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特開2024-149479黄熱を処置するための方法および組成物
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  • 特開-黄熱を処置するための方法および組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149479
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】黄熱を処置するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/10 20060101AFI20241010BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20241010BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20241010BHJP
【FI】
C07K16/10 ZNA
A61K39/395 N
A61P31/12
C07K16/10
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024075303
(22)【出願日】2024-05-07
(62)【分割の表示】P 2021505623の分割
【原出願日】2019-04-11
(31)【優先権主張番号】62/656,352
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】524171172
【氏名又は名称】ティサナ ピーティーイー.リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Tysana Pte.Ltd.
【住所又は居所原語表記】9 Raffles Place #27-00 Republic Plaza,Singapore 048619,Singapore
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブディギ,ヤドゥナンダ,クマール
(72)【発明者】
【氏名】チオン,ヨク ヒアン
(72)【発明者】
【氏名】リー,デビー チン ピン
(72)【発明者】
【氏名】マクビー,メーガン アーリー
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085AA15
4C085BB11
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】黄熱ウイルスに特異的に結合するおよび/または該ウイルスを中和する抗体を提供する。
【解決手段】抗体またはその抗原結合部分であって、前記抗体またはその抗原結合部分が、黄熱ウイルスのE-DIIエピトープに特異的に結合し、ならびに、E-DIIエピトープが、黄熱ウイルスEタンパク質の位置106におけるアスパラギン、位置93におけるリジンおよび位置104におけるリジンを含む、前記抗体またはその抗原結合部分が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体またはその抗原結合部分であって、前記抗体またはその抗原結合部分が、黄熱ウイルスのE-DIIエピトープに特異的に結合し、ならびに、E-DIIエピトープが、黄熱ウイルスEタンパク質の位置106におけるアスパラギン、位置93におけるリジンおよび位置104におけるリジンを含む、前記抗体またはその抗原結合部分。
【請求項2】
抗体またはその抗原結合部分が、重鎖可変領域(VH)の3つのCDRを含み、VHが、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項3】
抗体またはその抗原結合部分が、軽鎖可変領域(VL)の3つのCDRを含み、VLが、配列番号37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、および73からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項4】
抗体またはその抗原結合部分が、VHを含み、VHが、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項5】
抗体またはその抗原結合部分が、VLを含み、VLが、配列番号37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、および73からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項6】
抗体またはその抗原結合部分が、ヒト抗体またはその抗原結合部分、モノクローナル抗体またはその抗原結合部分、キメラ抗体またはその抗原結合部分、あるいはヒト化抗体またはその抗原結合部分である、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項7】
抗体またはその抗原結合部分が、一本鎖抗体またはその抗原結合部分、F(ab’)2フラグメント、dAbフラグメント、Fabフラグメント、あるいはFvフラグメントである、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項8】
抗体またはその抗原結合部分が、単離された抗体またはその抗原結合部分である、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合部分および担体を含む、組成物。
【請求項10】
組成物が、薬学的に許容し得る担体を含む医薬組成物である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
抗体またはその抗原結合部分が、請求項1~8のいずれか一項に記載のものである、医薬における使用のための抗体またはその抗原結合部分。
【請求項12】
黄熱、または黄熱ウイルスに関連する疾患もしくは症状を処置するための方法であって、その必要がある対象に治療的に有効な量の請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合部分を投与することを含む、前記方法。
【請求項13】
黄熱ウイルスに関連する疾患または症状を処置するための医薬の製造における、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合部分の使用。
【請求項14】
抗体重鎖可変領域(VH)、抗体軽鎖可変領域(VL)またはその両方をコードするヌクレオチド配列を含む核酸であって、VHおよびVLが、請求項2~7のいずれか一項に記載のものである、前記核酸。
【請求項15】
請求項14に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項16】
ベクターが発現ベクターである、請求項15に記載のベクター。
【請求項17】
請求項14に記載の核酸あるいは請求項15または16に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項18】
黄熱ウイルスEタンパク質に結合する抗体またはその抗原結合部分を産生するための方法であって:
抗体の発現を可能にする条件下で請求項17に記載の宿主細胞を培養することを含む、前記方法。
【請求項19】
抗体またはその抗原結合部分を回収することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
抗体またはその抗原結合部分が、黄熱ウイルスEタンパク質のE-DIIエピトープに特異的に結合する、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
E-DIIエピトープが、黄熱ウイルスEタンパク質の残基93、104、および106を含む、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年4月11日に出願された米国仮出願番号62/656,352の米国特許法119条の下における優先権の利益を主張し、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
背景
黄熱は、黄熱ウイルス(YFV)により引き起こされる急性のウイルス性出血性疾患である。ヒトでは、YFV伝染の主な媒介者(vector)は、蚊であるネッタイシマカ(Aedes aegypti)であり、これはデングおよびジカウイルスを含むいくつかの他のウイルスを伝染させる。YFVは、アフリカおよび中南米の熱帯および亜熱帯地域の風土病である。感染者は、無症状感染から、50%の致死率がある急性のウイルス性出血性疾患(10~15%)まで、幅広い兆候を呈する。1930年代以降は、弱毒生ワクチンが市場に出回ってきた。しかしながら、世界的な供給不足によって、YFVの発生を抑制および制御するための努力は妨げられてきた。この直近の兆候はブラジルで見られ、2017年に発生が始まって以来、YFVは、すでに700人超に感染し、200を超える人命を奪ってきた。現在のところ、ワクチンを接種していない人またはワクチンが保護作用をもたらしていない人を処置するために利用できるYFV療法は存在しない。YFV療法に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、少なくとも一部において、YFVに特異的に結合するおよび/または該ウイルスを中和する抗体の発見に基づく。かかる抗体またはその抗原結合部分に関連する組成物および方法が提供される。例えば、抗体またはその抗原結合部分は、いくつかの態様において、YFVが細胞に感染するのを抑制することができる。ある態様においては、本明細書において提供される組成物または方法のいずれか1つにおける、抗体またはその抗原結合部分は、Eタンパク質において最も溶媒に曝されかつ抗体にアクセス可能な、キーエピトープ(key epitope)残基(N106、K93およびK104)を占有するように特異的に結合する。ある態様においては、本明細書において提供される組成物または方法のいずれか1つにおける、抗体またはその抗原結合部分は、これらのキーエピトープ残基の周囲にエネルギー的に有利なパラトープ(paratope)(CDR)相互作用を有し、および/または閾値最小結合エネルギーによって特徴付けられる。
【0004】
したがって、本開示の1つの側面は、黄熱ウイルスのEタンパク質またはエンベロープタンパク質ドメインII(E-DII)エピトープに特異的に結合する抗体またはその抗原結合部分を提供する。本明細書において提供される組成物または方法のいずれか1つのある態様において、Eタンパク質またはE-DIIエピトープは、黄熱ウイルスEタンパク質の位置106におけるアスパラギン、位置93におけるリジン、および位置104におけるリジンを含む。
【0005】
提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、重鎖可変領域(VH)の3つのCDRを含む。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、3つのCDRは、表1において等、本明細書において記載されているVH配列(例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36)のいずれか1つに見出されるものである。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、軽鎖可変領域(VL)の3つのCDRを含む。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、3つのCDRは、表2において等、本明細書において記載されているVL配列(配列番号37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、および73)のいずれか1つに見出されるものである。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、表1において等、本明細書において記載されているVH配列のいずれか1つである3つのCDR(例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36)、ならびに、表2において等、本明細書において記載されているVL配列のいずれか1つである3つのCDR(配列番号37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、および73)を含む。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、表3において記載されている通りのVH配列とVL配列との特定の組み合わせのいずれか1つである、VH配列の3つのCDRとVL配列の3つのCDRとを含む。それゆえ、本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、その抗原結合部分は、かかる抗体の抗原結合部分である。
【0006】
1つの側面においては、本明細書で提供されるのは、上で直接的に提供される等、本明細書において提供されるVH配列のいずれか1つである3つのCDR、および/または上で直接的に提供される等、本明細書において提供されるVL配列のいずれか1つである3つのCDRをコードする核酸である。
【0007】
提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36のいずれか1つに記載されている等、本明細書において提供されるVHアミノ酸配列のいずれか1つを含む。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、配列番号37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、および73のいずれか1つに記載されている等、本明細書において提供されるVLアミノ酸配列のいずれか1つを含む。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36のいずれか1つにおいて記載されている等、本明細書において提供されるVHアミノ酸配列のいずれか1つ、ならびに、配列番号37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、および73のいずれか1つにおいて記載されている等、本明細書において提供されるVLアミノ酸配列のいずれか1つを含む。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、表3において記載されている等、本明細書において提供されているVHアミノ酸配列とVLアミノ酸配列との組み合わせのうちの、いずれか1つの特定の組み合わせを含む。
【0008】
1つの側面においては、本明細書で提供されるのは、上で直接的に提供される等、本明細書において提供されるVH配列のいずれか1つ、および/または上で直接的に提供される等、本明細書において提供されるVL配列のいずれか1つをコードする核酸である。
【0009】
本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、3つのCDRは、表1において等、本明細書において記載されているVH配列(例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36)のいずれか1つである3つのCDRと少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する3つのCDRを含む。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、表2において等、本明細書において記載されているVL配列(配列番号37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、および73)のいずれか1つである3つのCDRと少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する3つのCDRを含む。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、表1において等、本明細書において記載されているVH配列(例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36)のいずれか1つと少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する3つのCDR、ならびに、表2において等、本明細書において記載されているVL配列(配列番号37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、および73)のいずれか1つと少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する3つのCDRを含む。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、表3において記載されている等、本明細書において提供されるVH配列とVL配列との特定の組み合わせのいずれか1つにおける、VH配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する3つのCDR、ならびに、VL配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する3つのCDRを含む。それゆえ、本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、その抗原結合部分は、かかる抗体の抗原結合部分である。
【0010】
1つの側面においては、本明細書で提供されるのは、上で直接的に提供される等、本明細書において提供されるVH配列のいずれか1つである3つのCDR、および/または上で直接的に提供される等、本明細書において提供されるVL配列のいずれか1つである3つのCDRをコードする核酸である。
【0011】
提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36のいずれか1つに記載されている等、本明細書において提供されるVHアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するVHアミノ酸配列を含む。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、配列番号37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、および73のいずれか1つに記載されている等、本明細書において提供されるVLアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するVLアミノ酸配列を含む。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36のいずれか1つにおいて記載されている等、本明細書において提供されるVHアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するVHアミノ酸配列、ならびに、配列番号37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、および73のいずれか1つにおいて記載されている等、本明細書において提供されるVLアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するVLアミノ酸配列を含む。提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、表3において記載されている等、本明細書において提供されるVHアミノ酸配列とVLアミノ酸配列との組み合わせのうちの、いずれか1つの特定の組み合わせであるVHおよびVL配列と、互いに独立して少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するVH配列およびVL配列を含む。
【0012】
1つの側面においては、本明細書で提供されるのは、上で直接的に提供される通りのVH配列および/または上で直接的に提供される通りのVL配列をコードする核酸である。
【0013】
本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、その抗原結合部分は、本明細書において提供される抗体のいずれか1つの抗原結合部分である。
【0014】
本明細書に記載されている抗体のいずれか1つは、完全長抗体であり得る。抗体またはその抗原結合部分は、本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、ヒトのものであってもよく、ヒト化されていてもよく、またはキメラであってもよい。抗体またはその抗原結合部分は、本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、一本鎖抗体であり得る。本明細書に記載されている抗体はいずれも、モノクローナルまたはポリクローナルのいずれかであり得る。これら2つの用語は、抗体の供給源またはそれが作製される様式を限定するものではない。抗体またはその抗原結合部分は、本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、モノクローナル抗体またはその抗原結合部分であり得る。さらに、その抗原結合部分は、本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、scFv、F(ab’)2フラグメント、dAbフラグメント、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、Fv、またはジスルフィド結合したFvフラグメントであり得る。抗体またはその抗原結合部分は、単一ドメイン抗体、二特異性抗体(diabody)、多重特異性抗体、二重特異性抗体(bispecific antibody)、または二重特異性抗体(dual-specific antibody)であってもよい。抗体またはその抗原結合部分は、本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、単離された抗体またはその抗原結合部分であってもよい。
【0015】
さらに開示されるのは、YFVに特異的に結合する1種以上の抗体またはその抗原結合部分の、治療的に有効な量を、かかる処置を必要とする対象に投与することにより、黄熱、または黄熱ウイルスに関連する疾患もしくは症状を処置する方法である。本明細書において提供される方法のいずれか1つのある態様において、対象は、YFVに対するワクチンを接種したことがないか、または、YFVワクチン接種が十分な保護作用をもたらさなかった対象である。本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、本明細書において記載されている抗体またはその抗原結合部分のいずれか1種以上である。本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、YFVのEタンパク質またはE-DIIエピトープに特異的に結合する。本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分は、黄熱ウイルスE-タンパク質のE-タンパク質またはE-DIIエピトープの残基93、104および106に特異的に結合する。本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つのある態様において、抗体またはその抗原結合部分の量は、対象における黄熱の1つ以上の兆候を軽減するのに有効である。抗YFV抗体またはその抗原結合部分のいずれか1つは、本明細書において提供される方法のいずれか1つにおいて、例えば、経腸経路を介して、または非経口経路を介して、全身的に投与してもよい。
【0016】
本明細書において記載されている方法のいずれか1つにおいて処置される対象は、黄熱を罹患しているか、または黄熱ウイルスに関連する疾患もしくは症状を有する、あるいはその疑いがある患者(例えば、ヒト患者)であり得る。本明細書において提供される方法のいずれか1つのある態様では、対象は、急性のウイルス性出血性疾患を罹患しているか、またはその疑いがあるヒト患者である。
【0017】
またいくつかの側面では、本明細書において提供されるのは、(a)対象において黄熱または黄熱ウイルスに関連する疾患または症状(例えば、急性のウイルス性出血性疾患)を処置することにおける使用のための医薬組成物であって、該医薬組成物が、本明細書に記載されている抗体またはその抗原結合部分のうちのいずれか一種以上と、薬学的に許容し得る担体とを含む、前記組成物;ならびに(b)対象における黄熱または黄熱ウイルスに関連する疾患または症状の処置のための医薬および/または医薬の製造における、前述の抗体またはその抗原結合部分の使用である。
【0018】
またいくつかの側面では、本明細書において提供されるのは、抗体またはその抗原結合部分を産生するための方法、抗体またはその抗原結合部分のいずれか1つをコードする核酸、本明細書において提供される核酸のいずれか1つ以上を含むことができるベクター、および関連する宿主細胞である。
【0019】
1つの側面では、抗体またはその抗原結合部分を産生するための方法は、本明細書に記載されている方法のうちのいずれか1つである。1つの態様においては、方法は、ウイルスアセンブリに存在する明瞭なドメイン近位構造領域(例えば、二十面体の対称軸に近い鎖間界面)を考慮すること、および有望なFv足場を選択することを含む。従来のエピトープ予測方法は、ドメイン構造を使用して、ドメイン領域内に埋め込まれたエピトープ表面領域を予測する。しかしながら、中和フラビウイルス抗体は、(2本以上のEタンパク質鎖にまたがる)4つのエピトープ表面を認識することができる。それゆえ、従来の方法では、価値のある情報は組み込まれていない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、マウス感染モデルにおけるYF-17D-204に対する人工的に作製されたmAbの効力についてのin vivo試験デザインの例を示す。設計されたmAbの効力は、AG129マウスの黄熱感染致死モデルにおいて試験した。mAbの保護効力は、予防においてまたは治療として、試験した。
【0021】
図2図2A~2Bは、黄熱ウイルスに対する設計されたmAbのin vivoでの効力を示す。図2Aは、10mg/kgの用量のmAbで、予防(-1)または治療(+1および+1、+4)として処置されたYF-17D感染AG129マウスの生存曲線を示す。図2Bは、感染後4日および6日における、対照群と比較した処置動物の黄熱ウイルスの血中ウイルス力価を示す。mAbの投与は、対照群と比較して完全な保護をもたらした(図2A)。mAbの投与はまた、感染後4日および6日において、2Log10を超えるウイルス血症の減少をもたらした(図2B)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
以下の記載は、単に本発明の様々な態様を具体的に説明することを意図しているに過ぎない。そのように本明細書において論じた特定の態様は、本発明の範囲の制限として解釈されるべきではない。当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更がなされまたは等価物が作製され得ることは、明らかであろう。
【0023】
本開示の様々な側面は、抗体、その抗原結合部分、およびその医薬組成物、ならびに、かかる抗体およびフラグメントを作製するための核酸、組換え発現ベクター、および宿主細胞に関する。本明細書において提供されるのは、黄熱ウイルス(YFV)に特異的に結合するおよび/または該ウイルスを中和する抗体および/またはその抗原結合部分である。いくつかの態様においては、抗体またはその抗原結合部分は、黄熱ウイルスのE-DIIエピトープに結合し、ウイルスが細胞に感染するのを抑制する。いくつかの態様では、抗体またはその抗原結合部分は、黄熱ウイルスEタンパク質の位置106におけるアスパラギン、位置93におけるリジンおよび/または位置104におけるリジンを含む、E-DIIエピトープに結合する。本明細書において提供される抗体および抗原結合部分は、いくつかの態様では、対象における黄熱ウイルス感染を処置または抑制するために使用される。
【0024】
抗体(互換的に複数形で用いられる)は、本明細書において用いられる通り、広義には、免疫グロブリン(Ig)分子、または任意の機能的変異体(mutant)、バリアント(variant)、あるいはそれらの派生物をいう。機能的変異体、バリアント、およびそれらの派生物、ならびに抗原結合部分は、Ig分子の本質的なエピトープ結合特性を保持することが望ましい。
【0025】
抗体は、免疫グロブリン分子の可変領域に位置する少なくとも1つの抗原認識部位を介して、標的に特異的に結合することができる。一般に、インタクト(intact)または全長抗体は、2つの重鎖および2つの軽鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(V)と、第1、第2および第3の定常領域(C1、C2およびC3)とを含有する。各軽鎖は、軽鎖可変領域(V)と定常領域(CL)とを含有する。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存性の高い領域と共に散在している、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性領域にさらに細分化することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端まで、以下の順序:FRl、CDRl、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置されている。全長抗体は、IgD、IgE、IgG、IgA、またはIgM(またはそれらのサブクラス)などの任意のクラスの抗体であってもよく、抗体は特定のクラスである必要はない。その重鎖の定常ドメインの抗体アミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは異なるクラスに割り当てられ得る。免疫グロブリンには、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMの5つの主要なクラスがあり、これらのうちのいくつかは、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2などのサブクラス(アイソタイプ)にさらに分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、およびミューと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元配置はよく知られている。
【0026】
用語「抗原結合部分は、標的に特異的に結合することができるインタクトまたは全長抗体分子の部分または領域をいう。好ましくは、本明細書において提供される抗原結合部分は、YFVに特異的に結合する能力を保持している。抗原結合部分は、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、またはその両方を含んでいてもよい。VHおよびVLの各々は、典型的には、3つの相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3を含有する。
【0027】
抗原結合部分の例としては、以下のものが含まれるがこれらに限定されない:(1)VL-CL鎖およびVH-CH鎖を有する一価フラグメントであり得る、Fabフラグメント;(2)ヒンジ領域においてジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを有する二価フラグメント、すなわちFabの二量体、であり得る、F(ab′)フラグメント;(3)抗体の単一アーム(single arm)のVLおよびVHドメインを有するFvフラグメント;(4)ペプチドリンカーを介してVHドメインおよびVLドメインを構成する単一ポリペプチド鎖であり得る、一本鎖Fv(scFv);(5)ペプチドリンカーによって連結された2つのVHドメインと、ジスルフィド架橋を介して2つのVHドメインに結び付けられている2つのVLドメインとを含み得る、(scFv);(6)VHおよびCHIドメインからなるFdフラグメント;(7)単一の可変ドメインを含む、dAbフラグメント;ならびに(8)単離された相補性決定領域(CDR)。
【0028】
さらに、Fvフラグメントの2つのドメイン、VLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされ得るが、それらは、組換え法を用いて、VLおよびVH領域が対となって一価の分子を形成している単一タンパク質鎖(一本鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Birdら(1988)Science 242:423-426;およびHustonら(1988)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883)を参照)。かかる一本鎖抗体はまた、抗体の「抗原結合部分」という用語のなかに包含されることが意図されている。二特異性抗体などの一本鎖抗体の他の形態もまた包含される。二特異性抗体は、VHおよびVLドメインが単一ポリペプチド鎖上で発現されるが、同じ鎖上の2つのドメイン間の対形成が可能とならない短すぎるリンカーを用い、それによってそのドメインが別の鎖の相補的ドメインと対形成するようにして、2つの抗原結合部位を作り出す、2価の二重特異性抗体である(例えば、Holliger, P.ら (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448; Poljak, R. J.ら(1994) Structure 2: 1121-1123を参照)。二特異性抗体はまた、「抗原結合部分」という用語のなかに包含される。
【0029】
用語「ヒト抗体」は、ヒト対象から得られた抗体に実質的に対応するまたはそれに由来する、例えば、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列またはそのバリアントによってコードされる、可変および定常領域を有する抗体をいう。本明細書に記載されているヒト抗体には、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされていない1つ以上のアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダムもしくは部位特異的変異誘発によりまたはin vivoでの体細胞変異により、導入された突然変異)が含まれていてもよい。かかる変異は、1つ以上のCDR、特にCDR3、または1つ以上のフレームワーク領域に存在していてもよい。いくつかの態様では、ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基で置換されている、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ以上の位置を有していてもよい。しかしながら、用語「ヒト抗体」は、本明細書において用いられる通り、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移し替えられた抗体が含まれることは意図されていない。
【0030】
用語「組換えヒト抗体」は、本明細書において用いられる通り、宿主細胞に形質導入された組換え発現ベクターを用いて発現された抗体、組換えコンビナトリアル(combinatorial)ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(Hoogenboom H. R., (1997) TIB Tech. 15:62-70; Azzazy H.およびHighsmith W. E., (2002) Clin. Biochem. 35:425-445; Gavilondo J. V.およびLarrick J. W. (2002) BioTechniques 29: 128-145; Hoogenboom H.およびChames P. (2000) Immunology Today 21:371-378)、ヒト免疫グロブリン遺伝子のトランスジェニック動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylor, L. D.ら (1992) Nucl. Acids Res. 20:6287-6295; Kellermann S-A.およびGreen L. L. (2002) Current Opinion in Biotechnology 13:593-597; Little M.ら (2000) Immunology Today 21:364-370を参照)、または、ヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングに関与する他の任意の手段によって、調製され、発現され、作り出され、もしくは単離された抗体などの、組換え手段によって調製され、発現され、作り出され、もしくは単離された全てのヒト抗体が含まれることが意図されている。かかる組換えヒト抗体は、上記で定義されている通りの可変および定常領域を有する。しかしながら、ある態様では、かかる組換えヒト抗体は、in vitro変異誘発(または、ヒトIg配列動物のトランスジェニック動物が用いられる場合には、in vivo体細胞変異誘発)を施されてもよく、したがって、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系のVHおよびVL配列に由来しかつ関連してはいるが、in vivoではヒト抗体生殖細胞系レパートリーのなかに自然には存在しない場合がある配列であってもよい。
【0031】
本開示のいくつかの態様は、黄熱ウイルスのE-DIIエピトープに結合することが可能な完全ヒト抗体を提供する。いくつかの態様においては、E-DIIエピトープは、黄熱ウイルスEタンパク質の位置106におけるアスパラギン、位置93におけるリジン、および位置104におけるリジンを含む。
様々なVHおよびVL領域のタンパク質配列をそれぞれ表1および表2に示す。
【0032】
【表1-1】
【0033】
【表1-2】
【0034】
【表1-3】
【0035】
【表2-1】
【0036】
【表2-2】
【0037】
【表2-3】
【0038】
【表2-4】
【0039】
「単離された」物質は、人の手によって自然の状態から改変されたものを意味する。自然界に「単離された」物質が存在する場合、それは、その元の環境から変更されているか、または取り除かれているか、あるいはその両方を意味する。例えば、生体内に自然に存在するポリペプチドは「単離」されていないが、そのポリペプチドが、その自然な状態の共存物質から実質的に分離されている場合、および/または実質的に純粋な状態で存在する場合、そのポリペプチドは「単離」されている。
【0040】
用語「特異的に結合する」または「特異的結合」は、抗原のエピトープへの抗体またはその抗原結合部分の結合などの、2つの分子間の非ランダムな結合反応をいう。標的またはエピトープに「特異的に結合する」抗体またはその抗原結合部分は、当技術分野でよく理解されている用語であり、かかる特異的結合を決定する方法はまた当技術分野でよく知られている。分子は、別の標的/エピトープと反応するよりも、特定の標的抗原またはエピトープと、より頻繁に、より迅速に、より長い持続時間で、および/またはより高い親和性で反応または結合する場合に、「特異的結合」を示すと言われている。抗体またはその抗原結合部分は、他の物質に結合するよりも、より高い親和性、結合力(avidity)、より容易に、および/またはより長い持続時間で結合する場合、標的抗原に「特異的に結合」する。ある態様においては、抗体は、タンパク質および/または高分子の複合体混合物中でその標的抗原を選択的に認識する場合、抗原を特異的に結合すると言われている。
【0041】
「エピトープ」は、抗体によって結合される抗原の領域である。この用語には、免疫グロブリンに特異的に結合することが可能な任意のポリペプチド決定基(determinant)が含まれる。ある態様においては、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、またはスルホニルなどの、化学的に活性な分子表面集団(surface grouping of molecule)を含み、およびある態様においては、特定の三次元構造特性、および/または特定の電荷特性を有してもよい。
【0042】
本明細書において使用される通り、用語「中和」は、標的タンパク質(例えば、黄熱ウイルスEタンパク質)の生物学的活性などの活性の中和をいう。一つの態様において、中和抗体は、黄熱ウイルスE-タンパク質のE-DIIエピトープに結合し、ならびに、黄熱ウイルスの生物学的活性の阻害をもたらし、および/またはウイルスが細胞に感染するのを抑制する。
【0043】
対象は、ヒトであってもよいが、他の哺乳動物、特にヒト疾患の実験モデルとして有用な哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌなども含む。
【0044】
用語「処置する(treat)」、「処置(treatment)」または「処置すること(treating)」は、ヒトを含む対象が、直接的または間接的に対象の症状を改善することを目的として医学的援助を施される行為、適用または治療をいう。特に、この用語は、いくつかの態様において、発生率を減少させること、または1つ以上の症状を軽減すること、再発を排除すること、再発を抑制すること、発生率を抑制すること、1つ以上の症状を改善すること、および/または予後を改善すること、あるいはそれらの組み合わせをいう。当業者は、処置が必ずしも症状の完全な不在または除去をもたらすものではないことを理解するであろう。例えば、黄熱ウイルスに関して、「処置(treatment)」または「処置すること(treating)」は、黄熱によって引き起こされる急性のウイルス性出血性疾患の重症度または持続時間を減少させることをいう場合もある。
【0045】
本明細書において用いられる、薬理学的製剤の投与との関連において「有効量」または「有効用量」または「治療的有効量」は、かかる量を与えられていない対応する対象と比較して、意図した薬理学的結果、あるいは、疾患もしくは疾患の症状、障害もしくは副作用の処置、治癒、抑制もしくは寛解における作用、または疾患もしくは障害もしくはそのあらゆる症状の進行速度の低下をもたらす、薬剤または医薬製剤(例えば、抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは抗原結合部分、あるいはこれを含む組成物)の量をいう。薬理学的薬剤の有効量または用量は、採用される特定の活性成分、投与様式、および/または処置される対象の年齢、大きさ、および状態に依存して変化し得る。
【0046】
本開示はまた、黄熱ウイルスE-タンパク質のE-DIIエピトープに特異的に結合する抗体またはその抗原結合部分を含む組成物(例えば、医薬組成物)を提供する。いくつかの態様においては、E-DIIエピトープは、黄熱ウイルスE-タンパク質の位置106におけるアスパラギン、位置93におけるリジン、および位置104におけるリジンを含む。組成物は、本明細書に記載されている抗体または抗原結合部分のうちのいずれか1つから調製することができる。本明細書に記載されている通り、抗体またはその抗原結合部分、およびそれをコードする核酸または核酸セット、それを含むベクター、または該ベクターを含む宿主細胞は、標的疾患の処置に用いられるための医薬組成物を形成するといったように、薬学的に許容し得る担体(賦形剤)と混合することができる。緩衝剤を含む薬学的に許容し得る賦形剤(担体)は、当技術分野でよく知られている。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed. (2000) Lippincott WilliamsおよびWilkins, Ed. K. E. Hooverを参照。
【0047】
医薬組成物は、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、薬学的に許容し得る担体、賦形剤、または安定化剤を含むことができる。(Remington:The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed. (2000) Lippincott WilliamsおよびWilkins, Ed. K. E. Hoover)。許容し得る担体、賦形剤、または安定化剤は、使用される用量および濃度において受容者に無毒であり、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムなどの)防腐剤;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);(約10残基未満)の低分子量ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、および、グルコース、マンノース、またはデキストランを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;ショ糖、マンニトール、トレハロース、またはソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成性対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);および/またはTWEEN(商標)(ポリソルベート)、PLURONICS(商標)(ポロキサマー)またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含んでもよい。
【0048】
本開示の組成物に関連して用いられる通り、「薬学的に許容し得る」という句は、生理学的に耐容性であり、かつ対象に投与された場合に典型的には望ましくない反応を生じない、かかる組成物の分子実体および他の成分をいう。好ましくは、本明細書において用いられる通り、用語「薬学的に許容し得る」は、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって承認されているか、または哺乳動物、およびより具体的にはヒトにおける使用のために米国薬局方もしくは他の一般的に認められた薬局方に掲載されていることを意味する。「許容し得る」は、担体が組成物の活性成分(例えば、核酸、ベクター、細胞、または治療用抗体)と適合性があり、組成物が投与される対象に悪影響を及ぼさないことを意味する。本発明の方法において用いられる医薬組成物はいずれも、凍結乾燥形態または水溶液の形態で、薬学的に許容し得る担体、賦形剤、または安定化剤を含むことができる。
【0049】
緩衝剤を含む薬学的に許容し得る担体は、当技術分野でよく知られており、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤;低分子量ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;アミノ酸;疎水性ポリマー;単糖類;二糖類;および他の炭水化物;金属錯体;および/または非イオン性界面活性剤を含んでもよい。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed. (2000) Lippincott WilliamsおよびWilkins, Ed. K. E. Hooverを参照。
【0050】
医薬組成物は、単位用量形態で提示することができ、および任意の適切な方法によって調製することができ、その多くは周知である。かかる方法には、抗YFV抗体を、1つ以上の付属成分を構成する担体と関連させるステップが含まれてもよい。
【0051】
本明細書において提供される組成物は、好ましくはいくつかの態様では受容者の血液と等張性である、無菌水性調製物であり得る。この水性調製物は、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて、既知の方法に従い製剤化することができる。無菌水性調製物はまた、非毒性の非経口的に許容し得る希釈剤または溶媒中の、無菌注射可能溶液もしくは懸濁液であってもよい。採用することができる許容し得るビヒクルおよび溶媒には、水、リンゲル溶液、および等張性塩化ナトリウム溶液がある。
【0052】
本明細書において用いられる通り、用語「ベクター」は、それが連結された別の核酸を運搬することができる核酸分子をいうことが意図されている。ベクターの1つの種類は「プラスミド」であり、これは、その中に追加のDNAセグメントがライゲーションされてもよい円形の二本鎖DNAループをいう。さらに、ベクターは、それが動作可能に連結されている遺伝子の発現を指示することが可能であってもよい。かかるベクターは、本明細書において、「組換え発現ベクター」または「発現ベクター」と称される。
【0053】
本明細書において用いられる通り、用語「組換え宿主細胞」または「宿主細胞」は、外因性DNAが導入された細胞をいうことが意図されている。かかる用語は、特定の対象細胞だけでなく、かかる細胞の子孫をいうことが意図されていることが理解されるべきである。変異または環境の影響のいずれかにより、ある種の変化が後続世代で生じる場合があるため、かかる子孫は、実際には親細胞と同一ではない場合もあるが、本明細書において用いられる通りの用語「宿主細胞」の範囲内に含まれる。
【実施例0054】

抗YFVモノクローナル抗体は、エンベロープドメインII融合ループに焦点を当てた、YFVエンベロープタンパク質エピトープの構造誘導解析を用いて設計される。黄熱ウイルス表面上の変異拘束性エピトープを同定する。次いで、エピトープ-パラトープ拘束を満たす適切な抗体足場(scaffold)を同定し、ウイルスを標的とし中和する抗体を人工的に作製する。
【0055】
抗YFV抗体は、既知の方法を用いてクローニングし、発現させおよび精製し、発現および生物物理学的特性についてスクリーニングする。in silicoで設計された抗体は、哺乳動物発現ベクターにクローニングし、さらなる解析のために精製する。発現だけでなく、純度および安定性の指標となる様々な分析パラメータを評価する。黄熱ウイルスに対する抗体の効果は、in vitroおよびin vivo感染モデルを用いて評価する。
人工的に作製された抗体のin vitro中和能(neutralization potency)は、黄熱ウイルスのYF17D-204ワクチン株に対し、プラーク減少中和試験(PRNT)を用いて評価する。選択した抗体については、YFV感染のマウスモデルを用いて効果の追加評価を行う。
【0056】
抗YF mAbの理論的設計
有望な抗YFVモノクローナル抗体は、広範な株を中和し、かつ強固な保護に関連する領域を標的としなければならない。エピトープは、治療用抗体の効力において重要な役割を果たす。YFV感染においては、エンベロープ(E)タンパク質が中和抗体の優勢な標的である。有望なエピトープを規定するため、YFVアセンブリ全体の構造ガイド(structure-guided)解析を行って、空間的にクラスター化されていて、溶媒にアクセス可能であり、かつ配列が保存されている残基を同定した。これは、(YFVエンベロープタンパク質配列のアラインメントから計算された)配列保存スコアを、YFV Eタンパク質全体のアセンブリの相同性モデルにマッピングすることによって行った。70%超の配列保存度および>40%の溶媒にアクセス可能な表面積を有する残基を、推定エピトープ残基とみなした。この解析によれば、ドメインII(E-DII)疎水性融合ループの近位にある領域は、高度にアクセス可能であり、YFV株間で保存されているようであった。
【0057】
E-DIIエピトープに対する抗体を人工的に作製するために、相同性の高いエピトープ表面を認識するFv足場について、構造ガイド検索を行った。有望な足場は、(ソフトウェアZRANKを用いて)エピトープに対してドッキングさせ、形状の相補性(>0.6)、埋没表面積(1,000Sq.A°)、および重要なE-DIIエピトープ残基(E-タンパク質のN106、K93およびK104;番号は17D YFワクチン株の一次配列に対応する)と接触する可能性に基づいて、ランク付けした。次いで、トップランクの足場のCDRループを、エピトープと最適に接触するようにロゼッタ抗体デザイン(Rosetta Antibody Design)により再設計した。人工的に作製された抗体は、YFVのin vitro中和についてスクリーニングした。
【0058】
表1および2において提供されたVHおよびVLドメインをコードする合成DNA配列は、哺乳動物発現ベクターへ、IgG1定常領域を有するフレーム内にクローニングし、重鎖および軽鎖の様々な組み合わせを、少なくとも110個のYFV抗体となるよう組み合わせた。かかる組み合わせの例を以下の表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
発現レベルおよび生物物理学的特性の具体例
YFV抗体のサブセットを、Expi293細胞での大規模なトランスフェクションから精製した。細胞培養上清からのタンパク質は、HiTrap Protein Aカラムを用いて精製した。透析後、タンパク質濃度を、理論的消光係数を用いるnanodropにより推定した。様々な抗体の収量は表4に要約されている。
【0061】
【表4】
【0062】
さらに、様々な抗体の純度および安定性を、(1)UV分光法、(2)サイズ排除クロマトグラフィー、(3)マイクロ流体キャピラリー電気泳動および(4)サーマルシフト色素解離アッセイによってそれぞれ決定した。かかる生物物理学的解析パラメータの具体例は、以下の表5に要約されている。
【0063】
【表5】
【0064】
様々な抗体のグリコフォーム(glycoform)の追加的特性は、プロカインアミド標識による補助を用いたLC-FLD-MSによって決定した。観察されたグリコシル化プロファイルの具体例は以下の通りである(表6)。
【0065】
【表6】
【0066】
YF-17Dに対する人工的に作製された抗体の中和能の具体例
YFV(17D-204)に対するYFV抗体の中和効力を決定するために、プラーク減少中和試験(PRNT)を行った。ベロ細胞を、ウイルス単独、ウイルスなし、または様々な希釈のYFV抗体と予めインキュベートしたウイルスのいずれかにより感染させた。プレートを7日間インキュベートし、固定し、プラーク形成を可視化するためにクリスタルバイオレットで染色した。中和曲線は、Prismソフトウェアを用いて作成し(図1)、50%有効濃度値(EC50)は、可変勾配を用いた非線形回帰により算出した(表6)。抗体の中和効力は、プラークの減少に正比例し、その中和能はウイルス粒子の50%が中和される濃度として表現されている。抗体は、ウイルスを中和することにおいて非常に強力であり、具体例は、以下の表7に示されている。
【0067】
【表7】
【0068】
in vivoでの効力の具体例
図1は、YF-17D-204に対する人工的に作製された抗体の、マウス感染モデルにおけるin vivoでの効力の具体例を提供する。設計された抗体の効力は、AG129マウスにおける黄熱感染の致死モデルで試験した。抗体の保護効力は、図1に示されている通り、予防についてまたは治療として試験した。
図2に示されている具体例では、抗体の投与は対照群と比較して完全な保護をもたらした(図2A)。抗体の投与はまた、感染後4日および6日において、2Log10を超えるウイルス血症の減少をもたらした(図2B)。
図1
図2
【配列表】
2024149479000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-06-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体またはその抗原結合部分であって、前記抗体またはその抗原結合部分が、黄熱ウイルスのE-DIIエピトープに特異的に結合し、ならびに、E-DIIエピトープが、黄熱ウイルスEタンパク質の位置106におけるアスパラギン、位置93におけるリジンおよび位置104におけるリジンを含む、前記抗体またはその抗原結合部分。
【外国語明細書】