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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149437
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】新規なオレフィン重合用触媒
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/6592 20060101AFI20241010BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C08F4/6592
C08F10/00 510
C08F10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060814
(22)【出願日】2024-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2023061467
(32)【優先日】2023-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】石濱 由之
(72)【発明者】
【氏名】青木 晋
【テーマコード(参考)】
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J100AA02P
4J100AA16Q
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA11
4J100DA42
4J100DA43
4J100FA10
4J100FA19
4J128AA02
4J128AC10
4J128AC20
4J128AC28
4J128AD05
4J128AD08
4J128AD11
4J128AD13
4J128AD17
4J128AD19
4J128BA01A
4J128BA01B
4J128BB01A
4J128BB01B
4J128BC14B
4J128BC15B
4J128BC25A
4J128CA28A
4J128EA01
4J128EB02
4J128EB03
4J128EB09
4J128EC02
4J128FA02
4J128GA01
4J128GA05
4J128GA06
4J128GA07
4J128GA08
4J128GB01
(57)【要約】
【課題】 メタロセン系ポリエチレンの成型加工性を改善するため、分子量分布が広く、かつ高分子量領域に長鎖分岐を有するエチレン系重合体を製造可能なオレフィン重合用触媒を提供する。
【解決手段】 成分(A-1):式(1)で示されるメタロセン化合物、成分(A-2):式(2)で示されるメタロセン化合物、成分(B):成分(A-1)および成分(A-2)と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物を含むオレフィン重合用触媒である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A-1)、(A-2)および(B)を含むオレフィン重合用触媒。
成分(A-1):下記式(1)で示されるメタロセン化合物
【化1】

[式(1)中、
は、Ti、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属原子を示し、
およびXは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20のアルコキシ基を示し、
とQは、炭素原子、ケイ素原子またはゲルマニウム原子を示し、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基を示し、隣接する置換基同士でそれらが結合するQおよびQを含んで結合し環を形成していてもよく、
mは、0または1であり、mが0の場合、Qは、Rを含む共役5員環と直接結合し、
~R14は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基、酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはリン原子を含む炭素数1~40の炭化水素基、炭素数1~40の炭化水素基置換シリル基または炭素数1~40の炭化水素基置換アミノ基を示し、R~Rは、隣接する置換基同士でそれらが結合する炭素原子を含んで結合し脂肪族環を形成していてもよく、R10~R14は、隣接する置換基同士でそれらが結合する炭素原子を含んで結合し環を形成していてもよく、
nは、0または1であり、nが0の場合、R10とR11が結合する炭素原子は存在せず、R12が結合する炭素原子と共役5員環とは直接結合してインデニル環を形成する。]
成分(A-2):下記一般式(2)で示されるメタロセン化合物
【化2】

[式(2)中、
は、Ti、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属原子を示し、
21およびX22は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20のアルコキシ基を示し、
51~R60は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基、酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはリン原子を含む炭素数1~40の炭化水素基、炭素数1~40の炭化水素基置換シリル基または炭素数1~40の炭化水素基置換アミノ基を示し、
51~R60のうち、同一シクロペンタジエニル環上にある隣接するいずれか1組以上は、結合する炭素原子を含んで互いに結合し環を形成していてもよい。
成分(B):成分(A-1)および成分(A-2)のメタロセン化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物
【請求項2】
前記成分(A-1)の前記式(1)において、nが0であることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項3】
前記成分(A-1)の前記式(1)において、mが0であることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項4】
前記成分(A-1)の前記式(1)において、Rが水素原子であることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項5】
前記成分(A-1)の前記式(1)において、Rが炭素数1~20の炭化水素基であることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項6】
前記成分(A-1)の前記式(1)において、R~R14の少なくとも1つが下記式(5)で示されることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
【化3】

[式(5)中、
は、周期表14族、15族または16族の原子を示し、
17~R21は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基、または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を示し、隣接する置換基同士でそれらに結合する原子を含んで結合し環を形成していてもよく、
は、0または1であり、Aが周期表15族または16族の原子の場合、pが0であり、Aに置換基R17が存在せず、
は、0または1であり、qが0の場合、R20は存在せず、R19が結合する炭素原子とR21が結合する炭素原子とは直接結合している。]
【請求項7】
前記成分(A-1)の前記式(1)において、R~R14の少なくとも1つが次の式(6)で示されることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
【化4】

[式(6)中、
は、酸素原子または硫黄原子を表し、
22~R24は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を示し、R22~R24は、隣接する置換基同士でそれらが結合する炭素原子を含んで結合し環を形成していてもよい。]
【請求項8】
前記成分(A-1)の前記式(1)において、R12が、前記式(5)で示されることを特徴とする請求項6に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項9】
前記成分(A-1)の前記式(1)において、R12が、前記式(6)で示されることを特徴とする請求項7に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項10】
前記成分(A-2)の前記式(2)において、R51~R60の少なくとも1つが炭素数1~20の炭化水素基であることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項11】
前記成分(A-2)の前記式(2)において、R51~R60の少なくとも2つが炭素数1~20の炭化水素基であることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項12】
前記成分(A-2)の前記式(2)において、R51~R60の少なくとも4つが炭素数1~20の炭化水素基であることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項13】
前記成分(A-2)の前記式(2)において、R51~R55の少なくとも1つと、R56~R60の少なくとも1つとが、各々、炭素数1~20の炭化水素基であることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項14】
前記成分(A-2)の前記式(2)において、R51~R55の少なくとも2つと、R56~R60の少なくとも2つとが、各々、炭素数1~20の炭化水素基であることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項15】
さらに次の成分(C)を含むことを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
成分(C):微粒子担体
【請求項16】
さらに次の成分(D)を含むことを特徴とする請求項15に記載のオレフィン重合用触媒。
成分(D):有機アルミニウム化合物
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒の存在下、オレフィンを重合または共重合させることを特徴とするオレフィン系重合体の製造方法。
【請求項18】
前記オレフィンが、エチレンであることを特徴とする請求項17に記載のオレフィン系重合体の製造方法。
【請求項19】
得られる重合体が、次の条件(i)および(ii)を満足することを特徴とする請求項17に記載のオレフィン系重合体の製造方法。
条件(i):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)による分子量分布(Mw/Mn)が3.0以上、50.0以下である。
条件(ii):温度190℃、荷重21.6kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)と、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)の比(HLMFR/MFR)が20を超え、500以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なオレフィン重合用触媒、該触媒を用いたオレフィン系重合体の製造方法、および該方法によって製造したオレフィン系重合体に関し、さらに詳しくは、特定の二種類のメタロセン化合物と、該メタロセン化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物を含むオレフィン重合用触媒、該触媒を用いたオレフィン系重合体の製造方法、および該方法によって製造したオレフィン系重合体やエチレン系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン重合用メタロセン触媒で製造されるポリオレフィンは、分子量分布や共重合組成分布といったポリマー分子構造の均一性が高く、衝撃強度や長期寿命等、様々な機械的物性に優れることから、近年、その使用量が増加してきている。しかし、メタロセン系ポリオレフィンは、機械的諸物性には優れているものの、狭い分子量分布故に、溶融張力や溶融流動性といったポリオレフィンの成形加工上重要な特性において十分な性能を満たすものではなかった。
【0003】
メタロセン系ポリオレフィンの成型加工性を改善する方法として、メタロセン触媒を用いた多段重合によって分子量分布を広げる方法が知られている(特許文献1)。しかし、多段重合で分子量分布を広げる方法では、重合反応基を連結して使用するための建設コストや運転管理コストなど別の問題が生じる。
【0004】
一方、不十分なメタロセン系ポリオレフィンの成型加工性を改善する方法として、特定のメタロセン錯体を用いた重合反応でポリエチレンに長鎖分岐を導入して溶融粘度を増加させることによって、流動性や溶融張力を向上する方法(特許文献2)、分子量分布に複数のピークを有するような重合体を調製するために触媒を設計する方法(特許文献3)が知られている。
【0005】
また、この課題に対するもう一つのアプローチとして、2種の錯体の組合せを含む触媒組成物を用いることで、十分な数と適切な長さの長鎖分岐を導入したポリエチレンを製造する、二元錯体触媒技術が研究されている(特許文献4~8)。これらの特許文献では、架橋または非架橋のシクロペンタジエニル(Cp)基を含む金属錯体を用いて二元錯体触媒を設計することで、長鎖分岐構造の導入を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-234717号公報
【特許文献2】特開平2-276807号公報
【特許文献3】特開2017-197739号公報
【特許文献4】特開2012-214780号公報
【特許文献5】特開2017-145303号公報
【特許文献6】特開2019-059934号公報
【特許文献7】特表2019-515997号公報
【特許文献8】特開2010-043152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリオレフィンの成形加工性を改良するためには、分子量分布を広くすることまたは長鎖分岐を導入することが試みられている。特に長鎖分岐は、ポリオレフィンに含まれる種々の分子量帯のうち高分子量成分(概ねMw=10万~1000万)に至るまで存在すると、溶融粘弾性における長時間緩和成分が増加してスウェル比、メモリー効果、溶融張力や流動性比が大きくなるので成形加工性に有利である。そのようなポリマーの実現を目指した触媒として上記のような方法がとられているが、特許文献2の方法では、ポリマー中の長鎖分岐が溶融物性に優れる高圧法低密度ポリエチレン(HPLD)の構造ほどは発達しておらず、分子量分布も狭いため、十分な成形加工性の改良には至っていない。また、分子量分布が狭いため、剛性や衝撃強度といった機械的物性も十分ではない。
また特許文献4~8において種々のメタロセン錯体が開示されているが、これらも長鎖分岐構造の導入が充分でなく、得られるポリオレフィンの成形加工を考慮した物性としては満足のいくものではなかった。
【0008】
従来技術における長鎖分岐含有ポリエチレンの問題点を解消し、メタロセン系ポリエチレンの成型加工性を改善するため、分子量分布が広く、かつ高分子量領域に長鎖分岐を有するエチレン系重合体を製造可能なオレフィン重合用触媒が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、触媒活性の高い金属錯体と共重合活性の高い金属触媒を組合せて用いることで、互いの触媒活性を阻害することなく高分子量領域に長鎖分岐が導入されたポリオレフィンが得られることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[19]で特定されるオレフィン重合用触媒、およびオレフィン系重合体に関する。
[1]以下の成分(A-1)、(A-2)および(B)を含むオレフィン重合用触媒。
成分(A-1):下記式(1)で示されるメタロセン化合物
【化1】

[式(1)中、
は、Ti、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属原子を示し、
およびXは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20のアルコキシ基を示し、
とQは、炭素原子、ケイ素原子またはゲルマニウム原子を示し、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基を示し、隣接する置換基同士でそれらが結合するQおよびQを含んで結合し環を形成していてもよく、
mは、0または1であり、mが0の場合、Qは、Rを含む共役5員環と直接結合し、
~R14は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基、酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはリン原子を含む炭素数1~40の炭化水素基、炭素数1~40の炭化水素基置換シリル基または炭素数1~40の炭化水素基置換アミノ基を示し、R~Rは、隣接する置換基同士でそれらが結合する炭素原子を含んで結合し脂肪族環を形成していてもよく、R10~R14は、隣接する置換基同士でそれらが結合する炭素原子を含んで結合し環を形成していてもよく、
nは、0または1であり、nが0の場合、R10とR11が結合する炭素原子は存在せず、R12が結合する炭素原子と共役5員環とは直接結合してインデニル環を形成する。]
成分(A-2):下記一般式(2)で示されるメタロセン化合物
【化2】

[式(2)中、
は、Ti、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属原子を示し、
21およびX22は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20のアルコキシ基を示し、
51~R60は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基、酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはリン原子を含む炭素数1~40の炭化水素基、炭素数1~40の炭化水素基置換シリル基または炭素数1~40の炭化水素基置換アミノ基を示し、
51~R60のうち、同一シクロペンタジエニル環上にある隣接するいずれか1組以上は、結合する炭素原子を含んで互いに結合し環を形成していてもよい。
成分(B):成分(A-1)および成分(A-2)のメタロセン化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物
[2]前記成分(A-1)の前記式(1)において、nが0であることを特徴とする、前記[1]に記載のオレフィン重合用触媒。
[3]前記成分(A-1)の前記式(1)において、mが0であることを特徴とする、前記[1]または[2]に記載のオレフィン重合用触媒。
[4]前記成分(A-1)の前記式(1)において、Rが水素原子であることを特徴とする、前記[1]~[3]のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒。
[5]前記成分(A-1)の前記式(1)において、Rが炭素数1~20の炭化水素基であることを特徴とする、前記[1]~[3]のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒。
[6]前記成分(A-1)の前記式(1)において、R~R14の少なくとも1つが下記式(5)で示されることを特徴とする、前記[1]~[5]のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒。
【化3】

[式(5)中、
は、周期表14族、15族または16族の原子を示し、
17~R21は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基、または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を示し、隣接する置換基同士でそれらに結合する原子を含んで結合し環を形成していてもよく、
は、0または1であり、Aが周期表15族または16族の原子の場合、pが0であり、Aに置換基R17が存在せず、
は、0または1であり、qが0の場合、R20は存在せず、R19が結合する炭素原子とR21が結合する炭素原子とは直接結合している。]
[7]前記成分(A-1)の前記式(1)において、R~R14の少なくとも1つが次の式(6)で示されることを特徴とする、前記[1]~[5]のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒。
【化4】

[式(6)中、
は、酸素原子または硫黄原子を表し、
22~R24は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を示し、R22~R24は、隣接する置換基同士でそれらが結合する炭素原子を含んで結合し環を形成していてもよい。]
[8]前記成分(A-1)の前記式(1)において、R12が、前記式(5)で示されることを特徴とする、前記[6]記載のオレフィン重合用触媒。
[9]前記成分(A-1)の前記式(1)において、R12が、前記式(6)で示されることを特徴とする、前記[7]記載のオレフィン重合用触媒。
[10]前記成分(A-2)の前記式(2)において、R51~R60の少なくとも1つが炭素数1~20の炭化水素基であることを特徴とする、前記[1]~[9]のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒。
[11]前記成分(A-2)の前記式(2)において、R51~R60の少なくとも2つが炭素数1~20の炭化水素基であることを特徴とする、前記[1]~[9]のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒。
[12]前記成分(A-2)の前記式(2)において、R51~R60の少なくとも4つが炭素数1~20の炭化水素基であることを特徴とする、前記[1]~[9]のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒。
[13]前記成分(A-2)の前記式(2)において、R51~R55の少なくとも1つと、R56~R60の少なくとも1つとが、各々、炭素数1~20の炭化水素基であることを特徴とする、前記[1]~[9]のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒。
[14]前記成分(A-2)の前記式(2)において、R51~R55の少なくとも2つと、R56~R60の少なくとも2つとが、各々、炭素数1~20の炭化水素基であることを特徴とする、前記[1]~[9]のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒。
[15]さらに次の成分(C)を含むことを特徴とする、前記[1]~[14]のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒。
成分(C):微粒子担体
[16]さらに次の成分(D)を含むことを特徴とする、前記[15]に記載のオレフィン重合用触媒。
成分(D):有機アルミニウム化合物
[17]前記[1]~[16]のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒の存在下、オレフィンを重合または共重合させることを特徴とするオレフィン系重合体の製造方法。
[18]前記オレフィンが、エチレンであることを特徴とする、前記[17]に記載のオレフィン系重合体の製造方法。
[19]得られる重合体が、次の条件(i)および(ii)を満足することを特徴とする、前記[17]または[18]に記載のオレフィン系重合体の製造方法。
条件(i):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)による分子量分布(Mw/Mn)が3.0以上、50.0以下である。
条件(ii):温度190℃、荷重21.6kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)と、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)の比(HLMFR/MFR)が20を超え、500以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分子量分布が広く、かつ高分子量領域に長鎖分岐を有し、成形加工性を改善することができるエチレン系重合体を製造可能なオレフィン重合用触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例および比較例における、HLMFR見合いの低分子量成分量比(WMW≦1万)を示す図である。
図2】実施例および比較例における、HLMFR見合いの低分子量成分量比(WMW≦5000)を示す図である。
図3】実施例1及び比較例1の、溶出温度に対する積分溶出曲線、微分溶出曲線を表す図である。
図4】GPCクロマトグラムのベースラインと区間を表す図である。
図5】市販の低密度ポリエチレンを例とした、各溶出温度における溶出割合(表中の重量%(wt%))と重量平均分子量(表中のMw)からwhole(全体)の重量平均分子量を求めるための表を示す図である。
図6】実施例1及び比較例1の、CFC法で測定される、溶出温度と分子量に関する溶出量を等高線図として示す図である。
図7】実施例10の、溶出温度に対する積分溶出曲線、微分溶出曲線を表す図である。
図8】実施例10の、CFC法で測定される、溶出温度と分子量に関する溶出量を等高線図として示す図である。
図9】W~Wについての概略図である。横軸が分子量の対数、縦軸が溶出温度である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一つの態様は、成分(A-1):上記式(1)で示されるメタロセン化合物、成分(A-2):上記式(2)で示されるメタロセン化合物、および、成分(B):成分(A-1)および成分(A-2)と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物を含有するオレフィン重合用触媒である。
【0014】
以下、重合触媒、重合触媒の製造方法、重合体の構成モノマー、重合方法等について詳細に説明する。なお、以下の説明において、「重合」とは、モノマーが20量体以上のポリマーを形成する反応のことをいう。「重合」という用語は、1種類のモノマーの単独重合と複数種のモノマーの共重合を総称するものであり、特に両者を区別する必要がない場合には、総称して単に「重合」と記載する。また、本発明はポリマーの製造方法にも関連するものであるが、ポリマーそのものは、一般に化学式などによってその構造を一義的に決定することができない。よって、本明細書において、ポリマーに関する記載を行うにあたっては、必要に応じ、ポリマーをその製造方法を用いることで記載する。
【0015】
以下、具体的な置換基において、炭化水素基というときは、直鎖状、分岐鎖状または環状の基を表す。炭化水素基の価数は文脈において理解されるが、1価の基は「イル(-yl)」、2価の基は「レン(-ene)」が語尾につくことによって表現される。
【0016】
1.成分(A-1)
本発明のオレフィン重合用触媒における成分(A-1)は、下記一般式(1)で示されるメタロセン化合物である。
【化5】

(式中の各基の定義は、上記のとおりである。)
上記式(1)のメタロセン化合物は、シクロペンタジエニル環とインデニル環(またはアズレニル環)とを架橋した構造を有する。上記式(1)のメタロセン化合物は、オレフィン重合用触媒成分として用いることにより、末端にビニル基を含有したエチレン重合体を高い割合で得ることができる。末端のビニル基はさらに重合反応に関与するため、上記式(1)のメタロセン化合物を含む触媒を用いると、長鎖分岐が導入されやすいポリマーが得られやすくなる。
【0017】
一般式(1)中、Mは、Ti、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属原子を示す。好ましくはZrまたはHfであり、より好ましくはZrである。
【0018】
一般式(1)中、XおよびXは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20のアルコキシ基を示す。
およびXで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子などが挙げられる。
およびXで示される炭素数1~20の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基およびベンジル基などが挙げられる。
【0019】
およびXで示される酸素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基としては、例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基、n-プロポキシメチル基、i-プロポキシメチル基、n-ブトキシメチル基、i-ブトキシメチル基、t-ブトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、アセチル基、1-オキソプロピル基、1-オキソ-n-ブチル基、2-メチル-1-オキソプロピル基、2,2-ジメチル-1-オキソ-プロピル基、フェニルアセチル基、ジフェニルアセチル基、ベンゾイル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、2-フリル基および2-テトラヒドロフリル基などが挙げられる。
【0020】
およびXで示される窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基としては、例えば、ジメチルアミノメチル基、ジエチルアミノメチル基、ジi-プロピルアミノメチル基、ビス(ジメチルアミノ)メチル基、ビス(ジi-プロピルアミノ)メチル基、(ジメチルアミノ)(フェニル)メチル基、メチルイミノ基、エチルイミノ基、1-(メチルイミノ)エチル基、1-(フェニルイミノ)エチル基、1-[(フェニルメチル)イミノ]エチル基などが挙げられる。
およびXで示される炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジn-プロピルアミノ基、ジi-プロピルアミノ基、ジn-ブチルアミノ基、ジi-ブチルアミノ基、ジt-ブチルアミノ基およびジフェニルアミノ基などが挙げられる。
およびXで示される炭素数1~20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、フェノキシ基などが挙げられる。
【0021】
好ましいXおよびXとしては、塩素原子、臭素原子、メチル基、n-ブチル基、i-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、フェノキシ基、ジメチルアミノ基、ジi-プロピルアミノ基が挙げられ、これらの中でも、塩素原子、メチル基、ジメチルアミノ基が特に好ましい。
【0022】
一般式(1)中、QとQは、炭素原子、ケイ素原子またはゲルマニウム原子を示し、好ましくは炭素原子またはケイ素原子を示し、より好ましくはケイ素原子を示す。
【0023】
一般式(1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基を示し、R、R、RおよびRのうち少なくとも2つが隣接する置換基同士でそれらが結合するQおよび/またはQを含んで結合し環を形成していてもよい。
mは、0または1であり、mが0の場合、Qは、Rを含む共役5員環と直接結合している。好ましいmの値は、0である。
【0024】
、R、RおよびRとしては、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基などが挙げられる。
また、R、R、RおよびRのうち少なくとも2つが結合してQおよびQと一緒に環を形成している場合として、シクロブチリデン基、シクロペンチリデン基、シクロへキシリデン基、シラシクロブチル基、シラシクロペンチル基、シラシクロヘキシル基などが挙げられる。
好ましいR、R、RおよびRの具体例として、Qまたは/およびQが炭素原子の場合、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、エチレン基、シクロブチリデン基が挙げられる。QおよびQが炭素原子の場合、ビニレン基を形成することも可能であり、その場合、R、Rは存在せず、R、Rはとともにベンゼン環やシクロヘキセン環等を形成することも可能である。また、Qまたは/およびQがケイ素原子の場合、メチル基、エチル基、フェニル基、シラシクロブチル基が挙げられる。
【0025】
、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13およびR14は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基、酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはリン原子を含む炭素数1~40の炭化水素基、炭素数1~40の炭化水素基置換シリル基または炭素数1~40の炭化水素基置換アミノ基を示す。
【0026】
~R14において、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
~R14において、炭素数1~20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、プロペニル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、ブテニル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、フェニル基、シクロヘキシルメチル基、ベンジル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、4-t-ブチルフェニル基、3,5-ジ-t-ブチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
~R14において、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素含有炭化水素基としては、ビス(トリメチルシリル)メチル基、ビス(t-ブチルジメチルシリル)メチル基等が挙げられる。
【0027】
~R14において、炭素数1~20のハロゲン含有炭化水素基としては、ブロモメチル基、クロロメチル基、2-クロロエチル基、2-ブロモエチル基、2-ブロモプロピル基、3-ブロモプロピル基、2-ブロモシクロペンチル基、2,3-ジブロモシクロペンチル基、2-ブロモ-3-ヨードシクロペンチル基、2,3-ジブロモシクロヘキシル基、2-クロロ-3-ヨードシクロヘキシル基、2-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基等が挙げられる。
~R14において、酸素原子を含む炭素数1~40の炭化水素基としては、例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基、n-プロポキシメチル基、i-プロポキシメチル基、n-ブトキシメチル基、i-ブトキシメチル基、t-ブトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、アセチル基、アセトキシ基、1-オキソプロピル基、1-オキソ-n-ブチル基、2-メチル-1-オキソプロピル基、2,2-ジメチル-1-オキソ-プロピル基、フェニルアセチル基、ジフェニルアセチル基、ベンゾイル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、2-フリル基、2-メチルフリル基および2-テトラヒドロフリル基などが挙げられる。
【0028】
~R14において、硫黄原子を含む炭素数1~40の炭化水素基としては、例えば、メチルチオメチル基、エチルチオメチル基、n-プロピルチオメチル基、i-プロピルチオメチル基、n-ブチルチオメチル基、i-ブチルチオメチル基、t-ブチルチオメチル基、メチルチオエチル基、エチルチオエチル基、チオアセチル基、1-チオキソプロピル基、1-チオキソ-n-ブチル基、2-メチル-1-チオキソプロピル基、2,2-ジメチル-1-チオキソ-プロピル基、フェニルチオアセチル基、ジフェニルチオアセチル基、チオベンゾイル基、2-メチルチオフェニル基、3-メチルチオフェニル基、4-メチルチオフェニル基、2-チエニル基、2-メチルチエニル基および2-テトラヒドロチエニル基などが挙げられる。
~R14において、窒素原子を含む炭素数1~40の炭化水素基としては、例えば、ジメチルアミノメチル基、ジエチルアミノメチル基、ジi-プロピルアミノメチル基、ビス(ジメチルアミノ)メチル基、ビス(ジi-プロピルアミノ)メチル基、(ジメチルアミノ)(フェニル)メチル基、メチルイミノ基、エチルイミノ基、1-(メチルイミノ)エチル基、1-(フェニルイミノ)エチル基、1-[(フェニルメチル)イミノ]エチル基などが挙げられる。
【0029】
~R14において、リン原子を含む炭素数1~40の炭化水素基としては、例えば,ジメチルホスフィノメチル基、ジエチルホスフィノメチル基、ジi-プロピルホスフィノメチル基、ビス(ジメチルホスフィノ)メチル基、ビス(ジi-プロピルホスフィノ)メチル基、(ジメチルホスフィノ)(フェニル)メチル基、メチルホスファニリデン基、エチルホスファニリデン基、1-(メチルホスファニリデン)エチル基、1-(フェニルホスファニリデン)エチル基、1-[(フェニルメチル)ホスファニリデン]エチル基などが挙げられる。
~R14において、炭素数1~40の炭化水素基置換シリル基としては、トリメチルシリル基、トリt-ブチルシリル基、ジt-ブチルメチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基などが挙げられる。
~R14において、炭素数1~40の炭化水素基置換アミノ基としては、ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジエチルアミノ基、(メチル)(n-プロピル)アミノ基、ジn-プロピルアミノ基、ジプロペニルアミノ基、ジi-プロピルアミノ基、ジn-ブチルアミノ基、ジi-ブチルアミノ基、ジt-ブチルアミノ基、ジn-ペンチルアミノ基、ジn-ヘキシルアミノ基、ジn-オクチルアミノ基、ジn-ドデシルアミノ基、(メチル)(フェニル)アミノ基、ジフェニルアミノ基、ジ(4-メチル-フェニル)アミノ基、ジ(3,5-ジメチル-フェニル)アミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。
【0030】
好ましいR~R14としては、水素原子、炭素数1~20の炭化水素基、または炭素数1~40の炭化水素基置換シリル基であり、水素原子、メチル基、t-ブチル基、またはトリメチルシリル基がさらに好ましい。
~Rのうち、少なくとも2つは水素原子ではなく、好ましくは、RおよびRのうち、どちらか一方は水素原子ではなく、より好ましくは、RおよびRは、両方とも水素原子ではなく、R~Rの別の好ましい態様として、少なくとも3つは水素原子ではなく、更に好ましくは、R~Rは全て水素原子ではなく、特に好ましくは、R~Rは水素原子ではない場合は全てメチル基であり、最も好ましくは、R~Rは全てメチル基である。
【0031】
好ましい態様において、一般式(1)で示されるメタロセン化合物は、シクロペンタジエニル基とインデニル基またはアズレニル基が架橋した構造の配位子を有する。よって、上記式(1)において、nは、0または1である。nが0である場合、R10とR11が結合する炭素原子は存在せず、R12が結合する炭素原子と共役5員環とは直接結合してインデニル環を形成する。好ましいnの値は0である。
【0032】
一般式(1)で示されるメタロセン化合物は以上のような構造を有する化合物であるが、金属Mが配位するシクロペンタジエニル環の構造として、より好ましいものを以下に説明する。
【0033】
好ましい一つの態様において、基Rは、水素原子である。
【0034】
別の好ましい一つの態様において、基Rは、炭素数1~20の炭化水素基の炭化水素基である。Rは、より好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、プロペニル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基であり、更に好ましくは、メチル基、エチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0035】
別の好ましい一つの態様において、R~R14の少なくとも1つは、ハロゲンまたは上記炭素数1~20の炭化水素基である。生成するオレフィン系重合体の分子量分布と長鎖分岐の構造を該重合体の用途に応じて調整したり、成分(A-1)由来の活性種の活性を向上したりする目的において、R12に何らかの置換基を有していると好ましい。好ましい一つの態様において、R~R14の少なくとも1つは、次の一般式(5)で示される環状構造を有する置換基を示し、好ましくは、特定の置換基を有するフェニル基、またはフリル基類、チエニル基類を示す。
【化6】
【0036】
一般式(5)中、Aは、周期表14族、15族または16族の原子を示す。
17、R18、R19、R20およびR21は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基、または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を示し、隣接する置換基同士でそれらに結合する原子を含んで結合し環を形成していてもよい。
は、0または1であり、Aが周期表15族または16族の原子の場合、pが0であり、Aに置換基R17が存在しない。pが0であるとき、Aは酸素原子であることが好ましい。pが1であるとき、Aは炭素原子であることが好ましい。
は、0または1であり、qが0の場合、R20は存在せず、R19が結合する炭素原子とR21が結合する炭素原子とは直接結合している。
【0037】
が炭素原子の場合、R~R14、R17~R21のうち少なくとも1つは水素原子ではないことが好ましい。また、さらにR17~R21はハロゲン原子ではないことが好ましい。
17~R21で示される基が、水素原子以外のとき、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン含有炭化水素基、または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基については、前述したR~R14の説明で示した基と同様なものを挙げることができ、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基、または炭素数1~20のアルコキシ基については、前述したXおよびXの説明で示した基と同様なものを挙げることができる。
【0038】
別の好ましい一つの態様において、R~R14の少なくとも1つは、次の一般式(6)で示される環状構造を有する置換基を示す。
【化7】
【0039】
一般式(6)中、Zは、酸素原子または硫黄原子を示す。
22~R24は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を示し、R22~R24は、隣接する置換基同士でそれらが結合する炭素原子を含んで結合し環を形成していてもよい。
【0040】
22~R24において、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基としては、前述したR~R14の説明で示した基と同様なものを挙げることができる。
【0041】
一般式(5)または(6)で示される基は、具体的には、フェニル基、4-トリメチルシリルフェニル基、4-(t-ブチルジメチルシリル)フェニル基、3,5-ビストリメチルシリルフェニル基、4-メトキシフェニル基、4-エトキシフェニル基、4-イソプロポキシフェニル基、4-n-ブトキシフェニル基、2-フリル基、2-(5-メチル)フリル基、2-(5-t-ブチル)フリル基、2-(5-トリメチルシリル)フリル基、2-(4,5-ジメチル)フリル基、2-ベンゾフリル基、2-チエニル基、2-(5-メチル)チエニル基、2-(5-t-ブチル)チエニル基、2-(5-トリメチルシリル)チエニル基、2-(4,5-ジメチル)チエニル基などが挙げられる。
【0042】
一般式(5)または(6)で示される基を有する場合、該基はR~R14のいずれの位置にあってもよいが、R10~R12のいずれかの位置にあることが好ましく、R12の位置にあることがより好ましい。
【0043】
成分(A-1)のメタロセン化合物の具体例を以下の表1、2で示すが、これらに限定されるものではない。表中、Cpはシクロペンタジエニル、Indはインデニル基、Azuはアズレニル基、Phはフェニル基、Meはメチル基、Etはエチル基、n-Prはノルマルプロピル基、i-Prはイソプロピル基、n-Buはノルマルブチル基、t-Buはターシャリーブチル基を示す。また、表1、2で示す化合物のジルコニウムを、チタニウムまたはハフニウムに代えた化合物等も好ましい化合物として挙げられる。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
2.成分(A-2)
本発明のオレフィン重合用触媒における成分(A-2)は、下記一般式(2)で示されるメタロセン化合物である。
【化8】

は、Ti、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属原子を示す。好ましくはZrまたはHfであり、より好ましくはZrである。
上記式(2)のメタロセン化合物は、配位子としての芳香環が架橋されていない構造を有し、低分子量のポリオレフィンを生成する効率が高い。そのため、上記式(2)のメタロセン化合物を含む触媒を上記式(1)の化合物と組み合わせて用いると、分子量分布が広く、それにより成型加工性がより改善されたオレフィン系重合体(特にエチレン系重合体)を、高い生産性で得ることができる。
更に、上記式(2)のメタロセン化合物は、配位子としての芳香環が架橋されていない構造を有し、分子量分布の狭いポリオレフィンを生成する効率が高い。そのため、上記式(2)のメタロセン化合物を含む触媒を上記式(1)の化合物と組み合わせて用いると、低分子量側に分子量分布が広がることを防止し、それにより製品表面のべとつきや製品強度がより改善されたオレフィン系重合体(特にエチレン系重合体)を、高い生産性で得ることができる場合がある。
更にまた、上記式(2)のメタロセン化合物は、配位子としての芳香環が架橋されていない構造を有し、エチレン重合能は優れるものの、炭素数3~30のオレフィン類の重合能は劣る傾向がある。そのため、上記式(2)のメタロセン化合物を含む触媒を上記式(1)の化合物と組み合わせて、例えばエチレンとα-オレフィンの共重合に用いると、低分子量側にα-オレフィン含量の低い重合体が生成し、それにより製品強度がより改善されたオレフィン系重合体(特にエチレン系重合体)を、高い生産性で得ることができる場合がある。
【0047】
21およびX22は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20のアルコキシ基を示す。金属Mに結合するこれらの基の具体的な例は、一般式(1)の基X、Xで挙げたものと同様である。
【0048】
51~R60は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基、酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはリン原子を含む炭素数1~40の炭化水素基、炭素数1~40の炭化水素基置換シリル基または炭素数1~40の炭化水素基置換アミノ基を示す。
【0049】
51~R55のうち隣接する2つの組、およびR56~R60のうち隣接する2つの組は、それらが結合する炭素原子を含んで互いに結合し環を形成していてもよい。Cp基の置換基であるこれらの基の具体的な例、好ましい態様は、一般式(1)の基R~R14で挙げたものと同様である。
【0050】
一般式(2)で示されるメタロセン化合物は以上のような構造を有する化合物であるが、金属Mが配位するシクロペンタジエニル環の構造として、より好ましいものを以下に説明する。
【0051】
51~R60において、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基、酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはリン原子を含む炭素数1~40の炭化水素基、炭素数1~40の炭化水素基置換シリル基または炭素数1~40の炭化水素基置換アミノ基としては、前述のR~R14の説明で示した基と同様なものを挙げることができる。
【0052】
前記式(2)において、R51~R60の少なくとも1つが炭素数1~20の炭化水素基であることが好ましい。また別の一態様においては、R51~R60の少なくとも2つが炭素数1~20の炭化水素基であることが好ましい。さらに別の一態様においては、R51~R60の少なくとも4つが炭素数1~20の炭化水素基であることがこのましい。
より具体的には、前記式(2)において、R51~R55の少なくとも1つと、R56~R60の少なくとも1つとが、各々、炭素数1~20の炭化水素基であることが好ましく、さらに具体的には、R51~R55の少なくとも2つと、R56~R60の少なくとも2つとが、各々、炭素数1~20の炭化水素基であることが好ましい。
【0053】
別の好ましい一つの態様において、R51~R60の少なくとも1つは、次の一般式(7)で示される環状構造を有する置換基を示す。
【化9】

一般式(7)中、Aは、周期表14族、15族または16族の原子を示す。
75、R76、R77、R78およびR79は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基、または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を示し、隣接する置換基同士でそれらに結合する原子を含んで結合し環を形成していてもよい。
は、0または1であり、Aが周期表15族または16族の原子の場合、pが0であり、Aに置換基R75が存在しない。pが0であるとき、Aは酸素原子であることが好ましい。pが1であるとき、Aは炭素原子であることが好ましい。
は、0または1であり、qが0の場合、R78は存在せず、R77が結合する炭素原子とR79が結合する炭素原子とは直接結合している。
【0054】
が炭素原子の場合、R55~R79のうち少なくとも1つは水素原子ではないことが好ましい。また、さらにR75~R79はハロゲン原子ではないことが好ましい。
75~R79で示される基が、水素原子以外のとき、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン含有炭化水素基、または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基については、前述したR~R16の説明で示した基と同様なものを挙げることができ、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基、または炭素数1~20のアルコキシ基については、前述したXおよびXの説明で示した基と同様なものを挙げることができる。
【0055】
別の好ましい一つの態様において、R51~R60の少なくとも1つは、次の一般式(8)で示される環状構造を有する置換基を示す。
【化10】

一般式(8)中、Zは、酸素原子または硫黄原子を示す。
80~R82は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を示し、R80~R82は、隣接する置換基同士でそれらが結合する炭素原子を含んで結合し環を形成していてもよい。
【0056】
80~R82において、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を含む炭素数1~20の炭化水素基、ケイ素数1~6を含む炭素数1~18のケイ素原子含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン原子含有炭化水素基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基としては、前述したR~R16の説明で示した基と同様なものを挙げることができる。
【0057】
一般式(7)または(8)で示される基は、具体的には、フェニル基、4-トリメチルシリルフェニル基、4-(t-ブチルジメチルシリル)フェニル基、3,5-ビストリメチルシリルフェニル基、4-メトキシフェニル基、4-エトキシフェニル基、4-イソプロポキシフェニル基、4-n-ブトキシフェニル基、2-フリル基、2-(5-メチル)フリル基、2-(5-t-ブチル)フリル基、2-(5-トリメチルシリル)フリル基、2-(4,5-ジメチル)フリル基、2-ベンゾフリル基、2-チエニル基、2-(5-メチル)チエニル基、2-(5-t-ブチル)チエニル基、2-(5-トリメチルシリル)チエニル基、2-(4,5-ジメチル)チエニル基などが挙げられる。
【0058】
一般式(7)または(8)で示される基を有する場合、該基はR51~R60のいずれの位置にあってもよい。
【0059】
成分(A-2)のメタロセン化合物の具体例を以下の表3~14で示すが、これらに限定されるものではない。表中、Cpはシクロペンタジエニル、Indはインデニル基、Azuはアズレニル基、Phはフェニル基、Meはメチル基、Etはエチル基、n-Prはノルマルプロピル基、i-Prはイソプロピル基、n-Buはノルマルブチル基、t-Buはターシャリーブチル基、TMSはトリメチルシリル基、MeOはメトキシ基を示す。また、表3~14で示す化合物のジルコニウムを、チタニウムまたはハフニウムに代えた化合物等も好ましい化合物として挙げられる。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
【表7】
【0065】
【表8】
【0066】
【表9】
【0067】
【表10】
【0068】
【表11】
【0069】
【表12】
【0070】
【表13】
【0071】
Cp環に置換基を有する架橋置換CpInd型メタロセン錯体触媒またはCpAzu型メタロセン錯体触媒(成分(A-1))は、エチレン重合においてポリマー末端に末端ビニル基を含むマクロモノマーを多数生成する。成分(A-1)自身もこれを共重合して長鎖分岐ポリマーを生成する。一方、ビスCp型メタロセン錯体(成分(A-2))は、オレフィン共重合性が(A-1)と比較して抑えられており、かつ重合体の分子量が大きくならない傾向がある。これらの2種類の錯体によりエチレン重合を行うと、それぞれを単独で触媒として用いた場合と異なり、長鎖分岐ポリマーと低分子量のポリマーを同時に与え、成形性に有利な特性を備えた重合体が得られると考えられる。更に、これらの2種類の錯体によりエチレン・α-オレフィン共重合を行うと、それぞれを単独で触媒として用いた場合と異なり、長鎖分岐ポリマーと低分子量かつ低α-オレフィン含量のポリマーを同時に与え、製品強度に有利な特性を備えた重合体が得られる場合があると考えられる。
【0072】
3.メタロセン化合物の合成方法
上記式(1)のメタロセン化合物は、置換基ないし結合の様式によって、任意の方法によって合成することができる。代表的な合成経路の一例を下記に示す。
【化11】
【0073】
上記合成経路において、3を1当量のn-ブチルリチウムなどでアニオン化した後、過剰量のジメチルジクロロシランと反応させ、未反応のジメチルジクロロシランを留去することで、4が得られる。得られた4と、事前に1と1当量のn-ブチルリチウムなどのアニオン化剤で処理して得られた2を反応させると5が得られる。5を2当量のn-ブチルリチウムなどでジアニオン化した後、四塩化ジルコニウムとの反応でメタロセン化合物6が得られる。
【0074】
上記合成例と異なる置換基を導入したメタロセン化合物の合成は、対応した置換原料を使用することにより合成することができる。1のインデン7位の5-メチル-2-フリル基の代わりに、例えばフェニル基、4-トリメチルシリルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-i-プロピルフェニル基、4-t-ブチルフェニル基、4-クロロフェニル基などの置換インデンを用いることにより、インデニル環の4位にそれぞれ対応する置換基を導入したメタロセン化合物を合成することができる。また、1のインデン1位のメチル基の代わりに、例えばエチル基、i-プロピル基、t-ブチル基、フェニル基などの置換インデンを用いることにより、インデニル環の3位にそれぞれ対応する置換基を導入したメタロセン化合物を合成することができる。あるいは、1のインデン1位が無置換のインデンを用いることにより、インデニル環の3位が無置換のメタロセン化合物を合成することができる。あるいは、1のインデン4位、5位、6位の少なくとも1つにも置換基を有する置換インデンを用いることにより、インデニル環の5位、6位、7位にそれぞれ対応する置換基を導入したメタロセン化合物を合成することができる。
また、3の代わりに、対応する置換シクロペンタジエン、例えば2,3,5-トリメチルシクロペンタジエン、2-エチル-4,5-ジメチルシクロペンタジエンなどを用いることにより、シクロペンタジエンにそれぞれ対応する置換基を導入したメタロセン化合物を合成することができる。
【0075】
さらに、架橋剤であるジメチルジクロロシランの代わりに、対応するシラン化合物、例えばジエチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、1,1-ジクロロシラシクロブタンなどを用いることにより、それぞれ対応する架橋基を有するメタロセン化合物を合成することができる。また、Z.Naturforsch.49b,451-458(1994)を参照することにより、mが1の場合の架橋基構造や、R、R、R、およびRが結合しているQおよびQと一緒に環を形成している架橋基構造を導入することができる。金属Mに関しても、四塩化ジルコニウムの代わりに、四塩化チタン、四塩化ハフニウムを用いることにより、金属Mがそれぞれチタン、ハフニウムのメタロセン化合物を合成することができる。
【0076】
上記式(2)のメタロセン化合物の製造方法は、当業者に公知の方法を用いることができる。
【0077】
4.[成分(B)]成分(A-1)および成分(A-2)と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物
本発明のオレフィン重合用触媒は、成分(B)として、上記成分(A-1)および成分(A-2)以外に、成分(A-1)および成分(A-2)のメタロセン化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を形成する化合物を含む。
成分(A-1)および成分(A-2)と反応してカチオン性メタロセン化合物を形成する化合物としては、特に限定されず公知の成分を用いることができるが、例えば、有機アルミニウムオキシ化合物およびボラン化合物やボレート化合物などが挙げられる。
【0078】
成分(B)として、有機アルミニウムオキシ化合物、ボラン化合物やボレート化合物を用いると、重合活性や共重合性が高くなるので、オレフィン系重合体の生産性が向上する。
【0079】
また、成分(B)として、前記の有機アルミニウムオキシ化合物と、上記ボラン化合物やボレート化合物との混合物を用いることもできる。さらに、上記ボラン化合物やボレート化合物は、2種以上混合して使用することもできる。
以下、これらの各化合物について、さらに詳細に説明する。
【0080】
(i)有機アルミニウムオキシ化合物
有機アルミニウムオキシ化合物は、分子中に、Al-O-Al結合を有し、その結合数は通常1~100、好ましくは1~50個の範囲にある。このような有機アルミニウムオキシ化合物は、通常、有機アルミニウム化合物と水とを反応させて得られる生成物である。
【0081】
有機アルミニウムオキシ化合物のうち、アルキルアルミニウムと水とを反応させて得られるものは、通常、アルミノキサンと呼ばれ、成分(B)として好適に用いることができる。また、アルミノキサンのなかでも、メチルアルミノキサン(実質的にメチルアルミノキサン(MAO)からなるものを含む)は、有機アルミニウムオキシ化合物として、特に好適である。
なお、有機アルミニウムオキシ化合物として、各有機アルミニウムオキシ化合物の2種以上を組み合わせて使用することもでき、また、有機アルミニウムオキシ化合物を後述する不活性炭化水素溶媒に溶解または分散させた溶液としたものを用いてもよい。
【0082】
有機アルミニウムと水との反応は、通常、不活性炭化水素(溶媒)中で行われる。不活性炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素および芳香族炭化水素が使用できるが、脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素を使用することが好ましい。
【0083】
有機アルミニウムオキシ化合物の調製に用いる有機アルミニウム化合物は、下記一般式(I)で表される化合物がいずれも使用可能であるが、好ましくはトリアルキルアルミニウムが使用される。
40 AlX 3-t・・・(I)
(式(I)中、R40は、炭素数1~18、好ましくは1~12のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基等の炭化水素基を示し、Xは、水素原子またはハロゲン原子を示し、tは、1≦t≦3の整数を示す。)
【0084】
トリアルキルアルミニウムのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等を挙げることができるが、これらのなかでも、メチル基であることが特に好ましい。上記有機アルミニウム化合物は、1種または2種以上を混合して使用することもできる。
【0085】
水と有機アルミニウム化合物との反応比(水/Alモル比)は、0.25/1~1.2/1、特に、0.5/1~1/1であることが好ましく、反応温度は、通常-70~100℃、好ましくは-20~20℃の範囲にある。反応時間は、通常5分~24時間、好ましくは10分~5時間の範囲で選ばれる。反応に要する水として、単なる水のみならず、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物等に含まれる結晶水や反応系中に水が生成しうる成分も利用することもできる。
【0086】
(ii)ボランまたはボレート化合物
また、成分(B)としては、特開2012-214780号公報の0229~0242段落に記載されたボラン化合物やボレート化合物を好適に使用する事ができる。そのような化合物として例えば、トリフェニルボラン、トリ(o-トリル)ボラン、トリ(p-トリル)ボラン、トリ(m-トリル)ボラン、トリ(o-フルオロフェニル)ボラン、トリス(p-フルオロフェニル)ボラン、トリス(m-フルオロフェニル)ボラン、トリス(2,5-ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(3,5-ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(4-トリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)、トリス(パーフルオロアントリル)ボラン、トリス(パーフルオロビナフチル)ボランなどや、トリブチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレートなどや、トリチルテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トロピニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、NaB(C、NaB(2,6-(CF-Ph)、NaB(3,5-(CF-Ph)、NaB(C10、HB(C・2ジエチルエーテル、HB(2,6-(CF-Ph)・2ジエチルエーテル、HB(3,5-(CF-Ph)・2ジエチルエーテル、HB(C10・2ジエチルエーテルなどが挙げられる。
【0087】
(3-2)層状ケイ酸塩
成分(B)として層状ケイ酸塩を用いることができる。層状ケイ酸塩は、成分(B)と後述する成分(C)とを兼ねる成分として用いることができる。
成分(B)として層状ケイ酸塩を用いることにより、有機アルミニウムオキシ化合物、ボラン化合物やボレート化合物を用いる場合と同様に、重合活性や共重合性が高くなるので、オレフィン系重合体の生産性が向上する。
層状ケイ酸塩とは、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとるケイ酸塩化合物である。大部分の層状ケイ酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出するが、これら、層状ケイ酸塩は特に天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。これら、層状珪酸塩をオレフィン重合用触媒成分として使用する技術は、特開平5-301917号公報、特開平8-127613号公報、特開2003-82018号公報、特開2017-165916号公報、等でよく知られており、更には、類似作用を有する特表2002-515522号公報、等に挙げられている化合物、等も、本発明における成分(B)として好適に使用することができる。
【0088】
層状ケイ酸塩としては、白水晴雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)等に記載される公知の化合物が挙げられ、具体例としては、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト、メタハロイサイト、ハロイサイト等のカオリン族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、テニオライト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、ソーコナイト等のスメクタイト族、バーミキュライト等のバーミキュライト族、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク、緑泥石群が挙げられる。
【0089】
より好ましい層状ケイ酸塩としては、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライト等のスメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族が用いられる。特に好ましい層状ケイ酸塩はスメクタイト族である。
【0090】
一般に、層状ケイ酸塩の天然品は、非イオン交換性(非膨潤性)であることが多く、その場合には好ましいイオン交換性(ないし膨潤性)を有するものとするために、イオン交換性(ないし膨潤性)を付与するための処理を行うことが好ましい。そのような処理のうちで特に好ましいものとしては次のような化学処理が挙げられる。
ここで化学処理とは、表面に付着している不純物を除去する表面処理と層状珪酸塩の結晶構造、化学組成に影響を与える処理のいずれをも用いることができる。化学処理の方法としては、特開2003-82018号公報に記載された方法をはじめ、公知の化学処理法を適用することができる。具体的には、酸処理、アルカリ処理、金属塩処理、有機物処理等が挙げられ、より好ましい化学処理は、酸処理または金属塩処理であり、具体的には次のとおりである。
酸処理で用いられる酸は、好ましくは塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸から選択され、より好ましくは塩酸、硫酸、硝酸から選択される。
【0091】
また金属塩処理で用いられる金属塩は、2~14族原子からなる群より選ばれた少なくとも一種の原子を含む陽イオンを含有する無機化合物であり、好ましくは、2~14族原子からなる群より選ばれた少なくとも一種の原子を含む陽イオンと、ハロゲン原子、無機酸および有機酸からなる群より選ばれた少なくとも一種の陰イオンとからなる化合物であり、更に好ましくは、2~14族原子からなる群より選ばれた少なくとも一種の原子を含む陽イオンと、Cl、Br、I、F、PO、SO、NO、CO、C、ClO、OOCCH、CHCOCHCOCH、OCl、O(NO、O(ClO、O(SO)、OH、OCl、OCl、OOCH、OOCCHCH、CおよびCからなる群から選ばれる少なくとも一種の陰イオンとからなる化合物である。
【0092】
成分(A-1)および成分(A-2)のメタロセン化合物と成分(B)としての層状ケイ酸塩の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。成分(A-1)および成分(A-2)の合計の担持量は、層状ケイ酸塩担体1gあたり、0.0001~5ミリモル、好ましくは0.0005~0.5ミリモル、更に好ましくは0.001~0.1ミリモル、特に好ましくは0.003~0.03ミリモルである。
【0093】
5.[成分(C)]
本発明のオレフィン重合用触媒は、追加の成分として、無機物担体、粒子状ポリマー担体またはこれらの混合物である微粒子担体(成分(C))を用いることが好ましい。無機物担体としては、金属、金属酸化物、金属塩化物、金属炭酸塩、炭素質物、またはこれらの混合物が使用可能である。
【0094】
無機物担体に用いることができる好適な金属としては、例えば、鉄、アルミニウム、ニッケルなどが挙げられる。
【0095】
また、金属酸化物としては、周期表1~14族の元素の単独酸化物または複合酸化物が挙げられ、例えば、SiO、Al、MgO、CaO、B、TiO、ZrO、Fe、Al・MgO、Al・CaO、Al・SiO、Al・MgO・CaO、Al・MgO・SiO、Al・CuO、Al・Fe、Al・NiO、SiO・MgOなどの天然または合成の各種単独酸化物または複合酸化物を例示することができる。ここで、上記の式は、分子式ではなく、組成のみを表すものであって、本発明において用いられる複合酸化物の構造および成分比率は特に限定されるものではない。また、本発明において用いる金属酸化物は、少量の水分を吸収していても差し支えなく、少量の不純物を含有していても差し支えない。
金属塩化物としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物が好ましく、具体的にはMgCl、CaClなどが特に好適である。金属炭酸塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩が好ましく、具体的には、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。
炭素質物としては、例えば、カーボンブラック、活性炭などが挙げられる。
【0096】
以上の無機物担体は、いずれも本発明に好適に用いることができるが、特に金属酸化物、シリカ、アルミナなどの使用が好ましい。
【0097】
これら無機物担体は、通常、200℃~800℃、好ましくは400℃~600℃で空気中または窒素、アルゴン等の不活性ガス中で焼成して、表面水酸基の量を0.8mmol/g~1.5mmol/gに調節して用いるのが好ましい。これら無機物担体の性状としては、特に制限はないが、通常、平均粒径は5μm~200μm、好ましくは10μm~150μm、平均細孔径は20Å~1000Å、好ましくは50Å~500Å、比表面積は150m/g~1000m/g、好ましくは200m/g~700m/g、細孔容積は0.3cm/g~2.5cm/g、好ましくは0.5cm/g~2.0cm/g、見かけ比重は0.20g/cm~0.50g/cm、好ましくは0.25g/cm~0.45g/cmを有する無機物担体を用いるのが好ましい。
【0098】
上記した無機物担体は、そのまま用いることもできるが、予備処理としてこれらの担体をトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの有機アルミニウム化合物や、Al-O-Al結合を含む有機アルミニウムオキシ化合物に接触させた後、用いることができる。
【0099】
6.[成分(D)]
本発明においては、必要に応じてさらに成分(D)として有機アルミニウム化合物を用いることができる。
有機アルミニウム化合物の具体例としてはAlR3-j(式中、RはC1~20の炭化水素基、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、jは0<j≦3の数)で示されるトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウムまたはジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムメトキシド等のハロゲンもしくはアルコキシ含有アルキルアルミニウムが挙げられる。またこの他、メチルアルミノキサン等のアルミノキサン等も使用できる。これらのうち特にトリアルキルアルミニウムが好ましい。
成分(D)である有機アルミニウム化合物の使用量は、成分(B)1g当たり、0.01~10000ミリモル、好ましくは0.1~100ミリモル、より好ましくは0.2~20ミリモル、更に好ましくは0.5~10ミリモルである。
【0100】
7.オレフィン重合用触媒の製法
本発明のオレフィン系重合体の製造方法に使用されるオレフィン重合用触媒は、上記成分(A-1)および成分(A-2)、(B)、必要に応じて成分(C)および/または(D)を含んで製造される。
本発明の上記成分(A)~(D)からオレフィン重合用触媒を得る際の各成分の接触方法は、特に限定されない。また成分(A-1)、成分(A-2)、成分(B)、成分(C)、成分(D)の接触順序は特に制限されない。例えば以下に示す方法が任意に採用可能である。
・成分(A-1)および成分(A-2)を接触させ、次いで成分(B)を接触させた後、成分(C)および/または(D)を接触させる。
・成分(A-1)または成分(A-2)のいずれか一方と成分(B)を接触させ、次いで成分(A-1)および成分(A-2)の残った方を接触させ、さらに成分(C)および/または(D)を接触させる。
・成分(A-1)または成分(A-2)のいずれか一方と成分(C)および/または(D)とを接触させ、次いで成分(A-1)および成分(A-2)の残った方を接触させ、さらに成分(B)を接触させる。
・成分(B)と成分(C)および/または(D)とを接触させた後、成分(A-1)または成分(A-2)を任意の順序で接触させる。
・成分(A-1)および成分(A-2)を接触させた生成物と成分(C)および/または(D)とを接触させた接触生成物と、成分(B)と成分(C)および/または(D)とを接触させた接触生成物とを接触させる。
【0101】
いずれの接触方法においても、通常は窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素(通常炭素数は6~12)、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族あるいは脂環式炭化水素(通常炭素数5~12)等の液状不活性炭化水素の存在下、撹拌下または非撹拌下に各成分を接触させる方法が採用される。この接触は、通常-100℃~200℃、好ましくは-50℃~100℃、さらに好ましくは0℃~50℃の温度にて、5分~50時間、好ましくは30分~24時間、さらに好ましくは30分~12時間で行うことが望ましい。
【0102】
また、成分(A-1)、成分(A-2)、成分(B)、ならびに、成分(C)および/または(D)の接触に際しては、上記した通り、ある種の成分が可溶ないしは難溶な芳香族炭化水素溶媒と、ある種の成分が不溶ないしは難溶な脂肪族または脂環族炭化水素溶媒とがいずれも使用可能である。
【0103】
各成分同士の接触反応を段階的に行う場合にあっては、前段で用いた溶媒などを除去することなく、これをそのまま後段の接触反応の溶媒に用いてもよい。また、可溶性溶媒を使用した前段の接触反応後、ある種の成分が不溶もしくは難溶な液状不活性炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素あるいは芳香族炭化水素)を添加して、所望生成物を固形物として回収した後に、あるいは一旦可溶性溶媒の一部または全部を、乾燥、濾別、デカンテーション等の手段により除去して所望生成物を固形物として取り出した後に、この所望生成物の後段の接触反応を、上記した不活性炭化水素溶媒のいずれかを使用して実施することもできる。本発明では、各成分の接触反応を複数回行うことを妨げない。
【0104】
本発明において、成分(A-1)、成分(A-2)、成分(B)および成分(C)の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。
【0105】
成分(B)として、有機アルミニウムオキシ化合物を用いる場合、本発明のメタロセン化合物である成分(A-1)および成分(A-2)中の遷移金属(M)の合計に対する有機アルミニウムオキシ化合物のアルミニウム原子のモル比(Al/M)を、通常、1~100,000、好ましくは5~2000、さらに好ましくは50~1000、特に好ましくは200~900の範囲とすることが望ましい。
また、成分(B)として、ボラン化合物やボレート化合物を用いる場合、本発明のメタロセン化合物である成分(A-1)および成分(A-2)中の遷移金属(M)の合計に対する、ホウ素原子のモル比(B/M)を、通常、0.01~100、好ましくは0.1~50、さらに好ましくは0.2~10の範囲とすることが望ましい。
さらに、成分(B)として、有機アルミニウムオキシ化合物と、ボラン化合物および/またはボレート化合物と、の混合物を用いる場合にあっては、混合物における各化合物について、本発明のメタロセン化合物である成分(A-1)および成分(A-2)中の遷移金属(M)の合計に対して上記と同様なアルミニウム原子およびホウ素原子の使用割合とすることが望ましい。
また、成分(B)として、層状珪酸塩を担体として用いる場合、層状珪酸塩の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。成分(A-1)および成分(A-2)の担持量は、層状珪酸塩1gあたり、0.0001~5ミリモル、好ましくは0.001~0.5ミリモル、さらに好ましくは0.01~0.1ミリモルである。
【0106】
微粒子担体である成分(C)の使用量は成分(C)1gあたり、成分(A-1)および成分(A-2)中の遷移金属(M)の合計が0.0001~5ミリモル、好ましくは0.001~0.5ミリモル、さらに好ましくは0.01~0.1ミリモルである。
【0107】
成分(A-1)、成分(A-2)、成分(B)、並びに、成分(C)および/または(D)を、前記した接触方法を適宜選択して相互に接触させ、しかる後、溶媒を除去することで、オレフィン重合用触媒を固体触媒として得ることができる。溶媒の除去は、常圧下または減圧下、0~200℃、好ましくは20~150℃、更に好ましくは20~100℃で1分~100時間、好ましくは10分~50時間、更に好ましくは30分~20時間で行うことが望ましい。
【0108】
なお、オレフィン重合用触媒は、成分(A-1)、成分(A-2)と成分(B)とを接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で成分(C)および/または(D)と接触させる方法や、成分(B)と成分(C)および/または(D)とを接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で成分(A-1)および成分(A-2)と接触させることもできる。これらの接触方法の場合も、成分比、接触条件および溶媒除去条件は、前記と同様の条件が使用できる。
こうして得られるオレフィン重合用触媒は、必要に応じてモノマーの予備重合を行った後に使用してもよい。
【0109】
8.オレフィン系重合体の製造方法
上記したオレフィン重合用触媒は、オレフィン重合、特に、エチレンの単独重合またはエチレンとオレフィンとの共重合、に使用することができる。
ここでエチレン単独重合体とは、モノマー原料としてエチレンのみを反応器に供給することによって製造された重合体をいう。エチレンは、石油原料を由来とするエチレン、バイオマス原料を由来とするエチレンまたはケミカルリサイクルで得られるエチレンのいずれか少なくとも1つを原料とすることができる。
【0110】
コモノマーであるオレフィン類には、炭素数3~30、好ましくは3~8のものが包含され、具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等が例示される。オレフィン類は、2種類以上のオレフィンをエチレンと共重合させることも可能である。共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれであっても差し支えない。エチレンと他のオレフィンとを共重合させる場合、当該他のオレフィンの量は、全モノマーの90モル%以下の範囲で任意に選ぶことができるが、一般的には、40モル%以下、好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下の範囲で選ばれる。もちろん、エチレンやオレフィン以外のコモノマーを少量使用することも可能であり、この場合、スチレン、4-メチルスチレン、4-ジメチルアミノスチレン等のスチレン類、1,4-ブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等のジエン類、ノルボルネン、シクロペンテン等の環状化合物、ヘキセノール、ヘキセン酸、オクテン酸メチル等の含酸素化合物類、等の重合性二重結合を有する化合物を挙げることができる。
【0111】
本発明において、重合反応は、前記した担持触媒の存在下、好ましくはスラリー重合、または気相重合にて、行うことができる。スラリー重合の場合、実質的に酸素、水等を断った状態で、イソブタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素等から選ばれる不活性炭化水素溶媒の存在下または不存在下で、エチレン等を重合させる。また、液状エチレンや液状プロピレン等の液体モノマーも溶媒として使用できることは言うまでもない。また、気相重合の場合、エチレンやコモノマーのガス流を導入、流通、または循環した反応器内においてエチレン等を重合させる。本発明において、更に好ましい重合は、気相重合である。
【0112】
[重合温度]
本発明によるオレフィンの重合温度は、0~250℃、好ましくは20~110℃、より好ましくは60~100℃であり、更に好ましくは60~90℃、特に好ましくは60~85℃である。
【0113】
[エチレン分圧]
本発明によるオレフィンの重合におけるエチレン分圧は、好ましくは、0.1MPa以上3MPa未満、より好ましくは、0.3MPa~2.5MPa、更に好ましくは、0.3MPa~1.4MPa、特に好ましくは、0.5MPa~1.4MPaである。
エチレン分圧が0.1MPaより低いと重合活性が低かったり、Mwが小さくなり過ぎたりする場合があるので好ましくない。
エチレン分圧が3MPa以上になると重量平均分子量(Mw)が大きくなり過ぎたり、末端ビニル基数が低下したり、重合反応器や後処理設備に過剰な耐圧が必要になって経済性を悪化させたりする場合があり、好ましくない。
【0114】
[重合時間]
本発明によるオレフィンの重合時間は、好ましくは0.3時間以上30時間未満、より好ましくは、0.6時間~12時間、更に好ましくは1時間~7時間である。
重合時間が0.3時間より短いと触媒当りのマクロモノマー収率が低い等経済的でない。
重合時間が30時間以上になると重合反応器体積当たりのマクロモノマー生産量が低下してやはり経済的ではない。
【0115】
生成重合体の分子量は、重合温度、触媒のモル比等の重合条件を変えることによってもある程度調節可能であるが、重合反応系に水素を添加することで、より効果的に分子量調節を行うことができる。
【0116】
また、重合系中に、水分除去を目的とした成分、いわゆるスカベンジャーを加えても何ら支障なく実施することができる。なお、かかるスカベンジャーとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物、前記有機アルミニウムオキシ化合物、分岐アルキルを含有する変性有機アルミニウム化合物、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛などの有機亜鉛化合物、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウムなどの有機マグネシウム化合物、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリドなどのグリニヤ化合物などが使用される。これらのなかでは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルブチルマグネシウムが好ましく、トリエチルアルミニウムが特に好ましい。水素濃度、モノマー量、重合圧力、重合温度等の重合条件が互いに異なる2段階以上の多段階重合方式にも、支障なく適用することができる。
【0117】
9.ポリオレフィン重合体の特性
本発明のオレフィン重合用触媒を用いて製造されたオレフィン系重合体、特にエチレン系重合体は、好ましくは次の条件(i)および(ii)を満足する。
条件(i):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)による分子量分布(Mw/Mn)が3.0以上、50.0以下である。
条件(ii):温度190℃、荷重21.6kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)と、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)の比(HLMFR/MFR)が20を超え、500以下である。
【0118】
[条件(i)Mw/Mn]
本発明により得られるオレフィン系重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、好ましくは3.0以上、より好ましくは3.5以上、更に好ましくは4.0以上、特に好ましくは5.0以上であり、好ましくは50以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは20以下、特に好ましくは17以下である。Mw/Mnが、上記範囲にあると溶融張力や溶融流動性等の成形加工特性が優れ、更に、機械的強度である剛性、衝撃強度、長期耐久性のバランスが優れるため、好ましい。
【0119】
Mw/Mnは小さい(すなわち単分散)程好ましいが、理論上1.0を下回ることはない。
【0120】
本発明で、オレフィン系重合体のMwやMnは、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定したものをいう。
【0121】
[GPC法測定]
GPC法により測定保持容量を測定し、測定保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは、何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。
各々が0.5mg/mLとなるように、オルトジクロロベンゼン(ODCB)(0.5mg/mLのBHT(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール)を含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際使用する粘度式[η]=K×Mαは以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10-4、α=0.7
PE:K=3.92×10-4、α=0.733
なお、GPCの測定条件は、以下の通りである。
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC 150C)
検出器:Polymer Char社製IR-4
カラム:昭和電工社製AT-806MS(3本)
移動相溶媒:o-ジクロロベンゼン(ODCB)
測定温度:140℃
流速:1.0ml/分
注入量:0.3ml
試料の調製:試料は、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて、1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させる。
なお、得られたクロマトグラムのベースラインと区間の設定方法は当業者には周知である。
【0122】
[条件(ii):HLMFR/MFR]
本発明により得られるオレフィン系重合体は、温度190℃、荷重21.6kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)と、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)の比(HLMFR/MFR)が20を超え、500以下であることが好ましい。HLMFR/MFRの下限値は、40以上であることがより好ましく、50以上であることが更に好ましく、60以上であることが特に好ましい。また、上限値は300以下であることがより好ましく、200以下であることが更に好ましく、170以下であることが特に好ましい。更に、同一触媒で製造されるオレフィン系重合体では、MFRが小さくなるとHLMFR/MFRが大きくなることが経験的に知られているが、特にMFRが1以下の領域で傾向が顕著であるため、本発明により得られるオレフィン系重合体は下記条件(iia)を満たすと好ましい場合がある。
条件(iia):
MFR>1の場合、上述の通り、HLMFR/MFRは20を超え、500以下であることが好ましい。
MFR≦1の場合、HLMFR/MFR>-71×LogMFR+20を満たし、
より好ましくは、HLMFR/MFR>-71×LogMFR+25を満たし、
更に好ましくは、HLMFR/MFR>-71×LogMFR+30を満たす。
HLMFR/MFRの上限は上述の通りであり、MFRは通常、0.001以上、1000以下である。HLMFR/MFRの値がこの範囲となると、溶融時の流動性が成形に適したものとなる。
【0123】
本明細書においてMFRは、JIS K7210:2014に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件下で測定したときの値とする。また、HLMFRは、同JIS準拠で荷重を21.6kgの条件下で測定したときの値とする。
[低分子量成分の割合]
本発明により得られるオレフィン系重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量1万以下の低分子量成分の割合(WMW≦1万)や分子量5000以下の低分子量成分の割合(WMW≦5000)は、上記式(1)のメタロセン化合物(A-1)のみの触媒、すなわち、本発明で上記式(2)のメタロセン化合物(A-2)を用いることなく合成した触媒により得られる同一HLMFRのオレフィン重合体と同等か、より少ないことが好ましい。これは、上記式(2)のメタロセン化合物(A-2)は、配位子としての芳香環が架橋されていない構造を有し、分子量分布の狭いポリオレフィンを生成する効率が高いため、メタロセン化合物を含む触媒を上記式(1)のメタロセン化合物(A-1)と組み合わせて用いると、低分子量側に分子量分布が広がることを防止して、WMW≦1万やWMW≦5000が小さくなるためである。WMW≦1万とWMW≦5000のうち少なくとも一方が、メタロセン化合物(A-1)のみの触媒により得られる同一HLMFRのオレフィン重合体より少ないことがより好ましく、WMW≦1万とWMW≦5000のうち両方が、メタロセン化合物(A-1)のみの触媒により得られる同一HLMFRのオレフィン重合体より少ないことが更に好ましい。WMW≦1万とWMW≦5000が、上記条件を満たすと、本発明により得られるオレフィン系重合体は、成形加工特性に優れるばかりでなく、更に、製品表面のべとつきや製品強度がより改善されるため、好ましい。
【0124】
[長鎖分岐数]
本発明により得られるオレフィン系重合体は、示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分岐指数g’における分子量100万の値(g’100万)が検出され、その値が、0.20以上、1.0未満であると好ましい。g’100万は、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.30以上、更に好ましくは0.35以上、特に好ましくは0.40以上であり、好ましくは0.99未満、より好ましくは0.98未満、更に好ましくは0.95以下、特に好ましくは0.90以下、最も好ましくは0.88以下である。g’100万が上記範囲であると、成形加工性に優れたエチレン系重合体が得られる。
さらに、本発明により得られるオレフィン系重合体は、上述の分岐指数g’の測定において、分子量100万から1000万の成分(g’100万~1000万)が検出され、その値が、0.15~0.82であることが成形加工性に優れる点において好ましい。g’100万~1000万の下限は、0.20以上であってもよく、0.25以上であってもよく、0.30以上であってもよく、0.35以上であってもよく、0.40以上であってもよい。g’100万~1000万の上限は、0.80以下であってもよく、0.79以下であってもよく、0.77以下であってもよく、0.75以下であってもよく、0.70以下であってもよい。g’100万~1000万が上記範囲であると、成形加工性に更に優れたエチレン系重合体が得られやすいので好ましい。
また、本発明により得られるオレフィン系重合体は、成形加工性に優れるという点から、上述の分岐指数g’の測定において、分子量10万から1000万の間での最低値(gL)が0.15~0.82であってもよい。gLの下限は、0.20以上であってもよく、0.25以上であってもよく、0.30以上であってもよく、0.35以上であってもよく、0.40以上であってもよい。gLの上限は、0.80以下であってもよく、0.75以下であってもよい。分岐指数の最低値(gL)が上記範囲であると、成形加工性に優れたエチレン系重合体が得られやすいので好ましい。
【0125】
(i)GPC-VISによる分岐構造解析
示差屈折計(RI)、粘度検出器(Viscometer)および光散乱検出器を装備したGPC装置として、Waters社のAlliance・GPCV2000を用いた。また、光散乱検出器として、多角度レーザー光散乱検出器(MALLS)であるWyatt・Technology社のDAWN-HELEOS IIを用いた。検出器は、MALLS、RI、Viscometerの順で接続した。移動相溶媒は、1,2,4-trichlorobenzene(酸化防止剤Irganox1076を0.5mg/mLの濃度で添加)である。流量は1mL/分である。カラムは、東ソー社 GMHHR-H(S)・HTを2本連結して用いた。カラム、試料注入部および各検出器の温度は、140℃である。試料濃度は1mg/mLとした。注入量(サンプルループ容量)は0.2175mLである。
MALLSから得られる絶対分子量(M)、慣性二乗半径(Rg)およびViscometerから得られる極限粘度([η])を求めるにあたっては、MALLS付属のデータ処理ソフトASTRA(version4.73.04)を利用し、以下の文献を参考にして計算を行った。
【0126】
参考文献:
1.Developments in polymer characterization,vol.4.Essex:Applied Science;1984.Chapter 1.
2.Polymer,45,6495-6505(2004)
3.Macromolecules,33,2424-2436(2000)
4.Macromolecules,33,6945-6952(2000)
【0127】
(ii)分岐指数(g’)の算出
分岐指数(g’)は、サンプルを上記Viscometerで測定して得られる極限粘度(ηbranch)と、別途、線形ポリマーを測定して得られる極限粘度(ηlin)との比(ηbranch/ηlin)として算出する。
ポリマー分子に長鎖分岐が導入されると、同じ分子量の線形のポリマー分子と比較して慣性半径が小さくなる。慣性半径が小さくなると極限粘度が小さくなることから、長鎖分岐が導入されるに従い同じ分子量の線形ポリマーの極限粘度(ηlin)に対する分岐ポリマーの極限粘度(ηbranch)の比(ηbranch/ηlin)は小さくなっていく。したがって分岐指数(g’=ηbranch/ηlin)が1より小さい値になる場合には分岐が導入されていることを意味し、その値が小さくなるに従い導入されている長鎖分岐が増大していくことを意味する。ここで、比較となる線形ポリマーとしては、直鎖ポリエチレンStandard Reference Material 1475a(National Institute of Standards & Technology)が用いられる。長鎖分岐が導入される確率は、長鎖分岐となるマクロモノマーが充分に存在すれば、ポリマーの分子量(重合度)が大きくなるにしたがって高くなっていく。一方、マクロモノマーを共重合しながら高分子量領域まで主鎖の生長反応が進行するか否かはオレフィン重合用触媒の能力によるところが大きい。本発明の新規なオレフィン重合用触媒は、これを達成することができると考えられる。つまり、重量平均分子量が100万以上の極めて高分子量な領域まで主鎖が生長しつつ長鎖分岐の導入が可能であるため、当該分子量領域のg’の値はそれよりも分子量が低い領域のg’の値より更に小さくなる。本発明では、分子量100万のポリマーに対して分岐が導入されていること、すなわちg’100万が1.0未満であれば、高分子量領域に分岐が充分に導入されていると判断される。
【0128】
[FR]
本発明により得られるオレフィン系重合体は、温度190℃、荷重10kgにおけるメルトフローレート(MFR10kg)と、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)の比であるFRが8以上、100以下であることが好ましい。FRがこの範囲となると、溶融時の流動性が成形により適したものとなる。FRの下限は、8.5以上であることがより好ましく、9以上であることが更に好ましく、9.5以上であることが特に好ましい。FRの上限は、60以下であることがより好ましく、50以下であることがまた更に好ましく、40以下であることが特に好ましい。FRが上記範囲であると、成形加工性に更に優れたエチレン系重合体が得られやすいので好ましい。FRの値を決定するためのMFRの測定条件は、上記のとおりである。
【0129】
[条件(iv-1):LCB数]
本発明により得られるオレフィン系重合体は、更に、炭素数1000個当たりの長鎖分岐(LCB)数が0.02~2個であると成形加工性に優れる点において特に好ましい。コモノマー含量と炭素数1000個当たりの長鎖分岐(LCB)数は以下の手順により測定することができる。
[試料調製]
試料200mgをo-ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン(CBr)=4/1(体積比)2.4mlおよび化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れ、窒素置換した後封管し、130℃のブロックヒーターで均一に溶解する。
NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカージャパン(株)のAV400型NMR装置を用いることができる。
トータルコモノマーと炭素数1000個当たりの長鎖分岐(LCB)数の定量には、13C-NMRが用いられる。13C-NMRの測定条件は試料の温度120℃、パルス角90°、パルス間隔20秒、積算回数512回以上であり、プロトンブロードバンドデカップリング法で測定する。化学シフトはヘキサメチルジシロキサンの13Cシグナルを1.98ppmに設定し、他の13Cによるシグナルの化学シフトはこれを基準とする。
シグナルの高磁場側の谷から低磁場側の谷までの範囲のシグナル積分強度をI(LCB)として、炭素数1000個当たりの長鎖分岐数は、以下の式より求められる。
長鎖分岐数(個/炭素数1000個)=I(LCB)×1000/I(total)
ここで、I(LCB)、I(total)は以下の式で示される量である。
I(LCB)=I38.2~38.1
I(total)=I180.0~135.0+I120.0~10.0
いずれの算出においてもIは積分強度を、Iの下つき添字の数値は化学シフトの範囲を示す。例えばI180.0~135.0は180.0ppmと135.0ppmの間に検出した13Cシグナルの積分強度を示す。
【0130】
[条件(iv-2):W+W
本発明により得られるオレフィン系重合体は、更に、製品強度と剛性のバランス向上の点から、さらに下記の条件(iv-2)を満足するものであってもよい。
条件(iv-2);クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から求められた溶出量が50重量%となる温度以下で溶出する成分のうち、分子量が重量平均分子量以上の成分の割合(W)、及び積分溶出曲線から求められた溶出量が50重量%となる温度を超えた温度で溶出する成分のうち、分子量が重量平均分子量未満の成分の割合(W)の和(W+W)が、35重量%を超え、80重量%未満である。 クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から得られるW、W、W及びWの数値は、共重合体全体中に含まれる個々のポリマーの、コモノマー量と分子量の分布を総合して指標する“コモノマー組成分布”を示すために用いられる手法であり、国際公開特許WO2015/152267等でよく知られている。すなわち、コモノマーの量が多く分子量が小さいポリマー(W)、コモノマーの量が多く分子量が大きいポリマー(W)、コモノマーの量が少なく分子量が小さいポリマー(W)、コモノマーの量が少なく分子量が大きいポリマー(W)が、共重合体全体中に占める割合を示している。従来、一般的な触媒重合により得られるエチレン・α-オレフィン共重合体では、いわゆる順コモノマー組成、すなわち、W+Wが65重量%以上を占めてW+Wが35重量%以下であることが多いが、本発明の好適なエチレン系重合体としては、その特徴の一つとして、得られる共重合体がいわゆる逆コモノマー組成、すなわちW+Wが35重量%を超え、80重量%未満であることが挙げられる。
【0131】
(W+W)がこの範囲にあると、エチレン系重合体に含まれる衝撃強度向上や耐環境応力亀裂性(ESCR)向上に効果的に作用する低密度高分子量成分の割合の減少が抑制されることや、剛性向上に効果的に作用する高密度低分子量成分の減少が抑制されること、エチレン系重合体に含まれる該高密度低分子量成分と該低密度高分子量成分の含有量のバランスが維持されることによる機械的強度と、該低密度高分子量成分と該高密度低分子量成分の分散性悪化が抑制されることによる透明性の点から好ましい。
(W+W)の下限は好ましくは38重量%超過であり、より好ましくは40重量%超過、更に好ましくは41重量%超過、特に好ましくは42重量%超過である。
(W+W)の上限は好ましくは80重量%未満であり、より好ましくは70重量%未満、更に好ましくは65重量%未満、特に好ましくは60重量%未満である。
【0132】
[条件(iv-3):W-W
本発明のエチレン系重合体は、製品強度と剛性のバランス向上の点から、さらに下記の条件(iv-3)を満足するものであってもよい。
条件(iv-3);クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から求められた溶出量が50重量%となる温度以下で溶出する成分のうち、分子量が重量平均分子量以上の成分の割合(W)からCFCにより測定される積分溶出曲線から求められた溶出量が50重量%となる温度を超えた温度で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量以上の成分の割合(W)を差し引いた数値(W-W)が、-7重量%を超え、40重量%未満である。
(W-W)がこの範囲にあると、エチレン系重合体に含まれる衝撃強度やESCRの向上に特に効果的に作用する低密度高分子量成分の減少が抑制され、高密度低分子量成分と低密度高分子量成分の含有量のバランスが維持されることによる衝撃強度やESCRの向上と、該低密度高分子量成分と該高密度低分子量成分の分散性悪化が抑制されることによる透明性の点から好ましい。
(W-W)の下限は好ましくは-3重量%を超え、より好ましくは-1重量%を超え、更に好ましくは0重量%を超える。
(W-W)の上限は好ましくは30重量%未満であり、より好ましくは20重量%未満、更に好ましくは16重量%未満、特に好ましくは14重量%未満である。
【0133】
[CFCの測定]
クロス分別クロマトグラフィー(CFC)は、結晶性分別を行う昇温溶出分別(TREF)部と分子量分別を行うゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)部とからなる。このCFCを用いた分析は、次のようにして行われる。まず、ポリマーサンプルを0.5mg/mLのBHTを含むODCBに140℃で完全に溶解した後、この溶液を装置のサンプルループを経て140℃に保持されたTREFカラム(不活性ガラスビーズ担体が充填されたカラム)に注入し、所定の第1溶出温度まで徐々に冷却し、ポリマーサンプルを結晶化させる。所定の温度で30分保持した後、ODCBをTREFカラムに通液することにより、溶出成分がGPC部に注入されて分子量分別が行われ、赤外検出器(FOXBORO社製MIRAN・1A・IR検出器、測定波長3.42μm)によりクロマトグラムが得られる。その間、TREF部では次の溶出温度に昇温され、第1溶出温度のクロマトグラムが得られた後、第2溶出温度での溶出成分がGPC部に注入される。以下、同様の操作を繰り返すことにより、各溶出温度での溶出成分のクロマトグラムが得られる。
【0134】
なお、CFCの測定条件は、以下の通りである。
GPCカラム:昭電工社製AD-806MS(3本を直列に接続)
溶媒:ODCB
サンプル濃度:3mg/mL
注入量:0.4mL
結晶化速度:1℃/分
溶媒流速:1mL/分
GPC測定時間:34分
GPC測定後安定時間:5分
溶出温度(℃):0,5,10,15,20,25,30,35,40,45,49,52,55,58,61,64,67,70,73,76,79,82,85,88,91,94,97,100,102,120,140
【0135】
(データ解析)
測定によって得られた各溶出温度における溶出成分のクロマトグラムから、総和が100%となるように規格化された溶出量(クロマトグラムの面積に比例)が求められる。更に、図3のような溶出温度に対する積分溶出曲線が計算される。この積分溶出曲線を温度で微分して、微分溶出曲線が求められる。また、各クロマトグラムから、次の手順により分子量分布が求められる。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.4mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際、使用する粘度式[η]=K×Mαは以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10-4、α=0.7
PE:K=3.92×10-4、α=0.733
なお、第1溶出温度でのクロマトグラムでは、溶媒に添加したBHTによるピークと溶出成分の低分子量側とが重なる場合があるが、その際は、図4のようにベースラインを引き分子量分布を求める区間を定める。
更に、図5の表のように、各溶出温度における溶出割合(表中の重量%(wt%))と重量平均分子量(表中のMw)からwhole(全体)の重量平均分子量を求める。
【0136】
また、各溶出温度における分子量分布及び溶出量から、文献(S.Nakano,Y.Goto,Development of automatic Cross Fractionation:Combination of Crystallizability Fractionation and Molecular Weight Fractionation,J.Appl.Polym.Sci.,vol.26,pp.4217-4231(1981))の方法に従って、図6のように溶出温度と分子量に関する溶出量を等高線として示すグラフ(等高線図)を得る。上記の等高線図を用いて、以下の成分量を求める。
:積分溶出曲線から求められる溶出量が50重量%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量未満の成分の割合
:積分溶出曲線から求められる溶出量が50重量%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量以上の成分の割合
:積分溶出曲線から求められる溶出量が50重量%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量未満の成分の割合
:積分溶出曲線から求められる溶出量が50重量%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量以上の成分の割合
なお、W+W+W+W=100である。
分子量の対数(logM)を横軸に、溶出温度(Temp)を縦軸にとると、W~Wは、概略図9のように4つの象限に分割される。(W+W)と(W-W)の値が上記条件を満たしていると、Wの値が相対的に大きくなるため、図6の等高線図は楕円に近い形状を示す傾向がある。
【0137】
本発明の製造方法によって製造されたオレフィン系重合体は、重合反応装置から単離してグラニュール、ペレット、塊状物、シート、ストランド、溶融体、スラリー、溶液等可能な形態の製品として各種用途に供することが可能である。
また、オレフィン系重合体製造用重合反応器と連結された多段重合装置の二段目以降の重合反応器において、エチレンやオレフィンをはじめとする他のモノマーと共重合させることも可能であり、この場合、有益な長鎖分岐構造を有する各種ポリオレフィン樹脂の製造が可能となるので好ましい。
【実施例0138】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例、比較例に用いた評価および使用樹脂は以下の通りである。
なお、以下の触媒合成工程および重合工程は、すべて精製窒素雰囲気下で行い、かつ、使用した溶媒は、モレキュラーシーブ4A、13X等で脱水精製したものを用いた。
【0139】
1.各種評価(測定)方法
(1)MFR:
JIS K6760に準拠し、190℃、2.16kg荷重で測定した。
MFR5kgは、190℃、5.0kg荷重の条件で同様に測定した。
HLMFRは、190℃、21.6kg荷重の条件で同様に測定した。
【0140】
(2)分子量Mw,分子量分布(Mw/Mn)の測定:
上記条件(i)の項に記載の方法で測定した。
【0141】
(実施例1)
(1)成分(A-1)の合成
下記化学式に示すジメチルシリレン(3-メチル-4-(2-(5-メチル)-フリル)-インデニル)(2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド(メタロセン化合物11)を、以下の方法に従い合成した。
【化12】
【0142】
(1-1)1-メチル-7-(2-(5-メチル)-フリル)-インデンの合成
(1-1-a)2-ブロモフェニル-2-クロロエチルケトンの合成
100mlフラスコに、2-ブロモ安息香酸(5.30g、26.4mmol)と塩化チオニル25mlを加え、2時間還流した。反応後、過剰の塩化チオニルを減圧留去し得られた酸クロリド体5.50gを精製することなく次の反応に用いた。
100mlフラスコに酸クロリド体(5.00g、22.7mmol)とジクロロメタン50mlを加え溶液とした後、さらに塩化アルミニウム(3.02g、22.7mmol)を加え、20℃でエチレンを4時間吹き込んだ。反応を4Nの塩酸でクエンチし、有機相と水相を分離した後、水相をメチル-t-ブチルエーテル50mlで3回洗浄し、有機相を集め水50mlで3回、飽和炭酸水素ナトリウム水100ml、続いて飽和食塩水100mlで洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去することで化合物3を4.80g(収率85%)得た。さらなる精製は行なわず次の反応に用いた。
【0143】
(1-1-b)7-ブロモ-1-インダノンの合成
100mlフラスコに塩化アルミニウム(7.40g、55.6mmol)と塩化ナトリウム(2.15g、37.1mmol)を加え、130℃に加熱した後、2-ブロモフェニル-2-クロロエチルケトン(4.60g、18.5mmol)をゆっくりと加え、混合物を160℃で1時間攪拌した。反応後、30℃に冷却し、氷水でクエンチした。濃塩酸でpH=5に調整した後、有機相と水相を分離し、水相をジクロロメタン100mlで3回洗浄し、有機相を集め水100ml、飽和食塩水100mlで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥して、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。さらにシリカゲルカラム(石油エーテル/酢酸エチル=30/1)で精製し7-ブロモ-1-インダノン1.60g(収率33%)を得た。
【0144】
(1-1-c)7-(2-(5-メチル)-フリル)-1-インダノンの合成
100mlフラスコに2-メチルフラン(0.933g、11.4mmol)とTHF10mlを加え溶液とした後、-30℃でn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液(2.5M、4.70ml、11.4mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。別に準備した100mlフラスコに塩化亜鉛(1.55g、11.4mmol)とTHF10mlを加え、続いて0℃で上記反応溶液を加え、室温で1時間攪拌した。さらに別に準備した100mlフラスコにヨウ化銅(I)(90mg、0.473mmol)、Pd(dppf)Cl(177mg、0.236mmol)、7-ブロモ-1-インダノン(2.00g、9.45mmol)とDMA10mlを加えた懸濁液に、上記反応物を加え、還流を15時間行なった。室温まで冷却し、水50mlを加え、酢酸エチル50mlで2回抽出を行なった。有機相を集め、水50mlで2回、飽和食塩水50mlで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。さらにシリカゲルカラム(石油エーテル/酢酸エチル=20/1)で精製し7-(2-(5-メチル)-フリル)-1-インダノン0.70g(収率35%)を得た。
【0145】
(1-1-d)1-メチル-7-(2-(5-メチル)-フリル)-インデンの合成
100mlフラスコに7-(2-(5-メチル)-フリル)-1-インダノン(1.40g、6.59mmol)とTHF20mlを加え溶液とした後、-78℃でメチルリチウム/ジエチルエーテル溶液(1.6M、7.5ml、11.9mmol)を加え、室温で10時間攪拌した。反応を飽和塩化アンモニウム水溶液20mlでクエンチし、揮発成分を減圧留去した。残った溶液を酢酸エチル50mlで2回抽出し、有機相を集めて飽和食塩水50mlで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。さらなる精製は行なわず次の反応に用いた。
100mlフラスコに上記粗生成物とトルエン30mlを加え溶液とした後、p-トルエンスルホン酸(62.0mg、0.330mmol)を加え、130℃で2時間攪拌した。攪拌中はディーンスタークトラップを用いて生成する水を除いた。室温まで冷却し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液30mlを加え、有機相を分離した。水相を酢酸エチル50mlで3回抽出した後、有機相を集め飽和食塩水50mlで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。さらにシリカゲルカラム(石油エーテル)で精製し1-メチル-7-(2-(5-メチル)-フリル)-インデン0.850g(収率61%)を得た。
【0146】
(1-2)(2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタジエニル)ジメチルクロロシランの合成
200mlフラスコに、テトラメチルシクロペンタジエン2.40g(19.6mmol)とTHF40mlを加え溶液とした後、-78℃に冷却してn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液(2.5M)12.0ml(30.0mmol)を加え、室温に戻して3時間攪拌した。別途用意した200mlフラスコにジメチルジクロロシラン5.00g(38.7mmol)とTHF20mlを加え、-78℃に冷却して先の反応溶液を加えた。室温に戻して12時間攪拌した。揮発物を減圧留去で除くことで黄色液体4.00gが得られた。得られた黄色液体は、さらなる精製は行なわずに次の反応に用いた。
【0147】
(1-3)(3-メチル-4-(2-(5-メチル)-フリル)-インデニル)(2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタジエニル)ジメチルシランの合成
100mlフラスコに、1-メチル-7-(2-(5-メチル)-フリル)-インデン2.60g(12.4mmol)とTHF40mlを加え溶液とした後、-78℃に冷却してn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液(2.5M)5.2ml(13.0mmol)を加え、室温に戻して3時間攪拌した。別途用意した200mlフラスコに(1-2)で得られた未精製の黄色液体3.40g(15.8mmol)とTHF10mlを加え、-78℃に冷却して先の反応溶液を加えた。室温に戻して12時間攪拌した。反応物を氷水40mlにゆっくりと加え、酢酸エチル200mlで2回抽出した。得られた有機相を飽和食塩水50mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過し、溶液を減圧留去して、シリカゲルカラム(石油エーテル)で精製し、(3-メチル-4-(2-(5-メチル)-フリル)-インデニル)(2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタジエニル)ジメチルシランの黄色オイル1.40g(収率25%)を得た。
【0148】
(1-4)ジメチルシリレン(3-メチル-4-(2-(5-メチル)-フリル)-インデニル)(2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドの合成
200mlフラスコに、(3-メチル-4-(2-(5-メチル)-フリル)-インデニル)(2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタジエニル)ジメチルシラン2.20g(5.70mmol)、ジエチルエーテル30mlを加え、-78℃まで冷却した。ここにn-ブチルリチウム/n-ヘキサン溶液(2.5M)4.8ml(11.9mmol)を滴下し、室温に戻し3時間撹拌した。反応液の溶媒を減圧留去し、ジクロロメタン60mlを加え、-78℃まで冷却した。そこに、四塩化ジルコニウム1.40g(6.01mmol)を加え、徐々に室温に戻しながら一夜撹拌した。反応液をろ過して得られたろ液から溶媒を減圧留去することで、黄色粉末3.0gが得られた。この粉末をトルエン25mlで洗浄し、ジメチルシリレン(3-メチル-4-(2-(5-メチル)-フリル)-インデニル)(2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドの黄色粉末0.75g(収率26%)を得た。
H-NMR値(CDCl):δ0.94(s,3H),δ1.19(s,3H),δ1.90(s,3H),δ1.95(s,3H),δ1.98(s,3H),δ2.04(s,3H),δ2.28(s,3H),δ2.38(s,3H),δ5.52(s,1H),δ6.07(d,1H),δ6.38(d,1H),δ7.04(dd,1H),δ7.37(d,1H),δ7.45(d,1H)。
【0149】
(2)成分(A-1)の合成(2)
下記化学式に示す(メタロセン化合物12)は、特開2013-227271号公報の0140~0143段落記載の方法に従って合成した。
【化13】
【0150】
(3)成分(A-1)の合成(3)
下記化学式に示す(メタロセン化合物13)は、特開2017-165726号公報の0135~0139段落記載の方法に従って合成した。
【化14】
【0151】
(4)成分(A-2)の合成(1)
下記化学式に示す(メタロセン化合物21)は、富士フィルム和光純薬(株)より入手した。
【化15】
【0152】
(5)成分(A-2)の合成(2)
下記化学式に示す(メタロセン化合物22)は、アルファ・ケミストリー社(米国)製を日本代理店を通じて入手した。
【化16】
【0153】
(6)オレフィン重合用触媒の合成
窒素雰囲気下、500ml二口フラスコに480℃で6時間焼成したシリカ10.0gを入れ、150℃のオイルバスで加熱しながら真空ポンプで1時間減圧乾燥した。別途用意した200ml二口フラスコに窒素雰囲気下、室温にて上記メタロセン化合物11を27.4mg(メタロセン化合物50μmol相当)と上記メタロセン化合物21を20.2mg(メタロセン化合物50μmol相当)を入れ、トルエン27.4mlで溶解した。室温でメタロセン化合物11とメタロセン化合物21のトルエン溶液にアルベマール社製のメチルアルミノキサンのトルエン溶液(20%)26.7ml(Alとして80mmol相当)を加え30分間撹拌した。真空乾燥済みシリカと脱水トルエン65mlの入った500ml二口フラスコを40℃のオイルバスで加熱および撹拌しながら、上記メタロセン化合物とメチルアルミノキサン(MAO)を混合したトルエン溶液を全量加えた。40℃で1時間撹拌した後、40℃に加熱したままヘキサンで3回洗浄した後、溶媒を減圧留去することでオレフィン重合用触媒を得た。
【0154】
(7)エチレン重合体の製造
攪拌および温度制御装置を有する内容積2リットルのステンレス鋼製オートクレーブに、充分脱水および脱酸素したイソブタン800ml、1-へキセン30ml、トリエチルアルミニウム34mgを導入した後、撹拌しながら85℃へ昇温した。微量の水素を導入した後、エチレンを分圧が0.7MPaになるまで導入した。ここへ、上記(6)で得たオレフィン重合用触媒のスラリーを窒素ガスで圧入し、エチレン分圧0.7MPa、温度85℃を保って60分間重合を継続した。重合中の水素とエチレンのモル比(H2/C2)の平均は0.17mol%であった。
その結果、68gのエチレン重合体が生成した。得られた重合体のMFRは0.51g/10分、密度は0.922g/cmであった。結果を表14、表15にまとめた。
【0155】
(実施例2~11)
メタロセン化合物を表14に示す種類・割合に変更した以外は、実施例1と同様にしてエチレン重合体を製造した。重合条件と結果を表15にまとめた。
【0156】
(比較例1~9)
表14に示すようにメタロセン化合物を(A-1)または(A-2)のいずれかの使用に限定した以外は、実施例1と同様にしてエチレン重合体を製造した(比較例1~9)。
【0157】
【表14】
【0158】
GPC測定およびMFRの測定により、上記実施例、比較例で得た共重合体の分析を行った。結果は重合条件と合わせて表15に纏めた。
【0159】
【表15】
【0160】
表15が示すように、2種類のメタロセン化合物を併用した触媒を用いて得られたポリオレフィンは、HLMFR/MFRの値および分子量分布が大きく、溶融成形に適した流動性を備えているものであった。一方で、(A-2)単独では分子量分布が十分に大きくならず(比較例3~6)、溶融成形に適した特性を示すには不十分であった。
【0161】
各実施例および比較例で得られたポリオレフィンについて、HLMFRを横軸、ポリエチレン中の低分子量成分の比率(WMW≦1万、WMW≦5000で示す)を縦軸にとった2次元座標空間上にプロットした結果を、図1および図2に示す。図1および図2からは、実施例の触媒は、メタロセン(A-1)のみの触媒に対して、得られるポリエチレンのHLMFR見合いの低分子量成分量比(WMW≦1万、WMW≦5000で示す)が少ない事が示される。図では比較例1、2の触媒のHLMFR-Wを線で結んでいるが、同じメタロセン(A-1)をメタロセン(A-2)と二元化した触媒(実施例1-5、6-9)は、当該直線より下側にプロットされており、比較例よりWが少ないことが分かる。実施例10、11も同じメタロセン(A-1)のみの触媒の比較例7、9に対してWが小さくなっている。
このことから、実施例の触媒を用いて得られたポリオレフィンは、成形加工特性に優れるばかりでなく、更に、製品表面のべとつきや製品強度がより改善されることが見込まれる。
【0162】
[実施例12~14]
メタロセン化合物を表に示す種類・割合に変更した以外は、実施例1と同様にしてエチレン重合体を製造した。重合条件と結果を表14、15にまとめた。
【0163】
表14、15が示すように、実施例12~14では、本発明の2種類のメタロセン化合物を併用した触媒を用いて、実施例1~11で製造したエチレン重合体より低HLMFRかつ高密度のエチレン重合体を製造した例であるが、HLMFR/MFRの値が大きく、溶融成形に適した流動性を備えており、更には、低分子量成分量比Wは比較例1、2の触媒のHLMFR-Wの線より少なく、製品表面のべとつきや製品強度に優れている事から、本発明の触媒は幅広いHLMFRと密度の範囲において、その効果を発揮する事が示された。
【0164】
<クロス分別クロマトグラフィー(CFC)>
実施例1、2、3、及び比較例1、2の各ポリエチレンに対して、上記方法に従ってクロス分別クロマトグラフィー測定を行い、コモノマーの分布を解析した。実例として実施例1及び比較例1の、溶出温度に対する積分溶出曲線及び微分溶出曲線を図3に、溶出温度と分子量(logM)を軸にとり、溶出量を等高線図としたものを、図6にそれぞれ示す。また、コモノマー量と分子量の関係によりポリマーを4つに区分した各領域W~Wに含まれるポリマーの量を算出した結果を表16に示す。なお、表中の数値の単位は、重量%である。
【0165】
【表16】
【0166】
実施例1~9の触媒を用いて得られたポリオレフィンは分子量分布が広く、かつ、(W+W)と(W-W)が共に大きな値を示す事から、逆コモノマー組成構造を有しており、製品強度と剛性のバランス向上が期待できる。
実施例10の触媒を用いて得られたポリオレフィンは、メタロセン化合物12とメタロセン化合物21の活性差が大きいためメタロセン化合物12由来の低密度高分子量ポリマー成分比率が十分大きくないため、分子量分布の広がりが小さく、(W+W)と(W-W)の値に反映される程は逆コモノマー組成構造の顕在化は得られなかったが、そのCFC等高線図(図8)には低密度ポリマー成分の存在が明確に示されており、二元錯体触媒の錯体混合比率の調整により、生成ポリオレフィンのコモノマー組成分布構造が制御可能であることを示す例であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9