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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149438
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】遠心噴霧装置及び微粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/10 20060101AFI20241010BHJP
   F27B 14/18 20060101ALI20241010BHJP
   F27D 3/14 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B22F9/10
F27B14/18
F27D3/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060861
(22)【出願日】2024-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2023062484
(32)【優先日】2023-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】中本 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】米虫 悠
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】津田 正徳
【テーマコード(参考)】
4K017
4K046
4K055
【Fターム(参考)】
4K017ED02
4K017FA04
4K046AA01
4K046BA01
4K046BA02
4K046BA03
4K046CB15
4K046CD02
4K046CE06
4K046EA03
4K055AA03
4K055JA13
4K055JA17
(57)【要約】
【課題】ディスク上に金属凝固物が形成される問題に善処し、微粉末の製造に係る歩留まりの向上とディスクの損傷防止を図った遠心噴霧装置を実現する。
【解決手段】コールドクルーシブル溶解炉1の出湯部である出湯ノズル15の周囲に配置した出湯コイル16によりスカル3bを溶解させて出湯ノズル15から金属3の溶湯3aを出湯させ、その溶湯3aの流下方向に配置したディスク21上に供給して遠心噴霧により微粉末3cを製造する遠心噴霧装置Aを構成するものであって、出湯コイル16とディスク21の間に、ディスク21から出湯コイル16への溶湯3aの跳ね返りを阻止する保護部材4を配置するとともに、保護部材4の少なくとも一部に、出湯コイル16の磁束Φをディスク21に及ぼすための磁束透過部41を設けることとした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コールドクルーシブル溶解炉の出湯部の周囲に配置した出湯コイルによりスカルを溶解させて前記出湯部から金属の溶湯を出湯させ、当該溶湯の流下方向に配置したディスク上に供給して遠心噴霧により微粉末を製造する遠心噴霧装置であって、
前記出湯コイルと前記ディスクの間に、当該ディスクから前記出湯コイルへの溶湯の跳ね返りを阻止する保護部材を配置するとともに、当該保護部材の少なくとも一部に、前記出湯コイルの磁束を前記ディスクに及ぼすための磁束透過部を設けたことを特徴とする、遠心噴霧装置。
【請求項2】
前記保護部材は金属製の遮蔽板であり、前記磁束透過部は前記遮蔽板の内周に嵌め合わせたセラミック板である、請求項1に記載の遠心噴霧装置。
【請求項3】
前記セラミック板の外径は前記ディスクの直径よりも大きく、当該セラミック板には、前記出湯コイルの内径と略同等若しくはそれよりも小さい内径の溶湯通過部が設けられている、請求項2に記載の遠心噴霧装置。
【請求項4】
前記出湯コイルは、前記出湯部からの溶湯の出湯方向に沿って複数ターン設けられている、請求項1に記載の遠心噴霧装置。
【請求項5】
コールドクルーシブル溶解炉のるつぼ内の金属を溶解コイルで溶解するとともに、前記出湯部の周囲に配置した出湯コイルによりスカルを溶解させて出湯部から金属の溶湯を出湯させ、当該溶湯の流下方向に配置したディスク上に供給して遠心噴霧により微粉末を製造する微粉末の製造方法であって、
前記溶解コイルにより前記るつぼ内を加熱して溶湯が凝固しない状態を保持しつつ、
前記出湯コイルにより、前記出湯部から溶湯を出湯させない範囲で前記ディスクを予熱する予熱工程と、前記予熱工程後に前記出湯部から溶湯を出湯させつつ前記ディスクを加熱する出湯工程と、を実施することを特徴とする、微粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク上に金属凝固物が形成される問題に善処した、遠心噴霧装置及び微粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属微粉末の製造方法として、水噴霧法(水アトマイズ法)、ガス噴霧法(ガスアトマイズ法)及び遠心噴霧法(ディスクアトマイズ法)が知られている。このうち遠心噴霧法は、るつぼから溶湯を出湯させ、当該溶湯の流下方向に配置したディスク上に供給して微粉末を製造するもので、例えば100μm以下の粒径を容易に制御することができ、かつ真球を作り易いというメリットがある。
【0003】
図7(a)は金属微粉末の遠心噴霧法(ディスクアトマイズ法)を実施するための遠心噴霧装置を示す原理図である。この装置は、耐火物るつぼ101と回転ディスク機構102により構成されている(例えば特許文献1)。
【0004】
耐火物るつぼ101では、底部に出湯部101aが設けられ、図示しない加熱手段で加熱した溶湯103を出湯部101aから底出湯し、その溶湯103を高速で回転するディスク102a上へ滴下することで、ディスク102aの外周部から水平に溶湯103が噴霧された後、周囲にある気体によって冷却されて凝固することで球状の金属粉末103aを製造することができる。
【0005】
この場合、耐火物るつぼ101は溶湯103を融点以上でディスク102a上に到達させる必要があるために、加熱手段により溶湯103を融点よりも十分に高い温度になるように加熱して出湯することが好適とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-4393
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、耐火物るつぼ101に代えて、図7(b)に示すコールドクルーシブル(CC)溶解炉104を採用することが、遠心噴霧装置の一つの態様として考えられる。
【0008】
コールドクルーシブル溶解炉104は、従来の耐火物るつぼ101の底出湯に比べて、活性金属や高融点金属の溶解に対応可能であり、純度を下げずに溶解できるメリットがある。
【0009】
このコールドクルーシブル溶解炉104は、炉側壁104aや底床104bが水冷銅セグメント構造となっており、冷却により炉側壁104aや炉床104bにスカル(凝固部)104cを形成するとともに、スカル104cの一部を出湯コイル104dにより溶解して、出湯部104eを通して溶湯106を底出湯する原理である。
【0010】
図7(b)に示す出湯コイル104dは平コイル(1ターン4層形式)で構成されている。
【0011】
しかしながら、コールドクルーシブル溶解炉104と回転ディスク機構105を組み合わせて遠心噴霧装置を構成する場合、スカル104cを完全に溶解させることができないため、原理的に供給溶湯106を融点よりも十分に高い温度に加熱することは難しい。このため、ディスク105aの温度が溶融金属よりも低いと、供給した溶湯106がディスク105a上で冷却され、ディスク105a上面において薄い薄膜状に溶湯106が濡れ広がらず、次の問題が生じ得る。
【0012】
(1) 溶湯106がディスク105aの上面ではねて噴霧されずに歩留まりが悪化する。
(2) 溶湯106の凝固物106aがディスク105aの上面に回転中心軸に対して偏って成長し続け、過大な遠心力がかかることによってディスク105aが破損する。一方、ディスク105aの強度をより強くすると、アンバランスしたまま回転することとなるので、過大振動および負荷が発生するため、モータの故障につながる。
【0013】
これに対して、ディスク105aを加熱することが一つの手段として考えられる。その際、部品点数やコストを増加させずに対応するために、ディスク105aを出湯コイル104dに近づけ、出湯コイル104dでディスク105aの表面を加熱することが考えられるが、このようにすると、ディスク105aからの溶湯106の跳ね返りで出湯コイル104dが損傷、破損するおそれがある。
【0014】
本発明は、このような課題を有効に解決し得る、遠心噴霧装置及び微粉末の製造方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0016】
すなわち、本発明に係る遠心噴霧装置は、コールドクルーシブル溶解炉の出湯部の周囲に配置した出湯コイルによりスカルを溶解させて前記出湯部から金属の溶湯を出湯させ、当該溶湯の流下方向に配置したディスク上に供給して遠心噴霧により微粉末を製造するものであって、前記出湯コイルと前記ディスクの間に、当該ディスクから前記出湯コイルへの溶湯の跳ね返りを阻止する保護部材を配置するとともに、当該保護部材の少なくとも一部に、前記出湯コイルの磁束を前記ディスクに及ぼすための磁束透過部を設けたことを特徴とする。
【0017】
このようにすると、出湯コイルとディスクを近づけてもディスクからの溶湯の跳ね返りを保護部材で阻止することができる。そして、出湯コイルの磁束は保護部材の磁束透過部を通じてディスクに及ぼすことができる。このため、別途に熱源を用いずとも、予熱の際は出湯コイルでディスクを効果的に誘導加熱し、ディスク温度を溶湯温度に近づけて、ディスクアトマイズの際は溶湯を誘導加熱することで溶湯温度が融点以下となることを抑制し、微粉末製造に係る歩留まりの低下や、凝固物の成長によるディスクの損傷、破損の問題を解消することができる。
【0018】
前記保護部材は金属製の遮蔽板であり、前記磁束透過部は前記遮蔽板の内周に嵌め合わせたセラミック板であることが好ましい。このようにすると、遮蔽板に強度を持たせることができ、必要に応じて水冷できるとともに、遮蔽板(機構自体)を取り付け易い構造にすることができる。
【0019】
この場合、前記セラミック板の外径は前記ディスクの直径よりも大きく、当該セラミック板には、前記出湯コイルの内径と略同等若しくはそれよりも小さい内径の溶湯通過部を設けておくことが好ましい。このようにすると、溶湯の跳ね返りの阻止と磁束の透過を適切に実現することができる。
【0020】
前記出湯コイルは、前記出湯部からの溶湯の出湯方向に沿って複数ターン設けられていることが好ましい。このようにすると、出湯後にディスクに向かう溶湯の温度降下を抑制することができる。
【0021】
また、本発明に係る微粉末の製造方法は、コールドクルーシブル溶解炉のるつぼ内の金属を溶解コイルで溶解するとともに、前記出湯部の周囲に配置した出湯コイルによりスカルを溶解させて前記出湯部から金属の溶湯を出湯させ、当該溶湯の流下方向に配置したディスク上に供給して遠心噴霧により微粉末を製造するにあたり、前記溶解コイルにより前記るつぼ内を加熱して溶湯が凝固しない状態を保持しつつ、前記出湯コイルにより、前記出湯部から溶湯を出湯させない範囲で前記ディスクを予熱する予熱工程と、前記予熱工程後に前記出湯部から溶湯を出湯させつつ前記ディスクを加熱する出湯工程と、を実施することを特徴とする。
【0022】
このようにすれば、予めディスクを予熱しておくことができるので、出湯部からディスクに溶湯が供給されたときに溶湯とディスクの温度差を小さくしておくことができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明した本発明によれば、ディスク上に金属凝固物が形成される問題に善処し、微粉末の製造に係る歩留まりの向上とディスクの損傷、破損防止を図った遠心噴霧装置及び微粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る遠心噴霧装置の模式的な構成図。
図2図1の要部に対応した拡大図。
図3】本発明の変形例を示す図。
図4】本発明の変形例を示す図。
図5図4に対応した構成説明図。
図6】本発明の他の変形例を示す図。
図7】従来例及び改良案を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0026】
図1に示す遠心噴霧装置Aは、コールドクルーシブル溶解炉1と、回転ディスク機構2とを含んで構成される。
【0027】
コールドクルーシブル溶解炉1は、炉側壁11と炉床12を備えている。炉側壁11は、図示されない機構により水冷された銅製のもので、短冊状に分割されたセグメント11aが集合してるつぼ1aを構成しており、誘導加熱のための溶解コイル13がその外周に螺旋状に巻回され、第1の電源装置14から高周波電力が給電されるようにしている。溶解コイル13の電流により誘導された磁場は、前記セグメント11a、11a間の空隙を介して、るつぼ1a内の金属3に渦電流を惹起し、金属3は自己加熱して溶解する。
【0028】
炉床12は、コールドクルーシブル溶解炉1の底部を構成するための炉側壁11の外周より大きい平板状のもので、炉床12も前記炉側壁11と同様に、水冷された銅製で、円周方向に略分割されたセグメント12aの集合体となっている。
【0029】
炉床12には、中心部から金属3をるつぼ1aの外に排出することのできる出湯部(いわゆる底出湯部)15が設けられている。
【0030】
溶解コイル13によって金属3を加熱すると、金属3は融解して溶湯3aとなり、水冷されている炉側壁11と相対する外側、及び炉床12との接触面から凝固する。凝固した金属塊をスカル3bという。出湯部15はスカル3bで覆われる。炉床2の出湯部15から溶湯3aを出湯するためには、出湯部15付近のスカル3bを溶融させる必要がある。
【0031】
そこで、出湯部15を囲むように巻回した出湯コイル16を炉床12の下面に配置し、第2の電源装置17から高周波電力を給電して、炉床12上に形成されたスカル3bの一部の領域を、出湯部15のスカル3bを含めて誘導加熱により溶解する。
【0032】
これにより、スカル3bの一部が溶解することで、スカル3bにより閉塞していた出湯部15が開栓し、開口から溶湯3aが出湯可能となる。出湯方向は鉛直方向(Z方向)である。
【0033】
第1、第2の電源装置14、17は、コイル制御部18を通じてオンオフや供給電力等が制御される。
【0034】
一方、回転ディスク機構2は、円盤状のディスク21と、ディスク21を中心軸2a回りに駆動するモータ22と、モータ22を制御するモータ制御部23とを含んで構成される。ディスク21は、上面が中心軸2aに対して直交するように、かつ、上面の中心部が出湯ノズル15の中心部に対応する位置に配置される。この実施形態では、ディスク21はカーボン製のもので、水平な姿勢で配置され、鉛直上方から出湯される溶湯3aを中心で受ける構造をなしている。モータ22は、例えばサーボモータであり、モータ制御部23を通じてディスク21の回転のオンオフや回転数等が制御される。
【0035】
コールドクルーシブル溶解炉1の出湯前にモータ22によってディスク21が高速で回転駆動された後、出湯ノズル15から出湯された溶湯3aがディスク21の上面に供給される。その後溶湯3aは、ディスク21の遠心力によりディスク21の上面を伝って、ディスク21の周縁に向けて移動し、周縁から径方向外側に向かって噴霧される。噴霧された溶湯3aは、ディスク21の周囲にある気体によって冷却されることにより凝固して、微粉末3cが形成される。気体は、例えば不活性ガスである。
【0036】
このような構成において、前述したように、コールドクルーシブル溶解炉1では出湯時にセグメント11a、11a間、セグメント12a、12a間のスカル3bまで完全に溶解させることはできないため、原理的に供給溶湯を融点よりも十分に高い温度に加熱することは難しい。一方で、ディスク21は特段加熱されているわけではない。このため、ディスク21上に溶湯3aを供給した際にディスク21の温度が低いと、溶湯3aの温度が融点よりも下がってディスク21の上面において薄い薄膜状に濡れ広がらず、微粉末製造における歩留まりが低下するのみならず、溶湯3aがディスク21上で凝固し、その凝固物が原因でディスクやモータの破損、故障につながる。
【0037】
そこで本実施形態は、図2に示すように、出湯コイル16の磁束Φを利用してディスク21を加熱するために、出湯コイル16とディスク21の間に保護部材4を配置し、その保護部材4の一部に磁束透過部41を設けてディスク21を誘導加熱するとともに、出湯中の溶湯3aの温度が下がらないように出湯コイル16の巻き方に工夫を凝らしている。出湯部は出湯ノズル15で構成されている。
【0038】
出湯ノズル15は、逆円錐状の拡径部15a及び円筒状のストレート部15bからなる漏斗状のもので、炉床12に設けた貫通孔12bに着脱可能に取り付けられる。具体的には、貫通孔12bの一部は上方に開口するテーパ構造をなしており、このテーパ部に出湯ノズル15の拡径部15aを装着し、円筒部15bの下端を炉床12から下方に突出した状態に配される。出湯ノズル15には溶湯3aに応じた異種材料ノズルが使用される。
【0039】
保護部材4は、放熱性や耐久性に優れた銅製の遮蔽板40で構成されるもので、この遮蔽板40の一部を、磁束の影響を受けない磁束透過部41、具体的には透磁性材料を用いたセラミック板41a(例えば窒化ホウ素など)で構成している。銅製の遮蔽板40だけだと出湯コイル16の磁束Φが遮蔽板40で遮断されてディスク21に到達しないためである。ここでは、遮蔽板40を円環状に形成し、その内周を段付き孔40aとして、その段付き孔40aにセラミック板41aを嵌め込んでいる。セラミック板41aの位置は、出湯コイル16の下端16bから所定距離(例えば約1mm)で、ディスク21との間はアトマイズを阻害しない所定距離(例えば10mm)を空けて設置される。セラミック板41aには、中央に溶湯3aを通過させる溶湯通過孔41a1が設けられている。
【0040】
出湯コイル16は、銅管16aのターン数を4ターンとしたもので、平巻きではなく、軸方向に2ターン、径方向に1層の内周部と、軸方向に2ターン、径方向に1層の外周部とで構成している。具体的には、内周部を軸方向に2ターン巻き、径方向に段上がりして2層目の軸方向への2ターンを巻いた2ターン2層構造としている。なお、出湯コイル16の外径r1はディスク21の直径r2よりもやや大きいか若しくは同程度とされる。出湯コイル16の上端16cは、水冷銅セグメント構造である炉床12の下面12aに近接ないし接する位置に設置される。
【0041】
出湯コイル16が2ターン、2層巻きであり、この出湯コイル16が炉床12の下に配置されることから、炉床12とディスク21のあいだ(ここでは略中間位置)にセラミック板41aが位置する関係にある。
【0042】
また、セラミック板41aの直径r3は、ディスク21の直径r2の2倍程度とし、出湯コイル16が形成する磁束Φが銅製の遮蔽板40に阻止されずに周回するために必要な磁路空間を確保している。
【0043】
セラミック板41aの溶湯通過孔41a1の孔径r4は、出湯コイル16の内径r5と略同径に設定されている。勿論、溶湯通過孔41a1の孔径r4は、出湯コイル16の内径r5よりも小さく設定されてもよい。
【0044】
次に、微粉末の製造工程について説明する。
【0045】
るつぼ1aに対する冷却が開始され、るつぼ1aが冷えたら、るつぼ1aに金属3を投入し、コイル制御部18を通じて溶解コイル13に通電して金属3を誘導加熱する工程を開始する。金属3が溶解して図1に示すような溶湯3aになり、炉側壁11や炉床12に接した部分にスカル3bが形成されたら、コイル制御部18は溶解コイル13への通電を溶湯3aが凝固しない状態に維持しつつ、出湯コイル16への通電を開始する予熱工程に入る。このとき、コイル制御部18は出湯ノズル15から溶湯3aが出湯しない電力以下に保持する。これにより、出湯コイル16の磁束Φが磁束透過部41であるセラミック板41aを通ってディスク21に到達する。磁束Φはディスク21の表面を通って、ディスク表面のみを加熱し(表皮効果)、ディスク21の内部には熱伝導により熱が伝わり、ディスク21の表面を含む全体が予熱される。
【0046】
このときの予熱温度は、ディスク21の表面が金属3の融点付近の温度となるように設定する。ディスク制御部23は、予熱開始前もしくは予熱開始後にディスク21を所定の回転数で回転させる。
【0047】
予熱工程が終わると、アトマイズ工程に入り、ディスク制御部23により、所定の回転数で予熱工程よりも高速回転させる。コイル制御部18により出湯コイル16の電力を上げ、スカル3bを溶解させて出湯ノズル15から溶湯3aを出湯させる。溶湯3aは出湯コイル16の内周を通り、セラミック板41aの溶湯通過孔41a1を通ってディスク21に供給される。
【0048】
この段階で、ディスク21の表面は金属3の融点に近い温度に予熱されており、出湯後に軸方向に配置した出湯コイル16内を通過することで温度降下が防がれつつディスク21に到達した溶湯3aは、ディスク21によっても即座に冷却されなくなる。これにより、溶湯3aはディスク21の上面において薄い薄膜状に溶湯が濡れ広がって遠心噴霧され、ディスク21の上面で凝固物を発生することなく微粉末3cになる。さらに、ディスク21の上面での溶湯3aの跳ねやディスク21の破損がなくなり、安定した微粉末3cが製造可能となる。
【0049】
以上のように、本実施形態に係る遠心噴霧装置Aは、コールドクルーシブル溶解炉1の出湯部である出湯ノズル15の周囲に配置した出湯コイル16によりスカル3bを溶解させて出湯ノズル15から金属3の溶湯3aを出湯させ、その溶湯3aの流下方向に配置したディスク21上に供給して遠心噴霧により微粉末3cを製造するものであって、出湯コイル16とディスク21の間に、ディスク21から出湯コイル16への溶湯3aの跳ね返りを阻止する保護部材4を配置するとともに、保護部材4の少なくとも一部に、出湯コイル16の磁束Φをディスク21に及ぼすための磁束透過部41を設けたものである。
【0050】
このようにすると、出湯コイル16とディスク21を近づけてもディスク21からの溶湯3aの跳ね返りを保護部材4で阻止することができる。そして、出湯コイル16の磁束Φは保護部材4の磁束透過部41を通じてディスク21に及ぼすことができる。このため、別途に熱源を用いずとも、予熱の際は出湯コイル16でディスク21を効果的に誘導加熱し、ディスク温度を溶湯温度に近づけて、ディスクアトマイズの際は溶湯を誘導加熱することで溶湯温度が融点以下となることを抑制し、微粉末3cの製造に係る歩留まりの低下や、凝固物の成長によるディスク21の損傷、破損の問題を解消することができる。
【0051】
具体的には、保護部材4を金属製の遮蔽板40とし、磁束透過部41を遮蔽板40の内周に嵌め合わせたセラミック板41aとしているため、遮蔽板40に強度を持たせることができ、必要に応じて遮蔽板40を水冷できるとともに、遮蔽板40(機構自体)を取り付け易い構造にすることができる。
【0052】
この場合、セラミック板41aの外径r3はディスクr2の直径よりも大きく、セラミック板41aには、出湯コイル16の内径r5と略同等の内径r4の溶湯通過部41a1が設けてあるため、溶湯3aの跳ね返りの阻止と磁束Φの透過を適切に実現することができる。
【0053】
また、出湯コイル16は、出湯ノズル15からの溶湯3aの出湯方向(Z方向)に沿って複数ターン(2ターン)設けられているため、出湯後にディスク21に向かう溶湯3aの温度降下を抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態に係る微粉末3cの製造方法は、コールドクルーシブル溶解炉1のるつぼ1a内の金属3を溶解コイル13で溶解するとともに、出湯ノズル15の周囲に配置した出湯コイル16によりスカル3bを溶解させて出湯ノズル15から金属3の溶湯3aを出湯させ、その溶湯3aの流下方向に配置したディスク21上に供給して遠心噴霧により微粉末3cを製造するにあたり、溶解コイル13によりるつぼ1内を加熱して溶湯3aが凝固しない状態を保持しつつ、出湯コイル16により、出湯ノズル15から溶湯3aを出湯させない範囲でディスク21を予熱する予熱工程と、予熱工程後に出湯ノズル15から溶湯3aを出湯させつつディスク21を加熱する出湯工程と、を実施するものである。
【0055】
このようにすれば、予めディスク21を予熱しておくことができるので、出湯ノズル15からディスク21に溶湯3aが供給されたときに溶湯3aとディスク21の温度差を小さくしておくことができる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0057】
例えば、図3に示すように、出湯コイル16を3ターン1層の内周部と、1ターン1層の外周部とで構成し、2層が平コイル状をなす上端部位がセグメント構造をなす炉床12の底面12a側に位置する形状としても良い。この場合は、平コイル状の部位で炉床12を加熱しながら、平コイルと比べて、溶湯3aが出湯からディスク21に到達するまでに、出湯コイル16の間を通過する時間がより長くなるため、溶湯3aが冷めづらくなるという効果が得られる。なお、出湯コイル16の巻数は、電源の整合と会うように任意に変更してもよい。図3において遮蔽板や磁束透過部は省略している。
【0058】
また、図4に示す出湯部115のように、炉床12を構成する水冷銅セグメント12aと一体化した形状としてもよい。炉床12は炉側壁11と同様に、水冷された銅製で、円周方向に略分割されたセグメント12aの集合体となっていることは上述した通りである。出湯部115の形状は内面が出湯ノズル15の内面と略同様のもので、図4及び図5に示すように、逆円錐形状の拡径部115aの内側に位置する細径の内径部が鉛直方向のストレート部115bに連なった漏斗形状をなしている。本実施例では、先端部115cが下部に突き出る形状となっているが、先端部115cが下部に突き出ない形状であっても良い。炉床12は、扇形をなす銅底セグメント12aに内設された冷却路に冷却水が供給される一般的な冷却構造である。出湯部115がセグメント一体型であることで、出湯部115も冷却されるため、出湯に必要な出湯コイル16の電力を大きく(例えば2倍程度)しても、出湯部115の溶損が発生せず、ノズル形状が維持される。すなわち、ディスク21の予熱時のコイル電力も大きくすることができる。よって、ディスク上面の凝固物をさらに薄くし、凝固物の偏心によるアンバランスが軽減されるため、ディスクの周速を大きくすることができ、ディスクが折損することなく、さらに小さい粒径のアトマイズ粉が得られる。
【0059】
さらに、遮蔽板をガラスで構成したり、ディスクをカーボン以外の材料で構成するなど、本発明の基本的な作用効果が得られる範囲内で、素材は特に限定されない。
【0060】
また、上記実施形態の保護部材は銅板であり、その一部に磁束透過部であるセラミックを設けたが、水冷等が必要なく、取付強度も確保できるなど、実施上支障がなければ、セラミック板のような透磁性部材のみで溶湯の跳ね返りを阻止する保護部材を構成し、同時に磁束透過部として機能させるようにしても構わない。
【0061】
さらに、保護部材の形状は必ずしも板状であるものに限定されない。例えば、図6に示す保護部材4Xは、磁束透過部を兼ねるセラミック製の円筒管40Xで構成されたもので、溶湯の出湯空間の周囲を覆うことで出湯コイル16を出湯空間から隔離する構成となっている。このようにしても、ディスク21から飛散する溶湯が出湯コイル16に付着してしまうことを阻止することができる。
【0062】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0063】
A…遠心噴霧装置
1…コールドクルーシブル溶解炉
3a…溶湯
3b…スカル
3c…微粉末
4…保護部材
15…出湯部(出湯ノズル)
16…出湯コイル
21…ディスク
40…遮蔽板
41…磁束透過部
41a…セラミック板
r2…ディスクの直径
r3…セラミック板の外径
r4…磁束透過部の内径
r5…出湯コイルの内径
Z…出湯方向
Φ…磁束
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7