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特開2024-149463演算方法、演算装置およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149463
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】演算方法、演算装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/398 20200101AFI20241010BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20241010BHJP
   G01R 31/30 20060101ALI20241010BHJP
   G06F 119/08 20200101ALN20241010BHJP
【FI】
G06F30/398
G06F30/27
G01R31/30
G06F119:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024061520
(22)【出願日】2024-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2023061593
(32)【優先日】2023-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 進裕
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 善久
(72)【発明者】
【氏名】入来院 美代子
【テーマコード(参考)】
2G132
5B146
【Fターム(参考)】
2G132AA20
2G132AB14
2G132AC09
2G132AC10
2G132AL12
2G132AL21
5B146AA22
5B146DC03
5B146DJ07
5B146GL09
(57)【要約】
【課題】対象物の温度分布の予測を高精度かつ高速に行う。
【解決手段】演算方法は、発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと物性情報とを含む構造情報を、各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割する。演算方法は、第1構造情報を第1AIモデルに入力し、第1グリッドに対応する対象物の温度分布である第1予測温度を解析し、第1構造情報、第2構造情報、または第1予測温度の全部もしくは一部の少なくとも1つを用いて第2AIモデルに入力し、第2グリッドに対応する対象物の温度分布である第2予測温度を解析し、第1予測温度と第2予測温度とを用いて対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと前記発熱体および前記対象物の物性情報とを含む構造情報を、前記マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、前記マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が前記第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割し、
前記第1構造情報を学習済みの第1AIモデルに入力し、複数の前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1予測温度を解析し、
前記第1構造情報、前記第2構造情報、または前記第1予測温度の全部もしくは一部の少なくとも1つを用いて学習済みの第2AIモデルに入力し、前記第2グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第2予測温度を解析し、
前記第1予測温度と前記第2予測温度とを用いて前記対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する、
演算方法。
【請求項2】
前記第2構造情報は、前記第1グリッド内の前記第2グリッドの相対位置を示す位置情報を有し、
前記位置情報に対応する箇所の前記第1予測温度を前記第2予測温度に変更し前記第3予測温度を算出する、
請求項1に記載の演算方法。
【請求項3】
前記第1構造情報と前記第2構造情報とを前記第2AIモデルに入力し前記第2予測温度を解析する、
請求項1に記載の演算方法。
【請求項4】
前記第2構造情報と前記第1予測温度とを前記第2AIモデルに入力し前記第2予測温度を解析する、
請求項1に記載の演算方法。
【請求項5】
前記第1構造情報と前記第2構造情報と前記第1予測温度とを前記第2AIモデルに入力し前記第2予測温度を解析する、
請求項1に記載の演算方法。
【請求項6】
前記第1予測温度から前記位置情報により特定される範囲の温度分布を抽出し、
抽出した前記温度分布と前記第2構造情報とを前記第2AIモデルに入力し前記第2予測温度を解析する、
請求項2に記載の演算方法。
【請求項7】
前記第1予測温度から前記位置情報により特定される範囲の温度分布を抽出し、
抽出した前記温度分布を前記第2AIモデルに入力し前記第2予測温度を解析する、
請求項2に記載の演算方法。
【請求項8】
前記構造情報は、前記物性情報として前記対象物の前記グリッドごとの熱伝導率と発熱量と輻射率との情報を含む、
請求項1に記載の演算方法。
【請求項9】
発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと前記発熱体および前記対象物の物性情報とを含む構造情報を、前記マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、前記マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が前記第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割し、
前記第1構造情報を学習済みの第1AIモデルに入力し、複数の前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1予測温度を解析し、
前記第1構造情報、前記第2構造情報、または前記第1予測温度の全部もしくは一部の少なくとも1つを用いて学習済みの第2AIモデルに入力し、前記第2グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第2予測温度を解析し、
前記第1予測温度と前記第2予測温度とを用いて前記対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する、プロセッサを備える、
演算装置。
【請求項10】
発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと前記発熱体および前記対象物の物性情報とを含む構造情報を、前記マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、前記マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が前記第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割する処理と、
前記第1構造情報を学習済みの第1AIモデルに入力し、前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1予測温度を解析する処理と、
前記第1構造情報、前記第2構造情報、または前記第1予測温度の全部もしくは一部の少なくとも1つを用いて学習済みの第2AIモデルに入力し、前記第2グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第2予測温度を解析する処理と、
前記第1予測温度と前記第2予測温度とを用いて前記対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する処理と、をコンピュータに実行させる、
プログラム。
【請求項11】
発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと前記発熱体および前記対象物の物性情報とを含む構造情報を、前記マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、前記マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が前記第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割し、
前記第1構造情報のうち、前記第2グリッドに含まれる前記発熱体および前記対象物の物性情報を除く情報を学習済みの第1AIモデルに入力し、複数の前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1中間温度を解析し、
前記第1中間温度と、前記第1構造情報または前記第2構造情報の全部もしくは一部の少なくとも1つとを用いて学習済みの第2AIモデルに入力し、前記第2グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第2予測温度を解析し、
前記第1中間温度および前記第2予測温度を学習済みの第3AIモデルに入力し、複数の前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1予測温度を解析し、
前記第1予測温度と前記第2予測温度とを用いて前記対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する、
演算方法。
【請求項12】
前記第3AIモデルの学習において、前記第1グリッドに対応する領域のうち前記第2グリッドに対応する領域の損失がマスキングされる、
請求項11に記載の演算方法。
【請求項13】
発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと前記発熱体および前記対象物の物性情報とを含む構造情報を、前記マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、前記マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が前記第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割し、
前記第1構造情報のうち、前記第2グリッドに含まれる前記発熱体および前記対象物の物性情報を除く情報と、前記第2構造情報とを学習済みの第1AIモデルにそれぞれ入力し、複数の前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1中間温度と、前記第2グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第2中間温度とのそれぞれを解析し、
前記第1中間温度および前記第2中間温度を学習済みの第4AIモデルに入力し、複数の前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1予測温度、および、前記第2グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第2予測温度を解析し、
前記第1予測温度と前記第2予測温度とを用いて前記対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する、
演算方法。
【請求項14】
前記第4AIモデルの学習において、前記第1グリッドに対応する領域のうち前記第2グリッドに対応する領域の損失がマスキングされる、
請求項13に記載の演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、演算方法、演算装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電子機器が発生する電磁波の解析をマルチグリッドモデルを用いて行う電磁波解析装置が開示されている。電磁波解析装置は、全体モデルに部分モデルをマージするとともに、部分モデル間の階層関係に基づいて親階層のグリッドを細分して子階層のグリッドとする。また、電磁波解析装置は、利用者により全体モデルから選択されたオブジェクトを包含するオブジェクト包含領域をサブグリッド領域としてグリッドを細分し、利用者により全体モデルから選択された領域をサブグリッド領域としてグリッドを細分する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-127275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、エレクトロニクス機器の処理高速化および高機能化が求められている。しかしながら、エレクトロニクス機器には、電力が供給されることにより発熱する発熱体(例えば、コイル、コンデンサ、Integrated Circuit、Large Scale Integrationまたはバッテリ等)が数多く含まれ、発熱体による熱によって処理速度が低下するおそれがある。そのため、エレクトロニクス機器の開発段階の設計時に、例えば、基板に搭載予定の電子部品の配置に応じて、基板においてどのような発熱が生じるかを適切に評価したいというニーズがある。
【0005】
複数の発熱体が含まれる対象物(例えば、複数の発熱体である部品が配置された基板)の温度分布を、発熱体の発熱量および熱伝導率等からComputational Fluid Dynamic(以下、「CFD」と称する)によって予測する方法がある。CFDを用いた温度分布の予測では、対象物に所定のサイズのグリッドを設定し各グリッドの温度を個別に計算することで対象物の温度分布を予測する。しかしながら、CFDによる温度分布の予測は、例えば数時間から数十時間という非常に長い時間を計算に要するという課題がある。
【0006】
特許文献1では、電子機器が発生する電磁波をマルチグリッドモデルを用いて解析する。マルチグリッドモデルを用いた計算では、重要な部分のグリッドを細分化し高精度な解析を行い、他の部分はグリッドのサイズを大きくすることで計算時間を短縮し高速化する。しかしながら、マルチグリッドモデルを用いてもCFDによる温度分布の予測には依然時間がかかるという課題がある。
【0007】
本開示は、上述した従来の状況に鑑みて案出され、対象物の温度分布の予測を高精度かつ高速に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと前記発熱体および前記対象物の物性情報とを含む構造情報を、前記マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、前記マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が前記第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割し、前記第1構造情報を学習済みの第1AIモデルに入力し、複数の前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1予測温度を解析し、前記第1構造情報、前記第2構造情報、または前記第1予測温度の全部もしくは一部の少なくとも1つを用いて学習済みの第2AIモデルに入力し、前記第2グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第2予測温度を解析し、前記第1予測温度と前記第2予測温度とを用いて前記対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する、演算方法を提供する。
【0009】
また、本開示は、発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと前記発熱体および前記対象物の物性情報とを含む構造情報を、前記マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、前記マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が前記第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割し、前記第1構造情報を学習済みの第1AIモデルに入力し、複数の前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1予測温度を解析し、前記第1構造情報、前記第2構造情報、または前記第1予測温度の全部もしくは一部の少なくとも1つを用いて学習済みの第2AIモデルに入力し、前記第2グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第2予測温度を解析し、前記第1予測温度と前記第2予測温度とを用いて前記対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する、プロセッサを備える、演算装置を提供する。
【0010】
また、本開示は、発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと前記発熱体および前記対象物の物性情報とを含む構造情報を、前記マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、前記マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が前記第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割する処理と、前記第1構造情報を学習済みの第1AIモデルに入力し、前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1予測温度を解析する処理と、前記第1構造情報、前記第2構造情報、または前記第1予測温度の全部もしくは一部の少なくとも1つを用いて学習済みの第2AIモデルに入力し、前記第2グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第2予測温度を解析する処理と、前記第1予測温度と前記第2予測温度とを用いて前記対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する処理と、をコンピュータに実行させる、プログラムを提供する。
【0011】
また、本開示は、発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと前記発熱体および前記対象物の物性情報とを含む構造情報を、前記マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、前記マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が前記第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割し、前記第1構造情報のうち、前記第2グリッドに含まれる前記発熱体および前記対象物の物性情報を除く情報を学習済みの第1AIモデルに入力し、複数の前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1中間温度を解析し、前記第1中間温度と、前記第1構造情報または前記第2構造情報の全部もしくは一部の少なくとも1つとを用いて学習済みの第2AIモデルに入力し、前記第2グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第2予測温度を解析し、前記第1中間温度および前記第2予測温度を学習済みの第3AIモデルに入力し、複数の前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1予測温度を解析し、前記第1予測温度と前記第2予測温度とを用いて前記対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する、演算方法を提供する。
【0012】
また、本開示は、発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと前記発熱体および前記対象物の物性情報とを含む構造情報を、前記マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、前記マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が前記第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割し、前記第1構造情報のうち、前記第2グリッドに含まれる前記発熱体および前記対象物の物性情報を除く情報と、前記第2構造情報とを学習済みの第1AIモデルにそれぞれ入力し、複数の前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1中間温度と、前記第2グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第2中間温度とのそれぞれを解析し、前記第1中間温度および前記第2中間温度を学習済みの第4AIモデルに入力し、複数の前記第1グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第1予測温度、および、前記第2グリッドに対応する前記対象物の温度分布である第2予測温度を解析し、前記第1予測温度と前記第2予測温度とを用いて前記対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する、演算方法を提供する。
【0013】
なお、これらの包括的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または、記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、対象物の温度分布の予測を高精度かつ高速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】構造情報から温度分布を算出する方法を示す模式図
図2】グリッド幅、計算時間および形状再現性の関係を示す図
図3】粗グリッドと部品の情報との関係を示す図
図4】演算装置のブロック図
図5】実施の形態1に係るマルチグリッド予測温度の5つの算出方法の概要を示す図
図6】粗グリット構造の一例を示す図
図7】密グリッド構造と追加データとを示す図
図8】実施の形態1に係る各ネットワークの入力データを示す図
図9】実施の形態1に係るネットワーク1におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理のフローチャート
図10】実施の形態1に係るネットワーク1におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の模式図
図11】実施の形態1に係るネットワーク2におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理のフローチャート
図12】実施の形態1に係るネットワーク2におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の模式図
図13】実施の形態1に係るネットワーク3におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理のフローチャート
図14】実施の形態1に係るネットワーク3におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の模式図
図15】実施の形態1に係るネットワーク4におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理のフローチャート
図16】実施の形態1に係るネットワーク4におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の模式図
図17】実施の形態1に係るネットワーク5におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理のフローチャート
図18】実施の形態1に係るネットワーク5におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の模式図
図19】実施の形態1に係る対象物の温度分布の再帰的な演算方法を説明する図
図20】実施の形態1に係る対象物の温度分布の再帰的な演算処理の一例のフローチャート
図21】親構造、子構造および孫構造の一例を示す概略図
図22】実施の形態2に係る直列ネットワークにおけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の模式図
図23】実施の形態2に係る発熱体のデータの削除を説明するための模式図
図24】実施の形態2に係るAIモデルの学習におけるマスキングを説明するための模式図
図25】実施の形態2に係る直列ネットワークにおけるマルチグリッド予測温度を算出する処理のフローチャート
図26】実施の形態2に係る並列ネットワークにおけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の模式図
図27】実施の形態2に係る並列ネットワークにおけるマルチグリッド予測温度を算出する処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を適宜参照して、本開示に係る演算方法、演算装置およびプログラムを具体的に開示した各種の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、すでによく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の記載の主題を限定することは意図されていない。
【0017】
(実施の形態1)
まず、図1を参照して、構造情報から温度分布を算出する方法を説明する。図1は、構造情報から温度分布を算出する方法を示す模式図である。
【0018】
構造情報は、温度分布を算出したい対象物の情報である。対象物が、発熱する素子PAを複数含む基板Wである例を用いて説明する。なお、対象物は基板に限られず、エンジンまたは発熱体を含む製品(例えば、スマートフォン、パーソナルコンピュータ等)等の発熱体を含む任意の物であってよい。
【0019】
構造情報は、基板Wの情報として、基板W内の素子PAの位置情報、基板Wの熱伝導率、素子PAの熱伝導率および輻射率等を含むデータである。また、対象物の温度分布を解析する手法としてグリッドモデルが挙げられる。グリッドモデルは、対象物を縦横線で区切られた1つ1つのマス目であるセルに分割し、各セルの温度を解析し対象物全体の予測の温度分布(以下、「予測温度分布」と称する)を算出する解析手法である。セルはグリッドと同じ意味を示す。このグリッドモデルで予測温度分布が算出される場合、構造情報は、基板Wに設定されたグリッド幅の情報をさらに含む。
【0020】
この構造情報を用いて、熱流体の基礎方程式をコンピュータで解く(例えば、CFD)ことで基板Wの予測温度分布が算出される。しかしながら、熱流体の基礎方程式をコンピュータで解くことで予測温度分布を算出する方法では、算出時間が数時間から数十時間かかるという課題がある。
【0021】
Convolutional Neural Network(以下、「CNN」と称する)が挙げられるディープラーニング等のArtificial Intelligence(以下、「AI」と称する)技術を用いることで予測温度分布を算出する時間を数秒から数十秒に大幅に短縮できる可能性がある。
【0022】
次に、図2を参照して、グリッド幅、計算時間および形状再現性の関係を説明する。図2は、グリッド幅、計算時間および形状再現性の関係を示す図である。
【0023】
発熱体である素子PAと素子PAよりも小さな素子SPAとを複数含む基板Wを対象物の例として用いて、予測温度分布を算出する際に基板Wに対して設定される(つまり、基板Wを仮想的に分割する)グリッドの大きさと計算時間および形状再現性との関係について説明する。形状再現性とは、グリッド法を用いて計算された対象物の予測温度分布が実際の温度分布をどの程度再現しているかを表す。つまり、形状再現性が高い程、計算された予測温度分布は実際の温度分布との一致率が高くなる。一方、形状再現性が低い程、計算した予測温度分布は実際の温度分布との一致率が低くなる。
【0024】
メッシュK2は、2種類の大きさの幅のグリッドを有するメッシュである。メッシュK2は、基板W全体に設定されたグリッドと、素子SPAを含む領域Rに基板W全体に設定されたグリッドの幅よりも小さな幅のグリッドとを有する。なお、メッシュおよびグリッドは、2次元の図で説明しているが、2次元に限られず3次元であってもよい。
【0025】
基板Wに対し設定したメッシュの各グリッドは、各グリッド位置における基板Wおよび/または素子PA、SPAの物性情報を有する。この物性情報を用いて熱流体の基礎方程式をコンピュータで解くことで、各グリッドの温度が算出される。
【0026】
メッシュK1は、メッシュK2の領域Rに設定された幅のグリッドが基板W全体に設定されたメッシュである。コンピュータによってメッシュK1の各グリッドの温度を計算し基板Wの予測温度分布を算出した場合、素子SPAの大きさに対して十分に小さいグリッド幅が設定されているため、素子SPAの情報を喪失せず基板Wの予測温度分布が算出される。つまり、メッシュK1を用いて基板Wの予測温度分布が計算されると、予測温度分布の形状再現性は高くなる。しかしながら、メッシュK1を用いて基板Wの予測温度分布が計算される場合、多くのグリッドそれぞれに対し計算が行われる必要があり計算時間が長くなる。
【0027】
メッシュK3は、メッシュK2の基板W全体に設定された幅のグリッドのみを有するメッシュである。つまり、メッシュK3は、領域Rも含め基板W全体に粗いグリッドが設定されたメッシュとなる。コンピュータによってメッシュK3の各グリッドの温度を計算し基板Wの予測温度分布を算出した場合、メッシュK1よりも計算されるグリッド数が少ないため計算時間が短くなる。しかしながら、メッシュK3を用いて基板Wの予測温度分布が計算される、素子SPAの情報が喪失してしまう可能性があり形状再現性が低くなる。粗いグリッド幅を用いて予測温度分布が計算されると、小さな素子の情報を喪失することに関しては図3で説明する。
【0028】
メッシュK2のように基板Wの構造に応じて異なるグリッド幅を設定するマルチグリッドの構造のメッシュを用いることで、計算時間を短縮しかつ形状再現性の高い予測温度分布を計算できると考えられる。しかしながら、CNN等のAIには単一幅のグリッドによるメッシュの情報しか適応することができないという課題がある。
【0029】
図2のメッシュK2では2つのことなるグリッド幅を含むマルチグリッドのメッシュを用いて説明したが、マルチグリッドのメッシュは、2つのグリッド幅に限られず2つ以上の複数のグリッド幅のグリッドによって構成されてもよい。また、メッシュK1のような細かいグリッドのことを密グリッドと称する。複数の密グリッドのメッシュが設定された構造情報を密グリッド構造と称する。メッシュK3のように粗いグリッドのことを粗グリッドと称する。複数の粗グリッドのメッシュが設定された構造情報を粗グリッド構造と称する。また、細かいグリッドとは、例えば、マルチグリッドのメッシュにおいて複数の幅のグリッドの内、最大の幅のものより小さな幅のグリッドのことを指す。粗いグリッドとは、例えば、マルチグリッドのメッシュにおいて複数の幅のグリッドの内、最大の幅のグリッドのことを指す。粗グリッド構造は第1構造情報と読み替えられる。密グリッド構造は、第2構造情報と読み替えられる。
【0030】
次に、図3を参照して、粗グリッドと素子SPAの情報との関係を説明する。図3は、粗グリッドと素子SPAの情報との関係を示す図である。
【0031】
メッシュK4のグリッドは、基板W上の素子SPAに対して十分小さいグリッド幅を有する。メッシュK4のグリッドは、例えば、1つの素子SPAの位置に対して9つのグリッドが設定される。
【0032】
メッシュK5のグリッドは、素子SPAのサイズより大きいグリッド幅を有する。基板Wに設定されたメッシュK5の各グリッドに素子SPAの物性情報を紐づけられる際、例えば、素子SPAがグリッド内の面積占有率または体積占有率が所定の閾値以上の場合にグリッドに素子SPAが存在するとしてグリッドに物性情報が紐づけられる。図3の例において、素子SPAがグリッド内の面積占有率または体積占有率が50%以上とすると、位置F1および位置F2の素子SPAに関しては、素子SPAを含むグリッドは体積占有率が50%未満であるため、素子SPAの物性値はグリッドに紐づけられず情報が喪失してしまう。
【0033】
また、位置F3の素子SPAは、素子SPAを含むグリッドにおいて体積占有率が50%以上であるため位置F4のグリッドに素子SPAの物性情報が紐づけられる。しかしながら、素子SPAよりもグリッドの幅が大きいため、グリッド内の素子SPAが存在しない領域に関しても素子SPAが存在するものとして物性情報が紐づけられてしまう。
【0034】
このように、素子に対してグリッド幅が大きい複数のグリッドのメッシュを基板Wに設定すると、基板W上の素子の物性情報を高精度にグリッドに紐づけることができない。このようなグリッドの温度をコンピュータによって計算し基板Wの予測温度分布を算出しても、十分に素子の物性情報が反映されておらず形状再現性が低くなる。
【0035】
以上の状況を鑑みて、基板W上の素子の位置およびサイズに応じて異なるグリッド幅が設定されたマルチグリッドの構造情報を用いることで、計算時間を短縮し形状再現性の高い予測温度分布を算出したい。しかしながら、マルチグリッドの構造情報を用いてCFDの方法で予測温度分布を計算しても依然計算時間が長くなってしまうという課題がある。計算時間を短縮するために、マルチグリッドの構造情報を用いてディープラーニング等のAI技術を用いて予測温度分布を計算し計算時間を短縮したい。しかしながら、CNN等のディープラーニング技術には単一のグリッド幅で構成された構造情報しか適応(つまり、入力)することができず、マルチグリッドの構造情報をそのままCNN等のディープラーニング技術に適応することができないという課題がある。
【0036】
以下、本実施の形態では、マルチグリッドの構造情報とディープラーニング技術等のAI技術とを用いて形状再現性の高い予測温度分布を短時間で算出する方法について説明する。以下、マルチグリッドの構造情報のことをマルチグリッド構造と称する。
【0037】
次に、図4を参照して、演算装置のブロック図を説明する。図4は、演算装置のブロック図である。
【0038】
演算装置10は、対象物の予測温度分布を算出する装置である。演算装置10は、プロセッサ11、メモリ12、通信I/F13および表示デバイス14を含む。
【0039】
プロセッサ11は、例えばCentral Processing Unit、Digital Signal Processor、Graphical Processing UnitもしくはField Programmable Gate Arrayである。プロセッサ11は、演算装置10の全体的な動作を司るコントローラとして機能する。プロセッサ11は、演算装置10の各部の動作を統括するための制御処理、演算装置10の各部との間のデータの入出力処理、データの演算処理およびデータの記憶処理を行う。プロセッサ11は、メモリ12に記憶されたプログラムおよびAIモデルに従って動作する。プロセッサ11は、メモリ12に記憶された学習済みのAIモデルに従い対象物の予測温度分布を算出する。プロセッサ11は、動作時にメモリ12を使用し、プロセッサ11が生成または取得したデータをメモリ12に一時的に保存する。
【0040】
メモリ12は、例えばRandom Access Memory(以下、「RAM」と称する)とRead Only Memory(以下、「ROM」と称する)とを用いて構成され、演算装置10の動作に必要なプログラム、対象物の予測温度分布を算出するための学習済みのAIモデル、さらには、動作中に生成されたデータを一時的に保持する。RAMは、例えば、演算装置10の動作中に使用されるワークメモリである。ROMは、例えば、演算装置10を制御するためのプログラムを予め記憶して保持する。
【0041】
通信I/F13は、演算装置10と外部装置(不図示)との間で無線または有線で通信を行うインターフェース回路である。外部装置とは、例えば、対象物の予測温度分布を算出するためのAIモデルを作成する装置または対象物の情報(対象物の撮影画像または対象物に含まれる発熱体の位置および物性情報等)を有する装置等である。ここでI/Fは、インターフェースのことを表す。通信I/F13は、ネットワークを介して外部装置または外部のサーバ装置等と通信してもよい。通信I/F13による通信方式は、例えば、Wide Area Network、Local Area Network、Long Term Evolution、4G、5G等の移動体通信、電力線通信、近距離無線通信(例えばBluetooth(登録商標)通信)または携帯電話用の通信等である。
【0042】
表示デバイス14は、算出された対象物の予測温度分布の結果等が表示される。表示デバイス14は、例えば、タッチパネルディスプレイまたはディスプレイ等である。また、表示デバイス14は、ユーザ(例えば、対象物の予測温度分布を算出したい人)からの入力操作を受け付けてもよい。表示デバイス14は、ユーザから対象物の構造情報に関する入力を受け付けてもよい。例えば、表示デバイス14は、ユーザから対象物に設定するメッシュについて、グリッド幅およびグリッド幅を小さくする領域に関する情報の入力を受け付ける。
【0043】
次に、図5を参照して、マルチグリッド予測温度の5つの算出方法の概要を説明する。図5は、マルチグリッド予測温度の5つの算出方法の概要を示す図である。
【0044】
まず、入力情報としてマルチグリッド構造20が用意される。マルチグリッド構造20は、複数の粗グリッドによるメッシュの中に密グリッドの領域reを含む。マルチグリッド構造20は、対象物および対象物に含まれる発熱体の熱伝導率、発熱量および輻射率および/またはグリッド幅等の情報をマルチグリッドで離散化した情報である。マルチグリッド構造20は、二次元計算では画像、三次元計算では画像を高さ方向に積み重ねた情報として扱われる。つまり、マルチグリッド構造20の各グリッドに対象物および対象物に含まれる発熱体の熱伝導率、発熱量および輻射率および/またはグリッド幅等の情報が紐づいている。
【0045】
マルチグリッド構造20は、例えば、通信I/F13が外部装置(不図示)から受信した対象物の情報およびユーザの表示デバイス14への入力操作によってプロセッサ11によって作成される。例えば、対象物を撮影した撮影画像に対してユーザが密グリッドを設定する領域、密グリッドの幅および粗グリッドの幅を入力する。プロセッサ11は、表示デバイス14から受信したユーザの入力情報および撮影画像に基づきマルチグリッド構造20を作成する。なお、マルチグリッド構造20の作成方法は上述した方法に限られない。また、演算装置10は、外部装置から予め作成されたマルチグリッド構造20を取得してもよい。
【0046】
上述したように、CNNを用いて学習されたネットワーク(以下、「CNNネットワーク」と称する)には固定長のグリッド情報による構造情報しか入力できないため、マルチグリッド構造20をそのままCNNネットワークに入力できない。対象物の予測温度分布をマルチグリッド構造20を利用しCNNネットワークを用いて算出するために、プロセッサ11は、マルチグリッド構造20を単一の幅の複数のグリッドで構成されるメッシュが設定される構造情報に分割する。プロセッサ11は、マルチグリッド構造20を粗グリッド構造30および密グリッド構造40に分割する。粗グリッド構造30は、マルチグリッド構造20の領域re以外の領域のグリッド(つまり、グリッド幅が領域reのグリッド幅より大きい粗グリッド)によって構成される構造情報である。密グリッド構造40は、マルチグリッド構造20から領域reの構造情報を抽出した構造情報である。なお、図5に示すマルチグリッド構造20は、密グリッドの領域が1つであるが、1つに限られず1つ以上の複数であってもよい。また、マルチグリッド構造20が複数の密グリッドの領域を有する場合、それぞれの密グリッドのグリッド幅は異なってもよい。つまり、マルチグリッド構造20に複数の密グリッドの領域が設定される場合、発熱体の大きさに応じてそれぞれの密グリッドのグリッド幅を変更してもよい。
【0047】
プロセッサ11は、粗グリッド構造30を学習済みのCNNネットワークに入力し粗グリッド構造の温度分布を予測する。この粗グリッド構造30を学習済みのCNNネットワークに入力し温度分布を予測するネットワークを、粗ネットワークと称する。粗ネットワークで用いる学習済みのCNNネットワークを粗ネットAIと称する。粗ネットAIは、第1AIモデルと読み替えられる。粗グリッド構造30を粗ネットAIに入力して算出される予測温度分布を粗グリッド予測温度と称する。粗グリッド予測温度31の中で、マルチグリッド構造20の領域reに対応する予測温度分布を粗グリッド抽出温度(例えば、粗グリッド抽出温度32)と称する。粗グリッド予測温度は、第1予測温度と読み替えられる。
【0048】
プロセッサ11は、学習済みのCNNネットワークを用いて密グリッド構造の温度分布を予測する。この密グリッド構造40の温度分布を予測するネットワークを、密ネットワークと称する。密ネットワークで用いる学習済みのCNNネットワークを密ネットAIと称する。密ネットワークで算出される予測温度分布を密グリッド予測温度と称する。密グリッド予測温度は、第2予測温度と読み替えられる。密ネットワークは、粗ネットワークから粗グリッド構造30または粗グリッド予測温度31の全体または一部の少なくとも1つの情報を受け取る。密ネットワークは、密グリッド構造40、粗グリッド構造30または粗グリッド予測温度31の全体または一部の少なくとも1つの情報を密ネットAIに入力し密グリッド予測温度41を算出する。また、密ネットワークは、粗グリッド抽出温度32を学習済みのAIモデルに入力し密グリッド予測温度41を算出してもよい。当該学習済みのAIモデルをネットAIと称する。密ネットワークで用いられる密ネットAIおよびネットAIは、第2AIモデルと読み替えられる。
【0049】
プロセッサ11は、粗グリッド予測温度31と密グリッド予測温度41とを用いてマルチグリッド構造の予測温度分布を算出する。マルチグリッド構造の予測温度分布をマルチグリッド予測温度と称する。
【0050】
マルチグリッド構造20からマルチグリッド予測温度21を算出するための粗ネットワークと密ネットワークとを合わせてネットワークと称する。マルチグリッド予測温度21は、第3予測温度と読み替えられる。
【0051】
なお、マルチグリッド構造20に複数の密グリッド領域が含まれている場合、ネットワークは、それぞれの密グリッド領域に対して密グリッド予測温度を算出する密ネットワークを含んでもよい。つまり、ネットワークは、粗ネットワークと複数の密ネットワークを含んでもよい。ネットワークが複数の密ネットワークを含む場合、それぞれの密ネットワークが粗ネットワークから粗グリッド構造30または粗グリッド予測温度31の全体または一部の少なくとも1つの情報を受け取り密グリッド予測温度41を算出する。
【0052】
密グリッド構造40と粗グリッド構造30とを密ネットAIに入力し算出された密グリッド予測温度41を用いてマルチグリッド予測温度21を算出するネットワークをネットワーク1と称する。
【0053】
密グリッド構造40と粗グリッド予測温度31とを密ネットAIに入力し算出された密グリッド予測温度41を用いてマルチグリッド予測温度21を算出するネットワークをネットワーク2と称する。
【0054】
密グリッド構造40と粗グリッド構造30と粗グリッド予測温度31とを密ネットAIに入力し算出された密グリッド予測温度41を用いてマルチグリッド予測温度21を算出するネットワークをネットワーク3と称する。
【0055】
密グリッド構造40と粗グリッド抽出温度32とを密ネットAIに入力し算出された密グリッド予測温度41を用いてマルチグリッド予測温度21を算出するネットワークをネットワーク4と称する。
【0056】
粗グリッド抽出温度32をネットAIに入力し算出された密グリッド予測温度41を用いてマルチグリッド予測温度21を算出するネットワークをネットワーク5と称する。
【0057】
このように、演算装置10は、マルチグリッド構造20を粗グリッド構造30と密グリッド構造40とに分割し、粗ネットワークと密ネットワークとを用いることで密グリッド予測温度41を算出することができる。以下、粗ネットワークに入力する構造情報、密ネットワークに入力する構造情報およびネットワーク1~5に関して詳しく説明する。
【0058】
次に、図6を参照して、粗グリッド構造の一例を説明する。図6は、粗グリット構造の一例を示す図である。
【0059】
粗グリッド構造30は、一例として発熱体である3つの素子PAと3つの素子SPAとを含む対象物(例えば、基板)の構造情報である。なお、発熱体の数および位置は一例であり限定されない。粗グリッド構造30は、「(1)発熱体の発熱量」、「(2)面内熱伝導率」、「(3)面外熱伝導率」、「(4)輻射率」、「(5)グリッド幅X」、「(6)グリッド幅Y」および「(7)グリッド幅Z」の7つのレイヤ構造のデータである。つまり、粗グリッド構造30は、1つのグリッドに対して(1)~(7)の情報が紐づいているデータである。グリッド幅X,Y,Zは、直方体形状のグリッドの3辺の長さの情報である。面内熱伝導率は、グリッド内における熱伝導率である。面外熱伝導率は、グリッド間の熱伝導率である。なお、粗グリッド構造30は、(1)~(7)の情報に限られないし、必ずしも(1)~(7)の情報を全て含まなくてもよい。また、粗グリッド構造は、グリッド幅よりもサイズが小さい素子SPAを含む領域reの情報を有する。
【0060】
次に、図7を参照して、密グリッド構造と追加データとについて説明する。図7は、密グリッド構造と追加データとを示す図である。
【0061】
密グリッド構造40は、図6で説明した粗グリッド構造30の素子SPAを含む領域reを抽出し密グリッドのメッシュが設定された構造情報である。密グリッド構造40は、「(1)発熱体の発熱量」、「(2)面内熱伝導率」、「(3)面外熱伝導率」、「(4)輻射率」、「(5)グリッド幅X」、「(6)グリッド幅Y」、「(7)グリッド幅Z」および「(8)相対位置」の8つのレイヤ構造のデータである。つまり、密グリッド構造40は、1つのグリッドに対して(1)~(8)の情報が紐づいているデータである。相対位置は、マルチグリッド構造20(図5参照)の中の密グリッド構造40に対応する領域reの位置情報である。なお、密グリッド構造40は、(1)~(8)の情報に限られないし、必ずしも(1)~(8)の情報を全て含まなくてもよい。
【0062】
追加データは、密ネットワーク(図5参照)が粗ネットワーク(図5参照)から受け取る情報である。追加データは、「(9)粗グリッド構造30」、「(10)粗グリッド予測温度31」または「(11)粗グリッド抽出温度32」である。
【0063】
次に、図8を参照して、各ネットワークの入力データについて説明する。図8は、各ネットワークの入力データを示す図である。
【0064】
ネットワーク1における密ネットワークへの入力データは、密グリッド構造40および追加データとして(9)粗グリッド構造30である。
【0065】
ネットワーク2における密ネットワークへの入力データは、密グリッド構造40および追加データとして(10)粗グリッド予測温度31である。
【0066】
ネットワーク3における密ネットワークへの入力データは、密グリッド構造40、追加データとして(9)粗グリッド構造および(10)粗グリッド予測温度31である。
【0067】
ネットワーク4における密ネットワークへの入力データは、密グリッド構造40および追加データとして(11)粗グリッド抽出温度32である。
【0068】
ネットワーク5における密ネットワークへの入力データは追加データとして(11)粗グリッド抽出温度32である。
【0069】
<ネットワーク1>
ネットワーク1におけるマルチグリッド予測温度21の算出方法について説明する。
【0070】
図9を参照して、ネットワーク1におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の一例を説明する。図9は、ネットワーク1におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理のフローチャートである。図9のフローチャートの各処理はプロセッサ11によって実行される。
【0071】
プロセッサ11は、3次元構造データとしてレイヤ構造となっているデータを作成する(ステップSt100)。
【0072】
プロセッサ11は、ステップSt100の処理で作成した3次元構造データに計算条件として対象物に含まれる発熱体の発熱量、発熱体の物性値(つまり、面内熱伝導率および面外熱伝導率)、輻射率および境界条件等を設定する(ステップSt101)。プロセッサ11は、ユーザから入力された発熱体の発熱量、熱伝導率等の物性値、輻射率、グリッド幅および密グリッドを設定する領域の情報に基づきステップSt101の処理を実行する。なお、プロセッサ11は、対象物の計算条件が保存されている外部装置から計算条件を取得し、取得した計算条件を用いてステップSt101の処理を実行してもよい。
【0073】
プロセッサ11は、ステップSt101の処理で計算条件を設定した3次元構造データをマルチグリッドのメッシュに分割しマルチグリッド構造20を作成する(ステップSt102)。
【0074】
プロセッサ11は、ステップSt102の処理で作成したマルチグリッド構造20から粗グリッド構造30を作成し粗ネットワークの入力データを生成する(ステップSt103)。プロセッサ11は、例えば、ステップSt101の処理で計算条件が設定された3次元構造データを、ステップSt102の処理で作成したマルチグリッド構造20の中の粗グリッドのサイズの情報に基づき、全体を粗グリッドで分割し粗グリッド構造30を作成する。
【0075】
プロセッサ11は、ステップSt103の処理で生成した粗グリッド構造30を学習済みの粗ネットAIに入力し粗グリッド予測温度31を算出する(ステップSt104)。
【0076】
プロセッサ11は、ステップSt102の処理で作成したマルチグリッド構造20から密グリッド構造40を作成し密ネットワークの入力データを生成する(ステップSt105)。プロセッサ11は、例えば、ステップSt102の処理で作成したマルチグリッド構造20の中から密グリッドの領域を抽出し密グリッド構造40を作成する。
【0077】
プロセッサ11は、ステップSt103の処理で作成した粗グリッド構造30とステップSt105の処理で作成した密グリッド構造40とを学習済みの密ネットAIに入力し密グリッド予測温度41を算出する(ステップSt106)。
【0078】
プロセッサ11は、ステップSt104の処理で算出した粗グリッド予測温度31とステップSt105の処理で算出した密グリッド予測温度41とを統合して対象物全体の予測温度分布であるマルチグリッド予測温度21を算出する(ステップSt107)。
【0079】
次に、図10を参照して、ネットワーク1におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理を模式図を用いて説明する。図10は、ネットワーク1におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の模式図である。図10に示す「1」および「2」は、図9に示す「1」および「2」に対応する。
【0080】
プロセッサ11は、マルチグリッドに分割された3次元構造データから粗ネットワークへの入力データとして粗グリッド構造30を作成する。粗グリッド構造30の領域reは、素子PAよりもサイズの小さい素子SPAを含む。粗グリッド構造30のグリッド幅は、素子SPAのサイズよりも大きい。
【0081】
プロセッサ11は、粗ネットAIに粗グリッド予測温度31を入力して粗グリッド予測温度31を算出する。領域reの予測温度分布は、領域reに含まれる素子SPAがグリッド幅よりも小さいため図3で説明した通り形状再現性が低い予測温度分布となってしまう。
【0082】
プロセッサ11は、密ネットワークへの入力データとしてマルチグリッドに分割された3次元構造データから密グリッド構造40を作成する。密グリッド構造40は、素子SPAを含む領域reの構造情報である。なお、粗グリッド構造30はネットワーク1からネットワーク5まで同様であり、ネットワーク1からネットワーク5において粗グリッド予測温度31は同様に算出される。図12,14,16,18において粗グリッド予測温度31を算出する方法の説明を省略する。
【0083】
プロセッサ11は、粗ネットワークから密ネットワークへの入力データとして粗グリッド構造30を受け取る。プロセッサ11は、密グリッド構造40と粗グリッド構造30とを密ネットAIに入力し密グリッド予測温度41を算出する。密ネットAIへの入力データは、「(1)発熱量」、「(2)面内熱伝導率」、「(3)面外熱伝導率」、「(4)輻射率」、「(5)グリッド幅X」、「(6)グリッド幅Y」、「(7)グリッド幅Z」、「(8)相対位置」および「(9)粗グリッド構造」である。なお、プロセッサ11は、粗グリッド構造30をConvolution等の処理を行い密グリッド構造40と同じサイズにする。
【0084】
プロセッサ11は、粗グリッド予測温度31の領域reの部分の予測温度分布を密グリッド予測温度41に変更することで粗グリッド予測温度31と密グリッド予測温度41とを統合しマルチグリッド予測温度21を算出する。
【0085】
密グリッド予測温度41は、素子SPAに対して十分小さい幅のグリッドが設定されている密グリッド構造40を用いて算出されるため形状再現性が高い予測温度分布である。また、密グリッド予測温度41は、粗ネットワークから粗グリッド構造30を受け取り、粗グリッド構造30も含めて算出されているため領域reの周りの構造情報も含んだ予測温度分布となっている。これにより、プロセッサ11は、形状再現性を高く密グリッド予測温度41を算出できる。
【0086】
演算装置10は、粗グリッド予測温度31において領域reの形状再現性の低い予測温度分布を、形状再現性の高い密グリッド予測温度41に置き換えることにより、対象物全体で形状再現性が高い予測温度分布であるマルチグリッド予測温度21を算出することができる。
【0087】
また、演算装置10は、CNNネットワークを用いて対象物の予測温度分布を算出するため、従来のCFDによる温度予測に要する時間よりも計算時間を短縮することができる。これにより、演算装置10は、マルチグリッド構造を用いた対象物の予測温度分布を短い計算時間で形状再現性の高く算出することができる。
【0088】
<ネットワーク2>
ネットワーク2におけるマルチグリッド予測温度21の算出方法について説明する。なお、ネットワーク1と同様の内容に関しては同一符合を付記し適宜説明を省略する。
【0089】
図11を参照して、ネットワーク2におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の一例を説明する。図11は、ネットワーク2におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理のフローチャートである。図11のフローチャートの各処理はプロセッサ11によって実行される。
【0090】
プロセッサ11は、ステップSt104の処理で算出した粗グリッド予測温度31とステップSt105の処理で作成した密グリッド構造40とを学習済みの密ネットAIに入力し密グリッド予測温度41を算出する(ステップSt201)。
【0091】
プロセッサ11は、ステップSt104の処理で算出した粗グリッド予測温度31とステップSt201の処理で算出した密グリッド予測温度41とを統合して対象物全体の予測温度分布であるマルチグリッド予測温度21を算出する(ステップSt202)。
【0092】
次に、図12を参照して、ネットワーク2におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理を模式図を用いて説明する。図12は、ネットワーク2におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の模式図である。図12に示す「1」および「2」は、図11に示す「1」および「2」に対応する。
【0093】
プロセッサ11は、粗ネットワークから密ネットワークへの入力データとして粗グリッド予測温度31を受け取る。プロセッサ11は、密グリッド構造40と粗グリッド予測温度31とを密ネットAIに入力し密グリッド予測温度41を算出する。密ネットAIへの入力データは、「(1)発熱量」、「(2)面内熱伝導率」、「(3)面外熱伝導率」、「(4)輻射率」、「(5)グリッド幅X」、「(6)グリッド幅Y」、「(7)グリッド幅Z」、「(8)相対位置」および「(10)粗グリッド予測温度」である。なお、プロセッサ11は、粗グリッド予測温度31をConvolution等の処理を行い密グリッド構造40と同じサイズにする。
【0094】
プロセッサ11は、粗グリッド予測温度31の領域reの部分の予測温度分布を密グリッド予測温度41に変更することで粗グリッド予測温度31と密グリッド予測温度41とを統合しマルチグリッド予測温度21を算出する。
【0095】
密グリッド予測温度41は、素子SPAに対して十分小さい幅のグリッドが設定されている密グリッド構造40を用いて算出されるため形状再現性が高い予測温度分布である。また、密グリッド予測温度41は、粗グリッド予測温度31も含めて算出されているため、粗グリッド構造30で算出された領域reの予測温度分布の情報を含んだ予測温度分布となっている。これにより、プロセッサ11は、形状再現性を高く密グリッド予測温度41を算出できる。
【0096】
<ネットワーク3>
ネットワーク3におけるマルチグリッド予測温度21の算出方法について説明する。なお、ネットワーク1と同様の内容に関しては同一符合を付記し適宜説明を省略する。
【0097】
図13を参照して、ネットワーク3におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の一例を説明する。図13は、ネットワーク3におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理のフローチャートである。図13のフローチャートの各処理はプロセッサ11によって実行される。
【0098】
プロセッサ11は、ステップSt103の処理で作成した粗グリッド構造30とステップSt104の処理で算出した粗グリッド予測温度31とステップSt105の処理で作成した密グリッド構造40とを学習済みの密ネットAIに入力して密グリッド予測温度41を算出する(ステップSt300)。
【0099】
プロセッサ11は、ステップSt104の処理で算出した粗グリッド予測温度31とステップSt300の処理で算出した密グリッド予測温度41とを統合して対象物全体の予測温度分布であるマルチグリッド予測温度21を算出する(ステップSt301)。
【0100】
次に、図14を参照して、ネットワーク3におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理を模式図を用いて説明する。図14は、ネットワーク3におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の模式図である。図14に示す「1」および「2」は、図13に示す「1」および「2」に対応する。
【0101】
プロセッサ11は、粗ネットワークから密ネットワークへの入力データとして粗グリッド構造30と粗グリッド予測温度31とを受け取る。プロセッサ11は、密グリッド構造40と粗グリッド構造30と粗グリッド予測温度31とを密ネットAIに入力し密グリッド予測温度41を算出する。密ネットAIへの入力データは、「(1)発熱量」、「(2)面内熱伝導率」、「(3)面外熱伝導率」、「(4)輻射率」、「(5)グリッド幅X」、「(6)グリッド幅Y」、「(7)グリッド幅Z」、「(8)相対位置」、「(9)粗グリッド構造」および「(10)粗グリッド予測温度」である。なお、プロセッサ11は、粗グリッド構造30および粗グリッド予測温度31をConvolution等の処理を行い密グリッド構造40と同じサイズにする。
【0102】
プロセッサ11は、粗グリッド予測温度31の領域reの部分の予測温度分布を密グリッド予測温度41に変更することで粗グリッド予測温度31と密グリッド予測温度41とを統合しマルチグリッド予測温度21を算出する。
【0103】
密グリッド予測温度41は、素子SPAに対して十分小さい幅のグリッドが設定されている密グリッド構造40を用いて算出されるため形状再現性が高い予測温度分布である。また、密グリッド予測温度41は、粗ネットワークから粗グリッド構造30および粗グリッド予測温度31を受け取り、粗グリッド予測温度31および粗グリッド構造30も含めて算出されているため領域reの周りの構造情報および予測温度分布も含んだ予測温度分布となっている。これにより、プロセッサ11は、形状再現性を高く密グリッド予測温度41を算出できる。
【0104】
<ネットワーク4>
ネットワーク4におけるマルチグリッド予測温度21の算出方法について説明する。なお、ネットワーク1と同様の内容に関しては同一符合を付記し適宜説明を省略する。
【0105】
図15を参照して、ネットワーク4におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の一例を説明する。図15は、ネットワーク4におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理のフローチャートである。図15のフローチャートの各処理はプロセッサ11によって実行される。
【0106】
プロセッサ11は、ステップSt104の処理で算出した粗グリッド予測温度31から密グリッドの領域に対応する予測温度分布を粗グリッド抽出温度32として抽出する(ステップSt400)。図6で説明した通り、粗グリッド構造30は密グリッドの領域re(図6参照)の情報を有するため、粗グリッド構造30から算出された粗グリッド予測温度31には密グリッドの領域reの位置情報が紐づいている。プロセッサ11は、粗グリッド予測温度31に紐づいている密グリッドの領域の位置情報を基に密グリッドの領域に対応する予測温度分布を抽出する。
【0107】
プロセッサ11は、ステップSt105の処理で作成した密グリッド構造40とステップSt400の処理で抽出した粗グリッド抽出温度32と密ネットAIに入力して密グリッド予測温度41を算出する(ステップSt401)。
【0108】
プロセッサ11は、ステップSt104の処理で算出した粗グリッド予測温度31とステップSt401の処理で算出した密グリッド予測温度41とを統合して対象物の予測温度分布であるマルチグリッド予測温度21を算出する(ステップSt402)。
【0109】
次に、図16を参照して、ネットワーク4におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理を模式図を用いて説明する。図16は、ネットワーク4におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の模式図である。図16に示す「1」および「2」は、図15に示す「1」および「2」に対応する。
【0110】
プロセッサ11は、粗グリッド予測温度31から領域reの予測温度分布を粗グリッド抽出温度32として抽出する。
【0111】
プロセッサ11は、粗ネットワークから密ネットワークへの入力データとして粗グリッド抽出温度32を受け取る。プロセッサ11は、密グリッド構造40と粗グリッド抽出温度32とを密ネットAIに入力し密グリッド予測温度41を算出する。密ネットAIへの入力データは、「(1)発熱量」、「(2)面内熱伝導率」、「(3)面外熱伝導率」、「(4)輻射率」、「(5)グリッド幅X」、「(6)グリッド幅Y」、「(7)グリッド幅Z」、「(8)相対位置」および「(11)粗グリッド抽出温度」である。
【0112】
プロセッサ11は、粗グリッド予測温度31の領域reの部分の予測温度分布を密グリッド予測温度41に変更することで粗グリッド予測温度31と密グリッド予測温度41とを統合しマルチグリッド予測温度21を算出する。
【0113】
密グリッド予測温度41は、素子SPAに対して十分小さい幅のグリッドが設定されている密グリッド構造40を用いて算出されるため形状再現性が高い予測温度分布である。また、密グリッド予測温度41は、粗ネットワークから粗グリッド抽出温度32を受け取り、粗グリッド抽出温度32も含めて算出されているため粗グリッド予測温度31の領域reの予測温度分布(つまり、粗グリッド抽出温度32)も含んだ予測温度分布となっている。これにより、プロセッサ11は、形状再現性を高く密グリッド予測温度41を算出できる。
【0114】
<ネットワーク5>
ネットワーク5におけるマルチグリッド予測温度21の算出方法について説明する。なお、ネットワーク1と同様の内容に関しては同一符合を付記し適宜説明を省略する。
【0115】
図17を参照して、ネットワーク5におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の一例を説明する。図17は、ネットワーク4におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理のフローチャートである。図17のフローチャートの各処理はプロセッサ11によって実行される。
【0116】
プロセッサ11は、ステップSt104の処理で算出した粗グリッド予測温度31から密グリッドの領域に対応する予測温度分布を粗グリッド抽出温度32として抽出する(ステップSt500)。図6で説明した通り、粗グリッド構造30は密グリッドの領域re(図6参照)の情報を有するため、粗グリッド構造30から算出された粗グリッド予測温度31には密グリッドの領域reの位置情報が紐づいている。プロセッサ11は、粗グリッド予測温度31に紐づいている密グリッドの領域の位置情報を基に密グリッドの領域に対応する予測温度分布を抽出する。
【0117】
プロセッサ11は、ステップSt500の処理で抽出した粗グリッド抽出温度32をネットAIに入力して密グリッド予測温度41を算出する(ステップSt501)。ネットAIは、Very-Deep Super Resolutionニューラルネットワーク等の公知の超解像技術を熱伝導率等の物性情報で学習させたAIモデルである。
【0118】
プロセッサ11は、ステップSt104の処理で算出した粗グリッド予測温度31とステップSt501の処理で算出した密グリッド予測温度41とを統合して対象物の予測温度分布であるマルチグリッド予測温度21を算出する(ステップSt502)。
【0119】
次に、図18を参照して、ネットワーク5におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理を模式図を用いて説明する。図18は、ネットワーク5におけるマルチグリッド予測温度を算出する処理の模式図である。図18に示す「1」および「2」は、図17に示す「1」および「2」に対応する。
【0120】
プロセッサ11は、粗グリッド予測温度31から領域reの予測温度分布を粗グリッド抽出温度32として抽出する。
【0121】
プロセッサ11は、粗ネットワークから密ネットワークへの入力データとして粗グリッド抽出温度32を受け取る。プロセッサ11は、粗グリッド抽出温度32をネットAIに入力し密グリッド予測温度41を算出する。ネットAIへの入力データは、「(11)粗グリッド抽出温度」である。
【0122】
プロセッサ11は、粗グリッド予測温度31の領域reの部分の予測温度分布を密グリッド予測温度41に変更することで粗グリッド予測温度31と密グリッド予測温度41とを統合しマルチグリッド予測温度21を算出する。
【0123】
プロセッサ11は、超解像技術等を利用したAIモデルを用いて粗グリッド抽出温度32から密グリッド予測温度41を算出することで形状再現性の高い予測温度分布を算出することができる。また、プロセッサ11は、密グリッド構造40を作成する処理を省略し、ネットAIに入力する情報が粗グリッド抽出温度32のみであり入力するデータ量を削減することができる。これにより、プロセッサ11は、処理時間を短縮しより高速に密グリッド予測温度41およびマルチグリッド予測温度21を算出することができる。
【0124】
また、ネットワーク2,3,4,5において、密ネットAIへの入力データに粗グリッド予測温度31を用いる場合、密グリッドの領域(例えば、図5の領域re)に対応する粗グリッド予測温度31の情報が不正確であると密グリッド予測温度41の精度が低くなる場合がある。例えば、粗グリッド構造30のグリッドのサイズが、発熱体のサイズよりも大きい場合、発熱体が存在するのに消滅してしまったり発熱体がグリッド幅に合わせて拡大されてしまったりする。このような場合、密グリッドの領域に対応する粗グリッド予測温度31の情報が不正確となる。
【0125】
このような状況を鑑みて、プロセッサ11は、粗グリッド構造30の密グリッドの領域内の発熱体および回路基材を除く構造体(例えば放熱板などの発熱しないもの)の情報を削除した粗グリッド構造30を粗ネットAIに入力し粗グリッド予測温度31を算出してもよい。例えば、図12の例を用いて説明すると、プロセッサ11は、素子SPAの情報を粗グリッド構造30から削除した構造情報を粗ネットAIに入力し粗グリッド予測温度31を算出する。これにより、プロセッサ11は、密グリッドの領域に対応する粗グリッド予測温度31の情報が不正確であるために密グリッド予測温度41の精度が悪くなることを防ぐことができる。
【0126】
プロセッサ11は、例えば、発熱体および回路基材を除く構造体のサイズが粗グリッド構造30のグリッドのサイズよりも小さい場合に粗グリッド構造30から当該発熱体の情報を削除する。また、プロセッサ11は、発熱体のサイズおよび回路基材を除く構造体が粗グリッド構造30のグリッドのサイズの予め定められた割合以下のサイズである(例えば、粗グリッド構造30のグリッドのサイズの70%以下等)場合に粗グリッド構造30から当該発熱体および回路基材を除く構造体の情報を削除するとしてもよい。
【0127】
次に、ネットワーク1,2,3,4,5による予測温度分布の精度について説明する。以下、ネットワーク1,2,3,4,5による予測温度分布の精度の良し悪しは、従来のCFDによって算出された予測温度分布との差分によって評価される。例えば、当該差分の対象物全体での平均値を精度の評価に用いる。ネットワーク1,2,3,4,5による予測温度分布とCFDによって算出された温度分布との差分が小さい場合、精度は良いと評価され、差分が大きい場合、精度は悪いと評価される。
【0128】
まず、密ネットワークが粗ネットワークから何も入力情報を受け取らずに密グリッド構造40のみから密グリッド予測温度41を算出するネットワークをネットワーク6とする。ネットワーク1,2,3,4,5によるマルチグリッド予測温度21の精度は、いずれもネットワーク6において算出されたマルチグリッド予測温度21の精度よりも良い結果となった。
【0129】
ネットワーク1,2,3,4,5においてそれぞれ算出されたマルチグリッド予測温度21において、精度の良さはネットワーク4、ネットワーク5、ネットワーク2、ネットワーク3、ネットワーク1の順番となった。つまり、ネットワーク1,2,3,4,5によるマルチグリッド予測温度21の中で、ネットワーク4において算出されたマルチグリッド予測温度21の精度が最も良い結果となった。
【0130】
ネットワーク1とネットワーク2のマルチグリッド予測温度21の精度を比較すると、ネットワーク2のマルチグリッド予測温度21の精度の方が良くなった。つまり、密グリッド予測温度41の算出に粗グリッド構造30を使うよりも粗グリッド予測温度31を密ネットAIへの入力データとして使った方が高精度な結果になる。
【0131】
ネットワーク2とネットワーク3とのマルチグリッド予測温度21の精度を比較すると、ネットワーク2のマルチグリッド予測温度21の精度の方が良くなった。つまり、密グリッド予測温度41の算出に粗グリッド予測温度31だけでなく粗グリッド構造30の情報も密ネットAIへの入力データとして加えると精度が低くなる。
【0132】
ネットワーク2とネットワーク4とのマルチグリッド予測温度21の精度を比較すると、ネットワーク4のマルチグリッド予測温度21の精度の方が良くなった。つまり、密グリッド予測温度41の算出に粗グリッド予測温度31の全体を使うよりも、密グリッドに対応する一部である粗グリッド抽出温度32を密ネットAIへの入力データとして使った方が高精度な結果になる。
【0133】
ネットワーク5は、密グリッド予測温度41の算出に粗グリッド抽出温度32しか用いないがネットワーク1~5の中で2番目に精度が高い結果となった。これにより、粗グリッド抽出温度32をネットAIに入力し密グリッド予測温度41を算出する場合でも、十分に高精度な予測温度分布が得られる。
【0134】
また、本実施の形態において、対象物の温度分布の予測について説明したが、本開示の内容は温度分布に限られず電磁波または音等の分布についても適用できる。構造情報は、熱に関する物性情報の替わりに電磁波または音の伝搬に関する物性情報等を有する。
【0135】
<再帰的な演算方法>
次に、図19を参照して対象物の温度分布の再帰的な演算方法について説明する。図19は、対象物の温度分布の再帰的な演算方法を説明する図である。
【0136】
マルチグリッド構造20は、密グリッドの領域である領域reAの中に、領域reAのグリッド幅より小さい幅のグリッドによって構成される領域reBが設定される場合がある。例えば、密グリッドの領域の中に複数のサイズの発熱体が存在する場合、発熱体のサイズに応じて密グリッドの中にさらに小さいグリッド幅の密グリッドを設定する場合がある。なお、領域reBの中にさらにグリッド幅の小さい領域が設定されてもよく、密グリッドの領域の中に設定される異なるグリッド幅の領域の数は2個に限定されず何個でもよい。
【0137】
このように、密グリッドの領域の中に異なるグリッド幅の領域を複数設定される場合、再帰的な処理を用いて密グリッド予測温度を算出する。
【0138】
まず、プロセッサ11は、マルチグリッド構造20を、粗グリッド構造30、密グリッド構造40および密グリッド構造50に分割する。粗グリッド構造30は、マルチグリッド構造20の領域reA以外の領域のグリッド(つまり、グリッド幅が領域reAのグリッド幅より大きい粗グリッド)によって構成される構造情報である。密グリッド構造40は、マルチグリッド構造20から領域reAの構造情報を抽出し、領域reB以外の領域のグリッドによって構成される構造情報である。密グリッド構造50は、マルチグリッド構造20から領域reBの構造情報を抽出した構造情報である。
【0139】
プロセッサ11は、粗ネットワークで粗グリッド予測温度を算出する。
【0140】
プロセッサ11は、粗ネットワークの情報を用いて密ネットワーク1で密グリッド構造40の密グリッド予測温度を算出する。例えば、ネットワーク1の場合、プロセッサ11は、粗ネットワークの情報として粗グリッド構造30を用いて、粗グリッド構造30と密グリッド構造40とを密ネットAIに入力し密グリッド予測温度を算出する。ネットワーク2の場合、プロセッサ11は、粗ネットワークの情報として粗グリッド予測温度を用いて、粗グリッド予測温度と密グリッド構造40とを密ネットAIに入力し密グリッド予測温度を算出する。ネットワーク3の場合、プロセッサ11は、粗ネットワークの情報として粗グリッド構造30と粗グリッド予測温度とを用いて、粗グリッド構造30と粗グリッド予測温度と密グリッド構造40とを密ネットAIに入力し密グリッド予測温度を算出する。ネットワーク4の場合、プロセッサ11は、粗ネットワークの情報として、粗グリッド抽出温度を用いて、粗グリッド抽出温度と密グリッド構造40とを密ネットAIに入力して密グリッド予測温度を算出する。ネットワーク5の場合、プロセッサ11は粗ネットワークの情報として粗グリッド抽出温度を用いて、粗グリッド抽出温度をネットAIに入力して密グリッド予測温度を算出する。
【0141】
次に、プロセッサ11は、密ネットワーク1を上位ネットワークとし、上位ネットワークの情報を用いて密グリッド構造50の密グリッド予測温度を算出する。ネットワーク1の場合、プロセッサ11は上位ネットワークの情報として密グリッド構造40を用いて、密グリッド構造40と密グリッド構造50とを密ネットAIに入力し密グリッド予測温度を算出する。ネットワーク2の場合、プロセッサ11は、上位ネットワークの情報として密グリッド予測温度を用いて、密グリッド予測温度と密グリッド構造50とを密ネットAIに入力し密グリッド予測温度を算出する。ネットワーク3の場合、プロセッサ11は、上位ネットワークの情報として密グリッド構造40と密グリッド予測温度とを用いて、密グリッド構造40と密グリッド予測温度と密グリッド構造50とを密ネットAIに入力して密グリッド予測温度を算出する。ネットワーク4の場合、プロセッサ11は、上位ネットワークの情報として密グリッド抽出温度を用いて、密グリッド抽出温度と密グリッド構造50とを密ネットAIに入力して密グリッド予測温度を算出する。密グリッド抽出温度とは、上位ネットワークで算出された密グリッド予測温度の中から領域reBの予測温度分布を抽出したものである。ネットワーク5の場合、プロセッサ11は、上位ネットワークの情報として密グリッド抽出温度を用いて、密グリッド抽出温度をネットAIに入力して密グリッド予測温度を算出する。
【0142】
このように、密グリッドAの領域にさらに小さいグリッド幅のグリッドで構成される密グリッドBが設定される場合、密グリッドBの密グリッド予測温度は、密グリッドAの密グリッド予測温度を算出する密ネットワークを上位ネットワークとし算出される。また、密グリッドBの中にさらに小さいグリッド幅のグリッドで構成される密グリッドCが設定される場合、密グリッドCの密グリッド予測温度は、1つグリッドのサイズが大きい密グリッドBを上位ネットワークとして算出される。このように、1つの密グリッドの中に何個もより小さい密グリッドが設定される場合、1つサイズの大きい密グリッドの密グリッド予測温度を算出する密ネットワークのことを上位ネットワークと称する。
【0143】
プロセッサ11は、再帰的な処理によって算出されたそれぞれの密グリッド予測温度と粗グリッド予測温度とを統合してマルチグリッド予測温度を算出する。
【0144】
次に、図20を参照して、対象物の温度分布の再帰的な演算処理の一例を説明する。図20は、対象物の温度分布の再帰的な演算処理の一例のフローチャートである。図9と同様の処理に関しては同一符合を付記し説明を省略する。
【0145】
プロセッサ11は、ステップSt102の処理でマルチグリッドに分割した3次元構造データから粗グリッド構造を作成する。プロセッサ11は、ステップSt102の処理でマルチグリッドに分割した3次元構造データから密グリッド構造を作成する。密グリッドの領域の中にさらに小さいグリッド幅の密グリッドが設定されている場合、プロセッサ11は、グリッドのサイズに応じてそれぞれ密グリッド構造を作成する(ステップSt600)。
【0146】
プロセッサ11は、粗ネットワークの情報を用いて密ネットワークで密グリッド構造の温度を予測し密グリッド予測温度を算出する(ステップSt601)。なお、プロセッサ11は、ネットワーク1~4で密グリッド予測温度を算出する場合、ステップSt600の処理で作成した密グリッド構造と粗ネットワークの情報とを用いて密ネットワークで密グリッド構造の温度を予測し密グリッド予測温度を算出する。
【0147】
プロセッサ11は、再帰的な処理を開始する(ステップSt602)。
【0148】
プロセッサ11は、上位ネットワークの情報を用いて密ネットワークで温度を予測し密グリッド予測温度を算出する(ステップSt603)。
【0149】
プロセッサ11は、ステップSt600で作成した全ての密グリッド構造に対応する密グリッド予測温度を算出した場合、再帰的な処理を終了する(ステップSt604)。
【0150】
プロセッサ11は、粗ネットワークおよび全ての密ネットワークの予測温度分布を統合して対象物全体の予測温度分布を算出する(ステップSt605)。
【0151】
以上により、本実施の形態に係る演算方法は、1つの密グリッドの中に何個もより小さい密グリッドが設定される場合、再帰的な処理を行うことで高精度に密グリッド予測温度を算出することができる。これにより、演算方法は、1つの密グリッドの中に何個もより小さい密グリッドが設定される場合においても、対象物全体の予測温度分布を高精度に算出することができる。
【0152】
以上により、演算装置10は、構造情報をマルチグリッドに分割したマルチグリッド構造20からCNNネットワークを用いて高精度に予測温度分布を算出することができる。具体的には以下の通りマルチグリッド予測温度21は算出される。マルチグリッド構造20は、対象物において小さい発熱体等が存在する微細な構造部分は構造情報を密グリッドで分割され、それ以外の領域には粗グリッドで分割されている。演算装置10は、マルチグリッド構造20から粗グリッド構造30と密グリッド構造40とを作成する。演算装置10は、作成した粗グリッド構造30を粗グリッドネットワークにおいて粗グリッド予測温度31を算出する。演算装置10は、マルチグリッド構造20の密グリッドの領域の温度は密ネットワークで密グリッド予測温度41を算出する。演算装置10は、粗グリッド予測温度31と密グリッド予測温度41とを統合しマルチグリッド予測温度21を算出する。これにより、演算装置10は、対象物の微細な構造部分に関しても形状再現性高く予測温度分布を算出することができる。
【0153】
また、演算装置10は、粗ネットワークから粗グリッド構造30、粗グリッド予測温度31または粗グリッド抽出温度32の少なくとも1つを密ネットワークへの入力データとすることで、形状再現性高く高精度に密グリッド予測温度41を算出することができる。
【0154】
また、演算装置10は、粗ネットワークおよび密ネットワークでの予測温度分布の算出のためにCNNネットワークを用いるので、従来のCFDによる計算時間よりも計算時間を大幅に短縮することができる。
【0155】
(実施の形態1のまとめ)
以上の実施の形態1の記載により、下記技術が開示される。
【0156】
<技術1>
本実施の形態に係る演算方法は、発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと発熱体および対象物の物性情報とを含む構造情報を、マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割し、第1構造情報を学習済みの第1AIモデルに入力し、複数の第1グリッドに対応する対象物の温度分布である第1予測温度を解析し、第1構造情報、第2構造情報、または第1予測温度の全部もしくは一部の少なくとも1つを用いて学習済みの第2AIモデルに入力し、第2グリッドに対応する対象物の温度分布である第2予測温度を解析し、第1予測温度と第2予測温度とを用いて対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する。
【0157】
これにより、本実施の形態に係る演算方法は、対象物の微細な構造部分に関しても形状再現性高く予測温度分布を算出することができる。また、演算方法は、第1構造情報、第2構造情報または第1予測温度の全部もしくは一部の少なくとも1つを用いて第2予測温度を算出するため形状再現性高く高精度に対象物の予測温度分布を算出することができる。また、演算方法は、AIモデルを用いて対象物の予測温度分布を算出するので従来のCFDによる計算時間よりも計算時間を大幅に短縮することができる。これにより、演算方法は、対象物の温度分布の予測を高精度かつ高速に行うことができる。
【0158】
<技術2>
技術1に記載の演算方法において、第2構造情報は、第1グリッド内の第2グリッドの相対位置を示す位置情報を有し、位置情報に対応する箇所の第1予測温度を第2予測温度に変更し第3予測温度を算出する。
【0159】
これにより、本実施の形態に係る演算方法は、第2グリッドの位置に対応する箇所の第1予測温度を、形状再現性の高い第2予測温度に変更することで、形状再現性が高い第3予測温度を算出することができる。
【0160】
<技術3>
技術1また2に記載の演算方法は、第1構造情報と第2構造情報とを第2AIモデルに入力し第2予測温度を解析する。
【0161】
これにより、本実施の形態に係る演算方法は、第2グリッドの位置に対応する箇所の温度分布を、第2構造情報だけでなく第1構造情報も含めて第2AIモデルに入力し算出する。これにより、演算方法は、第2グリッドの周りの構造情報を含めて高精度に第2予測温度を算出することができる。
【0162】
<技術4>
技術1から3のいずれか1つに記載の演算方法は、第2構造情報と第1予測温度とを第2AIモデルに入力し第2予測温度を解析する。
【0163】
これにより、本実施の形態に係る演算方法は、第2グリッドの周りの予測温度の情報を含めて高精度に第2予測温度を算出することができる。
【0164】
<技術5>
技術1から4のいずれか1つに記載の演算方法は、第1構造情報と第2構造情報と第1予測温度とを第2AIモデルに入力し第2予測温度を解析する。
【0165】
これにより、本実施の形態に係る演算方法は、第2AIモデルへの入力データに第2構造情報の他に第1構造情報と第1予測温度との情報を含めることで、高精度に第2予測温度を算出することができる。
【0166】
<技術6>
技術1から5のいずれか1つに記載の演算方法は、第1予測温度から位置情報により特定される範囲の温度分布を抽出し、抽出した温度分布と第2構造情報とを第2AIモデルに入力し第2予測温度を解析する。
【0167】
これにより、本実施の形態に係る演算方法は、第2AIモデルへの入力データに第2構造情報の他に第1予測温度から抽出された第1グリッド内の第2グリッドの位置情報により特定される範囲の温度分布を含めることで、高精度に第2予測温度を算出することができる。
【0168】
<技術7>
技術1から6のいずれか1つに記載の演算方法は、第1予測温度から位置情報により特定される範囲の温度分布を抽出し、抽出した温度分布を第2AIモデルに入力し第2予測温度を解析する。
【0169】
これにより、本実施の形態に係る演算方法は、第1予測温度から抽出された第1グリッド内の第2グリッドの位置情報により特定される範囲の温度分布だけから高精度に第2予測温度を解析することができる。
【0170】
<技術8>
技術1から7のいずれか1つに記載の演算方法において、構造情報は、物性情報として対象物のグリッドごとの熱伝導率と発熱量と輻射率との情報を含む。
【0171】
これにより、本実施の形態に係る演算方法は、各グリッドの温度を算出することができる。
【0172】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1と比較して対象物の温度分布の予測をより高精度に行う演算方法について説明する。なお、実施の形態2に係る演算方法の説明においては、実施の形態1に係る演算方法と同一の内容の説明は簡略化あるいは省略し、差分に着目して説明する。
【0173】
実施の形態2の説明において、粗グリッド構造のことを、密グリッド構造に対する上位構造と表現する。また、密グリッド構造のことを、粗グリッド構造に対する下位構造と表現する。また、1つの密グリッドの中に何個もより小さい密グリッドが設定される場合、特定の密グリッド構造よりも1つサイズの小さい密グリッド構造のことを、当該特定の密グリッド構造に対する下位構造と表現する。また、特定の密グリッド構造よりも1つサイズの大きい密グリッド構造のことを、当該特定の密グリッド構造に対する上位構造と表現する。実施の形態1の図19を例に挙げて具体的に説明すると、粗グリッド構造30は、密グリッド構造40に対する上位構造である。また、密グリッド構造40は、粗グリッド構造30に対する下位構造であり、密グリッド構造50に対する上位構造である。また、密グリッド構造50は、密グリッド構造40に対する下位構造である。また、密グリッド構造50は、粗グリッド構造30に対しても下位の構造である。また、実施の形態1および実施の形態2において、粗グリッド構造に対する上位構造はないものとして説明する。したがって、粗グリッド構造のことを、最上位の構造と表現する場合がある。
【0174】
また、実施の形態1の説明において、1つの密グリッドの中に何個もより小さい密グリッドが設定される場合、1つサイズの大きい密グリッドの密グリッド予測温度を算出する密ネットワークのことを上位ネットワークと称して説明した。実施の形態2の説明においては、あるグリッドを基準とした場合に、当該グリッドよりも1つサイズの大きいグリッドの予測温度を算出するネットワークのことを上位ネットワークと称する。また、当該グリッドよりも1つサイズの小さいグリッドの予測温度を算出するネットワークのことを下位ネットワークと称して説明する。実施の形態1の図19を例に挙げて具体的に説明すると、粗ネットワークは、密ネットワーク1の上位ネットワークである。また、密ネットワーク1は、粗ネットワークの下位ネットワークであり、密ネットワーク2の上位ネットワークである。また、密ネットワーク2は、密ネットワーク1の下位ネットワークである。
【0175】
上述の実施の形態1において、演算方法は、上位ネットワークで算出されたあるグリッドの予測温度を、当該グリッドよりも1つサイズの小さいグリッドの予測温度の算出に用いていた。言い換えると、上位構造の予測温度が、下位構造の予測温度の算出に用いられていた。具体的には、密グリッド予測温度の算出に粗グリッド予測温度が用いられていた。実施の形態2では、演算方法は、上位構造の予測温度を下位構造の予測温度の算出に用いるだけでなく、下位構造の予測温度を上位構造の予測温度の算出に用いる。
【0176】
また、実施の形態2では、演算方法は、上位構造の予測温度の算出の際、学習済みのAIモデルへの入力データから、下位構造における発熱体に係る情報と下位構造の情報とを除く。また、実施の形態2では、下位構造の予測温度等を用いて上位構造の予測温度を解析するAIモデルの学習において、上位構造に含まれる下位構造の領域の損失はマスキングされる。
【0177】
まず、図21を参照して、親構造、子構造および孫構造について説明する。図21は、親構造700、子構造800および孫構造900の一例を示す概略図である。
【0178】
親構造700は、実施の形態1における粗グリッド構造(例えば、粗グリッド構造30)と同義である。つまり、親構造700は、最上位の構造である。ここでは、説明の便宜上「粗グリッド構造」ではなく「親構造」と表現する。親構造700は、一例として発熱体である3つの素子PAと3つの素子SPAと1つの素子SSPAとを含む対象物、つまり基板Wの構造情報である。素子SSPAは、素子SPAよりも小さな素子である。
【0179】
子構造800は、実施の形態1における密グリッド構造(例えば、密グリッド構造40)と同義である。ここでは、説明の便宜上「密グリッド構造」ではなく「子構造」と表現する。子構造800は、親構造700の素子SPAを含む領域が抽出され、密グリッドのメッシュが設定された構造情報である。
【0180】
孫構造900は、実施の形態1における密グリッド構造(例えば、密グリッド構造50)と同義である。孫構造900と子構造800とは、いずれも実施の形態1における密グリッド構造と同義であるが、孫構造900は子構造800の下位構造である。子構造800と孫構造900との関係は、図19の例の密グリッド構造40と密グリッド構造50との関係に相当する。ここでは、説明の便宜上「密グリッド構造」ではなく「孫構造」と表現する。孫構造900は、子構造800の素子SSPAを含む領域が抽出され、子構造800に設定された密グリッドのグリッド幅よりも更に小さいグリッド幅の密グリッドのメッシュが設定された構造情報である。
【0181】
親構造は、第1構造情報と読み替えられる。子構造および孫構造は、第2構造情報と読み替えられる。
【0182】
<直列ネットワーク>
次に、図22を参照して、実施の形態2に係るマルチグリッド予測温度の算出方法の一例の概要を説明する。図22は、実施の形態2に係る直列ネットワークにおけるマルチグリッド予測温度950を算出する処理の模式図である。
【0183】
マルチグリッド予測温度950の算出のために、まず、入力情報としてマルチグリッド構造(不図示)が用意される。演算装置10のプロセッサ11は、当該マルチグリッド構造を親構造700、子構造800および孫構造900に分割する。プロセッサ11は、親構造700を学習済みのCNNネットワークに入力し、親中間温度701を予測する。親中間温度701は、親構造700の予測された中間温度分布である。中間温度分布とは、温度分布等の更なる予測のために用いられる、仮の温度分布である。ここでは、中間温度分布と、中間温度分布を用いて予測される温度分布とを区別するために、「中間温度分布」という用語を用いる。親中間温度701を予測する学習済みのCNNネットワークを、中間親ネットAIと称する。中間親ネットAIは、最上位の構造の温度分布を予測するAIモデルであり、実施の形態1での粗ネットAIに相当する。したがって、中間親ネットAIは、第1AIモデルと読み替えられる。また、親中間温度は、第1中間温度と読み替えられる。
【0184】
プロセッサ11は、中間親ネットAIに親構造700を入力する際、親構造700から子構造800および孫構造900のそれぞれの発熱体を削除する。詳細は、図23を参照して後述する。
【0185】
プロセッサ11は、子構造800と親中間温度701とを学習済みのCNNネットワークに入力し、子中間温度801を予測する。子中間温度801は、子構造800の中間温度分布である。子中間温度801を予測する学習済みのCNNネットワークを、中間子ネットAIと称する。また、子中間温度は、第2中間温度と読み替えられる。
【0186】
プロセッサ11は、中間子ネットAIに子構造800を入力する際、子構造800から孫構造900の発熱体を削除する。
【0187】
プロセッサ11は、孫構造900と子中間温度801とを学習済みのCNNネットワークに入力し、孫予測温度902を予測する。孫予測温度902は、孫構造900の予測された温度分布である。孫予測温度902を予測する学習済みのCNNネットワークを、予測孫ネットAIと称する。中間子ネットAIおよび予測孫ネットAIは、最上位の構造以外の構造の温度分布を予測するAIモデルであり、実施の形態1での密ネットAIに相当する。したがって、中間子ネットAIおよび予測孫ネットAIは、第2AIモデルと読み替えられる。また、孫予測温度は、第2予測温度と読み替えられる。
【0188】
プロセッサ11は、孫予測温度902と子中間温度801とを学習済みのCNNネットワークに入力し、子予測温度802を予測する。子予測温度802は、子構造800の予測された温度分布である。子予測温度802を予測する学習済みのCNNネットワークを、予測子ネットAIと称する。
【0189】
予測子ネットAIの学習において、子構造800の領域のうち孫構造900の領域の損失(以下、「LOSS」とも称する)がマスキングされる。詳細は、図24を参照して後述する。簡単に言うと、子予測温度802のうち孫構造900の領域の温度分布の精度は求められなくてもよくなる。これは、既に孫予測温度902が予測されているためである。
【0190】
プロセッサ11は、子予測温度802と親中間温度701とを学習済みのCNNネットワークに入力し、親予測温度702を予測する。親予測温度702は、親構造700の予測された温度分布である。親予測温度702を予測する学習済みのCNNネットワークを、予測親ネットAIと称する。
【0191】
予測親ネットAIの学習において、親構造700の領域のうち子構造800の領域の損失がマスキングされる。したがって、予測親ネットAIの学習において、孫構造900の領域の損失もまた、マスキングされる。これにより、親予測温度702のうち子構造800の領域の温度分布の精度は求められなくてもよくなる。これは、既に子予測温度802および孫予測温度902が予測されているためである。
【0192】
予測子ネットAIおよび予測親ネットAIは、温度分布の予測のために下位構造の温度分布を用いるAIモデルであり、学習の際には特定の領域の損失がマスキングされる。予測子ネットAIおよび予測親ネットAIは、第3AIモデルと読み替えられる。
【0193】
プロセッサ11は、親予測温度702と子予測温度802と孫予測温度902とを用いてマルチグリッド予測温度950を算出する。このように、マルチグリッド予測温度950の算出のために、仮の温度分布を含む各温度分布を段階的に予測するネットワークを、直列ネットワークと称する。
【0194】
次に、図23を参照して、上位構造から下位構造の発熱体を削除する例を説明する。図23は、実施の形態2に係る発熱体のデータの削除を説明するための模式図である。
【0195】
図22を参照して説明したように、プロセッサ11は、中間親ネットAIに親構造700を入力する際、親構造700から子構造800および孫構造900のそれぞれの発熱体を削除する。図22の例では、プロセッサ11は、子構造800に含まれる3つの素子SPAと、孫構造900に含まれる1つの素子SSPAとを、親構造700から削除する。親構造700は、1つのグリッドに対して図6に示す(1)から(7)までの情報が紐づいているデータである。親構造700から子構造800および孫構造900のそれぞれの発熱体が削除されるとは、より正確には、親構造700の領域のうち孫構造900を含む子構造800の領域について、図6に示す(1)から(7)までの情報のうち(1)から(4)までの情報が削除されることである。ここで、プロセッサ11は、情報が削除された領域に、空気の物性値を与えてもよいし、対象物である基板Wの材料の物性値を与えてもよい。
【0196】
同様に、プロセッサ11は、中間子ネットAIに子構造800を入力する際、子構造800から孫構造900に含まれる1つの素子SSPAを削除する。子構造800は、1つのグリッドに対して図7に示す(1)から(8)までの情報が紐づいているデータである。子構造800から孫構造900の発熱体が削除されるとは、より正確には、子構造800の領域のうち孫構造900の領域について、図7に示す(1)から(8)までの情報のうち(1)から(4)までの情報が削除されることである。ここで、プロセッサ11は、情報が削除された領域に、空気の物性値を与えてもよいし、対象物である基板Wの材料の物性値を与えてもよい。
【0197】
このように、プロセッサ11は、ある構造(例えば、親構造700または子構造800)の中間温度分布を予測する際に、当該構造から、当該構造よりも下位の構造(例えば、子構造800または孫構造900)に含まれる発熱体を削除してもよい。これにより、上位構造の粗いグリッドにより下位構造を分割することによる、予測温度分布の誤差を排除できる。
【0198】
次に、図24を参照して、AIモデルの学習の際の特定の領域の損失のマスキングについて説明する。図24は、実施の形態2に係るAIモデルの学習におけるマスキングを説明するための模式図である。
【0199】
AIモデルの学習の際、AIモデルによる予測温度と正解温度との誤差、言い換えると損失が算出される。損失は、例えば、以下の式(1)により算出される。そして、算出された損失が小さくなるように、AIモデルが温度を予測するためのパラメータが調整される
【0200】
【数1】
【0201】
図24に示すように、子予測温度810には、孫構造900の領域の温度分布910が含まれる。子予測温度810は、子構造800の予測温度である。ここで、子予測温度810は、学習フェーズにおけるAIモデルにより予測された温度分布である。
【0202】
子構造800の正解温度である子正解温度820には、孫構造900の領域の正解温度920が含まれる。図24の例では、温度分布910と正解温度920との間で損失がある。従来であれば、全てのグリッドについて式(1)により損失が算出され、算出された損失が小さくなるように、AIモデルが温度を予測するためのパラメータが調整される。これにより、AIモデルによる予測温度は、正解温度に近づく。
【0203】
しかしながら、実施の形態2に係る予測子ネットAIの学習の際には、全てのグリッドのうち孫構造900の領域のグリッドを除いたグリッドについて、式(1)により損失が算出される。つまり、予測子ネットAIの学習の際、孫構造900の領域の損失がマスキングされる。この場合、予測子ネットAIにより予測された子予測温度802のうち、孫構造900の領域の温度分布は正解温度から乖離し得る。しかし、予測孫ネットAIにより孫予測温度902が既に予測されているため、もし子予測温度802のうち孫構造900の領域の温度分布の精度が良くなかったとしても、孫予測温度902が用いられることで、マルチグリッド予測温度950は高精度に算出される。これにより、全てのグリッドについて損失が算出される場合の、上位構造の粗いグリッドに合わせた下位構造の予測温度と正解温度との誤差を排除できる。
【0204】
なお、図24では、子予測温度802を予測するAIモデルの学習の際に孫構造900の領域の損失がマスキングされる例を示したが、親予測温度702を予測するAIモデルの学習の際には、子構造800の領域の損失がマスキングされる。つまり、親予測温度702を予測するAIモデルの学習の際、全てのグリッドのうち子構造800の領域のグリッドを除いたグリッドについて、式(1)により損失が算出される。子構造800の領域には孫構造900の領域も含まれるため、親予測温度702のうち子構造800および孫構造900のそれぞれの領域の温度分布の損失は算出されない。しかし、既に予測された子予測温度802と孫予測温度902とが用いられることで、マルチグリッド予測温度950は高精度に算出される。
【0205】
次に、図25を参照して、直列ネットワークにおけるマルチグリッド予測温度950を算出する処理の一例を説明する。図25は、実施の形態2に係る直列ネットワークにおけるマルチグリッド予測温度950を算出する処理のフローチャートである。図25のフローチャートの各処理はプロセッサ11によって実行される。
【0206】
プロセッサ11は、3次元構造データとしてレイヤ構造となっているデータを作成する(ステップSt100)。
【0207】
プロセッサ11は、ステップSt100の処理で作成した3次元構造データに計算条件として対象物に含まれる発熱体の発熱量、発熱体の物性値(つまり、面内熱伝導率および面外熱伝導率)、輻射率および境界条件等を設定する(ステップSt101)。プロセッサ11は、ユーザから入力された発熱体の発熱量、熱伝導率等の物性値、輻射率、グリッド幅および密グリッドを設定する領域の情報に基づきステップSt101の処理を実行する。なお、プロセッサ11は、対象物の計算条件が保存されている外部装置から計算条件を取得し、取得した計算条件を用いてステップSt101の処理を実行してもよい。
【0208】
プロセッサ11は、ステップSt101の処理で計算条件を設定した3次元構造データをマルチグリッドのメッシュに分割しマルチグリッド構造を作成する(ステップSt102)。
【0209】
プロセッサ11は、ステップSt102の処理で作成したマルチグリッド構造から親構造700を作成し、親構造700から子構造800および孫構造900のそれぞれの領域の発熱体の情報を削除することで、中間親ネットAIへの入力データを生成する(ステップSt1000)。
【0210】
プロセッサ11は、ステップSt1000の処理で生成した入力データを中間親ネットAIに入力し、親中間温度701を算出する(ステップSt1001)。
【0211】
プロセッサ11は、ステップSt102の処理で作成したマルチグリッド構造から子構造800を作成し、子構造800から孫構造の領域の発熱体の情報を削除することで、中間子ネットAIへの入力データを生成する(ステップSt1002)。ステップSt1002の処理で生成される入力データには、ステップSt1001で算出された親中間温度701が含まれる。
【0212】
プロセッサ11は、ステップSt1002の処理で生成した入力データを中間子ネットAIに入力し、子中間温度801を算出する(ステップSt1003)。
【0213】
プロセッサ11は、ステップSt102の処理で作成したマルチグリッド構造から孫構造900を作成し、予測孫ネットAIへの入力データを生成する(ステップSt1004)。ステップSt1004の処理で生成される入力データには、ステップSt1003で算出された子中間温度801が含まれる。
【0214】
プロセッサ11は、ステップSt1004の処理で生成した入力データを予測孫ネットAIに入力し、孫予測温度902を算出する(ステップSt1005)。
【0215】
プロセッサ11は、ステップSt1003の処理で算出された子中間温度801と、ステップSt1005の処理で算出された孫予測温度902とを含む、予測子ネットAIへの入力データを生成する(ステップSt1006)。
【0216】
プロセッサ11は、ステップSt1006の処理で生成した入力データを予測子ネットAIに入力し、子予測温度802を算出する(ステップSt1007)。
【0217】
プロセッサ11は、ステップSt1001の処理で算出された親中間温度701と、ステップSt1007の処理で算出された子予測温度802とを含む、予測親ネットAIへの入力データを生成する(ステップSt1008)。
【0218】
プロセッサ11は、ステップSt1008の処理で生成した入力データを予測親ネットAIに入力し、親予測温度702を算出する(ステップSt1009)。
【0219】
プロセッサ11は、ステップSt1005の処理で算出した孫予測温度902とステップSt1007の処理で算出した子予測温度802とステップSt1009の処理で算出した親予測温度702とを統合して、対象物全体の予測温度分布であるマルチグリッド予測温度950を算出する(ステップSt1010)。
【0220】
以上により、演算装置10は、構造情報をマルチグリッドに分割したマルチグリッド構造からCNNネットワークを用いて高精度に予測温度分布を算出することができる。具体的には以下の通りマルチグリッド予測温度950が算出される。マルチグリッド構造は、対象物において小さい発熱体等が存在する微細な構造部分は構造情報を密グリッドで分割され、それ以外の領域には粗グリッドで分割されている。また、当該密グリッドの中により小さい密グリッドが設定されている。演算装置10は、マルチグリッド構造から親構造700と子構造800と孫構造900とを作成する。演算装置10は、作成した親構造700を中間親ネットAIに入力して親中間温度701を算出する。このとき、親構造700から子構造800および孫構造900のそれぞれの領域の発熱体が削除される。また、演算装置10は、作成した子構造800と算出した親中間温度701とを中間子ネットAIに入力して子中間温度801を算出する。このとき、子構造800から孫構造900の領域の発熱体が削除される。また、演算装置10は、作成した孫構造900と算出した子中間温度801とを予測孫ネットAIに入力して、孫予測温度902を算出する。演算装置10は、子中間温度801と孫予測温度902とを予測子ネットAIに入力して、子予測温度802を算出する。予測子ネットAIの学習の際に、子構造800の下位構造である孫構造900の領域の温度分布の損失がマスキングされる。演算装置10は、子予測温度802と親中間温度701とを予測親ネットAIに入力して、親予測温度702を算出する。予測親ネットAIの学習の際に、親構造700よりも下位の構造である子構造800の領域の温度分布の損失と孫構造900の領域の温度分布の損失とがマスキングされる。演算装置10は、親予測温度702と子予測温度802と孫予測温度902とを統合しマルチグリッド予測温度950を算出する。これにより、演算装置10は、対象物の微細な構造部分に関しても、形状再現性がより高い予測温度分布を算出することができる。
【0221】
<並列ネットワーク>
次に、図26を参照して、実施の形態2に係るマルチグリッド予測温度の算出方法の一例の概要を説明する。図26は、実施の形態2に係る並列ネットワークにおけるマルチグリッド予測温度950を算出する処理の模式図である。上述の直列ネットワークでは、各温度分布が段階的に算出されていた。つまり、直列ネットワークにおける各処理は、段階的に行われていた。一方、並列ネットワークでは、各温度分布を算出する処理が並列に行われる。
【0222】
マルチグリッド予測温度950の算出のために、まず、入力情報としてマルチグリッド構造(不図示)が用意される。演算装置10のプロセッサ11は、当該マルチグリッド構造を親構造700、子構造800および孫構造900に分割する。
【0223】
プロセッサ11は、親構造700を中間親ネットAIへ入力し、親中間温度701を予測する。プロセッサ11は、中間親ネットAIに親構造700を入力する際、親構造700から子構造800および孫構造900のそれぞれの発熱体を削除する。また、プロセッサ11は、子構造800を中間子ネットAIへ入力し、子中間温度801を予測する。プロセッサ11は、中間子ネットAIに子構造800を入力する際、子構造800から孫構造900の発熱体を削除する。また、プロセッサ11は、孫構造900を中間孫ネットAIへ入力し、孫中間温度901を予測する。孫中間温度901は、孫構造900の中間温度分布である。孫中間温度901を予測する学習済みのCNNネットワークを、中間孫ネットAIと称する。中間孫ネットAIは、最上位の構造以外の構造の温度分布を予測するAIモデルであり、実施の形態1での密ネットAIに相当する。したがって、中間孫ネットAIは、第2AIモデルと読み替えられる。また、孫中間温度は、第2中間温度と読み替えられる。親中間温度701、子中間温度801および孫中間温度901を算出するこれらの処理は、並列に行われてよい。
【0224】
プロセッサ11は、親中間温度701と子中間温度801と孫中間温度901とを学習済みのCNNネットワークに入力し、親予測温度702と子予測温度802と孫予測温度902とを予測する。親予測温度702と子予測温度802と孫予測温度902とを予測する学習済みのCNNネットワークを、予測ネットAIと称する。予測ネットAIは、各構造の温度分布を予測するAIモデルである。予測ネットAIは、第4AIモデルと読み替えられる。
【0225】
予測ネットAIの学習において、出力される温度分布の構造よりも下位の構造の領域の損失がマスキングされる。これにより、親予測温度702における子構造800の領域の温度分布、および、子予測温度802における孫構造900の領域の温度分布は精度に欠ける可能性がある。しかし、プロセッサ11は、親予測温度702、子予測温度802および孫予測温度902を用いて、マルチグリッド予測温度950を高精度に算出できる。
【0226】
次に、図27を参照して、並列ネットワークにおけるマルチグリッド予測温度950を算出する処理の一例を説明する。図27は、実施の形態2に係る並列ネットワークにおけるマルチグリッド予測温度950を算出する処理のフローチャートである。図27のフローチャートの各処理はプロセッサ11によって実行される。なお、直列ネットワークと同様の内容に関しては同一符合を付記し適宜説明を省略する。
【0227】
プロセッサ11は、ステップSt102の処理で作成したマルチグリッド構造から子構造800を作成し、子構造800から孫構造の領域の発熱体の情報を削除することで、中間子ネットAIへの入力データを生成する(ステップSt1011)。
【0228】
プロセッサ11は、ステップSt1011の処理で生成した入力データを中間子ネットAIに入力し、子中間温度801を算出する(ステップSt1012)。
【0229】
プロセッサ11は、ステップSt102の処理で作成したマルチグリッド構造から孫構造900を作成し、中間孫ネットAIへの入力データを生成する(ステップSt1013)。
【0230】
プロセッサ11は、ステップSt1013の処理で生成した入力データを中間孫ネットAIに入力し、孫中間温度901を算出する(ステップSt1014)。
【0231】
プロセッサ11は、ステップSt1000の処理およびステップSt1001の処理による親中間温度701の算出、ステップSt1011の処理およびステップSt1012の処理による子中間温度801の算出、および、ステップSt1013の処理およびステップSt1014の処理による孫中間温度901の算出を、並列に行ってもよい。
【0232】
プロセッサ11は、ステップSt1001の処理で算出した親中間温度701と、ステップSt1012の処理で算出した子中間温度801と、ステップSt1014の処理で算出した孫中間温度901とを含む、予測ネットAIへの入力データを生成する(ステップSt1015)。
【0233】
プロセッサ11は、ステップSt1015の処理で生成した入力データを予測ネットAIに入力し、親予測温度702、子予測温度802および孫予測温度902を算出する(St1016)。
【0234】
プロセッサ11は、ステップSt1016の処理で算出した親予測温度702と子予測温度802と孫予測温度902とを統合して、対象物全体の予測温度分布であるマルチグリッド予測温度950を算出する(ステップSt1017)。
【0235】
以上により、演算装置10は、構造情報をマルチグリッドに分割したマルチグリッド構造からCNNネットワークを用いて高精度に予測温度分布を算出することができる。具体的には以下の通りマルチグリッド予測温度950が算出される。マルチグリッド構造は、対象物において小さい発熱体等が存在する微細な構造部分は構造情報を密グリッドで分割され、それ以外の領域には粗グリッドで分割されている。また、当該密グリッドの中により小さい密グリッドが設定されている。演算装置10は、マルチグリッド構造から親構造700と子構造800と孫構造900とを作成する。演算装置10は、作成した親構造700を中間親ネットAIに入力して親中間温度701を算出する。このとき、親構造700から子構造800および孫構造900のそれぞれの領域の発熱体が削除される。また、演算装置10は、作成した子構造800を中間子ネットAIに入力して子中間温度801を算出する。このとき、子構造800から孫構造900の領域の発熱体が削除される。また、演算装置10は、作成した孫構造900を中間孫ネットAIに入力して孫中間温度901を算出する。演算装置10は、親中間温度701と子中間温度801と孫中間温度901とを予測ネットAIに入力して、親予測温度702と子予測温度802と孫予測温度902とを算出する。予測ネットAIの学習の際に、予測ネットAIが予測する温度分布の構造よりも下位の構造の領域の温度分布の損失がマスキングされる。演算装置10は、親予測温度702と子予測温度802と孫予測温度902とを統合しマルチグリッド予測温度950を算出する。これにより、演算装置10は、対象物の微細な構造部分に関しても、形状再現性がより高い予測温度分布を算出することができる。
【0236】
(実施の形態2のまとめ)
以上の実施の形態2の記載により、下記技術が開示される。
【0237】
<技術9>
本実施の形態に係る演算方法は、発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと発熱体および対象物の物性情報とを含む構造情報を、マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割し、第1構造情報のうち、第2グリッドに含まれる発熱体および対象物の物性情報を除く情報を学習済みの第1AIモデルに入力し、複数の第1グリッドに対応する対象物の温度分布である第1中間温度を解析し、第1中間温度と、第1構造情報または第2構造情報の全部もしくは一部の少なくとも1つとを用いて学習済みの第2AIモデルに入力し、第2グリッドに対応する対象物の温度分布である第2予測温度を解析し、第1中間温度および第2予測温度を学習済みの第3AIモデルに入力し、複数の第1グリッドに対応する対象物の温度分布である第1予測温度を解析し、第1予測温度と第2予測温度とを用いて対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する。
【0238】
これにより、本実施の形態に係る演算方法は、対象物の微細な構造部分に関しても形状再現性高く予測温度分布を算出することができる。本実施の形態に係る演算方法は、上位構造の温度分布を用いて下位構造の温度分布を予測するだけでなく、下位構造の温度分布を用いて上位構造の温度分布を予測できるので、より高精度に対象物の予測温度分布を算出できる。また、本実施の形態に係る演算方法は、上位構造の温度分布を予測する際、下位構造の発熱体の情報を削除するため、より高精度に上位構造の温度分布を予測できる。
【0239】
<技術10>
技術9に記載の第3AIモデルの学習において、第1グリッドに対応する領域のうち第2グリッドに対応する領域の損失がマスキングされる。
【0240】
これにより、上位構造の粗いグリッドに合わせた下位構造の予測温度と正解温度との誤差を排除できる。
【0241】
<技術11>
本実施の形態に係る演算方法は、発熱体を含む対象物に設定されたマルチグリッドと発熱体および対象物の物性情報とを含む構造情報を、マルチグリッドを構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅を有する複数の第1グリッドの構造情報を有する第1構造情報と、マルチグリッドの一部の範囲を構成する各グリッドのグリッド幅が第1幅より小さい幅を有する複数の第2グリッドの構造情報を有する少なくとも1つの第2構造情報と、に分割し、第1構造情報のうち、第2グリッドに含まれる発熱体および対象物の物性情報を除く情報と、第2構造情報とを学習済みの第1AIモデルにそれぞれ入力し、複数の第1グリッドに対応する対象物の温度分布である第1中間温度と、第2グリッドに対応する対象物の温度分布である第2中間温度とのそれぞれを解析し、第1中間温度および第2中間温度を学習済みの第4AIモデルに入力し、複数の第1グリッドに対応する対象物の温度分布である第1予測温度、および、第2グリッドに対応する対象物の温度分布である第2予測温度を解析し、第1予測温度と第2予測温度とを用いて対象物の予測温度分布である第3予測温度を算出する。
【0242】
これにより、本実施の形態に係る演算方法は、対象物の微細な構造部分に関しても形状再現性高く予測温度分布を算出することができる。本実施の形態に係る演算方法は、上位構造の温度分布を用いて下位構造の温度分布を予測するだけでなく、下位構造の温度分布を用いて上位構造の温度分布を予測できるので、より高精度に対象物の予測温度分布を算出できる。また、本実施の形態に係る演算方法は、上位構造の温度分布を予測する際、下位構造の発熱体の情報を削除するため、より高精度に上位構造の温度分布を予測できる。
【0243】
<技術12>
技術11に記載の第4AIモデルの学習において、第1グリッドに対応する領域のうち第2グリッドに対応する領域の損失がマスキングされる。
【0244】
これにより、上位構造の粗いグリッドに合わせた下位構造の予測温度と正解温度との誤差を排除できる。
【0245】
以上、添付図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても本開示の技術的範囲に属すると了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各種の実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0246】
本開示の技術は、対象物の温度分布の予測を高精度かつ高速に行う演算方法、演算装置およびプログラムとして有用である。
【符号の説明】
【0247】
1,2,3,4,5 ネットワーク
10 演算装置
11 プロセッサ
12 メモリ
13 通信I/F
14 表示デバイス
20 マルチグリッド構造
21,950 マルチグリッド予測温度
30 粗グリッド構造
31 粗グリッド予測温度
32 粗グリッド抽出温度
40 密グリッド構造
41 密グリッド予測温度
700 親構造
701 親中間温度
702 親予測温度
800 子構造
801 子中間温度
802 子予測温度
900 孫構造
901 孫中間温度
902 孫予測温度
PA,SPA 素子
W 基板
K1,K2,K3,K4,K5 メッシュ
R,re 領域
図1
図2
図3
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図5
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図10
図11
図12
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図20
図21
図22
図23
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図26
図27