成されており、長ナット90に、長手方向の異なる位置であって周方向に90°ずれた位置に2つの貫通孔93、94が形成されている。
【0036】
アゴアテ10を弦楽器本体2に装着する場合、アゴ板20に形成された接触面部22、23を表板3に面接触させるとともに、保持部材50に形成された接触面部51を裏板4に面接触させて、上側支持部材30、40の他端(端部31、41)と、下側支持部材60、70の他端(端部61、71)とを対向させる。そして、長ナット80によって上側支持部材30の端部31と下側支持部材60の端部61とをネジ止めし、長ナット90によって上側支持部材40の端部41と下側支持部材70の端部71とをネジ止めする。
【0037】
上側支持部材30、40の端部31、41に形成されたネジ山は、下側支持部材60、70の端部61、71に形成されたネジ山とは逆方向になっている。例えば上側支持部材30、40の端部31、41には右回りのネジ山が形成され、下側支持部材60、70の端部61、71には左回りのネジ山が形成されている。これにより、長ナット80、90の開口部81、91を下側支持部材60、70の端部61、71に挿入し、長ナット80、90の開口部82、92を上側支持部材30、40の端部31、41に挿入した状態で、長ナット80、90の貫通孔83、84、93、94に細いピン等を挿入して長ナット80、90を回動させると、上側支持部材30、40および下側支持部材60、70を互いに近づく方向に移動させることができる。その結果、アゴ板20に形成された接触面部22、23と保持部材50に形成された接触面部51とが弦楽器本体2を上下から締め付けるように挟み込んで、アゴアテ10を弦楽器本体2に装着することができる。
【0038】
さらに、アゴアテ10は位置特定モジュール200を有する。位置特定モジュール200は、例えば図2(c)に示すように、現在位置特定部210および位置情報送信部220を構成する電子機器(ICチップ等)と給電部230とを筐体250に収容した構成となっている。位置特定モジュール200の筐体250は数cm四方に満たないものである。本発明では、市場に流通している小型の位置特定モジュール200を利用することができ、さらには、将来の技術の進歩によってより小型化されたものを利用してもよい。
【0039】
図2(a)では、アゴ板20の内部に位置特定モジュール200の筐体250全体が埋設されている。例えばアゴ板20の一部(例えば演奏者がアゴを当てる面とは反対側の面)を、位置特定モジュール200の筐体250の形状に合わせてくり抜いて穴を開け、そのくり抜いた穴に位置特定モジュール200を置いて、くり抜いた穴の開口をアゴ板20と同一素材の部材で塞いで取り外し不可能なように固定することで、位置特定モジュール200の筐体250をアゴ板20に埋設することができる。なお、ここでは、位置特定モジュール200をアゴ板20内に埋設しているが、アゴアテ10に位置特定モジュール200を設ける位置は特に限定されず、例えば、位置特定モジュール200が埋設可能な程度に肉厚にした保持部材50内に位置特定モジュール200を埋設してもよい。本明細書において、位置特定モジュール200が弦楽器付属品に埋設された状態とは、単に位置特定モジュール200の筐体250を弦楽器付属品に接着した状態ではなく、位置特定モジュール200の少なくとも一部が弦楽器付属品の内部に埋め込まれるように配置されて、位置特定モジュール200と弦楽器付属品とが一体に構成された状態を意味する。
【0040】
また、図2(a)に示す位置特定モジュール200は充電池を備えており、当該充電池に対してアゴアテ10の外部から充電ケーブルを介して充電が行えるようにするため、アゴ板20の側面には充電ケーブル差込口26が設けられている。なお、充電ケーブル差込口26の保護や隠匿を目的として、充電ケーブル差込口26をアゴ板20と同一素材の部材で塞いでもよい。また、位置特定モジュール200はコイン電池等の交換可能な電池を備えていてもよく、この場合、テールピース100の外部からの電池交換を可能とする電池交換口が設けられていてもよい。ただし、コイン電池等を抜かれた場合には位置特定モジュール200が動作しなくなるため、充電池やコイン電池を外部から取り出せないようにしてもよく、コイン電池等を交換不可能(シングルユース)としてもよい。
【0041】
図2(b)には、本実施形態における弦楽器付属品の一例であるテールピース100が図示されている。弦楽器付属品であるテールピース100は様々な種類のものが存在するが、いずれの種類においても、弦9を固定するとともに、テールワイヤを介してエンドピン120に固定され、弦9に張力を持たせた状態で支持する役割を有する。
【0042】
図2(b)に示すテールピース100の表面には、4本の弦9をそれぞれ固定するための4つの通孔101が形成されている。また、図2(b)には図示しない裏面には、テールワイヤを固定する固定部や、表板3と面接触する接触面部が形成されている。
【0043】
図2(b)に示すテールピース100は位置特定モジュール200を有しており、テールピース100の内部に位置特定モジュール200の筐体250全体が埋設されている。例えばテールピース100の一部(例えば弦楽器本体2との接触面)を、位置特定モジュール200の筐体250の形状に合わせてくり抜いて穴を開け、そのくり抜いた穴に位置特定モジュール200を置いて、くり抜いた穴の開口をテールピース100と同一素材の部材で塞いで取り外し不可能なように固定することで、位置特定モジュール200の筐体250をテールピース100に埋設することができる。
【0044】
また、図2(b)に示す位置特定モジュール200は充電池を備えており、当該充電池に対してテールピース100の外部から充電ケーブルを介して充電が行えるようにするため、テールピース100の上面には充電ケーブル差込口102が設けられている。なお、充電ケーブル差込口102の保護や隠匿を目的として、充電ケーブル差込口102をテールピース100と同一素材の部材で塞いでもよい。また、上述したアゴアテ10と同様に、コイン電池等の交換可能な電池を用いてもよく、電池交換口が設けられてもよい。
【0045】
以上、位置特定モジュール200を有する弦楽器付属品の代表例として、4大付属品のうちのアゴアテ10およびテールピース100について説明したが、ペグ110やエンドピン120に位置特定モジュール200の一部または全体を埋設してもよい。例えば、ペグ110の把持部112やエンドピン120のヘッド部分に、位置特定モジュール200の一部または全体を埋設することができる。また、ペグ110やエンドピン120はアゴアテ10やテールピース100と比べて小さいため、ペグ110の把持部112やエンドピン120のヘッド部分を通常よりも大きく拡張して、この中に位置特定モジュール200の一部または全体を埋設してもよい。さらに、上記の4大付属品以外の弦楽器付属品に、位置特定モジュール200の一部または全体を埋設してもよい。なお、位置特定モジュール200の筐体250全体が弦楽器付属品に埋設されることが好ましいが、位置特定モジュール200の筐体250の一部のみが弦楽器付属品に埋設され、残りの部分が外部に露出していてもよい。
【0046】
このように、位置特定モジュール200の一部または全体が弦楽器付属品内に埋設されることで、弦楽器の演奏の邪魔とならないように位置特定モジュール200を弦楽器付属品に設けることが可能となる。さらに、位置特定モジュール200の存在がその外観から容易に把握できないので、盗難時に位置特定モジュール200の取り外しが行われにくくなり、また、美術工芸品としての弦楽器本体2の美観を維持することが可能となる。
【0047】
以下、図2(c)を参照しながら、弦楽器付属品が有する位置特定モジュール200の機能について説明する。
【0048】
弦楽器付属品が有する位置特定モジュール200は、現在位置特定部210、位置情報送信部220、給電部230を概略備えており、これらの各機能を実現する各処理部は筐体250に収容されている。なお、位置特定モジュール200は、図示せぬ様々な付加的な機能を有していてもよい。
【0049】
現在位置特定部210は、弦楽器付属品の現在位置を特定する機能を有する。なお、現在位置特定部210が現在位置を特定する技術は特に限定されない。例えば、現在位置特定部210は、GPS衛星信号を受信して現在位置を特定するよう構成されていてもよく、近隣の基地局から受信した電波の角度や距離に基づき、基地局に対する相対的な位置を現在位置として特定するように構成されていてもよい。
【0050】
位置情報送信部220は、無線通信を介して現在位置特定部210で特定した現在位置に係る情報を、弦楽器付属品の現在位置を特定可能にする情報として、外部に送信する機能を有する。なお、位置情報送信部220が情報を送信する技術は特に限定されず、既存の通信技術、または将来さらに拡張される次世代の通信技術を用いることができる。例えば、位置情報送信部220は、携帯電話基地局やWiFi基地局を介して情報を送信するように構成されていてもよく、例えばBluetooth(登録商標)やUWB等の近距離無線通信を介して情報を送信するように構成されていてもよい。位置情報送信部220は、本発明の情報送信部を構成する。
【0051】
本発明では、弦楽器付属品が有する位置特定モジュール200の現在位置を遠隔から特定できればよく、必ずしも位置特定モジュール200自体が現在位置を特定する現在位置特定部210を有する必要はない。例えば、位置情報送信部220は、弦楽器付属品の現在位置を特定可能にする情報として、当該位置特定モジュール200の識別情報を送信し、この識別情報を受信した受信側で弦楽器付属品(位置特定モジュール200)の位置を特定するようにしてもよい。この場合、位置特定モジュール200は、弦楽器付属品の現在位置を特定可能にする情報としての識別情報を外部に送信する識別情報送信部の機能を有していればよい。このような識別情報送信部も本発明の情報送信部を構成する。
【0052】
位置特定モジュール200により特定される弦楽器付属品の現在位置(すなわち、弦楽器付属品が装着された弦楽器の現在位置)の利用方法は、特に限定されない。例えばスマートフォン等において、インターネット等を通じて弦楽器の現在位置に係る情報を受信し、表示画面に当該現在位置を地図とともに表示してもよい。また、スマートフォン等において、弦楽器の現在位置が特定のスマートフォン等の現在位置から所定距離以上離れた場合、弦楽器の現在位置が所定エリアに進入/退出した場合等を通知してもよく、弦楽器の現在位置の経時変化に基づいて、弦楽器の移動速度を算出してもよい。また、弦楽器の現在位置の経時変化を蓄積することで、弦楽器がどのような経路を辿って移動しているのかを追跡してもよく、さらには、これからどの地点(方向)に向かおうとしているのかを予測してもよい。
【0053】
給電部230は、位置特定モジュール200の動作に必要な電力を供給する機能を有する。具体的には、給電部230は、現在位置特定部210および位置情報送信部220に対して、それぞれの動作に必要な電力を供給することができるようになっている。また、給電部230は、電気的エネルギーを貯める電池を有する。給電部230の電池は、充電ケーブル差込口26に挿入した充電ケーブルを介して充電可能な充電池であってもよく、交換可能なコイン電池等であってもよい。また、給電部230は、発熱する可能性があるため、給電部230の周囲または筐体250自体を耐熱構造として、弦楽器付属品の温度上昇を抑えるようにしてもよい。あるいは、安全性を考慮して、給電部230が高温になった場合には一時的に給電を制御する等の制御機構を設けたり、外部に熱を積極的に逃がす放熱機構を設けたりしてもよい。
【0054】
このように、弦楽器付属品が位置特定モジュール200を有することで、弦楽器に装着した弦楽器付属品から現在位置を特定可能とする情報が送信されるため、弦楽器の盗難または紛失が発生した場合であっても、弦楽器の位置を遠隔から特定して追跡することが可能となる。特に演奏時に装着される弦楽器付属品に位置特定モジュール200を設けているので、弦楽器本体2を改造したり、演奏の邪魔となる新たな付属品を設けたりすることなく、演奏可能な状態の弦楽器の位置を追跡することが可能となり、弦楽器本体2の美術工芸品としての価値を維持することが可能となる。
【0055】
また、位置特定モジュール200は、無線通信を介して現在位置を特定可能にする情報を送信するとともに、外部からの給電を必要とせずに給電部230による電力で動作を行うことができるようになっている。これにより、位置特定モジュール200は、通信用ケーブルや給電用ケーブルを接続することなく、弦楽器付属品を弦楽器に装着した状態で現在位置を特定可能にする情報を送信することが可能である。通信用ケーブルや給電用ケーブルの接続が不要であるため、演奏の邪魔となったり弦楽器本体2の美術工芸品としての美観を損ねたりすることもない。
【0056】
次に、図3(a)、(b)を参照しながら、本実施形態における弦楽器付属品に設けるロック機構300について説明する。図3(a)、(b)は、本実施形態における弦楽器付属品の代表例であるアゴアテ10に設けたロック機構300の第1及び第2の例をそれぞれ示す図である。
【0057】
弦楽器本体2から弦楽器付属品を容易に取り外すことができてしまう場合、位置特定モジュール200が弦楽器本体2から簡単に離れてしまい、弦楽器本体2を追跡することができなくなってしまう。このため、弦楽器付属品には、弦楽器本体2から弦楽器付属品を容易に取り外すことができないようにするロック機構300を設けることが好ましい。
【0058】
なお、例えば弦楽器本体2を壊したり、弦楽器付属品を取り外す作業に時間をかけたりした場合には、たとえロック機構300を設けたとしても弦楽器本体2から弦楽器付属品を取り外すことができる可能性がある。本明細書において、弦楽器本体2から弦楽器付属品を容易に取り外すことができないとは、美術工芸品としての弦楽器本体2を壊さないと弦楽器付属品を取り外しができないこと、あるいは、弦楽器付属品を取り外す作業に時間をかけないと弦楽器付属品を取り外すことができないことを意味する。
【0059】
弦楽器が盗難されたことを想定した場合、弦楽器本体2には美術工芸品としての価値(盗品としての価値)があるため、盗難者は弦楽器本体2を壊すことはせず、また、ロック機構300を設けることで弦楽器付属品を取り外す作業には時間を要するため、弦楽器の位置を特定するための時間を稼ぐことができるようになる。一方、弦楽器を紛失したことを想定した場合、ロック機構300を設けることで弦楽器付属品が弦楽器本体2から簡単に離脱してしまうことを防いで、弦楽器の現在位置を正しく追跡できるようになる。
【0060】
本発明が対象とする弦楽器付属品は任意の弦楽器付属品である。どのような弦楽器付属品に位置特定モジュール200を設けた場合であっても、ロック機構を設けることで、弦楽器本体2から弦楽器付属品を容易に取り外せないようにすることが好ましい。以下では、上述した弦楽器付属品の4大付属品のうちのアゴアテ10に対してロック機構を設けた場合の具体的な構成例について説明する。
【0061】
ロック機構300の第1の例について説明する。図3(a)に示すロック機構300は、細長い金属製(例えば真鍮やステンレス鋼)の棒状部材311と、溶接等で棒状部材311の両端にそれぞれ固定された金属製(例えば真鍮やステンレス鋼)のワイヤ312、313と、一方のワイヤ313の端部に接続された鍵315と、により構成されている。
【0062】
棒状部材311は真っ直ぐに延びた形状が撓まない剛性を有し、長手方向の長さは、2つの長ナット80、90の間の所定距離よりも長く設定されている。ワイヤ312、313は柔軟に湾曲自在な可撓性を有している。棒状部材311およびワイヤ312は、長ナット80、90の貫通孔83、84、93、94に挿通可能な細径となっている。
【0063】
さらに、ワイヤ312の端部には、リング状に形成されたリング部312aが設けられている。リング部312aは、長ナット80、90の貫通孔83、84、93、94に挿通可能な細い形状に変形できるようになっている。
【0064】
鍵315は、一端にワイヤ313の端部が接続されており、他端に特定の方法によって開閉可能な鍵止め部315aを有している。例えば、ワイヤ312の端部に設けられたリング部312aにU字状の鍵止め部315aを挿通した状態で、鍵止め部315aからリング部312aが抜け出さないように鍵止め部315aを閉じてロックした場合には、棒状部材311、ワイヤ312、313、鍵315によってループが形成される。なお、鍵315は特に限定されないが、例えばダイヤル式の鍵や南京錠等を用いることができる。
【0065】
図3(a)に示すアゴアテ10およびロック機構300は、以下のように使用される。アゴアテ10を弦楽器本体2に固定する際、アゴ板20と保持部材50とによって弦楽器本体2(図3(a)では不図示)を挟み込んで、上側支持部材30、40と下側支持部材60、70をそれぞれ長ナット80、90に挿入し、長ナット80、90を回動させることによって締付力を付与して固定させる。長ナット80、90は、アゴアテ10のクランプ構造において、当該クランプ構造に締付力を付与するネジ型の締付部材を構成する。
【0066】
アゴアテ10を弦楽器本体2に装着した後、長ナット80の貫通孔83および長ナット90の貫通孔93(あるいは、長ナット80の貫通孔84および長ナット90の貫通孔94)のそれぞれの方向が略一直線となるように、長ナット80、90の回動位置を微調整する。そして、ワイヤ312の端部のリング部312aを2つの長ナット80、90のそれぞれの貫通孔83および貫通孔93に通してワイヤ312を引っ張り、棒状部材311が貫通孔83および貫通孔93に挿通された状態とする(図3(a)に示す状態)。
【0067】
この状態で、リング部312aに鍵止め部315aを挿通して鍵止め部315aを閉じる(ロックする)。これにより、棒状部材311が貫通孔83および貫通孔93から抜け出さない状態となり、棒状部材311によって長ナット80、90が回動しないように規制することができるようになる。棒状部材311は、本発明の回動規制部を構成する。
【0068】
以上のように、棒状部材311を貫通孔83および貫通孔93に通して鍵315をロックした場合には、長ナット80、90の回動が規制される。これにより、アゴアテ10のクランプ構造に付与されている締付力を弱めてアゴアテ10を取り外すことができなくなるとともに、棒状部材311を貫通孔83および貫通孔93から取り外すことも困難となるため、弦楽器本体2からアゴアテ10を容易に取り外すことができないようになる。一方、鍵315を開けることができる者(ダイヤル式の鍵の番号を知っている、あるいは南京錠の鍵を持っている等)は、鍵315を開けて棒状部材311を貫通孔83および貫通孔93から取り外し、長ナット80、90を回動させることで、弦楽器本体2からアゴアテ10を容易に取り外すことができる。
【0069】
ロック機構300の第2の例について説明する。図3(b)に示すロック機構300では、容易に外すことができないネジを使用して弦楽器本体2にアゴアテ10を固定することで、弦楽器本体2からアゴアテ10を容易に取り外すことができないようにしている。
【0070】
図3(b)に示すアゴアテ10およびロック機構300は、上述した図3(a)に示すアゴアテ10およびロック機構300に対して、長ナット80、90に代えて盗難防止ネジ320、330を使用している点で大きく異なっている。また、盗難防止ネジ320、330の使用に適合するように、上側支持部材30、40、下側支持部材60、70の構造も大きく異なっている。
【0071】
図3(b)に示すアゴアテ10およびロック機構300について説明する。なお、以下では、上述した図3(a)に示すアゴアテ10およびロック機構300と共通する構成については、その説明を省略または簡略化する。
【0072】
上側支持部材30、40の端部36、46は円筒状に形成されており、それぞれの内周面には、盗難防止ネジ320、330のネジ部(ネジ軸)が螺合するようにネジ切りがなされている。
【0073】
下側支持部材60、70の端部66、76は円筒状に形成されている。円筒状の端部66、76の内径は、上側支持部材30、40の端部36、46の外径よりわずかに大きく設定されており、下側支持部材60、70の端部66、76は、上側支持部材30、40の端部36、46に外嵌することができるようになっている。また、下側支持部材60、70の下側には、盗難防止ネジ320、330の頭部(ネジ頭)322、332を収容するためのネジ収容部67、77が形成されている。
【0074】
盗難防止ネジ320、330は、ネジ部および頭部322、332により構成されている。ネジ部は、上側支持部材30、40の端部36、46の内周面に螺合できるようになっている。頭部322、332は、ネジ部の径よりも大きく設定されているとともに、ネジ止め時にはネジ収容部67、77に完全に埋没して収容されるようになっている。盗難防止ネジ320、330として、特殊な形状のレンチ(専用ソケット)を用いないと回動することができないロックナット(タイヤ盗難防止用ホイールナット)や既存のナンバープレート盗難防止用ネジ等を利用してもよい。
【0075】
図3(b)下部の拡大図を参照して盗難防止ネジ320について説明する。以下、盗難防止ネジ320の構成を説明するが、盗難防止ネジ330も同様の構成となっている。
【0076】
頭部322の先端面には、レンチ用穴323が中央に形成されているとともに、さらに、複雑な形状をそれぞれ有する複数の凹穴部324が形成されている。レンチ用穴323は、ネジ止めの際にレンチ等の工具を挿入して、盗難防止ネジ320を回動させるための穴であり、例えば六角レンチによる回動を可能とする六角形状に形成されている。なお、盗難防止ネジ320をネジ止めした後、レンチ用穴323と同一形状(例えば断面六角形状)の閉塞部材360をレンチ用穴323の中に打ち付けて嵌合させることでレンチ用穴323を塞ぎ、レンチを使ってネジを緩めることができないようにする。
【0077】
一方、複数の凹穴部324は、盗難防止ネジ320を緩める際に用いられる穴である。複数の凹穴部324は、各ネジにおいて異なる形状の組み合わせとなっており、盗難防止ネジ320の頭部322は、異なる形状を組み合わせた複数の凹穴部324により各ネジで固有の形状を有している。
【0078】
盗難防止ネジ320を緩める際には、盗難防止ネジ320に適合したドライバ400を使用する。ドライバ400の先端部には、複数の凹穴部324に対応した形状の複数の凸部401が形成されている。これにより、ドライバ400を盗難防止ネジ320の頭部322に当接させた際に、複数の凸部401が複数の凹穴部324にそれぞれ係合するように嵌まり、ドライバ400の回動力を盗難防止ネジ320に伝達させて、盗難防止ネジ320を緩めることができる。すなわち、盗難防止ネジ320は、複数の凹穴部324に適合した形状の複数の凸部401が形成されたドライバ400を使用しないと外すことができないようになっている。なお、盗難防止ネジ330の頭部332を盗難防止ネジ320の頭部322と同一の形状とし、単一のドライバ400を使用して、盗難防止ネジ320、330の両方を回動させることができるようになっていてもよい。
【0079】
図3(b)に示すアゴアテ10およびロック機構300は、以下のように使用される。アゴアテ10を弦楽器本体2に固定する際、上側支持部材30、40に下側支持部材60、70を嵌合させながら弦楽器本体2(図3(b)では不図示)を挟み込み、ネジ収容部67、77側から盗難防止ネジ320、330のネジ部を挿入した後に、レンチ等で回動させることによって締付力を付与して固定させる。盗難防止ネジ320、330は、アゴアテ10のクランプ構造において、当該クランプ構造に締付力を付与するネジ型の締付部材を構成する。
【0080】
アゴアテ10を弦楽器本体2に装着した後、レンチ等の通常の工具では盗難防止ネジ320、330を回動できないようにする。例えば盗難防止ネジ320において、レンチ用穴323の中に閉塞部材360を打ち付けて嵌合させることでレンチ用穴323を塞ぐ。これにより、盗難防止ネジ320のレンチ用穴323が閉塞部材360によって塞がれるため、レンチ等の通常の工具を使用した盗難防止ネジ320、330の回動が規制されるようになる。閉塞部材360は、本発明の回動規制部を構成する。
【0081】
以上のように、盗難防止ネジ320、330によってアゴアテ10を弦楽器本体2に装着し、例えばレンチ用穴323を閉塞部材360で塞いだ場合には、盗難防止ネジ320の回動が規制される。盗難防止ネジ330の回動も同様に規制される。このため、アゴアテ10のクランプ構造に付与されている締付力を弱めることができず、弦楽器本体2からアゴアテ10を容易に取り外すことができないようになる。一方、盗難防止ネジ320、330に適合したドライバ400を使用することで、盗難防止ネジ320、330を回動させることができ、弦楽器本体2からアゴアテ10を容易に取り外すことができる。
【0082】
なお、上述した説明では、ストラドモデルのアゴアテを一例として説明しているが、アゴアテの種類は特に限定されず、例えば2つのネジを用いて2点でネジ留めを行うガルネリタイプ等を含む各種のアゴアテに対しても、本発明は適用可能である。
【0083】
さらに、図4図7を参照しながら、ロック機構300の第3の例について説明する。
【0084】
上述した第1および第2の例では、アゴアテ10に位置特定モジュール200の一部または全体が埋設されるとともに、当該アゴアテ10を容易に取り外せないようにするロック機構300が設けられる。これに対して、以下に説明する第3の例では、テールピース100に位置特定モジュール200の一部または全体が埋設されるとともに、エンドピン500がテールワイヤ130によってテールピース100に取り外し不可能な状態で連結されており、さらに、弦楽器本体2からエンドピン500を容易に取り外せないようにするロック機構300が設けられる。
【0085】
図4(a)は、本実施形態における弦楽器付属品を容易に取り外せないようにするロック機構300の第3の例を説明するための図であり、図4(b)は、ロック機構300が組み込まれたエンドピン500の斜視図である。図5は、図4(b)に示すエンドピン500の分解斜視図である。
【0086】
図4(a)には、テールピース100の裏面が図示されている。テールピース100の裏面には、4本の弦9をそれぞれ固定するための4つの通孔101、テールワイヤ130を固定するための固定部103や、弦楽器本体2の表板3と面接触する接触面部104が形成されている。テールピース100の固定部103には、テールワイヤ130の線材131が挿通可能な2つの挿通孔103aが形成されている。また、テールピース100の内部には、位置特定モジュール200の筐体250全体が埋設されている。
【0087】
テールワイヤ130は、テールピース100とエンドピン500とを連結する部材であり、テールガットとも呼ばれる。ここでは、テールワイヤ130は簡単には切断できないようになっており、例えばステンレス鋼やタングステン等の金属からなる線材131により構成されている。テールワイヤ130の線材131の両端部は、テールピース100の挿通孔103aにそれぞれ挿通されている。線材131の両端部には、例えばテールピース100の挿通孔103aより大きな留め具132がカシメ固定されており、これにより、挿通孔103aから線材131が抜け出さないようになっている。なお、留め具132の位置を変更可能として、テールワイヤ130の長さを調整できるようにしてもよい。
【0088】
テールワイヤ130を構成する線材131の中間部には、図4(a)に示すように連結部133が装着されている。連結部133には、例えばステンレス鋼やタングステン等の金属からなる環状の係合線材134が接続されている。係合線材134は、エンドピン500の係合溝部523に嵌まり込むようにエンドピン500に装着されている。係合線材134の長さは、係合溝部523に嵌まり込んだ状態で、係合線材134がエンドピン500から外れることがないように調整されている。このように、位置特定モジュール200が埋設されたテールピース100は、テールワイヤ130によってエンドピン500と一体に連結された状態となっている。
【0089】
エンドピン500は、弦楽器本体2の側板5に形成されているエンドピン孔5a(図6および図7参照)に挿入される部材であり、図1に示すエンドピン120に対応する。通常のエンドピンはエンドピン孔5aに簡単に抜き差し可能であるが、第3の例におけるロック機構300を構成するエンドピン500は、弦楽器本体2から容易に取り外せないようになっている。エンドピン500の詳細な構成については後述する。
【0090】
また、エンドピン500は、拡張エンドピン600が装着可能なように構成されていてもよい。拡張エンドピン600は、チェロやコントラバスなどの比較的大型の弦楽器を地面(床面)に設置するための支持棒としての機能を有している。例えばエンドピン500に設けられたネジ切り部522にネジ状連結部640を螺合させることで、拡張エンドピン600をエンドピン500に取り付けることができる。なお、拡張エンドピン600は必要に応じてエンドピン500に適宜取り付けることができ、弦楽器がバイオリン1やビオラの場合には、拡張エンドピン600を必ずしも取り付ける必要はない。
【0091】
拡張エンドピン600は、複数の支持脚部610、620、630が伸縮可能に連結して構成されている。支持脚部610と支持脚部620との間には連結ストッパ部621が設けられており、レバー部622を操作することで、支持脚部610と支持脚部620とを互いに固定できるようになっている。また、支持脚部620と支持脚部630との間にも同様に連結ストッパ部631が設けられており、レバー部632を操作することで、支持脚部620と支持脚部630とを互いに固定できるようになっている。支持脚部630の先端は床面に接触するため、ゴム等からなる保護部650が設けられている。
【0092】
以下、図4(b)の斜視図および図5の分解斜視図を参照しながら、エンドピン500の詳細な構成について説明する。エンドピン500は、盗難防止ネジ510、ピン本体部520、作動部540、可動部材保持部560、可動部材570により概して構成されている。なお、説明を明瞭とするため、以下では、盗難防止ネジ510が配置される側をエンドピン500の基端側、可動部材570が配置される側をエンドピン500の先端側といい、エンドピン500の先端側と基端側とを結んだ方向を長手方向ということがある。また、可動部材570のラッチ572およびロック爪部573が突き出す方向(長手方向に垂直な方向)を幅方向ということがある。
【0093】
盗難防止ネジ510は、頭部511および軸部513が一体に構成されている。頭部511の端面には、複雑な形状をそれぞれ有する複数の凹穴部512が形成されている。盗難防止ネジ510は、図4(b)に示すようにネジ埋没部521に埋没して頭部511の端面のみが露出するように配置され、上述した盗難防止ネジ320、330と同様、複数の凹穴部512に適合した形状の複数の凸部401が形成されたドライバ400を使用しないと回動できないようになっている。盗難防止ネジ510は、本発明のストッパ位置決め部を構成する。
【0094】
ピン本体部520は、ネジ埋没部521および筒部524が一体に構成されている。ネジ埋没部521は、盗難防止ネジ510が嵌入可能なように円筒状に形成されている。ネジ埋没部521の底部には、盗難防止ネジ510の軸部513が挿通可能な挿通孔521aが形成されている。ネジ埋没部521の内周面には、拡張エンドピン600のネジ状連結部640と螺合可能なネジ切り部522が形成されており、ネジ埋没部521の外周面には、テールワイヤ130の係合線材134が嵌合可能な係合溝部523が形成されている。
【0095】
筒部524は、ネジ埋没部521の先端側に配置され、筒状に形成されている。筒部524には、長手方向に垂直な方向にネジ531を挿通させるネジ孔524aが形成されている。また、筒部524の側面(ラッチ572が配置される側の側面)には、先端側が開口した開口溝525が形成されている。筒部524は、弦楽器本体2の側板5のエンドピン孔5aに挿入される部位を構成しており、筒部524の断面径は、エンドピン孔5aの孔径とほぼ同程度の大きさとなっている。
【0096】
筒部524には、先端側から作動部540が挿入される。作動部540は、軸部541および平板部542が一体に構成されている。作動部540は、本発明のストッパ部を構成する。
【0097】
軸部541には、略中央部に長手方向にネジ551を挿通させるネジ孔541aが形成されている。軸部541は、盗難防止ネジ510の軸部513にネジ551によって連結固定され、これにより、盗難防止ネジ510および作動部540は一体となって長手方向に延びる回動軸を中心として回動することができる。
【0098】
平板部542は軸部541の側方に広がる円板状の部材である。円板状の平板部542には、その一部が切り落とされて切り欠き状の解錠溝部543が形成されている。盗難防止ネジ510を回動させた場合には、作動部540の平板部542も一体に回動して、解錠溝部543の位置(回動軸周りの位置)を変えることができるようになっている。
【0099】
筒部524には、先端側から可動部材保持部560がさらに挿入される。可動部材保持部560は、例えば側面が開いた筒状の部材により構成されている。可動部材保持部560には、長手方向に垂直な方向にネジ531を挿通させるネジ孔560aが形成されている。また、可動部材保持部560の側面(ラッチ572が配置される側の側面)には、先端側が開口した開口溝561が形成されている。
【0100】
可動部材保持部560には、先端側から可動部材570が挿入される。可動部材570は、可動基材571、ラッチ572、ロック爪部573が一体に構成されている。
【0101】
可動基材571は、例えば、角部が丸みを帯びた略直方体状の部材により構成されている。可動基材571には、長手方向に垂直な方向にネジ531を挿通させる開口部571aが形成されている。
【0102】
可動基材571の一方の側面には、幅広の基端側から先端側に向かって先細となるテーパー状に形成されたラッチ572が設けられている。図4(b)に示す組み立て状態のエンドピン500において、ラッチ572は、開口溝525、561から露出して、エンドピン500の側方に突き出すように配置される。
【0103】
可動基材571の他方の側面には、可動基材571の基端側の面を拡張するための基端面573aを有するロック爪部573が設けられている。ロック爪部573の基端面573aは、盗難防止ネジ510と一体となって回動する作動部540の平板部542に当接するように配置される。
【0104】
ピン本体部520の筒部524内部に可動部材保持部560が挿入され、可動部材保持部560内部に可動部材570が挿入された状態で、ネジ孔524a、ネジ孔560aおよび開口部571aにネジ531が挿入されてボルト532により固定される。これにより、ピン本体部520および可動部材保持部560は互いに固定される。また、後述するように、可動部材570は、ピン本体部520および可動部材保持部560に対して幅方向に移動可能となるとともに回動可能となるように配置される。
【0105】
以下、図6および図7を参照しながら、エンドピン500の作用について説明する。図6および図7は、本実施形態において、エンドピン500を含んで構成されるロック機構300の第3の例を示す断面図である。図6は、弦楽器本体2のエンドピン孔5aにエンドピン500を挿入する際の状態を説明するための図である。図7は、弦楽器本体2のエンドピン孔5aからエンドピン500を抜去する際の状態を説明するための図である。なお、図6および図7では、説明を明瞭とするために、可動部材570を除いた構成要素が断面で図示されており、可動部材570のみ上面から見た状態が図示されている。図6および図7において、エンドピン500の長手方向は図面の上下方向、エンドピン500の幅方向は図面の左右方向に対応する。
【0106】
可動部材570は、ピン本体部520および可動部材保持部560に対して幅方向に移動可能なように配置されている。例えば、可動部材570は、幅方向に長く延びる開口部571aを有しており、この開口部571aにネジ531が挿通されることで、ネジ531に対して幅方向に移動可能となっている。また、図6に示すように圧縮バネ575を設け、ピン本体部520および可動部材保持部560に対して可動部材570を付勢してもよい。
【0107】
外力が作用しない状態では、ラッチ572は開口溝525、561から露出してエンドピン500の側方に突き出すように位置する。一方、ラッチ572に側方から内側に押し込むような外力が作用すると、可動部材570は、圧縮バネ575の反発力に抗して幅方向内側(図6のT1方向)に移動し、ラッチ572はピン本体部520および可動部材保持部560の内部に収容される。ラッチ572に外力が作用しなくなると、可動部材570は圧縮バネ575の反発力により幅方向外側(図6のT2方向)に移動し、再び、ラッチ572はエンドピン500の側方に突き出した状態に戻る。
【0108】
図6の上図には、弦楽器本体2のエンドピン孔5aにエンドピン500を挿入している途中の状態が図示されている。弦楽器本体2にエンドピン500を装着する場合には、エンドピン500の先端側をエンドピン孔5aに挿入する。このとき、先端側に向かって先細となるテーパー状に形成されているラッチ572は、その側面がエンドピン孔5aの内周面5bに当接して内側に押し込まれる。その結果、可動部材570を幅方向内側に移動させながらエンドピン孔5aにエンドピン500を挿入することができ、弦楽器本体2にエンドピン500を簡単に装着させることができる。
【0109】
図6の下図には、弦楽器本体2のエンドピン孔5aにエンドピン500を完全に挿入した状態が図示されている。エンドピン孔5aにエンドピン500を完全に挿入した場合、ラッチ572の側面はエンドピン孔5aの内周面5bから離れて、ラッチ572はエンドピン500の側方に突き出した状態に戻る。この状態では、ピン本体部520とラッチ572との間に側板5が挟まっており、エンドピン500を手前側(基端側)に引っ張ってもラッチ572は幅方向内側に移動せず、エンドピン500を弦楽器本体2から取り外すことはできない。また、これにより、テールワイヤ130を介してエンドピン500と一体に連結されているテールピース100も弦楽器本体2から取り外すことはできない。
【0110】
また、可動部材570は、ピン本体部520および可動部材保持部560に対して回動可能なように配置されている。例えば、可動部材570は、開口部571aに挿通されているネジ531を回動軸として回動可能となっている。図7に示すようにトーションバネ(ねじりコイルばね)576を設け、ピン本体部520および可動部材保持部560に対して可動部材570を付勢してもよい。
【0111】
可動部材570にはロック爪部573が設けられている。上述したようにロック爪部573の基端面573aは、作動部540の平板部542に当接するように配置される。ロック爪部573の基端面573aが平板部542に当接した状態では、可動部材570に対して、ネジ531を回動軸とした回動方向(図7のR1方向)に外力が作用した場合であっても、ロック爪部573の基端面573aが平板部542に当接して可動部材570の回動が規制されるようになっている。すなわち、ロック爪部573の基端面573aが平板部542に当接した状態では、可動部材570は回動できないようになっている。
【0112】
平板部542には、平板部542の一部を切り落とした切り欠きによって形成された解錠溝部543が設けられている。平板部542を回動させて、ロック爪部573の基端面573aと長手方向に並ぶように解錠溝部543を配置した場合には、ロック爪部573の基端面573aは平板部542に当接せず、ロック爪部573は解錠溝部543の切り欠きを通り抜けることができるようになり、可動部材570は回動できるようになる。なお、作動部540の平板部542は、盗難防止ネジ510と連結固定されて一体に回動することができる。盗難防止ネジ510を回動させることで、解錠溝部543の回動位置(回動軸周りの位置)を変えて、可動部材570を回動可能な状態および回動不可能な状態に適宜設定することができる。
【0113】
作動部540の平板部542を回動させるためには、ドライバ400を使用して盗難防止ネジ510を回動させる必要がある。ドライバ400を使用して盗難防止ネジ510および作動部540を回動させて、ロック爪部573の基端面573aと長手方向に並ぶように解錠溝部543を配置した場合、可動部材570は、ネジ531を回動軸とした回動方向(図7のR1方向)に回動できるようになる。外力が作用しない状態では、ラッチ572は開口溝525、561から露出してエンドピン500の側方に突き出すように位置する。一方、ラッチ572を奥側に押し込むような外力が作用すると、可動部材570は、トーションバネ576の反発力に抗してラッチ572を奥側に移動させる方向(図7のR1方向)に回動し、これにより、ラッチ572はピン本体部520および可動部材保持部560の内部に収容される。ラッチ572に外力が作用しなくなると、可動部材570はトーションバネ576の反発力によりラッチ572を手前側に移動させる方向(図7のR2方向)に回動し、再び、ラッチ572はエンドピン500の側方に突き出した状態に戻る。
【0114】
図7の上図には、弦楽器本体2にエンドピン500を装着した状態において、作動部540の平板部542を回動させて、ロック爪部573の基端面573aと長手方向に並ぶように解錠溝部543を配置した様子が図示されている。ロック爪部573の基端面573aが平板部542と当接している場合(例えば、図6の下図を参照)には、基端面573aと平板部542との当接によって可動部材570の回動は規制されている。一方、図7の上図に示すように、ロック爪部573の基端面573aと長手方向に並ぶように解錠溝部543を配置した場合、ロック爪部573の基端面573aは平板部542と当接せずに解錠溝部543の切り欠きを通り抜け、可動部材570は回動可能な状態となる。
【0115】
図7の下図には、弦楽器本体2のエンドピン孔5aからエンドピン500を抜去している途中の状態が図示されている。弦楽器本体2からエンドピン500を取り外す場合には、上述のように、ロック爪部573の基端面573aと長手方向に並ぶように解錠溝部543を配置してラッチ572を回動可能な状態としたうえで、エンドピン500をエンドピン孔5aから抜去すればよい。エンドピン500をエンドピン孔5aから引き抜くと、ラッチ572は、その基端面572aが側板5の内壁面5cに当接して奥側に押し込まれる。これにより、可動部材570は図7のR1方向に回動して、エンドピン500をエンドピン孔5aから容易に抜去することができる。
【0116】
このように、位置特定モジュール200を搭載する弦楽器付属品としてテールピース100を使用し、テールピース100から分離不可能に連結されたエンドピン500を弦楽器本体2から容易に取り外せないようにしてもよい。エンドピン500は、弦楽器本体2のエンドピン孔5aに挿通されるピン本体部520と、ピン本体部520に対して回動可能な可動部材570と、可動部材570のピン本体部520に対する回動を規制する作動部540と、を有してもよい。また、ロック機構300は、例えば、作動部540と連結固定された盗難防止ネジ510を備えて構成されてもよい。この場合、エンドピン500は、盗難防止ネジ510を回動することで定まる作動部540の解錠溝部543の位置に応じて、可動部材570が回動可能となってピン本体部520をエンドピン孔5aから抜去できる状態と、可動部材570が回動不能となってピン本体部520をエンドピン孔5aから抜去できない状態と、を取ることができるようになる。
【0117】
エンドピン500の構成を改良してロック機構300を設けることで、バイオリン1やビオラだけではなく、チェロやコントラバスにおいてもテールピース100に搭載された位置特定モジュール200を容易に取り外せない状態で装着することができる。チェロやコントラバスの場合には、長尺の拡張エンドピン600を適宜取り付けることで、地面に設置できるようにしてもよい。なお、ここではテールピース100に位置特定モジュール200を搭載しているが、ロック機構300を有して容易に取り外すことができないエンドピン500自体に位置特定モジュール200を搭載してもよい。
【0118】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであり、本発明を限定するものではない。上述した実施形態に開示された各構成要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。また、本実施形態で説明した各構成要素を適宜組み合わせて得られる構成も本発明に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、弦楽器の演奏時に弦楽器本体に装着される弦楽器付属品に適用可能である。
【符号の説明】
【0120】
1 バイオリン
2 弦楽器本体
3 表板
3a f字孔
4 裏板
5 側板
5a エンドピン孔
5b 内周面
5c 内壁面
6 棹部
6a ネック
6b ヘッド
6c ペグボックス
7 指板
8a 駒
8b 上駒
9 弦
10 アゴアテ
20 アゴ板
21 凹部
22、23 接触面部
24、25、524a、541a、560a ネジ孔
26、102 充電ケーブル差込口
30、40 上側支持部材
31、36、41、46、61、66、71、76 端部
50 保持部材
51 接触面部
60、70 下側支持部材
67、77 ネジ収容部
80、90 長ナット
81、82、91、92、571a 開口部
83、84、93、94 貫通孔
100 テールピース
101 通孔
103 固定部
103a、521a 挿通孔
104 接触面部
110 ペグ
111 糸巻部
112 把持部
120、500 エンドピン
130 テールワイヤ
131 線材
132 留め具
133 連結部
134 係合線材
200 位置特定モジュール
210 現在位置特定部
220 位置情報送信部
230 給電部
250 筐体
300 ロック機構
311 棒状部材
312、313 ワイヤ
312a リング部
315 鍵
315a 鍵止め部
320、330、510 盗難防止ネジ
322、332、511 頭部
323 レンチ用穴
324、512 凹穴部
360 閉塞部材
400 ドライバ
401 凸部
513、541 軸部
520 ピン本体部
521 ネジ埋没部
522 ネジ切り部
523 係合溝部
524 筒部
525、561 開口溝
531、551 ネジ
532 ボルト
540 作動部
542 平板部
543 解錠溝部
560 可動部材保持部
570 可動部材
571 可動基材
572 ラッチ
572a、573a 基端面
573 ロック爪部
575 圧縮バネ
576 トーションバネ
600 拡張エンドピン
610、620、630 支持脚部
621、631 連結ストッパ部
622、632 レバー部
640 ネジ状連結部
650 保護部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7